topimage

2017-11

top - 2020.04.14 Tue

「aqua green noon」 へ、ようこそいらっしゃいました。
何のお構いも出来ませんが、ごゆっくりと楽しんでくださいね。


「aqua green noon」 は、サイアートが更新いたしております。
純愛がテーマになってくると思います。
激しいものはほとんどありませんが、もし楽しんで頂けるテキストがあれば幸いです。
カテゴリ・目次などでどうぞお好きなものを選んで、楽しんでくださいね。
コメントや感想など、一言でも頂けると、嬉しく思います。

※ 当ブログでの物語はすべてフィクションです。実際の人物や団体とは一切関係ありません。
※ 当ブログの文章、及びイラスト等の無断転載は固くお断りいたします。



〈ブログ名〉aqua green noon
〈管理人〉saiart
〈URL〉http://arrowseternal.blog57.fc2.com/

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2011.4.1

目次 - 2018.04.14 Sat

■「green house」シリーズ 
■宿禰凛一編  <完結>
「密やかな恋の始まり」        7 8 9 10 11 12 13
「kissをしよう」        
「追想」          10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
「Swingby」          10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27
「HAPPY」1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26
「only one」1 2 3 4 5 6 7 

■水川青弥編  <完結>
「出会い」    
「予感」        
「引力」          10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
「焦点」          10 11 12 13 14 15 16 17
「フラクタル」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16
「愛する人へ…」 1 2 3 4 5 6

■宿禰慧一編  <完結>
「イリュミナシオン」          10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26
「オレミユス」          10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
「ペンテコステ」1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

■藤宮紫乃編  <完結>
「メタモルフォーゼ」         
「Resolve」  2 3 4 5
「Sonnet」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 完結
 
純情クリスマス 前編  後編

新春座談会

Silent Night・Holly Night 1 2 3 4


■聖王伝シリーズ
■「彼方の海より…」  <完結> 
リュウ・エリアードとメトネのお話 序文 プロローグ          
「メトネ日記第二章」          10

■ユーリとエルミザードのお話。 <やる気が起きない…>
「黎明」        

■「流れる星の彼方に…」クールでハードな未来物語。<完結> 
1 2 3 4 5 6 7 最終回

■純情シリーズ
■ハル&ミナト  <完結>
「simple」 …恋愛成就までの純粋な道のり。
         10 11 12 13 14 15 
「A WISH STAR]…クリスマスのお話。 前編 後編
夏日憂歌
「Harmony」 1 2 3

■麗乃&由貴人  <完結>
「君の見た夢」…ちょっとSFチックなファンタジー…?
          10 11 12 13 14 15 16 
「僕の見る夢」…続編
          10 11 12 13 14 15 16 17 エピローグ 

■7月さんとのコラボ作品  <完結>
「R-a guardian sprite」 その1 その2 その3
「R-a guardian sprite Ⅱ」 その1 その2 その3

■sensoシリーズ <延々と続くかも…>
Private Kingdom 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26
天使の楽園、悪魔の詩 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
浄夜 1 2 3 4 5 6 7 8
This cruel world 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17
Phantom Pain 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
Brilliant Crown 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

スバル 1  3 4 5 6 7 8 9 10 11
山の神 その一 その二 その三 最終回
愛し子 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
銀色のRay 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
Assassin  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17
天の軌跡と少年の声 1 2 3 4 5 6 7 8 9  

色々とお試し中~
■掌の物語シリーズ<一応連載していく…はず…>
「弟」 「呪い」 「野ばら」

破壊者のススメ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 Platinum Moon

セレナーデ 1 2 3 4 5 フィナーレ アンコール1 アンコール2

バレンタインデー 1 2 3
続・バレンタインデー 1 2 3 4
バイバイ サンキュー

「輪舞曲(ロンド)」 傷心 願い 二十歳 告白 前編 後編

超いいひと 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 
うそつきの罪状 1 うそつきの罪状 2

人魚姫(♂) 1 2 3 4 5 6 7 8 
夏の名残りのばら 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

夜を駆ける 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
 
horizon 1 2



天の軌跡と少年の声 9 - 2017.11.10 Fri

9
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 天少8


9、

 アーシュの話は、神也には驚き以外の何ものでもなかった。
 おかげでせっかくの夕餉を前にしても、中々喉に通らない。
 隣に座すエノクが、食の進まない神也を伺い「どうかしたのか?」と、聞くが、何とも答えようもなく。
「神也は、今日初めての事だらけで、ちょっぴり疲れてしまったのだよ」と、お茶を配るルシファーが助け舟。神也も素直に同意する。
「エノク、心配かけて悪かった。明日はまた元気に頑張るつもりだ」
「うん、明日は果樹園を案内するよ。取り入れの仕事はキツイけど、もぎたてのフルーツを好きなだけ食えるから、得した気分になれるぜ」
「こら、エノク、取り入れた果実は食卓に並んでから、食すもので、勝手に食べたらいけません」
「すいません、ルシファー先生…」と、しょぼくれるエノクに、
「でも、ひとつふたつなら、ね。何しろ果実は取り立てが一番美味しい。…特に水蜜桃はね」と、ルシファーは、小声でウィンクをひとつ返し。エノクの顔に花が咲く。
 それを見た神也もつられるように、やっと頬を弛めた。


 部屋に戻り、寝衣に着替え、ベッドから窓の外を覗く。
 紺青の夜天に、大小の二つの月、そして星々がさんざめく。
 数え切れない煌きに、神也はいつしか、見たことも無い両親を思い描く…。

 アーシュに言われるまでは、両親の事など、真面目に考えたことも無かった事だ。考えても顔も名前も存在すら知らない神也に、想像する余地は無い。
 だが、アーシュは、はっきりと…

「おかーさん…私を産んで喜んでくれたんだ…。なんだか…不思議…。なんだか…」
 様々な想いが胸一杯に満ち、締めつけ、溢れ出し、身体が震える。瞼が熱くなる。
「泣くなんて…変だ。悲しいわけでもないのに…」
 理解できない感情が、口唇を震わせ、神也はとうとう泣き出した。
 一旦堰を切った涙は止むことを知らず。

「…神也。大丈夫かい?」
 いつの間にかすぐ傍で、背中を撫でながら、優しい声を掛けてくれるルシファーが居た。
「ルシファー…。なんか、なんかね、涙が止まらないんだ。おかーさんやおとーさんの事…聞けて嬉しかったけど、ね…もう、逢えないから…。一度くらい、逢いたかった…って…」
「うん、わかるよ、神也。今は…泣いていいんだ。スバルの代わりにもアーシュの代わりにもなれないけれど、今晩は僕が傍に居るからね。存分泣けばいいよ」
 神也はルシファーにしがみつき、声を上げて泣いた。
 「おかーさん」「おとーさん」と何度も声に出し。
 
 思う存分泣いた後、心が軽くなった。
「ルシファーは心配して、来てくれたんだね。ありがとう。私はいつも皆に迷惑を掛けてばかりだ」
「迷惑だとは思っていないさ。皆、神也が好きだから、神也の為に役に立てるのが、嬉しいのだと思うよ。神也には人徳があるのだろうね。私も最初は少し不安もあったりしたけれど、君を知っていく度に、アーシュの見立ては正しいと思うんだ」
「『天の王』の後継者の事?まだまだ皆が期待できる者には遠いのだろうけれど。…時々思うのだ。何故、アーシュが無力な私を選んだのかを。多分、無力だからこそなのだろうな。何もないことが私の強みなのかもしれない」
「神也は…無力じゃないさ。それだけは私にもわかる」
「そう?」
「そうだよ」
 ブルっと震わす神也の肩に、ルシファーは自分の肩掛けを被せた。

「でもね…でもなんか変よね。アーシュは不死なのだから、別段後継者選びを急ぐ必要はないと思うのだ。そのうち私より相応しい力を持った者が現れるかも知れないだろ?もし、私が後を継ぐとしても、私が大人になるまで、待ってから決めても、充分間に合うのではないのかな」
「そう…だね」
「何か急ぐ理由が、アーシュにはあるんじゃないかと、私は思うのだ。ルシファーはどう思う?」
「…」

 アーシュの後継者の選択について、ルシファーは詳しい話を聞いてはいない。
 ルシファーは、自分をクナーアンの人間だと思っている。だから、あちらに居る時は、あちらの世界の決め事に倣おうと心掛けている。
 もし、アーシュが「天の王」の学長を神也に譲り、このクナーアンに還る時が来たら、自身もあちらに居る理由はないだろう、と、思っている。
 だから、いつその日が来ようとも、ルシファーは選択する道を知っている。だが、その日が何時なのか、その理由が何なのかまでは、判らない。

「スバルは知ってる気がするけど、ああ見えて、口は堅いからなあ…。きっと本当の事は言わないだろう」
「スバルが?…アーシュが学長を辞める理由を知ってるって?」
 ルシファーは少し驚いて、神也の顔を覗き見た。
 
「わからないけれど、そんな気がする。レイもね…。多分アーシュは、その日が来ても大丈夫なように、準備をしているんじゃないかな」
「…」
「ルシファー?」
 ルシファーを見上げる神也の瞳が、カンテラの灯を反射し、赤く光っている。
 恐れを知らぬ真っ直ぐな瞳と魂。
 今のルシファーには、慈しみの感情しか沸いてこない。
 ルシファーはふうと息を吐いた。
「まあ、先の見えない未来をあれこれ言っても仕方ない」
 ルシファーは自身に言い聞かせるように呟いた。

「さあ、もうお休み、神也。今日は色んなことがあって疲れただろう」
「うん。一杯泣いたからすぐに眠れそう。ありがとう、ルシファー。おやすみなさい」
「おやすみ、神也」

 ベッドに潜り混んだ神也の毛布を直し、カンテラを手にルシファーは静かに部屋から出ていく。
 
 アーシュ…スバルにもレイにも話して、僕には何も言ってくれないっていうのか?あんまりじゃないか!そりゃ「天の王」の未来なんか、僕には関わり様はないけれどさ、それでも、一番の親友の僕が、君の秘密を共有できないなんて…。プライドが傷つくな。

「…君が僕の事を思って、喋らないんだろうけれどさ…。ちょっぴり腹立たしくて、情けなくて、寂しいよ、バカアーシュ」と、独り愚痴る。
 帰り道の欄干で、夜天を見上げ、そろそろ『天の王』に着く頃だと、アーシュの無事を祈らずにいられない我が身の性分を笑った。

 でも、きっとアーシュはこんな僕を「大好きだ」と、返してくれるんだ…。
 だから僕はいつまでも、君に囚われ人なのさ。
 不幸だとは思わない。惨めだとも思わないよ。
 愛する豊かさを、今の僕は知っているからね。

 どうか、君の想いのままに時が流れますように。
 どうか、御無事で戻られますように…。


 神也のクナーアンでの日々が、恙なく過ぎていく。
 早朝の神殿の掃除から始まり、朝食後の従事は、田畑と果樹園の体力仕事が主で、陽が傾き出すと、それぞれに自分のやりたいように過ごす。
 エノクは夕食の足しになると、近くの川で魚釣りをするのが日課だ。神也も誘われて試してはみたが、どうも魚釣りの才能はないらしく、エノクに邪魔になるだけだと、追い出されてしまった。
 クナーアンの本を読む為にと、学校の授業を受け、ルシファーの指導もあって、ある程度のスクリプトを学んだ神也は、クナーアンの本を読みたいと、ヨキに強請った。
 ヨキは「学校の図書室も良いけれど、神也には少し面白い場所を教えてあげましょうかね」
「ホント?」
「特別ですよ」と、神也を奥の院へ案内してくれた。

 奥の院はイールとアーシュの寝所だけでなく、彼らが使用する様々な部屋がある。
 そのひとつが、図書室。昔は、二神が家庭教師と共に学んだ部屋でもある。
 八角形のさほど広くない部屋で、天上はドーム形、天辺からハーラル系の惑星の模型のペンダントランプが、吊り下げられ、それぞれ八つの壁面に書棚とすりガラス窓が交互に並んでいる。
 
「ここの書物はアスタロト様が、色々な星々から持ち込まれた物が多いのです。多分、アースの本もあったと思います。え~と…ああ、これだ」
 ヨキは棚から薄い本をひとつ取り出し、神也に差し出した。
「ああ、これはサマシティでも使われている言語で書かれている」
「それから、これも」
「あれ?これ…私の国…ニッポンの本だ」
「ひとつの星で色々な言語があるのは、私達には理解できませんけど、そちらの惑星では、場所ごとに言葉も違うと聞いて、驚いた事がありますからね」
「うん。面倒だけど、自分の国の言葉は、皆特別な想いがあるのだと思う。…ああ、これは、昔語りの本だ。所謂御伽話だな」
「神也の国の御伽話か…。面白そうだな」
「今度、ヨキにも聞かせてあげる」
「楽しみにしてます。では、夕食までゆっくりと、お過ごしを」
「うん、ありがとう」

 中央のテーブルにランプがある。
 紐を引くと灯りが点いた。
 他とは違い、二神の住む場所では電気が使える。発電所がどこなのか、神也には分からないが、勿体無いと思い、すぐに消した。
 小さなテーブルを窓の下まで運び、手に取った本を開く。

「昔、我が朝のことなるに、天地開けし此の方は、神国と言いながら…。へえ、なんかスバルに聞いた話と違うな」

 神也は文字を追いながら、声に出し、そして、面白さに笑った。
 
 聞き知らぬ自身の故郷の草紙を、見知らぬ惑星の片隅で読む、摩訶不思議さよ。 



天の軌跡と少年の声 8へ

はにゃ~(;´Д⊂) 風邪が長引いて、更新遅れてしまいました~。ごめんなさいね~。
まあ、あんまり進んでないんだけど…

アーシュのお話は「senso」全編。
神也のお話は「山の神」から。
スバルは「スバル」から。
それぞれ左のカテゴリから、どうぞ~


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天の軌跡と少年の声 8 - 2017.10.12 Thu

8
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     天少アーシュ

8、
 朝が来ても、アーシュの眠りは深く、声を掛けてもビクともしない。
 異次元の旅は、気力と体力を奪うもの。
 それはわかっているけれど、欲しいと強請られれば、満足するまで与えたいのが愛する者への敬意。
などと正当化してみるけれど、結局は、自身の欲望に勝てないだけ。

 腕の中で安らかに眠る恋人の額に、頬に、瞼に、口唇に、イールはキスを繰り返し…。

「…う…ん。イール、もう…朝?」
 目を瞑ったままの、寝言のような甘えた声に、イールの口唇も緩む。
「いや、太陽はすでに天上にある。アーシュの予定が無ければ、野暮な事はしたくないのだがね」
「ああっ、そうだった!」と、パチクリと目を開け、
「天の王に戻らなきゃ。今日辺りマチアスが来るはずだから」と、起き上がるアーシュに。
「…ったくね。君の口から見知らぬ人間の名前を聞く度、私はつまらぬ嫉妬に悩まされる羽目になる」
「嫉妬する必要なんてないのにさ。俺にはイールが一番。セックスもイールしかできないし、どうやって浮気するっていうのさ」
「身体は勿論だが、君の心が誰かに執着するのが気に入らない。まあ、今更私の性分を咎める君ではないだろうけどね」
「イールはそうやって、俺という玩具で遊んでいるのさ。どうせ逃げられないってわかっているからね」
「そうかい?これでも私は課せられた試練だと思って、耐えているのだが…」
「光ばかり見てたって、何も見えない。暗闇も同じ。光の中から暗闇を。暗闇の中から光を探し出すのが、俺の運命なんじゃねえかな…って、近頃思う。じゃなけりゃ、こっちもあっちもこんなに一生懸命になることもない。精一杯やらなきゃ気に入らねえなんて、我儘が過ぎらあ…」

 あちらの世界でのアーシュの多忙を、イールはルシファーから聞き及んではいるが、クナーアンのイールには助けようがない。
 ただストレスが溜まると、アーシュはこちらへ還り、イールに甘える。何も聞かなくとも、アーシュの求めるものを、イールは与えるだけ。
そして、今、彼が欲しいのは。
「アーシュ…。大丈夫、おまえは上手くやれる。運命がそう示している」
「イールかそう言うんだったら、頑張ってみるけどね。中々のサディストな運命の女神を、手なずけるのも苦労するよ」
 目を細め、嬉しそうにイールを見つめる。
 良かった。正解らしい。
 
 余りある力をいかに使うか、ハーラルから与えられた魔力がどれほどのものか、アーシュは知らない。
 アーシュはこの力を出来るだけ上手く使いたいと願う。
 イールと共にクナーアンに恵みを与える事。自分の育った故郷の星で、秩序のある世界を作り上げる事。
 大望は努力に適うなんて、思ってはいないが、元来の能天気さで、アーシュは実現可能と見込んでいる。

「だけどさ、十年の約束は過ぎたのに、何もないってのが不気味だよね。あのハーラルが、俺達に何も示さないっていうのも変じゃん?」
 用意された食事を薄い寝衣だけで食べるアーシュの行儀の悪さに、イールもどうかと思うが、ふたりきりの時は大目に見ている。
「あまりハーラル様の悪口は言わない方が身の為だぞ。どこに聞き耳を立てていらっしゃるかわからないから」
 基本食事を必要としないイールは、アーシュのお相伴にと、スープなどを口にする。
「…疑問なんだが…なんでイールは腹が空かないんだ?俺はイールと同じ身体の作りになっているのに、腹が減るし、沢山食べるのに」
「多分、アーシュも本当は食べなくてもどうもしないと思う。私たちは陽の光、風、土、草木などのエネルギーで活力を与えられているらしいからね。でもアーシュは人間の欲求に正直だから、腹が空く感覚に慣れてしまっているのだろう。まあ、食べるのを楽しむのは悪い事ではないから、いいのではないか」
「…イールは近頃、色々と寛容だね」
「おまえに慣れた…と、言って欲しい。本音を言えば、もう少し神様らしくあって欲しいとは思うけどね。誰彼とも仲よくするのも、神である手前、少しぐらいは威厳を保ってほしいとは思うが…」
「…」齧りかけのパンを持って、少しだけ頭を傾けるアーシュを見て。
「…多くは望むまい」と、思わず笑いかけ。


 陽が落ちたらサマシティに戻ると言うアーシュは、それまでの時をイールとベッドの上で過ごした。
 抱き合うだけではなく、思う存分会話を楽しむ。伝えようとすれば、テレパスでも簡単に通じ合うのだが、互いの顔を見て言葉を交わす時間は、時には抱き合うよりも、満ち足りたものになる。

 アーシュはイールの話す寝物語が好きだ。クナーアンやこのハーラル系すべての星々の物語などは特に。
 彼がクナーアンの神に成り立てだった十年前の頃は、暇があれば、アーシュはイールに様々なこの世界の物話を強請った。
 アスタロトであった頃の記憶を失った事が、殊更残念らしく、いちいちと聞きたがる。
 特に自分が女神の腹から産まれた事など、アーシュは何度聞いても、嬉しくてたまらない。
 この星の事も知らず、自分が何者か判らず、捨て子と言われ、親の事など一切わからないかった頃、アーシュは両親と言うものに憧れた。親を持つ友人たちが羨ましくて堪らなかった。
 だから、クナーアンの神であり、アスタロトの生まれ変わりと知ったものの、なんとなく腑に落ちず。どうやらこの世界の創り主であるハーラルという天の皇尊の創りものと言われれば、納得せずにもいられず。
 それなのに、思いかけずイールから、母親も父親も居ると聞かされ、驚くやら、嬉しいやら。

「腹から産まれる神なんて、ハーラルの十二の星々の間では私達だけなんだ。天の皇尊が特別に眼を掛けてくれた証拠だよ」
「ね、俺のおかーさん、そのリギニアの女神さまってどんな感じ?髪の色は?目の色は?」
「エーリスは、栗毛の巻き毛で、目は緑、とても優しそうな御方だった。おまえは随分な甘えっ子でやんちゃだったから、大変だったらしいけど」
「イールは?イールのおかーさんは?」
「私を産んでくれた女神は第五惑星ディストミアのスコル。クセの無いなめらかな金髪に私に似た明るい青。神経質すぎる程、私を大事に育ててくれた。もういらっしゃらないが、私を見て幸せそうに微笑むあの御方の笑顔が、たまらなく懐かしく思い出されるよ」
 アーシュは想像する。
 女神に抱かれた赤子の自分を。
 泣き止まぬ自分をあやす父神を。
 愛された事実は、アーシュを至福に導く。

「と、言っても、男神と女神が交尾して産まれたわけじゃなく、結局、天の皇尊が蒔いた種だから、ハーラルが親…って事にはなるんだけど…」
「そんなのつまんない。ハーラルの好き勝手で産まれたなんて、ロマンの欠片もありゃしない。腹を痛めて産んだからこそ、愛情が募るって言うじゃん。俺を産んでくれたエーリス母様も、かわいがってくれたのだろうなあ~。一度でいいから逢いたかったな」
「第一惑星のリギニアの二神は、まだご健在だよ」
「ええっ!早くそれ言ってよっ!俺、逢ってみたい!」
「アーシュ、君にとって大切な事かもしれないけれど、リギニアの女神にとっては、君が思うような思い出かどうか…わからないよ。もう随分前の事だし…。私だって、ディストミアの二神が消えるまで一度も再会した事は無かったのだから。それにアスタロトだって、一度だって逢いたいなんて口にしたことは無かった」
「なんで?」
「…そんなこと、思いもつかないことだもの。成人した神が、他所の星の神に逢うだなんて。よっぽどの事が無い限り、神が他所の星に行ったりしないんだよ」
「でも、俺、逢いたい」
「…」

 人間とはどうしてこうも我儘なのだろう…と、当時のイールはアーシュの思考に付いていけない時があった。
 生まれ変わる以前のアスタロトにも似たところはあったが、アーシュはそれ以上に、感情に素直過ぎる。
 結局はアーシュの望みどおりに、第一惑星リギニアに渡り、二神に逢ったのだが…。
 あまりの突然の事に驚いた女神エーリスは気を失い、男伸ハウールは懐かしさのあまりアーシュを抱きしめながら、泣き通し。
 その腕の中で、顔を赤らめ恥ずかしそうにイールを見るアーシュは、親に甘えたがりの幼い子供ではなかった。


「確かに一度逢ってしまうと、何だか納得してしまうものなんだなあ~って、あの時思ったよ」
 「天の王」に帰る支度をしながら、アーシュはリギニアの二神に逢った時を思い出した。
「多分もう御二人には会う事も無いだろうけれど、いつまでもお健やかに過ごされるよう、祈っていたいな」
「うん、私の両親の分も、長く生きて欲しい」
「でも、俺が消えていなくなっちゃったら…悲しませちゃうな」
「事情を知れば理解なさるさ。それに、ハーラルが約束してくれただろ?新しい神をクナーアンに授けてくれるって。きっと、彼らは私達に似ているだろう」
「何故、そう思うの?」
「ハーラルがありったけの理想と愛情を込めて創られたものが、私達であるなら、これ以上のものなんて、創れないからね」
「…イールは時々とんでもない自惚れを吐くのだなあ~。そういうとこ、好きだけどさ」
「おまえほどじゃないと、思っているのだが…」
 と、顔を見合わせて、笑いあう。
 部屋の大気が、コロコロと羽ばたき、風が健やかなエナジィを空に巻き散らし、雲がそれを遠くまで運んでいく。
 二神の幸福は、クナーアンの人々に公平に分け与えられるのだ。

 
 ヨキに連れられた神也が部屋へ着いた時、アーシュは「天の王」へ戻る支度がすっかりできていた。
 来た時とは違う、スーツにネクタイ姿で、クナーアンにはそぐわない格好だ。
「これに伊達眼鏡を掛ければ…ほら、宇宙一カッコいい学園長の出来上がり~」
「アーシュ」
「ん?なんだ?神也」
「ここに連れてきてくれて、ありがとう。まだ一日しか経ってないが、とても有意義な時間が過ごせた」
「大して代わり映えしない日々を過ごすことになるけどな。新学期が始まる前には迎えにくるから、ヨキやセキレイの言う事を聞いて、良い子にしてな」
「アーシュ、私はもう子供じゃないぞ」
 口をへの字に結び、アーシュを睨む神也に、アーシュはニヤリと笑い、
「そうかい。じゃあ、子供を卒業した神也へのお祝いに、特別に教えてやろうかな」
 アーシュは、携帯魔方陣をポケットから出し、真上に掲げながら、神也の顔を見ずにあっさりと告白した。

「神也、おまえの両親な、母親の方はおまえを産んだ間も無く死んでいる。父親は三年後に事故死。五つ違いの兄と、三つ違いの姉は健在だが、おまえの事は覚えていない。おまえは生まれて間もなく、孤児院に引き取られたんだ。世話をする母親が居ないからな。そこへ、山の神を探していたあの祠の巫女らがおまえを引き取ったってわけ」
「な!何を言っているんだ!アーシュ!今ここで何の準備もしていない神也に言う事か!」
 クナーアンの二神の前で、跪いていたルシファーは、立ち上がって怒号を放つ。
「知るべき時は今だからな」
「なんで…」
「イールもヨキも君も居る。心配はしていない」
「だからって…」
 ルシファーは傍らの神也の様子を伺った。神也は茫然と立ちすくんだままだ。
「セキレイ、君のそういうとこ、昔とおんなじでかわいいぜ」
「アーシュ!」
 紅潮したルシファーをあしらいながら、アーシュは神也を見た。

「神也、おまえを産んだ母親は、おまえを丈夫に産んで、嬉しかったって言ってたぞ。あの世にいる本人に聞いたんだから間違いない」
「…ホント…に?」
「ホントさ」
と、ウィンクを残したアーシュは、アッと言う間に魔方陣の中へ消えて行く。

「毎度のことだが…アーシュは来る時も行く時も、騒がしい」
 イールはワザと大げさな溜息を吐き。
「そうですね。でも、いつも課題を置いて行かれるから、寂しさが薄らぎます」
 ヨキはテーブルを片づけながら、イールに返し。
「申し訳ありません」と、ルシファーが深々と頭を下げる。
 
 イールは殊更に申し無さ気に頭を垂れるルシファーを、手招いた。
「ルシファー、神也のフォローを頼むよ。突然の事で、まだ動揺しているからね」
「本当に…。あんな風に言われたら、誰だって…」
 神也を不憫に思うルシファーの肩を叩き、
「アーシュは考えも無しに、言ったわけじゃない。必要だから伝えたのだよ」と。

 諌めるでもない穏やかな声が、曇りを知らぬ空と同じ瞳が、ルシファーを励ました。




天の軌跡と少年の声 7へ /9へ


クナーアンに着いてから一日しか経ってないのに、こちらは何か月かかっているのやら…(;´Д⊂)。

アーシュのお話は「senso」全編。
神也のお話は「山の神」から。
スバルは「スバル」から。
それぞれ左のカテゴリから、どうぞ~


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