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2019-10

水川青弥 「予感」 5 - 2009.04.16 Thu

 「ねえ水川、あたしたち友だちにならない?」
 クラスメートの原田理香子がおれにそう声をかけてきたのは、中学2年の夏の終わりだった。
 半ば原田に押し切られるような形で、おれたちは携帯電話でメールをやりとりする仲になった。
 原田は成績優秀でクラス委員も勤める真面目な生徒だった。
 そのうえ容姿もよくて先生や男子の受けもいいため、クラスの女子の中で浮いていた。
 女友だちはひとりもいないらしく、休み時間はいつも 自分の席で本を読んでいた。
 まるでクラスメートなんか眼中にないみたいだった。
 おれはなんとなく原田が自分に似ているような気がしていた。
 でも、似ていたのは表向きだけで、中身はまったく似ていなかった。
 おれと同じように親の期待を一身に受けて、大人たちの前でいい子を演じている点は一緒だったけど、原田はもうひとつの顔を持っていた。
 制服を脱いだ原田は好奇心旺盛で自由闊達な女の子だった。
 おれは2つの自分を器用に演じ分ける原田に興味を惹かれた。
 あるいは原田になりたかったのかもしれない。
 気づけば、おれたちはいつのまにか友だちの枠を越えていた。
 学校では必要なとき以外は口をきかないし、放課後も一緒に帰ったりはしなかった。デートは必ず学区外。お互いの家にも行き来はしない約束だった。まるで親や教師、クラスメートにばれたら負けのゲームみたいだった。
 正直、おれは怖かった。
 でも、原田はあっけらかんとしていた。
 周囲の人間を欺くことのスリルと後ろめたさが、さらにおれたちを親密にしていった。恋人というよりも共犯者に近かった。
 一度だけ、なぜおれなのか訊いてみたことがあった。
「あたしね、時々無性に世界を壊したくなるときがあるの。この世界をめちゃくちゃに壊して、自由になりたいって……。青弥もこっち側の人間のような気がしたから声をかけたんだけど、違ってた?」
 おれは返事に詰まった。原田の気持ちは痛いほどよくわかるけど、おれは世界を壊すより自分が消えて解放されたいと思うほうだった。
 けれど、根っこの部分は繋がっている気がした。
 ふたりとも目に見えないものに押しつぶされそうになりながら、ほんのわずかな自由を求めて足掻いているのだ。
 このとき、おれは初めて原田を本当の意味で好きになった。
 そうして原田を異性として意識するようになると、彼女の聡明さと危うさがいかに男を惹きつけ、翻弄するかがわかった。おれはあえてそれに逆らおうとはしなかった。原田と一緒にいる自分が本当の自分だと思っていた。

 3年生になり、制服が冬服から夏服に変わった頃、おれは初めて原田の家に呼ばれた。
 その日、原田の家族はみな出かけていて、家の中には原田とおれのふたりしかいなかった。原田が薄着の身体をおれにぴったりと寄せてきたとき、なぜ彼女が家族のいない日におれを呼んだのかを理解した。
 あの時間は一体なんだったのだろう。
 今でもふと思うときがある。
 お互いに相手のことは好きだったけど、原田がおれを誘った理由はそれだけじゃないような気がする。
 あの頃は単なる好奇心と親や学校への反発だと思っていたけど、今ならおれにもわかる。
 おそらく彼女は自分の世界を壊したかったのだ。
 あの閉塞感を突き抜けて、新しい世界を見ようとしたのだ。
 でも、それは失敗に終わった。
 おれは彼女を自由にしてあげることができなかった。

 夏休みに入ると、彼女からのメールが途絶えた。

   今までありがとう
   巻き込んでごめん
   これからは受験勉強に集中することにしたよ
   だから、さよならね

 それが最後のメールだった。
 結局、おれたちは不自由な子どもなんだと思った。
 そして、おれは自分の無力さを思い知らされた。
 おれはもう、おれに失望する人間を見たくない。
 無力でつまらないおれを、暴かれたくない。

 目覚まし代わりに枕元に置いてある携帯電話を手にとり、おれは宿禰にメールを打った。

   今日はごめん。友だちとしてこれからもよろしく

 恋人にはなれないけれど、宿禰と完全に切れてしまうのは寂しいような気がしたから、自分の携帯番号も添えた。
 この11ケタの数字に込めたおれの気持ちを、宿禰は受け止めてくれるだろうか……。


                                           text by sakuta


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seiya1

● COMMENT ●

読んでるよ~( ^^) _旦~~

面白かったよお~
なんか色々わかったわ、このややこしいミナの性格が…物凄くコンプレックスがあるんだね~そんなに深く考えなくても…(^_^;)
こりゃリンと正反対だわwww
じゃあリンは逆に敢えて~そこを攻めるタイプだね(^_^;)
きわどいふたりだな~

サイさん

ありがとうございます!
このくだりはミナを語るうえですごく重要なので1話分使いました。
書いてる私は楽しかったけど、きっとこの回は読み飛ばされるだろうな~。
(こういうのは自分とこで書け!って感じですね。スイマセン…)
リンにはミナのこの殻を破ってもらわないと、あの将来に辿り着けない。
リン、がんばれ~。

原田理香子さん

興味深い女の子です。
中学生って、バランスの悪い年頃に他の子より大人びてしまった女の子、巻きこまれたかたちのミナ、でもミナにも恋心のようなものはあった・・・プライドはくだけちゃったけど・・・
青春と言うより「小さな恋のメロディ」みたいです。

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アドさん

私、女の子書くの下手なんですけど
(BL書きは総じて女の子を書くのが下手だと言われがちですけど)、
この原田はちゃんと登場させる意味のある女の子に
書けたかな~と思います。
読んでくださってありがとうございました~。

内緒さん

コメありがとうございます。
この話からそこまで読みとっていただけてうれしいです。
内緒さんの含蓄のある言葉に、私のほうが刺激を受けちゃいます。

理香子にはきっと今頃、新しい彼氏ができてますよ。
ミナも本当なら自分の力で殻を破って出てこなきゃいけないんだけど、
やっぱりリンの力が必要でしょうね。

それにしても、FC2は内緒コメ機能があっていいですね。
忍者にもほしいな~(笑)。



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