aqua green noon
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宿禰慧一編 「オレミユス」 1
宿禰慧一編 「オレミユス」
1.
わが飢餓よ 心の飢餓よ
天の哀れを 請うがいい
さらば 祈らん
与えよ、と…
天候の所為で飛行機が遅れた。
携帯でメールは送ったが、あいつは気がつかないことが多い。
空港で待っていると言っていたから、遅れたらきっと心配するだろう。
十二時間の飛行時間が、たまらなく長い。
本を読んでも映画を見ても、凛一の顔がちらついて仕方がない。
九月に別れてまだ三ヶ月も経っていないというのに…と、自分で呆れ返った。
本を閉じライトを消して、目を閉じた。
何故だか近頃は、あの子の幼い頃の夢ばかり見る。
母や梓の所為なのかな…
あの子をひとりにしてしまったことを責めて、俺を恨んでいるのかな。
もしかしたら、俺が凛を愛さずにはいられなくなってしまったのは、あんたらの所為かも知れない。
呪い?
…呪いでもなんでもいいさ。
俺は凛一に縛られている。
赤く温い血の鎖は誰も切れない。だが、あいつが俺を必要としなくなったら…
その時は、その鎖を俺自身が断ち切ってやる。
その覚悟は出来ている。
だから今は…
あいつが手を離すまでは、騎士でも下僕でも何にでもなってやる。
人気のない静かなターミナルで凛一は待っていた。
俺を見た途端に鮮やかな笑顔を見せ、走り寄る。
一年半前のよそよそしさなど微塵もない。
真っ向に見つめてくる瞳は眩しい程に輝きを放っている。
だが少しだけ潤んでいるのを認め、問うと、昔の事を思い出していたと言う。
俺と同じだと密かに笑い、俺たちは抱擁した。
凛一の身体は思ったよりも冷たく、ひとりで待たせた時間を俺は恨めしく思った。
成り行きで高級ホテルのスイートに一泊する羽目になった。
全く持って、思いも寄らぬ話だ。
部屋も眺めも最高だが、クリスマスにこのシチュは…俺には酷な気がしてきた。
しかもベッドはゴージャスだろうがいかにでかかろうが、ひとつしかない。
これに凛とふたりで寝るのか?
…俺は頭を抱えたくなる。
俺の憂鬱を全く気に病むはずもなく、凛一はガキのようにはしゃぎ回っている。
風呂に入れば、部屋が見渡せるガラス張りの窓に裸のまま這いつくばって動かない。
真正面の俺はマトモに凛の裸と真向かうことになる。
別に凛は俺を見つめているわけじゃない。俺の後ろの窓の向こうに見える夜景に見惚れているだけなのだ。
それなのに…俺は凛一の身体を眺めて欲情している。
俺の唯一の逃げ道は目を瞑るだけだ。
風呂を交代して上がった後も、凛一は俺に一切やすらぎなど与えてくれない。
俺の思惑など見事に無視してセックスしようと抱きついて離れない。
これは凛の悪巧みのひとつなのか?俺は疑念を抱きたくなる。
それなのに…
寝ついてしまえば、先程の小悪魔な姿態は微塵もなく、ただ無心に眠りに貪りついている。
俺は大きくひとつ溜息を吐いた。
どうしてこうも自分は情けないのだろう。
いっその事、凛一を抱き、俺のものにしてしまえば、こんなに苦しむ必要はないはずだ。
凛一だって俺とセックスしたところで、それを否定するとは思えない。
だが、こいつはセックス自体を「愛する」という行為とは認識していない。
もし俺が凛一と寝てしまったとして、凛は自分を抱いた俺を今まで寝てきた男と同列に並べてしまう気がする。
そんな事は我慢がならないし、凛にとって特別の男でいなければ俺の存在する価値など無いに等しい。
それに、
もうすでに凛一には恋人が居る。「愛してる」と、断言するクセにセックスはしていないと言う。
凛一が本気でそいつと恋愛してるなら、見守ってやるのが兄としてのが努めなのだろう。
そして凛一はそれを望んでいる。
パジャマに着替えた俺は、凛一の眠るベッドの隣に静かに横になり、凛一の様子を伺った。
凛は昔から寝つきがいい。幼い頃は良く夜泣きをして俺たちを困らせたが、育つにつれて、「おやすみなさい」と、言うが早く、すぐに俺の胸でスヤスヤと寝入ったものだった。
安らかな寝息を立てる凛一の頭を撫でてみた。ビクともしない。
肩肘を立て、深く眠る凛の頬を撫でながら、俺は呟く。
「なあ、凛。恋人を愛してると言っておいて、その舌の根も乾かぬ先に俺とセックスしたいって言うのかい?俺の本当の心を知ったらおまえは俺に、同じ事を言えるのだろうか…」
頬を撫でた手の平を凛の首筋に移動させる。
前空きのパジャマのボタンもキチンと留めないままでいるから、鎖骨から胸、乳首まではだけてしまっている。
俺は指先だけでゆっくりと凛の身体を撫でた。
首筋、喉仏、鎖骨、少し浮き出ている肋骨、ピンク色の突起、規則正しく響く心臓…
俺は凛一の耳元に秘密の囁きを繰り返す。
「凛…誰も好きになるな。誰のものにもなるな。自由に身を任せ、他人の縁など切り捨てろ。おまえは俺に繋がっていればいい。おまえは俺が守る。だから…俺のものでいろ…」
呪文は呪いであり、魔法であり、願いになる。
言い換えればまさに、希望だ。
俺はなんという場所に来ている。
肉体的見地と精神世界の狭間とはこんなに虚ろなものなのか。
白く浮かぶ凛の身体を、誰にも、神にも(もし、存在するならば、だ)晒せたくない。
俺は凛一を抱きしめた。
凛は眠ったまま、甘えるように頭を擡げた。
昔のままに…
宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」1
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ
相変わらずの慧一節ですが…
慧一は正直ダークサイドに塗れてますよ。ジェダイの騎士には到底なれない。
でも私はアナキンが好きなのですよ。ルークよりも。
クリスマスカードのイラストに集中してきているので、文章が進みません。
もしかすると週三日のローテは崩れるかも…
イラストの直筆を贈ることは多分自分にとっては意義のあるものになるので、しっかり描きたいんですね。
手元に残らないものだからこその価値観がある。
これは自己満足でおk。貰った人に対してではなくあくまでも自分の為のプレゼントです。

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1.
わが飢餓よ 心の飢餓よ
天の哀れを 請うがいい
さらば 祈らん
与えよ、と…
天候の所為で飛行機が遅れた。
携帯でメールは送ったが、あいつは気がつかないことが多い。
空港で待っていると言っていたから、遅れたらきっと心配するだろう。
十二時間の飛行時間が、たまらなく長い。
本を読んでも映画を見ても、凛一の顔がちらついて仕方がない。
九月に別れてまだ三ヶ月も経っていないというのに…と、自分で呆れ返った。
本を閉じライトを消して、目を閉じた。
何故だか近頃は、あの子の幼い頃の夢ばかり見る。
母や梓の所為なのかな…
あの子をひとりにしてしまったことを責めて、俺を恨んでいるのかな。
もしかしたら、俺が凛を愛さずにはいられなくなってしまったのは、あんたらの所為かも知れない。
呪い?
…呪いでもなんでもいいさ。
俺は凛一に縛られている。
赤く温い血の鎖は誰も切れない。だが、あいつが俺を必要としなくなったら…
その時は、その鎖を俺自身が断ち切ってやる。
その覚悟は出来ている。
だから今は…
あいつが手を離すまでは、騎士でも下僕でも何にでもなってやる。
人気のない静かなターミナルで凛一は待っていた。
俺を見た途端に鮮やかな笑顔を見せ、走り寄る。
一年半前のよそよそしさなど微塵もない。
真っ向に見つめてくる瞳は眩しい程に輝きを放っている。
だが少しだけ潤んでいるのを認め、問うと、昔の事を思い出していたと言う。
俺と同じだと密かに笑い、俺たちは抱擁した。
凛一の身体は思ったよりも冷たく、ひとりで待たせた時間を俺は恨めしく思った。
成り行きで高級ホテルのスイートに一泊する羽目になった。
全く持って、思いも寄らぬ話だ。
部屋も眺めも最高だが、クリスマスにこのシチュは…俺には酷な気がしてきた。
しかもベッドはゴージャスだろうがいかにでかかろうが、ひとつしかない。
これに凛とふたりで寝るのか?
…俺は頭を抱えたくなる。
俺の憂鬱を全く気に病むはずもなく、凛一はガキのようにはしゃぎ回っている。
風呂に入れば、部屋が見渡せるガラス張りの窓に裸のまま這いつくばって動かない。
真正面の俺はマトモに凛の裸と真向かうことになる。
別に凛は俺を見つめているわけじゃない。俺の後ろの窓の向こうに見える夜景に見惚れているだけなのだ。
それなのに…俺は凛一の身体を眺めて欲情している。
俺の唯一の逃げ道は目を瞑るだけだ。
風呂を交代して上がった後も、凛一は俺に一切やすらぎなど与えてくれない。
俺の思惑など見事に無視してセックスしようと抱きついて離れない。
これは凛の悪巧みのひとつなのか?俺は疑念を抱きたくなる。
それなのに…
寝ついてしまえば、先程の小悪魔な姿態は微塵もなく、ただ無心に眠りに貪りついている。
俺は大きくひとつ溜息を吐いた。
どうしてこうも自分は情けないのだろう。
いっその事、凛一を抱き、俺のものにしてしまえば、こんなに苦しむ必要はないはずだ。
凛一だって俺とセックスしたところで、それを否定するとは思えない。
だが、こいつはセックス自体を「愛する」という行為とは認識していない。
もし俺が凛一と寝てしまったとして、凛は自分を抱いた俺を今まで寝てきた男と同列に並べてしまう気がする。
そんな事は我慢がならないし、凛にとって特別の男でいなければ俺の存在する価値など無いに等しい。
それに、
もうすでに凛一には恋人が居る。「愛してる」と、断言するクセにセックスはしていないと言う。
凛一が本気でそいつと恋愛してるなら、見守ってやるのが兄としてのが努めなのだろう。
そして凛一はそれを望んでいる。
パジャマに着替えた俺は、凛一の眠るベッドの隣に静かに横になり、凛一の様子を伺った。
凛は昔から寝つきがいい。幼い頃は良く夜泣きをして俺たちを困らせたが、育つにつれて、「おやすみなさい」と、言うが早く、すぐに俺の胸でスヤスヤと寝入ったものだった。
安らかな寝息を立てる凛一の頭を撫でてみた。ビクともしない。
肩肘を立て、深く眠る凛の頬を撫でながら、俺は呟く。
「なあ、凛。恋人を愛してると言っておいて、その舌の根も乾かぬ先に俺とセックスしたいって言うのかい?俺の本当の心を知ったらおまえは俺に、同じ事を言えるのだろうか…」
頬を撫でた手の平を凛の首筋に移動させる。
前空きのパジャマのボタンもキチンと留めないままでいるから、鎖骨から胸、乳首まではだけてしまっている。
俺は指先だけでゆっくりと凛の身体を撫でた。
首筋、喉仏、鎖骨、少し浮き出ている肋骨、ピンク色の突起、規則正しく響く心臓…
俺は凛一の耳元に秘密の囁きを繰り返す。
「凛…誰も好きになるな。誰のものにもなるな。自由に身を任せ、他人の縁など切り捨てろ。おまえは俺に繋がっていればいい。おまえは俺が守る。だから…俺のものでいろ…」
呪文は呪いであり、魔法であり、願いになる。
言い換えればまさに、希望だ。
俺はなんという場所に来ている。
肉体的見地と精神世界の狭間とはこんなに虚ろなものなのか。
白く浮かぶ凛の身体を、誰にも、神にも(もし、存在するならば、だ)晒せたくない。
俺は凛一を抱きしめた。
凛は眠ったまま、甘えるように頭を擡げた。
昔のままに…
宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」1
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相変わらずの慧一節ですが…
慧一は正直ダークサイドに塗れてますよ。ジェダイの騎士には到底なれない。
でも私はアナキンが好きなのですよ。ルークよりも。
クリスマスカードのイラストに集中してきているので、文章が進みません。
もしかすると週三日のローテは崩れるかも…
イラストの直筆を贈ることは多分自分にとっては意義のあるものになるので、しっかり描きたいんですね。
手元に残らないものだからこその価値観がある。
これは自己満足でおk。貰った人に対してではなくあくまでも自分の為のプレゼントです。
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宿禰慧一 「イリュミナシオン」 26
26.
自宅に帰っても、凛一の姿はなかった。
あの後すぐに紫乃と別れ、帰宅した。もう二度と凛一と仲たがいをするのは絶対に嫌だった。
凛一の部屋に行き、ベッドに腰掛けて弟を待つ。
どう説明すべきなのかはわかっているつもりだが、なんだかそれも億劫になってしまう。
本当のところはどうだっていいんだ。
凛が俺を見捨てなけりゃ、俺のものでいてくれりゃ…それだけで…
この独占的な支配欲は凛一にとって、不必要なのだとわかっている。
俺は凛一を失うのが怖いだけなんだ。
凛が他の奴に懸想をしていると思うと、兄としての部分は喜び、愛欲を持っている片方は嫉妬をしている。
そういうことだ。プラマイゼロになりゃいいんだが…上手くいかないのも現状で、この有様…
結局、俺という人間の性(さが)とはこういうものでしかないのか…
部屋の窓から西日が差し込んでくる。ああ、もう夕刻になったのか…そう思い始めた頃、部屋のドアが開き、凛一の姿がおぼろげに見えた。
「慧…」
凛は驚いた様子で俺に近づいてくる。
「…お帰り、凛」
「どうしたのさ。こんなところで、昼寝でもしてたのか?」
「寝れないよ。おまえをあんな気持ちにさせたままにして…すまなかったよ」
「もういいよ、気にしてないし…」
俺の隣に座り込み、肩に凭れる凛一が無性にいとおしくなり、その頭を引き寄せた。
愛している…愛している、凛一、おまえの存在だけが俺を生かしているんだ…
俺を許すと言う凛一の言葉を聞きながら、俺はまだ天秤が釣り合ったままでいられると感じていた。
キスが欲しいという凛一の誘惑にも、抑制が効く自分がいる。
大丈夫、まだ理性は保てるさ。
おまえを守るために、俺は存在するのだから。
俺の膝に乗り、幼い頃のままに俺を抱きしめるこの存在を、この距離を、俺は失いたくない。
凛、おまえは俺を守る城になると言ってくれたことがあるね。覚えているかい?
俺はね、おまえと言う城の中に身を潜めているだけの脆弱な生き物なんだよ。
おまえの城を出た時、俺は、きっと…
「暫く離れ離れになってしまうけど、いつもおまえのことを思っているからな。何かあったらすぐ連絡しろよ。一目散に凛の元に帰ってくるから」
「慧一こそ、他の男と遊び惚けて俺を忘れるなよ。俺を捨てたら承知しない」
おまえを忘れるなんてこと…一生できまいよ、凛…
なあ、凛…
俺のすべてはおまえの為にある。
遠くなく、おまえは大人になり、しっかりと自分の道を歩いていくのだろう。
そして、その傍らにいるのは俺じゃない誰かだ。
俺はひとり残される。
だから、その前に、その日が来たら、どうか俺を裁いてくれ。
兄貴なんかいらないと捨ててくれ。
そしたら、俺は…消え去ろう。
すべてをおまえに残して、跡形も無く…
どの男よりも、強く、おまえの中に残る存在になるために…
「イリュミナシオン」第一部、完。
text by saiart
25へ
これで第一部「イリュミナシオン」は終わりです。
拙いテキストをお読み下さりありがとうございます。
慧一のお話も続いていく予定です。
第二部は「オレミユス」の予定。
暫くお待ちください。

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自宅に帰っても、凛一の姿はなかった。
あの後すぐに紫乃と別れ、帰宅した。もう二度と凛一と仲たがいをするのは絶対に嫌だった。
凛一の部屋に行き、ベッドに腰掛けて弟を待つ。
どう説明すべきなのかはわかっているつもりだが、なんだかそれも億劫になってしまう。
本当のところはどうだっていいんだ。
凛が俺を見捨てなけりゃ、俺のものでいてくれりゃ…それだけで…
この独占的な支配欲は凛一にとって、不必要なのだとわかっている。
俺は凛一を失うのが怖いだけなんだ。
凛が他の奴に懸想をしていると思うと、兄としての部分は喜び、愛欲を持っている片方は嫉妬をしている。
そういうことだ。プラマイゼロになりゃいいんだが…上手くいかないのも現状で、この有様…
結局、俺という人間の性(さが)とはこういうものでしかないのか…
部屋の窓から西日が差し込んでくる。ああ、もう夕刻になったのか…そう思い始めた頃、部屋のドアが開き、凛一の姿がおぼろげに見えた。
「慧…」
凛は驚いた様子で俺に近づいてくる。
「…お帰り、凛」
「どうしたのさ。こんなところで、昼寝でもしてたのか?」
「寝れないよ。おまえをあんな気持ちにさせたままにして…すまなかったよ」
「もういいよ、気にしてないし…」
俺の隣に座り込み、肩に凭れる凛一が無性にいとおしくなり、その頭を引き寄せた。
愛している…愛している、凛一、おまえの存在だけが俺を生かしているんだ…
俺を許すと言う凛一の言葉を聞きながら、俺はまだ天秤が釣り合ったままでいられると感じていた。
キスが欲しいという凛一の誘惑にも、抑制が効く自分がいる。
大丈夫、まだ理性は保てるさ。
おまえを守るために、俺は存在するのだから。
俺の膝に乗り、幼い頃のままに俺を抱きしめるこの存在を、この距離を、俺は失いたくない。
凛、おまえは俺を守る城になると言ってくれたことがあるね。覚えているかい?
俺はね、おまえと言う城の中に身を潜めているだけの脆弱な生き物なんだよ。
おまえの城を出た時、俺は、きっと…
「暫く離れ離れになってしまうけど、いつもおまえのことを思っているからな。何かあったらすぐ連絡しろよ。一目散に凛の元に帰ってくるから」
「慧一こそ、他の男と遊び惚けて俺を忘れるなよ。俺を捨てたら承知しない」
おまえを忘れるなんてこと…一生できまいよ、凛…
なあ、凛…
俺のすべてはおまえの為にある。
遠くなく、おまえは大人になり、しっかりと自分の道を歩いていくのだろう。
そして、その傍らにいるのは俺じゃない誰かだ。
俺はひとり残される。
だから、その前に、その日が来たら、どうか俺を裁いてくれ。
兄貴なんかいらないと捨ててくれ。
そしたら、俺は…消え去ろう。
すべてをおまえに残して、跡形も無く…
どの男よりも、強く、おまえの中に残る存在になるために…
「イリュミナシオン」第一部、完。
text by saiart
25へ
これで第一部「イリュミナシオン」は終わりです。
拙いテキストをお読み下さりありがとうございます。
慧一のお話も続いていく予定です。
第二部は「オレミユス」の予定。
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宿禰慧一 「イリュミナシオン」 25
25、
最悪だ…きっと今の俺は紫乃に言わせればピエロにしか見えてなかろう。
薄笑いを浮かべて凛一に笑いかけている紫乃に無性に腹が立ってきた。
「こんなところで家庭訪問かよ」
凛一は言葉に怒りを交えている。
「…三者面談でもって思ってね」
揶揄うように言う紫乃も紫乃だ。
躍起になって紫乃に挑みかかろうとする凛一を押さえ、俺は隣に座らせた。凛一は運ばれたランチにも手を出さずに紫乃の方を睨みつけている。
この様子じゃあ,凛一と紫乃は学校内で何かと揉めているのかも知れない。
出来るだけ穏便に済ませようと、声を落として凛一に説明する。
「俺が向こうに帰ったらおまえが一人になるだろう?だから…藤宮先生に頼んでいたんだよ」
「…」
凛一は何も言わない。俺は言葉を続ける。
「担任は当てにならないって凛一が言ってたから…誰かおまえを…守ってくれる人がいる方がいいと思ったんだよ…だから、凛…あんまり先生に迷惑かけるんじゃないよ…」
自分で言いつつ、あほらしさにシラけてくるが、とにかく取り繕わなければならないと必死になる。
どっちにしろ…かなり拙い状態だとはわかりきっていた。
俺が紫乃と知り合いで、凛一の副担任であるとわかっていて、しかもそのことを黙っていたのは、俺の方に非がある。
凛一はふと立ち上がると、向かいに座る紫乃の眼鏡を取り外し、何かを思い出すように言葉を綴った。
「…そうだ、あんたの顔、思い出した…姉貴の…梓の葬式の時来てたよな。それと…前の俺ン宅の前をウロウロしていたのもあんただ…梓の男?…違う…おまえ…」
「俺の大学の時の友人だよ」
これ以上隠すのは無理だと思い、俺は仕方なしに応えた。
「…友人…じゃなないだろう、慧…はっきり言えよ」
勘のいい凛一は紫乃との関係に気づき始めている。
「流石は慧一の弟だけあるじゃないか。察しがいいな。そうだよ、俺と慧は付き合っていた。恋人…だった」
また、余計なことを言いやがると、舌を打った。
「…今は只の友人だよ」
慌てて言い訳をしても滑稽でしかならない。もう俺は、さっさとこの場から立ち去りたい気分で一杯だ。
「昔…ずっと前に言ってた別れた彼って…こいつの事だったのか?…慧」
…そんな事を俺はおまえに喋ったのか?…いつの話だ?全く覚えてない…と、言うか俺はおまえの事以外はあまりにも手落ちが多いんだよ。
「そうだよ。でもその話は今度の相談とは関係ない。おまえの事を誰かに頼みたかったのは本当だ。紫乃が…藤宮がおまえの副担任って知って…おまえに黙っていたのは悪いと思ったけど、変に詮索されるのも嫌だったんだ。それで…」
「それで、こうやって学校以外で仲良く一緒に昼飯食ってるってわけ」
「…仲良くじゃないよ」
「そんなに突っ張って言うことじゃないだろう。…宿禰君は学校でもいい子にしているって言ってやってんだぜ?」
だから凛一を挑発するな、紫乃。こいつは顔に似合わず凶暴なところがあるんだから。
俺は内心凛が手を出さないかと、冷や汗もんだった。
「いつから…いつから知ってたんだよ」
凛一は今度は俺を責める。
こうなったら正直に言うしかない。どう取り繕ったって紫乃のことは事実だし、凛一と仲たがいをするのはもう御免だからな。
「6月ごろだ…言おうとは思ったんだけど…おまえが元気そうに高校に行ってるから、余計な事を言うのは止めておいたんだ。ゴメン」
「そうか…家では慧一が学校ではこの先生が俺を心配して、変な事をしないか監視してたってわけ…」
「凛、そうじゃない」
「もういい。…俺のことで色々心配かけて悪かったな。俺はもう独りでもいいから、ほっておいてくれていいよ。あんたらに…かまって欲しくない」
「凛」
「悪いけど、俺先に帰るよ。慧、ここのランチは兄貴が奢ってよ…じゃあな」
俺は店を出て行く凛一の背中を見送り、その姿が消えると俺は深くため息をついた。
「追わなくていいのか?」
「無駄だよ…ああなったら凛は気が済むまでは俺を許さないからな…多分、大丈夫だろう…あいつはああは言ってても、かなりの寂しがり屋なんだよ。昔から誰からも見られたくなくて、納戸に隠れてひとりでこっそり泣く子だった…」
自宅に帰って、許しを請うしか手立てはないなあと思いつつも、俺自身がどんどん落ち込むのを見かねたのだろうか。紫乃は哀れんだ顔で俺に言う。
「そんな顔するなよ、慧一…わかったよ。おまえがいない間は俺が寂しがらないように、凛一をかわいがってやるから、安心してアメリカへ行っちまえよ」
「…安心できない言い方をするな」
そう言いながら、俺は紫乃を心から信用している自分にも驚いている。
text by saiart
24へ /26へ
慧一編は次で最後。
やっと終れる。この凛一への偏愛をどう観るかは読む人それぞれだろうなあ〜と思うけど、私は慧一の凛一への想いは純愛以外の何物でもない気がするんだよね〜
いま「小説を書こう」にこれらを投稿しています。理由はただひとつ、文字がでかく読みやすい!それだけです。文字が変わると雰囲気も違っておもしろい〜
凛一の最初の頃の奴は、少し変えながらアップしようかな〜と、思ってる。慧一がかなり変わってきているからなあ〜修正は必要。
↑お気に召しましたらポチっとお願いします。

こちらの方も参加しております。
最悪だ…きっと今の俺は紫乃に言わせればピエロにしか見えてなかろう。
薄笑いを浮かべて凛一に笑いかけている紫乃に無性に腹が立ってきた。
「こんなところで家庭訪問かよ」
凛一は言葉に怒りを交えている。
「…三者面談でもって思ってね」
揶揄うように言う紫乃も紫乃だ。
躍起になって紫乃に挑みかかろうとする凛一を押さえ、俺は隣に座らせた。凛一は運ばれたランチにも手を出さずに紫乃の方を睨みつけている。
この様子じゃあ,凛一と紫乃は学校内で何かと揉めているのかも知れない。
出来るだけ穏便に済ませようと、声を落として凛一に説明する。
「俺が向こうに帰ったらおまえが一人になるだろう?だから…藤宮先生に頼んでいたんだよ」
「…」
凛一は何も言わない。俺は言葉を続ける。
「担任は当てにならないって凛一が言ってたから…誰かおまえを…守ってくれる人がいる方がいいと思ったんだよ…だから、凛…あんまり先生に迷惑かけるんじゃないよ…」
自分で言いつつ、あほらしさにシラけてくるが、とにかく取り繕わなければならないと必死になる。
どっちにしろ…かなり拙い状態だとはわかりきっていた。
俺が紫乃と知り合いで、凛一の副担任であるとわかっていて、しかもそのことを黙っていたのは、俺の方に非がある。
凛一はふと立ち上がると、向かいに座る紫乃の眼鏡を取り外し、何かを思い出すように言葉を綴った。
「…そうだ、あんたの顔、思い出した…姉貴の…梓の葬式の時来てたよな。それと…前の俺ン宅の前をウロウロしていたのもあんただ…梓の男?…違う…おまえ…」
「俺の大学の時の友人だよ」
これ以上隠すのは無理だと思い、俺は仕方なしに応えた。
「…友人…じゃなないだろう、慧…はっきり言えよ」
勘のいい凛一は紫乃との関係に気づき始めている。
「流石は慧一の弟だけあるじゃないか。察しがいいな。そうだよ、俺と慧は付き合っていた。恋人…だった」
また、余計なことを言いやがると、舌を打った。
「…今は只の友人だよ」
慌てて言い訳をしても滑稽でしかならない。もう俺は、さっさとこの場から立ち去りたい気分で一杯だ。
「昔…ずっと前に言ってた別れた彼って…こいつの事だったのか?…慧」
…そんな事を俺はおまえに喋ったのか?…いつの話だ?全く覚えてない…と、言うか俺はおまえの事以外はあまりにも手落ちが多いんだよ。
「そうだよ。でもその話は今度の相談とは関係ない。おまえの事を誰かに頼みたかったのは本当だ。紫乃が…藤宮がおまえの副担任って知って…おまえに黙っていたのは悪いと思ったけど、変に詮索されるのも嫌だったんだ。それで…」
「それで、こうやって学校以外で仲良く一緒に昼飯食ってるってわけ」
「…仲良くじゃないよ」
「そんなに突っ張って言うことじゃないだろう。…宿禰君は学校でもいい子にしているって言ってやってんだぜ?」
だから凛一を挑発するな、紫乃。こいつは顔に似合わず凶暴なところがあるんだから。
俺は内心凛が手を出さないかと、冷や汗もんだった。
「いつから…いつから知ってたんだよ」
凛一は今度は俺を責める。
こうなったら正直に言うしかない。どう取り繕ったって紫乃のことは事実だし、凛一と仲たがいをするのはもう御免だからな。
「6月ごろだ…言おうとは思ったんだけど…おまえが元気そうに高校に行ってるから、余計な事を言うのは止めておいたんだ。ゴメン」
「そうか…家では慧一が学校ではこの先生が俺を心配して、変な事をしないか監視してたってわけ…」
「凛、そうじゃない」
「もういい。…俺のことで色々心配かけて悪かったな。俺はもう独りでもいいから、ほっておいてくれていいよ。あんたらに…かまって欲しくない」
「凛」
「悪いけど、俺先に帰るよ。慧、ここのランチは兄貴が奢ってよ…じゃあな」
俺は店を出て行く凛一の背中を見送り、その姿が消えると俺は深くため息をついた。
「追わなくていいのか?」
「無駄だよ…ああなったら凛は気が済むまでは俺を許さないからな…多分、大丈夫だろう…あいつはああは言ってても、かなりの寂しがり屋なんだよ。昔から誰からも見られたくなくて、納戸に隠れてひとりでこっそり泣く子だった…」
自宅に帰って、許しを請うしか手立てはないなあと思いつつも、俺自身がどんどん落ち込むのを見かねたのだろうか。紫乃は哀れんだ顔で俺に言う。
「そんな顔するなよ、慧一…わかったよ。おまえがいない間は俺が寂しがらないように、凛一をかわいがってやるから、安心してアメリカへ行っちまえよ」
「…安心できない言い方をするな」
そう言いながら、俺は紫乃を心から信用している自分にも驚いている。
text by saiart
24へ /26へ
慧一編は次で最後。
やっと終れる。この凛一への偏愛をどう観るかは読む人それぞれだろうなあ〜と思うけど、私は慧一の凛一への想いは純愛以外の何物でもない気がするんだよね〜
いま「小説を書こう」にこれらを投稿しています。理由はただひとつ、文字がでかく読みやすい!それだけです。文字が変わると雰囲気も違っておもしろい〜
凛一の最初の頃の奴は、少し変えながらアップしようかな〜と、思ってる。慧一がかなり変わってきているからなあ〜修正は必要。

こちらの方も参加しております。
宿禰慧一 「イリュミナシオン」 24
24.
その後、紫乃とは何度か街中で会った。誘われれば食事もしたりもした。
凛一の事を切り出し、俺のいない間、目を配って欲しいと頼むと、昔通りに付き合えと迫られ、凛一の為だと承知した。とはいえ、元の鞘に納まる気は、どっちにもないことはわかっている。
紫乃は凛一に対する俺の気持ちを糾弾したがっていることは目に見えていた。
「凛一とはもう寝たかい?」どこかで聞いたことある質問だと、ウンザリとなる。
「寝ないよ」
「まだ凛一と寝ることが怖いのか?汚す事になるって思ってんの?」
「…紫乃、拘っているのはおまえの方だろう。俺は凛一とは寝ない。それだけだよ」
「ふ〜ん」
あからさまに疑う眼差しで俺を見つめると、目の前のコーヒーを啜った。
俺の凛一に対する気持ちを知っているのは、嶌谷さんと紫乃だけだ。
用心の為に口止めしておいた方がいいのか、正直迷った。だがそれを紫乃に言ってもまた条件を出されるだけだ。
紫乃と今更縒(よ)りを戻したところで何になる。俺はともかく紫乃にとって、俺はあまりにも見返りが無さ過ぎる男だ。
紫乃はバカじゃない。付き合いを承知した俺と本気でどうかなるとは思っていないだろう。
俺は紫乃には幸せになってもらいたかった。
だから本当なら、こんな風に会ったり、凛一のことを頼んだりするべきじゃないんだ。
「紫乃、おまえの方こそ、誰かいないのか?」「慧一が俺の心配してくれるなんて…随分変わったね」「おちょくるなよ。俺は本気で心配しているんだ」「本気で心配する奴が、元恋人に弟の世話を頼むかよ」「だからそれは…」
こうなると俺の負けだ。頭を下げるしかない。
「俺は俺で好きにやっているから慧一が気に病むことじゃないさ」
「…」
紫乃はいつだって結局最後には俺を甘やかしてしまうんだ。
夏休みも終わり、九月。俺が大学院に戻る日が近づいてくる。
凛一もどことなく寂しげな様子で、それを見る度心が痛くなる。
何度もお互いの気持ちを話し合って決めた進路ではあるが、別れが近づくと折角の決意も挫かれそうになる。
「寂しくなるなあ〜」と、独り言のように言う凛一にたまらなく「一緒に来るか?」と、言うと首を横に振る。
俺もおまえ以上に寂しいんだよ、凛…
戻る二日前、俺は紫乃を呼びつけて、凛一の事をしかと頼み込んだ。
本当は嶌谷さんにもお願いしたいところだが、凛一が嶌谷さんを見て、また月村を思い出させても酷な気がした。
何度が来たことのある洋食屋で、紫乃を誘い昼飯を食っていた。
俺は相も変わらず、凛一の事を頼むと言うと、紫乃は不平不満な顔で俺を睨む。
「…いい加減、子ども扱いするのはやめにしたらどうだ。事件の事は俺もいささか情を汲むところではあるけど、おまえはあの子にうつつを抜かしすぎだ」
「…何とでも言うがいいさ。もうこればかりは自分でもどうしようもないんだよ」
「呆れた男だよ。そういう奴に惹かれている俺も同じようなバカの端くれかもしれんが…」
「紫乃が俺に対して色々思うところがあるのはわかるし、憎く思ってくれてもいい。だが、頼むから凛一には、辛く当たらないでくれよ」
「…正直に言えばだ。俺は凛一をかわいいと思うよ。こましゃくれていてもな。おまえの弟じゃなけりゃ、とっくに食ってら」
「…」
俺は無言で紫乃の顔をジロリと睨んだ。
「今の学生はな、こっちが誘わなくても向こうからお願いします、って頭下げてくる奴もいるんだぜ。凛一はどうやら簡単には乗っからせてはくれなさそうだがな」
「おい、それぐらいにしとけよ。ぶん殴るぞ」
「別に…おまえが俺を殴れるかい。それより凛一が狙ってる子を知ってるか?」
「ああ、頭のいい子だって聞いた」
「学年でトップの子だよ。容姿の整ったかわいい子だがね、あれは全くのノンケだ。それも相当に身持ちの固い純粋培養型。そういう奴を本気で落としたがるのが宿禰凛一だよ。兄貴よりよっぽど手強い」
「…悪かったな」
「俺はね、その子が哀れでならない。まるで狼に狙われたウサギだ。凛一が全力で襲いかかりゃあ、あの子だって無傷じゃいられまいよ。おまえが必死に守ってやろうとしている弟、宿禰凛一ってのはそういう性質(たち)の子だ。要するに俺が手を差し出したって、引っ叩かれるのがオチって事だ」
「…」
紫乃の言うことはわかる気がする。
俺が対凛一とその他への態度が違うという事と似たり寄ったりだろう。
それより、凛一はこの間、その子に振られたと言ってたが…
その後はどうなったんだろう…
「おい、慧一。おまえ人の話聞いてる?」
「…聞いてる」
と、顔を上げ、前を見ると…何故か、凛一が笑いながらこちらに歩いてくる。
一瞬、白昼夢なのかと目を疑った。
「慧も来てたの?丁度良かった。俺、奢ってもら…」言葉を切らした原因は俺ではなく、向かいの席に座る奴の存在を知ったからだ。
やぶ蛇もここまでくると笑うしかなかろうぜ。
text by saiart
23へ /25へ
慧一と紫乃の会話は、楽しいなあ〜(〃^∇^)o_彡☆
こいつらと友達になりたいよ〜ww
このシーンは凛一編「好きの行方」で凛一視点で読めます。

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その後、紫乃とは何度か街中で会った。誘われれば食事もしたりもした。
凛一の事を切り出し、俺のいない間、目を配って欲しいと頼むと、昔通りに付き合えと迫られ、凛一の為だと承知した。とはいえ、元の鞘に納まる気は、どっちにもないことはわかっている。
紫乃は凛一に対する俺の気持ちを糾弾したがっていることは目に見えていた。
「凛一とはもう寝たかい?」どこかで聞いたことある質問だと、ウンザリとなる。
「寝ないよ」
「まだ凛一と寝ることが怖いのか?汚す事になるって思ってんの?」
「…紫乃、拘っているのはおまえの方だろう。俺は凛一とは寝ない。それだけだよ」
「ふ〜ん」
あからさまに疑う眼差しで俺を見つめると、目の前のコーヒーを啜った。
俺の凛一に対する気持ちを知っているのは、嶌谷さんと紫乃だけだ。
用心の為に口止めしておいた方がいいのか、正直迷った。だがそれを紫乃に言ってもまた条件を出されるだけだ。
紫乃と今更縒(よ)りを戻したところで何になる。俺はともかく紫乃にとって、俺はあまりにも見返りが無さ過ぎる男だ。
紫乃はバカじゃない。付き合いを承知した俺と本気でどうかなるとは思っていないだろう。
俺は紫乃には幸せになってもらいたかった。
だから本当なら、こんな風に会ったり、凛一のことを頼んだりするべきじゃないんだ。
「紫乃、おまえの方こそ、誰かいないのか?」「慧一が俺の心配してくれるなんて…随分変わったね」「おちょくるなよ。俺は本気で心配しているんだ」「本気で心配する奴が、元恋人に弟の世話を頼むかよ」「だからそれは…」
こうなると俺の負けだ。頭を下げるしかない。
「俺は俺で好きにやっているから慧一が気に病むことじゃないさ」
「…」
紫乃はいつだって結局最後には俺を甘やかしてしまうんだ。
夏休みも終わり、九月。俺が大学院に戻る日が近づいてくる。
凛一もどことなく寂しげな様子で、それを見る度心が痛くなる。
何度もお互いの気持ちを話し合って決めた進路ではあるが、別れが近づくと折角の決意も挫かれそうになる。
「寂しくなるなあ〜」と、独り言のように言う凛一にたまらなく「一緒に来るか?」と、言うと首を横に振る。
俺もおまえ以上に寂しいんだよ、凛…
戻る二日前、俺は紫乃を呼びつけて、凛一の事をしかと頼み込んだ。
本当は嶌谷さんにもお願いしたいところだが、凛一が嶌谷さんを見て、また月村を思い出させても酷な気がした。
何度が来たことのある洋食屋で、紫乃を誘い昼飯を食っていた。
俺は相も変わらず、凛一の事を頼むと言うと、紫乃は不平不満な顔で俺を睨む。
「…いい加減、子ども扱いするのはやめにしたらどうだ。事件の事は俺もいささか情を汲むところではあるけど、おまえはあの子にうつつを抜かしすぎだ」
「…何とでも言うがいいさ。もうこればかりは自分でもどうしようもないんだよ」
「呆れた男だよ。そういう奴に惹かれている俺も同じようなバカの端くれかもしれんが…」
「紫乃が俺に対して色々思うところがあるのはわかるし、憎く思ってくれてもいい。だが、頼むから凛一には、辛く当たらないでくれよ」
「…正直に言えばだ。俺は凛一をかわいいと思うよ。こましゃくれていてもな。おまえの弟じゃなけりゃ、とっくに食ってら」
「…」
俺は無言で紫乃の顔をジロリと睨んだ。
「今の学生はな、こっちが誘わなくても向こうからお願いします、って頭下げてくる奴もいるんだぜ。凛一はどうやら簡単には乗っからせてはくれなさそうだがな」
「おい、それぐらいにしとけよ。ぶん殴るぞ」
「別に…おまえが俺を殴れるかい。それより凛一が狙ってる子を知ってるか?」
「ああ、頭のいい子だって聞いた」
「学年でトップの子だよ。容姿の整ったかわいい子だがね、あれは全くのノンケだ。それも相当に身持ちの固い純粋培養型。そういう奴を本気で落としたがるのが宿禰凛一だよ。兄貴よりよっぽど手強い」
「…悪かったな」
「俺はね、その子が哀れでならない。まるで狼に狙われたウサギだ。凛一が全力で襲いかかりゃあ、あの子だって無傷じゃいられまいよ。おまえが必死に守ってやろうとしている弟、宿禰凛一ってのはそういう性質(たち)の子だ。要するに俺が手を差し出したって、引っ叩かれるのがオチって事だ」
「…」
紫乃の言うことはわかる気がする。
俺が対凛一とその他への態度が違うという事と似たり寄ったりだろう。
それより、凛一はこの間、その子に振られたと言ってたが…
その後はどうなったんだろう…
「おい、慧一。おまえ人の話聞いてる?」
「…聞いてる」
と、顔を上げ、前を見ると…何故か、凛一が笑いながらこちらに歩いてくる。
一瞬、白昼夢なのかと目を疑った。
「慧も来てたの?丁度良かった。俺、奢ってもら…」言葉を切らした原因は俺ではなく、向かいの席に座る奴の存在を知ったからだ。
やぶ蛇もここまでくると笑うしかなかろうぜ。
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宿禰慧一 「イリュミナシオン」 23
23.
翌日、自宅に帰ると、凛一は静岡の叔母の家からすでに帰宅し、むくれた顔で俺を迎えた。
「どこへ行ってたのさ。折角、早起きして帰ってきたのに。慧は俺がいないからって、羽伸ばしすぎだよ」
「ごめん…嶌谷さんのマンションに招待されて…酔いつぶれていた」
「え?嶌谷さん宅(ち)に行ったの?嶌谷さん、元気だった?」
「うん、凛のことを沢山話したよ。とても嬉しそうだった。おまえにすごく会いたがっていた」
「ああ、俺も会いたいな〜嶌谷さんは本当の親父みたいだからなあ〜」
「バカ、先輩ぐらいにしておけよ。親父の立場がない」
「嬉しいよ」
「何が?」
「慧が嶌谷さんと仲良くしてくれると、俺、味方が増えた気になるもん」
「…凛は…今から沢山の仲間に出会うさ。おまえが強く生きれるように、出来るだけ友人を作る事だね。俺が行っても寂しくないようにね」
「…そうだな。半年したら慧は大学へ戻っちゃうしね…」
「二年なんてすぐ経っちまうから、そしたら俺は凛の傍を離れない」
「うん、絶対だ」
センチメンタルになる凛一を胸に抱きながら、いつまでこうして愛弟を独り占めできるのだろう…と、相当に胸が痛くなった。
凛一の高校生活が始まった。
俺の留守中に、喧嘩をして怪我をした凛一が入学式も出られず、早々に一週間ほど休学するというハプニングはあったもの、その後は順風満帆といえた。
凛一の様子を見れば判る。明らかに中学時代とは違う自由を謳歌する気概に溢れている。
あの学校の闊達な気風がそうさせるのか、凛一には居心地がいいらしい。
「好きな奴はできたか?」と、聞くと、いかにも歳相応に「まあね」と、微かに照れ隠しをしながら誤魔化す風もかわいらしい。
凛一がこうも落ち着くと、俺も自分の肉欲的な思いを煩わせなくて、平穏でいられる。
6月のうっとおしい梅雨の午後だった。
自宅の電話を取る。
電話の一声を聞いた俺は、相手が誰だかすぐわかった。
大学時代の恋人だった藤宮紫乃だ。
驚いた事に、紫乃は凛一の高校の副担任をやっていると言う。
何の縁(えにし)なのか、俺は正直困惑した。
凛一の事で話があると言う。
俺が断れないカードを出してきやがった。
渋々承知すると、受話器の向こうから苦笑する声が聞こえた。
紫乃の事を思うと俺はやりきれない想いで一杯になる。
あれだけ尽くしてくれた相手を、俺は勝手に電話一本で三行半を突きつけ、さっさと逃亡したようなもんだからな。
俺への恨みも深いだろう。
凛一の副担任だったら尚更だ。
凛一の様子じゃ、俺たちの事は曝してはいないようだが、いつかはバレるに決まっている。
普通なら弟の凛一に害を加えることも加味しなきゃならないところだが、何故だかそうは感じない。
紫乃の性格を考えれば、あいつが俺への恨みを凛一に晴らすとは思えないんだ。
紫乃は悪ぶってはいるが、心底心根は優しい。
俺は九月までしか、凛一の傍にいられない。
うまくいけば、紫乃が凛一を守る立場を引き受けてくれるかも知れない。
…そこまで考えて俺は溜息をついた。
勝手な言い草だ。こっちの都合で紫乃の感情も考えないで重荷を引き受けてくれとは、さすがに酷すぎるだろう。
だれもが凛一を俺のように思っているわけでもないんだから…
家庭訪問と称して紫乃が自宅に来た。
俺は縒(よ)りを戻すのが怖くて、玄関の外で紫乃と話した。
どうせ最上階には俺たちの一宅しかないポーチだ。誰にも聞かれることもない。
三年ぶりにみる紫乃は、髪を伸ばし、眼鏡をかけていた。聞くと先生らしく見える為の伊達眼鏡だと笑う。どう見たって色眼鏡にしか見えないと、俺は首を捻った。
眼鏡の奥の控えめな優しさは変わらず、紫乃が紫乃であり続けている事に、俺は胸のつっかえが消えた気がした。
紫乃の奴といえば、俺の頭からつま先までをしげしげと眺め、あげく口唇を尖らした。
「そんなに…俺、変わったか?」
そう言いながら俺は黙り込む紫乃に少し面食らって一歩引き下がった。
「いや…変わらんよ。相変わらず魅力的だね、慧一は」
少し躊躇いがちに言う紫乃が、なんだかかわいらしく思え、思わず手を出そうかと思ったほどだった。
紫乃は家の中に入りたがったが、俺ははっきりと断った。それに気分を悪くしたのか、くるりと背を向けると、さっさと帰ってしまった。
凛一の事は何も話さずだ。
…一体あいつは何をしに来たのだろう…
紫乃の怒った顔を思い出すと、俺は笑いが込み上げて仕方なかった。
あいつも相当俺にイカれているらしい。
text by saiart
22へ /24へ
宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 1
近頃は慧一しか考えてないから、この話しか書けなくなりそうで、まずい…
まあ…もう少しで終る予定だから。そしたらユーリとリンミナを平行させる予定。
今年中にはリンミナはとりあえずHさせたる!

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翌日、自宅に帰ると、凛一は静岡の叔母の家からすでに帰宅し、むくれた顔で俺を迎えた。
「どこへ行ってたのさ。折角、早起きして帰ってきたのに。慧は俺がいないからって、羽伸ばしすぎだよ」
「ごめん…嶌谷さんのマンションに招待されて…酔いつぶれていた」
「え?嶌谷さん宅(ち)に行ったの?嶌谷さん、元気だった?」
「うん、凛のことを沢山話したよ。とても嬉しそうだった。おまえにすごく会いたがっていた」
「ああ、俺も会いたいな〜嶌谷さんは本当の親父みたいだからなあ〜」
「バカ、先輩ぐらいにしておけよ。親父の立場がない」
「嬉しいよ」
「何が?」
「慧が嶌谷さんと仲良くしてくれると、俺、味方が増えた気になるもん」
「…凛は…今から沢山の仲間に出会うさ。おまえが強く生きれるように、出来るだけ友人を作る事だね。俺が行っても寂しくないようにね」
「…そうだな。半年したら慧は大学へ戻っちゃうしね…」
「二年なんてすぐ経っちまうから、そしたら俺は凛の傍を離れない」
「うん、絶対だ」
センチメンタルになる凛一を胸に抱きながら、いつまでこうして愛弟を独り占めできるのだろう…と、相当に胸が痛くなった。
凛一の高校生活が始まった。
俺の留守中に、喧嘩をして怪我をした凛一が入学式も出られず、早々に一週間ほど休学するというハプニングはあったもの、その後は順風満帆といえた。
凛一の様子を見れば判る。明らかに中学時代とは違う自由を謳歌する気概に溢れている。
あの学校の闊達な気風がそうさせるのか、凛一には居心地がいいらしい。
「好きな奴はできたか?」と、聞くと、いかにも歳相応に「まあね」と、微かに照れ隠しをしながら誤魔化す風もかわいらしい。
凛一がこうも落ち着くと、俺も自分の肉欲的な思いを煩わせなくて、平穏でいられる。
6月のうっとおしい梅雨の午後だった。
自宅の電話を取る。
電話の一声を聞いた俺は、相手が誰だかすぐわかった。
大学時代の恋人だった藤宮紫乃だ。
驚いた事に、紫乃は凛一の高校の副担任をやっていると言う。
何の縁(えにし)なのか、俺は正直困惑した。
凛一の事で話があると言う。
俺が断れないカードを出してきやがった。
渋々承知すると、受話器の向こうから苦笑する声が聞こえた。
紫乃の事を思うと俺はやりきれない想いで一杯になる。
あれだけ尽くしてくれた相手を、俺は勝手に電話一本で三行半を突きつけ、さっさと逃亡したようなもんだからな。
俺への恨みも深いだろう。
凛一の副担任だったら尚更だ。
凛一の様子じゃ、俺たちの事は曝してはいないようだが、いつかはバレるに決まっている。
普通なら弟の凛一に害を加えることも加味しなきゃならないところだが、何故だかそうは感じない。
紫乃の性格を考えれば、あいつが俺への恨みを凛一に晴らすとは思えないんだ。
紫乃は悪ぶってはいるが、心底心根は優しい。
俺は九月までしか、凛一の傍にいられない。
うまくいけば、紫乃が凛一を守る立場を引き受けてくれるかも知れない。
…そこまで考えて俺は溜息をついた。
勝手な言い草だ。こっちの都合で紫乃の感情も考えないで重荷を引き受けてくれとは、さすがに酷すぎるだろう。
だれもが凛一を俺のように思っているわけでもないんだから…
家庭訪問と称して紫乃が自宅に来た。
俺は縒(よ)りを戻すのが怖くて、玄関の外で紫乃と話した。
どうせ最上階には俺たちの一宅しかないポーチだ。誰にも聞かれることもない。
三年ぶりにみる紫乃は、髪を伸ばし、眼鏡をかけていた。聞くと先生らしく見える為の伊達眼鏡だと笑う。どう見たって色眼鏡にしか見えないと、俺は首を捻った。
眼鏡の奥の控えめな優しさは変わらず、紫乃が紫乃であり続けている事に、俺は胸のつっかえが消えた気がした。
紫乃の奴といえば、俺の頭からつま先までをしげしげと眺め、あげく口唇を尖らした。
「そんなに…俺、変わったか?」
そう言いながら俺は黙り込む紫乃に少し面食らって一歩引き下がった。
「いや…変わらんよ。相変わらず魅力的だね、慧一は」
少し躊躇いがちに言う紫乃が、なんだかかわいらしく思え、思わず手を出そうかと思ったほどだった。
紫乃は家の中に入りたがったが、俺ははっきりと断った。それに気分を悪くしたのか、くるりと背を向けると、さっさと帰ってしまった。
凛一の事は何も話さずだ。
…一体あいつは何をしに来たのだろう…
紫乃の怒った顔を思い出すと、俺は笑いが込み上げて仕方なかった。
あいつも相当俺にイカれているらしい。
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宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら 1
近頃は慧一しか考えてないから、この話しか書けなくなりそうで、まずい…
まあ…もう少しで終る予定だから。そしたらユーリとリンミナを平行させる予定。
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