aqua green noon
こちらはBL妄想小説、及びイラストサイトでございます。
早春散歩 藤宮紫乃編 「メタモルフォーゼ」 8
8.
急いで東京に戻った俺は、慧一のマンションに直行した。すでに出払った後で、管理人から、二日前には引越したと聞かされる。
慧一の学部の友人に連絡を取ってみる。留学の話は前から打診はあったみたいで、本当に慧一はシカゴ大学の建築・計画学部に編入したという事だった。
俺は慧一が誘いを受けていたことも、その意思がある事さえも聞いていなかった。
おまえにとって、電話ひとつで、たったそれだけでそんなに簡単に手放せる存在だったのか、俺は。
自分の価値が脆すぎて昔の俺だったら、自殺未遂でもやりかねないんだがね、慧一。そしたらおまえは…少しでも俺のことを心配してくれるのか?
その年のクリスマス、俺は慧一の実家に足を運んだ。
前に言ってた「クリスマスには必ず家族で過ごすんだ」と言った言葉を思い出したんだ。
高級住宅の一等地の広々とした邸宅は外から眺めても立派で、中に住んでいる家族の団欒を想像出来る構えだ。
ここには…あの弟しか住んでいないのか?
慧一は何故あれだけ愛していた弟を放り出して、勝手に逃げたんだ。
黄昏時、太陽の姿が今にも隠れようとする頃、その門が開けられ、中から出てくる奴がいた。俺は急いで道路の角に隠れ様子を伺った。
出てきたのは…凛一だった。
髪を赤く染め、ジーンズと革ジャンを着こなしている姿はまだ少年ながらもモデル並みに恰好がいい。
彼は門を潜った後、慣れた手つきで煙草を銜え、ライターで火を付ける。
確かに様にはなっているが…よく考えりゃ、凛一はまだ中学一年だ。
不良行為少年一直線ってわけか…
慧一の育てた結果がこれなのか?
粋がっていても、まだ顔はどこかあどけなく、精一杯大人ぶっているのが一目瞭然で、その危うさに憐れみすら感じるのに…
おまえはこんなに未熟な子供を置きざりにして…平気なのか?慧一。
俺は刻々と落ちる夕陽に向かって歩く凛一の姿を見送った。
このままの彼に健全な未来があるとは思えなかったが、俺が関わる話ではない。
彼等の運命なんて俺にはもう…関係ないはずだ。
それでも…
凛一の孤独な後姿は慧一の姿にも重なる気がして…胸が痛い。
夕陽が最後の燐光を放った時、凛一の寂しげな背中に広がる羽が…見えた。
六枚の翼は、それぞれに薄い虹色を帯びたまま、彼を守るように…ゆっくりと羽ばたいている。
慧一が見てきたものはこれだったんだ…
俺はいつしか泣いていた。
立ち尽くしたまま、辺りが暗くなり、雪が降り積もるのも構わずに、声が枯れるまで、泣き続けた。
俺は大学を卒業し、鎌倉の聖ヨハネ学院高等学校で教鞭を取ることになった。
慧一とはあれ以来なんの音沙汰もない。俺も好き勝手に遊んでいる。
別に慧一を忘れたわけでも諦めたわけでもない。
結構粘着質だと最近気が付いた。
ここへ来て二年目の春。
俺は副担任となる生徒のひとりに、意外な名前を見つけた。
「宿禰凛一」の名を。
間違えようもない。彼だ。
凛一がこの学院に?
不思議な気がした。偏差値の高いこの高校に合格したという事は、凛一は道を踏み外さずに育ったというわけか。ひとりで?それとも…
彼の調査書の目を通した。
詳しくは書いていないが、中三の夏休みの事件に関連する内容が簡単に記されたあった。
…その事件に関して言えば、新聞で読んだ記憶がある。まさか凛一が関係しているとは思いも寄らなかったが。
慧一は…どうしたのだろう。
これだけの事件の後の凛一を、彼は守った。だから、凛一はここにいる。
そう考えるのが自然だ。
すべては凛一本人を見てからだ。
俺は期待と不安の混ざる気持ちを抑え切れなかった。
入学早々、宿禰凛一は怪我の為学校を欠席していた。
俺としては肩透かしに合った気分だが、気長に待とう。
もう…二年以上も待ったんだ。一週間かそこら待てないわけはない。
一週間後、宿禰凛一の姿を見つけた。遠めにでもわかる。
鮮やかな印象。恐ろしい位に人目を惹く。敢えて目立たないように振舞っているところも垣間見えてかわいいじゃないか。
相変わらず背中の羽は見事なまでに美しい。
可笑しいことに慧一に黒魔法でもかけられたのか、凛一の背中の羽は俺の目にも誤魔化せなくなってしまっている。
二日後、彼は顧問である俺の部活動「詩人の会」に部員になった。
まさか彼に詩を愛する趣味があるとは思わなかったが、慧一の影響であるなら、納得するところだ。
そして、今、俺は宿禰凛一の教師として目の前に立っている。
俺と慧一を別れさせた張本人。恨み辛みは山ほど在る。
おまえが居なけりゃ俺と慧一は、あのままふたりで…くだらない、当ての無い夢を見ることだってできたんだ。
教壇に立ち、気に入った詩を諳んじる時間。
凛一は慧一に良く似た声音で、ミニョンを詠う。
君よ知るや南の国、檸檬の花咲き オレンジの輝き、
さわやかな風吹き ミルテ香り 桂そびえる
君よ知るや南の国 かなたへ、かなたへ
君と共に行かまし、あわれ、わがいとしき人よ
…おまえの為に慧一はどれだけ苦しんだんだろう。
おまえに払った犠牲は幾ばかりだろう…
おまえは慧一に何を与えた?
行き着く場所は見つかったのか?
共に行きたいのは俺だった。
梅雨も最中の折、俺は宿禰凛一の住むマンションを訪ねた。勿論凛一が居ない時を見計らってだ。
前もって慧一には連絡をした。彼は会うのを躊躇ったが、俺には凛一の副担任というカードがあるから、家庭訪問とでも言えば、彼は会わざる負えない。
三年ぶりに見る慧一は、少し痩せてみえたが、相変わらずの美貌で、正直参ったね。
全くもって俺好みで、困ったもんだ。
玄関での僅かなやり取り。ただそれだけ。慧一は俺を中に入れることは決してしなかった。
夏、偶然街で慧一と出会う。
俺は無理矢理彼の腕を取り、常連の店に連れ込んだ。
「いつまでも俺から逃げてんじゃないよ、慧一」
「逃げてるわけじゃない。おまえに迷惑かけたくないだけだ」
「もう充分、関わっていると思うぜ。凛一は俺の生徒だし、学校の様子は俺が知ってる。なんなら事細かにおまえに教えてやってもいい」
「俺を責めるなよ、紫乃」
「おまえが凛一の為にあの事件から大学院を休学していることは凛一から聞いた。九月にはシカゴに戻るって話もな」
「詳しいな」
「何故あいつをひとり置いてアメリカなんぞに行くんだよ。折角凛一はあんなにちゃんとした高校生になっているじゃないか。ひとりの寂しさを知らないわけじゃないだろう」
「俺にはやるべきことがある。それを望んでいるのは凛一だから…」
「…」
相も変わらずおまえの中心は凛一かよ。そういうところも可愛く見えてくるから全く不思議だよ。クソッ!
その上、続く言葉に呆れたことを言い始める。
「紫乃、こんなことを頼むのは筋違いだとわかっているけど…凛一を見守ってくれないか?」
「…そんなことを俺に頼むのか?おまえにあんな裏切りをされた俺に?…その原因たる弟の面倒を見れって?」
「俺は二年経ったら戻る。それまで、ひとりになるあいつが心配なんだ」
「だったら…おまえが今すぐこっちに戻ってきて、凛一の傍にずっとついてりゃいい事なんじゃないか。どうして…俺に頼むんだよ。正気じゃない」
「だから悪いって言ってる」
「おまえはいつだって…俺の気持ちは凛一の半分も考えないで、傷つけてもいいと思っているんだろうな」
「違う…そうじゃない…」
落ち込んで俯く慧一を見るのは嫌いじゃない。人目には影なんか絶対見せないこいつが、俺だけに見せる感情だからな。
…無理だ。おまえを諦めるなんて、俺にはできないよ、慧一。
「…条件を飲むなら…凛一を見てやってもいい」
「…」
「俺ともう一度やり直す」
「…今更そんなことを言うな」
「あの時から一日だって忘れたことはなかったんだ。俺は今でもおまえが好きだよ」
「…ごめん。無理だよ。紫乃。俺がおまえにしたことを考えれば、これから平気でおまえと付き合えるわけないだろう」
「では…その償いを持って俺と付き合え。俺もひとりには飽きたんだよ」
俺の勝手な言い草に慧一は暫くしかめっ面で俺を睨んでいたが、諦めたように苦笑した。
「凛一だけでも手一杯なのに、おまえに対しての罪まで背負わせられるのか、俺は」
「自業自得と思ってくれよ。おまえは元来自虐的本質を愛しているんだろう?」
「おまえがそこまで嗜虐性癖のある奴だったとは知らなかったけどな…では、なにをすれば俺の罪は軽くなる?」
「…星を見ないか、慧一。自分がどんなに小さい屑みたいな欠片かってね…そういう気分になるもの悪くないだろう」
「…ああ、悪くはないな…紫乃」
俺たちの第二章が始まる。
時が経つほどに人間も変わり往くものだ。
善き彼方か、悪しき彼方かはわからないが、歩く道に花が咲けば、そこは美しき南の国となるだろう。
そう信じさせてくれ、今は。
君よ知るや南の国 かなたへ、かなたへ
君と共に行かまし、あわれ、わがいとしき人よ
text by saiart
宿禰慧一編「イリュミナシオン」へ続く。
7へ
早春散歩 1へ
急ぎ足で終わった感がありますが、慧一編でも重なる部分があると思うから、短く切っていきました。
お分かりだと思いますが、慧一が凛一編の最後で凛一に紫乃と付き合うことはないと言っているのは嘘ですよ。この時点で慧一は紫乃と結託して凛一を守らせようとしているからね。
三人三様嘘を吐く…そういう話が自分的にはおもしろいんですが…どうだろう。受け入れられるのか?まあ、紫乃は最後は紫乃らしくなったので、自分でも安心しましたよ。ただのイイヒトじゃ面白くなさ過ぎる。慧一は相変わらず…私好みでどうしようもないなあ〜
そういう事で、次はsakutaさんの書かれる「水川青弥編」でお楽しみ下さいね〜
あ、セフィロスこっちにも置こうかな〜

↑お気に召しましたらポチっとお願いします。
急いで東京に戻った俺は、慧一のマンションに直行した。すでに出払った後で、管理人から、二日前には引越したと聞かされる。
慧一の学部の友人に連絡を取ってみる。留学の話は前から打診はあったみたいで、本当に慧一はシカゴ大学の建築・計画学部に編入したという事だった。
俺は慧一が誘いを受けていたことも、その意思がある事さえも聞いていなかった。
おまえにとって、電話ひとつで、たったそれだけでそんなに簡単に手放せる存在だったのか、俺は。
自分の価値が脆すぎて昔の俺だったら、自殺未遂でもやりかねないんだがね、慧一。そしたらおまえは…少しでも俺のことを心配してくれるのか?
その年のクリスマス、俺は慧一の実家に足を運んだ。
前に言ってた「クリスマスには必ず家族で過ごすんだ」と言った言葉を思い出したんだ。
高級住宅の一等地の広々とした邸宅は外から眺めても立派で、中に住んでいる家族の団欒を想像出来る構えだ。
ここには…あの弟しか住んでいないのか?
慧一は何故あれだけ愛していた弟を放り出して、勝手に逃げたんだ。
黄昏時、太陽の姿が今にも隠れようとする頃、その門が開けられ、中から出てくる奴がいた。俺は急いで道路の角に隠れ様子を伺った。
出てきたのは…凛一だった。
髪を赤く染め、ジーンズと革ジャンを着こなしている姿はまだ少年ながらもモデル並みに恰好がいい。
彼は門を潜った後、慣れた手つきで煙草を銜え、ライターで火を付ける。
確かに様にはなっているが…よく考えりゃ、凛一はまだ中学一年だ。
不良行為少年一直線ってわけか…
慧一の育てた結果がこれなのか?
粋がっていても、まだ顔はどこかあどけなく、精一杯大人ぶっているのが一目瞭然で、その危うさに憐れみすら感じるのに…
おまえはこんなに未熟な子供を置きざりにして…平気なのか?慧一。
俺は刻々と落ちる夕陽に向かって歩く凛一の姿を見送った。
このままの彼に健全な未来があるとは思えなかったが、俺が関わる話ではない。
彼等の運命なんて俺にはもう…関係ないはずだ。
それでも…
凛一の孤独な後姿は慧一の姿にも重なる気がして…胸が痛い。
夕陽が最後の燐光を放った時、凛一の寂しげな背中に広がる羽が…見えた。
六枚の翼は、それぞれに薄い虹色を帯びたまま、彼を守るように…ゆっくりと羽ばたいている。
慧一が見てきたものはこれだったんだ…
俺はいつしか泣いていた。
立ち尽くしたまま、辺りが暗くなり、雪が降り積もるのも構わずに、声が枯れるまで、泣き続けた。
俺は大学を卒業し、鎌倉の聖ヨハネ学院高等学校で教鞭を取ることになった。
慧一とはあれ以来なんの音沙汰もない。俺も好き勝手に遊んでいる。
別に慧一を忘れたわけでも諦めたわけでもない。
結構粘着質だと最近気が付いた。
ここへ来て二年目の春。
俺は副担任となる生徒のひとりに、意外な名前を見つけた。
「宿禰凛一」の名を。
間違えようもない。彼だ。
凛一がこの学院に?
不思議な気がした。偏差値の高いこの高校に合格したという事は、凛一は道を踏み外さずに育ったというわけか。ひとりで?それとも…
彼の調査書の目を通した。
詳しくは書いていないが、中三の夏休みの事件に関連する内容が簡単に記されたあった。
…その事件に関して言えば、新聞で読んだ記憶がある。まさか凛一が関係しているとは思いも寄らなかったが。
慧一は…どうしたのだろう。
これだけの事件の後の凛一を、彼は守った。だから、凛一はここにいる。
そう考えるのが自然だ。
すべては凛一本人を見てからだ。
俺は期待と不安の混ざる気持ちを抑え切れなかった。
入学早々、宿禰凛一は怪我の為学校を欠席していた。
俺としては肩透かしに合った気分だが、気長に待とう。
もう…二年以上も待ったんだ。一週間かそこら待てないわけはない。
一週間後、宿禰凛一の姿を見つけた。遠めにでもわかる。
鮮やかな印象。恐ろしい位に人目を惹く。敢えて目立たないように振舞っているところも垣間見えてかわいいじゃないか。
相変わらず背中の羽は見事なまでに美しい。
可笑しいことに慧一に黒魔法でもかけられたのか、凛一の背中の羽は俺の目にも誤魔化せなくなってしまっている。
二日後、彼は顧問である俺の部活動「詩人の会」に部員になった。
まさか彼に詩を愛する趣味があるとは思わなかったが、慧一の影響であるなら、納得するところだ。
そして、今、俺は宿禰凛一の教師として目の前に立っている。
俺と慧一を別れさせた張本人。恨み辛みは山ほど在る。
おまえが居なけりゃ俺と慧一は、あのままふたりで…くだらない、当ての無い夢を見ることだってできたんだ。
教壇に立ち、気に入った詩を諳んじる時間。
凛一は慧一に良く似た声音で、ミニョンを詠う。
君よ知るや南の国、檸檬の花咲き オレンジの輝き、
さわやかな風吹き ミルテ香り 桂そびえる
君よ知るや南の国 かなたへ、かなたへ
君と共に行かまし、あわれ、わがいとしき人よ
…おまえの為に慧一はどれだけ苦しんだんだろう。
おまえに払った犠牲は幾ばかりだろう…
おまえは慧一に何を与えた?
行き着く場所は見つかったのか?
共に行きたいのは俺だった。
梅雨も最中の折、俺は宿禰凛一の住むマンションを訪ねた。勿論凛一が居ない時を見計らってだ。
前もって慧一には連絡をした。彼は会うのを躊躇ったが、俺には凛一の副担任というカードがあるから、家庭訪問とでも言えば、彼は会わざる負えない。
三年ぶりに見る慧一は、少し痩せてみえたが、相変わらずの美貌で、正直参ったね。
全くもって俺好みで、困ったもんだ。
玄関での僅かなやり取り。ただそれだけ。慧一は俺を中に入れることは決してしなかった。
夏、偶然街で慧一と出会う。
俺は無理矢理彼の腕を取り、常連の店に連れ込んだ。
「いつまでも俺から逃げてんじゃないよ、慧一」
「逃げてるわけじゃない。おまえに迷惑かけたくないだけだ」
「もう充分、関わっていると思うぜ。凛一は俺の生徒だし、学校の様子は俺が知ってる。なんなら事細かにおまえに教えてやってもいい」
「俺を責めるなよ、紫乃」
「おまえが凛一の為にあの事件から大学院を休学していることは凛一から聞いた。九月にはシカゴに戻るって話もな」
「詳しいな」
「何故あいつをひとり置いてアメリカなんぞに行くんだよ。折角凛一はあんなにちゃんとした高校生になっているじゃないか。ひとりの寂しさを知らないわけじゃないだろう」
「俺にはやるべきことがある。それを望んでいるのは凛一だから…」
「…」
相も変わらずおまえの中心は凛一かよ。そういうところも可愛く見えてくるから全く不思議だよ。クソッ!
その上、続く言葉に呆れたことを言い始める。
「紫乃、こんなことを頼むのは筋違いだとわかっているけど…凛一を見守ってくれないか?」
「…そんなことを俺に頼むのか?おまえにあんな裏切りをされた俺に?…その原因たる弟の面倒を見れって?」
「俺は二年経ったら戻る。それまで、ひとりになるあいつが心配なんだ」
「だったら…おまえが今すぐこっちに戻ってきて、凛一の傍にずっとついてりゃいい事なんじゃないか。どうして…俺に頼むんだよ。正気じゃない」
「だから悪いって言ってる」
「おまえはいつだって…俺の気持ちは凛一の半分も考えないで、傷つけてもいいと思っているんだろうな」
「違う…そうじゃない…」
落ち込んで俯く慧一を見るのは嫌いじゃない。人目には影なんか絶対見せないこいつが、俺だけに見せる感情だからな。
…無理だ。おまえを諦めるなんて、俺にはできないよ、慧一。
「…条件を飲むなら…凛一を見てやってもいい」
「…」
「俺ともう一度やり直す」
「…今更そんなことを言うな」
「あの時から一日だって忘れたことはなかったんだ。俺は今でもおまえが好きだよ」
「…ごめん。無理だよ。紫乃。俺がおまえにしたことを考えれば、これから平気でおまえと付き合えるわけないだろう」
「では…その償いを持って俺と付き合え。俺もひとりには飽きたんだよ」
俺の勝手な言い草に慧一は暫くしかめっ面で俺を睨んでいたが、諦めたように苦笑した。
「凛一だけでも手一杯なのに、おまえに対しての罪まで背負わせられるのか、俺は」
「自業自得と思ってくれよ。おまえは元来自虐的本質を愛しているんだろう?」
「おまえがそこまで嗜虐性癖のある奴だったとは知らなかったけどな…では、なにをすれば俺の罪は軽くなる?」
「…星を見ないか、慧一。自分がどんなに小さい屑みたいな欠片かってね…そういう気分になるもの悪くないだろう」
「…ああ、悪くはないな…紫乃」
俺たちの第二章が始まる。
時が経つほどに人間も変わり往くものだ。
善き彼方か、悪しき彼方かはわからないが、歩く道に花が咲けば、そこは美しき南の国となるだろう。
そう信じさせてくれ、今は。
君よ知るや南の国 かなたへ、かなたへ
君と共に行かまし、あわれ、わがいとしき人よ
text by saiart
宿禰慧一編「イリュミナシオン」へ続く。
7へ
早春散歩 1へ
急ぎ足で終わった感がありますが、慧一編でも重なる部分があると思うから、短く切っていきました。
お分かりだと思いますが、慧一が凛一編の最後で凛一に紫乃と付き合うことはないと言っているのは嘘ですよ。この時点で慧一は紫乃と結託して凛一を守らせようとしているからね。
三人三様嘘を吐く…そういう話が自分的にはおもしろいんですが…どうだろう。受け入れられるのか?まあ、紫乃は最後は紫乃らしくなったので、自分でも安心しましたよ。ただのイイヒトじゃ面白くなさ過ぎる。慧一は相変わらず…私好みでどうしようもないなあ〜
そういう事で、次はsakutaさんの書かれる「水川青弥編」でお楽しみ下さいね〜
あ、セフィロスこっちにも置こうかな〜
↑お気に召しましたらポチっとお願いします。
早春散歩 藤宮紫乃編 「メタモルフォーゼ」 7
7.
二週間が経った。
慧一とはメールすら接触していない。
今までだって些細な事での口喧嘩は良くあることで、一週間何も連絡しなかった時もザラにある。
そんな時は必ず慧一の方からなんらかの行動があり、先に謝るのも彼の方だった。
「紫乃はプライドが高いから、自分が悪いと思っても自分からは絶対頭を下げたりしないだろう?俺は別にそこは拘らない性格なんだ」と、彼は笑った。
「だけど、俺はそういう紫乃が好きなんだよ。おまえの美しいところだと思う」
…「好き」だと言ってくれた。「美しい」と言ってくれた。
そこに嘘はないはずだ。
俺は、この二年間ずっとあいつを見てきた。
慧一の暗い部分だって知っていて、見て見ぬふりをしてきたのは自分だ。だけど、そこを含めての宿禰慧一という男を好きになったはずだ。
今更あいつがどんな環境で育ってきたからとか、極度のブラコンだからって、簡単に嫌いになるような想いじゃないはずだ。
慧一からの連絡はいくら待っても来ない。
このまま終わってしまうんだろうか…こんなことで終りにしてしまう「恋」だったんだろうか…
こんなに「好き」なのに…
携帯のボタンを押す。
このままじゃ納得いかない。
『…はい』
「慧一…俺」
『うん』
「この間は…俺も言葉が過ぎたよ、ごめん」
『…いや、俺も色々言いすぎた。悪かったと思ってる』
「…」
嘘付け。悪いと思っているならおまえから連絡するはずだろう…
『紫乃…会って話さないか?』
「別れ話なら嫌だよ」
『俺も…離したくないよ、おまえを』
天上に瞬く数万の星の下で、俺たちは寝転びながら、話をした。
色々な話だ。
出会ってから二年間俺たちに何があったのか、そして心にあるわだかまりや過去の鬱屈としたトラウマ的な事まで。
俺には慧一に知って貰いたいことが沢山あった。
隠し立てするようなものさえ、慧一には見てもらわなければならない気がしたんだ。
それを理解してもらおうとか、慰めてもらおうとか、そういうものを望んでいるんじゃない。
差し出す手はお互い同等でなければならない。
俺は慧一のことを良く知らないまま、この先付き合っていくのは不安だった。
慧一の話は複雑だった。
慧一が十四歳の時、彼の母親が亡くなり、ひとつ下の妹とその時五歳だった弟、凛一の世話にかかりっきりになったそうだ。
父親は一年ほど日本に居たが、仕事で多忙の為、朝から夜遅くまでいない。
お手伝いさんも凛一の世話を親身になってしてくれるわけでもない。
学校から帰ると凛一はいつも寂しがって泣いていた。
慧一は部活や友達とさえ交流のないまま学校生活を過ごした。
神経質で疳の強い凛一はひとりで寝るのを怖がって嫌がり、結局ふたりはかわるがわる交代で凛一と共に寝ていた。
「凛一がどうしようもない甘ったれだと思っても、俺たちは可愛いと思ったし、俺たちしか守れないと思うと…よけいに彼の面倒を見るようになった。あいつはああいう見掛けだから心配もあったんだよ。誘拐されないだろうか、変なイタズラをされないだろうかって。大人だったらもっと別な教え方があったのかもしれない。でも…俺たちはあいつを守ることで精一杯で…どこがどう間違っているのか判らないまま、育ててしまってね…ある時、梓は言ったんだよ。俺が凛に欲情してるって。…そんな事があるかと思ったね。実の弟にそんな気持ちなんかわかないって。でも…怖くなったんだよ。絶対的な信頼で俺に…近づく凛一が…急に恐ろしくなった。だから…距離を置いたんだ。俺は…あいつの前では逆らえない。あいつが何を求めても、俺はそれを与えてしまう。だからもう…」
慧一は黙りこくったまま、後はなにひとつ口を開かなくなってしまった。
俺は投げ出された慧一の手を繋いだ。
このどうしようもない性を持った慧一が、俺には必要だと思ったからだ。
哀れみでも蔑んだりしているわけでもない。
人間とはそういうものだとわかったからだ。
俺は慧一の見掛けに惚れたんじゃない。
宿禰慧一という人間が好きなんだ。
「慧一、俺の気持ちは変わらないよ。おまえが好きだよ」
「紫乃、いいのか?おまえを幸せにできるかどうか…俺に確証はないんだよ」
「そんなもん…求めてない。求めているのはおまえという存在だよ。慧…」
俺を抱く慧一の腕は、少しだけ震えていた。
夏になり、俺は実家に帰省した。
弟の正式な跡目の襲名が執り行われ、俺もその大事に奔走した。
わだかまりは全くないわけではなかった。しかし、育ててくれた恩は彼等には充分に報いたい気持ちがあった。
俺は恵まれている。
育ての親は不器用ながらも俺を愛してくれた。祖母は精一杯の愛情を見せてくれた。弟には何の罪もない。これからこの流派を守っていく重荷はあるだろうが、俺が少しでも助けになるなら、力になりたいとさえ思っている。
自分がこんなに変われたのは、自分ひとりの力ではないことも判ってきた。
人間は変われる。
俺も、慧一も、凛一も…そう絶対に変われるんだ。
夏休みも終わりに近づき、明日は東京に戻るという夜に、慧一から電話があった。
酷い声だった。
「慧、何かあったのか?」
『紫乃…俺、アメリカに留学する』
「え?」
『向こうの大学院に行くことにする』
「おまえ、こっちの大学に残るって決めてたんじゃないか」
『前から誘いがあってはいたんだ。いい機会だから向こうの大学院に行くことにしたよ』
「ちょっと待てよ…凛一は、どうするんだよ。連れていくのか?」
『…あいつの事はもう知らない』
「…知らないって…」
『紫乃の言うとおりだよ。大人になったから俺はいらないって…言われた…』
「慧…」
『そういう事なんだ。急で悪いけど、暫く会えないから』
「待ってくれよ」
『俺より好きな奴が見つかったら…忘れてくれていいから…』
「なっ…」
そう言って携帯は切れた。
…一方的な言い草もここまで来ると笑うしかないんじゃないか?
凛一になんか言われたくらいで自分の運命変えんなよ。子供か?全く馬鹿な話だ。
しかも好きな奴が見つかったら、忘れろって?
本当に…本当にしょうがない奴だよ、おまえは。
それでも…少しも嫌いになれないのは…これはもう…神様のイジメにしか感じないんだがね。
愛とは恐れ無きもの。完全な愛は恐れを取り除く。と、神は語る。
いや、違う。
愛とは、恐れながらも手放せないものなのだ。
text by saiart
6へ / 8へ
セフィロスの頭のままでどうなるかと思ったけど、ワードに向かうとなりきれた〜
しかし、紫乃はえらいな〜紫乃株上昇中〜その反比例で慧一株が急落か?
あと一回で終わる予定なので、その後はリンミナ再開というわけで…さくちゃんお願い(^o^)丿

↑お気に召しましたらポチっとお願いします。
二週間が経った。
慧一とはメールすら接触していない。
今までだって些細な事での口喧嘩は良くあることで、一週間何も連絡しなかった時もザラにある。
そんな時は必ず慧一の方からなんらかの行動があり、先に謝るのも彼の方だった。
「紫乃はプライドが高いから、自分が悪いと思っても自分からは絶対頭を下げたりしないだろう?俺は別にそこは拘らない性格なんだ」と、彼は笑った。
「だけど、俺はそういう紫乃が好きなんだよ。おまえの美しいところだと思う」
…「好き」だと言ってくれた。「美しい」と言ってくれた。
そこに嘘はないはずだ。
俺は、この二年間ずっとあいつを見てきた。
慧一の暗い部分だって知っていて、見て見ぬふりをしてきたのは自分だ。だけど、そこを含めての宿禰慧一という男を好きになったはずだ。
今更あいつがどんな環境で育ってきたからとか、極度のブラコンだからって、簡単に嫌いになるような想いじゃないはずだ。
慧一からの連絡はいくら待っても来ない。
このまま終わってしまうんだろうか…こんなことで終りにしてしまう「恋」だったんだろうか…
こんなに「好き」なのに…
携帯のボタンを押す。
このままじゃ納得いかない。
『…はい』
「慧一…俺」
『うん』
「この間は…俺も言葉が過ぎたよ、ごめん」
『…いや、俺も色々言いすぎた。悪かったと思ってる』
「…」
嘘付け。悪いと思っているならおまえから連絡するはずだろう…
『紫乃…会って話さないか?』
「別れ話なら嫌だよ」
『俺も…離したくないよ、おまえを』
天上に瞬く数万の星の下で、俺たちは寝転びながら、話をした。
色々な話だ。
出会ってから二年間俺たちに何があったのか、そして心にあるわだかまりや過去の鬱屈としたトラウマ的な事まで。
俺には慧一に知って貰いたいことが沢山あった。
隠し立てするようなものさえ、慧一には見てもらわなければならない気がしたんだ。
それを理解してもらおうとか、慰めてもらおうとか、そういうものを望んでいるんじゃない。
差し出す手はお互い同等でなければならない。
俺は慧一のことを良く知らないまま、この先付き合っていくのは不安だった。
慧一の話は複雑だった。
慧一が十四歳の時、彼の母親が亡くなり、ひとつ下の妹とその時五歳だった弟、凛一の世話にかかりっきりになったそうだ。
父親は一年ほど日本に居たが、仕事で多忙の為、朝から夜遅くまでいない。
お手伝いさんも凛一の世話を親身になってしてくれるわけでもない。
学校から帰ると凛一はいつも寂しがって泣いていた。
慧一は部活や友達とさえ交流のないまま学校生活を過ごした。
神経質で疳の強い凛一はひとりで寝るのを怖がって嫌がり、結局ふたりはかわるがわる交代で凛一と共に寝ていた。
「凛一がどうしようもない甘ったれだと思っても、俺たちは可愛いと思ったし、俺たちしか守れないと思うと…よけいに彼の面倒を見るようになった。あいつはああいう見掛けだから心配もあったんだよ。誘拐されないだろうか、変なイタズラをされないだろうかって。大人だったらもっと別な教え方があったのかもしれない。でも…俺たちはあいつを守ることで精一杯で…どこがどう間違っているのか判らないまま、育ててしまってね…ある時、梓は言ったんだよ。俺が凛に欲情してるって。…そんな事があるかと思ったね。実の弟にそんな気持ちなんかわかないって。でも…怖くなったんだよ。絶対的な信頼で俺に…近づく凛一が…急に恐ろしくなった。だから…距離を置いたんだ。俺は…あいつの前では逆らえない。あいつが何を求めても、俺はそれを与えてしまう。だからもう…」
慧一は黙りこくったまま、後はなにひとつ口を開かなくなってしまった。
俺は投げ出された慧一の手を繋いだ。
このどうしようもない性を持った慧一が、俺には必要だと思ったからだ。
哀れみでも蔑んだりしているわけでもない。
人間とはそういうものだとわかったからだ。
俺は慧一の見掛けに惚れたんじゃない。
宿禰慧一という人間が好きなんだ。
「慧一、俺の気持ちは変わらないよ。おまえが好きだよ」
「紫乃、いいのか?おまえを幸せにできるかどうか…俺に確証はないんだよ」
「そんなもん…求めてない。求めているのはおまえという存在だよ。慧…」
俺を抱く慧一の腕は、少しだけ震えていた。
夏になり、俺は実家に帰省した。
弟の正式な跡目の襲名が執り行われ、俺もその大事に奔走した。
わだかまりは全くないわけではなかった。しかし、育ててくれた恩は彼等には充分に報いたい気持ちがあった。
俺は恵まれている。
育ての親は不器用ながらも俺を愛してくれた。祖母は精一杯の愛情を見せてくれた。弟には何の罪もない。これからこの流派を守っていく重荷はあるだろうが、俺が少しでも助けになるなら、力になりたいとさえ思っている。
自分がこんなに変われたのは、自分ひとりの力ではないことも判ってきた。
人間は変われる。
俺も、慧一も、凛一も…そう絶対に変われるんだ。
夏休みも終わりに近づき、明日は東京に戻るという夜に、慧一から電話があった。
酷い声だった。
「慧、何かあったのか?」
『紫乃…俺、アメリカに留学する』
「え?」
『向こうの大学院に行くことにする』
「おまえ、こっちの大学に残るって決めてたんじゃないか」
『前から誘いがあってはいたんだ。いい機会だから向こうの大学院に行くことにしたよ』
「ちょっと待てよ…凛一は、どうするんだよ。連れていくのか?」
『…あいつの事はもう知らない』
「…知らないって…」
『紫乃の言うとおりだよ。大人になったから俺はいらないって…言われた…』
「慧…」
『そういう事なんだ。急で悪いけど、暫く会えないから』
「待ってくれよ」
『俺より好きな奴が見つかったら…忘れてくれていいから…』
「なっ…」
そう言って携帯は切れた。
…一方的な言い草もここまで来ると笑うしかないんじゃないか?
凛一になんか言われたくらいで自分の運命変えんなよ。子供か?全く馬鹿な話だ。
しかも好きな奴が見つかったら、忘れろって?
本当に…本当にしょうがない奴だよ、おまえは。
それでも…少しも嫌いになれないのは…これはもう…神様のイジメにしか感じないんだがね。
愛とは恐れ無きもの。完全な愛は恐れを取り除く。と、神は語る。
いや、違う。
愛とは、恐れながらも手放せないものなのだ。
text by saiart
6へ / 8へ
セフィロスの頭のままでどうなるかと思ったけど、ワードに向かうとなりきれた〜
しかし、紫乃はえらいな〜紫乃株上昇中〜その反比例で慧一株が急落か?
あと一回で終わる予定なので、その後はリンミナ再開というわけで…さくちゃんお願い(^o^)丿
↑お気に召しましたらポチっとお願いします。
早春散歩 藤宮紫乃編 「メタモルフォーゼ」 6
6.
慧一の妹、梓の葬儀は翌日の夕刻に葬儀会場で行われ、俺も参列した。
そこで初めて、弟、凛一を目の当たりにした。
家族席に座る慧一の隣で肩を震わせながら泣いている。
喪服姿の慧一はその胸にすっぽりと入るぐらいの小さな凛一の背中を抱き、涙を拭いてやっている。
何故だか…不思議な気がした。
そのふたりの空気だけが他とは違う色で満たされている。
彼等だけが別空間にいるみたいに浮いているのだ。
その隣にいる上品な紳士はふたりの父親だろう。その父親ですら、このふたりと全く交わらない。
違和感を感じたまま、式が始まる。
葬儀は凛一のしゃくりあげる嗚咽に同調するように、終始涙と鼻を啜る音が鳴り止まず、まだ早すぎる妹、梓の死を誰もが悼んだ。
だがそれ以上に慧一と凛一のふたりの悲しむ姿に感化されたのは紛れもなかった。
葬儀が終り、出棺までの間、俺は慧一に一言お悔やみをと家族の控え室に向かった。
ドアを開けようとすると、声が聞こえた。
少し高い声と、慧一の声だ。
扉の間から覗くと、ソファに座った慧一が泣いている凛一を抱きながら話しかけている。
話の中身まではわからないが、しきりに頭を振る凛一を宥めている慧一がいる。
「もう泣くな」慧一が目じりにたまる凛一の涙を口唇で吸うと、凛一は顔を上げて自ら慧一の口唇に自分の口唇を押し付けた。
角度を変えながら何度も…口と口の間からチラチラと赤い舌が見えた。
彼等はお互いを味わっているのだ。
凛一は泣くのを止め、慧一にしがみ付く様に身体を預け、陶酔した眼差しでキスをする。
慧一は…慧一は目を開け凛一の顔を凝視している。その顔には何の表情も見受けられない。ただ凛一の求めに応じているだけ…のように見えた。
…俺はその場所から離れた。
彼等がどんな関係なのか、あれだけの場面を見せられても理解できなかった。
肉体的な淫猥な感情が全く感じられなかったのだ。
慧一は以前から凛一のことを天使だと呼んでいた。
その言葉どおりあの子のキスは欲情したものではなかった。
では慧一はどうだ?
何も感じていないのか?…俺にはわからない。それを聞き出すのさえ阻かまれる。
俺は考える。
あの子は…凛一は確かに綺麗な少年だ。だからといって見るからに色香を振りまくような蠱惑的なものは微塵もない。俺から言わせれば普通の子だ。
慧一は何をあの子に見ているのだろう。ただのブラコンで片付けるのは安易な気がする。
自分が育てた弟だから特別な感情が湧くのは当たり前だ。
だからと言って…それが情欲に摩り替わるわけじゃない。
肉親の愛情だろう?…違うのか?もっと違う絆があのふたりにはあるのか?
…俺にはわからない。
ひと月ばかり経って、慧一から連絡が来た。
急いでマンションに会いに行くと、慧一は憔悴しきった顔で俺を見つめ、そして身体を預けるように寄りかかり、俺を抱いた。
「紫乃…俺を救ってくれ…」
「慧一…何があったんだ」
「…俺には…無理だ。凛一を育てていくなんて出来ない」
「…慧…なにもおまえひとりが背負い込むことはないだろう。父親だって親戚連中だっているじゃないか」
俺の言葉に慧一は首を振る。
「あいつは…俺の手からしか食べようとしない。他の奴が無理矢理食わそうとすると吐くんだよ。そのまま死ぬつもりだ…俺が居ないとあいつは…」
「慧…」
嗚咽する慧一の身体を抱きしめる事しか俺には出来ない…
どうなってしまうのか先行きのわからない状況だったが、春を迎える頃になると、凛一も落ち着いてきたと、慧一の顔から安堵の程が伺えた。
「大分落ち着いたようだな」
「そうでもないが…取り敢えずひとりで食えるようにはなったよ。中学にも行くようになるし…少しは大人になってもらわないと、俺も困る」
「…」そう言って、甘やかしてきたのは誰だよ、と言いたい気分になった。
誰だってひとりで色々なものを抱えながら生きているんだ。
凛一がいくら小さい時に母親を亡くしたと言っても、父親も兄妹も居て、経済的にも何も不安はなかったはずだ。それは充分幸せの域だろう。それなのにマトモに育っていないのは、おまえ等兄妹が凛一をちゃんと育てられなかった所為だろう。
そういう意味ではおまえ達は親失格と言われても仕方ない。
「凛は頭のいい子だから、色々考えすぎるんだ」慧一は苦笑する。
「…おまえ、ブラコンだけならまだしも、親バカか?」
「え?」
「聞いてて恥ずかしくなる。おまえはあの子を天使に育てたとか言うが、俺の見る限り、普通の子だよ。慧一は近くに居すぎておかしくなっている」
「おかしい?」
「中学にもなるのにおまえをわずらわせようなんて、子供だって言ってるんだ」
「あの子は子供だよ。まだ12なんだから」
「…」
ほら、このズレがおかしいんだ。
「それにあいつは本当に天使なんだよ。綺麗な虹色の六つの羽がある。梓も言ってた。普通の奴には見えないかも知れないが…俺たちには見えるんだよ」
「…」
慧一は本気で言っている。
この感覚はどう考えてもおかしい。
「…もういいよ。でもそんなに大事にしてもいつかはおまえの手から離れるんだぜ?慧一。その時、おまえは正気でいられるのか?」
「…考えたことはないよ」
「じゃあ、考えるんだな。逃げても始まらない事だよ」
俺の言葉に慧一はあからさまに眉を顰め、憮然とした表情で俺を見つめた。
「…結局人間はひとりでも生きていけるって話か、なら、紫乃は…俺と別れてひとりでも平気だということになるな」
「…別れ話…か?」
「おまえと凛一、どちらかを選べと言われたら、俺を迷うことなく凛一を選ぶ」
「…」
迷うことなくときたもんだ。呆れた話だ。言葉も出ない。
「弟と恋人を天秤にかける時点でおまえはおかしい」
「どこがだ?」
「結婚したからといって親子や、兄弟の縁が切れるわけではないだろう。兄弟は兄弟。愛する者とは並ぶ場所が違う」
「紫乃…おまえは間違ってる。愛する者に兄弟も恋人もない。俺は…純粋に凛一を愛しているんだ」
「じゃあ、抱けばいい」
「欲望で汚す愛じゃない」
また笑わせてくれる話じゃないか…慧一、それがおまえの本心なのか?
「…セックスは汚いのか?おまえは俺が汚れているから、俺を抱いても構わないと思うのか?…バカだろう、慧一。凛一がおまえの天使でも、いつかは欲望に塗れるよ。それが嫌なら…そうならないうちにおまえが手を付けた方が良くはないか?」
「紫乃…それ以上言うな。俺は本気で殴るぞ」
「おまえの本気なら見てみたい。おまえはいつだって…本気じゃなかった。俺を…本気で愛していなかったって、おまえに言われている俺のことも考えろっ!バカっ!」
そう言い残して、慧一の部屋を飛び出した。
別に一番に愛してもらわなくても良かった。凛一の次でも良かった。僅かでもおまえの本当の愛を感じていられれば良かったんだ。
慧一、誰も好きでひとりでいるわけじゃないんだ。
俺だって…誰かに愛してもらいたいんだ。
何故…判らないんだ!
text by saiart
5へ / 7へ
相変わらず一文のメモも取らずに思いついたまま書いております。
今回は難しかった〜しかし、途中から紫乃が勝手に動き出したんで、修羅場は早かった。
「おまえはおかしい」と言った紫乃がえらい!全く自分の頭の中の予定ではなかった台詞を紫乃が喋ったったことで、かなりこの後を変えなくちゃならなくなったけど、こういうキャラが勝手に喋りだすのが、自分は一番書いてて楽しいんだよね〜紫乃の台詞を受けて立つ慧一も完全に私の手から離れて言った感がある。
このシーンは慧一はおかしい人に見えるがこれは紫乃の視点からであって、慧一に言わせれば、色々正論をぶっぱなしたい気持ちなんだよね〜
そこは慧一編で詳しく話すことにする。

↑お気に召しましたらポチっとお願いします。
慧一の妹、梓の葬儀は翌日の夕刻に葬儀会場で行われ、俺も参列した。
そこで初めて、弟、凛一を目の当たりにした。
家族席に座る慧一の隣で肩を震わせながら泣いている。
喪服姿の慧一はその胸にすっぽりと入るぐらいの小さな凛一の背中を抱き、涙を拭いてやっている。
何故だか…不思議な気がした。
そのふたりの空気だけが他とは違う色で満たされている。
彼等だけが別空間にいるみたいに浮いているのだ。
その隣にいる上品な紳士はふたりの父親だろう。その父親ですら、このふたりと全く交わらない。
違和感を感じたまま、式が始まる。
葬儀は凛一のしゃくりあげる嗚咽に同調するように、終始涙と鼻を啜る音が鳴り止まず、まだ早すぎる妹、梓の死を誰もが悼んだ。
だがそれ以上に慧一と凛一のふたりの悲しむ姿に感化されたのは紛れもなかった。
葬儀が終り、出棺までの間、俺は慧一に一言お悔やみをと家族の控え室に向かった。
ドアを開けようとすると、声が聞こえた。
少し高い声と、慧一の声だ。
扉の間から覗くと、ソファに座った慧一が泣いている凛一を抱きながら話しかけている。
話の中身まではわからないが、しきりに頭を振る凛一を宥めている慧一がいる。
「もう泣くな」慧一が目じりにたまる凛一の涙を口唇で吸うと、凛一は顔を上げて自ら慧一の口唇に自分の口唇を押し付けた。
角度を変えながら何度も…口と口の間からチラチラと赤い舌が見えた。
彼等はお互いを味わっているのだ。
凛一は泣くのを止め、慧一にしがみ付く様に身体を預け、陶酔した眼差しでキスをする。
慧一は…慧一は目を開け凛一の顔を凝視している。その顔には何の表情も見受けられない。ただ凛一の求めに応じているだけ…のように見えた。
…俺はその場所から離れた。
彼等がどんな関係なのか、あれだけの場面を見せられても理解できなかった。
肉体的な淫猥な感情が全く感じられなかったのだ。
慧一は以前から凛一のことを天使だと呼んでいた。
その言葉どおりあの子のキスは欲情したものではなかった。
では慧一はどうだ?
何も感じていないのか?…俺にはわからない。それを聞き出すのさえ阻かまれる。
俺は考える。
あの子は…凛一は確かに綺麗な少年だ。だからといって見るからに色香を振りまくような蠱惑的なものは微塵もない。俺から言わせれば普通の子だ。
慧一は何をあの子に見ているのだろう。ただのブラコンで片付けるのは安易な気がする。
自分が育てた弟だから特別な感情が湧くのは当たり前だ。
だからと言って…それが情欲に摩り替わるわけじゃない。
肉親の愛情だろう?…違うのか?もっと違う絆があのふたりにはあるのか?
…俺にはわからない。
ひと月ばかり経って、慧一から連絡が来た。
急いでマンションに会いに行くと、慧一は憔悴しきった顔で俺を見つめ、そして身体を預けるように寄りかかり、俺を抱いた。
「紫乃…俺を救ってくれ…」
「慧一…何があったんだ」
「…俺には…無理だ。凛一を育てていくなんて出来ない」
「…慧…なにもおまえひとりが背負い込むことはないだろう。父親だって親戚連中だっているじゃないか」
俺の言葉に慧一は首を振る。
「あいつは…俺の手からしか食べようとしない。他の奴が無理矢理食わそうとすると吐くんだよ。そのまま死ぬつもりだ…俺が居ないとあいつは…」
「慧…」
嗚咽する慧一の身体を抱きしめる事しか俺には出来ない…
どうなってしまうのか先行きのわからない状況だったが、春を迎える頃になると、凛一も落ち着いてきたと、慧一の顔から安堵の程が伺えた。
「大分落ち着いたようだな」
「そうでもないが…取り敢えずひとりで食えるようにはなったよ。中学にも行くようになるし…少しは大人になってもらわないと、俺も困る」
「…」そう言って、甘やかしてきたのは誰だよ、と言いたい気分になった。
誰だってひとりで色々なものを抱えながら生きているんだ。
凛一がいくら小さい時に母親を亡くしたと言っても、父親も兄妹も居て、経済的にも何も不安はなかったはずだ。それは充分幸せの域だろう。それなのにマトモに育っていないのは、おまえ等兄妹が凛一をちゃんと育てられなかった所為だろう。
そういう意味ではおまえ達は親失格と言われても仕方ない。
「凛は頭のいい子だから、色々考えすぎるんだ」慧一は苦笑する。
「…おまえ、ブラコンだけならまだしも、親バカか?」
「え?」
「聞いてて恥ずかしくなる。おまえはあの子を天使に育てたとか言うが、俺の見る限り、普通の子だよ。慧一は近くに居すぎておかしくなっている」
「おかしい?」
「中学にもなるのにおまえをわずらわせようなんて、子供だって言ってるんだ」
「あの子は子供だよ。まだ12なんだから」
「…」
ほら、このズレがおかしいんだ。
「それにあいつは本当に天使なんだよ。綺麗な虹色の六つの羽がある。梓も言ってた。普通の奴には見えないかも知れないが…俺たちには見えるんだよ」
「…」
慧一は本気で言っている。
この感覚はどう考えてもおかしい。
「…もういいよ。でもそんなに大事にしてもいつかはおまえの手から離れるんだぜ?慧一。その時、おまえは正気でいられるのか?」
「…考えたことはないよ」
「じゃあ、考えるんだな。逃げても始まらない事だよ」
俺の言葉に慧一はあからさまに眉を顰め、憮然とした表情で俺を見つめた。
「…結局人間はひとりでも生きていけるって話か、なら、紫乃は…俺と別れてひとりでも平気だということになるな」
「…別れ話…か?」
「おまえと凛一、どちらかを選べと言われたら、俺を迷うことなく凛一を選ぶ」
「…」
迷うことなくときたもんだ。呆れた話だ。言葉も出ない。
「弟と恋人を天秤にかける時点でおまえはおかしい」
「どこがだ?」
「結婚したからといって親子や、兄弟の縁が切れるわけではないだろう。兄弟は兄弟。愛する者とは並ぶ場所が違う」
「紫乃…おまえは間違ってる。愛する者に兄弟も恋人もない。俺は…純粋に凛一を愛しているんだ」
「じゃあ、抱けばいい」
「欲望で汚す愛じゃない」
また笑わせてくれる話じゃないか…慧一、それがおまえの本心なのか?
「…セックスは汚いのか?おまえは俺が汚れているから、俺を抱いても構わないと思うのか?…バカだろう、慧一。凛一がおまえの天使でも、いつかは欲望に塗れるよ。それが嫌なら…そうならないうちにおまえが手を付けた方が良くはないか?」
「紫乃…それ以上言うな。俺は本気で殴るぞ」
「おまえの本気なら見てみたい。おまえはいつだって…本気じゃなかった。俺を…本気で愛していなかったって、おまえに言われている俺のことも考えろっ!バカっ!」
そう言い残して、慧一の部屋を飛び出した。
別に一番に愛してもらわなくても良かった。凛一の次でも良かった。僅かでもおまえの本当の愛を感じていられれば良かったんだ。
慧一、誰も好きでひとりでいるわけじゃないんだ。
俺だって…誰かに愛してもらいたいんだ。
何故…判らないんだ!
text by saiart
5へ / 7へ
相変わらず一文のメモも取らずに思いついたまま書いております。
今回は難しかった〜しかし、途中から紫乃が勝手に動き出したんで、修羅場は早かった。
「おまえはおかしい」と言った紫乃がえらい!全く自分の頭の中の予定ではなかった台詞を紫乃が喋ったったことで、かなりこの後を変えなくちゃならなくなったけど、こういうキャラが勝手に喋りだすのが、自分は一番書いてて楽しいんだよね〜紫乃の台詞を受けて立つ慧一も完全に私の手から離れて言った感がある。
このシーンは慧一はおかしい人に見えるがこれは紫乃の視点からであって、慧一に言わせれば、色々正論をぶっぱなしたい気持ちなんだよね〜
そこは慧一編で詳しく話すことにする。
↑お気に召しましたらポチっとお願いします。
早春散歩 藤宮紫乃編 「メタモルフォーゼ」 5
5.
俺と慧一が本格的に付き合い始めたのは、蒸し暑い夏の始まりの頃で、さそり座のアンタレスが妙な色気で輝く夜を、俺たちは地を這うように何時間も楽しんだ。
秋が近づく頃になると、お互いの家を行き交うのが当たり前になり、「まるで紫乃と同棲しているみたいだな」と、今更ながら慧一が笑うのを、俺は複雑な想いで受け止めていた。
慧一の家に俺が泊まる割合が比較的多く、それは慧一の勉学の所為でもあった。
慧一はワーカーホリック気味なところがあり、建築の構造力学からデザインまでをトータルで修学しようと励んでいた。
色々なコンペティションにも応募し、評価されていた。
一晩中でも机やパソコンに向かう慧一の背中を見ている時間でさえ、俺は別に苦ではない、寧ろ楽しくさえあった。熱中する慧一の横顔はこの上もなく綺麗だから好きなんだ。
恋人としての慧一には、俺は何の不満も無く、誠意を尽くしてくれる姿勢に感心することしきりだった。
彼に愛されていると感じることも少なくない。だが、俺は慧一の言った「本気になったことはない」という言葉が気になっていた。
彼は今まで付き合ってきた恋人にも、同じように接して来たんじゃないのか?
俺は本当に彼の「本気」の存在であるのか?
答えを求める勇気は俺にはなかった。
俺の方が完全に慧一にのめりこんでいるのは明らかだったし、そのことを追及して、この関係が壊れるのを俺は恐れていた。
慧一には母親がいない。父親は単身で外国暮らし。ひとつ下の妹と九つ違いの弟がいる。
彼の実家は一人暮らしのマンションから一時間程度しか離れていない。大学へは無理をすれば実家からでも通える距離なのに、と思う。しかも妹とまだ小学生の弟を置いて一人暮らしなど、不安などないのだろうか、と思い尋ねると「妹がしっかりしているから」と濁された。
さほど愛していないのかと思うと、逆だ。
慧一は妹と弟の携帯の連絡には異常に反応した。
時にはやっている途中でさえ、彼等の呼び出し音が鳴ると、即中断してでも携帯に出るのだ。極まっている俺のことなど眼中にない如くにだ。
そして今、また携帯が鳴った。
「マタイ受難曲」…これは妹、梓のメール音だ。因みに弟の凛一はメサイヤの「ハレルヤ」。
メールを見ながら、慧一は苦笑した。俺には向けない顔だ。
そこには「愛」があるのがはっきりとわかる。嫉妬しても仕方ない。
血は水より濃いものだからな。
「妹から?」
「そう、見るかい?」
「いいの?」
「大した写真じゃないんだ。只…クリスマスの余興の…練習風景」
「へえ〜おまえの家、クリスチャンなのか?」
「いや、梓がカトリック系の学校だったので、そういう趣向で過ごしたがるんだよ。クリスマスには絶対帰ってこいっていう脅しだな」
そう言う慧一から携帯を受け取る。液晶画面を見ると、ベールを被った女の子が顔を少し傾げながら祈るポーズを取っている。
妹の梓を初めて見た。少女めいた顔立ちなのにどことなく大人の女性の色気がある。くっきりとしたアーモンドの瞳は慧一に似ていたが…だが、全体の顔のつくりは慧一似では無い。
「綺麗な妹さんだ」
「男にも女にもモテるそうだよ」
「でも慧にはあまり似てないね」
「父方の祖母似だね。祖母はかわいらしい面立ちだったよ。昔の写真で見た限りでは」
「…弟は?」
「…凛一?」
「そう、おまえに似てるの?」
「俺は似てると思わないがね、回りはみんな口を揃えて似てると言う」
「見たい気がする」
「次の画面を見ればいい…」
「うん」慧一の了承を得て、俺は携帯の次画面を押した。
…弟の凛一がいた。
今度は天使の格好をさせられている。白い服を着て百合の花を手にこちらに向かって微笑んでいる。
真っ直ぐに肩まで伸びた黒髪。
まだあどけなさの残る男か女か全く判断のつきかねる…綺麗な顔。
確かに慧一に似ている。決定的に違うのは…
「どう思う?」
「なに?」
「それを見て、凛一を抱きたいと思うか?」
「…待ってくれよ。おまえの弟だろ?まだ…」
「十一だよ」
「やめてくれよ。犯罪じゃないか」
「俺は十三で経験しているんだぜ。自分で求めりゃ犯罪じゃない」
「弟だろ?」
「勿論俺にとっては血の繋がった弟でしかない。だから俺は汚せないのさ。だが、俺と梓が慈しんで育てた凛一を他人がどう思うかには興味あるんだよ」
「…よくそんな平気な顔で言える」
「五歳で母親を亡くしてから、俺と梓は親代わりだ。どこでどう間違えたんだか、天使に育ってしまったらしい。この先どうしていいのか俺にもわからなくなる時があるよ。手放すには惜しくなってしまっているからね」
「…おまえが家に帰らない理由って…それか」
「…純粋なる魂がそこにあるんだよ。それに触れるのは覚悟がいる…あいつの傍にいると…疲れるんだ」
「弟だろう…弟はおまえを頼っているんだろう。愛してないのか?」
「愛とは何か?…俺にとって親愛とか慈愛とか…そんなもんじゃない。…そんなんじゃないんだよ…」
俺には慧一の抱えている暗闇の形には全く触れることが出来ないと感じた。
この男とその家族の関係は、他人が触れてはいけない聖域ではないだろうか…と。
家族の事に触れたのはそれきりで、俺はもう一切慧一の暗闇には目を向けないでおこうと決めていた。それが俺たちの未来を隔てるものであっても、俺が暴くものではないとも判っていた。
そうして表面には蜜月ともいう日々が続き、翌年の秋も深まりつつある晩、予想もしなかった事件が起きる。
たまたま慧一は携帯をマナーモードにしていて…わからなかったんだ。
俺たちはいつものようにお互いを求め合って絶頂に達していた。
事後、慧一は携帯の受信に気づき…それに目を通した瞬間…唸るように呟いた。
「ウソだ…」
「…どうした?慧一」
「…あ、梓が…死んだ…」
「…」
慧一の言葉に俺は深く項垂れ、続く言葉は無かった。
俺と慧一の蜜月は終わったと感じた瞬間でもあった。
そして…こういう時が来るのを、どこかで予感していたのも事実だった。
text by saiart
4へ / 6へ
こういう展開のお話を書くのは、難しいんですが…楽しくもある。ただ、読んでいる方には不快感を与えるかもしれないですね。
しかし…私は多様な純粋な感情を描きたいのです。すいません。
お付き合いいただけると嬉しいです。
これから益々…泥沼に…(^◇^)

↑お気に召しましたらポチっとお願いします。
俺と慧一が本格的に付き合い始めたのは、蒸し暑い夏の始まりの頃で、さそり座のアンタレスが妙な色気で輝く夜を、俺たちは地を這うように何時間も楽しんだ。
秋が近づく頃になると、お互いの家を行き交うのが当たり前になり、「まるで紫乃と同棲しているみたいだな」と、今更ながら慧一が笑うのを、俺は複雑な想いで受け止めていた。
慧一の家に俺が泊まる割合が比較的多く、それは慧一の勉学の所為でもあった。
慧一はワーカーホリック気味なところがあり、建築の構造力学からデザインまでをトータルで修学しようと励んでいた。
色々なコンペティションにも応募し、評価されていた。
一晩中でも机やパソコンに向かう慧一の背中を見ている時間でさえ、俺は別に苦ではない、寧ろ楽しくさえあった。熱中する慧一の横顔はこの上もなく綺麗だから好きなんだ。
恋人としての慧一には、俺は何の不満も無く、誠意を尽くしてくれる姿勢に感心することしきりだった。
彼に愛されていると感じることも少なくない。だが、俺は慧一の言った「本気になったことはない」という言葉が気になっていた。
彼は今まで付き合ってきた恋人にも、同じように接して来たんじゃないのか?
俺は本当に彼の「本気」の存在であるのか?
答えを求める勇気は俺にはなかった。
俺の方が完全に慧一にのめりこんでいるのは明らかだったし、そのことを追及して、この関係が壊れるのを俺は恐れていた。
慧一には母親がいない。父親は単身で外国暮らし。ひとつ下の妹と九つ違いの弟がいる。
彼の実家は一人暮らしのマンションから一時間程度しか離れていない。大学へは無理をすれば実家からでも通える距離なのに、と思う。しかも妹とまだ小学生の弟を置いて一人暮らしなど、不安などないのだろうか、と思い尋ねると「妹がしっかりしているから」と濁された。
さほど愛していないのかと思うと、逆だ。
慧一は妹と弟の携帯の連絡には異常に反応した。
時にはやっている途中でさえ、彼等の呼び出し音が鳴ると、即中断してでも携帯に出るのだ。極まっている俺のことなど眼中にない如くにだ。
そして今、また携帯が鳴った。
「マタイ受難曲」…これは妹、梓のメール音だ。因みに弟の凛一はメサイヤの「ハレルヤ」。
メールを見ながら、慧一は苦笑した。俺には向けない顔だ。
そこには「愛」があるのがはっきりとわかる。嫉妬しても仕方ない。
血は水より濃いものだからな。
「妹から?」
「そう、見るかい?」
「いいの?」
「大した写真じゃないんだ。只…クリスマスの余興の…練習風景」
「へえ〜おまえの家、クリスチャンなのか?」
「いや、梓がカトリック系の学校だったので、そういう趣向で過ごしたがるんだよ。クリスマスには絶対帰ってこいっていう脅しだな」
そう言う慧一から携帯を受け取る。液晶画面を見ると、ベールを被った女の子が顔を少し傾げながら祈るポーズを取っている。
妹の梓を初めて見た。少女めいた顔立ちなのにどことなく大人の女性の色気がある。くっきりとしたアーモンドの瞳は慧一に似ていたが…だが、全体の顔のつくりは慧一似では無い。
「綺麗な妹さんだ」
「男にも女にもモテるそうだよ」
「でも慧にはあまり似てないね」
「父方の祖母似だね。祖母はかわいらしい面立ちだったよ。昔の写真で見た限りでは」
「…弟は?」
「…凛一?」
「そう、おまえに似てるの?」
「俺は似てると思わないがね、回りはみんな口を揃えて似てると言う」
「見たい気がする」
「次の画面を見ればいい…」
「うん」慧一の了承を得て、俺は携帯の次画面を押した。
…弟の凛一がいた。
今度は天使の格好をさせられている。白い服を着て百合の花を手にこちらに向かって微笑んでいる。
真っ直ぐに肩まで伸びた黒髪。
まだあどけなさの残る男か女か全く判断のつきかねる…綺麗な顔。
確かに慧一に似ている。決定的に違うのは…
「どう思う?」
「なに?」
「それを見て、凛一を抱きたいと思うか?」
「…待ってくれよ。おまえの弟だろ?まだ…」
「十一だよ」
「やめてくれよ。犯罪じゃないか」
「俺は十三で経験しているんだぜ。自分で求めりゃ犯罪じゃない」
「弟だろ?」
「勿論俺にとっては血の繋がった弟でしかない。だから俺は汚せないのさ。だが、俺と梓が慈しんで育てた凛一を他人がどう思うかには興味あるんだよ」
「…よくそんな平気な顔で言える」
「五歳で母親を亡くしてから、俺と梓は親代わりだ。どこでどう間違えたんだか、天使に育ってしまったらしい。この先どうしていいのか俺にもわからなくなる時があるよ。手放すには惜しくなってしまっているからね」
「…おまえが家に帰らない理由って…それか」
「…純粋なる魂がそこにあるんだよ。それに触れるのは覚悟がいる…あいつの傍にいると…疲れるんだ」
「弟だろう…弟はおまえを頼っているんだろう。愛してないのか?」
「愛とは何か?…俺にとって親愛とか慈愛とか…そんなもんじゃない。…そんなんじゃないんだよ…」
俺には慧一の抱えている暗闇の形には全く触れることが出来ないと感じた。
この男とその家族の関係は、他人が触れてはいけない聖域ではないだろうか…と。
家族の事に触れたのはそれきりで、俺はもう一切慧一の暗闇には目を向けないでおこうと決めていた。それが俺たちの未来を隔てるものであっても、俺が暴くものではないとも判っていた。
そうして表面には蜜月ともいう日々が続き、翌年の秋も深まりつつある晩、予想もしなかった事件が起きる。
たまたま慧一は携帯をマナーモードにしていて…わからなかったんだ。
俺たちはいつものようにお互いを求め合って絶頂に達していた。
事後、慧一は携帯の受信に気づき…それに目を通した瞬間…唸るように呟いた。
「ウソだ…」
「…どうした?慧一」
「…あ、梓が…死んだ…」
「…」
慧一の言葉に俺は深く項垂れ、続く言葉は無かった。
俺と慧一の蜜月は終わったと感じた瞬間でもあった。
そして…こういう時が来るのを、どこかで予感していたのも事実だった。
text by saiart
4へ / 6へ
こういう展開のお話を書くのは、難しいんですが…楽しくもある。ただ、読んでいる方には不快感を与えるかもしれないですね。
しかし…私は多様な純粋な感情を描きたいのです。すいません。
お付き合いいただけると嬉しいです。
これから益々…泥沼に…(^◇^)
↑お気に召しましたらポチっとお願いします。
早春散歩 藤宮紫乃編 「メタモルフォーゼ」 4
4.
あれから三週間になるが、慧一からはなんの連絡もない。
あの後一緒に昼飯を食べて大学で別れた。
あまりに舞い上がっていたからだろうか、携帯の番号もメルアドも聞くのを忘れ、勿論向こうが知るわけも無く、こうして置いてきぼりを食らった子供みたいに落ち着かない心持ち。
二度三度慧一のマンションに行ってはみたが、号数もわからず、さりとてどのツラ下げて慧一の前に出ていいのかさえ判らない。
抱かれに来ましたとでも言うのか。そしてあれはその場しのぎで言ったまでだよ。おまえしつこかったから、とでも追いかえられるのがオチだ。
確かに、寝てくれなどと恥も外聞も無く言った俺が今になって恨めしい。
言い訳する権利をもらえるならば、
あの時は…酔いが醒めていなかったんだよ。
もう半分諦めかかった頃、俺の携帯が鳴った。
誰からの電話か、わからないままに出る。
「もしもし、紫乃?」
紛れも無く慧一の声だった。
「あ、あ、…す、宿禰?」
「そう、久しぶりだな」
「久しぶりっておまえ…なんで携帯の番号…」
「サークルの名簿で調べたんだよ。ごめんな、レポートが立て込んじゃってて、おまえをほっといてて」
「あ…うん、いいよ。それよりどこ?」
「今大学の駐車場。これからデートしないか?」
「え?いいの?」
「恋人同士だろ?俺たち」
「認めてくれるのか?」
「キスまでした仲なのに、つれなくないか?」
「ごめん」
それから宿禰の待つ駐車場に行くまでが大変だ。
とてもじゃないが、口元が緩んで仕方ない。
慧一とデートだなんて、思いがけない幸運。まったく運命の女神も捨てたもんじゃない。
駐車場で待っている慧一を見つける。慧一は自分の車で来ていた。
慧一らしいというからしくないというか…ミニクーパーサルーン。なんとも…これでふたりデカイのが乗るだけで変な感じがしておかしかった。
狭っ苦しいのにも全く関係なく、慧一は気分良く鼻歌なんぞ歌っている。
「天気が良かったら天文台まで飛ばすのになあ〜贋の星空で我慢してくれよ」
「いいよ。プラネタリウムなんて…小学生の時以来だよ」
「昼寝するのには便利な休憩所」
「デートなのに寝るのか?」
「今日は初デートだからなるだけ我慢するよ」
そう言いつつ、投影が始まると五分と持たず、慧一は俺の肩に凭れて寝てしまった。
投げ出された左手をそっと自分の手と絡めた。
ほら、デートしているカップルになったろ?
「ヴェガとアルタイルの話なんて聞き飽きただろうけど、ああいう神話にこそ案外真理が隠れてんだぜ、紫乃」
寝ていると思った慧一が耳元で囁いた。
絡めた手を自分の口唇に押し付け、「アリアドネの口付け。おまえが迷わないように…」などと甘く囁くのだ。
…おそろしい奴。
腹が減ったというので、ファミレスにでも行って簡単に済ませるつもりが、奴は折角のデートだし、紫乃を待たせた償いもさせてくれと、だから俺が奢ると言いつつ、高級そうなホテルでフランス料理を味わってそのままそのホテルの部屋に泊まることになった。
「慧一はブルジョワなのか?」シャワーを浴びてバスローブを羽織っただけの姿でふたりで軽くワインなどを飲んでみる。ま、格好だけね。
「いや別に金目のもんには興味がないんだが、なんでもうちのじいさんが豪商で酒作りをやっていたらしい。それでなんかしら経済的には余裕って話で。でもどこまでが本当かね。親父は単身で外国に行ったっきりだぜ?生活費を稼ぐ為に必死こいてる身だもん。本物の財産家じゃないね。紫乃の家の方が格式あるし、それはそれで大変そうだ」
「まあね、でも俺はもう跡目は継がなくていいし、気軽でいいよ」
「重荷は少ない方がいいんだけどね…血縁関係はなかなか切り捨てられない」
「なに?」
「別に…それより紫乃。俺と寝たいんじゃなかったのか?」
「おまえはどうなんだ?」
「俺?そりゃこんなに綺麗な奴を目の前にして何もしなかったじゃ、甲斐性無しと罵られても仕方ないんだろうがねえ…紫乃をいい気持ちにさせてあげられたら、褒めてくれよな」
そう言ってさし伸ばされた手の平を、俺はしっかりと繋いだ。
慧一は言葉どおり、俺を天国に連れて行ってくれた。
慧一の口唇が俺の身体のどこかに触れるたびにそこが腫れ上がる気がした。混じりけの無い官能的感受性。肉体の本質から根こそぎ変えてしまわれる様な苦痛と快感にもがいているような気がした。
こんなセックスなどしたことはなかった。
これまでにしてきた決して少なくない性体験の中で、こんなに自分が翻弄されることは一度も無かった。
俺はそら恐ろしくなって、俺を抱いているこの男をまざまざと見つめた。
俺と同い歳で、俺と同じようなガタイで、俺とは全く質量も許容量も違う。
恐れなど微塵もしらない純粋な人間の魂に触れた気がする。
それと同時にこの猥雑な行為を悪魔の如く楽しんでいる気がして、俺は正直恐れ戦いた。
「お、まえどんだけ経験豊富なんだ、よ」「褒めてんの、ソレ」「ちょ、死ぬ」「紫乃とだったら俺満足するかも…」「や、慧…」「怖くなった?」「違う…良すぎて、死ぬ…」「俺も最高だよ、紫乃…」
完璧に圧倒された。
必然であれ、偶然であれ、俺は宿禰慧一という男に出会えた運命に感謝する。
大いなる希望であり、情熱の底辺を担う存在であった。
今まで昏い海の底をひとり漂いでいた俺が、光輝く宝玉を掴んだ気がしたんだ。
この先何があろうとも、俺はおまえを拒絶したりしない。絶対に…
text by saiart
3へ / 5へ
暇があったのでうp。
今回は漫画で言えば、サービスカットっ!ってところでしょうか。
以後はそんなに無いからHシーン。ごめんよ。
ここまでは恋愛ものって感じですが、次回からはBLはあんまり関係なくなりそうな気がします。
根底はBLなのですが…ホント変な趣味ですいませんね〜

↑お気に召しましたらポチっとお願いします。
あれから三週間になるが、慧一からはなんの連絡もない。
あの後一緒に昼飯を食べて大学で別れた。
あまりに舞い上がっていたからだろうか、携帯の番号もメルアドも聞くのを忘れ、勿論向こうが知るわけも無く、こうして置いてきぼりを食らった子供みたいに落ち着かない心持ち。
二度三度慧一のマンションに行ってはみたが、号数もわからず、さりとてどのツラ下げて慧一の前に出ていいのかさえ判らない。
抱かれに来ましたとでも言うのか。そしてあれはその場しのぎで言ったまでだよ。おまえしつこかったから、とでも追いかえられるのがオチだ。
確かに、寝てくれなどと恥も外聞も無く言った俺が今になって恨めしい。
言い訳する権利をもらえるならば、
あの時は…酔いが醒めていなかったんだよ。
もう半分諦めかかった頃、俺の携帯が鳴った。
誰からの電話か、わからないままに出る。
「もしもし、紫乃?」
紛れも無く慧一の声だった。
「あ、あ、…す、宿禰?」
「そう、久しぶりだな」
「久しぶりっておまえ…なんで携帯の番号…」
「サークルの名簿で調べたんだよ。ごめんな、レポートが立て込んじゃってて、おまえをほっといてて」
「あ…うん、いいよ。それよりどこ?」
「今大学の駐車場。これからデートしないか?」
「え?いいの?」
「恋人同士だろ?俺たち」
「認めてくれるのか?」
「キスまでした仲なのに、つれなくないか?」
「ごめん」
それから宿禰の待つ駐車場に行くまでが大変だ。
とてもじゃないが、口元が緩んで仕方ない。
慧一とデートだなんて、思いがけない幸運。まったく運命の女神も捨てたもんじゃない。
駐車場で待っている慧一を見つける。慧一は自分の車で来ていた。
慧一らしいというからしくないというか…ミニクーパーサルーン。なんとも…これでふたりデカイのが乗るだけで変な感じがしておかしかった。
狭っ苦しいのにも全く関係なく、慧一は気分良く鼻歌なんぞ歌っている。
「天気が良かったら天文台まで飛ばすのになあ〜贋の星空で我慢してくれよ」
「いいよ。プラネタリウムなんて…小学生の時以来だよ」
「昼寝するのには便利な休憩所」
「デートなのに寝るのか?」
「今日は初デートだからなるだけ我慢するよ」
そう言いつつ、投影が始まると五分と持たず、慧一は俺の肩に凭れて寝てしまった。
投げ出された左手をそっと自分の手と絡めた。
ほら、デートしているカップルになったろ?
「ヴェガとアルタイルの話なんて聞き飽きただろうけど、ああいう神話にこそ案外真理が隠れてんだぜ、紫乃」
寝ていると思った慧一が耳元で囁いた。
絡めた手を自分の口唇に押し付け、「アリアドネの口付け。おまえが迷わないように…」などと甘く囁くのだ。
…おそろしい奴。
腹が減ったというので、ファミレスにでも行って簡単に済ませるつもりが、奴は折角のデートだし、紫乃を待たせた償いもさせてくれと、だから俺が奢ると言いつつ、高級そうなホテルでフランス料理を味わってそのままそのホテルの部屋に泊まることになった。
「慧一はブルジョワなのか?」シャワーを浴びてバスローブを羽織っただけの姿でふたりで軽くワインなどを飲んでみる。ま、格好だけね。
「いや別に金目のもんには興味がないんだが、なんでもうちのじいさんが豪商で酒作りをやっていたらしい。それでなんかしら経済的には余裕って話で。でもどこまでが本当かね。親父は単身で外国に行ったっきりだぜ?生活費を稼ぐ為に必死こいてる身だもん。本物の財産家じゃないね。紫乃の家の方が格式あるし、それはそれで大変そうだ」
「まあね、でも俺はもう跡目は継がなくていいし、気軽でいいよ」
「重荷は少ない方がいいんだけどね…血縁関係はなかなか切り捨てられない」
「なに?」
「別に…それより紫乃。俺と寝たいんじゃなかったのか?」
「おまえはどうなんだ?」
「俺?そりゃこんなに綺麗な奴を目の前にして何もしなかったじゃ、甲斐性無しと罵られても仕方ないんだろうがねえ…紫乃をいい気持ちにさせてあげられたら、褒めてくれよな」
そう言ってさし伸ばされた手の平を、俺はしっかりと繋いだ。
慧一は言葉どおり、俺を天国に連れて行ってくれた。
慧一の口唇が俺の身体のどこかに触れるたびにそこが腫れ上がる気がした。混じりけの無い官能的感受性。肉体の本質から根こそぎ変えてしまわれる様な苦痛と快感にもがいているような気がした。
こんなセックスなどしたことはなかった。
これまでにしてきた決して少なくない性体験の中で、こんなに自分が翻弄されることは一度も無かった。
俺はそら恐ろしくなって、俺を抱いているこの男をまざまざと見つめた。
俺と同い歳で、俺と同じようなガタイで、俺とは全く質量も許容量も違う。
恐れなど微塵もしらない純粋な人間の魂に触れた気がする。
それと同時にこの猥雑な行為を悪魔の如く楽しんでいる気がして、俺は正直恐れ戦いた。
「お、まえどんだけ経験豊富なんだ、よ」「褒めてんの、ソレ」「ちょ、死ぬ」「紫乃とだったら俺満足するかも…」「や、慧…」「怖くなった?」「違う…良すぎて、死ぬ…」「俺も最高だよ、紫乃…」
完璧に圧倒された。
必然であれ、偶然であれ、俺は宿禰慧一という男に出会えた運命に感謝する。
大いなる希望であり、情熱の底辺を担う存在であった。
今まで昏い海の底をひとり漂いでいた俺が、光輝く宝玉を掴んだ気がしたんだ。
この先何があろうとも、俺はおまえを拒絶したりしない。絶対に…
text by saiart
3へ / 5へ
暇があったのでうp。
今回は漫画で言えば、サービスカットっ!ってところでしょうか。
以後はそんなに無いからHシーン。ごめんよ。
ここまでは恋愛ものって感じですが、次回からはBLはあんまり関係なくなりそうな気がします。
根底はBLなのですが…ホント変な趣味ですいませんね〜
↑お気に召しましたらポチっとお願いします。
Copyright © aqua green noon. all rights reserved.
Template by はじめてのブログデザイン
FC2ブログ はじめてのブログ選び






