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2019-09

Private Kingdom 1 - 2011.05.20 Fri

アスタロト35

Private Kingdom
その一

「本格的な冬の始まりを告げる雪が深夜には吹雪になるだろうと、ラジオの天気予報を聞いた私は、慌てて終わらない仕事を切り上げ、校舎を出て校門へ向かった。
夜の校門の二重扉の間に、生まれたばかりの赤子を見つけたのは偶然だったのか…いや、必然だった。
粗末な麻の包みに包まれた赤子は雪の冷たさも微塵も感じないかのように、泣き声ひとつ上げなかった。
ただ静かに、私が見つけるのを待っていたかのようにさえ思えた。
赤子を見つけた私が驚いてその包みを抱くと、その赤子は私をじっと見つめた。
プルシアンブルーに映る那由多の星々がその瞳の中に見えた。
類稀(たぐいまれ)なる美貌、目もくらむ存在、光輝く御子。どう呼んでいいのかわからない。
あまりの美しさに、誰もがこの子を妬んで、ともすれば害を与えるかもしれない…と、思った私は、金の粉を振りまいたようなプラチナの髪を褐色の猫毛に、類稀なる美貌をはぐらかす為に私の眼鏡をその赤子にかけさせてやった。
そしてこの類稀なる赤子に真なる名前を…与えた。即ち『アスタロト・レヴィ・クレメント』と…」
「…」
 いい怪訝適当な法螺を何度も繰り返し語ってんじゃねえっ!クソ爺っ!

 学長であり、俺を拾ったトゥエ・イェタルは説教の度に俺に昔話を聞かせる。それも大方作り話だ。毎回微妙に表現が違っているのを本人は気づいているんだろうか。
「親父さん。それもう百回も聞いてますっ!」
「親父さんじゃなくて学長です」
「はい、学長。拾ってくれたのはありがたいと思っています、学長が見つけてくれなかったら、赤子の俺はきっと凍え死んでいるでしょうから。でもですよ、いくら『類稀』でもわざわざ髪の色を変えたり、目も悪くないのに眼鏡かけさせたりするのって…ちょっとおかしくないんでしょうかねえ~」
 ぜってー法螺話だ。
「いや、君を適当に見せるためにはそれくらいの誤魔化しは必要だった。あのままで居て御覧なさい。君はそんなに自由にしてはいられまい。類稀な美しさが君を見るすべての者たちを狂わしてしまう。神話の中の傾国の美女の如くに…ふう…」
 舌先も乾かぬうちに本人の目の前で溜息付くなよ…
 
「もう説教はいいです。ゴーラス講師を殴ったのはこちらにも非があると認めます」
 物理の追試の個人テストで、俺にセクハラをした講師の顔を殴り倒した。もちろん力は使わずに。
「セックスを強要することは如何せん新任の先生にしても許しがたい失態です。彼は即刻解雇です。しかし嘆かわしい限りだ。聖職につく者でありながら…やはり講師はこの街の出身者を選ぶべきでした。アーシュ、君には嫌な思いをさせて本当に悪かった…」
「学長が頭を下げる必要はありませんって。強要するやり方を間違う愚者には身を持って知ることも必要でしょう。こちらも貞節を気取る気はないけれどね。段取りは大事でしょう。ただ欲望を満たせばいいというものでもない。それに俺はセックスは好きな奴とやりたい性格(たち)なもので」
「アーシュ。まるでこの学校がセックスを奨励しているように言うんじゃありません」
 性欲剥き出しの年頃の集まるこの場所で、抑制など無理な話。規制は必要だが厳しすぎるのは反乱の元。ある程度の規律を守れば、自由恋愛は至極当たり前。
 強姦、暴力は許しがたいものだが、同時に消せぬ事態も多い。
 しかし、差し出がましく取り締まる気もこちらには毛頭ない。降りかかる火の粉は勿論掃うが、他人の世話まで見る主義ではない。

「性の自由度は個人の理性による。その理性を学んでこそ、この『天の王』の生徒であるという証でしょう。勿論それなりの秩序は持ってしかるべき話です。この学校の自由さは維持されるべきだ」
「限度にもよるがね。ここは私立学校でもある。評判を落して、住民から敬遠されても困ります」
「粗暴な街と比べたら、ここはエデンの園ですよ。まあ、僕はここの居候の身だし、卒業までは模範生でいますからご心配なく」
「君を居候だと思ったことはないよ、アーシュ」
「…わかっています」
「君は随分と耐えてきた。私にはわかっているよ、アーシュ。もう間も無く、君はこの地から旅立つことになるだろう。自由の未来を君自身が選んで歩けることは喜ばしいことだ。だがね…どうやら私にはそれが…とても寂しく思えてしまうんだよ。子供達を送り出すことが我が身の幸福と信じてきたんだがね…歳かな。近頃は感傷的になってしまう。教育者としては失格だね」
「学長…トゥエ…親父どの、あなたはこれ以上ない程の最高の親ですよ。おかげさまで俺はひねくれ具合もサマになっている。」
「君は充分いい子だよ、アーシュ」
 トゥエは学長としては厳しくも秩序を守る番人として相応しいが、何故か俺には甘い。自らの手で拾った所為であると言うんだが、親という者はこういうものかと、思い知らされることも多い。
 
「明日は君と…ルゥの誕生日だね。うちでささやかな晩餐を開こうと思うが、どうかね?」
「勿論、喜んで伺います」
「ベル達も一緒に招待しよう」
「『ホーリー』の集いですね」
「そうだよ」
 トゥエは「他の生徒には秘密だよ」と口唇に人差し指を置いた。
 勿論俺もそのつもりだ。


 サマシティに唯一存在する私学の寄宿学校「天の王」は、六歳から入学し初等科、中等科、高等科の十二学年を経て卒業となる。
 俺は高等科二年の十一年生。
 卒業までは一年と半年。
 卒業証書をもらえればこの街からは出ることは自由。どこの街へ行こうが足枷は無い。
 ただ俺みたいな身寄りもない奴はお金がないから、進学なんぞは望んでいない。援助金を貰ってまで大学に行きたいかというと…そうでもないしな。
 だが、親も帰る家もない俺に、具体的な先行きなど一切ない。

「進学しろよ、アーシュ。おまえの大学費用ぐらい俺が出すから。なんならルゥも一緒にでもかまわんよ。払いは出世払いでいい」
 この街一番の貿易商社の跡継ぎであるベルは気前良く言ってくれるけれど、簡単に甘える気分ではない。それでなくても俺もセキレイもベルにはいつだって全面的に頼りきってしまうんだから。

「しかし…セキレイがここから出て行ってもう三年経つ。いいかげん連絡ぐらいくれても良さそうなのに、一向に便りもないし、夢で俺を呼ぶことも無い。卒業までに帰ってくるかどうか…もし、ここを卒業するまでに帰ってこなかったら、俺はここで待つしかない。あいつの帰る場所はここしかないんだし…」
「アーシュ。俺が言うのもなんだが…卒業までにルゥが帰ってこなかったら、待つだけじゃなく、こちらから探しに行くって手もないこともない…と、思うんだ」
「ええっ!」
 ベルの言葉に俺は驚愕した。だってセキレイを探しにこの街を出るなんて…夢にも思いつかない話だった。
「ベルっ!おまえ、すげえ~。そうだよな、そういう手もあるよなっ!」
「…やっぱりな。おまえさ、ルゥと再会するには、ここで待つしかないって決めつけてるだろう。普通、色々思いつくはずだがね」
 ベルは心から呆れた様子で肩を落して見せた。
「だって…ここで待つって、セキレイと約束したんだもの」
「そして歳を取り、想う奴とセックスもできないまま、欲望だけが積もりに積もってひとり寂しく死んでいくんだな」
「ぜってーヤダ!」
「じゃあ、具体的なルゥ探しでも考えろ」
「…わかった、そうする」
「で」
「なに?」
「誕生日のプレセント、何がいいんだ?」
「へ?…考えてない」
「全くね、いつだっておまえは自分のことなんぞ、これっぽっちも考えてないんだからな。大体今回の事件だって、免職ぐらいで済ませるはずもない。ああいう連中は他に行っても同じ事をやる。死を与えて地獄行きにした方が身のためだった」
「ベル。おまえが裁く者だとしても、おまえが手を下す相手じゃない。最もベルを怒らせたのは俺も謝る。心配させて悪かった」
「…嫌に、素直だね、アーシュ」
「こちらに隙があったのは認める。あの講師はセキレイの目の色に似てたんで、じっと覗き込んでいたんだ。まさかその気になるとは思わなかったけどな」
「哀れ…我を信じる者、いと愛せり…気持ち悪…」
 忌々しそうに吐く真似をするベルに同情する。
 本気で心配させたのは本意じゃなかったからな。
「ベル、誕生日のプレゼントは貞操帯で結構。君が鍵を持っててくれ」
「…嘘だろ…」
 下らないジョークに二人とも笑い転げた。


 俺とセキレイの誕生日、十二月四日の夜、俺達『ホーリー』は学長トゥエの自宅へ集まることになった。
 『ホーリー』とは、『真の名』を持つ者の呼び名であり、同じ学年はセキレイを入れて五人だ。
 後にも先にも同学年に五人もの『ホーリー』が居た例はこの学校が始まって以来一度も無い。


 街の中心を流れる河川の土手をベルと歩く。
 辺りは黄昏。この付近には電灯が無い。
 トゥエの自宅に着く頃には真っ暗闇になると思い、それぞれに手灯持参だ。
 空気が冷たくなり吐く息が白くなったと思ったら、今年初めての雪がふわりと舞い落ちてくる。
 ふと誰も居ない川原に目をやる。

 あの日、あの川原で、俺はセキレイを見つけたんだ。
 トゥエが言う、俺を拾った時に感じた運命が必然なら、セキレイを見つけた俺もまた、逃れられない運命だったのだろうか…
 


アーシュ10

Private Kingdom その二へ



新世界の構築は難しい(;´Д`)


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Private Kingdom 2 - 2011.05.26 Thu

a8


その二

 「天の王」の学校の敷地には保育所があった。
 捨て子の俺を拾った学長は、俺をその保育所に預け、俺は初等科の寄宿舎に移るまで、この保育所で育てられた。
 零才から六才までの子供たちが一緒に暮していたが、自分を入れても十数人ほどしか居ない。
 育児を担当する保育の先生はエヴァとアダのふたりだ。
 俺はしっかり者のアダよりも、ちょっととぼけたエヴァに余計に甘えていた。
 不思議な事に俺と同い年の子供はおらず、上下共に仲良く遊んでいたが、どことなく仲間はずれのような気もしていた。

 「天の王」はサマシティでは一番の規模を誇る施設であったし、この街は名のとおり、通りすがりの者達が立ち寄る拠り所でもあったから、経済的な…諸々の事情により子供を育てられない親達がそっと置き去りにする事も多く、よく保育所にも新しい赤子や幼子がやって来た。が、ほとんどが二、三日の間に、居なくなる。
その理由を聞くと、「それはね、あの子には力が宿ってないからよ」と、エヴァが言う。
「力?」
「そう。でも心配しなくていいわ。あの子達の保育所はちゃんと用意されてあるから、大丈夫なのよ、アーシュ」
 その時は意味がわからなかったが、宿る力、即ち、「魔力」を持つ者だけがこの「天の王」の保育所に居ることが出来、ノーマルな人間はここには不必要って話だ。

 この街では、力を持たないノーマルな人間を「イルト」と呼び、力を持った人間を「アルト」と呼ぶ。
 全人口の比率は八対二ほどで、この学校では半分がイルトで、残りの半分がアルトだ。
 当たり前だがアルトの中でも差は大きい。
 危険を予知したり、簡単な天気予報を当てたりするのは「ローアルト」、力が強くコントロールできるアルトは「ハイアルト」と呼ばれる。
 俺は「真の名」を与えられるまではただの「ハイアルト」だったが、13の誕生日に与えられた名前のおかげで、誰もが恐れ羨む「ホーリー」となった。

 
 
 さて、「セキレイ」の話をしようと思う。

 あれは俺の四歳の誕生日だった。
 俺の誕生日は学長が俺を拾った日、十二月四日だった。
 その日、いつものように昼寝前にエヴァが俺達に物語を話し聞かせてくれた。
 俺は誕生日だったから、特別にエヴァの膝の上に乗り、エヴァの一番近くで物語を聞くことが出来た。
 エヴァはおっとりとした優しい性格だったが、絵本を読んだり、勝手な創作物語を作り、生き生きと話し聞かせることが上手かった。みんなエヴァの話に心踊り、熱心に耳を傾けたものだ。
 その日の物語もまた、エヴァの作り話だった…


 昔々の物語。
 山里の平和な村に、ある日とんでもない事が起こってしまった。
 今まで噴火したこともない里に続く近くの山が、突然噴火をし始めたのだ。
 最初はゴゴゴという地鳴りから始まり、そのうち赤く燃え上がる噴煙が上がり始めた。
 村人たちは騒ぎ、恐れ、一体どうしたらいいものかと頭を抱えた。
 この村に住む一人の少年もまた、同じように心を痛めた。
 父の居ない少年は身体の弱い母と二人暮らし。まだ生計の経てない少年に村人たちは何かと手助けをした。その温かい助けもあって、今日まで何とか生きてこられたのだった。
 村の為になにかできないものか…少年は夜も寝ずに考え続けた。
 母を寝かせ、その夜もひとり家の外に出て、井戸の近くに座り、噴火する山を恨めしく見つめていた。
 そこへ一羽のハクセキレイが飛んできた。
 少年の膝の上に止まり、少年の目をじっと見た…


「ねえ、エヴァ、鳥って夜は目が見えないよね?」
「え…勿論そうだけど、でもね、アーシュ。これはなんでもありの物語なの。だから超自然なことも簡単にありえる世界なのよ」
「へえ~、そういうのって『都合のいい話』っていうんだろ?」
「そういう事言うと、先を話してあげないわよ」
「はーい、お口はチャックだよ」


 セキレイは言う。
「何をそんなに悲しんでいるの?」
「あの山さ」
 セキレイは後ろを振り向き、火の粉を噴いている山を見た。
「あの山がどうしたのさ」
「このまま噴火を続けたらマグマが流れ出して、この山里を燃やしつくしてしまうだろう。それを止める手立てはないだろうか」
「あるよ」
「ホントに?」
「あの噴火を止める術を私は知っている。けれど…君にそれができるだろうか」
「できる…いや、自信はないけれど、ぼくはどうしても村の人たちを助けたい。これまでぼくとお母さんを助けてくれた恩返しにぼくがやれることなら、なんだってやるんだ」
「そう、じゃあ、この村を助ける為に、君はあの山の火口まで行くしかないね」
「あの、山の?」
「そうだよ。急がないと本当に大きい噴火が始まってしまうかもしれないよ」
「わかった」
 少年はすっくと立ち上がり、家へ戻った。
 寝ている母親の枕元に「しばらく留守にするけど心配しないで」と、言う短い手紙を置いた。
 引き出しから死んだ父の形見のダガーを取り出し、腰に差した。
 戸棚から明日のパンと水筒には水を入れて、準備万端。山に向かって走り出した。
 
 山道は険しく、けもの道でなかなか先には進めない。
 ツルに足を取られ、岩に滑り、何度も転んだ。
「ああ、ぼくには何の力もないんだ」
 痛む足を押さえて少年は咽び泣いた。
「君の言う覚悟はそんなものなのかい。もう、村を助けることを諦めたのかい?」
 いつの間にかあのセキレイが彼を見守っていた。
「違う。でもぼくの足が言うことを聞かない。それに行く道もない山をどうやって登れるんだ」
「私が案内するよ。勿論、君にやる気があればだが」
 目の前で羽ばたくセキレイを見ていると、なんだか勇気をもらえる気がした。
 少年は立ち上がり、セキレイの案内に従って、山を登った。

 途中、狼やカラスの大群に襲われたが、父の形見のダガーが彼を守ってくれた。
 二日目の夜を向かえ、少年は漸く火口の近くまで辿り着いた。
 しかし少年は見るも耐えないほどの満身創痍だった。
 少年はずっと彼を案内し続けたセキレイに言葉をかけた。
「やっと辿り着いた。さあ、これからどうすればこの噴火を止められるんだい?」
「よくがんばったね。だけどこれからが大変なんだ。この噴火を止めるには、ここまで辿り着いた人間が自らの身をこの火口の中へ投じなければならないんだよ」
「え…」
「誰だって死ぬのは怖いよね。でもあの村人達を助ける為だったら、君の命ひとつは安いもんじゃないのかい」
 少年は少しだけ考えた。自分の命が里の人を助けるのなら、この身を投げても構わない。ただ、母親はきっと悲しむだろう。
 だがそれも一時の事だった。少年はきりりと前を向くと火口に向かって歩き出した。

「君はすばらしいね。きっと後世に村を助けた英雄として名を残すことだろう」
 セキレイの言葉に少年は振り向いた。
「名前なんていらない。誰の記憶に残らなくていいんだ。ぼくは自分のできることをやったまでだよ。それよりセキレイ」
「…なに?」
「ありがとう。君が居なかったぼくはなにも出来ずにただ泣くばかりだったろう。ぼくは今幸せだ。君のおかげだよ。ありがとう」
 少年はこれまでセキレイが見たこともない程に美しい笑顔を彼に見せた。
 そうして迷いもせずに燃えさかる火口へ身を投げた。
 
 セキレイはその様子をじっと見つめていた。
 しばらくするとセキレイは羽を広げ、空高く舞い上がった。
 高く高くどこまでも舞い上がった。
 そして一気に下降した。
 吹き上がるマグマの中にセキレイは突っ込んでいく。
 彼は燃えなかった。彼の強い魔力が彼の身体を包み、彼の白い羽がキラキラと光る。
 セキレイは少年を探した。
 少年の身体はとうに燃え尽き、灰さえも残ってはいなかった。
 それでもセキレイは少年を探した。
 そして彼は見つけた。少年の魂の欠片を。
 セキレイはその欠片をくちばしで啄ばみ、そして飲み込んだ。
 
 今度はまた急上昇だ。
 閃光のようにセキレイは火口から飛び出した。
 火口の溶岩は次第に弱まり、夜の山野を赤々と照らしていた悪魔も次第に闇に溶けていった。
 
 セキレイはその様子を夜天から見下ろしていた。
 山里の人々の歓声が、微かに空に響き渡った。
「見えるかい。君の望んだとおりに噴火はおさまった。聞こえるかい。村人達の喜びの声が…」
「ありがとう…セキレイ、ありがとう」
 今はいない少年の声がセキレイには聞こえた気がした。
 涙を知らないセキレイの瞳から涙が零れたのを、セキレイは不思議に思った。
 そしてただ朝の光に向かって飛び続けた…
 
 

 俺は号泣した、エヴァのエプロンが絞れるくらい泣いた。周りのみんなも残らず泣いていた。
 あまりに泣くのでエヴァが困惑したぐらいだ。
 それでも泣きつかれたのか、その日の昼寝は皆すぐにぐっすりと寝付いた。
 俺は眠れなかった。
 ひとり夜の空を飛び続けたセキレイの気持ちを考えると、とても眠れなかった。また村人を助ける為に自らを犠牲にした少年の勇気に心が震え、目を閉じても赤い火口が瞼を焼き付けるようだった。
 俺はエヴァたちの目を盗んでベッドからこっそり抜け出し、近くの川原へ走った。
 もしかしたらあのハクセキレイが、いるかもしれないと思ったのだ。
 
 勿論、いやしない。
 冷たい水の中を歩いてみたけどやっぱり見つからなかった。
 夕刻が近づき辺りはどんよりと冷たく、雪もちらほらと舞ってくる。
「セキレイ、居ないかな~」
 川原の石を川面に投げつけていたら、対岸近くの川面が一時金色に輝いた。驚いた俺は浅い川の中をばしゃばしゃと濡れながら、その輝くものに近づいた。
 近寄った時はもう輝いてはいなかったが、代わりに布切れが巻きついたものを見つけた。
 なんとか布を引っ張って川岸まで運んだ俺は、その布をそっとはぐってみた。
 そこには黒いススで汚れた小さな子供がいた。
「ぼくのセキレイだ!」
 俺はそう叫んで、その子の汚れた頬にキスをした。




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「Private Kingdom」その一へ /その三へ

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イルトとアルトだが…博多弁で「これいると?」「それあると」と、会話できます。(;^ω^)意味なし~



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Private Kingdom 3 - 2011.06.01 Wed

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その三、

 誰かが忘れた草スキーのプラスティックのソリが川原に流されていた。
 俺はそれを拾ってセキレイを乗せ、保育所まで運んだ。
 運んだと言っても4歳の子供が引っ張っていくのだ。
 陽は段々と暮れるし、雪は絶え間なく降るし、学校までの距離は二百メートルもなかったが相当な労力を使い果たしたはずだ。
 だが、その時の俺は誰に力を借りる事もせず、俺だけでセキレイを助けたかった。

 なんとか保育所まで運んだセキレイを、エヴァたちに見せた。
 エヴァは驚き、すぐにセキレイの身体を抱き上げ、「早く温めなければ」と慌てふためいた。
 アダは「どこで見つけたの?」とか「私達を呼んでくれればすぐに駆けつけたのに」と、俺を責めた。
 俺は「呼びに来る間にセキレイが消えちゃったら嫌だ。だから僕が運んだんだ。だからセキレイは僕のものだ!」と叫んだ。
「セキレイ?あの子の名前?」
「そうだよ」
「あの子がそう言ったの?」
「違う。僕がそう決めたの!」
 アダは訳が分からないと、呆れ顔をする。
 
 身体をしっかりと温められたセキレイは、医務室のベッドに寝かされ、意識がないまま眠っていた。
 湯を使った所為か、先程とはまるで違って綺麗な顔をしていた。
 ススの被った髪はキラキラと光る薄い金色に輝き、肌の色は透き通るほどに白かった。耳の貝殻の巻き方が不思議に自分の好みだと思った。 
 まだ瞼の開かぬ瞳の色も、きっと青空の映った薄い水の色のようだろう…と俺は思った。
 俺はセキレイの手をぎゅっと握り締め、その頬にキスをした。するとセキレイの目はゆっくりと開き、思ったとおりの瞳が俺を見つめた。
「セキレイ…」
 俺は彼の名を呼んだ。
「セ…キ…レイ…」
「そうだよ。君の名前だ。僕はアーシュだよ」
「アー…シュ…」
「そう。君は僕が拾ったんだ。だからセキレイは僕が守るんだ」
「ま…もる…」
「そうだよ、セキレイ。僕は君が大好きだからね」
 そう言うとセキレイは驚いたように目を大きく開け、そしてえも言われぬ無垢な顔でニコリと笑った。
「ボクも…アーシュが好き…」
「うん」
 俺達は最初から分かっていた。
 相手にとって自分が絶対の存在であるということを。

 目が覚めたセキレイをエヴァたちがスープを飲ませながら、事情を聞いていた。
 セキレイは自分の名前もどこから来たのかも覚えていないらしく、しきりに首を横に振っていた。
 エヴァとアダは顔を見合わせ、困った顔をした。
「どうしましょう。許可も無くここに置いておくわけにもいかないし…」
「とにかく早く学長に連絡しなければならないわ」
「そうね。この街の子かどうかも調べなきゃ…」
 エヴァとアダの勝手な言葉に俺はうろたえた。
「待ってよ。セキレイは僕が拾ったんだから、僕のものだよっ!」
 俺はエヴァのエプロンを引っ張った。エヴァは困惑しながら俺を膝に乗せた。
「アーシュ、ね、わかっているでしょ?ここに居ていいかどうかは学長先生がお決めになることなのよ」
「だって…」
 俺はすでに泣いていた。
 だって、ここに来た多くの子供たちはここに住む事を許されなかった。セキレイにもし「力」が無いと判断されたら…
「ね、まずはこの子を見てもらいましょう。アーシュの言うとおり、光に包まれて突然現れたのなら…アルトである可能性は大きいから」
「ホント?」
「ええ、そうよ。今から学長を呼びに行くわ。学長が来られたら、アーシュはこの子を見つけた時の様子を詳しく話して頂戴ね」
「わかった」

 それからエヴァは学長のトゥエを呼び、セキレイに会わせた。
 トゥエはセキレイを見つめ、俺とセキレイに色々と質問をした。
 セキレイに答えられることはなく、俺は必死でセキレイをここに置いてくれと懇願した。

「アーシュ、何故この子を『セキレイ』と、呼ぶんだい?」
「だって…セキレイはセキレイだよ」
「あ…すいません。アーシュは私の作り話を聞いて…それで影響されていると思います」
 エヴァはバツが悪そうに学長に申し出た。
「違うよ、エヴァ。あのお話は大好きだけど、セキレイはセキレイだよ。僕のセキレイだよ」
「わかったよ、アーシュ。君がそう呼ぶのなら、この子は『セキレイ』なのだろう。だけどそれはアーシュが呼ぶべき名前だ。アーシュしか呼べない名前だ。だから、この子にもみんなが呼べる名が必要だよ、私が君に与えた名前のように。わかるね」
「うん」
「この子の名前は…『ルゥ』。とても美しい名前だ。この子にはそう呼べる資格がある」
「…資格?」
「名前には意味があるということだ、アーシュ」
「じゃあ、セキレイは…ここに居てもいいの?」
「ああ、この子は…『ルゥ』は強い力を持っているからね。ここに居ても構わない」
「ホント!」
「本当だよ」
「ありがとうっ!トゥエ!」
 俺は嬉しくて嬉しくて涙と鼻水を流しながら、トゥエに抱きついた。
「勿論、本人の了解が必要だよ、アーシュ」
 俺は我に返って、ベッドのセキレイを振り返った。
 セキレイは身体を起したまま、俺とトゥエのやり取りを少し緊張した面持ちで見つめていた。

「ルゥ…君の名前だよ。」
「うん」
「君はここに居たいかね?」
「…アーシュと一緒に居たい」
「では、そうしなさい。君の家は今からここです」
「…家?」
「そうだよ、ルゥ。アーシュも君と同じように、拾われてここに来たのだ。ここがルゥとアーシュの家になるんだよ。わかるかい?」
「…わか、ります…ありがとう」
 セキレイはやっとほっとした面持ちでトゥエにお礼を言い、俺に向かってニッコリと笑う。
 そんなセキレイが可愛くて嬉しくて俺は「セキレイ、大好き」と笑い、やせっぽちの身体をぎゅっと抱きしめるのだった。

 その日から、俺とセキレイは無二の親友になり、豊かな番いに、そして永遠の恋人になることを誓った。

 食事をするのも遊ぶのも勉強するのも風呂に入るのも一緒だった。
 俺はこの保育所で初めて心を寄せられる相手を得て、毎日が楽しくて仕方なかった。
 ここでの暮らしが初めてのセキレイは、何もするにも俺の真似をした。
 とことこと俺の後ろを付いてくるセキレイが愛おしかった。
 手を繋ぐと嬉しそうに笑ってくれた。
 夜になると俺達は一緒ひとつのベッドに寝る。お互いの体温を感じて良い夢を見る。
 セキレイの肌はいつも夏の木立に香る合歓の木の花の甘い香りがした。
 そう言うと、セキレイは「アーシュもするよ。凄く良い匂い」
「へえ~どんな?」
「え~と…あのね、草…あれ、エヴァが良く飲んでいるお茶の匂い」
 エヴァは薄荷のハーブティが好きだった。
「薄荷草の匂い?」
「うん。アーシュの匂いって凄く好き」
「僕もセキレイが好きだよ」
 
 俺たちはしっかり抱き合って寝た。
 アダは教育上良くないと渋い顔をしたが、エヴァは笑って許した。
 基本的にアルトは孤独を好む。他人を自分が決めたテリトリー内に簡単に入れさせない。勿論子供だから甘えもするし、一緒に遊ぶ。だが、俺達みたいに始終一緒に居るってことは、他の子供たちには無かった。
 魔法使いのプライドの高さは変な形で現れる…と、後になってよく俺はあざ笑ったものだ。
 常にくっ付いている俺とセキレイを見て、気色悪いと罵る奴はノーマルなイルトであり、大抵のアルトは無視をしていた。だが、俺は知っていた。本当はあいつらだって俺達が羨ましくて仕方ないんだ、と。

 俺とセキレイが笑いあい、遊ぶ姿を見て「明け初めの光と星空のようだわ」と、エヴァはいつもうっとりと溜息を付いていた。


 俺達はすくすくと育ち、保育所から同じ敷地内の学校の寄宿舎に移る年頃になった。
 保育所を出る日、最後の記念にと、俺とセキレイは保育所の裏の楠木の枝に二人で作った秘密基地に登った。
 ふたりで何ヶ月もかけ、板やレンガで作った小さな部屋だ。
 日がな一日ここで本を読んだり、一晩中流星を追っかけたり…エヴァたちから怒られるようなこともこっそりと行ってきた秘密の場所だった。

「壊すのは少し残念だね」
「そのままにしておくのも拙いだろう。小さな子がここを使って怪我でもされちゃ気の毒だからね」
「そうだね」
「新しい場所を見つけて、また基地を作ればいいさ。セキレイが居れば、どこでも作れる」
「ボクもアーシュが居れば、そこが秘密基地だよ」
 顔を見合わせふたりはニコリと笑い、キスをした。
「大好きだよ、セキレイ」
「ボクも、大好き」

 そして、俺達は新しい二人の王国を作る為に、その秘密基地の歪んだドアを取り外した。
 



a-syu ruuu


Private Kingdom その二へ
天使の楽園、悪魔の詩 1



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天使の楽園、悪魔の詩 その一 - 2011.06.04 Sat

ベル子供

天使の楽園、悪魔の詩

 その一

 俺がベルという名前を貰ったのはこの「天の王」学園に入学した六歳の時であり、それまではクリストファーと呼ばれていた。
 俺の父、スチュワート・セイヴァリは若い頃から名うての実業家であった。
 貿易会社「セイヴァリカンパニー」を立ち上げ、手段を選ばない商法でみるみるうちにサマシティ一の巨大な会社に成長させた。
 彼はこの街の覇者であり、人々は彼を「黒い孔雀」とも呼んでいる。
 
 スチュワートは有り余る金をぶら下げ、この街の高貴な貴族の娘に片っ端から求婚した。
 彼は貴族の肩書きが欲しかった。それがあれば他所との取引が有利になると思い込んでいた。
 彼に必要なのは愛ではなく金と名誉欲だった。
 貴族なんてものはプライドばかり高く、儲け話に出資しても大体が失敗し頭を抱えることになる。
 俺の母親の実家であるスタンリー家も借金に追われ、仕方なく一人娘のナタリーが父へ嫁ぐことになった。おかげでスタンリー家は贅沢三昧に放蕩したが、生贄の身になった母は勿論憤慨である。
 父と母が愛情を通わせることは一度もなかったであろう。

 俺はこういう両親の間に生まれた。
 初めからその出生を怪しまれたのは当たり前だ。
 父も女遊びには堅気ではなく、貴族はそれについては常識などあったものではない。
 16で嫁いだ母であったが、勿論処女ではなかった。
 母の弟であるエドワード伯父は幼い俺に、母と密通していたと自慢していたくらいだ。
 だから俺はある時期まで、この伯父が俺の本当の父ではないのだろうかと、いつも疑っていた。

 そういうわけで幼い頃から俺は両親から抱かれたことも愛情のこもったキスを受けた事もない。
 そういうものだと思っていたから、こちらも今更責める事もない。
 ただ寂しくはあった。
 多くのメイドの一人であるエリナはこの街の生まれではなく、南からの労働移民だった。 
 この北の街では余り見慣れぬ浅黒い肌とエキゾチックな面差しは混血のメスティーソであり、俺は彼女がお気に入りだった。
 彼女はハウスメイドであり、始終世話をしてくれるわけでもなかったが、俺はこっそり彼女を呼んで、お菓子をあげたりしていた。
 エリナは教養はなかったが充分に賢く、また唯一俺を心から気にかけてくれる人間だった。
 優しさや愛情からかけ離れたこの家で、なんとかマトモな人間でいられたのはこのエリナが俺を見守ってくれたからだろう。

 俺が生まれて間もない頃、高名な占い師が俺を見た。
 何を見るかというと「魔の力」を持っているかどうかである。
 それはこの街では重要な意味を持った。

 確かにこの街は魔法使いの市民権が与えられてはいたが、ノーマルな人間達は彼らの力をどうしても恐れてしまう。
 「力」があっても魔法使いは彼らを傷つけたりしない。魔法使いは人間を助ける為に存在する、と、謳う街の条例は迫害されかねない魔法使いたちの生き残れる許しだったのだ。
 街中では魔法使いは人間に使わされる存在だった。

 占い師は赤ん坊の俺を見てこう言った。
「この子には『力』がある」
 ここで周りの者達は落胆の声をあげたと言う。
「しかし、この子の力は恐れぬに足りん。この家の繁栄をもたらすことであろう…」
 彼女は大嘘を付いたのだ。
 俺を救う為に。

 貴族の子息は貴族しか通えない学校に入学する。
 普通の子供たちとは一線を隔てて育てるのが貴族流らしい。
 俺は「力」を持つ「アルト」だから、「アルト」にうってつけと言われる「天の王」寄宿学校へ入学した。
 実を言うと俺は家から離れられるのが嬉しくて、入学する日を今か今かと待ちわびていたのだ。
 また自分以外の同じ歳が集まる学校という組織は、憧れであった。
 入学前「天の王」の学長と面談の際、俺は学長から「ベル」と言う名前をもらった。
「ここでは貴族もお金持ちも…イルトもアルトも関係なく、生徒は平等です。君が今まで呼ばれていた名前は君の家の物だが、ここでは君に相応しい名前で暮していくことになります。よろしいですか?ベル」
 なんのことかさっぱりだったが俺にはどうでも良かった。
 もともと「クリストファー(救い主)」と、呼ばれることは少なかった。
 
 「ベル」となった俺は学園での生活を楽しんだ。
 とりわけ初めての寄宿生活はとまどいながらも、毎日が楽しくて仕方なかった。
 同い年の子達が6人部屋で過ごす。ここでは貴族もノーマルも関係ない。
 感情がぶつかり合っても決して傷つかない。
 まるで冒険の海へ船出するみたいに毎晩大騒ぎだった。

 授業もなにもかもが新鮮で、知らない知識を得る喜びは、あの意味もなく豪華でただっ広い家の何も得られない空間で過ごした空しさを払拭するようだった。
 週末、家に帰らなければならなかったが、それが近づく金曜になると俺は憂鬱で仕方なかった。
 帰る家のない幾らかの友人達が羨ましくて仕方なかった。
 家に帰っても家族が待っているわけではなかった。
 父は滅多な事では家に帰ってくることはなく、母はパーティと貴族のサロンに入り浸りで、俺の事など眼中になかった。
 学校の生活を知ってしまった俺は、ひとりで食べる食卓の貧しさに暗い気持ちになった。
 日曜の夕方になると、4キロの道のりを急いで、寄宿舎に帰る。
 俺の居場所はここだと思った。
 決して贅沢ではないけれど、みんなと食べる食堂の食事はすべて美味しかった。
 銀の食器のかわりに白い陶磁器の皿に載る野菜と煮豆が、俺にはなんだか心休まるもので、口にしながら俺の求めていたのはこれだったのではないかと、思わず涙が込み上げたほどだった。

 

 学校の生活にも慣れ、入学して半年も経った頃、俺は隣りのクラスに気になるふたり組みを見つけた。
 そのふたりは「アーシュ」と「ルゥ」と言い、いつもまるで双子のようにくっついている。
 見てくれは夜と朝のように違っているのに、仕草はまるで同じで、思わず噴出してしまうほどだ。
 彼らは幸せを体現しているかのように、お互いを見つめあい笑いあう。
 何故だかわからない感情が渦巻いて、俺は彼らから眼が離せなくなってしまっていた。

 俺は幼い感情を満たす為に彼らの友人になりたいと望んでいた。
 彼らも俺と同じように「アルト」だと知り、その感情は益々膨らんだ。

 彼らに近づく方法を俺はずっと考え続けていた。

 二年生になったばかりの夏が過ぎ去った午後だった。
 体育館の後ろの雑木林の手前、尖塔に登る螺旋階段の下、目立たぬ袋小路がある。
 3階の廊下から風で飛ばされた麦わら帽子を探しに雑木林へ行く途中だった。
 何人かの穏やかではない声が聞こえてきた。
 塀に隠れて様子を伺うと、あのふたりの片割れ、金髪の方、「ルゥ」が居た。
 ルゥは五年生の男子から「泥棒ネコ」と攻め立てられていた。
「ロッカーのこいつのバックから財布を盗んだのはおまえだな」
「違うよ」
「見ている奴もいるんだよ」
「おまえ、二年のくせに大胆な事するなあ」
「さすがに保育所上がりの奴はまともじゃない。アルトだからってでかい態度しやがって」
 散々な言われようもルゥは全く動じていないように見えた。

「こいつ、全然反省してねえ」
「痛い目に合わないとわかんねえみたいだな」
 背の高いひとりがルゥの胸倉を掴んで、拳を突き上げた。
 俺は慌てて飛び出した。
「やめろよっ!」
 奴らは一斉に俺を振り返った。
 俺だってケンカの経験もなければ、無謀な争いなんかしたくない。
 正直怖くて仕方なかった。けれど、ここで引き下がるわけにもいかない。

「下級生を大勢で責めるなんて卑怯だろ」
「なんだ、お金持ちのクリスか」
「ここではベルだ」
「そうだったな。おまえに関係ある話かよ。こいつは金を盗んだ。だからとっちめてやる。なにか間違いがあるのか?」
「…お、金なら…僕が返すから、その子に手を出さないでよ」
 俺の言葉に彼らは顔を見合わせた。
「ま、おまえがこいつの代わりに金を返してくれるなら、許してやるよ」
「ありがとう」
「その代わり、二倍にしてもらう。それくらい持ってるだろ?街一番の成金息子なんだから」
 俺は黙ってそいつらの言う金額を支払った。
  
 五年生の姿が消えるのを待って、俺は壁に凭れてじっとしているルゥに近づいた。
「大丈夫?怪我はない?」
 俺の言葉にルゥは、ふっと笑った。
 彼の顔には緊張感は見えない。

「ざんね~ん」
 突然上の方から声が聞こえた。
 螺旋階段から顔を覗かせたのは…褐色の髪をしたアーシュだった。
「う~ん、いいところまで行ったんだけどね」
「まさかあそこで助けが入るとは…というかとんだ邪魔者出現。さすがに予測不可能だ」
 カンカンと階段を下りる靴の響かせたアーシュがルゥの傍に立った。
 二人は並んで俺をジロリと見つめた。
 俺は何のことかまるでわからない。

「でもさ、お金まで出させちゃって悪かったね」
「盗った分を返してやれよ」
「うん」
 ルゥはズボンのポケットから財布を出した。
 俺は彼らのわけのわからぬ話と出された財布に言葉も出てこない。
 結局こいつらが犯人で、俺はピエロを演じたわけだ。
 差し出された財布を受け取るはずもないだろう。
 俺は空しくなってその財布を叩き落した。
「お金なんていらない。僕は…君達と友達になりたかった。だから助けたかったんだ」
 アーシュとルゥは目を見張って感嘆の声をあげた。

「ベル、君ってすごい良い奴だね」
「ホント、おい、ベルを見習えよ。こういう子がまともな魔法使いになれるんだよ」
「…一体何のことだよ」
 俺はなんの話か全くわからない。
「あのね、ベル。僕たち『力』を試したかっただけの。ほら、せいとーぼうえいなら魔力を使っても怒られない、だろ?」
「はあ?」
「だって宝のもちぐされじゃないか。せっかく持っている『力』だもん。たまには使ってみたいって思わない?」
 アーシュは引き込まれそうな深い藍色の瞳を見開いて俺を見つけた。
「勿論、酷いことにはならないように気をつけるけど、ね」
 ウィンクしたルゥは屈託のない笑顔を見せた。

 一瞬にして俺は彼らの虜になったのだ。




アーシュとルゥの子供時代


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天使の楽園、悪魔の詩 その二 - 2011.06.08 Wed

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その二

 この件をきっかけに、アーシュとルゥは俺を友達として認めてくれた。
 それまでは俺の事など視界にも及ばなかったふたりの有様が一変した。
 彼らは一旦心を許してしまうと、新参者の俺にさえ一切の隠し事はしなかった。
 どうやってここで育ったのかを面白おかしく話し続けた。
 俺もまた自分のお家の事情って奴を詳しく話し聞かせてやった。
 彼らは想像もできない別世界だと首を傾げた。
「でも両親がいても愛してくれないのは悲しいね。僕らは初めからいないから仕方ないけどさ。ベルはよく耐えてるよ。えらいぞ」
「えらいよ、ベル」
「そんなことはないけど…」
 こんなことで褒めてもらったことがないから、照れてしまう。
「貴族やブルジョワってちょっと憧れたりもしてたけど、少しぐらい窮屈でもこちらの方がマシってことだね」
「僕にとってはここは楽園さ。それに天使もいるし」
「え?」
「君達のこと」
 俺の言葉にアーシュとルゥは腹をかかえて笑い出した。
 結構本気で言ったつもりだったのだけど…

 勿論彼らは微笑むだけの天使ではなかった。
 規律を潜り抜けては「力」を試し、他愛のないいたずらはしょっちゅうだった。
 中でも校内のあちらこちらを探検することは極めつけの冒険だった。
 古いこの学校のあらゆる隠し扉を開いては、「誰にも内緒だよ」と、人差し指を口に当てて、俺を部屋の中に導く。
 俺にとってまさに「秘密の花園」であり、彼らの言う「秘密基地」の一員に加わった喜びでこの上もなく幸せだった。
 それにふたりを知っていく毎、彼らの屈託のなさに感心した。、
 アーシュもルゥも別段孤立しているわけではなく、誰とでもわけへだてなく交流する。付き合いは俺よりも彼らの方がかなりポジティブだ。
 それまで高慢な貴族の子息、なにかと黒い噂の絶えない「セイヴァリカンパニー」の跡取りと見られていた俺は、表面上は仲良くしていても、心から打ち解けられる友人はいなかった。だが、アーシュとルゥのおかげで、それまで遠巻きに見ているだけだった貴族や資産家の子息達以外の生徒が俺に声をかけてくれるようになった。
 接してみると上流階級の奴らよりも彼らの方が、遥かに賢く、博識であった。
 特にアルトの子は歳若いながらも色々なことを考えている。

 彼らは俺を珍しいと言う。
「貴族で資産家の跡取り息子なんて、まともじゃないと思っていたけど、ベルは良いアルトだ。尊敬するよ」と、あまり付き合いに積極的ではないハイアルトたちも友情の握手を求めた。
 俺は初めて自分の価値を認められた気がして、自分が「ハイアルト」で良かったと、また良い魔法使いになる為に、この学校で懸命に学んでいこうと心に強く願った。


「ベルは良い人すぎるよね」
「まあ、突然変異だね。僕達と似かよっている。ああ、そこの長い板を取ってくれ、セキレイ」
「わかった」
 アーシュはルゥのことを何故か「セキレイ」と呼ぶ。その意味を尋ねたら「僕はアーシュに拾われたの。、その時の記憶がなかった僕を、アーシュは『セキレイ』と呼んだ。だからアーシュにとっては僕は『セキレイ』なんだ」
 よく判らなかったが、これは独占欲を表しているのではないか…と、後になって思ったものだ。
 アーシュはルゥを自分だけのものとして「セキレイ」と呼び、ルゥは「セキレイ」と呼ばれることで、アーシュのものでいられると安心する。

「ベル、ほら、しっかり板を持っていてくれよ。釘が打てないだろ」
「ああ、悪い」
 俺達は雑木林の奥にあるデカイ楠木の枝の上に小さな「秘密基地」を作っている。
「できた!」
 嵐が吹けばすぐにでも飛んでいきそうな掘っ立て小屋だ。
 俺達三人が腰を屈めてやっと入れる狭い家だ。

「前の基地よりマシだが…三人が入るにはきつそう」
「仕方ないよ、俺達は成長期だしな。三年もてばいいんだよ。どうせ中等科に行けば、校舎も変わるんだしさ」
「三年も持ちやしないさ」
「セキレイ…出来上がったばかりでテンションが下がる事言うなよ。さあ、入ってみようぜ」
 アーシュを先頭にそのクソ狭い「秘密基地」へ膝を折りながら進んでいく。
「なかなかいいじゃん」
「ああ、思ったよりもずっといい」
「でも…背比べはできないね」
「まあ、カードゲームぐらいなら大丈夫」
「それと…夜天を見るときは便利だ」
 三人並んで寝そべりながら 天上を見上げた。隙間の開いた屋根からは青空が覗いている。
 右側にアーシュ、左にルゥがいる。
 他になにも望めないくらい俺は幸せだと感じていた。
「ずっとこのままでいたいね」
 心に浮かんだ言葉を口にしてしまった。口に出した後、ふたりに笑われるかもしれないと恥ずかしくなる。
 だが、ふたりは笑わなかった。
 アーシュの手が俺の右手を繋ぐ。同時に左手にはルゥの手が繋がった。

「ずっと一緒さ。大人になってもずっと仲良し三人組でいよう」
「僕も賛成だ」
 堪えていた涙が流れる。
 ふたりは俺の両頬にキスをした。
 交互に顔を見合わせ「ありがとう」と、言った。
 微笑むふたりはこだまのように「ありがとう」と応えるのだ。
 


 十一歳の夏、四年生を終え五年生になる長い夏季休暇は辛い思いをした。

 毎年、この時期は憂鬱になる。
 学校が休日ならば当たり前に自宅に帰らなきゃならない。
 誰も待っていない家へ帰ってもつまらないだけだった。
 俺を可愛がってくれたエリナも、俺が知らぬ間にこの家から居なくなった。
 理由を聞くと、母の宝石を盗んだと言う。彼女に限って言えばそれはありえないと思った。
 エリナは俺の知る限り物欲に乏しかった。
「騙されてはいけませんよ。坊ちゃま。ああいう移民は帰る家がないので、かかる責任を負わなくていい。何もしても自分が罰せられればそれで終わりです。私どもはそうは参りません。この家やご主人様を守るという崇高な使命があるのです。ここで働く事は自分の身を投じて尽くすということでございます」
 古くから勤めるバトラーの言葉はちっとも俺の心に響かなかった。
 結局何を言っても求めても、俺がこの家で得られるものは無いに等しい。

 その年は休日の大方を母の実家であるスタンリー家で初めて過ごすことになった。
 街の中心から離れた郊外にその大邸宅はある。
 車で三時間ほど走ると、咽かな田園風景が続き、次第に白樺林が見えてくる。
 その木立を過ぎるとに遠くの山々を背景にした瀟洒な屋敷が現れる。
 アラベスク文様の門を通りぬけ、両側に並んだ潅木の間に鮮やかに咲く花壇の花々を眺めながら、車は玄関アーチへと続く。
 重い扉の奥は広いフロアにスタンリー家の紋章をあしらった、百合とアカンサスの葉をデザインされた毛足の長い絨毯が敷き詰められていた。
 大理石の床と黒檀やマホガニーを存分に使った家具や内装も、セイヴァリ家とは違って上品で嫌味がない。
 すべてが行き届き、安らぎさえ感じた。
 さすがに古き歴史を持つ貴族だと、また自分がその血を受け継いでいる事に少し誇りを持った。
 広間から続くコテージガーデンには彫刻や噴水、人工で作られた滝や池など、子供にとっては厭きのこない遊び場で、アーシュやルゥを連れてこれたらと何度も思った。

 広間では昼間はサロン、夜はパーティが幾度と無く開かれ、母の姿もちらりと見えた。
 母は俺を見ては、目を細めた。
「まあ、クリストファーはあの人に似ないで綺麗に育ったのね。恥ずかしくない容貌だわ。これならスタンリー家に恥じない跡目と言うものでしょう」と、俺にキスをくれた。滅多なことじゃなかったから俺は驚いて後ずさってしまった。
 赤く頬を染めた俺を笑い、母は去っていく。
 きつい香水の匂いだった。それでも、母のキスが嬉しかった。


 主である叔父のエドワードは、屋敷の中ではよく見かけ、俺を見ると指を立てウィンクをしてくれた。
 ひとりで寂しくないようにと食事もたまに付き合ってくれた。
 彼は言う。
「クリストファーは私に良く似ているね」
 確かに俺の容貌は母でも父でもなく、このエドワード叔父に酷似していた。
 だから使用人だけではなく、サロンに来るお客たちも俺の顔を見ては、エドワードと母に意味深な視線を投げかけるのだ。
「甥であるのだから似ていてもおかしくあるまいが、これだけ似ていると、私も自分で問いたくなるね。君は私の息子かい?」
 そう言われても俺は笑うしかない。

 ある夕食の晩、他愛のない学校の話をしながらエドワードは俺に尋ねた。
「クリストファーは幾つになる」
「十一歳です」
「ふ~ん、それじゃあ、セックスは経験した?」
 俺は思わず口に運んだスープを噴いた。
「な、ないです」
「じゃあ、私が教えてあげようか」
「え?」
「スタンリー家主直々に相手をしてやるよ。どっちにしろ、君は私の後を継ぎ、この家の当主となるのだから」
「僕が何故この家を継ぐの?叔父様が結婚したら、そのご子息が後を継ぐのでしょう?」
 この時、エドワードは母とひとつ違いの27歳だった。この歳の貴族なら大方は結婚している。
「私は結婚などしない。ひとりの女と一生暮すなんて考えるだけでぞっとする。恋愛は自由気ままが一番良い。それに他者にこの家の財産を分け与えようとは思わないのでね。私は好きに遊んで贅沢三昧させてもらい、そして充分に放蕩したら、庭の池にでも頭から飛び込んで死んでやるのさ。そして残された物すべてをクリスに譲ってやろう。どうだい?ステキな人生プランだろう」
「…はあ」
 これでは彼がケチなのか、度量が大きいのか、ただのバカなのか分からない。
 しかし、俺はこういう叔父が嫌いではなかった。

 その夜、エドワードが俺の寝所に忍び込んだ。
 ベッドに寝ていた俺の横にいつのまにか入り込んできたのだ。
 夢心地でいた俺も流石に驚いて、彼の所業を諌めた。
「エドワード、何用ですか?」
「ひとりじゃ寂しいだろうから添い寝をしてやろう」
「いりません」
「じゃあセックスの指導だ。君が本当に初めてかどうかも気になるところだ」
 手を払う俺の意思を無視したエドワードは、俺の身体を抱え込んだ。間も無く寝着のシャツの裾の中に手を滑り込ませてくる。
「ぼ、ぼくはまだ十歳ですよ。セ、ックスなんてまだ早い」
「私は8つの時に叔父から抱かれた」
「…変態ですね」
「そういう血族なら仕方ない。君も慣れろ」
 身体を撫でるエドワードの指先は思ったよりも不快ではなかった。

「…嫌です。僕は…このスタンリー家を継ぐ気はありません」
「じゃあ、あの趣味の悪いカンパニーの社長になるのかい?」
「…」
「君の父親だってあくどい事には事欠かない最低な人間だぜ。クリスはそういう人間になりたいのかい?」
「どっちも…なりたいとは思わない」
「ひとりじゃ生きていけないくせに我儘なんて言うものじゃない。君が優雅に学校生活を楽しんでいられるのはお金と名誉があるからじゃないか」
「…」
「少しくらい私を楽しませろ、クリストファー」
「だって…」
 少し抵抗して身体を押しやる。エドワードは俺の両手を縛り上げた。

「あまり抵抗するなよ」
「だって、怖いよ、エドワード」
「怖くはないさ。まあ、色々なプレイで楽しむ奴も貴族には多いけれど、私はベッドでも紳士だよ」
 思わず涙ぐむ俺を、エドワードは優しく耳元で囁いた。
「泣きなさんな、クリス。出来る限り優しくする。そりゃ少しばかりは痛いだろうが、大人を踏み出す一歩として考えなさい。君がここで覚えることは損ばかりではないよ…きっとね」

 エドワードの青い瞳には、泣きそうな俺の顔が映っていた。
 それはきっとエドワードの子供の記憶かもしれないと、感じていた。
 だから、俺は彼の求めに応じた。
 抵抗しても逃れられない運命なら、初めから諦める方が、傷は少なくて済む。
 



天使の楽園、悪魔の詩 1へ /3へ


ここはもっと暗くなるシーンだったが、書いていくうちどうしてもエドワードを悪く書きたくなかった。
私は暴力やレイプシーンがとても嫌なので、無理矢理されたにしてもその理由と相手に納得させるように書きたい人です。
世の中、イイヒトばっかりじゃないのは当たり前ですが、私の作る話の中でだけでも、本当の悪人なんていない世界でありたい…と、願うファンタジーだと思ってください。



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