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2019-09

Private Kingdom 1 - 2011.05.20 Fri

アスタロト35

Private Kingdom
その一

「本格的な冬の始まりを告げる雪が深夜には吹雪になるだろうと、ラジオの天気予報を聞いた私は、慌てて終わらない仕事を切り上げ、校舎を出て校門へ向かった。
夜の校門の二重扉の間に、生まれたばかりの赤子を見つけたのは偶然だったのか…いや、必然だった。
粗末な麻の包みに包まれた赤子は雪の冷たさも微塵も感じないかのように、泣き声ひとつ上げなかった。
ただ静かに、私が見つけるのを待っていたかのようにさえ思えた。
赤子を見つけた私が驚いてその包みを抱くと、その赤子は私をじっと見つめた。
プルシアンブルーに映る那由多の星々がその瞳の中に見えた。
類稀(たぐいまれ)なる美貌、目もくらむ存在、光輝く御子。どう呼んでいいのかわからない。
あまりの美しさに、誰もがこの子を妬んで、ともすれば害を与えるかもしれない…と、思った私は、金の粉を振りまいたようなプラチナの髪を褐色の猫毛に、類稀なる美貌をはぐらかす為に私の眼鏡をその赤子にかけさせてやった。
そしてこの類稀なる赤子に真なる名前を…与えた。即ち『アスタロト・レヴィ・クレメント』と…」
「…」
 いい怪訝適当な法螺を何度も繰り返し語ってんじゃねえっ!クソ爺っ!

 学長であり、俺を拾ったトゥエ・イェタルは説教の度に俺に昔話を聞かせる。それも大方作り話だ。毎回微妙に表現が違っているのを本人は気づいているんだろうか。
「親父さん。それもう百回も聞いてますっ!」
「親父さんじゃなくて学長です」
「はい、学長。拾ってくれたのはありがたいと思っています、学長が見つけてくれなかったら、赤子の俺はきっと凍え死んでいるでしょうから。でもですよ、いくら『類稀』でもわざわざ髪の色を変えたり、目も悪くないのに眼鏡かけさせたりするのって…ちょっとおかしくないんでしょうかねえ~」
 ぜってー法螺話だ。
「いや、君を適当に見せるためにはそれくらいの誤魔化しは必要だった。あのままで居て御覧なさい。君はそんなに自由にしてはいられまい。類稀な美しさが君を見るすべての者たちを狂わしてしまう。神話の中の傾国の美女の如くに…ふう…」
 舌先も乾かぬうちに本人の目の前で溜息付くなよ…
 
「もう説教はいいです。ゴーラス講師を殴ったのはこちらにも非があると認めます」
 物理の追試の個人テストで、俺にセクハラをした講師の顔を殴り倒した。もちろん力は使わずに。
「セックスを強要することは如何せん新任の先生にしても許しがたい失態です。彼は即刻解雇です。しかし嘆かわしい限りだ。聖職につく者でありながら…やはり講師はこの街の出身者を選ぶべきでした。アーシュ、君には嫌な思いをさせて本当に悪かった…」
「学長が頭を下げる必要はありませんって。強要するやり方を間違う愚者には身を持って知ることも必要でしょう。こちらも貞節を気取る気はないけれどね。段取りは大事でしょう。ただ欲望を満たせばいいというものでもない。それに俺はセックスは好きな奴とやりたい性格(たち)なもので」
「アーシュ。まるでこの学校がセックスを奨励しているように言うんじゃありません」
 性欲剥き出しの年頃の集まるこの場所で、抑制など無理な話。規制は必要だが厳しすぎるのは反乱の元。ある程度の規律を守れば、自由恋愛は至極当たり前。
 強姦、暴力は許しがたいものだが、同時に消せぬ事態も多い。
 しかし、差し出がましく取り締まる気もこちらには毛頭ない。降りかかる火の粉は勿論掃うが、他人の世話まで見る主義ではない。

「性の自由度は個人の理性による。その理性を学んでこそ、この『天の王』の生徒であるという証でしょう。勿論それなりの秩序は持ってしかるべき話です。この学校の自由さは維持されるべきだ」
「限度にもよるがね。ここは私立学校でもある。評判を落して、住民から敬遠されても困ります」
「粗暴な街と比べたら、ここはエデンの園ですよ。まあ、僕はここの居候の身だし、卒業までは模範生でいますからご心配なく」
「君を居候だと思ったことはないよ、アーシュ」
「…わかっています」
「君は随分と耐えてきた。私にはわかっているよ、アーシュ。もう間も無く、君はこの地から旅立つことになるだろう。自由の未来を君自身が選んで歩けることは喜ばしいことだ。だがね…どうやら私にはそれが…とても寂しく思えてしまうんだよ。子供達を送り出すことが我が身の幸福と信じてきたんだがね…歳かな。近頃は感傷的になってしまう。教育者としては失格だね」
「学長…トゥエ…親父どの、あなたはこれ以上ない程の最高の親ですよ。おかげさまで俺はひねくれ具合もサマになっている。」
「君は充分いい子だよ、アーシュ」
 トゥエは学長としては厳しくも秩序を守る番人として相応しいが、何故か俺には甘い。自らの手で拾った所為であると言うんだが、親という者はこういうものかと、思い知らされることも多い。
 
「明日は君と…ルゥの誕生日だね。うちでささやかな晩餐を開こうと思うが、どうかね?」
「勿論、喜んで伺います」
「ベル達も一緒に招待しよう」
「『ホーリー』の集いですね」
「そうだよ」
 トゥエは「他の生徒には秘密だよ」と口唇に人差し指を置いた。
 勿論俺もそのつもりだ。


 サマシティに唯一存在する私学の寄宿学校「天の王」は、六歳から入学し初等科、中等科、高等科の十二学年を経て卒業となる。
 俺は高等科二年の十一年生。
 卒業までは一年と半年。
 卒業証書をもらえればこの街からは出ることは自由。どこの街へ行こうが足枷は無い。
 ただ俺みたいな身寄りもない奴はお金がないから、進学なんぞは望んでいない。援助金を貰ってまで大学に行きたいかというと…そうでもないしな。
 だが、親も帰る家もない俺に、具体的な先行きなど一切ない。

「進学しろよ、アーシュ。おまえの大学費用ぐらい俺が出すから。なんならルゥも一緒にでもかまわんよ。払いは出世払いでいい」
 この街一番の貿易商社の跡継ぎであるベルは気前良く言ってくれるけれど、簡単に甘える気分ではない。それでなくても俺もセキレイもベルにはいつだって全面的に頼りきってしまうんだから。

「しかし…セキレイがここから出て行ってもう三年経つ。いいかげん連絡ぐらいくれても良さそうなのに、一向に便りもないし、夢で俺を呼ぶことも無い。卒業までに帰ってくるかどうか…もし、ここを卒業するまでに帰ってこなかったら、俺はここで待つしかない。あいつの帰る場所はここしかないんだし…」
「アーシュ。俺が言うのもなんだが…卒業までにルゥが帰ってこなかったら、待つだけじゃなく、こちらから探しに行くって手もないこともない…と、思うんだ」
「ええっ!」
 ベルの言葉に俺は驚愕した。だってセキレイを探しにこの街を出るなんて…夢にも思いつかない話だった。
「ベルっ!おまえ、すげえ~。そうだよな、そういう手もあるよなっ!」
「…やっぱりな。おまえさ、ルゥと再会するには、ここで待つしかないって決めつけてるだろう。普通、色々思いつくはずだがね」
 ベルは心から呆れた様子で肩を落して見せた。
「だって…ここで待つって、セキレイと約束したんだもの」
「そして歳を取り、想う奴とセックスもできないまま、欲望だけが積もりに積もってひとり寂しく死んでいくんだな」
「ぜってーヤダ!」
「じゃあ、具体的なルゥ探しでも考えろ」
「…わかった、そうする」
「で」
「なに?」
「誕生日のプレセント、何がいいんだ?」
「へ?…考えてない」
「全くね、いつだっておまえは自分のことなんぞ、これっぽっちも考えてないんだからな。大体今回の事件だって、免職ぐらいで済ませるはずもない。ああいう連中は他に行っても同じ事をやる。死を与えて地獄行きにした方が身のためだった」
「ベル。おまえが裁く者だとしても、おまえが手を下す相手じゃない。最もベルを怒らせたのは俺も謝る。心配させて悪かった」
「…嫌に、素直だね、アーシュ」
「こちらに隙があったのは認める。あの講師はセキレイの目の色に似てたんで、じっと覗き込んでいたんだ。まさかその気になるとは思わなかったけどな」
「哀れ…我を信じる者、いと愛せり…気持ち悪…」
 忌々しそうに吐く真似をするベルに同情する。
 本気で心配させたのは本意じゃなかったからな。
「ベル、誕生日のプレゼントは貞操帯で結構。君が鍵を持っててくれ」
「…嘘だろ…」
 下らないジョークに二人とも笑い転げた。


 俺とセキレイの誕生日、十二月四日の夜、俺達『ホーリー』は学長トゥエの自宅へ集まることになった。
 『ホーリー』とは、『真の名』を持つ者の呼び名であり、同じ学年はセキレイを入れて五人だ。
 後にも先にも同学年に五人もの『ホーリー』が居た例はこの学校が始まって以来一度も無い。


 街の中心を流れる河川の土手をベルと歩く。
 辺りは黄昏。この付近には電灯が無い。
 トゥエの自宅に着く頃には真っ暗闇になると思い、それぞれに手灯持参だ。
 空気が冷たくなり吐く息が白くなったと思ったら、今年初めての雪がふわりと舞い落ちてくる。
 ふと誰も居ない川原に目をやる。

 あの日、あの川原で、俺はセキレイを見つけたんだ。
 トゥエが言う、俺を拾った時に感じた運命が必然なら、セキレイを見つけた俺もまた、逃れられない運命だったのだろうか…
 


アーシュ10

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新世界の構築は難しい(;´Д`)


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Private Kingdom 2 - 2011.05.26 Thu

a8


その二

 「天の王」の学校の敷地には保育所があった。
 捨て子の俺を拾った学長は、俺をその保育所に預け、俺は初等科の寄宿舎に移るまで、この保育所で育てられた。
 零才から六才までの子供たちが一緒に暮していたが、自分を入れても十数人ほどしか居ない。
 育児を担当する保育の先生はエヴァとアダのふたりだ。
 俺はしっかり者のアダよりも、ちょっととぼけたエヴァに余計に甘えていた。
 不思議な事に俺と同い年の子供はおらず、上下共に仲良く遊んでいたが、どことなく仲間はずれのような気もしていた。

 「天の王」はサマシティでは一番の規模を誇る施設であったし、この街は名のとおり、通りすがりの者達が立ち寄る拠り所でもあったから、経済的な…諸々の事情により子供を育てられない親達がそっと置き去りにする事も多く、よく保育所にも新しい赤子や幼子がやって来た。が、ほとんどが二、三日の間に、居なくなる。
その理由を聞くと、「それはね、あの子には力が宿ってないからよ」と、エヴァが言う。
「力?」
「そう。でも心配しなくていいわ。あの子達の保育所はちゃんと用意されてあるから、大丈夫なのよ、アーシュ」
 その時は意味がわからなかったが、宿る力、即ち、「魔力」を持つ者だけがこの「天の王」の保育所に居ることが出来、ノーマルな人間はここには不必要って話だ。

 この街では、力を持たないノーマルな人間を「イルト」と呼び、力を持った人間を「アルト」と呼ぶ。
 全人口の比率は八対二ほどで、この学校では半分がイルトで、残りの半分がアルトだ。
 当たり前だがアルトの中でも差は大きい。
 危険を予知したり、簡単な天気予報を当てたりするのは「ローアルト」、力が強くコントロールできるアルトは「ハイアルト」と呼ばれる。
 俺は「真の名」を与えられるまではただの「ハイアルト」だったが、13の誕生日に与えられた名前のおかげで、誰もが恐れ羨む「ホーリー」となった。

 
 
 さて、「セキレイ」の話をしようと思う。

 あれは俺の四歳の誕生日だった。
 俺の誕生日は学長が俺を拾った日、十二月四日だった。
 その日、いつものように昼寝前にエヴァが俺達に物語を話し聞かせてくれた。
 俺は誕生日だったから、特別にエヴァの膝の上に乗り、エヴァの一番近くで物語を聞くことが出来た。
 エヴァはおっとりとした優しい性格だったが、絵本を読んだり、勝手な創作物語を作り、生き生きと話し聞かせることが上手かった。みんなエヴァの話に心踊り、熱心に耳を傾けたものだ。
 その日の物語もまた、エヴァの作り話だった…


 昔々の物語。
 山里の平和な村に、ある日とんでもない事が起こってしまった。
 今まで噴火したこともない里に続く近くの山が、突然噴火をし始めたのだ。
 最初はゴゴゴという地鳴りから始まり、そのうち赤く燃え上がる噴煙が上がり始めた。
 村人たちは騒ぎ、恐れ、一体どうしたらいいものかと頭を抱えた。
 この村に住む一人の少年もまた、同じように心を痛めた。
 父の居ない少年は身体の弱い母と二人暮らし。まだ生計の経てない少年に村人たちは何かと手助けをした。その温かい助けもあって、今日まで何とか生きてこられたのだった。
 村の為になにかできないものか…少年は夜も寝ずに考え続けた。
 母を寝かせ、その夜もひとり家の外に出て、井戸の近くに座り、噴火する山を恨めしく見つめていた。
 そこへ一羽のハクセキレイが飛んできた。
 少年の膝の上に止まり、少年の目をじっと見た…


「ねえ、エヴァ、鳥って夜は目が見えないよね?」
「え…勿論そうだけど、でもね、アーシュ。これはなんでもありの物語なの。だから超自然なことも簡単にありえる世界なのよ」
「へえ~、そういうのって『都合のいい話』っていうんだろ?」
「そういう事言うと、先を話してあげないわよ」
「はーい、お口はチャックだよ」


 セキレイは言う。
「何をそんなに悲しんでいるの?」
「あの山さ」
 セキレイは後ろを振り向き、火の粉を噴いている山を見た。
「あの山がどうしたのさ」
「このまま噴火を続けたらマグマが流れ出して、この山里を燃やしつくしてしまうだろう。それを止める手立てはないだろうか」
「あるよ」
「ホントに?」
「あの噴火を止める術を私は知っている。けれど…君にそれができるだろうか」
「できる…いや、自信はないけれど、ぼくはどうしても村の人たちを助けたい。これまでぼくとお母さんを助けてくれた恩返しにぼくがやれることなら、なんだってやるんだ」
「そう、じゃあ、この村を助ける為に、君はあの山の火口まで行くしかないね」
「あの、山の?」
「そうだよ。急がないと本当に大きい噴火が始まってしまうかもしれないよ」
「わかった」
 少年はすっくと立ち上がり、家へ戻った。
 寝ている母親の枕元に「しばらく留守にするけど心配しないで」と、言う短い手紙を置いた。
 引き出しから死んだ父の形見のダガーを取り出し、腰に差した。
 戸棚から明日のパンと水筒には水を入れて、準備万端。山に向かって走り出した。
 
 山道は険しく、けもの道でなかなか先には進めない。
 ツルに足を取られ、岩に滑り、何度も転んだ。
「ああ、ぼくには何の力もないんだ」
 痛む足を押さえて少年は咽び泣いた。
「君の言う覚悟はそんなものなのかい。もう、村を助けることを諦めたのかい?」
 いつの間にかあのセキレイが彼を見守っていた。
「違う。でもぼくの足が言うことを聞かない。それに行く道もない山をどうやって登れるんだ」
「私が案内するよ。勿論、君にやる気があればだが」
 目の前で羽ばたくセキレイを見ていると、なんだか勇気をもらえる気がした。
 少年は立ち上がり、セキレイの案内に従って、山を登った。

 途中、狼やカラスの大群に襲われたが、父の形見のダガーが彼を守ってくれた。
 二日目の夜を向かえ、少年は漸く火口の近くまで辿り着いた。
 しかし少年は見るも耐えないほどの満身創痍だった。
 少年はずっと彼を案内し続けたセキレイに言葉をかけた。
「やっと辿り着いた。さあ、これからどうすればこの噴火を止められるんだい?」
「よくがんばったね。だけどこれからが大変なんだ。この噴火を止めるには、ここまで辿り着いた人間が自らの身をこの火口の中へ投じなければならないんだよ」
「え…」
「誰だって死ぬのは怖いよね。でもあの村人達を助ける為だったら、君の命ひとつは安いもんじゃないのかい」
 少年は少しだけ考えた。自分の命が里の人を助けるのなら、この身を投げても構わない。ただ、母親はきっと悲しむだろう。
 だがそれも一時の事だった。少年はきりりと前を向くと火口に向かって歩き出した。

「君はすばらしいね。きっと後世に村を助けた英雄として名を残すことだろう」
 セキレイの言葉に少年は振り向いた。
「名前なんていらない。誰の記憶に残らなくていいんだ。ぼくは自分のできることをやったまでだよ。それよりセキレイ」
「…なに?」
「ありがとう。君が居なかったぼくはなにも出来ずにただ泣くばかりだったろう。ぼくは今幸せだ。君のおかげだよ。ありがとう」
 少年はこれまでセキレイが見たこともない程に美しい笑顔を彼に見せた。
 そうして迷いもせずに燃えさかる火口へ身を投げた。
 
 セキレイはその様子をじっと見つめていた。
 しばらくするとセキレイは羽を広げ、空高く舞い上がった。
 高く高くどこまでも舞い上がった。
 そして一気に下降した。
 吹き上がるマグマの中にセキレイは突っ込んでいく。
 彼は燃えなかった。彼の強い魔力が彼の身体を包み、彼の白い羽がキラキラと光る。
 セキレイは少年を探した。
 少年の身体はとうに燃え尽き、灰さえも残ってはいなかった。
 それでもセキレイは少年を探した。
 そして彼は見つけた。少年の魂の欠片を。
 セキレイはその欠片をくちばしで啄ばみ、そして飲み込んだ。
 
 今度はまた急上昇だ。
 閃光のようにセキレイは火口から飛び出した。
 火口の溶岩は次第に弱まり、夜の山野を赤々と照らしていた悪魔も次第に闇に溶けていった。
 
 セキレイはその様子を夜天から見下ろしていた。
 山里の人々の歓声が、微かに空に響き渡った。
「見えるかい。君の望んだとおりに噴火はおさまった。聞こえるかい。村人達の喜びの声が…」
「ありがとう…セキレイ、ありがとう」
 今はいない少年の声がセキレイには聞こえた気がした。
 涙を知らないセキレイの瞳から涙が零れたのを、セキレイは不思議に思った。
 そしてただ朝の光に向かって飛び続けた…
 
 

 俺は号泣した、エヴァのエプロンが絞れるくらい泣いた。周りのみんなも残らず泣いていた。
 あまりに泣くのでエヴァが困惑したぐらいだ。
 それでも泣きつかれたのか、その日の昼寝は皆すぐにぐっすりと寝付いた。
 俺は眠れなかった。
 ひとり夜の空を飛び続けたセキレイの気持ちを考えると、とても眠れなかった。また村人を助ける為に自らを犠牲にした少年の勇気に心が震え、目を閉じても赤い火口が瞼を焼き付けるようだった。
 俺はエヴァたちの目を盗んでベッドからこっそり抜け出し、近くの川原へ走った。
 もしかしたらあのハクセキレイが、いるかもしれないと思ったのだ。
 
 勿論、いやしない。
 冷たい水の中を歩いてみたけどやっぱり見つからなかった。
 夕刻が近づき辺りはどんよりと冷たく、雪もちらほらと舞ってくる。
「セキレイ、居ないかな~」
 川原の石を川面に投げつけていたら、対岸近くの川面が一時金色に輝いた。驚いた俺は浅い川の中をばしゃばしゃと濡れながら、その輝くものに近づいた。
 近寄った時はもう輝いてはいなかったが、代わりに布切れが巻きついたものを見つけた。
 なんとか布を引っ張って川岸まで運んだ俺は、その布をそっとはぐってみた。
 そこには黒いススで汚れた小さな子供がいた。
「ぼくのセキレイだ!」
 俺はそう叫んで、その子の汚れた頬にキスをした。




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「Private Kingdom」その一へ /その三へ

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イルトとアルトだが…博多弁で「これいると?」「それあると」と、会話できます。(;^ω^)意味なし~



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Private Kingdom 3 - 2011.06.01 Wed

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その三、

 誰かが忘れた草スキーのプラスティックのソリが川原に流されていた。
 俺はそれを拾ってセキレイを乗せ、保育所まで運んだ。
 運んだと言っても4歳の子供が引っ張っていくのだ。
 陽は段々と暮れるし、雪は絶え間なく降るし、学校までの距離は二百メートルもなかったが相当な労力を使い果たしたはずだ。
 だが、その時の俺は誰に力を借りる事もせず、俺だけでセキレイを助けたかった。

 なんとか保育所まで運んだセキレイを、エヴァたちに見せた。
 エヴァは驚き、すぐにセキレイの身体を抱き上げ、「早く温めなければ」と慌てふためいた。
 アダは「どこで見つけたの?」とか「私達を呼んでくれればすぐに駆けつけたのに」と、俺を責めた。
 俺は「呼びに来る間にセキレイが消えちゃったら嫌だ。だから僕が運んだんだ。だからセキレイは僕のものだ!」と叫んだ。
「セキレイ?あの子の名前?」
「そうだよ」
「あの子がそう言ったの?」
「違う。僕がそう決めたの!」
 アダは訳が分からないと、呆れ顔をする。
 
 身体をしっかりと温められたセキレイは、医務室のベッドに寝かされ、意識がないまま眠っていた。
 湯を使った所為か、先程とはまるで違って綺麗な顔をしていた。
 ススの被った髪はキラキラと光る薄い金色に輝き、肌の色は透き通るほどに白かった。耳の貝殻の巻き方が不思議に自分の好みだと思った。 
 まだ瞼の開かぬ瞳の色も、きっと青空の映った薄い水の色のようだろう…と俺は思った。
 俺はセキレイの手をぎゅっと握り締め、その頬にキスをした。するとセキレイの目はゆっくりと開き、思ったとおりの瞳が俺を見つめた。
「セキレイ…」
 俺は彼の名を呼んだ。
「セ…キ…レイ…」
「そうだよ。君の名前だ。僕はアーシュだよ」
「アー…シュ…」
「そう。君は僕が拾ったんだ。だからセキレイは僕が守るんだ」
「ま…もる…」
「そうだよ、セキレイ。僕は君が大好きだからね」
 そう言うとセキレイは驚いたように目を大きく開け、そしてえも言われぬ無垢な顔でニコリと笑った。
「ボクも…アーシュが好き…」
「うん」
 俺達は最初から分かっていた。
 相手にとって自分が絶対の存在であるということを。

 目が覚めたセキレイをエヴァたちがスープを飲ませながら、事情を聞いていた。
 セキレイは自分の名前もどこから来たのかも覚えていないらしく、しきりに首を横に振っていた。
 エヴァとアダは顔を見合わせ、困った顔をした。
「どうしましょう。許可も無くここに置いておくわけにもいかないし…」
「とにかく早く学長に連絡しなければならないわ」
「そうね。この街の子かどうかも調べなきゃ…」
 エヴァとアダの勝手な言葉に俺はうろたえた。
「待ってよ。セキレイは僕が拾ったんだから、僕のものだよっ!」
 俺はエヴァのエプロンを引っ張った。エヴァは困惑しながら俺を膝に乗せた。
「アーシュ、ね、わかっているでしょ?ここに居ていいかどうかは学長先生がお決めになることなのよ」
「だって…」
 俺はすでに泣いていた。
 だって、ここに来た多くの子供たちはここに住む事を許されなかった。セキレイにもし「力」が無いと判断されたら…
「ね、まずはこの子を見てもらいましょう。アーシュの言うとおり、光に包まれて突然現れたのなら…アルトである可能性は大きいから」
「ホント?」
「ええ、そうよ。今から学長を呼びに行くわ。学長が来られたら、アーシュはこの子を見つけた時の様子を詳しく話して頂戴ね」
「わかった」

 それからエヴァは学長のトゥエを呼び、セキレイに会わせた。
 トゥエはセキレイを見つめ、俺とセキレイに色々と質問をした。
 セキレイに答えられることはなく、俺は必死でセキレイをここに置いてくれと懇願した。

「アーシュ、何故この子を『セキレイ』と、呼ぶんだい?」
「だって…セキレイはセキレイだよ」
「あ…すいません。アーシュは私の作り話を聞いて…それで影響されていると思います」
 エヴァはバツが悪そうに学長に申し出た。
「違うよ、エヴァ。あのお話は大好きだけど、セキレイはセキレイだよ。僕のセキレイだよ」
「わかったよ、アーシュ。君がそう呼ぶのなら、この子は『セキレイ』なのだろう。だけどそれはアーシュが呼ぶべき名前だ。アーシュしか呼べない名前だ。だから、この子にもみんなが呼べる名が必要だよ、私が君に与えた名前のように。わかるね」
「うん」
「この子の名前は…『ルゥ』。とても美しい名前だ。この子にはそう呼べる資格がある」
「…資格?」
「名前には意味があるということだ、アーシュ」
「じゃあ、セキレイは…ここに居てもいいの?」
「ああ、この子は…『ルゥ』は強い力を持っているからね。ここに居ても構わない」
「ホント!」
「本当だよ」
「ありがとうっ!トゥエ!」
 俺は嬉しくて嬉しくて涙と鼻水を流しながら、トゥエに抱きついた。
「勿論、本人の了解が必要だよ、アーシュ」
 俺は我に返って、ベッドのセキレイを振り返った。
 セキレイは身体を起したまま、俺とトゥエのやり取りを少し緊張した面持ちで見つめていた。

「ルゥ…君の名前だよ。」
「うん」
「君はここに居たいかね?」
「…アーシュと一緒に居たい」
「では、そうしなさい。君の家は今からここです」
「…家?」
「そうだよ、ルゥ。アーシュも君と同じように、拾われてここに来たのだ。ここがルゥとアーシュの家になるんだよ。わかるかい?」
「…わか、ります…ありがとう」
 セキレイはやっとほっとした面持ちでトゥエにお礼を言い、俺に向かってニッコリと笑う。
 そんなセキレイが可愛くて嬉しくて俺は「セキレイ、大好き」と笑い、やせっぽちの身体をぎゅっと抱きしめるのだった。

 その日から、俺とセキレイは無二の親友になり、豊かな番いに、そして永遠の恋人になることを誓った。

 食事をするのも遊ぶのも勉強するのも風呂に入るのも一緒だった。
 俺はこの保育所で初めて心を寄せられる相手を得て、毎日が楽しくて仕方なかった。
 ここでの暮らしが初めてのセキレイは、何もするにも俺の真似をした。
 とことこと俺の後ろを付いてくるセキレイが愛おしかった。
 手を繋ぐと嬉しそうに笑ってくれた。
 夜になると俺達は一緒ひとつのベッドに寝る。お互いの体温を感じて良い夢を見る。
 セキレイの肌はいつも夏の木立に香る合歓の木の花の甘い香りがした。
 そう言うと、セキレイは「アーシュもするよ。凄く良い匂い」
「へえ~どんな?」
「え~と…あのね、草…あれ、エヴァが良く飲んでいるお茶の匂い」
 エヴァは薄荷のハーブティが好きだった。
「薄荷草の匂い?」
「うん。アーシュの匂いって凄く好き」
「僕もセキレイが好きだよ」
 
 俺たちはしっかり抱き合って寝た。
 アダは教育上良くないと渋い顔をしたが、エヴァは笑って許した。
 基本的にアルトは孤独を好む。他人を自分が決めたテリトリー内に簡単に入れさせない。勿論子供だから甘えもするし、一緒に遊ぶ。だが、俺達みたいに始終一緒に居るってことは、他の子供たちには無かった。
 魔法使いのプライドの高さは変な形で現れる…と、後になってよく俺はあざ笑ったものだ。
 常にくっ付いている俺とセキレイを見て、気色悪いと罵る奴はノーマルなイルトであり、大抵のアルトは無視をしていた。だが、俺は知っていた。本当はあいつらだって俺達が羨ましくて仕方ないんだ、と。

 俺とセキレイが笑いあい、遊ぶ姿を見て「明け初めの光と星空のようだわ」と、エヴァはいつもうっとりと溜息を付いていた。


 俺達はすくすくと育ち、保育所から同じ敷地内の学校の寄宿舎に移る年頃になった。
 保育所を出る日、最後の記念にと、俺とセキレイは保育所の裏の楠木の枝に二人で作った秘密基地に登った。
 ふたりで何ヶ月もかけ、板やレンガで作った小さな部屋だ。
 日がな一日ここで本を読んだり、一晩中流星を追っかけたり…エヴァたちから怒られるようなこともこっそりと行ってきた秘密の場所だった。

「壊すのは少し残念だね」
「そのままにしておくのも拙いだろう。小さな子がここを使って怪我でもされちゃ気の毒だからね」
「そうだね」
「新しい場所を見つけて、また基地を作ればいいさ。セキレイが居れば、どこでも作れる」
「ボクもアーシュが居れば、そこが秘密基地だよ」
 顔を見合わせふたりはニコリと笑い、キスをした。
「大好きだよ、セキレイ」
「ボクも、大好き」

 そして、俺達は新しい二人の王国を作る為に、その秘密基地の歪んだドアを取り外した。
 



a-syu ruuu


Private Kingdom その二へ
天使の楽園、悪魔の詩 1



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Private Kingdom 4 - 2011.06.28 Tue

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Private Kingdom

その四

 初等科に入学した俺とセキレイは自動的に天の王学園の東の保育所から南の初等科へ引っ越した。
 環境が多少変わっても敷地が同じ所為か別段怖じけづくこともなく、同年齢の仲間との生活を無心に楽しんだ。
 俺達には最初から「力」がある事が示されている。
 保育所出というレッテルはどこの馬の骨かも判らぬ者という嘲りよりも、確実に「力」を持っていることが、周りには脅威に見えたのかもしれない。
 彼らはしばらくは遠巻きに俺達を眺めていた。
 こちらは余裕で愛想よく近寄り親交の手を差し出す。

 良い奴と悪い奴、必要ない奴に分け、問題の無きようにそれなりの対応を心がける。
 生徒から好かれるのは大方セキレイの方であり、彼は先輩からも同級からもそのあどけない微笑みで、いっぺんに相手の敵意を喪失させた。実際、彼は素直で真っ直ぐな性格であり、悪意というものをあまり持ってなかった。人の言葉には素直に信じ、従い、正義を愛していた。
 俺はどちらからというと、物事をひねくれて見る傾向があり、疑心暗鬼になりながら人を選別する癖があった。特に危険と感じた奴は、セキレイに近づけたくないから、俺は先手を打って彼らを脅しておくようにした。当の本人には注意を促しても「別に怖くないもん」と、意地を張る。
 セキレイは自分が弱い立場だと見られるのを嫌がった。勿論、俺もセキレイが弱いとは思っていない。だが、あの人当たりの良さと、素直さは貶められる気質だ。俺はセキレイを悲しませたくなかった。

 一度同級生から嵌められて、名誉を傷つけられたことがある。
 試験の答案用紙を見せた、見せないのつまらない出来事だったが、セキレイは答えを見せた相手から詰られ(カンニングがばれた相手はセキレイの所為にした)、無償の行為が綺麗に裏切られる様というのはこういう事を言うのか…と、相手の罰の悪さとセキレイを同類に引き込んだというほくそ笑んだ顔を見てしまったセキレイは己の愚かさに口唇を噛んだと言う。
 そんな些細なことでプライドが傷つくのか…と、こんなに傍にいても見落としていたセキレイの性質に俺は変に関心もした。
 俺だったらそんなものボロクソに罵って、一発殴ってお終いなんだけれどね。

 セキレイと俺は目立ったケンカはしない。
 俺が強く出ればセキレイが引くし、セキレイの意思が強かったらそちらを立てる。だからケンカには発展しない。
 ただセキレイの何気ない仕草には、常に俺への気遣いが潜んでいる気がしてならなかった。
 俺がセキレイを拾ったことへの恩を感じているのか、俺が守ると言って彼を引き入れた所為なのか…
 セキレイは俺を「大好き」だと言う。「ずっと一緒にいようね」と誓う。
 その言葉を疑った事は無いけれど、それはきっと俺の想いを気遣ってのことじゃないのか、と、季節ごとの花が咲くように何度も俺の心に巡ってくる。


 初等科の二年になった俺とセキレイに、大事な友人が出来た。
 名を「べル」と言う。
 「ベル」は、この街一番の貿易会社の息子であり、また古い格式を荷った貴族の子息でもあった。
 艶のあるハニーブロンドと、プライドの高そうな整った顔をしていた。
 貴族は至って俺達みたいな下賤な親無しっ子には近づきたがらない。上目線で意味もなく俺達を侮蔑している。高慢ちきな野郎には拳固でやり返すこともあるが、殴られた子供の親がトゥエに迫り、トゥエが頭を下げた時点で、正直こちらも引いた。
 貴族さんとは一線を引いた方がこちらも身の為だと思い、それからは触らぬ神に祟りなしの方向で、できるだけそ知らぬふりをした。

 ベルは貴族でありながら、身分の偏見は全く無い珍しい奴で、奴の方から俺達に手を差し伸べた時は驚いた。
 それに彼は卑怯な貴族や金満家には似つかわしくない非常に実直で誠実な心根を持っていた。
 俺とセキレイが唯一ひけらかしていた「力」をベルも同じように持ちながら、それを鼻に掛けてもいない。
 正直、この派手で端正な顔の体格のいい少年が、俺達と友達になりたがっていたとは信じられない気もしたが、それこそこの男の誠実さが俺を引きつけた。

 俺達三人は無二の親友となった。

 ベルは頭が良かった。
 俺とセキレイの間に無理矢理に入り込むことも無く、自分のスタンスで俺達と付き合おうとしてくれた。その感情に嫉妬や暗い感情などはなく、ただ友情を分かち合いたいという気持ちが溢れ、こちらの方が戸惑うぐらいに温かな感情で包んでくれた。
 俺とセキレイは親の愛情を知らないから、親に愛された者はこんなに優しいのかと思っていたら、全くの逆でベルは裕福でありながら、親の愛には恵まれず、また家に縛られ、心を寄せるものが欲しかったのだと言う。それが俺達であったら幸せだとも言う。
 ここまで信頼された相手をどうしてこちらが拒むことができよう。
 完璧な友情を彼に捧げようと、俺とセキレイはベルに誓った。

 俺達は冒険が好きだった。
 「天の王」の中だけに限られているけれど、まだ俺達が知っている場所は僅かであり、未知の大陸が目の前に立ちはだかっていた。
 だから暇があれば、三人で校内の隅々を隈なく調べつくす。古びた倉庫から鍵の掛けられた錆びた地下への階段。重い鉄の扉を開けば、真っ暗な世界が俺達を誘う。
 時折、先に見つけたと思われる先輩連中の秘密基地にぶつかり、不審者扱いで監禁されたりもした。でも彼らも俺達と同じで、冒険者の類だから、話がわかる奴らばかり。
 まだまだガキだと相手にはされないが、「その蕾のタイが、リボンになったら可愛がってあげるよ」と、約束のキスをくれた。
 その時はその意味がわからなかったが、中等科になる頃には彼らの紳士さに少し感動したものだ。よく俺達を犯さなかったものだと。

 
 五年生になった新学期、夏季休暇から戻ったベルの様子が変だった。
 彼はひと夏中を実家のスタンリー家の避暑地で過ごすことになると、休暇前に言っていた。面倒くさがりながらも自分の母親の実家で初めて過ごす生活を期待していたんだ。だから憔悴しきったベルが心配だった。
 なんとか理由を聞きだし、その理由が彼の叔父の堕落しきった生活とベルに対する性的暴力と知った俺とセキレイはどうにかして、ベルを助けたかった。
 俺達はまだ幼くて何にも力がなかったから、学長のトゥエに頼んだのだけど、結局、ベルの叔父さんへの仕返しは叶わなかった。
 ベルは「いいんだよ。僕は叔父を許すことができるよ。彼の行為がどんなものでも、僕を愛しているからなんだ」
 ベルはそう言って納得していたが、それはおかしいと思う。
 愛が暴力に変わっていいはずはない。ベルの叔父さんがベルを愛するのなら、自分の汚れた世界に引きずり込むのは勝手きわまることだ。まだ抵抗の出来ない子供のベルだからこそ、彼らは光へと導く義務があるのではないか。
 俺達には親もいないし、恵んでもらう愛は多くはないけれど、それでも愛の定義と摂理を教えられた。
 ベルは寛容すぎる。
「叔父さんを許しても自分の心の傷跡を見るたびに嫌な気持ちになるだろう」と、言うと、
「エドワード(彼の叔父の名前)もまた、その傷跡を見て僕を犯したことを思い出すんだ。それは、後悔の苦さだろうか、それとも甘美なものだろうか…どちらにしても、僕はエドワードを捕まえるよ。もう二度と支配されたりしない」
 ベルの強さには感服する。
 その翌夏に彼は叔父と完全和解した。

 それを聞いた俺はなんとなく面白くなかった。
 俺の気持ちを読んだセキレイは俺に向かってニヤリと笑い、おもいっきり俺の脇腹をつねった。
 
 
アーシュとルゥの子供時代

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Private Kingdom 5 - 2011.07.04 Mon

中等科

5、
 「力」の話を少しだけしよう。

 我々アルトが持っている「力」はいわゆる超能力的なものから、明日の天気占いのようなものまで、とてもアバウトで幅がある。
 能力はうまれ持ったモノであり、学習して「力」が得るものではない。
 ノーマルな人間界の支配するこの街では異端である「力」を持つ「アルト」だが、ノーマルな人間、つまり「イルト」にとって本当に忌み嫌われるべき者なのかは疑問に思う。
 何故なら能力のあるアルトを使いこなすイルトこそ、成功する者だと言われているからだ。
 確かに多くの実業家や政治家の傍らには必ず、影のように魔法使いが寄り添っている。
 だが、魔法使いが自ら名を打ちだし、イルトの前に出た形跡は、殆どない。
 魔法使い、即ちアルトが何故イルトの僕(しもべ)の如く扱われるのか。
 学者の間でも何度も問われてきた謎だった。
 俺の考えでは、アルトは同じアルトを心から信用することができないからだと思う。
 お互いの「力」の差をいつも気にしながら、相手の考えすら読むことができないなんて、傍にいるだけで疲れる果てる。
 またアルトの「力」の源は「senso」、感応力とも言われるが、それはお互いへの信頼する力とも言える。
 お互いを訝るアルト同士では折角の能力も生かしきれない。
 だが、もしアルトが信頼するイルトと出会い、イルトの愛を勝ち得たなら、「力」は膨大な魔力を得ることになる。
 魔法使いが望むものは自分の力を使いこなす受け皿の存在としてのノーマルな良きイルト、と、いう事にならないだろうか。

 「天の王」は多くのアルトが集まる場所だが、結局はイルト中心のこの街でアルトが生き残る為には、持っている「力」の暴走を押さえ、イルトと上手く共存していく為の方法を学んでいく場所…のように思えてならないのだ。
 事実、アルトの多くが、自分より弱く、純粋に自分を頼ってくるイルトの為に「力」を使いたいと思っている。つまりは自分の自尊心がそれで満たされるわけだ。
 いや、それだけではなく、アルトにはイルトに背けぬように仕組まれている何かがあるような気がしてならない。それが潜在的なものなのか、後天的に何かが仕組まれているのかはわからないが…

 例えていうなら、ベルだ。
 ベルは彼をレイプした叔父を最初から憎む気持ちはあまり生まれてこなかったと言う。彼を許して彼を支配することこそが、自分のするべきことだという。
 彼の叔父のエドワードはアルトだというが、力はベルと比較にはならない。(実際俺は彼と会ってその能力を見極めた。)
 自分より力のない者を守りたいという欲求(これはもうアルトの宿命かも知れない)は、アルトの生きていく糧になるのかもしれない。

 俺自身を問えば、他のやつらとはどうも違う気がする。
 それを上手く言葉で表せないのだが、守るべき家族もまた守りたいイルトもいない現在(いま)、有り余る「力」をどう使うかは、まだ定められていない。
 

 「力」は学習するものではないと学校では教えられるが、使いこなす技を知ることは必要だと、「力」を使い始めてわかってきた。
 天気や恋占いなど心理的な「魔法力」は直感だが、俺はPSI全部を使いこなす魔法使いを望んでいた。
 俺は自分の「力」を疑ったりしない。
 幼い頃からこの場所でセキレイやベル、そして仲間と「力」を試してきた。
 そしてそれを知りながらこの学校の教師たちは黙認している。
 これをどう取るかは、難しい話になる。
 つまり「アルト」の存在意味をどう捉えるかだ。

 彼らは(又は我々は)今まで通りの従属を願うのか、それともこの秩序をひっくり返す革命を求めているのか…
 
 いずれにしても、この話はまだ早い。
 俺はまだセキレイとの恋物語を話していない。

 今はここに居ないセキレイを想う時、どうしても別れの悲しさが襲ってくる。
 あの子を見つけた時から、俺はセキレイを一生の恋人であれば、と、願ったものだった。
 それを打ち明け、セキレイもまた、俺の傍にずっと居ると誓ってくれた日々を俺は信じていた。
 「愛している」と、言ってくれたじゃないか。「ずっと離れない」と…
 別れて随分経つけれど、想いは少しも減らず、悲しみもそのまま、ただ願いだけが膨らんでいく。
 俺は諦めたりしたくない。



 初等科を卒業して、西館の中等科に俺達は移った。
 制服も変わるし、今までとは違い寄宿舎もそれぞれひとり部屋になる。
 一年生は二階、二年は三階、三年は四階に別れていて、先輩方と顔を合わせるのは食堂や風呂場ぐらい。
 一学年しか違わないのに、彼らは皆大人びて、どことなく妖しい雰囲気が漂う。
 部屋の鍵や窓を閉めておかないと、発情した奴が夜這いに来るかもしれないと、冗談とも本気ともつかない忠告を耳元で囁かれる。

 ハイアルトである俺達には、力ずくで襲われることはないが、少なからずレイプされた奴の話を聞いていた。
 ところが、レイプされた奴もまた、上級になった途端下級生を同じように従わせたりするものだがら、弱い者がそのまま弱いだけでは無さそうだった。
 弱いままの生徒は、自分を守る為に強いアルトをものにして、自分を守る術を覚える。
 サマシティの縮図がここにあった。
 奇怪であっても平和に保たれている世界。
 
 入学式の折、すでに誕生日を迎えていたベルは、学長に「真の名」を与えられた。
 学長室に呼び出され、証人として数人の先生方の前でこの「真の名」を告げられるのだが、非公開のそのニュースは瞬く間に校内に知れ渡り、「真の名」を与えられた「ホーリー」はスターになる。

「ベル、凄い事じゃないか。え~と、ベルゼビュート・フランソワ・インファンテ…だったか?」
「そうだよ。良く覚えられたね、アーシュ」
「とってもかっこいいし、強そう~。ベルに似合ってるよ」
 学校の食堂の片隅で三人で昼食を取っていた。
 ベルはホーリーになってから、誰彼と無く付き合いを申し込まれて少々げんなりしていたから、目立たぬように隅で食事を取るようにしている。

「ありがとう、ルゥ。でももうずっと前から学長にこの名前を頂いていたから、あまり感動はなかったよ」
「いいなあ~、ベルがホーリーだなんて。ま、俺達も役得かもな。ベルの傍にいたら変な奴に迫られないで済むもん」
「そうだね。ベルが親友で良かったよ、ホント」
「おまえら、本気で言ってる?」
「「はあ?」」
「『真の名』をもらったって『力』の使い道が判るわけでもないんだよ。名前だけ先走りしているみたいで、身に付いてない感じだよ」
「そりゃそうだろうね。名前をもらっても中身が変わるわけでもないし…」
「でも羨ましいよ~。ホーリーって人の上に立つ為の条件みたいな感じじゃん。ベルはその権利を持ったってことだもん。ベルの理想に一歩近づいたって感じだね」
「うん。腐敗した貴族社会をどうにか建て直したいしね」
「貴族社会が何?」
 いきなり目の前に立った女子は同級生のリリだ。彼女もまた、ベルと同じく『真の名』を与えられホーリーとなった。
「え?別に?君の家のことを言ったつもりはないけれど…」
 貴族特有のドン臭さでベルがポツリと答える。
 リリもまた貴族子女だったが、彼女はサマシティ出身ではない。
「リリ、おめでとう。『真の名』を貰うなんてすごいじゃないか。女子では珍しいことだってね。良いホーリーになってね」
 例によってセキレイが極上の微笑みを返したおかげで、リリの鶏冠もそれ以上立たずに済んだ。

 リリが去った後、俺はベルにどうしてリリには冷たいのか、聞いてみた。
「別に冷たくしているつもりはないよ。でもサマシティの貴族でもないリリは本当の事情なんて何もしらないお嬢様なんだ。だから…俺の世界は知らなくていいんだよ」
「…」
 近頃、ベルは良く自分のことを「俺」と言うようになった。 なんだか大人に見えて俺も真似し始めた時期だった。

 その夜、ささやかなお祝いをやろうと、俺とセキレイはワインを手にベルの部屋で一晩中話し込んだ。
 大概はホーリーに関しての話が多かった。
「前の年は誰一人としてホーリーに選ばれなかったんだろ?」
「そうだってね。一昨年はひとりいたって」
「メルだろ。彼は俺らと同じ保育所で育ったから、顔馴染みだよ。な、セキレイ」
「…僕は、メルは苦手かな。何考えてるかわかんないもん」
「そう?俺は好きだけど。ああいうアウトサイダーって、すげえやーらしそうでいいじゃん」
「アーシュ、君もそういうとこあるよ」
「ああ、アーシュはアウトサイダーだね」
「ええ?俺のどこがいやらしいんだよ」
「全部」
「はは…」
「笑いすぎだよ、ベル」

「まあね、そうは言っても君達だって…」
「え?」
「ごめん、言わなかったけど、君達も多分ホーリーだと思うよ」
「え?え?」
「どういう事?」
「随分前に…俺が『真の名』を貰う事をトゥエに聞いた時、俺一人じゃなくて、傍にいる者も仲間だって…トゥエが教えてくれたんだ。あの意味は君達ふたりも同じく『真の名』をもらえるってことだと思う」
「そ、れ…ホントの話?」
 セキレイが興味津々にベルに顔を近づけた。
「本当さ」
「…それが本当だったら…凄く素敵だ。僕にも『真の名』を与えられて『ホーリー』になれるなんて、ね!アーシュ」
「…そうだね」
 宙に浮くぐらいに嬉しそうなセキレイには悪いが、俺はそんなに驚きはしなかった。
 俺が選ばれた者である事は、ずっと前から知っていたし、セキレイもまた他のアルトとは違うことは、彼を拾った時点で知っていた。
 だから「真の名」を貰おうとなかろうと、「ホーリー」になろうがなるまいが、実はあまり関心はなかったんだ。

 だが、セキレイは違っていた。
 その日から、「真の名」を貰う誕生日まで、心躍る期待の言葉を繰り返した。

「ねえ、アーシュ。僕らはどんな『真の名』を貰えるんだろうねえ。カッコいいといいけど…ダサいのはちょっと嫌だな。ね、アーシュはどんなのがいい?」
「え?どんなのだって別にいいよ。それで中身が変わっちまうわけでもないって、ベルも言ってたろ?」
「それはそうだけどさ。でもワクワクしない?」
「セキレイはワクワクし過ぎだよ」

 ひとり部屋になっても俺たちはどちらかの部屋に行き、ひとつのベッドで寝る。
 お互いのぬくもりが何よりの安眠だったからだ。


アーシュh2

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