FC2ブログ
topimage

2019-09

 - 2012.12.11 Tue

クリスマス聖母39



「慧、抱っこして!」と、弟が言う。

 クリスマスシーズンたけなわの混雑したデパート。
 両手に持った紙袋はさして重くもないけれど、思いの外かさばっていて、持ったままでは弟の望みを叶えられそうにない。
「ゴメン、凛。荷物が多くて、抱っこできないよ。帰ったらしてあげるから、我慢しなさい」
「嫌々、今がいいの。抱っこするの」
「…」
 俺を振り返って、見上げる弟のまっすぐな目力には、いつも敵わないとわかっているけれど、この状況ではとても無理だ。
「凛、慧は沢山のお荷物で凛を抱っこできないでしょ?我儘言わないの」
 弟の手を握りしめ、前を歩いていたひとつ下の妹、梓が少し強い口調でいましめる。
「じゃあ、僕がお荷物持つから、慧の両手空くでしょ?そしたら抱っこできるよね」
「…凛、それじゃあ、慧は凛と荷物の両方を持つことになるじゃない」
「ならないよ。僕がお荷物持つんだもん」
「…」
「…」
 俺と妹は顔を見合わせる。

 困った弟の我儘だが、なんとも言えない愛らしさについ口元が緩む。
 それを見た妹はダメダメと首を横に振り、また小さい弟を説得する。
「凛は今度の春になったら、五歳になるのよ。五歳と言ったら子供の大人よ。抱っこなんておかしいわ」
「子供の大人は子供だもん。梓は僕が子供だと思ってごまかしてるう~。それに僕は慧に頼んでいるの。ね、慧、お荷物持つから抱っこして」
 仕方がないなあ~と、腰をかがめ、弟に手を伸ばす俺の前に、妹が立ちはだかる。
「駄目よ、凛。凛はもう大きくなったから、抱っこするには重いのよ。このお荷物よりずっと重いの。慧だって凛を抱っこするのは大変なのよ」
「え~…僕、そんなに重いの?」
「そうよ。どんどん大きくなって私よりもずっと大きくなるから、そろそろ抱っこは卒業しなきゃね」
「じゃあ、僕、大きくならない」
「え?」
「え?」
「ご飯もお菓子も食べない。そしたら大きくならないから重くならないよ。そしたら抱っこできるでしょ?慧」
「…」
 さすがの妹もお手上げらしい。大きなため息を吐いて、弟の手を離した。
「…わかりました。凛を抱っこさせていただきます」
「わーいっ!」
「梓、荷物頼むよ」
「…ったく、凛には勝てないわ」
「ほら、おいで、凛」
「わーい!抱っこだあ~」
 無邪気な声を上げ、抱き上げられた喜びにはしゃぐ弟は、なによりも愛くるしく、愛おしさが募る。

「梓、僕、お荷物持つよ」
 弟が伸ばす小さな手に、梓は一番小さな紙袋を手渡した。
「お願いしますわ、我が家の天使さま」
「僕は天使じゃないよ。僕はすくねりんいちだよ」
 そうやって笑う弟が、本当の天使のように思えてしまって、ふと不安になった。

「そうだね、凛はずっと俺の弟だね」
 そういうと、俺はどこにも飛んで行かぬようにと、凛をしっかりと抱きしめるのだった。




頭に浮かんだ物語を掌編にしてみようと思いました。
これは今日、思いついたものです。
小さい頃の宿祢兄妹弟が大好きなので。

宿禰兄弟の物語は、カテゴリ「green house」からどうぞ~( ´ ▽ ` )ノ



お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

「傷心」 - 2012.12.18 Tue

「傷心」
イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方はイラストをクリックしてください。


吉良と浅野12


傷心

 背中を丸めた浅野が、こたつのテーブルに飲み干したコーヒーカップを置いた。
「じゃあ、別れようか」と、言うので、
「そうだね。仕方ないよね」と、おれが答えた。

 玄関で靴を履く浅野を見送る。
「明後日、引っ越しで五月蠅いかもしれないけど、業者に全部やってもらうから、別に手伝いもいらないし、見送りもいいよ」
「…わかった」
「じゃあ、元気でな、遠流(とおる)」
「竜朗(たつろう)も…」
 玄関を出てしばらくして、隣りの玄関のドアが聞こえた。

 社宅に隣同士に住むおれと浅野は、同じ会社の同僚だ。
 先週、辞令があり、浅野はこの街から遠い…遠い街の支店に転勤が決まった。
 付き合って三年、別段どうという不満があるわけじゃない。
 性格の違いも認め合える、良い関係だと思っていた。
 このまま一緒に楽しい時間を共有しあえれば、おれの人生は十分に幸せだと信じていた。

 お互いに遠距離恋愛なんて自信はない、と言いあった。
 つまり、このままずるずると引きずる気は両方ともないって結論に至る。
 いつかは来るだろうと思っていた別れは、こんな風にやってくるものなのだな…。
 浅野が言うとおり、見送ることもなく、引っ越しトラックの音だけであいつがここから出ていったことを思い知らされた。
 そして、
 浅野が去っても、おれの仕事も周りも変わる事もなく、今までと同じように平穏に過ぎていった。

 …四年前、大手の建設会社の就活の最終試験で浅野と出会い、幸運にも望み通り就くことができ、偶然にも同じ支店へ配属になった。
 営業課とデザイン課で、仕事場は違ったけれど、百人ほどの一都市の支店では、顔を合わす機会も多かった。
 おれが吉良であいつは浅野で、よく周りのみんなからは、「お、敵同士じゃないか。刃傷沙汰にはならんでくれよ」と、揶揄われたりしたものだ。
 浅野は愛想も頭の回転も良かった。
「じゃあ、俺は吉良くんに喧嘩売らなきゃならんですね。でも吉良くんは優しいから意地悪はしてくれないんですよね」と、笑っていつもその場を和ませていた。
 優しいのはおまえの方だ…と、おれは思う。
 おれは…おとなしいだけで、本当は…なにひとつ信じていなかった。
 だから…おまえが告白してくれた時、本心では信用なんかしていなかったんだ。
 だけど、おまえは優しかったから…不安定なおれを包み込んでくれたから…

 好きだった。
 初めて愛した人だった。
 ずっと一緒に居たかった…
 「遠流…」と、おれを呼んでくれるあいつの擦れた声が、おれの髪を優しく撫でてくれる手の平が…本当に…好きで、好きで…
 …いつのまにか、信じてしまっていた。

 浅野が転勤してしまった仕事場に、おれは生き甲斐を感じられなくなった。
 あれほど天職だと息巻き、全力を傾けたインテリアのデザインも、何も思い浮かばなくなってしまった。

「近頃、元気ないな。相棒がいなくなったからか?」と、面倒見の良い上司がおれを心配する。 
「いえ、別に…」
「そうか。ところで浅野は向こうの支店で元気にやってるのか?おまえ、何か聞いてるだろう」
「…いいえ、連絡はとっていませんから」
「なんだ?あれだけ仲良さそうだったのに」
「社会人ですから…。離れれば他人ですよ」
「そうかなあ~。気の合う奴とは一生ものだとも言うぞ。友人は大事にしろよ」
「…」
 友人なら良かった…
 友情に切ない別れなど無い。一生続けることもできる。

 近頃、夢を見る。
 悪夢だ。
 いつまでも忘れられないおれを、浅野が笑っている夢だ。
 夢を見た朝は気分が悪い。
 出勤もしたくない程だ。
 あいつの居た場所、あいつの働いている会社、あいつの匂いが残っている場所…
 居たくない。
 このままではおれは駄目になる。
 おれは会社を辞めようと思った。
 
 辞表を書き、上司に渡そうと思ったその日、上司から呼び出された。 
「なんですか?」
「良かったなあ~。吉良。例のあのでかいプロジェクトの件だが、おまえのデザインに決まったぞ。事業主もおまえのデザインをすごく気に入って、すぐにでも詳しい話を聞きたいとのことだ」
「…はあ」
「もっと、喜べよ。これでインテリアデザイナーとしてのキャリアをひとつ登ったってことだぞ、吉良」
「…はい、ありがとうございます」
 自分の事のように喜ぶ上司を見て、辞表など出せる雰囲気ではないことを知った。
 それに、確かにおれはデザインの仕事をしたくて今まで勉強してきたんだ。誰もが認める一流のインテリアデザイナーになることがおれの夢だったはずだ。
 …そうだ。
 おれのやりたい仕事と、浅野は関係ないじゃないか。
 確かに、浅野との恋愛は情熱的で、一生忘れられないかもしれないが、それが終わったからとおれの夢を諦める必然なんてない。

 それから、おれは気を取り直し、辞表を破り、もう一度この会社で頑張ってみることにした。

 浅野と別れて、三か月後、おれは浅野が会社を辞めたことを知った。
 理由はわからなかったが、転勤した支店では、営業成績も揮わず、元気もなかったと聞く。
 不思議な気がした。
 営業が上手く、どんな偏屈な相手とも、知識と愛嬌と話術で成功に導く、わが社のポープと謳われていたのが浅野竜朗だった。

 あいつに何があったのだろう。

 おれはその晩、そんなことを考えながら、夜道を歩いていた。
 春も近く、おぼろ月夜が天上に浮かんでいた。
 いつか浅野とふたりで見上げたあの夜のようだと、思った。
 ポケットに入れたおれの手を取りだして、握りしめてくれたのはあいつだった。
 不安そうなおれを、「大丈夫だ、俺がそばにいるから」と、言ってくれた。

 足を止め、じっと月を見つめた。
 あいつがなぜ会社を辞めたのか…
 今、気持ちが理解できそうな気がした。

 あいつは…おれと同じだったんだ。

 涙が溢れた。
 なぜ、別れてしまったのだろう。
 なにひとつ続ける努力もしないで、どうして簡単に諦めたのだろう。
「バカだな、おれたち…」
 涙が止まらなかった。



 会社を辞めた後の浅野の行方もわからず、二年経った今でも、なにも連絡はない。

 そして、おれの心の痛みは、あの日から少しも癒えることはなかった。



2

うけるかどうかはわからないけど、こういう話を書くのは初めてだけど、面白いね。
ロンドということで、どんどんと繋がっていくつもりです。
けど年末だから、今年は難しいかな~




お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

呪い…「ジョシュアの恋」 - 2012.12.25 Tue

「呪い」
イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方はイラストをクリックしてください。

ジョシュア1


 「天の王」学園高等科の卒業式の翌日、長年育ったこの場所から旅立つ事が、本当は心細かった。
 親もなく、この学園の施設で育ててもらった恩も感じているくせに、早く大人になって監獄のようなこの場所から離れたいと、ずっと思っていた。
 なのにさ…
 僕ときたら、怖気づいてしまい、学園の門扉の手前で立ち止まってしまったんだ。
 そんな僕の背中を思いっきり押して、一緒に門の外まで連れ出してくれたのは、やっぱりアーシュだった。
「行っておいで、メル。そんで面白い話をいっぱい仕込んだら、俺のところへ戻って来いよ」
「アーシュ…」
「シケた顔するなって。メルには俺がついているし、俺もメルが必要だ。いいかい、俺が呼んだら、すぐに帰ってこい」
「うん」
 乱暴な言葉とは裏腹の、熱い口づけをくれたアーシュの優しさが勇気となり、僕は僕がやらなければならない事を探しに、旅に出た。


呪い


 サマシティから汽車に乗り、東へ渡った。
 不穏な世情を感じつつ、そのまま南に下り、地中海へ着いたのは二か月後の夏の終わり。 
 観光で有名な遺跡巡りをしていると、見かけた風貌の男がいることに気づいた。
 無心にカメラのファインダーを覗いている横顔は、紛れもなく、学園のふたつ上の先輩のジョシュアだった。
 僕は懐かしさのあまり、何も考えず彼の元へ駆け寄ってしまった。
「ジョシュア…だよね」
 僕自身が彼にとって歓迎される相手でもないと気づいたのは、ジョシュアの名前を呼んだ後だった。僕は考えもなしに彼の名を呼んだことを後悔し、踵を返して逃げようかと思った。
 だが彼は、構えていたカメラのファインダーから顔を離し、ゆっくりと僕の方を見て、穏やかに笑ってくれたのだ。

 ジョシュアは昔の彼ではなく、当前だけれど、大人になったのだと知った。
 

 ジョシュアは「天の王」学園の頃から目立つ学生だった。
 オリーブ色の巻き毛、色白の肌にグレーの瞳、惹きつけられる顔つきと痩せた長身、触ったらそぎ落とされるような冷酷なオーラを纏い、荒野に立つ一匹狼のような男、それがジョシュアだ。
 彼は魔力を持たないイルトだったが、魔力を持つアルトを魅了する資質があり、僕も彼のその力に抗えないアルトのひとりだった。
 高等科一年の時、僕は彼と彼の仲間にレイプされ、酷く傷ついた経験を持つ。
 彼にも苦悩があり、そのはけ口が僕に向けられたのも仕方のない事情だと、今となっては理解しているし、今更彼を責める気もない。
 結局、間もなく、アーシュから追い詰められたジョシュアは、学園を退学した。
 その後、彼がどこで何もしているのかは、知らなかったから、こんな場所で出会うなんて、奇遇なんて言葉では片づけられそうもない。

 ジョシュアは僕を見ては何度も「もう三年にもあるのか。懐かしいなあ、学園の匂いがする」と、繰り返し言う。僕はそんなジョジュアに見惚れていた。

「メル、君はいい男を見たらすぐに惚れてしまうのが悪いクセだ。よく聞けよ。俺が一番じゃなきゃ君とは絶交だからな!」
 本音か冗句かわからぬアーシュの顔が浮かび、僕はようやく我に返った。

 ジョシュアはフリーのカメラマンとして地元の観光ガイドの写真や外国向けの通訳などの仕事をしているらしい。
 「ジョシュアに似合っている」と言ったら、「皮肉かい?」と、失笑された。

 宿代が勿体ないからと、その晩、僕は彼のアパートメントへ泊まらせてもらうことになった。
「おまえをどうこうする気はないから安心しろよ」と、ジョシュアが言う。
 ジョシュアの作ったトマト味のパスタを、ジョシュアの部屋でテーブルを囲んで食べている自分が不思議な気がする。

 彼の部屋はシンプルだったが、一画を占領する寝室のベッドがいやに贅沢な作りだ。何故かと問うたら、「生活費が無くなったらジゴロで稼ぐ。男、女、若いも年寄りも金をくれる奴となら寝てやるのさ」
「…」
「おっと、アーシュには絶対に言うなよ。つけいれられるからな」
 ジョシュアとアーシュの関係を、僕は詳しくは知らない。
「…もしかしたら、あなたはまだアーシュのことを恨んでるの?」
 ジョシュアは怪訝な顔をして僕を見た。
「おまえ、アーシュの愛人なんだろ?アーシュは俺のことを何も話していないのか?」
「聞いていないけど…」
 本当になにひとつ、アーシュはジョシュアのことを話してはくれなかった。もしかしたら、僕がレイプされたことを気にしてくれていたのかもしれない…

「相変わらず食えねえ奴だな。…あいつはな、俺を監視しているんだよ」
「え?」
「学園を出て、しばらく方々をぶらついてて、三か月ぐらい経った頃かな。やたら夢を見るんだ。…アーシュが夢で俺に命令するのさ。『ジョシュア、あんた、今どこでどうしてる?いいか、あんたがどこでどうしようと構わないが、ちゃんと生きてるかくらいは連絡しろ。ついでに住んでる街の情報とか教えろ。言うならあんたは情報網だ。俺の役に立つ仕事をすれば報酬をやる』とね」
「…」
「俺の夢だ。俺が自分で暗示をかけているだけかもしれない。そう思って、無視していたら、毎晩同じ夢を見る。うっとおしいくらいにね。仕方なしにあいつに手紙を出してやったらパタリと夢を見なくなった。だが、他の街に移った途端に、また必ず同じように夢で俺に催促する。どこに行った?居場所を教えろ、と…前にあいつは、魔法で俺の頭の中に入り込んだことがある。その影響かもしれないし、あいつが仕掛けた罠かもしれない…要するに俺はアーシュの呪縛から逃げられないわけだ」
「それは…気の毒に…。今度帰ったらアーシュによく言っておくよ。君が嫌がっていると」
「嫌がる?俺が?…そうだな。本気でうぜえと思う事もある。けれど…」
 ジョシュアは言葉を止め、少し考えた後、苦笑いをしながら続けた。

「俺は…アーシュに何枚もの便箋を使って詳しく街の状況を知らせる。あいつの返事は決まって葉書一枚に数行の文字だけ。だけどな…あいつは必ず最後にこう書いてくる。『いいかい、よく覚えておいてくれ。俺にはジョシュアが必要なんだからな』と…」
「…」
「こんな簡単な口先だけの、心地の良い言葉に心をもっていかれる俺がバカなのかもしれない。だけど…俺は救われるんだ。こんな俺を必要としてくれる奴がいる。そう信じられる何かがアーシュにはある…」

 そう言うと、ジョシュアは立ち上がり、僕らが食べ終わったテーブルの皿を片づけ始めた。一瞬、そのリアルな生活感とジョシュアの姿は似合わないと思ったけれど、その勝手な思い込みこそを僕は反省すべきだろう。
 
 ジョシュアはキッチンに立ち、手早く皿を洗い、同時に沸かしたお湯をティーポットへ入れ、テーブルに運び、手慣れた手つきでティーカップに注ぎ、僕の目の前に差し出した。
「…いい香りだ。カモミールだね…」
「ここではエスプレッソコーヒーが主流なんだが、俺は飲みなれた奴が好きでね」
「…そう」
 何故か僕はイシュハの顔を思い浮かべた。彼の煎れたハーブティーと同じ薫りだからかな…

「ねえ、ジョシュア…聞きたいことがあるんだけれど…」
「なんだ?」
 ジョシュアの顔を見ているうち、僕はこのジョシュアとの出会いも、もしかしたらあの「魔王」アーシュが仕組んだことじゃないか…と、疑うようになった。もし、そうなら、僕がこの事をジョシュアに聞くこともまた…アーシュが求めていることではないだろうか…と。

「イシュハの事だけど…結婚したこと、知ってる?」
「…知ってるよ。アーシュから葉書をもらったんでね」

 三か月前、ジョシュアの従兄、イシュハは結婚した。
 イシュハとジョシュアは同学年であり、僕とイシュハは恋人同士でもあった。
 天の王学園では恋人の相手がひとりである場合は少なく、数人の恋人、愛人、セックスフレンドを持つのは当然だった。しかもアルトとイルトの関わりが深くなるにつれて、複雑になる。僕もまた、魔力を持たないイシュハに、本能的に惹かれていた。
 イシュハは誰にでも優しく公平な大人の先輩だった。
 ジョシュアとイシュハは幼い頃から、イシュハの家で育った家族同然の信頼する関係であり、ふたりは密かに愛し合っていた。
 その「愛」は誰にも知られず、お互いさえ確かめる事のない、美しい純粋な絆だった。

 イシュハは自分の家と農園を守る為に、親の決めたアルトの娘を許嫁としていた。娘の魔力で、天候を読み、農園の恵みを祈らせるためだ。
 イシュハは彼を育てた家族も農園をも愛していた為、一切抗うことをせず、運命を受け入れていた。
 ジョシュアもまたそれに従い、イシュハと決別した。

「…式に呼ばれたけれど、僕は行かなかった。アーシュは出席したけどね」
「アーシュには俺の代わりに行ってくれと、手紙を出したんだ」
「そう…だったんだ」
 アーシュはジョシュアのことなど、僕に一言も言わなかった。そんなに親しくしているなら、一言ぐらいゆってくれれば言いのにさ。

 僕は秘密主義のアーシュを憎く思った。

「ウェディングの日は知っていた。だけど祝福する言葉がどうしてもイシュハに伝えられなかった。その日が通り過ぎるのをじっと耐え、過去になるのを待っていたんだ。…式の三日前だったかな…仕事が終わり帰宅した時、アパートの玄関前に立ち止まっているイシュハを見た。最初、幻かと思った。俺があまりに思いつめて、空蝉が現れたんじゃないだろうか、と…。でも違った。そいつは本物のイシュハだったんだ。…俺はあいつの前に姿を見せるのが恐ろしくなり、街角に隠れ、様子を伺った。イシュハはアパートの大家さんとしばらく話をし、家の中に入り、二十分経った後、アパートから出ていった…。俺は隠れたまま、イシュハの後姿を見送った…」
「会わなかったの?サマシティからこんな離れた街までせっかく、君に会いに来てくれたのに?…どうして、どうして会ってくれなかったの?イシュハは君を愛していた。それを伝えたかったから、会いに来たんだろう?」

「…愛しているから会えなかった。会ってしまえば、止まらなくなる。互いを抱きしめあい、もう絶対に離さないと繰り返し、手を握りしめ、誰も知らない場所へと駆けていくだろう。…夢のような、素晴らしい逃避行だ。…あいつはそれを望んでここまで来たんだろう。俺はいい。どうにでもなる。あいつが望むことなら、なんでもしてやりたい。…愛しているからな。だが、あいつの望みはひとつだけじゃない。…天の王で過ごす恋人がひとりじゃないように。違うのは現実の社会では両立できないことだ。自分だけが幸せになることと、多少我慢しながら、家族を守っていくことを、両方手に入れることはできない。…あいつはまだ大学生で、少し夢うつつで生きているから、俺の愛に飢えていたんだろう…」

「家族も農園も友情さえ捨て去る覚悟で、イシュハがジョシュアを求めてここまで来たのなら、それを受け入れるべきだと思うよ。覚悟がないのはジョシュアの方じゃないのかい?」
「…そう責められても仕方がないね。…このハーブティーはね、その時、イシュハが部屋に置き残した茶葉だ。…これを煎れ、飲んだ時、俺は彼に会わなくて良かったのだと安堵したよ。そして、俺はこう思った。…イシュハは一生俺を許さないだろう。会わなかった俺を恨み続けるだろう…それはあいつの俺への『真の愛』だ。俺はその痛みを死ぬまで味わい続ける…」
「…」
「このハーブティーのように、俺を中毒にしたまま…ね」

 イシュハとジョシュアの愛の呪いは、見事に美しい模様を描く。
 アーシュは…僕にそれを望むのだろうか…

 いや、アーシュはとっくに知っている。
 僕がアーシュから逃れられないことを…


 その晩は、本当に何も起こらず僕とジョシュアはひとつのベッドで寝た。
 次の日、ジョシュアに見送られ、その街を後にした。
 別れて気づいたことがある。

 アーシュが言うジョシュアへの報酬って…一体なんだろう…

 きっとアーシュを問い詰めても、話してはくれない。
 アーシュの呪縛にジョシュアもまた、ずっと縛られ続けていたいのだろうから。





newkyara1.jpg


ジョシュアとイシュハの物語はこちらからどうぞ。

メリクリですが、ハッピーではないお話をどうぞ~( ,,`・ ω´・)
こういうどうしようもない物語が好きですね。
ジョシュアもイシュハも大好物。もっと苦しめ~( -ω-)y─┛~~~

今年もお世話になりました。
また来年もよろしくお願いいたします。
それでは良いお年を。




お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

輪舞曲2…「願い」 - 2013.01.08 Tue

「願い」
イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方はイラストをクリックしてください。

キス少年



 願い

午前零時、遠くで鳴る除夜の鐘を耳にしながら、実家を出る。
おーちゃんが俺に気づいて、犬小屋からのそりと出てきて尻尾を振る。
「寒いから出なくていいよ」
頭を撫でて抱き寄せてやると、遊んでくれると思ったのか、本気で甘えてくる。
連れてはいけないのが判っているから余計にかまってやりたくなる。

「奏(そう)」
静稀(しずき)の声だ。振り返ると門の外に立つ姿を見つけた。
「ごめんね、おーちゃん。しぃくん来たから俺、行くね」
ワンと、納得がいかないように吠えて、俺を睨むけど、仕方ないよ。静稀の方が先約なんだからさぁ。
立ち上がって門扉に向かい、後ろを向いてまだ尾を振っているおーちゃんを見る。
「ちゃんとあったかくしておやすみ」
帰るように促すと、クゥンと寂しげな声を上げて自分の寝床に戻っていく。
ちょっぴり可哀想になった。明日はちゃんと遊んでやるから勘弁してな。

「奏、行くよ」
「うん」
「オリオンも連れてくれば良かったのに」
「ん。でも、神社とか人ごみの多いとこで、あんまり迷惑かけられないしね」
「まあね。世の中全部が犬好きっつーわけじゃねぇしな」
「そうだね」
あたりまえだけど、世の中の誰彼もが同調するわけではない。俺と静稀だって、随分と長い付き合いだけど、おまえの心の中なんて俺にはわからないもの。

神社は思ったよりも疎らで並ぶ必要も無く、お参りができた。
賽銭を入れて拍手を打つ。
「ニ礼ニ拍手一礼って書いてあるよ」
賽銭箱の横に書いてある紙に気づいて隣りを見る。
「いいよ、もう。祈ったから」
踵を返す静稀の背中を見ながら、俺も慌てて祈って後を追った。

「あんまり込んでなかったね」
「うん。奏、おみくじ引く?」
「引く」
ちゃんと巫女さんのいるところで百円渡しておみくじを貰った。
「巫女さんかわいいな」
「おまえはあのコスプレに萌えてんだろ?」
「おまえもだろ?」
「…おみくじなんだった?」
「…中吉。おまえは?」
「小吉」
「微妙過ぎるな」
「全くだ」
用意されているしめ縄に括り付けながら、互いに笑った。

神社を出て、いつものように川の土手に向かって歩き始めた。
無茶苦茶寒くないし、風もないから真冬の夜中の散歩も悪くない。
「奏、何祈ったの?」
「えっ?しぃくんは?…ああ、志望大学合格!だよね」
「…まあ、そうだな。それと…奏と仲良くいられますように、かな」
「…」
そんなこと言ったって、おまえ、行くじゃん。ひとりで遠くに行っちまうじゃん。

「…なんだよ、黙り込んで」
「静稀はズルイ」
「なにが?」
「俺が追っかけられないところに、行っちまうから…」
「大学の事?」
「…そう…」
「遠くったって、新幹線で二時間じゃん。会おうと思ったら会える距離だよ」
「…そう、だね」


出会ったのは小学一年の時。それからずっと学校も一緒で、高校は俺には少しレベルが高かったけれど、どうしても静稀と一緒に行きたくて、懸命にがんばってなんとか合格できた。
そして合格の日、それまでずっと心に抑えていた静稀への想いを、告白した。
親友という勲章を捨てることになるかもしれないけれど、これからも親友のままだけで一緒にいることの方が、俺には苦痛に思えたし、それで撃沈するのなら、仕方がないとの覚悟した。
だけど静稀は言った。
「奏は俺がおまえを嫌いになんかなれないってわかってるから、ワルなんだよ。かわいい顔してさ」
「え?」
「…悪かったよ。今までおまえの気持ちに気づかなくて…ごめんな」
「静稀…」
「俺もおまえが好きだよ。これからは親友プラス恋人ってことでいいか?」
「うん…うん」
あんまり嬉しかったから、思いきり声を出して泣いてしまった。

パートで夕方まで帰らない母をいいことに、あいびきは主にうちの部屋。やることはひとつで、静稀と色々エロ的なことに挑戦。ふたりとも初めての事ばかりで戸惑うことも多く、なかなか快感を掴むまでは難しかったけれど、静稀が好きだから、少しでも気持ちよくなって欲しいって思ったから、俺は頑張った。
頑張ったおかげでふたりともセックスを楽しめるようになった。それからは飽きる程やりまくり、馬鹿みたいだと笑い、ずっとこうしていような、と、誓い合った。

高三になり進路を決める時、静稀は自分の志望大学を国立理系に決め、俺は静稀程、成績も良くなかったから、早々に公務員試験を受け、市役所に就職が決まってしまった。

新幹線で二時間って言ったって、ここ田舎だし、もっと時間かかるよ。交通費だってバカにならないし…そんなに簡単に会える距離じゃない。

今までずっと離れずにいたから余計に不安になる。
静稀はそんなことはないのだろうか…

川岸に沿った土手は、まだ舗装されず、暗闇の中、乾いた土と枯れた草道を歩いた。
「奏、今、何考えてるか当てようか。…俺と離れる事が不安で仕方ない。俺が浮気するかもしれないから…だろ?」
「…うん、それとしぃくん、都会の色に染まっちゃうかもしれないし…ね」
「すげえ昔の流行歌みたいだな。変わってしまう俺が怖いか?」
「…」
「人は変わり続けるものだぞ。俺もおまえも変わっていくんだよ。まあ、言い方を変えれば成長っていうのかな。だからって俺が奏を好きでいることは変わらないから、安心しろよ」
「うん」
突然の静稀の言葉に、たまらなく不安になる。
変わっていく俺を、静稀は愛し続けてくれるのか?俺は静稀を愛し続けられるのか…

向こう岸の灯りが仄かに辺りを浮かび上がらせ、冬夜の川は静かなまま、闇色のきらめきできらきらと輝く。
「さすがに寒いな」
「うん」
初日の出を拝みたいけれど、とてもじゃないが立ってるだけじゃ寒すぎて、それまで待ちきれない。

「来年は、一緒にこの土手で初日の出を眺めような」
「うん」
そう言ってくれる静稀の優しさが、すごく好き。

こんな想いがずっと続くこともないのだろうか…
こんなに近くにいる静稀が、少し遠い気がする…
バカ、今からこんな弱気じゃもたねえぞ!

「ねえ、しぃくん。俺さ、神社で祈ったのは、しぃくんとずっと仲良しでいられるように…だったけどさ…変えるよ。俺がしぃくんをずっと好きでいられるように、って。それが俺の願いだから」
「奏…」
「元気でね、しぃくん。俺はどんなしぃくんも好きでいたいって思っている」
「…ありがと、奏」

それから俺たちは、約束のキスをした。
いつまでも互いを好きでいようと…

簡単じゃないけれど…
努力するよ。
おまえが、好きだから…



イラスト適当でごめんちゃい人(・ω・;) スマヌ
この後、ふたりがどうなったか…後々わかるだろう。(今の時点でなにもかんがえてはいないんですけどね(*・ω・*∩)
次はね~イールたんの冒険とか、書きたい。



お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

輪舞曲3…「二十歳」 - 2013.01.15 Tue

二十歳

イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方はイラストをクリックしてください。

戦士2013


二十歳


成人式に興味はなかったが、式の後、中学時代の同窓会があるから来いと、世話好きの幼馴染みが五月蠅く誘うので、仕方なく出席してみた。

ホテルの会場に集まった懐かしい面々…
と、いうか…
俺は中学は市外の私立中だったから、正直、ここにいる連中の半分ぐらいしか、面識はなく、そのうち仲の良かった者なんか、数える程しかいない。
と、言っても…
小学時代は頭脳明晰で誰からも好かれる好少年。毎年クラス委員をやらされ、非の打ちどころもない優等生だった俺は、自分で思っているよりも顔が知られているようで、誰彼ともなく挨拶をされる。
勿論、相手が誰かはよくわからない。
女子は化粧と恰好でまるっきり面影もクソもないし、男子は名前を聞いたらなんとかわかる気がするが、それとて過去の想い出話に花が咲くわけでもない。

適当に相手に合わせて談笑してみても、心から楽しめるわけでもない。
次第にここに来たことを後悔し始めた頃、俺の名前を呼ぶ男がいた。

「砂原(さはら)元気だったか?」
「…」
金色に染めた髪と、洒落たダブルブレストのスーツを着こなした痩躯の男の姿に見覚えはない。
俺の名前を知っているから、きっと同級生だったのだろうが…
俺が黙って見つめると、その男はキョトンとし、そしてクスリと笑った。
「忘れちゃった?俺、崎村哲(さきむらてつ)だよ」
「…哲?おまえ、哲なのか?」
絶句した。
いがぐり頭がトレードマークだった芋臭いガキだった哲が…こいつ?

「わ、るい…いやあ、すっかりあか抜けて…わからなかったよ」
「小坊の頃は、確かに俺、ダサかったからなあ~」
頭を掻きながら苦笑する顔すら、俺にはまだ信じられない。あの哲が、目の前のイケメン優男になるなんて…

「砂原は…あんまり変わらないな」
「そうか?」
「うん。俺の想像どおりの二十歳の男になったって感じかな」
「そう…喜んでいいのかな」
「ああ」
懐かしげに優しい笑みを浮かべる哲を前に、俺は不可思議な気持ちで一杯になった。
そもそも…

俺とこの崎村哲の間に、友情と呼べる信頼関係はない。
どちらかというと、俺にとって哲の存在は目の前にたかるハエのようなものだった。
何もできないくせにぶんぶんと五月蠅くうろついてまわる口だけの軽薄な勉強のできない男子だった。
文武両道で優等生で非の打ちどころのない俺を妬み、つまらない言いがかりで文句をたれ、俺をイラつかせた。
俺も子供だったから、そういうガキっぽい哲を見下し、軽蔑した態度を取っていたのだろう。
哲の俺に対するつまらない苛めはエスカレートしていた。

とは言え、彼の味方はなく、クラスのヒーローだった俺が、あいつの行動に怯むわけもない。
ただ、隣りの席になった時、やたら俺の筆箱の鉛筆やら消しゴムが無くなり、哲に疑惑の目を向けても現行犯で締め上げられなかったことが悔やまれる。

卒業が近くなった頃、ある事件が起きた。
俺と同じクラス委員をしていた女子の金子円(かねこまどか)が、昼休み時間に俺を校舎の屋上に呼び出したのだ。
頭のいい金子とは塾も一緒だったし、勉強も教えあう仲の友人だった。
その彼女が少し頬を染め、俺に言うのだ。
「手紙、読んだわ。私も砂原くんのこと…ずっと前から好きだったの。付き合ってもいいわよ」
「…は?」
俺には何のことかさっぱりわからなかった。
「悪いけど、何の話?」
「え?…なんのって…手紙…ラブレターくれたじゃない。四年の時から好きだって…」
「待ってくれ。俺はラブレターなんて知らないし、好きだなんて…思ったことない」
「…ウソ…」
「嘘なもんか。なんで俺が金子を好きにならなくちゃならないんだよっ!」

今から思えば、もうちょっと違う言い方をすれば、彼女もあんなに傷つくはなかっただろう。だが、俺も小学生、まだ12歳だったんだ。
いきなり根も葉もないことを言われ、腹が立ってしかたなかったんだ。

金子もまた美人の優等生で、プライドが高かった。だから、嘘のラブレターにも、告白したにも関わらず断ったことに対しても、ショックだったのだろう。
青ざめた顔をして俺を睨んだ。
「じゃあ、これは…この手紙は砂原くんが書いたんじゃないのね」
目の前に突き付けられた手紙を俺は受け取り、中身を読んだ。

「私、塾で砂原くんの字を見慣れているのよ。それ砂原くんの字にそっくりだよね」
「…」
「内容だって…この間、塾で習った恋の和歌とか書いてて…絶対、砂原くんだって思うよね」
「…」
「砂原くんじゃなかったら、誰がこれを書いたって言うの?」

確かに、手紙の内容は俺が書いてもおかしくない内容だったし、なにより右肩上がりの筆圧の強いクセのある字が、俺にそっくりで、金子じゃなくても間違えるだろう。

「…わからない。誰かが俺のマネをしてこの手紙を書いたんだろう。だけど、そんなことをして誰か徳をするヤツがいるのか?」
「…ホントに…砂原くんじゃないのね?」
「当たり前だ!大体…俺、こんな手紙書かない。好きならちゃんと相手に言葉で言うよ」
「…」
「…ごめん」
「…いいわよ、もう…でも、これが悪ふざけなら…許せない」
「俺だって…でも、一体誰が…」

その手紙をもう一度見かえした時、俺の頭にふと崎村哲の顔が浮かんだ。

あいつなら…
俺のノートを何度も写させたこともあるし、俺の文章の特徴も知っている。
あの頭の悪い哲が、俺そっくりの字を覚え、俺が書くような手紙を書いたとは考えにくかったが、こんなことをする奴はあいつしか思いつかなかった。

俺は手紙を金子に返し、急いで教室へ戻った。
昼休み中の教室はまばらだったが、哲は仲の良い男子ふたりとカード遊びをしていた。
俺は何も問わず哲の胸倉を掴み、拳で思いきり哲の顎を殴ってやった。
哲の身体は後ろの壁にぶち当たった。

「どうして殴られたか、よおく考えろよ、哲。俺だけじゃなく他のやつまで傷つけたおまえを…俺は一生許さないからな」
「…」
口唇が切れ血が滲んだ哲は、何も言わず俺を睨みかえした。

その後、卒業まで哲とは一言も口を利かなかった。
金子円も手紙の件に関しては、一言も言わなかったし、俺も何もなかったように接していた。

後味の悪さだけが残った哲との思い出だったが、その後の俺の人生にあまり影響はなかったらしい。その証拠に、哲の顔を思い出すまですっかり忘れていた。

「砂原にはいつか謝らなきゃらならないって、ずっと思ってて…」
「え?」
「あん時、おまえのふりをして金子にラブレター出したのは、俺だった」
「…まあ、ああいうことをやるのは、おまえしかいねえもんなあ」
「悪かったよ。ごめん」
「もういいよ。でも…よくよく考えると、俺の字によく似てたし文章も巧かったし、おまえ、もしかしたら金子のこと好きだったのか?だから俺になりきってラブレターを書いたのか?」
「…は?…いや…そうじゃねえよ。俺は…自分で自分がわからなかったんだよ。頭悪いのに夢中になっておまえの字をマネして、おまえになりきって、手紙書いたりしてさ。…後になって…おまえがよその中学に行ってから…すげえ色々と考えてさ。それで…俺はおまえが好きだったんだと、わかったんだ」
「…はあ?」
「だから、色々とつまらないちょっかいだしたのも、おまえが気になって仕方なくて、それっておまえを好きだったって事だよ」
「…ちょっと…本気で言ってるのか?」
「二十歳にもなったから時効だろ?…俺はおまえが好きだったんだよ、砂原」
「…」
そんな真顔で断言されても、俺も困るのだが…

「そう自覚したから、今の俺が居る」
「え?」
哲は俺の耳元に近寄り、声を低くして呟いた。
「俺、ゲイなんだ」
「…」
「気色悪い?」
「いや。今の世の中、そう珍しくもないだろう」
「そう、良かった。砂原にまた軽蔑されるのかと思って、少し怖かったんだ」
「しないよ。でも他の奴らには言わないほうが良さそうだけどな」
「うん」
安心した顔を俺に見せた哲は、胸元から名刺入れを出し、俺に一枚差し出した。

「今、この店で美容師をしてるんだ。これでも腕がいいって評判なんだぜ。何かのついでの時は砂原も来てくれよな」
「ああ、寄らせてもらうよ」
「…緊張してミスるかもしれないけど…」
そう言って笑う哲は、二十歳の顔をしていた。




「…やっぱ、とおりもんは美味いよな~。地元でしか買えないお土産さいこ~」
「そりゃ、良かったね」
「で、どうだった?成人式じゃなくて同窓会か」
「別に…どうってことなかった」
「昔、好きだった男には会えたかい?」
「…いねえよ、そんなもん。俺には静稀さんがいるもん」
「…だよね」

ふたつ上の先輩と同棲中の俺に、ゲイの哲を責める気なんか、あるはずもない。
二十歳の俺は、どうやら幸せだ。

君もまた幸せでありますように。



同窓会って不思議な気分になるよね~


お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

NEW ENTRY «  | BLOG TOP |  » OLD ENTRY

プロフィール

サイアート

Author:サイアート
イラストと駄文を更新しております。

少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

ゆっくりしていってね~

サイズを記憶するフォントサイズ変更ボタン

文字を大きくする 文字を規定のサイズに戻す 文字を小さくする

ツリーカテゴリー

Script by Lc-Factory
(詳細:Lc-Factory/雑記)

最新記事

FC2カウンター

リンク

このブログをリンクに追加する