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2019-11

バレンタインデー 1 - 2013.02.06 Wed

バレンタインデー 1

イラストはサムネイルでアップしております。
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漣と

出会ったのは中学の入学式。
真新しい詰襟の学生服の君は、新入生代表の挨拶を緊張する風もなく、淡々とやってのけたね。
僕はその姿に憧れ、そして…恋をしたんだ。


バレンタインデー 1


なんとか中学の入学までに間に合うようにと新築の住宅へ越してきた僕達、仁井部一家の生活は、それまでの暢気な社宅暮らしとは一変した。
毎日二時間を通勤する父親とはほとんど顔を合わせる暇もなく、母親は新築したばかりのインテリアコーディネートを毎日楽しんでいた。
六歳上の姉は、大学進学で待望の独り暮らしを始め、新築の家には寄り付かない。
僕はと言えば…
友人も知り合いもいない新しい中学生活が不安でたまらなかった。
「大丈夫よ~。周りのみんなだって新入生じゃない」と、能天気な母には僕の心細さはわからない。
だがラッキーなことに、彼が…憧れの君、あの柊木栄嗣(ひいらぎえいじ)が僕のクラスメイトになったのだ。
話しかける勇気は出なかったが、彼の姿を眺めるだけで、登校拒否にはならずに済みそうな気がした。
そして、幸運は続いた。
部活は同じバスケ部。しかも…僕の家と柊木栄嗣の自宅は近所だったのだ。

「あれ?君…確か同じクラスの仁井部くん…だったよね」
彼が僕を認識したのは、新学期が始まって一週間目の朝だった。
その時はまだ新入生の部活動は始まっていなかったから、同じ部活になるとはお互い知らなかった。
僕はいち早く、朝、彼が登校する時間を見計らい、その時間に合わせて家を出ていた。そのうちに彼が気づいてくれるのを期待していたんだ。
だから色々なシチュエーションは頭の中で想像してはいたんだけど、実際彼が振り返って僕に声を掛けてくれた時は、マジで心臓が飛び出すかと思った。
「う、うん」
「君、新しく越してきたんだよね」
「そうなんだ。だから友人というか…知ってる子もいなくて…」
「そう、じゃあ、俺が君の友人一号ってことで…俺、柊木栄嗣。よろしくな」
そう言って爽やかに笑いかけてくれたことが嬉しくて…友達になれたことが幸せで…病気になってもぜったい学校休むもんかって、真剣に思った

そして、僕と柊木栄嗣は親友になった。僕ではなく、彼が「親友だからな」と言ってくれたのだ。
当然部活動の帰りも一緒、朝の通学も時間を合わせて通うようになった。
最初の不安なんてどこかへ吹き飛び、僕は毎日夢心地の気分でいた。

柊木栄嗣はどこから見ても非の打ちどころのない中学生だった。誰が見ても好感のもてる整った顔つきと、十分な体格を持った姿形は言うに及ばず、品行方正で頭脳明晰、スポーツも難なくこなし、分け隔てなく誰にでも親しげで、弱い者には優しい言葉を掛けた。
目上の者に対しては、大人びた言葉を使い、納得いかなければ、先生からすれば青臭いヒューマニズムではあろうが、真向から反論した。
誰もが…成績しか興味のないインテリも悪ぶった悪たれ達も、柊木栄嗣に楯突くことはなかった。むしろ悪ぶった生徒たちは、彼の真っ当な正義感に憧れさえ抱いていただろう。

そんな柊木栄嗣と親友であることが、僕には神様がくれた奇跡の恩寵のように思え、彼と一緒に居る時は、喜びと共に少しだけ緊張もしていた。

「俺の事は栄嗣でいいって言ってんだろ?漣(れん)」
「う…うん。でも呼び捨てってなんか柊木くんっぽくないかな~って思ってさ」
「なんだよ柊木くんっぽいって。ふふ…漣は変な奴だなあ~」
「そうかな」
「でもおまえの名前ってかっこいいよな」
「え?」
「クラスの名簿見た時さ、仁井部(にいべ)漣ってなんて呼ぶんだろって思ってね。『さざなみ』って書いて『れん』ってさ」
「父さんが学生時代にボートをやってて、そのボートの名前が『漣号』だったんだって。酷いよね。息子にボートの名前を付けるなんてさ」
「いいじゃん。『漣(さざなみ)』ってかっこいいじゃん。俺、好きだな」
「…」

栄嗣の「好きだな」と言う言葉に僕の鼓動が高鳴った。
生まれて初めて性的な興奮を覚えたと言っていい。何の事は無い。
彼は僕の名前が好きだと言っただけというのに、僕の恋心は確実に芽生え、そして一気に上昇してしまったのだ。

そんな彼がモテないわけもなく、栄嗣は何度も女子から告白をされていたが、何故か特定の女の子と付き合っているという噂も聞かなかった。

一年の秋、僕は偶然にも栄嗣が告白されている現場に居合わせた。と、言うより、体育館の裏の柱の陰で、こっそりふたりの会話を聞いてしまったという方が正しい。
相手の女子は隣のクラスのマドンナ的存在の子で、バスケ部の中でも人気があった。と、言うのも、体育館の窓から見えるテニス場が、彼女の部活の練習場で、そのスコート姿が可憐でその頃の男子にはたまらない、と、言う極めて俗っぽい趣向で人気があったのだ。
栄嗣も周りの部員と一緒になって、「あの子かわいいよな~」と、はしゃいでいたから、この現場を見た時、栄嗣はその女子の告白を受け入れるものとばかりに思っていた。
女の子の告白は真剣で、精一杯の想いを栄嗣に伝えようとする気持ちがこちらにも伝わってくるほどだった。
だが、栄嗣は頭を掻きながら、その女子に言った。
「悪いんだけどさ…俺、好きな子がいるんだ。ごめんね」
しばらくして、女子の涙ぐむ横顔が、見えた。

その日の帰り、栄嗣と並んで歩きながら、僕は栄嗣に聞いた。
「あのさ…さっき、偶然に見たんだけどさ…栄嗣が女子に告白されるところ…」
「え?」
「盗み見じゃないよ。ホント偶然だったの。ゴメン。黙っていようと思ったけど、なんか隠し事をするのが嫌だから…」
「…そっか~見られてたのか~」
「ゴメン。でも…なんで断ったの?あの子のこと、君もかわいいって言ってたじゃないか」
「う~ん…なんつうかなあ~。客観的に観てかわいいと思う事と、付き合いたいって思う事は違うんじゃないかな。俺、結構女の子に付き合ってくれって言われるけどさ、あんまり付き合いたいなあ~とは思わないんだよね」
「…他に好きな子がいるから?…その子って僕の知ってる女子?」
「いや、あれは嘘だよ」
「嘘…なの?」
「昔…って言っても小学六年の時さ…好きだった子に告白されて喜んで承諾してさ…まあ、小学生だから付き合うって言っても、一緒に下校するくらいじゃん。それでもあっという間に付き合ってるってクラスで噂されて…それはいいんだけど、今度はその子が怒るわけ」
「何を?」
「『どうして他の女子と楽しそうに話すの?』『どうして昼休みに男の子たちとばっかり遊んで、私と一緒にいてくれないの?』最後には『栄嗣君には私がいるのに、どうして他の女子を見るの?』…だって。ぞっとするだろ?」
「それは…まあ…そうだね」
「もう面倒臭くて付き合うのを止めた。それからも色々揉めたりしてさ。もうしばらく好きになったり、付き合ったりするのは止めようって決めているんだ。まだ中学生だし、恋とかより、みんなと遊んだり、バスケやったりする方が楽しいじゃん」
「…そうだね。なんとなくわかるよ」
「女子と喋るより、漣と居る方がずっと楽しいじゃん。なあ、そう思わねえ?」
「…うん。僕も…栄嗣と居る時が、一番楽しいよ」


…好きな相手がいないのは嬉しいけれど…
親友って存在が、どれだけ尊いものかもわかっているけれど…
僕は君の恋の相手にはなれないんだね…
ねえ、栄嗣。
僕の恋心は君にとって、罪になるのだろうか…。



 2へ

バレンタインまでには間に合わせるように…します~
セレナーデはもちょっと待ってね。



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バレンタインデー 2 - 2013.02.12 Tue

バレンタインデー 2

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仁井部漣


バレンタインデー 2

中学二年になり、柊木栄嗣とは別のクラスになったけれど、朝の登校も、帰りの部活帰りも一緒だから仲の良さは変わらない。
栄嗣みたいな完璧な男が、僕みたいなどこから見ても平凡な奴と親友でいることが、きっと周りの同級生は訝っていただろう。だって僕自身がそうだったから。
でも栄嗣は言うんだ。
「俺、こう見えて事なかれ主義というか…案外小心者っていうか…周りの期待を裏切らないようにかっこつけてるんだよな~。でも漣には気を使わずに素直で自分の気持ちを曝け出せる。そういう奴って見つけようとしてもなかなか巡り会えないって思うんだ。だから俺にとって漣は大事な存在だ」
「…なんか…照れるよ」
「ホントだって。でも、俺ばっかりがいい思いしてもそれは親友じゃないよね。俺も漣の為ならなんでも力になるからな。遠慮なく言ってくれよ」
「…うん」
無邪気な笑顔を僕に見せる栄嗣…。本当の僕の気持ちを知ったら、その笑顔は僕に向けられなくなってしまうんだろうか…


二年生の後半からは、バスケ部の部長と生徒会役員の掛け持ちで毎日忙しそうな栄嗣だったけど、僕との友情は変わらず、そして栄嗣の愚痴を聞いたり、励ましたりするうちに、僕は自分自身の人間性が少しずつ成長していることを感じていた。
そして、このままずっと栄嗣の傍に居て、彼に必要とされるよう自分を磨いていきたいと思うようになった。

三年生になると受験が待ちかえている。
当然、栄嗣はこの地域で通える一番レベルの高いA校を受験することにしていた。僕は栄嗣には到底かなう成績ではなかったが、どうしても栄嗣と一緒の高校に行きたかったから必死に頑張った。
同じ高校へ入学できたら、少なくともあと三年間は一緒にいられる。

栄嗣は僕がA校合格の為に必死になっている本当の理由も知らずに、僕の傍でいつも勉強を教えてくれた。
「一緒にA校へ行こうな」と、力強く励まし続けてくれた。
それなのに…
12月になって、栄嗣は突然予想もしていない事を言いだしたのだ。

栄嗣は高等専門学校を受験するというのだ。しかもここからずっと離れた東京の高専だ。
俺は驚いた。そんな話を今までに栄嗣の口から聞いたこともなかった。

「高専を受けるって…なんで急に?」
「そんなに急でもないんだ。本当はずっと前から考えていた。今年の春ごろにちょっと親に言ってみたら、強く反対されてね。特に母親がね。ほら、俺、ひとりっ子だろ?家から離れて寮暮らしなんて、まだ早いし、心配で仕方ないって言うんだ。だから何度も諦めようとしたんだ。でも…やっぱりどうしても行きたいって思ってさ」
「どうして…高専なのさ」
「うん。ほら、この間、すげえ地震があったろ?俺たちは被災しなかったけれど…その後の原発の事故なんかでさ、今でも色々と手間取ってるじゃん。ああいうのさ、なんとかしたいって思うんだよね。人間ができない場所で処理をしているロボットとかの先端技術工学を学んで、もっと早く元の環境にしてやりたいってさ。…そういうの甘いとか言われそうだけど、本気でやってみたいんだ」
「…」
…知らなかった。栄嗣がそんなことを考えているなんて…こんなに近くにいるのに全然気づいてなかった。
僕はなんて馬鹿なんだろう…

「…だったらハイレベルな高校で普通の勉強をやるより、早く専門的なものを学んだ方が道は早いし、そこからまた近道を選べるかもしれないし。…俺さ、人間の人生ってどれだけ人の為に働けるかで価値が決まるんじゃないかと思うんだ。別に他人に褒められたいわけじゃない。勿論褒めてくれたら嬉しいけどな。俺にとって…大事な人たちを守る為に自分がやれることを見出して、頑張ることが幸せな人生なんじゃないかって…ずっと考えてた…」
「…栄嗣はすごいね。…僕は自分のことばっかりだ」
「そんなことないよ。…ホントはなんども諦めようと思ったけれどね、漣が俺に教えてくれたんだよ」
「え?」
「毎日毎日一生懸命に勉強している漣の姿を見てるとね、俺自身が漣に励まされてる気がするんだ。なあなあでここで自分の想いをはぐらかせて、楽な道を選ぼうとしている俺は、漣みたいに懸命に何かを目指して頑張って生きているのか…ってさ」
「そんなんじゃないよ。僕は…ただ栄嗣と一緒の高校に行きたい。また一緒に三年間を楽しみたいって…ただそれだけだよ」
「その想いが俺にとって、どれだけ誇りになっているかわかる?漣。おまえが俺の為に頑張っている姿に恥じないように、俺も自分に嘘を吐いちゃいけないって思ったんだ」
「栄嗣…」
「漣との約束を破ることが、一番辛かった。一緒に行くって約束したのに、ゴメンな、漣。でも一緒に行けなくてもこれからもずっとおまえと親友でいたいって思ってる。…駄目かな?」
「駄目じゃないよ…駄目じゃない…寂しいけれど…僕も応援するよ、栄嗣。T高専絶対合格しろよ」
「ああ、頑張る。漣に負けないぐらい必死に頑張る。だから絶対合格しような」
「うん」

それから自宅に帰った僕は、自分の部屋のベッドの中で泣き崩れた。
栄嗣の前では我慢したけれど、ホントは泣き喚いて、詰ってやりたかった。
おまえと一緒にいたいから、したくない勉強だって必死に頑張ってきたのに…あれだけ一緒に高校生活を楽しもうって約束したのに…栄嗣の嘘つき、バカ、僕の気持ちなんて少しもわかってないっ!

泣きつかれて涙も枯れてしまった後、なんだか可笑しくなって笑ってしまった。
ただの友情だったら、こんな風に泣いたりしない。合格するように応援してやればいいだけだ。
…片思いっていうものは本当にやっかいなものなんだな…


翌年の二月、滑り止めの私立も合格し、後はお互いの志望校受験を残すのみになった。
日曜日、久しぶりに帰ってきた姉に連れ出され、街に買い物に出た。
「漣と一緒に買い物なんて何年振りかな~」
「お姉ちゃん、僕、受験生なんですけど…」
「たまの息抜きは必要でしょ?それよりあんた、ちょっとチョコ買うから付いてきて」
「チョコ?」
「そうなの。もうすぐバレンタインだから、ここの人気のチョコレートショップに行きたいの」
「お姉ちゃんにチョコをあげる彼氏がいるの?」
「バカね、漣。彼氏ぐらいいるわよ。あんたはどうなのよ。本命チョコを貰う彼女のひとりぐらいはいないの?」
「…」
「…いるわけないよね。漣は控えめだもん。でもあんたのそういうとこ、私は好きだからね」
「お姉ちゃんに褒められてもねえ~」
「義理チョコぐらいは買ってあげるから、さ、行こ」
無理やり姉に腕を惹かれ、女の人で一杯の店の中へ入った。店の中に入った途端甘いチョコの香りに包まれる。
学生っぽい女子はあまり見かけなく、大人の女性が多い。それもそのはずだった。
ケースを眺めたら、綺麗に並べられた小さいチョコひと粒が…え?五百円?こんなに小さいのに?
あまりの衝撃に僕は固まってしまった。
それなのに周りの女性たちは、あたりまえのように指を差し、いくつかのチョコレートを選んで買っていく。
みんなウキウキとした嬉しそうな、そして愛おしそうな顔をして…
姉貴も同じだ。彼氏のことでも想っているのだろうか。いつもとは違い、少し頬を赤らめ、照れながら店員さんにチョコレートの味を聞いている。
そうか…バレンタインのチョコっていうのは、相手を想いながら、その想いをチョコに込めて買うんだな…

「おまたせ~」
「欲しいチョコ買えた?」
「うん。ああ、そうだ、漣。せっかく来たんだからあんたもひとつくらい買ってみたら?」
「え?僕がチョコを?」
「そう、バレンタインってね。本当は男も女も関係ないのよ」
「ホント?」
「そうよ。あんたも好きな女の子にここのチョコをあげてみたら?すごく喜ぶと思うよ。ここの店有名だし~」
「そうかな…男の僕が送っても変じゃない?」
「変じゃないよ。想いを込めて送っちゃえ~。シャイボーイ!」

姉貴にそそのかされ、小さなボンボンショコラ二個入り千二百円の箱を買った。
綺麗な箱にシックなリボンに飾られたチョコレート…僕の精一杯の栄嗣への想いを込めたチョコだ。

栄嗣に手渡すことができるかどうかわからないけれど、机の引き出しに大事にしまったチョコの箱を眺めているだけで、何故だか幸せな気分になった。そして考える。
果たして本当に栄嗣にこれを渡すべきなのだろうか…と。
もし、これを渡し、栄嗣に僕の想いを告白してしまったら、僕と栄嗣の親友という絆は、変わってしまうものなのだろうか。
親友でいられなくなるのだろうか…


渡そうかやめようかと悩んでいるうちにバレンタインの日はやってきた。
俺は手の平サイズのチョコの箱を学生服のポケットに忍ばせ、登校した。
学校内は私立入試がひと段落つき、少し前の緊張感が緩和され、チョコを渡す女子と貰う男子たちがどちらとも浮き足立っているようなふわふわとした空気が漂っていた。

栄嗣は勿論数えきれない程貰っていたし、僕も義理チョコだったけど三個もらった。
その日の帰り道、栄嗣とふたり並んで歩いていると、重たげな紙袋を下げた栄嗣が突然言う。
「なあ、漣。このチョコさ、おまえにあげるよ。俺、あんまりチョコレート好きじゃないんだよなあ~。漣は甘いもの好きだろ?」
…そういやそうだった。栄嗣はケーキ類は食べるけど、チョコはあまり食べなかったんだっけ…すっかり忘れていた。
「でも栄嗣がもらったチョコなんだから、僕は受け取れないよ」
「だってこんな一杯あるんだぜ?去年はバスケ部の連中に分けたけどさ…」
「…」
つうか僕の手にあるこのチョコはどうすればいいんだよ~。好きじゃないってわかったのに、今更チョコを渡せるのか?

「なんつうか、バレンタインデーなんてメディアに踊らされてるだけじゃないか。別に本当に好きなら、バレンタインとかチョコとか関係なくいつでも言えばいいんだよ。なあ、漣」
「…」
「ああ、なんかもうメンドクサイからこのチョコ、全部、漣にやるよ。いらなかったら捨ててもいいし…」
「栄嗣っ!」
「え?…なに?」
「面倒くさいからって、僕にあげるとか捨てるとか言うなよ。みんなおまえのことを好きだからプレゼントしたんだよ。義理チョコもあるだろうけれど、本当におまえを好きで、でも打ち明けられなくて…バレンタインデーっていうイベントの力を借りて、やっとおまえに告白した子だっているかもしれないじゃないか。そういうプレゼントを、簡単に捨てるなって言うな」
「…漣」
「チョコが好きじゃないなら全部食べなくていいよ。でも一粒でも、一欠けらでも食べて、これをくれた子たちの想いを感じてもいいんじゃないのかな…そうじゃなきゃ、彼女たちが可哀想だよ」
「…」
僕の言葉に栄嗣はしばらく黙り込んだ。
まずい…つい本気で口走ってしまった。
…いつになく気まずい雰囲気だ。

「ゴ、ゴメン。おせっかいだったね。栄嗣のもらったチョコなんだから栄嗣がどうしようと僕が色々言う立場じゃなかった。ゴメン」
そう言うと、栄嗣はくるりと僕の方を向き、いきなり抱きついてきた。
「ちょ…っと、栄嗣」
栄嗣はスキンシップが好きでそれを気にしない奴だ。
バスケの試合なんか、勝っても負けても部員ひとりひとりに抱きついては、喜んだり悔しがったり…みんな、そういう栄嗣が大好きで、こいつの為に一緒に頑張ろうって思わせるんだ。

「…栄嗣、もういいだろ。他人が見たら誤解するかもしれないよ」
「かまうもんか。勝手に誤解してろ」
「…」
「ホントに敵わないよ、おまえには」
「え?」
「漣の言うとおりだ。人を思いやる気持ちがなくて、人に役立つ物作りができるかって…なあ」
「栄嗣」
「漣が俺の居てくれてホント良かった。漣が居なきゃこんな大切なこと、気づかずにいたよ。漣はやっぱり最高の親友だ。ありがとな」
「…そんな…」
栄嗣はやっと抱きしめた腕を緩め、僕の頭を撫でた。

「じゃあ、無理してでも貰ったチョコは食べるようにするよ。ニキビが増えたら漣の所為だからな」
「無理はしなくていいよ…それより栄嗣…」
「なに?」
僕は右のポケットに入れたチョコの箱を握りしめた。ここで渡さなきゃ…今、栄嗣に僕の気持ちを言わなきゃ…
「…」
だけど、僕を見つめる栄嗣の瞳が眩しすぎる。栄嗣のまなこに映る僕は、彼に必要なのは「親友」である仁井部漣なんだと、訴えているようだ。
栄嗣の絶対の信頼を裏切っていいのか?
失望させてもいいのか?
「友情」を捨ててまで「恋心」を打ち明けることが、栄嗣にとって…僕にとって本当に良い選択なのか?

…栄嗣の信頼を、失いたくない。

「あ、見ろよ、漣。雪だ…きれいだな」
「うん…そうだね…」

僕は握りしめたチョコをポケットから出すことを諦めた。
そして、栄嗣の肩に降り積もっていく雪を、空いている片手で払った。

「ありがとう、漣」
「どういたしまして、栄嗣。それより早く帰って、塾の時間まで僕の家で勉強しようよ。本番の試験まで時間がないよ」
「ああ、そうしよう。肉まん買って一緒に食べよ」
「うん」

これでいい。
これで…いいんだ。

僕は自分にそう言い続けた。





1へ /3へ


すいません。次で終わらせます。
14日までにはなんとか…( ,,`・ ω´・)がんばるよ~



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バレンタインデー 3 - 2013.02.14 Thu

バレンタインデー 3

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漣と栄嗣11



バレンタインデー 3

その春、柊木栄嗣も僕も第一志望の高校へ進学した。
別れは辛かったけれど、おそろいの携帯電話を買って、頻繁に連絡をし合うように約束した。
別々の高校へ行き、離れ離れになっても、僕と栄嗣の仲は揺るがなかった。
携帯電話、メールのやり取り。栄嗣が帰省する時は、必ず僕に会いに来てくれた。
夏休みには海水浴、隣県のキャンプ場まで自転車で飛ばしたり、映画を観たり…ふたりだけで楽しんでは笑いあい、至福の時を過ごした。
僕は相変わらず栄嗣が好きで仕方なく、恋愛感情も消えてはいなかったけれど、それを栄嗣に告白しようとは、思わなくなっていた。
こうしてふたりきりで栄嗣と一緒に楽しめるのなら、普通の恋人たちがやっていることとなんら変わりがないではないか。
ただ、僕達の間では、性的なものが発生しないだけだ。

キャンプ場の夜、降るような星空を寝転んで見上げながら、話したことがある。
「ねえ、栄嗣は恋人はいないの?」
「ん?ああ、うちは女子が少ないからな。それに毎日課題をこなすのが大変で、色恋沙汰に時間を掛けている暇がないんだ」
「そう…」
「漣はどうなんだ?好きな子とか付き合いたい子とか、いないのか?」
「別に…いないね」
「おまえ、女子にはそっけなかったからなあ~。見かけは悪くねえのにさ」
「栄嗣がモテて困っているのを見慣れてるから、僕もあんまり女子に関心はなくなったんだ」
「なんだよ。漣に彼女ができないのは俺の所為か?」
「そんなんじゃないよ」
「…実は俺さ。半年ぐらい前かな。うちのクラスのすげえ美人の女子に告白されて付き合ってみたんだ。一緒に食事したり映画観たり…キスもした」
「…」
「でもなんかな…別にその子に不満があるわけじゃないけど、ワクワクしない。そんなに楽しくねえし、この子とセックスしたいとも思わない。それなりに気を使って、共通の話題を探して、無理やり笑いを誘って…なんか恋愛ってこんなつまんねえものなのかな…ってさ。これなら漣と一緒に居た方が、ずっと楽だし、楽しいし…こんな風に正直に話せるし…。やっぱ俺には恋愛って向いてないのかもしれないなあ~って思えてさ」
「…」
「まあ、それならそれでいいし。恋愛しなくても楽しく生きていく道はあるし、今の俺は機械やプログラムの勉強してる方が楽しいからな」

それだけ打ち込めるものを持っている栄嗣が、僕は羨ましい。
僕だって本も読むし、音楽も聴くし、スポーツだって観るのもするのも嫌いじゃない。だけど結局本気で夢中になるものって…僕には栄嗣しかいない。

「…僕は…恋愛したいって思うよ。好きな人がいて、その人も僕を好きでいてくれて…そんで恋人同士になって…その人の為に精一杯尽くして、幸せを沢山与えて、ずっと一緒に…死ぬまで一緒に暮らすんだ。…それが僕の夢だよ」
「なんだよ、漣…まるで好きな人がいるみたいな言い方だな」
「たとえばの話だよ。今は…栄嗣と同じで好きな女子はいないし、欲しいとも思わない。僕も栄嗣と一緒に遊んでいる時が一番楽しいし…」
「…」
何も言わず、僕の顔をじっと見つめる栄嗣の視線を逸らすように、僕はただ星空を見つめ続けた。


高校三年の夏、栄嗣は帰省しなかった。
高専ロボットコンテストにエントリーするロボットの製作に取り組んでいるらしい。
栄嗣からの電話は多くなり、疲れた声を出し愚痴を吐いたり、声を荒げて怒ってみたり、思い通りにならないことの苦労話を聞かされた。その度に僕は栄嗣を宥め、励まし、大丈夫だと何度も繰り返した。

秋になった。
羊雲が空を覆い尽くす様を、部屋のベッドに寝転んで見上げていると、栄嗣からの携帯が鳴った。
「はい」
『漣!俺、地区予選突破した!』
「え?、ロボコンのこと?」
『そうなんだ!優勝は逃したけれどアイデア賞で全国大会に出場が決まったんだ!』
「良かったじゃん!おめでとう、栄嗣。あんなに頑張ってたもんな」
『あのな、驚くなよ。ロボットの名前、「漣(さざなみ)号」って付けたんだ』
「え?…どうして?」
『漣の…応援があったからここまでやってこれたんだ。漣が俺に作り続ける力を与えてくれたから…漣がいたからできたんだ。だから漣の名前を使わせてもらったんだ。ほら、漣の名前の付いたロボットなら、すげえ頑張って最後まで動きそうな気がしないか?…ねえ、漣…漣?』
「…」
僕は息をのんだ。鼓動の音が耳鳴りのように響いて、次第に強まってくる。
息ができない…
驚きと嬉しさで、涙が出そうだ。
栄嗣、栄嗣、それは…僕への告白なのか?
それとも…相変わらずの能天気な君の友情の証なのかい?

『漣?どうかした?』
「…いいや、あんまり嬉しかったから…言葉が出なくなった」
『馬鹿だなあ~。まだ予選突破だよ。これから優勝目指してもっと精度を高めていかなくっちゃな』
「うん、そうだね…ねえ、栄嗣。これからも僕は君の…傍で応援し続けてもいいかい?」
僕の問いに栄嗣はしばらく黙った。
そして応える。
『漣の存在が、俺を勇気づけてくれる。だから…傍に居て欲しいよ』
「…うん、わかった。じゃあ、全国大会頑張ってね。必ず会場に観に行くよ」
『うん、待ってる、じゃあ』

栄嗣からの電話の後、僕は机の引き出しを開けた。
あの時、渡せなかったバレンタインのチョコレートの箱を取り出した。
中身のチョコは腐ってしまう前に食べちゃったけれど、箱も、リボンも、チョコを包んでいたパラフィン紙もそのままに残しておいた。
箱の蓋を開けるとまだ甘いチョコの香りが漂った。
三年前のあの時の気持ちが、蘇ってくる。
今も変わらない栄嗣への想いは、ちゃんと育っているかい?
僕は自分に問いただす。
「大丈夫だ」と、答えた。
そして、今ここで誓おう。
これからもずっと栄嗣の傍で、栄嗣との絆を育てていこう。
栄嗣が求めるものと、僕が求める愛が異なるものであっても、僕は決してこの恋を諦めたりしない。

渡し損ねたこの空のチョコを、今度こそ栄嗣に渡そう。
三年前の想いと、三年分の想いを込めたこの箱を。

「栄嗣、好きだよ。ずっと好きだった。栄嗣に触れていたい。キスしたい。抱きしめあって離れずにいたい。でもね、何よりも、栄嗣に幸せになって欲しい。だから、僕は…そのためにならなんでもするよ。これからもずっと…愛してる、栄嗣」

空の箱にありったけの想いを告白し、僕は蓋を閉め、リボンを掛けた。


そう、今日が僕のバレンタインデー。




 2へ 



さてさてこの恋が本当に成就するかどうかは…また別のお話で、お目にかかりましょう…


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続・バレンタインデー 1 - 2014.02.14 Fri

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漣11


続・バレンタインデー 1


転勤族の父親の所為で、俺「柊木栄嗣(ひいらぎえいじ)」は、生まれた時から社宅で育った。
社宅というのは、案外仲間意識が強く、すぐに打ち解けあい、家族同然の付き合いになったりする。
だけど、折角仲良くなった社宅の仲間や近所の友人とも、二、三年も経つと別れが来てしまう。
「ずっと親友だからね」と、涙を流して別れた友人も、最初は電話を掛けたり、繁盛に手紙を出したりするけれど、そのうちに年賀状だけの関係になってしまうんだよな。
当たり前に納得しなきゃならない事だろうけれど、俺はなんだが腑に落ちなくて、自分の性格が悪いのかもしれないと、真剣に悩んだりもした。
親の転勤で住む場所が変わるのは、現代じゃどこの家族にも当て嵌まることで、それを不幸なんて思う奴なんていないんだろうけれど、俺はずっと不幸だと感じていた。

だって、俺には親友がいない。
兄弟も居ないひとりっ子の俺には、心を開いて気兼ねなく何でも話せる兄弟のような親友がどうしても欲しかった。
幼い頃は親友が欲しくて、下校の途中、神社に寄り道をし、毎日のように「僕に親友を下さい」って拝んでいたくらいだ。
その願いが適うかも…と思う間もなく、親父の転勤でまた引っ越し…。
家族がようやく落ち着ける持家に住めるようになったのは、俺が小学五年生の春だった。

太平洋側の温暖な気候を持つ新興住宅地での新しい生活は、それまでの、次はどこへ引っ越すのだろうか…と言う不安が消えた所為か、毎日が明るくすべてが楽しかった。

学校生活にも直ぐに慣れ、沢山の友人たちが俺を慕ってくれた。
それまでに引っ越しが多かった所為もあり、俺は自然と人好きのするような振る舞いに慣れ、手っ取り早く信頼を得る為に、テストで良い成績を取り、僻む者たちへの心遣いも怠らず、誰にも好かれる真面目な生徒であるように心がけていた。
「女は愛嬌、男も愛嬌よ」とは、母の教えであったが、実践してわかるありがたい教訓だ。

クラス委員や生徒会委員なども嫌がらずにこなした結果、中学校に入学する際には、新入生代表の挨拶まで仰せつかった。
まあ、俺より勉強ができる奴も、スポーツが出来る奴も居るには居たけれど、先生たちに一番受けが良かった俺が選ばれたのだろう。
だからって自分が偉いなんて全く思えないんだけどね。逆に気に入らない先生たちに対しては徹底的に反論してみたり、意見を通す為にはこちらも戦力を練り、戦闘態勢を整えなきゃならない、とか、中坊らしく息巻いていたりしてね。

友人はみんな俺を支持してくれた。
でも、みんながチヤホヤしてくれる中で、俺はいつも孤独な自分を感じていた。
本当の俺を見せられる親友には、まだ巡り合えていなかった。

友達の中の、たったひとりの最高の友達…それが親友。
恋人よりも固い絆で、夫婦よりも正直に、家族よりも甘えられる…そんな親友なんて、お馬鹿な俺の絵空事なのかな…
だけど、ついに俺は俺の頭に描く親友になるべく権利を持った奴に出会った。

同じクラスで同じバスケ部で、この春、俺の家の近所に越してきた「仁井部(にいべ)漣(れん)」だ。
「漣」なんて、チャーミングな名前に似合った色白童顔の少年。
少し頼りない顔立ちをして、年の離れた姉ちゃんの所為か、甘えん坊なところもあるけれど、純粋で真面目で、誠実で。
くだらない話をしていても、漣の俺の目を見つめる眼差しが、なんとも愛おしくて、大好きなんだ。
ああ、勿論親友としてだよ。
親友への情愛は、見ようによっては恋人への愛情よりも深くて濃いものだと、俺は疑わないんだから。

部活が終わり、ふたり家路まで帰る距離は、お互いの本音を暴露する時間だ。
学校や家での些細な苛ついたことから、怒髪天に来たこと、つまらない自己反省やら、エロ話や、真剣な未来への展望…様々なコミュニケーションは互いの信頼を認め合い、刺激し合い成長していく。

何故だかわからないけれど、やたらと目立つ俺に対して、漣は引っ込み思案の所為か比較的目立たず、いつも端っこでおっとりとしているようだが、俺にとってはなくてはならないパートナーだ。
バスケの試合なんかがいい見本で、ポイントガードの俺の指示に一番早く適格に動くのがスモールフォワードの漣で、パスを受け渡しなどは漣無しでは巧い試合運びが出来なかった。
大して期待されても居なかった俺たちが、獅子奮迅の体で市大会に準優勝したのは、中学時代の一番の思い出だ。

俺と漣はふたりでよく旅をした。
適当に目的地を決めて、チャリンコで走るだけの話なんだけど、方々の坂道を息を切らして走る気分は爽快だった。
漣はどんなにきつくても弱音を吐かず、俺の後ろを離れずに付いてくるんだ。
俺は振り返り、頑張っている漣の姿を確認し、まだまだやれるって頑張れる。

キャンプ場からふたりで眺める大空の青さや、星空の輝きを褒め称え、何時間も「すげえなあ~」と、同じセリフをバカみたいに交わしていた。

漣と居ることが嬉しかった。
俺はひとりぼっちじゃないって感じていた。

お互いに向上できる絆が、俺は嬉しくて、宝物みたいに思えて、漣と一生こうして付き合っていけたら…て、思った。


三年になって、進学する高校を決める時、俺はこの場所から離れた東京の高専を受けることを決意した。
一年前に起きた大震災の二次災害である原子力発電所の事故の復興が、予想よりも遅れていること。その原因が、放射能で汚染された建物の中に人が入れない事。作業ロボットが思い通りに動かなく、作業が進まない…などの深刻な問題を報道で知ったからだった。

技術者の父の影響からか、小さい頃から玩具は車や飛行機の模型が多く、バラして作り変えたり、流行ったミニ四駆などはカスタマよりも、能力の向上を求めたりした。
何事も徹底的にやることが好きだった俺は、いつかは社会に役立つ技術者になりたいものだと漠然とは考えていた。
そして、その目的がはっきりと見え始め、俺が汚染された原発内の作業を的確に行える作業ロボットを作らなきゃらないんだ、と、心に決めた。
出来るなら専門的な学問を早く学んだ方が、自分の為になると思い、俺は心配する母親をなんとか説得し、先生にも願書を受け付けてもらった。
だけど、肝心の漣だけには冬が来ても、高専を受けるとは言えなかった。

漣と俺は地元でも優秀なA高を受験する予定だった。
それは二年生の頃から俺と漣が決めたことで、その頃はまだ漣の成績では危なかった為、漣は俺に追いつこうと必死に勉強し、成績を向上させていた。
「どうしても栄嗣と一緒にA高に行きたい。そして栄嗣と高校三年間を一緒に過ごしたい、その為になら、僕は三時間しか寝ないぞ!」
「おまえはナポレオンか?」
などと、茶化していたけれど、漣の本気は痛い程こちらにも伝わって、俺も一緒にA高を目指していたんだ。
だけどさ…やっぱり、俺は自分の思いを誤魔化したりしたくないんだ。
高校が別々だって、漣との絆が緩むなんて俺は思っていないから…。
きっと、漣ならわかってくれるさ。

そうは言っても、約束を違えて勝手に高専を受験するって言ってしまったら、今まで頑張ってきた漣のテンションを落ち込ませ、最悪A高受験失敗なんてことになってしまったら…と、俺もめちゃくちゃ迷い、ずっと言い出せなかった…。

そして思い切って東京の高専を受験すると、漣に告白した日。
俺は漣に口を挿む暇も与えず、自分の信念をもっともらしく偉そうに口上し、大いに自分に酔いながら自分は正しい道を選んだんだと講釈ぶった。
漣はきっと驚いていただろう。だけど、俺は漣の顔をまともに見る勇気はなかった。
自分の正義感は、結局漣との約束を裏切ったのだから。

俺の話を一通り聞いた漣は、怒りもせずに「栄嗣は凄いね。きっと栄嗣ならできるよ」と、俺を励ましてくれたんだ。
そんな漣の様子に俺はほっと胸を撫で下ろしたんだが、俯いた漣の頬に一筋涙が落ちてゆくのを垣間見て…。
漣は慌てて目を擦っていたけれど、その涙を見てしまった俺は、サーッと血の気が引く思い…。
その後も、漣は「栄嗣を応援するからね」「頑張れよ」と、約束を違えた俺を少しも責めることなく、笑ってくれた。

けれど、その夜、俺は眠れなかった。

俺が考えるよりも、俺は漣を酷く傷つけたんじゃないだろうか…
幾ら俺の想いが強く、それが崇高なものに思えても、高校三年間を一緒に過ごしたいという漣の気持ちが、それに劣っているとは思えない。
その漣の想いを、俺は自分の自己満足の為に、勝手に破ってしまった。
後ろめたいと思いつつも、自分を正当化しようと必死の言い訳で、素直な漣を言いくるめてしまった。

「離れていても親友でいような」なんて、都合のいい言い訳、こっちが勝手に押し付けているだけじゃないか。
そんなの…本当の親友じゃねえよなあ…漣。

翌日の朝、一緒に登校する漣はいつもと変わらなかった。柔らかい微笑みも、少し目を伏せながら「おはよう」と声を掛ける表情も。
だけど、漣の目元は赤く、瞼も少し腫れあがっていた。

俺はもう何も言えなくて…
どうしたら大切な親友の漣を失わずに済むのか…ばかりを考えていた。




2へ


漣視点の「バレンタインデー」はこちらからです。 1へ 


去年のバレンタインに書いた物語の続編です。と、いうか柊木栄嗣視点のお話です。
良かったらお楽しみ下さい。
続きは来週です。二月は嶌谷従兄弟は休みで、この二人の物語で終わるのかな~



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続・バレンタインデー 2 - 2014.02.21 Fri

2
イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方はイラストをクリックしてください。

柊木栄嗣

続・バレンタインデー 2


翌春、俺と漣はそれぞれに希望の高校へ進学することになった。
漣は地元の進学校。俺は東京の高専へ入学する。
自宅から通学できないことはないけれど、片道二時間程かかる為、俺は学校寮に入ることにした。
一年生は全員二人部屋でほとんどが寮生活は初めてだから、最初はお互いぎこちないけれど、他人行儀している暇もない程に授業や実技が厳しく、お互いに協力し合いながら、付き合いに慣れていく。
俺の選んだ機械工学科は一般授業の他に応用技術の実践の為の準備、レポートの提出、繁盛な校内テストなど、中学時代には考えられないハードさで、正直、自信を失うことも多い。
そんな時、頭に思い浮かべるのはいつだって漣の姿だった。

中学卒業と同時に、ふたりお揃いの携帯電話を買い、毎日のように今日あったことをメールする。
それでも足りない時は、電話を掛ける。
掛ける割合は俺が圧倒的に多く、喋るのも俺の愚痴が多いけれど、漣は真面目に聞いてくれ、落ち込んだり、苛立ったりする俺を宥め、励ましてくれる。

土、日にはできるだけ実家へ帰り、漣に会いに行く。
俺たちの住む住宅地から五分ほど歩くた場所に、小高い山がある。
その山頂までの遊歩道は狭く曲がりくねった坂道で、周りの木々や植物を楽しみながらゆっくりと登って行くんだ。
春は桜の花見、夏は虫取り、秋は紅葉と四季それぞれに楽しめる地元の隠れた名所でもある。
だけど今は初夏で、蒸し暑く、狭い山頂もベンチすらないから人影も少ない。
俺と漣は木造の小さな展望台の屋上に並んでしゃがみ込んだ。
ここからは俺たちの街が一望できる。
天気の良い日は遠くの海岸線まではっきりと見渡せ、爽快な気分になれる。

俺と漣は中学の頃から、この場所がお気に入りで、早朝や夜中にも、ふたりきりで寝転んで空を見上げて過ごすことも多かった。

「なあ、漣。高校生活ってどんな感じ?」
「うん、まあまあかな~。中一の時、同じクラスだった木山とバスケ部の矢内がたまたま僕と同じクラスになったんだ。だからそんなに気を使わないで済むよ」
「ふうん」
「まあ、最初の頃はみんな他所他所しいけど、この間体育祭があってさ。あーゆーのってクラス全員の団結意識が高まるじゃん。それで上手い具合打ち解けあって、今はいい雰囲気になってるよ」
「そっか…良かったじゃん」

良かった、とは言ってみても、なんだか素直に喜ぶ気分じゃなかった。と、言うより、わけのわからぬもやもやしたものが渦巻いて、段々と苛ついてくる。
理由はわかっている。
俺の知らないところで、俺の親友が俺じゃない誰かと親しくしていることが、気に入らないんだ。
馬鹿みたいだけれど…マジで悔しい。
…これって嫉妬って奴なのか?

大体、学校生活っていうのは家族といるよりもクラスの仲間といる時間が長い。
気の合った仲間と友情が深まるのは当然だ。
そんなことわかっていたんだ。
だけど、自分で決めた事なのに、今になって、漣と別々の高校を選んだことを後悔していた。

幼い頃、父の転勤で遠くに離れてしまえば、仲良しだった友達も、時間と共にただの知り合いになっていった。
遠距離の友情は続かないって、わかっていたのにさ…。

「あのさ、漣」
「なに?」
「親友…重く感じたりしたら、やめてもいいんだぜ」
「…え?」
「漣には漣の…新しい生活とか新しい友人とかさ…俺よりもっと気の合う奴が見つかったなら、俺に気を使わなくていいから」
「栄嗣…それって、もう僕は親友じゃないって…言ってるの?」
「違うっ!…違うよ。俺…漣と一緒にA校目指してたのに、俺が勝手に裏切って、地元から離れて…そんで漣が中学の連中と仲よくしてるって聞いて、めちゃくちゃ妬いているんだよ。…ったく、自分で嫌になる。こんな器のちっせい俺って、サイテーだよ。漣に甘えて愚痴ばっかだしさ」
「そんな事…ないよ。僕、栄嗣が愚痴ってくれるの、嬉しいよ。だってそれって栄嗣が僕を信頼して、甘えてくれているからだろ?…僕も栄嗣が僕の知らない学校生活を楽しんでいるのを聞くと、すごく辛くなる時がある。栄嗣はきっと沢山の共通の意思を持った友達に囲まれて、勉強して、一緒に生活しているんだなあ~って、考えたりするとさ。僕が栄嗣の親友でいいんだろうか…って、自信失くすよ。でもね、いつだって栄嗣の一番でいられるように、恥ずかしくない自分であろうって思っているんだ。同じ学校じゃなくても、一緒に居る時間が少なくても、ずっと親友同士、気持ちを分かち合いたい…栄嗣の愚痴や言いたいことを沢山聞いて、栄嗣を理解したい。栄嗣の力になりたい。勿論、僕も栄嗣に愚痴とか弱音とか聞いてもらうことになるけどさ。それはお互い様だよね」
「…漣」
「だから、毎日顔を合わせられなくても携帯で声を聞いたりメールしたりしてさ、今までと変わらないでいたいよ。少し大変かなって思っても、栄嗣が大好きだから…僕は栄嗣の親友を辞めたくない。これって僕の我儘なのかな?」
「違う!我儘じゃないよ。…漣…ありがとな。俺、これからも漣に甘えてもいいか?」
「もちろんだよ、栄嗣。だって僕たち親友じゃん」
そう言って笑う漣に、俺はどれだけ救われているんだろう。


二年生になると寮生活は一変し、一人部屋に移る。
相変わらず寮の掟は厳しいけれど、寮生活にも慣れ、同時にふたりでいたころの窮屈さから解放され、誰もが途端に変なテンションになりがちだ。
何処からともなく異性交遊の噂があちこちで聞こえてくる。

学校では二年生からは本格的な自作機械を製作することになる。
テーマを決めて、それぞれのポジションに合わせ、目的の精密機械を工作していくのだ。
ロボット的な機械を製作するには、色々な専門知識が必要になる。だから基本のアクチュエータやデザインは俺の担当で、人工知能や制御システムなど、機械工学科だけではなく、電気や電子工学科や情報科の学生と意見を交換しながら作り上げていく。
講師は目的の作業と期日を示すだけで、ロボットを一から作り上げていくのは俺たちだけで行うことになる。
示された目的に興味があるグループ同士、自然と仲間意識が強くなり、絆も深くなっていく。
電気工学科の山岡大輔とはとくに議論し合うことも多く、制作の事だけじゃなく、プライベートな話でも盛り上がる。
教師の悪口やら、エロ話やら、付き合っている彼女の話など…。
俺は恋愛にはあまり興味がなかったけれど、何事も経験は大事だと、都合よく同じクラスの子に交際を申し込まれ、付き合うことにした。

高専には女子生徒は少なく、貴重な存在でかわいい子はもてはやされたりするけれど、元々男を漁りに来ているわけもない目的を持った理系の女子であり、男っぽい子が多いから、こちらもあまり女子を異性の目で見る時は少ない。
さりとて、彼氏の居ない女子は僅かだ。
校内では一応男女交際は禁止されているし、学生寮も男女の行き来は隔絶されている。それでもこっそり夜這いを仕掛ける奴も多く、それで交際を始めたカップルもいると聞く。

俺も交際を求めて来た女子とはあまり喋ったこともなかったけれど、高校二年にもなればデートぐらいは当たり前だろうと何回か映画や買い物へ誘ってみた。
キスもしたことはしたけれど、そんなに心に残る程でもなかった。

或る日、観たかったSF映画に誘って、一緒に観てからの帰り、カフェで映画の感想なんかを喋っていたら、彼女が突然不機嫌そうな顔をした。
「E子ちゃん、映画面白くなかった?」
「…柊木くんってさ、思ったよりもつまらないんだね」
「え?」
「見た目があたし好みだったから、いいなって思っちゃって、二か月つきあってみたけど、…なんかさぁ、トキメキ感がないんだもの。がっかりしちゃった」
「…」
「悪いんだけど、あたし達、今日限りでつきあうの、やめにしない?」

はあ?つきあうのやめにしない?…は、まだいいとして…。
つまらない?…トキメキ感がない?…それって俺の事?
それって俺が残念な人ってハンコ押されたようなもんじゃん。
ちょっと、ひどくね?そっちから交際を申し込んでおいてさ。

今までそんなことを言われたことがなかったから愕然となった。
高校に入るまでは、俺、クラスの人気者だったんですけど…

唖然となりすぎて言葉がでない俺に、彼女は畳みかけた。
「柊木くんってさ、恋愛したことないでしょ?」
「え?…」
「そんな感じだよ。相手への思いやりとかさ、あんま感じられないんだよね」
「そ、かなあ~。俺、人付き合いが悪いとか、言われた事ないんだけど…」
「イケメンだし、それなりに人付き合いもいいし、割と頼れるし…完璧なんだけどねえ…。心はここに在らず…って感じ。つまり、愛されてる感じがしないの」
「そう…ですか…」

別に君を愛したことは一度もないんだけど、と、言い返したかったけれど、色んなダメージが俺を追い込んでいたので、その後も彼女の一方的な言いたい放題で、別れてしまった。


それを山岡に話したら、大いに笑われてしまった。
「おまえねぇ~、二か月もつきあっててキスだけってさ。そりゃ、愛されてないって思うわな~。ちゃんとセックスしてやれよ」
「だってまだ高2だぜ?」
「おまえ、もしかしたら童貞?…って、俺もそうですけど。まあ、なんやかんや言っても、女子は早熟だし、そういう意味でここは相手にも困らないし、向こうは初めてじゃないだろうから、おまえとやりたがったんだと思うぜ?」
「そうなのか?」
そう言われても、俺はE子とセックスしたいだなんて全然思えなかったんだ。
それを言ったら、山岡は「じゃあ、もしかしたら、柊木は男の方がいいのかもしれないね」と、思ってみないことを言いだす。
「はあ?」
思わず上ずった声を出した。
「そんなに驚くなよ。今時珍しくないし…ほら、おまえのクラスの風間と俺のクラスの本田、あいつら付き合っているんだってさ」
「マジかあ?」
「友達でいる分は良い奴らだけどさ、そういう目で俺らも見られていると思うと、気色悪くなる。…って、言ってる俺が一番ダサいんだけどな。彼女居ないし、童貞だし…」と、山岡は肩を落とす。
ゲイだからって彼らを見下すのは間違っている。けれど、モテないからって卑屈になる必要はないだろうと、俺は山岡を励ました。


同性愛か…
そんなこと考えたこともなかったけれど、山岡から言われて、何故か漣の顔が浮かんだ。
俺は漣をそんな目で見たことはなかったけれど、もしかしたら俺の望んでいる親友という絆は「恋」とか「愛」に近いのだろうか…と。


その後、漣と会っていても、E子との話は漣にはしなかった。
どうしても言う気にはなれなかった。

もし、漣に彼女が出来て、俺がその話を聞きたいだろうか…と、思うと、全く聞きたくないと思ったからだ。




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漣視点の「バレンタインデー」はこちらからです。 1へ 

バレンタインデーの要素が今のところ、全くないですね('ε`汗)
山岡っていい奴で終わるキャラですね((人д`o)




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