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2019-09

銀色のRay 1 - 2014.09.26 Fri

1
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銀色のRay

  Prologre レイ・ブラッドリー

 初めての光は母の笑顔だった。
 次に私は暗闇の中にいた。
 光を失い、燃えさかる炎の中で、死が訪れる時を待っていた私の目の前に、彼は現れた。そして倒れて動かない私を両腕に抱き寄せて笑った。
「おいおい、なんだよ。ガキのクセにもう人生に絶望して死ぬ気でいるのか?そりゃ、ちょっとばかりもったいないぜ、銀色のレイ。喜びも楽しみも本当の苦しみも、未知なる世界って奴は、やばいくらいに面白いんだ」
 そう言うと、彼は私を抱きあげたまま炎の中を歩きだした。
「さあ、俺と一緒に行こう。おっと、クナーアンの神の名において、おまえの未来を予言してやるよ。おまえねえ、…レイ・ブラッドリーは決して降伏しない。…決してね」
「…」
 私の意識はそこで途切れてしまった。

 そして…
 このやっかいなおせっかいのおかげで…私は、今も生きている。



   第一章 No Surrender(降伏しない)

 朝、目が覚めて横を向くと、隣にはこの間まで同室だったセシル・エヴァンが俺の左腕を握りしめ、寄り添うように眠っていた。
 同学年の彼は、同室だった頃も俺の知らない間に俺のベッドに潜り込んで寝てしまう事がある。
「人肌が恋しいからだ」と言うが、単に寒がりなだけじゃないか、と俺は信じたい。

「おい、セシル。起きろよ」
 俺は気持ちよく眠るセシルの身体を揺する。
「う…う~ん…。あ、レイ、おはよう」
「おはようじゃねえよ。おまえ、昨晩はギルのところに泊まるからって…って、臭っ!おまえ、酒飲んだのか?」
「うん…。ギルに会いに行ったんだけど、レポートが忙しいからって相手にしてくれなくてさ…。いじけてひとりでワイン飲んで帰って来ちゃった」
「呆れた。今日から高等科の新一年生なのに…。酔っ払いと一緒に登校するのかよ」
「大丈夫だよ。シャワーを浴びれば、酔いも醒める。…そうか、僕達、とうとう憧れの高等科の生徒になれたんだねえ~。リボンからネクタイに変わるんだよ!感慨深いねえ~」
「別に制服のタイなんかどうでもいいけどさあ~。まあ、寄宿舎の部屋が一人部屋になったのは嬉しいわな」
「そう?僕は部屋でひとりぼっちで過ごすのも、ひとりで寝るのも嫌だね。だけど…レイの部屋は何故か二人用だよね。ベッドも机もクローゼットも二人分用意されてるし…。誰かここに入る予定があるの?」
「さあ、部屋の振り分けは寄宿館長の決定だし…。誰か入る予定なら新学期が始まる前には来るんじゃねえのかな。まあ、俺としてはひとりで二人分の部屋を使えるのはラッキーだけど」
「じゃあ、舎監にお願いして、僕がここに入ろうかな~。レイの隣だとよく眠れるし」
「おまえねえ…」
 俺は心底渋い顔を親友に見せた。

 甘えられたり頼りにされるのは嫌いじゃないけれど、どこまで責任を持てばいいのか不安になるから、他人の領域にあまり深く踏み込みたくないっていうのは俺の意気地の無さだと…アーシュならきっと鼻で笑うだろう。

「さあ、着替えて朝飯食いに行こうぜ。一日目から遅刻じゃシャレになんないからな」
「うん」


 サマシティはこの地上で格別に意味のある古い街だと伝えられ、その中心のインデペンデントスクール「天の王」学園は、もっとも権威のある魔術学校である。
 魔術…いわゆる超能力的な力を持つ人間を、人類は魔術師、魔法使いなどと呼んだ。
 現在この世界で魔力を持った人間をアルトと呼び、そうでないノーマルな人間はイルトと呼ばれることが多い。
 その比率は、二対八と圧倒的にイルトの支配が大きいが、サマシティの住人にはそれは当てはまらず、「天の王」学園では、その比率はほぼ半々になる。
 「天の王」学園では六歳から十八歳までの子供たちが共に生活し、学問に勤しむ寄宿学校だが…真の目的は別にあると言っていい。
 つまり、
 魔力を持つ者とノーマルな人間のより良い共存は、未来に生きる者たちの理想郷であり、その実験場としても世界の好奇…いや、期待と羨望がサマシティと「天の王」学園に寄せられているのだった。

 勿論、アルト(魔力を持つ者)の能力の幅は広く、天気予報や簡単な透視ができる者から、予知、テレパシー、サイコキネシスなどの上級能力を持つ者など様々だ。
 その力をより良い未来に役立てる為の教育を施していくのが、この「天の王」なのだ。
 それは選ばれた者だけに許された狭き門でもある。

 十年前に起こった聖光革命のテロ以降、「天の王」学園への入学希望者は増加の一方であり、年々その合格率も厳しいものとなっている。
 能力のない者(イルト)であっても、イルトの役割は大きい。
 アルトを支配する力(カリスマ)を持つイルトは、その精神性を育てなければ、テロの首謀者に成り下がってしまう現実を、世界はその耳で聞き、その目で見てしまったのだ。
 しかし、精神性を育てるとは一体どういうことだろう…。

 この学園の生徒の誰もが、選ばれたという自意識を持った血気盛んに明日を夢見る少年少女たちだ。
 そして、その力を誇示したいと思うのは当然だし、「その力は自分の為にではなく、世界の為に有意義に使うものだ」と、正しい大人達が声高に掲げる最もくだらない道徳に縛られる義理はない…」と、思い上がっている。

 俺もそのひとりだろうか…いや、きっと俺だけは違う。
 元からここは俺の居る場所じゃない…俺にとって、ここは時期が来るまでの仮宿でしかない。だから、誰かを本気で愛したり、何かに過分に執心したり…しないように、今まで気を配りながら生きてきた…つもりだ。


 新一年生にとって、寄宿舎も校舎も食堂も教師も目新しいものばかりで、その一日目ときたら誰もかれもが興奮を抑えきれない程に緊張と期待に紅潮している。それは俺も同じで、新しいクラスに馴染の友人が居ても、どこかぎこちない態度で挨拶をする。
 慣れないネクタイの結び方が変だとか、制服のサイズが合ってないだとか、慣れない一人部屋に眠れなかったと、愚痴ったり…
 それでも昼飯時になり、食堂に集まる頃になると、皆が一同リラックスした顔で今までにはなかったメニューの豊富さに歓声を上げながら味わっている。

「はあ、残念だなあ~。レイとクラス、離れちゃったねえ~」と、セシルはチキンシチューを食べながら溜息を吐く。
「五クラスあるんだから、一緒になる確率はそう高くないだろう。って言っても隣のクラスだし、用があればいつでも会えるじゃん」
「でも、親友の君が傍に居ると居ないとじゃ…なんだか心元なくてさあ…」
「…」
 そうは言っても俺よりも格段に人付き合いの上手いセシルは、充分上手くやっていくだろう。

 セシル・エヴァンは俺の一番信頼する親友だ。
 緩やかに波打つ亜麻色の髪と、生い茂る若葉が様々に重なったような深い緑色の瞳が印象的だ。
 三年前に「天の王」に入学したセシルは、人を寄せ付けなさそうなクールな美貌とそれに反した臆病な性格の所為で、最初は学園に馴染むことに苦労をしていたけれど、今ではそれも見当たらない。
 繊細な風情のくせにどこか鈍感なところも、人に与える印象は好感度を増すらしく、セシルは誰彼ともなく好かれていた。
一年前彼は恋人を持った。
 ふたつ上のギルバート・クローリーだ。
 ギルは高等科の三年生の中でも、目立つ存在だ。少々皮肉屋だが、成績優秀で人望も厚く、ホーリーでもある。
 「ホーリー」とは、「天の王」学園の学長から「真の名」を与えられた者の敬称だ。
 ホーリーの名を持つ者は、アルトの中でも際立った能力を持った類い稀な生徒であり、誰もが羨む存在となる。
 セシルがギルバートに交際を求められた時、俺はセシルから相談を受けたのだが、反対はしなかった。反対できるほどの欠点をギルバードに見いだせなかったからだ。
 そして、それまでより明朗快活になったセシルの様子からも見ても、ギルとの交際は正解だったのだと思う。

 「天の王」では同性との付き合いは珍しくない。
 その理由は、女生徒が全学生全体の三割未満だからとも言えなくはないが、結局、同性同士が気兼ねなくお互いを曝け出せるから…と、いう結論に至っている。真実はどうかはわからないけどね。
 俺はと言うと…まだ特定の恋人はいない。と、いうか探す気があまりない。
 まあ、いつまでここに居られるかもわからないから、あまり心残りになるものを形成したくないという理由が大きい。
 よって、未だに男も女も経験がない。セシルは「遊びでいいから一度は経験した方がいいよ。僕でよければ相手になるし…」と、不憫に思ってくれるけれど、人様のものを味わうわけにはいかないよ、と、申し出を断った。


「あ、そうだ!」と、食事を終え、寄宿舎に帰ろうと立ち上がったセシルが突然俺の方を向く。
「ギルからの伝言を忘れてた。今日の午後三時から『イルミナティバビロン』の集会があるから遅れないように、って」
「了解した。新学期だしな。いよいよ俺達も本格的にメンバーの仲間入りなんだな」
「そうだね。責任重大だね」

 「イルミナティバビロン」とは、「天の王」の現学長であるアーシュことアスタロト・レヴィ・クレメントがここの生徒だった頃に再結成した「魔法力を巧く使うための勉強倶楽部」との言う名目の研究部であり、生徒会とは違った裏の支配権を持つ秘密結社でもあった。
 と、言っても現実の活動は生徒間のいざこざや問題を魔力で脅かして処理する片付け屋みたいなもんだけどな。
 だが、「イルミナティバビロン」のメンバーに選ばれることは生徒たちの憧れだ。
 ギルバートはこの「イルミナティバビロン」の一員であり今年度のリーダーに選ばれた。
 リーダーだからって特段偉いわけではないけれど、自分の恋人がリーダーになったとセシルは嬉しそうだ。

「きっと再来年はレイが『イルミナティバビロン』のリーダーだね」と、セシルは言う。
 少し早いが、俺とセシルは集会場の高搭に向かって構内の至る処に茂る樹林を潜り抜けながら歩みを早める。
「別に俺はなりたいなんて思ってないけどね」
「だってさ、レイはこの学園で一番凄い魔術師じゃないか。絶対リーダーだよ」
「…」
 確かに、
 俺は自他共に認める高等魔力の持ち主だ。だがホーリーの名を持たない俺に、その理由を何も知らない学生たちは怪訝な顔をする。
 本音を言えば、俺もホーリーの名は欲しかった。だがそれを決めるアーシュは俺を呼んで「おまえに『真の名』はやらんよ。だって、おまえはここじゃなくて、クナーアンの人間だもん」と、嫌味な笑いを湛えながらわざとらしく言う。

 あんたがここに連れてきたクセに、それを言うかっ!クソバカ!

 見かけ上は十八歳だが、この星で二十七年間を生きているアーシュの根性は捻くれていて頭に来る。だけど…命の恩人だから反抗できないし、本気で刃向う気はない。だって、アーシュの本気は…俺のことを考えてくれてるから。それがわかっているから。

 アーシュはこの地上とは異次元のクナーアンと言う惑星の神さまで、このアースという星では最高の魔術師で魔王と呼ばれている。
 クナーアンで生まれた俺にとって、彼は神さまであり、この学園では絶対権威の学長であり、俺を守ってくれる親代わりでもある。
 結局、俺はこの人に守られているから、安心して自由に生きられるのだと思う。


 樹木の林を潜り抜けた所にひっそりと立つ搭の門を開き、エレベーターのボタンを押し、揃って乗り込んだ。ガタンと不安定な音をたて、エレベーターは屋上を目指して上がっていく。
 屋上へ降り立つと、その景色はどの場所から観るよりも素晴らしい景色が待っている。
 俺は屋上の中央の床に描かれた魔方陣に寝転がり、空を仰ぐ。
 魔方陣が放つチリチリとした電気的な刺激が心地良く、俺は目を閉じて故郷を想う。
 アーシュはこの魔方陣は、クナーアンへ還れる「門(ゲート)」だと言う。いつか俺が自由に(それはとても難しい)魔力を使いこなせるようになったなら、ここから還ることもできるのだ、と教えてくれた。
 俺は帰りたいのだろうか…俺の生まれた星に…。
 今はまだ故郷が恋しいとは、感じない。
 変だな。
 ここが自分の居る場所だと少しも思わないのに、生まれた場所にも帰りたいとは思わないなんて…

 きっと、俺には…どこにも居る場所がないのかもしれない。

「レイ、僕も隣に寝てもいい?」
「勿論だよ、セシル」
 何も知らないセシルが俺の隣に寝転がる。
 俺達は並びながら、青く澄んだ空を見上げた。

 セシルの右手が俺の左手に重なった。
 何も知らないクセに、セシルは俺を安心させる。
 ひとりじゃないって、思わせてくれるんだ。



自己紹介

この物語の最初のお話は左のカテゴリの「senso」からどうぞ。長いけど…
アーシュの過去の物語など、様々ございます。

銀色のRay 2へ

始まりましたね、新作。
どうなるかわからんけど、頑張ります。




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銀色のRay 2 - 2014.10.03 Fri

2
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レイ&セシル-1

2、

「二人そろって仲よく昼寝かい?気持ちよさそうだな」
 ウトウトしかけた頃に、ギルバート・クローリーの声ではっと目が覚めた。
「ギル!」
 嬉し気に恋人の名を呼ぶセシルは、握り合った俺の手を離し、素早く立ち上がり、ギルバートの傍に駆け寄った。
 俺は魔方陣の中で上半身だけを起こし、ふたりを眺めた。
 魔方陣の中に居ると魔術師の力は活性化する。
 俺は嬉しそうに笑いあうふたりを多少の嫉妬を込めて眺めた。
 カリスマ性はあっても魔力を持たないセシルと、ホーリーの名を持つこの学園の中ではそれ相当の魔法使いであるギルバート。
 そして、ずば抜けた魔力を持つ学園一の高等位魔術師の俺。
 なのにさ…
 ふたりに比べたら愚か者は俺だってことは、誰にだって一目瞭然だ。
 ふたりの思考やオーラが手に取るように判ったところで、ましてやふたりの仲を破壊する魔力を持っていたとしても、俺にはメリットもなければ、自惚れる気力もない。
 まあ、魔術師ってもんはそんなもんだ。
 どんなに強力な魔力を持ってみても、幸せになれるとは限らない。
 どうかすると幸せすら掴み損ねそうな運の悪さが魔力の代償って事なのかもしれない…と、俺はよく思う。
 人間は魔力なんていう都合のいい野心に振り回されるよりも、本来の無骨な姿で必死に己の力で足掻いて努力して、真摯に生きる姿が尊いのだと…十五年間を生きてきた俺の持論だ。

「レイ、綺麗だね」
「え?」
「俺も観るのは久しぶりだが…波動に揺れた銀色の髪が見事だ。銀色のレイの名のままに」
「…」
 ギルとセシルはお互いの肩を寄せ合いながら、うっとりと魔方陣に座り込む俺を眺める。

 色の度合いはよるが、この国では金髪白人が七割と、その他の人種を遥かに凌ぐ。昔は白人以外を見下す風潮も多かったと聞くが、今は公然たる差別は少なくなった。
 最もな原因は学長であるアーシュが黒髪黒目でありながら、とりわけ異質な美を誇っているからだろう。
 俺の髪は普段は老人のような白髪だが、魔力を使う時だけ銀色に輝くそうだ。また獅子の目のような琥珀(アンバー)の虹彩も、まばゆい金色に光るらしい…。
 鏡を見ない限り俺に見えるわけもない。
 青白い薄い肌も不健康そうだし、愛想も十分とは言えず、コミュ能力もそれ程に果たしていない俺は、なんとも欠陥だらけの男のような気がするが、周りから見たらやたら無駄な波動を発しているらしく、多くの生徒たちは遠巻きに好奇の目で俺を見る。
 セシルに言わせれば、「レイに羨望の眼差しを向けているのがわからない?」と、言うが、俺にはよくわからない。
 確かに、幾度か交際を申し込まれた事もあるが…、相手の心が純粋であればあるほど(それが見えてしまうからややこしい)、居たたまれない気持ちになり、即突っ撥ねてしまう。
 俺には…とてもじゃないがあんな真剣な想いに応えられる覚悟はない。


 次第に「イルミナティバビロン」のメンバーたちが屋上に集まりだす。
 俺も魔方陣から出ると、目立たぬように屋上の端へ移った。
 欠席も何人かいるらしいが、二十人程度が集まり、組織の説明と各々の簡単な自己紹介、そして、活動予定の報告などが行われた後、一時間ほどで解散となる。
 一年生は俺とセシルの他にメンバーが三人。勿論三人とも初等部からの顔見知りだから、緊張はない。
 セオドアは寄宿舎では同室だったこともあり、信頼できる奴だし、ウォレスは無口で多少偏屈だけど、勉強熱心で将来有望な魔術師だ。セイラは貴族の出身者のクセに、庶民的で愛嬌のある女子学生だ。
 一年生五人で集まり和気あいあいと話していると、ギルバートが俺に近づいた。
「レイ。集会が終わったら、聖堂まで来るようにと学長からの伝言だよ」
「えっ!アーシュ…戻ってるの?」
「ああ、ここに来る前に会って来たけど…おいっ!」
 ギルの言葉を最後まで聞く暇はない。
「んじゃあ、俺、先に行くわ」と、友人たちに言い残し、俺は屋上の端に向かって走り出し、そのまま空に向かって飛び立つ。
 魔力で身体の周りの風圧を調整し、鳥と同じように揚力を生み出し飛翔するのだ。
 屋上にいる仲間たちが皆、口をポカンと開けて俺を見上げている中、セシルだけが「行ってらっしゃい!」と、笑いながら手を振り見送る。
 俺もそれに応え軽く手を振り、構内の中心に建つ聖堂へ飛ぶ。
 そうさ、俺のように飛翔できる奴は、アーシュ以外にはこの学園には居ない。
 
 アーシュに会うのは二か月ぶりだ。
一部の者しか知らないけれど、彼は年に二、三度この地上とは異なる次元の惑星クナーアンに還るのだ。
 俺が生まれ、七歳まで育った惑星クナーアンの神さま、アーシュ。
 俺をこの「天の王」へ連れてきたアーシュ。
 俺に飛翔する技術を教えてくれたのもアーシュだった。

 あの頃…
 「天の王」学園に来たばかりの頃の俺は、この世のなにもかもが…何よりも自分が嫌いで仕方がなかった。周りの生徒たちと違う見た目も異常な魔力を持っていることも、何よりこの世界が自分の居場所じゃないってことが、俺の引け目となり、部屋に引きこもってばかりいた。
 俺はアーシュに頼んだ。
 クナーアンで生きてきた俺の記憶のすべてを消してくれと。そうじゃないと、これから先を生きるのが辛いのだと。
 アーシュは呆れ顔で俺に指を指しながら、横柄な態度で言った。
「あのなあ~…よく聞けよ。おまえねえ、一度消した記憶はもう二度と取り戻せないんだぜ?俺なんかさ、自業自得なんだけど、生まれ変わっちまったおかげで、イールと過ごした一千年の記憶を失くしてしまった。一千年だぜ?イールに聞けばいちいち細かく教えてくれるけどさ、同じものをイールが見て感じた記憶と、俺が感じた記憶は絶対違うだろ?そりゃな、一千年も神さま業をやってりゃ嫌な事も山ほどあったに決まっているんだろうけどさ、どんな酷い過去の記憶も無かったことにするよりも、どこかにしまっておいた方が良いのさ。たまに引きだして反省したりさ。そんでどうしても思い出すのが嫌だったら、忘れる努力をするんだ。どんな嫌な記憶だってさ、人間は忘れることも、思い出す事も出来るんだ。なあ、どんなに思い出したくても取り戻せない俺の不幸と比べたら…おまえ、超ラッキーじゃねえ?」
「…そう…かな…」
 アーシュと話していると、悩んでいる自分がどうでもよくなってくるから不思議だ。
「それじゃあ、レイの為に…」
 そう言うと、アーシュは俺の両腕を掴み、そのまますうっと空へと飛び立った。
「わああ~!」
 両足が、身体が地上から離れる不安定さに、俺はアーシュの身体にしがみついた。
 あっという間にアーシュと俺は学園のすべての建物を見下ろせる場所まで舞い上がった。
「どうだ?空を飛ぶって気持ちいいだろ?」
「い、いけど…ちょっと怖いよ」
「どうしようもない時はこうやって飛んで頭を空っぽにするといいさ」
「ひ、ひとりじゃできない」
「できるさ」
「俺は…アーシュみたいな神さまじゃない!」
「…レイは特別の才能を持った魔術師だ。俺が言うんだから間違いないぜ。自信を持てよ。なあ、他の者にない力を持つことはそれだけの責任があるし役目も持っているのだと自覚するんだ。皆がおまえを必要とする時が来る。じっと堪えているんじゃなく、自分が出来る者だと認めさせることも大切だ。もう一度だけ言ってやる。おまえは才能ある魔術師だ。誰もがそれを認識する為には、ひと目でわかる方法が一番いいのさ。ほら、見て見ろよ。みんながおまえを羨ましそうに見上げているぞ」
「…」
 確かに学園の生徒や先生たちが構内の庭や運動場や教室の窓から、空に浮かんでいる俺達を見つめている。

「手を離すぞ、レイ」
「ちょ!無理!」
「大丈夫だ。自分の力を信じろ」
 アーシュは握りしめた両手をゆっくりと離した。
 俺はアーシュを信じ、自分の力を信じようと決心した。

 今でも…俺は自分の人目を引く外見や魔力を持ったことを幸運だとは思わない。だけど、自分の運命を事も無げに受け止めているアーシュを見ていると、俺の魔力が何かの役に立つのなら、それは生きていく意義になるのかもしれない…と、信じるようになった。


 聖堂の門の前に降り立ち、重い扉を開ける。
 西側のステンドグラスから差し込む光が鮮やかな彩りを床に照らしている。
 中央の魔方陣はさっきまで居た高搭のそれよりもひとまわり大きく、魔方陣の模様も金で描かれている。アーシュはその中央に後ろ向きに立っていた。
「おかえりなさい!アーシュ!」
 俺の声にアーシュはゆっくりと振り返った。
「やあ、レイ」
 少しだけ寂しげな声音に、俺はとっさに気づいてしまった。
きっとアーシュはここで恋人を見送ったのだ。
「…ルゥ先生、もう行っちゃったの?」
「うん。折角俺が帰ってきたんだから、二、三日ぐらい一緒に居てくれても良さそうなのにさ、あいつ、イールに気兼ねしちゃって、どうしても行くって聞かねえの」
「…」
 こればかりはなんとも返答しようがない。
 ルゥ先生…ルシファー・レーゼ・シメオンはアーシュの恋人だった。
 過去形になるには複雑な理由がある。
 アーシュがクナーアンの神さまであることを忘れ(自分自身を魔力で生まれ変わらせた)、人間としてこの学園で過ごしていた頃の恋人がルシファーだった。
 そしてルシファーは自分がクナーアンで生まれたことを知り、アーシュがクナーアンの神であり、もうひとりのクナーアンの神イールがアーシュの真実の半身と知った時、自分が身を引く決心をしたのだ。
 俺はイールさまの尊さを知っている。
 アスタロトとイールさまがクナーアンにとって、天上の恋人であり、地上の民に信仰となっていたことも。
 彼らがどんなに愛し合っているのかも…
 
 ルシファー先生もまた俺にはかけがえのない素晴らしい人だ。
 天の王に来て間もない頃、アーシュ以外は懐かない俺を、「僕もクナーアンから来たんだよ」と、慰め、励ましてくれた。
 だから…イールさまを思うにしても、ルゥ先生を思うにしても、同情してしまうし、結果、すべてはアーシュの所為だと責めたくなるのだ。

「なんだよ。レイまで落ち込む事ないじゃん」
「…うん」 
「こっち来いよ」
両腕を広げて迎えてくれるアーシュの胸に、少し恥らいながら寄り添った。
「よしよし…レイはかわいいなあ~」
 アーシュは俺を抱きしめ、頭を撫でてくれる。俺は深呼吸をする。アーシュの身体からクナーアンの残り香を嗅ぐ為だ。
でもクナーアンの匂いなんか、俺はもう忘れてしまった。
 俺の故郷の匂いはアーシュから臭う薄荷草の香りなんだ。

「クンクン…レイ、おまえ、なんか臭うな」
「え?変だな。毎日、ちゃんとシャワーで洗ってるけど…」
「クンクン…これは…間違いない!童貞の匂いだ!おまえ、まだ誰ともセックスしてねえのかよ。このヘタレガキ」
「な…」
「なんだったら、この俺が直々に相手してやってもいいんだぜ?いつでも天国へ直行させてやるからさ」
「う…うっせよっ!エロ馬鹿野郎っ!」

 今更だとわかってはいるが、こいつのデリカシーの無さには、毎度のことながら殴りつけたくなる。
 全く…イールさまとルシファー先生の不運を不憫に思うと同時に、こいつの悪運を呪わずにはいられない。


アーシュq-22


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銀色のRay 3 - 2014.10.10 Fri

3
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アーシュ寝る33


3、

「きゃは!本気にしてからに。かわいいなあ~、レイは。…う~ん、やっぱ、若い子の肌はすべすべして気持ちいいわ」
 アーシュは俺を可愛がってくれるけれど、それはまるで犬か猫に対する扱いで、嫌がる俺をきつく抱き、髪がボサボサになるほどに頭を撫でまわし、痛くなるぐらいに頬ずりするのだ。
 こういうアーシュに一矢報いたくて、本気でアーシュへのサイコメトリーを実行するが、皮膚一枚の先も読むことは出来やしない。当たり前だけど、アーシュの前では、俺の魔力も無効なのだ。
 アーシュはそんな俺にニヤリと笑い、「ガッカリしなさんな。おまえが俺の頭を読めないのは俺に近い波動だからだ。同じスピードで平行に走れば、永久に交わることはないだろ?もし俺の頭を覗きたかったら、ハンドルをどちらかに回すことだよ。わかった?」
「…」
 たぶん、どちらにハンドルを切ろうが、アーシュは同じ方向にハンドルを回すんだから、俺の小さなレジスタンスはきっと一生報われないのだろう。

 俺の犯行に気分も害することもなくアーシュは、イールさまが焼いたクッキーと神殿の畑で摘んだお茶をお土産に持ってきたからとお茶に誘ってくれた。それを聞いた俺は一変に気を良くした。
 イールさま自ら焼かれたクッキーを頂けるなんて…やべえ、超嬉しい…。
「と、その前に…。おまえに大事な用事があったんだ。ちょっと来てくれないか」
すでに俺の口の中は涎で一杯になっているにも関わらず、アーシュは俺の期待を折ることに微塵の情もかけてはくれない。

 聖堂の北回廊の奥にある小部屋へとアーシュは足を向ける。
 壁の細工に同化して、よく見ないと判らないけれど、小さな金の取っ手があり、扉を開いたその先が、聖堂での代々の学長部屋になる。
 本棚と机とソファだけの簡素だが古めかしい修学堂だが、学長であるアーシュの個人的な控室のようなものだ。
 入室すると、ふたりの先客が居た。
 案の定、ふたりとも顔見知りだった。

山野神也制服


 ひとりは中等科地理担当の教師、スバル・カーシモラル・メイエ先生。そして、こちらを振り向いた少年は…同学年の山野神也だ。
 二年前にこの「天の王」学園に転校してきた山野神也について…俺は詳しくは知らない。
 異質な見た目同様に、山野神也はこの国より遥か東の小さな辺境の島から、その才能を認められここへ来たということと、彼の恋人がスバル先生だと言う事ぐらいだ。
 ふたりは恋人同士の為、また、山野神也がこの地方の生活習慣に慣れていないということで、スバル先生と同居しているという特別待遇であり、それに対して反感を持つ学生も少なくない、と言う噂は聞いたことがあった。
 俺自身はと言うと…俺と同じくコミュ能力が芳しくない山野神也は、自分から話しかける様子も伺えず、まして今までクラスメイトでもなかった為、親密に話す機会には巡り会わなかった。
 山野神也は…人を寄せ付けない硬質な姿勢や表情と、だからこそ人を惹きつける特別なオーラを纏った尊い者に見えた。
 滅多に笑ったり怒ったりする感情を見ることはないが、ただ表情が乏しいという結論とは程遠い「何か」が山野神也には感じられるのだ。
 だからと言って、別にこちらも山野神也にそれ程の興味もなく、今まで近寄る気もなかった。だから、こんなところで顔を合わせるとなると、妙に緊張してこちらから彼に対して無駄な愛想笑いを浮かべてしまった。
 何故なら、こちらを振り向いた山野神也の顔にははっきりと涙の痕が残り、アーシュと同じような黒眼からも今にも零れ落ちそうな涙で濡れていたからだ。
 
 山野神也はスンと鼻を啜り、指で目を押えた。
「なんだよ、スバル。また神也を泣かせたのか?」
「ち、違うよ…」
「…だから神也も一緒に連れて行けばいいって、言ってるじゃん。三か月も離れ離れじゃ、寂しいに決まっているだろ?勉強なんか旅行の最中にでも教えてやりゃいいじゃないか」
「ニッポン支部の咲耶さんに直々に頼まれた大切な仕事だし、神也くんにとっても故郷へ帰れるから都合はいいけれどね。でも、神也くんにはまだここで色んな勉強を頑張って欲しいし、高等部に進級した機会に他の学生同様に寄宿舎での生活も経験した方がいいと思ったんだ」
「スバルもやっと子離れ…か?神也はそれでいいのか?」
「心配してくれて有難う、アーシュ。スバルがしばらく居なくなることは、仕事の為だから仕方ないし、私をここに残していく事情も私は納得している。だから…寂しくなるけれど、懸命に勤めを果たそうと思う」
「そうか。…良い子だな、神也は」
 そう言ってアーシュは山野神也の頭を撫でた。俺とは違う手つきで愛おしむように優しく大事そうに…
 クソッ!妬けるじゃねえか。
 アーシュは…同じクナーアンで生まれた俺のもんなんだぞっ!
 つまらない自惚れって、結構精神的な支えになったりするから面倒だ。誰かよりも自分を好いて欲しいなんて…まさにエゴの塊じゃねえか。
 
「では神也、明日から学生の寄宿舎で暮らす覚悟はあるのだね?」
「うん、若干の不安はあるが、私も成長せねばならない。スバルの期待にも応えたい。だから辛くても耐えてみせよう」
「そうか…。じゃあ、まずは二人部屋で暮らしてみるといいよ。レイ・ブラッドリー、彼がルームメイトだ。同級生だし、顔ぐらいは知っているだろ?」
「うん、顔ぐらいならわかる」
「それは良かった。レイは非常にレベルの高いアルト(魔術師)だ。頼りになるし、何か困ったことがあったら親身になって相談に乗ってくれるだろう」
「そうか、有難いな」
「え?…ちょ…」
「レイ・ブラッドリー。私は山野神也だ。よろしく頼む」
 山野神也は俺の目の前に立ち、ニコリともせずに俺に握手を求める為の右手を差し出した。
「…」
 俺の耳元あたりしかない身長、クセのない黒髪と真っ直ぐ黒目が俺を見上げる。
 東洋人は見た目が幼いと言うけれど、山野神也もまた俺よりも五歳ほど若く見える。
 
 俺はまだアーシュの勝手な決定に納得もしていないのに、何故か山野神也の手を握り返した。若干の愛想笑いを浮かべて…

「では、これですべて決定だ。スバルは心置きなく出張に出発できるし、神也はレイという心強い友が出来た。レイもまた新しいルームメイトと輝ける新学期を迎えることが出来る。万々歳だな」
「…あのなあ~」
「じゃあ、僕達はお先に失礼するよ。神也くんの荷物を片づけなきゃならないし…明日にはレイくんの部屋に移れるようにするから…。レイくん」
「は?」
「神也くんの事、なにとぞよろしくお願いします!」
 スバル先生は俺の右手を両手で握りしめ、深く深く頭を下げた。握りしめた両手からは、山野神也を想う感情が溢れた。一人残していく不安やら、寂しさ、それに勝る愛おしさ…他人をこんなに思いやれるなんて…。とても、敵わない。

「わ、わかりました。神也…くんの事は任せてください」
「ありがとう!これで僕も安心して旅立てるよ」
「つうか、俺が居るから大丈夫だって言ってるじゃん。神也は俺に任せとけ」
「アーシュは確かに大した魔術師だよ。だけど無神経だから頼りにしなくないんだ。とにかく君は執拗に神也くんには近づかないでくれ」
「…はあ?」
「じゃあ、また後で」
 スバル先生は山野神也を連れて、いそいそと部屋から出ていった。
 残されたアーシュは腕を組み、ぶつぶつと不平を垂れている。

 アーシュを黙らせるなんてスバル先生もやるじゃん。
 今まで陰気で自信無さ気で、面白くない授業をさせたら学園一と名高いポンコツ先生と決めつけていた認識を見直さなければならないだろう。


 ふたりきりになった後、約束通りアーシュは、イールさまのお土産を俺に披露してくれた。
 綺麗な緑色のお茶と、香ばしい大麦のクッキーはとても口に合い、何だかクナーアンの空を思い出した。
 クナーアンは二つの月が空に上がる。そのふたつが寄り添うように並ぶ時、人々はイールとアスタロトの両神を奉るのだ。
 秋の高い空に白く光る真昼のふたつの月。その空の下、秋の大祭にクナーアンの大地は喜びに沸く。

「どうだ?美味いか?」
「うん…クナーアンを思い出すね」
「レイの記憶が良い思い出に変わることは、良い事だね」
「…うん」
 アーシュの言葉は重い。だから噛みしめて味合わないとどんな隠し味があるのかわからない。俺の記憶にはまだ暗闇がある。心の棘もまだ刺さったままだ。それを抜いたところで痛みが消えるとは思えない。
 でも、そろそろこの痛みにも飽きてしまう自分がいる。
 ねえ、アーシュ。俺はもう自分を許していいのかな?
 黙ってアーシュに問いかけても、アーシュは優しく微笑むだけだ。答えは自分で見つけ出せ。運命は自分で選べ。No Surrenderの名のもとに…。
 わかっているよ。わかっているけど、まだこの閉じられた居心地の良い空間から出たくないんだ。

「…アーシュの話って、山野神也の事だったの?」
「そうだよ」
「あの子って…そんなに重要なの?」
「この地上の未来を託すひとりとして、俺は神也を選んでいるからね」
「…そんなに?」
「だから神也のお守りにレイを選んだ。スバルの代わりをできる身近な生徒はレイしかいないからね」
「高等部に移って二人部屋なんて変だなって思ったんだよ。全部アーシュの手配通りってわけ」
「いや、同室に決めたのは俺じゃないよ。レイと神也の未来を考えて、セキレイが決めたんだ」
「ルシファー先生が…」
 アーシュはルシファー・レーゼ・シメオン先生を「セキレイ」と呼ぶ。
 他の誰も呼ばない名前でルゥ先生を呼ぶ意味を、俺は知らないけれど、アーシュの「セキレイ」と言う声音はいつも暖かで、甘えるようで、どこか切ないんだ。
 そしてルシファー先生は、信頼に値する人格者ってことだ。

「ルシファー先生が決められたのなら…仕方ないね。できるだけ仲よくするよ」
「うん、よろしく頼んだよ。レイ。それから…セシルは…どうだい?」
「相変わらずだよ。調子もいいみたいだし、俺よりもみんなと気が合うし、仲良くやってるよ」
「おまえは徹底した個人主義だからなあ~。神也もそんなところがあるから、馬が合うかもな」
「アーシュは…神也とセシル。どちらかを選べって言ってるの?」
「…なんで?」
「だって…やたら神也を押すからさ」
「選ぶのはおまえだろ?俺はテーブルに並べてるだけだぜ」
「不味いもんを食べさせられそうで怖いね」
「腹を壊すのも経験のうち…ってね。まあ、レイは用心深いから心配してないよ」
「充分楽しんでるじゃん」
「バレた?」


 そういうわけで、翌日、山野神也は俺のルームメイトになった。
 スバル先生を見送った後だった所為か、山野は今日も真っ赤に目を腫らしていた。なのに彼はただ黙々と部屋の荷物を整理を続けていた。
 
 夜、隣りのベッドで寝ている山野の顔を覗いた。そっと額に手を充てて、頭の中を覗いてみる。
 ただ一途に愛する恋人を想い、その旅路の無事を祈る真摯さに打たれ、俺は自分の卑屈さを詰った。




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この物語の最初のお話は左のカテゴリの「senso」からどうぞ。長いけど…
アーシュの過去の物語など、様々ございます。



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銀色のRay 4 - 2014.10.17 Fri

4
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RAY
4、

 窓を開ける音で目が覚めた。
 まだ夜明け前だ。
 眼を開けて横を向くと、東側のベッドの上に座り込んだ山野神也の背中が見えた。
 山野はじっと東の空を仰ぎ、太陽が昇り始めた空を仰ぎ手を合わせた。それから一刻ほどぶつぶつと呟くと、突然パンパンと二回手を叩いて頭を深く下げた。
 初めて見るその儀礼?と、いうか様式美に俺の眠気も吹っ飛んでしまった。
 俺はベッドから身を起こして、山野に声を掛けた。

「なあ、それって何だ?」
「え?」
 ゆっくりと振り向いた山野の顔は光の影になっていたが、見慣れぬ紺色の寝衣の模様が変に気になって見入ってしまった。
 山野は俺の目線に気づき、自分の着ているものを眺めながら「これは浴衣という着物だ。スバルが私にくれたのだ。この地方では見慣れぬ服かもしれんが、私の育った国ではこういう着物が普段着なのだ」
「…じゃなくて、何で朝から手を合わせているんだって聞いてるの」
「ああ、それはな。おてんとうさんに朝の挨拶をしているのだ。皆が今日も一日つつがなく過ごせるようにと、拝んでいるのだ」
「それも君の国の様式か何か?」
「毎朝、皆がおてんとうさんに手を合わせるのは慣習のひとつだ。だがおまえが気にすることではない。その場所場所で人の見目が違うように、慣習やしきたりも違うのは当然だ」
「…」
「この学校の聖堂とやらも初めて見た時は驚いたものだったが、ここの者たちが信じるものがあれに宿るのならば、私は咎めはせん。さて…朝餉まで私は勉強するが、レイはまだ寝ててもいいぞ。時間になったら起こしてやろう」
「そりゃ、どうも…」

 山野はその浴衣のまま、勉強机に座って勉強を始めた。
 何がなんだかさっぱりだが、山野が他の学生と変わっていることだけは、はっきりと理解した。
 しかし…真面目さには間抜けさが比例するらしく、案の定、勉強熱心の山野は、二度寝した俺を起こすのをすっかり忘れ、俺が起きた時は朝食が終わる時間ぎりぎりで、急いで制服に着替え山野を促そうと見ると、山野はネクタイが結べずに試行錯誤していた。
 面倒なので俺が結んでやり靴を履き終るのを待っていると、今度は靴の紐を結ぶのにも手間がかかる。
 ああ、もうこいつ~、と、苛立ちながらも黙って山野の靴の紐を結んでやる。

「手間を取らせて悪いな。こういうことは今まではすべてスバルがやってくれたのだが…案外、難しいものなのだなあ。もっと勉強しなければならないな」などと、悠長なことを言う。
「朝飯、間に合わなくなるから急ごうぜ」と、山野の手を掴んで急いで部屋を出る。
 山野は黙って俺に引きずられて走る。
 なんとか飯にはありつけたものの、山野には急いだり焦ったりする気配りが欠落していると言うか…、もう授業まで時間がないというのに、手を合わせて何かの呪文を唱え、ゆっくりとスープを食べ始める。
「おい、時間がないぞ。もっと急いで食べろよ」
 すでに食堂に残った生徒はほとんどいない。
「天の王」は遅刻を最も嫌う。
月に三回遅刻をしたら、罰則として放課後ひと月間の庭掃除当番が待っている。
「急いで食べると消化に悪いと、スバルが言っていた。ゆっくり噛んで食べた方がより成長するらしい」
「…」
 このままこいつが食べ終わるのを待っていたら、俺も遅刻常習の道連れになりそうだったから、山野を置いて俺は教室へ向かった。
 なんとか授業開始のチャイムに間に合ったのだが、授業が始まっても山野は教室に来ない。
 今朝、山野の口から俺と同じクラスだと聞いていた。
 新学期の初日に教室に姿を見せなかったのは、スバル先生と別れを惜しんでいたからだと言ってきたが…まさか自分のクラスを忘れた?って事はないよな。

 そして、十五分が過ぎた頃に教室のドアが開き、山野神也が現れた。
 数学のジェレミー教師は渋い顔で山野を責める。
「授業はとうに始まっているがね」
「遅れて済まなかった。この教室に来るのは初めてだったから道に迷ったのだ。以後、気をつけることとしよう」と、山野はジェレミー教師に姿勢正しく深々と頭を下げた。
 山野はそれ以上責められることはなかった。
 自分の席に着くと、すぐに黒板に書かれた問いに答える様に命じられたが、予習を完璧に果たしていた彼は動じることなく、すらすらと計算と答えを導き出し、皮肉屋のジェレミー教師の口を黙らせた。

 休み時間に山野の席へ行き、食堂に置いてけぼりにしたことを詫びたが、山野は意に介せずに「私がレイを起こすのを忘れたのが悪いのだから、詫びる必要はない。こちらこそレイを慌てさせて悪かった」と、表情を変えることなく頭を下げた。
 なんというか…こいつは人を威圧するオーラを自分の意志に関係なく放出している。こんな風に真っ当に頭を下げられたら、こちらも後に続く言葉が出てこなくなる。
 それが良い事かどうかはわからないけれど、この性質は生まれ持ったものだから口で言ってもどうなるものでもないだろう。

「それから授業に遅れた理由は、私の方向音痴の所為だ。慣れない場所に行くと、ひとりで戻れなくなることもしばしばだ。学園内で迷い子になって、よくスバルを心配させたものだ。その時の慌てふためいたスバルの顔ったら、面白かったなあ」と、山野は珍しく声を出して笑った。
「…」
 笑いごとじゃないと思うのだが…
 初めてスバル先生が気の毒になった。と、同時にあの時俺の手を掴んで「神也くんをよろしく頼む」と、真剣に頼んだ意味をやっと理解したのだった。

 こいつのお守りは…半端じゃねえぞ。

 新学期の一週間は午前中で授業が終わり、午後からは自由活動が続く。
 図書館で自習をするからと教室を出る山野を一度は見送ったが、ふと気になって図書室はどっちの方向かわかるのかと聞くと、頭を捻る。
 結局不安になり、俺は山野を図書館まで案内した。
 図書館は聖堂と隣り合わせなのだが、校舎からは背の高い白樺林で見えにくい。石畳を辿れば大抵は辿りつくとは思う けれど、欠落した山野の土地勘を目の当たりにして心配になった。
 ついでにと館内まで付いていくと、図書司書のキリハラがこちらに気づいたらしく、軽く頭を下げた。
 キリハラカヲルは山野神也と同じくニッポンという国の出身だからだろうか、山野は珍しく急ぎ足でキリハラに近づき、借りていた本を返しに来たと弾んだ声で言う。

「神也くんは高等部の寄宿舎に引っ越したそうだね」
「うん、スバルが仕事で出かけてしまって当分留守にするから、仕方ない。でも同室になったレイは親切だから上手くやっていけそうだ」
「良かったじゃないか。…レイ・ブラッドリー。君の姿は図書館ではなかなかお目にかかれないけれど…本は嫌いかい?」
 キリハラは山野から俺に視線を移して、訳の分からぬ笑みを湛える。
「え?…いいえ、別に…本が無くても生きていくのに困らないから、読まないだけですよ」
「そう。でも君の社会科の点数は…あまり褒められたものじゃないよね。神也くんは頑張り屋だから、君も彼に習って学習することを覚えるといい」
「…」
 余計なお世話だと舌を打ち、本棚の奥へ向かう山野の後を追った。

 
 自習室で勉強する山野を置いて図書館を出ようとする俺に、キリハラは声を掛けた。
「レイ、君、神也くんを迎えに来てくれるのだろうね」
「はあ?」
「あの子の方向音痴は知っているのだろう?ここから寄宿舎に帰るまでに迷子になってもらっても困るからね。二時間…まあ、三時間経ったら迎えに来てくれないか?」
「そこまで過保護にする必要があるんですか?」
「だって君はあの子のお守り役なんだろう?アーシュ…学長殿直々に命じられた…。まあ、その命は尊いことだと肝に銘じて、頑張りなよ」
「…」
 面白がっているのが癪に障るけれど、アーシュの名前を出されると反論できない。
 弱り目に祟り目とはこういう状況だ。
 俺は返事もせずに図書館を出て、寄宿舎へ戻った。
 
 寄宿舎へ帰りつくと部屋の前でセシルが俺の帰りを待っていてくれた。俺は喜びすぐに彼を室内に招いた。
 そして山野の事を一通り話して聞かせると、セシルは心からの同情を寄せてくれた。
 それでなんとか俺の苛立ちも消え去った。

「学長の頼みとは言えレイも大変だね。山野くんは僕もよく知らないけれど…そんなに学長に期待されているんじゃ、特別な能力があるんだろうね」
「さあ…。俺の見立てじゃ、これと言って強い魔力を持つ魔術師でもないと思うんだけど…」
「まあ、彼はホーリーでもあるから、きっとこの学園に大切な学生なんだよ、きっとね」
「…」
 山野神也をホーリーに選んだのはアーシュだが、その本意が俺には掴めない。そもそもこの地上の未来があいつの肩に背負わされていようが、俺には関係ない話なのだ。

「レイも大変だろうけど、頑張れよ。愚痴なら僕が聞いてあげるから」
「ありがとう、セシル…」
「なに?」
「やっぱり親友っていいなあ~。セシルが傍にいてくれると心が落ち着くよ」
「僕も…レイだけなんだから」
「え?」
「ううん。少しね…無二の親友を山野くんに取られたみたいで…ちょっと妬いていたんだ。ゴメン」
「馬鹿だなあ~。俺にはセシルが一番だよ。山野の世話をするのは…仕方なしだよ」

 俺の言葉にセシルはやっと安心した微笑みを浮かべた。
 なんだか…すこしだけ胸が痛んだ。
 山野のことを悪く言うのは俺の本意じゃないからだ。
 世話が焼けるのは嘘じゃないけれど…。べつに嫌々やっているわけじゃないさ。
 親友のセシルに気を使う自分にも少し白けてしまって、俺は立ち上がってセシルを昼飯に誘った。
 この際、山野が腹を空かしていようが、俺の知ったことではない。


 三時間後、再び山野を迎えに図書館へ向かった。
 山野はまだ自習室で勉強していた。
「よく続くなあ。飽きないか?」
「知らない知識を知ることは面白い。特に地理は興味深い」
「俺、地理とか歴史とか全然興味ねえなあ~」
「それはレイがこの星で生まれたからではなく、クナーアンで生まれ育ったからじゃないのか?」
「…え…ええっ!な、なんで…」
 俺がクナーアンからこのアースってところに来たことを知っている者は、ほんの一握りだし、親友のセシルにだって打ち明けたこともないのに、どうしてそれをこいつが知っている。
 俺は本気で驚いてしまった。
 だが、山野は顔色一つ変えずに、喋り出すのだ。

「アーシュはクナーアンというこのアースとは異次元の星の神さまで、おまえを助けてここへ連れてきた、と、聞いた。アーシュは色々と話してくれる。私も十二歳まで山の神だったから、神さま同士でわかりあうから…と、アーシュは言っているのだが、私にはアーシュのような特別に優れた能力があるわけではないので、同列には並べるものではない、と思う」
「いやいや、おまえが山の神とかそんなことはどうでもいい。なんでアーシュが…俺のことをおまえに話すんだよっ!」
「…話したかったからじゃないのか?それよりもどうしてレイはこの星の地理や歴史を知ろうとしないのだ。自分の故郷を想うのは大切だが、せっかく他の星の生活に触れるのだ。学習することはおまえの人生にとって損はない」
「…いいかげんにしてくれよ。おまえに俺の何が…」

 恐ろしいことに、その時の俺には山野神也の考えを覗く冷静な力は無かった。
 そして、こんなつまらない事で感情に振り回される自分に辟易するのだ。



秋らしく、スバルと神也の旅行アルバムから。神也12歳の頃。
subarutann.jpg
 

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銀色のRay 5 - 2014.10.24 Fri

5
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神也毛布22

5、

 今まで誰にも話していない俺の過去を、知り合ったばかりの山野神也が知っていたことに俺は狼狽えていた。
 続けて問いただすと、山野はそれ以上のことは知らないと言った。そして、何故俺が怒っているのかと、不思議な顔をする。
「別に…おまえに怒っているわけじゃねえよ」
 山野に対する怒りよりも、俺の許可なく俺の事を話し聞かせたアーシュに腹が立つ。
 だけど、俺だってわかっている。
 俺が異邦人であることが他人に知られたとしても、引け目を感じることもないし、特別に思う事でもない。
 ただ俺は…アーシュと同じ秘密を守りたかっただけなんだ。
 俺とアーシュだけが分かち合える「何か」を、誰にも見せたくなかっただけ。
 意地汚い手前勝手な独占欲なだけ…。

 それでも腹の虫が治まらなくて、山野を寄宿舎へ連れ戻した後、アーシュが暮らす教員宿舎へひとりで向かった。
 官舎の玄関で案内窓口に声を掛けようとすると、廊下を通りかかったスタイルの良い綺麗な女性が俺の前で立ち止まり、「学長は仕事の為、二、三日は戻りません」と、まだ何も喋っていない俺に言うのだ。
 怪訝な顔で俺は見慣れない彼女をじっと眺めた。
 一目で高級だとわかる服装とジュエリー。それに似合った豪華な金髪と緑色の瞳。派手な化粧の割に下品に見えないのは、真ん中に座った小さくて形の良い鼻が可愛らしいからだろうか。
 突然彼女は手に持った洋扇をまっすぐ俺に向けた。
「レイ・ブラッドリー。あなたは学長に贔屓にされていると言って、安易に面会に来たり、勝手我儘を言うものじゃありませんよ」
「え?俺の名前?」
「知っているわよ。あなたはアーシュと同じ異次元の星から来たんでしょ?あのね、天の王は孤児院じゃないんだから、後ろ盾のない生徒は他の学生の模範となるように真面目に勉学に励む事。わかったわね」
「…」
 なんだよ、こいつ。めちゃくちゃ美人のクセに、てんで気取りやがって…。美貌と性格の悪さは比例するって本当だな。それに能力が上乗せられて、この学園には高慢ちきな女ばかりが台頭する。結果、俺の女嫌いは酷くなるわけだ。

「あ…なたに言われる筋合いじゃないと思うんですが…」
「あら、私はこの学園の理事長ですから、生徒の品格にも口を挟む権利はあるのよ、銀色のレイ」
「理…事長?」
「理事長の顔も知らないの?…ったく、アーシュがいい加減だから、学生の風紀も乱れるのよねえ。私たちの頃は学園の幹部クラスの顔と名前ぐらいは、すべての生徒が知って当然だったのよ」
「…」
 昔の話をされても、俺が知るか!と、罵りたかったけれど、その後の面倒さも想定できたので、俺は姿勢を正して「申し訳ありません」と頭を下げた。

 彼女は少し驚いて「あら?アーシュと違って意外と素直じゃない。まあ、いいわ。いつかあなたが自分の故郷に還る時が来るまで、ここで沢山の経験を積んでいくことね。でもアーシュばかりを頼っちゃ駄目よ。あいつはこの学園だけじゃなく、この星の慈善事業家なんだから」
「慈善事業…」
「早くあいつに頼らない世界を確立しなきゃならないのに、どいつもこいつも自分の身の回りのことで精いっぱい…嫌になるわね。ああ、あなたには関係ない話だったわね。じゃあ、失礼するわ」
 理事長と名乗る女性は俺の前を通り過ぎて行った。

 窓口の管理人にあの理事長の名前を聞くと、この学園の出身者でアーシュと同級生だったリリ・ステファノ・セレスティナと言うサマシティの有力貴族らしい。
「リリさまはこの学園の経営ではなく、次期サマシティ市長の有力候補なんだよ。学長の信頼も特別に厚い御方だ」

アーシュの信頼に値するか…
 馬鹿だなあ~。俺、妬いてる。
 数え切れない尊敬と信頼を集めているアーシュ。誰からも愛されているアーシュ。そしてアーシュも多くの者たちを愛している。
 俺はその多くの者のうちのひとりであって、決して唯一の者じゃないって、わかっているのに。
 まるで親を取られて不貞腐れてる子供だ。

 早く俺もひとりでも生きていける大人にならなきゃ…。


 夜、山野は机に向かって恋人へ手紙を書く。
 覗いてみても彼は嫌がらない。
「今まで毎晩のように、寝る前にはスバルにその日一日、私が気になったり感じたことを話していたのだ。だから同じようにスバルに手紙を書いている。でも、言葉と違って文章にするのは難しいものだな。どうしても考えてしまうから、言葉ほど正直にはなれないし、繰り返し読まれたりするのかと思うと、益々考え込んでしまう。それに、これを読むであろうスバルを想像すると、心配や悲しませたくなかったりするものだから、嘘も必要になる。でも、大好きな人が笑顔になる嘘の文章であるならば、それにはきっと意味があるのだろうな」
 そう言って、また便箋に向かう山野を俺はこの上もなく羨ましいと思うのだ。

 きっと俺は…俺の想いを受け取ってくれる「誰か」を、ずっと待っているのだろう。
 ただ待っていたって見つかるはずもないことは、わかっているはずなのに…

「なあ、山野。おまえ、うちの学園の理事長って知ってるか?」
「リリ・ステファノ・セレスティナの事か?もちろんだ。リリとは仲が良くてな。家に招待されたことも何度かある。リリは強い女性だが、優しい人だ。彼女の手作りのお菓子はどれも美味しい。リリだけじゃない。この学園の理事は十人ほどいるけれど、皆、とても面倒見がいいんだ。私は有難いと思っている」
「…みんな、おまえには特別扱いなんだな。特権だらけじゃねえか」
「私がアーシュの後を引き継げる器かどうか、皆、見計らっているのだよ。…正直に言えば…私自身もアーシュの代わりになれるとは、とても思えない。だが未来の不安を数えても仕方がないことだ。それならば賢人達の期待に沿えるように、懸命に頑張ろうと思う。私にはそれしか恩返しができないからな」
「…」

 山野の言う「恩返し」が引っ掛かったけれど、山野への嫉妬の所為で余計なことを考えたくなかった。
 部屋の灯りを消して、ベッドに潜り込み、毛布を鼻まで掛けた。
 机の電気スタンドの灯りに照らされた山野は、一旦鉛筆を持ったがそれを置くと抽斗を開け、何かを取り出した。
 そして俺のベッドに近づき、手に持ったそれを寝ている俺の目の前に差し出した。

「何?」
「このペンダントをレイにあげよう」
「…」
 汚い紐に小さなクルミのようなペンダントトップがぶら下がっている。
「あげようって言われても、こんなもん別にいらねえし」
「クナーアンの木になるマナという実の種らしいぞ」
「え?」
「この学園に来た時に、アーシュがスバルを介して私にくれたのだ。だが元はと言えば、クナーアンのアーシュの運命の恋人であるイールからの贈り物なのだ。イールは予見の力に優れていて、会ったことのない私の為にこのペンダントをくれたのだ。…私が今、これをレイに渡すという事も、もしかしたらイールは当の昔に知っていたのかもしれない。そうでなければ、今この時に、こんなにもおまえに渡したいという気持ちに突き動かされる理由がなかろう。きっとこのマナの種は、レイを求めている…いや、レイがこれを求めているのだ。だからこれはレイのものにならなければならない。さあ、受け取ってくれ」
「受け取ってって…。アーシュ…イールさまから頂いたものを許可なく俺がもらえるわけねえじゃん」
「私が許可したのだ。大丈夫だ。きっとイールは怒ったりしない」
「イールさまと呼べよ」
「…何故?」
「クナーアンの神さまだからだよ」
「レイにとっては神さまだろうけれど、私にとってはアーシュもイールも良き指導者であり、友人だ。だが、神さまを敬う気持ちは理解するぞ。私も山の神だった頃…」
「ああ、もうわかったから。おまえの話はもういいよ。俺、もう寝るから」
「では、このペンダントを付けて寝るといい。きっと良い夢を見れる」
「…」

 山野の強引な押し付けに俺は仕方なくそれを首に付けた。

 …仕方なくではない。本当は…馬鹿みたいに胸がときめいて仕方なかった。
 山野の言葉を全面的に信じるならば…このペンダントはイールさまとアーシュしか口に出来ないと言い伝えられるクナーアンの神木のマナの実の種と言うことになる。
 そんな宝物を山野が持っていることが羨ましく腹立たしくもなるけれど、もし山野が俺を気遣って…そしてイールさまの予見が俺への心配りならば(十分におこがましい夢物語とは理解している)俺は泣いてしまうくらいに嬉しいんだ。

 どこかで誰かが自分を想い、いたわってくれることに感謝しない愚か者はいない。

 うれし涙を見られたくなくて、俺は山野に背中を向けて寝たふりをした。
 両手に握りしめたペンダントのマナの種からは、僅かだがクナーアンの風の匂いがした。


 『お母さん…』

 いつのまにか俺はこの「天の王」に来て以来呼んだことのない名を、繰り返し呼んでいたんだ。
 そう、夢を見る事さえ拒んだあの頃の俺を…思い出していた。



レイ・ブラッドリー4

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この物語の最初のお話は左のカテゴリの「senso」からどうぞ。長いけど…
アーシュの過去の物語など、様々ございます。
山野神也のお話は「山の神・愛し子」からどうぞ。


次回はレイくんの過去編の予定ですね。来週は旅行に行くので更新できるだろうか…ちょっと不安。紅葉が綺麗だといいなあ~



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