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2019-11

Assassin 1 - 2016.08.31 Wed

1
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理玖王3

Assassin

 それは夏の終わりを告げる流星が、天の火竜に流れた夜の事だった。
「理玖王さま、起きて下さいっ!」
 宇奈沙のただならぬ声で、私は飛び起きた。
 隣に眠る遮那を揺り起こし、枕元の「魔斬(まきり)」を手にすると、私はすばやく支度を整えた。
 勿論、遮那も同じように身を整える。

 棚のランタンを灯すと、仄かに浮き上がった宇奈沙の顔がただ事ではない事を示した。
「何があった、宇奈沙」
「邨(むら)が何者かに、襲われております。急ぎ、隠し部屋にてお待ち下さい」
「襲われる?…一体どういう事だ」
「わかりません…。何が起きているのか皆目わからぬばかりで…。ただ…恐ろしい程の妖気が立ち込めております」
「馬鹿な…」
 宇奈沙の言葉を簡単には受け入れる事はできなかった。
 この「忍宇海」の邨は、誰もが容易に入り込めるシロモノではない。

「兄上、こちらへ」
 早々に隠し部屋への床の扉を開け、待ち受けた遮那が、私を呼ぶ。
 私は宇奈沙に「まずは邨の様子を見る。それから邨人を助けるのが私の役目だ」と、告げた。
「それはなりません。理玖王さまは、この邨の光となる御方です。私は先代より理玖王さまの事を重々頼まれ申しあげられました。どうか、事が落ち着くまで、地下の小部屋にてお待ちください」
「邨人たちを見捨てろと言うのか」
「この邨を守る益荒男は理玖王さまだけではござらん」
「だが…」
 私の言葉を振り切り、守り役の務めを果たそうと宇奈沙は遮那の傍へ向かった。
「遮那王、理玖王さまの事を確と頼んだぞ」
「わかった。兄上の事は俺が引き受けた。さあ、兄上、ここは宇奈沙の言う通りに、急ぎ隠れましょう」
 ふたりに促され、私はしぶしぶと隠れ部屋への穴へ入り込んだ。
「少々不便でしょうが、朝方まではここに留まり下さい」
 そう告げると宇奈沙は床の扉を閉じた。途端に辺りは暗闇に閉ざされる。

 隠し部屋とはいえ、天上は低く屈まないと動けず、遮那とふたり寝転がる程のスペースしかない。
 遮那と私は抱き合う様に寄り添い、外の様子に耳を欹てる。
 暗闇の中でも、私達は夜目が効くように幼いころから訓練を受けている。
 目の前の遮那の横顔をじっと眺めていると、見慣れているとはいえ、無性に愛おしくなった。思わず、顔を傾けてその口唇に軽く触れる。
「…兄上、こんな時に何をなさる」
「だって、遮那がかわいいからさ」
 私の言葉に、遮那は照れを隠すように私の胸を軽く肘で付いた。
 つい先刻まで、交わっていた情念が未だに乾いていないのが、我ながら可笑しかった。
 遮那となら、何度抱き合おうとも飽きることはない。
「愛しているよ、遮那」
「だからこんな状況で、マジな声を出さないでくれよ。理玖が本気で迫ったら、俺は断れない」
「だったら、先程の続きをやろうか?」
「いやですよ。それより、外の様子が気にならない?」
「ああ…」
 
 遮那とふたり狭い隠し部屋で身を顰めて、半刻が過ぎようとしていたが、未だ外は静まり返ったままで物音ひとつ聞こえない。
 こうなると宇奈沙の報告さえ疑わしく思えてくる。
「何事か起きているにしても静か過ぎる。やはり私が外を伺ってこよう。遮那はここで待っていてくれ」
「ならば俺が行くよ」
「兄の私を差し置いて、おまえが行くのか?」
「理玖は兄であり、俺の大切な主人だ。主人を守るのは俺の役目だよ。それに、理玖より俺の方が足も速いし、身も軽い。体術だって負けてない。大丈夫だよ。様子を見るだけだ。兄上はここで待っててくれ」
「待て!」
 止めるよりも一寸早く遮那は私の腕を擦り抜け、短い階段を登って上の部屋へ出た。
 床の下から顔だけを出し、「理玖、大好きだよ。すぐに帰ってくるからね」と言い、床を閉じた。
 私は後を追いかけたが、遮那は床に箪笥を押し載せたらしく、扉はビクともしない。
「遮那っ!」
 私の声は虚しく、遮那の足音と、部屋の扉を閉める音が微かに鳴った。
 途端に嫌な予感が私の身体を震わせた。
 尋常ではありえない緊張だった。
 なにか…災いのような事が私の邨に起きている。
 邨長(むらおさ)になろうという者が、こんなところで隠れていても良いものだろうか。
 だが、宇奈沙の言葉を無碍には出来なかった。
 私はある意味、この村の宝でもあるべき者なのだ。多数を犠牲にしても生き残らなければならないと、物心が付く以前より教え込まれていた。
 
 不安が次第に明確となりつつあった。
 私は携帯ランプを灯し、隠し部屋からの逃げ道を探した。
 その時、部屋の中に遮那ではない誰かの足音が聞こえた。
 私は急いで灯りを消し、耳を澄ませた。

 敵か…
 息を呑み、己の気を消すことだけに集中する。
 逃げ場がない場合、私の取る道は身を守る事しかない。

 足音は部屋の中を何度が行き来し、部屋を荒らした後、早々に部屋から出て行った。
 侵入者が部屋に火を付けた事は、匂いで直ぐに理解した。
 数分後にも、この隠し部屋にも煙火が回り始めるだろう。
 私は必死に逃げ道を探した。
 煉瓦を積み上げて作られた壁を叩き、音の違う場所を魔切の柄で叩き砕いた。すると、小さな隧道が現れた。
 私の身体がやっと通るくらいの狭い穴だったが、私は急いでその穴に身体を滑りこませ、匍匐前進で先の見えぬ隧道を進んだ。
 煙はすでに私の鼻腔を塞ぎ、炎の熱は足元まで近づいていた。
 息を止め、必死に進んだ先に風を感じた。
 やっと外に出られる…そう思い急いで穴から身体を出した瞬間、私の身体は宙を浮き、落下した。

 五メートル程だろうか、落下したところは崖のくぼみだった。
 多分あの隧道からここに誘導されるように作られた物だろうが、さすがにこの状況では確認する暇もなく、咄嗟に受け身を取るだけで精一杯だった。
 上に昇る手立てを考えながらも、遮那の事を想うだけで胸が瞑れそうになった。
 急がなくてはいけない、と逸るだけ、蔓を持つ手が震える。

 なんとか崖から昇りきり、邨の際に立つと、漆黒の闇をこじ開ける様に見たことも無い様な青白い炎が邨を覆っていた。
 私は一寸だけその青白い炎に見惚れた事を告白しよう。
 それは今まで見たどんな絵模様よりも、美しかったのだ。
 しかし、あの炎の中には私の邨が、邨人たちが暮らしてきたすべてがあったはずだ。そして、私が守らなければならない邨人たちも…

 人の声は少しも聞こえなかった。
 老人も女子供の僅かな声すら聞こえない。
 もしかしたら、折良く逃げおおせたのかもしれない…、と、私は一縷の望みを持った。だが、それはまたたく間に消え去った…。

 私はその場から一歩も動けなかった。
 動こうにも結界の中に入れなかったのだ。
 邨を襲った奴らは邨に結界を張り巡らせ、外からの侵入を阻んでいた。
 私は目の前で、私の邨が崩れ去るのを、惨めに立ち往生したまま、眺める事しかできなかった…。

 空が白み始める頃、炎を鎮める如く、空から激しい雨が雪崩のように降り始めた。
 燃えさかる炎は次第に弱まっていった。それと同時に、私を留まらせていた結界は消え去った。
 私は一目散に邨の中心へと急いだ。

 私の眼に映った景色は、昨日までの邨ではなかった。
 家々は崩れ落ち、家屋の焼けた匂いが立ち込めていた。
 村人の姿は跡形もなく、焦げた衣服と靴が至る処に散らばっていた。
「みんな…どこへ行ってしまったのだ…。私の大切な邨人は一体どこに消えてしまったのだ!」
 たかが二百人足らずの小さな邨だ。
 だが私の愛するものが詰まった大事な世界だった。

「これは一体どういう事なのだ。宇奈沙、教えてくれ。…遮那…遮那はどこに行った。私を迎えに来ると約束したじゃないかっ!」
 私は遮那の名を叫びながら、辺り構わず走り回った。
 遮那が生きている事だけを祈り続けて走った。
 遮那、おまえが生きていなければ…

「遮那っ!どこにいる!姿を見せろ!私を…置いて行くな!」

  …兄上…

「遮那!どこだ!」
 遮那の声が、私の頭に響く。私は遮那の姿を探して、必死に辺りを見渡した。

  …兄上…理玖…ごめん…守れなくて…

「遮…。遮那……遮那―っ!」
 遮那の意識が途切れた。
 
 ふと正面に焼け残った土蔵が目に入った。屋根は崩れ落ちていたが漆喰の壁は、どうにか原型を留めていた。
 私は走り寄り、重い扉をこじ開けた。
 貯蔵された穀物はすべて焼き焦げていた。
 私は目を凝らして辺りを見渡した。
 蔵の隅の荷台の脇に、見覚えのある着物の柄が見える。
「遮那っ!」
 駆け寄った先に倒れた遮那の姿があった。
 その半身は無残な火傷で覆われていた。
「遮那…」
 抱き寄せた遮那の鼓動は、すでに止まっていた。

「何故…私を守ると言った…。何故、助けてくれと呼ばなかった…。私は守られる為に、生きているのではない。…遮那…何か言ってくれ…頼むから…」

 この日、私は守るべきすべてを失った。
 未来を生きる意味を失ったのだ。



理玖王1

Assassin  2へ

新しい物語が始まりました。
解説しますと…この話は「senso」の世界の話です。
理玖王はレイや神也たちと同じ年頃でしょうか。
ネタバレになりますけど、「senso」の最終回「ブリリアントクラウン」の最後にアーシュの死に様を箇条書きしたのですが、その時ベルの息子のウィリアムに呪いをかけた暗殺者が理玖王となります。

私はアーシュを殺す相手を考えた時、どうしてもハールートや側近の魔法使いとは違うような気がしてならなかったんです。でもその時は、そいつの顔が浮かばなかった。
「とうらぶ」の「髭切」のキャラデザを見た時、なんだか懐かしく、とても色んな想像を掻き立てられる気がしました。
このデザインでアーシュを殺す暗殺者を考えてみよう、と、思い、この話を描き始めたところです。
暗殺者側に立ち、なぜアーシュを殺さなければならなかったのか…その心の経過を追っていきたいと思いました。

この話が終わった後、イールの話に続くのですが、多分、この話を先にしてしまった方がふたりに良い気がして、こちらを先に始めました。
理玖王の邨の話や遮那の事は次回に詳しく語られると思います。
遅筆ですが、冬が来るころには終れるといいなあ~と思います。
宜しくお願いします。





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Assassin 2 - 2016.09.13 Tue

2
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理玖王9-1-1
 
2、
 忍宇海(おしうみ)の邨(むら)は、海に面した険しい丘陵の峰にある小さな集落だ。
 地形が不便で交通手段が少ないことから、人の行き来はなく、崖下の海沿いの街のにぎわいとは無縁の土地だ。
 ただ、ある目的の為にこの険しい道を越えて、忍宇海の邨を尋ねてくる者が居る。
 彼らの願いは「敵への仕打ち」だ。
 敵はあらゆるものを指す。
 単なる敵打ちから始まり、スパイ活動を得ての混乱の発端、国を滅ぼす為の手立て、邪魔者の暗殺。
 それに相当する金銭のやり取りが為され、請け負った契約は必ず執行される。それは時を経て忍宇海の名を闇に広めていく。
 忍宇海の邨はそうやって生き延びてきた。
 二百人ほどの邨人は、それぞれに何かの技に特化し、その多くは暗殺に関わる技だった。
 仕事はひとりで担う場合もあるし、数人のグループの協力で成り立つ事もある。
 どちらにせよ、彼らは日々の鍛練を怠らない。

 しかし、毎日暗殺や革命の請負があるわけでもなく、日々の多くは農耕に従事する。
 田畑を耕すには厳しい土地柄でもあるが、彼らは苦労を厭わない。
 高低差のある棚田や痩せた土地を必死に耕し、邨人は尽力し、どうにか餓えないほどには実りを得ることができた。
 
 私は赤羽(せきは)理玖王、間も無く十五歳になる。
 その日を迎える時、この邨の十代目の長(おさ)になる決まりだ。
 私にはそれぞれ母親が違う三人の兄と、弟がひとりいる。
 長は婚姻することはなく、勧められた邨や街の女と交わり、子供が生まれたら、長の家に引き取り、世話人が子供を育てる仕組みだ。
 しかし、私の母は些か珍しい外国の女だった。
 父の千寿王長が、旅の途中で母と恋仲になり、邨へ連れ、そして私が生まれた。
 母は異国の民であった為、白い肌に金色の髪と橙色の瞳だったと言う。
 物心つく前に、邨を出た母の思い出は、私の記憶にない。
 私の見目は他の兄弟とは違い、髪は金色、目は朱に近い蘇芳色をしている。きっと母の血を濃く受け継いでいるのだろう。
 邨人のほとんどがモンゴロイドの特徴を持ち、黄色の肌に黒髪、黒目の姿だった為、私は幼い頃から、周りとは異なった見目に殊更コンプレックスを抱いていた。
 見目だけではなく、私には暗殺者としての精神が欠けていた。
 世話人の宇奈沙は「理玖王さまはお優しすぎます。それではアサシンとしての仕事など務まりません」と、何度も私を叱った。
 私は自分が優しいとは思った事は無い。ただ、暗殺者に必要な狩猟も武術も呪術も嫌いなだけだった。
 私の望みは平穏に生き延びる事だ。
 父はそんな私を不憫に思ったのか、特別に目を掛けてくれた。多分、母への想いが私に注がれたのだろうと、私は考える。
 そうでも思わなければ、取り柄の無い私などが、長の後継者に選ばれるはずはないのだから。
「理玖はとりわけ姿形が美しい。それは人を引き付ける為の最も必要なカリスマだ。長になったら神子のように尊かろう」
 父が私に何を求めていたのかはわからないが、暗殺者の首領としたならば、かなりのロマンチストと言えよう。

 暗殺者(アサシン)の邨として、生き残る為の厳しさは想像するに難しくはない。
 仕事とはいえ、命を落とす者も少なくなく、それは私達、長の子供も同様だ。
 上に立つ者は、命を賭してでも、下の者たちを守らなければならないのだ。
 よって、後継者は多い方が良い。
 私が長より後継者の地位を授けられたのは十歳の時だが、兄たちは不満を口にしなかった。
 私が死んだら、次は彼らの誰かがこの責務を担うのだ。
 それは誰しもが望む高座などではなかった。

 長兄の紀威王とは十歳、次兄の龍泉王は七つ、三男の真蔓王は六つも離れているためか、私には少し遠い存在に思えた。
 彼らはとても頼もしく私を可愛がってくれるのだが、強引さや高圧的な物言いに、私の卑屈さは増していくばかりだった。
 兄達と狩りに行く時などは、彼らの当たり前の残酷さに私は疲弊してしまう。
 それが私の弱さだと受け入れる事は容易ではなかった。
 命のやり取りは悪とか善ではなく、目を瞑るか、真実を見つめる事が出来るのか…のような気がする。
 邨の食糧事情の為には野兎や鹿、また家畜を育て食べるのは必定であり、最低限の生活を続ける為には、技を持った者たちが、契約により他国で暗躍するのは仕方のない現実だった。
 守る為に他人を殺す事の正当性はなくとも、事実、我々の邨が契約した国や人の滅亡により生き永らえて来たのは叛けてはならない歴史だった。

 過ぎゆく幼い時の中、もっぱら私と共に過ごしたのはひとつ違いの弟、遮那王だった。
 物心つく頃より遮那は私と暮らし、お互いが足りない何かを求め合うのは、自然の成り行きだったと思う。
 何時の時も、遮那は私の後を必死で追った。
 少し大きくなると「おれが兄さまを守るんだ!」と、息巻いた。
 実際のところ、遮那は私よりも過酷な修行を自分に課し、少しでも私が苦痛に思えるものは、進んで自分が請け負っていく性質(たち)に育ってしまった。
 私としてはもっと自分の事を考えて欲しいと願ったのだが、遮那は「兄上の為に生きるのが、遮那の幸せなのだ」と、満面の笑顔で言い放つから、私もそれに甘えてきた。

 遮那と契りを持ったのは、遮那が十二になった日だった。
「十二のお祝いに欲しい?」と、尋ねたら、遮那は「兄上に抱かれたい」と、いつになく真面目な顔をする。
 私は少し困惑したが、そうなる事は前から覚悟していたから、一面に咲く菜の花畑で遮那を初めて抱いた。
 遮那は「こんな風に兄上に愛されるのを、ずっと夢みていたんだ…」と、私の胸で泣いた。
 日頃、私の盾となり前を歩く強気の少年が、目端に涙を溜め、熱い眼差しで私を見つめるのだ。邪見になど扱えるものか。
 ああ、遮那はなんていじらしくも愛おしい子なのだろう。
 この子の為なら、私は命を賭しても惜しくないとさえ思った。
 私達は一生涯、互いの傍から離れたりしないと誓った。

 その半年後、仕事に向かった父、千寿王が急死したとの一報が邨に入る。
 事の次第は一切わからず、父の遺体も見つからなかった。
 個々の仕事の内容は仲間内でも聞かされることはない。
 誰もが怖れる闇の「死神」は、誰にも知る事もなく、ただの「死者」になったのだ。

 長の居なくなった邨に不安が広がった。
 三人の兄たちは、頼りない私に代わり、邨を先導していくことになった。

 顧みるに、それが悲劇の始まりだったのかもしれない…。

 いや、すべては私の宿命が招いたものだったのだろう…。




Assassin 1へ / 3へ


暗い…まあ、暗殺者のお話なので明るいわけにもいかず、ずっとこんな調子ですかね~
この子はまだひよっこなので、これから段々と大人になっていくつもりですけど、かなり歪んた方向へ行きますね、きっと。



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Assassin 3 - 2016.09.24 Sat

3
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理玖王4

3、
 あの日、私の目の前で起こった惨劇がどんなに私を壊しても、私は死ぬ事を許されなかった。
 降り続ける雨の中、私は焼け残った家屋をひとつひとつ覗いて、生存する者を探した。
 だが、生きている邨人など、ただひとりも見つけることが出来ず、見いだせたのは死者ばかりだった。
 皆、愛する者同士、互いを庇うように抱き合ったまま、横たわっていた
 私が守るはずの邨人の死は、悲しみよりも虚しさが募り、私は自分を責めた。
 せめてもの償いにと、林の奥にある村の墓場に穴を掘り、ひとりひとりの死者を丁寧に埋葬した。
 遮那の身体を沈める時、遮那の左手首の腕輪を自分のそれと交換した。
 父が私と遮那にくれた家宝のひとつだった。
 「己の身を守る護符として、大切にせよ」と、言った父の言葉は一体何の意味があったのだろう、と、それを握りしめ、父を恨んだ。

「遮那、ごめんね、一緒にいられなくて…ごめん」
 何度も何度も私は遮那の遺体に繰り返し謝った。
 返事は無かった…

 全ての者たちの埋葬が終わったのは、あの日から五日を過ぎた頃だった。
 生きる為の食料は焼け残った土蔵の床下に隠されていたし、畑の井戸で飲み水は充分に確保できていた。
 このままこの邨に居て、仕事から帰らぬ邨人や兄たちを待つ事は可能だった。
 帰り着いた彼らに事の詳細を話し、今後の行く末を相談するのが、残された私のするべき道だったのだろう。
 だが、私は怖かった。
 何もできずに、独り生き残った私を、彼らは決して許すまい。ならば、私はこの邨に居る事はできない。
 いっそ死んだ者として、一刻も早くこの邨から去るべきではないのか。
 どのみち無責任だと責められようと、私はこの邨を破壊した奴らと対峙しなければならない。
 だが、私は自信が無かった。
 この年までこの邨から一歩も外に出た事はないのだ。
 世間に疎い私が、世の人々に紛れて生きることができるのだろうか。

「兄さま…」
 私は首元のチョーカーを指で撫でた。
 ひと月前、長兄の紀威王が私に授けたものだ。
 紀威王は弟の龍泉王と真蔓王からの連絡を受け、急遽、彼らの仕事を助ける為に旅立つ事になった。
「思ったより事が難しい方へ向かうかもしれない。傾国の術は簡単にはいかない生業だ。すぐには戻れないかもしれないな。邨の事は理玖に任せることになるが、おまえももうすぐ成人なのだから大丈夫だな」
「はい、ご心配なく、兄上さま。どうぞ、心置きなく為されます様。御武運を」
 長兄は私を見下ろした後、ポケットから何やら取り出し、私の首に結んだ。
「このチョーカーはESPを増大させるものだ。いずれ必要になると思い、理玖の成人祝いとして渡そうと思ったけれどね」
「私の能力は乏しくて、あまり役に立たないと兄達も宇奈沙も言います。これを頂いたところで、皆の期待に応えられるのか…自信がない」
「自惚れるよりいずれのコンプレックスを持った者の方が、生き残る確率は高いものさ。理玖は何があっても生き残って、この邨を守るのだよ。手を下すのは私達で十分さ」
「…」
 紀威王は私を優しく見つめると「大丈夫だ」と、言うように肩を叩いた。
 私は何だかひとり前の大人の気分で、旅立つ兄を邨の門前で見送ったのだ。
 あれから、兄達の連絡は一度もないままだった。
 今、どこに居るのか、何をしているのかさえ、私は知る由もない。
 邨を守れなかった私を、紀威王はどんな目で見るのだろう…
 そう考えると、私は居ても立ってもいられなかった。

 遮那の墓に別れを告げ、陽が山陰に隠れると同時に、私は邨の門跡に深く頭を下げ、山を下りた。
 兄からのチョーカーと遮那の腕輪、そして父から授かった魔切だけが、私の頼るものとなった。

 急いで降りたものの、港街までは二時間もかからなかった。
 こんなに近場ならば、今までにいくらでも来る機会はあったものだと、少し悔やみはしたが、同時に人々の騒々しさは慣れない所為か、勘に触るものだった。
 繁華街の通りには屋台が並び、夕食の時間の為か、大勢の人が飲み食いを楽しんでいる。
 饅頭屋で饅頭を一つ買うと、店主が訝しげに私を観る。
「珍しい顔をしてなさるな。どこから来なさった?」
「…」
 私は急いで外套のフードで頭を隠した。
 自分が見えてないので、忘れがちになるが、金髪で白い肌の私の姿はこの地域では異人に見えるのだろう。

 繁華街を足早に抜けて海の見える港へ向かった。
 海の姿は邨の崖の上から、覗くことはできたが、こんなに近くで本物を見るのは初めてのものだから、少し胸が騒いだ。
 波音は静かに私の耳に届き、慣れぬ潮の香りに何故か涙が出た。
 もう、邨に戻る事はできまい…。
 この海を渡って、どこかに行かなくてはならない。

 守り役の宇奈沙は、この世界の事を様々な様式を持った国が沢山あるのだと教えてくれた。
 幼い頃、邨の暗殺者たちの仕事ぶりを、宇奈沙は物語を読むように私に語った。
 一度たりともしくじることもなく、暗殺者たちは完璧な仕事を熟してきた。この忍宇海の邨は永遠に語り継がれるものとなる…と、何度も言った。
 しかし、旅から戻った邨人にこっそり世間の話を聞いたりすると、世界はこの邨と比べようもない程に発達し、目が回る程の速さと支離滅裂に彩られていると言う。
 よく理解出来なかったが、彼らの話を聞く度に、邨を出て旅をするその日が待ち遠しくなったものだ。皮肉なことに、こんな風に邨を離れることは望んではいなかったものに…
 
 宇奈沙が井戸の中の蛙を知らないとは思わない。
 彼は自分たちの仕事を肯定したかっただけではないのか…と、思う事もある。
 金で請け負う暗殺者など、誰がどう見てもロクでもない商売だ。
 だが私は忍宇海の邨を、邨人達を愛していた。
 彼らの望む強いアサシンになりたかったのは、事実だ。
 
「こんなところで迷い子かな?」
 不意に肩を叩かれ、振り向くと、初老の男が立っていた。
「親御さんは?…まさか、独りなのかい?」
 優しげな顔をしたその男だ。
「あの船はどこに行くのか、知っているのか?」
 港に接岸する船舶のひとつを指差して尋ねてみた。
「ああ、手前の船はインド洋を回って、ペルシア行だ。向こうの奴は日本海を横断してロシアに行く船だな」
「…」
 インド洋、日本海、ロシア…。私には耳慣れない言葉だった。

「あの船は貨客船だな。おまえさん、船に乗って外国にでも行くつもりなのかい?」
「そのつもりだ」
「旅券(パスポート)は?旅券を持ってないと、外国船には乗れないんだよ」
「…」
「うむ、仕方がないね。あんた、金はあるかい?」
「一応持っている」
「少し高くつくが、すぐにパスポートを作る手立てはあるよ。正式に申請するとなると、一週間はかかるがね。どうするかい?」
「出来るなら明日にでも、ここを出たいんだ」
「じゃあ、決まりだな。儂に付いてきな。巧い偽造屋を教えるよ。ついでに今晩の宿屋も紹介しよう。なあに、大したサービスはできないが、腹が膨れるもんぐらいは出るさ」

 私は何も言わず、頷いた。
 男は嬉しそうに笑って、手招きをする。
 闇に消えそうな港の向こう、狭い路地裏に向かう男の足取りは軽い。
 私は澱んだ足取りで、その背中を追った。
 路地裏の入り口には、化粧の濃い女が煙草を吸いながら立っていた。
 女は私を見ると、何の興味もない様に後ろを向いた。

「こっちじゃよ」
 再び男が愛想笑いで手招きをする。

 通りの端の錆びた赤いカンテラが、潮風に揺れていた。




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もうちょと早く更新できたらなあ~。頑張らねば…

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Assassin 4 - 2016.10.03 Mon

4
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   理玖王3-1


4、
 私は案内すると言う男の後をゆっくりと追いつつ、辺りを眺めた。
 壁に立つ人影は如何わしさを漂わせ、すれ違う人の顔は怠惰に満ち、寂れた胡乱な空気に、小さく咳き込んだ。
「こういう場所は初めてかい?」
 男の問いに私は黙って頷いた。
「ここら辺は表通りと違って、浮浪者や外からの密航者も多くてね。犯罪に事欠かんよ。気を抜くとカツアゲされるどころじゃない。おまえさんみたいな可愛い子は特に危ない。警察も見て見ぬふりでなあ。ヤクザもんが居なくなってくれりゃあ、少しは平和になるだろうがねえ。そういう剛毅な奴はめっきり見なくなったよ。まあ、儂がついとりゃ大丈夫だ。安心しな」
 振り向きざまに笑う男の顔は滑稽さを通り越して、見難いものだ。

 歩を進める毎に、通りは暗さを増し、人影も無くなった。すると、間もなく狭い袋小路の広場に出た。
「ちょっとここで待ってておくれ。すぐに使いの者を呼びにこらせるから」
 男は私から離れ、そそくさと階段を登り、そのまま建物の中へ消えていった。
 暫くしてその扉から見るからにヤクザなガタイの良い男三人が、勇ましげに肩をそびやかしながら、階段を降りてきた。
 私を囲み、金品を出せと脅す。ついでに私を売りとばす算段が付いたから、今晩はじっくりとかわいがってやると下劣な顔で言う。
 私はそれに返事はしなかった。
 上を見ると建物のバルコニーから、あの初老の男が私を見下ろし、笑っているのが見えた。
「こりゃ中々の上物だ。娼館のボスにふっかけりゃ、高く売れそうだ」
「まあまあ、あんまり怖がらせるなよ。こんな綺麗なナリして、どっかのお坊ちゃんじゃないのか?」
「まあこんなところへひとりでくるのが悪い。諦めな」
「おい、なんとか言ったらどうだ?坊や。怖いなら泣き叫んでもいいんだぜ?まあ、助けになんぞ、来る奴はいねえけどな」
 笑いながら一人の男が私の肩に手を掛けた。
 それが始まりだった。
 私は腰に挿した「魔切」を鞘から取り出し、男たちを殺した。
 「殺し」は「一撃必殺」が真意である。
 「忍宇海」の暗殺術は、苦しむことなく「死」を与えることだ。
 多量の血を出さず、声を上げさせることなく、殺す。
 多分この男たちも自分がどうやって殺された事を知る暇もなく、命を失ったことだろう。
 
 ところで…
 私はさっきから自分に起こった奇跡的な事に、多少の興奮を抑えきれずにいた。
 能力の突然の発動とでも言おうか…。
 波止場で初老の男に肩を叩かれた時、私はこれまでとは全く違う概念を相手から受け取った。
 男の考えが私の頭に突如、言葉としてせせらぎの様に流れ始めたのだ。
 言うなれば「テレパシー」、もしくは「エンパシー」。
 お互いの考えを伝え合う術は、遮那と頻繁に務めてきた。この場合、お互いがお互いに伝え合おうと言う意志が働き成り立つという程度のものであり、兄たちからすれば、程度の低いESPで、とても仕事の役に立つ能力ではないと叱られた。
 だが、この鮮明さは何だ?
 この男の卑劣さ、愚劣さ、非道徳さが手に取るように頭に響く。
 私を騙し、陥れ、少しのお零れを授かろうと夢想する哀れな男…
 さて、どう利用すれば、一番利口なやり方か。
 私は邨で教えられたことを反芻した。
 実践は初めてだが、準備は万端であったと言ってよいだろう。
 だから、男が狼藉者に私を売る意志を確認し、私は安堵した。
 これで少しの良心も痛めることなく、万事を図る事が出来る。
 仕事は悪人が相手なら、容易く処されるのだ。

 三人の男たちの急所を突くと、男たちは声も無くその場に倒れた。
 それを観ていた男のバルコニーに、私は一目散に飛び移り、事の成り行きに縮み上がる男の頸動脈に刃先を向けた。
「報酬を払ってもらおう」
「な…なんのことだ…」
「じいさん、さっきここから狼藉者がいなくなって欲しいって、言っただろ?私が始末してやった報酬だよ。タダで殺しはしない主義でね。きさまがこの殺しの雇い主だ」
「…い、幾らじゃ」
「そうだな…。今夜の宿賃とパスポート代でいいだろう。すぐに案内しろ」
「…」
「言っておくが私に嘘は効かない。きさまの考えはすべてお見通しだ」
「お、おまえは一体…何だ?」
「噂に聞いたことはないか?私は…忍宇海のアサシンさ」
 男はギェッと言葉にならない声を出し、その場に腰砕けになった。

 男は的確に私の言葉の意味を理解したらしい。
 その夜は思ったよりも良いベッドで、静かな夜を過ごし、朝にはパスポートも出来上がっていた。
 その足で港に向い、チケットを買い、初めての旅客船に乗り込んだ。
 どこに行くかも知らぬまま、ただ消えかかった「蘭陵丸」と言う船名に惹かれて選んだ航海船だった。
 タラップを渡る時、私の育った峰を振り返り、もう帰る事はないだろうと、感傷的になった。
 殊に遮那を想うと涙が出る。

 不思議だ。
 昨晩、私が始めて殺した男三人に、私は微塵も感慨を感じなかった。
 哀れさも楽しさも罪悪感の一欠けらも沸き起こっては来ない。なのに、遮那を想うだけで、こんなにも胸が痛い。
 もっと早く私が能力を身に着けていたのなら、邨があんなことにはならなかったかもしれない。それとも、能力が導かれたのは破壊された邨のおかげなのか?
 邨を想うと辛さが募った。
 何を思おうと、時間は戻らず、あの邨人達の声を聞くことは不可能なのだ。

 案内された二等客室は狭い二人部屋だった。
 二段ベッドとソファにテーブル、小さな丸窓を覗くと海が見えた。
 ドラが鳴り、船はゆっくりと港を出港した。
 
「お~、ここか~」
 突然、一人の男が部屋へ入ってきた。
 無精髭にぼさぼさの黒髪、典型的なモンゴロイドの顔形、大型のバックパックを背負いくたびれた黒コートを来た壮年の男だ。
 
 本当はこの貨客船に乗る際、私は一人部屋を選びたかった。何故なら、昨夜からテレパシーに制御が効かなくなり、私の周りに居るすべての人の考えが、頭に勝手に入り込み、五月蠅くて仕方ないのだ。
 だが、一人部屋は空いておらず、仕方なく二人部屋を選んだ。
 一人ぐらいなら、我慢はできるし、怪しい者なら消せば済む。死んだとしても海に投げ込めば、大事にはなるまい。

「ほ?へえ~、あんたひとりかい?」
男はソファに腰を下ろし、ベッドに腰掛けた私を見定める様に目をキョロキョロさせた。
「そうだ」
「そっか~。まだ若いのに一人旅たあ、大変だね。俺は熊川(こもがい)弦十郎。フリーのアームズコーディネーターだ。ま、よろしく頼むよ」
「ア…武器、コーディネーター…?」
「え?君、興味ある?そうかそうか。まあ、簡単に説明するとだなあ、武器の需要と供給を調達する仕事でね。欲しい武器や新しい武器の注文を受けるだろ?その仕入れとか開発企業とかとにね、金品のやり取りとかさあ、メンドクサイ手続きを円滑に調整する仕事なのよ。個人は元よりわけのわからん団体、でけえ国の王さまとだって取引するんだぜ。俺、すごくね?」
「…いや…よくわからないが…」
「そう、残念。つうか、君、ちょっとその刀、見せてくれねえ?」
「カタナ?」
「そうそう、君の腰に挿してる奴よ」
 弦十郎とか言う男は、目をキラキラさせて、私の「魔切」を指差す。
 私は布に巻いた「魔切」を解き、差し出した彼の手に渡した。同時に、相手の感情を読むためにその手をそっと握りしめた。

 もし、この男が私の敵(かたき)であるのなら、私の旅はすぐにも終わるのに…などと、夢事を思うのは私の弱さなのだろう。



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理玖王の事を思うと、やっぱり辛すぎるので、ポジティブん弦十郎が居てくれて、書いてる私もホッとします。まあ、すぐに別れるけど…。理玖王はどんどん泥沼に落ちていくからなあ…


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Assassin 5 - 2016.10.14 Fri

5
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    理玖王5


5、
 突然、現われた熊川(こもがい)弦十郎が何者か…私は過分の興味を持って、彼の心を覗いてみた。
 …
 驚いた。
 この男の感情…見事に負の意識がない。なんというか…迷いや憎悪、嫉妬などの暗い感情が全く見えないのだ。
 人はどこかに他人に見せたくない感情やら、自分に対する嫌悪感やら…様々な負の感情があるはずだ。
 私はともかく、日頃からとりわけ明るかった遮那だって、心の奥底には触れられぬほどの嫉妬や羨望が渦巻いていた。そのすべてが悪いわけではなく、負の意識を情熱や努力、向上心への原動力と変えていくことが各々にとって重要な過程であるべきなのだ。
 だがこの男にはそういう意識がない。
 目の前の熊川弦十郎の頭の中は、私と「魔切」への好奇心だけがすべてなのだ。
 そのあっけらかんとした心の構図…
 …人がこんなに真正直なはずがない。

「こりゃ、中々すげえシロモノだぜ」
「え?」
「この刀…まあ、刀身の長さから見りゃ、短剣と脇差の中間。緩く反った両刃造りもちょいと珍しいな。…まあ、五百年前程の備前辺りかな。出来は中々だが…おいおい、ここ最近…人を切ったな?血痕が残ってるぜ」
「…」
「ま、俺がちょいと研いてやるよ。同室の好で安くしといてやる」
 弦十郎は慣れた手つきで柄を外し、リュックから道具を取り出して、私の「魔切」を勝手に研き始めた。
 私はなにやら呆気に取られたままで、この状況に戸惑いつつも成り行きを見極めようとしていた。もしこの男が少しでも不審な行動に出たら、容赦はしない。だがそれよりも、全能力を使って見透かしても、弦十郎からは、嫌な気を感じる事が出来ない。
 
「この剣の出処が、おまえには分かるのか?」
 私はしゃがんで魔切を研いでいる弦十郎を見下ろしながら、問うた。
「ああ、大体ね。手に持つところを茎(なかご)って言うんだが、ここに刀工の名や場所が刻んであってね。…ほら、備前の祐定って読めるだろ?間違いなく良い刀だよ」
「備前ってどこだ?」
「ニッポンだよ」
「…」
「なんだ、知らないのか?ここらへんの大陸から比べりゃ小さい島国だよ。そうだな、明日辺り甲板にでて東を覗いてみたら、見えてくるはずさ」
「おまえはそこから来たのか?」
「いや、俺は生まれてこの方、ひとつの土地に落ち着いてたことはないね。親はニッポン生まれのニッポン育ちらしいが、この商売を始めてからは旅ばかりさ。まあ、俺は親の跡を継いだってわけ」
「そうか…」
「君さ、もしかして忍宇海のアサシンじゃない?」
「…」
「警戒しなさんな。鼻が利かなきゃこういう商売は続けていけないからね。ここらへんにそういう邨があるらしいって噂は聞いている。それにこの刀の使い方に残り血…君が只者じゃないって馬鹿でも判る。まさかこんなところで本物のアサシンに会えるとは思わなかったけどね」
「…」
「でもなあ、些かオーラを出し過ぎた。殺しは初めてだったのかい?」
「…」
「まあ、宿命とは言え、人を殺す商売なんて、あまり気持ちの良い仕事じゃないだろうしなあ」
「別に…なんともない」
「そうか?…ほい、出来た」
 弦十郎は研き終えた魔切を元通りにして、私に渡した。
 私は手にした魔切をじっと見つめ、私の正体を知ったこの男を始末するかどうか悩んでいた。

「おい少年、こっち来いよ。どうせ初めての旅なんだろ?ニッポンも知らないなら他の国にも行った事なんかねえんだろ?教えてやるよ」
 弦十郎は壁に貼ってある世界地図を叩きながら、私を手招きした。
 私は何故か素直に彼の傍に歩み寄る。

「これが世界地図、まあ航路が主なんだが、見たことあるかい?」
「いや、こんなに詳しいものは初めて見る」
「…お坊ちゃんなんだなあ」
「え?」
「だって忍宇海のアサシンは世界中からの頼みごとを請け負うっていうじゃないか。長旅は当たり前、世界の知識は半端ないって聞いたぜ」
「わ…私はまだ成人しておらん。それに邨を出たのは…初めてなんだ」
「…なんかわけありだな。確かにね、まだ子供の君が悲壮なオーラで一人旅って変だよな」
「子供じゃない。もうひと月で成人の証を貰えるはずだった…」
「はずだった…なのに、邨を出てきたんだ」
「…」
 なんだ、こいつ。私を誘導しているのか?
 この男の心の中は私への親しみ…と、言うか慈しみ…いや、愛情?
 …へ?モノにしたい…
 めちゃくちゃセックスしたい?
 …こ…こいつ……
 
「お、おまえは私を抱きたいのか?」
「へ?…すげえ、よくわかってらっしゃる。君、アルトかい?」
「ある、と?」
「魔法使い、能力者って意味。一般的な呼び名でアルトはその超能力を持つ者、それ以外はイルトと呼ばれる」
「ESP保持者って事か?」
「そう、アサシン稼業集団の忍宇海邨ってとこは、そういう能力に長けた者が多かったんじゃないのか?」
「…」
 
 この者にすべてを話しても良いのか…。
 私はあまりに世間に疎い。敵を見つける術も知らない。どこへ行ったら良いのかさえ、全くわからない状態だ。
 何かの情報が欲しい。
 裏社会に詳しいこの男の力を借りたい。
 何よりこの男は、私に好意を持っている。
 今はこいつを利用するのが最善の方法ではないのか?

「私は…赤羽理玖王と言う。つい最近の事だ。私の邨、忍宇海の邨は一夜にして何者かに滅ぼされた。そして私だけが生き残った…。私は邨を滅ぼした奴らを殺さなければならない。どうしても邨人の敵を討ちたいんだ。弦十郎、私に力を貸してはくれないだろうか?」
 私の頼みを聞いた弦十郎はしばらく腕を組んで考えていた。
 弦十郎の考えは、力を使うまでもなく頭に流れてきた。
 …
 弦十郎は私とのセックスしか頭になかった。
 私に殺されるかもしれないのに、真面目な顔で私とのセックスだけを妄想しているこの男が、私には可笑しくてたまらなかった。

「…おまえと言う男は、どスケベで大馬鹿者なのだな」
 弦十郎はちらりと私を見て「そりゃ、こんな可愛い子を目の前にして、勃たないゲイがいるもんかね」と、真面目に答えた。
 その言葉に私は思わず声をあげて笑った。
「笑った顔も可愛いやね」と、弦十郎が嬉しそうに笑った。

 ああ、そうだ。
 こんな風に笑ったのはあの日以来だ。
 …
 遮那はこんな風に笑える私を、責めるだろうか。
 


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