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2019-09

天の軌跡と少年の声 1 - 2017.06.08 Thu

1
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アーシュ顔-5

天の軌跡と少年の声

 人間とは面白い…と、アーシュは時々思う。
 思いながら、嗤った。
 多少変わり者ではあっても、普通の人間と思って生きてきたはずだったのに、突然見知らぬ惑星の神さまだと持ち上げられ、不死だったはずなのに勝手に人間に生まれ変わった事を詰られ(本人は記憶にござらん)、その世界を創造した天の皇尊ハーラルの気紛れで、わけのわからない身体に変わらされた十七の或る日。
 否、歳を経ても全く変わらなくなってしまった自分の姿を鏡で見る度に、成長し、老いてゆく周りの友人やら親しい者たち、または年若の子が自分の姿を追い越していく現実は、やぶさかに抗いたい。
 同時に不変であるはずなのに、もう何年も生きられないという運命こそが、自分に与えられた特権であり、最も誇るべき顕示欲(彼は意固地である)であると、疑わず。
 
「全くもって不毛だね」

 人間ではなくなったとはいえ、クナーアンでは神という為さぬものはあり得ない絶対者となったとはいえ、アースでは比類のない魔王と呼ばれるのが当然の彼ではあっても、生まれて此の方、二十八年間の人生経験及び精神年齢は、周りの二十八歳の輩とさほど変わり様も無い。
 然るに、持て余し気味の異能力、つまり膨大な魔力をどう楽しむか、未熟な執政者は常に何かしらの悪戯を思案中。

 己が消滅してもこの世界はなるようになる、なるようにしかならないと、理解しているが、彼の義務と権利は、自分の意志を継ぐ後継者を作り上げなければならないという一種の狂信的な形を成している。
 彼は思う。
 世界は美しくなければならない。(美しさの定義は…様々だ)
 それぞれが願う形と違っていても、大切な何かを守る為に懸命に為すのならば、それはきっと天から眺めれば、誰もが魅了されるものであろう、と。
 故にアーシュは破壊的な力を持つ自分とは対極な無力な少年に次座を与えようとする。
 少年は無力だが、奇跡的に無垢な魂であり続ける。
 アーシュはそれが愛おしい。

 
 サマシティの中心に建つ「天の王」学園は、魔力を持つアルトと、魔力は無いがカリスマ性を持つイルトの学生たちが、自分たちの能力をいかに平和に行使していくかを学ぶ寄宿学校(インデペンディントスクール)だ。…建前としては、だが…。
 大概の生徒たちは、俗世の青少年と変わりなく、人生の最も光り輝く青春の一時を、充実した恋と享楽に勤しむ日々。
 その中で山野神也は、誰が見ても変人のひとりであることには間違いはない。
 「天の王」では目立つオリエント系の顔立ち。迎合しない孤高のスタイル。絶対的なマイペース…等々。
 高等部社会科の先生、スバル・カーシモラル・メイエは、神也の愛する唯一恋人。
 誰もが公認するふたりだが、スバルの神也への世話焼きにはさすがに呆れる始末。
 「馬鹿がつくほどの過保護」、「神也の為にならない」と、親切心で注意しても、スバルは聞く耳を持たず、あれやこれやと先立って手を貸してしまう。
 傅かれるのに慣れた神也もそれが特別なものだと思わない。
 なるほど、神也は十二歳までは特別な存在として生きてきた。
 彼は幼き頃から、ニッポンの山深い小さな里村で、「山の神」として生きてきた。
 その所為なのかは定かではないが、間もなく十六になろうとする神也は、見た目も成熟した青年には遥かに遠く。
 どこかあどけなさすら垣間見える童顔。

 現在、青春真っ只中の神也が一番夢中になれるものが、読書だ。
 些か困りものではあるが、現実の友達と友情を分かち合うよりも、書物に没頭する方を尊重してしまう年頃らしく。
 サマシティで最も蔵書が豊富な「天の王」図書館には、神也を飽きさせない未知の世界が広がっており、司書であるの彼の故郷と同じニッポン人、キリハラ・カヲルは親子ほどの歳の差。顔も知らない父の像を描くことに、神也は躊躇うことを知らない。
 カヲルもまた、周りとは溶け込まぬ一風変わった少年に知らぬうちに父性愛を注いでしまう始末で、誰が見ても羨ましい親子像。
 勿論、恋人のスバルは面白く無い。だが、小心者の為、そんな態度はおくびにも出さず、じっと耐えるのもまた、生まれ持った性分。

 神也は両親を知らない。
 眼が開いた時には、古い鎮守杜の現人神に祀られていた。
 自分がどこで生まれたのか、どうやって連れてこられたのか、はたまた捨て子だったのか、誘拐されたのか、周りの大人たちは知らぬ存ぜず。
 そして真相は未だに不明のまま。
 だからこそ、神也は様々な物語の中の家族や親子に憧れる。
 同時にそれは意味も無い妄想だと知る。
 今の神也には本物の母も父も必要は無かった。
 彼は充分満たされて、今を生きている。

 
 今日が今期学年の最終日だと知っていたが、昨日の晩から読み始めた古い故郷のお伽話に目が離せなくなった神也は、同室のレイ・ブラッドリーの忠告も聞かずに、朝食を終えた後、いつもの通学とは違う遠回りに森を抜ける道を選んだ。

「ああ、そうか…。母子が名乗らないまま、互いの幸せを祈りながら別れるっていうのも、愛情なのだなあ~」
 物語の余韻に浸りながら、神也は本から眼を離し、天を仰ぐ。
 樹々の新緑は霞んだ雲間からの光に映え、緩やかな風が枝を揺らした。
 
 キョロキョロキョロリ キョロキョロリ…
 
 囀(さえず)る声が聞こえた。
 聞き覚えのある懐かしい囀り。
 あの山の祠で、奥の寝間で、聞いた音。
 その主は赤い姿をしていた。
 高い木の枝に見え隠れする赤褐色の羽根と大きな赤い嘴。

「あれは…アカショウビン!天の王で見るなんて初めてだ!」

 キョロキョロキョロリ。

「あ、飛んだ!」

 枝から枝へと軽々と身を移し、ひらりひらりと飛び立つ鳥を、神也は見失いように追いかける。
 あの頃…
 山の神であった頃、神也を取り巻くすべての自然が、彼の一部であった。
 「あの鳥はなに?」「どうしてお陽さんが沈む時、全部赤くなるの?」「どうして人は願いも叶わないのに祈るの?」
 だが、誰も神也の疑問に答えようとはしない。

「神さまは疑問など持たないものです。あなたさまが自然の中におられるのです。美しく鳴く鳥が、己の声を美しいと思うでしょうか?己の名前を知るでしょうか?あなたさまはそのような御方なのですよ」
 年取った世話人の巫女は、そう言って神也を黙らせた。

 確かにあの頃の神也には、名前すら無かった。

 「山の神」として役目を終えた神也は、人柱として神官らの手によって生きたまま土中に埋められた。それを救い出し、籠の中から自由に羽ばたかせたのは、言うまでもなくスバルだった。
 
 それまで何も知らずに生きてきた神也は、自由になった時、見たものすべてを知ってやろうと思った。
 あの時触れた花や草の名。木々の名。そして、何度も慰めてくれたその囀りの鳥の名を。
 自分もいつかはあんな風にと、自由になれる日を思い描いていた日々…

 キョロキョロキョロリ…
 
 囀りを聞きながら、木々の枝と葉の間をくぐり抜ける。

「待てって!アカショ…!うわっ!」

 天ばかりを仰いでいた神也は、目の前の人影に気づかずに、身体ごと衝突。その衝撃に慄く。

「お、おい、神也。早朝ランニングもいいが、ちゃんと前を向いて走れよ」
「あ、アーシュ…ごめんなさい」

 朝の散歩を楽しんできたアーシュは、突進してきた神也にもたいして驚く様子もなく、その身体をしっかりと身の内に抱き寄せた。
 そうしなければ小さく軽い神也の身体は弾き飛ばされていただろう。
 神也はアーシュの腕の中で、アーシュを見上げる。

 今朝はいつもと違って眼鏡を掛けていない。
 それだけで、いつもと雰囲気が違う気がする。
 神也は瞬きながら、アーシュをじっと見つめる。

「で、学校はいいのか?朝礼に遅れるぞ」
 アーシュの言葉と同時に、始業の鐘が軽やかに響く。
「ま、まずいっ!」
 神也はアーシュの腕を擦り抜け、慌てて来た方向へと走る。

 神也の遅刻魔は知る処だが、さすがに学年最後の朝礼に遅れるのは、少しばかりスバルが気の毒だ。彼は神也の保護者としてもう何十回も、神也の担任から御小言をたまわっている。

「ごめん、アーシュ。急がなきゃ間に合わ…」
 言い終らぬうちに、神也の身体が宙に浮く。
 いや、背中から神也の両脇を掴んだアーシュの両腕が、彼の身体を浮かび上がらせたのだ。

「うわ…」
 神也は思わず身体を捻り、アーシュの首へ両腕を絡ませた。
 下を向けば、先程まで立っていた地面が、次第に遠くに映る。
 影に日向になり、高木を抜け、神也の身体はまるでアカショウビンの如く…

「誰にも言うな。特別だぞ」
 言葉を失くした神也の耳元に、アーシュは囁く。
 頷く神也だが、空を飛んでいる姿など、目立つに決まっている。
 どこかの生徒の眼に留まり、なんやかやとまた言いがかりを付けられる。
 そうであっても、気にする神也ではない事も、アーシュは知っている。

 僅かな空中散歩を楽しむ神也に、アーシュはまたもや素敵な提案を持ちかけた。

「なあ、神也。明日から学校も休みだし、ちょいとクナーアンに行ってみる気などはないか?」
「え?クナーアンに?」
 神也は思わず間近にあるアーシュの顔を凝視した。

 天から与えられた不変の美と、誰もが見惚れるアーシュの美貌に、神也は動じない。
 彼は美の形式を学んでいないのだ。
 だから神也にとって、この世で一番美しいのは、彼を救ったスバルだった。
 それでも、神也にとってもアーシュは特別である。
 異次元のクナーアンと言う星の神さまであるアーシュ。
 御伽話のようなクナーアンの世界をこの目で見てみたい。
 好奇心の塊となった神也は、目を輝かせてアーシュにせがむ。

「行きたいっ!クナーアンに行ってみたい!」
「じゃあ、明後日の朝、俺の部屋へおいで。俺が連れていってやる。ただし誰にも内緒にしろよ。特にレイには言うな。あいつ、めちゃ妬くからな」
「わかった。誰にも言わない」
 
 鐘の鳴る中、ふたりは校舎の玄関にゆらりと降り立つ。
 アーシュから離れた神也は走りながら校舎へ向かうが、ふと、アーシュを振り返り、急いで戻る。

「スバルには、クナーアンに行く事、話してもいい?」

 至極真剣極まる顔の神也に、「特別に特別だ」と、応え。

 途端に嬉しさに弾ける神也に、アーシュは釣られて笑う。




あじさい-4

天の軌跡と少年の声 2へ

ぼちぼちとはじめていきますけど、月一か?月二あったら、ラッキー的な…('ε`汗)

アーシュのお話は「senso」全編。
神也のお話は「山の神」から。
スバルは「スバル」から。
それぞれ左のカテゴリから、どうぞ~


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天の軌跡と少年の声 2 - 2017.06.24 Sat

2
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  神也2

2、

 寝る前に聖堂の自室でその日に来た自分宛ての手紙類をじっくりと読むのが、「天の王」学園長たるアーシュの毎晩の日課。
 各地に散らばっている彼の信頼するエージェント、即ち彼の眼になる者達からの報告はそれぞれに。
 簡単な葉書でも分厚い封書であっても、アーシュはその文字に書かれている土地の情報を魔力で見通す。
 写真付きなら尚良い。
 空気さえ掴めそうな地であれば、気が向いたアーシュならすぐさま時空を駆け抜け…。

「ジョシュアの奴、またもや、危ねえ街にいるのかよ。まあ、デンジャラスを楽しむアトラクションと思えば…」
 銃を構えた兵士たちが不敵な笑みを湛えながら写るフォトを見るアーシュには、写っていない背景も見える。
 …危険度は高いが、ジョシュアに及ぶ程ではない。
「…成程、俺が行く程じゃねえな。ま、こういう情報は有難いんだよね。今度奴が帰ってきたら、たんまりとお礼をしてやろう。きっと嫌がるけどね」
 アーシュはニヤリと笑って、最後の一枚に小さく写ったジョシュアの顔にキスをした。
 アーシュ宛てに多くの写真を送るジョシュアは、最後の一枚に自分を忘れないでくれ、とでも言い気に、小さくでも自分が写った写真を挿む。
 ラブレターは、いつだって、心を和ませる。
 ジョシュアはアーシュのお気に入りだ。恋でも愛でもなく、信頼という極めて感情だけの絆に、心を寄せ合う。
 だがそれは、ジョシュアにとって、切なくも宝物の感情。
 彼はもうアーシュ無しでは生きて行く意味を得られない。
 身体の半分はアーシュからの信頼で生きている。そしてもう半分は…一生叶えられぬ幼馴染みへの恋心…。
 げに片恋は乱心。一時も穏やかには居られず、耐えるのみ。


 ふいにドンドンと扉を叩く音。
「あ、アーシュ、夜分悪いんだけど…話があって…」
 声の主はスバル。
 アーシュはそのままに、ノブを回し、扉を開け、客を迎える。
 他人には魔力を粗末に使うなと命じる魔王は、自分には是非もない。
 元より、アーシュには今夜スバルが血相変えて、ここに来る事ぐらいはわかりきっていた。

「やあ、スバル。ちょうどお茶が入ったところだ。リリの手作りチョコクッキーもあるぜ」
「そ、そんな事より…神也くんをクナーアンに連れ去るって…。僕に一言の相談もなく酷いじゃないか!」
「連れ去るって…誘拐かよ。単なるバカンスだろ。と言うか、まあ、神也にとって、クナーアンの世界を知るのは、良い経験になると思って誘ったら、神也も乗り気でね」
「だ、だからって…。神也くんはまだ子供だし…、そんな異次元になんて…、保護者の責任ってものが…」
「素直に恋人として心配なんだって言えよ。…ったく頑固者」
 君には負ける…と、思いつつ、おろおろと椅子に座ったスバルは出されたお茶と菓子につい手を伸ばした。

「だって…僕には自信がない。君が一番よく知っているだろう」
 ズズと紅茶を啜るスバルは、先程の興奮から一気に急滑降。
 アーシュはこういう裏表のないスバルが、大好きだ。だから意地悪を仕掛けたくなる。

「何の事?」と、知らぬ顔で。
「…この間の事件だって…僕は何も出来なかった…。それなのに神也くんの恋人だなんて。恥ずかしくもおこがましいよ」
「ああ、まだ根に持ってんのかよ」ククと嫌味に笑う。


 ひと月ほど前の事だ。
 クラスメートの悪ガキ三人に、古い物置小屋から珍しいコレクションを見つけたから探検しようぜ、との耳打ちに、神也は、興味本位で彼らの誘いに乗り、のこのことその場所までついて行く。
 今は使われていない煉瓦で建てられた物置小屋の裏手に捨てられたアンティークな大箱は、一見すると価値があるように見えるが、ただの古い道具箱。
 それを知らぬ神也は、箱の中をじっくりと見るべく身を乗り出し、そのまま、悪ガキ三人に押し込まれ、大箱に閉じ込められたのだ。
「おまえの棺桶には立派過ぎるぐらいだな、神也」と、詰る声と共に何本かの赤いバラが投げ込まれ、蓋を閉める音と鍵を掛ける音が、神也の耳に響いた。
 神也は狭く暗い空間で、動くことも出来ず、ただ仰向けにじっと横になったまま…
 
 悪ガキ三人に悪意があったとはいえ、裏を返せば神也への好意であり(思春期の心情は図りかねる…)、単純にアーシュに可愛がられる神也への嫉妬でもある。(アーシュを独り占めしたいと思わぬ生徒は、この天の王にひとりたり居まい)
 勿論、一時経てば、ここに戻り、大箱の蓋を開け、神也を自由にする事は、三人共承知の上でのいたずら。
 ただ、一時間ほど経って、三人が戻ってきた時、大箱の前に屈む人影を見た時、三人は震えあがった。
 見間違うものか!
 アーシュだ。学長だ。この世界で一番怖い魔法使い。天の雷を持つ魔王…
 三人は本気で怯えながら、物置小屋の角で、行方を伺った。

「おい、神也。そろそろ出てこないか?おまえが出たいって一言言えば、すぐにでも開けてやるからさ」
 アーシュはいつもの調子で、箱の中の神也に語りかける。が、一向に返事がない。
「寝たふりはやめとけよ。おまえの心臓の音は聞こえている。それとも眠り姫には王子さまのキスが必要かい?」
「…ここから出たい」
「わかった」
 アーシュは手も使わずに鍵を、蓋を開け、中に居る神也を覗いた。
 バラを胸に神也は「…バラってこんなに良い香りがするんだね。初めて知った」と、目を閉じたまま、おっとりと。
「じゃあ、おまえが死ぬ時は棺桶にバラの花束を入れてもらうように、頼んでおけ。だがな、おまえにはまだまだ先の話だ」
 アーシュの言葉に神也は目を開け、じっと見つめ。
「私の死ぬ時が、アーシュにはわかるのか?」と、尋ね、応える方は「わかるもんかよ」と、素知らぬ顔。

「そらよ」と、差し出す手を、少し躊躇いながら握り返す少年の儚さよ。
 いじらしさに微笑みながら、「憎く思うなよ。悪ガキ共もおまえが心配でお迎えだ」と、影に隠れる三人を手招き。
 事の次第に怖れを為した三人は、もはやこれまでとばかり、土下座覚悟。
 頭にひとつ拳骨と一週間の学長室の掃除の罰は、三人には甘いが、アーシュには愛し子たちには違いない。

 その帰り道、神也は「スバルには言わないで」と、アーシュに頼んだ。
「何故?」
「スバルにいらぬ心配をかけさせたく無い」
 アーシュはこの小さき子に何かを言おうとして、口を噤んだ。
 たとえこの子の頭の中のすべてを知ったとしても、彼を理解したとは言えない。たとえ全知全能の神であっても、今のこの子に必要な言葉は見つけることはできない。

 神也の事件は隠しおおせる事もなく(当事者三人が、アーシュに拳骨を貰ったという名誉に有頂天になり、話を広げた)、一週間後、スバルの耳に入る。
 スバルは仰天し、何故すぐに話してくれなかったのかと神也を責めた。

「そんなに嫌じゃなかったから」

 神也の答えにスバルは又もや仰天。
 何故なら…山の神だった神也は、十二歳になった時、山の神としての使命を終えたとして神官たちにより、生きたままその身体を土の中に埋められた。
 一度は死を覚悟した神也だったが、スバルとの約束を思い出し、命の限りの声で、助けを呼ぶ。
 その時、スバルは神也のすさまじい絶叫を聞いた。
 土の中から救い出した神也の、泣きじゃくる声に、その震えるか細い身体に、彼を埋めた連中をどれほど憎んだろうか。生まれて初めて、人を殺したいと思った程に。
 それから、随分の間、神也は暗闇を怖がり、ひとりで寝る事も嫌がった。
 だから、単なるいたずらだとしても、箱に閉じ込められたと聞かされ、スバルは本気で青ざめたのだ。
 それなのに、

 そんなに嫌じゃなかった、って?
 もう、あの時のトラウマは消えたってことなのか?
 それはそれで喜ばしいには違いないけれど…
 もう…僕の助けはいらないって…事?
 

 少年より十二歳も年上だとしても、不器用な大人は恋にも弱腰。
 空になったティーカップを撫でながら、しょんぼりと。
「閉じ込められた時…神也くんが本気で助けてほしいと願ったのなら、僕にはすぐわかるはずなんだ。なのに…一切神也くんの危険は察知できなかったし、話してもくれなかった。結局、生徒から聞かされるまで何ひとつ、知らないってさ。間抜け過ぎる」
「問題はそこだ、スバル」
「え?僕が間抜けだって事?」
「ちが~う!神也は助けを求めていなかった。閉じ込められたままでも構わなかった。ずっとあのままで良かったって事だろ?まあ、俺は超天才魔術師だからすぐに、神也に何が起こったのか、気づいたんだがね。(たまたま通りがかっただけだが…)」
「僕を呼んでくれなかったのは…かなりショックだ…」
「神也は…懐かしんでいるのかもな。山の神であった頃の自分を」
「そんな事があるはずがないよ。君は知らないだろうけど、寸前で神也くんは死ぬところだったんだ。まさか、あのまま死んだ方が良かったなんて…」
「それはねえよ。全然、全く、欠片もないね。あいつほど生きるのを楽しんでいる奴はいない。たださ…」
「ただ…何だよ」

 アーシュはスバルを指差し、
「恋人に飽きたんじゃねえか?」と。
「……」

 ガーン!ガーン!ガーン!ガーン!
 四方八方から、デカいハンマーで殴られた気がした。
 ガシャーン!と、スバルの手から高級ティーカップが床に落ち、スバルもそのまま椅子から滑り落ち…哀れ失神。

 
 一方その頃、神也は同室のレイ・ブラッドリーに訝られていた。
「なあ、神也。おまえ、今日はやけに機嫌いいな」
「そうか?」
「終業式も結局遅刻して先生に怒られたのに、全然凹んでないし…。なんか良い事でもあったか?」
「え?別に…」
 慌てた神也は目を逸らし、深呼吸をして、着替えた寝衣の帯をゆっくりと締める。

 レイは元々クナーアンの星の住人だ。
 複雑な過去があり、八歳の時にこちらの星にアーシュに連れられた事情を持つ。
 幾らこちらに愛する恋人が居ようと、為すべき宿命があろうと、レイの故郷を想う気持ちは今も変わらない。
 それを知っているだけに、神也はクナーアン行きをレイに知られるわけにはいかない。元よりアーシュに口止めされている。
されてはいるが…神也は嘘がつけない性質(たち)。
 しかもレイは人の思考を読み取る魔力に優れている。
 焦りは禁物だ…

「折角の休暇だし、来週からセシルと一週間の旅行を計画中なんだけど…」と、レイは窓のカーテンを閉めながら、横目で神也の様子を伺い。
「え?旅行?…い、いね。行ってらっしゃい」
「うん、ほら、去年セシルが居なくなった時おまえと探しに行ったろ?あの街やら、セシルの故郷やら、もっと遠くにね、行こうかってさ」
「いいんじゃないか。行ってらっしゃい」
「神也も一緒に来ないか?」
「へ?わ、私?」
「うん、どうせ暇だろ?」
「いや、無理だ!」
「…」
「私にも用があってだな…。そう、スバルと旅行するんだ。遠くへね。だから折角誘ってくれてありがたいけれど、無理だ」
「そう…なんだ」
「そうだ!ルオトに行くのなら、あのパン屋でクロワッサンを買ってきてくれないか?」
「いいけどさ。おまえ、その頃、旅行から帰ってきてるの?」
「え?…え~と、どうかな~(どれだけクナーアンに居るのか、アーシュに聞いてない)」
「持ち帰っても、おまえが居なかったら意味ねえだろ?」
「そう…だな。わかった。クロワッサンは諦める」
「それより、おまえこそ、スバル先生と珍しい場所に行くのなら、俺へのお土産、楽しみにしてもいいのか?」
「そりゃもう、イー…(ルと言いそうになったじゃないか!馬鹿馬鹿!)」
「え?」
「な、なんでもない。疲れたから私は先に寝る」
 これ以上、私には無理、とばかりに、神也はそそくさとベットに潜り込む。

 慣れない嘘に必死な神也が気にならない理由はないが、レイは神也の頭の中を覗こうとはしない。
 今のレイには、神也の嘘など、彼への信頼に何ひとつ傷をつけることもない。

 だが、レイもまた例の事件が神也にどんな傷を負っているのか、気になって仕方がなかった。
 レイは一年ほど前、まだ神也を良く知らない頃、魔力で神也の過去を見てしまった。そして、生き埋めにされ、苦しむ神也の心情と一瞬だが同化した経験を持つ。
 レイもまた、愛する家族を目前にて無残に殺され、その魔力で復讐し、そのまま死のうとした。それを救ったのがクナーアンの神、 アーシュとイールだが、未だに、あの地獄を思い出したいとは思わない。
 
 神也も同じじゃないのか?

 アーシュから無力な神也を守るように言いつけられたのに、それが叶わなかったのもアーシュの手前、口惜しい気がする。
 事件の夜、アーシュからいち早く聞かされ、神也に問いただした時、彼は言った。
「怖くなかったよ。バラの所為かな。香りが恐怖を忘れさせたのかもしれない。私自身も驚いている。何故だろうね。…少しも怖くなかったんだ」
 いつものように淡々とした神也を、レイは畏怖した。

「時々、おまえの事がわからなくなるよ」
 すでに安らかな寝息を立てている神也に「おやすみ」と、囁き、レイは部屋の灯りを消した。


天の軌跡と少年の声 1へ /3へ


レイのお話は「銀色のRay」からどうぞ。

ジメジメムシムシしてます…(-ω-`*)

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天の軌跡と少年の声 3 - 2017.07.09 Sun

3
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神也1-1



3、

 「天の王」学園の中央に位置する聖堂は、異次元空間への門(ゲート)としての機能がある。聖堂以外にも「天の王」の構内には同じような門が幾つかあるが、季節によって空間の路幅が変わる。
 夏の始まりを匂わせるこの時期の早朝には、聖堂の魔方陣が一等宜しい…とは、アーシュの勝手次第。
 朝焼けが東の空をうっすらと染める頃、ステンドグラスから差し込む光に、大理石の床に描かれた銀の魔方陣が仄かに輝き出す。

「別に朝じゃなくても、日がな一日、光射し込んでるじゃん」と、アーシュはにべもなく。
 確かにステンドグラスからの光は、季節、時刻、天候に関係なく、始終床の魔方陣に射し込み続ける。「天の王」七不思議のひとつ。

 魔方陣の中心に傲岸と佇むアーシュに気づき、聖堂の扉を開けたスバルは慌てて神也の手を掴み、急いで駆け寄った。
「時間通りだな」と、睨むアーシュはいつもの伊達眼鏡も無く。
「君が時間通りに待ってるとは思わなかった」
「俺は時間を守る男だ!」
 嘘を吐け!と、喉まで出かかったスバルだが、面倒臭いのでやめた。
「しかし…なんなの?その恰好?」

 黒のタキシードに黒のロングマント、頭にはシルクハットを乗せ、いつものステッキを降り回すアーシュに、スバルは思わず口走った。
「これ?いやね、先日、吸血鬼の映画を観てさ。結構面白かったから、イールに見せようと思ってコスプレしてみた。まあ、このスーツは、パリで有名ななんちゃらデザイナーの新作で、モデルになってくれって言うんで、タダで頂いたのさ。似合うだろ?…と、言うか、一体なんだ?  」
「何が?」
「神也は何で制服なんぞ着てる?修学旅行じゃねえぞ?バカンスだぜ?」
「イールは神様だから、最低の礼儀は必要だろうと思ったのだ」
「馬鹿馬鹿、んなもんやめとけ。どうせあっちに行ったらあちらの民族衣装的な服を着せられちまうんだからさ。普段着でいい。それに背中のリュックも全部置いてけ。一体何を入れたら、そんな馬鹿でけえ荷物になるんだ」
「神也くんの着替え一式、運動靴に歯ブラシやら常備薬、あとは勉強道具と神也くんの好きな小説とお菓子…」
「いい加減にしろ。そんなもん持っていくなら、クナーアン行きは止めだ」
「な!」
「神也、いいから、さっさと着替えて、こちらへ来い。朝日が昇っちまう」
「わかった」
 ここでアーシュの機嫌を損ねては、本当にクナーアンに行けなくなってしまう…と、いつもは鈍い神也も全速力で制服を脱ぎ、いちいちとスバルがリュックから差し出す服に着替え。それを手伝うスバルの目にはいつしか涙が溢れ…

「馬鹿スバル。永久の別れじゃなるまいし。ひと月ばかり離れるからって、泣くもんじゃねえよ。神也の成長を願って、笑って送ってやるのが、年上の恋人の責務って奴」
「わかってる」

 Tシャツにジーンズ、薄青のパーカーを羽織る神也の足元のスニーカーの紐を結ぶのは、鼻を啜るスバル。
 その姿に神也も後ろ髪を引かれる想いだが。
「さあ、神也、おいで」
 差し伸べるアーシュの両腕には逆らい難い。
 素直にそれに抱かれ、広げた黒マントが神也を覆い尽くす。
 二人の姿は、まるで少年をさらう魔王の如く。
 戦慄を覚えつつも、スバルはアーシュに「神也くんをよろしく」と、何度も頼む。
 その姿に哀れを覚えた魔王は、手招きし、耳元に囁く。

「おまえねえ、俺がイールと離れて暮らしている寂しさを、おまえも少しは味わった方がいいぜ。しばらく会えないでいると、再会した時の嬉しさたるや、だ。その夜はこの上なく燃え上がる事間違いなし…。つうか、おまえらはもう昨夜燃えちまっているか」
 こうなると恐怖の魔王も天下の魔術師も無い。
 ただのスケベ親父だ…と、肩を抱くアーシュから逃げる様に身を引くスバルは、どうか神也くんだけはアーシュの毒牙に犯されぬようにと、心から祈りながら…
「神也くん、身体だけは気を付けてね。元気で楽しんでおいで」
「うん、心配はいらない。スバルも、あんまり寂しがらないでね。行ってきます」
 マントの影から少し寂しげに手を振る少年の健気さに、再び瞼が熱くなる。

「じゃあ、行ってくるわ」
 右手に持ったステッキ、即ち魔法のバクルスを掲げると、ヘッドに嵌め込まれた鏡からふたりの頭上に光の円が輝き出し、ふたりの身体はゆっくりと宙を浮き、頭から順に光の中に吸い込まれていく。
 元はスバルが発明した「携帯魔方陣」を、イールとアーシュで色々と改良したひとつが、この空間移動ステッキ。
 クナーアンの神木、マナの枝に魔力を注いだ反射板をヘッドに嵌め込み、何重にも複雑な魔方陣を刻み込んだ特注品。
 念はほとんどイールが仕込んだもので、アーシュしか発動しない仕組みになっている。

「これがあれば、イールの元へ行くのはすげえ簡単なんだ。まあ、戻ってくるのが些か面倒なんだけどね。俺を返したくないイールの怨念がそうさせる。裏を返せば、それだけ俺が愛されてるって事ね。…聞いてる?神也」
「…なんか…フワフワして足元がおぼつかないけれど…、これは、一体…どうなっているのだ?」
 瀕死の形相のスバルが、手を振っている所まではわかったが、身体が上昇した後、目の前が真っ暗。
 しばらく慣れたその目に映るのは、神也の想像を遥かに、心細く。
 紫がかったモーブの霧、一寸先も定かではない。身体全体が浮かんだように取り留めなく、今アーシュの腕を離したら、どこかへ飛んで行ってしまいそうな心元無さに、神也は夢中でアーシュの腕にしがみつく。

「そう力を入れなくたって大丈夫だよ、神也。ほら、足元にうっすら白く浮かんでいるだろ?あれが次元の路って奴なんだ。杖に仕込まれた鏡が羅針盤になって、ちゃんと俺達をクナーアンに導いてくれる。着くまでに一時間もかからない。これでも最初の頃は、何時間もかかっていたんだぜ。でもさ、こちらも慣れて要領良くなるし、何しろ、この魔力の杖と天才的な俺さまの魔術によって、最短距離を発見してな…つうか、聞いてる?」
「ねえ、アーシュ。スバル、寂しそうだった。大丈夫かな?」
「…」
 自分が十六の頃は、こんなにも純粋だったろうか…と、別れた恋人の心情を慮る神也を愛しみ。
「スバルは神也が思うよりずっと強い男さ。あいつは…すげえ苦労してきたからね。昔から泣き虫で、女装好きと、色々と変だったけど、心根はまっすぐで強くて、優しいんだ。誰にも媚びない。そして、自分の出来る事を精一杯やる。そういうスバルが俺は大好きさ」
「…」
 神也はアーシュを見上げ、嬉しそうに笑い、そして、真面目な顔で。
「夜、一緒に寝てると…時々スバルは、『伸弥さん』って寝言を言う。とても悲しそうに。『伸弥さん』はスバルが初めて好きになった人で、スバルが十四歳の頃、病気で亡くなってしまったんだ。私は…何も知らなかったから勝手に『山野神也』って、自分の名前を決めてしまったけれど、もしかしたらスバルは私の名前を呼ぶたびに、『伸弥さん』を思い出して、悲しい想いをしたのではないだろうか…って、思う時があるのだ」
「無いね」あっさりと言い切るアーシュに、神也はパチパチと瞬き「どうして?」と。
「だって、おまえの名前を呼ぶ時、あいつ、いつも嬉しそうだもの。それに伸弥…死んだ方ね。死んだ伸弥の亡霊を呼んで、俺がスバルと会わせたんだが、確かに良い男で。そりゃ、スバルを残して死んじまった事は悔しいけれど、スバルの幸せを祈るから、って約束したのさ。それから、ずっと守護霊としてスバルを見守っている」
「ホントに?」
「ああ、神也の事も気に入ってるそうだ。しかし、セックスはほどほどにしろってさ」
「…」
 嘘つきのアーシュの事だ。どこまでが嘘か真か、甚だ怪しい。
 けれど、神也の心はさっきとは比べられない程に、軽い。
 それもアーシュの魔法なのかもしれない。

「スバルはね、最初は伸弥の事は誰にも話さなかったんだ。心に留めておきたかったんだろうね。初めて俺に話してくれたのは、小さな『山の神』に会った頃だ。名前も持たぬ『山の神』が可愛くてたまらないって。自分もあの年の頃に伸弥と出会ったから、尚の事、心配で仕方がない。今度は絶対守って見せる…って」
「本当?」
「帰ったらスバルに伸弥の事を聞いてみるといいさ」
「でも…」
「大切な思い出を大切な恋人と分かち合えるのは、幸福の印。スバルはもう過去の悲しみに囚われてはいない。思い出して泣くのは、弱いからでも悲しいからでも無く。懐かしさが心に沁みるのさ」
「うん…」
 胸が熱く、そして、その想いがじんわりと身体の隅まで沁み入る。神也の瞼も熱く…

「アーシュ」
「ん?」
「ありがとう」
 
 アーシュの胸に頭を寄せる神也の心地良い重みに、アーシュもまた優しく沁みて。
 可愛い愛し子は、特別に。

「間もなく到着だ」
「ね、アーシュ」
「なに?」
「クナーアンの言葉って…私は知らないけれど、大丈夫なのかな?」
「言葉?」
「そう」
「馬鹿、御伽話に言葉で苦労させられた話があったかい?竜宮へ行くにも、天上へ行くにも言葉で困った事なんでありはしない。メルヘンやファンタジーはいつだって不可思議で残酷で曖昧で、ご都合主義だ。心配に及ばず…ほら、クナーアンの光が俺達をお待ちかねだ!」

 バクルスが指し示す光が段々と広がり、ぼやけた景色が次第にくっきりと色づき…
 アーシュに抱かれた神也は、ゆっくりと見たこともない薄青色の絨毯の上に降り立った。

「やあ、イール。待っててくれたのかい?びっくりさせようと連絡もしなかったのにさ」
「残念だね、アーシュ。君の気配を、先程から感じていた。だからって私の部屋にゲートを仕込むなんて。全くもって、君は、私を困らせることばかり思いつくのだから」
「だって、イールを驚かせるのが俺の趣味だもの。ね、この服似合ってる?」
 惜しみなく神也をあっさり手離したアーシュは、黒マントを華麗にヒラリと靡かせ、軽やかにクルリと一回転。

「言いにくい事だが…随分前に、アスタロトが同じ格好をして、アースから戻ったことがあったよ。今の君の様に得意満面の顔でさ」
「…」
「それより紹介してくれないのかい?かわいいお客さまを」
「前に話した神也だよ。神也、これがクナーアンの神様で俺の最愛の恋人のイールだ」
「……は…」
「こんにちは、神也。よくクナーアンにきてくれたね」
「は、はい。あの…よろしくお願いします。イールさま」
「こちらこそ、よろしく」
 緊張で固まった神也を和ませるように、少し屈んだイールは神也との初対面を楽しんだ。

「ちょっと待てよ」
「なに?」
「なんで俺が呼び捨てで、イールには様が付く?レイの時と同じじゃねえか!」
「君に神としての重みが無いからだろう」
「そりゃ、イールは千年以上生きてて、俺はまだ三十年もたたねえけど、頑張ってるじゃん!」
「それはそうだけど…」
「アーシュは、家族みたいだからだと思う。イールとは今初めて会ったのだもの。様を付けるのは礼儀だ」
「だそうだよ、アーシュ」
「わかりました。じゃあ、腹減ったからなんか頼んでくる。神也、そこで待ってろ!」

 行儀も悪くふたりを指差し、アーシュはドカドカと足音を立てて、部屋を出ていく。

「怒らせたかな?」
「照れてるんだよ。それより、神也」
「はい」
「私の事も呼び捨てで構わない。これ以上アーシュの機嫌を損ねても、つまらないからね。元より私はおまえの神でも、導師でもない」
「わかりました、イール。よろしくお願いします」

 神也は目の前の御伽話のような麗人に、深く、深くお辞儀をする。
 


天の軌跡と少年の声 2へ4へ

そろそろ梅雨も終わらないかな~。雨大杉…

アーシュのお話は「senso」全編。
神也のお話は「山の神」から。
スバルは「スバル」から。
それぞれ左のカテゴリから、どうぞ~


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天の軌跡と少年の声 4 - 2017.07.28 Fri

4
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 天少-4


4、

 部屋の中央には古い黒檀のテーブル、そして長椅子がふたつ。そのひとつに案内された神也は、まだぎこちない自分に呆れつつ腰を下ろす
 見た目よりも座り心地の良い椅子と、背中のクッションにくつろぎながら、神也はあらためて目の前のイールの姿に目を向け…見惚れた。

 打ち際の波の如く揺蕩う銀色の長い髪は、バルコニーからの傾いた陽を受け、無数の虹色にキラキラと揺らめき。少し影になったきめ細やかな白磁の肌は、うっとりと、うっすらと桃色に溶ける頬は、赤子のように清らかに、アーシュと同じく、整った鼻梁も口唇も、事も無く、ただただ、魅せられ。
 人目を引く派手で生命力に溢れたアーシュとは違い、手の届かない高みの高貴さを伺わせるオーラ、それでいて、優美で慈愛に満ちた微笑と相まった晴れた空色の中に飛翔する鷹の瞳に捉えられ…。

 神也はふうと息をついた。

 レイから聞かされた話よりも、一層、イールは素晴らしく尊い者なのであろう。精一杯に頭に描いた以上の御伽話の天上人そのものの姿が、神也の目の前にある。

「そんなに緊張しないで。口に合うかどうかわからぬが、旅の疲れを癒すお茶でもどうかな?」
 神様自ら茶器を扱う様に違和感を覚えぬ神也ではなかったが、勝手がわからぬままに、イールの命に従うのみ。粗相をしないようにと恐々カップを手に取る。
 「天の王」とは違う土色の陶器に懐かしさを覚え、喉を潤すさっぱりとした飲み物にも至極慣れ親しんだ気がして。

「…何だか、似ている気がする」
「神也の居た郷(くに)とかい?」
「うん、十二まで住んでいた郷では、これに良く似た緑茶をいつも飲んでいたから」
「茶葉はアーシュ…生まれ変わる以前のね。彼がアースから運んできたものだ。それを神殿の畑で育て、それから良い土地を探して広めさせた。かれこれ、三百年ほど前の話だがね」
「…」
 三百年前と言われ、神也は学んだ歴史を頭に思い浮かべてみるが、姿形が自分と比べ、ニ、三歳年長に見えるだけのイールが、三百年前を昨日のように言うのが一番の摩訶不思議。

「勿論、お茶も色々とある。これは神也の為に用意させたものだ」
「私の?」
「近いうちにおまえをこちらに連れたいと、アーシュが何度も言うのでね。休暇が始まる今日辺りだろうと、予感していたんだ。私の勘もまんざらでもないらしいね」
「…ありがとう…ございます」
 日頃からマイペースな神也だが、神様に気を使わせてしまったかと思うと、申し訳なさで心が痛む。思わず紅潮して、俯いてしまう有様で。

「ねえ、神也はレイと仲よくしてくれているそうだね。彼がクナーアンの民だと知っているだろ?最近はどんな塩梅かな?」
 神也が寛ぐ話題でもと、砕くイールに、神也は慌てて、
「レイはとても良い友人だ。セシルという恋人がいるんだが、私とはそういう関係じゃない。けど、親友なんだ。レイはちょっと変わり者だけど、私も変人と呼ばれているから、お互い気が合うのかもしれない。同室でもあるし…でも、そう思っているのは、私の方だけで、レイは私をそれ程好きではないかもしれないな。私はレイみたいに魔法が使えないし、無知で世間知らずだから、色々と迷惑かけてしまっている。だけど、レイはあまり困った風でもなく…私を友人として認めてくれている…気がしているんだが…本当のところはわからない…。私はレイみたいに人の心を見ることができないから。でも、でもね、ホントにレイは良い子なんだ。皆から好かれているし、頼られてもいる。授業態度も真面目だ。私みたいに遅刻もしない」と、精一杯。
「神也は遅刻をするの?」
「あ?う、うん。しようとしているわけじゃないけど、この世の様々なものが、私に呼びかけてくる。こっちを見てって。それで、ついそちらを見てしまうんだ。駄目なのはわかっているけれど…」
「駄目じゃないよ。神也は皆が見ていないものが、見えるんだ。それはおまえの良いところ」
「…うん」と、思いもよらぬ言葉を掛けられ嬉しそうに笑う神也に、イールも微笑み返す。

 確かに、この子は純真だ。
 
 イールはアーシュと同様に、天の皇尊ハーラルに与えられた強大な魔力を持つ。
 クナーアンを統治する神に与えられた権限は、好むと好まざると用いる必要がある。だが、それを使わずとも、目の前の少年のすべての思考はあからさまに見えてしまう。純朴と苦笑するには、気の毒な程の少年の魂。
 それを愛しく思い、その強固な形を、イールは認めた。
 神也の魂はガラスの様に透き通ってはいるが、脆くない。否、それはダイヤのようなもの。天然で、硬度で、光を招き入れ、輝きを放つが、近づきにくく、そして、非情な攻撃に弱い。

 アーシュはそう長い時を経ず、死ぬ宿命(さだめ)。そして、同時にイールもこのクナーアンから消え去る。
 クナーアンには新しき二神が生まれ、そしてアーシュの第二の故郷であるアースは…頼るべきものを失う事になる。
 それを見越してのアーシュの後継者選びに、イールも賛同し、様々な見解を述べたつもりだが、結局のところ、オブザーバーでしかないイールは、アーシュの決めた人選に意見するつもりなど無い。

 アーシュが選んだ後継者に興味がなくは無いが、クナーアンを統治する者として、他の星に関わりを持つ事は禁忌であり、イールとしては、極力避けたい事案。(アーシュだけはハーラルの大いなる慈悲により無効)
 だが、レイ・ブラッドリーをアーシュに預けた経緯を鑑み、神也の教育の一端を担うと言うアーシュの毎度の悪巧みを拒む事が出来なかった。
 「教育」とは、また些か大仰な話だと、アーシュから聞かされた時は思ったものだが、こうして神也を目の当たりにすると、純粋ながらもどこか心元ない神也を成長させるきかっけを支度しなければならないだろうと、イールも感じ始めていた。

 つまり、この子には、周りの者が、助けずにおられぬ才能がある、ということなんだろうけれどね。

「それから、レイはね…」
 調子づく神也を遮る如く、乱暴な音を立てアーシュが部屋の扉を開ける。すでに例のタキシードは着替えられ、今は清潔で簡素な神様用の室内着。

「食事の用意ができたぞ~。夕食は終わって、残り物しかなかったけど、まあ、神也の好みに合わせて作ってもらった」
「え?そうなの?」まだ陽も落ちていないのに、と怪訝な神也。
「ここは電灯を使わないから、食事は明るい時間に終らせるんだよ」
 神也の疑問に答えるイールの隣に、アーシュがドサリと座り、寄り掛かる。
「やっぱり異空間移動は腹が減る、疲れる。さっさと食って、イールの傍で寝たい…」
「そう言って、どうせ作る傍らで、つまみ食いをして、すでに腹も満ち足りたのだろう?」
「わかった?」
「口端にソースが残っている」そう言って、イールはごく当前とばかり、口端に付いたソースを指で拭い、舐める。照れもせず、お返しに、その口唇にキスを強請るアーシュに、
「ほら、神也の居る前で、子供みたいに甘えるな」と、掌で制止するが、構わず強請るものだから、困ったものだとばかりに、重ね合せ。ふふふと笑いあう。

 目の前の神也はじゃれるふたりに、戸惑う…以上に思考停止の有様で。

「初めまして、神也。御ふたりの世話役を務めているヨキと申します。残り物ですまないけれど、どうぞ、召し上がれ」
 アーシュの後にワゴンを部屋に運んできた壮年の男性が、トレイに載せられたご馳走を神也の目の前に差し出す。
「あ、はい。ありがとうございます」
 我に返った神也は視線をふたりから皿に盛られた料理に移した。
 木製のスプーン、それに思いかけずに箸がある。
「クナーアンではお箸を使うの?」
「木の枝が二本あれば、誰でも使えますからね」
「それはそうだね」
 顔を上げて改めてヨキの顔を見る。
 見慣れない真っ赤なくせ毛にがっしりとした体格。厳しい顔つきだが、見つめる目は穏やかに親しみが込められ、神也はすっかりと打ち解ける。
「これ…お粥?」
 箸で救い上げ、口に入れる。薄い塩味だ。
「幼い頃に食べてた味に似て…。懐かしいな」
「パンよりもこういったものが好みだと伺っていたのでね。口に合うとよろしいが…」
「とても美味しい。この煮豆も、野菜を煮たものも、スープも…。『天の王』で食べるより、ずっと美味しい」
「おい、神也、今のセリフ、聞き捨てならねえな。学園の料理長に告げ口してやるからな」
「…」
 ガラの悪い物言いをするアーシュは、すでにイールの膝枕で寛いでいる。
 その態度で言うものか?呆れながらも聞く耳持たず、神也は馳走を味わうことに集中。
 給仕をするヨキは、神也の食事に合わせ、ほどよい会話で和ませてくれる。時折茶々を入れるアーシュを、適当にあしらう様も慣れたもの。
 

 食事がすむと、ヨキの勧めで部屋を案内してもらう事にした。
 イールとはもっと話したかった気はするが、何しろアーシュが離さない。どころか、イールの膝枕で眠ってしまったから、仕方がない。

 手を振って見送るイールにお辞儀を返し、扉を閉めた後、大きく息を吐く。
 どうやら思った以上に、堅くなっていたらしい。

 ワゴンを押しながら先を行くヨキに「こちらへ」と、声を掛けられ、神也はあわてて付いて行く。
 自分が押すと言っても、コツがあるからと、ヨキは笑って譲らない。その実直さに神也は、よりヨキに好感を持つ。

「アーシュはいつもああなの?」
「あちらから戻られる時は、いつもあんな風かな。今日は特別に疲れていらした気もする。ひとりでいらっしゃるよりも魔力を使うそうだからね」
「私の所為…」
「そう、君の所為だよ、神也。そして君をここに連れてきたかったアーシュ様の意志だ。だから傷つくよりも、感謝することだね」
「…」
 思いがけないヨキの清廉さが嬉しい。

 神官とは皆、このように美しい精神の持ち主なのか…。
 いや、かつての私のまわりの巫女たちもそうであったのだろう。
 彼らの望む者になれなかった私は、きっと…

 善悪も己の判断、そして責任だと放つ「天の王」は、自由奔放。ある程度の悪さも寛容だが、度を越すと目も当てられぬ懲罰を請うことになる。それを楽しむ生徒たちも多い。
 神也が暮らした狭く厳しい掟に縛られた山の鎮守ではない事は承知の上。だが、「天の王」に居ると、神也は「山の神」であった頃が懐かしく…ただ懐かしく。

「この回廊が、神様の住む奥の院と、神殿の境界になるんだよ」
 回廊の左右に列柱したアーケードが、先の神殿まで続き。中で足を止めて外を見ると、山影に空は、紺瑠璃と染まり。そして、低い空の果てにふたつの弓張月が、金色に輝く。

 あれがイールとアーシュの月。レイに聞いたとおり、なんて幻想に満ちた風景なんだろう…

 見惚れる神也をヨキはただ見守り、「今宵は一層の輝きを」と。
「何故?」
「御ふたりが愛し合われると、クナーアンのすべてがうっとりとね、ただ幸せに」
 
 なんとも言えぬ優しい笑みに、神也の顔も自然と緩むばかり。




天の軌跡と少年の声 3へ /5へ


暑すぎて、脳ミソ溶けてますllllll(-ω-;)llllll
つうか、まだ神也の夏休みは、始まらないって…。これ、冬まで続くのか?('ε`汗)


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天の軌跡と少年の声 5 - 2017.08.18 Fri

5
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エノク-1

5、
 「山の神」であった頃は、
 東の空が、夜と朝をぼんやりと取り替える頃に目覚め、巫女たちに追い立てられながら、いくつもの礼拝を済ませ、昇る朝日を眺めつつ、朝粥を取るのが一日の始まりで。
 夕刻、つつがなくその日の神職を終え、陽が沈み、辺りが暗闇となり、蝋燭の火も早々に消され、寝るのを急かされ、一日が終わる。
 それがすべてだった。

 「山の神」の役目を終え、スバルに連れられ、「天の王」に来た頃、これが普通の人間の生活と言うものか、と、何度も驚いたりしたけれど、知らない事を知る事は、神也の何よりの楽しみだったから、世間との違和感などを気にかけることもなかった。
 時間を気にする事も無く、誰に怒られるでもなく、夜遅くまで灯りを付けて、読書に没頭できる幸せ。
 それなのに、最近は、「山の神」だった頃の夢を、よく見る不思議。

 辺りがうっすらと明るくなり。
 目覚めて映る、見知らぬ天井の模様に、神也はわけがわからぬまま、ただじっと見つめ。
「あっ!ここ、クナーアンだ!」
 と、声を上げると同時に身体を起こし、周りをキョロキョロと見る。
 まだ、空は白み始めたばかりで、部屋の中は暗く、はっきりと見えず。
 ベッドからそっと起き上がり、目を凝らすと、テーブルと椅子が一脚。そして、水差しとコップがある。神也はコップに水を入れ、一気に飲み干した。
 
 そうだった。ヨキに昨夜、部屋を案内され、色々と説明されたけど、眠くてたまらなくて…よくわからないまま、寝てしまったんだっけ。

 着ている寝着も、自分で着たのかさえ、覚束無い。
 「ふふ」と、笑った。

 やっぱり不思議。
 あの小さな鎮守の社とも「天の王」とも違う世界に、今の私は居るのだなあ。
 
 白々に染まる空を眺め、神也はこれから始まる日々を憧れる。
 自分の望んだものが、そこにあるのだろうか…。
 それを見つける事ができるだろうか。
 クナーアンは、幸いを与えてくれるのだろうか…。

 部屋は「天の王」の寄宿舎と同じような広さだが、レイが居ない分、神也ひとりには過ぎる程。角に水屋があり、水道はないが、大きめの水差しと桶がある。水を注いで、顔を洗った。
「気持ちいい」
 クローゼットを開け、用意された服を手に取り、どうやって着るかを考えてみる。自分なりに着こなし、皮のサンダルを履く。
「まるでオーダーしたみたいにピッタリだ。…やっぱり御伽話の世界だからかな」

 ノックが聞こえ、ヨキが顔を出した。
「起きていたんですか」
「うん」
「アーシュ様から神也は寝坊するから、しっかり起こしてくれと、申しつけられていたけど…取り越し苦労ですね。アーシュ様もああ見えて、案外過保護気質だから」
「いつもは夜更かしで読書をしてしまうから、起きれなくなるんだ。でもここは灯りも無いし、読む本も持たないから、暗くなったら寝るしかないし、きっと寝坊はしないと思う。それより…久しぶりに美しい御来光を拝めて、見惚れていたんだ。早起きは三文の徳だと、古人はよく言ったものだ」
「服もひとりで着替えたの?」
「うん、クローゼットにあったものを勝手に着てみたけれど…良かったのかな」
「勿論。よく似合っていますよ」
「昔、着ていた着物に似た着こなしだったから、なんだか嬉しいんだ。腰帯を締めるのも久しぶりだ。若草色の綺麗な帯だね」
「帯の色で役職がわかるのだよ。神也のは見習い神官の帯」
「見習い…神官?」
「そう。上の神官たちは神也がどこから来たのか、粗方説明しているのだが、他の者にはアーシュ様がお連れになった神官見習いで、この夏だけの修行って事に。まあ、アーシュ様のお気に入りなら、悪い扱いはされますまい」
「何だか気を使ってもらって、気の毒だ」
「そう?では、皆と同じようにこき使おうか?」
「そうして欲しい。特別扱いは、私の為にならない」
「…自分で言うのも面白い。アーシュ様がお気に入りなのも、わかる気がする」
「アーシュは買いかぶりすぎた。私は無力な人間だもの。でも神様のお仕事をしていたから、神官もそれに近い風だし、頑張れると思う」
「では早速、朝のお勤めを」
「え?」
「腹ごしらえにちょうど良い労働さ」と、笑うヨキに連れられ、神也は神殿の大広間の拭き掃除を、他の神官たちと、みっちりと。

 「疲れた」などと愚痴るよりも、一汗掻いた気持ち良さが残る。労働の後の朝食の格別な事など。
 ただひとつ…
 ヨキに紹介された神也の世話係と言うのが、どうも一方(ひとかた)ならぬ。
 名前を「エノク」と、言う。
 まだ見習いの神官で、帯の色と同じ若草色の髪と瞳が印象的な少年。
 初めて神也を見て開口一番「なんで俺がこんなガキの世話をしなきゃあいけねえんだよ。いくら神官長のお言いつけでも、絶対嫌だ!」と、言い放った。
「こら、エノク。暴言は慎みなさい。これはおまえの修行でもあるのだよ。それから、神也はおまえと同い年」と、宥めるヨキにも慎まず「こんなチビで間抜け面が、なんでアーシュ様のお気に入りなんだ?気に入らねえ!」と、訝る。
 さすがのヨキも呆れ顔。

「背が低いのは、子供の頃の栄養事情の所為だろう。間抜け面は、おまえはそう見えるのだろうが、こういう人種だからだ。こちらから言えば、おまえの方こそ変わっているが、言葉にしないだけだ。なんでもかんでも思った事を口にする方が、子供だと思わないか?」と、これも厳しい神也の攻めに、エノクも口を閉ざし不貞腐れ気味。
 それでもすぐに気を取り直し、神殿のあちらこちらに神也を引っ張り回し、案内する。

 慣れたもので、口八丁手八丁での詳しい説明に、神也も感心しきり。
「エノクは凄いな」と、褒めると「参拝客の案内の仕事ばかりでね。いや、育ちが育ちなもので、客商売は慣れたもの…っと、神官長さまに聞かれたら、また説教だ」と、舌をペロリ。
「さっきは偉そうに言って済まなかった。私も容姿の悪口は慣れているとはいえ、初対面の者に言われるのは、気分の良いものではなかったから、つい激しい口調になった」
「いや、神也は悪くない。口の悪いのはてめえの勝手だが、本気で怒らせちゃつまらねえな。ごめんな、神也。なんかさ、アーシュ様のお気に入りって聞いてさ。腹ん中が居心地悪いつうか…つまりは嫉妬って奴」
「それには慣れている。でも、エノクとは友達になりたい。…駄目か?」
「え?…いや、友達とか…慣れてねえから。でも、まあ、そんなに言うのなら、なってやってもいいや、友達に」
「うん、よろしく、エノク」
 差し出す神也の右手を、ぎこちなく握りしめるエノクの頬は少しだけ紅く。
 晴れやかに笑う顔は、屈託ない。

 神殿の裏には緩やかに下る丘に、畑や棚田が続いている。
「あちらが農園、それに続く田畑で、神殿に勤める者達の食料を賄っているんだ。育ちざかりの子供も多いから、年中忙しい。餓えるよりマシだがね」
「子供?」
「こちらの木造の建物が親や家族の無い子供を養う保育院と学校さ。ここで、それなりに育ったら、自分の希望で、神官になったり、町や村へ降りたりと、色々だ」
「エノクも?」
「オレ?オレは…まあ、色々な。ロクでもねえ親からなんとか逃げて、色々あって、二年ほど前に、ここへ連れられてさ」
「イールとアーシュが治めていても、悪い親御さんがいるのか?クナーアンは素晴らしい星なのだろう?」
「バカだな。善人がいりゃ、その分悪人もいるのが世の中つうもんだろ。神也、おまえこそ、どこの夢の国から来たんだよ。ディストミアか?ファザック?まあ、そこよりもクナーアンが素晴らしいに決まっているけどな」
「…」
「なんだよ。不服そうだな」
「アーシュとイールが神様なら、そこに住む者は、すべからく幸ある者だと…私は勝手に思っていたのだ…」
「幸せさ。アーシュ様とイール様がいらっしゃるんだ。こんなに幸せな星が他にあるものか」
「…」

 意味がわからない…と、神也は口に出さずに、口を尖がらせる。

「今日は天気が良いから、青空教室だ。見ろよ、みんな、楽しそうだ」
 新緑の天蓋の下、円で囲んだ生徒たちの年齢も様々。だが、確かに子供たちは笑顔で溌溂と見える。中央で教える教師の金髪が、風に揺らぎキラキラと眩しい。
 しかし、なんとなくどこかで見たような顔…

「ルシファーだ…」
「え?」
「あそこで教えてる先生だよ。ここの神官は学校の先生も兼ねるんだけど、彼はあの年で副神官長なんだぜ。すげえ優しくて、出来たおひとでさ。オレ、ああいう大人になりてえな」
「エノクは彼が好きなのか?」
「ルゥ先生を嫌いな奴なんて、ここにいるもんか。ルゥ先生は誰にでも優しいんだ。それがちょっぴり気に入らねえっていうか…」
「彼の特別になりたいんだ」
「はっきり言ってくれる。神也のそういうとこ、嫌いじゃねえけどさ。本人には言うなよ。恥ずかしいから」
「わかった」

 授業が終わった生徒たちは椅子から一斉に立ち上がり、一礼して、あちこちに散らばっていく。

 ルシファーはふたりに気づいたのか、ニコニコと笑いながら、近づいてきた。
「やあ、エノク。ごきげんよう」
「あ、ルシファー先生、こんにちは。あの、こっちは神也って言う新入りで、俺はそのお目付け役って事で、あちこち案内して回っているんですよ。…授業の邪魔になったり、しませんでした?」
「大丈夫だよ。それより、エノク…フラロス神官が君の提出した論文の出来に嘆いておられてね。余計な世話かもしれないけど、呼び出しを受ける前に、謝った方が良いと思うんだが…」
「ええっ!」
「ほら、彼、凄く厳しいけれど、素直に反省する生徒は大目に見てくれるし。多分、今頃は畑の世話をしているだろうから、一緒に手伝うとしたら、多分、ギリギリの合格点はくれるんじゃないかな」
「わ、わかりました。じゃ、オレ、今すぐ行ってきます。…って言っても、神也が…」
「私なら構わないでいい。ひとりで戻るから」
「すぐ迷う癖に」と、苦笑するルシファーを不思議に眺めるエノクに、
「私が代わりを務めるから、心配せずに。神官長には私から伝えておく」
「それじゃあ…甘えちゃおうかな~。じゃあ、後はよろしく!」と、言い終らぬうちに畑の方へ全速力。それを見て、面白そうに笑うルシファーと、呆気にとられる神也。

「エノクは良い子だね。彼を見てると、元気をもらえる」
「うん、私もそう思う」
「ところで神也、昨日、こちらへ来たのだろ?疲れていない?異次元の旅は、精神の負担が大きいから」
「私は大丈夫だ。多分アーシュが肩代わりをしてくれたおかげだろう。なんとも情けないが、こういうのをおんぶにだっこって言うんだろうな」
「…相変わらず、君って子は…」と、溜息を付くルシファーもまた、少なからず心穏やかではない。

 アーシュ、君はどんなに僕が大人になろうと、僕の心を掻き乱せずにはおられない存在なんだね。
 諦めることを忘れた「恋」は、いつまで続くのだろうね。



天の軌跡と少年の声 4へ /6へ

今月はこれだけしか、更新できなさそう…llllll(-ω-;)llllll
つくづく才能が無いなあ~と、落ち込みつつも、努力は怠るべからずと、粉骨邁進…がんばる('ε`汗)

ルシファーについては、あのままほったらかしにしてしまったのが、気にかかっていたから、次は彼視点で書くつもり。三十になりつつある、ルシファーも描いてみたい。

アーシュのお話は「senso」全編。
神也のお話は「山の神」から。
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