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2019-11

Again 1 - 2018.07.23 Mon

1
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 ハールート-1-2


 人は欲しい物を手に入れる為の努力は惜しまないのに、手に入れた途端、それが本当に欲しかったのか、訝しんでしまう。
 本当に欲しいのはもっと違う、何か、別の…素晴らしい物だったはず…
 でも、結局別の何かを手に入れても、こんなものじゃないと、簡単に捨ててしまえるんだ。

 僕はいつだって、「何か」を手に入れたがった。
 それが「何か」も知らずに…

 Again

 ハールート 1

 僕の記憶の限りにおいて、僕は満ち足りた環境の中で育った。
 幾つもの事業を持つ父親は多忙で、大屋敷の中で姿を見つけるのは困難ではあったけれど 過保護の母親と、沢山の女中に囲まれ、何の不自由もなかった。

 始終、僕を愛する者達に囲まれていたし、誰もが僕を愛さずにはいられなかった。

 殊の外、母の僕への愛情は常軌を逸していた。
 そして面倒な事に、何事も自分の思い通りに僕を扱いたがった。 
 部屋の設え、服、髪型、仕草にまで、細かく命じ、母は僕の見目姿をうっとりと眺めては、誰彼かまわずに賛美して回った。

 母だけではない。僕はメイド達に愛された。
 だが、僕のお気に入りのメイドは、いつの間にか僕の目の前からいなくなることがあった。
 幼い頃は意味もわからず泣いていたが、新しいメイドが来るとすぐに懐いてしまっていたから、あまり傷つくことはなかった。
 母の嫉妬だと判ったのは七つか、八つの頃だろうか。それから、僕は母の前では、気に入ったメイドに甘える事は避けるようにした。

 母の僕への執着は育つと共に段々と酷くなり、目も当てられぬ程。とうとう父は、僕が十三になる時に、寄宿学校へ入学するようにと命じた。
 母は半狂乱になって、止めたが、父は決して怯まなかった。
 考えてみれば、父は確かに正しかったし、あのまま、母の支配の中で生き続けていたら、今の僕は無かったのだから、父には感謝すべきだろう。
 と、言っても母は人前では、誰からもうらやむほどの貴婦人だった。
 古い王政時代の王子の従妹だった母は、平民に嫁いだ事を今でも嘆き、爵位の頃の名を、僕に付けさせていた。
 僕の名は「コンラート・フォン・マイスリンガー」
 旧プロイセンの古い英雄の名前らしい。

 それまで僕は学校で学んだ経験は無かった。
 家では幾人かの家庭教師が、すべての教科を指導していた。
 僕は庭で馬に乗り、屋敷内にある湖で泳ぎを覚え、裏山の崖に登り、体力を身に付けた。外国の言葉も幾つか覚え、教養と身だしなみを躾けられた。
 僕と並べるはずもない同学年の子供たちと寄宿学校で生活など、正直気が重い。
 だが、この地上の果てにあるという小さな独立国家サマシティの「天の王」には、些か興味がある。

 少し前に「天の王」学園の学長は、父に招かれ御屋敷に来た。
 そして、僕を見るなり、少し腰をかがめ「君をうちの学校へ招待しようと思うのだけど…。どうだろうね」と、言ったのだ。
 言い淀んでしまった僕を見て、少し微笑み、「大丈夫。うちには君のような子が沢山いるよ。きっと良い友人ができるだろう」
 差し出されたその手を、僕は気づかぬうちに握り返していた。


 「天の王」に入る際、学長のトゥエ・イェタルは、僕に新しい名前をくれた。
 なんでも「天の王」の生徒たちは誰しも、新しい名前を貰い、その名前で生活するらしい。
 今まで生きた環境との離別だ、と言うが、果たして「天の王」の本音はどこにあるのか、わかったものじゃない…
 僕は他の生徒たちとは違い特別な「真名」を貰った。
 ハールート・リダ・アズラエル。通称「ハル」
 中々良い名前だと、天邪鬼の僕でさえ、すぐに気に入った。


 初めての学校生活に些か、戸惑いながらも、様々な人との交流は、僕を新鮮な気持ちにさせた。
 黒ずくめの制服は地味すぎて、僕の華やかな容姿を彩るには物足りなかったけれど、特別室の僕の部屋は、他の誰よりも立派で、僕のつまらない矜持を保つには十分だった。
 「天の王」の生徒は、僕が想像したよりも誰もが個性的であり、華麗であり、独特な雰囲気を纏っていた。
 だが、そんなものに怖気づくわけでもない。
 僕以上の選ばれた少年は、見当たらなかった。
 僕は特別だった。何もかも特別でなければならなかった。
 特別な広い一人部屋に、気に入った年上の男子生徒を呼びつけ、セックスを楽しんだ。
 御屋敷の家庭教師は、学問以外にも色々と僕を指導し、僕はすっかりこの快楽を気に入ってしまっていたのだ。

 先輩等は、僕への奉仕を、心から喜んで全うする。
 誰もが、僕を愛した。
 僕の「能力」はそういうものだった。
 だから、僕が「魔法使い」じゃなくても、「王様」でいられれば、僕は「支配者」になれるはずなんだ。



Again 2へ

またもや「senso」の世界の物語です。
アーシュを敵と忌み嫌うハールートと、彼が愛したルスランと言う青年のお話。なんだけど、お互い、交互の視点でちまちまやていこうかと、思います。
暑くて頭も煮えすぎて、ぼーっとしてしまいますが、がんばります…(*・ω・*∩


アーシュのお話は「senso」全編。
神也のお話は「山の神」から。
スバルは「スバル」から。
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Again 2 - 2018.08.02 Thu

2

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ルスラン-1-1
  
 母は時折、父の居ないところで、幼い僕に「ラファ、あなたには本当の名前があるの。だけど特別な言の葉だから、粗末に口に出してはいけないわ」と、優しく僕の頭を撫で。
「お父さんにも言っちゃいけない?」
「そう、お父さんにもその名を呼ぶ権利は無いのでしょうね」
「じゃあ、誰が呼んでくれるの?」
「あなたが必要とする誰かが…その名前を呼ぶわ、きっと…」
「だれ?どんな人?」
「それは…お母さんにも視えないけれど、その人は、ラファを導いてくれる…。お母さんの精一杯の未来視よ」

 母の祖先は、特別な力を持つ。
 直系である母もまた未来を視る事が出来る魔女だった。
 彼女は、僕が十歳の時に、死んだ。
 死ぬ間際、彼女は僕にこう言い残した。

「ラファ、良い魔法使いになってね。その力は自分の為にあるのではなく、他者を幸せにする為のもの。だから、皆に尊敬される人になりなさい…。それがお母さんの願い」
 
 十七の僕には、未だ、母の望んだ者への道は遠い。



ルスラン 1

 小さい頃、僕達家族は大きな街の裏通りにある煉瓦造りの二階に住んでいた。
 母は大家さんが営む一階の仕立て屋で、お針子として働いていた。
 父は絵描きだったが、自分の作品が売れるわけでもなく、映画館の看板やポスターを描いていた。
 慎ましい生活の中で、僕は父と母の愛情に育まれて育った。

 僕が六歳の時、父はいなくなった。
 それはあまりに突然の事だったから、よく覚えている。
 外から帰ってくると、部屋には父と母、そしてスーツを着た男が二人。
 泣いていたのか、父は僕の姿を見ると両手で目を拭き、僕を手招き、抱き上げた。
 そして、二人だけで小さなバルコニーへ出ると、こう言った。

「お父さんはお仕事で、しばらく遠くに行かなきゃならなくなったんだ」
「…お父さんだけ?」
「そう。だからラファに頼みがある」
「なに?」
「ご飯を一杯食べて、沢山遊んで、勉強して…お母さんを守って欲しいんだ」
「そんなにいっぱい…僕、できるかな…」
「大丈夫。ラファは特別に良い子だから、出来るさ」
「じゃあ、頑張る」
「うん…。ごめんね…ずっと一緒に居たかったのに…ごめん…」
 父は顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。
 僕はその涙を小さな掌で、拭ってやったのだ。

 父は二人の男たちに連れ去られるように、家を出た。
 バルコニーから見送った母と僕に、父は精一杯の笑顔で手を振っていた。

 その夜、寝室でひとり泣いている母を見て、僕はどうしていいかわからなくて、そのままドアの外で蹲り、泣いてしまった。
 それに気づいた母は、僕を抱きしめ、そして何度も「ごめんね」と、言った。

「お母さんが泣くと、お父さんが悲しむから、泣かないで。ね、お母さん」
「うん」
「お父さんはお仕事に行ったのでしょ?いつか帰ってくるんでしょ?それまで僕、良い子で待ってるから。お父さんに約束したから…泣かないで」
「そうね…。明日からは、泣かないから…」
 母の悲しみと寂しさ、何よりも父を労わる気持ちが、僕の心に流れて、僕は泣くまいとしたけれど、涙が止まらなかった。

 しばらくして、母と僕はその街を出た。父との思い出が辛かったのだ。
 大家さん夫婦は、本当の孫みたいに僕を可愛がってくれたから、別れは辛かったけれど、母の意志は強かった。
 僕らが次に住んだのは、海の見える小さな港町。
 そこの裏通りで小さな仕立て直しの店を開いた。
 港町の往来は多く、腕の良い母は仕事に困る事は無かった。そして、夜は占いの仕事も。
 母の占いは良く当たると評判だった。
 天候や漁場の予想はお手の物。恋愛から夫婦の愚痴まで、母は彼らの幸いの為に能力を使った。
 時折疲労の為か、食事も取らずにベッドに横になる母を見て、僕は「仕事を減らしたら」と、頼んだが、母は「大丈夫」と、言うばかりだった。
 お金に困っているはずは無かった。
 ふたりが暮らせるだけの生活費は、父から送られていた。
 母は毎月決まった日に届く父からの便りを、何よりも楽しみにしていた。
 特に父の手紙は、何度も読み返し、僕にも見せてくれた。
 だけど、母は父の手紙を読みながら泣くことがあった。
「どうして?」と、聞くと、「お父さんは文字にはしないけれど、お母さんには見えてしまうのよ。お父さんがどんなに大変な仕事をしているかが…」
 僕は母が見ていた手紙を覗いてみた。

 父の文章に弱音は無い。だけど、僕にも見えた。
 文字の隙間から、頭を抱えた父の姿や泣いてる姿が…。

「そんなに辛いなら、帰ってくればいいのに、ね」
「ラファ、お父さんはお父さんにしか出来ないお仕事を一生懸命続けているのよ。お母さんはね、お父さんの健康と仕事の成功を祈るだけ…」
「でも…」
「ラファが大きくなったら、お父さんの仕事を助けてやって欲しいの。その為にはちゃんとした教育が大切だわ。もう少し大きくなって、もう少しお金が貯まったら、ラファは寄宿学校に行くのよ」
「寄宿…学校」
「そうよ。立派な魔法使いになる為の学校、サマシティにある『天の王』学園にね」
「でも…寄宿学校ってお金がかかるんでしょう?お母さんが苦労して働かなくても、僕、普通の学校でいいや」
「ラファの為に働くのは、お母さんの為でもあるのよ。その白い髪と黄金の瞳…。強い直系だけが持つ魔力があなたには備わっているの。お母さんはあなたの未来が楽しみなのよ。だから、お母さんの楽しみを奪わないでね」

 僕は不条理なものを感じていた。
 父も母も僕も幸福ではないのに、立派な魔法使いになって、何の意味があると言うのだ。

 
 母は死んだ。
 原因は頭の腫瘍だと医者は言ったが、過労が過ぎた所為だろう。
 父に電報を打ったが、間に合わなかった。
 母は町の人達に愛されていたから、沢山の参列者が葬儀に来てくれたが、父の姿は無かった。

 その数日後、母の墓の前で号泣する父を見つけた。
 恨み言のひとつも言ってやりたかったが、人の目も気にする事なく、泣きじゃくる父の後姿を見ていたら、可哀想になってしまった。
 ふたりは愛し合っていた。
 それは僕にもわかる。だけど、そうであるなら、何故もっと良い方法を見つけられなかったのか…
 僕には理解できなかった。



Again 1へ3へ

八月も暑いですね。皆さん、お身体に気を付けて下さいね。

このお話は「senso」の世界に繋がっています。
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Again 3 - 2018.08.19 Sun

3
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ハル-11

ハールート 2

 「天の王」では魔力を持つ者を「アルト」と言い、そうでない者は「イルト」と呼ばれる。
 異なる者たちを理解し、お互いを信頼しあい、より良い社会を創る基礎を身に付けるこそが、「天の王」に理念であるが、生まれもった能力の差があるのに、平等なんて、建前だけのしゃらくさい偽善に過ぎない。
 僕は魔力を持たない人間。だからこそ、自分を守る為に、財力や自身を売り込んで、より強い者を味方にし、権力を持たなければならない。
 
 正直、アルトの能力を見せつけられた時、僕の自尊心は酷く傷ついた。
 確かにそれまでも御屋敷の中に父が雇った魔法使いを見ていた。
 僕の家庭教師だって、物を動かしたり、占いをしたり…快楽に導く技がとても上手かったり…そういう特殊な妙技は目にした。だが、「天の王」のアルト達は、見せびらかす事も無く、こっそりとこの魔力を使う。
 具体的に言えば、まあ、学生らしくカンニングやら、宿題を誤魔化したり、掃除をサボったり…(大体が先生たちにバレて酷いお仕置きが待っている)
 彼らは魔法を自分の為だけに楽しんでいる。
 他人の考えを読む事もできるが、ほとんどの奴らは他人に無関心なので、実行することはない。彼らによれば、人の考えを読んだところで、メンドクサイだけで何ひとつ有益になるものはないそうだ。
 ところで、僕には魔力はないが、意志の強さで、魔法を受け付けないところがあるらしく、僕を陥落させようとする誘惑者の魔力に、怖気づくことが無い。
 彼らは僕を「イルトの英雄」と讃え、僕の為にならなんでもする、と軽口を叩く。勿論僕はそれが冗句だと知っているし、お互い楽しめるのなら、利害の一致する方法を選ぶのだ。
 セフレを選ぶ条件は、僕のナイトとなるくらいの強い魔力を持つアルトである事、床上手である事、それに、僕にふさわしいくらいの容姿端麗である事…なんてね。

 「天の王」での一年目は、僕の好奇心を満足させるものだった。二年目は学園生活を楽しむ術を覚えた。
 中等科最期の学期を迎える直前の休暇中、僕は御屋敷に帰省していた。
 長期休暇毎に実家へは帰っていたが、しばらくすると母の過剰な執着や、少しも成長しない使用人たちの田舎臭さに辟易したものだった。
 だから日がな一日を、一人きりで遠乗りする事が多かった。

 御屋敷の湖をぐるりと回った奥の森の中。誰もいない静けさが身体にしみ込む。乾いた落ち葉を踏みしめる音だけが聞こえ…。
 ひとりでいると、「天の王」を思い出す。校内にも良く似た林があり、地面に寝転がり、よく空を見上げていた。
 校内で僕は人気者だったが、それが僕のお金や身体目当てや奴らも多かった。僕はお山の大将に過ぎない。でも…それさえも僕への好意は、僕を安らがせ、心地良い空間に導くものだった。

 思ってもみなかった事だが…僕は案外、「天の王」の学生生活を楽しんでいるらしい。

 うとうとしていたら、名前を呼ばれ、いきなり目の前に銃口が突きつけられた。
 驚いて周りを見回したら、数人の(四人…いや五人だ)男が僕の周りを囲み、すぐに僕の身体を縛った。
 目隠しと猿ぐつわを咬まされ、乱暴に抱えられ、どこかへ連れ去られた。
 つまり誘拐、拉致…。
 犯人のひとりには見覚えがあった。
 僕に執心していた家庭教師の男だ。あまりにしつこかったから解雇した。だが二年以上も前に話だ。今更、僕になんの恨みがあるのか、さっぱりわからない。

「よくも私を辞めさせやがったな!何が気に入らなかった!おまえをあれだけ気持ち良くさせてやっただろ!」
 元家庭教師は過去の恨みを晴らすように、僕を乱暴にレイプした。さすがの僕も殺されるかも…と、思った程だ。だが彼に僕は殺せない。
 何故なら、彼は僕のカリスマに抗う事の出来ない魔法使いだからだ。

 僕のカリスマがどの魔法使いにも宛てはまるわけではない事は、「天の王」の学生たちで実験済みだった。だが、僕のそれに惹かれるアルトも少なくはなかった。その差がなぜ生じるのかは、未だに解明できてはいない。

 連れ去られた狭くて汚い山小屋で、僕は三日間、彼らの嬲り者。あいつらから弄ばれた。
 奴らは小さな僕を嬲りながら、今の政府と特権階級を罵り、自分たち、魔法が使える者達は特別な価値があると大仰に叫び、バカのような理想郷をまくし立てた。
 あげく「革命は聖戦だ。我々に有利な国を創る為には、只の人間、そう、魔力を持たない王が必要だ」と、僕に仲間に加わるようにと言い、最後には革命の王になってくれと、泣きながら頭を垂れた。

 好きなようにレイプしておいて、信用できる筈もない、と、怒鳴りたかったが、怒らせて殺されでもしたら、こちらが本当の馬鹿になる。
 だから従順なフリをし、めそめそと泣いていた。
 時間を稼ぐ必要があった。
 助けはすぐに来るだろう。

 拉致されて三日目の朝、僕は解放された。僕を誘拐した奴らは、父親が雇った魔法使い等によって、皆始末された。

 連れ戻され、僕がベッドから目を覚ました時、傍には誰も居なかった。
 気が付くと僕の身体には包帯が巻かれ、それと共にあちらこちらと痛みが走った。
 召使を呼ぶと、いつものメイドが少し緊張した面持ちで、僕に水を飲ませた。
 しばらくして母が顔を見せたが、今までの溺愛するような態度ではなく、どことなく軽蔑する素振りで、僕を冷ややかに見下げていた。

「マイスリンガーの跡取りが、こんな恥辱を受けるなんて…とても、表沙汰にはできない不始末ですよ。いいですか、コンラート。これからはひとりで遠乗りなんて…いえ、このお屋敷にいる限りはひとりで外へ出かけてはなりません」と、言い放ち、早々と部屋から出ていく。
 母親は穢れた僕を見放したらしい…。

 父親は傷だらけの僕を見て、「おまえを失わなくて、良かった…」と、溜息を吐いた。
 その言葉に僕は幾分救われた気がした。

「いいか、コンラート。おまえはこの家を継ぐたったひとりの跡取りだ。これからも危険な目に合う事もあるだろう。だから自分の身を守るために、強い魔法使いや魔術師を味方に付けることが大事だ。おまえを『天の王』に行かせたのも、優れた能力を持つ魔法使いをひとりでも多く探して欲しいからだ。おまえのカリスマなら、命を賭けておまえを守ってくれる者もいる事だろう。わかるね」
「…はい、父上」
 父親の言う事は理解した。
 僕は力の無い人間であり、魔力を持った者に守られてしか生きられない、と言うことなのだ…。

 この事件は僕を酷く傷つけた。
 身体だけじゃなく、精神的にやるせないものを感じ、どうしても拭いきれない汚泥が心の底に溜まっていく。
 
 僕は誰からも尊敬され必要とされる支配者でありたかった。だが、ただの人間の僕は、あいつら…自分の能力で乱暴に虐げる奴らに敵わない。その事実を突きつけられた上に、自分を守るためにあいつらの能力を充てにしながら、生きて行かねばならない?
 こんな…不実なものがあるものかっ!

 僕が拉致され暴行された事件は、屋敷の者以外は誰も知る事のない汚点として残った。


 新学期が始まり、「天の王」に戻った僕は、機嫌取りの奴らを遠ざけ、信頼できる者だけと付き合うことにした。

 恋人のひとり、三学年上のミカは、陽気な金髪碧眼のコーカソイドだ。母親がジプシー出身らしいが、ミカは品が良く、我儘な僕にも文句ひとつ言わない。勿論、優秀なアルトであり、僕と同じく選ばれた「ホーリー」だ。
 ホーリーだけに与えられる真名は「ミカル・アンテ・ユーティライネン」。
 真名は「天の王」の学生にとって、「誇り」以外の何ものでもなく、一生付きまとう「紋章」なのだ。

 最上級生の彼は、大学進学を望んでいる。
 父親はノルマン王国の子爵らしいが、彼は親を頼らずに、大学に行くつもりだ。
「奨学金を充てにしているけど、成績優秀者にしか貰えないから、今期は頑張らなきゃね」
「それじゃあ、僕と遊ぶ暇が無いってこと?」
「そうは言ってないよ。ハルとのセックスは最高だから、手放すつもりはないさ。苦学者にも息抜きは必要だ。まあ、君から別れたいっていうのなら、仕方なく諦めるけどさ」
「すごくいい加減で、気分悪い!」
「だったら謝る。さ、機嫌直せよ、お姫様。折角の昼休みを何もしないで終わるって事は無いだろ?」
「…」

 学生は放課後までは寮に戻る事は基本的に禁止だから、逢引は図書室にある十二の自習室が一番人気。狭いけれど防音付きの個室だし、何をしようが部屋の外には判らない。小さなのぞき窓はあるが、それも情欲のエッセンス。勿論、他の奴らも同じ穴のムジナで、二時間の長い昼休みは、盛った学生の性欲の捌け口となる。

 ミカはセックスが上手い。
 いつもは紳士なクセにセックスとなると、サディステックに僕を翻弄する。
 ミカよりむしろ夢中なのは僕の方だった。
 それ以上に僕がミカを離したくない理由があった。
 いつの間にか僕は、エモーショナルなセックスの相手が、信用できる相手だとわかるようになっていたんだ。
 下心だけの奴と寝ても、少しも感じない。
 だから、ミカは特別だった。
 ミカが僕をどう思っているのかはわからない。
 彼のような優秀なアルトの本音を引き出すのは、僕には難しい。けれど、ミカが信頼に値する相手だとは確信している。

 資料を探したいからと、三十分もの休憩時間を残して、ミカは自習室を出ていこうとする。
「悪いけどどうしてもやらなきゃ宿題があってさ。ハルはしばらく立てないだろうから、休んでいろよ」
「僕も…行くよ」
 情欲の波がまだ納まっていなかったけれど、置いて行かれるのが嫌で、慌てて僕も服を着て追いかけた。

 自習室を出ると地下と上段の図書庫に繋がる階段、それに自習室を使えなかった学生の為の机と椅子が並べられている。
 ミカの姿を探すと、一番端の窓際に居た。
 少し屈んで何やら、見たことがない学生と懇談中。
 僕には見せない真面目な顔で、相手と話している。
 少し僻みながら、彼らに近づいた。

「僕を残してひとりで行っちゃうなんて、酷過ぎない?ミカ…」
 ミカと話している男子学生に、なんとなく目を移した。
 流れるような白髪が窓からの日差しに輝き、思わず目を細くした。
 ゆっくりと僕に目を移した彼は、僅かに口の端で笑っただけ。
 アルビノかと思えるほど白い肌、だけど、口唇は赤く、その目は澄んだ琥珀色に染まり…一瞬で惹きつけられた。
 
「悪いな、ハル。探してた資料をこいつが持ってたんで、交渉してたわけ」
「ついでに論文を写させろ、だろ?」
「悪い!ルスラン。今回は頼む!自分で調べるには時間が足りないんだ。ミューク教授は特に厳しいからな」
「気にするな。次回は僕がミカに頼るから」
「任せとけ。じゃあ、これ借りておくよ」
「ああ」
「勉強中のところ、邪魔して悪かったな。自習室なら、俺達の後が空いてるから、遠慮なくどうぞ」
「ありがたいが…。まだ図書の方に用事があるから、自習室に籠る時間はなさそうだ。じゃあ…」
 そう言うと、ルスランと呼ばれた彼は、(彼はミカと同じくらい背が高かった)僕の前を擦り抜け、書架が並んだ地下の階段を下っていく。

 その姿が消えるまで、僕はただ茫然と彼の後姿を見つめるだけで…。
 
 僕の心に永遠に枯れない花が、咲いたような気が、したんだ。




Again 2へ4へ

少しずつ暑さが和らいでいますね。このまま秋に突入~って事には、なりませんよね~(-ω-`*)

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Again 4 - 2018.09.01 Sat

4
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ラファ-1-2

ルスラン 2

 母が亡くなった為、僕は父の故郷へ行くことになった。
 十歳になったばかりの僕には、父に付いていく以外の道は知らなかったんだ。
 住み慣れた港町を船が離岸した時、いつか必ず、母と暮らしたこの町へ帰ってくると、誓った。

 船や汽車を乗り継ぎ、父の国へ着くまでの間、父は今まで僕が知らなかった様々な話をしてくれた。


 父、カレルは古い歴史を持つ大国が管理するメジェリ公国の第三公子として生まれた。
 メジェリ公国は険しい山々に囲まれた狭く険しい土地ばかりで、目立った産業も無く、かと言って農業に適してもいない痩せた領地だった。

 父は、早くから国を出て、自由に暮らしたいと願っていた為、進学を理由に好きな絵を学びたいと、パリへ留学した。
 美大時代にカフェで出会った母、ロレーンと恋仲になり、結婚。
 勿論、メジェリ家はこの結婚に反対だった。
 メジェリ公国は貧しく、公家の者達はいくつもの国々との政略結婚で、国の財力をなんとか保ってきたからだ。
 母には何ひとつ後ろ盾は無かった。父は国を捨て、母と駆け落ちをし、そして、僕が生まれたんだ。

 平凡だけれど、決して裕福ではなかったけれど、父と母と僕は幸せだった。
 あの日までは。

 メジェリ公が亡くなり、第一公子のクレキが即位したが、持病の心臓病が悪化。即位二月後に亡くなった。すぐに次兄のトゥルが後を継いだが、即位ひと月も経たないうちに、落馬の事故で、打ちどころが悪く、死亡した。
 そして、第三公子である父が、メジェリ公を継ぐことになった。

 父はとても悩んだと言う。
 長兄のクレキには以前から決められていた婚約者がおり、即位をした折に、すぐにでも結婚する予定だった。勿論、これも政略結婚だ。
 婚約者カロリーヌはメジェリ公国を統治する大国の末姫であり、大国の援助が無ければ、公国の統治は難しかった。
クレキが死に、トゥルも無き後、メジェリ公国を継ぐ者がカロリーヌと婚姻する事は必然だった。

 父が母に相談した時、母は少し涙を流し、そして微笑みながら「多くの人々を助ける勤めを任されたのは、あなたにとって素晴らしい使命だと思うの。離れてしまうのは悲しいけれど、この先もあなたを愛し続けてもいい?ラファも立派に育ててみせるから、こちらの事は心配なさらず、懸命に自分の務めを果たして、良い公主さまになって下さい…」と、父を励ました。

 それから父はメジェレ公主になり、カロリーヌと結婚し、一年後に男子が生まれた。僕にとっては母違いの七つ離れた弟となる。

 
「よく聞いて欲しい、ラファ。決して褒められた事ではないが…メジェレはとても貧しい国だ。民は皆、餓えずに食べて行くのがやっとの状況で、それは私達公族であっても同じ。おまえに贅沢な暮らしはさせてやれない。だけど、皆、働くのが大好きな良き者たちばかりなのだ。慣れない事もあるだろうけれど、国の人々と仲よくやって欲しいんだ」
「わかった」
「それから、妻の…公妃の事だが…、悪い性質ではないのだけれど、気が強くてね。きっとおまえにも厳しいだろうけれど…我慢しておくれ」
「…わかった」

 僕は母と約束した「天の王」寄宿学校の事は父には話せなかった。
 元々僕が行きたいわけでもなかったし、父の国が貧乏なら、僕の為に税金を使わせるわけもいかないだろう。(母が僕の為に貯めたであろう貯蓄があってもだ)

 
 メジェリ公国は険しい山に囲まれて、他国との行き来は山間を馬車で抜けるか、船で港へ着くかしか手立てはない。
 三日間かけて、僕は初めて父の祖国へ足を踏み入れた。
 過ごしてきた町では当たり前の自動車もあまり見当たらず、港から馬車で一時間ほどかけて城へ向かった。
 途中、馬車から覗く風景は、遠くに雪が残った峰々、段々と森の木立が並び、少しだけ開けた牧草に放牧された牛や羊がちらほらと。その合間にファームハウスが見える。
 城近くの城下町はそれなりに賑わいを見せていたが、道を歩く人々の恰好も、今まで居た町とは違い、お洒落とは程遠い質素なものだ。
 父の言う通り、華やかさなど微塵もない。

 だが、メジェリの城は、こちらが想像するよりは充分立派だと感じた。お城と言うよりも、住み心地の良いマナーハウスに近い構造だ。外敵と抗争する必要もない為だろう。
 待ち受けた執事や使用人たちに挨拶し、僕は城に隣接する使用人が使うコテージに連れて行かれ、その中にある、一人用の小さな個室を与えられた。
 父からは前もって、言われていたことなので、驚きはしなかった。野宿よりはマシだし、何よりお城の使用人達は、僕をメジェリ公の息子と言う事で、可愛がってくれたのだ。それは父が公主として、愛されている証拠のような気がして、嬉しかった。

 新しい生活は最初戸惑いもあった。
 なにしろ陽が昇ると同時に起き、陽が沈むまで、使用人だけじゃなく、見る限りの人々が全員ずっと働いているんだ。
 僕は子供だったから、難しい仕事や力仕事をする事はなかったけれど、町に住む僕と同じような子供たちも親の仕事を手伝っていたから、それが当たり前の国なのだろう。

 僕は一日を草原で過ごすヤギ飼いや、庭の花の手入れや温室の世話をするのが好きだった。勉強は城にある図書館で、その都度知りたい事を、城に勤めるチューターに教えてもらっていた。

 父は時折「寂しくはないかい?」と、僕の様子をこっそりと伺う。
 夜遅く部屋に来て、そのまま僕のベッドで一緒に眠ったり。
 父は母と僕を捨てた事を、ずっと気に病んでいるのだ。
 小さな僕は謝りながら泣く父を、どんな風に慰めて良いのかわからず、母と暮らした日々を語る事が多かった。
 僕は母とふたりの暮らしが決して不幸ではなかったと伝えたかった。
 母が占いとしていたと言うと、父は「ロレーンは良い魔女だったからね」と、嬉しそうに微笑んだ。
「知ってたの?」
「夫婦なんだから当然さ。彼女はあまり僕の前でそれを使うことはしなかったけれど、困った人を見ると、なんとか助けてやりたいと、力を使っていたんだ。僕はね、ロレーンのような魔法使いがこの世界に沢山いてくれれば…力を持たない人々が少しは幸せになれるんじゃないかと、近頃よく思うんだ。まあ、魔法にばかり頼るのは良くないけれど、この国のように痩せた土地に住む人々が、少しでも暮らしが良くなる方法…それを教えてくれたら、どんなにかねえ…。ラファはロレーンに良く似ているから、魔力も強いのだろう?君がこの国の魔法使いになってくれれば、嬉しいんだけどさ。でも君を縛りつけるのも、なんだかね…」
「…」

 父は良い人だった。傍らに眠る父の頭の中を覗いても、純粋に生真面目で、この国の事ばかりを考えていた。
しかし領主としては、気が弱く、周りに気を使い過ぎで、頼り甲斐がなさ過ぎた。
 母はそんな父を愛していたのだろうけれど。

 父は亡くなったふたりの兄についても、僕に話してくれた。
 三人は仲の良い兄弟で、国を出ていく時も、母と駆け落ちする時も、皆が反対する中、父を応援し続けてくれたと言う。
 「その恩返しが僕にできるといいんだけどね…」と、自信なさ気に言う。
 十歳の僕は、ただ「お父さん、頑張ろう。僕も頑張るよ」と、しか返す言葉が無かった。


 公妃のカロリーヌとはあまり顔を合わせる事も無く、会っても会釈ぐらいで話した事はない。
 無理もない。向こうにしてみれば、父の愛情を死んでも受け続ける女の子供だ。憎らしいばかりのガキだったであろう。それに加え、彼女は魔法使い嫌いだった。
 何でも以前にロクでもない魔法使いの口車に乗せられ、国のお金を騙され取られたらしいんだ。
 元よりこれも父のふがいなさや人の好さにも原因があると思うのだけれど。

 義理の弟のユークはまだ幼くて、周りに僕以外の子供が見当たらない所為だろうか、城内で僕の姿を見ると「おにいちゃま~」と、大声で僕を追いかけてくる。その姿が愛らしくて、僕もつい頭を撫でたり、抱っこをしたり…。
 公妃が僕を兄弟だと認めてくれたのは意外だったけれど、やっぱりそれは嬉しくて。
 お母さんとは呼べなくても、義弟のユークを精一杯愛してあげようと思った…けれど。

 母が僕に残したいくつかの言葉の中で、とても気になる教えがあった。
 「むやみに人を愛してはならない」…と。

 魔力を持つ者は、気づかぬ内に、惹かれた相手を自分のものにしたいと念じてしまう。それは純愛ではなく、魔力によって理不尽に歪められた感情であり、相手に忠実ではない。本当の愛は、裸の心で引き寄せられるもの…だと。

 僕は人を愛する事を疑うことにした。
 好きな人、かわいい人、かわいそうな人、愛されたい人、愛したい人…どの者に対しても、魔力を使っていないだろうか…。利用してはいないだろうか…。
 僕の周りがこんなに良い人達ばかりなのは、僕の魔力の所為じゃないのか…。
 時折、僕は怖くなる。

 僕を純粋に愛してくれる人は居るのだろうか。
 僕は心から愛する人に出会えるのだろうか…と。


 メジェリ国での暮らしが二年ほど過ぎようとした春、僕は教えを乞うべき人と出会った。
 「天の王」学園の学長「トゥエ・イェタル」、その人だった。



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九月です。少しずつ秋の気配が漂って…きたら良いですよね~

このお話は「senso」の世界に繋がっています。
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Again 5 - 2018.09.19 Wed

5
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  ハルとルスラン-3-1


ハールート 3

 僕は図書館で出会った「ルスラン」の事が忘れられなくなった。
 恋人のミカは、ルスランとはクラスメートで、仲も良いらしい。

「ルスランの事が聞きたいって?あれあれ、通な君もとうとうルスランに目を付けたってわけか…。それで、ハルはルスランと寝たいのかい?」
「駄目?だって、彼、インプレシブで、なんとなくミステリアスじゃない?そういう男に僕、興味あるなあ~」
 ベッドの中では、誰もが優しい。
 ミカの腕の中で、他の男の話なんて、嫉妬心に火が点くかもしれないけれど、それはそれで、楽しい。
 でもミカは至って真面目な顔をする。

「ルスランはいい奴だけど、お勧めはしないよ」
「どうして?」
「彼は一度寝た相手と、二度は寝ないんだ」
「どういう意味?」
「あいつはモテるし、それに優しい。お誘いを受けたら、一応は応じる。だけど二度目は無い。本気で人に惹かれたり、愛したりしないそうだ。本人は面倒臭いからだと言うけどね」
「…ふ~ん」
「益々興味が増したって顔だね」
「だってさ、そういう男をこちらに振り向かせるのって、奮い立つもの、でしょ?」
「彼を見ただろ?あいつは相当に強い魔力を持つアルトだ。ハルのカリスマも通じまい」
「そんなの、やってみなきゃわからないじゃない」
「…君のそういうとこ、僕は嫌いじゃないけどね」

 ミカはそう言って、僕の身体を軽々と抱き上げ、自分の胸に抱き寄せた。

「ハルはまだ子供だからわからないかもしれないけどさ、…人は誰だって、誰にも見られたくない秘密を持っている。勿論ルスランにもね。僕はルスランのいい友人でありたいから、彼の奥底を覗いたりしない。それが、友人であり続ける秘訣だと思っているのさ」
「…」

 僕はミカとは違う。
 僕はルスランのすべてが知りたい。
 彼を理解したい。
 もし、彼の魂が暗闇に隠れているのなら、僕が光指す庭に引きずり出してやろう。
 もし、彼の過去が暗いものなら、明るい未来を僕と一緒に歩ける為の努力をしよう。
 もし、彼が…
 僕の恋人になってくれたなら、
 僕は、どんなに嬉しかろう…

 ひと目見ただけなのに、どうしてこんなに惹かれるのだろう…
 本物の恋は、魔法にかかった如く…なんて言うけれど、僕は彼の魔法に操られているのかしら。
 そうだったらいいな。
 彼の意志が、僕を求めるなら、僕はなんでもあげるのに…


 ルスランは「天の王」の特待生だ。
 特待生は、授業料が免除になる代わりに、成績優秀、品行方正でなければならない。
 成績優秀はわかるけれど、「天の王」に品行方正や生徒なんて、どこにいるのさって話。ちゃんちゃらおかしい。
 聞いた話によると、彼はメジェレ公国の公子と言う話だから、貧乏ではないはずだけど、休日は図書の整理や教師らの資料をまとめたりと、アルバイト的なものもやっているらしい。
 公子なのに、不思議な人。なんだか益々興味が沸いてしまうじゃないか。

 彼の姿を見つけるには図書館に行けばいいと、ミカから教えられたけれど、中々捉えられない。
 自習室は覗き窓から見ればわかるけれど、資料室に入る為には司書の許可が必要になる。結構面倒なんだ。
 最近来た新しい司書は、見慣れない東洋系の男。長い黒髪と冷たい目。何を考えているのかわからない顔で、僕を見る。
 僕の下心まで読まれそうで、近づきにくい。だから書架と資料室の受付には近づかないで、図書館や自習室の入り口付近をウロウロと。


 何度も図書館へ出向いていた或る日、自習室に居るルスランの姿を見つけた。
 勿論、ひとりきり。
 僕はドアをノックし、ゆっくりと開けた。
 机を向こうにしたルスランはベッドホンをしているからか、こちらを見ようとしない。
 僕はドアをそっと閉めて、彼の後ろ姿を見つめていた。

「僕になにか用?」
 驚きもせず、ルスランは上半身を捻り、僕を振り返った。
「あ…ごめんなさい。勉強の邪魔だった?」
「うん。次の授業、ケルト語のスピーチだからね。ちょっと忙しい」
「…勉強、好きだね」
 それには答えず、彼は僕から視線を離し、机の方へ向いてしまった。

「知識を得ることは、見えないものが見えていく様に似ている。見なくて良いものまで、目に映ってしまうけれど、見れずにいられないのは、人間の罪…」
 窓からの光に淡く輝く白金の髪を掻き上げ、穏やかなテノールの声が、僕の耳に響く。まるでミンストレルの如く…

「…誰の格言?」
「僕の母」
「そう…なんだ。あの…さ」
「何?」
「頼みがあるんだ」
「どんな?」
「僕と…その…付き合って欲しい」
「…君、ミカの恋人なんだろ?」
「そう…だけど、ミカの許しは得ているし、一度だけ寝てくれるだけでいいんだ」
「一度だけ…ねえ」
 そう言うと、ルスランは少し笑いながら、「いいよ」と。
「ホント?」
「一度だけなら、断る理由は無い、だろ?礼儀だよ」
「じゃあ、今晩、僕の寮室へ来てくれる?一号館の四階、特別室だよ」
「今日は先約がある。明日は先生の手伝い。その次は…」
 手元の手帳を何枚かめくった後、ルスランは「五日後なら空いてる」と、言ってくれた。
「じゃあ、その夜で構わない。絶対来てよね。待ってるから」
 そう言って、僕は足早に自習室から出て行った。

 図書館を出て誰もいない林まで走って、やっと大きく息を吐いた。
「すげえ、緊張した~」
 馬鹿みたいに身体が火照って仕方が無かった。
 なんだろう…。
 誰かの前で、こんなに緊張したり、ドキドキしたりすることなんて一度だってないのに…。ルスランの声を聞いただけで、頭が痺れた。目が合っただけで、身体が固まった。
 巧い言葉も出ないのに、傍に居られるのがたまらなく嬉しくて、気恥ずかしくて…
 僕はみっともなくなかっただろうか。いきなり寝たいなんて浅ましい奴と思われただろうか。ミカの事を気にしただろうか…
 なんだが…不安になってきた。
 彼は本当に僕と寝てくれるだろうか…

 ミカを呼んで、事の次第を話した。
 ミカは「ハルがねえ~」と、何度も言いつつ、腹を抱えて笑う。
「バカにしてる?」
「いや、君の本気を見て、心から可愛いと思ったよ。君はまだ十五歳になったばかりなんだものねえ」
「僕、ルスランにどう思われたのかしら。寝たいって言ったけど、遊びって思われたなら、そうじゃないって言った方がいい?」
 そう言うと、ミカはまた大きく笑った。
「おめでとう!ハル、それが初恋だ。君は初めて人を本気で好きになったのさ。大丈夫、ルスランは君よりずっと大人だし、アルトだから、君の気持ちはわかっているよ。彼は本当に優しい奴だよ。でも…」
「でも?」
「いや、今はやめておこう。折角君が本当の恋に浮かれているのに、水を差しちゃつまらない。何にせよ、先の事を考えて生きるなんて、この上もなく愚かだし、何事もハルにとっては、貴重な経験になるだろうからね」
「なんだか大げさ」
「今の君にルスランは大げさかい?」
「…ううん。世界はルスランで回っているみたい…」
「じゃあ、全力で彼に向っていけばいいさ。困った時は何なりと。僕は君の信頼に値する恋人の役で十分だ」
「…ミカ」
「なに?」
「ありがとう」
「どういたしまして。まあ、本当のところ、僕は楽しんでるだけだから、気にするな」

 ミカは本気で僕など愛していない。必要ともしていない。
 そう、楽しんでいるだけ。
 「天の王」とはそういう場所。
 本当は本気になった方が、負けなのかもしれない。
 けれど、この熱情は自分でも、コントロールできないんだ。
 僕に本当のカリスマがあるのなら、一時でもいい。
 ルスランを僕に振り向かせたい。
 ああ、僕が力のあるアルトだったら…
 彼の心を、捉えることができるのだろうか…


 約束の夜、いつまで経ってもルスランは来なかった。
 ベッドのシーツも新しくメイクしたし、上等な紅茶とデザートだって用意していたのに…
 酷いや。
 ルスラン…こんなに好きなのに…
 寝てくれるって言ってくれたじゃないか…

 

Again 4へ6へ

十一年目になっても、更新遅くてすいませんねえ~(*'ω`*)ゞ

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