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topimage

2008-11

僕の見る夢 8 - 2008.11.30 Sun

「あ…」
目を開けたら見慣れた顔が目の前にあった。でもすぐに気がついた。こいつはあっちの麗乃じゃない。
「ユキ、おはよ」
「…はよ…って、朝?」
「そう…みたい」
俺は驚いて上半身を起こした。
だって、昨日寝たの、夕方だったでしょ?もう今、朝って…どんだけ寝てんだよ。
カーテンから覗く光もまだ薄暗いけど、夕方の色じゃねえし…
「でも、まだ、六時前だけど…」多少掠れてっけど、しっかり起きてる声で背後から麗乃が言う。
六時前つっても、寝たの六時前だったろ?…十二時間も寝てたのかよ…すげーぜ。こんだけ寝貯めしたの久しぶりだぜ。
「ユキ?どした?」
「は?」
「なんか考え事?」
「いや、なんかすっごい寝てたんだって思った」
「な、俺もこんなに寝たの、久しぶり過ぎてびっくりした。ユキが…居てくれたからなんだろうけどな」
「…んあ…う…んなこと無いと思うけどさ」
「俺さ、ユキが居なくなってからあんま良く寝られなかったから…」そう言って麗乃は自虐的に笑った。
「自分でな…馬鹿だって思いながら、どうしても諦めきれなかった…ホントにどうしようもねえ馬鹿だ…」
「麗乃」
「おまえがね、あん時俺の事忘れたりしないって言ってくれたろ?…すげ…嬉しかったんだよ。おまえが向こうの世界でどう生きようが俺はその言葉だけで生きてゆけるって…思ったんだけどね…」
「…」
「全然駄目だった。おまえの事思うだけで苦しくて堪んなかった。おまえが…向こう俺と…」
「いいよ、もう…もういいから。ごめん、もうおまえから離れないから…」
俺は仰向けに寝ている麗乃の身体に覆い被さるようにして、その幾分細くなった身体を抱きしめた。
目の前にいる麗乃は、消毒の臭いとそれから、向こうの麗乃と確かに同じ匂いがした。

俺は…とんでもない思い違いをしていた。
向こうの麗乃とこっちの麗乃と、ふたりを好きんなって、苦しいのは俺だけなんだって、勝手に思い込んでた。
苦しくても俺が狂わないでいたのは、向こうの麗乃がずっと傍にいてくれたお蔭だった。落ち込んだ時も泣いてた時も抱きしめてくれるあいつの腕があったからだ。こっちの麗乃を好きでいても、全部ひっくるめて好きだと言ってくれたあいつが居てくれたからだ。
だけどこいつは…こいつはひとりで…ひとりぼっちで、俺を思ってくれてて…ずっと苦しんできたんだ…
なんだよ俺は…どうしようもないのは俺の方じゃないか。

「ユキ…?」
「ごめん、麗乃、ごめんね」
「昨日から謝ってばっかだな、ユキは。俺ね、謝るつーのは簡単に物事を片付けようとする常套手段って気ぃするんだけどな」
「…なんだよそれ。それって俺が心から謝ってないみたいな言い方じゃん」
「ほら、ユキらしくなった」って、嬉しそうに笑うから俺も釣られて笑ってしまった。

「キスして…いい?」
麗乃の声が震えていた。返事はせずに俺の方から口唇にしてやると、ちょっと驚いたけど、すぐに嬉しそうに笑ってくれた。それからお互いの頬や額とかに触れるだけのキスを一杯した。
目を合わせてみたら何だか可笑しくなって、また麗乃を抱きしめて、耳の横んとこに頭を擡げた。
すると、麗乃の手が俺の頭を撫でてくる。

「…なあ、ユキ」
「ん?」
「今だけは、ユキのこと、俺だけのもんって思ってもいいか?」
「…いいよ」いいに決まってる、そんなの…
「ホントに?」
…そんな弱気になるな。おまえらしくねえじゃん。
どんなにこいつをひとりにして苦しめてきたのかと思うと、胸が締め付けられて息が止まってしまう。
本当に…本当にごめん。
「レイくん、俺もうどこにも行かないからね」
「…うん、ありがと、ユキ。嬉しいよ」
傍に居てやれることが罪滅ぼしになるんなら、死ぬまで傍に居るよ。本気でそう思ったんだ。

それから俺は麗乃の傍を片時も離れなかった。一緒に飯食ったり、買い物行ったり、風呂入ったり。
暇な時は俺をモデルに麗乃は絵を描くことに夢中になっていた。
「俺ばっか描いて、よく飽きないね」って言ったら「おまえは山の天気みたいで全然飽きねえ」って、言われた。予測できねえって事らしい。描いてる麗乃はすこぶる機嫌がいいからモデルでも何でも構わない。そうやって元気になってく麗乃を見てるのが嬉しかった。
手首の傷も四針程縫っていたけど、抜糸をして包帯を外したら、案外と目に留まらなくなって俺も気にならなくなった。

傍から見れば普通の恋人同士に見えただろう。岬も眞人も元気になった麗乃を見て、凄く喜んでくれてたし、麗乃も変わらずに優しかった。
ただ、麗乃は一度も俺を抱こうとはしなかった。
初めは体力の所為とか思ったりもしたけど、違う。敢えて抱こうとはしない。キスとかはしたがるのに、なんでだろうと思って、こっちから仕掛けても絶対に乗ってこなかった。
何で抱こうとしないのか訳を聞くのはかなり怖い。

…もう俺の事はそういう意味で嫌になったのかもしれない、なんて思ったりもしていた。





夜にアップしたりする。

僕の見る夢 7 - 2008.11.30 Sun

4.

思いがけない事が起きた。
夕方近くになって、麗乃が眞人と一緒に帰ってきたんだ。
「どうしても帰るってガキみたいにこいつがごねんの。医者も大概呆れてたな」眞人が大げさに溜め息を吐いた。
「別に病気じゃねえんだから、用がなきゃ帰るよ」
「ホントに大丈夫なの?」
「まあ、無茶しませんって誓約書書かされたけどな」
「それだけ?」
「あと…誰か見張り付けとけって」
「見張りって…」麗乃が眉を顰めて眞人の方を睨む。
「だってそうだろ?ひとりにさせるなって意味は、おまえが馬鹿なことしないように見張っとけって意味じゃん」
「…もうしねえよ」
「当てになるかよ」
「…ユキに泣かれるよりマシ。もうしないし」
「絶対だな」
「約束する」
「…と、言うことなんだ、ユキ。おまえ、この馬鹿が悪いことしない様ちゃんと監視しててくれ」
「あ?…う、うん、わかった」
「おい、木久地。ユキに強要すんな。ユキ、気にしなくていいからな」
「いや、ちゃんと俺、香月のこと見張っとくから大丈夫」
「…由貴人はいい子だな」
俺より随分と背が低いくせに、子供にするみたいに眞人が俺の頭をなでなでするから、おかしくなった。隣で麗乃もクスクスと笑っている。

「じゃあ、俺はこれで帰るから」
「えっ?もう帰るの?岬がカレー作ってくれたの、食ってけば?」
「ああ、ありがたいけどな。サラリーマンは辛いのよ。時間外だろうが残業手当外だろうが仕事が終わらなきゃやんなきゃなんねえの」
「そうなの」なんか大変だな、俺達と違って。
「また来るわ」
「うん」
「それから香月」
「は?」
「セックスはするなよ」
「なっ!」
「医者に言われたろ?疲れることは当分するなって」
「…わかったから、もう、帰れ!」
「そうは言ってもおまえは信用できねえな。…ユキ、こいつが襲ってきたら殴り倒していいから」
「わかった。殴り倒せばいいんだな」
「…由貴人はホントにいい子だ。じゃあな」
「うん、バイバイ。仕事頑張れよ」
玄関まで見送って手を振る。
ドアを閉めたのを確認して振り返ると、麗乃がなんだか照れた様子で見るから、昔の麗乃みたいで嬉しくなった。

「岬もまこちゃんもみんな優しいよね」
「…ったく、人を獣みたいに言ってくれてよお…俺だって理性ぐらいあるつーの、なあ、ユキ」
「さあ、長年付き合ってるまこちゃんの正直な見解なんじゃない?」
「…なんだよ、ユキまで」
「いいから休めよ。疲れただろ?あ、なんか食べる?カレーあるよ。岬がね、二、三日持つからそれ食っとけって一杯作ったの」
「三日連続はきついだろ」
「大丈夫、俺カレー好きだもん、あ、でも香月身体弱ってるし、消化に良くないよね」
「大丈夫だって。でも今はいい。昼飯遅かったから」
「うん」
「部屋、キレイにしてくれたんだ」
「できる分しかやってないよ」
「ありがと」
「いや、いいし…麗乃、休んだ方がいいよ。ベッドもきれいにしたし…寝てな」
「うん…」
「なに?」
「いや、せっかくおまえが居るから、なんか…見ててぇなあって思って」
「…」
麗乃の素直な気持ちが嬉しかった。と、同時に苦しくて堪んなかった。

「レイくん、一緒に寝よ」
「ベッドに?」
「うん」
差し出した手を麗乃はじっと見つめて、そして、握り返してくれた。ぎゅと音がするくらいに強く。

ベッドに手を繋いだまま一緒に寝て、二、三言喋ってたけど、疲れていたのか麗乃はすぐに眠ってしまった。
穏やかな寝顔。顔色も随分いい。…良かった。
ふと胸に置かれた左手を見た。手首に巻かれた包帯から目が外せなくなってしまう。

また、聞けなかった…その傷の理由。
怖くて…もし俺がその原因なら、全部が全部俺がここに来た事が原因なら…俺はどうすればいい?
おまえをこんな風にしちゃた責任をどう償えばいいの?

夢ならいいって何度も思った。夢だったらこの麗乃だって、俺の創った創造のモノだって簡単に割り切って切り捨てられるのに…
だけど、こいつは作り物なんかじゃないし、ちゃんと生きて存在してる人間なんだ。
俺が勝手に振り回したりしちゃいけないんだ。

どうしたらこの人を苦しませずに済むんだろう。
俺に何が出来るんだよ。




おはようございます。眠いです。

挿絵「僕の見る夢」6 - 2008.11.28 Fri

sakuranoki

「僕の見る夢」6の麗乃の描いた絵をざっと描いたんだが、これを文章の挿絵に入れるかどうかは悩む。
文章だけで想像して読む方にとっては余計なものになるからである。
人それぞれなのだが、この絵は別にアップしてみた。

僕の見る夢 6 - 2008.11.28 Fri

それから暫くして、岬は仕事だからと家を出た。
帰る間際「由貴人、言っとくがな、俺はおまえのこと結構気に入ってんだからな」って言ってくれた。
落ち込んだ俺を見て、気を使ってのことなんだろうが、素直に嬉しかった。

岬が帰った後、ひとりで部屋を見渡してみる。
昨日初めてここに着た時も思ったんだが、前に比べると雑然としてて、なんだか部屋全体が荒んだ感じがして堪んなかった。
そういうのも心の表れなんだろうか。俺はまた悲しくなってしまう。
とにかくあいつがいつ帰ってきてもいいように、出来るだけ居心地のいい環境にするのが大切だと、まず部屋の掃除に取り掛かった。
片付けられるものは片付けて掃除機をかける。寝室は特に酷くて足の踏み場もないくらいに散らかっていた。向こうの麗乃と同じようにこっちの麗乃も案外掃除好きだったのにと思うと、なんだかやるせなくて泣きそうになる。
溜まっていた洗濯物も二回まわして一段落ついてほっとする。
いや、まだ残っていた。仕事場。
じっくりと入って中を伺った事は一度も無かった。
気にも留めずにドアを開けた途端、俺は息を呑んだ。

部屋を埋め尽くす数々のカンバス。
そのすべてに描かれていたのは…俺の姿だった。

ソファに座っている俺、寝ている俺、大口開けて食べてる俺、泣いてる俺、不貞腐れてる俺…
こっちに向かって笑っている…俺…
一際大きいカンバスに描かれているのは、あの桜の木に佇む俺の姿だった。

どうして…

…心臓が破裂しそうになる。

どうして俺なんか…

忘れてしまえばいいのに…

「ユキ」と、声が聞こえた気がした。「好きだよ」と、叫んでる気がした。

…麗乃…

「なんで…」

俺はそこに座り込んだまま、立ち上がることが出来なかった。







忘れているかもしれませんが、ここの麗乃は絵描きさんです。
明日は更新お休みです

僕の見る夢 5 - 2008.11.28 Fri

3.

翌日、朝早くから岬が見舞いがてら朝御飯を作って持ってきてくれて、三人で食べる事になった。
「せっかくの二十七の誕生日を病院でおくるとは、レイくんもほんとダセエ男だぜ」岬は弁当を広げながら皮肉った。
「いや、ユキが居るから最高の誕生日なんだって」と、麗乃が嬉しそうにカラフルなおにぎりをほおばった。
麗乃は終始ご機嫌だった。
岬は昨日の俺への態度はきれいさっぱり忘れましたみたいな顔をしてたから、俺も気にしないことにした。
「何だよ、おまえ、全然元気じゃん。心配して損した」
「心配かけて悪かったな、岬」
「もう慣れたっちゃー慣れたけどさ。頼むからもう救急車とか呼ばせんな」
「判った。反省してる。もうおまえらに迷惑かけない。約束する」
「…いっけど、さ…」苦笑しながらも何だか不安そうな岬を感じて、俺もなんか心許無くて…
「ユキ、疲れただろ?帰らねえ?」岬が俺を見て言う。
「…あ」
「いいだろ?麗乃。おまえん宅にユキ連れてって」
「いや、俺なら大丈夫だよ。疲れてねえし」
「ユキ、俺ん宅で待っててくんねえかな?」機嫌良く麗乃が言うから、まだ傍に居たいって強く言えない。
「う…ん」
「…じゃあ、行こ、ユキ」
麗乃の傍を離れたくなかったけど、二人から促されて仕方なく一旦帰ることにした。

「ユキ、昨日は悪かったな」
岬の愛車に乗ってすぐ、岬が俺に謝ってくる。
「あ…うん、いや、岬が怒るのわかるし…俺何も知らなくて…馬鹿だね、俺。麗乃が元気だとばっか思ってたし…こっちでどう暮らしているのか知らねえ癖にさ、のこのこやって来てさ…ホントごめん」
俺の言葉に返事もせずに、岬はアクセルを踏んで、猛スピードで大通りを飛ばした。

「…おまえさ…あいつからなんも聞いてないの?」
「えっ?何を?」
「何って…色々だよ」
「なんも…聞いてない…」怖くて聞けなかった。
「はあ~…もうね、俺にもどうすることもできねぇわけよ」
「?」
「見ただろ?さっきの香月の顔」
「うん」
「あんな顔して笑ったの、いつ以来だよって話」
「…そう、なの?」
「…おまえにしか、救えないのかもしれねぇって、ね…」
「あ…岬?」
「こんなの言うの、なんか悔しいつーか…おまえにとっても迷惑だろうけどな…あいつを…香月を助けてやってくれ、頼むから」
「…あ、あのさ…助けるって…どうやんの?」
「…おま、え…ハハ…負けたわ…」そう言って岬は笑いながら、車を飛ばし続けた。

香月の家に着いて中に入ったら、ソファで休んでろと言われ、座って呆けてたらコーヒーが目の前に出された。
こっちの岬も気が利いてて凄いなぁと思って、ひとりで笑ってたら、岬が不思議がるので、向こうの岬の事を少しだけ話した。
「…そうなんだ。そんないい奴なんだ。おまえの世界の俺のそっくりさんは」
「うん。あのね、岬とは一番付き合いが長くてね。凄い楽しいの。いっつも、笑わせてくれてね。俺達のこと守ってくれて…あ…ごめん」
「いや、わかるよ。そいつがおまえの事大事に思ってるってわかるよ。だから…わかるよな、俺達がずっと一緒に過ごしてきた香月の事がどんだけ大事かって大切かって…ユキ、わかるだろ?」
「…うん」
「言いたくないけど…おまえを好きになったのはあいつだから、おまえの所為とか言えるわけねえんだけどさ…おまえが…こっちに来なかったらってさ……悪い、おまえの所為じゃないのは判ってる。でも…おまえ、また帰っちゃうんだろ?居るつったっていつかは居なくなるんだろ?そんなの…麗乃がかわいそうすぎる。…もう俺な、あいつの苦しむとこ…見たくねえんだわ…」
岬の両目からポタポタ零れていく涙を見て、俺はどうしようもない自分の浅はかさに吐き気がした。



 4へ / 6へ 



拍手を頂けるのは、すごく励みになります。いつもありがとう。

僕の見る夢 4 - 2008.11.27 Thu

香月のベッドの端に手を付いて顔をそっと覗き込んだ。
また少しだけ涙が出た。
何も変わっていないと思ったのに…現実は違っていた。
笑って「ユキ、元気そうだな」って…
笑ってくれると思っていたのに…
自殺しようと思うぐらいに、何かに追い詰められていたの?仕事?
…もっと別の事?俺に何か出来る事とかあるんなら…
なんでもするよ。おまえの為なら何でも。

俯いたまま声を押し殺して泣いていると、「ユキ…」って、声がした。
…麗乃を見る。
「…麗乃」
もう陽は落ちていて、廊下の灯りがぼおっと麗乃の痩せた顔を照らしていた。
「…ユキ?…ユキなの?」力のない掠れた声だった。
「うん」
「ほ、…とうに?」
「そうだよ」
「おまえ、こっちに?」
「うん、来たの」
「…夢?」
「違うよ。現実だよ。ほら」
まだ、夢見がちな麗乃の右手を取って、目の前で自分の右手と繋いで見せた。
麗乃はその繋がれた二つの手を凝視しながら、まだ信じられないって顔をしてる。
暫くしてやっと緩んだ顔になって、「…あったかけぇな、ユキの手」って、まるで大事なものに触るみたいに自分の頬に摺り寄せるから、俺は震える声で「レイもあったかいよ…」そういうのが精一杯だった。

「ユキ、顔、もっと見せて」
「うん」俺は涙顔をごしごし拭いて、寝ている麗乃の枕元に近づいた。
麗乃は繋いだ手を離すと、すぐに俺の頬に触れた。
「…ああ、あったかい…」
「麗乃…」
「夢みたいだ…ユキに触れられるなんて…」
「レイ…?」
「夢ばっか見てた、おまえの…笑ってるおまえの顔に触れたくても全然触れられなくてね…あんなに感じてたおまえの体温とか忘れてしまうみたいで…怖かった…」
「レイ…ごめん…」
「謝んな。おまえは悪くねぇ…本気で好きになったのは俺なんだから」
「俺だって、好きだよ」
「フフ…ユキお世辞上手くなった」
「お世辞じゃねえし」
「…ありがと、ユキ」
そうやって薄く笑う顔が余りにも儚かったから…
「俺、麗乃の傍に居てもいい?」
「…居てくれんの?」
「うん、俺が居たいの。迷惑じゃなければ」
「…嬉しいよ」
麗乃の声が震えるから…
「ずっと傍に居るよ」
俺は心からそう思ったんだ。



 5へ 



毎日どれくらいの文字数にするか、どこで切るか、って悩むとこだね~

僕の見る夢 3 - 2008.11.26 Wed

「眞人…あのさ…」
「いいさ、ほっとけよ。おまえは気にしなくていい」
「…」
「行こ?病室こっちだ」
「…うん」
釈然としないが、今は麗乃の方が気になって仕方が無かった。

二人部屋にひとり、窓際のベッドに寝ている姿を目にした時、破裂するぐらい心臓が鳴った。
怖いのと嬉しいとでごっちゃになった気持ち。
ゆっくり近づいて様子を伺う。麗乃は眠ってるようだった。
少しやつれてる?…でもあっちの麗乃と変わんないよ、全然。

毛布から出された左腕には、点滴が付けられてる。
その先…手首に巻かれた包帯を見た時、心臓が止まるかと思った。

なに…?

手首?包帯?…救急車?…辿り着くもんはひとつしかなかった。

言葉にするなんて怖くて出来ない。倒れそうになって後ろによろめいたら、丁度隣の空いたベッドに足が当たって、そのままそこに座り込んだ。

…上手く、呼吸が、出来ない…

「おい、ユキ。大丈夫か?」
「あ…運ばれたっ、て…な、んで?」
…クソッ、頭がガンガンしやがる。口もマトモに動かない。
「なんで?…麗乃、なんで?」
「…」
「あの…さ…あの包帯ってさ…ど、したの?」
「…」
「眞人?」
「香月が自分でやったんだよ」
「…そんな…嘘…嘘だろ!」
「落ち着けって、ユキ。…言いたくないが、これが初めてじゃない…」
「な…んで」
「もう…三回はやってる。今度はちょっと深かったから、大げさになっちまったけどな」
「…」言葉が無かった。
「まあ、命にかかわるとかそんなんじゃねぇし、本気で死のうとしたわけでもないみたいなんだよ。だからおまえがそんなにショック受けなくてもいいんだって」
「…」
「どっちかというと、何も食ってなくて、栄養失調で倒れたつーか…バカだろ?」
眞人は俺に気を遣って殊更に大した事じゃないみたいに言うから、益々胸が締め付けられる。
「ユキ…大丈夫だから。二、三日入院すりゃ帰っていいって医者も言ってるし…な、そんな落ち込むなって」
そう言って、慰めるみたいに俺の頭をぐしゃぐしゃってするから、堪えていた涙が零れ落ちた。

泣きながらも頭ん中は訳わかんなくて、何をどう考えていいのかわかんなかった。

手首を切った?何も食べてない?…ってどういう…
自殺?
自分で自分の命を絶とうとしたって?……信じられない。
麗乃はそんなことする奴じゃ、ないっ!絶対にないっ!だって、そうだろ?あいつほど命の重さを考えてる奴はいねぇし…

身体が震えだしたのが自分で判った。
考えれば考えるだけ訳が判んなくなる。何がなんだかわかんない。そもそもここはどこだ?ホントに俺、ここに居たのか?…いや、元々居ちゃいけない存在だったんだよ。
なのに、俺、何も知らないで能天気にここに来ちゃて…

痛ぇ…これは現実だ。心臓が痛いのも、麗乃がこんなになってんのも…

「なんで…」振り絞るように出した声は擦れてて、変だった。「麗乃は…したの?」
「…なんでは、理由に係ってる?」
「うん」
「それは…おまえが自分で聞けよ」
「…」
「誰も…わかんねぇよ、ホントの心ん中はさ」
「…」
「由貴人、俺仕事あるからそろそろ帰るけど、良かったら、おまえここに居てくれねぇか?」
「俺、居てもいいの?」
「居てやってくれ…香月が目ぇ覚ましたら、もう馬鹿なことすんなって怒鳴ってやってくれ」
「…」
「看護師さんには話しとくから、ゆっくりしてろ」
「…ありがと」
片手を上げて帰る眞人の背中を見送った。
ドアを閉める時、部屋の電灯を消していくから、二人きりの病室がいきなり窓外の黄昏で薄暗い灰色に染まった。



 2へ /4へ 



今回こんな感じで結構続くんで…ごめんね~

僕の見る夢 2 - 2008.11.25 Tue

2.

一年ぶりに戻ってきた。あいつの居る世界に。

俺は桜の木の下で、呆然と座り込んでいた。
見慣れた風景。でも確実に違うこの空気。まるで異世界の俺を拒否しているみたいに感じるんだよ。
少し頭痛がしたけど、構わず立ち上がって歩きだした。あいつの家に向かって。

一年前と変わらないアパート。玄関の表札の「香月」の文字が懐かしい。
良かった、引越してない。
深呼吸をして呼び鈴を鳴らす。

返事はない。
「香月?」ドアを叩いて呼んでみる。
静かなままだ。
留守…なのか。旅行とか行ってんのかな…香月も連絡もしないで勝手にどっかにパッって行っちゃうもんな。
こっちの麗乃も行っちゃってんのかもな。
あ~あ、ついてねぇな…せっかく来てあげたのに…

ドアの前に俯いて途方にくれていると、「ユキ?」と、聞きなれた声を聞いた。
振り返ると眞人が驚いた面持ちでこっちを見ていた。
「眞人!」
「お、おまえ…本物?」
「え?…いや、本物だけど」
「…向こうから?」
「…う、うん」
「いつ?」
「さっき…あの…元気?」
「あ?…ああ…」
「みんな、岬も…麗乃も?」
「…」
「…眞人?」
「ああ…まあ、入ってくれねぇか」
眞人は俺の身体の前に立つと、香月の玄関の鍵を開け、ドアを開けて中に入るよう促した。
「ちょっと急ぎだから、話は後で聞く」
「急ぎって?なに?」
俺の質問に応えず、眞人は部屋の奥に消えていった。そこは香月の寝室だったはずだ。

眞人の後を追って部屋を覗いてみると、眞人は大きめのスポーツバッグにクローゼットから下着やらTシャツを出しては詰めている最中だった。
「どしたの?」
「…」
「ね、まこちゃん…香月、どこいんの?」
「…」
「旅行…か、なんか?」
「…」
「眞人」
「病院…入院してる」
「えっ?…入院?」
「そう…」
「な…なんか、病気?」
「あ…」眞人は手を止めて俯いて溜息を吐いた。
「そうだな…あれは、病気だな…」
「まこ…と?」
「おまえが…」
「えっ?」
「いや、おまえの顔見たら、元気になるかもしんねぇなって思ったりしてな…」眞人は俺の方を見て少しだけ笑った。
何が何だがさっぱり判らないが、香月が入院している事だけはわかった。

「眞人、今から行くの?香月んとこ」
「ああ、着るもんとか持っていかねぇとな。何しろ救急車で…」
「救急車?」
「あ…いや、いいから」
「そ、そんなに酷いの?」
「別に…命に別状は無いから…」
「…命って…」
「馬鹿…そんな顔するな。おまえも行くだろ?」
「行っていいの?」
「あいつもおまえに会いたがってるよ」
「…ホント?」
「ホントだよ」
笑った眞人の顔が、向こうの眞人とおんなじみたいに優しかった。

夕方の渋滞の所為で、隣町の病院までなのにタクシーで一時間も掛かった。
着いた病院は立派な救急センターだった。
エレベーターに乗ってナースセンターまで行くと、見慣れたもうひとりの友人が居た。
「まこちゃん!」
「わりぃ、遅くなった」
「…ユキ、ト…?」
「ああ」
岬は眞人の後ろに居る俺を見て、一目で判るくらい不快な顔をした。それは向こうの岬が俺に一度も向けた事の無い拒絶した態度だったから、俺は一歩後ずさんだぐらいだった。
「な、んで…こいつがここにいんだよっ!」言い方は眞人に向けてではあったが、目線は俺に向いたままだった。
「香月ん宅の前に居たんだよ。香月のこと心配してたから連れてきた」
「なんで…連れてくんだよ。バカ」
「んな事言っても…」
「麗乃が…あんなになったの、誰の所為…」
「岬っ!」
「…って」
「誰の所為でもねぇだろ。全部あいつ自身の問題だろう。…ユキが…ユキの顔見たら元気出っかもしれんし…」
「…」
「岬」
「知らねぇし!」
そう吐き捨てると岬は俺の脇を小走りに通り過ぎて、階段を降りていった。



 1へ /3へ


え?く、暗い?

僕の見る夢 1 - 2008.11.24 Mon

1.


もうすぐ一年になるから、久しぶりに行ってみっか…そんな軽いノリじゃなかったけど、何故か足は勝手に向かっていた。
あの土手の桜の木へ。

昼過ぎに麗乃と一緒に家を出て、あいつは仕事で、俺は自宅に帰る途中だった。
夜は誕生日パーティがあるから、麗乃とはまた会える。そんなんで遊ぶ暇も無いからさっさと帰ればいいのにさ。
どうしてもあの場所に行きたかったんだ。

霞がかった空の下、黄色と緑のコントラストに浮かぶ菜の花が道の両側に揺れている。
そして…
今年も綺麗に花を咲かせていた。薄ピンクの花びらを満開にして、今にも散ってゆきそうな…桜。

俺を向こうの世界に導いてくれた桜の木。
あれからずっと考えていた。向こうの麗乃を。
忘れた事なんてない最後の言葉。
彼は俺の事なんか忘れてしまっただろうか。
それとも、
…傷ついたままで居たりしてないだろうか…
頭に浮かぶ一年前のあいつを思い描きながら、幹を撫ででみた。

本当のことを言えば、俺はここに来るのが怖くて仕方なかった。
あれが現実だったのか、夢だったのか、わからなくなってしまいそうで怖かった。

あいつを好きだって事を後悔したことなんて無い。でも…

「麗乃」と、呼んでみる。
元気にしてる?ちゃんと仕事やってる?

忘れてしまえと思う心と、忘れないでと叫ぶ心と、同じ重さで揺れている。
自分自身でさえままならないこの感情を持て余すには、余りにも大きくなりすぎた。

あの携帯を開いて、あいつの登録番号を押す。
繋る訳無いけれど、呼音が耳に響く。

…ずっと続く音を聞いていると、ふとあの感覚に晒された。
「あっ…」
瞬間、俺の目の前は、暗闇の世界に覆われた。



序へ / 2へ 


ここまで展開速いけど、これからがグダグダですわ(^_^;)
今回は殆ど由貴人視点ですよ。

僕の見る夢 序 - 2008.11.24 Mon

序.


麗乃とするこの行為は、嫌いじゃない。むしろ好きな方。
何故って、満たされてる感じがするし、何よりもお互いがお互いを自分だけのものにしてる感がすげぇいい。
勿論気持ち良いのは当然だよ。
でも、それよりもちゃんと身体で確かめ合える充実感は最高だし、手放せねぇし…

「…んあぁ…れ、い…」
「ユキ…すげ…いい」
「ん…」
絶頂に近いはずなのに、その時ふと思った。
…明日は麗乃の誕生日だっけ。そういや…もう、一年になるんだな…と。
瞬間向こうの麗乃の顔が脳みそのすべてを埋め尽くして、心臓が跳ねた。そして身体全体が反応した。
「れいっ…っ!」思わず咽喉を吐いた。
「バ…っつ!」俺のいきなりの締め付けに中の麗乃も耐え切れず、一気に欲を吐き出すとすぐにぐったりと俺に凭れた。
ハアハアとふたりして馬鹿みたいに息を切らす。

…まずった。ここ半年程はあんまり思い出したりしなかったのにな。選りにもよってかよ…
改めて一年とか思っちゃたのが拙かった。

「ユキ…」擦れた声で呼ばれた。
「おまえさ…」俺の頬をぐったりしながらも撫でながら、麗乃が正面から俺を見た。
正直やばいなぁと思った。ヤッてる時に違う奴のこと考えてたとかバレたら、…怖すぎる。
こーゆー事にはすこぶる敏感なこの人の尋問をどうにかして切り抜けなきゃ…

「…な、に?レイ」出来るだけダルそうに答えた。
「なにがって…おまえ急にイクから、俺びっくりしたじゃん」
「ごめん」
「なんか他のこと考えてた?」
「バカ、そんな余裕あるかよ。おまえのことしか頭にねぇよ」
「ホント?」
「うん」
「ならいいけど…風呂入る?」
「…麗乃、先に入って?俺、後でいい」
「わかった」

裸のまま部屋を出て行った麗乃を見送って、大きく息を吐いた。

なんで…こんなに後ろめたい気持ちにならなきゃなんねぇんだよ。



 1へ 

「君の見る夢」の続編です。あれから一年後のお話。

Simple…じゃねえ! - 2008.11.21 Fri

「Simple」のハルとミナトのその後…


harumina2

箱根に行ったふたりは、気持ち良く温泉を満喫していたはずだが…

「ね、ミナト。やろ?」
「え~、さ、さっきやったばっかじゃん」
「ばか、何度もやってふたりの愛を確かめ合って、ドンドン深め合うだろ?そうするとその先に真実の愛が見えてくるかも知れないって…思わない?」
「そ、…かな~」
「そう!だからやろ?」
「…うん」

のせられてるのわかってるけど、そこも大好きだから仕方ないんですな、ミナトは。

君の見た夢 終 - 2008.11.20 Thu

ふたり1



   10.  消えない夢

晴天の空に手の平を翳し、太陽を見る。

ああ、あの空のどこかに…麗乃が居る世界があるのかもしれない…と、思う。

手の平は光に透けて、光と影をつくる。その指を重なる手が覆った。
「何してんの?由貴人」
いつのまにか後ろに立ってた麗乃が俺を背中から抱きしめ、掴まれた右手ごと絡め取られた。
「夢を…見ていたんだ…」
「そう…何の?」
「おまえの…」
「…見るなよ、夢なんか…俺はここにいるだろ?」
「…」
「おまえを…どこにもやんねぇよ」
そうやって俺を繋ぎ止めていてくれ。俺が…あいつの夢を見なくて済むように…

「ねぇ、レイくん」
「ん?」
「俺ね、おまえに言うの、忘れてたわ」
「なに?」
麗乃の正面を向いて…今度は俺が抱き止める番だ。
「26才の誕生日おめでとう。これからもよろしくな」
「…こちらこそ」
これからも俺は、夢を見るんだろうか…
向こうの麗乃を忘れる日は来るんだろうか…
そんな事は今の俺にはわからないけれど…

抱きしめる両手に力を込めて、俺はこの人の存在を確かめる。


…俺が選んだのは…おまえなんだよ、麗乃…
   






ここまで読んで頂き、感謝申し上げます。
約二年前に書いたものですが、あまり修整していません。
やはり最後のセックスの場面は悩みました。
本当に麗乃は乱暴にやるだろうか…と。書き直そうかと何度も思いましたが、麗乃の気持ちになるとどうしても必要な場面な気がして、そのままにしました。
こういうナイーブなシーンはすごく気を使います。お互いの感情がどこにあるのかを理解しなきゃならない。
この話はそれぞれが傷を持ったままで終わるのですが、二年前に、師匠と勝手に思っている方に見せたところ、このままでは向こうの麗乃がかわいそう過ぎる、と、言われまして…全く自分では思わなかったんですが…www
で、一年後、続編を書きました。
このお話の一年後です。
良かったらそちらもお読みください。
向こうの麗乃をどういう風にして幸せにするか?がテーマです。
月曜からアップします。

こういう機会を与えてくださり、ありがとうございました。
  
               サイアート

君の見た夢 16 - 2008.11.20 Thu

   9.  愛しい人

夜明けまでには、まだ幾分ある。
リビングのソファに深く座ったまま、もう何本目になるかな…煙草に火を付けた。
肺の中の全ての細胞に行き渡るように深く吸い込み、そしてゆっくり煙を吐き出した。

完全に俺の負け。

決して逸らそうとはしないユキの視線に耐え切れなくて、逃げるように寝室を後にした。

後悔していた。
許せない事をじゃない。
嫉妬に任せてユキを滅茶苦茶に抱いた事をだ。
目の前に差し出された身体だけじゃなく、あいつの心さえも全部俺が汚してしまったように思えて、どこまで自分の欲望丸出しであいつを傷つけりゃ気が済むんだと、自己嫌悪もいいとこだ。
涙も出ねえ…

現実に…この世界に居ない奴に…俺と瓜二つ、いや俺自身といってもいいのか…そいつに嫉妬するってのはおかしいんじゃねぇか?実際には居ねぇんだし…
でも…あの声が、目の前の俺じゃないと知らされた時、俺は自分の醜い嫉妬心を抑える事なんて出来なかったんだよ。

これは消える事の無い汚点なのか?こうやって身体を繋げる度に、俺は違う存在の…香月麗乃の存在を確認しなきゃならないんだろうか…
残酷すぎる気がした。
純粋にユキを想い、求め、確かめ合う事だけでこの上も無い幸せを感じていたんだよ、本当に。

…もう、そんな時を取り戻す事はできないの?

「麗乃…」
気づかないうちに目の前にユキが立っていた。俺のジャージを穿いて、上は何も着ないで…
「まだ…早いから、寝てろよ」
「話があるの」
「…寒いから…なんか着ろよ」
少し笑って「大丈夫だって…」言う。いや、風邪引かれたら俺が困る。
俺の前に座って、俺の膝に両の手を置くとその上に頭を置いて俯いたまま…少しずつ明るくなってきた部屋にユキの白い背中の輪郭が次第にくっきりと浮かんでくる。
「俺さ…もうおまえに…抱いてもらう資格ないのかも…知れないねぇ…」
「ユキ…」
「麗乃を裏切っちゃたんだもん」
「もうその話はやめろって…」
「レイだって…嫌だろ?」
「そんなこと…ねぇよ」
昨晩俺がつけた無数の跡が、少しずつ俺にも見えてきて、その細い身体に酷い仕打ちをしたものだと、又悔やんだ。膝に置かれた頭を撫でてやりたくて手を伸ばす。
「俺さ、今日…いや、もう昨日になるんだっけ…向こうの麗乃とね、話したの」
「!…ど…やって?」突然のユキの言葉に、右手が宙で止まる。
「あのね、携帯電話通じたの…あの、桜の木の下でね、掛けてみた…したら、通じた…」
おまえの方から…掛けたの?
宙に浮いた手が拳を握った…酷い感覚が又襲ってくる。
どうしょうもねぇ…
「そしたらね、あいつ、すげぇ興奮しててねぇ…会いたいって…」
聞きたくないって、そんな話、なんで俺に聞かせるんだよっ!
「そんでさぁ…俺のこと愛してるって…叫ぶんだよ、馬鹿みたいに…」
「…やめろよ…」
「…だからな、俺は言ったんだよ…忘れないって…忘れたりしないって…」
どんな顔してそんな言葉を吐くんだよっ!俯いたままじゃ見えねぇよ、おまえの気持ちなんか…
「なんで…なんでおまえは…そんな事俺に…話すの?…そんな話聞いて…俺が喜んであげられるって…思うんか?」
「…思わねーよ、そんな事。たけど…」ユキはゆっくりと顔を上げて俺を見上げた。
泣いてはいない。
…何を考えているか…俺にはわからない…
「おまえに嘘はつきたくねぇから…俺は…ずっとあいつを…あっちの麗乃を好きだから…だけどな、おまえも離したくない。…だけど、おまえを繋ぎとめる権利なんてないからさ。これはおまえが決めなくちゃならないんだ…」
「…」
「わかる?…俺はもう…おまえだけのもんじゃ…ない。おまえがどう言ってもね、許せなくてもね、あいつを好きだって想い、消せないんだ…だからおまえは…俺を捨てていいんだ」
「…んなこと…」
「もう、別れるって…近づくなってゆってくれ。辛いけど、努力する。だけどな、お、音楽はやっていきたいからさ。一緒にバンド続けるのは、許してな…それヤメロって言われたら、俺生きてらんねーし…おまえと付き合うのは止めにしても、昔みたいに親友の付き合いも出来なくてもさ…おまえとね、一緒に音楽やっていければ俺はそれで…我慢するから…」
「おまえ…何言ってんの?」
「だから…おまえが俺を嫌いでも…俺はおまえを…ずっと…好きなんだって」
「…あっちの香月麗乃も好きで…俺も…好きなのか?」
「…身勝手すぎるってわかってるけど…あっちの麗乃を好きになったって、おまえを…おまえに対する気持ちが少しでも減ったなんて思えねぇものっ!…滅茶苦茶だって…都合いい話だってわかってるけど…本当にそう感じてるんだから、しょうがねえだろっ!」そんな涙目でキレられても…
テンション上がりきって、完全に逆ギレ状態だよ。

だから俺に…どうしろってゆうんだよ。おまえと別れてこのまま一緒にバンドやるって選択と、あとは…向こうの麗乃を好きなのもひっくるめて、おまえを好きでい続けろってことなのか?
「…」
「…なんとか言えよ」
「…なんとか…」
「ふざけるな…俺は真剣だ」
「いや、おまえの言い分がな…すげぇ我儘過ぎて…怒る気にもなんねぇつーか…俺が、もう…決めてしまってるつーか…」
「はぁ?なんなの?」
「無理だって言ってんの」
「何が?」
「おまえと別れんの…無理に決まってんだろうが…」そんなの、わかりきってた事じゃねぇか。
ユキにどんな相手ができたって、俺の気持ちは揺るがないって…そんな事、ずっと前に決めてしまってたんじゃねぇか…今更、異次元に俺に良く似た奴が居ようと居まいと、それが俺の気持ちを萎えさせるなんて事はねぇんだよ。ユキに対する気持ちはそんなもんじゃねぇもの。
そうだよ、俺がユキを誰よりも好きなのが一番大事じゃねぇのか?
ユキが俺を好きなのも変わらないって言ってくれたのが本当なら、俺は…

「麗乃?」何も言わない俺を不審に思ったのか、頭を捻る由貴人の肩を掴んで抱き上げるとそのまましっかりと抱きしめた。やっぱりだ…身体、冷たくなってる。早く温めたくて腕に力を入れる。
「れ、い…」
「いいんだよ。もういいんだって…おまえに対する答えね…全然許しちゃいねぇけどな、許す。許すから…」
「あ、わ、わかんねぇんだけど…」
「だから、おまえが誰を好きでもねぇ…」おまえの中のそいつの存在を消してしまう程に俺が愛せばいいんだよな。いつか絶対忘れさせてやるから…これは俺のエゴでしかないけど、許してくれよな。フィフティフィフティって事で。
「おまえを離さないって事だよ。わかった?ユキ」
「…いいの?…俺、レイと…おまえと一緒にいて…いいの?」
「離れたいっていってもね、俺が離さないの。だからね…ユキ。もう勝手に…俺の手の届かないところになんかぜってー行くなよ…なっ?」
「麗乃…」
今な、俺、凄く言いたい言葉あるんだ。
俺は今までその言葉を敢えて口に出さなかったけれど、それは言葉の持つ意味がわからなかったから。
でも今、この言葉を使う意味がわかったような気がする。
相手を想うだけでも駄目なんだね。何もかも…罪や汚さも弱さも…全部ひっくるめて受け止めて、包み込んで…守ってゆきたい…
俺にその包容力があるかどうかはちょい疑問だけど、俺は由貴人を離したくないから…きっとね、ずっとね、おまえをすげぇ好きでいられる自信があるから…

まだちょっと不安定なユキの心…これ以上曇らせぬように、目蓋にとびっきりの優しいキスをして…

「さっきは酷くしてごめんな…」
「…うん…」
「ユキ…愛してるから」驚いて見つめるその目に笑ってやるの。
「本当に…愛してるんだよ、おまえを…」

ねぇ、お互い、許しあって生きていこうなぁ…これからだって、俺は傷つきながら生きて行くんだから。そんなのわかりきってるから。だけど、耐えられない痛みなんてないと信じて…隣におまえの存在を確認してまた前を向いて、一歩一歩、俺の求めるモノに向かって…歩いてゆくだけなんだ…

…この右手に繋いだ手のぬくもりを感じながら…






明日は絵の方を頑張らなきゃならんので、今日終わらせます。
それにしてもユキの最強の技は我儘だったという…(^_^;)

君の見た夢 15 - 2008.11.20 Thu

8. 君を想う心


俺の毎日は、朝からスタジオに通い、ギターに触れ、音を奏でる事だけになっていた。
そうしていれば、余計な事を考えなくて済む。

すべてを忘れたいと願っても、どんな過去でも消すことはできないだろう。俺は実際向こう側に行って、辛かったし一杯泣いたけど、何故だろう。嫌な思い出になんかなっていないんだから。

「夢を見てただけだよ。忘れてしまえばいい」と、麗乃は言うけど、夢じゃねぇもの。現実に麗乃はいたんだもの。それを否定するのは、俺が否定されているのと同じじゃねぇか。そんなのねぇ、違うと思うから、俺は。

俺はねぇ、レイ…向こう側の麗乃もちゃんとね…好きなんだよ…だから…


あの桜の木の下に立ってみる。
今は…向こうから消えた時と同じ様に、緑の葉っぱが生い茂ってるよ。もう春は遠いなぁ…
携帯を取り出して、あいつの番号を押す。掛かるはずもない…でも、もしかしたら…
コールの音が鳴る度、心臓が高鳴って仕方が無い。
『もしもし』懐かしい…聞き慣れた声だ。
「麗乃?」
『…!ユキっ!ユキなのかっ?』
「そうだよ、麗乃」
『ユキ、おまえ…どこにいるんだよっ』
「元の…世界だよ。戻れたんだよ、俺」
『そうか…でも何で…いくら電話しても掛からなかったのに…どうして…』
「今、どこに居るの?」
『桜の…』
「うん、俺も…きっとここが中継地点なのかもな、俺とおまえを結ぶ…」
『そんな事…どうでもいいよ。ユキ、おまえ元気なのか?』
「元気だよ」
『…そっちの俺と?』
「…そうだよ」
『…おめでとう…って、言うべきなんだろうな』
「…そうだね、元に戻ったんだから」
『もう…もう会えないのか?ユキ』
「だってそこは…俺の居るべき場所じゃないもの」
『ユキ…』
「麗乃、俺はね、俺はおまえを忘れたりしねぇからさ」
『俺だって…一生おまえだけしか愛さねぇからっ!』
「…」
なんて恥ずかしい事言ってんだよ…涙出るじゃん。
「ごめん、香月。もう…電話掛けたりしねぇから。ゴメンな…」
『ユキ、待てってっ!ユキ、愛してるから…ずっと…』俺は電話を切った。
麗乃の言葉を、俺は最後まで聞く事は出来なかった。
それをすべて受け入れる事は出来ないから。


その足で麗乃の家に向かう。
麗乃が許していないのはわかっていた。その上で俺を欲しがっているのも知ってる。
だから、
許してもらえなくても、俺はその罪も痛みも全部背負って、おまえに向かいあいたいんだ。
おまえが好きだから。

マンションを訪ねると、日も暮れているというのに部屋の灯りも付けていない。
薄暗い中で、麗乃の姿を追う。詩曲作りの最中なのか、家の中は書きなぐった用紙が散らばっていた。
その中心にぽつんと、麗乃が座っていた。
名前を呼ぶとゆっくりとこちらを向く。
「ゴメン。仕事中だったね」
「…いいよ、あんまり進んでねぇから」
「そう…」それは俺の所為?だったらそれも償わなくちゃいけないね。

「麗乃、俺ね、ちゃんと言わなきゃって思って」
「何?」
「俺の気持ち、全部話したい」
「悪い話なら聞きたくねぇよ」
「…麗乃はさ、俺を本当に必要としているの?」
「今更何?…そんなの、決まってんじゃん。必要だよ。おまえが居なきゃ生きてゆけねぇぐらい必要だよ」
「じゃあ…なんで許せるとかゆうんだよ…おまえは俺を許しちゃいねぇんだろ?…だったら、許さないって言えばいいじゃん!」
「…」
「おまえは卑怯だよ。許せねぇくせに、嘘ばっかついて…おまえを裏切った俺を…責めればいいじゃん!」
俺の言葉に麗乃は少しだけたじろいで俺を見た。
「…こっち来いよ」
「レイっ…」
手首を掴まれたまま寝室へ連れられ、そのままベットに投げ出される。
「やりたくなかったら帰れよ」
「…」
それがおまえへの贖罪になるのなら、俺は迷う事無くこの身体をおまえに捧げるだろう。


深い海の中を泳ぐようにふたり絡まりあう。呼吸もままならない程に追いつめられ、急き立てられて逃げ場を失う。縋るべき優しさも温かさも今は得られない。唯、鳴くしかなかった。
「あっ…う、ん…ああっ…」
「…ユキ…どこにも…行かせないから…」
麗乃の言葉が遠くに聞こえた。それはどっちの麗乃か、俺には判断できねぇ…ただ、差し上げた指の先に微かに触れたものが…

「レイ…ノ…」と、名前を呼んだ。
途端、動きが止まった…

仄暗い闇の中で、男の顔が浮かび上がる。
今、俺が呼んだのはこいつだった?それとも…

不意に両肩を掴まれ、力任せにベッドに押しつけられる。その強さと痛みに声が出る。
目の前の麗乃が、唸るような声で俺を呼んだ。
俺を見る麗乃の目は怒りに鈍く光り、その身体は全てを燃やし尽くすように熱い。
この目を…逸らす事は絶対にできない。何故って、俺はこれ以上おまえに嘘をつけない。裏切りたくもない。
お互いに見つめあったまま、どれくらい経ったのだろう。麗乃の口唇が苦い笑いを形作り、薄く笑ったかと思うと、繋がれた身体を嫌というほど突き上げられた。
「っ!…」身体が戦慄いた。けれども歯を食いしばって、苦痛に耐えて、目は逸らさずに…
決して憎んだりしない。
おまえを否定したりしない。
全部受け入れてやる。おまえの情熱も怒りも憎しみも汚さも、全部…

…俺はおまえを決して手離したりしない。
だから、恐れるな、逃げるな…おまえが俺を欲しがるように俺だって…







☆彡実はここは凄く悩んだシーンです

君の見た夢 14 - 2008.11.19 Wed

由貴人が居なかった三日間は、異次元でのひと月近くにわたる到底信じられないRPGになっていた。

三人とも一概には信じ難く、それでも由貴人が大法螺を吹く性格ではない事は否が応にもわかっていたので、ユキの話が終る頃には、このなんとも信じ難い異次元の物語が真実だと信じざるを得ない状況になっていた。

呆気に取られた俺達は全てを話し終えてホッとしている由貴人を見て、初めて正気に返った。
「…なんか、凄すぎて…」
「千夜一夜物語みてぇ…」
「いやいや、それを言うなら日本むかし話…」
「なんだっていいよ、ホントの話なんだから」バカにされたと思ったのか、由貴人が口唇を尖らせてむくれる。それを見て、元の由貴人に戻ったのだと他のふたりはほっとしたかのように笑った。
俺は笑わなかった。
「あー、でも俺も会って見たかったな、シェフの俺様に。なあ、眞人」
「そうだな。小説家っていうのも手だな。バンドやめたら考えるか」
「ムリムリ、漢字も読めねぇのに小説家なんて笑えねぇよ。マコちゃんはドラマーにしかむいてねぇの」
「うるせぇ」
二人の会話を嬉しそうに見つめる由貴人がここにいる。それでいいんじゃないのか?
許せるだろう?
…俺は俺自身を誤魔化そうと喘いでいる。

真実の焦点がどこかは、全員がわかっていたが、そこに敢えて触れない二人に感謝した。突き詰められたら俺もユキも正気じゃいられない気がしていた。
俺の中では…もう見えていた。帰ってきた時の由貴人の態度や、俺と目を合わさない事も、あの跡の事も…ユキが話している途中で…もちろんそれには一切触れてはいないけれど…そいつの存在が出てきた時点で、嫌になるくらいはっきりと…それはすでに俺の目の前に突きつけられていて、俺はその事しか考えられなくなっていた。

…ユキは…俺とそっくりな奴と寝ていたんだ…

あの跡を見た時から、わかってはいた筈なんだが、衝撃は免れなかった。
裏切られたという敗北感。止どまる事のない嫉妬心。何よりもユキに対する憎しみにも似た怒りを押さえる事ができない…
俺は飲めない酒を煽って、それでも酔えない俺に呆れ果てていた。

帰り際、岬と眞人を見送った後、俺は立ち尽くすユキの手を取った。いつもは熱い筈のユキの指先が冷たく感じた。
「ユキ、話があるんだけど…」
何も言わず目を逸らす。
「俺んちに来てくれる?」
できるだけ穏やかに、由貴人を怯えさせないように、慎重に進めなきゃいけない。俺は何度も自分に言い聞かせた。
コクリと頷いた由貴人は手を掴む俺を振り払ったりはしない。
タクシーの中でも手を繋いだまま…窓の外を見るおまえは何を考えているの?

家に着いてリビングのソファに座らせる。氷を入れたミネラルウォーターを差し出すと、一気に飲み干してグラスを返した。

俺が何の答えを待ってるのか…おまえにはわかってんだろう?

「あのね…夢…」
「夢?」
「うん。俺ね、夢を…見てたんだ。ずっとね…麗乃の夢ばっか見てた…」
「俺の?」
「うん。あっちじゃ俺の居場所なんか無くてねぇ…俺なんかいらねぇって綺麗さっぱり否定されっぱなしだもん…すげぇ辛かったの…」
「…」
「おまえを呼んでも来てくんねぇし……だから…だからね…あいつと寝たんだよ…」
「もういい」
「だってねぇ、おまえそっくりだもん。ホントだよ?顔もね、身体もね、声も…優しいとこだってさ…もうね…全部一緒なんだもん…」
「もういいから…」
「しょうがなくねぇ?…ねぇ、欲しいって思っても仕方ない事じゃないの?…麗乃は…」
「ユキ…」
崩れる由貴人の身体を抱き留める。こんなにも軽いのか…項垂れたまま息を吐く声が嗚咽に変わる。
「麗乃は…俺を許さないよねぇ…許すわけねぇもん…」
許す?俺が許すと思うのか!…俺の気持ちを踏みにじったおまえを…
「許すから、…もう許すから…何も言わなくていい…」
「ご…めん…レイ…ごめん…ね…」

俯いた顔を引き上げて、涙でぐちゃぐちゃになった顔を両の手の平で挟んで…その頬にも額にも目蓋にも口唇にも何度も何度も口唇を落とす。
それは許しの行為でもなんでもなく、俺の束縛の印だから…
許さない…許せない…あたりまえだろ、そんなの…
だけど…
おまえを誰にも…向こう側の俺にも渡しはしねぇから。
おまえが俺しか見えなくなるまで、おまえのすべてに俺の印を付けるよ。

ねぇ、由貴人。一番汚いのはきっと俺なんだよ。

君の見た夢 13 - 2008.11.18 Tue

7. 再生の声


最後の由貴人からの電話は少しも変じゃなかった。
誕生日は一緒に過ごそうって、俺から誘ったんだ。そしたらあいつは嬉しそうに返事をして「今から行くから」って…
それっきり、由貴人は俺の前から消えた。

今は休暇中でメンバー同士連絡を取り合うこともたまにしかなくて、フラリとどこかに旅行に行ってたっておかしくはない。でもあいつが俺に黙って出掛けるなんて絶対在り得ないし、俺の誕生日をすっぽかすなんて…
何か重大な事が起こっていたとしても、簡単に警察沙汰になんかできる筈もない。
どうしたらいいのか焦った。
俺は何も手につかず、ただ、由貴人を待つしかなかった。


岬からユキが戻ったとの連絡をもらったのは、ユキが消えてから三日目の夜だった。
由貴人は自分のマンションに帰っているというので、急いで行ってみると岬も眞人も来ていて、リビングのソファに座る由貴人を囲むように床に座っていた。

由貴人は俺の顔を一瞥してすぐに目を逸らした。
「大丈夫なのか?」
「うん」と、岬が返事した。
「他の奴には?」
「うん、スタッフには連絡したから。急な事情があって親戚んちに行ってたとか、適当に誤魔化しといた」「うん、サンキュ」岬がいつもの調子で笑うから、俺も少し落ち着いた。
「でもな…」眞人がトーンを変えないまま言う。「こいつ、さっきから黙ったままで…なんも言わねーの」
「…」
「…ごめんな、皆な…心配かけてゴメン…」
「なっ?コレばっか」
何があったんだ?
「とにかく麗乃、突っ立ってないでここ座んなよ」
「ああ…」
由貴人の目の前に距離を置いて座る。俯いたユキを眺める。別に怪我とかしてないし、着ているものは俺の知らない服だったけれど、あとは別段変わったところはない。…うん、大丈夫だ…きっと。

「ユキ、何とか言ってくんねぇ?俺もマコちゃんも麗乃もさ、そりゃすげぇ心配したんだから」
「…ごめん。今は…ちょっと説明できない」
「ユキ…」
「そのうち、ちゃんと…ちゃんと話すから…ゴメンナサイ…」
「わかった。由貴人が話せる時まで俺達待つから、今日はもう寝なさい。それでいいだろ?麗乃」眞人が俺を見た。許してやれとでも言うように。
「…ああ」
「俺、寝ても…いい?」
「いいよ。…おやすみ」
ユキは一度も俺を見ないまま、足取りも重そうに寝室に消えていった。

俺達はもう何も話すことはなかった。しばらく経って岬と眞人は帰ることになり、心配だからと俺ひとりは由貴人の側に居るように言われ、くれぐれもユキを刺激しないように念を押された。
それぐらい言われなくてもわかっているけど、よほど俺が動揺しているのがわかったのか、二人は「大丈夫だから」と俺に繰り返した。
何が大丈夫だっ!全然大丈夫じゃねぇよ、俺もユキも…

この三日の間に由貴人に何が起こったのかなんて、俺達がいくら考えてもわかることじゃねーけど、さっきのあいつのあの態度は、笑って許せるような代物じゃねぇってことぐらいは、俺にだってわかってるんだよ。


音を立てないように静かにドアを開けた。ベッドに横たわる由貴人の姿を見た。近寄ってそっと覗くと規則正しく寝息を立てているユキを確認して、やっと安心する。
眠りを妨げないようにずれた毛布をそっと引き上げて…青いパジャマの襟元から覗く白い鎖骨に目がいく。…視力の弱い俺はギリギリまで近づいて、凝視した。
…赤い斑点…キス…の跡?…ゾッとして目を逸らすと耳元から首筋までも幾つかのソレを見つけて…俺はあわてて退いた。
…俺じゃない…違う…俺の付けた跡じゃない…

リビングに戻った俺は眠る事も出来ず、ただ朝が来るのを待った。
何も考えたくなかった…唯、あいつが起きたら俺はどんな顔してあいつに言葉をかけたらいいのか…そればかりを考えていた。


昼前になってやっと由貴人は起きてきた。リビングに居る俺を見るとビックリしたように一歩後ずさったが、何事もなかったように俺の用意したコーヒーを飲んでいた。
急にスタジオに行くと言い出し、そのまま飛び出すユキを追いかけてタクシーに乗る。途中、会話はない。目も合わせてくれない。それは俺にとっても好都合。とてもマトモに話せる状態じゃないのは俺だって同じだからな。

そして由貴人は、スタジオのブースに入ったきり、必要最小限以外は出てこなくなった。
四六時中、ひたすらギターを掻き鳴らし、誰も見ようとしない。
時折、ブースを覗くと、ヘッドホンをしたまま床に寝ていたり、ギターを抱えたまま壁に凭れていたり…その身を音に委ね、音楽の世界に入り込んだまま帰ってこない。名前を呼んでもうつろな目で見るだけで返事もロクにしない。食べるものも促されてしぶしぶ口にする程度。
そうやって由貴人は自分なりに自分を正常化させていたのかどうかはわからないが、一週間もすると、随分と俺達との会話も増えて、食事も一緒に取れるようになった。
それでも時々塞ぎ込み、じっと沈黙したままどこか遠い目をしている時は、俺達は何も言わず、ただ見知らぬフリをした。
誰の助けも借りずに由貴人は自分の居場所を探しているようだった。だからそれを邪魔する事は俺でさえもできない。

そうして二週間も経った頃、四人で遅い夕飯を摂っていると、ユキが思い出を語るような口調で話し始めた…




ここから暫くこっち側の麗乃視点です

君の見た夢 12 - 2008.11.17 Mon

6. 恋風

こっちの麗乃とそういう関係を持った俺はもう歯止めが効かなくなっている。時折こんなんじゃ駄目だと思いながらも、差し伸べるその腕に身体ごと投げ出す。麗乃は優しい。どんな時でもどんな行為でも俺を抱き留めてくれる。その優しさに甘えているのはわかってる。でも…慣れたわけじゃないんだ。一時だって向こうの世界を思わないことはないよ。
ギターだって思いっきり音出して、みんなと合わせたいし、何よりも麗乃の唄とひとつになりたい。これは完全な精神の渇望でしかないんだ。
俺の仕事は音を生み出す事なのに、この世界では何ひとつ生み出せない。
それでもここに居なければならないという現実。
二度と…向こうに帰れないのであれば、この世界に、雨音由貴人の存在しない世界に異端者として、誰にも知られることなく、ただひっそりと生きていかなきゃならない。
それが俺を苦しめるひとつ。

そして、もうひとつ…向こうの麗乃を裏切り続ける事。
たかが三週間やそこらで、俺はこっちの麗乃なしではいられなくなってしまった。
心も身体もおまえを裏切り続けて俺はこの世界で生きているんだ。なじってくれ。呪ってくれ。どんな罵倒だって受けるよ。
麗乃、もうおまえに合わす顔なんてないのかもしれない。
俺は…こっちの麗乃に満足してるよ。

ふたり並んで桜の木に凭れ、夕日に暮れる空を眺める。
ただ黙って側に居てくれる優しさが、有り難いと思った。俺は何も返してやれない。
俺がここに来なければ、麗乃は今までと同じように平穏な日々を過ごせたんじゃないのかな?
こんな…こんな不安定な俺、迷惑じゃないのか?
本当は捨ててしまいたいんじゃないのか?

俺に繋がれた麗乃の指先を見つめると涙が溢れた。その力強さに、あたたかい血のぬくもりに…

「レイくん…俺はひどい男だね」
「んなことねぇよ」
「麗乃が必要なのに、俺が求めるのは…」
「…わかってる」
「…ごめん」
「わかってるけどどうしようもないんだよ、それは」
「レイ…」
「だって…ユキ、俺はね、おまえがなんと言おうと…嫌がってもね、おまえと一緒にいたいの。おまえが俺を愛していなくても、おまえが他の奴を好きだって言ってもね、俺がおまえを離したくないの、俺の意思でね。だから、おまえは罪の意識なんて感じなくていいんだよ。俺だってただのエゴでしかねぇよ」
「…俺はおまえを利用しているだけだ」
「俺が必要だからだろ?俺を頼ってくれてる。それは事実だよ、ユキ」
「それでいいの?」
「うん」
「本当に?」
「うん」
「俺はさ、今まで一度だって本気で人を愛した事なんかなかったんだ。それってどっかおかしいって自問自答してたよ。愛するってどういうことなのか、知りようがなかった…でもな、おまえと出会って、わかったの。おまえと出会う為にこの世界の俺は26年間生きてきたんだって。だから…たったひと月足らずでも、この世界の誰よりもおまえを愛せると思ってる…離す気なんか毛頭ないから」
「…うん」
「こんな奴だけど…ユキを愛しても構わない?」
「いや、…ありがとう」
この麗乃を愛してゆこうと思った。ここに居る限り俺は彼と共に生きて行こう。
進みたくなくても前を向いていかなきゃ…そして、俺の存在意義を見つける為生きてみる…それでいいだろ?麗乃…

「…ね、ユキ、写メ撮らねえ?」
「え?」
「折角の夕焼けをバックにおまえの姿撮っておきたい」
「じゃあ、俺も」
お互いの携帯のカメラでお互いを撮りあった。
桜の木の周りを歩きながら、何枚もバカみたいに…
夕日に染まった麗乃が笑う。
黄昏を纏う空が俺達のシルエットを暗く染め始めた。
なんだろ…目の前の麗乃の姿が霞み始める。
「…!」
なん…なんだ!頭いてぇ…
「どうした?ユキ」
「ん…なんか頭痛い…ちょっと気持ち悪いかも…」
「ちょっと待って、鞄に水あるから…」
麗乃の影が俺の影から離れる。

…駄目だ!離れちゃ駄目…

…なに?…麗乃の身体がぼやけてる…な、なんだよぉ、おかしい…景色も何もかも…
「麗乃っ!」俺の呼ぶ声が空間に歪んだ。
「ユキっ!どうしたっ!」手を伸ばす麗乃の指先を掴もうとして…掴めなくて…麗乃の顔も身体も次第に黄昏の暗闇に溶けて行く。
「ユキーっ…」
俺を呼ぶ声が段々と遠くに消えてなくなった。
そう感じた途端、俺の視界は闇に閉ざされた……



目が覚めた時…桜の木の下にうつ伏せに倒れていた。黄昏だった空は今はもう暗く、金星が低く輝いていた。顔に触れたものを手に取った。
…桜の花びら…?
…おかしい、さっきは葉っぱだったじゃん…
「レイ?麗乃?」俺の傍に居るはずの名前を呼ぶ。
暗闇の中の姿を探す。

「…いるわけないじゃん」

…いるわけないじゃん。あいつは…もうここには居ないよ…だってさ…
…俺はこっちに戻ってきちゃったんだから…



☆彡次から元の世界での修羅場…

君の見た夢 11 - 2008.11.16 Sun

5. 思いの果てに


ユキがこの腕に抱かれて放つ瞬間に出す声は必ずといっていいほど同じ名前で、それは俺と同じ韻を持っていても、同じ顔形であっても、俺ではないことはわかりきっていた。
その「麗乃」と呼ぶ声は、余りにも甘く、切なく狂おしい程で、そいつを呼び寄せようと必死すぎて…
責めようにも俺にはその資格はない。

由貴人が向こうの住人である限り、こちらの世界に存在する意味などないと考える限り、その想いを解きほぐす術はない。
それでも俺の想いは尽きることなく、この人を守り、愛したいと祈る。

純粋なる狂気を持つこの人は、俺さえもその渦の中に引き込んで溺れさせる。俺はそれを最上の喜びと感じるんだ。誰にも邪魔はさせない。…向こう側の奴にも…


或る日、気分転換にと映画好きの木久地に誘われたユキは映画に出かけ、ふたりの帰りを岬ん宅で待つことにした。

「何時頃帰るって?」
「映画見終わったらすぐ帰ってくるって言ってたからな。昼過ぎにはここに来るだろ」
「じゃあさ、久しぶりに四人でご飯食べよ」
「うん」
「で?」
「えっ?なに?」
「どーなってんの?お二人は」
「…ああ」
「うまくいってるの?」
「いってるといえば、いってるんだろうケド…」
「俺さ、思うんだけど…」
「えっ?」
「おまえに前聞いたよな。向こうの香月麗乃とユキの関係の事」
「うん」
「おまえはそれでいいわけ?これって完全に…おまえの方が負けなんじゃねぇの?」
「…」
「ねぇ、ユキが求めてるのはおまえじゃないって事だろよ。そこんとこわかってる?…そんなんでおまえ、幸せとか感じてるわけ?」
「…幸せとか…望んでるんじゃねぇよ」
「じゃあ、なんで…ユキは、ユキはどうすんだよ。おまえの所為であいつ混乱してねぇの?普通なら悩んだりするでしょ?つーか俺にはもう目一杯打ち負かされてるように見えたよ、さっきのユキは…
おまえさ、あいつをどうする気なの?」
「ここに…居る限りは…俺は守ってやりたい。どんなに苦しかろうが、あいつが求めるなら…いや、俺も求めてるのは一緒だけど…苦しいのを癒せるのが、それが…繋がることなら、俺は…すべてを与えてやりたいと思ってる」
「このままで…ユキがこのままこの世界にいる保証なんてひとっつもないんだぜ?…それよりユキがこれからも居る保証の方が少ない。それでもおまえ、大丈夫なんか?ユキが帰ったら…おまえどうすんだよ」
「…」
「おまえだけじゃなくて、あいつも傷つくんじゃねえのか?その時おまえは何も出来ないんだぜ?」
「…わかってる」
…わかっていた…このまま静かに時間が流れるなんて思っちゃいない。ただどうしようもないんだよ。
あいつへの想いは先の事なんてどうでもいいって思えるくらい…
「麗乃…」
「ずっと…好きでいるよ。想いが消えない限りはね」
はあ~と深く溜息を付いた岬が見慣れた顔で仕方なさそうに笑う。
「…おまえがそこまで言うんなら、俺は何も言わねぇけど…つらくなったら聞き役ぐらいはできますから、遠慮なく言いなさい、レイくん」
「ありがとな」

昼過ぎ、木久地と由貴人が帰り、四人で遅い食事を取った。四人の会話は前と同じように陽気で他愛もなく、何の気兼ねも要らない幼馴染みの会話でしかなかった。いつも見せるユキの陰も心してか見せないようにしているのが俺には余計つらく思えたりするのだが、できるだけ見ないようにした。
帰り際、木久地が俺に耳打ちした。
「あいつ、必死で自分の居場所を探してる。大事にしてやれ」
「…」
自分の居場所?
それはどこにあるっていうんだ…
あいつの居る権利を奪ったこの世界に…


帰り道、例の土手を歩く。
夕焼けに少しだけオレンジ色に混じりあっている空との境界線の青さが美しく、あまりに心打たれて目を細める。隣で「黄昏の情景は胸がつまるね」と呟いた。そんなユキの顔を見つめ、その手を取る。掴んだ指先から感じるぬくもりに、今だけはこの上もない幸せを感じている俺が居る事を、知った。

あの桜の木の下まで来るとふたり手を繋いだまま、木に凭れた。
桜の花はもうない。かわりに新緑の若葉が全てを覆い尽くして、葉っぱが揺れるたびにキラキラと舞う光に照らされているユキの横顔を見つめた。


目を上げると輝く光の洪水
縮まる瞳孔の中に
ゆるぎない力と愛で
君を呼ぶ…


知らず知らずのうちに口から出た言葉にユキは驚き
「言葉は麗乃を導くんだね」と、笑った。
俺は唯おまえを見つめ続ける。
笑った顔が次第に翳り、口唇が微かに震え、光を受けた薄茶色の目が次第に潤むのを見とめ、そしてユキは俯いた。

泣かせているのは俺?それとも向こう側の俺なの?




君の見た夢 10 - 2008.11.14 Fri

掛ける必要ないからと部屋に置きっぱなしになっていた携帯を取り出した。
何度かは…確かめてはみたんだ。向こうの麗乃に繋がるのを期待して。でもそんなのは無駄だった。麗乃だけじゃない実家も友達も誰一人として繋がる相手なんかいなかった。
こちらの麗乃以外。
ボタンを押してると、データに残っている麗乃の写メが表示された。
「…」懐かしい…
思わず息が止まった。
「何やってんの?」と、麗乃が近づく。
「う、ん。…写真…」
「え?誰の?」
「麗乃」
「…」
「見たい?」
「見る」
俺は麗乃が照れながら微笑んでいる写メを渡した。
受け取った麗乃はなんだか難しそうな顔でそれを凝視している。
俺は少しだけ遠慮がちに言う。
「似てねえ?」
「…似てねえし…」憮然とした顔のまま、携帯を俺に返すと、プイと身を反してキッチンに向かった。

「…怒った?」
「怒ってねえし。ただ…」
「ただ…なんだよ」
「気にいらねぇって言ってんのっ!」
「だからなにがさ」
「全部だって!」
完全に拗ねた麗乃が怒った顔をして俺を見る。

この麗乃は向こうの麗乃よりも素直だと思う。自分の想いを回り道することなく言葉や行動に出せる。
俺はその時思った。ふたりの麗乃の感情表現の違いは、俺の存在の有無じゃないだろうか。
向こう側の麗乃は俺に対して、物凄く色々と考える性質だ。
それは俺の性格の所為とも言える。
お互いが相手の事を考えるのが当たり前になりすぎているところがあるからな、俺達は。
時々、麗乃の俺への過ぎる思いやりに、俺は申し訳なく感じている。
それが息が詰まるほど締めつけられる息苦しさであっても、それはやっぱり俺を想ってくれる強さなんだと、嬉しくなるのも事実。
だけど…麗乃の俺への執着心があいつの心の豊かさや外へ向ける視線を奪っているとするのなら…俺は居ない方がいいのかな…

俺が存在しないこの麗乃は、こんなにも素直なままに生きている。
もしかしたら、こちらが本物の麗乃なのかもしれない。

「帰りたい?ユキ」キッチンの向かいから麗乃が俺を見る。
「えっ?」
「向こうの世界に…俺の事なんか忘れて…帰りたいんだろ?」
「麗乃…」そんな目で見るな…
「でも俺は…おまえを帰したくないんだ」
その声が俺の頭の奥に響いて、俺を迷わせるから…俺はもうどうなってもいいとさえ思ってしまうんだよ。


その夜、麗乃の夢を見た。
抱き合って一緒にイッた夢。
目が覚めて、泣いていた。
何故かそこに麗乃が居て、「大丈夫か?」って聞くから、「おまえが俺を抱く夢を見た」と、言ったら悲しそうな顔をして「抱いていいなら抱きてぇよ、今すぐにでも」と、呟いた。
その顔は俺の一番弱い麗乃の顔で、何一つ拒否できない有り様で、俺はこの弱った心をどうしようもなかった。
…ごめん、麗乃。俺はどうしようもない奴だよ…
「レイ…欲しいんなら…やるよ」
俺の言葉に黒いまなこが真ん丸になって、そして少しの迷いを見せた。
こっちのおまえなら、こんな時に迷ったりするなよ。先の事なんて考えなくていいんだ。
今、俺は弱っているから。
たぶん俺も欲しいって思っているから…
「抱いてくれ…って言ってるの」
「それで…いいの?」
「…いいよ」
「俺は…」
「好きなら抱けよ」
「おまえが後悔するの、わかってる」
「だから?」
「だから…おまえが傷つくのは…おまえを抱いておまえが悲しんだりするのを見たくない…」
「…今更…卑怯だろ?そんなことゆうのは」
「ユキ…」
「抱いてよ。ひとりは…もういやなんだ…」

沈んだ吐息の中に居た。できるだけ向こうの麗乃を思わないように努力した。でも無理な話だ。この身体を抱く麗乃は、向こうの麗乃の全てを持って俺を追いつめる。
だから、快感に飲まれる最中、俺が口にする名前が同じ響きを持っても、それは両方の意味を持つんだ。

この麗乃はとっくに気づいてると、闇の中、俺を見つめる黒い瞳を見ながら思った。




明日はUPできそうもないので、今あげます。これで半分くらいか?

君の見た夢 9 - 2008.11.14 Fri

4. 刹那の優しさ


この世界に来て一週間が過ぎた。
香月に頼んで街を案内してもらった。
レコード店で俺達のCDを探してみた。勿論あるはずもない。バンド自体が存在していないんだから。
不思議な感覚だった。俺達の曲が存在しないこの世界は、何の変化もないままに現実としてここにあるんだ…
途中、岬の家に寄らせてもらった。もちろん向こうの世界の岬の家とは場所も家も全く違う。
それでもTVゲームに夢中になってる岬を見ていると、やっぱり俺の幼馴染みの岬でしかなく、なんでこんな面倒臭い事になってしまったんだろうって、言いたくなくてもつい愚痴が出る。

香月の家よりも大分おいしい飯をご馳走してもらって、休んでいると部屋の片隅にアコギのギターケースを見つけた。
「岬、弾くの?」と尋ねたら「もう随分弾いてないし…良かったらやるよ。安かったから、音はたいして良くないと思うけど…」そんなん気にしない。とにかく弾ければいい。
俺は早速ギターを取り出して音を合わせた。ああ、何日ぶりだろう、ギターを手にするのは…
弾き慣れたフレーズが気持ちいい…
「ねぇ、なんか弾いてみてよ。そうだ、ほら、おまえのバンドの曲とかさ」
「えっ?」それっていいのかな?だってこの世界じゃ存在しちゃいけない曲なんだろ?
俺達の曲には違いないけれど、こいつらに聞かせていいのかどうか、俺にはわかんねぇよ。
隣に座る作った本人の顔見たら、ポカーンとしてる。いや、おまえが作ったんだよ、って言ってもおまえじゃねーよな…
「ゴメンね、弾けねーわ」笑って誤魔化して、さっき耳にした流行の曲を弾いてやった。

家に戻って鼻歌まじりに弾いていると、麗乃が気持ち良さげに聞いている。
「ねぇ、レイくんは弾いた事ないの?」
「中学校の文化祭の時、やったけど…それからはさっぱりだな」
「なんで…やらなかったの?」
「なんでって…受験忙しかったし…高校入ってからも、ほら、進学校だったからさ、勉強が大変だったじゃん」
「…」それは分かるけど、それでも香月は音楽だけはやめなかった。いや、音楽に生きていた。
「ユキはなんでバンド始めたの?」
「それは…」それはおまえが俺を無理矢理誘ったからだよ。俺はバンドなんてやる気ゼロだったのに、おまえが一緒にやろうってあんまりゆうから…
「音楽が…好きだからだよ」

「ギター上手いね」麗乃が感心したように言う。
「そう?」
「びっくりだよ。ギタリストだからあたりまえか」
「…」
おまえの方がよっぽど上手なんだよ。俺はおまえにすべて教えてもらって、支えられて、手を繋いでここまでの音楽人間になることができたんじゃないか。おまえ無しでは決して今の俺は存在しない。

…でもこの目の前にいる麗乃は俺の手を繋いだ麗乃じゃないんだ…

この麗乃が俺を「好き」と言う言葉を疑ってはいない。だけどそれを認めるわけにはいかないだろう?だって、俺には向こう側の麗乃が居る。
勿論こちらの麗乃が俺を好きになっても何の罪があるわけでもないんだ。この世界では俺という存在は一人なんだし、元の世界に帰れる保証だってないんだし…
だけど俺にとっての麗乃は向こうの麗乃でしかないんだ。

それでも…
抱きしめられると抵抗すらする気がなくなるのは、俺が弱いんだろうか…
顔も身体も…その匂いさえ同じで、俺を呼ぶ声も甘くて痺れるほど熱い。
時々わからなくなる。
おまえはホントウに俺の麗乃じゃないの?



今日も秋晴れで気持ちいい朝です!…しかし今後のユキは曇りのち嵐の予感!

君の見た夢 8 - 2008.11.13 Thu

3. 想いの場所

最初にあいつを見つけた時からわかっていた。あいつを好きになる事は。
どうしてだなんて、そんな事、運命に決まってんだろ?
そんなちゃちな言葉だって信じてしまう程、俺はユキに惹かれていた。
初めての想いに俺は困惑する。
26年間生きてきて、こんなにもいとおしく思える人に出会えるなんて、予想しなかったんだ。
何故だろう。何故こんなにも惹かれるの?
…それはユキの話で理解した。
そう、俺はユキとずっと一緒だったんだ。同じ香月麗乃という違う人間と一緒に生きてきたんだ。

この世界に雨音由貴人という人間が存在していなくても、もうひとりの俺はあいつと共に存在してて、俺と共有し合ってたんじゃないのか?
彼らが十数年と想いを重ねてきたと同じく、俺自身も無意識の中でユキと共に生きてきたんじゃないのか?そう考えなければ、この衝撃的な「好き」という感情の出所の解明なんか説明できやしないんだ。

今まで俺の生きてきた過去において、こんな想いなんて一度だって皆無だし、これまで、本気で好きになったりしたのだって…
今だって彼女どころじゃねえし。それは俺がそういう想いに目覚めなかったからだ。
恋愛対象で好きになったり、誰かを欲したりした事は一度だってなかった。
その事について一番疑問に思っていたのは、当事者の俺だったし、恋愛感情が持てない俺の精神になんらかの異常があるのかとさえ、感じていたんだ。
だけど、それもすべて理解したよ。あいつに出会った瞬間に…
これは必然だ。
ユキは俺の「愛する人」でしかない。
しかし、ユキは違う。ユキの「愛する人」は俺であって俺でない。
じゃあ、どうすればいい?
俺が諦めるべきなのか?…その違う次元の俺の恋人でしかないユキを諦めてしまえと…
そんなこと…できそうもない…できない。
いくらユキが俺を認めていなくても、俺はここに存在するし、消す事もできねぇだろ?
向こう側の香月麗乃の存在だって俺は認めるよ。でもこっち側に来たユキを好きになった俺が間違いだなんて誰が言えるんだよ。
俺はユキが欲しい。好きなんだ。
ユキが俺を選んでくれなくても…諦めるなんて…

ユキに告白した時、拒否されるのは分かっていた。ユキがまだ俺と向こうの俺とを、完全に区別できない今だからこそと、卑怯な手を使ってでもユキに俺の想いを伝えたんだ。それでユキが悩むってのは百パーセント知りながら。
だけど、もし…もしユキがこのままこの世界にいて、向こうの麗乃への想いが薄らぐ様になったらと…
結局俺は、向こうの麗乃と俺自身の境目がなくなる瞬間のユキを狙っているんだよ。
こっちで俺無しでは生きられないユキの弱みを握って、逃げられなくしているだけなんだ。

キスをした時、その反応があまりにも当然に受け入れているユキを知って、向こうの麗乃の存在を嫌というほど知らされた。そして自分の中に湧き出る激しすぎる欲望と醜い嫉妬心に、俺自身全く抑制が取れなくなっていた。
たぶん…俺が想像する以上に、彼らは愛しあってる…認めたくない事実。


あれからユキの俺を見る目がどこか違う。
明らかに緊張している佇まい。戸惑いと不信感の混じった目で俺を見る。
でも時折その緊張の糸が切れる時、とてもいとおしそうに俺を見るんだ。
「レイくん、あのさ…」って、なんの躊躇いもなく呼ぶその顔が、俺が一番好きなユキで…
だけどそれも一瞬の事であって、現実に気づいた顔は暗く沈む。
「ユキ、俺と一緒に居るのが嫌なら、岬か眞人ん宅に行く?泊まらせてもらうよう頼もうか」
「いや、いいよ」
「おまえ、俺を見る度に嫌そうな顔するじゃん」
「嫌じゃない」
「俺が怖いんだろ?」
「怖くない!」
「…」
なんて素直じゃないんだろ。視線外して口をへの字に曲げて膨らませた頬もガキみたいだ。
こういう強情さも惹かれてやまない。たぶん向こうの麗乃もそう…

「…俺は、おまえが許してくれれば、今すぐでもおまえを抱きたいって思ってる」
「やめろよ」
「本当だって」
「聞きたくねぇよっ!」
「おまえが嫌でも…」
「もういいっ!俺、ここ出て行くからっ!」
「ユキっ」
「岬んちに行けばいいんだろっ!」
立ち上がって俺の脇を通り過ぎて足早に玄関に向かう。
岬の家も知らないくせに、どうやって行く気なの?
なんて意地っ張り。そのプライドの高さも彼は愛しいと思うんだろ?そんなのわかってるよ。俺だって…
「ユキ…」その細い背中ごと引き寄せ、たじろぐのも構わず強く抱きしめた。
かなわないと観念したのか、ユキは諦めたようにため息を吐いた。
ねぇ、ユキ、俺はおまえを苦しめてる?

「…好き」
まただ。我慢できない。とめどなく溢れる感情、押さえ切れない零れる言葉に、俺自身が驚いている。今まで言えなかった積もり積もった想いが自分の意思とは関係なく、口をついて出るのだろうか…止まらない…
「ユキ、好きだよ…愛してる」
横から見たユキは泣きそうな顔をして、口唇を噛んだまま何も言わない。

おまえの愛しい人間と同じ顔、身体そして声を持った俺に「好きだ」と言われ、心揺れるユキが見える。
今、おまえの前に居るのは、紛れもなく俺だよ。
おまえを抱きとめる腕を持っているのは、俺。
おまえを心から「好き」と呼べるのは、俺でしかない。
そうだろ?
認めろよ、由貴人。



☆彡いじっぱりのユキに萌え~

君の見た夢 7 - 2008.11.12 Wed

夕暮れのボンヤリした舗道をふたり歩く。
この公園、香月のマンション近くにあったのと同じ…だけど、似てるけど、やっぱり違う。
「とうかした?ユキ」
「いや、やっぱなんか不思議だなって…」
聞いた香月が、フフって笑うから何?って聞き返す。
「いやね、不思議って言ってるおまえが一番不思議な存在じゃないのかなって思ってさ」
「あっ、そう言われればそうだね」
俺も笑った。
「…ユキ、あのな…こんな時なんだけど、とにかくさ、おまえが向こうに戻れるまではね」
「…あ、うん」
「俺のところに居た方がいいって…俺は思うけど…」
「そうしてくれると嬉しいよ。でもさ、麗乃、邪魔じゃねぇ?」
「なんで?」
「だって、わけわかんない奴転がり込んで…仕事とか…ほら、か、彼女とかさ…迷惑かかるんじゃ…」
「彼女なんか、いねーよ、俺」
「…そう…」
なんかバカな事聞いた?でも、26にもなるのに彼女居ないなんて…こいつ、もてないのかね。
「でもまあ、好きな人なら居る」
「あ、そ」そりゃ良かった。
俺自身もそっちの方が楽だ。
…何が楽なんだ?
もしかして、俺がこいつの事を好きになるとか、そんなくだらない事をいちいち考えなくて済むからか?おいおい、いくら麗乃にそっくりでも、こいつは麗乃じゃない。それに昨日会った奴にどうもこうもないだろう。
「何笑ってるの?ユキ」
「え?なんでもないよ」
不愉快に感じたのか、唇を尖らせて麗乃が睨む。
「…何?」今度は俺が聞く番になる。
「あのな…聞いていい?」
言い難そうではあったが麗乃が口を開く。
「うん」
「向こうでな…俺とおまえはどんなだったの?」
ふいに聞かれた問いに一瞬迷ったが、別に後ろめたい気持ちはない。正直に言おう。
「どんなって…親友だよ。幼馴染みで一緒にバンド組んでて、音楽作ってお客さんの前で演奏して…すごく楽しくて…」
「それで?」
「それでって?」
「おまえとの仲」
…なんか、嫌な予感だよ。わかる筈ねぇよな、麗乃との関係…
「言ったじゃん、一番の親友だって」
「それだけ?」
「…なんだよ…!」
突然、腕を掴まれて口唇にキスされた。肩をしっかり掴まれて、振り払えなかった。
何度も噛み付かれるようにキスを繰り返す麗乃の肩を押し返して、やっと引き離した。
たぶん今の俺はとてつもなく赤面しているに違いない。
「な、なんだよっ!いきなり!」
「こういう関係かなって思って…」
「な、んなわけねーだろっ!」
「…ホントウに?」
「…」
「俺が向こう側の俺なら、おまえに惹かれないわけがない。おまえを…親友だけの関係で終らせるわけないじゃん」
「…」
なんだよっ、こいつ、ばっかじゃねーのっ?…まだ出会って一日しか経ってないのに…何言ってんだよっ!
「…ユキ、おまえが好きだよ」
「なっ…言うなっ!」
「なんでだよ」
「おまえは…昨日会ったばっかりで…俺の一日だけ知っただけで…なんで、なんでそんな簡単に言えるんだよ」
「簡単じゃないよ」
「簡単だよっ!」
俺達はずっと…十数年間もお互いを理解しあって、それでやっと想いが通じて、分かりあっての今があるんだ。昨日会ったばかりのおまえに何がわかるって言うんだよ。

「おまえは香月じゃない…香月はそんなに簡単に『好き』とか言わねーよっ!」
「でも俺は…香月麗乃以外の何者でもねぇよ」
「…」
決して俺の視線を外さない強い眼差しは、そう、麗乃そのものだよ。

麗乃っ!どうしたらいいんだよっ!おまえ、俺を呼んでよ。迎えに来てよっ!
ここは俺の居る場所じゃない…

麗乃、俺はまだ26になったおまえの顔見てねぇんだよ。
…おめでとう、って言わせてよ。

上弦の月の光が、公園に佇む俺と香月の影をくっきりと映していた。




☆彡展開はやっ!つか麗乃はやっ!さすがO型!

君の見た夢 6 - 2008.11.11 Tue

「おい、大丈夫か?ユキ」
「あ…ああ、いや、ここまで完璧に俺の存在がないと…逆に感動するっていうか…」
「ってかさ、おまえさ、どっから来たの?」
「…それはこっちが聞きたい」
「おまえの知ってる俺達っていうのが、おまえの世界には存在しているってことだろ?」
「そう」
「じゃあさ、その俺達って、この俺達と一緒なわけ?」
「…」いや、厳密には違う。しかしすべてをここで言っていいのかどうか、悩む。
「ユキ?」
「違うよ。あのさ、人間は一緒なんだよ。見かけってゆうかね、一見して全部一緒。だけど…職業とか…違くて…」
「えっ?俺、料理人じゃねぇの?」
「うん」
「じゃあ、何?」
「あ、あのさ…バンド…」
「バンド?」
「うん、バンド組んでミュージシャンなの、俺達」
「俺…たち?」
「皆な…四人一緒にロックバンドやってるのっ!」
「…うそっ」
「はぁ?」
「…かっけーな」
「ホントだもん」
「四人でぇ?」
「そうだよ。香月がギターとボーカルで、マコちゃんがドラムで、岬がベースで、俺がギター」
「いやいや、信じがたい話だよ、それは」
「信じるも信じないもホントだもん。ルーンアロウズってゆうバンドだもん」
プッと一同が失笑した。そんなにダサいバンド名か?俺はかっこいいと思ってるけどな。
「売れてるの?」
「…まあまあ」だってそれで食っていけてるんだから。お金持ちじゃないけど…
「香月が詩と曲作ってるの」
「俺?」
「うん」
「そりゃ、麗乃は詩人だから詩は書くだろうケド…」
「ロックバンドねぇ」
「中学の文化祭の時は遊びでやったじゃん」
「ああ、ビートルズね」
「なんで、おまえ知ってる?」
「俺、手伝ったもん」
「いや、おまえ居なかったから」
「…いたもん」
「…」
「で、さぁ、向こうの世界から来たって言うんならさぁ、向こう側ではおまえの存在どうなってるわけ?」
「…どうなんだろ」
「心配してねーか?」
「わ、わかんない」なんか心配になってきた。
突然俺が消えたら…麗乃とかパニックになってそう…と、こっちの麗乃を見る。
心配そうに俺を見る顔。
…なんだよ、どこが違うんだよ。
全部一緒だよ…
「ユキ、大丈夫か?」その声の響きも一緒で…身体が震える。
「…うん」
とにかくこうもしていられない。
ここの世界に俺の存在が無いのなら、さっさと元の世界に帰った方がいいだろう。帰る方法考えなきゃ。

「とにかくさ、ユキひとりじゃないからさ。皆なで考えよ」
「うん、その前にさ、腹減った」
「そうだな、腹が減っては戦はできません」
「いやいや、誰も戦わない」
「うるせーよ、まこっちゃん。ほら、飯の用意するから手伝うの」
「ヘイヘイ」
ふたりを部屋から見送る俺に麗乃の手が伸びて…そのまま頭を撫でるから
「ユキ、あんまり落ち込むな」って言うから…俺は…
「後でさ、昨日の桜の木の所、行ってみよう。な」
「うん」
「大丈夫だって。きっと帰れるよ」
「…ん」
俺を見るその目が、見慣れた俺の麗乃の目とおんなじで…俺は胸が痛くなる。


香月の家から桜の木のある土手を目指す途中、俺はこの異空間の景色をひとつひとつ確かめる様に歩いた。
「なあ、ユキ。聞いてる?」
「ん?」
「おまえの世界も、こことおんなじ景色なの?」
「…似てるようで…違う。なんだろ、建物とか…空気が違うのかな」
ひと言では言いがたい。似てるのに、そっくりなのに何かが違うんだ。

「ここだよ、昨日、おまえが倒れてたところ」
「うん」
「同じ?」
「うん、向こうにもおんなじ桜の木があって…」
そこで俺は雨宿りして、麗乃に携帯で…携帯っ!
「ねぇ、俺、携帯持ってなかった?」
「いや、わかんなかった」
「落としたのかな…」
俺は桜木の周りを探し始める。
違う向きで探し始めた麗乃がすぐに声をかけた。
「ユキ、これじゃねえの?」
「…それだ!」
麗乃から受け取った携帯を開いて確かめてみる。
電源は付いてない。
「どう?壊れてない?」
「う、ん…」急いで電源を付けてみる。
「あ、付いた!大丈夫みたい」
「掛けてみろよ」
「うん」
俺は急いで、麗乃の…目の前に居る奴じゃなくて、俺の知ってる麗乃に掛けた。

…だめだ…呼び出しさえしない。
「どう?繋がりそう?」
心配そうに俺を見る麗乃が、俺の知っている麗乃じゃないなんて…不思議で仕方ない。
「…繋がんない…」
「じゃあ、こっちで…俺に掛けてみろよ」
と、麗乃が自分の携帯を出す。
驚いたことに俺と同じ機種の色違いだった。
それは向こうの麗乃ともまるっきり一緒で…
何だか切なくて…

麗乃が俺の携帯を取って赤外線通信を試してる。
「ほら、俺に掛けてみろよ」
差し出された俺の携帯を受け取り、新しく登録された麗乃の番号に掛けてみる。
呼び出し音が鳴り、目の前の麗乃が携帯を耳に当てた。
「もしもしユキ?聞こえる?」
「…うん、聞こえる」涙混じりに俺が言う。
「壊れてなくて良かったな」
俺の涙を拭きながら麗乃が笑う。



☆彡え~企画がちょっと忙しくなりそうなので…(本格的に神様に取り掛からなくちゃなんない)
こっちはぼちぼちと…すまん<(_ _)>

君の見た夢 5 - 2008.11.10 Mon

2. 迷路

夢を見てたんだよ。
おもしろかった~
岬はフランス料理店のシェフで、マコちゃんは小説家希望のサラリーマン。
麗乃は詩人で絵描きだってさ。皆なあんまりそれらしくて笑っちまうよな…
レイくん、笑ってないでさ、何とか言えよ。
…ってところで目が覚めた。

あ、夢だったんだ…えっと、ここは…どこだっけ?
見知らぬ部屋の中、ひとりベッドに寝てる俺。
…俺の部屋じゃねぇし…麗乃の部屋じゃねぇし…ここどこ?

ベッドから起き上がって、明るくなっている窓際に近づいてみる。やっぱり知らないカーテンの柄。それを開けてみると眩しい光の洪水。ああ、朝の光だ。すげぇ天気いい。昨日はあんな雨だったのに…
…やっぱりなんかヘン。

おかしくね?俺さ、昨日、麗乃の誕生日で……そう、あいつに呼び出されて、散歩がてらに桜並木の土手を歩いてて、そしたら急に雨が降ってきて、桜の木の下で雨宿りして…それから、迎えに来いって携帯で麗乃に連絡しようとして…それから…?

それから、どうしたんだっけ!何?…えっ、そう、確か、俺は麗乃の家で…いや、違う。頭打って記憶が無かった。そうだ。そんで麗乃が俺を助けて…でも麗乃は俺の事知らなくて…?へっ?知らない?なんで知らないんだ?
…岬とマコちゃんも全然俺の事知らないって……えっ?えっ?ちょっと待て。昨日話したことは夢なんだろう?でも、あれって…さ…どこからどこまでが夢の話だよ。
はぁ?わかんなくなってきたじゃん。えっ?はあ?…えっと…ここは…麗乃の部屋って事なのかな?…じゃあ、何?俺、今、夢ん中居るの?

部屋を見渡すと、どれひとつとして見覚えの無いものばかり。その中に唯一つ…あった!本棚の中…中学校の卒業アルバムだった。
「これは一緒だよ…えっと…」
俺は覚えて久しい友の顔を次々と見比べ、そして、俺の顔を捜した。…無い。どこにも無い、俺の顔も名前も…なんで…おかしいだろう。ちゃんとあるべき場所には知ってる友の顔写真が載ってる。
「嘘だろ…」
俺は別のアルバムを手に取った。幼稚園の卒業アルバム。四人とも一緒だからな。絶対載ってるよ。
…嘘だよ。俺、載ってねーじゃん!…なんかすげぇ悪質なドッキリとしか思えねぇ…こんなのヤダよ。

あれ?…これ。なんでここに桜ヶ丘高校の卒業アルバムがあるの?木久地と俺の母校だろ。木久地が香月のところに置いていったのかな…おそるおそる開いてみる。
香月の写真は知ってる。見慣れた写真だ。
…!これ…麗乃?麗乃がなんでここに居るわけ?見慣れねぇ俺達の高校の制服着て…はぁ~?あいつ違う高校。しかも卒業してねぇし…なんだよ、コレ、おかしくねぇ?俺、俺は…俺はどこだよっ!いねぇじゃん!…どこにも俺の顔写真なんかねぇじゃん!

「…な、なんだよ、コレ。こんなん、あるかよ…ゆ、夢だよな…」
なんか、アレ?ほら、ゲームとかでさぁ、別の次元に空間移動して冒険とかする奴。あんな感じなのか…なぁ…でも、でもさ、皆なは居るんだぜ?…なんで俺だけ…いねぇんだよ…


あ…涙出てきた。クソッ、もう、何でなんかな。
「ユキ、起きた?…ユキ、どうした?」
部屋を覗いた香月が、泣いてる俺を見て驚いてる。
涙を拭いて、近づいてくる香月の顔を凝視した。
どう見ても麗乃だ。麗乃以外の何者でもない…だよな。
「…麗乃」
「なに」
「俺の事、知らないの?」
「えっ?ユキだろ?」
「ちげーよっ!俺だよっ!俺…雨音由貴人っ!」
「あま…ね…ゆきと…おまえ記憶戻ったの?」
「幼馴染みの…幼稚園から中学からずっと一緒で、親友で、一緒に音楽やってさ、そんで…」
俺達付き合ってたじゃん。…おまえ、違うの?俺の知ってる香月じゃないの?
…もう、なんか悔しくて腹立ってきた…

「ご、ごめん。あのさ、ユキ。ちょっと筋道立てて話してくれない?」
「…」
「記憶が…戻ったんだね」
「うん」
「良かったじゃん」
よくねぇよ。全然よくねぇ。全く全然意味わかんねぇんだって!

「あ、雨音って…言うんだ、名字」
「そうだよっ。雨音由貴人っ!」
「…なんか、怒ってる?」
「別に怒ってねーよっ」
何、今更名前とか聞くんだよ。麗乃のばかぁ…ってこいつは俺の事知らない麗乃で…あーもう、頭ん中ぐちゃぐちゃ…

「なあ、ホントに俺の事知らねーの?」
「昨日おまえに初めて会った以外は…俺の記憶に無いよ」
「はぁ~…」
「ゴメン」
おちつけ、おちつけ。これじゃ先に進まねぇじゃんか。落ち着いて整理しよう。とにかく深呼吸…

「…いや、あのさ、俺も良く把握は出来てない気はするケドさ。これが夢じゃないとするのなら…」
「うん」
「俺は異次元から来たんだよ、きっとな」
「……へっ?」
「…」当然の反応だわな。俺も信じがたい…

「なにが?わからん、おまえの言ってる事」
「…あのな、俺はおまえの事知ってるの。香月麗乃の事をずっと二十年以上も前から。幼稚園の頃から知ってるの」
「…はあ?」
「岬もマコちゃんも知ってる。一緒だったじゃん」
「ち、ちょっと待て。訳がわからん。と、とにかくあいつらも呼んでくるわ」
「ああ、その方が話早いわ。呼んで来てよ」
どうせ説明するのなら、三人まとめた方が面倒臭くねぇしな。
で、寝ぼけ眼の二人と香月を相手に一連の話を延々と説明。
当然信じられないと声を上げる三人。でも俺達四人しか知らない事を話したら、さすがに信じる気になったらしい。
俺は気になる事を聞いてみた。
「あのさ、雨音家ってさ…やっぱ存在しないの?」
「いや、あるよ」
「へっ?」
「俺も知ってる。確か学年二つ下に女の子居たよな」
「そうそう、利恵ちゃんっていう」
「利恵は妹だよ」
「…兄貴はいなかったよ。あそこ一人っ子だもの。母ちゃん同士仲いいから、知ってる」
「…」
そういう事になってるんだ、この世界。
じゃあ、俺の存在だけが、全くないって事なの?
…すげぇ、漫画だよ…
俺、漫画の主人公だよ…

…うれしくねぇよ…



☆彡ファンタジーというより、安易なSFBL…しかも長いんですよ~覚悟してね~( ^^) _旦~~

君の見た夢 4 - 2008.11.09 Sun

夕食は俺の誕生日パーティって事で、豪華なご馳走で、四人とも満足した。
ユキは昔からの友人のように俺達に馴染んでいた。
驚いたのはユキがお酒が強い事だ。
俺と岬は全く嗜まないが、うわばみの木久地に負けないほど飲む。
それでもさすがに疲れたのか、ため息を繰り返すから、早く休むように促した。

「悪いけど、俺のベッドで寝てもらっていいかな。シーツは代えといたから」
「…それはいいけど…麗乃は?」
「俺は仕事する部屋で寝るから」
「ごめんね、ベッド取っちゃって」
「んな事、気にしなくていいから。ゆっくり寝なさい。今日は疲れたろ」
「ん…なんかさ、岬くんもマコちゃんも楽しいね」
「あいつらバカだから」
「フフ…あのさ、なんかね、初めてって気がしないよね。ねぇ、麗乃。そう思わない?」
「うん」
「なんかさ、昔どっかで俺達会った事あるんじゃないかな…って気がするんだけど」
それは俺も考えた。けどな、どう考えたって、俺の生きてきた過去に全く、一片もおまえの存在は無いんだよ。
「そうだね、どっかで会ってるかもな…もう寝な」
「うん、おやすみ、麗乃」
「おやすみ、ユキ」


「どう、寝た?」
「うん、疲れてるみたいだったし…」
「なんか不思議だな」
「ん?何が、マコちゃん」
「俺さ、けっこう人見知りってか、初めての人はダメな人じゃん」
「うん」
「その俺がだよ、あいつに関しては全く抵抗無かった。これって結構珍しくねぇ?」
「それね、俺も思った。違和感ゼロ!昔から知ってる奴みたい」
「なんか懐かしい感じがするんだよな」
「でも俺の記憶辿ってもなんにも出でこないしな。かすりもしねぇ…おまえらあるか?」
「…これがねぇ、ない」
「だろ?コレって変だと思わねーか?俺達の生きてきた過去にあいつの存在が居なくても、三人ともどっか懐かしいってさ…おかしくねぇか?」
「うん」
「でもな、香月。おまえ嫌だろうけど、あいつの出所調べた方がいいと思う。明日あたりでもちゃんと警察に届けろよ」
「そうだよ。家族の人とか探してるかも知れんじゃん」
「分かってるって。ちゃんと連れてくから」
「…なんかねぇ、おまえ、信用ならねぇ」
「つーか、ユキを監禁してしまいそうな気がしてきた」
「香月ならやりかねないな」
「おいっ!」
「まあ、冗談はさておき、俺ら泊まってくから」
「いっけど、ここで寝てもらうしかないけど」
「ああ、ベッドはかわいいユキくん専用だからね」
「なんとでも言え」
「おい、かわいいからって夜中に襲うなよ」
「おまえらなぁ、俺はケダモノかっ!」
「言えなくは無い」
「右に同じ」
「…好きに言ってくれっ!」
何言われても腹が立たないのは、やっぱりユキに魂持っていかれてしまったからかなぁ。こんなの初めてだから、俺もわかんねぇ。

「取り敢えず、香月麗乃くん、26才おめでとう!」
「おめでとう!」
「ありがとう」
「君の恋が成就するように願いを込めて」
「カンパーイ!」

持つべきものは幼馴染みかな。
俺の26才の日々はこうして始まった。



☆彡ここからちょっと、うpスピードが落ちます。
色々書き直しが大変なんだよね~(~_~;)


君の見た夢 3 - 2008.11.07 Fri

「おーい、麗乃!邪魔するよ~」
ふたりでたわいも無い話をリビングでしていると、玄関から聞きなれた声。
「Happy Birthday!レイくん。今日はこのスーパーシェフ岬様が、腕によりかけてご馳走作ってやっから…って……」」
両手に抱えきれないぐらいの紙袋やスーパーの袋を、キッチンのテーブルに置いた岬がリビングでくつろぐ俺達を不思議そうに見る。
「へっ?そいつ誰?」
後ろからケーキの袋をぶら下げた木久地が、何も知らずに「うぇ~す」と続く。
「あれ?香月の友達?」
友達とゆーか、さっき知り合ったばかりなんだけどね。
「誰?誰?紹介して?」
人懐っこい仕草で岬がユキの側に近寄る。続いて木久地も興味深げにユキを眺める。
ふたりに見つめられてユキが困った顔を俺にしてくるから、大丈夫だよって微笑んだ。

「こいつさ、ユキってゆーの」
「ゆ、ユキです。コンニチワ」
「ユキ?かわいい名前だなあ~あっ、俺、臼羽岬っての。こいつの幼馴染みね。岬って呼んでね」
「岬?…きれいな名前だ…」
「うん、よく言われる。ギャップありすぎるって」
「そ、そんなこと、ないですよ。な、んか合ってるって、思う…」
「…まあ、そんな顔して言われると…照れる」
「照れる顔じゃねえだろうが…」
「うっせよ!マコトっ。でね、この黒いのが木久地眞人」
「黒いゆーなっ!」
「だって、黒いじゃん」
「今日わ、マコちゃんって呼んでくれ」
「キモイよ…マコト」
「うるせ!で、ユキちゃんは幾つかな?」
「おい、ガキに聞くような言い方ヤメロ」
「だってユキしかいわねーからさ。普通、フルネーム言うだろう」
「それは…」
「ごめんなさい。俺、記憶喪失みたいなんで…覚えてなくて…」
「はっ?記憶そーしつ?」
「マジで?」
「…はい」
「麗乃、ホントなの?」
「うん、えーと、土手のでかい桜の木があるじゃん」
「うん」
「あそこで…ひろった」
「ひろったって…」
『おい、大丈夫かよ』岬が俺の耳元で囁く。
『っな事言ったって、ほっとくわけいかねーじゃん』

「で、ユキくんはどっから来たのかわかんないのかな?」
木久地の奴がニコニコしながら、先生みたいな言い方でユキと会話してる。初対面の奴とは滅多にコミュニケーション取らないのに珍しい。こいつもユキが気に入ったらしい。
「すみません。わかんないんです」相変わらず舌ったらずの言い方で律儀に答えてる。
「あっ…でも、なんか思い出した」
「えっ?何?」
「俺ね、たぶん…25になってる。なんかクリスマス頃、誕生日のお祝いしたの覚えてるし…あれ?どこだったかなぁ~…う~ん」
「えっ?じゃあ、俺達とタメじゃん。ねぇ、レイくん」
「う、うん。いや、ちょっと下かなって思ったけど…そっかタメだったのかぁ」
なんか、ちょっと嬉しいかも知れね…
「みんな一緒なの?」今度はユキがちょっとビックリしてる。
今風のギャル男の岬とスーツをカッチリ着たサラリーマン風の眞人と、まるでプー太郎の俺とじゃ、同い年とは思えねーか。
「俺達みんな幼稚園からの幼馴染みなんよ」
「へぇ~凄いね。今も仲いいんだ」
「うん、仕事は全然違うんだけどね。俺はフランス料理店のシェフで、眞人は出版会社のサラリーマン。で、将来はエロ小説家になるんだよな~、マコちゃん」
「エロは余計だ。見てろ、今に直木賞取ってやっから」
「うん、有名になったら、俺も超嬉しいよ~」
「って、紹介終ったところで、岬、晩飯よろしく頼むな。なんか俺あんま料理できねーからさ。ユキに何に食べさせるか、悩んでたの」
「そんな…俺、なんでもいいよ」
「…うん、じゃあ、麗乃、ちょっと手伝って」
「オッケ」
「マコちゃん、悪いけどさ、ビールとジュース買ってきて、あと白ワインも」
「え~面倒くせぇ」
「ビールはマコちゃんしか飲まないんだしさ。ねっ、行ってきて」
かわいく頼めば何でも言う事を聞くと思っている岬に、眞人はいつだって逆らえない。
「んじゃあ、行ってくる」
「ん、ワインは安いのでいいからね」

で、ふたりでキッチンに立って下ごしらえをする。
「なあ、麗乃。あいつホントに大丈夫か?」岬が小声で俺に言う。たぶん状況を詳しく知りたいんだろう。でも、俺もあんまりよくわかんないんだよねぇ。
「何が?」
「だって、警察とか届けなくていいのか?捜索願いとかさ、出てるかも知れねーし…もしかしたらどっかの病院から逃げてきたのかも…」
「バカ、ンな事あるんよ。あいつ、すごくマトモだよ。受け答えもしっかりしてるし…」
「レイくん、気に入っちゃった?」
「えっ?」
「たってさ、おまえのお気に入りのトレーナーなんか着せちゃってさ」
「…」岬に返事もせずに、リビングでおとなしくテレビ見ているユキを振り返り…
「もしかしたら…おまえ、マジで…恋しちゃったの?」
「ばっか、声でけぇよ、岬」
「いや、そりゃおまえの好みちゅーのは分かるケド、あいつどーみても男だよ?」
「見りゃわかるよ」
「…そう…なら何も言わねーケドさ…確かにな…かわいいっちゃ~かわいい…」
ふたりしてユキを見たら、目が合って思わず意味無くにっこり…だよ。ユキも首傾けてにっこりって…マジかわいい…

「…ありゃ天然に天使系だな」
「だろ?」
「でも、おまえ、出会って何時間だよ」
「好きになるのに時間は関係ない」
「…すげぇ、言い切ってる…おまえ、本気?」
「本気だよ」
「はぁ~、なんか大変だと思うけどねぇ」
「恋に試練はつきものだ」
「はいはい、わかりました。幼馴染みのよしみだ。協力は惜しまんよ」
「ありがと、岬」



☆彡まだ誕生日終わらないね~^_^;

君の見た夢 2 - 2008.11.06 Thu

適当にレトルトのポタージュスープとバターを塗って焼いたロールパンを用意した。朝ごはんのメニューだな。もう昼はとっくに過ぎてるのに。
「ごめん、こんなのしか用意できなかった」
「全然いいよ、ありがとう。お腹けっこう空いてるみたい」
「そう?じゃあ、食べて」
良かった。俺のお気に入りのトレーナー、丁度いいし、ちゃんと似合ってる。
「おいしいよ、このスープ」
「唯の即席だよ」
「でもおいしいもん」
「そう、良かった」なんだろ、こいつ。喋り方がなんか、舌ったらずで辿々しくて、無茶苦茶かわいいじゃんか。
「パンもおいしいね」
「夜はちゃんとまともなもの作るからね」
「ありがと」
「ところでさ…名前とか…わかる?」
「うん…なんかさ、頭打ったみたいで…」
「えっ?どこ」
「ここ」頭の後ろを指す。そっと触ってみると、酷くは無いけれど、コブが出来てる。
「痛い?」
「うん、少し」
「冷やそ。確か、アイスノンあったと思うから」
一年中冷蔵庫に入れたままの、アイスノンを取り出し、タオルにくるんで、男の後頭部に当てる。
そういえばさっき頭を拭いた時、何も言わなかったけど、痛いのに我慢してたんだろうか…と、思い聞いてみた。
「いや、俺もまだボーッとしてたから、あんまり気づいてなかった」
「どう?」あんまり冷やしすぎてもいけないと思い、伺ってみる。
「うん、気持ちいい」
後ろから見る男の細いうなじや後ろななめに見える顔の輪郭が、なんだか凄く繊細でキレイだと感じた。それ以上に感じるのは親近感。なんだろ、家族にも似た近しい感情。

「名前」
「えっ?」
突然、言われてびっくりした。節目がちに何か考え込むように、頭を傾けるから、アイスノンを持った俺の手も合わせて傾いた。
「えっとねぇ…ユキ…って…」
「ユキ?」
「うん、そう呼ばれてた気がする」
「そうなんだ」それだけしか覚えてないのかな。
「住所とか?」
「…ごめん、わかんない」
その言い方が小さな迷い子みたいに途方にくれたみたいで、保護欲をそそる奴だと思った。
なんだか子犬拾ったみてぇだな。いやいや、こいつは人間だ。
ちゃんと警察とかに届けなきゃならないんだろうけど、そんな気には全くならなかった。

「もう大丈夫みたいだよ。ありがとう」
「そう?」
「うん。ソレ持って冷たかったでしょ、ゴメンね」
「別に、気にしなくていい」
俺はユキの頭のコブをもう一度確かめて、冷たくなったところをタオルで押さえた。
「ほら、しばらく押さえてろよ」
「うん」

コーヒーを差し出すと、ブラックで飲み始めた。俺は猫舌の為、適温になるまでしばらく待つ。
「あの…さ」目の前に座るユキが、上目遣いで俺に聞く。
「なに?」
「名前…聞いていい?」
「あ…」不安げな声に俺はハッとなった。
そういえば自分の名前どころか、何もゆってねぇよ。軽い誘拐犯みたいに思われた?
「ゴメン。自己紹介まだだったな。えーと、香月麗乃っていいます」
「れいの?」
「うん、麗しいにすなわちだね。ついでに、今日で26才になりました」
「えっ?今日が誕生日だったの?」
「うん」
「あ…ゴメンね。なんか俺みたいなの、迷惑かけてしまって」
「別に、迷惑とか思ってねーし…それにね、26にもなると誕生日が特別とか、あんまねーし」
「そう?」
「うん、だから気にしなくていいの」
「うん」
「でね、詩とか絵を描いて暮らしを建ててます」
「へぇ、詩人で絵描きさんなんだ…すごいね」
「別にすごくねぇよ」
「なんかわかんねぇケド、想像して形に出来る人って凄いような気がする」
「…」すごい不思議な回答をする子だ。
「あの…」
「はい」
「こうづきさん…って呼んでいいの?」
「いや、麗乃でいいけど」
「れいの…きれいな響きだよね…」
「そっかな~女と間違われるんだけどね。まあ仕方ねえか」
「そんなことないよ。きれいだけど…こう…芯があるってゆうか…かっこいいと思う」
「…」
なんか顔が熱くなる。なんだ?結構名前に突っ込まれるのは慣れているハズなのに…
「麗乃って呼んでいい?」
「勿論」
なんだかね、すごいかわいい言い方するのな。
おんなじ呼ばれ方でもこんなにニュアンスが違うのかね。不思議…
「あの、麗乃…くん」
「麗乃でいいからさ」
「ん、麗乃」
「はい」
「俺、ここにいてもいいの?」
「俺はかまわねーけど…け、警察とか届けた方がいいのかも知れないし…」
「そう…だよね。俺、自分が何者かもわかんねぇんだし…」
「もしかしたら、おまえを探している人が心配してるかもしんねーし…」
「うん…なんかさ、なんか、思い出せそうな気がするんだよね~なんだろ、すげぇ頭ン中モヤモヤするもん」
「まぁさ、焦らずゆっくり思い出せよ。好きなだけここにいても、俺は全然かまわないからね」
「ホント!…よかった~」
「なんで?」
「だってさ、警察とか行ったら怖そうだもん」
はぁ、やっぱかわいいわ。なんだろ、男にかわいいとか思ったことねーのに。なんか、こいつ見てると本能的に守ってやりたくなる。
「ここに居ろよ、ユキ」
俺の言葉にユキは嬉しそうに頷いた。



☆彡生活感ありまくり^_^;

君の見た夢 1 - 2008.11.04 Tue

1. 出会い

その日は、俺の26回目の誕生日だった。

「腹減った」
冷蔵庫に食い物が入ってなかったので、コンビニまで買い出しに行こうと、まだ肌寒い春雨の降る中を、傘さして出かけてみた。
いつものように、変わり映えのしないパンとカップラーメンを買い込んでの帰り道、せっかくだから、土手の桜並木でも眺めてみようと、寄り道をする。

ああ、あのひと際でかい桜の木、今年はすげぇ咲き誇ってる。確か去年はこの桜の木は、ひとつも花を咲かせていなかったんじゃないかな。一本だけ花が咲いていないのが珍しくて、逆に覚えていた。そうか、今年はキレイに咲いたんだな、おまえ。

もっと近くで見ようと近寄ると、木の陰から脚が見えて、反対側に回ってみると、根元に凭れるように人が倒れてる。
眠っているのか?いや、昼寝をするには天気が悪すぎるし、寒いし、ジーンズの裾も大分濡れてる。
死んでる?…おい、ぶっそうだ。パトカー?いや、救急車呼ばないとダメなのか?

そっと近づいて、様子を伺う。
若い男。俺より、少し下くらい?
白い顔。透き通るぐらいに白い。雨粒が濡らしているのか、伏せられた睫毛も濡れている。髪は茶褐色。長い前髪が、少し湿って額にくっ付いている。
桜の花びらが身体全体にまばらに散っていて、一瞬だが、桜の化身かもって思った。

なんだろ。初めて見る顔なのにどこか懐かしい…

ともかく、生きてるかどうか確かめなきゃ…そっと首筋に指を当てた。
…あたたかいし、脈もある。良かった、生きてる。
「あの、ちょっと…君?大丈夫ですか?」
肩をゆすってみる。
「…ん…うん…」声を聞いて安堵した。
「こんなところで寝ていると、風邪引くよ」
「…あっ…」
「それともどっか具合悪い?…救急車呼ぶ?」
「あの…」
「はい」
「ここ…どこですか?」
…?何?記憶喪失…なのか?……ドラマみてぇ…
「どこって?分からないの?」
「…はあ」
「…」
やはり、救急車を呼ぶべきなんだろうな。俺は腰に入れてた携帯を取り出す。
「…寒い…」
男は身体を縮ませて震えている。このままにしておくのはまずいか。救急車呼ぶにも、それなりの時間がかかるし、とにかく俺がそのままにしておく気分じゃない。取り出した携帯を元に戻し、男を見た。
「俺んちね、すぐ近くだから、とにかく来てくれないか?」
「あ…でも」
「立てる?」
「う、うん」
右手を差し出したら、思ったよりしっかりと掴んでくれて、実在するそのぬくもりにホッとした。
よろめきながらなんとか立ち上がっても、まだふらつくのか、足元がおぼつかない。
よろめいた瞬間、危ないと思ってその腰を掴んだら、その細さに驚いてしまった。身長は…俺より高いぐらいあるのに、なんだ?この細さは。
「大丈夫?」
「あ…なんだか…フラフラする」
「肩貸すよ」
「すみません…」
片手で傘を持ちながら、もう片方でふらつく男を抱きかかえるように歩く。さすがにこっちも体力もガタイもないから、ヨロヨロと歩く羽目になる。

なんとか我が家に着いた。
傘一本ではその役目は半分しか役目を果たさず、随分と濡れさせてしまった。男の薄いジャケットもジーンズも左側はびしょびしょになってる。
とにかくシャワーを浴びるように促すと、その男は素直に従った。
風呂場に連れてゆき、バスタオルを渡す。
「すみません」と、短く答える。
「風邪引かないようにちゃんとあったまってな」そう言いながら男の顔を見ると、濡れた髪の間から覗く目が柔らかく笑ったので、つられて笑みが零れる。

着替えは…俺のでいいな。背格好は同じ様なモンだし…新しいパンツとTシャツとトレーナーとジャージをたたんで、脱衣所に持っていく。丁度、風呂場から出てきた男の身体にちょっと驚いた。
すげぇ白いし、細い…それは大体分かっていたが…やっぱり男だ…それも分かってはいたが…
「…これ、着替え」
「あっ、すみません」
濡れたままの髪の毛から、雫が滴る。思わず横にあったタオルで、その髪を拭いてやった。なんだろ、俺、そんなに世話好きではないのに、かまってやりたくなる。
「あっ、自分でやりますから」
「いいよ、ついでだから」…何がついでなのか、さっぱりだよ。自分で言っておいて可笑しくて、笑いを堪えた。
「…すみません…なんか…」さっきからそればっかりだな。
「じゃあ、着替えたら何か食べるだろ?ってゆうか、気分は良くなった?」
「はい、大丈夫です」
「よかった」
「すいません、なんか、色々してもらって…」
「それ、やめよう。俺達あんまり変わらない気がするんだ」
「えっ?」
「いや、歳…年齢だよ」
「はあ」
「だからさ、タメ語でいいよ」
「そうですか?」
「そうだよ」
「わかった」
素直でよろしい。



相変わらずの長編パラレル文です。すんません<(_ _)>ゆっくりとUPしていきますので…

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サイアート

Author:サイアート
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