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2008-12

A WISH STAR 後編  - 2008.12.24 Wed

二十四日、恒例となりつつある四人でのクリスマスパーティは、俺の家で行われた。
男四人でなにが楽しいのか、それもいつも一緒の仕事仲間なのに、わざわざクリスマスまで顔突き合わす意味がわからねぇと言われれば、まあ、そうかも知れないけどね。
でも一緒に居て、何の気兼ねも一切無くて、心から楽しめる仲間って素晴らしいじゃねぇか。それに本当に楽しいんだから仕方ねぇし。

下らないほど盛り上がって、プレゼント交換もやって、「きよしこの夜」で締める。
イブも終わり本当のクリスマスになる頃、パーティはお開きとなる。

カイやアキラと一緒に帰ろうとするミナトの後姿を見て、なんだがどうしても帰す気にはならなくて、玄関で靴を履き終わったミナトの腕を掴んだ。
?みたいな顔をして俺を見るから、なんでこんなに融通のつかない奴だと思ったが、俺も一切誤魔化す気は無かったから、
「おまえは…泊まっていけ」と、口にした。
普段ならもっと色々と理由をつけたかもしれない。酔っ払っている所為かもしれない。聞きたい事があったからかもしれない。…いや違う。ただ、まだおまえを離したくねぇんだわ。

ミナトはあからさま過ぎた俺に、ちょっとだけ困った顔をしたが、コクンと頷くと履いてた靴を脱ぎだした。
それを見た後ろの二人が、ニヤニヤと笑う。
「あらら、本当のクリスマスパーティはこれからって事なんですか?おふたりさんは」
「おい、アキラ。今更嫉妬は醜いぞ。それから…おまえらふたりとも、盛り上がるのはわかるが、明日も仕事だからほどほどにするのだよ」
「あのな、カイくんの言い方の方が、よっぽどいやらしいんだよっ!」
「俺は常識ある大人として、ちょっとは加減しろってな…」
「あ~もう判ったから、さっさと帰るよ、この酔っ払いっ!」
挨拶もなくドタバタと帰って行ったふたりの後、玄関のドアがバタンと閉まる。
ミナトがゆっくりとこっちを向く。

…無理に引き止めて怒ってるかな。もっと前から約束しとけば良かったんだけど…
ミナトの顔色を伺って、色々と考えてる俺にミナトは少し照れつつもやわらかく微笑んで、
「やっとさ…ふたり、に…なれたね」って言うんだ。
…そんな言葉言われたら、俺、何も返せねぇし…
愛しさが募って仕方ねぇ…満杯になって溢れ出すんだよ、おまえへの想いが…

「ミナト…」
漸く身体を抱きしめた。今日初めての抱擁だ。
朝からパーティの用意だとかでさ、ずっと一緒だったにもかかわらず、なんかちょっと遠くって、寂しい気がしてたんだよ。おまえに触れられなくて、さ。
抱きしめたままキスをした、何回も。それでも全然足らなくて、そのままミナトの腕を掴んで引っ張って、ベッドに直行した。
するのは久しぶりじゃない。この間だって、呆れる位やったのに。
俺の性欲ってもんは、どうもミナトに限っては際限ってものを知らないらしい。

直情的になってる俺に、ミナトは口を開いた。
「あ、ハルくん。片付け…終ってないよ」
「いいよ、んなもん。後で…明日でもいいじゃん」
「でもさ…」
「俺は今したいの、ミナトと」
「…」
「なに?ミナはしたくねぇの?」
「…いや…したい、かも」
「じゃあ、しよう」
こうゆう余裕のない俺にミナトは絶対に逆らわないって自信あるからな。
…ああ、俺は卑怯だなって思うよ。おまえの優しさに付けこんで、いつだって好きに振り回してる。
そりゃおまえだって色々我儘は言うけど、振り回す回数は俺の方が確実に多いよな。

手っ取り早く服を脱がせたミナトをベッドに押しつけ、その身体に覆い被さって、力一杯抱きしめつつも、身体中撫で回したり、キスを繰り返すのを止めないでいると、ふと顔を合わせた瞬間ミナトが笑った。
さっきまでバカ騒ぎしていたミナトとは違う顔で。
…ここには、大切な俺の恋人のミナトがいる。

…ああ、俺達にはクリスマスも誕生日ですら、愛しあうのに関係無い日なのかも知れない…と、思いながら、それでも、そういうイベントがあるからこそ、又愛を確かめる事が出来るのかな…などとちょっとお寒くなりつつも、ミナトのあったかい体温に溺れるこの時間こそが、サンタクロースのくれたプレゼントなのかもなって、結局そんなロマンチックな心情に落ち着いたんだ。


「ミナト、覚えてる?」
終った後、ふたりで一緒に風呂に入って、身体を洗ってから湯船に浸かってゆっくりした。
対面するように座って、お互いの足を撫でたり、手を絡めたりしてね。
「何が?」
俺の質問に指鉄砲で水を飛ばして遊んでたミナトが顔を上げる。
「プレゼント交換」
「そりゃ覚えてるよ。俺ね、アキラからのだったの。手袋。あったかそうだな…」
「違ぇよ。そりゃさっきのだろ?」
「えっ?違うの?」
そんな間の抜けた顔で見んな。バカ。ああ、説明しなかった俺が悪かったよ。
「あのな。幼稚園の頃さ。プレゼント交換会ってあったろ?そん時自分達が作ったカードを交換したろ?」
「…そんなの、あったっけ…」
「…」たぶん…絶対そういうと思った。自分の気に留めない過去の記憶については、本当に喪失するからな、おまえは。
「…それでな、俺はおまえからもらったんだよ、あん時」
「う~ん…覚えてねぇなぁ~」
「いいから、俺の話聞いとけって。そんでな、おまえの作ったカードな。でっかい星が貼ってあったの。
キラキラする金色の折り紙で綺麗な五角形の。それがすげぇキレイでさ。俺、超嬉しかったの」
「ふーん」
「そんで、おまえが言ったんだよ。『ミナくんの星、ハルくんに届いたんだね』って…」
「…俺、そんなこと言ったの?」
「うん、言ったの」
「…すごいね」
「すごいだろ?」
「うん」
「なんかさ…ドキドキしたよ、そん時…」
「わかる…想像したらドキドキしてきたよ、俺も」
「ね…おまえ、凄いよ」
「覚えてねぇけどな。すごいぜ、俺って…ね」
思い出せもしないクセして、えらぶってフフって笑うから、たまらない。
…ああ、なんかもう、またやりたくなるし…

「…俺もなんか、そういうもの、ミナトにプレゼント出来たらいいんだけどな」
「えっ?」
「なんか…そういうインパクトのある、さ」
「あのさ…俺いっぱい貰ってるよ、ハルくんから。色んなもの」
「なんか、あの星に比べたら、全然って気ぃしてるんだけど…」
「バカだねぇ、おまえは。…すっげぇ…すっげぇ輝いてるの、俺の中には…」
「何が?」
「…ハルカって星がさ」
「…」
思いもかけなかった言葉を貰った。
湯煙で少し霞んではいたけれど、ミナトの顔は真剣味を帯びていたし、声だってふざけた調子は無かった。だから、こっちだって軽口で返すつもりは無かった。

ただ…間違いなく俺は今、途方も無いほど間抜けな顔をしている、と、思った。
嬉しくて…ただ嬉しくて仕方がない時っていうのは、言葉なんて出ねぇもんだな。
恥ずかしいのか段々と俯いていくミナトを見ながら、なんか言わなきゃと思っても、本当に何も浮かんでこないんだ。

何の言葉も出ないままぼーっとしていると、俯いたままのミナトが困った調子で口を開いた。
「あ…今のはちょっと…かなり寒かったね」
「いや…全然。つうか、感動してた…」
「も、もう俺上がるわ」
「待てって、ミナト…」
本当に照れてどうしようもなくなったのか、急に身体を起こしそうにするから、俺は腕を引っ張って、そのまま濡れた身体を抱き込んだ。
「…恥ずかしいし…」
「バカ、恥ずかしくねぇし…ありがとな、ミナト」
「ん…」

濡れた額にかかる髪をよけて、キスを落としながら、これじゃ二十年前と同じじゃねぇかと、思う。
こうして又ミナトから輝きを貰って、目指すものを掲げて歩いて行ける。

おまえから貰った星が俺の目指す星であり、
おまえの中の星が俺であるのなら、目指す目的地は一緒になんねぇかな。もしそうだとしたら…
それは、すげえ幸せなことなんじゃねぇのかな…



クリスマスは巡った道を振り返る日なのかもしれない。
その道は本当に曲がりくねってはいるだろうけれど、数え切れぬほどの色んな色にキラキラと輝いているんだ。
そして、その隣りには…並行するように歩く君が居るから。
手を繋ぐ君の道も又振り返れば、色んな色に輝いているね。

少しだけ距離を取って、同じ歩数で歩んでいく。
君と僕のMILKYWAY。
輝く星に繋がる僕らの道は、トナカイのソリのように綺麗な平行線を辿っているのだろうか。
もし、そうでなくてもね、今夜だけは言わせて欲しい。

MERRY CHRISTMAS to You…





クリスマスのお話ってどうしてもこういう感じになってしまいます。
しかし、風呂のシーン多いわ^_^;…

A WISH STAR 前編 - 2008.12.23 Tue

A WISH STAR

まだ、幼い…幼稚園の頃の話だ。

この季節のメインイベントとなるクリスマス会は、誰しもが楽しみにしている恒例行事だったわけで、もちろん俺だって大好きだった。
クリスマスの意味さえ分からないのに、あの音楽と派手に飾られたクリスマスツリー。
赤い服を着たサンタクロースの背中に背負ってる袋の中には何が入っているのか…想像するだけでワクワクするじゃねぇか。

そんでもって、そんな宗教とか一切わけのわかんねぇガキ共にもプレゼント交換会ってシャレたイベントがあった。
前日の工作の時間、各自が作ったクリスマスカードが交換アイテム、然りプレゼントだ。
全員が大きな輪になって、俺らは音楽に合わせて隣りの奴に順繰りに手渡し、曲が終った時に手にあるカードが自分のプレゼントとなる。
当然、子供のおぼつかない技術には大幅な差があるから、出来のいいカードとそうでないものがある。
出来上がりの例として先生たちの作ったサンプル品を模倣する奴が多いが、例によって俺は独自のすげぇクリスマスカードを作り上げた。それは自分で感心するくらいの出来映えで、カードを開くとサンタが飛び出すという仕掛けまであるんだ。
本音かますと誰にもやらないで自分でとっときたいぐらいのシロモノだった。
それでもそんな我儘言う気になんか全然ならなかった。

現実のこのイベントには、心から魅了される充分なパワーがあって、人に施すという一見とんでもねぇ自己満足の世界が、クリスマスというシチュエーションの中ではとてつもなく美しく見えるもんなんだ。
俺の作ったカードを受け取った奴がどんな顔して驚くか、喜んで受け取るかって考えたら、それだけで十ニ分に、この小さな胸のプライドを満足させるものだった。

そして、音楽は流れる。
俺は自分の作ったカードの行方を追うのに必死になる。
…一体誰が俺のカードを手にするんだろう…
隣りに移り、そして又隣りへ…そっちの方ばかりに気を取られ、自分の手の中に来るカードにはさほど注意は払っていなかった。
「ほらっ、ハルくん。ぼーっとしてないで、さっさと回せって!」
隣りのアキラが俺の肩を小突く。
「あっ、ああ、ごめん」と、と、落としかけた己のカードをしっかり持って、アキラに渡した。
…あっ、俺のカードは?…と、さっきまで追っていたカードの行方を捜すが、誰の手に渡っているのか判らなくなってしまった。
…ちぇっ、せっかく、そいつの驚く顔見たかったのに…

曲が鳴り止む。
みんなの手が一斉に止まる。
結局見失ってしまったカードの行方にちょっとだけ落ち込んで、ため息を吐いた。
俺の手元に残った真っ黒なカードを恨めし気に見つめた。
表紙には何も無い。
…俺が作ったのはこんなんじゃなかったのにな。表紙にだってリースにロウソクなんか折り紙で切り抜いて貼ったんだよ。すげぇキレイなの…

半分に折られた黒い画用紙に失望しながらも開いてみると…
目に飛び込んできたのは…
なんだよ、これ…

…星だ…

カードからはみ出すくらいにデカイ金色の星が、唯ひとつ…あった。
メリークリスマスの言葉もサンタももみの木もなにも無い。
本当に何一つないんだ。
ただ、五角形の綺麗な星が、キラキラと輝いていた。

俺は息を呑んだ。
じっと見ていると何だがわからんが、段々と胸の鼓動が激しく打つのが判って、そんで身体が熱くなってくる。

なんか…なんかドキドキする。

周りの奴らは「サンタさんかわいいっ!」とか、「このツリー、よくできてんなぁ~」とかはしゃいでいる。
隣りのアキラが俺の肩を抱くと、自分のカードを目の前に差し出した。
「ほら、見て見て、ハルくん。俺のカード、クリスマスケーキなの。美味そうだよ」
「…」ああ、そうかい。良かったな。おい、邪魔だから俺のカードの上にそのケーキかなんかわからんようなのが貼ってあるカードを置くなよ。
「おまえのは…何?コレ…」
「星だよ」
「…そんだけ?」
「うん」
「ハズレだな」俺の耳元にそう囁いたアキラは、ニヤッと笑って走り去っていった。

…ハズレ?コレが?…本気で言ってんのか?アキラ。違うよ、コレすげぇよ。すっげぇプレゼントだよ。

俺はずっと立ち尽くしたまま、そのカードを見つめていた。
綺麗に切られたキラキラ輝く五角形の星が…まるで…俺の星みたいに思えたんだ。

誰かが俺の前に立った。少しだけ星が影になった。
…邪魔だ、どけよ。せっかくキラキラしてんのに…
「あっ、これ…ボクがつくったのだ」
「えっ?」俺は聞き覚えのある声の主の方を見た。
「コレ…おまえが作ったの?」
「うん、ミナがつくったの。お星さまキレイでしょ?」
「うん…」
「ハルくんに届いたんだね、ミナくんのお星さま」
そう言ってミナトは、あのふわっとした、お花みたいな微笑を俺に向けたんだ。

「…あ、りがと、ミナ…ト」
「どういたち…ま、して…ふふ」
そんな無邪気な笑いするから、俺もなんだか釣られて笑った気がするよ、そん時。


俺に届いたおまえの星が…俺の星になったんだ。
ドキドキする。まるで…目指すものを掲げられたみたいな…本当にドキドキしたんだ…

結局、あん時の俺のカードが誰の手に渡ったのかは、判らず仕舞いだったけれど。なんかな、そんなのはどうでも良くなってしまっていたんだよ。
あまりにもミナトのくれたプレゼントが凄すぎて…

そして、二十数年たった今でも、こんな風に思い出しただけで…ドキドキした胸は鳴り止まないでいるんだ。




せっかくのクリスマスだからだしとこ!
これはつまり…感受性のお話です。
他の人にはなんでもないもの(人)が、或る人には輝く星に見える。
そんなお話です。
ちなみに自分の幼稚園もありましたよ、カード作るの。不器用な自分はマトモなサンタが出来なかった…(T_T)

しかし…ミナトか…被ったね^_^;

リンクについて - 2008.12.12 Fri

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ご一報いただければよろこんでご挨拶に伺います。

〈ブログ名〉aqua green noon
〈管理人〉saiart
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あとがき - 2008.12.09 Tue

「君の見た夢」「僕の見る夢」にお付き合い頂きありがとうございました。

「君…」は二年前「僕…」は一年前に書いたものです。
「君の見た夢」を書き終えた時、まさか続編を書くとは思わなかったので、「僕の見る夢」のつじつまが合うのかどうか不安でした。
ところが、書いていくうちに、都合よくというか、面白い具合にアイテムや行動がばっちり合うんですね。
キャラが勝手に動いているにも関わらず。
最後の麗乃の傘を渡す場面とか、最初に雨にしといて良かった~と、しみじみ思いましたよ。
あれがなかったらあそこは書けないですから。
傘を渡したのも麗乃の勝手な行動です。
私はある程度、キャラを内に入れたら後は任せる方なので、キャラの行動にこっちが驚かされることが多いですね。

時間軸については…突っ込まないでください。
当時「デジャヴ」という映画で、違う次元に行ったら、元の次元は自然消滅する、みたいな台詞があったので、それをお借りしました。
だから向こうのユキと過ごした時間もこっちの麗乃の一年間も自然消滅したとお考え下さいね。
…考えさせて~すんませんね~知識がないもんね~あはは

gokuyume2

このイラストは向こうの麗乃とユキが過ごした幸福な時間を描きました。
「stay」とありますが、s/m/a/pさんの曲です。あの歌詞に泣かされました。
僕らずっと共に生きよう、5,60年ただそれだけでいい…
そんなの叶わないことはわかっているんですよ、このふたりは。
それが、悲しかったのです。
それでも向こうの麗乃が幸せになると願いたいです。

どうでもいいあとがきでした。

ありがとうございました。
今度はもっと軽い奴にすっからね~<(_ _)>

僕の見る夢 終 - 2008.12.09 Tue



そして一年が始まった。俺にとっては二回目の2005年の春だ。
移り往く季節の中で、世の中の事件事故もすべて全部、同じ繰り返しって事もなく、それでもおかしいと思うほどの変わった事もなくほぼ同じような過程を踏んでいる。

同じようで違う世界かもしれないって思ったりもした。
何故なら、香月の書く新曲はあの一年間に書かれた曲と全く違ったからだ。じゃああの曲達はどうなった?って考えたけど、どっちにしろ香月の作る曲には変わりはしないだろう。
香月の頭ん中に眠ったままになるのか、それともまた違った形で生み出されるのか…それだけの話だって思う。

ああ、そうだ。あの桜の木は俺がこの世界に戻って来て間もなく、季節はずれの春雷の一撃に根元までバッサリとやられた。
折れた幹の中に黒焦げの携帯が見つかって、それに雷が落ちたんだと、誰かが言ってた。
まあ、それが誰のものかは言わないでおく。
これで俺の向こうへの行く道は完全に閉ざされたわけだ。
…正直ね、悲しかったりもしたよ。
だけどさ、あの木を見るたび、胸がざわざわしてたのも事実だったから、なんか…きっぱりと諦めもついたよ。

俺と香月の仲は相変わらずだ。馬鹿みたいに仲がいい。
時々「ユキは優しくなった」って、やってる最中に言ってくるもんだから、はっ?ってなる。
そりゃね、言わないけど実はおまえよりちょこっと年上だから、ね。オトナなの。


向こうの麗乃を忘れる事は一生ないって思う。
忘れるって言うか…ぶっちゃけ好きだよ、今でも。
当たり前だろ?そんな簡単に冷めるかって話。

後悔はずっとしっぱなしだ。今でも二人の過去を消してしまった事への罪をどう償えばいいのかって悩んだりする。だけど…もし俺と麗乃の立場が逆だったらって考えると、たぶん麗乃も同じ事をしたと思うんだ。
俺を苦しませないために。

人は苦しみを耐える事より、苦しみを与えてしまった事の方が辛いんじゃないかなって思う。
その相手が好きな人だったら尚更だろう。
無責任な言い方かも知れないが、向こうの麗乃には心から幸せになって欲しいと願ってる。
そしてこの麗乃には、俺の全部をあげたいって思う。
全部って?全部だよ。
…愛想つかされない限りわね。

おまえら二人の一年間を奪った事への責任は、俺が死ぬまで負うこの罪悪感で勘弁して欲しい。

でもな…
長い夢だったような気もするんだ。
ただ、この夢は死ぬまで誰にも喋っちゃいけないし、知られちゃならない。
俺だけの秘密。
俺だけの宝物。

時折、心の奥から引きずり出して覗いてみたりすると思う。

「愛してる」って言ってくれたことも、俺を抱いてくれたことも…
「許さないけど許す」って言ってくれたことも、あの悲しい曲だって、俺は絶対忘れない。



あの「宝箱」に詰まってんのは、
大切な、大切な…


俺だけが見る夢なんだ…


bokuyume



長い間お読み下さり、ありがとうございました。
感想などございましたらご気軽にどうぞ~
次回作も楽しみに…していいのかどうか…自信はありませんが、がんばります。

僕の見る夢  エピローグ - 2008.12.09 Tue

エピローグ

「レイくん、HAPPY BIRTHDAY!26歳の誕生日おめでと!」
「ありがと」
「おまえも四捨五入したら30だな。いい加減歳なんだから身を固める決意表明でもしろ」
「そうだよな」
「…おまえらだけには言われたくねえよ」
「まあね、三人とも彼女もいないんじゃねえ、身を固める術がねえ…ってさあ…香月、おまえ何か良い事でもあった?」
「あ?な、んで?」
「なんでって…すげえピンクのオーラが出まくってる」
「…わ、わかるんか?すげえな、岬」
「いやいや、マジで?…って、どした?」
「あ、いや、さっきな、買い物の帰り、土手のでけえ桜の木があるじゃん。あそこでな、出会ってしまった…運命の人に…」
「…ど、どんな娘だ?」
「なんてゆーか…なんかな純で儚げでそんでちょっと気が強そうで、超きゃわいいの…」
「…きゃわ…て…」
「ドキドキしたの」
「おまえは女学生かっ!」
「…名前は?」
「あっ、聞くの忘れた…」
「は?おまえさ…」
「…そんなもん…傘貸しただけだからな…」
「おまえ夢でも見たんじゃねえ?」
「桜の木に棲む妖怪だったりして」
「は?」
あれが妖怪?んなことあるかよ。妖精だったらありえるか…でもあいつの目はちゃんと俺を映していた。
なんだかわからんけど、目があった瞬間惹きつけられた。
手が触れた瞬間胸が震えた。
…これは
「やっぱ恋かなあ…」
「はあ~…マジで?」
「名前ぐらい聞いとけば良かった…」
「とうとう本物の魔物に心奪われたか」
「レイくんさ、二次元脱出したかと思いきや、飛び抜けて四次元に行っちゃてるわけ?」
「うっせ!人の恋路の邪魔すんな」
「…邪魔するも何も…存在してんですかぁ~」
「まあいいから、取り敢えずだな…ほら、こいつにその不毛な愛でも分けてやってくれ」
「なに?」
「俺達ふたりからの誕生日のプレゼントだ」
「え…猫?」
「おまえ猫に目がないだろ?友達が生まれたばっかの猫の引き取り手を探していたから、白いの貰ってきてやったぞ。可愛いぞ、喜べ」
「これで、ひとり寝の寒さを凌いでくれたまえ」
「はあ…」
籐籠の中、敷き詰められたバスタオルの上に、小さな白い猫は丸まって寝ていた。
そっと抱き上げてみる。
眠そうな目を擦りながら、にゃあと鳴いた。
なんだか、…さっきの奴に似てないか?
「へえ…ほんとに真っ白だな」
「名前決めれば?」
「…ゆき」
「は?」
「名前ユキに決めた」
「白をイメージしてユキとはまた安易な…」
「でも可愛いじゃん、ユキって…ユキ、ユキ」
「あいつに見せてえな」
「あいつって?誰の事だよ」
「…さっき話した奴だよ。桜の木の妖精。俺が恋しちゃった男!」
「…」
「…」
「「男ーっ?!」」


いつかまた会えるような気がするんだ。
自慢じゃないが、まだ外したことないんだぜ、俺の未来予想。
あの桜の木の下で、きっと笑って待っててくれるよな、きっと…








この回だけ、向こうの麗乃視点です。
お分かりでしょうが、桜の木でユキが待っていることはないです。
彼の見る夢(願望)なのです。
で、次で終り。

僕の見る夢 17 - 2008.12.08 Mon

10.

ゾクッと寒気がして目が覚めた。
雨の音が聞こえた。
桜の花びらが目の前をひらひらと落ちていった。

帰ってきたんだ、あの時に。

俺は座り込んだまま目を閉じた。
たぶん…もうすぐ…やって来る。
ほら、足音が近づいてきた。

「君…大丈夫、ですか?」肩を揺さぶりながら、俺に声を掛ける。
俺はゆっくりと目を開けた。
目の前には見慣れた、大好きな顔がある。

「こんなところで寝てると、風邪引くよ…それとも、具合悪い?救急車呼ぼうか?」
「…いや、大丈夫…です。ちょっと寝てちゃってて…」
「こんな雨ん中?」香月が呆れたみたいに苦笑した。
「…そう…です」…そんなに俺を凝視するなよ…恥ずかしいだろ。
「…立てる?」
「うん……?」立ち上がろうとすると、香月の手が俺の目の前に差し出された。
俺はそれを見つめながらも、そのままひとりで立ち上がった。すると香月はその手を引っ込めて、少しだけバツの悪そうな顔をして自分の鼻を掻いている。

「大丈夫そうだな」
「はい…」
「じゃあこれで…」
「どうも」
俺が頭を下げるとあいつは少し笑って、そして自分の行く道に戻っていく。

…これでいい…これで彼の人生に俺の記憶は残らない。何の傷も負わせなくて済むんだ…
俺は彼の後姿を見送った。
と、すると、彼は立ち止まって踵を返し、元の道を引き返す。
小走りに俺の前まで来ると、差していた傘を畳んで、俺に差し出した。
「これ」
「えっ?」
「いや…この雨まだ止みそうもないし、おまえ傘持ってなさそうだから、貸すよ」
「…いや、でも、おまえが濡れるからいいし…」
あっ、おまえって言っちゃたよ…
「俺ん宅ここから近いから、濡れても大した事ねえの」
「…返せないかもしれねえし…」
「いいよ。返してくれなくていい。安物だからおまえにやるよ」って、無理矢理俺の手を掴んで押し付けた。
触れた瞬間、ヤバイと思った。だって俺、すげえビクッってしたから、麗乃も驚いて俺を見たし…
「あ…ありがと…じゃあ貰っとくね…」そう言うのが一杯だった。
「…あ、…おまえも早く帰った方がいいと思うよ。今日は寒いし…おまえ身体弱そうだから、家帰ったらちゃんとあったまんな」
「…うん」
「…じゃあ」
「…さよなら」
そして麗乃は駆け足で来た道を戻り、雨の中を走ってゆく。
もう二度と…会うことは無いその背中が視界から消えてゆくまで、俺は見送った。

そして、
俺の手に残ったあいつの傘をじっと見つめ続けた。

…なんだよ?今の遣り取り。
いつもの俺とおまえじゃん。
今初めて会ったはずだ。
なのに…あんまり普通すぎるだろう…
昔から知ってるみたいに…
麗乃とずっと一緒みたいに…

…泣きたかった。でもこれだけじゃ終われないのも判っていたから…
俺は傘を脇に抱えて、携帯を取り出す。

今度は…この世界の異次元ともいえる俺の世界の時間を同じように戻す。

そしたら…


時刻は2005年4月8日を示している。俺が桜の木に手を押し付けると、…2006年4月23日AM六時五分、俺が向こうを発った時間を指した。
俺はひとつだけ深呼吸をする。
そしてまた歩き出す。

2005年4月8日に向かって…




そして、俺は一年前の俺の世界に戻ってきた。


麗乃の家の玄関を開けようとしたら、その本人が飛び出してきた。
「…びっくりした…」
「麗乃…なに急いでんの?」
「何って…急に雨降って来ただろ?おまえを迎えに行こうとしてたの。ユキ、濡れなかった?」ドアを閉めながら麗乃が俺の様子を伺う。
「あ…うん。土手のところでね、すげえいい人が傘貸してくれたの」その傘を傘立てに仕舞いながら、大切に使おうって思った。
「いい人?男か?」
「うん…麗乃に良く似た人だった」
「おまえ…浮気すんなよ」
「しねえよ。俺が好きなの、レイくんだけだもん」
「…どうしちゃたの?ユキ」
「バカ、誕生日だからサービスだよ、サービス!」
「うん…でもなんか…おまえ、感じが変わった…髪切った?」
「あ?そ、そうだよ」
「…ちょ…これ、どした?」俺の手首の包帯を見た麗乃が慌てて言う。
「…紙で切ったんだよ。紙もあなどれねえな。めちゃ痛かったし…」
「おまえ…気をつけろよ。ユキが傷つくの、俺、嫌だからな」
「…」わかってるよ。
そんなこと俺だっておんなじだよ。

リビングに向かう麗乃の背中を見て、急に切なくなった。
「レイ…」
「あ?」
「レイくん…あの…ごめん、ごめんね、麗乃…」
「な、何?なにがだよ、由貴人」
「…」
おまえの一年分のすべてを消してしまった事。
謝っても許してもらえないけれど…ごめん…
「…ユキ?」
「おまえにね…なんかあやまりたかったの」
「だから何を?」
「…理由はねえの」
「ねえの?」
「うん」
「…わかんねえな、ユキは」そう笑って麗乃は俺を抱きしめてくれた。
ただ何も聞かず抱きしめてくれる麗乃が大好きで…仕方が無かった。

そして俺は二回目のそれを言う。

「レイくん、26歳の誕生日おめでとう」







「髪切った?」のとこで、おまえはタモさんかっ!と、いつも笑ってしまいますわ~www
あと2回で終わります。

僕の見る夢 16 - 2008.12.06 Sat

9.

あの携帯を手にして、あの桜の木に向かった。
まだ日の出には早い。
肌寒い空気の中を俺はひとり走った。
もし、出来るなら…俺は…

ハアハアと息を吐く。土手の上を走り続ける。
薄暗い闇に仄に白く浮かぶ桜の木は、なんだか俺を待っているみたいに思えた。

やっと辿り着いた桜の木を前に呼吸を整えて、携帯を開いてみる。
液晶に表示される今の日時。
俺は右手に携帯を持ったまま、左手を桜の幹に置いてみた。
すると、携帯の日時が一瞬にして変わった。
示したのは2006年4月28日PM2時、今より五日後、俺が向こうの世界から帰ってきた向こうの時刻だ。
だから、こうすれば…

俺は一歩だけ、時計回りとは逆に歩く。
…液晶の時刻が一時間だけ戻る。
ほら、ようやく判った。俺用のタイムマシンの使い方。
以前から感じていた、このタイムラグの摂理。
もしかしたらと思っていた。
でも、試す気なんてなかったんだ。

だってこれは…


許されない事だからだ。


俺は歩を進める。そしてぐるりと一周したら、画面は丁度一日前の時刻を指す。
確信してからの俺の行動は早かった。とにかくこの木の周りを歩けばいい。
歩みを速める…
時刻を示すデジタルは目も止まらない程の速さで変わっていく。
…息が上がる。
苦しい。
でもこんなんじゃ足らないよ。
あいつらに与えた苦しさと比べれば…

そして、365日と二週間分をぐるぐると回った俺はやっと足を止めた。
時刻は2005年4月8日PM4時を示していた。


幹に凭れた俺は胸に携帯を抱いたまま、祈った。
向こうの世界に辿り着くように、懸命に祈った。


運命の扉なんてかっこつける代物じゃねえだろ?
こんな携帯をパスポート代わりにしやがって。
早く俺を連れてけよっ、桜。








明日は朝には無理そうなんで、今アップします。

僕の見る夢 15 - 2008.12.06 Sat

8.

「痛いか?」
「…痛くない」
「…ユキは素直じゃないからな。まあ…痕は残んないと思うけど…」
夜になって、当然の如く香月は俺の家に居る。
風呂から上がって、どうしても傷の手当をするって聞かないから、してもらった。
傷を見たけど、あれだけ血が出たのに、もう傷は塞がってるもんだから、改めて人体の神秘を身を持って感じたよ。まあ、そんなの考える前に馬鹿な事するなって話だけどな。

「由貴人は…死にたかったのか?」
「いや…そんなんじゃないよ。ただ…」
「ただ?」
「あいつの痛みを知りたかったのかも…なんかね…」
「俺が…諦めろって言ったことが…おまえの負担になった?」
「ちがうよ…そうじゃないって」
わかってるよ。諦めるしかないもん。
だけどさ…どうしても考えてしまう。
「麗乃は…俺なんか好きにならない方がいいと思うよ。おまえは俺の所為でしなくていい思いばっか抱えてるし…俺はおまえの役に立たねえし…ちっとも気の利いた事とかしてやれねえし…俺が傍に居ても意味ないんじゃねえのかな…」
「生きてる限り意味の無いものなんてないって、誰か言ってたな」
「…」
意味はあるだろう。けれど、違う意味も持ってる。おまえを苦しめてばっかりの俺の存在は負担っていう意味だろ。…実際俺なんかよりもっと違う奴を好きになった方が、おまえの為になるんじゃ…ないのか…

…ヤバイ…俺…気づいてるじゃん…

…あ……言いたくない…けど、言わなきゃならない気がして…きた…

「麗乃…」あいつもこんな気持ちだったのか…
「ん?」
「おまえ、は…俺と別れた方がいい…と思う…俺なんかよりもっと別な…その方が、幸せになれる…って…」
「ユキ?どうした…」
「おまえに全部やれない俺は…おまえを幸せには…できないだろ?…それに、俺は…幸せになったりしちゃいけない気がする…」
あいつの気持ちをあれだけ滅茶苦茶にして、俺が幸せになるのはやっぱり違う気がする。
「俺は、おまえに…由貴人に幸せにしてもらおうとか思ってるんじゃねえよ。俺がおまえを好きだから、おまえが俺の事を好きでいてくれるから、幸せなんだろ?ユキは…俺と居て幸せじゃないのか?」
「…幸せだと、思う」
だから困るんじゃないか…
「俺が別な誰かを好きになった方がいいって…おまえ、それ本気で言ってる?…もし本気なら俺にすげぇ失礼なこと言ってるんだぜ?」
「あ?」
「おまえを好きでいる俺を否定してるんだろ?おまえにそれを決める権利があるか?」
「…いや、ない」
「俺は由貴人を…ずっと…ずっと好きだったよ。そんでこれから先もずっとこの気持ちは変わらないって今はね、言える。先の事はわからんけど、今はそう思ってんだからな。この気持ちに文句とか言わせないからな、おまえでも」
「でも…」
「…だから、おまえに対して勝手に諦めろって言ったのは、俺が悪かったって思ってる。おまえが向こうの香月麗乃を好きになったって言う事実は、俺としては腹も立つけど…かなりな。そんな思いしても、やっぱおまえが好きなんだよ、由貴人。それで俺が苦しんだとしても…俺に与えられた試練なんだって…思うことにしてる。なあ、生きてく過程で傷を負わない人生なんてないと思うぜ。もういいんじゃねえか?自分責めるのも…」

麗乃の許しの言葉はありがたいと思った。だけど逆に俺がこいつを傷つけてる事がはっきりとしたから、かなり凹んだのも事実だった。
罪悪感ってのは恐ろしいもんだ。抵抗なんてひとつも出来なくなるからな。
ベッドの上で麗乃に抱かれていても、じゃあ俺はこのまま流され続けてていいのか?って、落ち込んだ。

…俺の横で俺を抱きしめたまま静かに眠る、この人が好きだ。
俺を好きだと言ってくれる、どんなに突き放しても離さないって言ってくれるこの人が大好きだ。
だから…こいつを俺の所為で苦しめるのは、どう考えても俺自身が許せないんだよ。
俺だって…俺だって、おまえが俺を想う以上に、おまえの事愛してんだよ。
だから、おまえには本当に幸せになって欲しい。
それが出来るんなら、俺は何だってしてやれると思うんだ。

…ずっと…考えてる事があった。
本当はすっげえ嫌だけど…なんだかそれを選ぶしかないみたいに思えて仕方なかった。
麗乃の寝息を耳にしたまま、俺は一睡もせずにそれを考えていた。

闇が白み始めた頃、俺は眠っている麗乃を起こさない様、そっとベッドから抜け出した。
後でバレたとしても、朝の散歩とか言えばいい。
いや…もう、その必要もないかもな。





もう少しで終わりますから、辛抱してね( ^^) _旦~~

僕の見る夢 14 - 2008.12.05 Fri

香月は俺達の視線を感じて、一瞬動きを止めたが、すぐに後ろ手にドアを閉めた。
「なに?どうかした?」
「…いや…何もねえよ。…そういやおまえどこ行ってた?」眞人が何気なく取り繕う。
「…コンビニ…なに?救急箱…誰か怪我でもしたのか?」出しっぱなしのそれを見て香月が不審な顔をする。
俺は右手を背中に隠した。
「俺だよ。ほら、見て。指切ったの。ちょっとだけだからそんな心配してくれなくてもいいよ、レイくん。おまえの愛は言わなくても判ってるし…」岬が必死で誤魔化してくれてるけど…
「ちょっとの傷かよ…ティシュ、血だらけじゃんか」
眞人…慌てて隠してももう遅いよ。香月はこういうことは目聡い。
「由貴人…ちょっと…」と、香月は俺に近づくと背中に隠した右手を掴んだ。
「は、離せって!」
「…どうしたんだ」
「なんでも無いって」
「何でもない訳ねえだろ」
「麗乃、こいつさあ、ちょっとそこの角で打っただけなんだって」
「そんな傷か、これが」
掴まれた手首を見ると、白い包帯が赤く滲んでいた。

「ユキ、おまえ…なんで…」
香月の声が震えていた。
俺は顔を上げて香月の顔を見る。
…怒りとも悲しみともつかない顔で、麗乃が俺を見つめていた。

どこまで…この人を悲しませれば気が済むんだ。
違う。こんな顔をさせたいわけじゃない。
俺は…
馬鹿だ…

香月の掴む手を振り切り、俺は急いで部屋を出た。

これ以上、あいつに重荷を背負わせて、一体どうしようってんだっ!
だけど…忘れる事も諦める事もできねぇんだよ、俺は。

夢だったら良かった。
俺だけが見る夢だったら…誰も傷つけずに苦しませる事だってなかったはずだ。

この身体がふたつあれば、おまえらに与えられる。夢なら簡単に出来るはずだろ?

どうしたらいい…

頭ん中ぐちゃぐちゃになったまま、スタジオを出た。
人通りの少ない方に向かって逃げる。
ここには居たくない。
麗乃にあんな顔させるぐらいなら、俺なんか居ない方がいいに決まってる。

「ユキっ!」声が聞こえた。
足を止めて振り返る。
遠くに麗乃の姿。
人目も気にせずに俺の名前を呼ぶ。

こんな俺の心配なんてすることないのに…
おまえに心配してもらうような人間じゃねえよ、俺は。

麗乃に背を向けて又俺は走り出そうとした。と、前を行く人にぶつかりそうになり、避けようとして反射的に身体を左に寄せた。
運の悪い事に舗道の脇に止めてあった自転車に正面からぶつかって…転んだ…
なんてザマだ…

「…由貴人、大丈夫か」息を切らした麗乃が、地べたにしゃがみ込んでいる俺の横に腰を下ろして伺う。
今度は心配しながらも半分は呆れてる顔だ。
当たり前だ。俺だって手前のみっともなさに呆れ果てて、宇宙の塵に成り果ててるよ。

「もういい」座り込んで俯いたまま、俺は麗乃に言った。
「良くねえ」即効で返ってくる。クソっ…
「呆れたろ?もう見捨てろよ」
「嫌だ。離さないって言った」
「…なんで…」
「好きだから、由貴人が」
「おまえは…いつか俺のことが嫌になるよ、きっと」
「だから?」
「だから…もう見捨ててくれていいんだって…」
「ユキの予想は当てになんねえよ。前もね、あった。珍しくおまえが旅行の計画立てて、イベントに合わせて行って見たら、日にち間違ってて終わってた。正に後の祭りって奴」
「あ、あれはおまえが…古いパンフレット持って来たからだろ!」
「そんなことはどうでもいい。つまりはおまえの予想は当たんないって事」
「そんなの…」予想って言わねえって…つーか、あれはおまえの所為だ、絶対。

「行こ?」立ち上がって俺の目の前に手を差し出してくる。
「ほらユキ。みんな待ってる」
麗乃が来た方角を見る。
向こうから岬と眞人が走って寄って来た。
「ユキ…大丈夫か?」目ぇでっかくして見るな。
「おまえ…何してんだ?」…笑って言うな。
「当たらない未来予想」
二人の立て続けの質問に不貞腐れていると、麗乃がどうでもいい代弁をする。
「なんだよ、それ?新しい遊びかよ」
「まあな」
「それよか、ほら、ユキ、いい加減立てよ」岬が手を差し出す。
眞人が後ろから腰を掴んで、有無も言わさず俺を立たせる。
…なんだよ…おまえら…いい奴過ぎて…クソっ…腹立ってくるじゃん…
「ほら、手ぇ繋いでやるから、もう転ぶなよ」アホか、小学生ん時みたいに言うなよ、岬。
「由貴人は俺達の大事な王子様だからな」そうやっていつも馬鹿にしてるんじゃん、眞人。

「ユキ、帰ろ、俺達の場所へ」
「…」
何度も差し出すおまえの手を、俺はまた掴んでもいいのか?







自分の描くキャラに悪い奴はいない…と、思うwww

僕の見る夢 13 - 2008.12.04 Thu

7.

それから暫く麗乃は俺の傍から離れようとしなかった。俺の不安定な状態が心配で仕方ないらしい。向こうとは立場が逆になったって訳だ。
俺は俺で、どうしようもなくネガティブに墜ちていて、それでいてひとりでいるのが嫌で、子供みたいに麗乃を求めていた。

「痛っ!」岬の声が聞こえた。
「どした?」
「いや、ちょっと紙で指切った」
スタジオでの休憩中、岬が右手の人差し指を舐めながら俺の隣に座った。
「気をつけろよ」机の向かい側でスコアを見ている眞人が顔を上げた。
「大した事ねえよ」
「いいから消毒しとけって」眞人が立ち上がって、スタジオの隅から救急箱を持ってくる。

「…岬」
「なに?ユキ」
「痛い?」
「少しね。見るか?…うすっぺらの紙でこんなに切れるんだぜ」と、指を見せてくる。
じっと見てると、一旦止まった血はじわりと切れた傷口から溢れてくる。
「結構血ぃ出るね」
「な、紙もあなどれねぇぜ」
「馬鹿言ってないで、ほら、岬、手ぇ出せ」眞人が消毒液を手に岬の手首を掴んだ。

…紙で切ったくらいでも、あんな血が出るんだ…
じゃあ…麗乃はどんなに…
一杯血を流して…
どんなに…
痛かったんだろう…
どんな想いで手首にナイフを当てたんだろう…

岬から目を離して何気なく机を見ると、散らかった机の上にカッターナイフが見えた。
俺はそれを取って、刃を出してみる。
…そっと手首に当ててみた。
刃先の冷たさを感じた。
そのままカッターを持つ手に力を込めてみた。
…っ、ジリと、全身に電流が走るみたいに総毛立って、…いったっ…
次に来たのは強烈な痛みだった。
「…って…」
「ユキっ…、馬鹿、おまえ何やってんだよ!」岬の驚いた声ではっとなった。
「…血ぃ出てんじゃねえかよ」
「あ…」
「いくらおまえが実験好きでも、そんな事は試さんでもいい…ほら、カッターよこせ」
「…うん」
カッターを握り締めてる手を掴まれて、眞人がカッターを取り上げた。
「バカバカバカ、ユキ…一杯血ぃ出てるし。おまえ何なんだよ、何やらかすんだよお…」岬が俺の手を取って、懸命にティシュで押さえては新しいのと代えてくれる。
血の付いたティシュが目の前に重なった。
「痛くねえか?ユキ、痛くねえか?」って、岬が何度も訊くから可笑しくなった。
「おい、由貴人…何があったが知らねえけど…香月の前でやんなよ」眞人が消毒液を岬に渡しながら、俺を見た。
「えっ…やんないよ。ちが…れ、麗乃には言わないでよっ!」
「ユキ、おまえ、どうしたの…」
「絶対、絶対言わないで、頼むから…」
「判った。言わないから…そんな泣きそうな顔するな」
「ユキ、じっとしてろ!…大丈夫だから。大した傷じゃないから…」
岬がいつの間にか俺の右手首にきつく包帯を巻いていた。
…大げさだろ。これじゃ、麗乃に隠す意味がねえ。
「おまえねえ、どうかしちゃたの?」
岬が呆れるのもわかる。俺だって当の昔に呆れ果ててるよ、自分自身にはね。

応えようとしない俺に二人は沈黙を続けた。
静まり返った部屋にガチャリとドアが開く音が響いた。
三人が一斉にそっちを向く。
今、一番見たくない姿がそこにあった。







ちょい暗めだけど…こういうユキが嫌われるんだよね~ww
あ、ちなみにユキは基本左利きです。

僕の見る夢 12 - 2008.12.03 Wed

「ちが…行って、ないよ」
目を逸らした俺を見て、麗乃は音もなく苦笑した。
「ユキはホントに嘘吐くのがヘタクソ」
「う、嘘じゃねえし…」
「もっと上手に誤魔化してくれりゃ俺も騙されてあげれんのにな」
「…レイ」
「怒ってないから…怒ったりしないから、話してくれねぇか。おまえがあっちの俺を好きなのは俺はちゃんと判ってるつもりだし…おまえがひとりで抱え込んで苦しむ事はねえんじゃねえか?」
「…」
だって…あいつが自殺未遂したって、それが全部俺が原因だなんて…おまえに聞かせたらおまえまで自分を責めたりすんじゃねえのか?…そんな事させれるわけねぇじゃん。

そうは思ってみても、香月はそういう事を俺から聞きだすのは怖ろしく手馴れてて、口ごもる俺を責め立てるわけでもなく誘導し、安々とものの見事にすべてを聞き出しやがった。
…なんでこうも俺はこいつには勝てないんだろ…情け無いにも程がある。

reinoyuki2

どうしようもなく自己嫌悪の極致に嵌っていると、麗乃が俺をそっと抱き寄せた。
「由貴人…自分を責めんじゃないって。おまえの所為じゃないし」
「だって…俺が向こうに行っちゃたから…」
「違うって。向こうの香月麗乃が…おまえを好きになって苦しんだ事も、おまえを大切に思って帰るように仕向けたのも、そいつがおまえの事を心から好きになったからだろ?…ユキ、考えてみ?人が人を好きになるて想いってどんだけ喜びが与えられる?凄い事だろ?向こうの俺はおまえに出会って、本当に愛するって意味を知ったんだよ。だからおまえに幸せになって欲しいって願ったんじゃん。だから…おまえが出来ることは本当に幸せになる事なんじゃねえのかな」
「だって…自殺未遂するくらい好きにならせて…そんで、ひとりほっぽいて俺だけ幸せになれるわけねえし…あいつの犠牲の上にある幸せなんて…俺望んでねえし…そんなの絶対おかしいだろ?」
「でもな、由貴人。おまえはこっちの住人だろ?きつい言い方すっけど、そいつの言う事は正論なんじゃねえかな」
「だからって…俺だってあいつの事好きなんだよ」
「…俺よりも?」
「…」
そんな事…訊くなよ。そんな事判るわけねえだろ?
おまえも向こうの麗乃も大好きな事に変わりねえじゃん。
「由貴人、両方を手に入れようなんて虫が良すぎるだろ?ましてや両方を幸せにしてやろうなんて、神様じゃねえんだから、平等に与えられるわけねえし…そんな平等な愛なんて欲しくねえんだよ、本当は」
「…レイ…」
「人間はエゴで出来てる生き物だろ?俺だってそいつだって、おまえの心全部欲しいに決まってる。だけどそいつは諦めたんだよ。おまえの事思って諦めてくれたんだよ。だったら、おまえも決めるべきなんじゃねえのか?」
「決めるって…」
「忘れてくれとは言わない。だけど…諦めてくれねえか…」
「そんで…おまえを選べって事か?」
「元々おまえは、俺のもんだったろ?」

…そうだったとしても…元に戻れるのか?
おまえは心のどこかであいつの事をいつまでも忘れないでいる俺を、好きでいてくれるのか?
あいつを諦めたとしても…絶対におまえを苦しませたりしないって言えるのか?
俺はおまえにそういう罪悪感みたいなものを感じて付き合っていかなきゃいけないのか?

「由貴人、好きだよ…」麗乃が突然俺を求め始めた。
俺は慌てて抵抗する。
「ダメ…だ。レイ…」口唇を深く塞がれると俺が抵抗できなくなるの判っててやるんだ。
だけど今はそんな気分じゃないし。
「麗乃、今日は…ヤダから」
逆らっているのに麗乃の手がすばやく俺の服を脱がしていくから、どうしようもない。
「今しなきゃなんねえんだろ」
「なんで…」
「おまえが欲しがってんのが何か、判らせる為にするの。それに…忘れてっかもしれんけど、今日は俺の誕生日なんだぜ、一応な」
そこまで言われて止める権利はないだろう。
俺だって誕生日に何も出来なかった後ろめたさはあるよ。


麗乃は優しかった。
痛みも快楽も俺の欲しいもの全部与えてくれた。束縛と言う嫉妬心さえ嬉しかった。
今だけでもおまえに必要とされてるのが嬉しくて…

「由貴人…好き…誰にもわたさねぇから…」
「れ…い、んあ…あ…っ!」

突き上げる度に身体中が震えた。何も考えなくて良かった。

良くて…良くて…ただ麗乃の優しさに感謝した。






あなたは優柔不断のユキを許せますか?

僕の見る夢 11 - 2008.12.02 Tue

6.

帰り着いたとき、見上げればまだ桜は満開で、今が何時なのかすぐには判断つかなかった。確認して今が四月8日で、俺がここから消えた時から一時間ほどしか経ってない事が判った。驚いたけどタイムラグは初めてじゃないからそう深くは考えなかった。それよりも…精神的な落ち込みが酷かった。
とてもじゃないが暫くは立ち直れそうもない。

自宅に帰ってソファに沈み込んだまま動かなかった。何だか身体がだるくて、うとうとしながらも考えることは麗乃の事ばかりだった。
携帯のメールやベルが引っ切り無しに鳴ってるのもわかったけど、取る気にはならなかった。
それでも…大分経って止まないコールになんとか出た。
『ユキ?おまえ何やってんの?パーティ始まってんじゃん!』岬だった。
「あ?」…そうだ。麗乃の誕生日パーティ…
『あ、っておまえ…』呆れた溜息が聞こえた。
『おら、寝てんじゃねえぞ。すぐ、今すぐさっさと飛んで来いっ!』それだけ言って切れた。

…行かなきゃ…麗乃の誕生日だもん。俺が行かなかったらあいつ心配するもん。行かなきゃ…


地下に入ったところの、お洒落なイタ飯屋が会場だった。確か前、麗乃と来た時、美味しかったんだ。だから、決めたんだっけ…
「ユキ、遅い!」店に入ってすぐ岬が出迎えてくれた。
「ごめ…」
「寝てたのか?」岬の後ろから、麗乃が見えた。
「…ん」俺は目を合わさないで俯いた。
とてもじゃないが今の俺にはおまえをまともに見る勇気はない。
「どした?ユキ…気分悪いんか?熱でもあるんか?」って、額に手を当てるから俺は思わず身体を引いた。
麗乃は怪訝な顔をして俺を見てる。
「だ、大丈夫だって…俺のことはいっから。ほら主役はちゃんとお客さんの相手しててよ」そう言うのが精一杯だった。
そうやって麗乃をかわすと、俺は目立たない隅でじっとしてることにした。悪いが人と笑って話せる気分じゃなかった。だけどそういうのは長年付き合ってるこいつ等にはすぐわかっちまう。

「由貴人、おまえ、大丈夫か?気分悪いなら、抜けていいから。家に帰って休め」ビール片手に眞人が寄って来る。
「どした?風邪でも引いたか、ユキ…顔色悪いし…悪かったな、無理矢理呼び出して」岬も心配そうな顔をして駆け寄ってくる。
「いや、大丈夫。気にしなくていいから…」
「そう言っても…な」
「…香月にはちゃんと言っとくから、もうおまえは帰れ」そう言うと、眞人は俺の腕を引いて店の外に出て、タクシーを止めてくれた。
「ちゃんと帰って休めよ」タクシーに乗った俺の頭を撫でてくれるから、俺は泣きそうになった。

自宅に帰って倒れる込むようにベッドに横になった。色んな疲れの所為かすぐに睡魔に獲りつかれた。

…夢を見た。
向こうの麗乃が笑って俺に話しかける。俺には何を言ってるのかが判らない。俺は何度も聞き返す。駄目だ、声が届かない。そしたら麗乃は呆れたように俺を見て、背中を向けて遠くに消えてしまう…
麗乃っ!って何回も俺は叫んでるのに…

「ユキ、…由貴人っ!」
「…うっ…」
肩を揺すられて目を開けたら、目の前に麗乃の顔があった。
「…れ、い…」
一瞬俺はどっちの世界にいるのか迷った、けれど麗乃の目を見て理解した。
「俺…」
次に判ったのは馬鹿みたいに泣いてる自分だった。慌てて顔を拭いて起き上がった。
「…大丈夫か?ユキ…怖い夢でも見たか?」
「ん…」
「毛布も着ないで、また風邪引くって」
「引かねえし」
「子供みたいに泣いてるし…ったく、ほっとけねえよ、おまえは」
呆れるみたい溜息を吐いて、麗乃は俺と向かい合わせになるようにベッドに座り込んで俺の背中を優しく抱きしめてくれた。
「ごめん、せっかくのおまえの誕生日なのに…心配かけて…」
「…そんなの気にしなくていいって。今までにもね、おまえがこうなるの見てきてるからさ。何年一緒に居るって思ってんだよ。俺が駄目な時もおまえが駄目な時もちゃんと一緒に居たじゃん。ずっと傍にいてくれたじゃん」
「…麗乃」
「…由貴人、おまえさ…」俺の前髪を掻き上げて、麗乃が俺を見る。
「…」
目を合わせたら何故か胸が鳴って仕方なくなった。
「…向こうに行ったんじゃねえのか?なんか…そんな感じするんだけど」






暇なんで夜あげました~次は絵もおきます。

僕の見る夢 10 - 2008.12.02 Tue

「馬鹿…おまえほんっと馬鹿だ」
「なんだよ」
「俺がおまえを抱いちまったら…向こうにいる香月麗乃はどう思うんだよ。おまえの事本気で愛してんだろ?大事に思ってっから、俺の事だって許してくれたんだろ?…立場が逆だったら、俺は許せるかどうかわかんねえ…だけど、そいつは許した。そんでおまえをずっと好きでいるんだよ…そんな奴を裏切れるかよ…おまえは自分の場所に帰って向こうの香月と幸せに暮らしていけばいい」
「レイ…」
「いや、嘘だ。…そんなんじゃねえ。向こうの奴なんかどうだっていいんだよ。だけどな…おまえが苦しむのは嫌だ。おまえは優しいから嘘付けないから、俺にも向こうの俺の気持ちにも拒否出来ないで苦しむばっかだろ?…そんなの駄目だ。おまえには幸せになって欲しいんだから」
「俺、幸せだよ。麗乃と居られてホントに幸せだよ」
「…ありがと、ユキ。おまえとまた会えてちゃんと話せて、一緒に居られて幸せだったよ」
「な、なに勝手に決めてんだよ」
「もうこっちには来んな。せっかくおまえのこと忘れるって決めんだから」
「なんだよ、忘れるって…さっき忘れないって言ったじゃん」
「…前言撤回、おまえの事なんか忘れてしまうから、さよならだ…じゃあな」
そう言って俺から離れて行こうとするから、
「やだよっ!」
足早に離れようとする麗乃の背中に体当たりしてから、腕を回して力一杯しがみついた。
「ばっ!お、まえ、何…ちょ…馬鹿っ、離せって!」
麗乃はしがみついた俺を、慌てて必死で外そうとする。
「ヤダ!離さないっ!おまえ何一方的に決めちゃてるわけ?…、お、俺の気持ちはどうでもいいのかよっ!」
「な…俺がめちゃめちゃ決心して、やっとゆったのに…おまえなんで…」
「だ、だって!」
気がつかないうちに俺は泣いていた。だっていきなり言われてショック過ぎるよ。
麗乃は俺の手を緩めて、俺の方を向くと、今度は俺を抱きしめて涙を拭いてくれた。
「…ホントに読めねえ奴だよ、おまえは…馬鹿、泣くな…ったく参る…」
「嫌いになったんなら、そ、そう言えばいいじゃん」
「嫌いになってない」
「だ、だって、おまえそれ体の良い別れの言葉じゃん。かっこつけて幸せになれとか言って、俺なんか必要ないいって言ってんじゃん」
「…どう…おまえどっからそんな結論が出てくるよ。俺、言ったじゃん。おまえが好きだ。ずっと忘れないって」
「…忘れるって言った」
「あ…だから、忘れるって言ったのはヤだった事とか苦しかった事とかを忘れんの。おまえを好きなのは一生もんだよ」
「…一生好きでいてくれんの?」
「……もう墓穴じゃねえか…」横向いて苦虫を噛むような顔をする。だからなんでそんな顔すんの?
「麗乃、俺別れたくねえよ」
「俺だって…」
「じゃあ、離れなくて良いじゃん」
「いやだから…あ…もういいよ。……はあ…最後ぐらいはカッコ良くシリアスにやろうって思ったのによお…ユキには敵わねえ……なら、もう…」
「え…」
何の前触れもなく、いきなり口唇にキスされた。それも滅茶苦茶深い奴。

…痺れるくらいに熱くて、気持ちよくて…夢中になる。
やっぱり好きだ。好きだよおまえが。
離れたくないよ…

時間を忘れるくらい続けて、ようやく離れても暫く意識が戻ってこられないくらい深いキスだった。

麗乃を見た。
頬を伝っていく涙が見えた。
濡れた口唇がゆっくり開くのが判った。

「ユキ…ありがとう。…おまえがね、幸せでいてくれる事だけを祈ってっから。…愛してる…ずっと」
そう言うと、麗乃は俺の腕を振り切って、一目散に土手を走っていった。
途中転びそうになりながらも、一度も振り返らずに、自分の世界に帰って行ってしまう。

俺は見送る事しか出来ない。だって…

だって…

俺は…置いて行かれてしまったんだ。
まだ、口唇の温もりは残っているのに、麗乃はもう二度と俺に触れる事はない。そう、はっきり判ってしまうと、涙が止まらなくなった。
あいつは俺の為に、俺を諦めたんだ。じゃなかったら、あんな…あんなキスなんて出来やしない…あんな涙なんか流すわけがない…


帰らなくちゃならないのに、ここに俺の存在する意味なんて無くなったって判っているのに、諦めきれなくて泣きながらしばらく木の周りをぐるぐる回っていた。けど、帰るしかないって思った。
帰り方は判っている。
だってこの桜の木は俺だけのタイムマシンなんだから。






ここらへんからキャラが勝手に動き出しましたので、こっちは修整するのに大わらわでした^_^;
ふたりの心の揺れがどこまで伝わっているのか、心配ですが…

僕の見る夢 9 - 2008.12.01 Mon

5.

こっちに来て二週間を過ぎた頃だろうか。天気のいいお昼過ぎ、麗乃は散歩に行こうと言い出し、買い物もあったから、一緒に出かけた。
途中土手を通って、あの桜の木の場所まで来てみた。

桜はもう散っていて、緑の葉っぱが一杯に芽吹いていた。
「何もかもこっから始まったんだな」
「うん」
「何なんだろうな、この桜の木」
「ホントだね」
「この木はおまえだけに許された異次元へのゲートなのかもな」
「だとしたらさ。この世界のどっかには、ひとりひとりの自分のゲートがあるんじゃねぇの?」
「そうだな。大半の奴が見つけられねえだけなのかもな」
「そだね…見つかんない方が良かったりして…」
「後悔してんの?」
「いや…してないよ」
「俺は…おまえに…ユキに会えてほんと良かったって思ってる」
「俺も思ってるよ」
「ほんとに?」
「馬鹿、マジで決まってんじゃん」
「そっか…それ聞いて安心した…」

緑に繁る桜の枝の向こうには青空が広がってて…
そういや前もこうやってふたり並んで木に凭れて一緒に空を見上げたっけ。
なんだか懐かしいよ。
その枝の先っぽの方、一輪だけ咲いてる桜を見つけた。
「ねえ、見てレイくん。あそこ、ひとつだけ桜咲いてる」
「ああ…ホントだ…」
「凄いね」
「…ユキみてぇだ」
「えっ?なんで」
「…奇跡みてえに、綺麗に咲いてくれてる」
…なんて顔して俺を見るんだよ。俺じゃなくて桜を見ろよ。
馬鹿…そんなの…おまえが愛おしくてたまんなくなんだろ。

「…ユキ、今まで傍に居てくれて…ありがと…」
麗乃は変わらない優しい顔で俺にはっきりとそう言った。
「…な、んだよ…」
「もう十分だから…もう十分おまえを感じられたからさ。もう忘れないから…大丈夫」
「何言ってんの?」
「…ここは、おまえの居る場所じゃない。だから、…おまえは元の世界に帰らなきゃなんねえんだよ」
「なんで…俺、帰らないよ。ずっとおまえの傍に居るって約束したじゃん」
「ここには、おまえの親や知り合いや友達だって一人も居ねえじゃん。そんなんで、おまえをこっちに縛り付けるなんて間違ってるだろ?」
「いいよ。俺には麗乃がいてくれるんだから。岬だって眞人だっているし」
「駄目だ、おまえはここの人間じゃない。それにユキ。おまえはおまえの遣るべき事があんだろ?向こうの世界じゃおまえを必要としてる人がすげえ沢山いるんだろ?その人達残して俺の為にこっちに居るなんて絶対駄目だ」
「そんなのいいんだって。俺はおまえの傍に居たいから居るんだって」
「おまえの気持ちは嬉しいけどな…駄目なんだよ」
「レイ…」
「俺が心配かけてるって事が一番駄目なんだけどな…ちゃんと…時間かかってもちゃんと生きてゆくから…おまえが居なくてもちゃんと幸せになってみせるから…だからおまえは…」
「レイ…俺が嫌になったの?だからいらないって言ってんの?」
「馬鹿っ、なんでおまえを嫌いになんだよっ!」
「だって…おまえ…一度も抱こうとしねえじゃん。俺なんか抱きたくねえんだろ?」






昼にアップしてみたりする。

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