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2009-03

早春散歩 藤宮紫乃編 「メタモルフォーゼ」 8 - 2009.03.31 Tue

8.
 急いで東京に戻った俺は、慧一のマンションに直行した。すでに出払った後で、管理人から、二日前には引越したと聞かされる。
 慧一の学部の友人に連絡を取ってみる。留学の話は前から打診はあったみたいで、本当に慧一はシカゴ大学の建築・計画学部に編入したという事だった。
 俺は慧一が誘いを受けていたことも、その意思がある事さえも聞いていなかった。

 おまえにとって、電話ひとつで、たったそれだけでそんなに簡単に手放せる存在だったのか、俺は。
 自分の価値が脆すぎて昔の俺だったら、自殺未遂でもやりかねないんだがね、慧一。そしたらおまえは…少しでも俺のことを心配してくれるのか?

 その年のクリスマス、俺は慧一の実家に足を運んだ。
 前に言ってた「クリスマスには必ず家族で過ごすんだ」と言った言葉を思い出したんだ。
 高級住宅の一等地の広々とした邸宅は外から眺めても立派で、中に住んでいる家族の団欒を想像出来る構えだ。
 ここには…あの弟しか住んでいないのか?
 慧一は何故あれだけ愛していた弟を放り出して、勝手に逃げたんだ。

 黄昏時、太陽の姿が今にも隠れようとする頃、その門が開けられ、中から出てくる奴がいた。俺は急いで道路の角に隠れ様子を伺った。
 出てきたのは…凛一だった。
 髪を赤く染め、ジーンズと革ジャンを着こなしている姿はまだ少年ながらもモデル並みに恰好がいい。
 彼は門を潜った後、慣れた手つきで煙草を銜え、ライターで火を付ける。
 確かに様にはなっているが…よく考えりゃ、凛一はまだ中学一年だ。
 不良行為少年一直線ってわけか…
 慧一の育てた結果がこれなのか?
 粋がっていても、まだ顔はどこかあどけなく、精一杯大人ぶっているのが一目瞭然で、その危うさに憐れみすら感じるのに…
 おまえはこんなに未熟な子供を置きざりにして…平気なのか?慧一。

 俺は刻々と落ちる夕陽に向かって歩く凛一の姿を見送った。
 このままの彼に健全な未来があるとは思えなかったが、俺が関わる話ではない。
 彼等の運命なんて俺にはもう…関係ないはずだ。
 それでも…
 凛一の孤独な後姿は慧一の姿にも重なる気がして…胸が痛い。

 夕陽が最後の燐光を放った時、凛一の寂しげな背中に広がる羽が…見えた。
 六枚の翼は、それぞれに薄い虹色を帯びたまま、彼を守るように…ゆっくりと羽ばたいている。
 慧一が見てきたものはこれだったんだ…
 俺はいつしか泣いていた。
 立ち尽くしたまま、辺りが暗くなり、雪が降り積もるのも構わずに、声が枯れるまで、泣き続けた。


 俺は大学を卒業し、鎌倉の聖ヨハネ学院高等学校で教鞭を取ることになった。
 慧一とはあれ以来なんの音沙汰もない。俺も好き勝手に遊んでいる。
 別に慧一を忘れたわけでも諦めたわけでもない。
 結構粘着質だと最近気が付いた。

 ここへ来て二年目の春。
 俺は副担任となる生徒のひとりに、意外な名前を見つけた。
「宿禰凛一」の名を。
 間違えようもない。彼だ。

 凛一がこの学院に?
 不思議な気がした。偏差値の高いこの高校に合格したという事は、凛一は道を踏み外さずに育ったというわけか。ひとりで?それとも…
 彼の調査書の目を通した。
 詳しくは書いていないが、中三の夏休みの事件に関連する内容が簡単に記されたあった。
 …その事件に関して言えば、新聞で読んだ記憶がある。まさか凛一が関係しているとは思いも寄らなかったが。
 慧一は…どうしたのだろう。
 これだけの事件の後の凛一を、彼は守った。だから、凛一はここにいる。
 そう考えるのが自然だ。
 すべては凛一本人を見てからだ。
 俺は期待と不安の混ざる気持ちを抑え切れなかった。

 入学早々、宿禰凛一は怪我の為学校を欠席していた。
 俺としては肩透かしに合った気分だが、気長に待とう。
 もう…二年以上も待ったんだ。一週間かそこら待てないわけはない。

 一週間後、宿禰凛一の姿を見つけた。遠めにでもわかる。
 鮮やかな印象。恐ろしい位に人目を惹く。敢えて目立たないように振舞っているところも垣間見えてかわいいじゃないか。
 相変わらず背中の羽は見事なまでに美しい。
 可笑しいことに慧一に黒魔法でもかけられたのか、凛一の背中の羽は俺の目にも誤魔化せなくなってしまっている。

 二日後、彼は顧問である俺の部活動「詩人の会」に部員になった。
 まさか彼に詩を愛する趣味があるとは思わなかったが、慧一の影響であるなら、納得するところだ。

 そして、今、俺は宿禰凛一の教師として目の前に立っている。

 俺と慧一を別れさせた張本人。恨み辛みは山ほど在る。
 おまえが居なけりゃ俺と慧一は、あのままふたりで…くだらない、当ての無い夢を見ることだってできたんだ。

 教壇に立ち、気に入った詩を諳んじる時間。
 凛一は慧一に良く似た声音で、ミニョンを詠う。

 君よ知るや南の国、檸檬の花咲き オレンジの輝き、
 さわやかな風吹き ミルテ香り 桂そびえる  
 君よ知るや南の国 かなたへ、かなたへ
 君と共に行かまし、あわれ、わがいとしき人よ

 …おまえの為に慧一はどれだけ苦しんだんだろう。
 おまえに払った犠牲は幾ばかりだろう…
 おまえは慧一に何を与えた?
 行き着く場所は見つかったのか?

 共に行きたいのは俺だった。
 

 梅雨も最中の折、俺は宿禰凛一の住むマンションを訪ねた。勿論凛一が居ない時を見計らってだ。
 前もって慧一には連絡をした。彼は会うのを躊躇ったが、俺には凛一の副担任というカードがあるから、家庭訪問とでも言えば、彼は会わざる負えない。
 三年ぶりに見る慧一は、少し痩せてみえたが、相変わらずの美貌で、正直参ったね。
 全くもって俺好みで、困ったもんだ。
 玄関での僅かなやり取り。ただそれだけ。慧一は俺を中に入れることは決してしなかった。

 夏、偶然街で慧一と出会う。
 俺は無理矢理彼の腕を取り、常連の店に連れ込んだ。
「いつまでも俺から逃げてんじゃないよ、慧一」
「逃げてるわけじゃない。おまえに迷惑かけたくないだけだ」
「もう充分、関わっていると思うぜ。凛一は俺の生徒だし、学校の様子は俺が知ってる。なんなら事細かにおまえに教えてやってもいい」
「俺を責めるなよ、紫乃」
「おまえが凛一の為にあの事件から大学院を休学していることは凛一から聞いた。九月にはシカゴに戻るって話もな」
「詳しいな」
「何故あいつをひとり置いてアメリカなんぞに行くんだよ。折角凛一はあんなにちゃんとした高校生になっているじゃないか。ひとりの寂しさを知らないわけじゃないだろう」
「俺にはやるべきことがある。それを望んでいるのは凛一だから…」
「…」
 相も変わらずおまえの中心は凛一かよ。そういうところも可愛く見えてくるから全く不思議だよ。クソッ!
 その上、続く言葉に呆れたことを言い始める。
「紫乃、こんなことを頼むのは筋違いだとわかっているけど…凛一を見守ってくれないか?」
「…そんなことを俺に頼むのか?おまえにあんな裏切りをされた俺に?…その原因たる弟の面倒を見れって?」
「俺は二年経ったら戻る。それまで、ひとりになるあいつが心配なんだ」
「だったら…おまえが今すぐこっちに戻ってきて、凛一の傍にずっとついてりゃいい事なんじゃないか。どうして…俺に頼むんだよ。正気じゃない」
「だから悪いって言ってる」
「おまえはいつだって…俺の気持ちは凛一の半分も考えないで、傷つけてもいいと思っているんだろうな」
「違う…そうじゃない…」
 落ち込んで俯く慧一を見るのは嫌いじゃない。人目には影なんか絶対見せないこいつが、俺だけに見せる感情だからな。

 …無理だ。おまえを諦めるなんて、俺にはできないよ、慧一。

「…条件を飲むなら…凛一を見てやってもいい」
「…」
「俺ともう一度やり直す」
「…今更そんなことを言うな」
「あの時から一日だって忘れたことはなかったんだ。俺は今でもおまえが好きだよ」
「…ごめん。無理だよ。紫乃。俺がおまえにしたことを考えれば、これから平気でおまえと付き合えるわけないだろう」
「では…その償いを持って俺と付き合え。俺もひとりには飽きたんだよ」
 俺の勝手な言い草に慧一は暫くしかめっ面で俺を睨んでいたが、諦めたように苦笑した。
「凛一だけでも手一杯なのに、おまえに対しての罪まで背負わせられるのか、俺は」
「自業自得と思ってくれよ。おまえは元来自虐的本質を愛しているんだろう?」
「おまえがそこまで嗜虐性癖のある奴だったとは知らなかったけどな…では、なにをすれば俺の罪は軽くなる?」
「…星を見ないか、慧一。自分がどんなに小さい屑みたいな欠片かってね…そういう気分になるもの悪くないだろう」
「…ああ、悪くはないな…紫乃」

 俺たちの第二章が始まる。
 時が経つほどに人間も変わり往くものだ。
 善き彼方か、悪しき彼方かはわからないが、歩く道に花が咲けば、そこは美しき南の国となるだろう。
 そう信じさせてくれ、今は。



 君よ知るや南の国 かなたへ、かなたへ
 君と共に行かまし、あわれ、わがいとしき人よ



 text by saiart


           宿禰慧一編「イリュミナシオン」へ続く。

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早春散歩 藤宮紫乃編 「メタモルフォーゼ」 7 - 2009.03.30 Mon

7.
 二週間が経った。
 慧一とはメールすら接触していない。
 今までだって些細な事での口喧嘩は良くあることで、一週間何も連絡しなかった時もザラにある。
 そんな時は必ず慧一の方からなんらかの行動があり、先に謝るのも彼の方だった。
「紫乃はプライドが高いから、自分が悪いと思っても自分からは絶対頭を下げたりしないだろう?俺は別にそこは拘らない性格なんだ」と、彼は笑った。
「だけど、俺はそういう紫乃が好きなんだよ。おまえの美しいところだと思う」
 …「好き」だと言ってくれた。「美しい」と言ってくれた。
 そこに嘘はないはずだ。
 俺は、この二年間ずっとあいつを見てきた。
 慧一の暗い部分だって知っていて、見て見ぬふりをしてきたのは自分だ。だけど、そこを含めての宿禰慧一という男を好きになったはずだ。
 今更あいつがどんな環境で育ってきたからとか、極度のブラコンだからって、簡単に嫌いになるような想いじゃないはずだ。

 慧一からの連絡はいくら待っても来ない。
 このまま終わってしまうんだろうか…こんなことで終りにしてしまう「恋」だったんだろうか…
 こんなに「好き」なのに…

 携帯のボタンを押す。
 このままじゃ納得いかない。

『…はい』
「慧一…俺」
『うん』
「この間は…俺も言葉が過ぎたよ、ごめん」
『…いや、俺も色々言いすぎた。悪かったと思ってる』
「…」
 嘘付け。悪いと思っているならおまえから連絡するはずだろう…
『紫乃…会って話さないか?』
「別れ話なら嫌だよ」
『俺も…離したくないよ、おまえを』

 天上に瞬く数万の星の下で、俺たちは寝転びながら、話をした。
 色々な話だ。
 出会ってから二年間俺たちに何があったのか、そして心にあるわだかまりや過去の鬱屈としたトラウマ的な事まで。
 俺には慧一に知って貰いたいことが沢山あった。
 隠し立てするようなものさえ、慧一には見てもらわなければならない気がしたんだ。
 それを理解してもらおうとか、慰めてもらおうとか、そういうものを望んでいるんじゃない。
 差し出す手はお互い同等でなければならない。
 俺は慧一のことを良く知らないまま、この先付き合っていくのは不安だった。

 慧一の話は複雑だった。
 慧一が十四歳の時、彼の母親が亡くなり、ひとつ下の妹とその時五歳だった弟、凛一の世話にかかりっきりになったそうだ。
 父親は一年ほど日本に居たが、仕事で多忙の為、朝から夜遅くまでいない。
 お手伝いさんも凛一の世話を親身になってしてくれるわけでもない。
 学校から帰ると凛一はいつも寂しがって泣いていた。
 慧一は部活や友達とさえ交流のないまま学校生活を過ごした。
 神経質で疳の強い凛一はひとりで寝るのを怖がって嫌がり、結局ふたりはかわるがわる交代で凛一と共に寝ていた。
「凛一がどうしようもない甘ったれだと思っても、俺たちは可愛いと思ったし、俺たちしか守れないと思うと…よけいに彼の面倒を見るようになった。あいつはああいう見掛けだから心配もあったんだよ。誘拐されないだろうか、変なイタズラをされないだろうかって。大人だったらもっと別な教え方があったのかもしれない。でも…俺たちはあいつを守ることで精一杯で…どこがどう間違っているのか判らないまま、育ててしまってね…ある時、梓は言ったんだよ。俺が凛に欲情してるって。…そんな事があるかと思ったね。実の弟にそんな気持ちなんかわかないって。でも…怖くなったんだよ。絶対的な信頼で俺に…近づく凛一が…急に恐ろしくなった。だから…距離を置いたんだ。俺は…あいつの前では逆らえない。あいつが何を求めても、俺はそれを与えてしまう。だからもう…」
 慧一は黙りこくったまま、後はなにひとつ口を開かなくなってしまった。

 俺は投げ出された慧一の手を繋いだ。
 このどうしようもない性を持った慧一が、俺には必要だと思ったからだ。
 哀れみでも蔑んだりしているわけでもない。
 人間とはそういうものだとわかったからだ。
 俺は慧一の見掛けに惚れたんじゃない。
 宿禰慧一という人間が好きなんだ。

「慧一、俺の気持ちは変わらないよ。おまえが好きだよ」
「紫乃、いいのか?おまえを幸せにできるかどうか…俺に確証はないんだよ」
「そんなもん…求めてない。求めているのはおまえという存在だよ。慧…」
 俺を抱く慧一の腕は、少しだけ震えていた。


 夏になり、俺は実家に帰省した。
 弟の正式な跡目の襲名が執り行われ、俺もその大事に奔走した。
 わだかまりは全くないわけではなかった。しかし、育ててくれた恩は彼等には充分に報いたい気持ちがあった。
 俺は恵まれている。
 育ての親は不器用ながらも俺を愛してくれた。祖母は精一杯の愛情を見せてくれた。弟には何の罪もない。これからこの流派を守っていく重荷はあるだろうが、俺が少しでも助けになるなら、力になりたいとさえ思っている。
 自分がこんなに変われたのは、自分ひとりの力ではないことも判ってきた。
 人間は変われる。
 俺も、慧一も、凛一も…そう絶対に変われるんだ。

 夏休みも終わりに近づき、明日は東京に戻るという夜に、慧一から電話があった。
 酷い声だった。
「慧、何かあったのか?」
『紫乃…俺、アメリカに留学する』
「え?」
『向こうの大学院に行くことにする』
「おまえ、こっちの大学に残るって決めてたんじゃないか」
『前から誘いがあってはいたんだ。いい機会だから向こうの大学院に行くことにしたよ』
「ちょっと待てよ…凛一は、どうするんだよ。連れていくのか?」
『…あいつの事はもう知らない』
「…知らないって…」
『紫乃の言うとおりだよ。大人になったから俺はいらないって…言われた…』
「慧…」
『そういう事なんだ。急で悪いけど、暫く会えないから』
「待ってくれよ」
『俺より好きな奴が見つかったら…忘れてくれていいから…』
「なっ…」
 そう言って携帯は切れた。
 …一方的な言い草もここまで来ると笑うしかないんじゃないか?
 凛一になんか言われたくらいで自分の運命変えんなよ。子供か?全く馬鹿な話だ。
 しかも好きな奴が見つかったら、忘れろって?
 本当に…本当にしょうがない奴だよ、おまえは。

 それでも…少しも嫌いになれないのは…これはもう…神様のイジメにしか感じないんだがね。


 愛とは恐れ無きもの。完全な愛は恐れを取り除く。と、神は語る。
 いや、違う。
 愛とは、恐れながらも手放せないものなのだ。

        
                            text by saiart


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セフィロスの頭のままでどうなるかと思ったけど、ワードに向かうとなりきれた~
しかし、紫乃はえらいな~紫乃株上昇中~その反比例で慧一株が急落か?
あと一回で終わる予定なので、その後はリンミナ再開というわけで…さくちゃんお願い(^o^)丿





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桜の森 満開の下 - 2009.03.28 Sat


sakura2


桜の森の満開の下

これはこれは、こんなところでおひとりでお花見ですか?

失礼致しました。妖精王どの。いささかこの満開の桜に酔うておりました。
わが国インドではこのような盛りの桜にはお目にかからぬ故。

恋の病などにはくれぐれもかからないよう用心された方がよい。
この森にはあらぬ企みが潜んでいるかも知れぬからね。

そう…でも私にはあなた様が一番用心するべき相手ではないかと…
はて、あなた様の大事なご用件はなんでしょう。

それはな、おまえを貰い受けようと…女王の許可なくしてはいかがなものであろうとは存じて居るが…
いかんせん、こう目の前におまえを見てしまったら…恋の鞘当など巡らさずに…
どうだろう。わたしの小姓になってはくれまいか。

それではお誓いくださいますか?

何に誓えば良いのだ?

その御身に誓いなさって。今生の情けを下さると…

それなら、この身に賭けて、この世のすべてに賭けて、神に賭けて、未来に賭けて、この桜に賭けて、おまえを幸せにすると…誓おう。

妖精王の為すままにどうぞ召抱えてくださいませ。私の身はあなたのものに…

暁と黄昏の女神に誓って、おまえを守ろう。


と、いう寸劇をやろうと思うんだけど、どうだろう。

君と僕でなら…悪くはないね。

では、舞台から降りても、俺の小姓でいてくれるかい?

小姓ではなく…恋人ならば…いつまでも…


桜の森の満開の下、恋人達は誓い合う。

そろそろ妖精どものさまよい歩く頃合。

恋人たちの新床は桜色に染められた。

万事めでたく納まりましょう。





安吾とシェークスピアをもじってみた。
「夏の夜の夢」ではなく「桜花舞い散る昼の夢」ですね。




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早春散歩 藤宮紫乃編 「メタモルフォーゼ」 6 - 2009.03.27 Fri

6.
 慧一の妹、梓の葬儀は翌日の夕刻に葬儀会場で行われ、俺も参列した。
 そこで初めて、弟、凛一を目の当たりにした。
 家族席に座る慧一の隣で肩を震わせながら泣いている。
 喪服姿の慧一はその胸にすっぽりと入るぐらいの小さな凛一の背中を抱き、涙を拭いてやっている。
 何故だか…不思議な気がした。
 そのふたりの空気だけが他とは違う色で満たされている。
 彼等だけが別空間にいるみたいに浮いているのだ。
 その隣にいる上品な紳士はふたりの父親だろう。その父親ですら、このふたりと全く交わらない。
 違和感を感じたまま、式が始まる。

 葬儀は凛一のしゃくりあげる嗚咽に同調するように、終始涙と鼻を啜る音が鳴り止まず、まだ早すぎる妹、梓の死を誰もが悼んだ。
 だがそれ以上に慧一と凛一のふたりの悲しむ姿に感化されたのは紛れもなかった。

 葬儀が終り、出棺までの間、俺は慧一に一言お悔やみをと家族の控え室に向かった。
 ドアを開けようとすると、声が聞こえた。
 少し高い声と、慧一の声だ。
 扉の間から覗くと、ソファに座った慧一が泣いている凛一を抱きながら話しかけている。
 話の中身まではわからないが、しきりに頭を振る凛一を宥めている慧一がいる。
「もう泣くな」
 慧一が目じりにたまる凛一の涙を口唇で吸うと、凛一は顔を上げて自ら慧一の口唇に自分の口唇を押し付けた。
 角度を変えながら何度も…口と口の間からチラチラと赤い舌が見えた。
 彼等はお互いを味わっているのだ。
 凛一は泣くのを止め、慧一にしがみ付く様に身体を預け、陶酔した眼差しでキスをする。
 慧一は…慧一は目を開け凛一の顔を凝視している。その顔には何の表情も見受けられない。ただ凛一の求めに応じているだけ…のように見えた。

 …俺はその場所から離れた。
 彼等がどんな関係なのか、あれだけの場面を見せられても理解できなかった。
 肉体的な淫猥な感情が全く感じられなかったのだ。
 慧一は以前から凛一のことを天使だと呼んでいた。
 その言葉どおりあの子のキスは欲情したものではなかった。
 では慧一はどうだ?
 何も感じていないのか?…俺にはわからない。それを聞き出すのさえ阻かまれる。
 俺は考える。
 あの子は…凛一は確かに綺麗な少年だ。だからといって見るからに色香を振りまくような蠱惑的なものは微塵もない。俺から言わせれば普通の子だ。
 慧一は何をあの子に見ているのだろう。ただのブラコンで片付けるのは安易な気がする。
 自分が育てた弟だから特別な感情が湧くのは当たり前だ。
 だからと言って…それが情欲に摩り替わるわけじゃない。
 肉親の愛情だろう?…違うのか?もっと違う絆があのふたりにはあるのか?
 …俺にはわからない。

 ひと月ばかり経って、慧一から連絡が来た。
 急いでマンションに会いに行くと、慧一は憔悴しきった顔で俺を見つめ、そして身体を預けるように寄りかかり、俺を抱いた。
「紫乃…俺を救ってくれ…」
「慧一…何があったんだ」
「…俺には…無理だ。凛一を育てていくなんて出来ない」
「…慧…なにもおまえひとりが背負い込むことはないだろう。父親だって親戚連中だっているじゃないか」
 俺の言葉に慧一は首を振る。
「あいつは…俺の手からしか食べようとしない。他の奴が無理矢理食わそうとすると吐くんだよ。そのまま死ぬつもりだ…俺が居ないとあいつは…」
「慧…」
 嗚咽する慧一の身体を抱きしめる事しか俺には出来ない…


 どうなってしまうのか先行きのわからない状況だったが、春を迎える頃になると、凛一も落ち着いてきたと、慧一の顔から安堵の程が伺えた。
「大分落ち着いたようだな」
「そうでもないが…取り敢えずひとりで食えるようにはなったよ。中学にも行くようになるし…少しは大人になってもらわないと、俺も困る」
「…」
 そう言って、甘やかしてきたのは誰だよ、と言いたい気分になった。

 誰だってひとりで色々なものを抱えながら生きているんだ。
 凛一がいくら小さい時に母親を亡くしたと言っても、父親も兄妹も居て、経済的にも何も不安はなかったはずだ。それは充分幸せの域だろう。それなのにマトモに育っていないのは、おまえ等兄妹が凛一をちゃんと育てられなかった所為だろう。
 そういう意味ではおまえ達は親失格と言われても仕方ない。

「凛は頭のいい子だから、色々考えすぎるんだ」
 慧一は苦笑する。
「…おまえ、ブラコンだけならまだしも、親バカか?」
「え?」
「聞いてて恥ずかしくなる。おまえはあの子を天使に育てたとか言うが、俺の見る限り、普通の子だよ。慧一は近くに居すぎておかしくなっている」
「おかしい?」
「中学にもなるのにおまえをわずらわせようなんて、子供だって言ってるんだ」
「あの子は子供だよ。まだ12なんだから」
「…」
 ほら、このズレがおかしいんだ。
「それにあいつは本当に天使なんだよ。綺麗な虹色の六つの羽がある。梓も言ってた。普通の奴には見えないかも知れないが…俺たちには見えるんだよ」
「…」
 慧一は本気で言っている。
 この感覚はどう考えてもおかしい。
「…もういいよ。でもそんなに大事にしてもいつかはおまえの手から離れるんだぜ?慧一。その時、おまえは正気でいられるのか?」
「…考えたことはないよ」
「じゃあ、考えるんだな。逃げても始まらない事だよ」
 俺の言葉に慧一はあからさまに眉を顰め、憮然とした表情で俺を見つめた。
「…結局人間はひとりでも生きていけるって話か、なら、紫乃は…俺と別れてひとりでも平気だということになるな」
「…別れ話…か?」
「おまえと凛一、どちらかを選べと言われたら、俺は迷うことなく凛一を選ぶ」
「…」
 迷うことなくときたもんだ。呆れた話だ。言葉も出ない。
「弟と恋人を天秤にかける時点でおまえはおかしい」
「どこがだ?」
「結婚したからといって親子や、兄弟の縁が切れるわけではないだろう。兄弟は兄弟。愛する者とは並ぶ場所が違う」
「紫乃…おまえは間違ってる。愛する者に兄弟も恋人もない。俺は…純粋に凛一を愛しているんだ」
「じゃあ、抱けばいい」
「欲望で汚す愛じゃない」
 また笑わせてくれる話じゃないか…慧一、それがおまえの本心なのか?
「…セックスは汚いのか?おまえは俺が汚れているから、俺を抱いても構わないと思うのか?…バカだろう、慧一。凛一がおまえの天使でも、いつかは欲望に塗れるよ。それが嫌なら…そうならないうちにおまえが手を付けた方が良くはないか?」
「紫乃…それ以上言うな。俺は本気で殴るぞ」
「おまえの本気なら見てみたい。おまえはいつだって…本気じゃなかった。俺を…本気で愛していなかったって、おまえに言われている俺のことも考えろっ!バカっ!」
そう言い残して、慧一の部屋を飛び出した。

 別に一番に愛してもらわなくても良かった。凛一の次でも良かった。僅かでもおまえの本当の愛を感じていられれば良かったんだ。

 慧一、誰も好きでひとりでいるわけじゃないんだ。
 俺だって…誰かに愛してもらいたいんだ。
 何故…判らないんだ!


 


 text by saiart


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早春散歩 藤宮紫乃編 「メタモルフォーゼ」 5 - 2009.03.25 Wed

5.
 俺と慧一が本格的に付き合い始めたのは、蒸し暑い夏の始まりの頃で、さそり座のアンタレスが妙な色気で輝く夜を、俺たちは地を這うように何時間も楽しんだ。
 秋が近づく頃になると、お互いの家を行き交うのが当たり前になり、「まるで紫乃と同棲しているみたいだな」と、今更ながら慧一が笑うのを、俺は複雑な想いで受け止めていた。

 慧一の家に俺が泊まる割合が比較的多く、それは慧一の勉学の所為でもあった。
 慧一はワーカーホリック気味なところがあり、建築の構造力学からデザインまでをトータルで修学しようと励んでいた。
 色々なコンペティションにも応募し、評価されていた。

 一晩中でも机やパソコンに向かう慧一の背中を見ている時間でさえ、俺は別に苦ではない、寧ろ楽しくさえあった。熱中する慧一の横顔はこの上もなく綺麗だから好きなんだ。

 恋人としての慧一には、俺は何の不満も無く、誠意を尽くしてくれる姿勢に感心することしきりだった。
 彼に愛されていると感じることも少なくない。だが、俺は慧一の言った「本気になったことはない」という言葉が気になっていた。
 彼は今まで付き合ってきた恋人にも、同じように接して来たんじゃないのか?
 俺は本当に彼の「本気」の存在であるのか?
 答えを求める勇気は俺にはなかった。
 俺の方が完全に慧一にのめりこんでいるのは明らかだったし、そのことを追及して、この関係が壊れるのを俺は恐れていた。

 慧一には母親がいない。父親は単身で外国暮らし。ひとつ下の妹と九つ違いの弟がいる。
 彼の実家は一人暮らしのマンションから一時間程度しか離れていない。大学へは無理をすれば実家からでも通える距離なのに、と思う。しかも妹とまだ小学生の弟を置いて一人暮らしなど、不安などないのだろうか、と思い尋ねると「妹がしっかりしているから」と濁された。
 さほど愛していないのかと思うと、逆だ。

 慧一は妹と弟の携帯の連絡には異常に反応した。
 時にはやっている途中でさえ、彼等の呼び出し音が鳴ると、即中断してでも携帯に出るのだ。極まっている俺のことなど眼中にない如くにだ。

 そして今、また携帯が鳴った。
「マタイ受難曲」…これは妹、梓のメール音だ。因みに弟の凛一はメサイヤの「ハレルヤ」。
 メールを見ながら、慧一は苦笑した。俺には向けない顔だ。
 そこには「愛」があるのがはっきりとわかる。嫉妬しても仕方ない。
 血は水より濃いものだからな。
「妹から?」
「そう、見るかい?」
「いいの?」
「大した写真じゃないんだ。只…クリスマスの余興の…練習風景」
「へえ~おまえの家、クリスチャンなのか?」
「いや、梓がカトリック系の学校だったので、そういう趣向で過ごしたがるんだよ。クリスマスには絶対帰ってこいっていう脅しだな」
 そう言う慧一から携帯を受け取る。液晶画面を見ると、ベールを被った女の子が顔を少し傾げながら祈るポーズを取っている。
 妹の梓を初めて見た。少女めいた顔立ちなのにどことなく大人の女性の色気がある。くっきりとしたアーモンドの瞳は慧一に似ていたが…だが、全体の顔のつくりは慧一似では無い。
「綺麗な妹さんだ」
「男にも女にもモテるそうだよ」
「でも慧にはあまり似てないね」
「父方の祖母似だね。祖母はかわいらしい面立ちだったよ。昔の写真で見た限りでは」
「…弟は?」
「…凛一?」
「そう、おまえに似てるの?」
「俺は似てると思わないがね、回りはみんな口を揃えて似てると言う」
「見たい気がする」
「次の画面を見ればいい…」
「うん」
 慧一の了承を得て、俺は携帯の次画面を押した。

 …弟の凛一がいた。
 今度は天使の格好をさせられている。白い服を着て百合の花を手にこちらに向かって微笑んでいる。
 真っ直ぐに肩まで伸びた黒髪。
 まだあどけなさの残る男か女か全く判断のつきかねる…綺麗な顔。
 確かに慧一に似ている。決定的に違うのは…

「どう思う?」
「なに?」
「それを見て、凛一を抱きたいと思うか?」
「…待ってくれよ。おまえの弟だろ?まだ…」
「十一だよ」
「やめてくれよ。犯罪じゃないか」
「俺は十三で経験しているんだぜ。自分で求めりゃ犯罪じゃない」
「弟だろ?」
「勿論俺にとっては血の繋がった弟でしかない。だから俺は汚せないのさ。だが、俺と梓が慈しんで育てた凛一を他人がどう思うかには興味あるんだよ」
「…よくそんな平気な顔で言える」
「五歳で母親を亡くしてから、俺と梓は親代わりだ。どこでどう間違えたんだか、天使に育ってしまったらしい。この先どうしていいのか俺にもわからなくなる時があるよ。手放すには惜しくなってしまっているからね」
「…おまえが家に帰らない理由って…それか」
「…純粋なる魂がそこにあるんだよ。それに触れるのは覚悟がいる…あいつの傍にいると…疲れるんだ」
「弟だろう…弟はおまえを頼っているんだろう。愛してないのか?」
「愛とは何か?…俺にとって親愛とか慈愛とか…そんなもんじゃない。…そんなんじゃないんだよ…」
 俺には慧一の抱えている暗闇の形には全く触れることが出来ないと感じた。
 この男とその家族の関係は、他人が触れてはいけない聖域ではないだろうか…と。
 
 家族の事に触れたのはそれきりで、俺はもう一切慧一の暗闇には目を向けないでおこうと決めていた。それが俺たちの未来を隔てるものであっても、俺が暴くものではないとも判っていた。

 そうして表面には蜜月ともいう日々が続き、翌年の秋も深まりつつある晩、予想もしなかった事件が起きる。

 たまたま慧一は携帯をマナーモードにしていて…わからなかったんだ。
 俺たちはいつものようにお互いを求め合って絶頂に達していた。
 事後、慧一は携帯の受信に気づき…それに目を通した瞬間…唸るように呟いた。

「ウソだ…」
「…どうした?慧一」
「…あ、梓が…死んだ…」
「…」

 慧一の言葉に俺は深く項垂れ、続く言葉は無かった。

 俺と慧一の蜜月は終わったと感じた瞬間でもあった。

 そして…こういう時が来るのを、どこかで予感していたのも事実だった。




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早春散歩 藤宮紫乃編 「メタモルフォーゼ」 4 - 2009.03.23 Mon

4.
 あれから三週間になるが、慧一からはなんの連絡もない。
 あの後一緒に昼飯を食べて大学で別れた。
 あまりに舞い上がっていたからだろうか、携帯の番号もメルアドも聞くのを忘れ、勿論向こうが知るわけも無く、こうして置いてきぼりを食らった子供みたいに落ち着かない心持ち。
 二度三度慧一のマンションに行ってはみたが、号数もわからず、さりとてどのツラ下げて慧一の前に出ていいのかさえ判らない。
 抱かれに来ましたとでも言うのか。そしてあれはその場しのぎで言ったまでだよ。おまえしつこかったから、とでも追いかえられるのがオチだ。
 確かに、寝てくれなどと恥も外聞も無く言った俺が今になって恨めしい。
 言い訳する権利をもらえるならば、
 あの時は…酔いが醒めていなかったんだよ。

 もう半分諦めかかった頃、俺の携帯が鳴った。
 誰からの電話か、わからないままに出る。
「もしもし、紫乃?」
 紛れも無く慧一の声だった。
「あ、あ、…す、宿禰?」
「そう、久しぶりだな」
「久しぶりっておまえ…なんで携帯の番号…」
「サークルの名簿で調べたんだよ。ごめんな、レポートが立て込んじゃってて、おまえをほっといてて」
「あ…うん、いいよ。それよりどこ?」
「今大学の駐車場。これからデートしないか?」
「え?いいの?」
「恋人同士だろ?俺たち」
「認めてくれるのか?」
「キスまでした仲なのに、つれなくないか?」
「ごめん」
 それから宿禰の待つ駐車場に行くまでが大変だ。
 とてもじゃないが、口元が緩んで仕方ない。
 慧一とデートだなんて、思いがけない幸運。まったく運命の女神も捨てたもんじゃない。

 駐車場で待っている慧一を見つける。慧一は自分の車で来ていた。
 慧一らしいというからしくないというか…ミニクーパーサルーン。なんとも…これでふたりデカイのが乗るだけで変な感じがしておかしかった。
 狭っ苦しいのにも全く関係なく、慧一は気分良く鼻歌なんぞ歌っている。

「天気が良かったら天文台まで飛ばすのになあ~贋の星空で我慢してくれよ」
「いいよ。プラネタリウムなんて…小学生の時以来だよ」
「昼寝するのには便利な休憩所」
「デートなのに寝るのか?」
「今日は初デートだからなるだけ我慢するよ」
 そう言いつつ、投影が始まると五分と持たず、慧一は俺の肩に凭れて寝てしまった。
 投げ出された左手をそっと自分の手と絡めた。
 ほら、デートしているカップルになったろ?
「ヴェガとアルタイルの話なんて聞き飽きただろうけど、ああいう神話にこそ案外真理が隠れてんだぜ、紫乃」
 寝ていると思った慧一が耳元で囁いた。
 絡めた手を自分の口唇に押し付け、「アリアドネの口付け。おまえが迷わないように…」などと甘く囁くのだ。
 …おそろしい奴。

 腹が減ったというので、ファミレスにでも行って簡単に済ませるつもりが、奴は折角のデートだし、紫乃を待たせた償いもさせてくれと、だから俺が奢ると言いつつ、高級そうなホテルでフランス料理を味わってそのままそのホテルの部屋に泊まることになった。

「慧一はブルジョワなのか?」
 シャワーを浴びてバスローブを羽織っただけの姿でふたりで軽くワインなどを飲んでみる。ま、格好だけね。
「いや別に金目のもんには興味がないんだが、なんでもうちのじいさんが豪商で酒作りをやっていたらしい。それでなんかしら経済的には余裕って話で。でもどこまでが本当かね。親父は単身で外国に行ったっきりだぜ?生活費を稼ぐ為に必死こいてる身だもん。本物の財産家じゃないね。紫乃の家の方が格式あるし、それはそれで大変そうだ」
「まあね、でも俺はもう跡目は継がなくていいし、気軽でいいよ」
「重荷は少ない方がいいんだけどね…血縁関係はなかなか切り捨てられない」
「なに?」
「別に…それより紫乃。俺と寝たいんじゃなかったのか?」
「おまえはどうなんだ?」
「俺?そりゃこんなに綺麗な奴を目の前にして何もしなかったじゃ、甲斐性無しと罵られても仕方ないんだろうがねえ…紫乃をいい気持ちにさせてあげられたら、褒めてくれよな」
 そう言ってさし伸ばされた手の平を、俺はしっかりと繋いだ。

 慧一は言葉どおり、俺を天国に連れて行ってくれた。

 慧一の口唇が俺の身体のどこかに触れるたびにそこが腫れ上がる気がした。混じりけの無い官能的感受性。肉体の本質から根こそぎ変えてしまわれる様な苦痛と快感にもがいているような気がした。
 こんなセックスなどしたことはなかった。
 これまでにしてきた決して少なくない性体験の中で、こんなに自分が翻弄されることは一度も無かった。
 俺はそら恐ろしくなって、俺を抱いているこの男をまざまざと見つめた。
 俺と同い歳で、俺と同じようなガタイで、俺とは全く質量も許容量も違う。
 恐れなど微塵もしらない純粋な人間の魂に触れた気がする。
 それと同時にこの猥雑な行為を悪魔の如く楽しんでいる気がして、俺は正直恐れ戦いた。

「お、まえどんだけ経験豊富なんだ、よ」「褒めてんの、ソレ」「ちょ、死ぬ」「紫乃とだったら俺満足するかも…」「や、慧…」「怖くなった?」「違う…良すぎて、死ぬ…」「俺も最高だよ、紫乃…」
完璧に圧倒された。

 必然であれ、偶然であれ、俺は宿禰慧一という男に出会えた運命に感謝する。
 大いなる希望であり、情熱の底辺を担う存在であった。
 今まで昏い海の底をひとり漂いでいた俺が、光輝く宝玉を掴んだ気がしたんだ。

 この先何があろうとも、俺はおまえを拒絶したりしない。絶対に…

   


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『春の自由参加型 特別企画』のイラスト - 2009.03.21 Sat

ひまつぶしの伽羅さん企画、『春の自由参加型 特別企画』のお題を描いてもらえませんかとお願いされまして、調子に乗って描いてみました。

sakura1

何か御題を…と、言われて描いたのは初めてだったので、何をどうするのか迷ったのですが、「桜」をテーマにという事を言われ、すぐに絵が浮かんだのがこれです。

これならどんなシチュエーションも考えられる。
このふたりがどんな関係なのか、色々と妄想できるだろうと思います。
タチとネコだけははっきりしとこうと、攻めをSっぽくしてみましたが…

いかがでしょう。



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早春散歩 藤宮紫乃編 「メタモルフォーゼ」 3 - 2009.03.21 Sat

3.
 歓迎コンパの夜、高校出たての新入生同様、俺はグデングデンに酔っ払ってしまい、ひとりでは到底歩くことも出来ない有様で、宿禰慧一に身体を支えてもらってなんとかふらつきながら居酒屋を後にした。

「ごめん。おまえ強そうに見えたから、調子に乗って飲ませすぎたな」
「い、いい…大丈夫…」
 いや、全く大丈夫どころじゃない。吐いても吐いても気持ち悪さでどうにかなりそうだ。そういや暫く酒も絶っていたから、こんなに飲んだのは久しぶりかも…
 などと、あんまりはっきりしない頭で考えていると、
「おまえのアパートどこ?」と、俺の肩を抱えたままの宿禰が言う。
「え…神楽坂」
「じゃあ、俺の方が近いな。今日は俺の家に泊まるといいよ」
「…ああ…」
 何だか思いもかけない方へ向かっているじゃないか…身体は思い通りに動かないがこれも神様の思し召しなのか、ラッキーな夜に感謝感激って心境で、俺はこのまま宿禰の胸にしがみ付きたい衝動をなんとか抑えた。

「やっと着いた。おい、紫乃大丈夫か?」
「ああ…うん」
 宿禰の家はアパートというより、オートロックのついた高級そうなマンションで、ひとりで住むには少し広めの部屋だった。
 俺は寝室に連れて行かれ、そのままベッドに寝かされた。
「お客さん用は残念ながらないんでね。悪いけど俺のベッドで我慢してくれよ」
「…おまえは?」
「リビングのソファで寝るから大丈夫。気分が悪くなったら言ってくれ。遠慮はするなよ。先輩として責任は取るよ」
 先輩としてか…まあ、いいさ。まだ二回しか会っていないのに、相手の家にお泊りなんてのは上手くいってるって思っていいんだろ?…向こうがノンケじゃしょうがないがな。
 そう思って目を閉じると、急速に睡魔に憑かれた俺は夢の中に呼び込まれ、意識を失った。

 朝、珈琲の香りで起きた。
 ベッドから降りた途端頭がガンガンし、ようやく自分が二日酔いの症状だと気づく。
 ふらふらしながら寝室を出ると、ダイニングに座って珈琲を飲んでいる宿禰と目が合う。
「起きた?気分は?」
「…グラグラする」
「仕方ないな。二日酔いなんだから」
 それは俺も良くわかっている。今後の為に勉強になったよ。

「シャワーでも浴びれば?下着とシャツは貸すから」
「…知り合ったばかりなのに、そこまで親切にされると裏があるんじゃないかと勘繰ってしまうね」
「友達になりたいという裏はあるよ」
「…」
 友達かよっ!
 …どこまでが本心か判断のつき兼ねるところまでさえも、胸がなるって事は相当重症だ、俺。

 シャワーを浴び、用意されたスウェットに着替える。リビングに行くと見計らったように珈琲を出される。
「砂糖もミルクも入れない派だろ?」
「…うん」
「二日酔いだからアメリカンにしといたよ」
「ども…」

 二人掛けのダイニングテーブルに座り、珈琲を飲みながら、目の前の奴をちらちらと見る。
「今日は講義はあるの?」
「3時限から」
「俺も同じだよ。昼飯は一緒に食おう。軽い奴」
「…うん」
 なんか都合よく引っ張られている気がする。こいつは別に俺じゃなくても誰にでもこういう風に接しているんだろうな。
 …そう思ってしまうと、あんまり気分は良くない。
「どうした?気分でも悪いのか?」
「…あんた、誰にでもこういう風に親切なのか?」
「誰にでも…ってわけじゃないよ。でも後輩が酒飲んでぶっ倒れりゃ、先輩としてはそれなりの介抱はしてやるもんだろ?」
「…俺は…ゲイだよ。こんなこと知り合ったばかりの先輩に言うのは気色悪いと思うだろうけど…だぶんおまえが好きなんだ。だからこういう事をしてもらうと…その気になってしまう。気持ち悪かったらごめん」
「別に、気持ち悪くないよ。俺もゲイだから」
「は?」
 …マジで驚いた。何処をどう見てもノーマルにしか見えないじゃないか。
 その顔は詐欺だ。
 でも…こんな嬉しい偶然ってあるかよ。

「紫乃を見てすぐゲイだとわかったけどね。おまえ見るからにそうだもん。でも、おまえプライド高そうだし、タチだろ?俺もそうだから恋人には無理かなと思った。でもいい友達になれそうな気がしたんで、声をかけたんだよ。誤解させて悪かったな」
「いや、正直嬉しかった、おまえに声をかけられて…」
 テーブルに置かれた慧一の細く長い指を見る。
 細いクセにどこから見ても紛れもなく男の手で、その指で触られたら…と思うと、ザワリとした。

「…おまえが俺のことをそういう風に思ってくれるのは嬉しいけど、自分の倫理を曲げてまでやりたいとは思わない方がいいぜ」
「…倫理なんてもん…ないよ。俺は…おまえになら、別に抱かれてもいい…って」
「紫乃は寂しいだけなんじゃないのか?俺じゃなくても他に可愛い子は沢山いる」
「どういう意味?」
「無理に下にならなくてもいいだろうって意味だよ」
「俺が誰とでも寝ると思っているのか?」
「…悪い。そんな意味で言ったんじゃない。俺もおまえが好きだと思う。だけど、おまえとしたら本気になりそうでちょっと…逃げ腰になりかけてるよ」
「本気じゃダメなのかよ」
「なったことがないから判らない」
「じゃあ、試してみないか?」
 慧一の指に触れてみる。
 一瞬だけ震えたが慧一は引かなかった。
 そのまま指を絡めると慧一は指から俺に目を移し、真剣な眼差しで俺を見つめた。

「知り合って翌日に深い仲になるのか?」
「二日目じゃない。白状すればあの時、桜の下で出会ったときからずっと…おまえが好きだったよ」
「…」
「慧一、俺おまえと寝たい」
 俺の告白に慧一は二、三度目をパチパチと瞬き、その後苦笑した。
 俺の絡めた指を逆に握り締めると、
「…わかったよ、紫乃。本気の付き合いをやってみよう。後悔をしてもおまえとなら意義あるものかもしれない」
「後悔はさせないよう努めるよ」
「よろしく頼むよ。でも今はやめとこう。おまえを押し倒してベッドで吐かれても困る」
「確かに…否定はしないよ」
 クスリと笑うと、慧一はテーブル越しに、俺にくちづける。

 慧一との初めてのキスは少し苦い珈琲の味がした。
 これが青春の苦味なのかも知れない。
 暗い青春時代しか味わえなかった俺は、これから遅い春を満喫することになるらしい。

 願わくば、この恋が嵐に散ることなかれ、と。


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早春散歩 藤宮紫乃編 「メタモルフォーゼ」 2 - 2009.03.19 Thu

2.
 俺は9つの時に母の実家である茶道の家元の跡目として養子に入った。
 離婚し、俺を育てる事に疲れていた母は養子の話を喜んで受け入れた。
 俺は母の為にならと、子供心にも不退転の決意で挑んだわけだな。
 
 南部姓から藤宮姓を名乗り、跡目を継ぐため祖母からの厳しい稽古の日々。
 養い親との確執に揉まれながらも、この流派を継ぐ為の意義を自分なりに見つけ、励んでいた。
 しかし、14の時、すでに40を過ぎていた養母に子供が授かり、しかも目出度くも男子誕生。
 直系の跡継ぎが出来たことにより、俺の存在価値は急降下。
 むしろ邪魔にさえなったに違いない。

 俺は大家の居心地の悪さに何度も家出を繰り返しては呼び戻され、藤宮流派の恥だと貶された。
 居心地の悪い藤宮家には、すでに自分の居る意味も無く、南部姓に戻り、母親の元へ帰ろうと思ったが、 その時は母はすでに再婚して別姓を名乗っており、俺の帰る場所はいよいよ無くなった。
 唯一の味方であった祖母は、別宅に俺を住ませ、不自由なく暮らせるよう経済的援助をしてくれた。
 しかし、その時期の俺の中ではそういうもんの価値には有難味を覚える自覚が欠けており、夜昼と遊びまわった挙句、胃潰瘍と神経衰弱で身体を壊し、高校を休学、そして退学。
 半年の入院。
 大検を受け、この家から一刻も逃げる為、東京の大学を選んだ。

 独り暮らしの快適さは言うまでもない。
 今まで誰かが自分を見張り、付き添い、金目当てや身体目当てに来た連中どもと遊んだ日々など、もうおさらばだ。
 しかし、ひとりでは寂しすぎるのもごもっとも。
 いい相手を見つけないと。
 俺、結構寂しがりやなもので…

 入学式で出会った宿禰慧一は、俺の一目惚れの男だった。
 俺はそれなりに好き勝手と遊んでいたんだが、まだ「恋」って奴にはお目にかかったことが無く、胸が高鳴るなんてもんは早々経験不足。
 宿禰慧一はまさに俺の救い主。俺の胸に抱かれた奴を想像するだけで、何度も抜ける。

 同じ大学ではあったが、彼とめぐり合う機会はない。
 理系と文系でキャンパスが違うこの大学でかち合うことは先ずないのだ。
 だから、わざわざ入部したサークル「天文観測の会」とやらの部室に繁昌に出向くことになる。そうはいっても毎日彼が来るわけでもなく、大体こういうサークルに普段の決まった活動はなく、次に彼の顔を見たのは新入生歓迎コンパの夜だった。

 居酒屋を借り切って行われたコンパは一年から三年までの約50人程度が集まり、紹介から始まり無礼講に終わる。
 俺は宿禰慧一の姿を見つけては、彼の一挙手一投足に目を奪われる始末。
 まあなんて…印象深い奴なんだろう。
 隙が無いくせに当たりがいいから、良くも悪くも優等生にみえる。
 しかも偶にいうしゃれっ気のある冗句などで回りを和ませては、酒や料理の気配りなどソツが無い。
 …相当世間慣れしてるな~と感心させられる。
 惚れた弱みでそのひとつひとつにまた胸が高鳴るから、女子高生か!などと独り自分を哂ってしまう。

「楽しんでる?藤宮」ビールを片手に当の本人が目の前に来た。
 俺の名前を覚えていてくれた。
 それだけで宙に舞い上がりそうだ。
 …なんてザマ。
「ビールでいい?それとも酒の方が良かったかな」
「いや、ビールでいい…ですよ」
「タメ語でいいって言ったろ?」
ビールを俺のグラスに注ぎながら、宿禰は俺の隣に座り込んだ。
「でも一応…人目があるし」
「じゃあ、ふたりきりの時は俺は紫乃って呼ぶ。おまえは慧一でいいよ」
「はあ」
「…おまえさあ、人馴れあんまりしてないんだな」
「そう見える?」
「隠匿するのは勿体無い器量だが、野放しにするのはもっと危ない。君は貞淑なる貴人だろう?」
「意味がわからない」
「近寄りがたいっていう事だよ」
「まさか…」
「その証拠に誰も君には近づかないだろう?怖いのさ」
「そんなに危ない奴に見えるのか?」
「後戻り出来なくなりそうだから手を出せない…って感じかな」
「じゃあ、あんたは怖くないんだ」
「俺はマゾなのさ。精神的欲求には素直に従わない…安全な人間だろ?」
「…」
 何の影も見当たらない大きな黒い眼。耳ざわりの良い声音。暗喩の含んだ諧謔の韻。
 こいつの正体が見抜けない。

 ただ、言うならば、まさに引力には逆らえないという事だ。
 宿禰慧一というブラックホールにも似た星に、どこまでも俺は引き込まれたい…
 そんな気分で飲む酒に酔わないわけがない。
 繰り返し注がれる酒と、傍にいる宿禰の存在に、俺は深く酩酊する…

  

              text by saiart



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早春散歩 藤宮紫乃編 「メタモルフォーゼ」 1 - 2009.03.17 Tue

「green house」番外編

凛一の9つ違いの兄、慧一と、高校の先生藤宮紫乃との恋愛を語ってみようと思います。
またもや見切り発車もいいところで、先行きどうなるかわかりません。
なんせメモひとつ取らない気質なので、書こうと考えてたものをすぐ忘れる始末。
しかし反省の色なし。

なので、後々校正が必要になるかも…と、思いつつ、面倒臭いのでそれもやんないと思います。
赴くままに書き連ねる。
今はそういう気分なのです。

では、初めは紫乃の視点で「恋」が始まります。

ごゆっくりどうぞ。
fujimiya



早春散歩 藤宮紫乃編 「メタモルフォーゼ」

1.
 誰一人知る人もない人ごみの中をかき分けて行く時ほど、痛切に孤独を感じるときはない。と、言った奴は本当の孤独を知らないんだ。
 孤独は痛みを通り越せば快感になる。

 大仰な式典を終え、サークルの勧誘の声が桜と同じ速さで舞い降りる。
 低く高く辺りを反響する声が渦巻く中を、俺は時折目を瞑りながら歩いた。
 これさえも心地いいと感じるのは、人の目を気にしなくなった事の報酬なのかもしれない。

「君、新入生だろ?サークル決まった?」
「え?」
 いくつもの誘いの声に耳を傾けることなく歩いていたのに、そいつの声に足が止まったのは、テノールの響きに思わず聞き惚れてしまったからだろう。

「浪人組み…一浪だろう?君」
「どうしてわかる?」
「高校卒業ってのはあんな感じ…だろ?」と、彼は勧誘する学生に取り囲まれたどうみても田舎から出てきた手前のまだ青臭い新入生を指差した。
「君は苦行を終えてようやく世の中を知るお坊さんに見えるよ」
「…」
「でも大人じゃない。また半人前の僧だね」
「…半人前で悪かったな」
「そう睨むなよ。俺と同い年だろうって言いたかったんだよ」
「…それで?なんの勧誘?」
「聞いてくれる気になった?」
「もう充分ここで立ち止まってるよ。君も成果を上げなきゃならないんだろう?」
「話のわかる奴は好きだよ。じゃあ、これを見て」
「…」
 俺はそいつの「好き」という言葉に胸がドキリとした。
 なんなんだ?こいつは。

 よく見ると俺より背は少し高い。
 別に身体の線を強調するような服ではないのに、全体を見ると華奢な線が浮いていてどことなく色っぽい。
 しかし、その上に乗っている顔がやたら整っている且つ上品な面立ちなので、真面目な青年の印象が強い。
 なんとも…目が離せない…ってね。
 …ったく俺も煩悩だらけだ。成仏出来そうもない。
 
 誤魔化すために手渡された紙に目をやる。
 俺がそういう趣向の人間だとしても世の中、そういう奴ばっかりって話は無いからな。
こいつも勿体無いがノーマルな感じがするし…
「…『天体観測の会』ってね。サークルなんだけど、プラネタリウムとか近場の星が良く見える天文台に行ったりするんだ」
「…悪いけど、あんまり星に興味はなくてね」
「俺もおんなじだよ。星の名前なんかシリウスぐらいしか知らないし…でも、小旅行もするんだ。夏は星空を見上げながら寝袋に入って一晩中流星群を見たりしてね。自分がどんなに小さい屑みたいな欠片かってね…そんな気分を味わえるのって偶には気持ちよいもんだよ」
「…自虐的だな」
「それこそが人間の本質…じゃないかな?」
「…そう…だね」
「どうだろう。君、入ってみない?君とはいい友達になれそうな気がするんだけど…」
なんの衒いも無く差し出される手の平。
「…」
 俺の前に出されたその手の平に、一片の桜の花びらが落ちた。
 その花びらを俺は…無くしたくないと…思ってしまった。

 握り返すと彼は屈託の無い笑みを俺に返し、
「よろしく、新入生。俺は建築学科二年の宿禰慧一と言います。同い年だから特別に呼び捨てで構わないよ」
「ああ、うん。俺は藤宮紫乃。人文社会学科一年…です」
「藤宮…紫乃か…綺麗な名前だね」
 そう言った宿禰慧一の方が俺なんかより千倍も綺麗だと、思った。

 生まれて初めて一目惚れというものを体現した瞬間だった。


 桜の森の満開の下、僕らは密やかな契約をする
 「孤独」という文字を「恋」に変えて
 僕は君に狂いたい



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幕間 …凛一の場合 - 2009.03.13 Fri

楽屋でちょっと一服。

「それにしても17話もやっているのに、まだ水川と手しか握らねえなんて、このご時勢にあるまじき恋愛劇じゃあねえか?これじゃあ、やるどころか、キスも当分お預けくらいそうだな。俺はともかく(兄貴とやってるからいいが)ミナの方はストレス溜まってねえかな~。ちょっとミナの楽屋でも覗いてみるか…」


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「ミナいるかあ?…ん?…寝てるの?…台本持ったまま寝ちゃってるし…かわいいな~ピンクの頬っぺたもちょっと開いた口唇も全部俺好み…この際物語無視してここでやるっていうのも…ありじゃね?」


「「ダメです!」」 サイとサクタのダメだし!

宿禰凛一編 「密やかな恋のはじまり」 13 - 2009.03.12 Thu

13.
 水川にも会えず、電話をするも呼び出し音ばかりが鳴り続ける。仕方ないからメールで簡単に事の次第を説明する。
 こんな事で終わりにするわけにはいかなくなっているのは、俺の方だけなんだろうか。

 マンションに帰ってみると玄関の鍵はかかっていない。慧一が帰って来ているのだろう。
 入ってリビングに向かうが姿は見えない。慧一の部屋にも…居ない。
 どこに行ったんだろうと自分の部屋に入ると、慧一は俺のベッドを背に床に座り込んでいる。
「慧…」
「お帰り、凛」
「どうしたのさ。こんなところで、昼寝でもしてたのか?」
「寝れないよ。おまえをあんな気持ちにさせたままにして…すまなかったよ」
「もういいよ」
 慧一の隣に同じように座り込んで、そのまま慧の肩に凭れ掛かると、慧は俺の頭を撫で、引き寄せた。
「凛を寂しい目に合わせないって誓ったのにな…ゴメン、黙っていて…」
「慧は俺のことを思って秘密にしていたんだろ?もういいって。それに、あんまり傷ついてないよ、俺」
「本当か?」
「うん…兄貴の恋人が藤宮ってのは驚いたけどね。慧の趣味はもっとかわいい子だと思ってたもん」
「あいつはあれで結構かわいいんだよ…もう終わったんだけどね」
 温室で藤宮と手を結んだことは黙っていよう。お相子だよ、慧。
「…本当に…もう好きじゃないの?藤宮の事」
「…好きだよ。でももう付き合えない。恋人としても友人としても…俺の勝手な我儘で別れたんだ。今更あいつに償えない…昔には戻れないよ」
「別れた原因って…俺にもあるよね」
「おまえにあったとしても、それを選んだのは俺だし、自分の為にあいつと別れたんだよ。凛が責任を負うものは何も無い」
「…ひとりは寂しいよ。藤宮だって…」
「凛一、もう言うなよ。俺たちは大人で…だから一人で寂しくても我慢はできるんだよ。だけどおまえはまだ子供なんだから、我慢しなくていいんだ」
「姉貴は俺にいっつも早く大人になれって言ってたんだぜ。俺、結構大人なつもりなんだけどな」
「…だから寂しい思いさせてしまったんじゃないか。俺は凛に対して後悔ばっかりだよ。もう二年して大学院を修了したら、おまえの傍から離れないからな」
「その時は俺も大人になるから、心配しなくていいって…」
「俺はいらなくなる?」
「違う、俺に責任を感じなくていいって事だよ。慧はもう充分償ったよ…」
「そうかな」
「でも…明後日行っちゃうから…正直寂しいね…」
「うん」
「ねえ、慧。添い寝は頼まないからさ、ハグさせてよ」
「いいよ…」
 慧一の膝に乗っかり、俺は慧の背中を抱きしめる。又ひとりになるかと思うと寂しさが募って胸が詰まる。
「キスしていい?」
 お互いの額をくっ付けながら、慧の瞳を見る。
「この間みたいに舌入れるなよ。おまえ、寂しくなるとすぐ入れるクセがある」
「今更なんだよ。昔からやってたじゃん」
「大人になったらやらないもんだよ」
「慧、優しいからさ…慧とすると安心するんだよ」
「だから子供なんだよ、凛は…」言葉が終わる前に俺は慧に口づける。歯列をなぞりそのまま舌を入れて絡み合わせ、慧を味わった。
「…んん…」
 小さい頃から慧一と梓は俺のものだと思って生きてきた。
 だからこんな風に抱きしめたりキスするのは親愛を分かち合う触れ合いっていうのかな、確認みたいなもんだ。
 性的なもんは一切ない。だってこんなに舌を絡めても全然勃たないもの。

 長いキスの後、慧一はなんだか寂しげに微笑んだ。
「暫く会えなくなるけど、俺のキスが欲しくなったら学校辞めていつでもシカゴに来るんだよ、凛」
「うん、そうならないように恋人を作るよ」
「例の頭が良くてかわいい子か?」
「まあね、巧くいったら慧にも見せてあげる」
「楽しみにしてる」

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 夕食を食べて風呂から上がったら、携帯の着信の光が点滅していた。見ると水川からだった。俺は急いで電話を掛ける。
『…もしもし』
「ミナ?」
『うん』
「電話くれたんだね。ありがとう。今日は悪かったよ。せっかく昼飯用意してくれてたのに…キスの事は…」
『根本先輩から聞いたよ。あの人はいつもああなんだ』
 …判ってるなら逃げなくてもいいだろうよ。
「ミナ、明日会えない?話があるんだ」
『…うん』
「放課後、温室で待ってるよ。いい?」
『わかった。俺も……行くよ、絶対』

 翌日の放課後、温室に行くと、水川はもう来ていた。
 俺を見ると初めて会った時の驚いた顔で迎えてくれた。
「すっかり忘れて、遅くなったけど…これ、ありがとう」
 俺は出会った時に貸してもらったハンドタオルを返した。
「…おれも忘れてた」ミナはクスリと笑って受け取った。
「話があるんだ」
「…なに?」
「前に…言ったこと。友達としておまえと付き合うみたいなこと言ったけど、そんな嘘をつくのは止めにするよ。俺はミナを友達として見れない」
「…」
「ミナに触れたいと思う。キスしたい、抱きしめたいと思う。セックスしたいと思う。勿論強引にせまったりしない。一方的な想いを押し付けるなんて迷惑なだけだからな。でも俺がこういう気持ちでいる限り、ミナがその気持ちを受け入れられないなら…こんな風に会ったりするのは止めようと思う」
「…」
「勝手な言い分でごめんな。このままおまえの傍にいると、俺、本気でおまえの事を好きになってしまいそうなんだ。だから…自分が傷つく前に白黒はっきり決めようって…おまえもその方が傷つかなくて済むかなって…」
「宿禰って…本当に勝手なんだね」
「え?」
「おれの気持ちとか考えないで、勝手に決めて…おれだって迷ったり悩んだりしてるよ…傷つかないとか…もう遅いよ」
「ご、めん」
「宿禰のことを他の友達のように思ったりできないんだ。だからっておまえとキスしたり…抱き合ったり…そんな事、今のおれは考えられない」
「わかるよ」
「だから…だから結論はすぐには出せない」
「…」
「でも、おまえを知らないままの自分には戻りたくない。もう戻れないと思う」
「ミナ…」
「だから…待っててよ。おれが…リンを…好きになるまで…」
「…わかった」
「…いいの?」
「断られなくてほっとしてる」
「リン…」俺の目を見つめるミナの瞳に翳りはない。

 ミナの右手を手に取って、その甲を見つめた。
 俺の書いた何時ぞやの友達としてのアドレスは勿論消えてしまっている。
 白く細い骨の突き出た手に青い血管が浮き出ている。
 俺はミナの中に光を見つけている。
 俺の「好き」の想いは正しい光を持って輝いているだろうか…
 ミナの輝きを妨げたりしないだろうか…

「ミナ、好きだよ」
 俺の告白にミナは少しだけ笑った。
 ミナは輝いている。まだ何も混ざっていない無垢なる輝きだ。
 俺はこの光を汚さずに導けるのだろうか。
 導きたい…手を取り、光を目指して導いてゆきたい。


 …花咲き 鳥が舞い 光溢れる空の下で 笑う君を見つめる僕は 
 ちっぽけなただの愛する者になる…

 それが僕の願い…



             

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次章「kissをしよう」は。 こちら からどうぞ!



慧一と紫乃…大学生 - 2009.03.11 Wed

リクエストを頂きましたので、描いてみましたよ。

ふたりが一番幸せだった頃、大学2,3年頃でしょうか。
独り暮らしのお互いのアパートを行ったり来たり、ほとんど同棲している状態だったと推測。

keisino1


そういうお話が番外編で書ければ幸せですね~
勿論タチは慧一ですよん。紫乃は慧一にはデレデレネコですもん。

リクエストありがとうございました~(*^_^*)


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宿禰凛一編 「密やかな恋のはじまり」 12 - 2009.03.11 Wed

12.
 寮からさして遠くない温室に辿り着く。
 ミナはここに居るはずだ。
 絶対の確信を持って温室の中に入ると…招かねざる客…いや客は俺の方だろうが…が居た。

 …それにしても今日は仏滅か?受難の主日でもなかろうに、未だに飯にもありつけてない有様で、顔すら見たくない奴と再び巡り合わせてくれるとは、どういうお導きだよ、…ったく。

「やあ、多分ここで待っていれば会えると思ったんでね」
「…兄弟揃ってお世話になってるあんたには一度お礼を言わないといけないらしいね、藤宮紫乃先生」
いつも俺と水川が腰掛ける温室の中央の椅子に座って、藤宮が気障に煙草を吸っている。
どうしてこうも嫌味ったらしい姿なのか…もしかしたら上っ面だけの作りなのか?
「そう、噛み付くなよ。俺は仲良くやっていきたいだけだよ。他意はない」
「信じられないけど…大体兄貴があんたを選ぶとは俺には思えない。本当に付き合っていたのか?」
「どことなくかわいい弟に似ているって、昔、言われたことがあるなあ」
「…あっそ…まあ、いいけどさ。もう後腐れなく別れているんだろ?俺にまでちょっかい出さないでよ、先生」
「慧一は別れた気でいるらしいけど、こっちは未練タラタラでね。未だに忘れられないのさ」
「マジか?」
 どこまでがこいつの本音なのかわからない…が、すべてが嘘だとはどうしても思えない。
 こいつは本当に…

「君の事は慧一から散々聞かされてたから、ひと目見てすぐにわかった。まさかここに来て副担任になるとは思わなかったけど…丁度いいから、君を利用して慧一とよりを戻す方法を探っていたんだが、方針が変わった。君はなかなか手強いからな」
「それで?よりは戻ったのか?」
「あいつは頭が固いから…一度別れたら元には戻れないって断言された」
「兄貴らしい。じゃあいい加減諦めたらいいじゃん」
「そう簡単に諦めきれないもんだ、本気で繋がった者とはね。それに…俺にはわかるんだよ。慧一と俺を結ぶ糸はまだ切れてないってな。お互いが嫌いになって別れたわけじゃない」
「どうでもいいよ。あんたが兄貴とどうなろうと俺には関係ないだろう」
「関係大有りだ。慧一はおまえを愛してるからな」
「当たり前じゃん。弟だからな」
「…だから邪魔」
 邪魔か…そうだな。でも生まれてしまったんだから仕方ないんだよ。
 俺は俺の為に生きるしかないだろう?

「そんなに邪魔なら、俺の存在はあんたの中で無いものにしてくれていいよ。俺は俺で好きに生きるから。じゃあ、俺、忙しいんで帰るわ」
「いいのか?…水川青弥を待っていたんじゃないのか?」
 帰りかけた足を止めるには充分な名前だった。
 こいつ…
 今後の言葉によっては殴れる距離を取って俺はこの教師を睨んだ。
「…さすがは監視役ってわけか。あんた、覗きの趣味もあるのかよ」
「あの生徒はうちの学院の期待の星らしいんでね。そういう子を、みすみす君みたいな恐ろしい生徒に手折られるのを見るのは、教師としては奨励出来かねるんだがね」
「この学院の聖なる規則には恋愛は人を選べってあったか?」
「…あの子は普通の子だろう。俺たちのお仲間にするなよ。恋愛するなら違う奴にしろ」
 …目が笑っているんだよ。本気じゃねえな。
「それで、あんたの本心はどこにある?」
 俺の質問に藤宮は背を向け、そして窓際に咲く吾亦紅を手折った。
 ゆっくり振り向くと彼は俺を見た。

「…我々はどこから生まれてきたか?」
 突然何を言い出すかと思ったら…。
「…愛から」
「我々はいかにして滅ぶか?」
「愛無き為」
「それが答えだろ?」
「成程ね、慧があんたを気に入ったわけがわかったよ」
「じゃあ、和解したって事で協定でも結ぶか」
「遠慮しとく。俺は慧の味方だから、あんたに加勢はしないよ」
「わかってる。ただ、慧一に心配かけるような事は慎めよ」
「教師として?監視役として?」
「…慧一の為にだよ」
「…」

 藤宮の真意が少し見えた気がする。
 あいつが言ったことが本当なら…俺は彼を責めたりできない。
 温室を後にしながら、俺は兄貴と藤宮、俺とミナの事を考えた。

 我々を絶えず結びつけるのは何か…
 愛である…






受難の主日…四旬節には食事の節制の習慣がある。
吾亦紅…花言葉「愛慕」又、その根は止血剤となる。
我々は…ゲーテの手紙より

                 
                            

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宿禰凛一編 「密やかな恋のはじまり」 11 - 2009.03.10 Tue

neko3

11.
 30分ほどで水川のいる寮に着いた。
 玄関に立ち、中を眺めた。
 ロビーにある広めの休憩室のソファに座って本を読んでいる水川の姿が見える。
 俺を見つけると、立ち上がって俺に近づく。
「一応靴は脱いでよ」
「わかってるよ」
 俺は笑って、ミナに付いていく。
「あんまり綺麗じゃないけど…どうぞ」
 ミナがドアを開けて俺を部屋に入れた。
 想像通りの部屋だ。ベッドと机とクローゼットが置いてあるだけの無機質な様相。
 只片方の机の前にはやたらとポップなデザインポスターが貼ってある。
 ミナの趣味じゃないと思い、俺はミナのものと思われる机に近づいた。
「ふたり部屋なんだ」
「うん、二年の根本っていう人。…宿禰知ってる?」
「知るわけないじゃん。俺あんまり顔広くないよ」
「そう?そんな風に見えないけどな…ベッドにでも座ってよ。お昼は食べた?」
「…いや」
「じゃあ、食堂になんかあるかも知れないから、おれ持ってくるよ」
「い、いいよ。そんなの…」
「…でも」
「話に来たんだよ。ミナと話したかった…」
「…うん」
「あれから…温室に行かなくてゴメン。ちょっと気分的に…行けなかった」
「…いや…おれも…宿禰が来なかったから、なんかちょっと寂しかったよ」
「…そう…」
「おまえの話面白いから…結構楽しみにしてた」
「…」
 話ねえ~…そこだけかよ。と、内心突っ込みつつ、最初の頃と比べたら大分進歩してきたんじゃねえかと思う。
 なんだろう…ここに来るまですげえ寂しかったのに、なんだかあったかくなる感じだ。
 ミナは俺の癒しになってくれるのかな…
 グゥ~
 安心してしまったら、思わず腹が鳴った。
「…やっぱりお腹空いてるんじゃん」
「まあね」
「じゃあ、俺持ってくるよ」
「いいよ、食堂に行けばいいんだろ?」
「部外者は許可がないと使用禁止なんだ。いいよ。おれ誤魔化して持ってくるから。ひとり分ぐらいなら余ってるから、気にしなくていいよ」
「優等生が規則破っていいんかい」
「…優等生だからね。大目に見てもらえるんだよ」
 そう言って水川は部屋を出て行った。

 ミナのベッドに腰掛けたまま仰向けになり天井を眺める。
 なんだか不思議な気がした。
 水川は俺をどう思っているんだろう。
 只の友達がいいと言ったんだから、恋愛感情は向こうにはないはずだ。
 それなのに、俺がそういう気持ちで水川を見ているってことを、気持ち悪く思ったりしていないんだろうか。
 温室で俺を待っていたり、話を聞きたいっていうのは嫌われているわけじゃないんだ。今日だってこうやって部屋に入れてくれているんだから、気持ち悪く感じる奴に対するおもてなしじゃないだろう。
 恋愛感情ってもんが全くないのなら…
 …本当に友達の関係だけで俺を受け入れるつもりなんだろうか…俺は全くそういう風に見れないのに?
 …大丈夫なのか?これって…

「あれ~?誰かお客さん?」
ドアの方に顔だけ向けると、小柄な生徒が入ってきた。
「水川が友達を部屋に入れるなんて珍しいね」と、言いつつ俺の向かいのベッドに座り込んで俺を眺めた。
 俺も同じように身体を起こして相手を見る。
 …こいつが根本先輩か…こりゃまた…見るからにだなあ…まあ、これだけネコじゃあ水川が犯される事はないだろうが、変な事を教えられそうで怖いね。逆に免疫が付くって話だが、ミナを見ている限りじゃ、あいつはノンケだから、全く影響受けてないってわけか…どっちもすげえな…

「…君…宿禰凛一くんでしょ?」
「俺ってそんなに有名なの?」
「結構ね。色々と武勇伝聞くもん」
「武勇伝ねえ…どんな?」
「中学ん時、色々あったでしょう。凄い噂聞いたよ。本当かどうか疑っていたから丁度良かった。本人に確認しよう。いい?」
「どうぞ」
「その一、人殺しの経験がある。その二、ウリ専でナンバーワンだった。その三、心中未遂で相手が死んだ。その四、うちの藤宮先生と深い仲である」
「…」
 最後の藤宮の件については真新しい情報ではあるけどね。深い仲っていうのは別な意味で間違いではなさそうな気がするけどな…他の奴は、今まで言われて来た事とそう変化無いことが逆に面白みがねえって言うか…
「どう?お答え聞かせてよ」
「うん、残念だけど、全部ハズレだね。掠っているのもあるけど、点数はやれないね」
「う~ん、残念!これが本当なら、ぼく本気で君にアタックする気だったのにな~」
「先輩は俺が相手しなくても充分モテるでしょう。なんなら藤宮でも紹介しましょうか?」
「…あれはさすがに怖いよ。なに考えているかわかんないもんね」
「さすがだね。あんたさ、見かけよりずっと目も頭もいいんだね」
「そういう君だってさ。お顔もいいけど、中身も凄そうだね…ところで、水川は?お客さん置いてどこ行ったのさ」
「俺の昼飯を取りに食堂に行ったんですよ」
「ふ~ん、君、愛されてるじゃん」
「愛ならいいんですけどね。見事に振られたんですよ」
「…君をフルなんてさ。みなっちも変わってるよね」
「あれは…本当にそっちの気がないんだろうかね」
「まだお眠なだけなんじゃないかな~目覚めたら結構凄かったりしてね」
「俺のミナに手を出さないでくださいよ、先輩」
「…いいこと考えた。ぼくと君がさあ、抱き合っているところをみなっちに見せつけて反応を見る!」
「…ものっそありふれたシチュでしょ、それ。サムイだけじゃないですか」
「蕾を覚めさせるのには丁度いいんだよ。受粉させなきゃ綺麗な花も実もならないってね」
「あんた、理系かよ」
「まあね。どう?のる?」
「ありがたいお誘いだけど、やめときますよ。俺、水川に関しては本気なんで、あんまり画策するのはやめたんです」
「そう残念だね~…」と、言いながら根本先輩は俺の膝に乗ってくる。
「…お断りしましたよね」
「うん」
「なんで乗る」
「…痩せてるな~ぼくの趣味としてはもっとこう筋肉質でさあ…」
「あんたの趣味を聞いてないから、どけよ。痩せててもあんたぐらい投げ飛ばせるよ」
「しっ…」と一瞬口を抑えた根本は俺の口に近づき、そのまま強引にキスをした。
 ドアの開く音が聞こえた。
 目端に水川の姿が見えたと思ったが、すぐ消えた。
 俺はくっついたまま離そうとしない根本の顔を無理矢理離した。
「確信犯めが。やらないって言っただろ」
「だってさ、みなっちの反応見たかったんだもん。それよりどう?」
「どうって?」
「ぼくのキス、美味しかった?良かったらぼくに乗り換えない?君綺麗だからとっておきのサービスするよ」
「遠慮しておきますよ。シャム猫より、山猫の方が大事なんでね」
「山猫?」
「イリオモテヤマネコ」
「なる…確かにあれは絶滅危惧種だね。大事に保護しないとね」
「先輩」
「ん?」
「あんたイイヒトだから頼んでおくよ。ミナに悪い虫が付かないように気遣ってくれよ」
「信用してくれてるの?」
「だって、さっき舌入れなかったじゃん。本気の嫌がらせじゃなかったしな。俺、そういう人は信用する事にしてんの」
「…水川も大変だね~君みたいな奴に惚れられちゃあ」
「まあ、俺の本気を見ててよ。じゃあな、根本先輩」
 ベッドに座ったまま呆れたように手を振る根本と別れた俺は、本格的に水川を探し始めた。
 まさかあんなことでショックを受けているとは思わないが、なんせ天然記念物もいいところだからな。
 食堂を覗いたが、俺に持ってきたであろう料理の載ったトレイがテーブルに置いてあるだけで、水川の姿は無い。
 隣の自習室はと思ったがそこにも居なかった。

 思い当たるところはひとつしかない。
 俺は急いで学院の温室へ向かった。


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宿禰凛一編 「密やかな恋のはじまり」 10 - 2009.03.09 Mon

10.
 俺を見上げ薄笑いしている藤宮紫乃と、俺の慧一がいるのがひどく馬鹿げた構図に思えて、それと同時にどういうわけが腹も立ってくる。
「こんなところで家庭訪問かよ」
 どう聞いても敵意むき出しの言い方で俺は藤宮に吐いた。
「…三者面談でもって思ってね」
「本人抜きで?」
「…先にお兄さんに話があったんだ。丁度いい。座ったらどうだ。その…三者面談でも真面目にやろうか?」
「ふざけるなよ…おまえ」
 藤宮が口にする言葉のすべてが、どうしてこうもいちいち勘に触るのか自分でもわからない。
「凛一、いいから座れ。飯はまだなんだろ?」慧一が俺の腕を引っ張り隣に座るように促した。
 俺のランチが運ばれ、慧一が食うように進めるが、食欲なんてもんあるかよ。
 俺は人様以上に繊細に出来てんだよ。
 黙ったまま目の前の氷の入ったグラスを睨みつけていると、慧一がやっと事の真相を喋りだした。
「俺が向こうに帰ったらおまえが一人になるだろう?だから…藤宮先生に頼んでいたんだよ」
「…」
 人選間違いも甚だしいぜ。慧一、どこ見てこいつに俺を頼むんだよ。
 食後のコーヒーを飲みながら、 片手では一服している目の前の軽薄そうな男はどう見たっていかにもって話だろ。

「担任は当てにならないって凛一が言ってたから…誰かおまえを…守ってくれる人がいる方がいいと思ったんだよ」
 俺を守るって?慧一の方がおかしいんじゃないか?
 …待て。
 …藤宮…こいつの顔、どっかで見なかったか?
 …昔…どっかで…
「…だから、凛…あんまり先生に迷惑かけるんじゃないよ…」
 隣で話している慧一を無視して、立ち上がった俺はテーブルの向こうに座る藤宮の伊達眼鏡をすばやく外した。
 驚いた顔で藤宮は俺を見る。
「…そうだ、あんたの顔、思い出した…姉貴の…梓の葬式の時来てたよな。それと…前の俺ン宅の前をウロウロしていたのもあんただ」
「…」
「…梓の男?…違う…おまえ…」
「俺の大学の時の友人だよ」慧一が不貞腐れた顔で応えた。
「は?」
 …違う。慧、違うだろ…
 …その顔でわかったよ、俺…
「…友人…じゃなないだろう、慧…はっきり言えよ」
「流石は慧一の弟だけあるじゃないか。察しがいいな。そうだよ、俺と慧一は付き合っていた。恋人だった」
「…今は只の友人だよ」
「昔…ずっと前に言ってた別れた彼って…こいつの事だったのか?」
「…」
「慧…」
「そうだよ。でもその話は今度の相談とは関係ない。おまえの事を誰かに頼みたかったのは本当だ。紫乃が…藤宮がおまえの副担任って知って…おまえに黙っていたのは悪いと思ったけど、変に詮索されるのも嫌だったんだ。それで…」
「それで、こうやって学校以外で仲良く一緒に昼飯食ってるってわけ」
「…仲良くじゃないよ」
「そんなに突っ張って言うことじゃないだろう。…宿禰君は学校でもいい子にしているって言ってやってんだぜ?」
 嫌味たっぷりで言う藤宮はこの際無視することにした。返せば同時に手が出そうだったからな。

「いつから…いつから知ってたんだよ」俺は慧一の顔を見ながら言う。
「6月ごろだ」
 …三ヶ月も…俺に黙ったままで…俺を騙していたって事なのか。
「凛…悪かったよ。言おうとは思ったんだけど…おまえが元気そうに高校に行ってるから、余計な事を言うのは止めておいたんだ。ゴメン」
「そうか…家では慧一が学校ではこの先生が俺を心配して、変な事をしないか監視してたってわけ…」
「凛、そうじゃない」
「もういい。…俺のことで色々心配かけて悪かったな。俺はもう独りでもいいから、ほっておいてくれていいよ。あんたらに…かまって欲しくない」
「凛」
「悪いけど、俺先に帰るよ。慧、ここのランチは兄貴が奢ってよ…じゃあな!」
 もう慧一の顔も藤宮の顔も見ることはしなかった。
 俺は足早にその店から出て、駅に向かった。
 慧は追いかけてはこない。

 …これ以上自分が傷ついても仕方ない。
 誰が悪いわけでもないことぐらい俺にだってわかっている。
 ただ…どうしようもなく、寂しいんだ…独りには慣れたくないんだよ。

 慧…
 反則じゃないのか?俺に藤宮のことを黙っていたなんて。

 ダメだ。泣きそうだ。
 俺は立ち止まって空を見上げた。
 別に大したことじゃないから、全然平気なんだよ。そうだろう?姉貴…

 腰のポケットに入れた携帯を取り出す。
 まさかこういう気分で水川に電話するとは思わなかったけど、どうしてもミナの声が聞きたかった。
 携帯のアドレス帳を開いて水川青弥の名前を押した。
 よくよく考えればみっともない話だった。
 自分が寂しいから誰かに救いを求める。
 それも相手は振られた奴だぜ?どう考えてもおかしい。他にも友達はいる。この寂しさを紛らわす手段だって幾らでもあるはずだ。
 でも…今欲しいのは水川の声だと思ったんだ。
 呼び出し音が鳴り続け…温室にもさっぱり行かず、あれだけ無視され続けているのにこんな馬鹿馬鹿しいことしている事に気づけよ、凛一。と、思って携帯を仕舞おうと思った時、『もしもし…』と、ミナの声が俺の耳に届いた。
「…」
 それだけで何故か胸が苦しくなって…声にならなくなる。
『宿禰?…どうした?』
「なんでも…ない。ミナの声が聞きたくなっただけだよ。元気にしてる?」
『…うん…宿禰、なんかあったの?』
「なんも、無いよ。今なにしてんの?」
『寮でお昼食ってる』
「そう…」
『…うち来る?』
「え?」
『今日は休みであんまり寮生は居ないんだ。良かったら来ない?前におれの部屋、見たいって言ってただろ?』
「いいの?」
『…宿禰が…都合がいいんなら来なよ』
「…俺の都合はいつでも良いですよ。今から行くよ。ありがとう、ミナ」
『…別に…おれも暇だったんだ』
 そう言って携帯を先に切る水川が、なんだかおかしくて…
 おかしくて、涙が零れた。



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藤宮紫乃の素顔 - 2009.03.08 Sun

いい子が居ないか品定め中…
誰でもいいわけじゃありません。

sino1

サクちゃんに、こんな教師いね~って言われた~www

生徒には手を出さないで下さい。って、もう遅いか~(^_^;)





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宿禰凛一編 「密やかな恋のはじまり」 9 - 2009.03.07 Sat

9.
 慧一といるのは心休まる。
 父親は外国で単身赴任、母親は早くに亡くなっていたから、8つ違いの姉、梓と9つ違いの兄、慧一が俺の親がわりだった。
 俺は小さい頃、夜中によく泣く子だったから、ふたりに挟まれて添い寝してもらっててさ。
 よく考えりゃかなりの甘ったれだったよ。
 大学が決まった慧一が家を離れることになった時、俺は大泣きした。本当に悲しかったから。
 慧一がゲイだと知っても俺も姉貴も偏見とか無かった。
 慧一は俺にとって綺麗で頭が良くて頼れる自慢の兄だから。
 兄貴が家を出た後、俺は姉とふたりで暮らした。
 梓は…一風変わった人で、彼女といると現実感のない世界に入り込んでいる気がした。

「凛は早く大人にならなきゃダメだよ」「なんで?」「凛は…綺麗だから色々苦労すると思うよ」「梓だって綺麗じゃん」「凛はね、ちょっと違う綺麗さだもん」「ふーん、俺にはわかんないけど」「だから変な人に騙されないように早く大人になって頂戴ね」「俺、大人になったら梓の騎士になって悪人から守ってやるよ」「ふふ…王子様の役は凛には不向きだね」「どうして?」「凛は…塔に閉じ込められたお姫様だもん」「え~ヤダよ。俺、男だし」「でも素敵な王子さまが助けに来るのよ?いいじゃない」「いやだよ。俺は戦って好きな子をものにしたいもの」「バカ…お姫様だって戦うのよ。好きな人の為に命がけで…」

 姉は寓話的な話を俺に読み聞かせた。俺の妄想好きは姉貴譲りだ。
 俺の骨格の大方の気質は姉貴によるものだと思う。姉貴は俺の師であり、恋人のような存在だった。
 だから…梓が車の事故で死んだ時、俺は…あまりに悲しくて苦しくて…死んでしまいたかった。
 慧一がいなければ、自殺していたかも知れない。

 俺は少なくとも慧一に二度は命を救ってもらっている。
 生きのびる気力と意味を教えてくれたのは慧一だ。
 彼を失ったら今の俺は生きてはいけないかもしれない。
 それでも、いつかは兄の手を離して、自分の足で歩いて行かなければならないことはわかっているつもりだ。


 夜中近くに俺の携帯のメールが鳴った。
 水川からだった。
 携帯番号と「今日はごめん。友達としてこれからもよろしく」と添えられた短いメールだった。
 …教えてもらわない方がよっぽどマシじゃないか…

 そして、俺はあの温室に行くのを止めた。


 新学期が始まっても俺は温室には行かなかった。
 理由はふたつある。
 自分の頭を冷やすのと、会わないことで水川が俺に対して何かアプローチを仕掛けてこないだろうかだとか…
 …まだどっかで期待しているなんて俺も大概諦めが悪い。

 たまに廊下で顔を合わせたりすると、一応俺は友達として手を振ったり、一言かけたりするが、水川は黙ったまま俺の顔を見るだけだった。
 ミナが何を考えているのか俺にはさっぱりだ。


 二日後にシカゴに帰る慧一の餞別を探しに一人街に出て、慧が気に入るようなセーターを買った。
 朝から何も食ってなかったので、昼飯でもと前に慧一と行った事がある洋食屋に向かった。
 お昼時より少し前だったのもあって混んではいなかったが、一人だったからカウンターに座り、ランチを頼む。
 何気に辺りを見回した時、柱の向こうに見たような服を目に留めた。
 よく見ると…慧一が店内の隅のテーブルに座っていた。
 なんだよ、兄貴もいたのかよ。やっぱり兄弟だよな。他に店は沢山あるのに同じ店に来るなんて。と、兄のところに向かった。

「慧も来てたの?丁度良かった。俺、奢ってもら…」
 テーブルに近づいた俺はギクリとした。
 カウンターからは見えていなかったが、慧一には連れがいたんだ。
「…こんなところを見られるとは…如何なる錯乱に掠められているのか…」と、眼鏡の奥が嗤った。

 キリストの言葉がよぎった。
 …汝が為すことを速やかに為せ…
 俺が命じてやる。
 …いっぺん死にやがれ!藤宮紫乃!



                            


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宿禰凛一編 「密やかな恋のはじまり」 8 - 2009.03.07 Sat

8.
 夏休みも終りつつある夕暮れ時、俺は水川と一緒に下校する。
 と、言ってもミナは寮に帰るんだから一緒に歩くのはたかだか5分程度。
 それでもカップルみたいな感覚で俺は嬉しかったりする。
「今度ミナの寮に遊びに行ってもいい?」
「え?」
「ミナの部屋とか…見てみたい」
「…なんで?」
 なんで?…と、言われたら答えようがない。
 単におまえのすべてが知りたいってゆうか…そういや俺こいつの携帯の番号すら知らないんだっけ。
「ミナ、おまえの携帯教えてよ」
「…携帯は寮にあるから…番号覚えてない」
「…」嘘付け。理系のおまえが、たかが8桁の番号を覚えないわけないじゃんか。
 俺はまだ全然信用されてないらしい。

「じゃあ、俺のアドレス教えるから、何かあったらメールでもなんでもしてよ」
「何か?」
「そう、何か…」
「宿禰は…誰にでもそういう風に…携帯の番号とか聞きだすのか?」
「誰とでもじゃねえよ。気に入った奴にしか教えねぇし…」
「…そう…なんだ」
「なあ俺、ミナから見たらそんなに信用ねえ人間に見える?」
「…わからない」
「今のところ俺、全然フリーだし、特定の好きな奴はミナだけなんだぜ」
「え?」
「好きな奴は水川だけって話」
「それって…何?友達として?」
「恋人にしたいって告白」
「そんな顔で言われても…益々信用ならない」
「生まれつきの顔だけどな」
「俺は…宿禰の事、そんな風に考えられないから」
「…わかってるよ」
「悪いけど…」
「…いいよ。それよりミナは、恋人居ないの?」
「いないよ。勉強が…大事だもん」
「…そうだな。国立エリートコースだもんな」
「…」
「気にしないでいいから。コレは友達として…ね」
 身近にあったボールペンで水川の右手を取り、素早く俺の携帯のアドレスを書いた。
 水川は怒らなかった。
 書かれた手の甲をじっと見つめていた。
「じゃあな、ミナ」
 手を振る俺にも返事をしないまま、水川は寮の玄関へ去って行く。

 俺といえば…
 結構ショックだった。
 ミナからのかなり不味い返事に少なからず落ち込んでいた。
 自信がなかったわけじゃないから尚更だ。
「俺結構もてるタイプだったのに…」
 まさに自信過剰気味の俺の鼻の先をへし折ってくれた様。それでも其の事で水川のことが少しも憎く思えないのは、本当に好きなんじゃないのかな…などと自問自答したり…

「どうした?凛。なんか学校であったのか?」
 夕食にありつきながら溜息を零すと、兄の慧一が少し心配そうに顔を覗いた。
「おまえが食べたいって言うから、蓮根のキンピラ作ったんだから、ちゃんと食べろよ」
「うん」
 両親は二日前にロンドンに帰った。新しく着任する場所が決まって、手続きに忙しいらしい。

「凛一。半月もしたら俺シカゴに戻るけど、そんなんじゃ、おまえひとりにしとくのはちょっと不安になってくるよ」
「…ごめん」
「…おまえも一緒に来るかい?」
「シカゴへ?」
「うん。慣れればいいところだよ。別におまえがこっちに居る必要はないんだから、俺と一緒に来てもいいんだよ、凛」
「…そういう手もあるね。でも…俺ちょっとまだ行けない」
「どうして?」
「好きな奴が出来たんだ」
「へえ~どんな男だ?」
「…ったくね~普通の家族なら、男って決め付けないもんだぜ」と、笑った。
「男子校で女子と付き合うにはナンパしかないだろ?家と学校の10分程度の往復しかしないおまえにどうやって女の子と知り合うチャンスがあるんだよ。それに…」
「なに?」
「おまえは綺麗すぎるよ」
「は?」
「付き合う女の子の方が嫌がる」
「…そういうもんかね」
「そういうもんだ」
「経験済みって感じ」
「俺も散々言われたよ。男にも女にも」
「慧は俺と違ってソツが無いもんな~」
「おまえには負けるがね。で、なんで元気が無いんだ。好きになったそいつにでも振られた?」
「…ビンゴ」
「そりゃいい。凛を振るなんて相当のツワモノだね。いい男か?」
「学年で一番頭が良くて、繊細で天邪鬼で…凄いかわいい…でも慧には見せない。取られるかもしれないから」
「馬鹿者、取るかよ。第一ガキには興味ない。まあ頑張れよ。一回振られたぐらいで諦めるなよ。こいつと思ったら続けるのも愛には違いないからな。まあ、ストーカーになってもらっちゃ困るけど」
「戒めありがたく受け取っておくよ」





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宿禰凛一編 「密やかな恋のはじまり」 7 - 2009.03.06 Fri

rinmina3
 
7.
 翌週の金曜の夕刻、俺はひとり温室で水川を待っていた。

 夏の夕刻は長く暑い。
 まだ日没までには程遠く、暑さに参った草木たちに水をやりながら、なんだか少しずつ不安になってきた。

 俺、すげえ独りよがりなバカやってんじゃないんだろうか…
 水川は俺の事なんて何も思っていなくて、ただ傍迷惑なだけで…
 …あいつからのアプローチなんて何ひとつもなかった。
 俺を見て赤くなったりしたのも只の人見知りだったのかも知れない。
 あれだけの顔と頭持ってりゃ、恋人のひとりやふたり居ないわけないじゃん。
 俺、すげえ浅はかなんじゃないのか。
 大体、ここに来てもう一時間以上経つのに来ないって事は…完璧に振られてるんじゃん。
 …帰ろう…
 なんかアホらしくなってきた。

 ジョーロを片付けて、カバンを掴んで帰ろうと扉に向かったその時、扉は先に開けられた。
 水川青弥が少し驚いた顔をして俺を見た。
「あ、来てたの…」
「来てたのじゃねえよ。俺、一時間も待って…もう来ないかと思ったから帰ろうとしてたんだよ」
「…ゴメン…時間とか言わなかったから。補習終わって一旦寮に帰って、これ、持ってきたんだ」
 水川はすまなそうに謝りながら、見覚えのある紙袋を差し出した。
「この間の?」
「うん、凄く良かったから宿禰にも早く見せたくて…」
「あ、りがとう…」
 受け取った紙袋からこの間の写真集を取り出す。

 パラパラと捲りながら、水川の真意が全く見えないことに、俺は高鳴る胸を押さえきれなかった。
 俺に見せる為に寮に取りに戻ったって?
 俺に早く見せたかったって?
 …それって俺に好意を持ってるって考えていいのか?
 それともただ友になりたいだけなのか?
 グルグルしていると、水川が「あ!」と小さく声を出した。
「え?」
「ほらコレ…」
 俺に近づいて手に持っている本を指差す。
 クセの無い髪が夕陽に変わる硝子の光に反射して薄茶に映えた。
 ドキリとする。
 なんだろ…
 すげえムラムラするなあ…
 今すぐにでも押し倒したい気分だ。
 …ったく。
 なんでこいつだけにこんな気分になるんだよ。

「…でね…ね、聞いてる?宿禰」
「あ?…悪い。聞いてなかった」
「…この本について語ろうって言ったの、おまえだろ?」
「ゴメン。今度良く見て読んで完全把握しておきますので、それまでお待ち下さい」
 変にかしこまって言うと、ミナはクスリと笑った。
 なんだ、そんな顔も出来るのか…じゃああの時はどんな色っぽい顔をするのだろう…などと善からぬ事を想像したり…

「あ、水あげてくれたんだ。ありがとう、宿禰」
 窓際のまだ小さいパキラの葉に溜まった水玉を撥ねながら言う水川の声は、とても静かだ。
 もっとこいつを知りたい…そう思った。

「ミナ」
「ん?」彼は振り向く。
 影になった顔が俺を見つめる。
「約束、守ってくれてありがとう。凄く…嬉しかったよ」
「…別に…俺が来たかったんだから…お礼なんかいらない…」
 そう言うと、天邪鬼の水川青弥は、俺に背中を向けて懸命に照れを隠していた。
 それが堪らなく可愛くて、俺は本当にこいつが欲しくて欲しくてたまんなくて、まるでクリスマスのプレゼントを欲しがるガキじゃないかと、自分を笑った。


 そうして、俺たちは暇を見つけては、温室で色んな話をしながらお互いの距離を縮めあった。
 俺は比較的どうでもいいくだらない話をし、水川は化学や数学の勉強を俺に教えたり。
 しかし、水川は自分の事はあまり話したがらなかった。
 家族の事や昔の友達の事や色々と。
 俺もあんまり自慢できるような過去じゃなかったから都合が良かったんだが。

 水川は、俺の話を好んで聞きたがった。
 俺は4年前に事故死した姉から色々と世界の神話や物語を子守唄がわりに聞かせてもらっていた。
 一般的には知られていないマニアックなそれらの話を面白おかしく話してやると、ミナは目を輝かせてそれを聞く。
 琥珀の宝石の輝きで俺を見る。
 普段は目を合わせるのさせ、嫌がる風なのに。

 俺はミナの好奇心だらけのそれが見たくて、まるで自分が作ったかのように言葉を紡ぎ出す。


 ねえ、ミナ、あの砂漠の向こうをご覧よ。あの尖塔だけ細い丸い筒のような建物の中には、千匹の赤竜が住んでいて、美しいお姫様を守っているんだ。そのお姫様を娶る為には、それらの竜をひとつ残らず倒さなければならないって話を、ある旅の僧が風の妖精から聞きだしてさ…

 すごい…千も居る赤竜なんて…壮観だね。

 バカ、壮観なものか。火を吹くんだぜ。近づく事さえ出来やしないって。

 でも、そのお坊さんは姫を助けるんだろう?

 そう簡単な話じゃないから面白いのさ

 本当?じゃあそれからどうなるのさ。

 それはね…


 まるで千夜一夜物語だ。
 シェーラザードにでもなった気分だ。
 じゃあ、ミナは俺のシャフリヤール王だな。
 他の誰にも現をぬかさぬ様、俺は語り続けなければならない。
 彼の心を射とめるまで…






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リュウとメトネのラフ - 2009.03.02 Mon

私が考えるお話は、現実世界感の恋愛は基本ハッピーエンドにする。
ファンタジー系はアンハッピーで終わる。
そういうつもりは全くないが、結局そういう結果になっていることに最近気が付いた。

ryumetone2

これはメトネが死ぬところ。
もともと魔族と人間とでは寿命が違うんだから、メトネが先に死ぬ。年取って死ぬより、綺麗なうちに死んだ方がロマンチックだ。いや、歳を取ってもずっと愛し続けるというのもありなんだよ。
それも考えたが、リュウを落ち込ませたかったので、メトネには早死にしてもらうことにした。
と、いっても、まだまだ先の話だ。
そこへ向かうまで、5年ぐらいは蜜月を味わってもらうことにはする。
メトネは幸せなんだよ。大好きなリュウに抱っこされて息を引き取るんだもん。

ここまで、話をひっぱれたら…自分も幸せなんだがね~(^◇^)




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