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2009-04

宿禰凛一 「kissをしよう」 5 - 2009.04.30 Thu

5.
 次の日、学校に行くと、教室で三上が俺を待ち構えていた。
「宿禰~!」
「…なんだよ」
「おまえのおかげでなんとかさ~無事初キッス出来たっす!応援ありがと~」
「…そうかい、良かったな」
「お前の方はどうだった?」
「え?」
「昨日は自分もデートだって言ってたじゃん」
「…」
 ゆったか?…言ったかもな~水川とデートできると思って、浮かれてたとこあったもんなあ~
「どんな子か知れないけど、おまえの彼女ってかわいいんだろうなあ~」
「…かわいいけど、ガードが固いんだよ」
「…いいんじゃね。そういう子は信じられるぞ、きっと」
「そうか?」
「うん、俺のユミちゃんもな、結構身持ち固くてさ。キスは一日一回だけだ~って言うんだぜ?ケチるなって思うけどさ、その一回のキスを大事にしたいんだって。なんかそっちの方がかわいいし、ときめきも大きいよな~」
「三上…おまえはいい奴だなあ~」
「うん、良く言われる。惚れるなよ、宿禰くん」
「…それはないわ」

 放課後、温室で水川と顔を合わせる。
 気まずそうなミナに、俺はなんでもないように振舞った。
 こいつにとってキスでさえ俺が感じられないほどの高さを持つハードルなら、それを超える勇気や情熱が沸くまで待ち続けるしかないじゃないか。
 踏切板ぐらいの弾みは俺が担ってやるからさ。
 いつでも手を広げて飛び込んで来るのを待っていてやるからさ。
 おまえのスタンスで跳べばいい。


 十二月になり、期末テストも終わって、後は冬休みを待つばかりの頃、テストの結果が振るわなかった生徒は個人面談が行われる。
 俺も藤宮に呼び出され、放課後、教室の奥に設けてある先生の個室に向かう。
 毎度の事ながら、担任の神代は仕事放棄で、副担任の藤宮が相談を受けると言う。
 どうにも関わりを切れない奴っているんだよなあ。

 ドアをノックしようとした時、いきなり部屋の中から生徒が飛び出してくる。
 え…と、こいつはうちのクラスでもかなり空気的存在の山崎くん。
 俺を見た山崎くんは顔を真っ赤にして逃げるように教室から出て行った。
 なん?涙目?
 首を傾げながら部屋に入ると、藤宮紫乃が素知らぬ様子で俺の成績表を見ている。
「あんた、山崎に何かしたのか?あいつ涙目だったぜ」
「…別に…キスしてくれって言うからしてやっただけだ」顔も上げずに紫乃は言う。
「そう…ですか」…もうこいつは…
「あんまりいたいけな学生を虐めるなよ」
「…んなもん知るかい。キスしてくれたら勉強頑張りますって言われりゃ、副担任としてはしなきゃならないだろう?俺、結構生徒思いの先生なんだよね」
「そうは…言わないだろう…」
 苦笑いで応えると、紫乃も笑って座れと促す。

 俺の成績表にペンで印を付けながら、紫乃は伊達眼鏡を外した。
「宿禰は…成績がバラつき過ぎだね。好きな科目はほぼ満点。興味のない奴は赤点ギリギリか…」
「すいませんね。誰にでも優しくできないタチなので」
「…しかも俺の現国は…赤点だな」
「文章の解釈が俺とは違うんで点が取れないんだよな。古文なら書き手が素直だから理解し合えるんだけど、今の作家さんたち、暗号、伏線入れすぎなんだよ。教科書変えたら?」
「テスト問題の解釈の仕方なんて通り一遍道徳的なもんだろ。おまえの考えを回答は欲しがっていないんだよ。それより追試受けるか?」
「…面倒だなあ」
「俺が付ける平常点次第では免れるが…」
「なんかやな予感する…」
「じゃあその予感を言ってみろ」
「あんたと寝たら赤点は免れる」
「…そこまで言うかい」
 紫乃は半笑いで俺を見る。
「そう?良かった。まあ、ご遠慮いたしますけどね」
「条件はキスだ。俺をその気にさせるキスをしてみろ。そしたら充分な点数くれてやるよ」
「本当にあんたって…」
「ん?」
「似た者同志なのかもなあ~」
「おまえと?まさか。おまえみたいなガキと比べるな。ほら、早くしろよ。次の生徒が来るぞ」

 俺は席を立って、紫乃の傍に近づき屈んで顔を近づける。
 紫乃は当たり前のように口唇を開け、合わせるとそのまま俺の口の中に舌を入れた。
 簡単に済まされそうもない。
 その気にさせろと言ったのは冗句じゃないらしい。
 逃げようとすると、俺の後頭部を押さえつけて離さない。
 俺も仕方なく付き合う羽目になる。
 目は開けたままお互いに睨み付けたように見つめあうから、とてもじゃないが色っぽい雰囲気になるわけがない。
 何度も何度も角度を変えてそうやっていると、なんだか可笑しくなって笑ってしまった。
 紫乃はやっと俺を解放すると、呆れたように哂う。
「キスの最中に笑う奴があるかよ」
「もっと色っぽいのが良かったんだろうけど、期待はずれで悪いね。俺、惚れた相手じゃないと欲情しないタチでさあ。あんたには何も感じないんだよね~」
「じゃあ、慧一には?」
「は?慧一に感じるわけないじゃん、兄貴なのに」
「…」
 変な事を聞く藤宮は黙ったまま、机の書類に目を移した。
「水川とは上手くいっているのか?」
「…いってるよ」
「そう、ならいい。おまえが本気なら優しくしてやれ」
「…」
「もう行っていいよ。赤点は無しだ。だが、次はキスでは済まされないからな」
「俺の方も勘弁願いたいので、真面目にやりますよ。じゃあ」


 温室で待っている水川に会う前に俺は何回も口を濯いだ。別に紫乃とのキスが嫌だったわけじゃない。
 今からミナと会うには、俺自身が清浄でいなきゃならないって思うからだ。


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宿禰凛一 「kissをしよう」 4 - 2009.04.29 Wed

4.
次の日曜、俺と水川は初デート。
お互いに時間をきっちり守って待ち合わせ、電車に乗った。
どこに行くとも言わないミナが促す電線に乗り、茅ヶ崎方面に向かった。
「どこに行くの?」
「うん…海とか…見たいなって思った。いい?」
「いいけど…」それはいいんだが、今日の水川はどこか元気がない。
剥れているわけでもないが、折角の初デートなのに、目も合わせてもすぐ逸らしてしまう。照れているのなら嬉しくないわけじゃないが、そういうわけでもないらしい。
俺たちは辻堂で降り、少しぶらついた後、そのまま海の近くのレストランでランチを取った。

海の見える席に座って、向かい合う。
もう少し浮かれても良さそうなのに、ミナがだんまりだから、俺も無口になってしまう。
「あんまり楽しくなさそうだね」
「…そんなことないよ。ただ…なに喋ればいいのか、わかんなくなる…」
「そうなの?」
「つまらない人間だよ、おれは。宿禰は…なにか勘違いしているんだよ。おれはおまえを楽しませられない」
「…」
「…宿禰はもっと他の有意義な奴と付き合えばいいと思う」
「ふ~ん。ミナはそんな風にしか思えないんだ。じゃあなんで俺と付き合おうと思ったわけ?少なくとも…友達以上になりたいって、思ったわけだろ?」
「そう思ったけど…自信ないよ」
「何の?」
「…リンを引きとめる力とか、魅力とか…リンはおれなんかとは比べられないほど精神が豊かだからさ。おれは貰ってばかりで、おまえに与えるものは少ない。きっと…飽きられる」
はあ…なんだ?この閉鎖的思考回路は。
こいつは自分の希少価値をちっとも自覚してないわけだな。
天然記念物だと知らぬは本人ばかり也…か。
ま、ちょっと引っかかるところもあるんだけどね、色々と。
「あのね、ミナ。まだ俺おまえの事何にも知らないんだよ。なのにさ、おまえに飽きるとかはない。それに俺とおまえをどの基準で比べてるのか知らんが、おまえは俺にとってすっげえ興味尽きない対象物だから安心しろよ」
「…」
ミナは返事もせずに硝子窓の向こうの海を眺める。
今日は秋晴れで、サーフスポットの海岸は沢山のサーファー達で賑やかしい。
穏やかな波が海岸の岩に打ち返され、止めど無く白い飛沫を空中放っている。
目を移し、横を向いたままのミナを見る。
テーブルに投げ出されたミナの右手の指に、自分の指を絡めると、ミナはビクリとしたが外そうとはしなかった。
そのままミナの指を一本一本なぞる様に確かめていると、ミナは少し俺を睨んだ後、目を逸らして小声で言う。
「宿禰、離してくれよ…人の目がある」
俺は黙って手を離した。水川も俯いたまま、手を引っ込める。その顔は少し紅い。

後悔ともなんとも言えない顔をする水川を見ると、確かに価値観の距離は否めない。
人目を気にするなんて俺には毛頭考えられない事だし、そこの意味なんて皆無だろう。でも水川にとってそれが重要であるなら、俺は意を汲んでやらなきゃならないって事だ。
それが重なって面倒になる。きっと俺が飽きる。…そういう事を水川は考えてしまうタイプなんだろうなあ。

rinmina14


店を出て、海岸公園に向かいながら、俺は水川に聞く。
「なんか、あった?」
「え?」
「今日のおまえ、なんか違うじゃん。もしかしたら俺の事で気に障る事でもあったんじゃないかと思ってさ」
「…何も…ないよ」
その言い方で大体判った。俺の噂を耳にしたんだ、きっと。

秋の海なんて潮風が辛いから好きじゃないんだけどね。でもきっとそれは躊躇うことじゃない。この時がこの場所が今の俺には必要なんだ。そう思うことにしている。

「何か聞いた?」
海辺に繋がる低い土手に並んで座り、俺は水川に聞く。
「え?」
「俺の噂話とか」
「…いや…うん、少し」
「どんな?」
「…」
「何か聞きたいことある?噂話なんて大概尾ひれがついているだろうし…どんな話になっているんだが、肝心の本人もよく把握できてないんだ。ミナが聞きたいことがあるなら、俺正直に言うよ」
「別に…宿禰がなにしてきたかなんて…おれには関係ないことだから…」
「関係あると思うぜ」
「そう…かな」
「少なくともさ、ミナは俺と付き合ってくれてるじゃん。俺という人間に興味あるんだろ?じゃあどういう風に育ってきたかとか…そういうの知りたくない?」
「だって…ここにいる宿禰が…今の宿禰だろ?それ以外に知る必要あるのか?」
「まあ、正解だね。俺も今のミナが好きだから…過去は一切関係ないんだと思う。でもね、知るということと知りたいと思うことは違うのさ。本当に好きなら…俺もミナのすべてが知りたいと思うよ、きっと」
「うん…わからなくはないな」
「キスしようか、ミナ」
「え?」
「今の俺たちが過去になる瞬間を認めつつさ、お互いを知る瞬間を心に留めておく…結構ロマンチックだろ?」
「記憶に留める為にキスをするのか?」
「記憶に留まるかどうかを確かめる為にキスをするの。どう?」
「どうって…」
「悩むより既成事実ってね~」
右手でミナの肩を引き寄せて、左手で顔を向けさせると、俺は顔を近づけた、間近に迫ったミナの眼鏡の奥の瞳が見開いたまま俺を見ている。

「うわあ~!」
ミナはのけぞって体制を崩し、背中から落ちそうになる。それを支えようとして俺も手を伸ばしたが間に合わず、ふたりして一メートル程高さの土手から歩道に落ちる。
「い、てえ!」
背中を打った水川の顔が少しだけ歪んだが、衝撃は少なそうだった。
「おい、大丈夫か?…つうか、おまえはいっつも肝心な時に何て声出すんだよ!」
「だ、だって、お、おまえ急に…」
「…いや急じゃない、ちゃんとそういう話してから襲ったろ?」
埃を払いながらお互い立ち上がって、そのまま睨み合う。
「お、襲うな!おれは…慣れてないんだ」
「じゃあ慣れろ。俺も充分おまえに合わせてやってんだから、つべこべゆうな。べっつにいいじゃん、キスくらい。欧米では挨拶だろーよ」
「ここは欧米じゃないっ!そういうデリカシーのないところが嫌なんだよ。もうおれ、帰る」
「ちょ、待て!ミナ」
踵を返して早足で歩く水川を追って俺も並んで歩く。

「もうちょっと…シチュエーションとか、考えろ、よ」
「考えたらしてくれんの?」
「バカだ、リンは。おれは…怒ってるんだからな」
「怒る権利は俺の方もありだ!お預けくらいっぱなしじゃ終いには噛みつくぞ、俺だって!」
「噛むな!ばかっ!」
「ミナが大好きだからキスだってなんだってしたいって思うんだろうが!」
そう言い放つと、ミナは急に立ち止まって、泣きそうな顔を見せた。
「だ…から、もう…おれ、そんなに簡単に乗り越えられないよ、こんなの」
「俺たちが同性だから?」
「それもあるけど…宿禰を…本当に好きになっていいのか、自信も無いし、信じられない」
「あ~それ俺に対する不信感だね」
「…」
「じゃあ、それは取り除いてくれよ。俺はミナを本当に好きだから。ミナの自信の方はミナの問題だから、自分で片付けろよ」
「…」
「ま、俺を好きになれば自信も湧いてくるよ」
「なにそれ」
「リンくんは自信過剰家だからね、ミナも感化されるって話だ」
「おまえと居ると、なんかもう…」
「なに?」
「悩むのがバカらしくなる」
「そう?じゃあキスする?」
「しない」
「なんでそこでケチるんだよ~ミナは」
「ちゃんと…ちゃんと心構えが出来たら言うから…待ってよ、頼むから、リン」
少しだけ目を潤ませたミナは、今にも泣き出しそうな顔で俺を見つめる。
「…」
卑怯だろ、そんな顔するのは。これじゃ俺の方が分が悪すぎる。
引くしかないじゃないか…


そういうわけで何の収穫もないままふたりは帰路に着いたのです。
こりゃ、三上に合わせる顔がないね。





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トップ絵並び - 2009.04.27 Mon

凛一編のトップにしたかったんだが、あまりに「薄桜鬼」ばっか描き過ぎて、間に合わなかった~

ちゃんと描いて出そうと思うんだが…時間が~…

rinmina10

はい、出来ました。
凛一を描く場合は目を色っぽく。ミナはあくまでも男子高校生に見えるよう気をつけています。
この絵は色々とチャレンジしているんですよ。わかりにくいでしょうが。
rinmina11

あ、今気づきました~ミナに眼鏡…www

描き直したものをトップにして、これはこのままで。
眼鏡は…10秒で描きました~www


ここからは今までのトップ絵で。

藤宮紫乃編…紫乃が主役なのに、何故か慧一が正面に…好みです(*^。^*)
keirinsino

温室でも喫煙は注意しましょう。
リンの煙草の持ち方が気に入って描きました。首長いけど、こういうのが漫画の醍醐味かと…(^_^;)
rinmina5

モノクロでやってみました。
結構気に入ってましたが、春らしくないという事でカラーに。

手を取ろうかどうしようかと迷うミナの気持ちを描きたかった。
rinmina3



宿禰凛一 「kissをしよう」 3 - 2009.04.27 Mon

3.
「ごめん、宿禰。補習が長引いて遅くなった」
 息を切らせて胸を押さえる水川を見て、なんだか熱くなった。
「そんなに走ることなかったのに…」
「だって…昼休みも会えなかったから…」
「寂しかった?」
「そんなんじゃないし…」
 目線を外して拗ねる風も凄く愛おしくなって、ますますミナに惹きつけられる。本当にこの恋が成就できるなら…俺は何を捨ててもいいのに…とさえ思えてしまうんだから。

「宿禰…なんか元気ないね」
「そうかな…うん、昨日兄貴がアメリカの大学院に戻ったから…それでかな?」
 先生達の言葉は俺の中で閉まっておくことにした。
 どっちにしろ、ミナに言うことじゃない。
「お兄さん?」
「うん。俺んち、ちょっと変わってて…母親は小さい頃死別してて、親父は長いこと海外赴任だし…あ、今は再婚してて両親揃ってるわけだけど…俺、三人兄弟の末っ子で、真ん中の姉が事故で亡くなって…それで兄貴とふたりで暮らしててさ…一年ほど兄貴とはずっと一緒だったからさ…」
「じゃあ、宿禰はひとりで生活しているの?飯とか家の事とかも?」
「そういうのは、慣れてるんだ。飯も兄貴から結構教わったし…」
「…でもひとりじゃ寂しいだろう」
「ミナが時々俺ん家に来てくれると、寂しくなくなるかも」
「え?宿禰の家に?」
「学校から歩いて15分もかからないよ。今度遊びにおいで、ミナ」
「…う、ん」
 どこか戸惑いを見せるミナの態度に、まだまだ道のりが厳しそうだと見せ付けられ、なかなか敵さんも隙を見せないと認識。まあその方が陥落させる気概が大いに上がるっていうもんだろう。
 恋愛なんて、戦いに近いのさ。
 戦略と時期、それに気合い…だろ?

「怖がらなくてもいいぜ。ミナの了解を得ない限り、俺は何にもしないから」
「…怖がってないし。リンはすぐそういう物の言い方するよね。俺を子供扱いしてさ」
「子供扱いはしていません。純情なミナに敬意を払っているだけです」
「そういう言い方が…もう!リンは勝手なんだよ」
 ミナは時折俺の事を「リン」と呼ぶようになった。
 俺が「リン」と呼ぶように促しても呼ばなかったクセに。今はそう呼んでくれるという事は…少しは俺に 心を許しているのだろう…
 そう思うと、暖かい光が胸に射し込んでくる様で、俺は幸せな気分を味わえる。

 丁度、夕焼けの赤い陽がミナの身体半身を包んで、彼は尊い者になる。
「ミナ、手を貸して」
 俺はミナの手を取って、掌をじっと見た。
 赤い光はミナの掌までも赤く、美しく染める。
 俺はその掌にそっと口付ける。
「ぎゃっ!」と、声を上げたミナが俺の手にあった掌を身の内に引き戻す。
 それにしても…「ぎゃっ」は無かろうぜ。
「な、なにするんだよ!」
「え?キスしただけじゃん」
「き、汚いじゃないか!」
「俺の口唇汚かった?」
「違う!俺の手が…おまえが汚れるだろう?雑菌とか…怖いんだぞ!感染症とか大腸菌とか…」
「…怖くね~よ、バ~カ」
「な、なんでバカとか…」
「手にキスしたぐらいでビビるなよ。口同士だったら、雑菌の混じり具合は半端ないぜ。ミナは雑菌が怖くて、俺と一生キスしないつもりか?」
「す、するよ。するけど…今はしないからな!」
「…はいはい、わかりましたよ」
 いいムードを作ってやったつもりなのにさ。敵も手強いぜ。
 なんでここで意固地になるかさっぱりわからんがな。

 苦笑いを浮かべながら、俺はこういう素っ頓狂なミナに惚れているわけだと知る。

「ミナ、今度の日曜、空いてる?」
「え?…うん、予定ないけど」キスした手を擦りながら、ミナは俺を見る。
「じゃあ、デートしようぜ」
「デート?」
「そう俺たち付き合っているんだから、デートしなきゃな。おまえの行きたいとこ連れて行ってやるからさ。どこがいい?映画でも観る?それとも夢の国?水族館?動物園?あ、渋谷で買い物でもいいぜ。奇をてらって温泉って手もある。ミナ、どれがいい?」
「…」
「ん?」
「考えとく…」
「じゃあ、その時は…キスをしよう。勿論口同士でな」
「…そんなもん…予定に入れるな」と、剥れながら目が嬉しそうなんだよ。

 楽しいデートにしようぜ、ミナ。
 そして素敵なキスを。なっ!



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宿禰凛一 「kissをしよう」 2 - 2009.04.25 Sat

2.
 学校には携帯を持ってこない水川だからその昼休みも連絡が取れなくて、仕方ないから放課後まで待つことにした。
 授業が終わって、理系のトップクラスが受ける補習の一時間を図書室の読書ルームで待つ。
 ここの図書室は視聴覚室と繋がっている。
 両方が利用できるように5,6人入れる個室が10個ほどあって、本を読んだり、音楽を聴いたりできるブースがあるんだ。
 空いてたら誰でも自由に定時までは使って良いようになっている。俺は温室に行かない時はここで好きな音楽を聴きながら、本を読み漁っていた。
 ヘッドホンを付けて好きな音に漂いながら、回りの喧騒から遮られるのは、孤独な俺にとっては寂しさからの逃避でしかないんだけどね。

 窓の外の少し赤みを帯びて来る空を眺めていると、知らぬ間に部屋の中に人の影がある。
「自習って感じでもなさそうだな」
 藤宮紫乃だ。
「凛一はそんなに学校に残っていたいのか?それとも別な用件があるのかい?」
「…別に俺がここで何しようとあんたに関係ないじゃん」
「俺、ここの管理任されてるもん。もうすぐ閉めるから見回りですよ、勉強熱心な宿禰くん」
「…わかった。もう帰りますよ」
 読みかけの本を閉じて、カバンに片付ける。少し早いけど、温室でミナを待とう。
 立ち上がると藤宮は俺に近づいて、じっと顔を見る。
「なに?」
「慧一は…行ったかい?」
「…昨日、行きました」
「寂しくなった?」
「別に…慣れてるから…」
「寂しい時は言えよ。食事ぐらい付き合ってやるよ。なんならいい事も…慧一には内緒でな」と、いきなり 藤宮は俺の肩を引き寄せて、頬っぺたにキスをかましやがった。
 全くの不意打ち。
 ちょっとはたじろいたけど、この人なら何をやってもおかしい気がしないんだよね。同意はしないけどさ。
「友好のキスだ」
「…ありがたく…受け取るかよ。このセクハラ教師が。大体先生が生徒誘惑してどうすんだよ。訴えられたら退職もんだろ?バカか、あんた」
「どの生徒でもいいというわけじゃない。凛一だから特別にかまっているんだよ」
「慧には絶対あんたとよりを戻すなと伝えておくよ」睨めつけながら俺は言う。
「お前の協力なんか仰がないし、あいつに縛られるほど、俺も操も立てる気はないんでね。まあ、凛一は慧一似だし、かわいいからな。ついちょっかいだしたくなるんだよ」
「だからいらないって。あんたに好かれる気はないんだからさ」
「水川の方がいいか」
「…」
 またか…俺は溜息をついた。
 水川の事はまだ他人に触れてもらいたくない。
 大体、人に付き合っていますと胸を張って言えるほど、進展しているわけでもなく、ただ友達の領域をやっと超えた…ぐらいの仲だ。
 それでも釘は刺しとく必要はある…か。
「先生…水川には絶対に手を出すなよ」
「さて、どうしようか…ま、どう考えても水川とおまえじゃ…あの優等生が可哀想だと思うんだがな。おまえにしたって…物足らないんじゃないのか?慰めてもらいたいなら俺の方がおまえには似合いだよ」
「あんた、反対しなかったじゃん」
「人の恋愛にとやかく言う趣味はないけど、あの子が相手じゃ凛一は飽きる。水川もおまえが相手じゃもてあましてどうしようもなくなる。…先が見えてるだろう」
「今更もっともな意見をいう先生って柄じゃないでしょうが。残念だが、俺は水川が好きだよ。諦めない。後悔なんてさせない。あんたと慧一のようにはならない」
「ま、いいけど…慧一に頼まれてるからな。何かあったら俺を頼ってもいいから」
 死んでも頼るかよ!と吐き出してやっても良かったが、藤宮に真の悪気はないことはわかっていた。
 言葉は悪いが、藤宮も俺のことを気にかけてはくれているんだろう。
 兄貴に対してもそう思うんだが、この人は情が深い。
 慧一がこいつを振ったのは正しい選択だったのか…俺は藤宮に同情したくなる。


 花に水をやりながら温室で水川を待っていると、「あれ?」と頭を掻きつつ白衣を着た生物の藤内先生が入ってきた。
「宿禰…くんだったよね」
「はい」
「今日は君が水遣り当番?」
「…いえ、たまたまですよ」
「待ち人を…待つ時間つぶしか…」
「…何か用ですか?」
「ここの温室は俺が管理しているんで」
「…」なんかそういう奴ばっか立て続けて当たるんだよなあ~
「水川と…仲直りしたか?」
「は?…」
 俺はびっくりした。なんでこの人がそんな事を知っているんだよ。
 ミナが言ったのか?…こいつに?
 どこまで知ってるんだよ。
「水川とは初めからケンカなんてしていませんよ。なんか勘繰っていませんか?」
「そうかい…いや…この間水川くんがここで泣いていたからなあ~てっきり君と何かあったのかと思ったまでだよ」
「…」
 思わず溜息が出た。
 なんでここの先生たちは俺たちの事をまるで盗撮しているかのように何から何まで知っているんだ?
 それに…ミナが泣いていたって?…なんで?
 え、…あのキスの一件か?…マジで!
 …そんな泣くような事でもないだろうがよ。
 泣くっておまえ…かわいいけどさ…
 なんかもうあいつには…参る。

 思わず笑いが込み上げてクスリと笑うと、藤内は真剣な顔で俺を見た。
「君は…あの子をどうしたいんだね?」
「どうって?」
「水川の将来まで考えてやる度量があるかって事なんだ」
「…将来とか…そんな先の事を考えなきゃ、水川とは仲良くしちゃいけないんですか?」
「君とあの子の価値観の違いをどれだけ縮められるのか…少なくとも君が努力しなきゃならないことは大きいと思う。あの子を泣かせたく無いのならね」
「…助言ありがとうございます。充分自重しますよ」
 俺の言葉を聞くと藤内は読めない表情を見せて温室から出て行った。

 …価値観の違い…
 俺の過去の事を知ってああいう事を言っているんだろうか。
 遠まわしに俺と水川の未来は無い、と、でも言われているような気がする。
 さすがに立て続けにこうも言われ通しじゃ、あまりいい気がしない。
 少し憂鬱になりかけた時、息を切らして温室へ入ってくる水川をやっと捕まえる事ができた。


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宿禰凛一 「kissをしよう」 1 - 2009.04.23 Thu

rinmina5

green house~ 宿禰凛一編 「kissをしよう」


1.
 俺と水川が付き合うって決めた次の日、兄、慧一がシカゴの大学院へ戻る日が来た。
 俺は高校を休んで、空港まで見送りに行った。
 ターミナルで待つ間、俺は感極まって思わず涙ぐんでしまった。
 だって仕方が無い。この一年ずっと慧一は俺の傍から一時も離れずに面倒を看てくれたんだ。
 ダメになった俺をここまで立ち直らせたのは全部慧一のおかげだから…
 だから、暫く会えなくなる寂しさと、今まで傍に居てくれてありがとうの感謝の意もあってさ。
 熱くなったんだよ。
 そんな俺を見て慧一はかなりショックを受けたみたいで、「凛が泣くとダメだ…後ろ髪を引かれるってこのことなんだね。俺、行けなくなってしまうよ」と、本気で零すから、俺は思わず吹いてしまった。
 マジで弟好きすぎだろうよ、兄貴は。
「慧一の夢を俺も応援したいから、勉強頑張ってくれよ。二年でしっかり終わって帰ってこいよ。それまで俺、心配かけないように良い子にしてるからさ」
「うん、頑張るよ」
いつもは結構なポーカーフェイスなのに、あからさまに寂しげな顔を見せる慧一に、俺も一層寂しさが募ってしまう。
「慧、最後にキスをくれる?軽い奴」
「幾らでも…」
 慧一との別れのキスは、少ししょっぱい味。
 きっと俺の涙の所為だね。

 翌日、昨晩メールで昼休みに水川と温室で会う約束をしてたから、4時限が終わるのを待って学食へ直行。そそくさと昼飯を片付けていると、目の前に三上が悲壮な顔で現れた。
「宿禰…」
「な、なに…」俺の食べ終わったトレイをご丁寧に返却口へ戻した三上は俺の肩を抱く。
「頼みがある…」
 予想外の至極真面目な顔…いや~な予感。
「…おまえの頼みにろくな話はないよな」
「まあ、そう言うな、親友だろ?な?」
「…俺、これから大事な用事があるんですがね」
「俺とその用事とどっちが切羽詰ってるというんだ」
「…おまえの話は知らんわ」
「だから、ものっそ大事な…もういいからほら、こっち来いって」と、同意しかねる俺の腕を強引に引っ張って、学院のチャペルへと連れ出した。

 祈りを捧げるマリア像の御許で三上は俺と向かい合った。
「…なに?神前でなんか誓わされるんか?俺」
「いや、冗談じゃなく、おまえにしか相談できない話だ」
「だから何。早く言えよ。俺も約束があるんだって」
「まあ、待て。俺の話ってのはな」
「はい」
「隣町の女学院の一年生に可愛い子がいてな」
「うん」
「それで思い切ってその子に交際を持ちかけた」
「ふむふむ」
「めでたく承諾の事とあいなって、今度デートするんだが…」
「おめでとう。良かったじゃん」
「ここからが問題だ。今回のデートの最大のミッションがあま~いキスで彼女をメロメロにしようという事らしいんだが」
「らしい…?」
「そう俺の指示でね」
「あ、そう」
「そこだよ、宿禰くん。君の協力がいるのだ」
「だからなに?」
「君にキスのやり方を賜りたい」
「…は?」
「だからこう…メロメロになるようなだな、キスをおまえにご教授願いたいんだよ。おまえ、そういうの慣れてるっていうか…経験豊富だろ?ちょっと、こう…その手練手管をな、希う…たいんだ」
「…あ、そう…別にキスぐらいいいけどさ」
「ホント?」
 面倒臭い。それくらい別になんも考えなくてもできるだろうと思うけど、こいつにとってそんなに大事な事なら別に俺は協力を惜しまない、つか、キスぐらい朝飯前だろうよ。
「で、俺がおまえの役で、三上は彼女でいいわけね。ほら、ご教授してやるから。顔貸せよ」
 俺は一段低い三上の顎を持つとグッと引き寄せた。
「舌まで入れてやっからさ。ちゃんと覚えろよ…」
「…」返事がない三上をじっと見る。
「なに?」
「おまえって…綺麗な肌してんな~睫毛もすげ~長くてさあ、口唇も艶々しててさ」
「…」
 ツヤツヤしてんのはさっき豚カツ定食食ったからだよ。
「宿禰みたいに綺麗だったら女に不自由しないだろうな…」
「男にもしてないぜ。なんだよ、三上。その子から俺に乗り換える気か?」
「ば、ばかっ!俺はユミちゃんが一番だ」
「じゃあ、ほら、ユミちゃんの為にキスを覚えろ。特別に甘い奴な…」
 俺が口唇を合わせようとした瞬間、三上は俺の顔を手の平で押し返した。
「なんだよっ!」
「ごめん、宿禰、やっぱしやめとく」
「なに」
「いや、ここでおまえとキスしたら、彼女との本番の時さ、おまえの顔が頭にチラつく気がめっちゃするわ…それこそヤバいだろ」
「あ、そう…じゃあやめるんだな」
「うん、折角の協力あいすまん」
「俺の貴重な昼休みを返せ」
「悪かった。学食のチケットあげるから」
「A定食な」
「え~Aは五百円もするんだぞ」
「俺の貴重な…」
「わかった、Aで手を打つ」
 ホントに貴重な昼休みだったんだぞ、クソ三上め~


 

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前章「密やかな恋の始まり」の13です。


水川青弥 「予感」 8 - 2009.04.22 Wed

 てっきりアルコールランプで沸かしたお湯で、ビーカーにコーヒーを淹れるのかと思いきや、普通に電気ケトルでお湯を沸かして、マグカップで出てきた。
 おれは礼を言ってマグカップに口をつけた。
「甘いや……」
 中身はコーヒーではなくココアだった。
 狭い部屋の中はすぐに空調が効いて、ホットココアも美味しかった。なんだかほっとする。
「こういうときは甘いのがいいんだよ」
 先生はにっと笑った。その表情は男くさくてかっこよかった。
「先生はいつもこうやって生徒を連れ込んでるんですか?」
 先生は愉快そうに笑った。
「安心しろ。ガキには手を出さん」
 おれはむっとした。
「ガキ以前におれは男ですよ」
「見てのとおり悪い大人なもんでね。そのへんはルーズなんだ」
 つまりそれは……、
「相手は女でも男でもいいってこと?」
「まあ、そういうことだな」
 あまりにもあっさりと認めるものだから拍子抜けした。
 それから、さらにもう一歩踏み込んでみた。
「実際、男同士ってどうなんですか?」
「どうって?」
「男同士の恋愛に意味なんてあるんですか? 将来なんてあるんですか?」
「それは結婚できないからってことか?」
 多分、そういうことなんだろうと思う。
 おれが頷くと、先生は教師みたいな(いや、実際に教師なんだけど)口調で言った。
「考えてみろよ。現在付き合ってるカップル全部が数年後に必ず結婚するか? そうじゃないだろう? むしろ別れるカップルのほうが多いかもしれない。それに同居していても籍を入れない夫婦だっている。1対1の人間同士の付き合いとして考えれば、相手が異性だろうが同性だろうがたいして変わりはない。大事なのはなんでそいつと一緒にいたいのかってことだろ」
 そうかもしれない。でも、おれはひとりで生きているわけじゃない。
「一時の感情に走ってしまったら、まわりに迷惑をかけるかもしれない。きっと親も泣かせてしまう……」
「若いのにずいぶん分別くさいこと言うんだな」
 先生はちょっぴり寂しそうに微笑んだ。


 寮に戻ると、部屋で根本先輩がおれを待ち構えていた。あのキスは自分の悪ふざけだったとしきりに謝罪するので、おれは納得して先輩を許した。
「安心した?」
 そう訊かれて、初めておれは自分が安堵していることに気づいた。
 そもそも、先輩が宿禰にキスしたことをおれが許すということ自体がおかしい。
「べつに……もともと不安だったわけじゃないし……」
「またまたぁ、本当はぼくに宿禰をとられちゃうと思って心配してたくせにぃ」
 おれをからかって満足したのか、先輩はいつものようにどこかへ出かけて行った。
 ひとりになると、おれはベッドに突っ伏した。
 図星だった。たしかにおれはあの瞬間、先輩に嫉妬していた。おれが迷ってる間に横から掻っ攫われたと思った。
 こいつが好きなのはおれだ。
 そう言ってやりたかった。
 これは独占欲だろうか……。
 突然、携帯電話が鳴った。宿禰からだ。出ようかどうしようか考えているうちに着信音がやんだ。すると今度はメールが届いた。開いてみると、それは先輩とのキスを釈明する内容だった。
「もう先輩から聞いたよ……」
 散々悩んだ末、おれは夕食のあと宿禰に電話をかけた。




 その日、帰りのショートホームルームが終わると、おれは温室へ向かった。そこで宿禰と会う約束になっている。
 どういう結論になるかわからないけど、おれは今の自分の気持ちを素直に伝えようと思った。昨夜、そう腹をくくった。
 ほどなく宿禰もやってきた。なんだかすごく久しぶりに会う気がする。
 宿禰はカバンからハンドタオルを取り出し、おれに差し出した。それはここで初めて宿禰と会った雨の日に、彼に貸したものだった。
 それを受け取ると、彼は「話があるんだ」と切り出してきた。
「前に……言ったこと。友だちとしておまえと付き合うみたいなこと言ったけど、そんな嘘をつくのはやめにするよ。俺はミナを友だちとして見れない」
 なんと言ったらいいのかわからずに黙っていると、宿禰は言葉を続けた。
「ミナに触れたいと思う。キスしたい、抱きしめたいと思う。セックスしたいと思う。もちろん強引に迫ったりしない。一方的な想いを押しつけるなんて迷惑なだけだからな。でも俺がこういう気持ちでいるかぎり、ミナがその気持ちを受け入れられないなら……こんなふうに会ったりするのはやめようと思う」
 ショックだった。キスしたい、抱きしめたいと言ったその口で、もう会わないという宿禰が憎い。
「勝手な言い分でごめんな。このままおまえのそばにいると、俺、本気でおまえのことを好きになってしまいそうなんだ。だから……自分が傷つく前に白黒はっきり決めようって……おまえもそのほうが傷つかずに済むかなって……」
 人の気持ちも知らないで……。もう我慢できない。
「宿禰って……本当に勝手なんだね」
 そう言うと、宿禰は驚いた顔でおれを見た。
「おれの気持ちとか考えないで、勝手に決めて……おれだって迷ったり悩んだりしてるよ。傷つかないとか……もう遅いよ」
「ご、めん」
 背中を丸めて小さくなるこの男に教えてやりたい。おれの気持ちを伝えたい。
「宿禰のことをほかの友だちのように思ったりできないんだ。だからっておまえとキスしたり、抱き合ったり……そんなこと、今のおれには考えられない」
「わかるよ」
「だから……だから結論はすぐには出せない」
「……」
「でも、おまえを知らないままの自分には戻りたくない。もう戻れないと思う」
「ミナ……」
 おれは深呼吸をひとつしてから、宿禰の顔を見つめた。
「だから……待っててよ。おれが……リンを……好きになるまで……」
 気づいただろうか。今、宿禰を下の名前で呼んだことに。それがおれにとってどんな意味を持つのかに。
「……わかった」
「いいの?」
「断られなくてほっとしてる」
 安堵の表情がおれの胸をせつなくさせる。
「リン……」
 その名を呼ぶことに、もうためらいはなかった。
 つまらないプライドや優等生じみた分別なら捨ててしまおう。
 もう後悔しないために。
 自分に正直に生きるために。
 傷ついたってかまわない。
 その傷ごと自分を抱きしめてやれる強さを、おれは手に入れよう。
 宿禰の気持ちと向き合うために。
 宿禰とおれの明日のために。

 リンはおれの右手をとり、やさしく囁いた。
「ミナ、好きだよ」




                                            text by sakuta


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燐光 …背後注意! - 2009.04.22 Wed

前のイラストを塗ってみた。

rinmina11


私はまだこれといって決まった描き方をしていないので、毎回描き方を少しずつ変えている。
色々な絵師さん方のやり方を真似て、どれが自分にあってるか見極めたいのだ。

まだコレが絶対いいです!っていう塗り方は決めてないけど、だんだん判りつつあるのは確か。

ふたつの絵は厚塗りに線画も際立たせているが、効果の加工で色んな雰囲気が楽しめる。
それこそ個人の好みであろうが、描く方はどっちがいいかは決めかねるんだよね~

と、言ってもこのイラストも2,3日経てば自分ではアラが見えてくるからどうしようもない。
一年前のイラストとか…見たら落ち込んでしまうぐらい酷いもんである。
となると、最近描いているイラストも一年後には、見ていられないほど酷いもんだと感じるのだろう。

そう感じなければ上達してないということになる。

rinmina12

イラストサイトではないが、あっちではこういうBL絵は置けないので、語ってみた。


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水川青弥 「予感」 7 - 2009.04.21 Tue

 今日は日曜日で寮生たちの多くは外出している。
 とくに予定のないおれは、昼前に温室の水やりを済ませると、食堂で居残り組に混じって昼食をとる。
 このあとはなにも予定がない。以前なら部屋で自習に精を出すところだけど、今はそんな気になれない。なにをするにも気分がのらない。生活に張りがない感じだ。
 食欲もなくて、皿の上のおかずを行儀悪く箸でつつきまわしているだけ。
 理由はわかってる。
 宿禰と会っていないからだ。
 いや、校内で顔を合わせることはある。
 宿禰は廊下ですれ違うときも気軽に挨拶をしてくる。まるで何事もなかったかのように、ほかの生徒に向けるのと同じ笑顔で声をかけられると、おれは堪らなくなった。
 自分から友だち以上にはなれないと断ったのに、宿禰の中でその他大勢の友人と一緒の扱いになってしまったのかと思うと、無性に寂しくなった。
 藤内先生の言葉が耳の奥に甦る。
『つまらん常識やプライドに捕らわれてると、あとで後悔するぞ』
 おれが宿禰の希望に応えられない理由はなんなのだろうか。
 常識? プライド? 
 それもあるかもしれないけど、一番の理由はおれが臆病なせいだ。
 いまだに癒えない中学時代の古傷を庇うあまり、おれは臆病になって新たな一歩を踏み出せなくなっている。もともと慎重な性格のうえ、相手が男だという事実が余計に臆病に拍車をかけている。
 ヨハネに入って、ようやく友だちらしい友だちができたと思ったのに……。
 なんで宿禰はおれのことなんか好きになったんだろう。
 なんで友だちのままでいてくれないんだろう。
 恨みがましい気持ちが湧き上がってくる反面、それでも宿禰を失いたくないと思っている自分に戸惑った。
 どうしたら宿禰を取り戻せるだろうか。
 そのとき、携帯電話の着信音が鳴った。相手は宿禰だった。
 心臓が早鐘のように鳴り出し、平静を装うのに相当な努力を必要とした。
 すごく久しぶりに聞いた気がする宿禰の声は、なんとなく元気がなかった。もうおれのことなんかどうでもいいんだろうと思っていたのに、弱々しい声でおれの声が聞きたくなったと言う。
 ぎゅっと胸が締めつけられる。
 気づくと、おれは彼を寮に誘っていた。
 関係を修復するチャンスだと思った。


 おれの部屋に宿禰がいる。
 なんだかとても不思議な気分だった。
 なにを話したらいいのかわからなくて、宿禰の昼食の心配をしたりしていると、宿禰のほうから本題を切り出した。
「話しにきたんだよ。ミナと話したかった……」
 おれは緊張して頷いた。
「あれから……温室に行けなくてごめん。ちょっと気分的に……行けなかった」
 再び藤内先生の言葉を思い出す。ここは勇気を出すところだ。
「おれも……宿禰が来なかったから、なんかちょっと寂しかったよ」
 言えた。
でも、女々しく聞こえなかったろうか。
 宿禰の反応が鈍いのが気になって、おれはさらに続けた。
「おまえの話おもしろいから、結構楽しみにしてた」
 どう思っているのか、宿禰は黙ったままだ。
 おれは段々不安になってきて、次の言葉を必死で探していると、突然、宿禰の腹の虫が鳴いた。
「やっぱりお腹空いてるんじゃん」
 おれが指摘すると、宿禰は「まあね」と答えた。
 その決まり悪そうな宿禰の顔がおかしくて、おれは笑いを堪えながら、遠慮する彼を押しとどめて食堂へ向かった。おれなら1人分の食事くらい融通がきく。こういうときおれに下された優等生という評価は役に立つ。
 食堂のおばさんに1人分の食事をトレーにのせてもらうと、おれはそれを持って食堂をあとにした。
 宿禰になにかしてやれることがうれしい。
 おれは浮き立つ気持ちを抑えて、食事をこぼさないように慎重に部屋へ戻った。
 片手でトレーのバランスを取りながら、空いたほうの手でドアを開ける。
 その瞬間、おれは驚愕した。
 宿禰が誰かとキスをしていた。
 おれは慌てて踵を返した。食堂のテーブルの上に食事を置くと、そのまま寮を飛び出した。
 宿禰の膝の上に乗っていたのは根本先輩だった。
 どうしてあのふたりが?
 わけがわからない。
 混乱した頭で、無意識のうちに通い慣れた道を走る。
 目の前に温室が見えてきたとき、おれは立ち止まった。
 ここはだめだ。もしかしたら宿禰が追ってくるかもしれない。今はまだ彼と顔を合わせて冷静に話ができる気分じゃない。
 どこか違う場所へ。
 そう思ったけど、おれにはこんなときに身を寄せる場所なんてどこにもなかった。
 寂しくて、情けなくて、目の奥が熱くなる。
「おい、そんなとこでなにやってるんだ?」
 唐突に背後から声をかけられ、おれはびくりと肩を揺らす。
 振り返ると、そこには藤内先生が立っていた。
「なんだ、泣いてるのか?」
 咥え煙草で無粋に訊ねてくる先生に、おれはかぶりを横に振った。
「準備室に忘れ物を取りにきただけなんだが……おまえ、一緒にくるか? 茶くらいなら出してやるぞ」
 そう言ってさっさと歩き出した先生の背中を、おれは誘われるように追いかけた。


                                            text by sakuta

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水川青弥 「予感」 6 - 2009.04.19 Sun

 あれ以降、宿禰は温室に来なくなった。
 告白を断っておいて、それでも友だちでいたいなんて虫がよすぎたのだろうか。
 それでもおれは温室に通った。
 新学期が始まっても、通い続けた。
 もしかしたら宿禰が来るかもしれない、と期待して待つ女々しい自分もいやだけど、おれから宿禰に「なぜ温室に来ないんだ」とは言いにくい。
 だからおれは植物をスケッチするために通っているのだと自分に言い聞かせ、昼休みと放課後の温室通いを続けていた。
「お、まだ残ってたのか。熱心だな」
 ぼんやりと考え事をしていたおれは、不覚にも声をかけられるまで誰かが温室に入ってきたことに気づかなかった。
 振り返ると、藤内先生が顎に薄っすらと生やしたヒゲを撫でていた。
 仕事を終えて帰るところなのか、白衣を着ていない。ダークグレーのシャツに黒のスラックスという出で立ちは、教師どころか堅気にも見えなかった。
「もしかしてあれから毎日水やりしてくれてんのか?」
「スケッチのついでですから」
 先生はおれの手元を覗き込んだ。
「そのわりにはあんまりはかどってないみたいだな」
 今日はまだスケッチブックは真っ白だった。
 おれはバツが悪くなってスケッチブックを閉じた。
「今日は気分が乗らないだけです」
 おれの言葉を聞いているのかいないのか、先生はポケットから煙草を取り出すと1本咥えて火をつけた。
 おれは呆れた。
 ここで喫煙するなと言っていた人間はどこの誰だっけ。
「なあ、水川って美大志望なのか?」
 煙草を燻らせながら先生が言った。
「まさか。美大なんて無理です」
「なんでだ? そんなに絵を描くのが好きなら美大に挑戦してみたらいいじゃないか」
 そうしたいのは山々だけど……、
「親が許してくれませんよ。いいんです。おれは父親と同じような研究職に就くんです」
「なんだ。親の敷いたレールの上を走ってるだけか。若いくせにつまらんな」
 教師の発言とは思えない。
 まあ、本人に教師としての自覚があるのかも疑わしいところだけど。
 おそらく歳は30代前半くらいだろう。どこか諦観したような飄々とした大人に見えるけど、おれはこの人に、若い頃なにをしてきたかわからないおっかなさみたいなもの感じている。
 白い煙を吐き出すと、先生はおれに訊ねた。
「で、なんでおまえはいつも植物ばっかり描いてるんだ? たまには違うものも描けばいいのに」
「違うもの?」
「たとえば人間とか。おまえのそばにモデルに適したヤツがいるじゃないか」
 誰のことを指して言っているのか、すぐにわかった。
 なぜ先生が宿禰のことを知っているのか不思議だったけど、おそらく以前ここでふたりでいるところを目撃されたのだろうと思った。
「彼はもうここへは来ませんよ」
 自分で言って胸がつきんと痛くなった。
「なんだ。ケンカでもしたのか?」
「いいえ……」
 ケンカのほうがまだマシだ。ケンカができるほど仲がいいということだから。
 おれと宿禰はもう友だちですらない。
「まあ、あいつのことはどうでもいいがな。なんなら俺がモデルをやってやろうか? 俺、脱ぐと結構いい身体してるんだぜ」
 先生がにやりと笑った。
 おれはため息をついた。
 まるで悪い大人の見本のような人だ。
「脱がなくていいです。っていうか先生を描くきはありませんから」
「やっぱりヤツじゃないとその気にならんか」
 そう切り込まれてどきっとした。
 先生はなにか気づいているんだろうか。
 どこまで知っているんだろうか。
 おれは先生の表情を探るように訊ねる。
「……なにが言いたいんですか?」
「べつに。ただ、つまらん常識やプライドに捕らわれてると、あとで後悔するぞってことが言いたいだけ」
「それは忠告ですか?」
「いいや、経験者からのアドバイスだ」
 そう言うと、先生は自嘲気味に笑った。


 宿禰からおれの携帯電話に着信があったのは、それから2日後の昼のことだった。



                                            text by sakuta


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ダメ兄弟の楽屋裏 - 2009.04.16 Thu

「ミナ編で俺、暇だからさ~、兄貴と遊んでます」

ミナよりこっちの兄弟の方がまったくもっていかんせんなにもかも…ダメだろ~\(^o^)/

keirin2

じゃれてるだけです!やってませんから!(^_^;)



すんません、ミナの真面目な話の途中こんなんで~

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水川青弥 「予感」 5 - 2009.04.16 Thu

 「ねえ水川、あたしたち友だちにならない?」
 クラスメートの原田理香子がおれにそう声をかけてきたのは、中学2年の夏の終わりだった。
 半ば原田に押し切られるような形で、おれたちは携帯電話でメールをやりとりする仲になった。
 原田は成績優秀でクラス委員も勤める真面目な生徒だった。
 そのうえ容姿もよくて先生や男子の受けもいいため、クラスの女子の中で浮いていた。
 女友だちはひとりもいないらしく、休み時間はいつも 自分の席で本を読んでいた。
 まるでクラスメートなんか眼中にないみたいだった。
 おれはなんとなく原田が自分に似ているような気がしていた。
 でも、似ていたのは表向きだけで、中身はまったく似ていなかった。
 おれと同じように親の期待を一身に受けて、大人たちの前でいい子を演じている点は一緒だったけど、原田はもうひとつの顔を持っていた。
 制服を脱いだ原田は好奇心旺盛で自由闊達な女の子だった。
 おれは2つの自分を器用に演じ分ける原田に興味を惹かれた。
 あるいは原田になりたかったのかもしれない。
 気づけば、おれたちはいつのまにか友だちの枠を越えていた。
 学校では必要なとき以外は口をきかないし、放課後も一緒に帰ったりはしなかった。デートは必ず学区外。お互いの家にも行き来はしない約束だった。まるで親や教師、クラスメートにばれたら負けのゲームみたいだった。
 正直、おれは怖かった。
 でも、原田はあっけらかんとしていた。
 周囲の人間を欺くことのスリルと後ろめたさが、さらにおれたちを親密にしていった。恋人というよりも共犯者に近かった。
 一度だけ、なぜおれなのか訊いてみたことがあった。
「あたしね、時々無性に世界を壊したくなるときがあるの。この世界をめちゃくちゃに壊して、自由になりたいって……。青弥もこっち側の人間のような気がしたから声をかけたんだけど、違ってた?」
 おれは返事に詰まった。原田の気持ちは痛いほどよくわかるけど、おれは世界を壊すより自分が消えて解放されたいと思うほうだった。
 けれど、根っこの部分は繋がっている気がした。
 ふたりとも目に見えないものに押しつぶされそうになりながら、ほんのわずかな自由を求めて足掻いているのだ。
 このとき、おれは初めて原田を本当の意味で好きになった。
 そうして原田を異性として意識するようになると、彼女の聡明さと危うさがいかに男を惹きつけ、翻弄するかがわかった。おれはあえてそれに逆らおうとはしなかった。原田と一緒にいる自分が本当の自分だと思っていた。

 3年生になり、制服が冬服から夏服に変わった頃、おれは初めて原田の家に呼ばれた。
 その日、原田の家族はみな出かけていて、家の中には原田とおれのふたりしかいなかった。原田が薄着の身体をおれにぴったりと寄せてきたとき、なぜ彼女が家族のいない日におれを呼んだのかを理解した。
 あの時間は一体なんだったのだろう。
 今でもふと思うときがある。
 お互いに相手のことは好きだったけど、原田がおれを誘った理由はそれだけじゃないような気がする。
 あの頃は単なる好奇心と親や学校への反発だと思っていたけど、今ならおれにもわかる。
 おそらく彼女は自分の世界を壊したかったのだ。
 あの閉塞感を突き抜けて、新しい世界を見ようとしたのだ。
 でも、それは失敗に終わった。
 おれは彼女を自由にしてあげることができなかった。

 夏休みに入ると、彼女からのメールが途絶えた。

   今までありがとう
   巻き込んでごめん
   これからは受験勉強に集中することにしたよ
   だから、さよならね

 それが最後のメールだった。
 結局、おれたちは不自由な子どもなんだと思った。
 そして、おれは自分の無力さを思い知らされた。
 おれはもう、おれに失望する人間を見たくない。
 無力でつまらないおれを、暴かれたくない。

 目覚まし代わりに枕元に置いてある携帯電話を手にとり、おれは宿禰にメールを打った。

   今日はごめん。友だちとしてこれからもよろしく

 恋人にはなれないけれど、宿禰と完全に切れてしまうのは寂しいような気がしたから、自分の携帯番号も添えた。
 この11ケタの数字に込めたおれの気持ちを、宿禰は受け止めてくれるだろうか……。


                                           text by sakuta


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seiya1

水川青弥 「予感」 4 - 2009.04.14 Tue

 好きなやつは水川だけ……。
今、宿禰はそう言ったのか?
「それって……なに? 友だちとして?」
 おれも宿禰も男だ。それ以外になにがある、とも思ったが、訊かずにはいられなかった。
 すると宿禰は澄んだ瞳でおれを見つめた。
「恋人にしたいって告白」
 恋人という響きに、おれの体温は一気に上昇する。
 本気だろうか。
 いや、からかってるだけかもしれない。
 でも宿禰がこんなやり方でおれをからかうとは思えない。
 だけど……、
「そんな顔で言われたって……ますます信用ならない」
「生まれつきの顔だけどな」
 生まれつきだという端正な顔でおれを好きだと告げるこの男を、おれはどう受け止めたらいいのかわからなかった。
 第一、男同士で恋愛なんて。
「おれは……宿禰のこと、そんなふうに考えられないから」
「……わかってるよ」
 宿禰はひょいと肩をすくませた。そんな仕種もさまになる。
「悪いけど……」
「いいよ。それよりミナは恋人いないの?」
 一瞬、中学時代に親しくしていた子の顔が浮かんで、ちくりと胸が痛んだ。
「いないよ。勉強が……大事だから」
 そう、おれは勉強をしなければならない。親の期待に応えるために。恋愛に現を抜かしている余裕なんかなないのだ。
 すると宿禰はおれの右手をとり、「友だちとして……ね」と言いながら手の甲になにやらペンで書き始めた。見ると、それは携帯電話のアドレスのようだった。
 おれはされるがままに、じっと自分の手の甲を見つめた。


 寮に戻っても、考えるのは宿禰のことばかりだ。
 夕飯を食べているときも、風呂に入っているときも、宿禰の言葉を繰り返し思い出していた。
 彼はおれのなにが好きだというのだろう。
 そもそも、それは本当に恋愛の“好き”なのだろうか。
 宿禰は勘違いをしてるだけじゃないのか? こんなおもしろみのない人間を好きになるとは思えない。
 ベッドの上でごろごろしていると、根本先輩がどこからか戻ってきた。
「へえ、珍しいね。みなっちが就寝前のお勉強をしてないなんて」
 先輩はおれのベッドに腰掛けてきた。
「なにか悩みごと?」
「え……まあ……」
 否定しておけばよかったのに、おれはバカ正直に頷いてしまった。
「わかった。恋愛ごとでしょ」
 おれはぎょっとした。
「ほら、図星だ。なんなら相談にのるよ。ぼくはそっちの道のエキスパートだからね」
 ちょっと冷静になれば、なんでこんな人に相談なんかしてしまったんだろうと後悔することは明白なのに、このときおれは混乱していたし、ほかに相談できる人もいなかった。だからつい溢してしまった。
「友だちだと思ってたのに……」
 間髪いれずに先輩が食いついてきた。
「好きだって言われた?」
 大きな猫目を期待にきらきらさせている。
 その反応に、おれは思わず引いてしまう。
「……どうしてわかるんですか」
 先輩はにっこりと笑った。
「言ったでしょ。ぼくは男同士の恋愛のエキスパートよん」
 男同士の恋愛。
 そうはっきり言われてしまうと、羞恥に顔が熱くなる。
「お、男同士だなんてひと言も言ってませんっ」
「え~、違うの~?」
 目に見えて先輩のテンションが下がる。
 おれは思わず拳を握った。
「……違いません」
 すると再びきらきらの目でおれを見つめる。
「友だちだと思ってた相手に告白された?」
「……はい」
 先輩は小首を傾げた。
「それがなにか問題?」
 この先輩に常識的な思考を求めるのは無理なのか。
 話す前からすでに疲労を感じている。それでも気力を振り絞って問題点を並べた。
「なにもかもですよ。おれは友だちだと思ってるし、勉強が大事だし、男……同士だし……」
「みなっちはその人のこと好きじゃないの?」
 そうやってあらためて訊かれると、答えるのが少し恥ずかしい。
「す、好きですよ。友だちとして」
「本当に友だちとしてだけ?」
「だって、友だちになったのもつい最近のことなんですよ」
 先輩は、それがなにか? という顔をする。
「恋愛に時間は関係ないよ」
「でも……」
 おれの言葉を遮って、先輩はとんでもない提案をした。
「じゃあさ、試しに1回彼と寝てみれば?」
「……は?」
「寝てみればラブなのかライクなのかはっきりするし、男同士も案外いいもんだってわかるよ。あ、でもみなっちはネコだろうから、最初は痛くて泣いちゃうかもね」
 あとに続く言葉で“ネコ”の意味が大体わかり、おれは居た堪れなくなった。
「あんたと一緒にしないでくださいっ」
 先輩はけらけらと笑った。
「フシダラちゃんですいませんね~」
 まもなく舎監の保井が点呼にやってきた。点呼は寮長の仕事だけど、今、寮長は帰省中のため、代わりに舎監が残っている生徒の点呼にまわっているのだ。
 それが終わるや否や、先輩は再びどこかへ出かけていった。
 ひとりになると、再び夕方の出来事を思い出した。
 そういえば、宿禰に恋人はいないのかと訊かれたとき、一瞬おれは彼女のことを思い出した。
 中学2年の夏の終わり、友だちになろうと言っておれに近づいてきた原田理香子を。
 恋愛に臆病なのはもともとの性格のせいもあるけど、その傾向がさらに顕著になった要因のひとつが原田にあったことは否めない。
 瞼を閉じると、そこには長い黒髪を風になびかせる彼女の姿があった。

                                            text by sakuta


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厚塗りにして並べてみた。背後注意! - 2009.04.13 Mon

さて、厚塗りです。
どうでしょう。
折角だから全部並べて観ましょう。

rinmina8
厚塗りは線画がない分印象が薄いんですが、細かい表情が描けますね。
柔らかさもこれが一番あります。
まだまだ塗りたらなさはありますが、今回はここで止めときます。

rinmina7
カラー塗りは厚塗りとはちがって印象深いんです。
漫画の表紙に良くある感じでしょうか。

rinmina4
…すいません。完璧に下書きになっています。でも下書きが一番気に入る時もあるんですよ。
なかなかあなどれない。


さて、どれがお好みでしょうか?
表情が少しずつ違うもの面白いですね~
キャラも感情も変わっていく。

これはもう見る人の好みでしかないですね~

個人的には…これはもう厚塗りが一番描いてて楽しいですよ~
描かないとわからないんでしょうが、厚塗りは好きに描ける。
果てがないところがとても楽しいんです。






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水川青弥 「予感」 3 - 2009.04.11 Sat

 雨のように降り注ぐ蝉の声の中、おれは温室へと急いだ。
 今日は約束の金曜日。
 夕方というだけで待ち合わせの時間は聞いてなかったけど、なんとなくちゃんと会えるような気がしていた。
「あれ? でもおれ、夏期講習が終わる時間を教えたっけ?」
 言ってなかったような気もする。
「まあ、いいや。宿禰が来るまで待とう」
 そう思って温室のドアを開けると、目の前に宿禰の姿があった。
「あ、来てたの……」
「来てたのじゃねぇよ。俺、1時間も待って……もう来ないかと思ったから帰ろうとしてたんだよ」
 えっ、1時間も!?
「ごめん……時間とか言わなかったから。講習終わって一旦寮に帰って、これ、持ってきたんだ」
 言い訳がましく聞こえてたら恥ずかしいなとか思いながら、おれはおずおずと書店の紙袋を差し出した。
「この間の?」
「うん、すごくよかったから宿禰にも早く見せたくて……」
 宿禰の手が紙袋を受け取る。
「あ、りがとう……」
 おれはほっとした。
 それからおれたちは写真集をめくりながら語り合った。話のテーマが決まっていれば、おれもそれなりにしゃべることができるから、この前のファーストフード店のようなことにはならない。
 けれど、宿禰はときどき上の空だった。
「……でね……ね、聞いてる? 宿禰」
「あ? 悪い。聞いてなかった」
 おれは悲しくなった。やっぱりおれとのおしゃべりは退屈なのかもしれない。
 でも……、
「この本について語ろうって言ったの、おまえだろ?」
 つい口調が強くなってしまった。宿禰は怒っただろうか。
 すると彼はおどけた感じにかしこまった。
「ゴメン。今度よく見て読んで完全把握しておきますので、それまでお待ちください」
 おれは思わず笑ってしまった。
 さっき帰ろうとしてた宿禰は少し恐かったけど、今の彼はすごくおかしい。
 このほかにも笑った顔、驚いた顔、真剣な顔。宿禰はおれにいろんな顔を見せてくれる。
 今までおれのまわりにはライバル心や嫉みといったギスギスした人間関係しかなくて、みんな自分の手の内を隠して腹の探り合いばかりだった。
 だから宿禰の素直な反応が意外だった。
 いや、素直かどうかなんておれにはわからないけど、少なくともおれの目にはそう映った。だからあんな恥ずかしいことも平気で口にできるんだ。
 男のおれに、約束を守ってくれてうれしいだなんて……。


 それからというもの、おれたちは時間の許すかぎり温室で一緒に過ごすようになった。学生らしく一緒に勉強したりもしたけれど、ほとんどの時間を会話に費やした。
 最初のうちは、宿禰はおれの家族や中学時代の話なんかを聞きたがった。
 けれどおれはあまりその話はしたくなかったから、さり気なく得意分野の植物や絵の話題にすり替えていた。それに気づいたのか、そのうちに宿禰はおれのプライベートに話を向けなくなった。
 一方、宿禰は話し上手で、常におれを楽しませてくれた。とくに神話の話が興味深かった。その語り口はどこかからの受け売りという感じではなく、いったん自分の中で咀嚼してから彼自身の言葉で語っている印象だった。
 ただ、宿禰もやっぱり自分のことを話そうとしなかった。
 誰にだって触れられたくない部分はある。おそらく宿禰もそうだから、おれからも強引に話を訊き出そうとしないのだろう。
 結局、おれたちはお互いの家庭環境や交友関係についてほとんどなにも知らないまま、植物や神話についての知識ばかりを増やしていくという、なんとも歪な関係を深めていくことになった。
 そんなある日、宿禰は突然おれの寮の部屋が見たいと言い出した。
 一応、寮には寮生以外の人間は立ち入り禁止になっているし、おれの部屋といっても根本先輩と共同の2人部屋だ。いくら宿禰といえども無闇に招待するわけにはいかない。
 第一、おれの部屋なんか見たっておもしろいことはひとつもない。
 おれが「なんで?」と訊ねると、今度はおれの携帯電話の番号を知りたがった。
 なんだかいつもと様子が違う。
 なんというか……なにかを焦っているような……。
 おれは普段の癖でつい警戒してしまった。
「携帯は寮にあるから……番号覚えてない」
 言ったあとで「しまった」と思った。おれが自分の携帯番号を覚えてないなんてあまりにも不自然だ。
 案の定、宿禰は不機嫌な顔で黙り込んでしまった。
 どうフォローをしたらいいのか迷っていると、宿禰のほうから口を開いた。
「じゃあ、俺のアドレス教えるから、なんかあったらメールでもなんでもしてよ」
 なにかってなんだ? 学校と寮を往復する生活に一体なにがあるというのだろう。
 それよりもなによりも、
「宿禰は……誰にでもそういうふうに携帯の番号とか訊き出すのか?」
 思わず言ってしまった。もしかしたら少し非難めいて聞こえたかもしれない。
 でも、以前に「リン」と呼べと言われたときにも感じたことだ。やっぱりおれと宿禰では他人に対するスタンスがまったく違うのだ。
 あれだけ一緒にいても、価値観の壁を乗り越えるのは容易じゃない。
 おれは一気に夢から覚めていくような気がした。
「誰とでもじゃねえよ。気に入ったやつにしか教えねぇし……」
 宿禰は不貞腐れた口調で答えた。
「なあ俺、ミナから見たらそんなに信用ねえ人間に見える?」
 正直わからない。宿禰をどこまで信用していいのかではなく、宿禰のなにに信用をおけばいいのかが……。
 それくらいおれは宿禰のことを知らなかった。
 自覚した途端、おれはどうしようもない徒労感に襲われた。頭の芯がぼうっとして、ものを考えるのも億劫だった。
 だから、宿禰がなにか言ったのを聞き逃してしまい、おれは聞き返した。
「え?」
 すると彼は驚くべき言葉を口にした。
「好きなやつは水川だけって話」


                                          text by sakuta

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水川青弥 「予感」 2 - 2009.04.09 Thu

 おれと宿禰は書店の近くのファーストフード店に入った。おれは食べるものにはあまりこだわりがない、というか食べること自体に興味が薄いのだけれど、宿禰はハンバーガーに不満そうだった。
「お盆は実家に帰らないのか?」
 宿禰が訊いてきた。その質問を受けるのは、今日はこれで2度目だ。根本先輩のように「どうして」と突っ込まれると面倒だから、おれは適当に「来週」と答えた。
 すると今度は寮の生活は楽しいかと訊かれた。ほかの寮生たちは門限が早いとか規則が厳しいとか文句を言っているが、おれはそれをとくに煩わしいと感じたことはない。開放刑務所の囚人並みには自由だと思う。
「うん、まあまあ」
 そう返事をすると、そこで会話が途切れてしまった。
 おれは人と話をするのがあまり得意ではない。自分の話をするのはもっと苦手だ。なにをどうしゃべったらいいのかわからない。かといって、人から話を訊き出すのも上手くない。こんなおれと一緒にいて宿禰は楽しいのだろうか。
 しばしの沈黙のあと、宿禰が唐突におれの名前を呼んだ。
「水川」
 おれはテーブルの上に落としていた視線を上げた。
「なに?」
「俺のこと、嫌い?」
「え……」
 なぜそんな質問をするのかわからないけど、おれは感じたままを答えた。
「嫌いじゃないよ」
 嫌うほど宿禰のことを知っているわけでもないし。
「じゃあ……友だちにならない?」
 おれは驚いた。ストレートにそんなことを言われたのは初めてだ。
 いや、中学のときにひとりだけおれにそう言った子がいたけど、男から友だちになろうと言われたのはたしかに初めてだった。
 もともと慎重なおれは、むやみに自分を晒したり、積極的に誰かと関わろうとしたことがなかった。ある時期からそれに拍車がかかり、おれは透明なバリアーを張って自分を守るようになった。
 そのバリアーを、宿禰はものともせずに中へ入ってこようとしている。そんなやつは初めてだ。どう対応したらいいのかわからない。
「と、友だちって?」
 そう訊ねると、宿禰はあの温室をふたりだけの隠れ家にしようとか、今日買った写真集について話をしようとか、今後のおれたちについて楽しそうに語った。そして、しまいには予想もしていなかったことを言い出した。
「じゃあ、俺のことリンって呼んでよ」
「え?」
「凛一だからリンだよ。言ってみろよ」
 おれはおおいに戸惑った。いままで誰かを下の名前で呼んだことなんてなかったから。
 名字ではなく下の名前で呼び合うというのはいかにも親しげだ。まさかおれにそんな友だちができるとは思っていなかった。
 意外なことに、悪い気分ではない。
 でも、抵抗はある。
 普通の人にはどうってことないことかもしれないけど、おれにはそのどうってことないことが途方もなく難しかった。
 呼ばなきゃだめだろうか。気を悪くするだろうか。
 おれは勇気を振り絞る。
「……リ、ン」
 耳が熱い。きっと赤くなっている。
 かっこ悪いな、おれは。
「そう、ミナはいいやつだね」
 そう言って宿禰は笑った。なんだか馬鹿にされている気がした。
 だいたい、なんでおれを「ミナ」って呼ぶんだ。
 宿禰にとっては自分を「リン」と呼ばせたり、誰かを下の名前や愛称で呼んだりすることは、毎日食事をするのと同じことなのかもしれない。偶然街で出会った同級生を食事に誘うことなんて、テレビのチャンネルを変えるのと同じくらい簡単なことなのかもしれない。
 そう思うとなぜだか無性に口惜しかった。
 なのに宿禰は、なおもおれに「リン」と呼ばせようとする。
 それが腹立たしくて、悲しくて、おれは子どもみたいに席を立った。
 去り際、おれの背中を「約束を忘れるなよ」という声が追いかけてきた。
 おれは振り返り、なるべく素っ気なく「気が向いたらね」と答えたのに、宿禰は笑顔で手を振った。
 なんだか負けたような気分だ。
 子どもっぽい自分の恥ずかしさを誤魔化すように、おれは階段を駆け下りた。


 帰り道、電車の中で、バスの中で、おれは宿禰のことを考えていた。
 下の名前を呼ばされて腹を立てたとき、おれはなんて言った?
『いつも誰にでもそうなのか?』
 たしかそう言った。
 これってどういうことだ? 
 まるで嫉妬してるみたいじゃないか。
 いや、そんなはずはない。
 おれはあいつをなんとも思ってないし、あんな言葉に深い意味なんてない。ただ、ついぽろっと口をついて出ただけだ。
 おれは必死にそう自分を納得させようとしていた。
 必死になればなるほど、自分が滑稽だった。
 宿禰はただ友だちになろうと言っただけだ。それを人生の一大事みたいにひとりで勝手に取り乱して、宿禰を店に置き去りにしてしまった自分が情けない。
「あはは……余裕ないや」
 もっと余裕のある人間になりたい……。
 できれば、宿禰ともちゃんと友だちになりたい。
 おれは写真集をぎゅっと胸に抱きしめた。


                                          text by sakuta


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水川青弥 「予感」 1 - 2009.04.08 Wed

rinminahyousi

 この週末、夏休みの間も講習のために寮に残っていた生徒たちはほとんど帰省し、寮の中は閑散としていた。
 おれは舎監に外出届を出して、自分の部屋で身支度を始める。
「えっ、みなっちも帰省しちゃうの?」
 ベッドの上でごろごろしていた根本先輩が訊いてきた。
「違います」
「よかった~。っていうかさ、みなっちはなんで帰省しないの?」
 その質問に答えずにいると、先輩はかまわずに続けた。
「だいたいさぁ、みなっちの実家ってたしか通学圏内じゃなかった? なんで寮に入ってるの?」
 この人の、この遠慮のなさはどうだろう。
「寮のほうが勉強に集中できるからです。そういう先輩は帰省しないんですか?」
 話の矛先を反対に向けられて、先輩は少し戸惑っている様子だ。
「ぼく? ぼくはだって……帰る家なんてないから……」
 次第に声が小さくなっていき、しまいにはベッドに突っ伏して肩を震わせ始めた。
 まさか泣いてる?
 おれは慌てて先輩のベッドに近づき、小刻みに震える華奢な肩に手を置いた。
「先輩、大丈夫ですか?」
 すると突然、先輩は身体を反転させて仰向けになるなり、おれの腕を掴んで引き寄せた。
 バランスを崩したおれは、間一髪のところで先輩の顔の両脇に手をついて身体を支えた。
「危ないじゃないですか、いきなり」
「いいね、この体勢。ムラムラっとこない?」
 おれは思いっきり脱力した。
 嘘泣きだったのか。
「くるわけないでしょう」
 おれは身体を起こしてずれた眼鏡を直した。そのまま机に戻ってトートバッグに財布とハンドタオルを入れる。
「みなっち、どっか出かけるの?」
「街の本屋に。探したい本があるんです」
「真面目だな~。街に出るならぼくがいい店を教えてあげるよ。その眼鏡をはずせば、みなっちならすぐに人気者になれるよ」
 おれは左の中指で眼鏡を押さえた。
「遠慮しときます」
 なんの店だか訊くのも怖い。
 みなっちが出かけちゃったらぼくがつまんないじゃん、と身勝手なことをほざく先輩を無視して、おれは「いってきます」と部屋をあとにした。


 今日の目当ては海外の写真家の写真集だ。おれはその写真家の作品が好きで、新作が出版されば必ずチェックする。けれど洋書を扱っている書店は少なく、わざわざバスと電車を乗り継いで大きな街まで出なければならない。
 この大型書店にはすでに何度か足を運んだことがあるため、おれはどこになんの棚があるか大体把握している。店に入るとそのままエスカレーターに乗り、2階へと上がる。ここの右手の奥にアート系の洋書コーナーはある。おれは浮き立つ気持ちを抑えきれずに、足早に目指す棚へ向かった。
「あっ……」
 誰もいないだろうと思っていたその棚の前に、見知った男の姿があった。
「ミナ……川……なに? おまえもここに用?」
 宿禰凛一が呆気にとられた顔でおれを振り返った。しかも彼が手にしていた本は、おれがこれから探そうと思っていた写真集のようだった。
「う、うん。え…と、……そ、その本……」
「これ?」
 おれは目の前に差し出された写真集を手に取り、表紙と中身を確認した。
「やっぱりこれだ」
 それはヨーロッパの小さな教会の写真を集めたものだ。おれは教会の建築様式に詳しいわけじゃないし、実のところ信仰心も持ち合わせていない。ただ、アート写真としての価値をその写真集に見出していた。
 それよりもなによりも、同じ本をあの宿禰が手に取って見ていたことに驚いた。
 あの通り雨の日、温室に飛び込んできた彼の姿は、今でも瞼の裏に残っている。濡れた髪の色がきれいだと思った。何度も思い出しては、そんな自分に戸惑いを感じていた。
「ほしい?」
 唐突に訊かれて、おれは一瞬なんのことだかわからなかった。
「え? ああ……この本?」
「なにと思ったよ」
「べ、べつに……宿禰が先に見つけたんだから、おまえが買えばいい。おれはほかで探すから」
 宿禰に写真集を押し付けるようにして踵を返すと、いきなり腕を掴まれた。その力の強さにどきっとする。
「待てよ、水川」
 おれの腕を掴む宿禰の手を見つめていると、彼は慌てて手を放した。それから意外な提案をしてきた。
「これ譲るから。おまえが見たあとおれに見せてくれない?」
「え?」
「ゆっくりでいいよ。待ってないから。どう?」
 宿禰もこの写真集を探してたんだろうからそれじゃ悪い。
 おれが断ろうとすると、彼は写真集を譲る代わりに交換条件を出してきた。
「そう思うなら昼飯付き合ってよ」
 おれも昼食はまだだったし、とくに断る理由も見当たらなくて、おれはその条件を呑むことにした。


                                          text by sakuta





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リンミナ 表紙っぽく - 2009.04.05 Sun

rinmina1

前描いた奴に色を付け、表紙っぽくしてみました。

やっぱり凛の顔がいやらしい。





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幕間 …慧一と紫乃の場合 - 2009.04.02 Thu

たまにはBLサイトらしく、こういう表紙っぽい絵でも描くか…


keiitisino1
下書きもサムネで置いとく。
keiitisino3


「俺を邪険にしたら、おまえの留守中に凛一を襲ってやるからな」

「凛一に手を出してみろ。ぶっころすからな、紫乃」

などと、楽屋裏でも仲のいいふたりですた~(*^_^*)


普段は紫乃がイジメ役なんだけど、
セックスの時はやたらドSの慧一と、従順になる紫乃です。

色をつけたら、このイラストはこっそりと交換しますよ。
あ、身長は6センチぐらいの差でしたね。これは膝立ちしている感じですよ。

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