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2009-05

宿禰凛一 「追想」 15 - 2009.05.30 Sat

15.
「月村さん!どうしたのさ!」
「なんでもない。さっき外でちょっと転んで、腕を打ったんだよ。大丈夫、大したことはないんだ」
「ピアニストなのに、腕とか怪我しないでよ。月村さんのピアノを聴けなくなってしまったら、何の為にあの店に行くのかわからなくなるだろう?」
「…凛一君は本当に、人を喜ばせるのが上手くて、腹が立つ」
「本気で言ってるんですよ。それに俺の事は呼び捨てで結構。月村さんは休んでてよ。腕が痛いんじゃ食事の用意も無理だろ?俺、なんか作るよ」
「予定があるんだろ?俺の事はいいから帰りなさい」
「…いいんだ」
 俺は台所に向かい、汚れ物を洗い始めた。
 この分だと帰れそうもない。慧一は俺を待っているだろう。
 俺はまた慧一を裏切る。後悔と罪の意識に苛まれるのはわかっている。
 それでも俺はここ居る事を選んだ。
 逃げているだけだとわかっているんだ。

 ふたり分の簡単な食事を作り、コタツの上で向かいあって食べた。
 慧一の事を思うと、美味いかどうかの味がわかるわけも無く、月村さんも口数が少ないから、自然と静かな晩餐となる。
「せっかくのクリスマスなのに、良かったのかい?」
「兄貴が…待っているんだろうけど、いいんだ」
「兄さんか…羨ましいね」
「何が?」
「凛一みたいな弟がいるだけで、兄さんは幸せ者だろう」
「…俺は鬼っ子だよ。兄貴に迷惑ばかりかけてる」そう言うと、月村さんはただ黙って微笑した。

 月村さんは頭痛がすると言うので、いつも寝ている部屋に布団を敷いて寝るように促した。
「凛一はただのお坊ちゃんじゃないんだな。何でも出来るし、驚いたよ」
「これぐらいは当たり前です。それより月村さんがニューヨークに住んでたっていうのが信じられないよ。なに?このせんべい布団」
「シカゴにもボストンにも居たけど、日本の畳とせんべい布団が一番寝心地がいいんだ」
「お嫁さんでも貰えばいいのに」
「…こんな駄目な奴に、誰もかまわない」
「俺はかまってもいいけどね」
 薄い布団に潜り込んだ月村さんは怪訝そうな顔で俺を見た。
「君は嶌谷さんの恋人だろう?」
「え?嶌谷さん?…あはは、凄い誤解だよ。嶌谷さんは俺の親父みたいなもんだ」
「…嶌谷さんの自宅に入り浸ってるって聞いたんだが」
「…それ、嫉妬してんの?嶌谷さんに?それとも俺に?」
「…」
「俺、月村さんが好きだよ。月村さんとだったら寝てもいい」
 俺は月村さんの隣に滑り込むと、肘を立てて寝ている彼を覗き込んだ。
「天使のクセに俺を地獄に突き落とすつもりかい?」
「天使でも悪魔でもない。俺は宿禰凛一だよ。それ以外にはなれないし、なる気もない」
「潔いね」
「間違っても天の御使いではないって事」

「凛一、俺を…救ってくれないか」
「何の話?」
「初めて…君をサテュロスで見た時、天使がいると思った。君の背中に虹色に輝く羽が見えたんだ」
 俺は驚いた。梓と慧一が良く吐いていた言葉を、この人は同じように言うんだ。
「…俺に羽なんか無いよ」
「いや、凛一にはあるんだよ。でも天使かどうかはわからなくなってしまいそうだ…こんなに俺を誘惑する 奴は天使にしとくには勿体無いからね」
「じゃあ、メフィストフェレスだ。俺と契約する?ペンタグラム無しでもご主人の命には死ぬまで叛きませんよ」
 俺は月村さんの顔にぎりぎりまで近づくと、額にキスをする。
「…俺は哀れなファウストか?…俺がおまえに傅きたいよ、凛一…君は俺の光だ」
「どこに連れて行って欲しい?」
「おまえの夢でかんじがらめにして欲しい…」
「じゃあ、抱いててあげるよ。月村さんが目を覚ますまでね」
 彼の胸に頭を乗せ、俺は月村さんの鼓動を聞いた。
 耳の奥に響く心臓の音が俺の鼓動と重なって、和音となる。

 深夜遅く、帰宅した。リビングもキッチンにも灯りはついていない。
 当たり前だ。
 自分の部屋に戻ると、机にリボンをかけた箱が置いてあった。慧一からのクリスマスプレゼントだろう。
 俺はその包みを開けた。
 前から欲しがっていた腕時計だった。IWCの最新モデルだ。
 胸が痛い…目頭が熱くなる。
 どうして慧一は俺を泣かせることばかりするのだろう。

 俺は慧一の部屋の前に立った。ドアの隙間から灯りが見える。
 まだ起きているんだ。
 俺はドアを叩いた。
「凛一か?」
「そうだよ」俺はドアを開けないまま応える。
「…入れよ」
「ここでいい。…慧、今日はごめんね」
「…いいよ」慧一の声が近くに響いた。
 ドアの向こうにいるのだろう。
 ドアノブが動くのを感じて俺はそれを止めた。
「開けないで聞いてよ。プレゼントありがとう。でもあんな高価なものは俺にはふさわしくない。俺はもう兄貴の期待に応えられるような人間にはなれないから…だから、見捨てていいんだよ。恨んだりしないから…慧は自由になっていいんだ…」
 ドア越しに俺の名を小さく呼ぶ声がした。
「凛…おまえを愛しているんだ」
「そんな資格、俺にはないよ」
「関係ないだろう。おまえは俺の弟だ。おまえを幸せにしたいと願うのは本能だろう。おまえが俺をどう思っても構わないよ。でも…信じてくれ。俺は凛一を愛してる」
 慧一の言葉は今の俺には、あまりにも純粋に美しく輝き、それに触ることさえ適わない。
 俺は、どうしようもなく腹立たしかった。
 俺自身に、慧一に、愛という尊いものに…


keirin3



慧一の話は  早春散歩1よりどうぞ~
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