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2009-09

green house ~ 水川青弥 「引力」 15 - 2009.09.30 Wed

15、
 途中のコンビニでポカリとやわらかプリンとLGなんとかヨーグルトを買った。熱を出すと必ず母親がおれに食べさせてくれたものだ。
 マンションに着きオートロックのタッチパネルに宿禰の部屋番号と呼び出しを押した。
 暫くして『ミ、ミナ?』と、驚いたリンの声がスピーカーから聞こえた。
 カメラからおれの顔が見えているのだろう。おれはどこを向いていいのかわからず、目の前のパネルをじっと見つめながら話す。
「うん。三上に頼まれてプリント持ってきたんだけど…」
『そう…上がってくれ。13階だから』
「うん」
 同時に傍らの見るからに頑丈で豪華なドアが静かに開いた。

 エントランスに入るとそこはホテルのロビーのようだった。
 正面には淡い色調の照明に照らされた高そうな油絵が飾られ、応接間のようにソファとテーブルが並べてある。とりあえずおれはエレベーターを探し、ボタンを押した。
 やっと降りてきたエレベーターに乗り、13階のボタンを押そうとすると、息を切らせながら滑り込むように子供がひとりエレベーターに入り込んできた。
 小学生になるかどうかぐらいの女の子だ。
「10階をお願いします」と、丁寧に言われ、おれは10階のボタンを押した。
 その女の子は珍しそうにおれを見ると「お兄さんは凛一おにいちゃんのお友達?」と、言う。
「え?」
「だって13階を押しているから」
「そうだけど」と、返事をすると、彼女はにっこり笑って「凛一おにいちゃんは面食いなのね」と笑った。
「リン…いち君のことを知っているの?」
「うん、いつもお菓子くれたり、抱っこしてくれたりキスしてくれたり、大きくなったら凛一おにいちゃんのお嫁さんになりたいって言うんだけれど…」
「けれど?」
「好きな人がいるから駄目なんだって。まさかその人って…あなた?」
「ええ!…違うと…思います」
 おれは大きく手を振って否定した。こんな小さな女の子にまで、そこまで想像されたくない。

 10階で手を振って降りていく女の子を送り出し、おれは溜息をついた。
 一体あいつは…誰彼も構わず抱っこしたり、キスしたり…危ない奴と間違えられないか?
 と、思って頭を捻った。なんかちょっと気に食わない。これは嫉妬ではないはずだ。…たぶん…

 13階で降りると目の前に広々としたポーチがある。
 回りを見渡しても玄関といえるものはここだけだ。表札はなかったが、部屋番号は合っている。
 おれは門扉を開け、その玄関のインターホンを押した。

 すぐに木造の瀟洒なドアが開き、宿禰の姿が見えた。
 久しぶりに見るリンの姿を見て…おれは胸が熱くなった。

「リン…」
 おれは無意識のままリンに抱きついていた。
 その細い身体を掻き抱き、彼の存在を確かめた。
 リンはおれの勢いに負けて二歩後ずさる。
 後ろのドアがゆっくりと静かな音を立てて閉まる。
 途端に玄関の間接照明の淡いオレンジが足元に浮かび上がった。

「ミ…ナ…」
「リン…逢いたかった。すごく…すごく」
 おれよりも少し高い位置にあるリンの顔を見つめた。
「俺もミナのことばかり考えていたよ」
 その言葉はおれを有頂天にした。
 リンは熱があるんだからちゃんと看病しなきゃならないんだとか、この間のこともあやまらなきゃならないとか、色々考えていた事など吹き飛んでしまった。
 
 あまりの嬉しさに涙ぐむと、リンは眉を顰めて「ミナは嫌がっても喜んでも泣くから、俺は非常に困る」と、真顔で言う。
「これは久しぶりに会えた嬉しさと、リンを好きでたまらないという意味だよ…どっちにしろリンが泣かせているのは間違いない」
「…もっと泣かせても構わないって意味?」
 おれはそれを肯定するように、大きく頷き、リンの口唇に自分から合わせに行く。

 ひとしきりお互いの口唇を味わった後、リンは優しげに微笑んだ。
「夢を見ているみたいだ。ミナがここにいるなんて…」
「何で来たかって聞かなくてもわかるよね。この間のリベンジだよ」
「…そりゃ…なんとまあ、勇ましい話だね。俺への挑戦?」
「いや、おれ自身へのと思ってよ。おれはリンと繋がりたい…」
「勿論、今度は逃がさない。ただ今は言わせて」
「なに?」
「遅くなったけれど…誕生日おめでとう、ミナ」
 リンの言葉におれは相好を崩し、一寸も離れたくなくて、またもやリンにしがみついてしまった。







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ゆとりと厨二病の恋愛劇だなwww
まあ、ふたりともいとおしいからいいや




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green house ~ 水川青弥 「引力」 14 - 2009.09.29 Tue

14.
「おれは…リンが好きだ。リンがこのままおれから離れてしまうのはどうしても嫌だ。リンが他の誰かを好きになったり、誰かとセックスしたりするのもおれは…いやなんだ。こんなに誰かに執着したり、独占したいって気持ちになったのは初めてなんだ。おれは、リンと繋がりたい」
「…それをリン君に言えばいいんだ」
「だけど、リンはおれに失望しないだろうか。リンを好くさせてあげれるだろうか。おれはそれに嫌悪感を抱かないだろうか。うまくイクことができるだろうか…どれもこれも不安ばかりだ…」
「誰だって初めはそうだよ。宿禰だってね…勿論経験は豊富だろうけれど…考えてみれば、ボク達とだいして変わらない時間を生きてきたんだよ。内容は違っても生きてきた歳は同じ。そう考えるだけで大分楽になるんじゃない?」
「…」
 そうなんだ。宿禰は歳のいった分別のある大人でも、すべてをわかりきった博学者でもない。おれと同級生の男子なんだ。

「まあね、みなっちは3月、宿禰の誕生日は4月だから一年の差はあるだろうけれどね」
「え?先輩、リンの誕生日を知っているの?」
「ちょいと調べればわかるよ。4月14日が彼の誕生日。ちょうどみなっちのひと月後だね」
「…」
「宿禰がアメリカから帰ってきたら、さっきみたいにみなっちの気持ちを正直に話したらいいんじゃない。まあ、アメリカでいい男を捕まえていなければの話だけどね」
 と、意地悪そうに笑う先輩におれは眉を顰め、海外にメールが届くかは判らないが、とりあえず、誕生日のことを知らせようと携帯を手に取った。


 メールで連絡を一応してはみたが、あれから一向に連絡はない。とにかくリンが帰国するまでこの件は一旦置いておこうと自分に言い聞かせる事にした。

 おれは春休み期間を補修授業を受けるためと理由を付け、寮に残り、極力家には戻らなかった。
 春休みにも関わらず毎日学校に登校し、授業が終わると温室でひとりで過した。
 花に水をやったり、絵を描いたりと、宿禰を知り合う以前と同じような毎日だ。だけど、おれにはもうリンが必要で、傍にいることが当たり前になってしまっていて、居ないのはわかっているのに、思わず振り向いて「ねえ、リン」と、呼んでしまうのだ。

 リンが恋しい。
 リンのことを思うと胸が痛い。
 会えないと寂しい…
 寂しくてたまらない…
 これが恋という感情なのか?
 なにものにも替えがたい尊いと思える想い。
 おれはどうしても手放したくない。
 リン…おれは、…おまえが欲しいんだよ。

 新学期が始まり、朝礼が済むとおれはクラス替えの前に、隣の宿禰のクラスに向かった。宿禰に会うためだ。
 きょろきょろと教室の中を伺うが、宿禰の姿は見当たらない。三上がおれに気が付いて、宿禰がまだ来ていないと教えてくれた。
「様子がわかったら教えるから」と、言われ、おれは肩を落として自分の教室へ帰った。

 二年になり、おれは4階の教室に宿禰は…多分理系のおれとは離れた3階の文系クラスだろう。
 一階だけだとはいえ、休み時間にちらりと見るリンの姿が見られなくなるのは寂しい気がした。

 考えてみればおかしい話だ。
 一年前この学校に入学したばかりの頃は、おれは恋どころが誰かを好きになる事さえ自ら拒んでいたのに。誰かをこんなにも好きで好きでたまらなくなるなんて…
 おれは初めて誰かを必要と思い、そして相手におれを必要としてもらいたいと感じている。
 リンが…リンがおれを変えてくれた。
 おれはなんだか前を、上を向いて歩きたくて仕方ない気分なんだ。

 始業式早々に進学校であるヨハネでは6時間までみっちりと授業がある。それが終わると三上はおれの教室にやってきて、宿禰の事を教えてくれた。
 なんでも高熱で寝込んでいるとのことで、見舞いがてらプリントを渡して欲しいと頼まれた。
「ありがたい事に二年も宿禰とクラスが一緒なんだ。あいつはいい奴だから離れがたいよ。でも水川はあいつの特別だから仕方が無い。この役を譲ってやるよ。宿禰のマンションは知ってる?」
「知ってる」 
「明日は土曜で休みだし、月曜は校内の実力テストだから、良かったら勉強でも宿禰に水川が教えてやってくれよ」
「うん」
 おれは思わず顔を綻ばせた。すると三上は小声で「ああ、宿禰が惚れるのも判る気がする。水川って案外かわいいんだな」と、笑った。
 おれは三上の言葉にさえ、もう下を向くこともなく、素直に笑って応えた。

 寮に帰り着くと、おれは宿禰に会うために服を着替えた。ついでに下着も新しいものに代えた。明日は土曜で休みだから、うまくいけば宿禰とできるかもしれない。
 机に入れておいたスキンの箱から一個取り出し、お守りがわりに財布に入れた。
 こんなにセックスの事ばかり考えていると知ったら、リンはきっと苦笑いするだろう。
 色狂いだと軽蔑するかも知れない。それでも…

 それでも、おれはリンが欲しい…

 



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ミナもこれくらい必死になってくれないとねえ~
恋に目覚めたミナもまたかわいいよ(⌒∇⌒)




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green house ~ 水川青弥 「引力」 13 - 2009.09.28 Mon

13、
 寮に帰った後、おれは何度も携帯を手に取り、電話でもメールでも一言リンに謝ろうと試みたが、何と言っていいのか皆目判らず、溜息をつくばかりだった。
 同室の根本先輩はいい按配に、部屋にいなかった。どうやら今晩はどこかの部屋にお泊りか、誰かとホテルへ…
 そんな事はどうでもいい話だ。
 大問題を抱えているのはおれのほうだ。
 一体これから宿禰とどうやって付き合っていけばいいんだ。いや、宿禰はもうおれに愛想を尽かしているかもしれない。
 だったらおれに引き止める権利はなかろう。
 だっておれは、リンを…拒んだんだから…

 リンに嫌われたかもしれない…
 そう思うと苦しいのと切ない感情が二乗になり、じっとはしていられない。勉強も手につかず、こんな時、いつもなら絵を描いて気を紛らわすという逃げ道も今回は役に立たなかった。

 おれは…とてつもなく間違った仕打ちをリンにしてしまったんじゃないだろうか…

「はあ…」机に項垂れて頭を抱え込んだ。
 だからもう、恋なんて…するんじゃなかった…

 次の日、おれは宿禰の姿を見ることはなかった。
 隣のクラスだから、様子を伺うこともできたはずだが、恐ろしくて近寄れなかった。
 おれは授業が終わると逃げるように寮に帰った。

 その夜、宿禰からメールが来た。
「昨日の事は俺が悪かった。待つって約束したはずなのに、ミナがあんまりかわいいから待てなかった…まだ怒ってる?」
 …嬉しいんだが、返答しがたい内容で、ひとしきり考え抜いた結果、おれは「怒ってないし、リンが好きだ。でも自信が無い」と、返した。
 すぐさまリンから「俺も自信喪失中…」と、返信され、気が緩んだのと申し訳なさで涙が零れてしまった。

 やっぱり明後日、誕生日にセックスしたいと打ち明けようと、必死の決断で望んだ翌日だったが、宿禰の姿を見ることはなかった。次の終業式も宿禰は学校に来なかった。
 三上を呼び止めて、宿禰の行方を聞くと、昨日からリンのお兄さんのいるシカゴに遊びに行くとかで、春休み中は帰ってこないと言う話だった。

 …気が抜けてしまったというか…先に言ってくれれば良かったのに…と、自分の事は棚に上げ、宿禰のつれなさを随分と詰った。

 おれは16の誕生日を、寮の部屋でひとりぼっちで過す羽目になってしまった。
 もっと早くから宿禰に自分の気持ちを打ち明け、ちゃんと段取りを踏んでリンとひとつになれていればこんな惨めな誕生日を迎える事などなかったんじゃないだろうか…

 今更言っても全く持って拙いことだらけで、自分のふがいなさが恥ずかしくも罵りたくなり、落ち込みも激しくなる。

「あれ~みなっち、いたの?」
「…いますよ」
 夕食後、ベッドで横になっていると、同室の根本先輩が帰ってきた。
「だって、今日は誕生日じゃなかった?宿禰とデートでも楽しんでいるのかと思ったけど…」
 と、言いつつ、何故かおれの寝ているベッドに乗り座り込んだ。
 おれも仕方なく起き上がって、向かい合わせとなる。
「…リンは留学中のお兄さんに会いにアメリカに行きました」
「…宿禰もまたつれないことをするね。恋人が誕生日だっていうのに」
「おれが知らせていなかったんです…宿禰は元々おれの誕生日を知らない」
「…そりゃ残念だったね~と言うかさあ、前もって言っとけば良かったじゃん」
「…」
「そんな大事なことも言えない関係なの?君と宿禰は」
 そうなのかも知れない。おれだって宿禰の誕生日は知らない。
 お互いの誕生日さえ興味がないって…そういう恋人同士っていうのも変かもしれない。
 だけど、そういう云々より、宿禰と一緒にいるだけでなんか…それだけで十分に居心地が良かったんだ。

「まさか、ボクのあげたプレゼントはまだ役に立ってないってことは…ないよね」
「…」
 プレゼントというのはコンドームの事だろう。役に立つもなにも…おれは力なく首を振った。
「え?マジで…だってみなっち近頃ドキワクな顔していたじゃん。もう初体験しまくったのかと思ってたけど…」
 触れて欲しくない事をこの人は…だけど、おれの今の状況を理解してくれる人は先輩しかいないというのが正直な話。ここは本当のことを話して、相談に乗って貰った方がいいのかもしれない。

 おれはぼそぼそと低い声で宿禰との事の顛末を説明した。不思議なことにいつもなら茶々を入れる先輩は、ただ黙って聞いてくれた。
「おれは…おれには初めから無理な話だったんだ。元々男が好きになる体質でもないし、いや、男も女もおれには好きになる価値なんかないのかもしれない。好きな相手になにもしてやれないんだから…」
「別にそれくらいで落ち込む事でもないと思うけどな。まあ、水川が真性のホモじゃないことはわかっていたし、それは宿禰も知ってたからね。宿禰は水川の事を大事にしてくれてただろう?」
「…だからおれは宿禰の思うようにさせてあげたかったんだ。でも肝心な時におれは拒絶してしまった…」
「させてあげたかったてねえ~思い上がりというか…要するに覚悟していたけど腰が引けたってわけだね。水川は自分が男として女みたいな扱いをさせられるのが嫌だった。つまりアナルに突っ込まれるのが嫌だったわけだ。痛いしね」
「そ、そんな事を言ってるんじゃない。おれは…」
「宿禰とは寝たいが男としてのしてのプライドが許せないって話じゃないの?ボクが思うに、水川は自分はどうしようもないと言っておきながら結局は自分が大事でしょうがないんだ。傷つきたくない、穢れたくないと思っている。宿禰がそっち方面に長けているのなら、何もかも初めての君が怖気づくのも判るけどね、自分のプライドを守るために価値が無いと泣かれても宿禰がかわいそうだよね」
「…」
 自分のプライドを守るため?そんなの考えたことがない。おれは自分が嫌で嫌でたまらなくて…でも宿禰を好きになって本当の自分を少しは好きになれる気がしたんだ。
 宿禰とセックスをしたかったのは確かだ。抱かれるのも覚悟していた。
 じゃあなぜあの時、おれは宿禰を拒んだんだ。

「宿禰はおれに愛想が尽きたかな…」
「それは君次第だろうね。水川は一体宿禰とどういう関係でいたいの?このまま何もしないで恋人未満で続ける?それとも傷ついてもいい覚悟でお互いの汚いところをさらけ出しあって、付き合っていきたいの?」
「…」
 根本先輩の言葉は重く、おれは今までに考えた事のない宿題を目の前に出された気がする。




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ミナの本当の気持ちを聞き出すには根本先輩は必需品になってしまった。これからもよろしくね、先輩★⌒(@^-゜@)v ♪



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green house ~ 水川青弥 「引力」 12 - 2009.09.26 Sat

12.
「誕生日まで待って欲しい」
 言わなくちゃいけないと思って、口を開こうとすると、リンはおれの顎を掴み、自分の方に向けさせ、口を合わせた。
 互いの舌を舐めあいながら貪るキスはおれも嫌いじゃない。だけど、今はもっと大事な話があって…
 背後からしっかりと腰を捕まえられて身動きの出来ないおれは、身体を這うリンの指先にも刺激を受けて次第に息が上がる。

「リ、リン…おれ…あの…」声が裏返ってうまく言葉が紡げない。
「いやなの?」
 リンの甘い囁きにおれは、力なく首を横に振る。
 嫌じゃない…そうじゃないけれど…
「いつまでもじらさないでおくれよ。俺も気の長い方じゃないんだ。ねえ、いいだろう?」
 リンの唇が、おれの耳の後ろから首筋を伝わっていくのがわかる。
 ぞくりとする。
 リンはおれの感じる場所を知り尽くしているのかもしれない。
 抵抗なんてひとつも出来ない。

 カチャリと音がして朦朧となりかけたおれの意識が引き戻された。
 下を向くと自分の足元がぼんやりと見える。気が付かないうちに眼鏡を取り外されたらしい。
 リンは全く躊躇いもせずに、ベルトを外した俺のズボンに中に手を滑り込ませ、下着の上からではなく、直接おれのものに触り始めた。
 「あ…」
 おれは息を飲み込んだ。そして急いで右左と辺りを見渡した。勿論裸眼で0,1もない視力では誰かが居たとしても、はっきりと見えるわけではない。
 だけど、まだ宵の口で、しかも外からでも見ようと思えば丸見えの温室の中だ。
 リンは本気でこんなところでおれを抱こうとしているんだろうか…
 それともこれくらいで動揺するおれの方が、ガキなのか…

 おれはリンの恋人で、俺はリンを好きで、リンは俺を好きで…お互いに欲しいと思っていて…セックスしたいと望んでいて…それから…
 おれは居たたまれず、目を強く閉じた。
 
 リンの触り方は巧みだった。おれが自分でするよりも遥かに要領を得、快感を与えてくれる。
 だけどおれはそれが怖かった。
 リンに一方的に与えられ、翻弄されまくっている自分は嫌だ。

 セックスってそういうものなのか?
 おれがまだ何も知らないガキだとしても、おまえに抱かれる側であっても、こんなに惨めな気分でおまえに好きなようにいかされて…
 リン、おれはおまえと分かち合いたいんだよ。互いの気持ちを確認しあって、見つめ合って、ゆっくりとひとつずつ繋ぎ合わせて、快楽に委ね、与え合い、一緒に辿り着く。
 おれはおまえとそういう風に抱き合いたいと思っている。
 それはくだらない勝手な妄想でしかないのか?

「うっ…っ…」
 おれはいつの間にか泣いていた。
 自分の嗚咽に自分で驚いたが、止まらなかった。
 両手で顔を覆い、「無理だよ」と、しゃくりあげながら掠れた声をだした。
 リンは動きを止め、きつく抱きしめていた片方の手の力を弛めた。
 力の抜けたおれはその場にしゃがみこみ、泣き続けた。

「ミナ…ごめん。ごめんな。そんなに嫌がるなんて…思わなかった…」
 リンの心配そうな声が、おれの胸を更に締め付けた。
「もうしないから…泣かないで…」
 頭を撫でてくれるリンの優しさが、酷く無神経に思えた。

 …ちがう、宿禰が悪いんじゃない。おれがバカみたいに夢を見ていたのがいけなかったんだ。
 おまえが欲しいのにおまえにやる勇気もない…
 おれは…なにも、おまえに応える事なんかできやしない、くだらない男なんだ。

 おれは机に置いてあった眼鏡とカバンを持つと、宿禰の姿を一瞥もすることもなく、逃げるように温室から走り去った。








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闇の公子 - 2009.09.25 Fri

azu1

私の思い描くアズュラーンそのものだと言っていい出来です。

お顔どうぞ~

azu2





水川青弥 「引力」 11 - 2009.09.25 Fri

11、
 3月14日が三日後に迫った。その日は土曜日、しかも年度末の終業式でもある。
 その終業式が終わった後、宿禰とどこかで…具体的なことはさっぱりだが、リンとそういうことが出来たらいいなあとおれは漠然と考えていた。
 だがそれを宿禰にどういう風に告白していいのかわからない。
 リンはまさかおれが自分からセックスしてくれと求愛するとは、夢にも思っていないだろう。
 おれの誕生日が三日後だということさえ告げてはいないのだ。
 誕生日にセックスを求める事自体が、相当ナンセンスな恥知らずなことなんだろうか…全くもっておれにはわからないことだらけだ。こうなると知っていたならもっとこの方面に対して勉強しておきゃ良かったと今更嘆いてみても、後悔先に立たず。

 おれがこんな妄想を延々していることなど知った事じゃないであろう当の本人は、いつものように温室で植物のデッサンをするおれの傍らで、黙々と本を読んでいる。
 おれは手を休めて宿禰の様子を伺った。
 おれのことなど気にも留めず、集中したまま本の文字を追っているリンの横顔をじっと見つめた。

 喋っている時はころころと表情を変えるリンだが、口を閉じた穏やかな容貌は、なんというか…見事なまでに整った造形で出来上がっていて、日本人の顔つきではあるけれど、まるでそういうジャンルを飛び越えた人種なのかもしれないと、おれは変に感心した。
 どういう容姿の両親だったらこういう人間が生まれるんだろう。
 彼には兄姉がいると言っていたが、生きていたらお姉さんはかなりの美人だったろうなあとか、9つ上のお兄さんは今は25、6なんだから、宿禰とは違ってもっと大人でハンサムなんだろう…など、どうでもいいことまで想像を巡らしてみたりする。
 そもそもそういう他人に興味を持つ事自体おれには珍しいことなのに、その家族にまで枠を広げて催すなど、以ての外だ。
 自分自身に呆れるのはもう慣れたが、こうなると、頭のどこかのネジが緩むどころか、外れてしまっているに違いなかろう。

「リン、何の本読んでいるの?」
 あまりに集中しているリンを振り向かせたくなり、おれはとうとう声をかけた。
 リンはえ?と言う顔をしておれを振り返ってくれた。
「ああ、これ?色彩心理学」
「…」
 相変わらず、雑学の幅広さも甚だしい。この間は「古代国家の帝王学」なるものを読んでいた。
 おれにはピンと来ない範囲だ。
「おもしろい?」
「うん、面白いよ。簡単に言うと、人間は色を見ることによって、心理的にいかようにも影響を受ける。まあ、主観的な見方もあるけど、空が青けりゃ気持ちが晴れ晴れとなるし、曇天の日には、空気が重く感じ、気持ちも沈んでしまう…だろ?」
「うん」
「人間にも色がある。これはもう客観的な見方でしかなくなるに違いないけれど、人はその人格を色で区別したがる」
「ああ、それならなんとなくわかる気がする」
 おれはスケッチブックを片付けて、リンの隣に座った。

「おれが思うにリンのイメージは金色だ。だけど、容姿から判断するならば、色は紫が似合う気がするんだ。これはどういう意味があるのかな?」
「金は王者、紫は高貴。どっちにしても偉ぶってるね~まあ、孤立無援という意味合いでは合っているのか?」
「リンは優美なんだよ。おれ、リンの綺麗さって外見からじゃなくて、おまえの魂が綺麗なんだと思う」
「…」
 リンは驚いた風に目をぱちくりさせて首を捻る。
「ミナから褒められると…なんか、不安になってくる」
「…なんでだよ!」
 おれの文句も聞かず、リンは座ったままおれの身体を後ろ向きにして自分の足の間に挟み、背中をそっと抱いた。
「ミナは青って感じだな。青弥だしな。青の持つ意味って知ってる?」
 おれの頬を撫で、リンの口唇がおれの耳元に触れる。
「…知らない」
 少しだけ上ずったおれの声が変に聞こえ、おれは恥ずかしくて熱くなる。

「水…水川の水でもあるね。知性、冷静、悠久、未来…憂鬱…」
「…」
 そう言いながらリンはおれのシャツに手を差し入れ、甘い声音で耳元に囁く。
「近頃のミナはなんだか憂鬱そうに見えるけれど…何か俺に言いたいことでもあるの?」
「…」
おれは俯き、身を縮めた。

 リンは知っている。
 おれの憂鬱を。
 おれの欲望を。
 おれはこのまま、リンに身を任せるべきなのか、
 それとも折角立てた計画を、今ここでリンに話すべきなのか、
 頭の中でこんがらがってしまう…







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ユーリとエルミザードの紹介絵 - 2009.09.22 Tue

休み中は物語が書けないので、キャラ紹介でも…

これは学院の生徒名簿のフォト。

youri
ユーリ・ラダ・サラディス
好きな奴にはおせっかい、世話好き。
人間好きだが、目つきが悪いため、子供に泣かれたトラウマで子供嫌いになる。


erumi
エルミザード・アール
人見知りだが、懐くとやたらさわりたがり、甘えたがる。
基本、ひとりが好き。

順に他の生徒も描こう~


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green house ~ 水川青弥 「引力」 10 - 2009.09.18 Fri

10、
 朝、起きると目の前に誰かの影。
「リン…」と呟くと「ミナ、愛してるよ」と、応えた。
「うん、おれ…も…?…!」
なにかおかしいと思い、目を擦って覆いかぶさっている者を見る。
「ね、根本先輩っ!」
叫びながら、起き上がった。
「何しているんですかっ!」
「みなっちの身体から、あま~い匂いが立ち込めてるからさあ、ちょっと嗅いでみたくなったの」
「…だからって…」
「君、昨晩は夕食も取らずに、ケーキワンホールを丸ごと食べてたよね」
「それが何か?」
「いくらバレンタインで貰ったからってさあ、あんな大きなケーキ独り占めすることないじゃない。一口ぐらい僕に分けてくれてもいいだろうに」
「先輩、甘いもの嫌いじゃないですか」
 この人は見かけの割りに辛党だ。うわばみだって聞いている。昨日のバレンタインもお酒関係の贈り物が多かった。

「他でもないリン君の手作りケーキだろう?ネタ的にも食べて損はなかったよね」
「ネタにしないで下さい。それにリンはおれにくれたんだ。他の人に食わせるわけにはいかないでしょう」
「わあ、なんと言う独占欲っ!まだ寝てもいないくせに大口叩くねえ~」
「な、なんで…」
先輩の言葉におれは手にした眼鏡を取り落としそうになる。
「わかるかって?僕はみなっちを毎日見ているんだよ。初体験をしたかしないかぐらい、判らいでか」
「…」
 そ、そういうもんなのか…?
 かわいい顔して恐ろしい人だ。
 とにかくこの人に対しての言動には余程の注意が必要だ。
 したらしたでこの人にバレたら…またなんかネタにされそうだ。

「しかし…宿禰も辛抱強いね。まだ手を出していないなんてさ。みなっちの知らないところで浮気でもしているんじゃないの?」
「リンはそんな奴じゃない」
「バカだなあ。あの宿禰凛一だよ。みなっちは何も知らないだろうけど、彼は有名人のひとりだよ。ある一部の特定の場所ではあるけれど…」
「噂は信じない」
「火種がなけりゃ煙は立たない。少なくとも宿禰は経験豊富だってことだよ。だからって軽蔑するのはナンセンス。逆に安心じゃん。みなっちは何も知らないお姫様なんだから、宿禰のいうとおりにしてりゃいいんだもん」
「そういうの、余計なお世話って言いませんか?おれ…達は真剣に付き合っているんだ。そんな…」
 言葉が濁るのはおれに引け目があるからだ。真剣に付き合えば、身体を重ねるのは当たり前。それが出来ていない俺たちは、逆に考えれば、真剣に付き合っているとは言えないのかもしれない。

「…水川はさ、どんだけセックスに夢見てるのさ。それとも悪夢でも描いているわけ?セックスってただのコミュニケーションだよ。だけど、その行為にはお互いの愛情があるかどうかで、感じ方が違うって事。水川が宿禰にしてあげたい事は何なのかを考えれば、答えはでるよね」
「…」
「まあ、下の経験なら宿禰には負けないであろう僕からのプレゼントをあげるよ」
 先輩は机の引き出しからなにやら箱のようなものを出すと、おれのベッドに投げ込んだ。
「性病の対策は万全にしておくといいね。じゃあ、僕は朝の週番だから、先に学校に行くね」と、部屋から出て行った。
 おれはほうリ投げられたスキンの箱を恐る恐る手に取り、その使用法を真剣に読み始めた。

 三学期の後半は模擬試験、学年末試験で、温室には寄り付く暇など無い。
 自動的におれは宿禰と顔を合わせる回数が減る。
 廊下で出会っても、宿禰はおれに対して特別な対応をしてくるわけでもない。
 彼は友人たちも多く、いつも回りはにぎやかしく華やいだ空気だ。
 彼は輝いている。その光で、回りの者まで輝かせている。
 とっつきにくいといわれるおれとは雲泥の差だ。
 おれは、親友と呼べる友達も居ず、昼休みもひとりで教室で自習か図書館通いだ。別に慣れているからなんとも思わない…

 放課後、レポートのやり直しの提出に理科準備室にいる藤内先生に会いに行く。
 レポートを出し退出しようとするおれを先生は呼びとめ、コーヒーを付き合わされた。
 藤内先生とはおれはウマが合う。何の気兼ねもいらない。
 泣いてたところを見られた所為か、あれ以来益々身近に感じている。

「水川のレポートは相変わらず完璧だね。他の連中にもう少し君を見習うように言った方がいいのかもなあ~」 
「嫌味になるからやめてください。おれは好きでやっているんですよ」
「まあ、勉強は完璧を求めるのはいいが、人生に完璧なんてもんはない。反省も後悔もしてもいい。だが何もしないなんてつまらない。せっかく親元を離れて楽園に来ているんだから、水川は勉強以外も学んだ方がいいのかもなあ。その方が人間に味が出る」
「味は必要なんですか?」
「調味料って意味じゃなく、深みって事かな。浸透圧って知っているだろう。片方に圧をかけると、ふたつは混ざらない。混ぜあわせて平衡状態にするには、自分の圧力を取り除かなきゃならない」
「…そうですね」
 藤内先生の話が、おれの何に対して言っているのかは知らないが、おれの頭の中は、宿禰と交じり合っている様しか思い浮かべられない。





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ミナの目覚め近し…
何の話を延々としているんだ~(;´∀`)
いやもうすぐだから…ww



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green house ~ 水川青弥 「引力」 9 - 2009.09.16 Wed

9.
 三学期はあっという間に過ぎていく。
 おれ達は相変わらず温室で二人の時間を楽しんだ。
 日が暮れるのはまだ早かったが、リンが持っていたアロマキャンドルのおかげで、冬の色気の無い温室が華やかになる。

「これローズマリーだって。やっぱり本物の方が、やわらかい匂いだなあ」
「昔はローズマリーってバラの種類だって思っていた」
「まあ、そう思うよね。S&Gの『スカボロフェア』の歌詞にParsley,sage,rosemary and thyme,ってあるだろ?あれで覚えたんだ。古歌好きの姉貴がよく歌っていたんでね」
 リンはおれの知らない色んなことを知っている。おれはいつも教えられてばかりだ。
 リンはすべてに対して豊かだ。おれはリンに何がしかの感性を与えられているのだろうか。
 絵を描くことしか取り得の無いおれに…

 リンは薄暗い中で、デッサンをする俺のスケッチブックを取り上げて、それを眺める。
「相変わらず、色彩豊かな絵だなあ~鉛筆描きなのに色が見える。俺のやった色鉛筆は出番無しだな」
「違うよ。あれは大事なもので…減らすの勿体ないんだよ」
「バカ、減ったら今度は俺が買ってやるよ。ミナの為ならバイトをしてでも貢いでやるから」
「そんなの…しなくていいよ」
 冗談でもおれの為にと言う…そういうリンが堪らなく好きだ。
 両親とは違う。追い詰める愛情ではない。
 おれを上昇させてくれる愛だ。

 二月に入ってもおれ達の関係は崩れない。
 言い方を変えれば、キス以上の発展はない。
 前にも後ろにも進まない今の関係が良い訳が無い。
 おれが悪いんだ。 
 リンは何度かおれをそういう行為に誘ったりしている。
 おれが嫌がる素振りを見せると、リンは無理強いしない。
 それはそれで、それ以上おれを求めていないんじゃないかと、別な不安を感じたりする。
 勝手な言い草だ。自分でも呆れる。
 
 冬の寒さの中でも温室は暖房を入れなくても暖かくて、のんびり硝子越しの外の景色をスケッチしていると、リンがやって来る。
 おれはリンの両手に抱えているものに視線をやった。
 片方はいつものカバンだが、もう片方はやけにでかい手提げの袋だ。
「なんか、美術の工作?」
「いや、今日はバレンタインだろ?チョコケーキ作ってきた」
「え?」
 バレンタイン?…そんなのすっかり忘れていた…そういや根元先輩がプレゼントどうのこうのって言ってた気が…

「ミナの為に作ったの。初めてだから手間取ったけど、匂いは美味そうだから、大丈夫だろう」
「…ええっ!お、おれのため?リンが作った…の?…うそ…」
「…そんなに驚くなよ。変なもん入ってないから」
「そうじゃなくて…おまえ、ケーキなんて作れるの?」
「ママさんがお菓子作りが得意でさ。レシピ置いていったの。簡単に作れるからやってみろって。で、まあ、いい機会だから…え?チョコケーキ嫌いだっだ?」
 おれは顔を横にぶんぶん振った。
 自分がケーキを作るなんて、思ったこともない…から、リンが作れるのがすごいって単純に驚いた事と、おれのために作ってくれたなんて…感動しないわけがなかろう。
「箱は適当に、お菓子の空き箱に入れてきたんだけど…崩れていないといいんだけど」
と、リンはおれは目の前に箱を置き、そっと蓋を開けた。
 チョコレートの甘い匂いが温室に広がった。

「良かった。崩れていないや」
「…リン、すごい…美味しそうだよ」
「食べてみてよ」
「え?」
「いや、味見してないから、ミナ食べてよ」
「…もったいないよ。それにナイフかフォーク…」
「…そんなのないよ」
「…」
「手で食べればいいじゃん」
「いやだよ」
「なんで」
「折角綺麗なケーキを手で崩したくない」
「…あ、そう。じゃあ、持って帰って食えば」
「…そうする」
 俺は蓋をして、崩れないようにケーキを平らな机に置いた。
 リンはこわばった顔でそれを見てる。

「ああ、ゴメン。おれ、リンにチョコ用意していない」
「え?…ああ、いいよ。正直チョコはもういい」と、リンは袋の中を俺に見せた。
 数え切れないほどのリボンのついた包みがあった。
「それ、今日貰ったの?全部うちの学生?」 
 だったら、この学校はまともじゃない。
「いや、朝、学校に来る途中で、女学生5,6人からも頂いた。全く見ず知らずの人なので驚いたけど。靴箱開けりゃ落ちてくるし部活に行きゃ、先輩方から嫌味なのかどうだか知らないが、迷惑なほどくれるしさあ…手作りケーキも食ったよ。正直もう俺、プレゼントいらんわ」
「…ですか」

 聞いてて気持ちがいいわけが無い。これが嫉妬ってやつなのか…
 恋人が出来ると色々とうらめしいな。
 まあ、リンは中身は置いといて見かけはめちゃくちゃいいから、これくらいは仕方ないことだと割り切り、大きい気持ちでいないと身が持たないぞ…

「でもミナからはもらいたかったかな」
 リンからの催促は最もな話だが…
「悪い。来年は忘れないから。その代わりホワイトデーには奮発す…あっ!!」と、小さく叫んで気が付いた。
 ホワイトデー即ち3月14日は俺の誕生日だった。
 たぶんリンは知らない。
 その証拠に呆けた顔をしたまま、突っ込まない。

 いい事を思いついた。

 おれは決めた。
 その日、おれのすべてをリンにあげることに。






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8へ /10へ


ここの重点…「ミナ、おまえそのケーキ、ひとりでワンホール食うのかよ~俺にも味見させろよっ!」と、心の中でぼやく凛。
そしてミナは寮でひとりで食ったのだった。夕飯食べずに…www
私の書くミナはどうも…おばかさんっぽい(;・∀・)




ユーリとエルミザード  「黎明」 6 - 2009.09.14 Mon

6.
 次の朝、ふたりは最後の食事を取った。
 向かい合わせに座るライラスは、送り出す期待と幾ばくかの寂寥を漂わせて作った手料理を美味しそうに食べるエルミザードを見つめ続けた。
 時折、口元を綻ばせたり、への字にしたり、尖らせたりと、エルミザードの表情は豊かだ。
 ライラスはそれをいちいち確かめ、嬉しそうに微笑し、彼のコップにお茶を注いだ。
「昼前までに村に行けばいいんだね」
「そうなの。ユーリから手紙をもらった」
 ユーリの馬車が村まで迎えに来る手筈だ。
 ユーリの街からこのエヤまではイルミナスに行くには遠回りになるが、ユーリは世情に疎いエルミザードを心配して、一緒に行くことを申し出てくれたのだ。
「ユーリはライラス以上に心配性みたいだ」
 エルミザードは少し口唇を尖らせてみせた。
「エルミザードはおっちょこちょいなところがあるから、ユーリみたいなしっかり者がついていると安心だ」
「…」
「それと、エルミは少々人が良すぎるのも心配だ。おまえみたいに世間知らずな子を騙す輩はどこにでもいるから、変な奴に着いていったら駄目だよ。食べ物にも注意して。イルミナスは珍しい食べ物も豊富だが、口に合わないものは決して食べない事。それから、勉強だけじゃなく、身体も動かしなさい。いたずらは限度を知る事。何かあったらヴァレリアウスを頼りなさい、いいね」
「ライラス…前言撤回するよ。おもいっきり親バカだ」
 エルミザードはクスクスと笑う。
「そうだね。しかたがないと思ってくれていいよ。
…近頃良く、おまえがヴァレリアウスに連れられてここに来た時の事を思い出すよ。
6つにしては小さくて弱々しくて…正直やっかいな者を押し付けてくれるヴァルを恨んだもんだ」
「そうなの?」
「王宮からも暇払いをお願いして、やっとひとりで気ままな畑仕事をして楽しんでいた頃だったよ。ヴァレリアウスはおまえを置いてさっさと帰ってしまうし、おまえは何も喋らない。何の感情も顔に出さないし、何もしようとしないし…どうしていいのか私もお手上げだった」
「僕、よく覚えていない」
「エルミの意識がまだ混迷していたんだろうね。ここへ来てからもひと月半経っても一言も話してはくれなかった。私もどうしていいのかわからず、もう投げ出したかったさ。だが、ある時、楠の木の巣から落ちて死んでしまった椋鳥の雛を胸に抱いたまま、おまえは泣いていたんだ。ずっと…呆れるほど泣き続けていた…それを見て、私は決心した。私の持てるすべての愛情でこの子を育てていこうと…」
「ライラス…」
 エルミザードは立ち上がり、ライラスの背中から腕を回して、見られないように泣いた。
「ありがとう、仕方のない僕を受け止めてくれて…ライラスがいなかったら、僕は…こんなに幸せを感じる人間ではいられなかった。ありがとう…」
「おまえがいなくなると寂しくなるが、これからは帰ってくるたびに成長するおまえの姿を楽しみにしよう。…いつでもここで待っているからね」
「うん…手紙を書くよ」
「ああ、楽しみにしている」
「毎日書く」
「それは止めといた方がいい。学院の勉強は至極大変なものだ。手紙を毎日書く暇なんか無いと思っていい。一番にならなくてもいいが、エルミには十分期待しているよ」
「あなたの弟子として恥ずかしくない生徒になります」
「おまえは弟子なんかじゃない。私の息子だよ、エルミザード」
 ライラスの言葉にエルミザードはまた泣いてしまう。
 きっとユーリは目を腫らした自分を笑うだろうと、思った。






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王立学院の簡単なキャラ紹介です。

世界は一緒。地上とは違った魔界のお話、「彼方の海にて…」はこちらから。
プロローグ

なんとなくだが、ここは大事な気がしてしっかり書いておきたい部分だった。
エルミザードとライラスの関係は後々、引き継がれる気がする。それとライラスとヴァレリアウスの違いを見せておかないといけない気がした。
ヴァレリアウスは正直エルミザードやユーリばかりに構っている暇はない人だからね。





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4コマ漫画 - 2009.09.14 Mon

なかなか更新できませんですんません。
色々忙しいもので…
来週は連休なので、それまでにはユーリたちを入学させてあげたいのですが…(;´∀`)



          ye6


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green house ~ 水川青弥 「引力」 8 - 2009.09.11 Fri

8、
 次の日、おれは世田谷の実家に帰った。
 5年前、狭いながらも庭付き一軒家を買った我が家は、30年ローンを返す為、メーカー企業の技術屋として必死で働く親父と、2年程前、医療事務の資格を取ったという母親が近くの病院でパートとして働いている。
 久しぶりのひとり息子の帰郷に、両親は大歓迎で迎えてくれるが、それこそおれには心重たく、クリスマスなのに何故にすき焼き…と思いつつ、食卓に付く。
「このお肉百グラム千円もしたのよ~」と、声を上げながら、母親は嬉しそうにおれの取り皿に、その高級な肉を分けてくれる。取り皿が肉で溢れている…
 父親は発泡酒を飲みながら、満足そうにおれを見て笑っている。
 …いい人たち過ぎて逆らえないんだが、ヨハネ学院を受験すると決めた時はさすがに猛反対にあいまくった。二日間ほどプチ家出までしたおかげで、なんとか許してもらえたけど、おれが寮にいることも未だに不本意らしい。
「お父さん、青弥は期末も学年一位だったのよね~すごいわ」
「じゃあ、将来は学者か医者だな。政治家になるには金がないから無理だが、官僚っていう手もあるぞ。どっちにしてもT大は、間違いなさそうだな」
「…そんなの勝手に決めないでよ。おれ、まだなんにも決めてないし、大学だっておれが行きたいところに行くから」
「それはいいが…私立に行かせる余裕はないから、絶対国立だぞ」
「…」
 こう言われると、絶対にT大に行ってやるものか!と、思うわけだ。
「言われなくても青弥は、ちゃんと考えているわよね~」と、母親はまだ残っているおれの皿にまた肉を置く。

 二階の自室に戻ってやっと一息ついた。
 すき焼きの後、クリスマスケーキの登場でおれはもう吐きそうになるくらい満腹だ。
 苦しさのあまりベッドに寝転んだ。腹だけじゃなく精神的にも満腹すぎて苦しい。
 親の愛情とはああいうものなのか?それとも将来に対する子供への投資なのか?

 俺はそういう現実から逃げ出したくて、目を瞑り、ひたすらにリンを思った。
 何をしているのだろうか。声が聞きたい。
 今日はアメリカからリンのお兄さんが帰ってくると言ってた。
 リンのお兄さんって、かっこいいんだろうなあ~
 おれも兄弟が欲しかったかな…などと考えていたら、いつのまにか眠ってしまった。

  目を開けたら、夜中の一時。
  しまった、リンに電話をかけ損ねた。
 どうしよう、もう今からじゃ遅すぎるよなあ…いくらなんでも午前一時だ。

 携帯を持ったまま、じっと液晶画面を見つめた。
 すると突然画面が光り、呼び出し音が鳴り始める。画面の文字に恋人の名前がある。
 おれは急いで通話ボタンを押す。
『わ、取るのはや~』と、リンの笑う声。
 格好つかないおれはつい天邪鬼を披露する。
「たまたま…携帯を見てただけだよ。別にリンからの電話を待ってたわけじゃない」
『ふ~ん、じゃあ切ろうか』いやらしそうに言うリンの勝ち誇った顔が浮かぶ。
 おれは無言のまま向こうの出方を見る。
『ミナの頑固さに免じて俺の負けにしといてやるからさあ。今何してるの?』
「え…勉強」してないけど。
『おまえクリスマスの時ぐらい頭休めろ。ますます目が悪くなるからな』
「もう遅いって。それよりリンは何してるの?お兄さんが帰っているんだろう?」
『うん、空港まで向かえに行ったんだけど、飛行機が遅れてさあ。そのまま新橋の○○ホテルに泊まることになったの。しかもクリスマスで満員、スイートがひとつだけ開いてたんでそこに泊まることになったんだよ。なんで兄貴とスイートなんぞに泊まらなきゃなんねえわけ?ミナとならだけどさあ…』
「バカ、おまえとスイートなんか泊まんないよ。高校生のくせにそんな高いホテルなんか…」
 スイートどころかそんな高いホテルに泊まったことなんかない。やっぱりリンは一般人のおれとは違うんだろうか。
『そんなことより、おまえ正月どうするの?』
「正月?別になにもしないけど、リンは?」
『俺は、家族と…父さんと新しいかあさんね、の四人で箱根温泉でお正月を楽しむんだって。無理矢理だよ?こっちの意見なんかねえの。いきなり親父から連絡来てさ。家族水入らずで箱根で正月~だもんなあ。しょうがなく付き合ってやんの』
 …うらやましい…そんな正月してみたい。と、正直に言っても物欲しそうに見えるから、良かったねと軽く相槌を打つ。

『いつ寮に帰るの?』と、聞かれ「五日には戻れる」と言うと
『じゃあ六日は一緒に初詣に行こう、いいね』と、言われ、有頂天になった。
 後はなんか訳のわからないことばかりで、自分でも呆れてしまったが、電話を切ってしまった後は、リンと一緒に初詣することを思うだけで胸が一杯になり、中々寝付けなかった。

 新年になり、もう少しと引き止める親の言うことも聞かず、五日になると早々に寮に帰った。
 やっぱりここはおれにとっての楽園だ。
 少々意地悪な先輩がいてもだ。
 根本先輩が持ってきたお土産のお菓子を食べながら、明日の事を言うと、「じゃあ、せっかくだから一発目は青姦でやれば?」と、言われ、何の事か全くわからず、翌日、その意味をリンに聞いたら大爆笑された。
 意味を知って顔を真っ赤にしたおれをリンは抱き寄せ「さすがに冬に外ではやんないよ。ミナが風邪引きそうだもん」と言う。
 そういう問題じゃないだろうと、眼鏡越しに睨んだが、リンはお構いなしにおれの頬にキスをした。
 …もういいよ。これくらいは…と、諦めた。

 八幡神社はさすがに人の山だった。
 やっとの事でお参りを済ませ、おみくじを引いたら、リンは大吉でおれは小吉だった。
 少し拗ねると、リンは「じゃあ、ふたつを合わせて割り勘にしよう。そしたら、中吉になる」と、笑い、ふたつのおみくじを重ねて折り、神社の木に括りつけた。
「ほら、これでミナと俺は今年も仲良くできるというわけだ」と、振り返るリンがどうしようもなくいとおしい。
 こんな少女めいたことをされてもちっともシラ気ないなんて…いや、めちゃくちゃ嬉しくてたまらない。
 それなのに不誠実なおれは、お礼も言えずにただ俯くだけだった。
 だって、顔がにやけるのをリンに見られたくなかったんだ。




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ユーリとエルミザード  「黎明」 5 - 2009.09.10 Thu

5、
 いよいよエルミザードが、王立学院の試験を受けるために、ライラスの邸から旅立つ日が明日と迫った。
 寝付かれずに部屋の窓から星空を覗いていると、ノックをする音が聞こえ、ランプを灯したライラスが部屋に入ってきた。
「どうした?寝付かれないのか?」
「うん、だって…もし試験に受かったら、ここへは暫くもどってこれないんでしょう?」
「そうだよ。合格したらそのまま学院の寮に直行だ。勉強に必要なものは向こうがすべて用意してくれるから、荷物はそんなにいらないよ」
「うん…」
ベッドにうな垂れて座るエルミザードの隣に座り込むと、ライラスはエルミザードの顔を覗き込んだ。
「どうした?」
「僕が行ってしまったら、ライラスはひとりぼっちになっちゃうじゃない。寂しくないの?」
「…さみしいに決まってる。エルミは私の息子みたいなものだからなあ。でも子供はいつか親元から旅立たなきゃいけないものだ」
「もう少し、ライラスの傍にいたいよ…」
 エルミザードの涙ぐむ頭を引き寄せながら、ライラスは背中を撫でた。

「エルミザード、眠れないのなら、私の昔話でも聞くかい?」
「うん」
「私は昔、前皇帝の御世に大勢の宮廷魔道士の一人として仕えていたよ。王立学院で教えてもいた。丁度今のヴァレリアウスのようにね。実は学院の教授というのは、他に比べようもなく素晴らしい仕事なんだ。自分の知識を未来ある生徒らに伝授できる喜びはひとしおだよ。楽しいしやりがいもあった。でも、そうだね…魔術というのはとても難しい学問でもあるんだ。多様な方面への取り組み方、また個人に備わる個人差が激しい。5年間のうち卒業できるのは入学時のだいたい半分ってところだ。途中でやめていった子はどうしただろうと…思い悩む事も多い。けれど、魔法を扱うには相当の精神力と自覚、責任を伴う。十分な修練が必要なんだ。中途半端に魔法を扱うと身を滅ぼしかねない」
「ライラス…僕は…僕にそれができる?とても自信がない…」
「エルミの父親が魔族だからかい?」
 エルミザードは黙ったまま頷いた。
「魔族を見たことは?」
 今度は首を横に振る。
「私は何度かあるんだよ」
「本当に?」
 エルミザードは顔を上げて、ライラスを見つめた。その目に僅かな怯えと、多くの好奇の輝きがあるのを見とめ、ライラスは満足気に頷いた。

「一番強烈に残っているのは…そうだね。もう随分昔の話だ」
 ライラスは何かを思い出すように目を閉じると、少し眉を顰めながら、話を続けた。
「若いまだ見習いの魔術師が、国の外れにあった決して破ってはならぬ封印の扉を好奇心で勝手に開けてしまった。そこから魔界の魔物や、こちらからも色々な妖魔が横行してね。痺れを切らしたのか魔族の長自らそれを制した。…その魔族は私の目の前で見習いの魔術師達を殺した。彼らは私の教え子だったんだ。封印を破った罪は確かにあるだろうが、まだ幼かったのだ。魔法を使う意味や真の恐ろしさを理解していなかった。私は許しを請うたが、彼は許さなかった。刹那に彼らは砕け散った…私も…右腕を焼かれたよ」
 ライラスの右腕は義手だが、魔道技術のおかげで傍目にはまるでわからない。本人も別段不自由はしていない。
 エルミザードは泣きそうに見つめながら、ライラスの膝に手を置いた。
「ライラスは魔族を…そいつを憎んでいるの?」
ライラスは義手をさすりながら、再び口を開いた。
「それが不思議と憎く思えなかった。元はといえば、人間側に咎がある。彼は…地上との取り決めを正しく守ろうとする魔族だった。だから長を務めていたんだろうが…
エイクアルドは天上の神々との古き契約の元に強力な恩恵をもたらされている国だ。だから魔族は我々の土地を簡単には攻めて来ない。だが、その時は魔族の長は私にこう言った。『もしそちらが取り決めを不義にするのなら、たとえ神々が相手だろうと、我々は容赦はしない。よく覚えておくのだな』」
「そんな恐ろしい事…神々を相手にするだなんて…魔族だって神には勝てないのでしょう?」
「さあ?私にはわからんよ。でもね、エルミザード。その魔族を…当然恐ろしくも思ったが、それ以上に惹かれてしまったのだよ」
「…なぜ?」
「…そうだね。一言でいうなら…彼は美しかった、比類なき王者のように…あれほどに妖艶に、そして生に輝く者に出会ったことがないと、言ってもよいだろうね」
「真(まこと)の美を集めたアムト神よりも?」
「それは人間が絵に描いた女神像だよ。誰も本当の神々を見たわけではないだろう?…私はこれでも現実主義なのさ。この目で見たものしか信じない」
そうは言っても、ライラスが神々を罵るような言葉は一度だって聞いた事はない。
エルミザード自身は、誰もが持つように神々12神への崇拝は十分にある。だからライラスの言葉に驚いてしまった。
「ライラスの言い方じゃ…神々よりも魔族を贔屓しているみたいじゃない」
「贔屓じゃない。見たままのことを言っている」
「魔族なのに?」
「エルミザード。一般に言われる魔族は醜悪な者という俗説は捨てなさい。魔族の者達は総じてとても美しいのだ。人間の何倍も長く生き、強い魔力を持つ。その魔力で、自分の一番誇れる姿を保つと言われている。それは本当さ。だから、エルミの父親もきっと美しい魔族のひとりだと思う」
「そんなの関係ないよ。僕は…僕の血が魔族であることに、簡単に人を殺せるような者の仲間であることに変わりはしない」
「人間だって人殺しや戦争で沢山の命を滅ぼす。私利私欲のためか、誰かを守るためか、それは殺された者には関係ないのだからねえ。エルミがもし、魔族になっても、それはそれで何の罪もないと言う言う事。おまえ自身が自分に正しく生きれば、それは魔族でも人間でも関係ない。本当は、この国の掟におまえを縛り付けるのが正しい道なのか…甚だ疑問に思うことでもあるんだよ」
「何故?」
「神々が100パーセント正しいとは思えないからさ。彼らだって生きる者だ。私達人間と魔界の魔族となんの変わりがあろう。ただ持ち得たる力の有無だけだと思うのだ」
「…」
 ライラスの話は今まで読んだ膨大な本の中には描かれていないことばかりで、エルミザードは困惑した。
「どちらにしても、エルミは沢山学ばなければならない。自分の為、そしておまえを取り囲む大勢の…これから出会う人も含めだよ…その者達を守ろうと思う心こそが、おまえの糧となるだろうからね」
「これから出会う…」
「そうさ。素晴らしい友人や大人たちと沢山交わりなさい。そして夢を抱くといいよ。自分のなりたいものを探す。友人には博愛を与え、先生には敬愛を。恋人には、愛と信頼を…どうだい、気持ちが高揚するだろう?」
「ああ、本当に、なんだか夢みたいだ。…でも試験に落っこちたら元も子もないね」
「まず、落ちることはないさ。エルミは私の取っておきの生徒だ。だが、もし落ちても戻ってくればいい話。エルミの帰る家はここなのだから。…私はいつでもおまえを待っているからね」

 ふたりは暫く見つめ合い抱擁した。
 お互いの身体をしっかりと抱きしめ、ライラスはいとおしそうにエルミザードの髪を撫でた。
 ライラスの胸で大きなため息をしながら、エルミザードは未来への期待感と、明日来る別れの切なさに、胸が締めつけられるのだった。






王立学院の簡単なキャラ紹介です。

世界は一緒。地上とは違った魔界のお話、「彼方の海にて…」はこちらから。
プロローグ

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こういう無駄話が大好きなので…
勿論魔族の長とはリュウ・エリアードのことです。



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green house ~ 水川青弥 「引力」 7 - 2009.09.09 Wed

7、
寮祭が終わると、招待された寮生以外の生徒がぞろぞろと帰っていく。
宿禰も三上や先輩達に軽い挨拶まわりを終えると、おれに「またね」と、言い、靴を履いた。
おれはコートを羽織りながら玄関を出て行くリンの背中を見て、このままここで別れてしまうのが惜しくなり、リンを追いかけた。
「今日はおれが誘ったんだから、リンを家まで送る」と、言うとリンは嬉しそうに笑った。
「あげた手袋はしないのか?」と、聞いたら「代わりがある」と、おれの手を握った。
お互いの冷たい指の一本一本が握り合わさっていく。お互いの手の平があったかくなり、おれ達は顔を見合わせて微笑んだ。
なんだろう…こんなひとつひとつのリンとの繋がりが、とても大切な…たまらなくいとおしいものに感じてしまうなんて。
おれは本当にどうかしてしまったらしい。
自然に口元が緩んだまま、しまりがなくなっている。
バカみたいに幸せだ。

会話は自然とさっきのパーティの話となる。
寮祭の出し物で、くじを引いたものは紙に書かれていることをやらなくちゃならなくなり、宿禰と三年の美間坂先輩で、アルゼンチンタンゴを踊る羽目になったのだけど、即興といいながらも、ふたりとも見事に踊りこなして拍手喝采だった。まあ、最後に転んでリンの上に美間坂さんの身体が乗っかって、危うくキスする寸前になったのはサービスだろう。ふたりともエンターティナーだ。
一見仲が悪そうに見えたリンと美間坂さんだけど、先輩の恋人の桐生さんに言わせれば、「同類相求むだよ。美間坂は宿禰のことを相当気に入ってるよ」と、微笑んでいた。
美間坂さんと桐生さんは誰もがうらやむほどの絵になるカップルで、男同士の恋人といってもちっとも変に見えないし、あれだけ堂々としていると、偏見の目で見る方がやましい気になってくる。

「あの二人を見ていると、男同士の恋愛って成立するんだなあ~って、なんだか信じたくなる」と、言うと「ミナは俺と恋愛しているって思ってないの?」と、問われた。
「…リンのこと、好きだけど…」それに嘘はない。
だけど「やっぱり、このまま行っていいのかなあって…」と、口ごもってしまった。
おれがなんのことを言っているのか、多分リンはわかっている。
おれは、リンと身体を繋ぐことが怖いんだ。
過去のまずい経験からも、男同士だからって事にしても、おれはセックスに対して臆病どころか、怖気づいてしまっている。
リンはうっすらとは気づいているんだろう。
今までだって無理強いはしていないし、おれを大事に扱ってくれている。だけど、普通の恋人だったら、お互いを欲しいと思うのは当たり前だし、身体を繋ぎたいって、求めるのは自然の成り行きだ。
リンがおれを強く求めたら、おれは抵抗しないだろう。
だけど、おれはそれをちゃんとリンに与えてあげれるのか。リンはおれに失望しないだろうか。
リンは経験に不安はないだろう。相当に遊んでいるとは、自分で言ってた。それを罵る気は無い。
だからこそ、リンとのセックスが上手くのかどうか…おれには自信なんてものはない。
それでもやっぱりおれだって、リンが欲しいと思う。

宿禰のマンションに着くと、お別れしなきゃならない。
リンは泊まるように誘ってくれたけど、まだその勇気も自信もないんだ。そのくせこのまま離れてしまうのが寂しくて堪らない…と思ったら、目頭が熱くなって、涙が込み上げてきた。
どうしようもない。
おれは弱虫だなあ…
リンはいつもの冗句でおれの涙を笑い飛ばしてくれたけど、おれは申し訳なくてたまらなかった。
なにひとつおまえの欲しがるものをあげられないなんて…

マンションのエントランス前で、寒いのも構わず、おれが帰るのをずっと見送ってくれるリンの姿が嬉しいのと寂しいのと情けない気持ちがごっちゃになって、おれは寮に帰り着くまで涙が止まらなくなった。

寮に帰り着いたおれは、部屋にいた根元先輩にリンとの事を散々からかわれた。
どこまで進んでいるのかをしつこく聞く先輩にしかたなく白状すると、呆れた顔で、「みなっちが宿禰とセックスしないって言うんなら、僕が先にいただいちゃうよ」と、言われ、本気で先輩を殴りたくなった。




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green house ~ 水川青弥 「引力」 6 - 2009.09.07 Mon

6、
 玄関の引き戸を開けた宿禰は俺が待ち構えているのを見て、驚いたように少し仰け反った。
が、すぐににっこりと微笑むと「ご招待ありがと、ミナ」と、胸に手を置き会釈する。
 普通の輩がやっても様にならないだろうに、リンがやると自然だ。全く嫌味がない。
 しかし…なんて奴だろう。
 黒のトレンチコートも中に見える臙脂のジャケットも光沢のある黒ズボンも、リンの為にあつらえたみたいに極まっている。
 思わず「モデルみたいだ。かっこいい」と呟くと、リンは苦笑する。
 その顔にぽーっとなる自分に呆れた。俺はなんて男に惚れているのだろう。
 同じ歳なのにこの貫禄と言うか…恋人としては相手がかっこいいのは喜ばしい事かもしれないが、同じ男としては…「自信喪失だ」と、愚痴ると、リンは鼻で笑い「ミテクレだけ見て無くすような自信は、初めから無い方がマシだね」と、言う。
「…」
 そりゃそうだがね。それは、自信のある奴の驕りで、おれみたいな世間一般の男子には、おまえはすべてにおいて、癪に障る奴なんだよ。
 多分全くわかっていないだろうけど…

 荷物を置きに俺の部屋へ案内した。
 部屋に入りふたりきりになると、リンはおれにクリスマスのプレゼントをくれた。
 スワンスタビロの水彩色鉛筆だ。リンの亡くなったお姉さんのものらしい。
 そんな大事なものを、と思うが、使ってくれたら嬉しいと言われ、ありがたくいただく事にした。
 実は結構欲しかった画材で、値段的に躊躇していたので、とても嬉しかった。と、いうよりおれの欲しかったものが何故わかったんだろうという疑問と、別な心配のために、喜びの表現としてはかなり乏しいものになったことは否めまい。

 心配は…リンへのプレゼントだった。
 正直なにも考えていないわけではない。と、いうかめちゃくちゃ考えて考えて…考えた末に買った物は、あまりにもスタンダードな「毛糸の手袋」という代物で、おれは自分のセンスの無さにリンにあげるのが恥ずかしくなってしまったのだ。
 しかも、リンからはこの上ないプレゼントを貰ったにも関わらずだ。
 …出そうか出すまいか迷った挙句、恋人からのお返しが何も無いではあんまりだと思い、俺はリンの目の前にリボンがけの袋を差し出した。
 バカにされるのも覚悟しつつ渡したら、リンは思いもよらぬほどに喜んでくれた。
 おれはあまりにも嬉しくて、リンのキスの催促に、自分からしたいと申し出た程だ。
 正直おれは自分からリンにキスをしたり、求めたりしたことは一度もない。
 リンとするのだって最初のキスが、信じられないくらいに激しかったから、おれはあれが当たり前だと思ったら、自分が節操が無さ過ぎるように気がして、その後はやたらと嫌がって見せたけど、本当は嬉しいんだ。
 好きな相手と身体を寄せ合ったり、手を繋いだり、お互いの呼吸の音や、唇の感触を感じるのがこんなに心踊るものとは、想像できなかった。

 リンがおれを抱きしめる前に、おれはリンの両頬に指を添え、顔を上げながらリンの口唇に触れる。 震えているのを気づかれる前に口を開け、舌を入れた。
 リンの両腕がおれの背中を抱きしめる。

 なんでこんなに…おれはこいつを好きなのだろう…音を立ててお互いの口の中を味わいながら、バカみたいに何度も思った。


 根元先輩が現れて、おれ達の逢い引きも終わってしまったが、おれはその後もなんだかふわふわした気分のままで、寮祭のお祭り騒ぎ処じゃなくなってしまっていた。





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consolation 「慰め」 - 2009.09.06 Sun

慧一のイメージ。

keiiti3

リストの「consolation」から…

こういうのを描いている時は、幸せですが、慧一の気持ちになると…切ない。

リンより慧の方が自分はキャラとしては好きですなあ~






green house ~ 水川青弥 「引力」 5 - 2009.09.05 Sat

5、
 昔、子供の頃、サンタクロースは存在するものだと、本気で思っていた。
 クリスマスイヴの夜、絶対にこの目でサンタクロースを見てやるんだと寝ずの番をしていても、睡魔はすぐに襲ってくる。
 母親が作った枕元の赤い毛糸の靴下をじっと見つめながら、おれは絵本で見たサンタクロースに胸をときめかせていた。ただプレゼントを欲しがったわけじゃない。
 あの胸いっぱいにふくらんだ気持ち、それが一体何なのかを解き明かしたい…そう思ったからだ。
 クリスマスの朝、しんと冷たい空気が広がる部屋。目覚めたおれは、枕元を見る。
 毛糸の靴下にはこぼれる程のお菓子と、その脇に目的のおもちゃが赤いリボンに飾られて置いてある。
 喜びよりも、いつの間にか眠ってしまった自分を悔しがり、来年こそはと心に誓った。

 小学4年の時、級友たちから聞かされたサンタクロースの正体は、胸のときめきを一気に消失させるものであった。家に帰って母に問いただすと、母親は困ったように首を傾げ、級友たちの言葉を肯定した。あの時の失望感は今でも忘れられない。

 おれはあれから、心沸き踊るクリスマスを味わったことは一度もなかった。
 しかし、今年のクリスマスは違う。
 バカみたいに胸がざわついて仕方がない。
 すべては宿禰凛一という男の所為だ。
 大体…

 おれが恋に浮かれる事自体がおかしいんだ。
 今までだったら誰かを好きになったらなったで、自分の首を絞めるような、苦しいわずらわしさしか感じたりしなかったのに、今のおれはどうだ。
 リンの事を想うだけで、動悸が激しくなったり、顔が熱くなったり…
 相手は同級生のしかも男だぞ?おれ、ホモだったのか…と、悩むより、リンがおれを好きだと言ってくれる事のほうが数百倍も上等だと判明するわけだ。
 この事実は誤魔化しようもない。
 何を言われたとしても、おれがリンを好きな気持ちはぶれないでいられる。
 その思いすら尊いもののような気がする。

 クリスマスイヴは朝からヨハネ寮の住人たちは大わらわで、休んでいる暇はない。
 ホールの飾りつけや、イベントのリハーサルに、プレゼントやお菓子の調達。
 おれも一応寮生だから、二年生の指導で色々とやりこなさなきゃならない。
 二年生の仕切り屋がのんびり屋の一年に檄を飛ばしているのを幸いに、こっそりホールから抜け出し、一休みしようとしていたところ、後ろから声をかける奴がいた。

「水川、準備終わった?」
 こいつは…そうだ。リンのクラスの三上敏志だ。
「ああ、おれの分はね」
「ちょっと、話があるけど、いい?」
 あまり話した事はないけれど、リンはこいつと親しいと聞いた事がある。
「いいよ」
「じゃあ、屋上に行こう」
 話ってなんだろう。真冬に屋上なんか誰も来ない。寒いから当たり前。
「宿禰の事だけど…」
 多分それしかおれと三上の接点はないだろうから、予想範囲内。
「水川は宿禰と仲がいいのか?」
「…うん」仲がいいと言われたら肯定するしかないだろうと思って頷いた。
「そうか…じゃあ、宿禰の言ってたかわいい子って…水川の事だったのか…」
「か、わいい?」
 唖然となる。いや、リンは結構な割合でおれのことをかわいいと真顔で言うが、いつもの気楽ないいがかりだと思っていた。
 …気分が悪いわけではないが、他の奴にそんな風に言ってるって…寒風に晒されているはずなのに、顔が火照ってくる。
「ああ、時々だけどすごく嬉しそうに話してくれるんだよ。うすうす男かな~とは思っていたけど…水川だったとは」
 こうなると、バレて嬉しいのか、むなしいのかわからなくなる。やっぱり普通じゃないと思っているんだろうか。俺は三上を複雑な表情で見つめた。
「いや、別に変な目で見てるんじゃないから。この学校じゃ男同士も珍しくないし、宿禰だったら男も女もほおっては置かないだろうし、気分悪くしないでおくれよ~俺、水川を怒らせたら宿禰になんて言われるか…あいつはすげーいい奴だし、なんつーかさあ、心から信頼できる友人なんだよ」
 よっぽど変な顔をしたのだろうか、三上は必死で弁解する。その様子がなんだか可笑しくて思わず拭き出した。
「怒ってないよ。三上はいい奴だってわかって、なんか安心した」
「良かった~俺、宿禰は親友だと思っているから。おまえらのことも応援するよ」
「ありがとう」
「でも気をつけろよ、俺みたいな奴ばっかりはいないぜ。おまえらのこと、影で酷い噂立ててる奴もいる」
「え?」
 そんな話は初めて聞いた。もっともおれはそんなのも、こんなのも知らない話ばっかりだったが。
「ちょっと前に宿禰の噂話が酷かっただろう?あれも酷い言いがかりだったけどさあ、俺、偶然聞いたの。 おまえのクラスの…高橋って奴がさあ、おまえと宿禰の事をめちゃくちゃ言ってた現場にばったり…」
「高橋?」
「おまえ、期末で二位の高橋の点数めっちゃ離してトップだっただろう?だからだと思うけどさあ。歪んだ僻みって奴かね。一周回ったとしてもだ。何故におまえと宿禰の事を詰る意味が俺にはちっともわからん。腹立ったから殴ってやろうかと思ったけど、くだらない奴を殴ってもこっちの手が痛いだけ損だからな。でもおまえも気をつけろよ。ああいうクソムカつく奴は、どうでもいいことに意地になるからな」
「あ、ああ…なんかわかんないけど、気をつけるよ」
「それから…」
「ん?」
「宿禰の事頼むな。あいつ、なんでもかんでも悟っているみたいな顔してるけどさ、良く考えてみりゃ俺たちと同じ年数しか生きていない、ただの16のガキなんだよ。だから色々あると思うんだ。それを表に出していないだけでさ」
「…」
「なんてね~俺より水川の方がよくわかっていると思うんだが、なんかあったら俺も力になるよ。当てにはならんだろうけど」
「いや、嬉しいよ、三上。おれもこんなだからさ、あんまり他人に心を打ち明けるのは得意じゃないんだ。友人になってくれると嬉しいよ」
「勿論さ。ふたりを繋ぐ伝書鳩にでもなってあげようか。と、言っても毎日顔見合わせているから必要なしだな。今日も来るんだろ?宿禰。あいつ案内状貰って喜んでた。水川が渡したんだな」
「うん、あげたの」と、ワザとかわいくゆってみた。
それを聞いた三上は大仰に頭を抱え、「うらやましい~俺はきょうはひとりだよ~ユミちゃんにも会えない~よ~神様俺にも御慈悲を~!」と、曇った冬空に向かって叫んでいた。


 夕方になり、俺は玄関ホールの待合室でリンを待つ。
 和風旅館の玄関みたいな木の格子の向こうに、リンが映るのを思い浮かべながら、先程の三上の言葉を反芻した。
「親友」「心から信頼しあえる友人」
 おれはリンとはそういう関係にはなれなかった。もしそういう関係だったら…こんな胸のときめきも少しの切なさも感じる事はなかったのだろう。

 どっちが良かったなんてわからない。
 おれはリンに惹かれてしまっているのだもの。
 もうリセットして初めからやり直しなんてできやしない。

 冬至は一昨日だった気がする。瞬く間に陽は落ちる。
 ロビーの灯りが灯される頃、硝子の向こうにリンの姿が見えた。
 おれは飛び跳ねるように立ち上がり、彼を迎えた。





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ユーリとエルミザード  「黎明」 4 - 2009.09.03 Thu

4.
ヴァレリアウスとユーリが帰る日が来た。
ヴァレリアウスはエルミザードに右手を差しだした。
エルミザードは今までになくヴァレリアウスの手を強く握り締めた。少しだったが、笑う表情も以前とは違って自信のようなものが感じられた。それはユーリの影響だとヴァレリアウスは理解した。

「短い間だったけれど、楽しかったよ、エルミ。また会いたいね」
「ええ、ヴァル。実は僕、来季は王立学院の入学試験を受けようかと思っています。ユーリに誘われたんです。時間はあまり無いけど、一生懸命勉強します」

エルミザードが学院を受験するという話は、昨晩ユーリから聞いていた。ヴァレリアウスは心から喜び、安堵した。
エルミザードを、監視する…という言い方は悪いが…その点に置いても、魔族の血を持ったエルミザードを野放しにはできない。師と言えどもライラスひとりにその責を負わせるのは、エルミザードを拾い、ここへ連れて来たヴァレリアウスには、重すぎることに思えたのだ。

今後エルミザードに降りかかる災いは、相当なもの。彼の予知力はそう示している。
ならば、12神の恵みを最も受けるエイクアルドの首都イルミナスの地にエルミザードを匿う方が、まだ魔族の手から逃れられる手立てはある。そして、エルミザード自身が強く正しく生きるための力と精神を学び、育てねばならない。
それを導くのは自分の責任でもあると、感じていた。

「そう、よく決心したね。私も応援するよ。私は試験官のひとりだが、エルミに甘い点をやったりはできないからね。合格する為には自分自身の知恵と知識、体力を養う事だ。試験期間は十日間。学力も必要だが、何より身体と精神の強靭さを試されるんだ。しっかり準備をするといい。でもエルミ、君は幸運だね。ライラスはまたとない素晴らしい教師だよ。しっかり彼の教えを学びなさい。ライラスの教えをクリアできれば、君は間違いなく学院生徒となれるよ。保証する」
「ちょっと待って、ヴァル。エルミの心配ばかりで…私の受験に際して言うことはないの?」
ユーリは不服そうに口唇を尖らせた。

「ユーリ、君は言わずもがな…お歴々の高尚なご教授に囲まれているじゃないか。それで落ちたら…サラディス家は継げまいよ」
「別に…継がなくていいのなら、肩の荷が降ろせていいや」
「そんなことを言ったらお父上もお母上も悲しむよ。君に期待する大勢の者たちの落胆する顔は、君も見たくなかろう?それでなくてもユーリは二百年来の暁の魔道士だと、天文家のミダヤ婆様のお告げがあったんだ。間違いなくユーリは選ばれた魔術師さ。ユーリが合格しなくて、他の誰があの門を潜れると思う?私の太鼓判はこれ以上なく強く押すことは間違いないよ」

多少のゼスチャーもおべっかも交じりながら、すらすらと言葉を紡ぎだすヴァレリアウスに、慣れた事とはいえ、ユーリも開いた口が塞がらない。
「…聞いてて恥ずかしくなるから止めてくれよ、ヴァル」
「すごいじゃないか、ユーリ。僕も頑張って試験に合格するように頑張る。ユーリと机を並べてヴァルの授業を受ける日を、絶対夢で終わらせないよ」
エルミザードは自分の事のように満面の笑みで喜んでいる。それを見るとユーリは百倍の元気を貰った気になり、その笑みにつられる形で笑顔を浮かべた。
「わかった。私も頑張るよ。エルミだけ合格して私が落ちたら、それこそ、帰る家などなくなってしまいそうだからね」
「約束だよ、ユーリ」
「ああ、絶対だ」
ふたりは昨日から何度も交わし合った約束の誓いを力強く交わした。
ユーリは握る手の平に、呪文を忍び込ませるのを忘れなかった。即ち、「エルミが私との約束を忘れないように…」と。

その日からエルミザードは寝る間も惜しんで勉強に勤しんだ。
勿論家畜や畑の世話も手を抜きはしなかった。
ライラスの教え方は的を得ており、無駄な知識は出来るだけ省き、受験に必要な要点だけを教え込んだ。そしてエルミザードは時間の許す限り、今まで知らなかった書庫にある膨大な本を読み漁った。
ライラスは歴史、法律、摂理の意味を説いた。エルミザードはその中に深い真理があると感じていた。
また、魔術科を受けるに当たっての魔法力はエルミザードに十分備わっているとはいえ、その使い方は様々に異なるため、エルミザードは法に定められた方法でそれを身に付けなければならなかった。
潜在能力を如何に自在に操る事が可能か…ライラスは極めて厳しくその操り方をエルミザードに教え込む必要があった。

慌しく冬を過ごし、春風の中にいつもとは違う感傷的なものを感じながら、鮮やかに青空が眩しい夏を迎えた。
6つの頃から育った我が家を旅立つ日が近づくと、エルミザードはこれからの期待よりも寂しさが増し、ライラスの胸で時折泣くようになった。








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王立学院の簡単なキャラ紹介です。

世界は一緒。地上とは違った魔界のお話、「彼方の海にて…」はこちらから。
プロローグ

ぼちぼち始めていこうかと思います。
しかしボキャブラリーがなさ過ぎて…自滅しそうだ。
まあ、漫画を書いていると思いつつ、頑張ってみる。

あ、12神はオリキャラじゃなく、自分のオリジナル神の名前が今後じゃんじゃん出てくる…予定だがね…(;´∀`)



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新学期! - 2009.09.01 Tue

9月です。

エイクアルド国立学院も新学期が始まります。

彼らの日々の物語は、もう暫くお待ちください。

と、いうか…BL物語なのは当たり前で、あんまり…事件などは起きないから(;´∀`)


ye5



一応、自己紹介を。

右からいきます。

名前…スリュムル・ディスレーリ (スリュ)

概要…士官科。他の5人よりひとつ年上なのでしっかり者。
  しかし、悪さの計画実行に掛けては、率先して行動する。


名前…アンシャール・ミトラ(Anshar・mitra)

概要…法科。冷静沈着なしっかり者の男子。クールだが、友達思い。
    仲介役になる事が多いが、言葉が少ないので、逆にケンカを買う羽目に…


名前…エルミザード・アール

概要…魔術科。自らが魔族と人間の混血であることにより、周りに災いを招く事を恐れる。


名前…ユーリ・ラダ ・サラディス 

概要…魔術科。東部リデリア6卿を継ぐひとり。
    エルミザードとは親友。一方的な恋心も募らせている。
    

名前…ヴィト・スヴィーウル (ヴィー)

概要…魔術科。東部リデリア6卿を継ぐひとり。
   かなりのアナキストでだが、実はかなりの人情味があり、頼りになる。


名前…ヴィーランド・キャル(Wieland・cal)

概要…士官科なのに臆病者で心配性。いつも同級生スリュムルに渇を入れられている。
    時々無鉄砲に投げやりになるので、回りが気を使う羽目に…www



さて、このBL学園物語、どうなりますことやら~



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