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2009-10

宿禰凛一 「Swingby」 6 - 2009.10.30 Fri

6、
 俺にとって何もかもが刺激的で充実したアメリカでの春休みも終わりに近づいた。
 生活にも大分慣れた俺は、近くで買い物やカフェに行ったりと余裕が出来、知り合いも増えた。
 慧一の友人には何人か出会ったりしたが、懸念する恋人の登場とはならなかった。
 
 食事の後、コーヒーを飲みながらふたりでリビングで寛いでいる。
 休日最後の夜だ。明日は日本に帰らなきゃならない。

 最後だからと思い、俺は慧一に恋人がいるのかどうか尋ねてみた。すると、慧一はあまり乗り気ではない雰囲気で「遊びで付き合ってる男はいるけど、恋人はいないよ」と、言いたくなさそうにする。
「遊びって…向こうは本気かも知れないってことはない?」
 実はそういう男子学生に会ったことは慧一には伏せていた。
 その彼は「日本に大事な人がいると言って、慧一は本気になってくれない」と零していた。純情そうな北欧系の男の子だった。
「どうしてそんな事を聞く?」
「藤宮が…」
 俺も本当のところを自分が聞くべきなのか、迷ってしまう。だから、藤宮先生の話で曖昧にぼかしてみた。
「藤?…ああ、紫乃か」
「藤宮はまだ、慧のことを好きだって言ってるんだぜ?あのままほおっておくの?…なんだか可哀相だよ」
「凛は…俺が紫乃と付き合うのを望んでいるのか?」
「そんなことじゃなくて…俺は…慧に幸せになって欲しいって…思っているんだよ」
「俺に恋人がいなきゃ幸せじゃないって事?」
「…そうとは限らない…けど、遊びより本当に好きな人とセックスした方が、幸せじゃない」
「凛は…俺に恋人がいたら、寂しくなったりしない?」
「そりゃ…寂しいし、俺の慧が他人に取られるのは嫌だけどさ…慧の幸せを俺が願わないわけがないじゃない。寂しいけれど、祝福したいって、思ってるよ」
「…そう」
 慧一は飲み干したコーヒーカップを持って、キッチンに運んだ。どうみても愉快にはなれない話題らしい。口元がきつく結ばれている。
 慧一と仲たがいする気はないんだ。だけど、俺は慧一だけにはわだかまりは全部曝け出しておきたいんだ。

「だって、俺だってさ。ミナっていう恋人が居るわけだし、俺だけ幸せじゃ慧に申し訳ないよ」
「そんなことをおまえが気に病む事は無いよ。凛の幸せは俺の幸せでもある」
「本当に?…慧は俺がミナと本気で愛し合っていても、嫉妬したりムカついたりしない?」
「…するよ。当たり前だろ。おまえがさっき俺に言ったことと同じだろう。…するに決まっているさ…」
「そう、良かった」
「なにが?」
「慧も人間だなあって思ったのさ。嫉妬なんかしないって言われたら、もうそりゃ仙人の域だもの」
「おまえから見りゃ大人だろうが、俺はまだ25の若造だよ。煩悩だらけで悟りの境地には到底昇れないね」
「じゃあ、その煩悩だらけの兄貴に相談なんだが…」
「なんだ?」
「ミナと巧くいかない」
「え?さっき本気で愛し合うって…言ったろ?」
 慧は俺の傍に座りこみ、心配そうに俺の顔を見つめた。
「…セックスしようと迫ったんだけど…泣かれた。嫌がってないと思ったんだけどねえ~やり方が拙かったのかなあ。俺、結構待ってあげたつもりだったんだけど…」
「向こうの意思確認はちゃんと取ったのか?おまえは強引すぎるところがあるだろう」
「…はっきりと口に出しては言わないよ。彼は何もかも初めてで…怖気づいてしまっているんだ。俺と寝たいっていう気持ちはわかっているけど…どうもなあ…ああいう子は初めてだからさ。正直、もてあまし気味」
「…それくらいでへこたれるぐらいなら、止めればいい。本気じゃないってことだ」
「ちょっと待ってよ。俺、本気だよ。本気でミナを愛してるって思ってるし、大事にしたいって…」
「思いやりって知ってるよな。おまえは自分が愛されてると思い上がっている。だから相手が思い通りに動かないと興味を持って相手を思い通りにさせたがるんだ。本気で好きなら、相手のことを一番に考えてやれ。自分のプライドなんかどうでもいい。相手の望みを叶えてやること。そして相手のプライドを傷つけないこと。おまえがタチなんだろう?だったら尚更だ」
「ミナはプライド高そうだもんなあ…」
 もしかしたら俺は、今まで本気で誰かを好きになった事など一度もないのかもしれない。
 何故だかわからないが、俺は自分から本気で求めた恋はひとつもない。何も知らないという点ではミナと同レベルってことか…ビギナー同士、手を取り合っていくしかないかな。

「なんか…慧に話してすっきりしたよ。日本に帰ったらミナと話し合ってみる。勿論別れ話じゃないよ。俺、ミナとは本当の恋をしたいんだ。正真正銘の『恋』って奴」
「…そう、頑張れよ」

慧凛


 その夜、慧一とベッドに寝ながら「慧と枕を並べて寝るなんて、暫く出来ないんだね」なんて話をした後、
「俺、色んな人から愛を貰っているけど、俺が本当に愛しているのは梓と慧だけのような気がする。でも…それじゃあいけないんだね。親父もワコさんも嶌谷さんにも、ただ愛を貰うだけじゃなく、ちゃんと俺が愛さなきゃならないんだ、きっと…」と、決意めいたものを吐いてみた。
「そうだね。愛という感情は生きる強さになる。凛の人生は素晴らしいものになると思うよ」
 慧の言葉はいつも俺に勇気を与えてくれる。慧は本当に俺を光へと導いてくれているんだろう。
 俺は熱くなる想いを茶化しながら言う。
「ひとつ言っておくけどさ、俺の慧への愛は変わらないよ。たとえ、俺がミナを愛したとしても、慧への愛情が微塵も減ったりはしない。慧と俺の絆は特別だもの」
「…ああ、わかってる…わかっているよ、凛。だから、早くお休み…明日は、もう近い…」
 慧の穏やかな声音は俺を至福の眠りへと誘う媚薬のようだ。

 …お休み、慧。



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宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら  







宿禰凛一 「Swingby」 5 - 2009.10.28 Wed

5、
 さして抵抗もしないミナの意思は、その先を続けてもいいと言うことと見なして、ミナのズボンのベルトを緩め、右手を滑り込ませた。俺はミナの中心をゆっくりと弄ぶ。
 微かな抵抗。だけど、ミナは息を止めながらも俺の手を払いのけようとはしない。今までだったら、キスの先は嫌がって逃げていたのに…と、思うと、ミナにもそれなりの覚悟が出来たということだろうか。
 後ろ斜めから見てもわかるミナの必死な様子。
 目をしっかりと閉じ、口元を少し震わせている。紅潮させた顔がなんだかいたいけで、それでもそんなミナを欲しいと願ってしまうのは罪かな…
「ミナ、好きだよ…」
 耳元で囁き、耳殻を舐める。
 ミナの身体がビクッと震え、そして微かに喉の奥から搾り出すような声が聞こえた。
 始めは何かわからなかったが、それがミナの嗚咽だと知った。

 両手で顔を覆いながら「無、理…だ、よ」と、ミナは途切れ途切れに言う。
 驚いた俺がミナから手を離すと、ミナは力なくその場にしゃがみこんだ。
 泣き崩れるミナの姿を見た途端、俺は物凄い罪悪感に苛まれた。

「ミナ…ごめん。そんなに嫌がるなんて…思わなくて…」
 しゃがみ込んで噛み殺すように泣き続けるミナを、俺は必死で慰める。
「もうしないから、泣かないで…」
 こんな風に泣かせようと思ったわけじゃないんだ、ミナ。
 ミナの艶のある髪を撫でていると、ミナは突然立ち上がり、俺の方を振り返らずに温室から走り去ってしまった。

 俺はその後姿が消えるのを見て、大きな溜息を吐く。
 もう少し上手くやれば良かった…
 そんなことを思っても後の祭りだ。

 寮に行って、ミナに謝ろうと思ってはみたものの、傷ついているのは俺の所為だけじゃなく、これはミナの問題でも有るような気がしていた。
 ミナはこうなることを予想していたはずだ。
 だから俺に身を委ねた…だけど自分でもどうしようもなかった…そう考える方が俺には自然に思えた。
 ミナに何か言っても、ミナのプライドを傷つけるようで、今はそっとしておく方がいいのかもしれない。
 それと同時に…
 ミナも傷ついたろうけれど、結構俺も堪えた気がする。
 …めちゃくちゃ多くもないが少なくもない経験を持つ俺は、ミナ相手になら簡単に陥落させる自信はあったのに…
 あれだけ許しておいて、泣くなんて…いくら怖気づいたからって…
 そこまでセックスに抵抗あるっていうのは、過去に何か拙いことでもあったのか?
 考えすぎると複雑になってくる。

 さすがにその夜の独り寝はむなしくなり、ミナを呪ったが、本物の恋に障害は付きものだと悟り、自分を慰めた。
 翌日は学校でもミナの姿を見かけることなく、温室にも来ないミナを責めたくなったが、夜、メールで機嫌を伺うと「リンが好きだ。でも自信がない」と返事が来た。
 …俺の方がよっぽど…
 などと、枯れた笑いで返したが、これはもう暫く膠着状態でいるしかねえな~と、思い、この問題にひとまず目を瞑ることにした。

 そして、俺は慧一の待つシカゴに旅立った。
 オヘア国際空港に着くまでは、ミナのことが胸につっかえていた気がしたが、空港で待っている慧一の姿を見たら、現金なもので、好奇心に沸き踊り、慧一のアパートに着く頃はミナとの一件はすっかり忘れていた。

 慧一のアパートメントは立ち並ぶビル街とは離れた郊外にあり、想像していたものよりずっと閑静な住宅街だった。
 慧一の部屋もひとりものには丁度良い広さで、ダイニングとリビング、そして狭い寝室があるぐらいだ。
 アメリカといえば、やたら広いテラスかなんかを想像していた俺は、こじんまりとしたその部屋に妙に親しみを覚えた。
 案外と狭いベッドにくっ付きあいながら慧一と眠るのもいい。
「昔に戻ったみたいだね」と、甘えて言うと、「これ以上子供返りしてもらっても俺は困るよ、凛」と、眉を顰めながらも慧は俺の背中を最良の優しさで抱いてくれる。
「慧、大好きだ」
 嬉しさのあまりに無意識に出てくる言葉に、慧は苦笑する。
「俺も凛が大好きだよ」
 極度のブラコンとでも何とでも言え。慧は俺のものだ。
 できるならずっとこうしていたいって言っても…いつまでも慧を独り占めには出来ないんだね、きっと。

 休日は慧一が街の至る所を観光がてら案内してくれるが、慧一が大学院へ行っている間、俺は毎日ひとりで街をふらついた。
 片言の英語でもなんとかなるだろうと思い、近づいてくる外国人に適当に愛想良くしていると、親切なお方は美味しいレストランやら穴場の店を教えてくれるが、たまに危ない奴に無理矢理変な場所へ連れ込まれそうになるものだから、一度は思い切り背負い投げをかましてやったら「Oh!サムライ!ニンジャ!」と、回りから大喝采を受けた。
 それを慧に話すと、慧は青ざめて、二度とひとりで街に出るんじゃない!と、頭ごなしに怒鳴りつけ、次の日から一日の大方を俺は慧一の大学構内で過すはめになった。

 慧一が授業に出ている間、キャンパスをうろついていると、何故か学生達が俺の周りに集まる。
 そんなに日本人が珍しいのかと尋ねると、ビューティフルやらグレートやらグッドルッキングボーイやらオーバーアクションで持て囃すから、俺はいい加減うんざりして、図書館の一室に閉じこもり時間をつぶした。

 約束の時間が来ると俺と慧一は合流し、慧は俺の行きたいところへ連れて行ってくれたり、お気に入りの場所へ案内したりする。
 俺は数多くの教会を見たいと言った。慧一が俺に送ってくれるメールの添付写真の教会をこの目で見ておきたかったからだ。
 別に俺自身はクリスチャンでもないし、学校がミッションだから教会で神父の御託を聞きたいというわけではない。まあ、告解でもしろと言われれば、懺悔することは山ほどあるだろうが…

 他でもない話だ。
 あのゴシックの建築形式に興味があるのだ。
 実際に事細かく見てみると、キリストやマリア像より、日本の仏像の彫刻の方が明らかに神秘的であり象徴としては相応しく思える。十字架に貼り付けにされたキリストを見ても、日本人の典型である無宗教な俺には何の感慨も齎さないということだ。
 しかし、その宗教美の至宝と言おうか…ゴシック建築の厳粛なる秩序、その繰り返されるフォルムの計算しつくした人工的な内陣の美しさはどうだ。
 宗教から生まれたとしても、人間の、しかも優秀なる建築家の厳格と深淵の静謐さを極めたと言ってもいい。
 歴史の浅いアメリカ建築でもここまで尊いものなら、西欧の教会はこの美をどこまで極めているのだろう。

 身廊に立ち尽くした俺は、見事なクリアストーリからの光を浴びながら、胸の震えを止める事が出来ないでいた。





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6コマ漫画 - 2009.10.27 Tue

テキストの正月、箱根温泉に行った時の、こぼれ話を漫画にしてみた。

漫画1

本来はね、こういう健康的な兄弟です!

掛け声は…適当ですから~www
しかし…漫画はむずかし~(;´▽`A``



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宿禰凛一 「Swingby」 4 - 2009.10.26 Mon

4、
 三月一日は卒業式で、俺も「詩人の会」の代表として、式に出席した。
 美間坂さんは、成績優秀者の権威である県知事賞を贈られ、卒業生代表として答辞を述べた。
 卒業式後、部活の先輩である桐生さん達に、代表の後輩達はお祝いの詩を贈り、前途を祝った。
 桐生さんは美間坂さんが京都の国立大に行かずに、東京に残った事を嬉しそうに話してくれた。
「正直、美間坂が京都に行ったら、俺は別れようと決めていたんだ。遠距離恋愛の頼りなさを俺は知っているからね。美間坂がこちらに残ってくれて一番ほっとしているのは俺だ。この先美間坂以上の奴にめぐり合うとは思えない」
「心から祝福しますよ。美間坂さんは桐生さんのことを本当に愛しているんだって証明したかったんじゃないのかな。で、一緒に暮らすんでしょ?」
「一応ね。それはそれでまた色々と嫌なところが目に付くだろうけど、それはお互い様だ。家族ではないからね。所詮は他人同士。意思の疎通を図りながら、上手くやっていくつもりだよ」
「美間坂さんは元よりアレだが、桐生さんなら大丈夫でしょう。うらやましいなあ」
「宿禰も水川と上手くやっているのだろう?根本から聞いている。水川が君を選ぶとは思わなかったけど、彼は心が強そうだから、宿禰には丁度いいかもしれない」
「なにそれ?俺が頼りないみたいな言い方じゃないですか」
「頼りないんだよ、宿禰は。もし…なにかあったら…まあ、何もないだろうけれど、頼ってくれ。俺は君が俺を知る以上に、君をずっと見てきた。出来れば、君の頼れる先輩でいたいんだ」
 桐生さんの誠意の眼差しに少なからず心打たれた俺は、胸が熱くなるのを止められなかった。
 卒業の記念にとキスをしていたら、美間坂さんが飛んできて俺たちを引き離した。怒る美間坂さんを無視して、俺と桐生さんはお互いのメルアドを交換した。
 ついでにと桐生さんは美間坂さんと俺の携帯を捥ぎとって、勝手に赤外線通信で情報をやり取りしている。
 …別に美間坂さんのメルアドは必要なかったのだが…

 春休みにはシカゴに居る慧一とひと月ほど一緒に過す約束をしていて、俺はそれを楽しみにしていた。
 今まで海外への旅行は何度かあったが、短期間であっても外国暮らしを体験できるわけだ。
 出発は春休み前日に決め、終業式を休むことを伝える為に、藤宮のいる部屋へ向かう。
 担任の神代先生は相変わらず、当てにならない。定年も目の前だから仕方がない、と、藤宮は笑った。
 春休みにシカゴに行くと伝えると、「俺もそのうち遊びに行くから、慧一によろしく言っておいてくれ」と、言う。
「まだ兄貴の事、諦めてないの?」 
 俺は少々呆れ気味に言う。
「クサレ縁って奴だ。おまえがこの学校に来なきゃ、縁も切れていただろうけどねえ~折角繋がった縁をそう易々と手放すわけにはいかまいて」
「…」
「何だ?言いたいことある?」
「…諦めたほうがいいんじゃないのかなあ~」
「…どうしてだ?」
「兄貴は決まった人はいないって口では言ってるけど、俺は向こうに恋人かなにかいるんじゃないかと思っている」
「…どうしてそう思う?」
 藤宮は興味深そうに口端をあげながら、俺を覗き込んだ。
「あれだけ、向こうに居たがるのだって、変じゃないか。日本にだって大学は沢山あるのにさあ。俺と離れたくないって言ってても、結局向こうに帰ってしまうんだから、俺より大事な人が居るって勘ぐっても変じゃないだろ?」
「…凛一は慧一に恋人が居ても平気なのか?」
「平気…じゃないけど、慧が幸せになるのならしかたないよ。本当は知らない人より、知ってる奴の方を応援したくなるけどね、例えばあんたとかさ」
「弟に応援してもらえるのは嬉しいけどなあ。慧一と本気で付き合うとなると覚悟がいる」
「え?なんの?」
「もれなく五月蝿い弟が付いてくる」
「…」
 俺は憮然とする。慧一の恋の邪魔になろうとは一度だって思ったりしていない。
「別に…俺は慧の邪魔なんかしない。慧が幸せなら、俺はこれから先ずっとひとりでも耐える覚悟はあるよ」
「…トンだ兄弟だな」
「なにが…」
 紫乃の投げ遣りな言葉を問い詰めようとしたが、紫乃は突然眼鏡を外し、そして俯いた額に手を置いた。
「藤宮…」
「欠席の事はわかったよ。たぶん…二年になっても俺が担任になると思うから…何かあったら俺を頼ってくれていい」
「う、ん…わかった」
 俺は頭を抱える藤宮を置いて部屋を出た。

 放課後、ミナの待つ温室へ向かう。
 藤宮との会話がどうも胸のわだかまりになってしまって、消え去らない。慧一のことになると、昔からこうだ。
 慧は大人で、恋人がいたっておかしい話じゃないはずだ。なのになんでこんなに苛立つのだろう。
 嫉妬には違いない。大事な兄を誰にも渡したくない。それは弟として普通の感情だろう…
 だけど、俺は…

「リン、何の本を読んでいるの?」
 ミナの声に現実に引き戻された俺は、ミナの姿を目に映した。
 俺の大事な恋人。俺にはミナがいる。だから慧の事をああだこうだ言う権利なんてなにひとつない。
 慧一にミナのような相手がいたって不思議じゃない。だってそうだろう。あれだけのイイ男を回りがほっとくわけはない。

 俺はミナとの会話を続けながら、慧一の事を思った。
 ミナが俺の隣に座り、くっ付いてくる。案外甘えたがりだ。キスをするのも慣れて、嫌がらないどころか欲しがる素振りを見せる。
 慧ならこんなミナをどうするのだろう…
 俺はミナの腰を抱き寄せ、深く口付けた。ミナは戸惑いながらも懸命に応えようとしている。

 …このままやってしまおうか。
 待て、ここは温室だろう。
 初めてやるには精神的余裕のないミナには可哀相だ。
 いや、だからこそ燃えるんじゃないか。
 待てって、ミナの気持ちが固まるのを待つって約束したじゃないか…
 でもミナは…嫌がってない。
 欲しがっている?
 そうなのか?
 …ミナ。




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宿禰凛一 「Swingby」 3 - 2009.10.24 Sat

3、
 正月は大晦日から3日まで、箱根で過した。
父と再婚した継母の和佳子さん夫婦と、俺達の四人でこうやってゆっくり温泉を楽しむなんて、正直、夢にも思わなかったことだったから、俺としては違和感ありまくりではあった。が、とにかく和佳子かあさんがとても明るく、くったくのない女性で、今までに出会ったことのないタイプだから、楽しく過せる。
 もっと早くこのお母さんと暮らしていたら、俺の思春期はあんな寂しい思いなんてしなくて済んだのかも…なんて思ってしまった。
 鎌倉に帰宅すると、ゆっくり休む間も無く慧一はシカゴに戻り、父親の優一もストックホルムに帰った。
 和佳子さんは仕事の都合で、もう一週間ほど日本に滞在するらしい。
 マンションには俺と和佳子さんのふたり。なんだか照れくさくて仕方がない。
 お母さんと呼ぶのも慣れなくて、俺は「和佳子さん」と、つい呼んでしまう。

 和佳子さんは自立した女性であり、長年フランスのレスランでスー・シェフをやっていた。父と結婚してからは、各地のレストランでプロデュースをしたりレシピを教えたりと忙しくしている。
 午後のお茶会と称して、和佳子さんの作ったマジで美味いケーキを向かい合って食べながら、俺は色々と聞いてみた。
 親父との馴れ初めや、どこに惹かれたのかなど色々と。
 他人の人生の生き方を聞くのは、責任がない分楽しいものだ。人の物語だからな。

「和佳子さんって他人行儀だなあ」
「じゃあ、お母さんって呼ぶ?」
「ワコちゃんでいいわよ。優一さんもそう呼んでくれるもの」
「…あの親父がね~」
 いつも静かで冗談もあまり言わない親父からは想像できない。
「お父さんの事嫌い?」
「え?いや別に嫌いじゃないよ」
 正直、俺は親父を好きとか嫌いとか…そういう括りで考えたことはない。
「優一さんはすごく気にしてるわよ」
「何を?」
「あなた達を…特に凛一君をほったらかしにして手をかけてやれなかった事を…とってもね、後悔してる」
「…」
「酷い目にあわせてしまったって。仕事を理由にしても離すべきじゃなかった。傍に連れて自分の目の届く場所で育ててやりたかったって…お酒が入ると必ずそれを言うの。よほど凛一君のことが心配なのね。親なら当たり前だけど。まあね、凛一君みたいに綺麗な子は滅多にいないからわかる気がするわ。私が母親だったら、もう絶対離さないもの」
「俺もワコさんが本当の母親だったらいいなって思うよ。でも…もしもなんて言うのは野暮だね。今までの過去があるから今の自分がいるんだから」
「そうね、だから、優一さんにいつも言うの。慧一君も凛一君もあんなにいい子に育っていて、不平を言うべきじゃないって。あなたの子供だからでしょ、ってね」
「俺は…親父を好きでも嫌いでもないんだけれど…あの人が働いてくれてるから、俺達は経済的に恵まれた生活を送っていられてるって感謝しているよ…だけど、それは親に対する尊敬とはまた違う感覚なのかもしれないね。でも…そんな風に親父が思っていたなんて…ちょっと…というか、かなり衝撃だよ。…俺、本当は…親父は俺のことを…憎んでいると思っていたから…」
「どうして?」
「だって…母は身体が弱いのに無理して俺を産んでくれたんだ。逆に言えば、俺を産まなかったら、母はもっと長く生きられたのかもしれない。父さんは母さんを愛していたから…父さんが俺を本気で憎んでいるとは思わない。でも、心のどこかで俺を…許していないかもしれないって…」
「凛一君って、見かけによらずネガティブなんだ。君が思う一ミリだって、優一さんは思ったことはない。これは確信よ。葵さんの写真を見たわ。とっても綺麗で慧一君にも凛一君にも良いところばかり遺伝しているのね~。特に凛一君は葵さんの独特な繊細さを引き継いでいる。その姿も中身も…」
「…」
「って、あなたのお父さんは嬉しそうに私にゆってたわよ」
「そんなことを…親父が…」
 あまりの突然の事に俺は言葉を詰まらせた。親父にそんな風に思われていたなんて…にわかには信じられない。
「…俺、愛されてるって信じていいのかな?」
「勿論よ。優一さんはあなたたち二人をすごく愛しているし、期待もしているわよ。凛一君が大人になったら一緒にお酒を飲みたいって」
「…うん」
「その時はうんと美味しいおつまみを披露するから、私にも相伴させてね」
「勿論だよ」

 その夜は寝付けなかった。
 今まで父の事を深く考えたことはなかった。愛されていようといまいと、あの人はまったく城の外に居る人だった。 でも…違っていたんだ。父はいつも俺を見て、愛してくれていたんだ…そう思うと涙が溢れてくる。
 俺は「愛」には弱い。
 愛されることの喜びは愛するよりも尊いように感じてしまう。同等の重さであるはずなのに…

 6日、ミナと初詣に行く。
 久しぶりに会ったミナは、去年とはまた違った顔で俺を見る。
 何か言うたびに少し恥らいながら俺を見るミナがかわいくていとおしくて、俺はこの尊く、愛する者を大切にしたいと、手を合わせながら祈った。

 二月、バレンタインデーに和佳子さんから教えてもらったチョコケーキをミナに食べさせたくて、俺は張り切って腕を奮った。
 当日、朝から延々と続くプレゼントの攻撃で散々な目に合わされた俺は、さすがにゲンナリしながら、放課後温室に行く。
 ミナは今日が何の日かわかっていない様子だった。
 …世間知らずっていう子は、本当は世間に興味がないということだろう。まあ、かわいいちゃあかわいいが、度を過ぎるとド突きたくなる。
 一緒に食おうと思って思ってきたチョコレートケーキワンホールをミナの目の前に差し出すと、ミナは目を丸くして素直に感動してくれた。
 そこまではいい。合格だ。しかし…
 ケーキを食べるのに、フォークがいるのだの、手が汚れるだの言いやがって手をつけようとしない。
 挙句の果て「持って帰って食えば?」と、皮肉を言ったつもりが、あっさり快諾して、大事そうにしまいやがった。
 …いや、一緒に食べようと持ってきたんだがね…

 こいつの天然ボケは酷すぎるとは思わないでもないが、そこは惚れた弱みもある。
 お礼は後でたんまり貰うとして、今日はキスだけで我慢してやるよ。

 次の日の放課後、ミナは「もうチョコケーキは暫く食べなくていい」と、ぐったりして言う。聞くと、昨日あげたケーキを夕食代わりに食い、一日中胃がもたれて仕方が無いと言う。
 …美味しかったのかどうかがこちらとしては気になるところだったんだが…
 「そんなに無理して食べなくても良かったのに」と、言うと、ミナはムキになって「リンが俺のために作ってくれたケーキは誰にも食べさせないし、一欠片も残さない」と、当然と答えるから、俺は呆れながらも、嬉しくてたまらない。思わずここで犯してやろうと思ったほどだ。
 
 …と、いうか、そろそろやりたくやらねえかねえ~こいつ…








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宿禰凛一 「Swingby」 2 - 2009.10.23 Fri

2.
 ミナが寮に戻ったら、ふたりで初詣をしようと約束して電話を切る。
 慧一はいつの間にか、浴室から戻っていて、冷蔵庫から出したミネラルウォーターを飲んでいる。

「例の…恋人?」
「そうだよ。水川青弥って言うの」
 慧の声の響きが優しかったので、安心して答えた。
「付き合うようになったんだね」
「うん、まあ…色々とハードルは高そうだけど」
 バスローブのままでカウチに座り込んだ慧に近づき、手を伸ばすと、慧は飲んでいたミネラルウォーターのボトルを差し出した。
「なんの?」
「向こうは優等生のノンケで、何もかもが全くの初心者なんだよ。だから気を使うことしきり…」
「それをわかって付き合うって決めたんだろ?」
「ミナは…水川の事をそう呼んでいるんだけど…他の奴とは違うんだよ。あいつはなにも知らないイノセントだから、間違った道に進ませちゃいけないっていうか…そういう責任を感じてる。これから先…先なんて何もわかんないけどさ、ミナと付き合っていくと決めた以上、あいつを幸せにしたいって思っているんだ。付き合ったばかりでセックスもしていないのに、こんな風に考えるのは、俺の思い上がりかね?」
「…いいんじゃないか、それくらいの気負いがあっても。向こうも凛のことを、好きなのだろう?」
「好きじゃなきゃ付き合わないだろうけど…色々と躊躇うものがあるみたいだね、俺と違ってさ。どっちにしても俺はミナとセックスするとは思うけれどね」
 空になったボトルをテーブルに置くと、慧の膝に跨って抱きつき、首に腕を絡ませた。

「…凛、重い」
 顔を見なくてもわかるぐらいウザそうに言う。
「うん、わかってる。それよりベッドはひとつだし、やることもひとつだよね」
「…」
「セックスでもする?」
  慧の顔に近づいて、囁くように言ってみた。
「おまえは…去年のクリスマスにも同じようなことを言ってたな。なにかのまじないか?」
「だって、このシチュエーションで何もないっていうのも変じゃないか?」
「それこそ、おまえの大事な水川くんに悪いとは思わないのか?冗談にしても」
「だって、俺は慧の事好きなんだもん。慧とならいつだってセックスしていいと思ってる」
「兄弟でセックスはしないものだ。一般的な当然のモラルとして…」
「愛情にモラルは関係ない。そしてセックスは素晴らしきコミュニケーションだって言ってた」
「誰が?」
「嶌谷(とうや)さん」
「呆れた…なんて事を教える人だ」
 慧は肩を落として頭を抱えた。別に嶌谷さんを悪者にするつもりはなかったんだけど…印象を悪くしてしまったかな?
「嶌谷さんが言わなくても、俺は慧が兄弟であってもなくてもセックスしたいって思うし、梓が生きてりゃ、梓ともしていたね」
「凛っ!」
 慧は本気で俺を嗜めた。
 まあ、当たり前だろうが、俺はそういう道徳心は生まれつきと言おうか、事の他少ない。
「わかってるよ。兄貴が望まない事を俺は無理に頼んだりしない。慧だって選ぶ権利はあるからね。でもまあ、セックスはしなくても、抱き合って寝るぐらいはいいんじゃない?折角立派なベッドがあるんだからさ」
「もう…わかったから…先に寝なさい。クリスマスもお開きだろう。サンタクロースも閉店だよ。待っててもプレゼントは来ない」
「もう十分…プレゼントは貰っているよ。今宵慧がいりゃ何もいらない」
 お休みのキスを催促し、与えてもらった後、俺はひとりででけぇベッドに潜り込んだ。
 夜の向こうに目をやる慧の横顔を眺めながら、独りじゃないことに満足している俺は、ゆっくりと眠りにつくのだ。





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猫日  午前中、その八 - 2009.10.21 Wed

午前中 その八
 俺達はさっきの会議室に戻って、コンビニで買ってきた昼飯を四人で取った。
 ユキには五目御飯と幕の内の煮物とか小さく砕いてあげた。さして苦情も言われなかったから美味かったのだろう。ついでに言うと、ミルクよりはお茶の方が断然好きらしい。
 眞人と岬の二人は、もうユキに関して何も言わなかった。本当に信じているかどうかはわかんなかったが。
「で、どうする?麗乃」
「何?」
「昼からの撮影、由貴人が居ないじゃん…まあ居るけどさ」と、テーブルの上で前足を舐めてるユキを見る。
「そうだな…今日は個別に撮るか、別の日に撮るかしてもらうしかねぇよな」
「了解。じゃあ俺ちょっくらマネージャーに言ってくるわ」
「悪い。頼んだ」
 言うが早いか、岬は食い終わってない弁当を片して部屋を出た。
 残った俺と眞人は黙ったまま、残りの弁当を食う。

 食い終わったユキは陽の当たる場所を見つけて、そこで身体を伸ばし寝る態勢に入ってる。
 又寝るのかよと思い、呆れながら溜息を付くと、ふいに眞人が「こいつは良く寝るなぁ」と、同じ事を言うので俺は少し笑った。
「なあ、呆れるだろ?昨日もテレビ観ながら俺の膝で寝てたんだよ…」と、つい、馬鹿正直に口に出してしまった。
「由貴人はおまえんちに泊まったのか?」
「…まあ、そう」
「じゃあ、おまえが魔法でもかけたのか?」
 眞人にしてはえらいロマンチックな事を言い出すもんだと思ったが、その通りだと言わざるを得ないところが何とも…
 俺はコクンと頷いた。
「なんか…目が覚めたら、こうなってた…ホント参る」
「元に戻るんだろうな」
「そうじゃないと困る」
「おまえもだが由貴人が一番困るだろう」
「…ん…」判ってるけど…
「どうすりゃいいのか、わかんねぇ…」
「…」
 二人で既に気持ち良さ気に寝ている由貴人を見つめる。

 …猫だったら可愛いなぁとは確かに思ったさ。けれど本物の猫になって欲しいとか望んでなかった。
 もう猫のユキはかっわいいなとか思わねぇから、人間のユキに戻って欲しい。

「大丈夫なんじゃね」
 由貴人を見つめ続けていた眞人が、突然きっぱりと言い切った。
「えっ?」
「なんだかそんな気がする」
「何?…眞人に魔法能力なんぞあったか?」
「馬鹿、そうじゃなくて…おまえの想いが強かったら、きっと由貴人は元に戻る。…そんな気しねぇか?」
「そうなら…いいけどな」
「お姫様の呪いを解くのは王子様のキスだろ?」
「呪いをかけたのは俺なのに?」
「そう、だから解くのもおまえにしか出来ない」
 実に真面目に言われたので、冗句で躱す気にはならなかった。

「…俺にしか出来ない…か」
「ユキ自身がどうなのかは判らんけどな」
「判らんって?」
「いや…案外猫の方が心地良かったりしてな」
「まさか」
「さっきも…あの掃除のオジサンにな、連れて行かれそうになったじゃん」
「…ん」
 思い出したくもねぇし。
「あん時、ユキ全然嫌がんねぇの。黙ってそのオジサンに首んとこ摘まれてんの。…暴れりゃいいのに」
「…」
「なんかそん時思ったわ。由貴人はもう…なんか猫でもなんでもユキはユキなんだなぁってさあ」
「…うん」
「だからもう、…おまえ絶対離すな、ユキを」
「わかった」


 岬が戻って来た。
 結局撮影は由貴人無しでも予定通りやる事になったらしい。由貴人だけ別撮りって訳だ。
「ほら、コレ、いいもんあったから貰ってきた」と、岬が目の前にシルクみたいな生地の赤いリボンをぶら下げた。
「何?」
「ユキにすんの。首輪とかしてないから、野良と間違われんの。これでもしときゃ飼い猫だって判るしょ?」
それはいい考えかも知んねぇ。
「由貴人、起きろ」
 俺は寝ているユキを起こした。勿論抱いてやって優しくね。
 由貴人は顔を上げてにゃあと眠そうに応える。 

「ユキ、じっとしてろよ」
 岬がユキの首にリボンを掛けて、きつくならない様に注意しながら、背中んとこで蝶々結びにする。
「はい、できあがり!」
「…」
 テーブルにお行儀良くお座りをして、ちょっと首を傾けた由貴人はなんか…ちょっと…やばい…

「すげぇ、可愛いじゃん!」
「なんかモデル猫みたいだな」
「写真撮ったらマジ売れるぞ!」
「ふむ…これで猫のユキに萌えたら、俺もおしまいだな」
 …おい、すでに終ってる俺はどうすんだ?
 しっかし…有り得ねえ程可愛いじゃん。
 恐ろしきかな、赤いリボンの魔力。
 さっき俺は、猫のユキはもう十分だと思っていたのに…こんなに可愛いともうちょっと猫でもいいじゃん…とか、思っちまうだろうが…
 …サイアクだ、俺…ごめんなユキ…やっぱ猫のおまえも可愛いわ…


 何でも行動に移すのが早い岬が、カバンからカメラを取り出し、早速由貴人を被写体にし始めた。
「つーか、おまえまたカメラ買ったのか?」
 見かけねえ新しい一眼レフカメラを自慢げに見せつけ、格好つけながらシャッターを押しまくる。
 ユキは逃げる様に俺に抱きついてきた。言いたい事がありそうなんで頭に乗っけてみる。
『岬、ニタニタしてて気持ち悪いよ。なんであんなに俺撮るの?』
「…」
 そりゃおまえが可愛いからだろ?
「気にすんなよ。それよりユキ、午後から撮影で外行くけど、いい?」
『いーよ。なんかね、猫の視点で観んの、面白い』
「そっか」
 思いもかけず暢気な調子で言われたので、由貴人は猫の方がよっぽどポジティブじゃないかと、思わず笑った。
「ユキ、絶対俺から離れんなよ」と、言うと、
『麗乃が離さなきゃね』と、頭を叩かれた。

 もう絶対離すかよっ!


午前中 終わり


neko


7へ

一応、午前中はコレで終わりです…こんなの最早BLではないんですが…www
いや、終わりまで考えてはいるんですが、なにしろキスさえないので…猫とはするが~
そんなわけで、ここからは暫く放置(;^ω^)
そして、すべての更新は一日おきにします~

イラは…適当に鉛筆で~すんませんね~(;´▽`A``





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猫日  午前中、その七 - 2009.10.20 Tue

午前中 その七
「じゃあ、俺らちょっと飯買ってくっから」と、ユキを眞人に預けて岬とふたりコンビニへ走った。
「ち、ちょっと、麗乃。そんなに急がなくってもさ…別にマコちゃん、ユキを食ったりしねぇし」
「いや、悪戯ぐらいはやらかすかも知れん。なにしろ眞人だからな」
「どこまで信用してないんですかぁ?」
「…」
 信用とかの問題じゃねぇし。ユキが…猫の由貴人が可愛すぎるんだよ。
 あれじゃあ誰だって変な気持ちになるって…お、俺だけか?
 とにかく、用事を済ませたらさっさとユキんとこに戻るから、待ってろ、ユキ。

走って五分のコンビニのドアを開ける。
「ユキが食べるもんってキャットフード?」
「待て、いくら姿が猫でも中身は人間のユキだ。猫用じゃあんまりだろ」
「じゃあ、パンとかおにぎりとか…味濃くねぇか?」
「弁当の白飯なら味はついてねぇだろ」
「牛乳は?」
「お茶ってわけにはいかねぇか?」
「さっぱり訳わかんねぇし。大体猫になったら味覚変わんのか?」
「わからんし。なんせ猫になったことはねぇ」
 乳酸飲料棚から小さめの牛乳パックを手に取る。
「猫に普通の牛乳飲ませたら、腹壊すって聞いた事ある」
「マジで?」
「うん」
「どうする?」
「コレ…おなかに優しい牛乳って奴にすればいいんじゃねぇかな」
「…じゃあ、それで」
 ユキと俺達の分の昼飯分を買ってコンビニを出る。いつもなら雑誌見たりのんびりするところだが、事情が事情だからな。のんびりなんかしていられるか。

 事務所に戻ってエレベーターを降りようとしたら、眞人とかち合った。なんか慌てている眞人の様子を見て、俺は嫌な気がした。
「由貴人が…」
「ユキがどうしたっ!」
 思わず眞人の肩を掴んだ。
「居なくなった」
「…なんでっ!」
「いや、俺がちょっとスタッフに呼ばれて部屋を出たんだよ。ユキ…窓際で気持ち良さ気に寝てたから、そのまんま、部屋に残して…わりぃ」
「ばっか…」
 急いでその場を駆け出そうとすると、俺の腕を掴んで岬が冷静な声で眞人に問う。
「で、眞人。ユキはどこに居るかわかる?」
「な、なんか、掃除のオジサンがあの部屋に入ったって情報は掴んだ。猫を抱えて階段下りて行くのを見たってのも聞いた」
「わかった。じゃあそれぞれに分かれて探そう。見つかったら携帯で連絡して。いい?麗乃」
「ああ、わかった」
 俺はエレベーターを待てずに階段を下りていった。

 なんで…目を離したんだよ。あんだけ由貴人の事頼んどいたのに…
 俺は眞人を責めたい気持ちで一杯になる。違う。眞人を責めるのは筋違いだ。元はといえば俺の責任だ。ユキを置いていったのも俺だし、ユキを猫にしたのも俺だから…
 もし、…ユキがどっかに連れ去られて、保健所やらに連れて行かれたら…と、思うだけで身体が震えた。

「…っう…」
 …呼吸困難で倒れそうになる。
 階段を踏み外しそうになり、手すりにしがみついた。
 駄目だ。しっかりしろ。俺が由貴人を守るんだ。

 八階から一階まで一気に駆け下りて廊下を走ると、エレベーターの前で立つ岬と眞人の後姿を見つけた。
「岬!眞人!」
「あっ、麗乃!由貴人見つけたよっ!」
 岬の言葉と同時に、振り向いた眞人の腕に抱かれた白い物体を俺の目が捉えた瞬間、俺は一気に気が抜けてそこにしゃがみ込んだ。安堵するとはこういう事かと身を持って体験した瞬間だった。

 ふたりが立ち上がれない俺のところにやってきた。もちろん由貴人を抱えて。
「大丈夫か?麗乃」
「悪かったな」
「…いや、いい。由貴人が居たんなら何も問題ねぇし…どこに居た?」
「丁度ね、オジサンが専用口を出るところだったの。そんで、急いで返してもらったの」
「なんか…野良猫が紛れ込んでると思ったらしい」
 アホかっ!なんでこんなにキレイなユキが野良なんだよっ!血統書付きでもこんな可愛い奴はいねぇし!
「まあ、良かったじゃん。ネコ…じゃねぇ、ユキ無事で」
「ほら、心配させて悪かったな」と、眞人がユキを俺に渡した。

「ユキ…」と、呼ぶとニャアと応えた。
 ユキが俺に近づいて顔を舐める。
 その時初めて俺は自分が泣いてた事を知った。





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green house~ 宿禰凛一 「Swingby」 1 - 2009.10.19 Mon

慧一&凛一12

Swingby
1、
 兄、慧一の乗った飛行機の到着が大幅に遅れた所為で、俺達はかなり遅い夕食を取る羽目になった。
 電車で帰宅するのも面倒になり、俺はどこかのホテルに泊まろうかと提案した。
 今日はクリスマスだから、早々簡単に空きの部屋はないだろうと、覚悟をして新橋の高級ホテルに伺うと、たった今キャンセルがあり、ひとつだけスイートルームの空きがあるという。
 男二人でスイートかよ!と、思わないでもないが、いい加減ふたりとも疲れ果てていたので、それで良しとなった。
 
 35階のそのスイートな部屋は、入るとまずキングベッドのでかさに驚いた。テーブルを初めとする調度品もさすがは、ゴージャス。窓際にベッド代わりで丁度いいようなカウチがある。その向こうの大きなガラス窓から見えるのは東京の夜景だ。
 青みがかった闇と、ビルのイルミネーションの狭間に広がる仄かに白く浮かぶ空間に、俺はしばらく見とれていた。

「慧、見て。タワーが見えるよ」
「伊達に高い金は取ってないっていうことだろう。しっかし…めちゃくちゃ高かったぞ~」
「クリスマスにケチな話をしなさんなよ。全く兄貴はロマンチストじゃねえな」
「今日は謝るしかないね。原因は俺にあるからな」
「別に慧を責めてるわけじゃない。まあ、どちみち弟とじゃ甘いムードにはなりえない…しかし、でけえベッドだ。クリスマスに何もしないカップルはいないだろうけど、これだけ広けりゃあ、どんだけ変体プレイしても落ちないよね。それとも3P用かな~」
「おまえなあ~」
 慧が呆れながらも視線が怒りかけているのがまるわかりで、俺は身を翻してさっさと浴室に向かう。

 バスルームにはシャワーブースが付いていて、バスタブにお湯を張る間にシャワーで身体を洗う。
 シャボンを入れた所為で、バスタブは泡にまみれていて、湯に浸かるとカモミールの香りがあたり一面にして、なんだか変な気分だ。
 横のブラインドを上げると、硝子越しに部屋が見える。
 手を振るとカウチに座った慧がぽかんとこっちを見ている。
 俺は立ち上がって、身振り手振りで灯りを消してくれと伝えた。
 慧はわかったと手を上げ、部屋の灯りを暗くした。
 勿論浴室の灯りも消した。
 辺りが暗くなると、窓の外の淡い光が部屋の中に忍び込んだ。
 真っ暗な闇とビルの明かり、タワーのイルミネーションの見事なコンビネーション。
 昼間の街並みの喧騒などまるで感じさせない異次元の空間。
 地上と夜空との境目の群青色が見事だ。
「綺麗だ…」
 俺はこんな世界で生きているのかと、胸が熱くなった。

 なにもかも許されている気分でしばらく見とれて硝子に張り付いていると、突然慧一が浴室のドアを開け、「いつまでもそんな格好で突っ立ってんじゃない。いいかげんにお湯に浸かってあったまれよ。風邪引くぞ!」と、怒鳴りつけられた…
 何が気にいらないのかわかりかねるが、今日の慧は怒りっぽい。長旅の疲れで苛立っているんだろうな。
 俺はそそくさと風呂から上がり、バスローブを巻きつけると、部屋に帰った。
 部屋の灯りはベッドサイドの灯りを弱めにしただけにして、いつでも夜景を楽しめるようにした。
 バスローブのままベッドに寝転がる。
 ランプシェードの拡散した光が、天井に輪と星の模様をいくつも作った。

「綺麗だ…宇宙にいるみたい」
「…ああ、無限のソラだ…」
 俺たちは天井を仰いだまま、贋物の宇宙のソラに見惚れていた。贋物の信者達が集うクリスマスには相応しいソラに違いない。

 しばらくすると交代で慧がバスルームに向かった。
 ベッドの寝転がったままガラス張りのバスルームに目をやる。
 勿論、ブラインドは締め切っている。別に兄貴の裸を眺めなくてもいいんだが、なんだか影だけちらちらするのも妖しい。
 兄貴に欲情するのも馬鹿馬鹿しくなり、俺は時計を見た。午前一時を過ぎてはいたが、なんだかミナの声を聞きたくなり、携帯を取る。

 呼び出し中になった途端に繋がり、ミナの少し焦った声が聞こえた。
 俺はすっかり嬉しくなって、ミナをめちゃくちゃ甘やかしてしまいたくなる。
 このベッドで今すぐおまえとね…なんてね。慧が聞いたら叱られるぐらいじゃ済まされないね、きっと。






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宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら  




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猫日  午前中、その六 - 2009.10.18 Sun

午前中 その六
「んなこと言ったって、ホントにユキは喋るもん」
「どれ、俺に貸してみ?」横から眞人が由貴人を抱き上げて、躊躇無く頭に乗せる。
「ユキ、なんか喋ってみな?」
 にゃあ
「…」
 にゃあ、にゃあと続けざまに由貴人が鳴く。
 いや、懸命に喋っている。しかし、肝心の眞人は腕を組んでう~んと唸ったまま、何も言わない。

「…残念だが…俺にもニャアとしか聞こえねぇな」
「…マジで?」
「うん」
「…ユキ、おいで」両腕を差し出すと、力無くニャアと鳴いて素直に俺の中に戻ってくれた。
 …なんであいつらに聞こえねぇんだろ…
 俺は由貴人を頭に乗せた。
「ユキ」
 にゃあ…
『うん…あいつら聞こえないみたいだね』
 ほら、やっぱりユキの声、ちゃんと聞こえるじゃん。
「なんで、俺にしかわかんねぇんだろう」
『やっぱ…原因がおまえだからじゃねぇの?』
 …ご尤も…
『後さ、テレパシーとかね、波長が合うとか合わないとかさ、あるんじゃねぇの?』
「波長か…まあ、考えられるけど…」
『まあ、しょうがねぇよ』
「しょうがねぇな」

「あ、あのな、麗乃?…大丈夫か?」と、岬を見れば明らかに怪訝そうに俺を見る。
「そんな顔すんなよ」
「だってさ。なあ、マコちゃん」
「まあな、いくら香月が真剣にゆってもな。簡単にはハイ、ソウデスカっては言えない」
「よく考えろよ。おまえの頭の中で作り上げた妄想話と現実を見間違えてるとか、そういうのもあんだろ?」
「そうくるか…」
 そう…なのか?
 頭の上のこいつが本当は由貴人じゃなくて、普通の猫で、そんで俺がユキが喋ってるって思い込んで、頭の中で現実を摩り替えてる?…そういうことなのか?
 じゃあ、由貴人はどこにいんだよ。

「ユキ…」
 誰に言うでもなく力無く呼んでみた。
 ニャア…
『レイくんの言いたい事わかるよ。眞人達が言うのもわかるしさ。でもな、やっぱり俺はおまえの頭の上にいる猫だし、俺だってこんなになってんのが信じられないし、無茶苦茶ヘンなんだけど、現実に意識がここにあんだろ?なら、俺は猫なんだって認めるしかないし…それにちゃんとさ、おまえはわかってくれてるだろ?だから…別にいいよ』
 そう言うと、由貴人は前脚で、俺の額をポンポンと軽く叩いた。
「…ん」
 なんか胸が熱くなった。
 すべてを甘受してそんで許してくれてるんだな。ありがと、ユキ。

「…麗乃、そいつ何て言ってんの?」
「うん…信じてもらえなくても俺がわかってりゃいいって」
「…まあ、ユキが言いそうな事ではあるけどさぁ」
「…俺はなんとなくだが、こいつが由貴人なんじゃねぇかなって思えるだよな」
「おい、眞人」
「マジで?マコ、そう思ってくれる?」
「なんかな…似てんだよ、由貴人に。ユキが猫になったらって想像すると、こんなになります!みたいなもんが現物として存在してるみたいな、な。そう思えるちゃー思えるんだがな」
 腕を組んだまま左右に頭を振りながら、眞人が続ける。

「…俺も色々猫見てきたけど、こいつなんか相当人間臭いし…まあ、昔から死んだら人間は猫に化けやすいって言うしな」
「おい、由貴人を勝手に死亡させんな」
「つうか、この猫ユキ臭いんだよ」
 本当に信じてくれてるのか、眞人っ!。おまえはいい奴だ!男の中の男だ!
 感動しているとニャアと由貴人が頭の上で鳴いた。
「…」
「なんて言ってんだ?由貴人は」と、眞人が聞く。
「『また眞人は適当なことばっか言ってやがる』」まんま通訳した。
「ハハッ…ユキならそう言うに違いねぇ」と、岬が笑った。
「しかたねぇな。、まあ、こんなんなったなら早くユキが人間に戻る策でも考えようよ。どっちにしても猫のままじゃバンドも活動できませんから」
 殊更におどけながら言う岬が、どこまでこの事実を信じているか分からなかったが、理解しようとしてくれてる思いは嫌でも伝わったので、俺は友情の深さに改めて感謝しつつ、手を合わせて頭を深々と下げた。
 …ンニャア!
 予測できなかったのか、頭の上の由貴人が床に転げ落ちた。
 ……ゴメン。忘れてた…
 床に転がって両足をばたつかせている由貴人を見て、岬がため息を吐きながらひと言。
「こいつ、やっぱユキだわ」




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猫日  午前中、その五 - 2009.10.18 Sun

午前中 その五
「レイくん、ここに居たのかよぉ~」
 三十分ほど経って岬と眞人が俺を見つけてやって来た。
「ゴメン、ちょっと一服やってた。ミーティング終った?」
「うん、大丈夫だよ。スケジュール調整が主だったし…それよりさ」と、テーブルに横たわって頭をこっちに向けて俺達を見てる猫のユキを見て岬が口を開ける。
「この猫なんなの?」
「…人から預かった…」
「誰?」
「…お、まえの知らない奴」
「…嘘付くなよぉ。別に文句たれる気ないから、ホントの事言えって」
 …ホントの事言って、おまえ信じるのかよ。とも思ったが、こいつらには真実を話しておいた方がいいだろうと思い口を開く。

「…あの、な…」と、言いかけたところでガラスの向こうから人が入ってくるのが見えて、俺は由貴人を抱き上げた。
「話、ちょっと長くなるから、別の部屋行こう」
 ふたりは黙って付いて来た。

 空室を確認して会議室に入る。
「鍵掛けて」
「えっ?なんかすげぇ話?」
「ちょっと座って」
「…おい、何が始まるんだ?」
「…おまえらを信用して話すから、あの、驚かないで聞いてくれな」
「…なによ、気持ちワル…」
「どうしたんだ?麗乃。なんか悪いもんでも食ったのか?」
「実は…ユキが…」
「そういやユキはまだ来てねぇけど、また風邪かなんかか?」
「だから、俺の話聞けよっ!」
「…はい」
「あのな、こいつが由貴人なのっ!」
 俺は腕に抱くユキ猫を岬達に向けながら、二人の顔を見た。
 …完全に呆れている。
 わかる…

 にゃあとユキが鳴いた。
「…あの、こいつって言われても…コレ猫でしょ?」
「だっから、朝起きたら、ユキが…猫になってたんだってっ!」
「…」
「…」
「…」
「おまえ…仕事のし過ぎで…病院…い、家帰った方が良くねぇか?」
「つうかさぁ。もうちょっと真実味のある嘘つけよ。やりすぎていくらユキが寝込んでるからって」
「やってねぇよっ!」
「…じゃあなんで、ユキ来ないんだよ。昨日おまえユキと会ってたんだろ?」
「だから、こいつがユキだっつって言ってんじゃねぇかよ」
「…いくらおまえが真剣に言ってもな…あんまり非現実的だと、頭おかしいんじゃないかってマジで疑われるから、な。もう、いいんじゃねぇか?」
「いや、あのね、ホントの事で…はぁ…」
「…」
 にゃあ
「……マジで?」
「は?」
 にゃあ
「スマン」
「…何で?」
「知らん」
「うそ」
「いや、マジで」
「この猫がぁ?」
「そう…ユキ」
 にゃあ
「…はぁ~?」
「いやいやいや…困るだろ、それは」
「非常に困ってる」
「…」
「ふ~む…似てると言えば…似てる…か?」
「ユ、ユキ?」
 にゃあ、と、由貴人が岬に近づいて行く。

「ユキ?」
 にゃあ
「そうだよって言ってる」
「う、うっそ!」
 にゃあ
「おまえ…わかるの?この猫が言ってる事」
「猫じゃねぇ、由貴人だ。ついでに言うと今のは嘘だ」
「だっ!…お、おまえこんな時にふざけんなっ!」
「悪い。おまえの顔が面白かった。つうか、由貴人を頭に乗せたら、話せる」
「あ、たま?」
「うん、ユキの声で喋るから、やってみ?」
「…マジかよ…」
 目の前に居る由貴人をおそるおそる抱きながら、岬が自分の頭に乗せる。
 ブッ…笑える。
 猫を頭に乗せただけでこうも笑える形態になるんだ。
 くっくっと笑いを堪えていると、岬が露骨に不機嫌な顔をして俺を睨んでくる。
 頭上の由貴人はにゃあにゃあと鳴いている。

「ふざけんなよ、麗乃…なんも聞こえねぇじゃねぇかっ!」
「…なんか話せば?」
「…ユキ?」
 にゃあ
「…俺、岬だよ?おまえ…本当にユキなの?…って、わかるかよっ!…なっ!い、いってっ!」
 由貴人の前脚が岬の額を軽く引っ掻いた。
 「な、何すんだよっ!」
 頭を振って振り落とそうとする岬より一瞬早く、ユキが頭上からテーブルに飛び降りた。
 怒る岬を尻目に由貴人は走って俺の胸に飛びつく。

「な、なんだよ、こいつ」
「馬鹿にしてる態度が気にくわねぇんだよ、ユキは」
「バカにって…つーか、そいつニャアしかゆってねぇじゃんっ!どこがユキの声で喋るだと?いい加減なことゆうなよっ!」
「…ウソ」
 今度は俺が驚く番だった。
「何が?」
「おまえ本当に…ユキの声聞こえなかったの?」
「聞こえるかよ。どー見たってそいつは猫だろ?猫が喋るかよ。大体こいつがユキとかゆうおまえがおかしい、麗乃、ホントに頭大丈夫?」
「…」
 俺の頭の世話まで要らぬ心配だが、マジで由貴人の声が聞こえないって…どういう事なんだ?
「岬、本当に聞こえなかったのか?」
「…聞こえねーよ」
 真剣な顔だったので、信じる事にした。
 で、今度は抱いているユキに目を移してみると、ユキは俺を見て軽く首を傾ける。
 …何で?俺には聞こえるのに、岬にはわかんねぇの?





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猫日  午前中、その四 - 2009.10.17 Sat

午前中、その四
 由貴人を抱いたまま、表通りに出て手を挙げてタクシーを止める。
 後ろの座席に乗るなり運転手がユキ…猫を見て「猫かぁ?」と嫌な顔。おまけに舌打ちまでされた。
「大人しいですから、大丈夫です」と、頭を下げると、渋々と発進した。
 由貴人を見ると納得いかない顔をしている。心なしか口唇尖ってるし…
 猫であっても中身は全く変わってない事に今更ながら感心しつつも自然と顔は綻んでしまう。
 そのまま抱っこしてると、話したいのか頭に乗りたがるけど、さすがにココじゃ変な人に思われるのがオチだろう。後でヘンな噂立てられても困る。
 小声で「後でね」って言って、でっかい目のすぐ上んとこにキスしたら、ニャーと言って叩かれた。
 …一応公衆ではあったな。ゴメン。

 事務所のビルに入ると、誰彼もが俺を見る。
 …ってゆーか、俺の腕の中の由貴人を見る。
 ユキを見ては一往に、皆微笑んだり、手を振ったり、「かわいい」と、声を上げたりしてる。

 すげぇな、猫一匹でこんなにも空気が和むんだ。
 戦争なんぞしてる状況でも、猫被っていたら、銃なんか向けなくなるんじゃないのか?
 なんて、くだらねぇ事まで考えちまったじゃねぇか。

 顔見知りの事務所の女の子が寄って来て「香月君、どしたの?かわいい猫ちゃん抱っこして」って、抱いてる由貴人の頭を撫でる。
「うん、ちょっとね」
「うわっ、近くで見ると…ホントすっごくかわいいよね。ちょっと抱っこさせて」
「えっ?」
 どうしようと思ったが、腕の中のユキがニャ~って鳴いて俺にしっかりとしがみついた。
「あら、猫ちゃん嫌がってる…」
「ごめん。あんまり人に懐かないみたいなんで」
「…香月君、なんか嬉しそうだよ」
「そう…かな」
「意外と…束縛するタイプと見た。恋人も絶対人に見せたくないタイプでしょ?」
「そんなことはないと、思うケド…」
「うーむ…そうやってるとさ、その猫恋人みたいよ、香月君の」と、意味深な顔をして笑う。
「…はあ」
「じゃあね」と、彼女には離れていった。

…恋人だって。束縛してるんだって…鋭いな、女って…怖いな、女って…
『おまえが露骨な顔してんだよ』と、由貴人の声が聞こえた気がした。
 案の定ユキが呆れ顔で俺を見上げていた。


「すいません。遅れました…」
 三十分以上も遅れた事を詫びながら会議室のドアを開けた。
「…」
 思ったよりも大人数。二十人近くの人達が一斉に俺の方を見た。
「おっそいよっ!レイくん」
 一番奥に座っている岬が大袈裟に手を振る。
「ゴメン、ちょっとゴタゴタしてて」
「えっ、何?その猫」
「あ、これは…」
「つーか、ユキがまだ来てねぇんだけど、レイくん、知らない?」
「えっ…と…」
「いっから、早くこっち来いよ」
「う、うん」
 何も言わせない気か、こいつは。と、思いながら岬が呼ぶ方に行こうと思ったら、「ハクション」と、ひとりのスタッフがくしゃみをした。そして、立て続けに何回か繰り返す。
 俺は立ち止まってその人の方を見る。

「…すいません。俺、猫アレルギーなんです…」
「えっ!…ああ、す、すいません…ごめんなさい」
「香月君、ちょっとその猫、誰かに見ててもらったらどうかな?」
「はい、そうします」
 俺はその猫アレルギーの人の止まらぬくしゃみを耳にしながら、由貴人を抱いたまま即効会議室から出た。

 マジか、猫アレルギーって…まあ、そあいう人も居るだろうけれど。
 しっかし、どうするかね。誰かにあずけるったって、そんな事できるわけねぇだろ、大事なユキを。

 仕方ないのでガラス張りの喫煙室へ向かう。

「はぁ~」
 由貴人を喫煙用のテーブルに載せて一服する。
「疲れた~」まだ何もしてないけどな。
 にゃー。ユキが俺を見て鳴く。
「ユキも疲れた?」
 にゃあ…
「ん?」
 由貴人は伸びをして手招きする。
 抱っこ?…ああ、話したいって事か。
 相互理解の為、ユキを抱っこして頭の上に乗せてやった。
 …一応周りに人が居ないか確認した上で。

『あの人大丈夫だったかなぁ』
「うん…」
『初めて見る人だった』
「新しいスタッフの人だろうね」
『若かったし…悪い事したね』
「別に、ユキが悪いわけじゃないし…おまえが気に病む事じゃねぇよ」
『…行かないの?』
「ん」
『俺ここで待ってるから、麗乃は行きなよ』
「いい。話は後で岬達に聞くから」
『…』
 由貴人はそのまま黙りこくって、俺の頭上から飛び降りた。

 …おまえの言いたい事判るけど、俺の気持ちも考えてくれ。
 おまえをひとりにして置いてなんか行ける訳ねえだろうが。







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猫日  午前中、その参 - 2009.10.16 Fri

その参
 由貴人は…猫はさっきからリビングのテーブルの上に大の字になって寝そべっている。
 日も高くなってきて、サッシからの陽が当たっているから、日向ぼっこみたいで気持ちいいんだろう。
 俺はあんまり刺激しないよう、声を掛けるのも遠慮しがちになる。
 そりゃ、色々と聞きたい事はあるさ。
 猫になった気分はどうかとか、世界はどう見えてるだとか、身体とか…ど、どうなんだ?とか…
 まあ、この状況じゃどうしたってそんなポジティブにはなれねぇだろう。
 ユキだしな…それにどう考えても原因は俺にあるし…

 どうすっかな…これから仕事あるし…ん?仕事?…そうだよ。今日の仕事どうするよ。今日は…
 スケジュール表を見る。
 十時からミーティング、これは風邪だとか言って誤魔化せる。
 昼からは撮影…由貴人が居ないとまずくねぇか?
 …しょうがねぇ、日にちずらして貰うか、別撮りにでもするか。
 顔洗って、出かける支度をする。
 腹は減ってもいないけど、こいつには何か食べさせねぇと…と、思っても…牛乳も、一欠けらのパンすらなかった。パスタなら作ればあるけど、食べるかね、猫が。
 なんかレトルトのおかゆとかさ、買っときゃ良かったと思うけれど、無いものは無いので仕方ない。

「ユキ、お腹すいた?」
 仰向けに腹出して寝てる由貴人を見て、その格好は気持ちいいのか?とか、腹出して寒くねぇのか?とか思ったが、取りあえずナニを見て男だと確認した。デカイのかどうかは判らんけどな。
 しかし、腹も白い。
 白って言うより光に照らされると銀色がかって見える。耳の灰色も青みががってみえるし、尻尾の先…五センチほどのところも耳同様に灰色だ。
 毛並みはペルシャ猫みたくふわふわじゃなくて、光沢のあるスベッとした感じ。でも触ると中々柔らかくて気持ちいいんだ。
 なんだろ…由貴人は猫になっても俺の一番のツボを突いてくる。可愛くて綺麗で…いや待てよ。俺の願いが叶ってこの姿になったんだから、俺の気に入るのは当たり前か。と、思ったところで気がついた。

 …この極めて拙い状況で、こんな不謹慎な事を妄想する事態、全くもって良くねぇ事なんだよ。
 で、でもな…ちょっと…ちょっとはなんか嬉しい…って事は、由貴人には絶対知られてはならねぇ本心だ。


「ユキ…」
 返事の無さはご機嫌斜め、まだ不貞腐れてるってことなんかなぁ…そりゃね、現実こんな事になっちゃえばパニックになるか、はたまた引きこもるかのどっちかだろうけど…
「ユキ、俺、仕事に行くけど…」
 本当はここに一緒に居るのがいいんだろうけど、なんかね、部屋に居座ってても何も動かねぇんだよ、状況も空気も。だから、ユキ本人はともかく、俺だけでも由貴人が元に戻る手がかりでも探さなきゃ。
 すると、ユキは思いもよらず、俺の言葉に反応して顔を上げるとすっくと身体を起こして俺に近寄ってくる。
「…一緒に…来るか?」
 しっかりと頷くのを確認した俺は、テーブルに両腕を差し出した。
 尻尾をピンと立ててゆっくりと近づく。
 俺の腕に優雅に収まるのを見て、思わず小さく吹いた。
 全くこいつは…

 俺の大事な大事なお姫様だよ、猫になってもね。






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猫日  午前中、その弐 - 2009.10.16 Fri

その弐
 うっ…そ…んな事…マジでありえんのかっ!漫画じゃん!漫画じゃなかったら…ゆ、夢だっ!んな事信じられっかよっ!…で、でもこの手に抱き上げてるコレは…猫…猫以外には見えねぇんだよ…しかも…由貴人と言われりゃ…そうかもって…思えねぇ気がしないでもないところが…怖ぇんだよ…だって…だって俺…こんなにドキドキしてんじゃんっ!

『あっ…んで…』
「…聞こえねぇし」
『…が…なん…』
「ユ、ユキ?」
 目の前の由貴人っていう猫は頭をブンブン振って、にゃあにゃあと鳴く。
「わっかんねぇしっ!」
 焦った俺は思いかけずでかい声で怒鳴った。ビクッと猫が身体を震わす。
「…ごめん…」
 反省して優しく抱き寄せて頭を撫でる。
 俺を見つめていた猫は、何かを思いついたように一声鳴くと、身体を動かして俺の肩によじ登り、前脚を耳んところに引っ掛けてもっと登ろうとする。
「何?頭の上にでも乗っかりたいのか?」
 この猫の行動の意味など知ったことじゃないが、とにかく他に良案もないので、望むままに頭に載せてやった。
 他人が見たらお笑い種だったろう。
 まさに猫を被った人間だ。

 猫は前脚を俺のオデコのところに揃えて、落ちないようにと必死で後ろ足で足場を作ろうともがいている。
「大丈夫かぁ~?」
『なんとかね』
と、今度は比較的はっきりと聞こえた。勿論由貴人の声音で。
「ユキ?」
『そうだよ』
「ホントに?」
『さっきからそればっかだよ、麗乃』
「…嘘だ…」
『…俺が言いたい、よぉ…』
「お、おまっ…なんで…ね、猫になってんだよっ!」
『…だから俺が聞きたいって!つーか、何で俺、猫になってんのさ』
「知るかっ!」
『麗乃、昨日、俺になんかしなかった?』
「はぁ?」
『なんかさぁ、変な事…こう…魔法とか…呪いとか、マジでやってねぇ?』
「ばっ!なんで俺が呪い…とか…」
 …思い当たる…節が無い事は…無い…気がする。
『なんかやったでしょう』
「ばかっ、や、やって…ねぇし…」
『嘘だ。今の声、心なしか語尾が上がってたし』
「うっせ…」とは言っても、なんか段々と思い出してきたぞ…

…そういや昨晩…


 由貴人が泊まりに来て、そんで一緒に風呂入ってイチャイチャした後、ふたりでTVを観だして、丁度猫の映画とかやってて、ふたりとも猫好きだから「かわいいよな~」とか、言ってたんだよ。そんでいつのまにかユキが寝付いてて。

 俺の膝枕で気持ち良さ気に寝ているユキが可愛くて、頭とか頬っぺたとか撫でたりしてたんだよ。なんか、猫みたいだよなぁ…とか、由貴人が猫だったらすっげぇきゃわゆいだろうにゃ~とか…ヤバイ…思ってたよ、確かに。

 で…その映画の後のバラエティ番組をなんとなく観てたら、「超能力コーナー」みたいなのがあって、その自称超能力者のあんちゃんが「TVの前のあなたも超能力が使えるように、私がパワーを与えますっ!」って両手をTV画面に向かって差し出して…「さあ、手を差し伸べて。今あなたの欲しい物をひとつ頭に浮かべなさい。それがこの私の手の平のパワーによってあなたの力を増幅させ、望みが形になるのですっ!」とか、大袈裟なジェスチャーでもって有得ない出任せ叫んでいた…気がする。
そんで、ばかばかしいなぁとは思ったんだけど、左手をこうね、画面に伸ばしてさ、右手は眠っている由貴人の頭を撫でて…「こいつ猫になんねぇかな…」なんてね…


『…』
「マジ冗談だったんだってっ!じょ…冗談でポロッと口に出したのっ!」
『本気で願ったろ…』
「…」
 だって、そんなの信じられっかよっ!
『麗乃ぉ…』
 そんな…簡単に頭に描いた願いが叶ったら、この世の中どんだけ平和になるってんだよ。
『レイくん?』
 そりゃ願ったよ。願ったけど…俺?俺が悪いっての?…だって、だってユキが猫になったらかわいいじゃんよ…俺は別に悪くねぇよ…
『麗乃っ!』
「…すんません、俺が悪かったです。本気で思いました」
『はぁ~』
「けど、けどさ、まさかマジで猫になるとか思わねぇだろ?普通は」
『じゃあ、おまえは普通じゃねぇって事なんじゃねぇ?』
うっ、それを言われたら何も言えねぇし…
「…ほっんと、ごめん、ユキ」
『もう…知らね…』と、言う声とにゃあというため息にも似た鳴き声を同時に聞く。
 そして、俺の頭から飛び降りた由貴人が今度は上手に着地して、こっちを見ようともしないでベッドを降りた。
 その後姿を見送って、俺は物凄い良心の呵責に苛まされてきて…
「ごめん…」
 もうこの部屋には居ない由貴人に謝った。





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猫日  午前中、その壱 - 2009.10.15 Thu

午前中 その壱


 朝、起きたら、隣りに猫が居た。
 …おい、寝ぼけてんのかと思い、両手で目を擦り、もう一度同じ場所を見た。
 猫が…横向きに寝ている。真っ白の…いや、よく見てみると両耳が灰色がかっている。

 …よく考えろ…昨晩はここには…あいつが居たはずだよな。
 …間違いない。ギュッって抱きしめて、あいつのぬくもりを感じたまま寝付いた記憶ははっきりとある。
 じゃあなんで…あいつの寝ていた場所に猫がいるんだよっ!しかも…奴が着ていたパジャマの上に我が物顔で堂々とその長細い身体を気持ち良さそうに伸ばして…猫が…?なんで?…

「はぁ?」
 思わず間抜けた声を上げた。
 もういい。
 猫はいい。
 良かぁないが…それよりユキだ。
 あいつ何処消えやがった?例のひとり勝手散歩か?それとも俺に挨拶もしないで自宅に帰った?しかし待てよ。
 このパジャマは猫の下にある。
 脱いだ形跡じゃなくて…ほら、身体が消えてなくなって、そのまま服だけが残るみたいな…よくアニメや漫画で見かける…
 ちょっと待て…おい、まさかだろ?

 …落ち着け。
 ユキは…きっとふざけて…俺を驚かそうと思ってこんな手のかかった技仕込んで、そんでどっからか拾ってきた野良猫をベッドに置いて…
 いくらなんでも
 「…んな事するか?」
 とにかくふてぶてしく寝てる猫はほっといて、まずユキだ。

 ベッドから起き上がってリビングに行く。
 カーテンの締め切った薄暗い部屋は静かな朝の空気が漂っていて、人の気配など感じない。
「由貴人?」
 静かに、でも部屋の隅々まで行き渡るように呼んでみた。…返事は無い。
 トイレ、洗面所にも姿は無い。…そうだ、靴。と、玄関に急ぐ。
 昨日履いてたスニーカーはある。
 いや、俺の草履とか借りて行ったのかも…しかしそれもすぐ目に留めた。 
 普段あいつが掛ける事の無い玄関の鍵もちゃんと掛かっている。
 必然的にユキは外に出てはいないという結論に達した。

 …ぞわっと背中が総毛立った。
「消えた?」
 あはは…まさか…ね。
 
 リビングに戻ってみるとユキのバックがソファの横にあるのを確認して、悪いと思ったが中身を調べた。財布も携帯もある。
 …あいつ、一体全体何処に行ったんだよ…
 不安が募ってきた。と、同時に気になるのがあの猫だ。一体どこからどうやって入り込んだ?玄関も閉まっていたし、窓もどこも開いていない。

 …なんだか…物凄く…妙な妄想に囚われてくる…
 おいおい、そりゃ漫画の読みすぎだろう…
 とにかくこの疑問符を取り除くにはあの猫の正体を暴くしかねぇじゃん。と、思い、俺の足は寝室に向かった。

 ベッドを覗くと、さっきと変わらずに猫が居た。気持ち良さ気に寝ている。
 その姿がなんとも…綺麗だ。
 カーテンから僅かに入り込んだ太陽光が、丁度猫の背中辺りを照らして、白毛がキラキラ光って見える。
 …なんだか幻みたいに消えちゃうんじゃなかろうか…
 頭から背中をそっとひと撫でしてみた。あったかい。でも、動かない。
「起きないのかよ」
 脅さないようにゆっくり抱き上げた。痩せてはいるが大人の猫だ。それなりに重量はある。
 腕の中に抱いて、指で喉を擦ってみる。
「起きれよ~猫」
 頭をもそっと動かしはしたが、目は開けたくないらしい。
 ちょっとだけ舌を出して又腕に凭れた。

 …かわいい…

 世の中には猫好きも多かろうが、俺もそのひとりだ。
 それにこんな綺麗な猫は、あんまり見たことねぇしな。
 いやいや、人間も猫も外見で判断しちゃいけねぇんだけど、見た目は…やっぱ大事か…

 あんまり可愛くて、その狭い額にチュッとキスしてみた。
 …ユキが見てたら怒るかな?そんな了見狭くねぇよな…
 頭を撫でていると、大きなまなこがゆっくり開いた。それがまたなんとも…
「すっげかわい…」と、思わず呟いた。

 俺と目が合って驚いたのか、その猫は目を見開いたまま、ギャーッ!と、まさに猫を踏んづけたような声を上げると、俺の腕からベッドへと飛び降りた。
 が、敢え無く着地に失敗したらしく、ドテッと横に倒れてしばらく両足をばたつかせていた。

「おい、大丈夫か?」
 一連の動きが奴を思い浮かばせて、ちらっと気にしていた事がまた頭を支配しようとしたが、今は目の前に居るこいつで気を紛らわせたかった事は否めなかった。

「…おい」
 なんとか起き上がって態勢を整えた目の前の猫は、手を差し出す俺を睨んで威嚇するように唸った。
「別に苛めたりしねぇし…そんなに睨むなって」
 すると、今度は俺を見つめてニ、三回頭を傾げると、高いかわいらしい声でにゃあにゃあと鳴きだした。
「なんか…訳わかんねぇんだけど…何か言いたいんだろうけどな」
 にゃあ…
「俺の方も色々とおまえに聞きたいんだけどさ。ここに寝ていた人間…由貴人っていうんだけどね、そいつどこ行ったか知らねぇ?」
 にゃあにゃあと徐々に鳴き方がでかくなった。
「…ごめん…言ってる事わかんねぇの。ああ、もうっ!…猫語でも勉強しとくべきだったよっ!」
 頭を掻き毟って視線を落とした。

 ユキ…マジでさ、何処行っちゃったんだよ…
 俺には探偵とかスパイは絶対無理だ。何ひとつ…解決の糸口さえ掴めやしねぇよ…

 にゃあ…
 落ち込んで俯いている俺に同情したのか、俺の膝に前脚を乗せて、猫が俺を見上げて鳴いた。
「抱けってか?…本当はそれどころじゃねぇんだけどな」
 まあ猫に罪はねぇし…
「ほら、おいで」
 両手を差し出すと素直に身体を寄せてくる。
 抱き上げて撫でてやると、猫は俺をじっと見た。
「ユキ…どこに行っちゃったんだかね。こんなに心配してんのに…」
 にゃあにゃあ
「ん?何か言いたいのか?」
 にゃあ…『レイくん』
 と、聞こえた気がした。
「ユ、由貴人?」俺はキョロキョロと辺りを見回す。幻聴か?
 にゃあ…『麗乃』
 又、聞こえた。微かに…だけど確実に聞こえた。
「お、おまえどこに居んの?」
 にゃ…『ここだよ、ココ』
 「はぁ~どこ?」

 声は聞こえるんだけど、それが何処からかわからない。
 脳に直接響く感じがして、空気を伝わってる感触が無いんだよ。
 にゃあ…『おまえ…い…る…ネコ…って』
 消えそうな響きで頭に響く。
「…はぁっ?」
 俺は抱いてた猫を目の高さに持ち上げて、凝視した。
 にゃー…と又鳴いた。同時に『麗乃』と、 微かにだが頭に響く声がする。
「ま…さかっ…ホント…に、由貴人か?」
『うん』
「な、なんで?…おまえ猫っ?」
 俺の仰天した声に猫は、ちょっとだけ頭を右に傾げた。
 ドクンってした。
 駄目だ…可愛過ぎる…
 その時、これがあいつに持つ感情と…どことなくだが…おんなじって事に気づいた。





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データを眺めていたら、昔のが色々と出てきた。
2007年2月に書いたものをちょこっと修正。
しかし、これ…終ってなかったんだよね~www





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あとがき - 2009.10.08 Thu

水川青弥編「引力」が終りました~
あとがきです~

まず、朔田さんから急遽引き継ぐ事になりまして、朔田さんのファンの方には非常に申し訳なく思っています。
何がって…いや、もうそれは文才の無さで~(;´∀`)もうしわけない!精一杯やっても所詮とんびはとんびでございます~~(=^‥^)_旦~~ お茶でもどぞ

ミナの印象も随分変わってしまったと思いますが、これは仕方ないですね。書く人が変わりゃ、キャラも変わるだろ~よ(居直り_s(・`ヘ´・;)ゞ..)

自分もミナを書かなきゃならん!と、なった時にもう、これは自分なりのミナでいくしかないと思いました。
私の感じるミナは、本当に普通の高校生の男子です。頭はいいかも知れないけれど、特別変わったところはないんですね。だから受けであっても、男なんです。リンに対する考え方も、守ってもらおうじゃなくて、自分が守りたいです。
そういうところを今後も書いて行きたいですね。

リンは両性具有的なキャラだから、どっちにもなれる。だから難しいけれど、魅力的です。非常にあぶなかっしいので、襲われたり襲ったり…こいつは色々やりそうな気はする。まだなんも考えていないけど。
ミナは正直やっかいな奴を恋人に選んだな~という気がします。
美間坂さんあたりだったらどんなにか、楽だったろうと。

と、いうわけで、今後もこの「green house」は続いていきますのでよろしくお願いします。

rinmia2

次の「green house」はリン編「swingby」の予定。
空港からの後だね。


でもその前に…色々書かせて~(○ `人´ ○) タノンマスー!

あと、こうやまみかさんからのプレゼントでタニス・リーの「闇の公子」の2次元小説「三日月の公子」を書いていただいているので、それが完成したら、こちらにも置かせていただきます。
もちろんイラストもたっぷりと…
今から描きます(; ・`д・´)


追記…
小説とは全く関係ない話ですが、この機会に…

自分はイラストブログで自分のオリジナルキャラを主体に描いてきました。
人様の小説のイラストを描こうとか描きたいとか思ったことは、ほとんどないです。
それは商業誌であってもこういうサイトの方の小説であってもです。
しかし、今年の春、伽羅さんの企画で描かせて頂き、自分の拙い絵を見て、色んなお話を描いて頂き、そのテキストを読んでみると、イラストの影響力の凄さというものをまざまざと感じたんですね。
まったく自分では考えられない話を、あの絵を見て想像されることに敬服しました。
なら、やっぱりそれだけイマジネーションを沸き起こすイラストを描くという意味をこちらも深く考えなければならないと思い、修行も兼ねて、色んな小説のイラストを描くことにしました。

正直、絵はまだまだ下手です。BL商業誌も殆ど読まないため、どんな絵柄が流行りなのか、またどういう絡み方がいい見せ方なのか、わかりません。
自分の絵柄が人様にどう映っているのかさえ、よく判断できないです。
まったくエロい絡みじゃないのにエロく見える。
それが一番の狙いではあるんでしょうが、絡み絵も巧くなりたいですね。
色々と描けていけたらいいと思います。

まあ、自分のキャラを描くのが一番楽しいんだけどね~

そういうわけで、これからもイラスト、文章、とも頑張っていきます。
正直ね、どっちも描けるって、これが一番お得だと思う。
みなさんもお試しになって欲しい。
だって、自分の考えたキャラを自分で描けるんだよ?どんだけ幸せかって話だよね~

でも出来ない方もいらっしゃるのなら…自分でよかったら相談してくださいね~
たまに…機嫌が良かったら受け付けますo(*^▽^*)oあはっ♪

水川青弥 「引力」 21 - 2009.10.08 Thu

21、
 終わった後、おれ達はベッドに横になり、静かに向かい合っていた。
 ふたりとも何も着ていない。薄い毛布にくるまっているだけだ。

 おれはリンを見つめた。
 リンの伏せた長いまつげが濡れている。

 リンは泣いた。お互いにイッた後、彼はおれの身体に突っ伏したまま、身体を震わせてしばらく泣いていた。
 理由は聞かなかった。
 それはおれが触れてはいけないリンのプライドだと感じたからだ。

 リンは繊細だ。とても複雑で深いいくつもの層を持っている。
 その奥を押し開いても彼は喜ばない。
 リンの思いはリンのものだ。
 
 おれにとって一番大事なことはリンと繋がれたことだ。
 それだけで良かったはずだった。
 だけど…リンとのセックスは想像以上だった。
 リンが好きだ。愛している。はっきりとそう感じてしまった。
 おれはこの男を失いたくない。
 愛とは独占力なのかな。リンをおれだけのものに…ひとり占めしたいと思っている…
 おれの前でリンが他の奴のことを思うのは嫌だ…
 今まで感じた事なかったのに…
 きっとこんなことを考えているとリンが知ったら、おれを見損なうかもしれない。
 おれは姑息な男だ。リンに嫌われないためにはどうしたらいいかと、考え始めている。
 まだたった一度繋がっただけの関係なのに。

「ミナ…眠らないのか?」
 リンが目を開けておれを見る。慣れてしまっているはずなのに、その眼差しにドキリとする。
「あ…うん。なんか興奮しているからかな。眠たくならない」
「そう…じゃあ、少し話そうか?」
「うん」
 リンはいつもの顔に戻って、おれに腕枕を差し出し身体を寄せた。

「初エッチの気分はどう?」
「すごく…嬉しいよ。なんというか…初めての相手がリンで良かった」
「なんだよ、それ。他の奴ともやる気満々って言ってるみたいじゃないか」
「違うよ。そういう意味じゃない。今までのリンを好きな思いと、した後のリンへの想いが…なんか違う気がする。深くなった感じ。それを感じられたのはリンと繋がったからだ」
「そう、良かったよ。もうやりたくないって言われたらどうしようかと思った」
「リンこそどうなんだ?おれは、あの…良かった?」
「ん?なにが?」
「…」
 判っているのに言わせたがる。こういうところは相変わらず意地悪だ。
「おれで感じられたかって聞いてるんだよ。もう!本当に、リンは意地が悪い」
 軽く胸を叩くと、リンは参ったという風に顔をしかめ、そしてゆっくりとおれの顔に触れる。

「…俺はミナとの初めてのセックスを思い出にはしないよ。たぶん…思い出にはならないと、思う」
「どういうこと?」
「ただ想いが、残るんだ。いつまでも。ここにね…」リンは自分の胸を押さえ、目を伏せ言葉を続ける。
「その想いは、思い出にはならずに死ぬまで残っているんだ」
「リン…」
「つまりは…すごく良かったってことだ。安心しな。ミナの身体は俺とは相性がいい。気持ちよかった。いっぱい色んなワザを試して、どんどん開拓しよう。そんでミナの性感帯ってさあ…」
「もういい!もう、わかったから…」
 おれはリンの口を押さえた。どこまでが冗句でどこまでが本気なのか…
 そういうとこも嫌いじゃないのが癪に障るんだが。

「眠れないのなら、羊でも数えようか?そうだ、いいこと思いついた。羊の代わりに、お互いの好きなところを数えよう」
「…それ、けっこう難しいかもしれない」
「まあ、いいじゃん。じゃあ俺から始めるよ。…眼鏡美人のミナが好き」
「…」
「ほら、おまえの番だ」
「…これって恥ずかしくない?」
「恥ずかしいからいいんだよ。こういうなんてことのないことが、心にずっと残るのさ」

「…じゃあ、…リンは潔い。男らしい。すごくかっこいい」「ミナ、一個ずつだよ」「あ、ゴメン」「眼鏡も似合うが、眼鏡をはずしたミナも美人だ」「見かけばっかりだ。見かけならリンが上。非の打ち所のない容姿。光源氏だ」「それ、褒めてない。ミナはピュアだ。混じり気が少ない原石。加工するのがもったいないが、出来るなら俺が光り輝かせてやりたい」「加工って…なんか怖いな…リンは見目だけでなく、魂も美しいんだ。おれはそこに惹かれる」「…美しくなんか、ないけどね…ミナの方こそ…そうだね、ミナは素直に見えてひねくれてるからなあ」「褒めあいっこじゃなかったの?」「その天邪鬼が好きって話だよ」「やっぱり褒めていないじゃないか…」

 何かに急き立てられるように言葉を続けるおれ達。

 おれは気が付き始めている。
 リンの中に、急速に引き込まれる自分に。
 それは光の速さで突き進んでゆく…

 リンはまるでブラックホールだ。
 おれのすべてを吸収して、散り散りにする。
 そして僅かに残った塵のおれは、リンの心の核となる。
 ずっと…ずっとそこに居続けるようにおれは祈る。

 それは、いつまでも溶けない澱のようだ…

「リンの全部が…好き…だよ…」
 リンの胸に抱かれながら、
 夢の中でも君に会える様に、
 祈る…
 おれは、祈り続ける…







「引力」終わり。






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green house ~ 水川青弥 「引力」 20 - 2009.10.07 Wed

20.
 リンの指がおれの中に入り込んでくる。リンの口唇がおれの胸を這う。
 怖いと同時に背中からぞくりと震えが来る…気持ち悪いんだかいいんだかわからない刺激。
 おれもなんかしないといけないんだろうとは思うけれど、何をしていいのか全くわからず、リンの背中を撫でてやるのが精一杯だ。

 両足の内にリンの身体が落ち着いているのはわかるが、自分の下半身がどうなっているのか、おれは見るのも怖くて目に入らないように薄暗い天井を見上げた。裸眼では天井の模様などわかるわけもない。
 蛍光灯とその脇の熱感知器の両方の丸い形が、地球と月のように見える。
 不思議と落ち着いている。
 自分の呼吸が荒いのも意識をしないのに出てしまう声もはっきりとわかる。
 ゴム持ってきたのに、使わないのかな~と、思い出したが、つけない方がいいかな、と、どうでもいいことを考えている。案外冷静でいられるもんだ。
 ああ、なんだろう。
 セックスってもっと怖くてドロドロしたものだと想像していたけれど、なんか …とても自然だ。
 好きな奴がおれの身体に密着して繋がろうとしている。
 ワクワクする。不謹慎かな?
 
 …息が忙しい。撫でていたリンの背中もなんだか遠い…どうなっているのか、と、思ったら下半身に生ぬるい感覚。
 リンの髪の毛で見えないが、何をしているのか感触でわかる。
 ち、ちょっと待ってくれ。無理だ!
 おれは腰を引こうとするが、リンは俺の腰骨をしっかり掴んで離さない。それに後ろからも擦られておれはすぐに力が抜ける。
「リン…お願いだから…もう、入れてくれ。頼むから」
 リンはやっと口を離して俺を見上げる。
「まだ2本しか入れてない」
「か、構わない。入れてくれ」
 リンに咥えられるより、さっさと入れてもらったほうがマシだ。

 今度は腰を軽く引き上げられ、両足を広げられた。丸見えだがもう恥ずかしいとか言ってられない。
 何でもいい。好きにやってくれ。
 リンはおれに宛がうとゆっくり腰を入れた。勿論痛い。痛くないわけがない。
 息を吐いた方が楽だと思い、短く息を吐く。
「ミナ、大丈夫か?」
 目の前のリンが眉を顰めて俺を見つめる。
 大丈夫だ。痛くても嬉しい。リンと繋がれる。そう思うと恥ずかしいのも痛いのもたいした問題じゃなくなる。

「ミナ…全部入った。苦しくない?」
「う…ん、大丈夫。な、んかすごいけど…リンがいるって、感じする」
「ああっもう、余裕だな、おまえ。俺の方が…よっぽど…もたねえ、かも…動くよ」
「あ…うん…」

 すぐにめちゃくちゃに揺らされた。
 痛いのも気持ちいいのも全部ひっくるめて、まるで波にのまれるようだ。
 喉から出る声が大げさではなく助けを呼んでいる気がした。
 何度も何度も「リン!好きだ」と叫んだ。
 ありえないことも口走ったかもしれない。
 そんなことはどうでもいい。
 どうでもいいんだよ。
 
 リンが好きで、リンを欲しくて、そして、求められ、繋がれた。
 嬉しい、嬉しい、嬉しい…ただそれだけ。
 それだけなんだ。
 

 おれ達は彷徨っている。
 ただひたすらにこれが今、自分達にできうるものと懸命に走る。求めている。 
 君を、愛を、自分を信じるために。
 …なんという、この尊きものよ。
 


    rinmina



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たぶん、これだけH描写を詳しく書くのはここだけだと、感じるんだけど…
もう、一回で終る予定なんだけど~どうなるでしょうか~




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green house ~ 水川青弥 「引力」 19 - 2009.10.06 Tue

19.
 リンの黒まなこがおれを見ている。
 でかくて吸い込まれるようなその目で見入られると、心の奥まで見透かされているようだ。
「落ち着いたようだね。始めようか」と、言うので「リンはまだ服を脱いでいないじゃないか」と、責める。
「じゃあ、脱がして」と、言うから、起き上がってシャツとズボンを脱がす。
 ついでにお互いの下着も脱がせあった。
 互いの身体を眺め、何故か笑いあい、そして抱き合いながら、また毛布に潜り込んだ。

 エアコンは入れてないから、薄い毛布だけじゃまだ少し寒い。
「布団もいる?」と言うリンに「いや、リンのぬくもりがあればいい」と、言った。
「まあ、そのうち汗をかくから、毛布もいらなくなるよ」
 そんな一言にさえドギマギしてしまう自分が恥ずかしい。

 リンの手が俺の首筋を撫でる。もうひとつの手がおれのものを触ってくる。おれは息を呑んだ。
 触り方が優しいのにいやらしくて…おれも慌ててリンのを触った。
 頭の中ではどんな風にすれば気持ちがいいのかと試行錯誤しても、手は上手く動かない。
 それなのに、リンの指はおれのを上手く扱って、リンの口唇はおれの吐き息を吸うように重ねてくるから、おれは呼吸が荒くなる。

 苦しそうにすると、リンは手を緩め、おれの顔を覗く。
 大丈夫?と、目で聞くから、俺も軽く頷いた。
 リンは動きを再開し、開いた片方の指がおれの薄い胸や背中をゆっくりと撫でる。
 
「ここが僧帽筋、天使の羽の付け根だ。上腕三頭筋から順に…二頭筋と続く。脊椎、肩甲骨、そして肋骨。肋骨は何本か知ってる?」
 リンの落ち着いた声が、上がった心拍数を宥めてくれるようだ。
 おれの呼吸は次第に元に戻る。
「…24本」
「そう、両脇に12本ずつだ。昔3ヶ月ほど付き合った人がいて、そいつは呼吸器外科の医師だった。何の趣味か知らんが、肋骨一本一本に季節の花の名前を付けていた。上から…馬酔木、譲葉、ライラック、勿忘草…面白いだろう」
「…変わって、いるね」
「そう、そんな名前に何の意味がある。肋骨は肋骨だよ。骨でしかない。花の名をつけることがロマンチストとは俺は思えない。まあ、好き好きだがね。さて、ミナならこの意味をどう捉える?」

 言ってることとやってる事がどうにも結びつかなくて、頭が朦朧となってくる。リンは巧みにあやつって、俺を翻弄する。おれも頑張っているのに…適わないや…ああ…答えなきゃ…なんだっけ…そう…
「…結局は…セックスはセックスでしかない」
「正解。ミナは頭がいい。どんなに美辞麗句を並べようが、やることは決まっている。快感を求めあい、気持ちのいい汗を掻くことだ。さて、いかに気持ち良くなるかだが…」
「リン…もう、おれイキそうだよ…手ぇ離して」
「いいよ。そのままイッて」
「嫌だよ。リンの手が汚れるじゃないか」
「じゃあ、飲んでやろうか?」
「や、やめてくれ!」かなり上ずった声でおれは拒否した。
 リンは笑って「じゃあ、お好きなように」と、いい、強く擦りあげるもんだから、おれはあっさりとそのまま達してしまった。

 ハアハア言って、必死に酸素を取り込んでいると、リンが目の前でおれの精液の付いた指を舐める。
「リ、リン!やめてくれよ。き、汚いじゃないか」
「汚くない。おまえに無理強いはしないから、安心しろよ」
 そんなことじゃなくて…おまえがそんなことをするのが嫌なんだ。

「ミナは純粋なんだね」
「馬鹿にしてる?」
「いや、ただ、おまえとするのは…少し怖いかな」
「なんで?」
「俺が汚れすぎて、ミナを穢すのが…穢すっていうのとは違う。俺がおまえを染まらせるのが…正しいのか…この選択で間違っていないのか…すごく考える…ここに…」と、言いながらリンは塗れた指をおれの後ろに当て、ゆっくりと回す。
「…入れるわけだが、どうする?怖いのならやめる。今日じゃなくでも明日だって明後日だってできる。ミナはきつくない?」
 リンの思いやりが嬉しくないわけがないが、おれは決めているんだ。
「じらさないで、最後までやって欲しい。痛くてもいいから…おれだってリンが欲しくて堪らないんだから…」
 おれはリンの首に腕を巻きつけ、哀願する。
「ミナは男らしいね。俺の方がだらしないかな。じゃあ、できるだけ痛くないようにゆっくりやるよ。と、いっても俺もどれだけ理性が保てるかわからないけれど…」
 
 おれの耳元でリンが囁く。
「実は一年以上セックスはしていないだよ。えらく清き身体だから、ミナを気持ち良くしてあげれるか心配だ」
 ニヤリと笑いながら、おれの肩をベッドに押しつけ、覆いかぶさった。
 灯りの影になったリンの顔がひどく大人びて見える。







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rinmina5



green house ~ 水川青弥 「引力」 18 - 2009.10.05 Mon

18.
「服を脱いで」と、言われ、パジャマを脱いでベッドに寝転がる。下着は着けたままだ。
 リンは何故かTシャツとスウェットパンツを着たままでおれの横に寝ると、肌触りのいい毛布を肩から掛けてくれた。
 なんでおれは脱いでいるのにおまえは着たままなんだ?と、思ったが、何しろこっちはすべてが初めての経験って奴だから、どうしても宿禰に言うがままにならざるを得ない。 

「寝る時は眼鏡はいらないだろう」と、俺の顔から眼鏡を取り、ベッドの脇のサイドテーブルに置いた。
 ベッドはおれ達ふたりが寝ても十分余裕のある広さで、両脇のサイドテーブルには洒落たスタンドが置いてある。
「どうしてひとりで寝るのにこんなにベッドが広いんだ?」と、尋ねると「そりゃどんなプレイをしても軋まないベッドの方が、安心してセックスが出来るだろう」と、ほくそ笑んで言う。
 おれが黙ったままでいると、
「…嘘だよ。俺は自分の家では誰ともしたことがないよ。ベッドが広いのは、小さい頃はよく梓と慧に添い寝をしてもらっててさ。俺、夜泣きする子だったからね。3人でよく寝てたんだ。その所為か、ベッドは広いほうが気持ち良く寝れる」
 そう言いいながら、リンはおれの背中を横抱きにしながらゆるく抱いた。お互いに見つめあう格好になり、おれの胸元にリンの視線を感じてしまう。

「リン…灯りを消してくれない?おれ、恥ずかしいよ」
 リンは黙ってリモコンを手にとって真上の蛍光灯を消した。そして、サイドテーブルの二つのスタンドを付けた。
 さっきとは明るさも色合いも違う光が、お互いの身体を照らしている。
 おれはますます恥ずかしくなってしまう。
「あの…明るすぎないか?」
「真っ暗闇の中でするのもそれはそれで楽しめないわけじゃないけど、初めてなんだから、お互いを確認しあった方が良くない?俺はミナの顔がちゃんと見えていたほうが嬉しいけどね」と、おれの首筋や肩を撫でて言うもんだから、おれは反論なんか出来ない。
「…リンがそう言うのなら構わない」

「ミナは白いね」
「そう?リンも色白じゃないか」
「俺の白さとは違う。ミナを初めて見た時の印象は白い子だなあって思ったもの」
「おれは…リンがあんまり人目を引く存在だったから…目が合った時、思わず怖気づいてしまったよ。まるで、おれとはかけ離れた…リン、そこゾワってくる…」
 リンの手がおれの脇腹を撫でる瞬間、おれは軽く痺れたような刺激を受けた。
「じゃあ、ここはミナの性感帯だな」
「…」
 そうなのかな?でもそこだけじゃなくて、リンが触るところ、なんか全部…鳥肌が立つくらい…
「リ、リン…」
 おれは怖くなってリンにしがみつく。
 心臓がバクバクしてる。別にまだなにも始まっていないのにこれじゃあ、後が思い知らされると臆病風に晒される気がした。

「…ミナは誰かを好きになったことはないの?」
 リンの手が片方は背中を、もう片方はおれの髪を撫でる。落ち着かせるような感覚におれは少し安心してリンの質問に答える。
「ない…いや、中三の時に、同級生を好きになった。その子は頭が良くて美人だった。お互い好きになって交際したんだけど…彼女はおれを求めてくれて、おれはそれを与えられなかった。それで、振られたよ…男としてはかなりかっこ悪いよね。たぶん色々考えて…おれを求めたんだと思うよ。おれも応じてやりたかったんだけどなあ~…何がいけなかったのかわからない…」
 よくよく考えればへんな話だった。好きな奴と初めて寝て愛撫されながら、失敗したセックスの話をしてるだなんて。

「ミナはその子を本気で求めてはいなかったんだろうね。ミナの言うとおり、相手に求められて応じなきゃならないって思うのもわかるけど、ミナは中三だったんだから、まだ子供だ。できなくても仕方がないよ」
「だって、リンは…」
「俺は家庭環境が最悪だもの。誰も監視する奴はいなくてさあ、本人は好奇心旺盛で怖いもの知らず。そりゃやりたい放題だよ。でもしたくない奴には勃たなかったよ」
「本当に?」
「そういうのって、自分が思うより身体の方が正直なのかもなあ。俺は相手を好きじゃないとホテルに連れ込まれてもしなかったからなあ」
「それでどうしたの?」
「股座蹴り上げて逃げ帰った」ふふっと笑うリンにどこまで本当なのか判らなくて、口唇を尖らすと、「セックスの経験はそりゃ同い年の子より多いと思うけど、俺は本気で恋をしたことはないよ」と、真面目な顔でリンは答えた。

「中一の時から男も女とも寝ていたけど、好奇心と気持ち良さを求めていただけだよ。運のいいことに悪い人はあんまりいなかったしね。好みの人もいたよ。でも、ドキドキしたりねえ、ミナみたいに大事にしたいっていう相手には出会わなかった。俺が子供だったからなんだろうけど、いつだって守られる側だった。そういう意味では俺もガキだったって事だ…」

 目を閉じたまま静かに話すリンだったが、色々な想いが過ぎっているのだろう。おれの予想以上にリンは様々な経験を積んでいる。喜びも悲しみも、おれには想像できないほどに。
 …その複雑な色合いこそ、おれがリンに惹かれる理由なのかもしれない。




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大した事ないのに…なんかむずかしいなあ~(;´∀`)
この先は18禁なのですが、たいしたことはしていませんので記事タイトルには書きません。
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green house ~ 水川青弥 「引力」 17 - 2009.10.02 Fri

17、
 リンの部屋は、シンプルなものだった。
 ベッドの大きさには驚いたものの、他には揃いの木目の際立った勉強机と本棚ぐらい。テレビで似たようなものを見たことがあるが、どちらも高価な指物だろう。吹き付けの漆塗りが美しい。
 落ち着いた色調の中にひとつだけ目を惹かれたものがあった。
 本棚に飾られているかなり大きめのフォトフレームだ。
 近づいてよく見ると、コルク製のマットにコラージュのように沢山の写真が貼り付けられている。
 
 おれはそれを近寄って覗き込んだ。
 
 かわいらしい赤ん坊はリンだろう。両親と兄弟揃っての写真は七五三らしく、リンは千歳飴を持っている。リンに良く似た面差しの母親に抱きしめられているリン。ある時期からはお兄さんとお姉さんの三人だけの写真が多くなる。
 リンはいつも真ん中で、ふたりの兄と姉に見守られるようにあどけない笑い顔を見せている。どれもこれもリンは際立って美しく、その両脇を占める兄姉も、リンに相応しい容貌だ。
 
「リンは子供の頃からかわいいね」
「ああ、天使だって言われ続けてきたんだぜ。慧も梓も俺の背中に6枚の羽があるって言い張るんだよ。俺もその気になっていたけどね」
 俺はそれを聞いてリンの姿をまじまじと眺めた。
「…おれには羽なんか見えない」と、言うと、リンは嬉しそうに「だからミナが好きなんだよ」と、言う。
 
 意味がわからなくて、肩を竦めて、また写真の方に目をやる。
「お姉さんって綺麗だったんだね」
「うん、交通事故であっけなく逝ってね。二十歳になったばかりだったんだ。…俺は瀕死の梓を病院でひとりで看取った…悲しかったよ…」
「ひとりで?」
「ああ、その時は俺の他に誰も居なかった。姉貴が死んで俺は酷く落ち込んで、学校にも行けなくなってしまったんだ。梓は母親でもあり、ある意味恋人でもあったから…すごく愛し合っていた。だから、梓が死んだ時、俺も後を追いたかった…死にたがったんだよ。餓死して死のうとしたら、周りは必死で食べさせるしさあ…」
「…」
「俺はたぶん結婚はしない。それに、この先女の人と恋をすることは無いと思う。梓以上に愛せる女が現れるとは思えないからだよ」
「そんなに…愛していたの?」
「慧がいなかったら、自殺でもして死んでいただろうね。慧が居たから…置いていかれたもうひとりの半身である慧をひとりにしてしまいたくなかった。梓を失ってしまった俺達はもうお互いを失うわけにはいかなかったからね」
「…」
「ミナ…俺はおまえが思うほど強くもないし、綺麗でもない。甘ったれで我がままでどうしようもない人間だよ。それでもいい?」
「リンは前に言ったよね。好きなら相手のすべてを知りたいって。それは相手のすべてを受け入れることを覚悟した時だと思う。おれにとって今がその時だと思うんだ。リンがどんな奴でも構わない。おれの前にいる宿禰凛一がおれの好きな奴で、おれはおまえの全部を受け入れたい」

 リンは笑わなかった。伏せ目がちにおれに差しだす右手を、おれは握り締め、指を絡めた。
「リンが好きだ」

 おれとリンは立ったまま抱き合いキスをした。
 今までとは少しだけ違って、甘さに混じった感傷を感じたのは、それはおれがリンの本当の心に少し触れたからだと思った。







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この後、「そうしておれ達は朝を迎えた…」
ってしたら、怒るだろうなあ~www

次はベッドインで…で、まだなにも始まんないんだお(「・・)ン?

真面目な話、自分の求めるこの物語のBLというものは、ふたりを対等にさせるということ。
ミナは頑張ってリンに追いつこうとしている。




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green house ~ 水川青弥 「引力」 16 - 2009.10.01 Thu

16、
 リンに案内された先は、思っていたよりずっと広いリビングだった。一面のガラス張りの窓からは、遠くの海が白く淡く霞んで見える。夕暮れの色は曇り空に遮られ、夕焼けは拝めそうもない。
「座れば?」
 コーヒーのソーサーを丸い硝子のセンターテーブルに置いたリンは、黒のレザーのソファに座り、手招きする。
 部屋の中のどれもこれもがひどくオシャレで、どこかで見た外国のブランドであろうソファの座り心地は確かに高級感がある。
 …こういうインテリアに全く無関心の俺でさえそう思うんだから、気が付いていない価値のあるものも多いのだろう。と、金の取っ手の着いたアンティークなコーヒーカップをじっと見つめた。
「なに睨んでるの?変なもんは入っていないから安心して飲めば?」
「ちがうよ…なんか、粗相をして割ったら大変だなあって…」
「こういう茶器集めは死んだ母の趣味でね。なんか色々あるんだよ。引越しの時に処分したんだけど、思い出のものは使ってやらないとね」

 テーブルにはノートパソコンが付けっぱなしになっている。
 今度はそれを覗き込んだ。
 外国の街が映し出されている。
「ん?これはシカゴに行った時の写真をパソコンに取り込んでいたの」
「見ていい?」
「勿論」
 おれは初めて見るシカゴの街並みをリンの説明つきで次から次へと楽しんだ。
 ふと男の人の写真で手が止まった。
 リンに良く似た整った人…たぶん宿禰のお兄さんだろう。
 手が止まったおれを見て、リンが教えてくれた。
「兄貴の慧一だよ。シカゴの大学院に行っている。来年までは帰れないんだ」
「リンに良く似てすごくかっこいいね。けど…お兄さんの方がすごく大人だ」
「…当たり前だろ。9つも上だよ」
「リンが9つ歳を取ったらこうなるんだろうね」
「さあね。兄貴みたいに分別のある人間にはなれる自信はない。兄貴は俺の憧れではあるけどね」
「へえ~リンが誰かに憧れるっていうのはピンとこないな。いつも自信満々だから」
「尊敬すべき人は沢山いるよ。でも兄貴は特別。母親が早くに居ないだろ?親父は単身外国住まいだったし…今は奥さんがいるけどね。
俺は姉の梓と慧…兄貴のことね。の、ふたりに育てられたんだよ。姉が死んでからは、俺には家族といったら慧だけだ。慧は俺を大切にしてくれる。俺も慧の手だけは離したくないと思っている」
「でも…リンの家はお金持ちだろ?ここの家もすごく高そうだし…幸せじゃない」
「お金に困った事はないだろうね。でも豊かという点ではどうかな…。あまりに家族との縁が少ないんだよ。絆という点で、俺はどこか欠落したものがあると思う。兄貴は俺の一番大事な家族だけど、それだって一緒に居ない期間が長かったからね。ひとりで過すのは寂しいもんだよ。実は昨日も…アメリカから帰ってばかりで、ひとりきりの寂しさからワインで気を紛らわそうとねえ…まあ、俺、あんまり飲めない性質(たち)だからすぐに参ってしまって…それで二日酔いで学校に行けなかったんだよ」リンは苦笑しながら、舌を出した。

 おれはリンにそんな暗い面を感じた事はなかったから、リンの生い立ちをリン自身がどう感じているかを知って、同情してしまった。
 その思いがわかったからだろうか、リンは少し困った顔をした。
「哀れんでもらおうと言ってるんじゃないよ。これは一方の方向から見ているだけで、他方から見れば、俺はお金に困った事はないし、遊んでくれる大人は大概いい人だったし、価値ある経験も沢山してきた。恵まれている事には違いない。
ミナだって両親にかわいがられているだろ?でも、それが窮屈で寮暮らしをしている。俺から言わせて貰えば、ミナは両親の愛情に恵まれて幸せ者だと思うぜ。だが、ミナはそうは感じない。同じものを見ていても見る側面は違う。人を見た目から同情したりけなしたりするのはいい。だけど、本人にとっては人の思いなんかは関係ない。
俺は十分幸せだってことは確かだよ。少なくとも愛されているからね」
「…お兄さんに?」
「そう。それとミナにもね。それよりも俺はミナがいつおれとセックスする気になったか知りたいね」
「それ、話さなきゃならない事?」
「俺に取っちゃあ、ミナがここに来たというのは一大事。それも俺とやりたい気持ちで来たっていうんだから天地がひっくり返るぐらいの大ニュースだ。そのきっかけが何であるのかを知りたいって思うのは自然だろう?」
「…」
 わかるけど、それを逐一話すのは自分の欲望を晒すのと一緒で、先輩に話すのとは違い、躊躇われるだろう。だって、リンは俺の性の対象者だもの。

「まあ、いいさ。夜は長いし、時間はたっぷりある。泊まっていくんだろ?戦さの前に腹ごしらえな」
「い、戦さ?」
「それはそれは激しくも狂おしい戦いの夜になるでしょう…」
と、おれを面白がりながら色っぽい顔で誘うから、おれはリアクションに困ってしまった。

 ふたりで夕食を作り、食べた。作るといってもおれはサラダ担当で、野菜をちぎっただけ。リンはカルボナーラを上手に作った。
「何でも出来るんだね」と、褒めると「毎日外食するより、家で好きに作る方が有意義な時間のつぶし方なんだよ。話す相手がいないのは寂しいけどね」と、応える。
 同情を嫌うと言うが、俺はリンが今までどんなに多くの時間をひとりで過したかと思うと、可哀相で仕方がない。
 おれでよければずっと傍にいてやりたいと、心から思った。

 外泊することを根本先輩にメールで伝えると、「頑張れ」と、短く返してきてくれた。それをリンに報告すると、「あの人は信用していいよ。ミナの傍にいてもネコだから俺も安心していられる」と、わけのわからないことを言う。

 風呂に入るように下着とパジャマを渡され、浴室に案内される。
 「一緒に入って、洗いっこでもする?」と、からかわれた。
 …いや、一緒でも良かったかもしんない。

 風呂を交代して、ソファでぼーっとしていると段々眠たくなり、横になってしまった。
 軽く居眠りしていると、風呂から上がったリンに「緊張感が足りねえ!」と、怒られた。
 ごめん、このソファ、高いだけあって寝心地いいわ。
 
 ひとしきりリンのお小言を聞いた後、リンはおもむろに立っておれに手を差し出す。
「俺の部屋へ行こう」

 いよいよだと思うと、なんだか胸が高鳴って仕方がない。ん?いや、胸が高鳴るはおかしいだろう。まるでめちゃくちゃ期待しているみたいじゃないか。
 リンがどんな風におれを抱くのか、不安と緊張で、心拍数が高くなるのだ。

「どうしたの?入れよ」
 リンがおれの方を向いて、愛想良く「どうぞ」とドアを開け、エスコートする。
 何故か顔が緩んでくる。
 …やっぱり、胸が高鳴っているっていうのは正解だ。と、妙に納得した自分が、なんだか可笑しくて仕方がない。





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いよいよ始まりました。「ミナ初体験日記!」
もう、全然まったくエロくないH時間が始まりま~す!なんも期待はしないで頂きたい!
本当に…喋りっぱなしの初夜です。
…笑ってなんぼ(;・∀・)




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