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2009-11

宿禰慧一編 「オレミユス」 3 - 2009.11.30 Mon

3、
 大学院では、都市空間建築家で知られるリュス・ブライアン教授の研究室で指導を受けながら、教授の助手として学生達のレポート採点や指導の手伝いをしている。
 「空間構成を考えた建築デザイン及び、構造技術の性能に関する研究」というテーマで取り組んでいる。まあ、簡単に言えば、想像した建築デザインが環境に適応するように構築できる構造物として快適に生活できる空間を作り上げられるかという話なんだが、環境デザインと建築というものをひと括りで考える建築士を目指している。
 今年は卒院する予定だし、条件のいい企業に就職できればいいと思うが、正直日本で探すとなると難しい気がしてならない。
 
 同じ研究院生であるジャン・エクトールは親の建築事務所を継ぐ予定だが、それはそれで色々としがらみがあって憂鬱で仕方がないと、愚痴をこぼす。
「ケイイチは自由でいいよ。将来は自分で事務所を持つ事も考えているんだろ?」
 小春日和、大学のすぐ脇にある公園を散策しながら、俺はジャンとよく論議しあう事が多い。
「…そう簡単にはいかないよ。資金も後ろ盾もない若造に何ができる?どっかの大企業のいち設計士として埋もれている方が楽に暮らせるのかも知れない」
「コンペで名を売ればパトロンも付いてくるさ。ケイイチの才能は教授も認めているんじゃないか。教授に相談すればいい方向へ導いてくれるんじゃないか?」
「そう簡単にいくかね」

keiiti4


 俺たちはサウスストリート沿いのカフェで昼食を取る。
 いつものウェイターが注文を聞きに来た。
 俺はスコーンとコーヒー。ジャンはハンバーガーとフライドチキンとコーラだ。
 このボストン生まれのフランス系アメリカ人はどうしてもハンバーカーとチキンはセットにしないと気が済まないらしい。よく飽きないなと呆れるどころか、感心する。
 大雑把なアメリカの食事には閉口するが、ジャムは選べば美味いものが多い。
 土産に買っていくと、凛一も喜んで食っている。
 ああ、このカシスのジャムもいけるな~と、食べていると、ジャンが面白そうに口を開く。
「あのウェイター、おまえに必死にアプローチし掛けていたけど、どういう仲だよ」
「…さあ」
「嘘つけ。あの子と何度か公園を歩いていたろ?」
「おまえは探偵か?」
 こんな広い街で、よっぽどヒマだなと呆れてしまった。
「おまえは目立つんだよ。自分ではわからないだろうけど」
「東洋人が珍しいもんでもあるまいに」
「おまえを紹介してくれっていう男も女もいるんだ。ステディがいるそうだって断っているけれど」
「ありがとう。助かるよ」
「で、本当に決まったヒトはいるのかい?ケイイチには」
「…いるよ。たったひとり、ね」
 誰にも言えない最愛の運命の奴がさ…

 あの金髪、碧眼のウェイターはクリスと言った。確か年の頃は17,8。
 何度かあの店に足を運び、話をするようになり、誘われたっけ。
 遊びで4,5回ほど寝ただけなんだが、向こうはどうもこちらに執着がありそうで、何度も誘いかけてくる。
 感情をストレートに表す外国人には珍しく、控えめで多くを求めてはいない子ではあるけれど、恋愛と言う感情には程遠い。
 大体…している最中にだって、俺は相手を凛一と置き換えている場合が圧倒的に多いんだ。そういう奴がマトモな恋愛を望んでは相手に悪かろう。もとより俺には全くその気はない。
 交際を求められたら、セックスだけでいいなら、と、断わりは入れた筈だ。後になって未練があろうがなかろうが俺の知ったことではない。

 冬のシカゴは寒い。ヒーターに暖まった部屋にいる間はなんとも感じないが、一歩外へ出ると、ミシガン湖からの風が水滴の塊の粒を上空から舞い上がらせ、灰色の雲の中に溶け込んでいく。
 独りで過ごす日々は平穏だが何もない。この曇天の空と同じ。

 三月になったばかりの或る日、教授から娘さんの結婚式の招待を頂き、教授の本宅である郊外の家に招かれた。
 断る理由もなく、週末の休日を教授宅にお世話になった。
 教授の家庭は奥さんと兄、弟と妹の5人家族。まるで肖像画のような完璧な家族図であり、飼われている犬さえも幸せそうに見えた。
 こんな家庭に育ったならば、俺も歪んだ気持ちなど生まれはしなかっただろう。
 自分の身の上が切なくなって仕方がない。
 親父は…こんな家庭を夢見ていたんじゃないだろうか。
 妻と娘と亡くし、長男である俺はゲイだ。しかも自分の弟にうつつを抜かしているどうにもならん息子だ。
 俺がゲイである限り、宿禰家に子供はできない。凛一もまたそうであるなら…。
 父は俺たちなど切り捨てて、新しい奥さんと子供を持つ方がよっぽどマシなんじゃないだろうか。

 俺は父の不幸を哀れんだ。
 あの人が望んだ家庭を築けないどころが、失望させてしまう自分自身が情けない。
 こうまで凛一に囚われている自分が恨めしい…
 教授の娘さんの結婚式を祝福した夜、俺は父宛に短い手紙を書いた。


 お父さん、いつも十分な仕送りを感謝しています。
 思えば僕は息子として、あなたに喜びや希望など、なにひとつ残す事ができなかった気がします。
 ここまで育ててくれた恩に対して、あなたを労わり、そして暖かい家庭を示すことこそが、死んだ母さんや梓への報いとなったはずでした。
 ごめんなさい、お父さん。
 俺はもう戻る事はできないよ。
 自分で決めた道を歩いていきます。
 宿禰家を継げなくてごめんなさい。
 どうぞ、お母さんと幸せな人生を送ってください。
 僕に言えることはそれだけです。
                 慧一
   






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宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
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慧一の手紙を書くつもりは全く無かった。慧一が言わせた言葉だった。
だから自分の書く話は自分が先が読めないんだ…
絵は適当に(;´∀`)かっこいい慧が描きたかったので~


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宿禰慧一編 「オレミユス」 2 - 2009.11.27 Fri

2.
 正月は父と新しい継母と4人で、温泉で過ごすことになった。
 宿禰家で家族旅行なんて滅多にないことだ。
 実を言うと、凛一が生まれる以前には毎年のように各地の避暑地へ遊びに出かけていたのだが、凛一が生まれると、元々身体の弱い母の容態は更に悪くなり、それっきり家族旅行はしなくなった。
 凛一には家族水入らずでのバカンス経験はこれが初めてかもしれない。
 俺は親父が再婚しようがするまいが、まるで他人事のように思っているが、果たして凛一はこの成り行きをどう感じているのだろうか。俺はそればかりが気になっていた。
 だが、それは俺の杞憂だった。
 凛一は新しい継母の「和佳子さん」を事の他気に入った様子で、始めは少し照れて遠巻きにしながらも、時間が経つに連れ親密になっていった。

 実母が亡くなったのは俺が14の頃だ。
 俺には母への慕情が多いに蓄積されている。だが凛一は母親を知らない。よく覚えていないと言う。
 母が凛一に深い愛情を注いでいたのを知っている俺は、凛一の母親への薄情さには些か不満がある。
 凛一が5歳になるまでは、母は凛一ひとりにかかりっきりになっていたといって良いくらいなのに。
 母の愛情など何ひとつ知らぬままに、新しい継母に嬉しそうに接近する凛一に、俺は驚きを隠せずにいた。
  
 古い格式あるホテルだった。
 調度品も時代を感じさせるレトロな趣きのあるものばかりだ。
 ベッドの横になった凛一は、高い天井の格子を珍しそうに数えていた。
 夜、二人きりの部屋の中で、実母の事を聞くと、
「仕方ないよ、いくら死んだ母親が俺を可愛がってたって兄貴がゆってもさあ、俺、覚えていないし、…それに和佳子さんはいい人じゃないか。俺、好きだよ、新しいお母さん。慧は嫌いなの?」
「嫌いだとか…そういう感情は俺にはないよ。親父の奥さんとしか認識してない。母親に甘える歳でもないしね」
「そりゃそうだ」
「でも凛はまだお子様だから、母親のおっぱいが恋しいのかもな」
「そう、なのかなあ…和佳子さんが本当のおかあさんだったらいいなあとは思うけどさあ。実際は一緒に暮らすわけでもないから、あんまり関係ないのかも」
「…」
 否定をしない凛一を見て、俺は少しショックだった。
 凛一にはまだ母親のぬくもりが必要だということなのか。
 別に俺が母親代わりになりたいとは思っていないが、なんだか継母に気を取られている凛一が気に入らない。
 心が狭いのは十分承知しているが、なんとも言い難い心持ちで仕方がない。

「どっちみちすぐに大人になるんだし、本当のおかあさんなんて、俺も必要ないのかも」
 暫くの沈黙の後の凛の言葉がまた胸を痛くした。

 俺は心の奥底では、凛一に誰も近づくなと叫んでいる。
 誰も凛一を見るなと…
 そんなことが出来るはずも無い。
 いくら凛一を隠そうとしても、凛の魂は暗闇に行くほどに輝きを増す。
 その姿を他の奴らが見逃すわけがない。
 凛は俺の手の届かないところに行ってしまうのだろうか。
 俺はただその背中を追うだけしかできないのだろうか…

「ねえ、慧。そのうちさ、慧に会いに行ってもいい?」
 ベッドに寝たままの凛は、クッションの深いソファに座った俺の方を向いて尋ねた。
「え?シカゴに?」
「俺、慧のくれた絵葉書の教会を直に見てみたいの」
「そんなに教会に興味があるのか?」
「うん、あのフォルムにね。どうやって構築されているのか、なんであの形が宗教的に象徴となりえるのか…とかさ、そういうのに興味がある。どちみち兄貴は梓の聖堂を作るつもりなんでしょ?一応俺もアドバイスなんかしたいじゃない。だから色々と見ておきたいんだ。いいかな?」
「ああ、勿論…そうだな。春休みになったらおいで。俺は院の研究室で仕事をしているから、ずっとついててやれないが、大人しくしていると約束するなら、色んなところに連れて行ってあげるよ」
「なんだよ、大人しくって…自分がちょっと大人だからってガキ扱いしやがってさあ」
「独り寝が寂しいって言う奴はガキだろ?」
「だって…人肌って気持ちいいじゃん。寒い時なんかなんでもいいからぬくぬくしたいって気持ちになるよ。マジでネコか犬でも飼おうかな~。抱いて寝るの」
「やめとけよ。抱き枕の代わりにさせられちゃ、ペットが可哀相だ」
「じゃあ、やっぱり慧が抱いてくれよ。一緒に居るときぐらいはさあ」

 俺を向かいいれるように微笑んで手を広げて待つ凛一の誘いを、どうして断る事ができようか。
 俺はソファから立ち上がり、凛一の眠るベッドに向かった。
 半身を起こして腕を伸ばす凛を抱えるように、俺も抱きしめた。
 凛のぬくもりが愛しい。俺は満ち足りた気分で一杯だ。
 その上、凛はキスまで求めてくる。
 俺はそれを返しながら、反応する身体を何とか持ちこたえさせようと必死になる。
 精神愛と肉欲っていう同義的にも背反二律にもなりえる感情を巧く操縦する方法を、俺は昔から覚えてはいたが、近頃はそれも段々と覚束なくなっているようで怖い。

「…やっぱり、慧とするキスは他の奴とは違うなあ」
「比べるなよ。他人とするキスと同じに感じても困るだろう。それに…普通の兄弟はやらないもんだ」
「だって仕方がない。俺は寂しがりで、そして慧は俺にぞっこんだからな」
「…自分で言うな」
 俺は最もだと苦笑した。

 ぞっこんどころか…俺の魂はおまえと言う鎖で縛り付けられてるよ、凛。

 旅行から帰ると俺はすぐにシカゴへ戻った。
 帰る間際、残った継母としばらく過ごす事になった凛一はどこか浮かれている様子で、俺は嫉妬の矛先が「和佳子さん」に向かないように何度も視線を背けてしまった。




兄弟11




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宿禰慧一編 「オレミユス」 1 - 2009.11.24 Tue

慧凛クリスマス

宿禰慧一編 「オレミユス」

1.
わが飢餓よ 心の飢餓よ
天の哀れを 請うがいい
さらば 祈らん
与えよ、と…


 天候の所為で飛行機が遅れた。
 携帯でメールは送ったが、あいつは気がつかないことが多い。
 空港で待っていると言っていたから、遅れたらきっと心配するだろう。
 十二時間の飛行時間が、たまらなく長い。
 本を読んでも映画を見ても、凛一の顔がちらついて仕方がない。
 九月に別れてまだ三ヶ月も経っていないというのに…と、自分で呆れ返った。
 本を閉じライトを消して、目を閉じた。

 何故だか近頃は、あの子の幼い頃の夢ばかり見る。
 母や梓の所為なのかな…
 あの子をひとりにしてしまったことを責めて、俺を恨んでいるのかな。
 もしかしたら、俺が凛を愛さずにはいられなくなってしまったのは、あんたらの所為かも知れない。
 呪い?
 …呪いでもなんでもいいさ。
 俺は凛一に縛られている。
 赤く温い血の鎖は誰も切れない。だが、あいつが俺を必要としなくなったら…
 その時は、その鎖を俺自身が断ち切ってやる。
 その覚悟は出来ている。
 だから今は…
 あいつが手を離すまでは、騎士でも下僕でも何にでもなってやる。

 人気のない静かなターミナルで凛一は待っていた。
 俺を見た途端に鮮やかな笑顔を見せ、走り寄る。
 一年半前のよそよそしさなど微塵もない。
 真っ向に見つめてくる瞳は眩しい程に輝きを放っている。
 だが少しだけ潤んでいるのを認め、問うと、昔の事を思い出していたと言う。
 俺と同じだと密かに笑い、俺たちは抱擁した。
 凛一の身体は思ったよりも冷たく、ひとりで待たせた時間を俺は恨めしく思った。

 成り行きで高級ホテルのスイートに一泊する羽目になった。
 全く持って、思いも寄らぬ話だ。
 部屋も眺めも最高だが、クリスマスにこのシチュは…俺には酷な気がしてきた。
 しかもベッドはゴージャスだろうがいかにでかかろうが、ひとつしかない。
 これに凛とふたりで寝るのか?
 …俺は頭を抱えたくなる。

 俺の憂鬱を全く気に病むはずもなく、凛一はガキのようにはしゃぎ回っている。
 風呂に入れば、部屋が見渡せるガラス張りの窓に裸のまま這いつくばって動かない。
 真正面の俺はマトモに凛の裸と真向かうことになる。
 別に凛は俺を見つめているわけじゃない。俺の後ろの窓の向こうに見える夜景に見惚れているだけなのだ。
 それなのに…俺は凛一の身体を眺めて欲情している。
 俺の唯一の逃げ道は目を瞑るだけだ。

 風呂を交代して上がった後も、凛一は俺に一切やすらぎなど与えてくれない。
 俺の思惑など見事に無視してセックスしようと抱きついて離れない。
 これは凛の悪巧みのひとつなのか?俺は疑念を抱きたくなる。
 それなのに…
 寝ついてしまえば、先程の小悪魔な姿態は微塵もなく、ただ無心に眠りに貪りついている。
 俺は大きくひとつ溜息を吐いた。
 どうしてこうも自分は情けないのだろう。
 いっその事、凛一を抱き、俺のものにしてしまえば、こんなに苦しむ必要はないはずだ。
 凛一だって俺とセックスしたところで、それを否定するとは思えない。
 だが、こいつはセックス自体を「愛する」という行為とは認識していない。
 もし俺が凛一と寝てしまったとして、凛は自分を抱いた俺を今まで寝てきた男と同列に並べてしまう気がする。
 そんな事は我慢がならないし、凛にとって特別の男でいなければ俺の存在する価値など無いに等しい。
 それに、
 もうすでに凛一には恋人が居る。「愛してる」と、断言するクセにセックスはしていないと言う。
 凛一が本気でそいつと恋愛してるなら、見守ってやるのが兄としてのが努めなのだろう。
 そして凛一はそれを望んでいる。


 パジャマに着替えた俺は、凛一の眠るベッドの隣に静かに横になり、凛一の様子を伺った。
 凛は昔から寝つきがいい。幼い頃は良く夜泣きをして俺たちを困らせたが、育つにつれて、「おやすみなさい」と、言うが早く、すぐに俺の胸でスヤスヤと寝入ったものだった。
 安らかな寝息を立てる凛一の頭を撫でてみた。ビクともしない。
 肩肘を立て、深く眠る凛の頬を撫でながら、俺は呟く。
「なあ、凛。恋人を愛してると言っておいて、その舌の根も乾かぬ先に俺とセックスしたいって言うのかい?俺の本当の心を知ったらおまえは俺に、同じ事を言えるのだろうか…」
 頬を撫でた手の平を凛の首筋に移動させる。
 前空きのパジャマのボタンもキチンと留めないままでいるから、鎖骨から胸、乳首まではだけてしまっている。
 俺は指先だけでゆっくりと凛の身体を撫でた。
 首筋、喉仏、鎖骨、少し浮き出ている肋骨、ピンク色の突起、規則正しく響く心臓…

 俺は凛一の耳元に秘密の囁きを繰り返す。
 「凛…誰も好きになるな。誰のものにもなるな。自由に身を任せ、他人の縁など切り捨てろ。おまえは俺に繋がっていればいい。おまえは俺が守る。だから…俺のものでいろ…」

 呪文は呪いであり、魔法であり、願いになる。
 言い換えればまさに、希望だ。
 俺はなんという場所に来ている。
 肉体的見地と精神世界の狭間とはこんなに虚ろなものなのか。
 白く浮かぶ凛の身体を、誰にも、神にも(もし、存在するならば、だ)晒せたくない。
 俺は凛一を抱きしめた。
 凛は眠ったまま、甘えるように頭を擡げた。
 昔のままに…






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宿禰凛一編 「Swingby」 15 - 2009.11.20 Fri

15、
 入道雲が瞬く間に青空を食い尽くす。
 俺は呆気に取られながらその姿を追っていた。八月の終わり。
 遅い三者面談はなんとなく気まずい雰囲気のまま、もう二十分は過ぎている。
 俺は教室の窓から、空を仰ぐ。
 俺の将来をたかが大学ひとつで決めつけられてたまるかよ。

「だから、建築学科なら理系に進めって言っているんだ」「国立は全教科関わるんだし、今だって十分理系の方もいい点数取っているじゃないか」「慧一、おまえは凛一の保護者なんだろ?なんでそこに拘るんだ」「凛はまだ建築の方に進むとは決めていないんだよ。だから選択するのも幅があったほうがいい」「バカ!今の受験生はこの時期にはもうすでにどこの大学の学部、学科まで決めて、それを目指して勉強しているんだ。凛一みたいなのんびり屋は結局負け犬になるんだよっ!」「勝手に凛を負け犬にするなよっ!そうならないようにおまえに頼んだんじゃないか!」「知るか。本人にその気がないんじゃな。手篭めにしてでも言いなりにするか?おまえの得意とするところだろう?」「おまえを手篭めにした覚えは一度もねえよっ!」
「俺、帰っていい?」
「凛」
「いいぞ。どうせこのブラコン兄貴に何を言っても話しにならない。凛一は早くこのバカから独立することだな」
「…言い分は聞いとく」
 そう言って椅子から立つと、慧一も慌てて立ち上がる。
「慧はいいよ。藤宮先生とは積もる話も沢山あるだろうから、じっくり話していきなよ。俺、先に帰るね」
「…嘘つけ。どうせまた例の場所だろう。いちゃつくのもいいが、花が枯れないように面倒見ろよ」と、藤宮が余計な事を言いやがる。
 慧一の前でそれを言うな、と、俺は藤宮を呪った。

 奴が慧に何を話すのかは気にはなったが、気に病んでも仕方がない。
 藤宮を敵にするのは損だ。
 俺はひとりで温室の宿主たちに水を与え続ける。
 立ちこもった雲が夕立になっても温室までは恩恵を賜らない。
 この乾いた連中には、水道の水が必要だった。
 俺たちが自然以外のものを望むように…

 その夜の慧一は不機嫌極まりない様子で、藤宮との話も聞ける雰囲気ではなく、俺もさすがにげんなりした。
 会話の少ない食事が終わると、慧一は大きな溜息をひとつ吐いた。
「あれから、紫乃に色々と厳しい事を言われたよ。保護者としての責任が甘いのなんのってさ。俺は凛の思いどうりにさせてやりたいって思っているけど、現状は厳しいなあ~」
「まだ一年あるしさあ。俺も良く考えて決めるから、そんなに落ち込まないでよ。慧を泣かせたりしないから」
「バカ。泣くかよ」
「…」
 だって泣きそうな顔しているもの。そんな顔をさせている原因は俺なんだもの。俺だって責任は感じるさ。

 夏の最終バーゲンで二人連れ立ってアウトレットに買い物に行った。
 慧はジーパンを、俺はジャケットを買った。
 ふと兄貴の首元に見慣れないネックレスに気づき、それを問うと、慧は、「自分で買ったんだよ。お守りさ」と、笑う。

 二枚の福引きを貰い、帰りに一枚ずつ引くと、俺はハズレ。慧は見事三等賞を引き当てた。
 商品は箱根一泊ペア宿泊券という微妙なものだった。
「正月行ったばかりなのにさあ、また箱根?」
「良いじゃないか。日にちはこちらが決めていいんだし、水川君と行くといい」
「え?いいの?」
「俺はもうすぐ行ってしまうからね。凛にあげるよ。恋人と楽しんでおいで」
「…うん、ありがと」
 嬉しいんだが、どこかで軋むような感じ。胸が痛い。


 ミナに話すと、ミナは驚いたように俺を見上げ、今度は満面の笑みを返す。
「本当に?わあ、すごい…嬉しいよ、リン」 
「箱根なんて珍しくもないだろ?」
「そんなことはない。リンと一緒にお泊りできるんだよ。すごい楽しみだ。でも俺なんかが行ってもいいの?当たったのお兄さんだろ?悪い気がする」
「いいんだよ。慧はミナと行きなって言ってくれたんだから」
「ホントに?」
 心から喜んでいるミナを見ていると、やっぱりこいつで良かったと、気が緩んだ。
 ミナはかわいい。とてもいとおしい。こいつの笑顔を失いたくない。

 俺は欲深なのだろうか…
 慧とミナを天秤に載せるのが怖い。
 釣り合っても釣り合わなくても、どちらかの泣く顔など見たくない。


 慧一が帰る日、空港まで見送った。
 少し感傷的になってしまい、「ここで別れるのが恒例になってしまったね」と、言うと
「そうだね。わざわざ凛に手間を掛けさせているようで気が引くけれど、凛の顔を見て旅立つっていう、なんてことない事がね、俺には大事な意味を持つのだと…感じてしまうんだよ」と、慧は真顔で言う。
「なんかわかる」
「おまえを独りにするのはいつも不安だよ。それはおまえに対してでもあるし、俺自身の寂しさでもあるからね」
「そうだね。お互いが独りになってしまうんだから」
「恋人と仲良くしなさい。孤独に泣かなくてもいいように」
「…わかったよ」

空港別れ

 展望台で慧一の乗る飛行機を見送った。
 青空に吸い込まれるように飛び去る機体が消えてしまった何も無い空を見つめながら思う。
 慧一も孤独に泣くのだろうか…
 恋人と仲良く、か…慧はどんな気持ちでその言葉を俺に送ったのだろう。

 ねえ、慧…
 ミナがいても俺は独りだよ。
 
 誰だって、そうなんだ…きっと。





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宿禰凛一編 「Swingby」 14 - 2009.11.18 Wed

14、
 夏休みに入り、すぐに八月。と、いうことは慧一が帰ってくる。
 それは嬉しいが、慧一が自宅にいるということは、ミナをマンションには呼べないという事だ。
 ミナに説明すると、あっけ無い程にあっさりと快諾した。
 俺としてはもう少し残念がって欲しかったのに。
 居心地良さげにしていたのはデフォじゃなかったのかなあ。
 まあ、夏休みでもミナは実家には帰らず、補習に明け暮れるというし、俺も一応補習と部活に毎日通学することにはなるから、温室での逢い引きは確保できる。

 近頃は温室での情事が激しくなっている。
 最後までやらなくてもきわどい段階まではお互い暗黙の了解済みだ。
 もしかしたら、誰かに見られるかも知れないっていうスリル感が、ミナの快楽を大いに高める要素となるのか、えらく感度が良くて、俺の背中に爪を立てることもしばしば。
 まあ、それはそれで肉欲に溺れるミナはとてつもなく可愛いからいいのだが、時々、恐ろしくなる。
 それは、俺がミナをセックスに塗れさせ、ミナの誠実な部分を堕落させている気がしてならないからだ。
 一種の罪悪感なのだろうか。
 別にセックスが汚いというわけではないが、ミナの素直な感情と身体は、時々俺には尊く思え、触れるのも気が引ける時がある。それとは逆で、俺の愛撫のひとつひとつに感じているミナを見ていると酷く嗜虐的になり、めちゃくちゃにしてしまいたくなる欲求も沸いてくる。
 俺はそれをいちいち自分の中で制御しなければならない。
 愛しているからこそ大事にしなければ…
 「愛」とはこうもジレンマに陥るものなのか…
 俺の中で熱いものと冷たいものが断層のように積み重なっていくようだ。
 その時々の間に、俺は少しずつ宝物を隠していく。
 いつか誰かが発掘するかもしれない輝きを。


 慧一が帰り、一年前と同じような生活を始めると、不思議な事に俺はミナへの爆発しそうな熱情をフラットに近づけることが出来た。
 家族と過ごすという安心感なのか、ミナへの執着心が薄れる気がして、俺には幸いな気がした。
 夜になっても俺は独りではなく、傍には慧一が居てくれる。
 どれほど心強いだろう。
「独りでいると時間って長く感じるけど、慧が居てくれるとあっという間に経ってしまうもんだね。この一年で身に染みてしまったよ。慧が居ると居ないとじゃ天国と地獄だ。昔はそうでもなかったのにねえ~不思議だ」
「凛は我慢しすぎたんだよ。俺の所為でもあるけれど…おまえの思春期に独りにさせた責任は、おまえがその寂しさを感じなくなるまで俺が負うべきものだと思っている」
「…そんなことない。慧には慧の事情があったんだから。もうその事を責めたりしないよ。それに、それがあったから今の俺がいるんだろ?確かに寂しかったけれど…今はこうして傍にいてくれるんだから、十分だ。慧は…自分の幸せを考えた方がいい」
「…わかってる」
「でも…まあ、もうちょっとは甘えさせてくれよ。ここに居る時は、慧は俺のもんだ。…いいだろ?」
「…勿論、とことん甘えてくれ。その為に俺はここに居る」

 ソファに座る慧一の膝枕で目を閉じ、慧の手で頭を撫でられると、子猫にでもなったみたいにまあるくなる。
「慧は…俺にどうして欲しい?」 
「…どうって?」
「幸せって…なに、かな?」
「…」
「自分が幸せになる事と、愛する人を幸せにする事…どっちが大切なのだろう…」
「…どっちも同じじゃないと正しくはない。だが、誰もが正しい選択はできるもんじゃないさ」

 慧にはミナのことはあまり話さない。
 慧一が留守の間、俺たちがここでどんな事をしているかは、うすうす感じてはいるはずだ。
 だけど、慧一は俺の恋人に嫉妬をすると断言した。
 俺も慧に恋人が居たとして、そいつの事を聞きたくはないと思っている。
 ならば、気分を害する話題は触れないでおこう。

 今になってやっと気づき始めている。
 俺たちは普通の兄弟ではなかった。
 繫がれた手は離せない。
 これはミナとは違う手であるべきだ。
 二つの手が引き合ったら、俺はどうするのだろう…
 俺の手は二本しかない。
 どちらか…選ばなければならない日が来るのだろうか…

 俺は知っている。
 俺が離さなくても、片方の手が、必ず俺の手を放すことを…
 
 それを考える時、ガタガタと、身体が、震えるのだ…







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宿禰凛一編 「Swingby」 13 - 2009.11.16 Mon

13、
 「凛一、明日は学校も休みだろう。うちに泊まりなさい。おまえが嫌だと言っても今晩は帰さないからな」と、意味深な言葉を吐く言う嶌谷さんは、回りから大顰蹙を買っていた。
 閉店後、嶌谷さんに連れられて彼の自宅に行く。
 久しぶりの嶌谷さんのマンションは、昔とひとつも変わらない。どことなく清々しい心持ちのする空気が俺は好きだった。

「凛一の為に、とっておきのメルローでも開けようかな」
「結局は嶌谷さんが独りで飲んじゃうくせにさあ~」
 ワイン好きの嶌谷さんが家庭用のワインセラーから高級な赤ワインを出してきた。
 酒に強くない俺が飲めるとしたらワインぐらいなんだか、それは嶌谷さんの影響だと思う。
 勝手知るところで、簡単なつまみをキッチンでこしらえる。
 嶌谷さんとの穏やかな団欒は俺にとって居心地が良すぎる。
 嶌谷さんは月村さんの事は一言も口にしなかった。俺も何も言わない。
 もう少し俺が大人になって、月村さんをちゃんといい思い出にしたら、沢山語り明かしたいと思っている。

「嶌谷さんの部屋ってなんだか安心するなあ~。独り暮らしってどこも一緒かなあって思ったけど、うちの空気とはやっぱり違う」
「凛一は来年には慧一くんが帰ってくるから独り暮らしは返上だろ?俺みたいな万年やもめと比べるな」
「本当に帰ってこれるのかなあ~ちょっと心配なんだ」
「なにが?」
「就職って日本の就活とは違うんでしょう?向こうの企業に就職したら、日本に帰れるかどうかわからないよね。日本で働けたとして、今の自宅に住めるとは思えないし…仕事場が東京なら俺が東京の大学を選べばいいんだけど…俺の都合で慧の仕事先を決めて欲しくはない。慧に言っても、自分が決めるから口出しするなって言う感じだし…。お荷物になっているようで、心持ちが悪いよ」
「慧一くんがそうしたいって言ってるのなら甘えればいいんじゃないか?」
「…」
「なに?」
「以前の嶌谷さんだったら、凛一は甘えている。大学生にもなってお兄さんと暮らす奴は自立心が足りないって言いそうなのに…」
「…慧一くんと色々話して、彼がおまえを大事にしてるっていう気持ちが良くわかったからだよ。それに、慧一くんは凛を長い間独りにしてしまったことを、とても後悔している。少しでもおまえの近くに居て、甘えさせてやりたいって思っているんじゃないのかな」
「そりゃあの頃は…さみしくて仕方なくて、俺も嶌谷さんや兄貴に色々心配かけてしまったけれど、もうどこの誰かとほいほい寝たりはしませんよ」
「凛は危ういからなあ~」
「危ういって…そうかね~嶌谷さんは一度だって俺と寝たいって言わないじゃないか?俺にはそういう色気はあまりないかもなあ~兄貴にいくら迫っても断られるしさあ」
「凛一。おまえは慎みと言うことを学んだ方がいい」
「肝に銘じますよ。と、言っても今は俺、充実してんの」
「へえ~決まったセフレでもいるのか?」
「…慎みなさい。恋人だよ。正真正銘の心から愛してるって思える恋人が出来たの。…男だけどさ」
「…そう、か…」
「同級生なんだけどね、一見軟弱そうに見えるけど、男気がある奴だよ。純情で素直で天邪鬼のクセに甘えん坊でさ。俺、メロメロなんだ」
「へえ~良かったな」
「…なんか」
「ん?」
「今の言い方、あんまり心から喜んでいないニュアンスがあった」
「そうだったか?」
「俺とミナ…そいつの呼び名ね。を、祝福してくれる大人が回りにあまりいなくてさ。ミナは学年トップの優等生だから俺みたいな危ない奴が近づくのを先生方は嫌がっているみたいだし…嶌谷さんなら味方になってくれると思ったのになあ」
「おまえが真剣に誰かを愛することは素晴らしいと思っているよ。…慧一くんは知ってるの?」
「うん、話したよ。慧の助言のおかげで俺たち本当の意味で恋人になれたと思ってる」
「そう…じゃあ、いいんじゃないか」
「それ!心から喜んでいないって感じだ。月村さんの時だって、嶌谷さんは反対したよね。どうしてそんなに厳しいのさ」
「そりゃ…そうだな、凛一を愛してるからな。他意のない嫉妬って奴さ」
「ああ、わかるよ。この間さあ…」
俺は、藤宮との一件と嶌谷さんに話し聞かせた。

「今はなんの関係もないっていうのに、慧がそいつと寝てたって思ったら、やったら腹が立ってしかたなかったんだよ。これって嫉妬だよなあ~兄貴に嫉妬しても仕方ないんだけどさ。別に俺は慧に対して欲情したりはないんだけどね」
「担任が慧一くんの昔の恋人とはね。なんて因縁だ。それにしても凛、おまえは欲情しないっていうけどね、慧一くんに迫るのはどうなんだ?」
「慧が本気にするわけないし、もしそうなっても俺は慧となら寝てもいいと思っているもん」
「本当に寝たいって思っているのか?慧一くんを試して楽しんでいるだけじゃないのか?」
「違うよ…」
「寝てしまったら今までと同じように慧一くんに甘えられるのか?関係が壊れるって思わないのか?簡単に好き勝手に吐いて慧一くんを困らすんじゃないよ、凛」
「…」
「俺はな、親だろうが子供だろうが、そいつを本気で好きなら自分のものにしたいって欲望はどこかにあるはずだと思う。そいつを他人に取られるとなれば嫉妬もするだろう」
「でも、親だったら子供の幸せを喜ぶもんでしょ?」
「勿論だ。だが百パーセントの祝福なんてあるだろうか。親は自分が大事に育ててきたものを取られ、友人は自分と長年暖めた友情に亀裂を感じる。だれもが天使みたいに百パーセント手放しで喜ぶ事は難しい。より愛していればそれはもっと複雑だ。祝福したい気持ちと、自分のものではなくなる寂しさが募るもんだよ」
「…嶌谷さんもそうなの?」
「凛は俺にとっても特別なお気に入りだからね。おまえの幸せを祈ってはいるけれど、嫉妬もするのさ」
「うん…でも俺は嶌谷さんが好きだよ。俺がどんな奴を好きになっても嶌谷さんへの想いは変わらないと思う…だから、嫌いにならないで欲しいよ」
「俺が、凛一を嫌いになれるもんかよ…いつだっておまえを案じているよ。慧一くんの想いには適わないけど」
「慧は…特別だからさ。きっと慧に本当の恋人が出来たら、俺は…泣いてしまう。その時は嶌谷さんが慰めてくれよ」
「じゃあ、その時は…抱いてやろうか?」 
「うん、頼むよ」
 俺となんか絶対しないくせに、そんな風に俺を労わってくれる嶌谷さんが好きで堪らない。
 だが、愛していても所有私欲には拘らないで、そいつの幸せを願う。その寛容さは俺にはない。
 結局は嶌谷さんは大人で、俺はまだ半端者なのだろう。
 いつかは俺も嶌谷さんのような境地に辿り着けるのだろうか…

 そうやって嶌谷さんと朝方まで語り明かし、久しぶりに気持ちのいい酔いに身を任せた俺は、いつの間にか嶌谷さんの膝枕で寝てしまった。





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宿禰凛一編 「Swingby」 12 - 2009.11.13 Fri

12、
 七月に入り、温室で過すには一番辛い時期が来る。
 俺とミナは毎日、草木の水やりや草取りに大忙しだ。勿論愛の営みも忘れない。
 期末試験が近づくと、温室は自習室になる。
 少々蒸すのも勉学の熱気の所為ということにして、俺たちは学生の本分を果たす。
 
 試験が終わり、一息ついてもいいと思うのだが、目の前の夏休みに浮かれるわけでもなく、勤勉な学生達は早くも夏休みの補習授業へ関心は向いている。
 それはミナにも言えることだった。
 まあ、目標に向かって突っ走る事は悪い事ではない。
 俺はそこまで走る気はないが…

 では、俺の歩く場所へと目を向けよう。
 そう…「Satyri」だ。
 月村さんの事件以来、店には近づいてはいない。本当はもっと早くに嶌谷さんに会いたかった。
 嶌谷さんは俺のことを心から親身になって気にかけてくれる大人だった。
 あの店は中学時代の俺のホームタウンだったし、拠り所でもあったから、いつかは帰りたかったんだ。
 総武線で乗り継ぎ、約一時間、久しぶりに「Satyri」の重いドアを開けた。
 …懐かしい香りが俺の頭からつま先までを包んだ。。

 低いステージの上では、バンドがノスタルジーなジャズを演奏している。
 辺り一面の壁を反射してジャズの音が耳に身体に響いてくる。
 ピアノの音は月村さんとは違うけれど…その音色は翳りなどない。
 ただ音に漂っていたくて、暫く目を閉じたまま動かなかった。
「凛一くん!」
 声をかけたのは常連のミコシさんだった。
 その声に演奏が一瞬止まり、店に居た客のほとんどが俺の方を振り向いた。どうせ暗くて俺の姿ははっきり見えるわけではないだろうが…
 すぐに演奏が再開されて、事無く済んだけれど、さすがに注目されるのは困る。だって一応18歳未満出入り禁止だもんなあ。
 いつもカウンターの中にいる嶌谷さんの姿を探そうとしてそちらを振り向いても、嶌谷さんは居らず、姿を探して辺りをきょろきょろとしていると、「凛一」と、低い声が近くで聞こえた。
 凝視して前を見る。暗がりから小走りに俺に歩み寄ってくる姿が見えた。
 嶌谷さんだった。
「凛…」
 嶌谷さんは躊躇いもなく俺を抱きすくめた。
「良く来てくれたなあ。ずっと待ってたよ。おまえが来るのを…」
「嶌谷さん…」
 嶌谷さんの優しいぬくもりに俺は胸を打たれた。
 俺はまだ見捨てられてはいないんだ。嶌谷さんの抱きしめる強さが物語っている気がした。

「本当はもっと早く来るべきだったのに…遅くなってごめんなさい。嶌谷さんにも心配かけたけれど、もう大丈夫だから」
「一端の事言うようになったもんだ。どれ、顔を見せてくれ。…益々色男になったな、凛。背も随分と伸びた。追い越されそうだ」
「あとは縮むだけの嶌谷さんと違って俺は伸び盛りだからね。すぐに追い越すよ」
「辛辣なところは相変わらずだ。それでこそ凛一だ。さあいつものところに座りなさい。今日はおまえの歓迎パーティだ」
 ミコシさんや戸田さん、常連の人たちが手を振って招き入れてくれる。近寄り次から次へと抱擁とキスの歓迎を受け、俺も嬉しくなって丁寧な挨拶を返す。
 いつも陣取っていたカウンターの端っこの席に座り、大勢のお客さんから歓迎を受けた。
 スイングジャズで始まった「この素晴らしき世界」は原曲の「キラキラ星」に変わり、俺の好きなモーツァルトのジャズ風メドレーに変わっていく。
 思わずステージを振り向くと、バンドのリーダーの新井さんが俺に手を振ってくれた。
 そして他の連中も…
 淡いスポットライトを浴びたグランドピアノを見つめた。

 月村さんはもういない。
 あのピアノに座り、軽快なジャズを弾くこともない。
 だけど、俺はあんたを忘れないよ、月村さん。
 あんたは傍観者ではなかった。
 俺の道に美しい花を咲かせてくれた大事な人だ。
 だから、言葉にしてあなたに贈るよ。
 「ありがとう、月村さん」









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キャライラスト - 2009.11.11 Wed

嶌谷誠一郎(とうやせいいちろう)
ジャズクラブ「サティロス」の店長さん。
凛一が13の時40だから…今は44だな。
自分の理想の大人として書いてます。
まあ、ゲイだけどwww


嶌谷さん
何故嶌谷さん?…次にでてくるし、これからも重要な人だから。



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宿禰凛一編 「Swingby」 11 - 2009.11.11 Wed

11、
 二年になった途端、学校行事の忙しさに目が回った。
 部活の「詩人の会」の副部長を押し付けられた俺は、部活のある放課後は必ず参加しなければならなくなった。
 六月の文化祭の実行委員で夜遅くまで居残り、十月の体育祭には縦列で団結する黒組の応援団として参加することになる。
 夏休み前から部活のない放課後は、これまた応援合戦の練習に勤しむことになった。
 学校への敬意は払いつつも、別に最上の尽力を負うつもりはこちらには全くないが、何故か回りから乗せられ、気づいた時にはお立ち台に立っている。
 ミナは「リンはかっこつけすぎなんだ。おだてられたらいい気になってさ。おれと一緒にいる時間が少なくなるじゃないか」と、拗ねる。
 いい気になっているわけではないが、中学時代の不遇からの反発なのか、何故か青き果実のごとく青春を楽しもうって気になっているんだ。
 自宅で引きこもっているよりは健全だし、独りの寂しさも紛れるからなあ。

 六月の恒例の三者面談には当然保護者は不参加。
 俺は担任の藤宮紫乃との二者面談に国語準備室へ向かった。
 藤宮は相変わらず胡散臭そうに俺を見ると、まず希望調査書を差し出した。
「他の生徒は受験する大学を決めているのに、おまえは何も書いてないじゃないか」
「まだ決められないし、行きたい大学も別にないから仕方ないんだよ」
「適当に書いておけ」
「じゃあT大にしとく」
「…水川が行くからか?」
「それもあるけど、それにしておけば、つぶしが利くだろ?」
「そんな理由じゃT大は受けさせない。おまえ知ってるか?毎年この学校から十人はTかKの国立に行かせるのがこの学校の絶対目標なんだよ。今のところ経営状態は悪くないが、少子化の波は逃れられないしな。そもそも育児をないがしろにする親どもが、教育だけは躍起になっていい大学へ進学させたがるという時点でどうかしとると思わないか?」
「…」
 そんな事情を俺が聞いても知るかよ。
「付属大学でいいよ。推薦で行けるだろ?」
「ちっ、兄弟揃って興味ない話はスルーか…その前に、理系か文系、どっちか決めろ」
「え?」
「おまえの成績は…数学と物理と世界史は満点。現代国語と生物、化学は平均以下じゃないか。微妙すぎて…笑えん」
「だから…俺にも決めかねているんじゃないか」
「水川のおかげなのかどうかしらんが、おまえの成績は順調にアップしている。本気で狙えばT大も無理じゃない」
「目的もないのに合格しちゃ、落ちた方々が不憫だ」
「うるせ~、人のことはどうでもいいから、ちゃんと考えろ。建築に興味あるんだろ?建築学科を選ぶなら理系を選択しろ」
「なんで建築学科?」
「慧一が知らせてきた。おまえが建築に興味があるようだから、その意思を聞いてみてくれって。因みにうちの大学に建築学科はないから、推薦はもらえんぞ」
「ちょ、待て!今なんかさらっと流してくれたなあ…あんた、慧一と連絡しあってんの?」
「Eーメールでな。こちらからいくらメールしても返信はなし。で、自分が用事のある時だけ一方的に来る。しかもおまえの心配ばかりだ」
「…非礼な兄をお許しください。…って、いうか、なんであんたはいつまでも慧にこだわるんだよ。あんたならいくらでもいい男は捕まえられるだろ?もうとっくに別れたんだからさあ、いいかげんやめなよ。友人として慧一と付き合うのなら反対しないけど」
「若い子と遊ぶのは楽しいし、かわいがってやるのもいたぶってやるのも趣味だし、別に慧一ひとりを思って枕を濡らしているわけじゃあないさ。ただ…慧一とは身体の相性が良くてね。今でもあいつとのセックスが忘れられないってわけだ」
「…」
「慧一はジェントルな容姿と違って、ベッドじゃSだからなあ。テクニックも持続力も半端ない。あんなに夢中にされてくれる男は、他に探そうとしても早々には居ないんだよなあ」
「…もういいよ」
 なんか段々腹が立って仕方なくなってくる。これが嫉妬って奴なんだろうな。
 昔の恋人にさえこうなんだから、もし、慧一に本当の恋人を紹介されたら…相当に胸が痛むだろう…

 俺は席を立った。
 藤宮が黙って俺を見上げる。
 伊達眼鏡の奥が笑っている気がして、ムカついて仕方ない。
「おやおや、随分とご機嫌ななめだ。大事なお兄ちゃんを取られるのが、そんなに嫌か?」
 薄ら笑いを浮かべた藤宮の勝ち誇ったような様に、我慢が出来ない。
「笑っておめでとうと言えるほど人間が出来てるわけがないだろう。慧一は一番大事な肉親だ」
「じゃあ…水川は?」
「?…ミナと兄貴を比べるバカがいるかよ。ミナは大事な恋人だ。あんたは時々変なことを言う。なんで兄貴と恋人を並べる必要がある」
「…俺にはそうは見えないから、煽っているだけ。単なるオブザーバーの興味本位だよ。気にするな」
「…気にするだろ!バカか…オブザーバーならオブザーバーらしく黙ってろっ!」
 俺はムカついたまま、部屋を出て行った。
 慧一と寝た藤宮なんか絶対好きにはなれない…なるもんか!

 結局とばっちりを食うのはミナだ。
 温室で俺をモデルに暢気にデッサンしているミナを見ていると、どうにも嗜虐的になってくる。
 たまらずにスケッチブックを取り上げ、乱暴にミナを抱き寄せ、襟を広げて鎖骨の下に痕が残る程食らいついた。
 ミナは驚いたがさして抵抗せず両腕で俺の頭を抱いた。
 ゆっくりと顔を押し付け、諭すように言葉を紡ぐ。
「ねえ、リン…おまえが好きだよ。どんなリンでも、おまえに触れられていられるだけで、おれは自分の存在価値を見出してしまうんだ…それってある意味究極の幸せって気がしないか?」
 俺は顔を上げ、ミナを見つめた。
 夕焼けの光に翳る微笑むミナは女神のようだ。
 胸の中の苛立ったものが霧散する。
 ただ…ただ愛しいだけ。
 俺はこいつを失うわけにはいかない。
 おまえに捧げたものは愛と信頼、そして希望だ。

 俺は誓う。おまえの笑顔を決して絶やさないと。






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宿禰凛一 「Swingby」 10 - 2009.11.09 Mon

10、
 ミナの誕生日プレゼントに買ってきたシカゴ美術館のアートブックに、ミナは酷く感銘を受け、行って見たいと連呼した。俺はどれもこれも素晴らしい美術品ばかりだと煽り、いつか一緒に行こうと約束した。

 俺の誕生日には、ミナは直筆の絵を俺にくれた。
 俺がクリスマスにプレゼントした色鉛筆で温室に咲く草木を瑞々しく描いた絵は素晴らしく、額に入れた途端相当な画家が描いた様だと、俺は褒めた。
「額がいいからだよ」と、謙遜するが、ミナには絵画のセンスがある。
 ただの写実画でもなく印象画風でもない。ボタニカルアートに近い感じはするが、ミナの描く草花には、どことなく抽象的でもあり叙情的な感覚も混じっている。独特なミナだけの画風が備わっている。
 俺はミナに画学を進めるが、ミナは困惑したように眉を顰めるだけだ。
「両親が…許さないよ」
 温室の花にジョウロで水をやりながら、ミナは俺に背を向けた。
「おまえの人生を親が決めるのか?」
 俺は温室の窓を開けて、風を通す。
 五月の眩しい緑の輝きに、思わず目を閉じた。 
「…あの人たちが必ずも正しいとは思っていない。だけど、父さんも母さんもおれに期待している。この学校を選んだのも、寮生活をさせてくれているのも、いい大学に入るからと約束して無理を言ったからなんだ。リンの家庭みたいにうちはお金に余裕があるわけじゃないしね。国立大学を選択するしかないんだ。そういう状況で、美術大学を受験するなんて…とても無理だ」
「だけど…」
「おれは…おれのことであの人たちを心配させたり、失望させたくないって、思っているよ。くだらない親孝行かも知れないけど、おれにできる恩返しってそれくらいかな…って」
「…三年間の自由と引き換えに、後の人生は親の為にってこと?」
「…そういうわけじゃないけど…リンには、わからないよ」
「…」

 ミナの言っていることは俺にはわからない。
 親の期待に応えるってことはそんなに大事なのか?
 恩返しって、何だ?…子供を育てて一人前の大人にすることは、親の義務だろう。そのために働いて、子供を飢えさせないように、十分な教養を身につけさせる。それだけで親の自己満足は満たしてやれるはずじゃないのか?

 俺はミナとの価値観の違いにしばしば面食らう事がある。
 だとしても、それが原因で俺たちの間になにがしかの不信感が宿るわけでもなく、恋人としてのミナに何も不足はなかった。

 ミナは毎週末必ず俺の家へ泊まりに来るわけではなかったが、お互いの性欲は十分満ち足りたものになっていた。
 ミナに今まで一度も性体験がなかったのは、全く以って俺には好都合だった。
 他の奴が知る前に、俺の好みに調教できる。
 ミナは結構欲しがる方だ。
 する前は、必ず恥らったり躊躇ったりはするが、いざやり始めると、没頭してしまう。
 勉強と同じなのか、一度学んだらとことん突き詰めていくのも性格だろう。
 陶磁器のように白い肌は滑らかだし、関節は柔らかいし、中の感触も感度も上質だ。
 唇を噛みながら喘ぐのも、声を張り上げて乱れるのもいい。
 ミナの身体は素直で官能的。

 一通りやり終えたら、シチュエーションを変える。
 ラブホテルへ行ったり、夜空の下でやったりと…ミナは嫌がりながらも最終的には逆らわない。
 が、さすがに温室でのセックスはこっぴどく拒絶された。

「マンションの屋上でやることはOKなのに、温室でやるのはNGなのか?なんの違いがある?」
「リンはバカだ!人目があるとないの違いだろう!しかも…ここは学校の敷地内だ。誰が来るかわからない」
「別に見られてもいいけどね」
「リンは非常識だ。おまえは節度を知った方がいい」
「なんだよ。やり始めりゃあ自分から擦り寄ってくるくせにさあ~」
「で!…デリカシーのないリンはき…」
「嫌い?」
 首を傾げながら上目遣いに見ると、ミナは何度も瞬き顔を赤らめる。
「き、らいじゃないけど…」
 素直な反応に俺は十分満足。
「ゴメン、ミナの嫌がることはしないよ。約束したろ?ミナが嫌ならしない」
 俺は、微笑んでミナに腕を広げる。
 ミナは俺を見て少しむくれて俯く。
 少ししておずおずと俺の腕の中に納まり、肩に頭を載せて、ミナは囁く。
「…別に…リンがどうしても…って、言うのなら…してもいい…けど…」と、呟くのだ。
 俺はほくそ笑む。二重の意味で、ミナはかわいい。
 シャツの下にそっと手を滑らせると、ミナは甘い息を吐いた。

 結局、ミナは俺に甘い。
 勿論、俺もミナを十二分に甘やかすけれど…





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宿禰凛一 「Swingby」 9 - 2009.11.06 Fri

9、
 俺の胸に頭をもたげて眠りにつくミナを、俺はしっかりと抱きしめていた。
 ミナの規則正しい呼吸音と、上下する胸の動きが俺の肌を通してはっきりと感じる。
 この愛しき者。
 
 愛するという事はこれ程までに、優しくいたわり、守りたいと感じるものなのだろうか。
 俺はミナを悩ませるすべてのものから守ってやりたいという保護欲にかられている。
 今まで関わってきた多くの大人たちも、こんな思いで俺を見つめていたのだろうか。
 俺がこれまで貰ってきた数々の愛情とは、ここまで深く熱いものだったのだろうか。
 慧や梓が俺に与えてきた愛情と、俺がミナに感じる愛情は何が同じでどこが違うのだろうか…
 慧は…こんな風に眠る俺を抱きながら見つめたことがあるのだろうか…

 …変だ。慧は兄貴なのに。
 俺がミナを思う気持ちと慧一の俺への愛が同じではないはずだ。だが、少なくとも俺がミナを幸せにしたいと願う気持ちと、慧の俺を思う気持ちは似かよってはいるはずだ。

 俺はミナの前では誠実であり続けよう。
 もし、ミナが俺を嫌いになっても…もし、いつか別れが来るとしても、俺の中に生まれたミナへの愛情は消えることはない。
 決して無いと誓える…
 ミナの頬に翳る睫毛の影を見つめ、そして、俺はゆっくりと目を閉じた。


 翌日、昼近くになって起きたミナと一緒に食事を取る。
「なんだか…恥ずかしいよ。リンったらひとりで起きてこんなにちゃんとした朝食を用意しているんだもん。おれの立場がない」
「朝食じゃなくて、昼食だろ?いいんだよ。ミナは初心者で色々と疲れているんだから」
「…や~らしい言い方…」
「ミナのアノ時の声ってさあ、すげえそそるし、たまんねえもんがあるよ」
「リ、リンっ!」
「まあ、いいから食べなさい。どうせ、今日も明日も休みなんだから」
 眼鏡を上げながら慌てるミナを押さえ、俺は出来たてのオムライスを目の前に差し出した。


「ごちそうさまでした」
 きれいに食べ終えたミナが手を合わせる。
「ミナ、これから何する?折角の晴天だし、どっか出かける?」
 食後のコーヒーを飲んでいるミナに問うと、ミナは黙ったまま下を向く。
「…」
「なんだよ」
「リンと、ここに一緒に居たい…」
「…」
 Tシャツから出た色白の首がピンク染まっている。こいつは、天然の色仕掛けをしてくる。
 全く…
「じゃあ、俺の自宅は二人だけの秘密の花園ってことで、毎週末泊まりに来いよ。めちゃめちゃかわいがってやるからさ」
「…そ、そういう意味じゃない」
「嘘」
俺は白けた視線でミナを睨んだ。するとミナは慌てて釈明する。
「…う、そだけど…じゃなくて…月曜に校内模擬があるから、三上に言われているんだよ。宿禰にしっかり勉強させるように」
「…あ?…嘘」
「…嘘じゃないし」
そっぽを向くミナの口唇が心なしか尖っている。

 三上の件は絶対嘘だなあと思い、まあかわいいからいいやと納得して、拗ねるミナの指を自分の指と絡めると、こっちを向いたミナが綺麗な顔で笑った。

「愛してるよ」と、囁く。
 ミナは頬を染めて「お、おれも…あ、いし、てる」と途切れ途切れに言うから堪らなくなる。
 立ち上がってミナに近づき、椅子から立ち上がらせたミナを抱きしめる。
「腹も満たしたことだし、ね、セックスしよう」と、提案。
 ミナは戸惑いながらもゆっくりと頷く。それを確かめると、リビングのソファに導き、ミナを寝かせた。
 Tシャツの裾を捲くって、撫で回す。ミナは頭を擡げたまま、すこしだけ憂いを帯びた目で俺を見る。
 「ミナはここ、結構感じるよね」撫でた臍の上辺りを舐めた途端、スンと鼻に抜けた声を出す。
 嫌がられない事に気分良く、そのままジャージとパンツを下ろすと、慌てたミナが「リ、ン…頼むから、その前に、キスさせて」と、請う。
 早速のおねだりに、俺は何度も甘い応えを返した。

 ミナは自分で眼鏡を外し、両腕を俺の首に回すと、もう一度じっと見つめる。
「もうひとつお願い」
「なに?」
「お、わったら…」
「ら?」
「…勉強しようよ」
「…は?」
「おれ、リンと付きあって成績落ちたと思われたくないし、リンにもそうであって欲しいんだ。いいだろう?」
「…了解、しました」
 成績と俺たちが付き合うことの関連性に疑問を持たないではないが、まあ、ここはミナの論法に譲歩しよう。
 こういうミナも堪らなく好きになってしまっているのは事実だ。
 受験勉強に精を出すべき高2の俺達が、勉学に励むのは至極当然。
 そして、頭を使ったら、身体もね。

 休日の二日間、俺とミナは、セックスをしたら勉強。勉強に飽きたらセックスの繰り返しだった。
 セックスの指南は俺。そして勉学の教師はミナ。
 お互いの役割は大いに役立ち、お互いの人生を豊かにした…と、思えるんだが…

 校内模試の結果は…勿論ミナは断トツでトップ。俺は…文理合わせてトップ10入りを果たした。
 真に恋の力とは恐ろしい…







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宿禰凛一 「Swingby」 8 - 2009.11.04 Wed

8、
 この間のリベンジと言うミナの言葉を本気にしてもいいのか…本当のところ、俺は混乱していた。
「相手の事を一番に考えてやれ」と、言った慧一の言葉は正しい。だからこそ、今度は間違えないように、俺はミナを導かなくてはいけない。

 リビングで落ち着かないミナの様子を眺めながら、こいつはこいつの中で色んな思いと決意を持って、ここまで来たのだろうと思った。
 その勇気に俺は応えなきゃいけない。
 ミナの望みを俺は適えさせてあげたい。

 …ふと思った。
 俺は今まで、他人に対してこんな風に思いやったり考えたりしたことはない。月村さんの時だって、あの人を救いたいとは思っていた。だけど、それは自分と言う存在をあの人に認めさせたくて…俺に救う力があると思い上がっていて…あの人を思いどうりにしたかっただけじゃないのか?でも俺の力なんかちっぽけなもんで、結局あの人は自ら「死」を選んでしまった。俺は自分の無力さを嘆いたけれど、そんな力は初めから持っていなかったんだ…

 …いや、違う。もっと根本的な何か…月村さんは俺に何を求めていた?

「ねえ、リンのお兄さんってリンに良く似てかっこいいね」
 シカゴで撮った写真を、パソコンの画面で眺めているミナが、俺を見る。
 俺は初めてミナに俺の生い立ちを話し始めた。
 亡くした母の事や慧や梓のこと、俺がどんな風に育ってきたかを、今こそ話すべきだろう。
 ミナは本当の俺を知りたがっている。
 
 俺はまだ悩んでいた。俺は…男でも女でも受けでも攻めでも、そのことで自分のプライドが傷つくという経験はない。そこまで考えが及ばないぐらいに俺自身が幼稚だったからだ。
 ミナはどうなんだろう。
 ミナは俺が…ミナを抱いてもいいと思っているのだろうか。男としてのプライドは傷つかないのだろうか。
 俺と繋がりたいと言ったミナを、俺はどういう風にするのが一番いい方法なのだろう。

 一緒に夕食を作って食べて、風呂に入って、ベッドで寝る。
 当たり前の事なのにひとつひとつが嬉しい。ミナといると口元が緩んで仕方が無い。
 少し緊張したミナが俺を見つめる瞳が好きだ。少しむくれて唇を尖らして俺を睨む表情もいい。普段は透き通るように白い肌を真っ赤にして恥らうのもミナには相応しい。
 …俺を見て微笑むミナが、愛しい。
 ミナは俺が思っている以上に俺に癒しをくれる。
 こいつは俺を…愛してくれているのかな…

 裸になったミナの身体を触る。
 ミナは素直に反応を寄こしてくる。
 怯えながらしがみ付くのもたまらなくかわいい。
 大事にしたい。
 怖がらせないように、色々と話をして聞かせると、素直に耳を傾け、一生懸命に答えを探す。
 こいつはとても純粋だ。
 俺がそれに…手をつけてもいいのか…
 それはミナにとって正しい選択なのか…
 この子の人生を狂わすものではないのか…
 俺は、ミナの限りない選択できる未来への道を狭めてはいないだろうか…

 …月村さんが俺を抱かなかった理由…それはこういう事ではなかったのか?
 あの人は自分の死を知っていた。
 だから俺の中に自分を記憶させる事をしなかった…それが…あの人の想いじゃないのだろうか…
 あの人は俺に自分を忘れて欲しいと言った。
 俺の為を想って…そうじゃないのか?

 ミナの身体が俺の下で熱くなる。ミナの手が足が俺に絡みつく。
 熱い…
 ああ、大好きな、大事な、愛しいものを、俺はこの身体で抱きしめ、抱きしめられ、ひとつになっていく。

「リン、好きだ…大す、き…」
 切なさと甘さを孕んだミナの声が耳に響く。
 そうして、何度も俺の名を、呼ぶ。
「リン…リン、おれ、幸せだ、よ…」
 途切れ途切れに吐くミナの言葉に、俺の鼓動が止まる。

 …幸せだったと言った。
 幸せだとあの人は言ったんだ…
 俺は、俺は彼を救った?
 …そうなのか?だったら俺は…

 死んでいった月村さんを俺が救った。そして俺は月村さんの死に縛られてしまった。だけど、違う…月村さんが俺を縛っていたんじゃない。俺が…俺自身が月村さんの「死」から逃れられないでいただけなんだ。

「リン…好き、だ…」
 揺らされながら必死で叫ぶミナがいとおしい。
 この浄化する者…
 ああ、…俺は…
 俺は、ミナに救われている。ミナが俺を救ってくれている。
 ミナの「愛」によって、俺は「死」の鎖からやっと…やっと解き放たれるんだ…

 ミナ…ミナ…俺はどうしようもなく頼りない人間だ…人の気持ちもわからないまま、好き勝手に我侭し放題で生きてきた。それが許されると思い込んでいた。
 それを否定しようとは思わない。だけど…おまえには、おまえだけには、俺は信頼される人間でありたいと願う。
 ミナ…おまえを俺の一生の恋人と…誓ってもいいか?
 
「愛してる…」
 俺はミナの中に自分のすべてを注ぎ込み、そして、「愛」という感情をミナに捧げた。







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慧と凛 4コマ漫画 - 2009.11.03 Tue

相変わらずの低レベルの漫画ですが~(;´▽`A``


漫画2

こうゆう慧一が自分はメッチャ好きなのだが~どうでっしゃろ(;^ω^)


本気でやれば、S慧は出来るんだが…やっぱり凛はかわいいからね~手を出せない。

いつかは俺のものに…

慧一の野望は果たして叶うのか!



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宿禰凛一 「Swingby」 7 - 2009.11.02 Mon

7、
 別れはいつも辛い。
 空港ターミナルで出発を待つ間、俺は慧の傍から一時も離れられなくなってしまう。
 慧もそんな俺に動揺してか、やたらと気を使ってあれこれと喋り続けるが、俺が涙ぐむと、堪忍したのか暫く黙り込んで、ポケットから小さな箱を取り出した。
「誕生日に贈ろうか、今日渡そうか悩んだんだけど…凛の顔を見ていたら…中々渡し辛くなってしまう…誕生日プレゼントだよ」と、俺の手の平に乗せた。
 開けてみると、ペンダントだった。星の形をいくつも重ねたデザインのペンダントトップ。
 ひとつひとつが銀で縁取られた星に、トルコ石やメノウ、琥珀や螺鈿などが埋め込んである。
「綺麗だ…」
 俺はそれをじっと見つめた。
「梓がね…」
「え?」
「生きてた頃、言ってたんだ。何故だかわからないけど、凛が17になったら誕生日のプレゼントにアクセサリーを贈りたいって。なんかね、その時落書きで描いてたデザインがこんな感じだった。凛がこちらに来る前だったかな。ふらりと寄った骨董屋に梓が描いた絵と似たようなペンダントを見つけてね。ブランドはよくわからないんだが、きっと梓が導いてくれたと思って買っておいたんだ」
「…」
「梓が誕生日にって言っていたから、本当はそうしてやりたかったんだけどね…梓が傍にいると思ったら少しは寂しさが紛れるだろう」
「酷いよ…」
「どうした?」
「こんなの見たら、益々慧と離れるのが、辛く、なるじゃ、ないか…」
 …駄目だ、とても我慢なんて出来ない。俺はペンダントを握り締めて、ボロボロと泣き出した。
 慧は驚いて、俺の肩を抱いてハンカチを渡してくれる。
「凛…頼むから泣かないでくれ。俺まで泣けてしまうだろう…」
「慧が悪いよ。こんなの…俺、日本に帰ったらまた独りで毎日暮らさなきゃならないんだ…わかっているけど…いくらペンダントが梓だと言ってもさ…梓が見守ってくれるとしたってさ…俺に話しかけてくれるわけでも抱いてくれるわけでもないんだよ…俺は独りなんだ」
「…凛…ごめん。悪かったよ。夏休みになったら、すぐに帰るから…だから、泣くな」
「うん…わかってる。わかっているけど…俺、昔はこれくらいで泣きはしなかったのにね。年を取るたびに涙もろくなっている気がする。もう年かな?」涙を拭きながら笑うと「バカ…まだ16のガキのくせに。涙が出るのは、それはきっと凛の心が素直になっているんだ。もっと泣いても構わないと言いたいけど…ほら、そろそろゲートインしなきゃ…乗り遅れてしまうから…ね」
 
 さよならは言わなかった。慧にさよならは言わないって誓ったもの。
 だから「行ってきます」と、握手をして慧と別れた。


 自宅に帰りついたのは次の日の夕刻だった。時差ボケで疲れ果て、明日は始業式だというのに、俺は途中で買った寿司とワインを腹に入れ、いい具合に酔ったらそのままリビングのソファの横になった。
 梓と慧がくれたペンダントを握り締めながら、俺はミナのことを思った。

 あの一件以来、ミナとは会っていない。
 メールで謝ってはいるけれど、このひと月近くもほったらかしにしたままだ。
 確か先月の14日がミナの誕生日だった。プレゼントは買ってはいるが、明日は温室で会えるかな…それとも、もう俺のことなんか呆れ果てて、嫌いになってしまったかも…
 「ミナ…俺のものにならねえかな…」
 望んだものを口にしたら適うって言ったのは梓だった?それとも慧?
 俺には…俺の世界には長い事、梓と慧しか存在しなかった。それは幸福なのかもしれない。愛されている。守られていると感じていられるから。
 梓が死んで4年が過ぎてしまった。昨日の事のように思えるのに…
 梓が生きていたら、こんなに寂しがり屋にならなくても良かったのになあ…

「梓、ペンダントありがとう…でもこんなのより梓に居て欲しかったよ…きっと、慧もそう思っている…」
「今の俺には慧しかいないけど、俺はもっと色んな人を愛したいと思っているよ、梓。それは正しいことなんでしょう?」
 何も言わないペンダントは色とりどりの輝きを放ちながら、俺を慰めるみたいに冷たい肌を俺に寄せた。

 翌日、目が覚めたら時計は11時を指していた…こりゃ、自主欠席だな~折角の新学期の最初なのに…去年のデジャブか?などと思っても仕方ない話だ。
 まだどこか頭がふらつくのを変に思って、テーブルを見ると何故かワインが空になっている…
 気が付かないうちに一本空けてた?…と、思ったら急に吐き気が来てトイレへ直行。
 なんてザマだ。俺がアル中になる前に、早く帰って来いっ!慧。

 風呂に入って、荷物と部屋の片付け、やっと一服して、旅行の写真の整理などをしていたら、インターフォンが鳴る。宅配かなと思い、液晶画面を見て驚いた。
 …ミナだ。
 ええっ!なんで?…なんで来るの?
 俺の頭はパニックだ。
 取り合えず適当な返事をして、マンションのエントランスは開けたが…

 予想できない事が起こると人間ってのは、立ち上がってウロウロするしかないんだな。ほら、よくTVで見る、奥さんが赤ん坊を産む時に廊下でウロウロする旦那の図。あれだ!…違うか?
 はは…
 そんなこたぁどうでもいい。何で今日の今、ここに来るんだ~?
 この間の怒りがまだ治まらない?
 もしかしたら…別れ話か?そうなのか?
 あんなことしたから、もうリンとは付き合えない!って泣かれたりするのか?

 玄関でドアを睨んでいると、チャイムが鳴った。俺は急いで玄関のドアを開ける。私服のミナがバックを肩にかけ、コンビニの袋を持って、俺を見つめている。
「…あ…」 
 何か言おうとした途端、ミナの身体が俺の胸に飛び込んできた。
 俺は突然のミナの行動を予測出来ずに、その勢いに押され、思わず後ずさった。

「リン、会いたかった。すごく…」
 嘘のような言葉がミナの口から聞こえてくる。
 俺に…
 会いたかった?
 本当に?

 俺は俺を見つめるミナの瞳を見つめた。
 純粋に俺だけを求める揺らぎを見つけた。
 ミナは俺を求めてくれる。
 それは俺が求めているものと同じなのかな…
 そうであればいい。
 そうであって欲しい。
 そうしたら…俺は…
 俺は…




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宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
宿禰凛一の過去話「追想」の初めはこちら  



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