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2010-02

宿禰凛一編 「Swingby」 18 - 2010.02.25 Thu

18、
 嶌谷さんのマンションで慧一と一緒に寛ぐのは初めてだったから何だか変な気分になっていた。
 リビングの広い幹のテーブルに3人揃って楽しく団欒の時間を過ごすなんて。まるで本当の家族みたいじゃないか。
「嶌谷さん達が来てくれて、本当に嬉しかった。応援っていいね。凄く頑張る意欲に繋がるし。俺こんなに頑張った体育祭なんて今までにないや」
「こっちも子供に縁がないもんだからさ、貴重な経験だよ。他の奴等も凛一にかこつけて本当は自分たちの青春を懐かしんでいたのかもしれないな。みんな心から楽しんでいたからね」
 自分のことのように喜んでくれている嶌谷さんを見て、この人と出会って本当に良かったと思う。

 嶌谷さんと慧はワインとつまみでキリが無さそうだったから、俺は先に風呂に入ってゲストルームで寝た。
「慧、嶌谷さん宅はお客さん用のベッドはひとつしかないから、後で来てくれよ。一緒に寝たい」
「…わかったよ。先にお休み、凛」
 二人手を振って見送られても、何だかすっきりしないや。
 さすがに体育祭の疲れが出てベッドに横に寝ると直ぐに寝つき、慧が隣に来たのも判らなかった。
 明け方近く、一度だけ目が覚め、目を閉じたまま、隣に居る慧一のぬくもりを確かめた。
 良かった。慧はまだ俺の傍にいる…
 一度だけ目を開け、慧の眠る顔を見て、それからまた目を瞑った。

 次に起きた時、慧一の姿がなかったから慌ててベッドから飛び出した。
 ドアを開けてリビングへ行くと、慧はすでに支度を整え、手にはバックを持っていた。
「慧、もう行くの?」
「うん。凛は疲れてるだろ?もう少し寝てていいんだよ」
「空港まで送りたい」
「大丈夫だよ。駅まですぐだから、ここで見送ってくれればいい」
「慧…」
「じゃあ、嶌谷さん。すみませんが、凛の事よろしくお願いします」
「わかってるよ。道中気をつけてな。こっちに帰ってきたときはまた寄ってくれ。慧一くんとはいつでもいいお酒が飲めるから大歓迎だ」
「ありがとうございます」
 玄関で靴を履く慧一の後姿に寂しさが募った。
「じゃあ、凛、元気で…」
「慧…」
 振り向いた慧の肩に俺は凭れた。
「慧…来てくれてありがとう…嬉しかった」
「うん…」
 慧は俺の背中を軽く叩いた。
「いつまでも慧に甘えちゃいけないってわかっているけれど…やっぱり俺には慧が必要だ…」
「凛…」
「キスして」
「…」
 慧は後ろに居る嶌谷さんに目をやり、少し苦笑した後、俺を抱き締めてキスをくれた。
「…いってきます」
「いってらっしゃい、慧」

 玄関のドアが閉まった音の後、去っていく慧の足音に耳を凝らした。
「凛、元気をだしなさい。慧一くんは凛が呼べばすぐに帰ってきてくれるよ」
「嶌谷さん」
「我慢できなくなるほど寂しくなったらうちに来るといい。いつだって俺は凛の味方だよ」
「うん…」
 感傷的な涙が流れてしまい、俺は嶌谷さんに抱きすくめられた。
「こんなにかわいい弟を置いていく慧一くんだって辛いんだからな」
「…」

 リビングに戻って差し出されたコーヒーを飲む。
「しかし…あんな別れのシーン見せられると…なんだか映画のワンシーンでも見ている気がして、こっちまで感傷的になってしまう。全くおまえら兄弟と来たら、俳優顔負けのツラしてるし、絵になるねえ~」
「ねえ、嶌谷さん」
「ん?」
「…俺は…慧にとって、弟でしか成りえないのかな?」
 俺は今まで自分の心の奥底に燻っていたものを、この人に打ち明けるべきだと感じていた。
「凛?」
「慧は俺を…弟として、それだけでしか見てはくれていないんだろうか?嶌谷さん、どう思う?」
「どうって…」
「俺を愛していると思う?」
「そりゃ…弟の体育祭の為にアメリカから帰ってくるような兄貴だ。おまえを愛しているに決まっている」
「…俺は…慧一をただ兄ということだけでなく…もっと、深いところで慧を求めている気がする」
「凛一…」
「慧としたい。身体も心も全部結びつきたい。兄弟だから愛し合っちゃ駄目って誰が決めたんだよ。そんなの…関係ない。俺は…慧が欲しいんだ」
「凛…それはおまえの気持ちだ。慧一くんはそうは思っていないから、おまえとセックスしないんだろう」
「俺はセックスの対象にならないってこと?」
「そうじゃない。慧一くんは…」
 嶌谷さんは落ちつかなげに身体を捩り、煙草の箱を手に取った。
 煙草に火を付けて、一服すると、ゆっくり俺の方を向く。
「…もし、慧一くんがおまえとそういう関係になったら、兄弟という絆はどうなる?おまえは慧一くんとセックスをして、その後、慧一くんに今までと同じ弟の顔を見せられるのか?慧一くんにしてみれば…おまえと寝てしまえば、おまえを束縛したいと思う。だが、現実にはおまえと慧一くんは離れて暮らしている。おまえみたいな魅力的で奔放でまだまだ未熟な子供を遠くにおいて、彼は心配でおちおち寝てもいられなくなるだろう。恋人同士とはそういうものだよ。だから遠距離恋愛は難しいのさ」
「…」
「なあ凛、考え方によってはおまえと慧一くんは離れられないとも言えるよな。恋人より兄弟の方がずっと絆は強いし、死ぬまで縁は切れないもんさ。いつか凛は…大人になって独りで生きていくようになる。慧一くんはそれを見守ってやりたいんだよ」
「独りで生きていくってことは…どっちにしたって慧と別れることになるってことだね…。それが慧の望んでいることなのか…」
「おまえにも守る者がいるんだろう?その恋人を幸せにしたいって思うだろう?…誰もが完璧な美しい形で愛し合うわけでもないんだよ。…だから、慧一くんの事を思うなら、おまえはもっと大人にならなきゃいけない」
「…ミナを大切に思っているし、好きだよ。だけど…ミナへの思いと慧への思いは違う。俺は…全く違う思いでふたりを愛しているんだよ」
「凛、こういう考え方はできないか?おまえはそのミナって子に対しては入れる方、言い方を変えれば与える側じゃないのか?」
「…」
 確かに俺が責めだし、ミナが俺を抱くとはとても想像できない。
「おまえが慧一くんとやりたいと思う時は、おまえは受身でしか考えてないだろ?」
「…うん」
「おまえにはふたつの受け取り方の違う『愛』がある。どちらが重いとか深いとか言っても意味が違うのだから、おまえの中で愛することに迷ったりはしないのだろうねえ」
「そりゃ、悩む事はあるけど…」
「だけど、凛一の身体はひとつしかない。与える事も与えられる事も、唯一の人との愛を貫き通すことが、一生の愛じゃないかね。俺たちはいくら愛しても法の下では契れない。だから自由に何をしてもいいという事じゃないと思うんだ。むしろ婚姻という紙で保障されていないからこそ、一生を貫き通すことに意味がある。もし本当に貫き通したい『愛』を求めるのなら、おまえはひとつを選ばなきゃならないと思うよ」
「どうしても?」
「そうでなけりゃ、ふたりとも可哀相だろう?愛し合っているのに、おまえを半分しか手にする事ができないなんて」
「…」
「慧一くんは大人だし、凛の兄でもある。彼が凛一の為に身を引くのは、おまえを愛しているからだと思ってやりなさい。慧一くんを選ばなくても彼は凛の前から消えたりしないんだから…」
「俺は慧を…欲しがったら…駄目って事…なんだね…」
 …わからない。
 わからないけれど涙が止まらなくなった。
 慧を愛している。
 慧は俺を愛している。
 それなのに、身体も心も繋がったらいけない。

 じゃあ、ミナを愛さなきゃ、ミナと別れたら、俺は慧を選べるってことなのか?
 俺と慧は幸せな恋人同士になれるってことなのか?

 違う…慧一は俺が誰を愛そうと、誰を求めようと、俺と繋がる事を、求めはしないだろう。
 …俺の為に…





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凛の苦悩

アダムの創造 - 2010.02.24 Wed

久しぶりに厚塗り~
やっぱりいい構図だなあ~
誰をモチーフにしても意味のある絵になると思う。

指の先は…


凛は非常に孤独な人間だから、沢山の愛情を欲しがる。
でもいつかは選ばなくちゃいけない。
生み出された者は、イブと共に生きるのか。
それとも…

宿禰凛一編 「Swingby」 17 - 2010.02.24 Wed

17、
 体育祭は予想通り…それ以上の盛り上がりを見せた。
 こんなに沢山の応援や声援を送られて学校行事に参加するなんて、俺にとって生まれて初めての経験だった。
 小学校の頃から、俺を見守るのは慧一と梓しかいなかった。
 保護者参観の時も、遠足の時も、運動会や文化祭、すべての学校行事に来てくれるのは、慧と梓のふたりだけだった。
 だから、慧一や嶌谷さんやみんなが俺を見守ってくれる視線が、うれしくてたまらなくて。
 大声で俺の名前を呼ぶ声を聞いて周りの奴らは笑うけれど、俺は涙が出るほど有難くて仕方がなかった。

 観覧席に卒業生の美間坂さんと桐生さんの姿が見えたので、挨拶に行ったら、「俺のいない体育祭がどんなものかわざわざ来てやったんだ。俺の後輩としてヨハネの名前を穢すんじゃないぞ。わかったな」と、美間坂さんが睨みつける。
 美間坂さんの後ろから桐生さんが、相変わらずの穏やかな微笑を湛えて俺に顔を近づける。
「真広は昨日から宿禰の応援合戦を楽しみにしていたんだよ。根本とやるんだろ?きっと絵になるダンスだろうね。俺も楽しみにしてる」
「ええ、そりゃ、毎日死ぬほど特訓したんです。期待していいですよ~」
「向こうに君の名前を呼んでいる一団を見たけど、サテュロスの皆さんだよね」
「そう。ああ、桐生さんは嶌谷さん、知ってたよね」
「うん、今でもたまに美間坂を連れて店にお邪魔しているよ。常連客の方とも良くしてもらってる。…良かったな」
「え?」
「宿禰を見守る人たちが沢山いてくれて…幸せに満ちた顔つきをしているよ」
「本当に…なんか…俺、すげえうれしい!」
 満面の笑みを見せると、桐生さんは少し驚きながらも微笑みを返してくれた。
「…素直な宿禰はかわいいなあ~ちょっと抱かせてくれる?」
「勿論」
 俺と桐生さんがしっかり抱き合っているのを、目の前の美間坂さんが引き離そうとするが、俺たちは満足するまで離れなかった。
 辺りの状況がどうなっていたのかは知らないが…

 昼食時は、嶌谷さん達が用意したお弁当を囲んで、みんなと食べた。
 慧一はもちろん、美間坂さんや桐生さんも誘った。
 何事か?と様子を伺いに来た藤宮先生も引き込んで(慧一は微妙な顔つきだったが…)みんなで宴会さながらの賑わいで盛り上がった。
 こんなに楽しい体育祭なんて、夢みたいだと何度も目を擦ってみた。
 感動で目が潤みがちになり、慧一を見ると、慧もなんだか感極まりながら見つめ返すから気持ちを共有しているのだとわかる。

 午後一番のプログラムの応援合戦は大成功を収めた。
 本番の口づけのハプニングはあったけれど。
「リンくんのリードがあんまり巧すぎて、立ちそうになっちゃった~」
と、優勝旗を手にした根本応援団長が泣きながら、教室兼楽屋で俺に寄りかかってきた。
「本気で惚れようかなあ~」
「…ネコ先輩もステキでしたよ」
「じゃあ、ぼくと寝てくれる?」
「それはムリ!」
 先輩を支えていた両手を離すと、先輩の身体は優勝旗と共に床に転がった。
「おい!団長を粗末に扱うなっ!」
 周りの応援団の仲間があわてて根本先輩の身体を起こした。
「ひど~い!先輩を足蹴にした~」
「あんたが迫るからでしょう。それに応援団も解散だしね、ね、岡田先輩」
「みんなのおかげで我が黒組が優勝できたっ!みんな、俺のしごきによくぞ耐えてくれた。これで黒組応援団は解散っ!」
「オッス!ありがとうございました~」
 揃いの型を決めて挨拶が終わった。
 ひとりいじけた奴がいたけれど…
「…団長はぼくなのにさ…」
「先輩、ありがとう。楽しかったよ」
 いじける根本先輩の頬にキスのプレゼントを。

 体育祭の後の片付けも終わり、帰路に着き、慧一と一緒に嶌谷さんの店に出向く事になった。
 打ち上げのパーティで労ってくれるそうだ。
「なんだか本当に感動しちゃったよ。みんなの応援の声を聞いて、何度涙が込み上げてきたかわからないくらいだ」
 電車の中で立ったままの俺たちはドアに寄りかかりながら話す。
「俺もね、自分のことの様に嬉しかったよ。凛が輝いている姿を見るのも、応援してくれるみんなを見るのも…本当に来て良かったよ」
「慧は今まで俺の為に自分を犠牲にした事も多いから。こんな形で少しでも返せるのなら、ほっとする」
「俺は犠牲になっているとは思ったことはない。学校でも凛の様子を見るのは楽しかったしな。でも今日はまた違う感動が湧き上がったね。兄貴として誇りに思ったよ」
「…」
 慧のこんなに穏やかに幸せそうな顔を見るのは久しぶりだった。俺は人前じゃなかったら抱きついてキスをしたいくらいだった。

 
 「Satyri」では、みんなが俺たちを待ち構えて歓迎してくれた。
 後から美間坂さんと桐生さんも合流。楽しい打ち上げ会になった。
「わざわざシカゴから凛くんの応援にくるなんて。さすがはお兄様だわ…」
「弟バカでしょ?」
「どんなにワタシが凛くんを愛しても慧一くんには敵わないってことなのね~」と、わざとらしく泣き崩れるミコシさんは、ほって置いて。
「慧一くん、いつ帰るの?」
「明日です。朝の便なので、今晩は家に帰らずに近くのビジネスホテルに泊まります」
「じゃあ、俺も一緒に泊まるよ」
「凛一は帰りなさい。今日は疲れているんだから、ゆっくり休んだほうがいい」
「だって…」
 だって、こちらに居る時間が短いなら、ぎりぎりまで一緒に居たい。
「じゃあ、俺がいい場所を提供するよ」
「え?」
「俺のマンションに二人とも泊まりなさい。プライスレスだ」
「いいの?」
「おまけに美味しいワインもご馳走しよう」
「あ~あ、またマスターの宿禰兄弟びいきが始まった~」
 ミコシさんの呆れた声が、みんなの笑いを誘った。





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慧一視点で見ると…
↑使いまわし~wwwあと一回は使わせてもらうわ~


宿禰凛一編 「Swingby」 16 - 2010.02.22 Mon

16.
 学校で過ごしている間は感じないのだが、夕方帰宅して寝るまでの時間が寂しくて仕方がない。
 慧一がシカゴへ行ってしまった後はいつもの事だからわかってはいるけれど、夜って長いんだ、と、ベッドの中で寝付けない自分をもてあましてしまう。
 どうしても我慢できない時は、新橋の嶌谷(とうや)さんの店に行くけれど、俺ばかりを相手してもらうのも気が引ける。第一帰る時間に路線がない。送ってもらうにしたって結局は迷惑をかけてしまうことになる。
 だからじっと我慢する。
 週末にはミナと過ごせる。
 めちゃくちゃにミナを愛してあげる。
 それで俺の寂しさも消えるんだ。

 ミナは相変わらず心も身体も素直だ。
 この男の良心といっていい。
 俺の言葉のひとことひとことを大事な意味があるかのように、耳をそばだてて聞き入るし、ちょっとした好意も思いもよらぬほどにありがたがる。
 こちらが面食らうのも構わずに、好奇心の目で次はなに?と、いう体の姿勢で身を乗り出す…と、いった具合だ。

 俺はミナの真っ白なカンバスを色んな色で汚しているように思え、後ろめたい気がしてならない。それを言うと、ミナは「色んな色を教えてくれたリンに感謝こそすれ、なんで気に病む必要がある。おれは感謝しているよ。もし色んな色をリンがおれのカンバスに落としてくれたのなら、それを混ぜて良い絵にするのはおれ自身であるべきだろう」と、言う。

 週末にミナが来る目的はセックスだけではなく、それと同等に勉強に勤しむ羽目になる。
 とにかくミナが勤勉だ。
 予習、復習は当たり前だが、重要ではない科目にまで真面目に取り組む姿勢には感心する。
 結局俺もミナの勉強につき合わされ、そんなにガリ勉をしているつもりではないが、成績は上がる一方で、マジでミナと一緒にT大でも目指そうか!と、はしゃぎ始める始末。
「リン、真面目に考えなよ。今から猛勉強すればT大の建築学科だっていけると思うんだ。おれは理学部を選択するから…大学も一緒に行けたら、嬉しい」
「…ちょっと…まだ何も考えてないよ。無理に勉強してまでT大に行きたいなんてこれっぽちも考えたことはないし…大体将来のことなんて…まだそんなの俺には…」
「リンはどうしたいの?大学行って仕事して…誰にも頼らず独りで生計を立てられるように生きていくのは当たり前だと思うけど。少なくともおれはそうしたい。そう思うから今勉強していい大学に入って給料の高い企業に就職したい」
「…」
 まるでそうすることが当たり前のように言うミナの言葉は確かに…そりゃ確かにそうなんだろうけど、俺にはまるで実感がない。
 俺は一体どうしたいんだ?
 俺の将来って…
 なんになりたいかって…そんなの…わからないよ。

 黙ったままでいると、ミナが俺の手を取りゆっくりとした口調で話す。
「リンは…ひとりで過ごしてきた時間が長すぎたんだよ。今もひとりだし…だから家族という枠に囚われないで生きていられるから、きっと…そこから飛び出したいっていう気持ちが少ないんじゃないかな。おれは家族から独立することが大人になるってことじゃないかと思うんだけど」
「…」
「リンはお兄さんから離れられない?」
「え?」
 ミナがトーンを落としながら口走る。
「リンにとって慧一さんが一番大事な家族なんだろう?」
「そうだよ。だけど…いつかは兄貴から離れなきゃならないって…わかっているよ」
 そう、慧一を自由にさせてやらなきゃ…そうしなきゃならない…


 体育祭の応援合戦の練習も大詰めを迎え、俺と根本先輩はクライマックスのダンスシーンの練習に毎日明け暮れる。
「なんでここから急にボレロなんだよ。リズム取りにくいよ」
「ガタガタ言うなっ!ちゃんと胸を合わせて、顔も近づけろよ、宿禰!そこ!顔を逸らすなって言ってんだろ!」
 この応援演目の指揮を執る3年の岡田先輩が、竹刀を持って俺らの踊りを指導する。
「これ以上くっ付いたら先輩のアレが当たるんですよっ!気持ち悪いし」
「つべこべゆうな。俺の演出は完璧だ!おまえらのダンスに黒組の勝利がかかっている。指示どうりにやれ!」
「リンくん、ほら岡田の言うとおりにもっとくっつこうよ」
「…」 
 …うぜええ~
 わざとらしく股間を擦り付ける根本先輩にも呆れた俺は、どうにでもなれと、彼の身体を抱え上げた。

 やっと練習から解放された俺は、クタクタになりながら帰りの用意をする。
 根本先輩はミナと同じ寮だから、ジャージのまま帰るらしい。
「そんなにぼくと踊るのは嫌なの?」 
 岡田先輩の奢りのジュースを口にしながら、根本先輩は俺の顔を睨む。
「あんたと踊るのは嫌じゃないけどね、演出が行き過ぎだろう。だいたい先輩がドレス着てたら見てる人は男とは思わないよ」
「あれ?それ褒めてるの?うれしいなあ~じゃあ、一度ぼくとセックスでもしない?」
「…それはいつも断っている」
 靴を履いて足早に急ぐ俺の腕に手を回して歩くのは、この人の性分だと諦めるしかない。
「みなっちへの操を奉っているわけ?宿禰らしくないねえ~」
「別に俺はセックスに対して貞操観念は低いし、たぶん先輩に引けを取らないほど遊んでますよ。だけど、今はミナがいる。大事な恋人が嫌がるようなことをしないのが、恋人としての義務だと思うからね」
「恋人への義務ね…おおよそ宿禰凛一には似合わない言葉だねえ~。貞節がそんなに美徳とは思わないけどね」
「先輩は好きでもない奴として気持ちいいですか?本当に好きな奴とした方がやるせなさや後悔は少なくてすむでしょ?…あんたは本当は知っているんだ。何が一番大事なのかを?敢えてそれを選ばない。どうして?」
「…保井の事?」
「そうですよ。俺は保井先生のことは詳しくは知らないけど、あの人こそ純真を塊にした人だと思うけどね。先輩への気持ちが嘘には見えないけど…」
「だから、困るんだよ」
 先輩は俺の腕から手を離し、立ち止まって腕組みをする。
「どうして?」
 無視できるわけもなく、俺も先輩に向かい合うように立ち止まる。
「本当の好きな気持ちに対して、ぼくは何を与えればいいのか…それと同等の愛情は、ぼくの身体では返せない気がする」
「身体ではなくて気持ちだろ?」
「それが脆すぎて、形にならない場合は?」
「固まるまで捏ねるんですよ。きっと何かが見つかる…と、俺は思うけどね」
「そうだといいんだけどね…」
 根本先輩は力なく笑った。
 黙ったままでいると、彼は俺の顔を正面に見据えて真面目な顔で言う。
「ありがとう。君の教訓を心に留めておくよ」
「俺自身への戒めでもありますよ」
 先輩の本音であろう言葉に俺も心ならずも打たれた。
 相手の愛情を認め、それを己に相応しい愛に形作るのは俺にだって難しいことだと思う。
 

 体育祭を控えた週末、俺は「Satyri」で過ごしていた。
 嶌谷さんや常連のお客と雑談で季節柄運動会の話題になり、俺が来週体育祭で応援合戦をやると話した途端、周りが騒ぎ出した。
「凛一くんの羽織袴姿?それは見にいかなきゃなあ~」
「絶対行くわ!お弁当作って応援するからね!」
「よし、最高にかっこいい凛くんの姿をファインダーに収めてやる」と、みんな一致団結で参加する気でいる。
「え?ちょっと待ってよ。わざわざ鎌倉まで来なくていいよ。そんな大層なことはしないし…」
「いいじゃないか、凛。みんな凛の晴れ舞台を見たいんだよ。凛はうちのアイドルだからね。応援させてくれよ」
「嶌谷さんも来るの?」
「勿論だ。まあ、保護者ヅラしておとなしくしてるから気にするな」
「うん…」
 気にするだろう…だけど、
 大人げもなくはしゃいでいるみんなを眺めていると、何だか胸が熱くなってしまった。
 こんな俺を気にかけてくれている人たちが居ると思うだけで嬉しくてたまらない。
「ありがとう。俺、頑張るよ」

 
 体育祭の前日、何の連絡もなく慧一がマンションに姿を見せた。
「慧…なんで?」
 予想もしなかったことだから、俺は驚いてリビングのソファにバックを置く慧一に急いで近づいた。
「明日は体育祭だろ?凛の応援合戦をどうしても見たくてさ。…我慢できなかった」
 苦笑いをする慧一の顔を見た途端、涙が堪えきれなくなってしまった。
 慧一の胸の中に飛び込んだ俺を慧はしっかりと抱きとめた。
「弟の応援合戦を観る為にシカゴから帰ってくる兄なんか、どこを探しても居ないよ」
「俺もそう思ったけどね…気が付いたら飛行機のチケットを手にして空港にいたんだ」
「はは…バカ兄貴だ」
「仕方ないよ。凛は俺の大事な…弟だから、さ」
 あまりの嬉しさに俺はキスを浴びせた。
 勿論、慧の口唇に。

 みっともねえなあ~いつもえらぶってるクセにさあ~
 間違ってもミナに見せれたもんじゃない。
 だけど、慧一を手放すなんて…
 俺には当分出来そうにも無い…



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根本先輩
↑根本先輩

保井センセ
↑保井先生

誰が誰だが(;´▽`A``
↑凛の私設応援団のお昼時。
左から 美間坂先輩、桐生先輩、戸田さん、凛一、ミコシさん、紫乃、慧一、手前は嶌谷さん。
カメラマンは三田川さん。
適当な落書きですまん。


密会 - 2010.02.20 Sat

お互いしか見えてない兄弟。
でも背景も頑張ったから、
外も見て!お願い~(;´Д`)

たまには外も見て!

外の風景は桜庭さんのリクエストです。

適当でしたが~

慧一と紫乃 - 2010.02.18 Thu

リクエストをもらっていたので、描きました~

「green house」の慧一と紫乃ですね。

春爛漫~

正直、ふたりが元の鞘に収まることも、Hをすることも今後一切無いです。

紫乃はとことん優しい人間です。

このバカ兄弟をしょうがなくも見守っていくスタンスでいます。

だから紫乃には絶対にいい恋をさせてあげようと思っています。

それは本編が終わってからになるけど。

それまで待っていてくださいませ。




水川青弥編 「焦点」 13 - 2010.02.17 Wed

13、
 翌日の放課後、おれは美術部の顧問の町田先生に美術部への入部の許可をもらった。
 あのススキが原に立つリンの姿を水彩ではなく、油彩で描きたかったからだ。
 2年のこの時期に?と、少々呆れられたが、元々勧誘していた経緯もあって、快く承諾して頂いた。
 油彩道具も何ひとつ持っておらず、お金に余裕があるわけでもなかったが、カンバスだけは新しいものに描きたかったから購入して、あとはあるものを貸してもらう事にした。
 初めてのことばかりで戸惑う事も多いが、好きなことだから少しも嫌になる事はない。
 おれは先生の指導を受けて、描き続けた。

「これは…箱根の仙石高原…だね?」
「そうです」
 先生はスケッチブックに描いたおれのラフ画と、下地塗りが終わってある程度の色塗りに目安がついたカンバスを交互に見ながら、う~んと唸った。
「どこか…おかしいところがありますか?」
「これは風景画なのだろう?ここにいる…人物の印象が強すぎて、せっかくの風景画が心象画になってしまっている」
「…」
「もし、このススキの侘しさや自然の風景を魅せたいのなら、この人物は…無くした方がいいかもしれないね」
「でも、それじゃあ…」
 おれは口ごもった。
 リンの姿を消す?それでは意味が無い。

「この絵に描かれてる奴って4組の宿禰だろ?」
 隅っこで描いてるおれのところへわざわざ近寄ってきた同級生の美術部員が、おれの絵を覗き込んで指を指す。
「水川、宿禰と付き合っているって本当なのか?箱根にデート?お泊り?…あいつとやっちゃったのか?」
「マジで?宿禰って中学の時は売り専してたってなあ。歌舞伎町に立ってたってホント?」
「あいつとやる時って水川はどっちなの?」
「…」
「こらっ!いい加減にしないかっ!誰と付き合おうが恋愛は自由だろっ!それより自分のやるべきことをやったらどうなんだ?初心者の水川の方がおまえらよりも進んでいるぞっ!」
 先生の怒号に、冷やかした連中はすごすごと自分の席に着いた。
 いつもの揶揄だ。気にしなければいい。
 それでも悔しい…おれは口唇を噛んでカンバスを睨みつけた。
「水川、外野の言うことは気にするな。君が誰を描こうが構わない。ただ…さっきも言ったとおりこの風景画にこの人物の存在は強すぎる。それだけは確かだよ」
 町田先生はおれの肩を軽く叩き、去っていった同級生達を再度叱り付けていた。

 おれはまたカンバスに目をやる。
 風景画として成り立たせるべきなのか…リンの姿を描くべきなのか…
 怒られている同級生達を一瞥し、溜息をつく。
「しかたないよ…初めてだし…」
 そう呟いて、おれはカンバスに描いたリンの姿を塗りつぶした。

 出来上がった油彩画を先生はとても褒めてくれ、県の高校総合芸術祭に出展することになった。
 おれは複雑な気持ちになる。
 だって…これはおれの描きたかった絵ではない。

 そんな気持ちを引きずったままひと月もしないうちに、その絵が芸術祭の特選に選ばれた。
 全校朝礼の壇上で賞状を渡されたおれは、吐きそうな気分になった。
 なんであれが…

 放課後、温室でリンにおめでとうと祝福され、溜まりたまったものを打ち明けた。
「あんなのを描きたかったわけじゃない。おれは…ススキの中に立つリンの姿を描きたかったんだ。なのに…なんで…」
「知ってるよ。ミナのラフ画は見せてもらっていたしね。掲示板に張り出されていた記事の絵を見たよ。ラフ画と違っていて少し驚いたけど…でも確かにあの風景画に俺の姿はいらないね。あれで正解だったんだよ。ミナが腹立たしく思うのはわかるけど…次は後悔しないようにすればいい」
「リン…ごめん」
「なんであやまるんだ?」
「おれは…」
 …描かなかったんじゃない。
 描けなかったんだ。
 おれは…あの絵を見る大勢の目が怖くて…リンのことを触れられるのが…冷やかしや中傷が怖くて不安で仕方なかった。
 だから…描くのをやめたんだ。

 一番好きなリンにも、一番自分が正直になれると信じていた絵を描くことに対しても、おれは自分自身を裏切ってしまったんだ。
 悔しくて恥ずかしくてたまらない。
「リン、おれ、本当に自分が情けないよ。リンをこんなに好きなのに…どうして他人の目が怖いだなんて思ってしまうんだろう、ちょっと嫌なことを言われただけでまいってしまう」
「ミナが自分を責めることじゃない。ノーマルな奴らは、男同士付き合っているというだけで汚らわしいものを見るみたいな目をする。そういう既成概念はなかなか打ち破れないものだし、偏見って大勢でこられると怖いからね。だけど、ミナはゲイじゃないしな」
「え?」
「ミナはただ俺が好きなだけ。好きな奴がたまたま男だっただけの話だからさ。ホモとか言われたら心外だろ?…そういう風に言われたりしたら自尊心が傷つくのは当たり前だ」
「…」
「ま、別に俺はホモでもゲイでもバイでもなんでもいいけどね。もてない奴ほど口やかましい。ほっとくに限る」
「そうだね。おれもリンほどは強くなれないけど、リンを好きなことをやましいと思ったことはないよ。自分に嘘をつくくらいなら、何を言われてもいいよ」
「ミナを苛める奴がいたら俺に言えよ。二目と見られない顔にしてやるよ」
「…それは…やめとこうよ、リン」
 顔が本気だったので、おれはあわてて宥めた。
 正直、自分のプライドなんて気にしたことないけれど、リンの言うとおり、普通でいたいというこだわりこそ下らない自尊心だよな。

 二学期最後の模擬試験でリンは学年総合7番だった。
 クラスのいつもの馬鹿どもが、机に座るおれの前で嫌味を言う。
「水川って宿禰の家庭教師をしてるって聞いたけど、本当か?」
「寮生の奴が、水川は週末は宿禰のうちへ泊まりに行くってゆってたぜ。トップの水川に教えてもらっているのなら成績も上がるよなあ~ついでに、勉強だけじゃなくて他の事もやっちゃってるわけ?」
「ねえねえ、ホントのところはどうなんだよ、万年トップの優等生」
「…家庭教師ではないが、解らない事は教えあっているよ。宿禰とおれは付き合っているからすることもしているけれど、それが何かいけないことか?」
「…」
 3人は平然と答えるおれを見て、揃って口をポカンと開けている。
「どうでもいいが、おまえたちはもう少し成績を上げないと目的の大学には届かないんじゃないのか?国立希望だろ?」と、おれは学年全員の成績表が載ったプリントをつまんで、奴らの目の前でひらひらとさせた。
「なんならおれと宿禰で教えてやってもいいぞ。ただし宿禰は凶暴だから、気に入らないとひっぱたかれる。覚悟した方が良い」
「…た、叩かれるのか?」
「う~ん。あの顔で叩かれるのもなあ…はは」
 なんだ?そのまんざらでもない顔は。こいつらはリンの隠れファンなのか?口では嘲っていても、目的はリンなのか?…皆目わけがわからん。

 それ以上突っ込まれる事もなく、消えていった後、今度は万年二番の高橋が近づいてくる。
 また五月蝿いやつが来たと、こちらも構える。
「水川は宿禰と本気で付き合っているのか?」
「ああ、そうだよ」
 今更隠そうとは思わない。おれは高橋の目を見据えて言い放った。
「ふ~ん」
「なに?」
「いや、あいつと付き合っていてもトップを守っているってことは…恋愛は学問に影響しないんだなあって思っただけだ」
「…多いに影響してるさ」
「え?」
「身体と精神が充実していると、学習能力が上がる」
「…ああ、そう…そうか…見習う事にするよ」
 今まで険しい顔しか見せなかった高橋の表情が緩み、笑みを見せた。
 …なんだ。人の心を解かすのはこんなに簡単なことだったのか。
 
 表情の和らいだ高橋が黒淵の眼鏡のブリッジを上げながら、言葉を続けた。
「だが、宿禰が水川に教える科目はあるのか?おまえが教える一方だろ?」
「リンはああ見えて数学が得意なんだ」
 おれは笑い、胸を張って言い返した。
 
 もう迷うことはない。
 リンを好きな気持ちは揺るがない輪郭を象っている。
 リンへの愛は未来に続くもの…
 そう信じることが出来る。





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次は凛一編「Swing bye」の続きからです。
え~…慧一が帰っていったところからだったかなあ~(;^ω^)
頑張って書きます~(´;ω;`)ウッ…

温室でいつもやってます(;^ω^)
↑そのうちちゃんと描きますので~


水川青弥編 「焦点」 12 - 2010.02.16 Tue

12.
 翌日は出来るだけ早く起きようとしたが、身体中が痛むのと腰がだるくなかなか布団から出られない。 
 リンも同じで、しばらくお布団の中でくっついて遊んでいたが、朝食も部屋食だし八時に予約しているから、のんびりとしてられない。
 露天に浸かったら身体のだるさも消え、何とかなりそうな気がした。
 朝食もひとつひとつが繊細な和風料理が並べられ、なんだか本当にお殿様気分になったみたいだと少々呆れ気味になる。
「全部食べきれるかな」
「無理しないで残しておけばいいよ」と、言うリンは、茶粥をおいしそうにお代わりしていた。

 旅館を後にして、バスで移動。箱根園からロープウェイで駒ケ岳に登った。
 幸いな事に快晴で、展望台から見る富士山は声もないぐらいに美しかった。
 雪の冠をかぶった姿を納めようと、デジカメのシャッターを何回も押す。
「巧く撮れてたらいいいけど…」
「それより描かなくていいの?」
「だって、時間がないよ。他のところにも行きたいし…」
 そう言いながら10分だけ時間を貰って、おれは芦ノ湖からの全景をスケッチブックにラフ描きした。

 その後、元箱根から桃源台まで遊覧船に乗ったのだが、これが見事に映画で見る海賊船のようで驚いてしまった。
 リンはゆっくりできるからと特別船室のチケットを買い、お客の少ない船室で正面から見える景色を楽しんだ。
 特別室のお客さんしか昇れない前方のデッキに上がって船首のヘッドをスケッチしてみた。
 暫くするとリンがデッキの階段を上ったところから手を招く。
 近づくと「ほら、タイタニックみたいにしようぜ」と、おれを背中から抱き寄せ、先頭に立たせた。
「恥ずかしいよ」
「誰も見てないから大丈夫」
 確かに朝早いしお客さんもあまり見かけなかったけど…ま、いいか。旅の恥は掻き捨てとも言うし…
 おれはリンに凭れて両手を広げる。
 目の前に広がる湖と緑と赤の混じった山から覗く白い頂きを冠した富士山の眺望は圧巻で…何よりも背中に感じるリンの温もりがいとおしくて…
 目から見える眺望とリンの存在を同時に感じてしまったおれは、涙が止まらなくなった。
「なんで泣くの?」
 リンが驚いておれを抱き締める。
「感動しすぎると涙が出るんだよ。本当に…キレイだ」
「ああ、晴れて良かったね」
 そう言って鮮やかに笑うリンの顔を見てまた涙が溢れる。
「涙腺が壊れたみたい」と、笑うおれをリンは「ミナはかわいいなあ。もしタイタニックみたいになってもミナを独り置いてはいけないね。死なばもろともだな」
「うん、そっちの方がいい」
 誰も見ていないことをいい事におれ達は、抱き合ったままキスをした。
 頬を切る風が冷たくても少しも寒くはなかった。

 桃源台からはロープウェイに乗って大涌谷へ。そこで遊歩道を登って展望台から富士山を眺めた。
 ここまで来ると大勢の観光客で賑わい、ゆっくりとスケッチをしている場合ではなくなってくる。
 目にする人が黒いものを持っているので何かと尋ねたら「温泉卵だよ。硫黄と鉄分でああいう色に変色するって。でも殻だけだよ。食べたけど味はただのゆで卵だもん」
「へえ~」
「食べてみる?一個食べたら7年長生きするって」
「…いらない。別に長生きしたいって思わない」
「まあ、俺もそうだね。要は長く生きるかじゃなくて、どう生きるかだもんなあ~」

 ロープウェイとケーブルカーを乗り継ぎ、公園上で降りたおれ達は軽い軽食を取った後、午後は美術館と紅葉を楽しむ事にした。
 平日だったが、紅葉の季節とあってどこの施設も観光客で一杯だ。
 年配の方が多く、おれ達みたいな学生の男同士にはついぞ見当たらなかった。
 強羅公園で昨晩大浴場で出会った品のいいおじいさんに再会した。
 ご夫婦づれで仲むつまじくされている様子を見て、リンもおれもなんだか微笑ましくも、羨ましくなった。
 あんなに歳を取っても人前で腕を組んで仲良く生きていけたら、どんなに幸せな人生なのだろうね…そう、感じているとリンも同じように思ったと言う。
「男同士でも別に無理な事じゃないさ。そういうゲイの恋人達も世界には沢山いるよ」
「…そう」
「でも、ミナをそこまで縛り付ける権利は俺にはない。だから、ミナにあんなになるまで俺の傍に居て欲しいとは思わないよ」
「それって…いつかはおれと別れるってこと」
 紅葉に惹かれ、山沿いの細い小道を散歩がてら歩いていた。
「そうじゃない。ただ…お互いを縛り付けるのはやめようっていっているんだ。おまえが他の誰かを好きになっても、それは自由ってことだよ。その感情を押さえつける権利は俺にはない」
「おれは…リン以上に惹かれる奴が現れるとは思えない」
「…まだ16、7年しか生きてないのに言い切るなよ…先は長い。ミナはそのうち俺にうんざるすると思うがね」
「なんでそんなこと言うんだよ、リン」
「不安定だって言っているんだよ。今日好きあっていたって、明日おまえの目の前に運命の人が現れるかもしれない。その時を俺は覚悟している…ただそれだけだよ」
「…」
 おれは立ち止まった。リンのあまりの言葉に胸が押しつぶされそうになる。
「どうして…」
 どうして…昨晩はあんなにお互いを求めて愛し合ったのに、そういう言葉が出るのか信じられない。おれが誰を好きになっても、リンはそれを寛容するって事だろ?それっておれを大して必要としていないって事じゃないのか…

「ミナ…」
 後ろを向いて立ち止まったおれを見つめるリンは冗談を言っている顔ではなかった。
「リンにとっておれの存在ってそんなものなのか?」
「そうじゃない…俺だってわからないんだ」
「何が?」
「おまえを…ミナが俺から去ってしまったら、その時、どうしたらいいのか…恐ろしすぎて考えられなくなる…だから…」
「…」
「ゴメン。止めよう、ミナ。俺も夢見ているんだよ。あの夫婦みたいに死ぬまでミナが傍にいればいいって…思っている」
 リンは済まなそうな顔をしておれを見つめる。

「…根本先輩もリンと同じ事を言ってたよ」
「え?」
「高校三年間の期限付きの恋を楽しむってことにしたおいたほうが、自分が惨めにならなくて済むから、って…」
「…」
「そんなの…嫌だよ。初めから期限を決めて人を好きになるなんて…本当の恋じゃない。そうは思わないか?リン」
「根本さんは別れの辛さを知っているから、そう言うんだよ。真実は言葉の裏にあったりするものさ。彼は…本気で好きなんだよ」
「…保井先生のこと?」
「そう…ミナももっと大人になったらわかるんじゃないかな」
「…」
「ほら、着いたよ。仙石草原」
「あっ…」

 ずっと下を向いてたから、目の前に広がったススキの群れにしばし言葉を失った。
 夕暮れの薄い光に金色に輝きながら優しく揺れているススキの海原。
 踏みならされた土と砂利の道を歩く。
「砂利に足をとられるから気をつけろよ」
 伸ばすリンの手を俺は取らなかった。
 あたりには観光客が沢山いた。その目が気になったのだ。
 薄情なのはどっちだ。
 あんなにリンを責めておきながら、人前で手を繋ぐことさえ躊躇っているおれはサイテーだ。
「ほら、ここいらからの景色が一番きれいだよ。スケッチか写真でも撮りなよ」
 リンはあまり気にしていない風に、おれを気遣って言う。
「うん」
 おれはデジカメを取り出し、構図を探す。
 ススキの波の中をゆっくりと歩いていくリンの背中を目で追った。
 ふと足を止めると彼は陽の沈む山々の方を仰いだ。
 影になった後姿は彼特有の孤高な姿が映し出されている。
 彼の腰まであるススキがゆらゆらと波打ち、まるで岩礁に立つセイレーンのようだ。
 この風景…リンのいるこの風景を描いてみたい…

 おれはデジカメのシャッターから指を離した。
 これはおれの目に焼き付けるもの。留めておくべきもの。おれが描くべきものだ…

 夕焼けを眺めているリンはゆっくりとその右手を上げ、自分の口元を押さえた。
 感傷の、切ない、哀しみが流れてくる。
 孤独…誰も寄せ付けない魂の孤独が彼を満たしている。
 今の彼の中に、おれはいない…
 そう理解した。
 胸が痛い。
 おれは怖くなって目を閉じた。
 リンの心を見るのが怖い。
 
 違う、そうじゃない。リンと対峙するためには、目を閉じてはいけないんだ。
 …ゆっくりと目を開ける。
 さっき居た場所にリンの姿はなかった。当たりを見回してもその姿は見えない。

「リンっ!」
 焦ったおれは声を出して、リンのいた場所まで急ぐ。
 ススキの波を掻き分け、リンを必死で探す。
「リン、どこだよ!お願いだから出てきてくれよ」
 返事はない。
「リン…」
 涙が込み上げてくる。お願いだから…
「ミナ、ここだよ」
 リンは後ろからおれの背中を抱き締めた。
「驚いた?ちょうど隠れ鬼やるにはいい場所だよな」
「バカっ!本当に消えたのかと…思ったじゃないかっ!」
 おれはリンの胸にしがみ付いて叩いた。
「ミナ?」
「本当に…ホントに怖かったんだから」
「なんだよ。神隠しなんて信じてるわけでもないだろ?」
「リンなら…遭うかも知れない…」
「ミナを置いてどこにもいかないよ」
「嘘だ…リンはいつかおれの前から消えてしまうんだ…そしたらおれはひとりぼっちになる…」
「いかないって…約束するよ。それより…ほら、いい加減離れないと人が見てるよ、ミナ」
「いいんだ…」
 そんなことはどうでもいいんだ。
 おれはリンが好きなんだ。誰になんて言われようと、リンが好きで堪らないんだ。
「リンが好きだよ」
「俺も…ミナが好きだよ」
 おれを抱くリンの腕が強まるのが、涙が出るほど嬉しかった。

「リン、おれ絶対忘れないから。リンと過ごした時間を。この瞬間を心に留めておく」
「ミナ」
「おまえを愛してるんだよ、リン」

 太陽が山に隠れ、辺りが暗くなってもおれ達はその場所から動かなかった。

 時間が止まれなんて、そんな事を望んではいない。
 ただ…この「恋愛」という時間が過ぎていくのが…怖いだけなんだ…




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ススキ高原



ここは非常に難しかった話だった。
この後一回で「焦点」は一応区切りをつける予定。

傷痕 - 2010.02.15 Mon

翼とは飛翔する為にあるのだろう。

だが飛べない翼にはなんの意味がある。

それはただのスティグマではないだろうか…

凛イメージ


色んな描き方勉強中~


迷いの森 - 2010.02.13 Sat

恋愛という迷宮の森に入り込んだ二人は、

ゴールにたどり着くことができるのか?

その手を離さずにいられるのか?

そういう事を考えながら、いつも書いている。

ラビリンス

水川青弥編 「焦点」 11 - 2010.02.12 Fri

諸君、敢えて言おう!全く大したことのない18禁だとっ!byギレン・○ビ

11、
 リンが手を伸ばすから俺も右手を伸ばす。
 おれの手を口の近くまで持っていくと、リンはおれの指を一本一本口に咥え、ゆっくり舐めて味わう。
 目を軽く伏せたり、おれをじっと見つめたり、少しだけ不遜な笑みを浮かべたり。
 おれはこういう時、大体金縛りにあったみたいに動けなくなる。
 そう、いつもリンのペースでおれ達の世界は動く。
 でもそれじゃあ駄目なんだね。だって恋愛しているんだもん。
 お互い同じ分の秤を持たなきゃ…
 …それが何なのかはまだよく判らないけれど。

「リ、リン」
 わざと音を立てて舐め続けるリンに追い込まれないうちに勇気を奮って尋ねる事にした。
「なに?」
「リンに聞きたいことがあるんだ」
「なんでもどうぞ」
「リンは…今までに何人の人とセックスした?」
「…」
 リンはおれの指を離して、怪訝そうな顔で上目遣いに睨んだ。
「それ、今、ここで言わなきゃならねえこと?」
「前におまえが言ったよね。知る事と知りたいって思うことは違うって。おれはリンの過去を知りたいんじゃない。リンと言う人間を知りたいんだ。だから…リンがどうやって他の人とセックスしたのか…なんだか気になってしまうんだ。変かな?」
「いいや、俺だってミナが俺とこうなる前に誰かとセックスしていたとしたら、やっぱりその話は聞きたいかもしれない。そうだね…数えた事はないけど、セックスした相手は50人…ぐらいかなあ」
「ご、五十?」
 想像もできない数だったから思わす素っ頓狂な声を上げてしまった。
「そんなに驚くなよ。一夜で終わった相手も結構いるし、性病には気をつけていたからちゃんとつけてしてた。だから安心していいよ」
「そういう問題じゃなくて…そ、そんなにして、誰とも恋愛にならなかったの?」
「恋愛には、ならないねえ…50人の四分の一は女性だったが、これは殆ど1,2回で終わる。なぜなら相手はどうしても大人の女性だからね。上目線で俺を扱おうとするのさ。お金は要らないって言うのに、何でも買ってあげるからってしつこく迫られたりね。それが嫌いだったから長続きはしなかった。男の三分の一は俺が入れるほうだが、これも圧倒的に年上が多い。と、やっぱり指示してくる。おまえ、想像してみろよ。上からしてるのにああしてこうしてって言われてみろ。こっちはまだ中学のガキだぜ?そんなに上手く出来るわけございません!って、なる」
「はあ…」
 少しだけ蠱惑的な微笑を湛えながら、リンは言葉を続けた。
「後の三分の二が俺が受け入れる側だが、これは案外上手くいく。理由は簡単だ。俺はキレイなガキで相手は大体羽振りの良さそうな大人の男だからね。たまにはサディスチックな奴もいたが、要領を得ると上手くかわすことができるようになったんだ。だから手荒い事は早々されていない。それに…」
 リンは残っていたペットボトルの水を飲み干した。
「彼らは俺を甘やかしてくれる。あの頃俺は本当に…ひとりだったからね。…温もりや優しさにどうしようもなく飢えていたんだよ。嶌谷さん…ああ、体育祭にも来てくれてたんだけど、ジャズクラブの店長さん」
「あの…髪を後ろで結んだヒゲの人?」
「そう、あの人と出会って幾分投げ遣りな自分を戒めることができた。と、言っても遊ぶ事はやめなかったけどね」
「…」
「慧が…慧一が俺の元に帰って来てくれたから、俺はそういう生活と足を洗うことができた。兄貴の愛情を感じたから、飢える事はなくなったのだと思う…」
 おれは聞いていいのか迷ったが、軋むような声で彼に尋ねた。
「お兄さん…慧一さんとは…寝たことがあるの?」
「え?…寝たってセックスしたって事?」
「…う、ん」
「ないよ。慧とはキスもハグもベッドで一緒に寝たりもするけど、セックスはしていない。何故なら…」
「…」
「兄貴にはその気がないからね」
「…そう、なの?」
「俺が必死に誘ってもそういう気にはならないらしい」
「あんなに…リンのことを愛しているって…おれでも感じるのに」
「…兄弟だったら普通はセックスはしないもんだろ」
「そりゃそうだけど…」
 普通はそうだろう。だけど、リンと慧一さんがもしセックスをしたとしてもそれが絶対許せない事とはおれには感じられない。あの人のリンを見る瞳は、肉親の愛情だけではないって、おれはあの時感じてしまっている。
 本当にリンをそういう目では見ていないのだろうか…

「まだ他に聞きたいことがあるの?」
「いや、もう十分だよ。すまなかったね、リンの昔話を無理矢理聞きだしてしまって。でも何だかすっきりしたよ」
「何が?」
「リンはセックス経験は豊富でも、恋愛は少ない。おれとタメだね」
「そこ、見栄張るとこ?」
「だって、なにもかも勝てないんじゃおれの面目がないじゃない」
「セックスじゃあ、いつも泣いてるくせに」
「それは…リンが泣かせるからだよ…意地悪なんだから」
「嫌いになる?」
「そんなことがあるわけないだろう」
「ミナを…愛していると誓うよ。今までセックスした誰よりもミナとする方が、何倍も快感を得られる。それはたぶん…身体で繋がっているだけじゃなく、心という精神愛が共有されているからだと思うんだ。とても貴重な絆だと思う」
「うん」
「大事にしたい。この想いもミナも」
「おれも…リンを離したくない」

 おれ達は同時に立ち上がった。
 目的は同じだ。お互いを共有し合いたい。理解を深めたい。好きと言うこの想いを相手に知らしめたい。この身に感じたい。めちゃくちゃにおまえに溺れたい。

 帯を解きながら飛ぶように次の間の布団の上に飛び込んだ。
 悠長な睦言を言う余裕はどちらにもなかった。欲望が勝っていた。
 お互いの名前だけを呼びながら、お互いの身体を、その奥を貪りあうことに没頭した。
 
 リンがしてきた今までの相手の思い出なんか、おれがリンの身体からきれいさっぱり消してしまいたい。
 言葉にならない口でそう告げると、リンは「思い出はいつか消えるもの。だけどミナを思い出にはしない。そう言ったろ?…きっと俺たちは繋がるために生まれてきたのさ。そうでなきゃ…こんなに、気持ち良くなんか、ならないよ、ミナ…」

 リンの言うがままだけではなく、おれからも求め、動いた。
 それは二重に絡み合う美しい螺旋を描く。ダブルヘリックス。まさにDNA。
 知ってるか?DNAって地球上の全生物が持っていて、細胞の遺伝情報を司るんだぜ?
 情報の蓄積、保存、複製…何倍にも広がっていくこの恋愛の形が無限に続けばいいなあ…
 …ねえ、リン。




rinmina11

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ミナ萌え

↑リンに感化されて段々とおかしくなっているミナ(;^ω^)

次の更新は来週のいつか…ww

水川青弥編 「焦点」 10 - 2010.02.11 Thu

10、
 箱根湯本までは一時間程で着く。
「旅館へはバスの方が駅からは近いけど、やっぱり登山電車かな。時間はかかるけどそれでいい?ミナ」
「うん。乗りたい」
 登山電車は思っていたよりこじんまりとして遊園地の電車みたいと口元が綻ぶ。
 日没は早く、辺りの景色はもう味わえない。
 客も少ないからリンとくっついて座った。
 おれ達は人前では絶対に身体を触れたり手も握ったりしない。そういう風におれが頼んでいるからだ。
 リンは人前でも平気だろうが、おれは他人の目が気になる。
 誰が見ても男同士だとわかるおれ達を、他人はどう見ているのだろうかとか、変なかんぐりをしないだろうかとか…いや変なかんぐりは当たっているけれど…
 気にしすぎと言われても、おれは普通でありたい。
 下らない見栄だし、嘘をつく意味があるのかと自分自身を罵りたくなるけれど、やっぱり世間の目が怖いんだ。どうしようもなく…
 リンは「別にミナがそう思うのは当たり前だと思うよ。俺は気にしないから大丈夫。ミナに合わせるよ」と、平気な顔をする。
 リンが平気なのはそういうゲイだとかを含めたとしても、リン自身が魅力的なのだから彼の尊厳を少しも損なうことはないと感じさせられるからだ。おれには無理だ。おれは普通の常識的な人間であることが、おのれの意味を示すことのような気がするのだ。

「箱根が初めてなんて珍しいね。俺は小学校の修学旅行やら、親戚連中と4,5回は来てる」
 すっかり日が暮れた外を見ても景色は判らないが、そうしても目は窓の外を向く。
 ガチャリガチャリと登山電車のスイッチバックの切り替えで進路が逆方向に変わる。
「おれんとこは小学校は水戸で、中学は信州だった」
「俺は中学の時は行ってない。不良でしたので」と、舌を出して笑うリンに暗さはない。
 どんな不良なのかおれには全く想像できないけれど、リンがどんな過去をもっていようと、今のリンを構成しているのならば否定することはない。
 おれにとって大事なのは、今のリンの存在なのだから。

 小涌谷で降りた。辺りには誰も居なかったから、暗い夜道をふたり手を繋いで歩く。
「たぬきが出るかも」「へえ~見たいね」「いのししも出るって。でも襲ってきたらたまったもんじゃないけどな」「それはちょっと怖い…逃げたら間に合うかな?」「さあ、無理かもなあ。それより、寒くない?」「おれは一杯着てる。リンこそ薄着だろ?大丈夫?」「ミナの手があったかいから平気だよ。でも旅館に着いたらすぐに風呂につかろうぜ」「うん」

 山なりの小道を15分ほど歩いたら漸く旅館の全景が見えてきた。
 一目見て格式のある老舗旅館だとわかる。
 独特な和風建築の玄関を入り、宿の方々の丁寧な歓迎を受ける。
 リンがフロントで受付をしている間、おれは靴を脱いで広い板張りのロビーをウロウロと見学する。一つ一つの調度品が時代物の骨董品らしくてなんだか大正時代にスリップしたみたいだ。
「ミナ、おいで」
 リンが呼ぶ。
「離れのお部屋だって」
「へえ~すごい」
 おれは仲居さんの後に続くリンの少し後ろを付いて行く。時折後ろに居るおれを確認するように振り向くリンがたまらなく好きだ。

 案内された離れは間取りも広く、風呂も内風呂と露天と二箇所あって景色も良く見える。庭は真っ暗だけど照明に照らし出された紅葉が少しだけ見える。
 広縁の籐の椅子に座って庭を眺めていると、リンの姿が見えない。
「リン、どこだよ?」
「ミナ、早く来いよ。俺、もう露天に入ってるから」
 …早い。
 さっき仲居さんが出ていったばかりなのに…
 おれは玄関の鍵を閉めて、脱衣所で服を脱ぐと浴室へ向かった。
 内湯から露天までは敷居もなくそのまま繋がっているから、内湯で簡単に身体を洗ってリンのいる露天に向かった。
「リン、早いよ」
「早く温まりたかったの。ミナもおいで」
 差し出す手につかまりながら、ゆっくりと湯に入る。
「熱いね」
「源泉掛け流しだって。すぐに気持ち良くなるよ」
 家の風呂と違って外の暗さと薄暗い照明の所為で妙にリンが色っぽく見えて仕方が無い。
「眼鏡つけたまま?」
「うん、初めての場所ってなにがどこにあるのかわからないからね。蛇口の場所も見えないんだもん。それにお湯に濡らせば曇らないしね」
「そりゃそうだけどね…でもまあ…外さねえと、色気が足りねえ…かな?」と、言ってリンはおれの眼鏡を外して、後ろからおれを抱き寄せる。
「リ、リン…しないよ。ご、はん、部屋食でしょ?」
 夕食を7時に予定していたからもう30分もない。リンのが立ち上がっているのは判るが、今は困る。
「そうだね。夕食が終わったらいっぱいしような。あ、でも大浴場もあるから、そこへも行こう。折角だしね」
「うん」
いつもながらリンは潔い。おれがうじうじ悩んでいる間に自分のするべきことを決めてしまう。
おれ達は充分に温まり、お互いの身体を洗い、軽くキスをするだけでさっさと露天から上がった。

「え…これなんだろ」
「献立表に書いてあるよ。え~と、こっちが鮎味噌で、こっちが鱧かな?」
「はあ…なんか珍しいもんばっかで…どれから箸をつけていいのか悩むね」
 ふたつある和室の広い方の部屋で食事を取る。たぶん狭い方はお布団を敷くんだろうな。
 広いテーブルに載りきれないほどの豪華な料理が次から次へと出てくるから、唖然とする。
「料理がいいとリピーターが増えるっていうからね。今はどこの旅館もこんな感じだよ。ミナは家族旅行はしなかったの?」
「父の会社の保養所は行った事あるけど、こんな豪勢じゃないし…それも小学生の頃に2,3回で。親父は根っからの技術者だから家庭サービスには向かないタイプだね。母親もおれもそういうのをあまり気にしてはいないからいいんだけど…だからかな…リンとこんな風に贅沢させてもらうのがとっても不思議だよ」
「俺も親父が再婚してから家族旅行へは行くようになったんだ。親戚連中とも最近は付き合うようになったけど、とにかく昔は俺が手をつけられないどうにもならないガキでさ。思い上がっていたから目に余っていただろうね。今になって考えるとちゃんとかわいがってもらっていたのに、あの頃は同情なんかいらねえって息気がっててね。伸ばされた手をことごとく払いのけていたんだな~」
「リンは今は幸せなの?」
「うん、すごくね。大好きな奴とこうして向かい合わせで箸を突きあうなんてさ、これ以上の幸せはないよ」
 恥ずかしげも無く言い切るリンを正面切って見れないのはいつもの事だが、リンはわざと赤面するおれの顔を覗き込んでからかうんだ。

 食事が終わった後はお腹が落ち着くのを待って、大浴場に行った。
 平日でお客さんはそんなに多くない。気持ち良くお湯に浸かっていると、品の良い老年の方が声をかけてくる。
「きれいな坊やだね。女の子かと思いました」とリンと見て笑う。
 リンは長い髪を髪ゴムでポニーテールにしていて確かに顔だけを見たら女子に見えるかもしれない。
「小さい頃は良く間違えられましたけどね」
「学生さんにお見受けするけれど、家族で来られたの?」
「いえ、従兄弟と二人です。明日は学校はお休みなんです。ここのクーポン券を貰っていたので、ふたりで来たんです」
「そう、今は紅葉が見ごろだから、どこを観光しても美しいですよ。でも若い君達には退屈かもしれないね」
「いいえ、紅葉を楽しみに来たんです。彼は絵を描くんです。いい穴場があったら教えていただけますか?」
「絵を描かれるの?それじゃあ…」

 リンは知らない人と直ぐに打ち解けて仲良くなれる体質だ。
 さっきも仲居さんが食事の用意をしていると、彼は仲居さんにこっそりと小さなポチ袋を渡していた。何かと聞くと「心付けだよ。要はチップみたいなもん。ちょっとした金額でも、その気持ちが接待に繋がるって、ママさんがゆってた」
「和佳子さん?」
「そう」と、ニコリと笑う
 継母とリンは仲がいいらしい。近頃彼の口からちょくちょくその名前が出てくるようになった。
 確かに仲居さんはおれ達みたいな子供の客にも、とっても愛想が良かったし、色々気を使ってくれていた気がする。
 おれ達二人の関係を聞かれたら、リンは即座に「従兄弟です。母同士が姉妹なんですよ。小さい頃から兄弟みたいに育ってて。なあ?高校もたまたま一緒になって、いまではクサレ縁ですよ」と、デタラメの話をスラスラと講じる。
 あの顔で言われたら信じる他はないので、仲居さんもすっかり騙されてる始末。まあ、どう考えても高校生の友人同士で泊まる部屋ではないよなあ~と、俺は苦笑いをする。

 大浴場から部屋に戻ると、思ったとおり6畳の和室にはお布団が二つ並べて敷いてある。普段ベッドしか見ていない風景とは違って、なんだかちょっとエロく感じる。それを見透かされたみたいにリンが「フカフカの布団ってなんだかやらしいな。後でたっぷり楽しもうな、ミナ」とおれの耳元で囁く。
 そうは言っても幾分湯中りの所為か、冷蔵庫からミネラルウォーターを出して籐の椅子に座り込んだリンはおとなしい。
「ちょっと疲れたね」
 おれも向かいの椅子に座って、リンの飲みかけたペットボトルを貰う。
 生乾きの髪がばらばらと浴衣の襟に散らばって、その合わせた襟がしどけなく大きく広がって胸の奥まで見えてしまうから、いつもよりリンの色気が増している気がする。恥ずかしくて直視するのを避けたいのに目はどうしてもそこにいってしまう。
 リンの肌は白い。
 おれの病的な白さと違って表面が薄い桃色に滲んでいる。その薄桃と影になった暗い部分のグラデーションの細やかさをカンバスに描けるかな…

 見惚れたままぼうっとしていると、リンが物憂げな顔をして口端だけで笑った。

「ミナが今何を考えているか、言ってやろうか」
「…」

 そんなこと口に出さなくてもわかっているだろう。
 おまえが欲しくて堪らないんだよ、リン。


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ミナエロイ

先を急がんといかんのに終わらない(;´Д`)

R-a-guardian-sprite 2 その3 - 2010.02.10 Wed

「R-a guardian sprite」は 「悩まない男」の7月さんとのコラボです。


ルカナル小説2

これまでは青い瞳のルカからのがれたくて姑息にも画策してきたのに、このひとつきといっては複雑にして鬱々たる思いでじりじりつぎの満月を待ちわびたのだ。
津波であれば遭うのは畏怖すべきものだが、この守護番人とのくだりがあってからはどうしても顔を見ずにはいられなくなった。
だいじなルカのために男をとっつかまえずにはいられない心持だった。
槐の根元でルカを抱きしめながら「聞こえているんだろう」と問うたのはまちがいでないと確信していた。
できうるものならルカのなかから男を引っぱり出してやりたかった。
ルカにとっては黒い扉のむこうにあるものについてはいっさい感知しえない、であるのだからこれはないのと同義だ、翻り、青い両目をもつルカにはすべてを重ねあわせて落掌していくことができるのである。


いったいこれが公平か? と考え、それをさらに演繹して追っていこうとして潰えた。
高窓のむこうにぽかりとまるい衛星がうかんでいる。
なじみにして兇悪な月だった。
隣人のいわく、まがまがしい力を地上にむけ好き勝手に突き刺してゆく剣呑な星だった。
いつものように寝台のかたすみにまるまって眠っていたルカのちいさなからだが、やがて半透明にぐらぐらゆらぎはじめる。
白い毛筋の一本一本が哭声をはなち生きた門扉となる。
億と破砕した銀の星屑が夜気と迎合し、いっとき寝台のうえをぎらりとぶっそうに装飾したが、それらが滲みきれいに消滅してしまえば、あとにのこったものはひとか魔かといった明眸皓歯の男だった。


青い目のルカが現出するのをまのあたりにしたのはこれで二度めだったが、やはり息をつめて見まもらずにはいられなかった。
津波ですら端からながめているぶんには美しい形状だった、どうしてそうできない、なぜながめているだけではいけないのだ、この力にまきこまれたが最後、自分は押すも引くも叶わなくなる、いいたいことは甲斐なく摘まれる、それをナルヴィにいっさい許さぬルカであるのなら、かれは絶対にこの男を受け入れられないと思う。
いいたいことがあるんだろう? ときれいな男がちくりと口角をあげたから、やはりルカとのことをすべて承知しているのだとわかった。
いいたいことなら抱えるほどに。
なのにそのことばに囲繞され捕縛され根をはやし、からだを動かすことがかけらも為果せなくなる。


「ないのか、ナルヴィ? おれはあれを聞いていたといったんだ」
長躯の男、妍容の男、ぼんやり振り仰ぐナルヴィのおもてはランプの引き絞られた室内でしらじら浮かびあがり、口唇はその蝶番を優婉にゆるめていたから、どうしたってあいての唇をせつなく待ちわびているようにしか映らなかったろう。
だからそうしたのだ、なにが悪いといいこそしなかったが二度男が瞼を打ち鳴らしたら、急に呪縛を解かれたらしいナルヴィのほそいからだが男の腕のなかからがくんとまろびでた。
壊れかけた顔様にもう涙は品切れなのか、それでも胸腔に息苦しいほど詰まりに詰まっているものが少年をこうまで痛苦においやっている。
ルカは手をのばさなかった。ナルヴィも近寄らなかった。
ほどなく死人の足どりでナルヴィは退き、しずかに家を出た。


あいもかわらず夜空には月がかかっていて落ちる兆しもない。
気温の降下してゆく暗い深更を、とぼとぼ地にのめりこみそうになりながら歩きづめに歩いた。
頬がぴりぴりと突っ張ったがいっさいふれたくなかったので、両の拳をわきにぶらさげたまま莫迦のように歩いた。
考えていたことがあったはずだった。
自分をああも愛してくれる守護番人のルカを、あのちいさなルカをナルヴィもまた深く愛している。
ナルヴィのためになにかがしたいのだといった。
かれのためにしたいことがあるのだと。
自分はナルヴィのためだったらなんだってするのだからと。
愛するもののために与えてやりたいことがあるのだと。
よくわかる、ルカ、とナルヴィは音のない声を吐息とした。
あの青い両眼のルカはところが自分にいっさいそれをさせない。
強的に波は泡立ち押し寄せそれに太刀打ちできる力をこちらに残させない。
それができたら、とナルヴィは考える、津波に揉まれても潰えることなく対峙する力を得られたら。


ちいさなルカが愛するものにたいしてなにかをしたいのだとせつなく願うように、自分もまたかつえながらそれを欲しているのだと考える。
それができたら、とナルヴィは、皓皓と照り輝く冷えた野原にながい影をしたがえひっそりとたたずんだ。
ふるえる息を二度、三度とのがし、やがて引き結んだ。
ちいさなルカがやろうとしたことだ。ぼくにもできるだろう。
道をみつけてやる、とひとりごちた。
こうべをめぐらし、少年は往路を拾いなおした。
そのさきにはルカがいる。

(R-a-guardian-sprite 2 完結)


ナルヴィ3

その2へ

文章…7月
イラスト…サイアート


R-a-guardian-sprite 2 その2 - 2010.02.09 Tue

「R-a guardian sprite」は 「悩まない男」の7月さんとのコラボです。

ルカなる小説2


喉の渇きと空腹をおぼえ猫は覚醒する。
ナルヴィに使いだとたのまれたはずの行先にみずからがたどりついてもおらず預りものはポシェットにおさまったきり、気づけばいつものやわらかい寝台にくるんとまるまって朝を迎えたのだった。
人型たるルカの記憶をいっさいおのれのうちに留めないルカには、一晩まるごと精神を鑿で削りとられたと思しい。
ぱたりと飛び起き、すぐ横に主人であるナルヴィの死んだように寝入っている小柄なすがたを血の気の引く思いでみとめた。


惑乱のなかたどりついた結論が、たのまれた大事な使いを果たしもせず、放擲したままひとり自分は帰宅してしまったらしいという事実だった。
あれほどいいふくめられていたのに。
渡されていた預りものは時代のついた一冊の厚い本と書簡だった。
かけがえのない品なのだ。
たのむね、とルカの目をのぞきこんだナルヴィの双眸がいつにもまして深い翠色をたたえてきらめいていたから、約束をたがえまいと、ルカはおおきく首肯した。
いってくる、ちゃんと渡してくる、待っててね、ナルヴィ、ちゃんと渡してくるから待っててね。
それがかくも反古になった。
自分のせいで。あれほどいいふくめられていたのに。
大事な約束をたがえてしまったのだ。
うちのめされたルカはよろよろと寝台から抜け出し、扉をすりぬけ蹌踉と我が家をあとにした。


じきそのすがたの見えなくなったことに気づいたナルヴィがこれを追う。
毛という毛をのこらず逆立ててうずくまるちいさな猫を、小高い丘の槐の根元で見つけ、ルカ、としずかに声をかけた。
いつもならぴんと立った耳もいまは伏せたなり、おもむろに尻尾を振り振りいらえも返さない。
いまひとたび「ルカ」と呼びかけ、おそろしく獣じみて映るぶっそうな瞳をのぞきこむ。
ごめんなさい。とうとうルカがぽつり低声でつぶやいた。
「なにが?」
「約束守れなかった。ナルヴィにたのむねっていわれたのに」
吐息をつき、そんなことはかまわないとナルヴィは首をふった。
ルカは承知しない。いつ家にもどったのかまったくおぼえてないんだとつらそうにいいつのった。


「ちゃんと届けるつもりだったんだ。でも気がついたらもうここにもどってた。どうして覚えてないのかぜんぜんわからないんだ」
「もういいよ」
まるい頭のうえにのせられたナルヴィのやさしい手を拒み、いっそう毛を逆立て身をすくめた。
「よくない。ナルヴィのためだったらぼくはなんだってするんだから。しなくちゃならないんだから。ナルヴィのためにしたいことがぼくにはあるんだもの。なのにできなかった、嘘をついた」
涙にかすれてうまくことばがつづかない。「ナルヴィのために……ぼくが……」
いいよといって地べたにはいつくばり香箱をつくっていた守護番人を強引に抱きあげた。
くすんくすんと泣きだしたルカを両のかいなに抱きしめ、「ごめん」とひとこと引き裂かれる心持で吐き出した。


ほかでもないナルヴィ自身がルカを遠ざけようとして、使いにいってほしいなどとありもしない用事をでっちあげたのだ。
なのにその約束をたがえまいとこの守護番人は必死になり、あげく身におぼえのない理由がためにそれを破ってしまったとこうも傷つく。
畜生とナルヴィはうめいた、ついでだしぬけにいきりたち、
「聞こえてるんだろう。あんた、ちゃんと聞こえてるんだろう。これ以上ルカを傷つけるな。もうかってな真似はやめろ。聞こえてるんだろう、ルカ!」
名指しされたと思ったルカがきょとんと濡れた双眸をあげる。
なんでもないよと守護番人を抱きしめるナルヴィの腕に、いっそうやさしい力がこめられた。

(「R-a-guardian-sprite 2 その3/完結」につづく)
その1へ /その3へ




泣くルカ

文章…7月
イラスト…サイアート

紅梅図屏風 - 2010.02.08 Mon

まだやるか、厩戸皇子(;´Д`)

光琳の絵を適当に模写。
あまりに適当なんだが、構図は悪くない。

紅梅図屏風

割と気に入って登場~

実は「日出処の天子」の表紙は意外とこういう歴史の美術の模写が多かった。
記憶に残っているのは
ミケランジェロのアダムの創造
半跏思惟像
弥勒菩薩像などなど…

たぶんこの紅梅図は無かったと…あったらすまんですな

R-a-guardian-sprite 2 その1 - 2010.02.08 Mon

「R-a guardian sprite」は 「悩まない男」の7月さんとのコラボです。


前作の続編です。

文章はすべて7月さんの創作です。

この世界感、キャラは私が創造したものだ。
私は今まで他人に自分のキャラで文章を書いてもらったことがない。
もらいたいとも思ってない。
それは私の頭で生み出したキャラを他人が理解できるわけがないと思っているからだ。
キャラが生まれる時、私はそのキャラの一生まで考える。
どんな性格、背格好、どんな風に生きて死んでいくのか…
それを私以外の者が、物語にできるのだろうか…

このキャラで書いてみないかと誘ったのは私の方である。
7月さんが何かを書きたがっているのは感じていたし、このキャラに非常に興味があるのも知っていた。
だが、果たしてこれを書けるのだろうか…
いや、もしかしたら、7月さんなら書けるかもしれない。
そう思わせてしまう文章力が7月さんにはあったからだ。

7月さんの作品はファンタジーも現代文も非常に描写が巧みだ。
巧みであり、音符のように言葉が流れ、ひとつのソナタや協奏曲を奏でる。(交響曲でないところがミソ)
文章は個人の好みである。
そして7月さんの文章は私にとって非常に興味深い。

彼女は見事にルカとナルヴィの物語を作り上げた。
前回の話は出会いであり、その内容に私が驚くことはない。なぜなら私はその話をもうとうに私の頭の中で描いているからだ。
だが、他人がここまで自分の意思と違うなく描写できるものだろうか。違和感と言うものが無い。
ここはこういう感情じゃなくて、もっと違う言葉で言って欲しいのに…と、いうジレンマがまったくなかった。
私の頭の中身をすっぽり盗み見られたような感じなのだ。

だが前作に些細な不満はあった。
猫ルカの描写が自分にとっては足りないと感じていた。
(見返したら充分な分量を書かれているのにもかかわらず)
今回、それを完璧に払拭した。
猫ルカの描写に不覚にも泣いてしまった。
猫ルカがあっての人ルカなのである。
ナルヴィにとっては猫ルカは人ルカよりも(ある意味)重要でなければならない。
今の時点では、である。

間違いなく7月さんの中でこのキャラたちは息づいている。奇跡的にそれは私が思考するキャラたちと寸分違わない形なのである。
つまり私達は現存しないキャラを、あたかも目の前にいるかのように同じ角度で見ているのだ。(これはひとつの奇跡ではないのか?)

今回、7月さんは私に頼まれたわけでもなく、自分の意思、創作力により執筆された。
そしてそれに対応するように私もイラストを描いた。
それが本来の創作であり、コラボであると思うからだ。

創作とは苦悩することだ。苦悩し生み出すことを喜びと知る。そしてまたこれで良かったのかと苦悩する。その繰り返し。
だが生まれてきた作品のキャラたちは、勝手よろしく、息吹の声を上げ、よろよろしながらも自らの足で歩き始める。
私はそれを見守り、それを書いて(描いて)いくのだと思う。

普通なら7月さんに対し、「私のキャラを使って書いてくれてありがとう。感謝の気持ちで一杯です」と、言うところだろう。しかし敢えてお礼は言わない。
代わりにこう言いたい。

私達は自分たちの意思のもとに、ひとつの創作作品を作りあげた。
とても楽しい時間を共有できて、最高だ。

そして、みなさん、
どうぞ、良かったら見てやってください。


表紙

R-a-guardian-sprite 2

みずからは光源を擁さないちいさな衛星が、恒星からの強烈な光を与り、じょじょにそのかたちをあらわしていく。
猫の爪さながらに弧を描くしらじら尖った月が、くらい夜をひとつまたひとつとかさねてゆくごとにふっくら丸みをおびていき、やがては群青の天窓にその真円を掲示する。
正体をあらわす。露呈するのだといってもいい。


満月になるとなあ、と、払い下げとなった一人乗り飛行艇の修理改造をナルヴィのところへもちこんでいた隣人が、いましも昇らんとしていたくだんの星を高窓のむこうにあおぎながらぽつんと口をきる。
「女房のやつがどうにも情緒不安定になりやがるんだ。
なんだか近寄るのもぶっそうなほどにぴりぴりしてるかと思えば、びしゃりとひっくり返したみたいにだしぬけに上機嫌になる。
たのむよ、気味が悪いんだと釘を刺したらどこがよと笑いながらおれのつらをひっぱたきやがった。
10年もいっしょにいてようやく月との因果関係に気がついた」


感情をどこやらへおきざりにしたまま、へえ、そうなんですかとナルヴィは相槌をうつ。
おまえ信じてないなと隣人は髭面をぴくぴくふるわせ、
「あのクソいまいましい月にはぜったいになにか、得体の知れない力があるんだ。
ふだんはあるかないかわからんぐらいに薄っぺらいくせに、ひとたびそれが円に結ばれてみろよ、隠匿していたぞっとしない代物を嘔吐さながらにまきちらす。
地上にへばりつくおれたちにむけて、そのほそく光り輝く槍が幾千幾万とつきささってくるんだ。
こっちはどこへ逃げられるわけもない。
当然さ、光だもの、どこまでいってもつかまっちまうに決まってる」
どこまでいっても、とナルヴィが問う。
どこまでいってもだと隣人も鬱々とうなずいた。


それでも抵抗はしてみたのだった。
すまないけど使い立てをされてくれないか、けして急がないからねといいふくめ、なんの意味もないささやかな荷をルカに預けた。
この守護番人はひじょうに律儀だからどんなに時間がかかってもきちんとそれをあいてに手渡そうとするだろう、とちゅうで投げだしたりはまずしないだろう。
いまいましい満月が天にかかるころといってはナルヴィの家からすでに遠く距たっている、とうてい一晩かけてもどってこられる距離でない、これでルカを遠ざけておける、そうもくろんだのだった。
みずからの浅はかさをかれはみずからの身をもって思い知ることになる。


ほんとにこの男にはできぬことなどなにひとつないのかとほとんど恐怖した。
あれだけの距離をまさに一跨ぎでもどり、なんでもない顔をして少年を抱いた。
(おれを閉め出せるとでも思ったのか)酷薄な笑みとともにいいわたされことばをなくした。
あてつけででもあるかのように、ことさらに執拗に痛めつけるがごとき、深々とえぐり、乾声になるまであえがせ、おそるべき高みへと少年をいざなっていった。
曙光がさしこむぎりぎりまでその端麗な人型を維持し、一晩まるごとを消費してはげしい交接をつづけ、いくどもナルヴィの精神を分厚い闇にべたりと塗りこめた。
ながい紐に剣呑な結節をいくつも拵えさせられ、そこをまたぐにはこころを呼びもどし、さあと励ましてやらねばならなかった。


これまで五たびにわたってひとのかたちをしたルカとからだを繋げさせられたが、ナルヴィにとってこのひとつきにいちどの情交は、たとえていえば一方的にやってくる津波のようなもので、どうあがこうが回避できるものでなかった。
よるべない木の葉さながらにただひたすら攫われていくだけ、もみくちゃにされ息をうばわれ、涙は血に、血はとろりとした愛液にと転換させられていくのだった。
ナルヴィはといえばひたぶるに男の名を呼んで高腕を宙にさしのばすしかなかったが、自分はいったいだれのことを呼び求めているのかと混濁した意識のうちで首を傾げざるをえない。


この疑問は正しい。
五ヶ月まえまではルカという名にはたったひとつの存在しか意味づけがなされていなかったというに、いまではこれがすっかり変わってしまった、もうひとりの別条たる人格が「おれを認めろ」とナルヴィの視界のあらかたを問答無用で蹴散らしにあらわれたのだ。
自分もまたまぎれもなくルカであると男のいう、しかしながらナルヴィにとってかれらは別個の人格だった、同一ではなかった。
だが(青い両眼をきついおもてに冠した)ルカのいうこともまた真実であるのだと、ずいぶんとあとになって苦渋ととともに諒承するようになる。

(「R-a-guardian-sprite 2 その2」につづく)


ルカナル1

文章…7月
イラスト…サイアート



水川青弥編 「焦点」 9 - 2010.02.04 Thu

9、
 翌日は代休、次の日もリンには会えなかった。
 携帯で連絡を取れば簡単だが、一度取ってもらえないとその後、続けてこちらから掛けるのはなんだか気が引けた。
 金曜日になってリンから「週末においでよ」とメールを貰った。少し時間を置いて「実家に帰るつもりだったけど…行くよ」と返事をした。
 本当はすごく会いたくて、リンのぬくもりが欲しくて堪らないくせに、本当におれは素直じゃない。

 マンションへ行くまでは、リンに会うのは何だかひどく久しぶりで少し緊張した。
 体育祭までの3日ばかりはお互い忙しくてゆっくり会えなかった。

 リン宅へ行くといつものようにリンはおれを抱き締めて迎えてくれた。
 だけど何だか…少し元気が無い。

 一緒に昼飯を作りながら、おれは体育祭の日に携帯電話で連絡したのに返事が無かった事を責めた。
「あ、ごめん。俺、出かける時はバイブにしてるからわかりにくいんだよなあ」
「でもその後履歴見て…確認するだろ?」
「…あんまり、気にしてないから…見ないで消したかも」
「…ひどいよ」
「あの日は大変だったんだ。サテュロス、ああ、前に言ってたジャズクラブのね、連中が体育祭に来てくれてて、それで終わった後、お疲れ会があってさ。新橋の店まで連れて行かれてね。美間坂さんと桐生さんも一緒になって盛り上がったんだ」
「…すごく目立ってたよ、あの一団」
「俺が応援合戦に出るって教えたら、見たいって言い出してね。俺、親に運動会や学芸会って来てもらったことがないからさ。そういうのを気遣ってくれたのだと思う。あの人たち本当に優しいから」
 リンの過去の事を言われたら、おれは何も言えない。
 質素で平凡だが、おれは親の愛情は十分受けて育っている。
 もしかしたら、うちの両親も少しは見たいと思ったのかな…なんだかリンに感化されて良心が痛んだ。

 食事が終わった後、リンとリビングのソファで抱き合った。
 やっぱりリンはいつもより少し影が強いみたいだ。
 おれはリンとキスをしながら、なんとなく聞いてみた。
「体育祭、お兄さんも来てたね」
「うん」
「アメリカから?」
「予定は無かったんだけど、急に前日に帰ってきたの。びっくりしたよ。俺の応援合戦をどうしても見たかったって。そんで次の日帰っちゃった…」
「そう…挨拶ぐらいしたかったな」
「…うん」
「リンが元気ないの、その所為?」
「そう…かもしれない。色々、考えるよ。ミナに言う事じゃないかもしれないけどね。俺はどうしても慧に対して負い目がある」
「負い目?」
「そう。慧と梓の中学、高校時代は俺を育てる為にロクに学校行事に参加していない。慧一は特に…部活も修学旅行も行ってない…放課後すぐ帰宅するから応援団やら、そんなものは一切していなかった。一番楽しむことのできる青春時代を彼は俺の為に味わうことが出来なかった。どれだけの犠牲を払って俺を見てくれたのだろうと思うとね。俺はどうやって彼に返したらいいのか…考えるんだ」
「…慧一さんは、嫌でリンを育てていたわけじゃないんだろ?部活や学校の行事より、リンの世話をすることが大事だと思ったんだよ」
「…」
「それに返すっていってもさ。親が子供を育てるって、別に何かを返して貰いたいからじゃないだろ?ごく自然の母性愛みたいなもんだろ?リンのお兄さんだってリンに見返りを求めてなんかいないと思うよ」
 リンは目を伏せ苦渋の色を浮かべて僅かに呟いた。
「…慧は…親じゃない」
「リン…」
 リンはそれっきり何も言わなかった。

 その晩、おれ達はセックスをしなかった。
 マンションへ来る度に必ずするというわけではなかったけれど、疲れてもいないしケンカをしているわけでもない。 
 ただ…その夜、リンに情欲の気配はなかった。
 

 翌日、リンは昨夜の暗い影を引きずってはいなかった。
 箱根へ行く計画をおれに色々と説明しながら、楽しそうに笑ってくれた。
 おれはその笑顔に酷く安心してしまい思わず涙ぐむと、リンは「ごめんね」と、一言言い、おれを抱いてくれた。
 
 リンの腕も身体も細い。おれもそう。だから、お互い頼りないなあと笑う。
 だけどおれは…強くなりたい。
 自信なんて粒ほどもないけれど、おれはリンを守りたい。
 その為に強くなる。
 リンの胸の中でリンに揺さぶられながら、おれは強く祈り続ける。


 旅行は十一月の学院の創立記念の休日を使って、前日の夕方、学校が終わってから出発した。
 待ち合わせの駅でリンは革ジャンでかっこよく決めていた。
 リンはおれを見ると呆れたように呟いた。
「なんで一泊なのにその荷物なの?」
 おれは大き目のリュックを背中に抱えていた。
「だって…着替えと勉強道具にスケッチブック…と、お菓子みたいな…」
「お菓子まで?…はは」
 弾けたように笑うリンを見て、おれも一緒に笑った。


箱根旅行デス


8へ /10へ
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ


ひとコマまんがは生きがい…(;´▽`A``
こういうリンもちゅき
意外とリンはどじっこ。そしてそれに萌えるミナ…要はバカップル

キャッチコピー - 2010.02.03 Wed

物語の最終目的です。

キャッチコピー

水川青弥編 「焦点」 8 - 2010.02.02 Tue

8、
 リンのお兄さん、慧一さんには一言挨拶をしておきたかった。
 いつもリン宅へお邪魔しているし、箱根旅行券も貰っている。何よりリンとおれの関係を認めてくれているのだから、お礼を言うのは当たり前だろう。
 昼休みの空いた時間にでもと、昼飯を食べに学生食堂館へ向かう。
 おれの両親は来ていない。
 成績のことしか興味のない人たちだし、おれが体育祭で活躍するところなんて皆無だもの。わざわざ呼ぶ必要もない。
 学食に行くと、親と仲良く懇談しながら食べている生徒も大勢居る。勿論そうじゃない奴らも多数居るのだけれど。
 そちらのテーブルへ向かいひとりで定食を食う。
 こういう時は手前勝手だが寂しいものがある。
 友情なんて煩わしいし面倒だと思っているのに(事実そうだ)、独りだと寂しいだなんてさ、勝手すぎるよなあ…
 
 昼食後、リンを探しに行く。
 多分慧一さんも一緒に居るはずだ。
 教室ではないだろう、と、思い運動場へ出た。
 辺りをきょろきょろしていると、校舎の端に騒がしい一団がいた…彼らだ。
 さっきのオジサンやらオカマの人、慧一さんも居る。
 でかいビニールシートに座って、宴会さながらの賑わいで、飲んだり食ったりしている。
 しかし、何人いるんだ?…え?七、八…九…にん?
 よく見ると今年卒業した美間坂さんや桐生さんもいる。…一体なぜに?
 それに藤宮先生までも…
 そういや慧一さんとは大学時代の友人だったと、前にリンが言っていた様な気がする。

 しかし、なんとまあ騒々しくも楽しそうな賑わいだ。お花見の酔っ払いの方々みたい。
 その中心にいるのは、やはりリンだ。
 なんて無邪気に楽しそうに笑っているのだろう。
 おれは、リンにあんな笑顔を与えたことがあるのだろうか…

 校舎の影に隠れて様子を伺っていたおれは、彼らの前へ出て行く勇気はとても持てなかった。
 おれは黙って教室へ戻った。

 昼休み後、プログラムのメイン、応援合戦が始まった。
 半年かけて企画、構成を練りに練ってきただけあって、毎年どのクラスも面白いし、感心する。
 まず校歌を高らかに歌い上げ、その後一連の様式美を舞い、それから各々の創作ものを見せ合う。
 勿論おれが気になるのはリンの黒組で、息を呑んで見守った。

 なんか、黒の羽織袴のリンを見るだけで胸が高鳴って仕方が無い。
 かっこいいというか…モデルっぽいというか、ひとりだけ様になりすぎている…見ているだけなのに顔がにやけて仕方が無いから、タオルで顔を隠してガン見してしまった。
 周りの奴らの声が嫌でも聞こえてくる。
「やっぱり宿禰は目立つよなあ」そうだろ?あいつは本当にかっこいいんだ。
「同じ高校生なのに、なんでこうも輝きが違うんだよ」バカか。比較対象が悪すぎるだろ。リンは特別なんだよ。
「あそこまで決めてくれるともう、逆にファンになるしかなくね?」そうそう…え?
「あ!あの人!根本さんが出てきた。すげえ~ドレス着てる。しかも似合ってる。こわ…」ええっ?!
 …マジでかあ?
 なんかミュージカル風味になっている黒組の創作劇は、有名な海賊映画の曲に合わせ勇壮に踊っている中にドレス姿の根本先輩が現れて(どうも悪者の人質になっている姫を助けるという構成らしいが、そんなことはどうでもいい)、王子役?のリンと踊るという…たわいもない中身なのだが、リンと先輩がどこをどう見てもえらく様になってしまっていて、会場は笑いから溜息に変わっている始末。
 おれは…まあ、多少覚悟はしていたから驚きはしなかったが、最後に先輩がリンの口唇にキスをした時はさすがに憤慨した。

 応援合戦の成績はもちろん黒組が優勝した。
 その夜、同室の根本先輩を罵倒した。
「おれのリンに勝手にキスするな!」
「みなっちのリンくんは喜んでました~公開プレイでしっかり舌も入れたもんね~。彼、初心なミナばっかりじゃ飽きるって言ってたもん」
「リンは、そんなこと言わないしっ!」
 下らない挑発だったがあんまり腹が立ったので、即リンに電話を入れたが出なかった。
 完全に立ち直れなくなったおれに同情した先輩は、「宿禰はたぶん家に居ないんじゃないかな」と、気を使いながら言い出した。
「どうして?」
「ほら、彼の知り合いが沢山来てただろ?その人の店に集まるって言ってたから。美間坂さん達も行くって言ってたしね」
「…」
 リンは学校の中でも外でも、沢山の友情を分かち合う仲間がいる。味方がいる。
 おれには…おれにはリンしかいないのに…

 あまりに惨めで涙が溢れてしまった。
 おれはこんなにも独りなのに、今頃リンは沢山の仲間に囲まれて楽しく過ごしていると思うと、どうにもやりきれなかった。

 おれは心の貧しい人間だ。自分から手を広げないくせに、欲しがってばかりいる。
 リンは、こんなおれを本当に…
 必要としてくれるのだろうか…






7へ /9へ

リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ


今日のミナはこんな感じ?
↑段々と壊れていくミナ…笑うとこ?

え?箱根?…次回こそは!(;´∀`)





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