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2010-03

宿禰凛一編 「Swingby」 22 - 2010.03.29 Mon

22、
 俺はセックスに快楽と思慕の念を求めてきた。
 女でも男でも入れる側でも入れられる側であっても、違和感など感じることはなかった。
 好きな人の体温を感じ、お互いの身体と心を委ねあい、感じあうコミュニケーションは一時的なものだとしても、その頃の俺には必要だった。
 あの頃、慧一が俺を求めてくれていたとしたら、俺は道義的な疑問も持たずにあそこまで他人と簡単に寝る事ができただろうか。もっと自分の価値を別な角度で見れたのだろうか…

 もしもあの時…と、考えるのは、今を後悔しているからだと言うが、誰だって、あの時こうだったならば、とは考えずにはいられない過去は多い。
 あの時、慧一が俺を見捨てなかったら、嶌谷さんが俺を見捨てていたら、月村さんを追っていなかったなら…梓を止めることができたなら…
 今の俺ではなかった。もっといい子で…慧一の望む者になれたのかもしれない。
 それでも慧一は…こんな俺でも、慧は俺を欲しいと…ずっと変わらずにいてくれたのか?

 本当に…?

 簡単に信じることなど出来なかった。でも…もし俺の想いを受け取ってくれるのなら…

「慧…慧、俺…」
 右手に感じている慧一自身の高ぶりが俺に向けられたものなら…俺はこれが欲しい。
 俺の中に入れて感じたい。
 俺は何も知らない清純無垢な乙女でもなんでもない。中に入れて味わう快楽も知っている。
 だから慧…俺を抱いてくれ…

 言葉にせず、口唇と手を動かした。慧にはわかるはずだ。俺がどれだけ慧に欲情しているか…

 慧はあからさまな俺の動きに少しだけ目を細め、軽くかぶりを振ると、俺の手を払いのけ、身体を押しやった。
 俺の顔も見ずに足早に廊下を歩く後姿にしばし呆然となる。
 …見放された?
 …まさか…そんなことはない。慧は俺に欲情した。間違いなく…

 俺は急いで慧一の後を追いかけ、リビングの先の部屋に向かう慧の前に回りこんでドアの前に立ちはだかった。慧が怒っても手をあげても俺は退く気なんか毛頭ない。
 ドアに背を向け問いただす俺に、慧一はこれまで見た事もないほどあからさまに動揺した様子が窺い知れた。

 何故俺たちは愛し合うことが出来ない。こんなに惹かれあいながら、何故求め合うことが許されない。
 男同士だから?
 兄弟だから?
 タブーだから?
 それを必死に守る意味はなんだ?
 誰の為に何の為にこの愛を縛り付けられる意味がある。
 俺たちは愛し合ってはいけないのか?
 教えてくれ、慧。

「慧…慧はさっき俺に欲情したよね。俺を抱きたいって思ったんだろ?俺とセックスしたいって願ったんだろ?その感情のどこに後ろめたい、やましいものがあるんだ」
 戸惑い、必死に否定しながらも途方に暮れた顔をする慧一に俺は食い下がった。
「そんなもの…どこにもない。俺たちの間にあるのはお互いが欲しいという感情だけだ。違うか?」
「…」
「俺はこの世界のどこに立っても宣言してやる。俺は宿禰慧一を愛していると」
 
 そう言い放った俺は、放心したように俺を見つめる慧一を抱き締め、その口唇に誓いのキスをした。
 慧一は俺の口唇を受け止め、そして俺の身体をしっかりと抱き寄せた。
 何度も舌を絡ませその「誓い」の意味をお互いの視線で確認し合い、そして身体に染みわたらせた。

 ゆっくりと顔を離すとお互いの唾液が糸を引いた。それを見て一層身体が熱くなる。
「慧…俺と寝てくれ。愛してくれるのなら、俺を抱いてくれよ」
 たまらなかった。じっとしていられないほどに慧が欲しくて…これ以上耐えられない。
 ありったけの気持ちで懇願した。
「頼むから、寝てくれ」
 だが、慧一は口を真一文字に閉めたまま、何も言わない。
俺を抱き締める腕の強さはこんなにも強いのに、どうして…どうして俺の願いを聞き届けてくれないんだ、慧…

「…」
 何も言わない慧が憎らしくて仕方がない。
 俺がいらないのなら、そう言えばいい。だけどそうじゃないんだろ?
「そう…どうしても慧が俺を抱きたくないって言うのなら…もういいよ」
 失望より怒りが込み上げてきた。
 俺は慧一の身体から離れた。
 もういい。
 そんなに俺を抱けないのなら…慧一を怒らせてやるだけだ。

 玄関に向かおうとする俺を慧一のバカ力が簡単に引き戻した。
 力で抵抗できなくするぐらいなら…俺をめちゃくちゃにしろよっ!

「慧が抱いてくれないのなら、誰でもいい。他の奴に抱いてもらう。相手なんか関係ない。街に出て立ってりゃ、俺とセックスしたいっていう奴には事欠かないんだから。そしたら俺は相手を慧だと思って…慧とセックスしてると思ってやるだけだ。そうすりゃ、慧も俺を抱かなかったことを後悔するだろう」
「いいかげんにしろ!」
 慧の怒号を久しぶりに聞いた気がした。あの時も俺が夜遊びをして慧はそれを責めたんだ。だけど、今度は俺は絶対に怯んだりするものか。
「どっちがだよっ!慧は、俺を愛してるって言ってるクセに…俺になにもくれない。こんなに欲しいって言ってるのに…どうして…」
 今まで人を、肉欲をこんなに求めた事などはない。
 一度だって俺の求めを拒んだ奴なんていない。
 慧はなんでも俺にくれるって言ったじゃないか。
 なんでセックスだけは駄目なんだよ。
 
 空しさともどかしさに自分が惨めになっていく。
 気がつかないうちに涙がこぼれていくのがわかった。

 リビングの壁に凭れ鼻を啜った。
 嗚咽する自分の声だけが部屋に響くのが聞こえた。
 突然、慧の腕が俺の肩を壁に押しやり、そのまま、全体の身動きが取れなくなるように上背のある身体で俺を押し付けた。
 俺はしゃくりあげながら、慧一の顔を見上げた。
 慧は怒ったような表情で俺を見つめ、そして口唇を合わせた。

 慧の手が俺の身体を這うのがぼんやりと認識できた。
 その手が指が俺のものに直に触れた時、俺は息を呑んだ。
 口唇から逃げ、やっとの思いでいやだと声に出した。
 身体を捩って逆らうが足腰を押さえられてビクともしない。
「…やだ」

 こんな形でいかせられるのは納得できない。
 俺ひとりイッたってそんなのフェアじゃない。俺は慧と繋がりたいのに…
 だが、慧の指先は確実に俺を追い込んでいく。
 気持ち悪いわけがない。
 少なくとも、慧がそうすることを望んでいることに、俺は喜びさえ感じている。
 慧が俺をイカしてくれる…奇妙な愉悦でもあった。
 自分の喘ぐ声を耳にしながら、俺は俺を見つめる慧一の陶然とした顔に満足していた。
 慧は俺と性交っている…感じているんじゃないか…楽しんでいるんじゃないか。

 背中をしならせ、慧の名前を呼びながら、俺は慧に支配される喜びをこの肉体で感じていた。

 慧は俺を愛している。
 俺のすべてを求めている。
 これこそが俺の摂理となる。









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え~…ミナの事は完全に頭にない凛…ですが…(;・∀・)大丈夫か~?

宿禰慧一編 「オレミユス」 17 - 2010.03.26 Fri

17、
 今まで生きてきた俺の人生において、これほどの歓喜を味わったことはなかった。
 考えもしなった。
 俺の命を賭してもいいと思える最愛の弟、凛一が俺を「愛している」と、声高らかに叫ぶのだ。
 何ひとつ混じりけもない純粋な愛を、彼は俺に誓うのだ。
 これ以上の喜びがあるだろうか…
 これまでの孤独な欲求、陰鬱としたまま浄化できる事のない独りよがりな慈愛でさえ俺には一欠けらの慰めにもならなかった。ただ、凛一の笑みが輝きが俺の生きる糧となっていた。
 今、凛は俺に真(まこと)の愛をくれた。
 これから先、凛が何を選ぼうとも、俺はもう…

 凛一の口唇がゆっくりと離れた。
 一旦おさまった情欲が再び燃え上がるのはわかっていた。
「慧…俺と寝てくれ。愛してくれるのなら、俺を抱いてくれよ」
 瞳を潤ませた凛一が、なにか大事なものを強請るように、すがるように呟く。
「凛…」
「ずっと愛していた。わからなかったんだ。いくら誘っても慧は俺にそういうそぶりも見せてはくれなかった。慧は昔から俺を欲しがっていたんだよね。だったら…」
 俺の背中に回された凛の両手の指が食い込むほどに力を込めているのが、服の上からでもわかった。
「凛」
「頼むから寝てくれ。慧が欲しいんだよ」
 凛が本気で俺を求めている…これほどの喜びを感じながら俺にはどうしても、その要求を行使することが出来ない。
「凛、聞いてくれ。俺はおまえを愛しているし、欲しいと思っているよ。でもセックスはしたくないんだ」
「なぜ?」
「…」
 何故?…いつもそこだ。なぜ俺は、凛一を抱けないんだ。これほどまでに執着し、その肉体を渇望しているはずなのに、何故手が出せない。
 それは…それは凛一にとって俺が…

「そう…どうしても慧が俺を抱きたくないって言うのなら…もういいよ」
 黙ったままの俺を見て答えを見出せないと思ったのか、凛一は俺の身体を押しやり、離れた。そのまま踵を回してリビングから出ようとする。
 俺は凛の腕を掴み、問いただす。
「凛、どこに行く気だ」
「慧が抱いてくれないのなら、他の奴に抱いてもらう」
「バカな…」
 くだらん事を言い出し始めた凛を俺は必死で止めにかかる。第一パジャマ姿で外に出る気か?病み上がりなのに。そう案じてもこいつは人の話なんか聞きやしない。

「凛、まだマトモな身体じゃないんだ。外出なんて許さない」
「勝手にするさ。誰でもいい。相手なんか関係ない。街に出て立ってりゃ、俺とセックスしたいっていう奴には事欠かないんだから。そしたら俺は相手を慧だと思って…慧とセックスしてると思ってやるだけだ。そうすりゃ、慧も俺を抱かなかったことを後悔するだろう」
「いいかげんにしろ!」
「どっちがだよっ!慧は、俺を愛してるって言ってるクセに…俺になにもくれない。こんなに欲しいって言ってるのに…どうして…」
「凛…」
 壁に凭れて嗚咽する凛一を見たとき、どうしようもないほどに俺はこれを俺のものにしたいという独占力、嗜虐的な欲望に溺れた。
 もとより…こいつが他の誰かに抱かれている様を浮かべた時点で、嫉妬と憎悪の感覚に俺自身が支配されつつあった。
 今ならこいつを抱くくらい簡単にやってのける。だが、他の奴に抱かれるというこいつを簡単に許す気にはなれなかった。

 俺は片腕と身体全体で凛一の両肩を壁に押さえ、両足を動かないように固定させた。
 残った右手で凛一の顎を引き、短いキスをする。凛は不可解な顔をして、俺を見上げた。
 構わずに、そのまま右手はシルク地のパジャマの上を這わせ、ズボンの中に滑り込ませた。
 凛一自身のすでにたかぶっているモノをやや乱暴にまさぐった。
「いやだ、慧…」
 見開いた目で俺を責めながら、凛は身体を捩って逃げようとする。
 無理だ。力も上背も俺のほうが勝っている。
 身体の節々を使って凛の肩や足の付け根を押さえ込むと、凛は観念したのか、壁に凭れたまま嗚咽を繰り返す。
 しばらくしゃくりあげていた声が呼吸が荒くなると共に次第に喘ぎに変わる。
 その凛の逐一様を俺は恍惚として見惚れていた。
 凛を文字通り俺の手でイカしてやるという行為が、俺を快楽の境地へいざなった。
 動きを緩めず、一層激しく擦りあげると、背中をしならせた凛は俺の名前を小さく呼び、そして身体を震わせ達した。

 解放された凛の弛んだ身体が俺に凭れた。俺は凛を抱きかかえるようにしてソファに運び、横に寝かしつけた。テーブルの上からティッシュを取り、凛の放ったものを拭き取った。
 凛はそっぽを向いて黙ったまま、されるがままになっている。

「寒くないか?凛」
 自分の着ていたパーカーを脱ぎ、凛に着せてやろうと上半身を起こす。
 俺の首に腕を回し、顔を近づけたと思ったら、額をぶつけていた。
「よくもやってくれたな、慧」
「…」
 怒りながら顔をしかめるが、その風情がどこか愛らしく思えて、俺はまじまじとその顔を見つめた。
「こんな風に自尊心を傷つけられたのは初めてだ。ムカついてる」
「腹が立って仕方がないのはこっちの方だ、凛。誰とでもいいから寝るなんて俺の前で二度と言うんじゃない。そんなことをしたら、本当に許さないからな」
「…わからないよ、慧の気持ちが。それだけ俺に固執するのに、なぜ自分は抱かないんだよ。そんなに俺が他に奴と寝るのが嫌なら、慧が抱けばいいことじゃないか。秘密にしてりゃ、兄弟同士が寝たって誰もわからないし、傷つくこともない。何が慧を縛っているの?」
「…それを簡単に一言で言い表すことはできないよ、凛。でも本当に聞きたいのなら…とても長い話になるよ…それに、凛には聞かせられないような酷い想いも俺の中にはあるんだよ」
「それでも…俺は聞きたい。慧の想いを全部受け止めたい」
 
 凛一の瞳は俺に少しの誤魔化しも許さないと告げていた。
 俺は今まで自分の中に溜め込んでいた汚泥のような(勿論美しく結晶したものもある)自分の欲望、感情を向けられた本人に晒す時が来たと、観念した。
 凛一の告白で俺はもう十分に救われていた。ならば、俺も凛一に余す事なく告白するべきだろう。
 それを聞いた凛一が俺に対する価値を下げようとも、告白した愛を取り下げようとも、一度与えてもらった言葉は俺の中では消えることはない。
 
 クッションを枕にしてソファに仰向けになった俺は、自分の身体の上に凛の身体をぴったりと沿わせ、その背中をゆっくりさすった。
 空調も床暖房も寒いとは感じさせないほどの温度ではあったが、凛一の体調だけが心配だった。
 ベッドに寝ても良かったのだが、凛一はこのままがいいと言う。俺の背中に回した腕がきつく絡まり、解かせるもの気が引けた。
「寒くないね」と、確認した。凛は俺の肩に顔を埋め、うんと頷いた。

「凛…俺にとって凛はすべてだよ。光であり、唯一信じる者でもある。だから、俺は凛に告解する。そして凛は俺を裁く権利がある」
「裁く?」
「ああ、これまで俺がおまえをどんな風に愛し育て…肉欲を持って求めてきたのかを、おまえに洗い浚い告白するから、それを聞いた後…おまえが俺を裁いてくれ」
「どんな話でも聞くよ。だって今の俺があるのは、慧が俺を育ててくれたからなんだ。それがどんな想いであっても、俺は慧を責めたりしないよ。」

 信頼という重い枷は、欲望を抑える辛く苦しいものだと感じてばかりいた。だが、凛はそのすべてをすっぽりと俺に委ね、何をしてもいいと赦している。
 その感情も肉体も、この世を生きる俺にとって、唯一絶対の聖域であることも知らずに…





告解する時間デス


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宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
宿禰凛一編 「Swingby」 22へ
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ここら辺は凛一編と行ったり来たりしています。
同時進行で楽しまれることをお奨めします。

情景 - 2010.03.25 Thu

気に入った絵というものは、何度見てもその情景、心情が浮かぶものである。
このタンゴの構図は実際の写真を見て描いたものだが、慧一と凛一の精神を描ききることができて、私はとても気に入っている。

タンゴ

時間があったら厚塗りでもしたいんだが…しなくても充分な気はする。

宿禰慧一編 「オレミユス」 16 - 2010.03.24 Wed

16、
 その夜は天中に月暈(げつうん)が美しく広がっていた。
 明日は雨にでもなるのかと、ベランダで少し霞む大三角を眺めた後、凛一に呼ばれ部屋に戻った。
「お先に風呂終わったよ、慧、どうぞ」
「ああ…湯冷めしないようにしっかり温まっておけよ」
「うん」

 凛一をリビングに置いて、俺は風呂に入った。
 ここの所、俺たちの関係は病人と看病人の構図ができあがり、昔の平穏を取り戻したように思えた。 普通の兄弟としての距離が取れているというか、ヤバイ雰囲気には全くなっていない。
 平穏、普通の兄弟…努力は必要としてもその距離を保つことが大切なのかもしれない。

 その時まで、俺は余計なことを妄想する感覚さえ、忘れていた。だから…風呂から上がった後、パジャマ姿の凛がうろつくのを見て、また風邪がぶり返さないか…それだけが心配で何の迷いもなく彼の額に口唇を充てた。それは幼い頃から、凛一の体温を測る自然の行為だったのだ。

 だが、口唇に触れた瞬間、凛一の身体がビクッと震え、全身が硬直していく様がはっきり見えた。
 俺はしまったと後悔した。何のたくらみもない、予想もしていないふれあいだった。

 凛一の欲情する瞬間を俺はあからさまに目の前に差し出されてしまった。
 凛は…その感情を身体中から舞い上がらせ、俺の身体に激流のごとく注ぎ込んでいく。
 俺には全く遮る術はなかった。
 凛の熱い欲情…と、いうものを俺の身体が認知した時、俺自身さえそれを払いのけることが出来ないほどに…歓喜に奮えていた。
 淫らという言い方は相応しくない。得も言われぬ程に官能的に凄艶でありながら、生命力を迸らせた彼の表情はきわめて清冽に輝いていた。
 
 パジャマの上からでも凛一を十分に確認できた。それは俺も同じであり、凛の指がおそおそる俺に触れた時、俺は声を上げそうになった。
 お互いに向かい合い、立ち竦んでいた。
 俺より少し背の低い凛を斜め上から見る。
 凛の長い睫が俺の立ち上がったものに触れている己の指を凝視している様がわかった。
 それだけでイキそうに成る程に熱く感じていた。

 バカなっ!こいつは血の繋がった弟だ。そう何度も何百回も言い聞かせてきたはずだ。何を今更、これくらいでたじろぐ必要がある。
 手を払いのけて、冗句のように「お互い発情するのが早いな。凛はともかく俺もまだ若い証拠だな」と、かわせばいいことだろう。

 あの子は必ず君を欲しがる日が来るよ。その時君は抗うことができるのか?
 いや、君自身でさえ止められないと思うよ
 あの子が本気で欲しがったものは確実に掴み取るだろうからね

 過去の言葉が俺の頭を駆け巡った。
 俺はその言葉が現実に降りかかることを予想していなかったか?それをかわす術を学んでいなかったのか?

 俯いていた凛一がゆっくりと…スローモーションのように俺の顔を見上げた。
 さっきよりも艶かしく彩られた表情は欲望に陶酔したまま、緊張に強張っていた。その瞳に写る俺もまた、同じような顔をしている。

「慧…慧、俺…」と、赤い舌をちらつらせながら吐息のように俺を呼ぶ。
 凛の手が、一層強く俺のモノを掴んだ瞬間、俺はその手を払いのけ、凛の肩を押しやり、リビングへ向かって廊下を急いで歩いた。
「慧、待ってくれ」
 まだ艶を含んでいる声で俺を呼ぶ声は無視した。
 リビングのドアを開ける。自室にこもれば、中から鍵をかければいい。
 一晩経てば、こんな些細な事なんか綺麗さっぱり忘れて、元の兄弟に戻れるんだ。

 リビングの端にある自室のドアに急ぎ足で向かい、ドアに手を伸ばした瞬間、先回りした凛一はドアに立ちはだかった。
「凛、どかないかっ!」
「いやだ!なんで逃げるんだよっ!」
「ロクな事しか起こらないだろう」
「慧は…慧は俺に欲情してるじゃないかっ!それがロクな事なのか?」
「ああ、そうだ」
「慧は俺とセックスするのが怖いだけなんだ」
「ああ、怖いね」
「俺が弟だから?俺に恋人がいるから?世間体が怖いから?親に示しががつかないから?社会人として生きていくにはデメリットが大きすぎるから?」
「そうだよ。今言ったことがすべてだろ。俺たちが愛し合っても何の、なにひとつ希望はない。多くの人を混乱、絶望、悲しませるだけだろう」
「それが俺たちふたりの間において、何の意味がある。俺は慧を愛している。欲しいと思っている。慧だってそうだろう?…今まで自信はなかったよ。俺が本気で慧に求められているのかどうか確信できなかったんだ。だけど…慧はさっき俺に欲情したじゃないか。俺を抱きたいって思ったんだろ?俺とセックスしたいって願ったんだろ?その感情のどこに後ろめたい、やましいものがあるんだ。…どこにもない。俺たちの間にあるのはお互いが欲しいという感情だけだ。違うか?俺はこの世界のどこに立っても宣言してやる。俺は宿禰慧一を愛していると」
 
 言い放った凛の言葉に俺は心酔した。このまま死んでもかまわないと言うほどに感極まり絶句した。
 凛一の口唇が俺の口唇に触れ、そのまま深いエクスタシーを味わい続けた。
 無限と思う程に、魂は飛翔する。






愛してるんだ…

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 - 2010.03.23 Tue

桜吹雪



春と言うやつは不思議にやっかいなものだ。
そこ等中の動物はやたらに発情しやがるし、夜桜見物やらで、性質(たち)の悪い人間共も輪をかけて狂乱しちまう。

その狂乱ぶりたるや、まったくの始末におけねえ醜態でいるからね、ありゃ、酒の所為だと悪びれもしないでいるが、至極承知の上の悪態に違いねえ。

と、くりゃ、どっかの森の桜の王が艶姿で忍び込んでささ一献どうぞ、なんていう偶さか見合う情景も、桜舞い散る闇の中じゃ、目新しい趣向とも言わねえものかね。

朝方になると、あれ?ひとり足らねえんじゃないか?まあ、昨今若い奴は不義理が多い。などど、さして気にもしない。

さて、あれは少し綺麗めの若造ではなかったか?はたまた宵に乗じて酒を酌み交わした男の眼が嫌にあの子に向けられてはいなかったか…

などと頭痛の隅っこで浮かんだものの、霞のようにすうーと消えちまった。



イラストは凛とミナなのだが、何も文がないのは面白みがねえなって事で、
即興で書いてみた。

駄文すまん。

間違い探し…(;´∀`) - 2010.03.22 Mon

ヤフーにあげたやつと違うところがひとつある。

凛冬

わかった人には…おめでとの絵文字を
(^。^)オメデト∠※ポン!。・:*:・゜'★,。・:*:♪・゜'☆ミ
・_・)/オメデタ鉄球------------------●()゜o゜)ガコッ!←
オメデタアタック!! ...(((( メ ̄皿 ̄)=○バキ☆=○バキ☆=○バキ☆) ;_×_)ヽドテッ
オメ呪い(/- .-)/ ~~~~ 呪(o_ _)oバタッ
オメットゴール (o゜゜)/θ☆‥……━━━(゜o゜;)━[●]ゴーーールゥ!!

…あと20ぐらいあるよ、絵文字…ww


こういう凛の表情、雰囲気がとても好きなのだ。凛は沢山の表情がある。
どれも凛だけど、孤独の凛が一番凛らしい。
これも挿絵。
もうすぐ凛の回になったら出てくるかも…
しかし文章より絵が先にできるから困る。

テキストの方は、まだ全然書けてないのだがね。
まあ、今週中には2回ぐらいは…がんばろ~

宿禰慧一編 「オレミユス」 15 - 2010.03.19 Fri

15、
 クリスマスには帰らなかった。
 凛一とふたりだけでいる事に、俺自身がまだ冷静でいられるのか、また凛にいざ詰め寄られたらどうしたらいいのか…見当がつかなかったからだ。
 だから親父達が帰国するのを待った。
 両親が間にいるだけで空気が変わる、話す内容も変わる。俺たちの関係も変わる。
 それくらいの道化役ぐらいは彼らに押し付けてもかまわないだろう。

 正月の三日に鎌倉の実家に帰省した。
 両親と凛一は温泉旅行からまだ戻っていなかった。
 簡単に家事をひととおり終えて、洗濯物を片しに凛一の部屋へ行く。
 相変わらず男子高校生としてはポスターひとつもない殺風景な部屋だ。
 洗濯物をクローゼットに片付け、本棚の硝子の中にある写真を貼ったフォトスタンドを確かめようと扉を開けた。
 大き目のコルクマットには俺や梓、昔撮った懐かしい家族写真が何枚も貼ってある。俺はそれを見るたびに心の安らぎを感じる。
 その横に新しいフォトスタンドが飾られていた。
 手に取って見つめた。
 凛一と一緒に写っている男の子は…凛の恋人の水川青弥…だろう。
 鮮やかに笑う凛の傍らで、少し照れながら控えめだが嬉しそうに微笑んでいる。
 眼鏡をかけた利発そうな割には、内気で温和な面差し。それでいて心の強そうな子に見えた。
 凛一の恋人…わかってはいるが喜ばしく思えるわけもない。
 俺は写真から目を外し、元の場所に置いた。

 別に今更落ち込んでも仕方がない話だってわかっているが…
 本棚を閉め、何気なく本棚の横に立てかけてある額縁が目にとまった。
 確かめるとB4サイズの額に入った一枚の絵だった。
 凛一の顔を、色鉛筆だろうか…とても上手に描けている。右下に小さくseiyaと描かれてあった。
 そういえば、水川青弥は絵画の才能があると凛一がしきりに言っていた。
 そうか…これが彼が描く凛一なのか。

 俺はしばらくその絵を見つめていた。
 水川青弥への嫉妬心よりも先に、彼の凛一を想う情愛がその絵から満ち溢れていた事に、感動せずにはいられなかった。
 彼は…水川青弥は、凛一を本気で愛している…そして、凛も…
 それがこの「恋」の本質であるなら…俺が取るべき道は自ずと決まってくる。
 俺は俺の役を果たすだけだろう…

 三人はやっと夕方近くになって帰り着いた。
 体育祭以来に見る凛一だった。
 凛一は一言二言挨拶を交わすと、俺をしばらく見つめ、そして口をへの字に結んだまま自室に引き込んだ。
 メールのやり取りでは、以前と変わらないと感じていたのだが、リアルにはそうもいかないらしい…だが、夕食を囲んでの家族団欒…特に和佳子さんの存在は大きかった。おおらかで朗らかな和佳子さんの気質が,沈みがちになろうとした凛一の笑顔を誘っていた。
 労せずして俺たちは表面上は仲の良い家族、兄弟の関係を取り戻すことが出来た。
 お互いの奥底に潜む感情の扉を閉めたまま、この先どこまでこの兄弟の役を押し通すことが出来るのか…それは俺にもわからなかった…が、凛一もそれを果たそうとする決意だけは言葉を交わさなくても表情で理解しえた。

 翌日に両親は自宅を発つことになる事を知った俺は、当然ながら慌てた。
 両親がいなくなれば俺は凛一とふたりきりになる。
 お互いが気持ちを悟っている今、もし、気まずい…俺にとっても凛一にとっても不可抗力の事態が起こったら、俺はどうすればいいのだろう。
 そればかりが頭の中を支配する。
 俺の休暇はまだ十日ばかりある。
 両親を見送りつつ、取敢えず様子を伺って、折を見て雲隠れしようと目論んだ矢先、凛一が熱を出し倒れてしまった。
 しかし、俺にとっては天の計らいにも思えた。
 
 ベッドに寝込んでしまった凛一と看病人の俺では、甘いムードになることもないだろう。
 俺はどこかでこの凶事に安堵していた。とはいえ、高熱で苦しむ凛一を見るのは、たまらなく可哀相で辛い。
 ハアハアと身体全体を揺らし、苦しそうな呼吸音に混じって、苦しい、きついと呻く。
 病に罹った際の凛一の姿は幼い頃から十分に見慣れているつもりだったが、これほどまでに辛そうな姿を見るのはあまりにも久しぶりすぎて、感覚がわからなくなってしまった。
 十二月にインフルエンザに罹ったと凛一は言ったが、その時も一人ぽっちでこんな風に苦しんでいたのかと思うと、罪悪感に囚われてしまう。
 身体のどこかを触っただけで火傷するほどに熱いのに、「寒い、きつい」と繰り返す。
 部屋を暖め、毛布を重ねても身体の震えは止まらない。
「凛…大丈夫か?」
 問いかけると、凛一はうなされるように「慧…苦しい、助けて」と言う。
 手を取って握り締め励ます。
「凛、俺はここにいるから。ずっと傍にいるから、しっかりしろよ」

 ふと、凛一はうわ言を言い始めた。
「梓…行かないで…僕をひとりにしないで…」
 高熱の所為で幼い頃の記憶を手繰っているのだろうか…
 凛は涙を溢れさせて、言葉を続けた。
「慧…ひとりは嫌だよ。いい子にしてるから、どこにも行かないで…」
「…」
「愛してる、慧…」
「凛…」
 どうしようもなく握り締めた手に、一層強く力を込めた。
 すると凛一は瞼を上げ、空ろな目を俺の方に向けた。
「慧、愛してるのに…何故、俺では駄目なんだ?」
 そう呟き、また目を伏せ、「寒い」と、苦しみだした。

 何故?…何故…兄弟だから、俺たちが血の繋がった兄弟だからだ。
 だがそれが一体なんの罪になる。
 これほどまでにお互いを求め合う者同士、愛し合うのは自然の摂理ではないのか…
 今なら俺は凛一を…凛一のすべてを手に入れることが出来る。

 俺は凛一の熱い身体を布団の上から抱き締め、その頬に口唇を寄せた。
「凛…俺がおまえのすべてを奪っていいか?恋人のように愛し合う者として、一緒に生きていくと誓ってくれるのか?」
 その耳元に囁くが、凛一の返事はなく、ただ「助けて」と。
「ミナ、助けて、くれ…ミナ…」と、繰り返し恋人の名前を呼んだ。

 凛一から、ベッドから俺は離れた。
 もう、諦めろと囁く声が聞こえた。
 それが天使なのか悪魔なのかはわからない。
 はたまた混乱の神か。
 ならばいっそ俺の頭を狂わせてはくれないか。
 この子を汚さないように、愛と嫉妬と憎悪の鎖で俺を縛り付けてくれ。


 三日後、凛一はやっと平熱を取り戻しつつあった。
 部屋に食事を持っていくと、ベッドで寝ていた凛一が嬉しそうに起き上がった。
 病み上がりのやつれ具合がいい按配に作用してか、凛の色気が一層際立ってしまい、俺は目のやり場に困ってしまう。
 熱が出てからはまともに食事も取らずじまいでいた。
 こいつは拒食症の前例があるからと心配したが、土鍋で炊いたおかゆをよそってレンゲを差し出すと、美味そうに口に運んでくれたので一安心した。
「やっぱりおかゆには梅干だよね。うまい」
「この梅干は…市販ものじゃないな」
「うん、9階の中木さん、おじいちゃんとおばあちゃんの二人暮らしなんだ。そのおばあちゃんから頂いたの。毎年沢山作るからって」
「そうか。お返しはしたのか?」
「時々話しに付き合ってやる。喜んでくれるし、こっちは夕食にありつける」
「…抜けぬけと言うなあ」
「いいじゃん。持ちつ持たれつだよ。それより…俺、熱に浮かされて変な事ゆってなかったか?」
「…言ってたよ」
「なんて?」
「梓と俺の名前を呼んでいた。苦しい、助けてって」
「そっか…やっぱりいざとなるとどうしてもふたりに頼ってしまうんだね。こんなんじゃ梓も成仏できないよね…」
「別に…いいさ。必要とされるうちが花だと、梓も喜んでいるさ」

 嫉妬という感情が、凛一が恋人の名前を呼んでいたことを俺に言わせなかった。
 罪悪感はまるで沸いてこない。
 それよりも奇妙な恍惚感さえ覚える始末だ。
 これとよく似た感情を思い出した。
 まるで交じり合ったオイルの万華鏡。
 僅かな光を得た薄暗い闇の中でゆっくりと蠢き、不可解な形を繰り広げる。
 気味が悪いと感じながらも、決して目を離すことが出来ないあの文様に…
 


文様
 
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赤いソファ - 2010.03.17 Wed

色合いが非常に巧くいった気がする。

気がするだけで、正解かどうかはわからんが…

ふたり

今の時点ではこれが精一杯。

また次、がんばろう~

宿禰慧一編 「オレミユス」 14 - 2010.03.16 Tue

14、
 シカゴの空港に降り立ち、アパートに帰り着くとすぐに携帯が鳴った。
 嶌谷さんからだった。
 俺がマンションを出た後、嶌谷さんは凛一から相談を受けたそうだ。
 それは懸念していた内容だった。
 凛一は俺に情欲を持ち、俺と愛し合いたいと願っている。だが、嶌谷さんは俺が頼んだとおりに、俺には凛一を抱く意思がない事、これからもずっと兄として見守っていくという事を伝え、凛一もそれを受け入れたのだと…

 俺は凛一が俺を欲しがっているという、愛しているという事実に陶酔と罪悪感を一度に覚え、眩暈がした。
 ソファにやっと腰掛け、痛む胸を押さえ、大きく息を吐いた。
「…凛一の様子はどうでした?」
 それが一番心配だった。自棄になってしまわないか、変なことに巻き込まれないか…
 嶌谷さんがいるとはいえ、いつも目を光らせてはいられないだろう。
『どうでしたじゃないよ。凛一のあんな…かわいそうな姿、見捨ててなんかおけるかよ。俺が抱いてやりたくなるところだぜ…酷過ぎるよ。慧一くんだって凛のあの顔を見たら、固い決意も溶けてしまうだろうよ』
「…すみませんでした」
『とにかく君に頼まれたことは遂行した。ここからは俺のやりたいようにやるよ。俺だって凛一の幸せを望んでいる。それが何かを俺なりに探してやりたい。異存はないだろ?』
「勿論です。あの子が本当に頼れるのは嶌谷さんでしょうから」
『…本気で言ってるのか?…だとしたら、君は凛一をわかっていないって話だ、慧一くん。俺はこの件に関しては不本意極まりないんだからな』

 嶌谷さんの怒りの言葉に返事は出来なかった。
 嶌谷さんの言うとおりだと俺もわかっている。
 たかがセックスだ。兄弟であっても愛し合っていれば間違いではないことぐらい俺にだってわかっている。
 だが…それでも…それがあの子の心のどこかに黒い染みを残すならば、それを落としてはいけない。

 携帯を切った後も、胸の痛みは消えなかった。
 今となっては、あの子が俺を愛していることより、あの子を泣かせてしまった事が酷く苛まれた。
 あの子を悲しませるようなことは二度としないと誓った筈なのに…と、思うと己が悔しくて情けなくて…いっその事、凛一の望どおりに抱いてしまえば良かったのか…
 もう、ずっと前から…あの子が色々な奴と経験する以前から、あの子と繋がり、俺だけの恋人として安心を与え、凛一を孤独にしなかったなら、こんな不毛な恋模様に惑わされないで済んだのだろうか…
 もとより一番心配なことがあった。
 凛一は拒んだ俺を憎んでしまわないだろうか…

 4年前の苦い別れを再び繰り返すわけにはいかない。
 俺たちが求められないのは肉欲であって、精神的な愛ではないばすだ。
 勇気を奮い立たせ、俺は凛一にEメールを送った。
 無事アパートに着いたという報告と、体調を案ずるだけのいつもどおりの内容だったが、返事が来るまでは気が気ではなかった。

 その晩に返信が来た。
 彼のメールもまた、普段と変わらぬ変哲もない文章に綴られていた。
 ただひとつ今までとは違っていた記述があった。
 いつもの「慧」という俺への呼び名が、「兄さん」に変わっていたのだ。
 そのたった一文字が、俺には重い十字架の様に見えた。
 それは決して尊いものなんかではない。
 燃やし尽くして灰にしてしまいたい程に…ただひたすらに憎かった。



 NK建設に内定が決まった事はまだ家族の誰にも告げておらず、教授と幾人かの友人だけの知るところとなっていた。
 ジャンなどは「ケイイチは総合複合体の大企業より、小規模でデザインプランニング重視のオフィス向きだと思う」と、反論する。
「俺もそう思っているよ。まあ、4,5年は研修だと思ってゼネコンの中身を見学してくるよ」
「建築士と建築家の区別もわからない日本では、さぞ窮屈だろうがね」
「そう言うなよ、ジャン。おまえこそ、親父の後を継ぎたくないと言いつつ、何年院生を続けるつもりだよ」
「そうだなあ~先の事は結婚して子供でも出来てから考えることにするよ」
 ジャンには決まった許嫁が居る。ニューヨークで働いている彼女の元へ、毎週末律儀に出かけている。
「結婚はいつ?」
「来年。向こうの親が待ちきれないらしい。シーラはワーキングウーマンだからなあ~俺の方が尻に敷かれそうだ」
「それこそ思惑通りだろ?ずっと院生でいりゃあいいさ」
「辛辣だねえ~なんか嫌な事でもあったのか?」
「…」
 鋭いにも程がある。苦笑すると「ああ、わかった。リンイチが恋人でも作ったか?」と、おどけながら言う。
「…前からいたよ」
「じゃあ、リンイチに冷たくされた?」
「なんで俺の不機嫌が凛に関わるんだよ」
「だって、それ以外でおまえがぶちぎれるところを観た事がない」
「…」

 卒院旅行と称して、三週間ほどかけて、独りで西欧の建築を見に行くことにした。
 勿論凛一の興味をそそるであろう、教会建築の資料も集めておきたかったからだ。
 俺の研究課題の環境デザインのコンセプトのひとつ、ランドスケープ都市を重点的に巡りながら、その土地の古(いにしえ)の寺院に礼拝した。
 だが、凛一に対する罪深さが少しは減るわけでもなく、神ではなく常に彼への崇拝と肉欲の塊が俺を支配している事実を突きつけられている気がして、頭を垂れる度に苦笑いが浮かんでくる。
 天国行きは諦めているが、こう怯えているのではメフィストフェレスさえ伺いには来ないだろう。
 せめてもの俺の主への貢物に方々のカテドラルをカメラに収め、メールで送った。
 彼は絵文字で怒りながら「ニンジンばっかぶら下げずに、俺も連れて行け!」と、返信してきた。

 ああ、連れて行くよ。俺たちがわだかまりのない兄弟になれたいつか、その時にはきっと…
 この古い幾層も重ねられた大天使が見守る寺院から、ふたりで夜明けを見よう。




兄と弟

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おくりもの - 2010.03.13 Sat

今日はブロ友の7月さんのお誕生日ということで…
とりあえず、お誕生日おめでと…(「・・)ン??めでたくない歳だね、お互いwww
随分前からリクエストをもらっていたので、ゆっくり描きあげました。

リクエストはファンタジー、と言うだけでした。
広い意味で難しかったです。
また、お話を付けたいということだったので、ふくらみを持たせる為に幾分設定をぼかしていますね。

プレゼント

ふたりの関係がどういうものか、この世界がいかなるものか…
色々妄想をしていただければいいなと思います。

見る人の数だけ、物語が想像できるイラストを描きたいですね。

あ、イラストはコメ受け付けておりますよん。



宿禰慧一編 「オレミユス」 13 - 2010.03.12 Fri

13、
「今日一日の凛一を見てはっきりわかったんです。凛一を輝かせるのは俺じゃない。嶌谷さんや学校の仲間や恋人…俺以外の世の中のすべてが凛一を未来に歩ませる力となるんです。俺は後ろから支える兄であるべきなんだ。それ以上のものになる必要はない」
「…」
「俺では駄目なんだ。俺は凛一を束縛してしまう。誰の目にも留まらぬところへ隠して、彼の輝きをもぎ取ってしまう…それでは凛一の幸せは掴めない。彼は俺の手から離れて生きるべきなんです。
俺の就職先ですが…凛にはまだ言ってないけど、日本の大手のゼネコンに内定している。でも仕事先は向こうになると思う。たぶん日本には戻れない。だから俺も悩んだんだが…卒院したら一緒に暮らそうと約束していたので…でも、吹っ切れましたよ。凛一は俺を超えていかなきゃならない。その為には…ある程度の距離が必要なのだと。あいつが俺を求めるのは、あと一時だと思うんです。大人になれば凛は俺の手から離れる。だから…その時の、それからの未来の為にも俺たちは兄弟のままでいなければならない…」
 俺は目の前の嶌谷さんにではなく、自分自身に言い聞かせるように、決意をまくし立てた。順繰りに整理して自分を納得させなければ凛への感情を抑えきる自信など沸いてこない。

「…凛一への想いを一生胸に抱えたまま?」
 沈黙したまま俺を見つめている嶌谷さんが、やっと口を開いてくれた。
「ええ…時間が解決してくれることを望みたい。嶌谷さんの域にまで到達できればいいんですけどね。ひやかしではなく心からそうなればいいと願っているんですよ」
 俺は残ったワインを嶌谷さんのグラスに注ぎだ。嶌谷さんはニコリと笑い口調を変えた。
「いっそ、俺と恋仲にでもなるかい?」
「はは…それは無理ですね。俺は下になるのは真っ平だし、嶌谷さんを抱きたいとも思わないから」
「それじゃあ、あの…ほら、凛一の担任の色男、君の元恋人とヨリを戻したら?」
「冗談言わないでくださいよ。凛一への想いの捌け口が紫乃じゃあ、あんまりでしょう。それじゃなくても彼には随分酷いこともしてきたから…恨まれても仕方ないぐらいなんだ」
「じゃあ、俺がその紫乃くんを頂こうかな~。報われぬ宿禰兄弟への悲恋を夜毎語り明かすうちに、いい感じに…ってな具合にさ」
「…俺をひとりにしないで下さいよ。嶌谷さんと紫乃がくっ付いてしまったら俺は誰に愚痴を聞いてもらえばいいんですか?」
 紫乃が嶌谷さんと?…考えられないこともないと思った。目の前でふたりにいちゃつかれたら、俺は相当に落ち込むだろうなあと想像して、また自分に呆れた。俺はエゴが強すぎる。

「…ったく、仕方のない兄弟だなあ。縁もゆかりもないのにここまで関わらせてくれて、ありがとよ。わかったよ。ふたりの行く末は俺が最後まで請け合いましょう」
「嶌谷さん…嶌谷さんの人生に俺たち兄弟のいざこざを巻き込んでしまったことを本当にすまないと思っています。この恩をどうやって返せばいいのか…俺には思い浮かばない」
「恩を売る為におまえらと付き合っているわけじゃないさ。俺もいい歳だし、関わるのは嫌いじゃない。今までは正直生きていくのに独り身が楽だし、抱える荷物は少ない方がいいと信じてきた。でもな、おまえらと関わっていると…つまり家族でもなく友人という関係だけでもない…普遍的な愛情って奴を通わせれる重さを味わっているんだよ。俺はこういう繋がりには何か運命を感じてしまう。俺にとってそういう人間は君らの他にひとりしかいない…俺の従兄弟だけどね。最も信頼する奴。そのうち紹介するよ」
「ええ、楽しみにしています。それと…凛一の分もお礼を言います。ありがとうございます。いつかきっと…この恩を返せるように、良き未来に繋がるように、生きてみせます」

 言いたい事を嶌谷さんに打ち明け、吹っ切れた俺は、その後すぐに休む事にした。
 ゲストルームに行き、ベッドに眠り込んでいる凛一の様子を伺った。暗闇に慣れた目が凛の整った横顔を確認できた。
 窓からの月明かりが凛の頬を照らし、長い睫の影がくっきりと浮かんだ。
 よくもここまで出来た造形に生まれついたものだ…これを産んだ母は凛一のこのような姿を生前に思い浮かべたことがあるのだろうか…
 良く似ている兄弟だと言われたものだが、陰と陽の違いが俺たちにはある。それは俺が望んだ事だった。この子の影になりたかった。いつまでも彼と一緒にどこまでも歩みたかった。
「凛…」
 傍らにそっと身体を沿わせ、凛一の背中を抱いた。
 
 こうしておまえを抱いて眠ることは、これからはできないかもしれない。
 そう考えると、とても…寂しいよ、凛。

 頬を撫で前髪を掬って額にキスを落とした。
「愛してる。いつだっておまえの傍にいる。俺のすべてをおまえにやるよ。誰よりも強い愛でおまえを守るから…どうか、輝きを失わないでくれ…」
 
 そのまま一睡も出来ずに凛一の寝顔を見つめたまま朝を向かえた俺は、凛一に気づかれないようにベッドを出ると出発の支度をした。
 嶌谷さんは先に起きて、俺の為に朝食を用意してくれていた。
 どこまでもお世話になってばかりだと感謝する他は無い。
「凛一になにも言わないで行くのかい?眠っている間に慧一くんが行ったと知ったら凛が激昂する事間違いなしだな」
「ついでに宥める役もお願いしますよ。自信がないんです。凛と別れるのはいつも辛くてね。泣かれるのはもっと辛い…」

 いざ帰ろうとする時、寝室のドアが開き凛一が俺に駆け寄ってくる。
「もう、行くの?」
 その顔を見ただけでたまらなくなる。

 玄関で別れを告げようとすると、凛一は俺の肩に凭れ小さな溜息を付いた。
「慧…来てくれてありがとう…嬉しかった…いつまでも慧に甘えちゃいけないってわかっているけれど…やっぱり俺には慧が必要だ…」
 凛…俺の方こそ、おまえに依存している。おまえ無しでは生きている意味を見出せないほどに。

 キスを強請るその口唇にありったけの愛を注ぎ込んだ。

 愛しているよ、凛一。
 俺たちの絆はずっと続いていくもの、そうだろう?
 だから…だから俺の腕から飛び去ってもいいんだよ。
 愛する
 我が弟よ…




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さよなら、いい子でいなさい。


宿禰慧一編 「オレミユス」 12 - 2010.03.11 Thu

        桐生と美間坂

12、
 体育祭が終わった後、凛一と連れ立って、打ち上げ会をするという嶌谷さんの店へ出向く。
 楽しい時間というのは瞬く間に過ぎていくとはよく言うが、今日ほど時間が速いと感じた一日は早々あるもんじゃないな。
 たいした気も使わずに心ゆくまでみんなと楽しんだ。

 特に凛一の先輩であり、俺の大学の後輩となる桐生くんとの凛一に関する話は興味深く、学校での凛一の様子を聞かされるのは楽しかった。T大の医学生であり、生徒会長でもあった美間坂くんも一見ぶっきらぼうではあるが、非常に信頼できる人物に思えた。
「凛は学校のことをあまり話さないからね。本当に真面目にやっているのかどうか…」
「宿禰は真面目ですよ。部活の詩人の会でも彼の詩の朗読の感情の表し方、抑揚は聞く者に感動を与えていましたからね。朗読って一見簡単そうだが、詩の意味するところを汲み取って、尚且つそれを言葉に乗せて発声するもんなんです。聞き手に訴えかけるというのは中々難しいんです。宿禰はそれを楽にやってのける。天性というものでしょうねえ~」
「あれは目立ちすぎだ。もっと謙虚になった方が目をつけられなくて済むだろう」と、美間坂くんが眼鏡の奥から鋭い目つきで、奥の壁際で歓談している凛一を睨みつけている。
「真広がそれを言うの?…謙虚さなんておまえは持ち合わせていないものかと思ったよ」
 慣れた面持ちで軽くあしらう桐生くんは、大人びた美貌の持ち主だ。
「俺は別格。天才だからな。宿禰は違う。あれはどっちかというと天からの気まぐれな賜物だろうな」
「…」
 美間坂くんの鋭い指摘に俺も共感する。確かに凛一は昔から他の者とはオーラが違っていた。
 俺の欲目かと思っていたが、そうでもないのか。
 美間坂くんが言葉を続けた。
「あれだけの容姿で、性格も貴重。まあ、天才ではないが稀に見る逸材だと思う。ただ…」
「ただ?」
「この先、彼がどう生きていくのかが…俺としては多少気になるところだね。道を間違えないといいんだが。あまり容貌がいいとそちらに気取られてチャンスを逃がすこともあるからね」
「真広が他人にこれだけ関心を持つのは珍しいんですよ、慧一さん。それだけ宿禰は愛されてるということです。でも、だからこその悩みも彼にはあるでしょう。僕らも完璧ではないですが、先輩として彼の力になりたいと思っています」
「よろしく頼むよ。あいつは危ういところもあるから、兄としてはひとりにしておくのは心配なんだ」
「宿禰の恋人がいることは?」
「聞いてるよ。水川くんって子でしょ?」
「はい、彼は非常に聡明で真面目な子なんです。堅物と言ってもいい。あまり心を見せない子だったのですが、宿禰と付き合うようになって、彼は変わりました。宿禰の陽性に惹かれたんでしょうか。明るく魅力的な性質が加わった気がします」
「水川は宿禰とは合わないと思ったんだがな…俺の勘もたまには外れる。水川はともかく宿禰がああいう子に本気になるとはねえ…」眼鏡のブリッジを上げながら美間坂くんはさも意外そうに言う。
「水川は芯の強い子だよ。宿禰は見かけとは違って軟弱なところもあるから、水川みたいな意思のある一本気な奴とは案外うまくいくんだよ」
「ああ、俺とおまえみたいな…って話」
「…違うけどな」桐生くんが少し呆れながら苦笑している。
 確かに凛一が言うように似合いのカップルには違いない。
 まあ、少し妬ましい感情もつつかれ気味にはなるけどね。

 俺は明朝の飛行機で帰るつもりでいたから、自宅には戻らずにビジネスホテルに一泊しようと思ったが、嶌谷さんの好意に甘えて、凛一と一緒に都内のマンションへお邪魔することになった。
 凛一は昼間の疲れからか、風呂に入って先に休むことにしたらしい。目を擦りながら一緒に寝たいと、我儘を言う。
 了解して凛一を寝室に送り出した後、嶌谷さんが気の毒そうに笑う。
「凛は相変わらず慧一くんを困らせているんだな。いつまでたってもお兄ちゃんから巣立ちできないでいる」
「普段のあいつは大人顔負けのはったりをきかせたり、とても賢しい子だから、その反発なのかもしれない。逆に言えば、甘えたがりの雛鳥なんですよ。その原因を作ったのは俺だ…母は死に、父親は傍にいない。最愛の姉を亡くしたばかりの中一の子を俺は、捨てたんです。俺のエゴ、あいつへの肉欲が恐ろしくて逃げたんですよ。あの子はその事を恨んでいる」
「そのことについては慧一くんは十分購ったと思うがね」
「ええ、凛も許しています。だけどあの子を独りにしてしまったことで、あの子は孤独がどんなに寂しいものか身体で覚えてしまっている。だから…彼は自分を愛してくれる人を求めてしまう。俺が傍にいてしっかりと彼に家族の愛や信頼をいうものを与えてやらなければならなかったのに…凛には俺しか家族はいなかったのに…俺は気づいてやれなかった…俺は一生あの子の家族でいなくてはならない。恋人としてではなく、凛がどんなに傷ついても帰ってこれる家でなれけばならない」
「そこまで自分を犠牲にしなくてもいいと思うがね」
「凛にも言われましたよ。でも犠牲なんかじゃない。俺の凛に対しての感情や逃げた事、置いてけぼりにしてしまった事、それらすべてが一生の負い目になっているのだとしても、それさえもね…俺にとっては凛一を繋ぎとめている鎖なのかと思うと、繋がれていたいと願わずにはいられなくなる。根本的にマゾなのかも知れないですけどね」
 
 自嘲する俺に嶌谷さんは目の前のワイングラスに二本目の新しいワインを継ぎ足した。
「俺とは違って慧一くんの場合は、決して報われない愛とは思えないんだが。前にも言ったが凛一が本当に求めているのは慧一くんだよ。あの子は本気で君を愛している…恋人がいようと、君に対する恋慕は本物だよ」
「…」
 嶌谷さんの凛一に対する想いは俺とは違って穏健でありまた中庸でもある。そこまで行き着けたら俺もこんな俗な欲に溺れなくてもいいと思うが、凛一を観る程、本能が奮えて仕方なくなる。抑えが効かなくなるのは時間の問題だと俺も気づいている。
 だから…

「…嶌谷さん、お願いがあります。あの子は…凛一は俺の想いに感づいている。そして凛はそれを知ったら俺を本気で求めてくるでしょう。それは愛じゃなく俺を慰めようとする気持ちからです。だから、もし凛からなにか相談を受けた時は…俺にはそんな気はないと、はっきり言って欲しいんです」
「ちょっと待ってくれ!そんな役回りはゴメンだよ、慧一くん」
「あなたにしか頼めないことだから頭を下げて頼んでいる。兄弟同士愛し合う事自体が間違っているんだ。お互いが理解し合えばそれはそれでいい。でも、社会、世間はそんなことを許すほど優しくはないでしょう。俺と愛し合っても凛一に得はない」
「だとしても、それで凛一は納得しないだろう。凛自身が君を求めているのは確かなんだから」
「それでも…仕方がないと…そうしなけりゃならないと、説得してください。お願いします。俺たち兄弟がこれから先もずっと家族であり続ける為にはそれしかないんです…俺自身が…耐えられなくなってしまう前に、諦めさせなきゃならない」
 俺の凛への想いを断ち切るには、この人の力を借りるしかない…
 嶌谷さんは納得のいかぬ表情で黙ったまま、俺を見つめ返している。




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宿禰慧一編 「オレミユス」 11 - 2010.03.09 Tue

oremiyusu


11、
 十月十日はどうしても日本に帰国したかった。
 凛一の体育祭がある。
 シカゴ大学の研究生であり、教授の助手としてそれなりの仕事もこなしている俺には、忙しい時期ではあったが、どうしてもこれだけは自分の目で見ておきたかった。

 凛一の学校行事には出来るだけ参観に行っていた。
 親のいない寂しさを凛一には味あわせたくなかったからだ。
 中学時代は俺が勝手に留学したから、凛一には可哀相なことをしたと後悔している。
 中3の時は例の事件で不参加、去年の高一の時は俺の都合で観に行ってやれていない。
 凛一が応援団に参加することは、夏休みに毎日のように練習に出かけていたのを知っていたから、尚の事、この目に焼き付けておきたい。

 体育祭の前日の夕刻、鎌倉の自宅に帰りつく。
 凛を驚かせたくて、事前の連絡無しの帰宅だったから、俺の姿を目にした凛一はさすがに言葉もないくらいに驚き、黒まなこを何度も瞬かせながら、俺に飛びついてきた。
「俺の体育祭を観る為に?それだけの為に帰ってきたの?」
「そうだよ」
「バカだ…」
 呆れながらも身体全身から湧き出る喜びを隠そうともせず、俺の首に両腕を回して頬ずりをする。
 凛一の喜びはそのまま俺の喜びになる。

 夜になると夕方まで降っていた雨の音が次第に小さくなっていた。
 ベランダにふたりで出て空を見ると、風に流れていく雲の間から秋の星座が見え隠れしていた。
「明日は大丈夫そうだな」
「せっかく慧がアメリカから来てくれてるのに雨天中止じゃ笑い話にもならないよ。良かった…明日はきっと晴れるね」
「ああ…それより、弁当をこさえる材料があんまりないな。どうする?おにぎりと卵焼きぐらいならできそうだが」
「それは大丈夫。嶌谷さん達が用意してくれるって」
「嶌谷さん…たち?」
「うん。慧も知ってるだろ?サテュロスの常連さん達だよ。俺を可愛がってくれてるの。ミコシさんと戸田さんと、プロカメラマンの三田川さん。戸田さんは喫茶店のマスターなんだけど、フランス料理のシェフだったんだって。で、嶌谷さんとふたりで作ってくれるって」
「そうか…凛には頼もしい応援団が付いているわけだ」
「うん、何かワクワクするね。最高の体育祭になりそうだよ」
 満面の笑みを湛える凛一。この微笑を俺は一生守り通したい。

 翌日、準備があると朝早く凛一を送り出す。思ったとおり一点の曇りもない秋晴れ。凛の晴れ舞台には相応しい。
 
 開会式に合わせて高校へ出かけた。歩いて10分程度で運動場へ着く。すでに沢山の生徒の家族で観客席は埋め尽くされていた。
 生徒の応援席も本格的に足場を組むし、ベニヤ板に描かれた横断幕もその頭上に掲げられる。勿論俺にも経験はあるが、小、中学校とはまた違った雰囲気だ。
 
 暫く後ろで様子を伺っていると嶌谷さん達の一団を見つけた。
 近づいて声を掛けた。嶌谷さんは俺を見て一瞬ポカンと口を開いた。
「…慧一くん、来てたのか?まさか…コレを観る為?」
「その台詞、嶌谷さんにそっくりお返ししますよ。赤の他人の為に朝早くから応援に来てるじゃないですか。大勢引き連れて」
「ああ、こいつらの事?みんな凛一が可愛いんだよ。あんなシロモノは滅多にいない。可愛がってやらなきゃ罪ってもんだろ?」
「…兄としては非常に複雑ですがね」と、見るからにイロモノの皆さんを横目で見つつ、多少引きつった笑いを返した。
「メインは応援合戦だが、それは午後からだろ?それまで俺達も青春時代に戻って学生の気分で楽しもう」
「…一緒にしないで下さい。俺はまだ学生ですよ」
「ああ、そうだったね、ゴメンゴメン」
 少しも悪びれていないクセに、全く嫌味がないからなあ~この人は。

 昼食時間になり、生徒達が散り散りになる中、凛一と合流し、運動場の隅に先にでかいシートを敷いて手を振っている嶌谷さん達のところへ向かう。ふと凛一の後ろに並んで歩く二人連れに目をやった。
「凛、この方達は?」
「あ、慧は初めてだったよね。ほらお世話になったって前に話したことあったでしょ。美間坂さんと桐生先輩だよ」「なんで俺には先輩付け無しなんだ?」「まあ、いいから。宿禰のお兄さんですね。初めまして、桐生といいます。宿禰くんと同じ部活の「詩人の会」の部長をやっていました」「凛一から伺っていました。日頃離れて暮らしているので、しつけがなってなく凛一が我儘にしていると思います。色々と迷惑をかけているかもしれませんがよろしくお願いします」「桐生先輩達はサテュロスにもよく行くんだって。だから嶌谷さん達とも知りあいなの。一緒に昼飯しようと思って誘ったわけ」「常連ではないのですが、たまに美間坂を連れ出したりしてな、真広」「俺の反対を押し切って行くっていうから付いて行ってるだけだ。あそこはゲイの溜まり場だから、安心できない」「…心配性の恋人を持つのも気が重い時があります」「千尋!」「さ、行こうよ、嶌谷さん達が先に弁当全部食っちゃうよ~」
 両脇にふたりの腕を抱えた凛一がふたりを引っ張りながら、手を振る嶌谷さんに向かって早足で歩いていく。
 俺はその後姿になんとも言えない安堵感と少しの寂しさを感じてしまうんだ。

 シートに座り、ノンアルコールビールをコップに注いでいると、聞きなれた声がする。
「盛り上がるのはいいですが、保護者の皆さん、学校でお酒は駄目です…って、慧一?」
「…」
 振り向いたら紫乃だった。そりゃここの先生だから会ってもおかしくないけどな。
「おまえ、なんでここに?…え?まさか、体育祭を観る為?」
「…悪いか」
「…マジで絶句…」と、言いつつ伊達眼鏡の奥がせせら笑っているのがわかる。ああ、どうせ俺は凛一バカだよ。
「凛一、こちらは?」と、機嫌のいい嶌谷さん。
「俺の担任の藤宮先生だよ」
「これはこれは先生、いつも凛一がお世話になってます」
 立ち上がった嶌谷さんは紫乃の前で丁寧に頭を下げた。
「は?」
「凛一の親代わりの嶌谷誠一郎と言います」と、嶌谷さんは名刺入れから紫乃に名刺を差し出す。
「こちらの胡散臭いやつらは凛一の身内のオジサンみたいなもので…」
「あら、マスターひどい!私は身体は男だけど心は貴婦人よ」
「はいはい、ミコシさんはステキなレディです」
「ちっとも心が込もってないわよ、マスター!」
「…なんでもいいですが、お酒は困ります」
「紫乃、これはアルコール0パーだから…」
「ご安心ください。それより、先生はまだお昼は?」
「はい、まだですが…」
「丁度良かった。さあさあ、ご一緒にどうぞ~」
「「ええ?」」
 …いいのか?と言う顔を俺に向ける。やめとけ!と目で合図したが、紫乃はそれを無視してさっさと俺の横に座り、嶌谷さんの継いだ偽ビールを美味そうに飲み始めた。
「なんで担任が生徒と一緒に飯を食うんだ?」
「いいじゃん。凛一の面倒は俺もみている。俺も身内みたいなもんだ。一緒に食う権利はあるぞ。…というか…なんかすごい弁当だな」
 紫乃が目の前に並べられた料理を眺めて耳打ちする。
 確かに弁当という枠を外れて…色んな意味で外れている集まりではあったからコレはこれでいいのかもしれないが…
 さすがに本場で鍛えたという話だけあって戸田さんの弁当の中身はどれもこれも凝ったものだった。

「おにぎりにキャビアのコンソメジュレって…どんなメニューだよ」「白子のムニエルも美味いよ」「ローストビーフのサンドイッチはグレービーソースをかけて召し上がってください」「高級食材てんこ盛りだな、おい」「…今時の運動会の弁当って半端ないんだな…」「ここだけだと俺は思うが…」
 小言を言いつつも食べる方の口も休んでいない紫乃に、先生として真面目にやっているのか多少の不安も隠せないが、とにかく凛一がくったくなく誰に気を使うでもなく幸せな表情で和んでいる姿を確認できただけでも、俺にとっては今日ここに来た甲斐があると言うものだった。


 午後一番のプログラム、応援合戦が始まった。
 凛一の黒組が始まるまで、自分のことのように心臓が高鳴って仕方がない。
 うまくやれるだろうか、失敗しないだろうか…まさにバカ親の極みだ。

 黒組の応援が始まる。
 白袴に黒羽織に黒たすきを結んだ凛一たち応援団が和太鼓に合わせながら揃い踊る戦舞に観客席からも溜息が漏れる。
 黒いたすきと鉢巻が風に靡き、砂が舞う。
 音楽が変わり赤い扇を持った凛が中央で舞を始めた。
 一つ一つの動きが凄烈であり、また妖艶でもある。
 しなやかさと優美さ、そして荘厳な空気が辺り一面を包んだ。
 俺は胸の震えを止めることができないでいた。
 もし周りに誰もいなかったら感動に泣き叫んでいただろう。

 …これが凛一なのか…
 俺が育てたあの小さかった凛一なのか…
 こんなにも美しく見事な羽を広げて…彼は飛んでいくのだ。
 母さん、梓、空から彼の晴れ姿を見てやってください。
 あなた達の愛した凛一はまさに選ばれた者だ。
 頭上に黄金の冠をいただき、輝くおもては女神の様。
 その背には玉虫色の6枚の翼がゆっくりと羽ばたき、今にも飛び去ってしまうが如く。

 俺には決して届かない。
 その果てまで飛んでいってしまうのだ…
 




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宿禰凛一編 「Swingby」 21 - 2010.03.04 Thu

21、
 晦日に父と和佳子さんは自宅に帰宅。翌日、群馬の方へ車で出かけ、草津と伊香保温泉で正月を過ごした。   
 家族三人で過ごすなんて初めてだし、部屋は和室の一室で3人枕を揃えて寝る始末で、どうにもこうにも居心地は良くない。
 温泉で疲れを取るどころが、疲れ果て、ようやく三日の日に家へ戻ると、すでに慧一が帰宅していた。
 その顔を見て嬉しさと安堵感で抱きつきそうになったが、何とか持ちこたえた俺は、自室へ転がり込んだ。
 その晩は4人で団欒を楽しみ、翌日、両親が和佳子さんの実家へ寄って、ストックホルムへ帰るという事になり、送り出す。
 お別れの挨拶をして玄関の扉が閉まると、肩の力が抜けたのが、何だか眩暈がした。
 隣で一緒に見送りをしていた慧一が俺の様子に気づく。
「…どうした?凛」
「うん…なんか…疲れからかな…ちょっとだるくて…」
 朝から喉が痛かったし、熱っぽいのもわかっていたが…
 慧一の手の平が俺の額を覆う。
「…熱がある。凛、なんでもっと早く言わないんだ」
「だって…あの人たちに心配させたくなかった」
「バカっ。親に気を使ってどうするんだ。いいから、早く寝なさい」
「うん」

 パジャマに着替えるのも億劫だったがなんとか着替えてベッドに潜り込んだ時は、もう頭痛と悪寒が全身を覆っていた。
 ガタガタ震えていると慧一が体温計とポカリを持ってベッドの端に座った。
「ほら、熱測って」
「うん…」
「いつからきつかった?」
「昨日あたりから、なんとなく…温泉に行ってただろ?ふたりだけにしてやった方がいいかなって、結構長風呂してたんだよね…だから、体力使い果たしちゃったのかも」
「温泉に行って風邪引くんじゃ、湯治の意味がないじゃないか…8,6分?ただの風邪じゃないんじゃないか?インフルエンザなら病院に行ったほうがいいな。救急なら開いているだろう」
「いや、インフルじゃないと思う」
「?」
「インフルは12月に罹って、病院へ行ったからね」
「…独りで?」
「当たり前だろ?誰が看てくれるんだよ」
「…恋人は?」
「それこそうつしでもしたら大事だよ。…大丈夫だよ。ひとりで寝込むのは、慣れてるから」
「…」
「皮肉じゃないよ。いいんだよ。寂しくても兄貴がちゃんと俺を思ってくれるのはわかっているから…」
「うん…でも今は我慢しなくていいからな。俺が傍についているから、甘えていいよ、凛」
「…う、ん…」
 寒気が襲ってそれ以上話せなくなった。
 慧一は部屋を暖め、寒いといえば何枚も毛布を重ね、熱くて汗を掻いた俺の身体を拭いたりと手を尽くして看病してくれる。
 その間、俺はあんまり苦しくて意識が朦朧としていたから、変なことを口走ったかもしれないが、気がつくと慧一が俺の手をしっかりと握り締めてくれていた。
「大丈夫だよ、凛。俺がここに居るから、ずっと傍に居るから…」
 呪文のように繰り返す慧一の声が、折角決意した誓いを忘れてしまいそうになる。
「慧…愛してる…」
 聞こえなければいいな、と、願いながら言葉を返す。

 日頃の不精な食生活が祟ったのか、平熱に戻るまで丸三日間かかった。さすがに体力も果て、三日目には何キロも体重が減った気がした。
 慧一の方も俺の看病の所為か、顔色も良くない。
「これで共倒れになったら、誰が看病してくれるんだろう」と、冗談めかすと、夏みかんを剥いては俺の口の中へ入れてくれる慧一が手を休めて、しばらく考えて言う。
「そうだな…老人の孤独死とまではいかないが、病気の相手を看取って、そのまま手を握り締めたまま自分も死んでいく…そういう夫婦の話もあるしな。だが、それは見方を変えると幸せなのかもしれない。愛を貫き通したとも言えるだろうね」
「慧と一緒に死ねるんだったら俺は本望かな」
「くだらないことを言うな。おまえは死なないよ。少なくとも…俺は心中なんか願っていないし、凛に看取ってもらおうとも思っていない。もちろん凛が早く逝ってしまうのも嫌だよ」
「…」
「凛は…俺がいなくても、最高の幸せを掴むんだよ、きっと」
「…それが、慧の本当の望みなの?」
「…ああ、そうだよ」
「…」
「全部剥いてあげたから、後は自分で食べなさい。ビタミンCは体力の回復を早めるからね」
 部屋を出る慧一が何を考えているのか、俺は理解したくない。
 ただ、目の前の綺麗に剥いた夏みかんの実をゴミ箱に捨てた。

 風邪も長引かずに元気を取り戻したが、別段やることもなく、冬休みも終わりに近づいていた。
 慧一はどこへも行かず、家事や俺の世話に明け暮れている。
 どこか旅行に行くなり、遊びに行ってもいいと促すのだが、家でのんびりしている方が休暇になると取り合わない。
「それよりおまえの方だよ。恋人をほったらかしにしてていいのか?初詣ぐらいしておけよ。今年は受験もあるだろ。真面目に神頼みでもしてこいよ」
「勿論、行くさ」
 ミナは明日にはこちらに帰ってくる。そしたら去年と同じように一緒に初詣に行くんだ。

 その夜、風呂上りの後リビングで髪を乾かしていた俺は、ドライヤーを返す為に脱衣所へ向かった。
 丁度慧一が風呂から上がったところだった。
 彼はスウェットを着ていた。
 慧一は俺を見ると少し顔を顰めた。
「凛。まだ病み上がりなんだからパジャマでウロウロしてるんじゃないよ」
「髪を乾かしていただけ。すぐ休むよ」
「おまえはすぐに誤魔化すからな、当てにならない。どれ、もう熱はないか?」
「…」
 慧一の手の平が俺の前髪を払い、すぐに口唇が俺の額に充てられた。
 慧一にしてみれば…その行為は昔からの…幼い頃から慧一も梓も俺の額や頬に口唇を当て、熱を測っていたから…別段気にしない動作だったのかもしれない。
 だが、俺は…
 慧の口唇の感触を額に感じた瞬間、俺の身体中の血が逆流した…
 なんだ?
 これは…
 身体中が焼け付くほどに熱く沸き起こる、この感情は…

 口唇を離した慧一の手が俺の頬を軽くなでた。
 その手を捕まえた俺は俯いたまま、慧一の手の平に、自分の手を重ねた。
 慧一の身体がビクッと震えるのがわかった。
 俺は、強烈に慧一に欲情している自分自身を感じていた。

 重ねられた慧の手の平が僅かに震えているのが俺にはわかった。
 俺は慧の下腹部に手を置き、スウェットの上から慧自身に触れてみた。
 慧のペニスは固く勃起していた。
 慧の欲情した高ぶりが何を意味するのか…
 何度も瞬きをする度に俺の頭に走馬灯のように駆け巡る記憶…
 散らばったピースが音を立てて嵌め込まれていく。
 そして…絶対的な答えを導き出した。

 慧は…ずっと…ずっと俺を…欲しがっていた…抱きたかった。
 自分のものにしたかった。
 俺を犯し、自分に縛り付けておきたかった…
 そして、その愛ゆえにその熱情のすべてを…俺の為に、彼は…

 俺はゆっくりと顔を上げ、こわばった慧一の顔を見つめた。
 彼の瞳は怯えと欲情の炎に揺れたまま、俺を映し出していた。
 彼の塞がった口唇が戦慄きながら少しだけ開き、赤い舌が見えた。

 それは確信となる。
 慧一はずっと俺を求めていた。
 その事実は嫌悪や不浄や低俗なエゴイズムなど微塵も感じない、俺にとっては敬意すべきものだった。

 彼のものになりたい。
 彼とひとつに結びつきたい。
 どんな罰を受けようともかまわない。
 だが、確かなことがある。
 この「愛」に背徳の意味などそぐわない。
 俺達は「真の愛を求めている者」なのだ。





慧凛3


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さて、ここで凛一編は一旦中断。
慧一編へ移ります。
体育祭の頃へ戻りますので~

この後がどうなるのかは、慧一編で…

宿禰凛一編 「Swingby」 20 - 2010.03.03 Wed

20、
 慧一への想いは兄を慕う心、そう決めた俺は、少しずつ強固にするため、週2,3回はやり取りしていたメールを週一回に減らしたり、寂しくなったら即掛けていた電話も極力控えるようにした。
 そして、すべての恋慕をミナへ向けるようにした。
 ミナは箱根から帰った途端、あれほど薦めても頑なに断っていた美術部へ入部し、毎日通い続けている。
 聞くと箱根の風景を油彩で描いていると言う。
 「出来上がったらリンも是非見て欲しい」と、誇らしげに言うものだから、俺も楽しみにしていた。

 12月も半ば、慧一から久しぶりに電話が掛かってきた。少し緊張しながら携帯を耳に当てる。
「凛一、元気か?」
「うん…元気だよ」
「そう、か…」
「なに?」
「…実は…俺が助手をさせてもらっているブライアン教授は知っているよね」
「うん、知ってるよ」
「彼の研究に少し時間がかかりそうなんだ。クリスマスには間に合いそうにない…ゴメン、凛。帰れるのが年が明けるかもしれないけど、そしたらいつもより少し休日を貰えそうだから…」
「わかった。父さん達も帰ってくるし、俺は大丈夫だから、心配しなくていいよ」
「うん、クリスマスにはカードを贈るよ」
「楽しみにしてる」
「凛…」
「なに?」
「…迎えはいらないから、ね」
「…うん」
「じゃあ」

 電話の向こうの慧一の顔を思い浮かべないように努力した。
 声だけで慧一の匂いを感じていた。俺を抱いてくれる腕の強さを身体が覚えてしまっている。
 慧が恋しい。
 望んでは駄目だってわかっているのに。
 …大丈夫だ。5年前とは違う。
 仲違いするわけではない。
 慧一はずっと俺の兄貴でいてくれるんだから。

 翌日、ミナにクリスマスの予定を聞いた。
「寮祭にはリンも来てくれるんだろう?」
「勿論。それが終わったら俺ん宅へ来ないか?今年は兄貴も居ないし、ゆっくりふたりで過ごせるよ」
「お兄さん、帰ってこないの?」
「うん、仕事で帰国するのは正月になりそうなんだ」
「そう、じゃあ、俺も実家に帰るのをちょっと伸ばそう。リンとふたりでクリスマスなんて、すごくロマンチックだね」
「キャンドルの灯りだけで床の上でセックスしようぜ。床暖房だからあったかいし後の掃除も楽だし」
「な、んでそんなに具体的に言うんだよっ!リンのどスケベ」
「だって、ミナをめちゃくちゃ愛したいんだもん」
「う…」
 口をへの字にして顔を赤らめるミナを抱いて、聡明な額にキスをする。
「プレゼント忘れるなよ」
「…わかってる…けど…」
「どした?」
 いつもなら恥ずかしがりながらも甘えて身体を摺り寄せるミナが、よそよそしく体を躱した。
 何だか元気のないミナに原因を聞いた。
 熱心に描いていた箱根の風景の油絵が県の芸術展に入選したのは知っていた。
 喜んでいるのかと思えば、気が滅入っていると言う。
「リンを描きたかったのに…人目が気になって描けなかった自分が情けない」と、言う。
 そうやって何の非もないのに自分を責めているミナが、とても愛おしくなった。
 こいつの魂はどこまでも自分に真っ正直で誤魔化し方を知らない。
 俺の方がよっぽど…

 都合のいい事をさも偉そうに並び立て、俺はミナを思いどうりに動かしている。
 ミナの優しさや心根の美しさを利用して、俺の寂しさを紛らわす為に、俺は彼を利用している。
 …違う、そうじゃない。俺はミナを愛している。
 他の何にも変えようもないほどに、彼を愛し、守りたいと思っている。
 二人の歩く未来が同じ道であればいいと願っている。

「リン、好きだよ。おれ達ずっと一緒にいられるよね」
「勿論だよ、ミナ」
 ミナの疑うことを知らぬ澄み切った瞳に映る俺は、不実な顔をしてはいないだろうか…。


 24日、クリスマスイブ。
 ヨハネ寮での寮祭が終わり、ミナと一緒にマンションへ帰った。
 ミナからのクリスマスプレゼントは数枚のカテドラルの印画紙と、ミナが描いた俺の絵だった。
「去年、リンから貰った色鉛筆で、リンの顔を描いてみたかったんだ。あんまり似てなくて…自信はないけれど…貰ってくれる?」
 照れくさそうに上目遣いで見つめる目が不安げに揺れている。
「…なんか自分の絵って照れるし、俺ってこんなイイ男じゃないけど…ありがと。美形に描いてくれたんだな」
「いや、本人の方が数倍綺麗なのは判っているんだが…おれが巧く描けないだけなんだ…ゴメン」
「…」
 意味なんて深く考えずにさらっと恐ろしい事を言う奴。こっちが恥ずかしくなる。
 あわててこちらが矛先を変える。
「写真の方も…高かったろ?印画紙じゃん」
「うん、書店を何件も回ってみたよ。でもリンの好きな写真とおれの好みは似ているから迷わなかった。気に入った?」
「勿論だよ、ありがとう。俺の方は…コレ」
 俺は用意していたカバンをミナの前に出した。
「野外用のイーゼル。屋外でスケッチするのに持ち運びができる携帯用のかっこいい奴を画材屋で見つけたから、ミナにプレゼントしたかった。これなら、でかいリュックは要らないだろう?」
「…ありがとう、リン。でもこれで当分絵を描くことから逃れられなくなってしまうよ。来年は受験生なのに」
「勉強の合間にやればいいさ。ストレス解消は大事だろ?」
「別に…リンがいれば…ストレスなんてないもん」
「あ、今誘ったろ?すげえやりたい顔した」
「し、してない!」
 頬を膨らますミナを抱き寄せ、愛していると囁く。

 こわばった身体が柔らかく俺の身体に沿う頃、俺たちは聖夜の愛を誓った。




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rinniti
↑ミナの描いた絵。


宿禰凛一編 「Swingby」 19 - 2010.03.01 Mon

19、
 何かの記憶を思い出そうとするたびに最初に現れるのは慧の姿だった。
 俺のすべてを包み込んでくれる優しい眼差しだった。
 梓が死んだ時、俺は生きる意味を失った。だけど慧は俺を必死で生かそうとした。だから俺は生き延びることができた。
 堕落した俺に嫌気がさしてアメリカに行っても、俺を守るために帰って来てくれた。
 一生俺を守ると言ってくれた。
 その言葉を俺は信じている。
 でも…
 嶌谷さんの言うとおり、いつまでも慧一に依存していてはいけない。
 慧を俺を守る保護者から解放してやらなければならない。
 俺は、慧が欲しい。慧といつまでも恋人のように一生離れずに生きてゆきたいと願う。
 でもそれが慧の自由を奪い、重荷になるのなら…俺がいつまでも甘ったれのガキでい続ける原因であるのならば…俺たちはお互いの距離を取らなきゃならない。

 俺は、慧一以外の愛する者と生きる道を歩んでいかなければならない。
 もしくは独りで生きていく…そういうことだ。

 十一月、学校の休日を使って、ミナと前から予定していた箱根へ一泊旅行に出かけた。
 慧一から貰った旅行券だった。
「リンと箱根へ旅行なんて…なんか夢みたい」
「どうして?」
「リンにはわからないだろうけど…好きな人と一緒に旅行なんて…おれには想像できないことだったから」
 そう言って顔を赤らめるミナがかわいくて愛おしい。
 この人を守りたい、傷つけたくない…だけど…
 いくら慧一への愛とは資質が違うとは言え、比べてしまう。
 関わってきた年月が違うんだから当たり前だけど…
 慧と同じ年数だけミナと生きていけたなら、慧と同じ重さの愛情に変わるものなのだろうか。

 小涌谷の旅館に着いた。
 離れの部屋ってこともあり、ミナはここへ来るまでの道のりよりもずっとリラックスしている。
 部屋に付いている露天も素晴らしく、夕食も大満足で心から喜んでくれている。
 俺はミナの笑顔に救われている気がした。
 そして思う。慧一もこんな風に俺を愛してくれていたのだろう…
 それがどんな形の想いであろうともかけがいのない愛情だった。
 俺の為に、持ちうるすべての愛情を注ぎ込んでくれた真実の愛だった。

 広縁の椅子に座って湯上りの熱を冷ましながら、ミナと懇談する。
 俺の性体験の事を強請られたところまでは良かったが…
「慧一さんとは、寝たことあるの?」
「え?…」
 ミナの突然の言葉に俺は一瞬言葉を失った。
「寝たって…セックスしたって事?」
「…う、ん」
「ないよ。慧とはキスもハグもベッドで一緒に寝たりもするけど、セックスはしていない。何故なら…兄貴にはその気がないからね」
「…そう、なの?」
「俺が必死に誘ってもそういう気にはならないらしい」
「あんなに…リンのことを愛しているって…おれでも感じるのに」
「…兄弟だったら普通はセックスはしないもんだろ」
「そりゃそうだけど…」
 
 そう、普通の兄弟なら、兄弟愛なら肉欲なんて感じないはずだ。
 俺だって…今までは慧一を性欲の対象として深く考えた事はなかったんだ。
 だけど、気がついてしまった。俺は慧一を欲しがっている。慧一とセックスをしたい。慧一と繋がりたい。
 慧一は…慧一はどう感じているのだろう。
 俺を抱きたいと感じだことはあるのだろうか。
 彼の愛情がただの弟へ注ぐ好意とは思えない。それはいつだって感じていた。
 もっと深く大きく…そして…
 駄目だ。
 ミナといる時は慧一の事は忘れよう。
 ミナは敏感に感じ取るだろう。俺が違う男の事を考えている事を。
 ミナは恋人として不足のない男だ。
 俺は、こいつと歩いて行きたいと願っている。
 だから…
 忘れなきゃならない。

 その夜、俺はいつもより一層激しくミナを抱いた。
 ミナの喘ぎが嬌声に変わり助けを求めても俺は責め続けた。
 俺の名前を呼ぶミナに応えるように、俺はその様々な耳元へ心地よい言葉を浴びせ続けた。
 ミナを俺に繋ぎとめておかねばならない。
 俺が慧一と離れても心が挫けぬ為に。
 …ミナだけは俺から離れてはいけない。
 もっと…もっと俺を求めろよ、ミナ。
 俺が慧を求めなくて済むように…
 頼むから…


 翌日、俺たちは箱根の観光名所を楽しんだ。
 おおっぴらに手を繋いだりするのをミナは嫌がる。
 当たり前だ。男同士の恋人なんて、通常の概念じゃ差別されて当たり前だ。
 俺は彼が望まなければ離れて歩くのも構わないんだ。
 ミナは俺と違って、とてもノーマルな神経を持っている。自分が差別されるのはプライドが許さないだろう。
 ミナのその自尊心は水川青弥という人間の本質であるから、俺はそれを否定する気は全くない。
 だがそのプライドを捨ててまで、ミナは俺を愛してくれている。だから…この恋を余計に大切にしたいんだ。

 夕方近くに仙石原に着いた。
 黄金の雄大な波がざわざわと音を立て、キラキラと輝いている。
 丁度、落日だった。
 目の前の山に夕日が隠れる寸前、辺り一面が赤く燃えた。黄金の波が赤く映え、燃えるような空が一日の別れを告げた。
 その輝く空と反するように一層昏い色を落とす山の影に、俺は慧一の姿を重ねてしまった。
 彼は…俺を支える為にいつだって自ら輝くことを求めてはいなかった。
 一日中空を回る太陽を見守り、夜になるとその身を抱かせる。
 あの夕日に沈む山が慧一なのだ。
 俺はいつだって慧一を束縛してきた。
 俺の傍から離れる事を許さなかった。
 俺だけを見つめるように仕向けてきた。
 
 慧一の幸せを、一度たりとも真剣に考えた事があったのだろうか?
 俺は…
 
 太陽が沈んだ後も辺りはまだ輝きの恩寵を受けていた。
 頬を伝う涙を拭いた俺は慧一との決別を心に科した。
 慧一が欲しい。
 慧一を愛している。
 だけど、それは心の中だけで想う秘めた愛。
 決して報われることもない禁断の愛。

 俺にはミナがいる。
 そして、振り向いた先にはミナがいた。
 俺のミナがそこに居てくれた。

 人の目も気にせずに俺を抱き締めるミナを、より強く抱き寄せた。
「リン、おれ絶対忘れないから。リンと過ごした時間を。この瞬間を心に留めておく」
「ミナ」
「おまえを愛してるんだよ、リン」

 俺を愛し、そして救ってくれるミナ。
 おまえだけには絶対に、こんな虚しさなんか与えたりしない。







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