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2010-05

宿禰慧一編 「オレミユス」 20 - 2010.05.31 Mon

20、
 夕方、内定した会社から連絡を貰い、クライアントへのプレゼンテーションに参加しろと言う。
 二日後に行うからと急遽明日アメリカに帰ることになった。

 ひとりで適当に夕食を済ませ、明日からひとりになる凛一の食事を用意する。
 困った時の夕食のカレーとは俺たちの間ではよく使う合言葉だが、失敗がない分、重宝している。
 鍋一杯に作り置きをするが、ひとりで食べる凛一のことを思うと、胸が痛む。
 俺はいつだって凛一をひとりにしてしまう。
 置いていかれる辛さはわかっているのに、慰めてやることも出来ない…凛一を愛する資格なんてあるのかと、自分を呪いたくなる。
 しかも就職したら、日本で一緒に暮らすと約束しておきながら、それさえ違えてしまう自分が情けない。

 遅くなる事もなく帰宅した凛一の顔をバツの悪さにまともに見れず、カレーの鍋に集中しているふりをしていたら、凛一が身体を寄せてきた。
 その身体を受け止め、優しく背を撫でた。
「…どうしたんだ?凛」
「あっちに…帰るんだろ?」
「…」
 俺の肩に頭を載せたまま、そっぽを向く凛一がいじらしい。
 髪に顔を近づけると家とは違うシャンプーの香りがした。
 俺をこれだけ縛り付けておいて、自分は好き勝手に遊んでくるのか…憎らしいにも程がある。だが、これがなによりも愛おしい凛一なのだ。そして俺はこれを置いて行かなきゃならないんだ。
 この子に俺以外を求めるなと咎めることが出来るわけもない…

 この子は残酷だ。 
 俺の恋焦がれる想いを知り、それを受け入れながらも俺に罰を与えるかのように、他の男と寝ることが出来る。
 しかもそれは遊びではなく本物の恋だと打ち明ける。

 俺が抱かない事へのあてつけのつもりもあるのだろう。
 自身が情けないな。
 一番欲しがっているのは俺なのに、おまえを抱くことが怖いなんて…さ。

 しばらく会えないこともわかっているのに、その夜は早々にお互いの部屋へ引きこもった。
 愛し合っていても求め合っていても、タイミングと言うのはいつでも難しいものだ。
 昨日の今日なのに、まるで振り出しに戻ったかのように、背中を向き合っている。
 振り向いて抱き合うのは簡単なはずなのに…


 翌日、見送りについてきた凛一と出発まで会員限定のラウンジで過ごす。
 凛は人目も気にする事無く、俺の肩に凭れ、手を絡ませた。
 俺は気になってついいらぬ事を口走ってしまう。
「おまえ、恋人とも人前でこんな風に甘えてるのか?」
「え?ミナと?」
「…ああ」
「しないよ。ミナはシャイだし、人の目を気にするタイプだ。人目があると手を握るのさえ躊躇うからね~。だから街中でミナと居る時はできるだけ普通の友人のフリをする。俺はどうでもいいんだが、相手が嫌がることをしないのが恋人としてのモラルだろ?」
 モラルって言葉が一番似合わない奴が何を言う、と、俺は可笑しくなった。
「じゃあ…俺にはそのモラルって奴は当てはまらないのか?」と、言うと、凛は目をぱちくりと驚かせ,
「慧が人目を気にするタマか?人前でセックスするのも平気な性質(たち)だろ?」
「おまえにだけは言われたくないよ、凛」
 乾いた笑いで応えると、凛は顔を近づけ、
「俺は慧とだったらどこでセックスしても構わないけどね。誰が見てようとも平気だよ」と、言う。
 呆れて「育て方を間違えた」と、嘆くと、
「勿論慧一限定だ。だって生まれた時から俺はオムツからお世話になったんだからさあ、慧に何されようが俺は信頼を捧げて愛を誓うね」
「…口ばかり達者になりやがって…」

 それから凛一は志望大学を決めた事を俺に伝え、大学に入学した後、留学すると言う。
 俺は心臓の鼓動が少しずつ奮えを増していくのを止められなかった。
 留学するって…その意味とは…凛…
 夢から覚めるなと俺は目を閉じる。
 夢ではないと耳元で凛一の声が響く。

「慧…今まで慧は俺を追い求めてくれたね。だけど、今度は俺が追いかける番だ。忘れないでくれ…」
  凛の顔が近づき、俺の口唇が新たな奮えに歓喜する。

 このくちづけの重みと熱さは一体なんなんだ…
 積み重なった過去の欲望の重荷なのか、未来への果てのない熱望なのか…

…慧と共に生きていく…

 くちづけの正体など、俺にはわからない。
 だが、我が腕(かいな)に抱くこの愛する者を、俺は離すことなどできはしない。
 永遠に…




oremiyusu


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宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ
「ペンテコステ」1へ


凛一という呪いが囚われたまま生きるのが慧一。
だがその呪いはかくも高揚するものか、かくも味わっても味わっても飽きることのないしたたりなのか…
「オレミユス」終わり、次は…「ペンテコステ」
意味は…まあ適当に選んだが、そのうちに意味を為すであろう。
物語とはそういうものだ。

宿禰慧一編 「オレミユス」 18 - 2010.05.27 Thu

19、
 翌日、凛一は昼近くになってやっと起きてきた。
 ねぼけまなこで「おはよ」と、言う。
 「朝飯は食うかい?」と聞くと、うんうんと頷いた。
 なんとも愛らしい仕草で応える凛に見惚れた俺は、しばらく掃除機を止めて、寝ぼけた様を目で追った。
 凛はソファに腰掛けるとそのまま横に寝転がってネコのように丸くなる。
 昨晩ふたりで抱き合ったソファだ。
 凛がそれを覚えているのか聞くこともはばかる気がして、俺は切りのいいところで掃除機を片付け、凛の朝食を用意した。

 声を掛けるとソファで寝ていた凛は起き上がって頭を掻き食卓へ座る。
「いただきます」と手を合わせ、テーブルに用意した朝食を黙々と食べ始めた。
 今日は恋人と初詣に出かける予定だったはずだ。
 その事をわかっているのかいないのか、はっきりしないから思わず
「今日…初詣に行くんだろ?」と、声に出してしまう。
「…そうだった。昼飯一緒に食べる約束をしていたんだ」
 間の抜けた返事にこっちも気抜けした。
 この能天気めが。これじゃあ恋人の苦労が目に見える。

 玄関でハグを求めた凛を抱き、 なんとなく心持ち悪そうな様子の凛を送り出した俺は、リビングへ戻った。
 昨日の今日だから、さすがの凛も少しは後ろめたいのかもしれない。
 少々気の毒とも思えるが、より以上にもっと挫(くじ)ければいい、と薄情になる自分が可笑しかった。

 洗濯物も干したし、掃除も完璧。
 後は…いつ帰ってくるかわからぬ凛のためにカレーでも作っておくか…
 それにしても今日はいい天気だ。
 俺はさっきまで凛が寝ていたソファに同じように横になる。
 視線の先の硝子窓から澄み切った山が見える。
 昨晩はここで凛を抱いた。
 入れてはいないが、あれはセックスをしたようなもんだ。

 凛が俺に愛を誓ってくれたとしても、今現在つきあっている恋人との関係をチャラにしろと言う権利など俺にはない。当の本人が付き合いをやめるなどとは思っていないのだし、結局は本人達に委ねるしか無さそうだ。
 どっちみち、凛が高校を卒業して、日本の大学へ行くとしても、俺は傍についていることは出来ないのだから、頭ごなしに「別れろ!」とは、到底言えない。
 肝心な就職の事もまだ話してはいない。
 就職先は向こうでしばらくは帰って来れないと打ち明けたら、凛は怒るだろうなあ。
 …今頃…凛はあの水川と言う子と仲良くデートか。
 凛のことだ、昨日の腹いせにどっかのホテルで彼と抱き合うのだろう。
 あいつはそういう奴だ。
 恋人同士なのだから咎めることなどできようか…

 想像したら穏やかではいられない。
 嫉妬心が渦巻いて仕方がない。
「ちっ、かっこつけないで、抱いておきゃ良かったんだ。あれだけ欲しがっていたのに、抱かなかったのは一生の不覚かなあ~」
 腕枕で天井を仰ぎ、呟いても返事はない。
「梓…」
 俺はとうに居ない妹の名を呼ぶ。
「ついに凛の奴に一切合財白状してしまったんだ。おまえへの約束を破ってしまったけれど…告白してすっきりしたよ」
 天井のアールデコのシャンデリアは、梓のお気に入りで、前の家のやつをこちらに移したんだ。
「なあ、梓。おまえは怒るんだろうなあ。俺を許してはくれないんだろうなあ。だけど凛は…俺を受け入れたんだ。梓、おまえに凛は渡さないよ」

 俺の胸の中で俺を愛してると何度も言ったんだ。抱いてくれと懇願したんだ。
 あのしなやかな肢体を俺は受け止めたんだ。
 凛の白い肌、上ずった喉元、色を湛えた目、アレの感触が手に脳裏に張り付いて、思い描くだけで欲情する。
「俺は…凛が欲しいんだ。たまらなく抱きたい、入れたい。それが出来たなら、梓、おまえから殺されてもいい。俺は凛を犯したい…」
 自分の下腹部に手を伸ばし、凛を思った。
 きっと、今頃あの子とまぐわっているのだろう。
 快楽を味わっているのだろう。
 だけど、凛。俺はおまえに烙印したはずだ。
 それを忘れるなよ。
 凛、おまえは俺のものだ…

 セックスをしなくても、凛一を犯すことはできる。
 あれの中に俺を植えつけてやる。
 その種が育ってあいつのすべてを俺で満杯にするんだ…

「凛っ…」

 誰もいない昼間の部屋に響くのは、俺の喘ぎだけだ。

 


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妄想


慧はいつだって変態です。
おかしいのは慧のデフォですからな~
だが、こういう慧が大好きだ(;´∀`)
これから先は3人の視点をいったりきたり~かな~

新キャラ - 2010.05.25 Tue

次回は凛編「HAPPY」です。
凛は幸せになれるのか…
また「幸せ」の意味を凛が考える話でもあります。

「green house」は8割は終わっていますね。
あとは卒業へ向けて突っ走るだけです。
その後も続くんですが…(ミナは卒業してからの話が結構長いかも知れない)
今年中には終わらせたい。
何故なら…他のも書きたいのに、これが終わらないと頭が切り替えられないじゃあ~・・・(゜_゜i)タラー・・・

↓は新キャラです。
嶌谷さんの従弟の嶌谷(とうや)宗二朗さんですね。
このキャラは嶌谷さんと一緒に生まれたキャラです。
当時私は「蒼天航路」という漫画に凝っており、嶌谷誠一郎は惇兄、この宗二朗は曹操と考えてました。
いい奴か悪い奴かは…まあ話の中で。

嶌谷宗二朗

「蒼天航路」のキャラをひたすら描いていたおかげで、それまで描けなかったヒゲもおっさんも平気になりました。
やっぱり漫画に惹かれるということはとっても大事なんですね~

凛17,8歳、この時点で嶌谷さんは45歳、宗二朗は39歳ですね。…おっさんすぎねえか?(;・∀・)
まあ、商社の社長なんでいいか。
バイですね。結婚して子供もいるけど省みないwww
勿論男大好きです。どっちでも出来ます。
嶌谷さんが最初の男ですね。(嶌谷さんが大学生の時、成り行きで勉強を教えてた中坊宗二朗が迫って…(;´∀`))
仕事が生き甲斐なのですが、嶌谷さんには異常に執念深く手放そうとしません。
嶌谷さんが離婚したのも、裏でこいつがけしかけた所為でもある。
非常に表裏のある人です。

さて、こいつと凛がニューヨークで会うんですが…
…自分、ニューヨークなんぞ行ったことないんですがねwww…つかアメリカどこも行ってないwww
適当に書きます。適当大好きですからねwww
気になさらずに~

では、これから文章を考えますwwww



水川青弥編 「フラクタル」 1 - 2010.05.24 Mon

雨フリミナちゃん


フラクタル(全体と一部分は実は自己相似である)

1、
 新学期が始まった。
 最終学年、高校最後の年、そして受験の年。
 おれとリンは同じT大を志望している。
 リンは建築学科を受けると決めているのに、理系を選ばないでそのまま文系のクラスを志望した為、おれと同じクラスになる機会はゼロだ。そのわけを聞くと、今まで作った友人関係を崩したくないという事らしい。
 理系でも沢山友人は作れるのにと思うけれど、おれがとやかく口を挿むことでもない。
 リンのクラスの担任は2年に引き続き、藤宮先生だ。
 先生はリンの兄である慧一さんに、留守の間は自分の代わりにリンを見守ってやって欲しいと頼まれているそうで、リンもその事を承知している。
 慧一さんは大手のゼネコンに就職したが、日本にはおらず、拠点はニューヨークらしい。
 春休みにリンは慧一さんに会いに行っていた。帰ってきてもリンの様子に別段変わったところはなかった気がする。気がするだけで本当のことなんかおれがわかるわけがない。
 あの兄弟ならなにがあってもおかしくない。怪しめばそれが真実になる。なにがあってもなくてもリンが口を割らなきゃおれはなにも知らなくて済む。…そう考えることにしている。
 おれにしてみれば、これだって精一杯ポジティブな姿勢だと思うのだが…
 こんなに気を揉むのも、原因はリンにある。
 あいつの貞操観念は緩い。
 だとしても、恋人への守操義務は感じているらしく、おれ以外とはしてないと胸の前でさらっと十字を切ったりするけれど…あんまり信用してない。
 リンは傾国の麗人的な気色があるから、彼が誘わなくても向こうがほってはおかないんだろうなあ。
 だからリンが変な道に行かないようにおれはリンの重石にならなくちゃいけない。

 しかし、考えたらバカらしい話で、リンの方が上背もあるし(ここのところ益々身長差がついてしまった)、腕っ節もあの細身からと信じられないほどあるし(実際ふたりで夜街をうろついてて何回か絡まれたことがあるが、口でかわせない時はリンはあっという間に武道で相手を投げ飛ばした)おれがリンの心配をするのは全くの筋違いなんだが、とにかくリンが心配でならなくなるんだ。
 それと同時に寄り添ってくるリンが愛おしくてたまらなく、どう考えても立場は逆なのにリンを守らなきゃならないという気になってしまう。
 だから思うんだ。
 たぶん慧一さんはおれ以上にリンを守り愛してきた。そしてそれは今もこれからもずっと変わらないのだろうと…

 おれはおれに対するリンの愛情を疑ってはいない。というより、リンはおれに対して誠実だ。
 いつだっておれを笑わせ、喜ばせ、快楽を与えてくれる。
 おれが貰った分と同じだけ返しているとは思えないが、リンはいつだって「ミナが一番だよ」と、言ってくれる。
 勿体無い気もするけど、心底嬉しいのも事実だ。

 おれの身の回りの話をするならば、同室の根本先輩は卒業し、第一志望だった関西のD大学へ進学した。残された保井先生は健気にもその後を追い、今は京都の私立高校の先生をしている。
 たまに根本先輩からメールがくるが、「保井がしつこくて困る」と言いながらもまんざらでもなさそうだ。
 リンは「ネコには飼い主が必要さ。だが鈴を付けたって遊びまわるのを止めさせることは無理だろうね。去勢しない限り」などと笑っている。
 保井先生にしてみれば、笑い事じゃないだろうと思うけど、リンが先輩みたいじゃなくて良かったと思うのは、誰にも言えない本音だ。

 三年になってヨハネ寮のふたり部屋のルームメイトは三上になった。
 三上は宿禰の親友だし、おれとリンを応援してくれるからおれには都合がいい。
 お互いに恋人の愚痴を言い合ったりしている。

 おれとリンが恋人同士であることは、大部分の学生達が知るところとなってしまっている。
 ひとりで廊下を歩いていて知らない生徒から指を指されることもよくある。
 影で噂されていることも問い詰めなくてもわかる。
 内容はだいたい…リンにはおれみたいな奴は相応しくないということらしい。
 リンは特に下級生には圧倒的に人気がある。
 入学式や卒業式のたびに、リンは部の代表として詩を朗読するわけだが、それがいつも好評を博しているんだ。その所為か、リンが部長をする「詩人の会」の部員は例年より大幅に増えている。
 クラブの中で「宿禰凛一愛好会」なるものが非公式に作られ、日毎リンを崇拝する詩を作っているとかいないとか…どうでもいい噂が後をたたない。
 リンは「そんなに人気があるなら夜道には気をつけなきゃならないな。マジでストーカーに合いそうじゃん」と、本気とも冗談ともつかないことを言って笑っている。
「だけどみんな俺の前ではおとなしいもんだぜ。一応、俺のミナに手を出したらただじゃ済まないからな、とは脅しといた」
「いや…それは…大丈夫だろう。ここは進学校だし、結構みんな真面目だからさ」と、言うと、リンは腹を抱えて笑い出した。
「一番真面目な奴はミナだけどな。ついでに言うとお前は知らないだろうが、ミナを狙っている奴は結構いるぜ。注意しろよ」
「…まさか」
 こんな平凡なおれに誰が興味を持つと言うんだろうか。ありがたくない冗談だ。

 おれの担任は生物の藤内先生だ。
 おれは化学と物理を選択しているので直接教えてもらうことは少ないが、たまに生物準備室へ行き、自慢のコーヒーを頂いている。
 おれがリンと付き合っていることは知っている様子だが、それについては一切触れてこない。おれにとっても都合のいいことだし、そういう話題をしなくていい空間が居心地良く、つい長いをしてしまう。
 リンには散々「藤内先生には気をつけろよ。おまえに気があるのがみえみえだ」と、言う。

 3年になっても時間があればおれ達は陽が落ちるまで温室で過ごす。

 温室の管理担当の藤内先生からは、表向きは温室の植物の世話役という名目を貰っている。先生はおれ達がここで何をしているのかも知っているのかもしれない。
 …想像通り、ロクな事はしていないけれど…
「そんな言い方失礼だよ。先生は生徒としてしかおれを見てないよ」
「俺はあの先生は苦手だ」
「どこが?」
「なんて言うか…敵意を感じるね。というか、嫉妬だな」
「え?」
「ミナをものにしちまったからさ。嫌われてるんだよ」
「…」
「俺はこう見えて案外敵が多いんだぜ?見てくれがいいとそれだけでやっかむ奴も出てくるしな」
「そういう態度が無駄に敵を作るんじゃないか。それにリンは外見だけじゃないし…中身も綺麗だもん」
「…それ甘えてるの?」
「違うよ」
「あんまりかわいい顔するなよ。特に、藤内の奴にはそんな顔見せるな。襲われるぞ」
 背中からぎゅっと抱きすくめられ、首筋にキス。一瞬息が止まる。
 温室の窓を開け放っているから、外から覗かれないようにおれ達は温室の隅でそっと抱き合う。
 植物の青臭さなのかおれ達の臭いなのかわからなくなるほどに、お互いを求めては絡みついて離さない。
「ミナ、愛してる…」
 吐息まじりに耳元で囁かれると、未来なんてどうでもよくなる。
 身体を回して今度はおれがリンを求める番だ。
「おれも…リンが…好きだよ…愛してる…」

 3年になってもおれ達は温室と言う閉じられた空間で甘い蜜を味わっている。

 まるでとり残された巣窟だ。せめて秘密の楽園と言えよ。この温室は砂漠の幻の都だ。選ばれた者しか見えないし、入る事もできない。千夜一だ。懐かしいね。最初の頃を思い出す。リンの作り話はどれも胸が躍ったよ。格別だった。姫がお望みならいつだって語り聞かせますよ。…ねえ、リン。なに?千夜たってしまったら、その先はどうなるの?知らないのか?ミナ。王様と姫は仲むつまじく幸せに暮らすのさ。話が尽きても?勿論。その先は自分達で話を作るんだよ。千夜一夜の一夜っていうのはその先を意味すると俺は思っているんだ。それは、おれに語らせてくれないか?リン。…ああ、どんな話でもミナが語ってくれるなら…俺は傍にいるよ。

 アラビアンナイトが作り話だという事ぐらい、おれは知っている。



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時間の経過がどんどん早くなる~
そしてニューヨークに行った凛にとんでもないことが…起きる?(;^ω^)

…期待せずに待て!




水川青弥編 「焦点」 17 - 2010.05.20 Thu

17、
 長い正月が終わった。
 名残惜しそうな母親の姿にも振り返ることもなく、そそくさと鎌倉の寮へ帰った。
 翌日にはリンと初詣に行く約束をしている。
 年末に別れて一週間程しか経っていないのに、一刻も早くリンに会いたい。
 リンの顔を見たくてたまらない。
 キスしたい。それ以上のことも…
 禁断症状ってこんな感じなのかな。
 それとも本当に色きちがいになってしまったのかな…
 なんだっていい。
 リンが傍に居てくれれば、おれは生きている喜びを味わうことが出来る。

 翌日、初詣に出かける。
 リンと会った途端、「ミナの顔を見たらしたくなった」と、言われ、おれは自分の欲望を見透かされたんじゃないかとしどろもどろになってしまった。
 すぐに良く二人が使うホテルでわけがわからなくなるほどやった。

 リンはいつもと違って乱暴におれを抱く。
 普段はもっと気を使ってくれるのにと、少し不安になった。
 病み上がりの所為か体力の消耗はリンの方が酷くて、終わった途端、おれの身体に突っ伏して言葉も出てこないほどに呼吸を乱す。そのくせ少し元気になると、「ね、やろう?」と俺に笑いかける。
 おれが断れるわけがないことを知っているから癪にさわるけど、こっちだって負けないくらい欲しがっているから伏せ目がちになりながらも嬉しくて堪らない。

 今日のリンはおれを抱きながら何かに耐えているような顔を見せる。
 おれを見つめていても、本当はおれを素通りして見えないものと対峙している…そんな気がしてならない。
 おれはリンに対して何か崇高なものを感じてしまうことが稀にある。
 背中の羽は見えないけれど、リンは少しだけ人間離れしている。それがいいか悪いかは別にして、やはり彼は特別な者なのだろう…(彼の外見を見て判断する多くの奴等をおれはバカにしているが、実は彼の真実を見ぬいているのかもしれない)
 一体全体何故リンみたいな奴がおれのような平凡を絵に描いた男を選んだのかは、未だにわからない。
 リンは「俺がミナを選んだんだ。ミナだって俺を受け入れてくれた。それは奇跡とも言えるし必然とも言える。だけど恋はロマンチックの方がいい。ならば深く味わって酔ってしまおうよ。よりファンタステックに…」
 その顔じゃなきゃとても言えない台詞だ。
 口からでまかせのところもあるお調子者のリンだから、おれも全部が全部信じてはいないけど、彼のおれへの愛情は本物だと…そう信じることが出来るから、おれも繋いだ手を離したくない。
 恋は期間限定と誰しもが言う。
 もし、リンの愛情が冷めたら、おれはどうしたらいいのだろう。
 泣き言を言って困らせるのか、一生恨んでやると罵るのか、かっこつけてお互いに楽しんだよなと握手をして別れるのか…
 別れの場面などおれには見当もつかない。

 ベッドの中、裸のまま寄り添っている。
 ついこの間まで酷い高熱で大変だったんだと愚痴るから、てっきり家族と一緒だと思っていたが、ご両親は居なくて、慧一さんがずっと看病してくれていたのだと言う。
 それを聞いた途端、今まで感じていたリンへの愛情が変な気持ちへ変わってしまった。
 無論愛ゆえの嫉妬に他ならない。
 おれにとって慧一さんは鬼門だ。
 体育祭の時のあの人のリンを見つめる横顔を見たときから、おれにはあの人がリンをただの弟としての愛情ではなく、恋人として…リンを欲しているのではないかとの疑念が、時間が経つにつれ確信となりつつある。
 おれは慧一さんを近くで見たことも話したこともないけれど、あの人が心の底からリンがおれと付き合っていることを祝福しているとは、到底思えないんだ。
 どう考えてみてもあの人にとってリンは特別な存在であるはずだ。
 リン自身がそれを言う。
 いつだって慧一さんに対する恩や愛情を恋人のおれに余す事無くなく見せつける。
 それほどまでに兄弟の愛情というものが厚いものなのかと、兄弟のいないおれは初めは珍しがっては見たものの、どう考えてもリンと慧一さんの間には、兄弟以上の絆が見えてしまうんだ。

 リンと慧一さんの間に身体の関係があるとしても、それはそう驚く事でもない気がする。ありえると思わせてしまう。あの兄弟にはそれが違和感ともまた悪行とも感じさせない力がある。
 リンが真実欲しいものは慧一さんじゃないだろうか…
 おれは時折思ってしまう。
 だけどそれを問いただす勇気などあるはずがないじゃないか。
 もしそれを肯定され、おまえなんかいらないと言い出されたら、おれはどうすればいい。


 本来の目的の八幡さまに御参りした後、帰り道を並んで歩く。
 リンは一緒にT大学を目指そうとおれに言う。
 おれは突然のリンの申し出に言葉を失う。
 本当に?…本当におれと一緒に受験してくれるのか?
 心の底から舞い上がる気持ちは抑えきれない。
 さっきまでの不安な気持ちはいとも簡単に霧散する。
 それがおれへの形ばかりの優しさであったとしても…

 悲しみも喜びもいつだって、おまえがおれに与えてくれる。
 おれはね、リン…
 もうおまえから逃れられない囚人になってしまったんだ。
 だから、もう…
 おれはただおまえの一部分であり続けたいだけなのかもしれない。
 離さないでくれ。
 繋がれた手錠の鍵は失くしたままでいてくれ。
 ねえ、リン、お願いだから…



焦点…終 



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kousaku


ミナ編の次の章は「フラクタル」
幾何学の用語です。

夕暮れ天使が僕等を慰める理由 - 2010.05.18 Tue

放課後の温室

晩秋の夕日が
 
お互いの正体を隠し

夕暮れの天使が

背中合わせのふたりに

まだかまだかと急き立てる

心に潜む欲望は

最後の赤が消えるまで

そっと…

ただ、そっと…







※絵が夕暮れじゃなかった件…あはは(;´▽`A``

水川青弥編 「焦点」 16 - 2010.05.14 Fri

16、
 29日に世田谷の実家に帰りついたおれは、自分の家の色あせた雰囲気に唖然としてしまった。
 家が古いわけではない。リンの気配のないこの背景が恐ろしいほど味気ないものに感じてしまっているのだ。
 慣れ親しんだはずの自分の部屋だって、誰か知らない他人が居た様な気がする。
 両親は久しぶりに顔を見せた親不孝の息子を見て歓迎するも、それがおれの未来に対する重圧に感じてしまう状態は全く変わらず、あなたたちの投資する息子は同級生に入れ込んでいる色狂いの息子なんですよ、と、喉まで出掛かりそうになる。

 試しに芸術祭の特選を貰った賞状を両親に見せたら案の定手放しでは喜ばない。
 母親は形ばかりの褒め言葉を披露したが、親父の方は賞状を見もせずに「絵を描く時間があったら問題集のひとつも解いてた方が利口だ。いくら学年一位でも田舎の私立の話だ。世の中、頭の良い奴は腐るほどいるんだからな。ちょっとでも気を抜くと敗者になるんだぞ」
「…」
 一体誰と戦って敗者になるんだろう…その戦いになにか意味があるのか?…と、問いたい気持ちにもなるが、今更この人には無駄だ。
 昔、母親から聞いたことがあった。
 父の親父、即ちおれの祖父は美大生だったが学徒出陣で戦争に動員された。戦後、絵画を続ける余裕はなく、生活の為に中学の教師になったそうだ。それでも絵を描くことは止められず、暇があれば各地へ赴き風景などを描いていた。家の中でも祖父はアトリエで絵を描くばかりで、子供達の相手は二の次だったらしい。
 祖父との交流が殆どなかった父。。
 父がおれが絵を描くことを嫌うのは、自分を受け入れなかった祖父への恨みがあるのではないだろうか…
 
 夜、自室で落書きしていると母が入ってくる。おれは急いでスケッチブックを片す。
 母はそれを知ったか知らずか、コーヒーとケーキを載せた盆を机に置き、
「お父さんはああ言ってるけど、本当は嬉しいのよ」
「え?」
「青弥が特選を貰ったこと。こっそりひとりで賞状を眺めているのよ。素直じゃないところは親子似ているわね」
「おれは…素直な方だと思うけど…」
「親はいつだって子供の将来を考えてしまう。一人前になれるように、ひもじい思いをしないように、いい家庭を作れるように…なんてね。親の勝手な夢を押し付けてしまうものよ。でもそれを裏切っても恨んだりしないのも親だわね。青弥が幸せになるのなら、お母さんはどこの大学でもいいと思うわ。無理にT大を目指さなくてもいいのよ」
「…大丈夫だよ。無理はしてない。ちゃんと自分の為を考えて道を選ぶから心配しないで、お母さん。絵は…気晴らしに続けていくつもりだけど、ちゃんとT大に合格するから」
「うん…お父さんにそう伝えとくわね」

 部屋を出て行く母の後姿を見送りながら、どんよりとした気分になった。
 ああ言えば子供が気楽になるとでも思っているのだろうか。
 見せかけの優しさか本物かどうかが問題ではなく、当たり前のことをありがたく思えよとばかりに押し付けるのが気に入らない。
 おれはリンが母親を早くに亡くし、父親との関わりも少なかったと気の毒がったりしたが、真実はおれみたいなしがらみに縛られないで、楽に生きれるんじゃないかと思ったりする。

 正月なんかさっさと過ぎてしまえばいい。
 早くリンのいる場所に戻りたい。

 
 正月三が日が過ぎて下見でもしておこうとT大学近くの駅前をぶらついていたら珍しい人にあった。
 2年先輩の美間坂さんと桐生さんだ。彼らは寮の先輩でもあるし、おれは勉強を教えてもらったりもした。
 ふたりは恋人同士で、現在同棲しているらしい。
 美間坂さんは実家からの帰りだとかで迎えにきた桐生さんと合流したところだった。
「水川はひとりなのか?」
「はい」
「じゃあ、昼飯でも食おう。奢ってやるよ」
「でも…」
「真広が奢るなんて珍しいんだからご馳走になるといいよ」
「それじゃあ…お言葉に甘えます」
 おれの言葉にふたりともきょとんとして、顔を見合わせていた。

「水川は…変わったな~宿禰の所為だな」
「そう…ですか?自分ではあまりわかんないけど…」
「かわいくなった」
「昔は口を開くのも無駄みたいにそっけなかったからな」
「…愛想なくてすいませんでした~」
 頭を掻いて笑ったら、いきなり桐生さんが「か、かわいいなあ~」と、言い終わらぬ間にぎゅーと抱き締められた。
 頭ひとつ以上違う身長差におれは逆らえなくてじっとしていたら、美間坂さんがぶっきらぼうに「おれにもそのぬいぐるみを抱かせろ」と、桐生さんに呟いてた。
 おれはぬいぐるみか?…と呆れつつも、こうも容易く心を砕くことができるのなら、このぬくもりが優しいものであるのならば、おれはまだ色んなものを許していけるのだと思った。





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      ↓ショタ風ふたり~
syota


では、次回は来週~

水川青弥編 「焦点」 15 - 2010.05.12 Wed

15、
 寮祭のクリスマスパーティは二度目の事だし、おれも後輩の手前おどおどしたりはしないつもりだが、リンが傍にいると、意識をしなくてもこちらへの視線をやたら感じるから違った緊張感がある。
 最もその目線の目的はおれじゃなくてリンなのだが…
 後輩はおれに気を使ってか、おれがリンといる時は遠巻きに見ているだけだが、リンがおれから離れた途端、リンに近づいては話しかけたりしている。リンも無駄に愛想良いから後輩からのクリスマスプレゼントをもらってはニコニコしたり、頬にキスしたりと…あいつにとっては当たり前の礼儀を執り行っている。
 あいつは…そういうことを恋人のおれの目の前でやっても、おれが何とも思わないと思ってやっているのか、その逆なのかわからないが、どっちにせよ問題ありまくりだろ、バカ!

 ホールの隅のテーブルに盛られたバイキングのサンドイッチやオードブルを自棄食いしていると、寮生の三上が溜息を付きながらおれの横で同じように手持ちの皿にから揚げを取りまくっている。
「あいつは本当にモテていいよなあ~。親友の俺にも分けて欲しいよ」
「…男でいいのか?」
 このから揚げの油を口の周りにテカらせている宿禰の親友という三上はノーマルだったはずだ。
「別に男を恋人にしたいとは思わないけどさ、男でも女でも好かれるっているのは気持ちいいものじゃないか?」
「無駄な好意は疲れるだろう。おれはこっちが受け取れない好意は重荷になるだけだから、双方合意の上でって奴が気が楽だと思うけどな」
「まあ、人それぞれだろうし、その好意の種類にもよるだろうが、宿禰への好意って奴は憧れっていう部分が多いだろ?見ろよ、あの後輩どもの赤面した顔。ありゃファン集いの会だぜ」
「三上、あんまり言うと僻みを超えて自分が惨めになるだけだぞ。それじゃなくてもおれを見ろよ。一応、おれはあいつの恋人だぜ?なのに…おい、笑うとこじゃない!」
 から揚げをフォークに突き刺して笑い転げている三上の皿を取り上げた。
「いや、水川って見かけによらず面白いというか…おまえ性格変わったんじゃねえ?」
「ああ、誰かのおかげでゆりかごからたたき起こされたんだよ。行く道を迷うばかりだ」
「手を引っ張ってもらえよ、王子様から」
 先刻のロビーでの一件を見られたのだろう。さすがにあれは凍りついた。
 たまたま後ろにいた舎監の保井先生も口をぽかんと開けていたくらいだからな。
「…見てたのかよ」
「まあな」
 リンは全く動じもしないんだが、おれは顔を赤くしたり青くしたりで…正直肝の縮む思いだった。
「宿禰は見かけはああだし、色々心配だろうけどね。水川は自分が変わったって言うけど、宿禰の親友の俺から言わしてもらえばさ、宿禰も随分変わったって気がするよ。上っ面は変わらないけど、人に対する信頼感が厚くなったっていうか…優しくなった。きっと水川が宿禰を変えたんだと思う。恋愛ってお互いを感化しあうっていうじゃない。それがいい方向に育っていければ人間的に成長するんだろうね」
「三上は…成長してる?」
「俺?」
「うん、彼女とうまくいってる?」
 確かこいつが付き合っている彼女って、隣町の女子高のユミちゃんとか…リンから聞いたことがあったんだが…
「うん…あんまり会ってないかな…」
「なんで?」
「恋って沸騰してしまえばそれ以上温度が上がらないというか…話すもんがなくなったら沈黙が訪れる…水川はそんなことない?」
「おれ…たち?」
「うん」
「…」
 考えてみたが、ふたりでいる時に話のネタに詰まったことはあまりない。一緒にいたって黙って違う本を読んでいたりもするし、話が続かなくても気まずくなるなんてこともない。
 第一そういう事にお互いが気をかけていない。
「今のところは…ないかも」
「じゃあ、まだ大丈夫だな」
「まだって…」
「いつかは冷める…それが恋なのかもな」
「…」
 恋は期間限定なんて誰が決めたんだろう。
 おれとリンには期限なんてない。冷めたりしない、絶対に…

「あ、根本先輩だ」
 ホールのドアが開き、スポットライトを浴びた根本先輩がもったいぶった様子で入場する。
 余興と称して体育祭の応援団で来たドレスを身に着け、アイドルのような歓声を受けて手を振っている。
 それに合わせるように会場がリンと先輩のダンスをコールし始めた。
 リンは少し嫌がるフリをして、しょうがないなと頭を掻きながらホールの中央に立つ先輩の手を取った。
 そういえば去年は美間坂さんとリンは踊ったんだっけ…あの時は女性役だったけど、今日はネコ先輩を綺麗にリードして…そりゃ、体育祭の為に相当な練習をしてきたふたりだから息が合うのは当前だが…三ヶ月のブランクもひとつも感じさせずにふたりは一曲を完璧に踊りこなした。
 最後の口唇同士のキスも再現されて、拍手喝采の中、リンと先輩は仲良く抱き合っている。

 …いつもの事だから大目にみるけどさ…
 ああいう恋人だから諦めもするけどさ…
 リン、おれは聖人君子じゃねえぞっ!

 怒りが頂点に向かいつつあるおれを知ってかどうかはわからないが、能天気なリンはおれの方に駆け寄って飲み物をくれと言う。
 無視してやると「折角のパーティなんだから怒るなよ。見たくなかったら目を閉じてりゃいいんだ。どっちにしろ、これが終わったら俺はずっとミナのもんだからさ」と、耳打ちされた。
 弱いところを見破られてぐうの音もでない。

 ホールの明かりが暗くなってノスタルジーなクリスマスブルースが流れる。
 男子学生しかいないのに、何故か曲にあわせて何組かのペアが踊っている。
 頭を傾げているおれの手を取って、リンはホールの中央へおれを連れて行く。
 片手を繋ぎ見合わせて腰を軽く引き寄せる。
「リン!おれ、踊れないっ!」
 恥ずかしいのもあるけれど、本当にこんな社交ダンスみたいなのは無理だよ。
「身体を揺らしていればいいさ。俺に合わせてね」
「だけど…」
「ほら、頭を肩に乗せて…ね」
 リンに導かれるままにおれはリンの身体に寄り添うようにして、頭を擡げた。
 ゆっくりと回るミラーボールが薄暗いホールの床をキラキラさせている。
 リンに抱かれて身体を揺らせて踊っている自分が不思議でならない。
 本当にこれがあの水川青弥なのか?
 まるで水の中に漂うみたいに…時折呼吸が苦しくて…でも気持ちよくて…
 なんだか夢みたいだと笑うと「笑ったミナも怒ったミナも全部好きだよ。まさに俺たちは夢の中だ。お互いに夢中になっているんだ」
 そう笑ったリンこそ夢みたい消えてしまいそうで、おれはリンの背中を強く抱き締める。

 
 寮祭が終わった後、リンのマンションでふたりだけのクリスマスを祝う。
 お互いのプレゼントを交換しあった後、ワインで乾杯した。
 キャンドルを灯しただけの暖かいリビングでおれ達は抱き合った。
 まるで夢の続きをみているみたいに幸せで、ずっと終わらなければいいのにと思うけれどね…
 そのまま床暖房の効いた床に毛布に包まって寝ていたんだが、ふと目が覚めて抱き合って寝ていたはずのリンの姿がないことに気づいた。上半身を起こしてリンの姿を探した。
 暗闇に慣れた目がやっとリンの姿を見つけた。
 リビングの向こう…ベランダに続く硝子のドアからリンが見えた。近づいてそっと様子を伺う。
 リンはベランダの柵に凭れて空を仰いでいた。
 真冬の深夜なのに薄着のまま、じっと空を仰いだまま動かない。
 サンタクロースのプレゼントでも待っているのだろうか…
 …いいや、違う。リンが待っているのは、彼を最も愛する者達なのだろう。

 おれはリンを愛している。彼への愛は誰にも負けたくないと思っている。だけど、どうしても勝てない者がいる。
 リンの家族…亡くなっているお母さんやお姉さん、そして遠く離れてもいつもリンの事を思っているであろう慧一さん。
 愛してきた時間と重さはおれには到底敵わないものだ。だけど、おれは迷わないよ、リン。
 おまえが気づく時まで、おれはおまえを見つめ続けるんだ。
 そう決めたのだから。



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ツンデレ~

ミナの性格が変わったのは凛の所為じゃなくて、書き手が変わったことによると思うんだが…(;´▽`A``

本当はこの後も色んな会話をさせたかったが…長くなるので、省略…
この後はミナが実家に帰ってからお正月までだな~

省略した「魔笛」の話は紙芝居みたいにできたらいいな~
この「魔笛」の解釈は色々あるけど、自分なりに昔から思ってたことがあるから、それを絵にできたらいいな~
いつかね~
勿論タミーノが凛でパミーナはミナ。

モーツァルトのこの「魔笛」はとても面白いオペラなので一度聞いてみて。

水川青弥編 「焦点」 14 - 2010.05.10 Mon

14、
 おれにとって毎年のクリスマスなど何の思い入れもなかった。
 だが、それは去年から一変してしまった。
 リンと出会ってしまった所為だ。
 リンに出会うまでの16年間のおれの人生は単なるプロローグで、リンに出会って初めておれは自分の足で世界を歩き、見渡すことができるスキルを覚えたんじゃないだろうか…と、思えるほどに、平穏な日常に生きる喜びを至る所に見つけてしまっている。
 リンに言ったら、あいつはそれを鼻に掛けるに決まっているから言わないけれど、本当は感謝してもしたりないぐらいなんだ。

 リンの家族は晦日まで帰省しないらしくて、それをいいことにおれは、ぎりぎりまでリン宅で過ごすことにしている。
 リンと一緒にずっといられる。そう思うだけで、口元が緩んでしまう。
 同室の根本先輩はそういう俺を見て、意地悪く
「いつまで持つか楽しみだね~なんといっても相手に困らないリン君だからさあ~みなっちもそのうち…」
「うるさい!先輩の『飽きられるよ~』こそ飽きてますから。どうぞ、おれのことはほっといて下さい。先輩が卒業するまでは保証します」
「つまんないね~人の不幸こそが甘い蜜なのにさ」
「そういう先輩こそ、そろそろ本気で自分の幸せを考えた方がいいんじゃないんですか?もう卒業まで時間がないんだから」
「そうなんだよね~保井の奴が本気でぼくを愛してるのなら、ぼくが卒業して関西に行ったら…どうするんだろうね~」
「だろうねえ~って…人事みたいに。保井先生を本気で好きなら、こっちの大学にすればいいのに。私立だったら出願するのは今からでも間に合いますよ」
「やだね。なんでぼくが折れて志望校を変えなきゃならないんだよ。保井の方がぼくに夢中なんだから、向こうがぼくを追ってくればいいじゃないか」
「また、無茶なことを…」
 子供みたいに頬を膨らませて湯気を上げている先輩を見てると、ほっとけない気分になるんだろうなあ~
 おれには先輩の言い分が正しいとは思わない。思わないけれど、気持ちはわかる…
 誰でも好きな相手に対して自分は本当に愛されているのか、その重さを量りたくなるものだろう。
 おれだって…
 たぶんリンにはこんな気持ちはわからない。あいつは誰かに愛されているのかを疑うよりも、自分が愛する意味を考える性質だ。
 おれがリンに愛されているのを不安に思うのは、リンに対しての不信感ではなく、自分自身のコンプレックスなのだろうかとも一時期思ってはいたが、リンはそんなおれのコンプレックスも綺麗に取り払ってくれ、おれはリンと真正面で向かい合うことができるようになった。
 セックスだって…そりゃおれは受身だけど、リンと一緒に高めあう意義を感じている。どっちが上なんていうのは関係ない。
 お互いが対等であればこそ、混ざり方も美しい均等な勾玉の太極図を描く。

 それを描いてリンに見せたら、「ミナはこういう体位がしたいのか?」と、呆気に取られた。
 違うと反論したがすでに遅くて、その後は…言いたくない。
 大体どうしてあの図からこういういやらしいことを考えられるのか…リンの妄想力には閉口するが、リンは「おまえが願っているものが無意識におまえの描く絵になるんだよ。画家ってそういうもんだろ?」
 そう言われたらそうかも知れないと、おれはリンの為すがままにさせられてしまう。これっていうのはやっぱり対等ではなくて、上下関係大有りじゃないか…と、まさに時遅しとして思考するも、気持ちいいのが先行して、結局おれはまたリンに負けたと泣くことになるのだ。

 とは言え、リンとやるのは大好きなのでそれはいいんだ。
 問題はクリスマスプレゼントで、おれはどうしてもリンの絵を描きたくて仕方ないのだが、ひとりでこっそり描く時間も場所もなくて困っている。
 本当なら折角油絵も手になじんできた事だし、布のキャンバスにリンを描きたかったが、美術室でないと油絵は扱えない。美術部では人の目があり過ぎる。それでなくてもおれとリンが付き合っていることの他の生徒の好奇心とやらは、暇つぶしと思えないほどにしつこいんだ。
 どうしようと考え、去年リンから貰ったリンのお姉さんの形見の色鉛筆でリンを描くことにした。
 これならリンも喜んでくれるだろう。

 24日、寮祭に誘ったリンは時間通りにやってくる。
 寮祭は年に一度だけの学生寮のパーティで、寮生だけではなく、招待したい奴を呼べるし、何より先輩後輩関係なく無礼講で楽しめるお祭りなんだ。
 だけど招待された客はパーティと名を打ってあるからおめかしして参加する。
 学生服に見慣れているリンがたまに本気で洒落た恰好をすると、テレビで見るどのタレントよりもかっこよくてどきまぎしてしまう。
 リンは時折知り合いの写真家さんのモデルをやっているというが、それをやり始めてから益々オーラが威力を増してきたように思える。自分の見せ方を知っているというか…
 何気ない仕草も絵になる。
 と、言っても本人の認識はあまりない。あいつはそういう奴だ。
 自分が客観的にどう思われているのかを気にする方じゃないからな。それも自分への自信から出るものだろうとは思うのだが…
 だから、こういう時は俺は客観的な自分との差に…まあ、申し訳なく思うわけだ。
 それさえもリンは気づかない。
 大体…宿禰家っていうのは美形揃い過ぎなんだ。だから綺麗なものは当たり前で、それ以外は全部空気みたいになっている。
 一般の人が夕焼けが赤いと思ってもリンには赤という意味さえどうでもいいことになってしまうのだ。
 夕焼けは初めからああいうものだ…と、彼は認識する。

「メリークリスマス、ミナ。お誘いありがとう」
 真っ赤な薔薇の花束をおれに差し出しニコリと笑いかけるリンに、抱きつきたい衝動を抑えて平静を装う。
「気取りすぎてるのは好きじゃない…」
 いつもの天邪鬼の言葉もそれ以上は出てこない。
 だって、おれにはリンが…本当に物語から抜け出した王子に見えたんだ。
 
 それをぼそぼそと呟くとリンは「さしずめミナは白雪姫だ。王子のキスで目を覚ますんだろ?」と、寮のロビーでおれの口唇にキスをしたんだ。
 凍りついたのがおれだけではないことは、周りを伺わなくても背中で感じていた。






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ミナたん不思議?


今週は金曜日から旅行に行くのでもう一本書けたらいいなあ~と思っておりますが…(;´▽`A``

ミナになるのはなんか普通で楽になれるなあ~って、書いてて思った。

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