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2010-06

おっさんず - 2010.06.30 Wed

嶌谷(とうや)誠一郎と嶌谷宗二朗は従弟同士です。

シニアコンビ

上は誠一郎が放浪から足を洗い、宗二朗が買い上げたジャズクラブを誠一郎に任せ、開店した頃のフォト。

誠一郎…36才
宗二朗…30才

嶌谷さんは36にしては、色々苦労したからやつれてます(;´Д`)

現在の話が約十年後だから、こういう時代を考えるのも楽しいですな~


このCPはどっちもやります。
主導権は常に宗二朗ですが。

宿禰凛一編 「HAPPY」 8 - 2010.06.29 Tue

8、
 帰り道、車中での20分もかからない距離が長く感じた。
 お小言をもらう覚悟はできていたけど、宗二朗さんへの辛辣な中傷は黙っているわけにもいかなかったから、俺なりの反論はした。したつもりだが、慧の心配の元は俺の行動に他ならない限り、俺としてはどんなに正論を述べようと、結果が伴っていないことはわかりきっていた。

 アパートに着いて食事の支度をする慧を手伝ったりとするのだけれど、慧の機嫌は良くならない。
 すべてを正直に話すべきではなかったのかも知れない。けれど、話さなきゃ話さないで心残る種が出来る。
 挑発したいからではなく、ただまっさらでいたかった。
 俺は慧との間に隠し事を貯めてはならない。俺が何もかも委ねられるのは慧だけなんだから…

 向かい合って夕食時になって、慧がやっと口を開いた。
 慧は俺が傷心しているのを気遣ってか、宗二朗さんとのことは自分が俺をほおっていたからだと自戒する。

 …そうじゃない。慧はひとつも悪くない。彼は俺を心から心配してくれているのだから。
 俺が宗二朗さんに付いていったのも、宗二朗さんがああいう事をしたのも悪くない。
 だけど俺の存在や行動で慧が傷つくのなら、俺は慧一の傍にいない方がいいのかもしれない。
 だから、
「俺、できるだけ早く日本に帰るね。ここに居ても慧に心配かけるばかりだし、仕事の邪魔にもなるだろうから…」
「凛…」
 俺の言葉を聞いた慧一は思いもよらぬほどに酷く狼狽した顔をした。
 それだけでいい…それだけ俺を思ってくれるのなら、充分すぎるよ、兄貴…

 風呂から上がり、リビングを覗いても慧一の姿は見えない。
 やっぱり許しは早々にもらえそうもない。仕方がない。これ以上俺が傍にいたら、慧一は俺の心配と仕事に追われて、本当にストレスで寝込んでしまうかもしれない。
 俺としてはできれば、慧の誓いではなく、俺への『誓い』を欲しかったんだけどな…

 浴室で濡れるといけないからと外したペンダントを、首につけた。
「大丈夫だ。これくらいでへこたれるくらいなら、初めから慧一を選んだりしない」
 自分に言い聞かせて、携帯を取る。
 嶌谷さんと宗二朗さんへ、心配しないようにメールをした。ついでにと携帯で帰国の飛行機のチケットを予約しても空きがないと言う。
 キャンセル待ちを狙うか。

 することのなくなった俺は仕方なしにベッドに寝転び、灯りを消して窓の外を眺めた。
 窓の向こう、銀河のようにきらめく摩天楼を眺めた。ひときわ高く聳えるエンパイアーステートビルのイルミネーションが見事だ。
 もう暫く居たかったのだけれど…この景色も見納めかもしれない。
 
 ミナはどうしているだろうか…
 もう寮に帰っているんだろうか。
 新学期が始まったら受験一辺倒になってしまうんだろうなあ…
 俺も留学の為に勉強することは沢山あるけれど…
 どの道を選んで良いのか、どれが正解なのか…   
 俺にはわからない。
 ただ慧一の傍にいたい。
 それだけが揺るがない。
 揺るがないクセに俺はどこかでこれを選んだことを、痛みに感じている。
 ミナの所為だ
 俺は…ミナを泣かせてしまう。
 それが…とても怖いんだ…
 だから、慧に抱きとめて欲しい。揺るがない俺の誓いをもっと強固にする為に…

 微かにドアの開ける音がした。そちらに目を向けると慧一が立って俺を見つめていた。
「慧?」
「…ごめん、寝ているのかと思ってノックもしなかった」
「いいよ…ね、こっちにおいでよ。ここから見る景色は日本じゃどこもお目にかかれないほどに美しいよ」
 俺は慧を呼んで俺の隣に座らせた。自然と腕と腕が触れ合うようになる。俺は慧一の肩に凭れ窓の外を見るように指差した。
 
 ふたりで夜景を眺めながら俺は明日帰ることを慧に伝えた。すると、慧は「待ってくれ」と言う。
 俺は顔を上げて慧一を見つめた。
「傍に居て欲しいんだ」と、言う慧が、俺には少しはにかんでいる気がした。

 …不思議な夜だった。
 慧が俺を抱いてくれると言う。
 そんな夢みたいなことがあるのだろうか。
 執拗に俺たちがセックスをすることを恐れ、拘っていた慧一だった。
「凛…しよう」と、彼は言った。

 裸になった俺に重なる慧に「一度きりじゃないよね?これが最初で最後だなんて言わないでよ」と、俺は念を押す。
 慧は笑って、「そんなの、俺の方が持たないさ。おまえへの情欲は飽くこともなく、ただ溺れるだけだよ…」
 そう言って俺の口唇を貪るように口づける慧一は、今までの渇きを俺のすべてで満たすように激しく求愛する。



7へ /9へ
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傍にいるよ

宿禰慧一編 「ペンテコステ」 3 - 2010.06.25 Fri

3、
 明日は朝早くから出張で、エディソン近郊まで行かなければならなかった。
 クライアント依頼のコンセプトを申し渡す日に間に合わせる為、半月かけてマスタープランを煮詰めてきた。精魂かけて仕上げたものだから、先方の受け取り方も当然気になるところだ。
 だが、今、俺は仕事よりも凛一の方に目を向けなくてはならないんじゃないのか…
 建築デザイン設計は一生やり遂げたい仕事だ。俺自身の才能を広げ、どこまで行けるのか見極めたいと思う。
その傍らに凛一が居てくれるのなら、俺は死力を尽くしてそれに投じることができる。
 だが、果たして俺の傍に居ることが凛一の幸せなのだろうか…
 凛は…俺から離れて自分の道を探した方がより深い充実した人生を送れるのではないだろうか…
 凛一の事となると、俺は自分に自信がない。
 あれほど凛一を幸せにするという誓いも、今にも崩れてしまいそうに脆弱だ。

 深夜零時を回っていた。もう凛一は寝てしまったのだろうか…
 そっと寝室を覗いてみる。
 …真っ暗だ。
 窓のカーテンは開け放たれ、外の淡い明かりが部屋に仄かに白く浮き上がっていた。
 パジャマ姿の凛一は窓際に凭れ、片膝を抱いたまま、ベッドに座り込んでいた。
 闇に消え入りそうな青白い端正な顔立ちが凛一の持つ独特な儚げさと尊さを浮き上がらせる。俺はふっと溜息を付いた。こんな稀有な者を俺は疎かにしてしまっているのか…

「慧?」
 こっちを振り向いた凛一の顔が微かに笑った気がした。
「…ごめん、寝ているのかと思ってノックもしなかった」
「いいよ…ね、こっちにおいでよ。ここから見る景色は日本じゃどこもお目にかかれないほどに美しいよ」
 俺は凛一に近づいた。
 座っていた腰を少し引いた場所へと座り、凛一と共に外へ目を移した。
 ハドソン川の向こう、群青色に輝く白い月の光の下、摩天楼の夜景が見える。
「ここ、高台になってるからすごく眺めがいいんだね」
「そうだな。俺の部屋は角度が違っているから見えないし、この空き部屋がこんなに綺麗な夜景を見せてくれるなんて知らなかったよ」
「ね、これからこっちを慧の部屋にするといいね。仕事のストレスも少しは癒してくれそうじゃん」
「凛…」
「あ、さっき携帯で飛行機のチケットを取ろうと思ったんだけど、空きがなくてさ。キャンセル待ちになりそう。明日ケネディ空港に行ってみるよ」
 俺の顔も見ずに言う凛一に胸が痛む。頼むからそんな寂しげな顔はしないでくれ。

「凛、帰るのは待ってくれないか?」
「え?」
「傍に居て欲しいんだ」
「…でも、俺がここにいたら慧が…」
「おまえが好きだよ。とても大事だから近くにいると余計な心配もする。離れてりゃ何も知らなくていいことまで見えてしまう。正直日本にいてくれた方が楽だ。でも…それでは向き合ったことにはならないんだろうな」
「うん…わかるよ」
「俺は…凛と生きていきたいって願ってしまう。だけどそれは本当に正しいことかどうか…自信が持てないんだ…情けないけどね…」
 少しだけ笑う俺に、凛一は笑い返さず、俺の顔を両手で挟んでキスをする。そのまま俺の胸に頭を擡げた。その背中を緩く抱く俺に、より強く身体を摺り寄せようとする。
「…俺だって自信なんかないよ。慧はいつか俺に呆れ果てて捨ててしまうかもしれないってね…ほら、俺って気に入った奴となら寝ても構わないって思ってしまうからさ。それを罪とは感じない。よく顔がいいって言われるけど、それだって今だけだろ?歳を取りゃ腹も出るしシワもよる。美貌が特権っていうのなら、若いうち振りかざしておきたいね。後悔しないように…高慢かな?」
 俺の背中をしがみ付くように抱きしめる凛一は、低く呟く。
「…でもさ、本当は誰も俺を本気で欲しがったりはしないんだよ。俺をめちゃくちゃにしてくれる奴なんか誰もいない…別にマゾじゃないよ。そういう意味じゃない…もっとこう観念的なもの…俺はそれが欲しいんだ」
 凛は答えの見つからない自分が歯痒いのか、俺の胸の中で頭を緩く振る。
「なんとなく…わかるよ、凛。おまえの見目だけではなく、その奥の奥を突き破って宿禰凛一と言うひとりの人間を見極めて欲しい。綺麗なところも汚いところもすべて洗いざらし、さらって欲しい…違うかい?」
「…そんな感じなのかな…さすがは慧だ。よく判るね」
 顔を上げ、凛はいつもの笑顔を見せる。
「俺も他の人と同じように凛を壊すのが怖い。おまえがこんなに魅惑的じゃなかったら、美しくなかったら…恐れはしなかったんだろうね。近寄りがたい何かがあるからね、おまえには」
「だからみんな俺とセックスしたがらないのか…こっちはどうぞって言ってるのに」
「おまえはセックスはしてるだろ?恋人がいるクセに贅沢だな」
「ミナは俺をめちゃくちゃには出来ない。あれは俺に寄り添い俺に重なりあおうとする。俺は傷つかないようにそっと包み込む存在になりたいんだ」
「…」
「妬いてる?」
「まあな」
「慧が話をふったんだよ?…ホント言うとさ、俺、慧が欲しくてここに来たんだ。待つって言ったけど、離れていたらはやっぱり不安になる。言葉は貰っても俺はまだ慧に触れてはいない。想いは本当の形になんかならない。頭ん中だけで思い描いてもそれは妄想でしかない。俺は本物の慧一が欲しい」
「…俺に誓いを破らせるつもりなのか?」
「そんなの知らないね。俺は誓ってないもの…慧、怖くても間違っていても一歩踏み出さなきゃならない時ってあるはずだよね。俺が慧を欲しいって思うことは…間違っているの?」
 お互いに情欲の兆しは見えていた。こんなに求めている子を…俺はこれ以上ほおっておくことはできまい。すでに…俺の方が先に参っている。おまえを求め続けてどれだけひとりで慰めてきたかわからないもの…

「凛…わかったよ。しよう…どっちみち俺は最後にはおまえには勝てないように決まっているんだから…」
 俺はシャツを脱ぎ、凛の身体を静かにベッドに押し付けた。
「慧…いいの?ホントに?」
 凛一は驚きを隠せないままに目をぱちくりと開けたまま俺を見つめている。
「ここでおまえを抱かなきゃ、俺がいくら止めても明日帰るって脅迫するつもりなんだろ?」 
「…」
 凛は見透かされたのを恥じ入るようにそっぽを向いた。
「本当に…育て方を間違ったかも知れないな。死んだ母さんがなんて言うか…」
 凛一のパジャマのボタンをひとつひとつ外しながら、オーバーに溜息を吐いた。
 されるがままの凛一はゆっくりと俺の方を向く。
「全き正しく生きる者…母さんならそう言うに決っているさ…」
 そして俺の目を射落とすまなこで見据えた凛一は、迷うことなくそう言い切るのだ。
「…」
 凛の言葉に俺は心臓が鳴った。
 それは母親が俺に残してくれた言葉だった。
 「全き正しく生きる者。手の中の炎を消さないで」と、彼女は言ったのだ。
 母親の言葉など凛一が知るわけがない…

 もしかしたら母は、こうなることを望んでいたんじゃないのか…
 「この子を導いてね」と、眠る凛一を俺に渡した母の顔は…確かに聖母のように見えたのだ。




「ペンテコステ」2へ /4へ
宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ

ふたり…


そしてふたりは朝を迎えた…ってならないようにがんばろ~
日本サッカー勝ってよかったね。やっぱ日本人だからなんでも勝ったらうれしいよ。

宿禰慧一編 「ペンテコステ」 2 - 2010.06.23 Wed

2、
 すぐに嶌谷さんの教えてくれたホテルへ車で向かうが、こんな時に限って渋滞で進まない。
 苛立っても仕方のないことだが、どうにも嫌な予感ばかりが先行してしまう。と、携帯が鳴り始める。メサイヤだ。俺はすぐさま耳に当てた。
「凛か?」
『慧…ゴメン。連絡できなくて…ちょっと、色々あってさ』
 いつもと変わらぬ声を聞いて心から安堵した。
 大丈夫だ。命に別状がないのなら充分だ。
 俺はそう自分に言い聞かせつつ、指定のホテルへ急いだ。

 ロビーで暫く待ったが、我慢できずにのフロントで尋ねてもアポイントメントがないと相手の部屋も教えられないと言う。
 どうしてもと粘っていると「慧っ!」と、背後から凛一の声が聞こえた。
 直ぐに駆け寄って凛一に怪我などないか全身を眺める。当たり前だが無事な様子だ。
 それよりもこいつが、例の嶌谷さんの従弟って奴なのか…
 俺は凛一の傍に立つ男の様子を伺った。
 嶌谷さんよりも大分若くみえたが、どうして嶌谷さんよりも数段高い貫禄と隙の無さ、それに有無を言わさぬ威圧感。これがいくつもの会社経営を纏め上げているというトップに立つ者なのか。
 物腰は柔らかいが、こちらの隙を見つけたら今にも襲い掛かってこようとする猛禽類の目だ。
 こんな油断のならない男と凛一は数時間を過ごしたというのか…

 話術に長けた年長者に、土台俺みたいな若造が勝てるはずもない。
 食ってかかる言葉ひとつもでないどころか、怒りよりも相手への敗北感で一杯だった。

 帰り際助手席に乗り込む凛一の向こう側、ホテルのドア越しに、嶌谷宗二朗の姿がちらりを見えた。
 隣で凛一がにこやかに手を振る。
 思い切りアクセルを踏みこんだ。

 凛一は俺の様子を懸念してか助手席でおとなしく黙ったままだった。
 実はここに来る前から気になっていることがあった。
 嶌谷さんの電話だ。
 たかが凛一が従弟と出会っただけならあんなに慌てふためく必要はないはずだ。
 あの男から何か吹き込まれた、或いは見せられた…だから、嶌谷さんは慌てて俺に電話をくれたんじゃないのか…凛一にそれとなく鎌をかけてみる必要がある。
 赤信号で停止したのをきっかけに問いかけた。
「凛、あの人とは本当になにもなかったのか?」
「え?…なにもないよ」
「嶌谷さんはそうは言っていなかったぞ」
「そう…なの?」
「慌てふためいて俺に連絡をくれたんだ。凛一が大変な事になっているって」
「大変って…ただ、裸にされただけだよ」
「…」
 は?…裸にされただけって…一体どういう状況なんだよ…黙っていると凛一は悪びれずにべらべらと喋りだす。こうなると引っかかりやすいのも心配になってくる。 
 凛一は出会った時からの状況を事細かく話した。(正直殆ど聞きたくない内容だ。勿論嫉妬からきている)

「…でさ…宗二朗さんは嶌谷さんが俺を可愛がるのが気に入らないから、その腹いせに俺に睡眠薬を飲ませて、そんで俺の裸を写メしたのを送りつけたんだよ。かわいいもんだね、宗二朗さんも」
 ちょ…す、睡眠薬って…あの男、俺の凛になんてこと…って、それだけで本当に済んでいるのか?こいつの裸を目の前にして手を出さないって顔(ツラ)かよ、あの男…結婚して子供もいるって嶌谷さんは言ってたけど、バイなんだろ。凛一みたいな奴、いい獲物にしか見えてないんじゃないのか?

「バカっ!可愛いって言う話かよ。睡眠薬飲まされて…知らない間に裸にされて写真に撮られりゃ児童ポルノ禁止法での盗撮罪だ。強姦罪でも訴えてもいいんだからなっ!」
「そんなに怒らないでって…何にもされてないんだからさあ」
「おまえが気がついてないだけかも知れないだろう。おまえは一度寝たら何をされても起きないだろうが」
「そんなの…レイプされたかどうかぐらいはわかるよっ!宗二朗さんは初めから俺をダシに使うだけだったんだから。…宗二朗さんのことを悪く言わないでよ。慧だって、俺がミナと仲良くしてたら妬くだろ?意地悪したいって思うだろ?…俺だって、慧が他の奴らといちゃついてたらそいつを苛めたくなるもん…確かに宗二朗さんはやり過ぎの感があったけど…許してやってよ、慧、お願いだから」
「…」
 許すも何も…初めから俺はあの男に負けているんじゃないのか?こうやって嫉妬とコンプレックスに怒り狂っていることさえ、あの男は計算ずくなんじゃないのか?だとしたら、そんな思惑に乗せられている段階で俺の負けだ。
 
 何よりも俺は…凛一にとって絶対の者になりたいと思っているにも関わらず、自分よりも大きい人間を見ると凛一にとって俺よりはそいつらと居た方が凛一にとって幸せじゃないだろうかという疑念が疼いて仕方がない。
 それでなくても凛一は父性愛、母性愛を求める資質がある。嶌谷さんといい、あの宗二朗という男といい、確かに凛一の守る人間としては俺よりも相応しいと言えるだろう。
 それが歯がゆくて自分の小ささに腹が立つのだ。
 凛一を愛している。凛一が俺に愛を誓ってくれた。それでも一生凛一を守り通していけるほどに俺は成長できるのだろうか。
 現実、今だって目の前の仕事に追われ、凛一のことなどほったらかしにしていた。そしてこのザマだろう…

 くやしまぎれの歯軋りを抑えて俺は帰宅した。
 夕食は外で食べると約束してはいたが、こんな状況じゃとてもそんな気にはなれない。
 仕方がないから、パスタと朝食の残り物で済ませた。
 テーブルに向かい合わせた俺と凛一は、会話など弾む雰囲気じゃないことはわかっていた。
 だが気まずいままに折角の時間を過ごすのも嫌だった俺は、なんとかこの状況を好転しなきゃならないと思った。  
 たったふたりきりの家族だ。もう二度と仲違いはするまいと誓ったのだから。

「凛…今日のことはおまえをほおっておいた俺にも責任がある。悪かったよ。折角ニューヨークまで来てくれたのに仕事ばかりにかまけて、遊びにも連れてやれなくて…反省しているんだ」
「…いや、いいんだ。たぶん俺が気を弛めすぎてたんだと思うし…慧が忙しいのはわかっているから…」
「俺は…おまえが傍にいると嬉しくて仕方ないのも本当だが、反対に見えなくてもいいことも見えてしまうからつい口五月蝿くなってしまう。おまえは綺麗で魅力的だから、心配でしかたなくなるんだよ」
「…俺はもう昔みたいな子供じゃないし、ちゃんと自分で選ぶこともできる男だよ。慧にとっちゃいつまでも9歳離れた子供に見えるんだろうけれど…」
「…」
「俺、できるだけ早く日本に帰るね。ここに居ても慧に心配かけるばかりだし、仕事の邪魔にもなるだろうから…」
「凛…」
「怒ってもいじけてもいないよ。慧に会いたいっていうのも本当だし、慧の為に何でもしてあげたいって思った…愛しているんだから当たり前だよね。けど、まだきっと力が足りないんだよ。慧の重荷にならなくて済むまで、日本で待っているよ」
 寂しそうに笑った凛一は皿を片付け、寝室へ篭った。

 あんな顔をさせる為にここに呼んだんじゃない…
 なんて情けないんだろう。あの子を守るって、導いていくってあれほどに誓ったじゃないか…
 愛してる…それだけでは共に生きていくことは出来ないのだろうか…






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ただいま~・おかえり~

宿禰凛一編 「HAPPY」 7 - 2010.06.21 Mon

おれさま的な…ww

7、
 慧一がここへ向かっていると知った俺は、急いで寝室に駆け戻った。
「宗二朗さん、やばいよ!俺の服頂戴!早く!」
「どうした?」
「慧一があと十分でここに来るっていうんだ。早く着替えてロビーに行かないと…」
 俺の服を持つ宗二朗さんの手からパンツを取って履こうとするが、慌てた所為か足が絡まってよろめく。
「うわっ!」
「おっと…」
 宗二朗さんが抱きとめてくれたから良かったけど、確実に床に突撃してた。
「ありがと、宗二朗さん」
「なんだよ。裸にされても動じないクセに、兄貴にはてんで弱いんだな」
「うん…」
「さっきから気になっていたが、珍しいペンダントだな」
 裸の俺を抱いた宗二朗さんは、胸のペンダントを手に取った。
「誕生日に慧から貰ったの。お守りみたいなもんかな」
「そうか」
 目を伏せた宗二朗さんは抱きとめた手をゆっくり離し、俺の服を渡した。
「俺は…兄貴のお荷物にはなりたくないんだ。宗二朗さんと反対だね。慧には企てなんて通じないよ…」
「…わかったよ。俺も一緒に行こう」
「変なこと言わないって約束してよね」
「いい歳の分別のある大人として出来るだけのことはする」
 嫌味なくニコリと笑う宗二朗さんは嶌谷さんに似ている。なんとなく他人じゃなく思えてしまうな。

 急いで着替え、二人揃って部屋を出る。
 エレベーターを待つ間、俺はしみじみと隣に経つ宗二朗さんを眺めた。
 「ついでに」と、服を着替えた宗二朗さんは、今度はネクタイを締め、ダブルのジャケットをエレガントに着こなしている。十分に貫禄もあるし、身のこなしも優雅だし、どっからみてもセレブリティに見える。社長業なんだからそれなりに見えなくちゃならないんだろうけど、俺には嶌谷さんの従弟の宗二朗さんってしか思えなくて、可笑しかった。
 くすくす笑う俺を見て、宗二朗さんは肩をこずく。
 エレベーターの中で俺は宗二朗さんに尋ねた。
「宗二朗さん、さっきの話なんだけど…裸にまでしたのにさ、なんで俺を抱かなかったの?」
「ん?…そうだな…ホントは裸のおまえに欲情したよ。俺もたいがい節操のない男だから頂こうって思ったんだ。だが、触れようとした時、おまえが寝言を言った。『梓、風船あげるよ』…だったかな」
「…」
「梓っておまえの亡くなった姉さんなんだろ?」
「うん」 
「誠から聞いていたんだ。凛一は…呼び捨てでも構わない?」
「勿論だよ」
「凛一を育てたのはお兄さんと亡くなった梓っていうお姉さんだってね…俺も、実親とは色々としこりがあってね。兄のように慕っていた誠だけが俺の味方だったから、おまえが姉を慕う気持ちがわかった。それに…」
「それに?」
「おまえさんの姉さんは現身でなくても必死で凛一を守っているんだって…感じたんでね」
「…」
 宗二朗の俺を見つめる表情は出会った頃とはまるで違う。俺を慈しんでくれる目だ。
「宗二朗さんは思ったとおりの優しい人だね。ありがとう」
 心からのお礼を言う俺の頬を掴んで「その綺麗な顔が曲者なんだよ」と、今度は憎態な言い方をする。

 エレベーターがロビーに到着する。扉が開くとフロントに慧一の後姿が見えた。
「慧!」
 振り返った慧一は少し青ざめてみえた。
 すぐに駆け寄って俺を上から下までつぶさに眺めた。
「凛一…」
 慧はそれ以上は何も言わず、口を噤んだままだった。
 怒っているのはわかっているから、俺はとりなしをしようと必死になる。
「慧、こちらは嶌谷さんの従弟の…」
「嶌谷宗二朗といいます。誠一郎からはおふたりの事を色々と伺っております。凛一くんがこちらに遊びに来ている事も誠一郎から聞いておりました。セントラルパークで凛一くんを偶然に見かけて、ランチを一緒にどうかと誘ったんです」
 宗二朗さんはランセルの名刺入れから名刺を出しながら、品のいいそれでいて他人に劣等感を抱かせないビジネスマンらしい対応で慧一に挨拶をする。
 見方によっちゃ、なんだか癪に触らないかなと、俺は心配になる。
「慧、あんね、食事をおごってもらってさ。とっても高級で美味しかったんだ」
 慧ににっこりと微笑んだが、睨み返されただけだった。
「携帯の電源はどうしたんだ」
「あ、それは…」
「食後のコーヒーに少しブランデーを入れたものを差し上げましてね。そしたら凛一くんが眠たいと言うもので…疲れているようだったのでベッドで休むように勧めました。すっかり寝入ってしまったので、携帯の電源は消しておいたんです。すいません。お騒がせいたしました」
 助太刀を買ってくれた宗二朗さんに感謝をしたが、丁寧に頭を下げる宗二朗さんに対して慧一は目を細めたまま何も言わなかった。
「慧…宗二朗さんの言うとおりなんだよ。俺、すっかり寛いで眠ってしまったの」
 怒らないでと縋るように言う俺の顔は見ず、慧一は宗二朗さんだけを真っ直ぐに見た。
「…あなたの話を信じていいのかはわかりませんが、凛一がそうして欲しいのなら…僕がこれ以上詮索する事ではないでしょう。弟がお世話になりました。さあ、凛一、帰るぞ」
「うん」
 これ以上話してもとても和やかな空気にはなれないと思ったから、踵を返す慧一の後を俺は素直に着いていった。

 ロビーを出る時、後ろを振り向いた。宗二朗さんはにこやかに手を振ってくれた。
「慧、ちょっと、挨拶してくる」
 そう言い残して、俺は宗二朗さんに駆け寄った。
「宗二朗さん」
「なんだ?忘れ物か?」
「うん、宗二朗さんに会えて良かったよ。今度は嶌谷さんも一緒に沢山話そうよ。なんなら嶌谷さんに焼きもち妬かせてもいいからさ」
「ああ、そうだな…おまえはいい子だな」
 身長差なんかそうないのに、俺の頭を撫でる宗二朗さんはかわいい。
「それ」
「ん?」
「俺の頭を撫でるの。嶌谷さんと同じだよ。やっぱりふたりは仲良しだね」くすっと笑うと、宗二朗さんは複雑な顔をした。

「さよなら、宗二朗さん。また会おうね」
 携帯のアドレスを交換した後、宗二朗さんの頬にキスをして離れた。
 宗二朗さんは苦笑いをする。
「ガキのクセになめた真似をしやがって…今度気を抜いたら本気で襲うからな」
「あはは、楽しみにしてる。じゃあね」

 急いで戻ったが慧一の姿は玄関にはなく、外へ出たら、すでに車に乗って俺を待っていた。
 運転席に座る慧一の顔は、とてもじゃないが、今から夕食でも…と、いう雰囲気ではないことぐらいは、能天気な俺でもわかるよ…






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次は慧一編「ペンテコステ」2の予定。

宿禰凛一編 「HAPPY」 6 - 2010.06.18 Fri

6、
 すごくやわらかくて肌触りがいいから、擦り合わせるように自分の身体を抱いてみた。
 瞼をゆっくり開けてみるとモスグリーンに薔薇の織り柄のシーツが見えた。
 ああ、シルクだったから手触りが良かったんだな~…って、ぼんやりした頭で考えてみる。
 は?何で俺ここに寝てるんだ?
 え~と…俯けになった身体を少し起こして気がついた。
 …え?裸?
 下着すらつけてない真っ裸…
 そりゃ寝るときは結構な頻度で裸になって寝るクセはついているが、今日は脱いだ記憶はないぞ。
 それに、ここどこ?
 …え~と、嶌谷さんの従弟の…宗二朗さんって人に昼飯をご馳走してもらって…
 それから…
「やっとお目覚めかい?凛一くん」
 声のする方へ振り向いてみた。
 瀟洒な椅子に優雅に腰掛けた宗二朗さんが、携帯を俺に向けている。

「何してんの?」
「凛一くんのヌードを撮ってる」
「…なんで?」
「そりゃ凛一くんの裸が魅力的だからだろ?」
「なんで?」
「…おまえの裸を見て喜ぶだろうと思ってな…誠一郎が」
「…逆効果だろ?」
「…」
「それが狙い?」
「…まあな。思ったとおり、君の裸の写メを送った途端、携帯が鳴りっぱなしだ。こっちは無視しているがね」
「屈折してるね、宗二朗さん。40にもなろうって人が大人気ないよ。大体さ、俺の裸を嶌谷さんに見せたって、嶌谷さんはどうもしないと思うけどな」
「そうとも言えないところがね、あいつのバカさ加減…よし!これでいい。早速寝起きの君の動画を送ってやった」
「アホ…」
 ヒゲづらの強持てのツラなのに子犬みたいな顔をする。なんかかわいい人だなあ~
 俺は片膝を立てて、顎を乗せながら、宗二朗さんの様子に苦笑した。
 薬で眠らせて裸にするなんて褒められたことじゃないけど、それが嶌谷さんへのあてつけのつもりというなら、気持ちはわかる。

「それより…凛一くんは平然としているんだな。剥き身にされてるのに、強姦されたと心配しなくてもいいのかい?」
「はは、問題なしだね。まあ身体はいじられたとしても入れられたかそうじゃないかぐらいは、すぐにわかるよ。俺も初心(ウブ)な方じゃないんでね」
「ふ~ん。思ったより柔じゃないんだな。そんな顔をしているから、精神(こころ)も硝子細工かと思ったんだがね」
「まさか、ハイテク樹脂加工のハンマーでも割れない硝子だよ。それより、宗二朗さんも人が悪いなあ~嶌谷さんにカマかけるんだったら、睡眠薬なんか飲ませなくても俺、協力したのに」
「まあね、あれだったら巧いこと頂こうかとは思ったけどね…」
「思ったけど…なんで手を出さなかったの?抱きたいと思うほど魅力的じゃなかった?」
「…あ、誠からだ。あいつひっきりなしに携帯にかけてきやがる。相当に凛一くんが心配らしい」
 俺の問いを無視した宗二朗さんはどことなく浮かれ気味に携帯を耳に当て、嶌谷さんと通話を始めた。

「よお、誠、元気か…凛一ならここに居るよ。…うっせえなあ~何もしてねえよ!…わかった。今凛一に代わるから」
 携帯と話しながら宗二朗さんは、ベッドの俺に近づいて携帯を差し出した。
「ほら、やっこさん、怒髪天って奴。怒り狂ってる」
「自業自得」
 俺は苦笑して、受け取った。
「嶌谷さん?」
『凛一、無事か?』
「うん、大丈夫だよ」
『本当に?宗二の奴、これみよがしにおまえの裸の写真なんか送りつけやがって…』
「嶌谷さんをからかったんだよ。妬いてるんだね。嶌谷さんが俺を可愛がるからさ。でも宗二朗さんってなんか憎めないよ。もしかしたら俺に似てるのかもしれない…そう思わない?嶌谷さん」
『…凛』
「あんまり怒らないでよ。俺、宗二朗さんとちゃんと仲良くなるからさ、心配しないで」
『凛一…あのな…』
「なに?」
『あいつがおまえの裸の写メなんか送ってくるから心配で…慧一くんに連絡しちまった…余計な事してすまん』
「ちょ…それ…拙いよ、嶌谷さん」
 さすがの俺も顔色が変わった。一番駄目なパターンじゃん。
 慧一にこんなこと知られたら…怒るだけじゃなく、傷つけることになる。
『直ぐに連絡してやれ。慧一くんも気が気じゃないだろうから』
「わかった」

 俺は携帯を宗二朗さんに返した。
「ね、俺の携帯どこ?」
「リビングだよ」
「わかった」
 夕食は一緒に食おうって言ってたのに…連絡もないとすると…
 考えなくても慧一のうろたえた顔が見える。
 慧を不安にさせたくない。

「おい、凛一!裸でうろつくな!なんか着ろよ」
「あんたが裸にしたんじゃないか!元通りにちゃんと着せてもらいたいね」
 俺は、脱いだ服を手にする宗二朗さんを無視してリビングへ向かった。
 テーブルに置かれた携帯の電源を入れた。
 …数え切れない程のメールと着信数。
「マジでやばいよ!」
 声を荒げて慌てて慧一に掛けた。コールを待たないで繋がった。

『凛かっ!』
「慧…ゴメン。連絡できなくて…ちょっと、色々あってさ」
『今、どこに居るんだ』
「Rカールトンホテルのクラブハウス。あんね、嶌谷さんの従弟の…」
『それは嶌谷さんから聞いた。そいつと一緒なのか?』
「うん。でも心配することなんかないからさ…怒らないでよ。連絡しないのは悪かったから」
『もう十分かそこらでそっちに着くから、ロビーに居なさい。わかったな、凛』
「え?着くって…」
『おまえの言い訳は後で聞く』
 俺の返事も待たないで通話は切れた。

 あの様子じゃ、宗二朗さんに睡眠薬を飲まされて裸にされたなんて…とても言えないよ。
 言ったら宗二朗さん、慧から殺されるかも…





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見んなよ、スケベ


宿禰慧一編 「ペンテコステ」 1 - 2010.06.16 Wed

ペンテコステ


「ペンテコステ」
1、
天から聖霊が降る日、
約束の聖霊に満たされた我々は、
真の交わりを得る

あなたはいつも私の傍に居た。
ならば命に至る道を示せ


 長年の学生身分からやっと卒業。
 変則的ながら日本系企業へ就職した俺は、ニューヨーク支部へ配属された。
 一月も半ば、日本から帰ると研究室への挨拶もそこそこに引越し、会社や関連企業への挨拶回り、それが終わるとすぐにプロジェクトへの参加を求められ、休日も返上しなければならないほどに時間に追われていた。
 もとよりこの企業を望んだのは、遠からぬ未来、小さくてもいいから自分の設計事務所を持つその足がかりとして、現場の実態を知るためであって、ここに落ち着こうとは考えていなかった。
 が、給料を貰う側としてはそれなりに自分の実績や惜しみない労力は果たすつもりだ。

 そんな中、凛一が春休み中に引っ越したばかりの俺の家へ来たいと言う。
 まだ落ち着いてもいないのに凛一が来ても相手はできないと断った。
『どうしても駄目?慧に会いたいんだ。…すごく会いたいんだもん…』
 携帯からの涙まじりの声が聞こえた。
 ばか、そんな泣き方されたら断れないのはわかっているだろう…
 あっけなく承諾させられた愚かな兄貴は、その日を待っていそいそと弟の待つ空港へ愛車で迎えにいく羽目になる。

 空港で待つ俺に走りこんで駆け寄る凛一が愛おしかった。胸に飛び込む細い身体を抱き締めた。
 胸に顔を埋める凛一が今までとどことなく違ってみえた。甘え方に色気がある。
 本気で俺を陥落させる気なのだろうか…
 そんなことをしなくても、俺はおまえのものなのに…と、背中を撫でてやった。

 ユニオンシティのアパートメントの広さに凛一は驚きの声を上げた。
 このテラスハウスはNKCの社宅になっており、家族持ちも多いから住宅としても申し分ない広さなんだが、独り身の俺にはその広さが帰ってうらめしくなったりもする。
 だからと言って、凛一以外の誰かを入れる気にもならないのだけれど…

 リビングの他に部屋は三つほどあったから、空いていた部屋を凛一に案内すると、「慧と一緒に寝たかったのに…」と、凛は口唇を尖らせた。
 こいつは本気で俺を誘惑する為にここまで来たんじゃなかろうかと疑うが、今はこっちにその余裕はない。
 とてもじゃないが、本気で迫ってこられたら、諭す気力が持てない。
 だから、仕事も極力残業を宛がい、夜遅く仕事から帰ったらできるだけ凛一とは顔を合わせないようにした。
 凛の方はさすがに俺のくたびれ加減に同情したのか、家事をキチンとこなし、毎日の食事も俺独りの時よりグンと充実したものになった。
 聞けば近所の奥様方と早速仲良くなり、色々とご指導を受けているらしい。
 とことん要領のいい奴だ。
「気をつけろよ」
「何に?」
「色んな奴がいるんだから、へらへら愛嬌振りまくんじゃない」
「…相変わらず心配性だね。俺、東京の下町に行っても結構ケンカ強いよ」
「バカっ!一度大怪我して懲りたんじゃないのか?それ以上傷を増やすなよ」
 こいつは高校に入学したての頃、中学の時の奴らとケンカして腕を5針ほど縫っている。
 その痕はほとんど消えかかって、目を凝らして探さなきゃわからないくらいに薄くなったけれど、あの時は本当に肝を冷やした。
 それじゃなくてもこいつには色々と身が縮む思いはさせられているが…
 あの月村の事からもうすぐ三年になるなんて、時の経つのも早い。
 凛一の中であの事件がどんな形で心に残っているのかは、俺ははっきりした事はわからないが、今の凛一には微塵も昏い影は見えない。
 だからと言って心配がないわけではない。
 自分では意識をしていないが、誰彼問わず媚を振るクセは抜けていないし、かといって気に入ったものしか認めないプライドの強さもある。
 巧くいく時はいいが、逆に反感を買う派目にでもなったらと、何をつけても心配は尽きない。
 そんな俺の気も知らず、凛一は気ままに俺を翻弄するように、楽しんでいる。

 休日にはどこかに行こうと約束していたにも拘らず、前日の仕事の疲れの所為か、昼近くまで眠ってしまった。
 慌てて起きてリビングへ行っても凛一は居らず、代わりにメモ帳に「フェリーに乗って摩天楼に行ってくる。心配しないで。食事は用意してるから食べてね、じゃあ」と、書いてあった。
 いつの間にか俺の好きなキッシュの作り方を覚えた凛一は、朝から焼いていたらしい。まだ温かかった。
 折角の凛が作ったトマトスープとサラダを一緒に食べながら、凛一へ電話をする。
 直ぐに声が聞こえた。
「凛?」
『やっと起きたの?』
「ごめん、今おまえの作った飯を食ってるよ。起こしてくれれば良かったのに…」
『いいよ。慧、疲れているみたいだったし…』
「今、どこにいるんだ?」
『セントラルパークだよ。天気がいいから人が沢山だけど、緑が眩しくて気持ちいい』
「昼からそっちへ向かうから待ち合わせしないか?」
『え?でも…いいよ、俺に気を使わなくても。適当に遊んで夕方には帰るからさ。フェリーだと、歩いて帰れるし』
「そっちで一緒に晩飯でも食おう。たまには豪華なホテルで食事でもしようか」
『ホント?楽しみにしてる』
「じゃあ、また連絡するからね」
『うん』
 嬉しそうな凛の声に、こちらもはしゃぎたくなった。
 さて、どこにしようか…エセックスでもチェルシーでもピエールでもいい。こちらではあまり料理をしない魚料理の美味いレストランでもネットで探すか…
 全く、これじゃあ綺麗な子を囲うパトロンじゃないか。凛の思うつぼだ。
 
 し残した仕事を終え、さて出かけようとした矢先にプライベート用の携帯が鳴る。
 着信を見ると…珍しい。嶌谷さんからだ。
 滅多に電話なんかよこさない人なのに何事かと耳に当てた。
「お久しぶりです。嶌谷さん」
『慧一くん…』
 どこか落ち着かない声音だった。
「どうかしたんですか?」
『いや…凛一はそっちに遊びに来ているんだろう。彼、いるかい?』
「…いえ、出かけてますが…」
『連絡は取れる?』
「え?」
『いやね、どうも…俺の従弟と一緒らしいんだが…』
「どういうことですか?」
『いや、ばったり出くわしたっていうかね…あいつは何考えてるんだか…』
「凛がどうかしたんですか?」
『いや、なんでもない。悪かったね…』
「ちょっと待ってください!嶌谷さん、隠さずに言って下さい。嶌谷さんの従弟と凛が会っているんですね。で、今どこにいるんですか?」
『ホテル名ははっきり言わなかったが、あいつはニューヨークではRカールトンって決めているから…セントラルパークの方…だと思う』
「わかりました。今から凛一と合流することになっているんです。連絡してみますから」
『うん、頼むよ。あいつは…宗二の奴、凛一の事を話しても気のない素振りをしていたから、俺も気に止めなかったんだが…騙されたのかも知れない。正直、凛が心配だよ。宗二は謀り事が好きなんだ。凛一もああいう男にはムキになるからな…』
「従弟って前に言ってた嶌谷さんの一番信用している人でしょう?そんなに心配な人なんですか?」
『…まあ、詳しいことは後で話すから。凛と早く連絡を取ってくれ。俺も携帯にかけているんだが…電源を切られている』
「…」

 一旦嶌谷さんの通話を切り、直ぐに凛一へ掛けてみたが、はやり嶌谷さんの言うとおり携帯の電源は切られているらしい。
 さっきはちゃんと連絡するからと言ってあるのだがら、凛一自身が電源を切ることはない。じゃあ、誰が凛一の携帯の電源を切っているんだ。

 考えられるのはだたひとりしかない…
 嶌谷さんの従弟という男がどんな奴かは知らないけれど、嫌な予感しか頭に浮かんでこない。

 俺は繋がらない携帯を手にしたまま、何故凛一をひとりで行かせてしまったのか…そればかりを後悔していた。
 


 




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宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
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宿禰凛一編 「HAPPY」 5 - 2010.06.14 Mon

5、
 俺は素直にその風船を貰い、立ち上がって先程の兄妹へ駆け寄り、風船を差し出した。
 ふたりは驚いたように俺を見上げたが、腰を屈めて「プリーズ」と言うと、はにかみながら「サンキュー」と、受け取ってくれた。
 走り去るふたりを見送った後、ベンチへ戻ろうと振り返る。当たり前のように嶌谷宗二朗は足を組んで俺の居た場所に座っていた。
 無視しても大人気ないし、それに本当に嶌谷さんの従弟なら色々興味がある。
 気のないふりをして隣に座る。手を伸ばしたらすぐに届きそうな距離だ。
 そいつはすぐさま俺に話しかけてきた。
「凛一くんはひとり…みたいだけど、観光?それとも散歩?なんなら俺が案内してやるよ。ニューヨークは初めてなんだろ?」
 クセのない濁りのない声。悪意が潜んでいるとは思えないけど…
「…」
「なに?」
「なんでそんなに俺のこと知ってんの?」
「なんでかって?…そりゃ誠の奴からさんざん聞かされてるからな」
「せい?」
「誠一郎の事だ」
「あ、そっか。え?嶌谷さんが俺のことをあなたに話してるの?」
「ほら、見ろ」と、宗二朗さんは携帯の待ち受け画面を俺の目の前に差し出した。
 俺と嶌谷さんが肩を組んで映っているショットだ。たぶんこれは体育祭の時の奴。
「奴が勝手に俺のケータイの待ち受けにしやがった」
「へ?」
「酔っ払って『俺の凛一はさいこーだあ~』って、わーわー言いながらな。あいつは滅多に酔わないが、酔うと陽気になりすぎて困る」
「嶌谷さんらしいや」
 その様子がすぐに想像できて思わす笑った。
「これで疑いは晴れたかい?凛一くん」
「うん、一応ね」
「じゃあ、行きたいところへ案内するよ。どこがいい?メトロポリタンは行った?エンパイアービルやブロードウェイは?」
「俺さ…」
「うん?」
「お腹すいた。昼飯食ってないの」
 宗二朗さんはぷっと吹き出し、手を伸ばして俺の頭を撫でた。
「実は俺もまだなんだ。ちょうどいい。俺の宿泊しているホテルへ行こうか。公園のすぐ傍だし、昼飯おごってやる。」
「ホント?でもいいのかな…初めて会った人にホイホイついて行くなって、きつく言われてるからなあ」
「お兄さんの慧一くんから?」
「慧のことも知ってるの?」
「誠は俺に隠し事はしないからね」
 サングラスの奥の目が軽くウインクしたと思うと、宗二朗さんは俺の肩を軽く叩き、「行こうか」と立ち上がった。

 有名な高級ホテルだった。
 ロビーは狭かったがどの調度品も歴史の重みが感じられるし、しかも気取っていない。
 エレベーターに乗ってクラブフロアへ案内される。
「ラウンジで食事もいいが、俺の部屋で食おうか。その方が寛げるし」
 彼はコンシェルジュを捕まえ、何言か話し、俺を連れて部屋へ案内した。
「どうぞ、狭いけど」
 想像はしていたが、ホテルとは思えない室内の広さだった。
 リビングとベッドルームが別個になって、調度品のすばらしさは言うまでもなく、宗二朗さんがその風景に調和している事に驚いた。
「ここ一泊何十万もするんでしょ?すごいや。宗二朗さんって何者なのさ」
 疑問を素直に口にすると、彼は笑って「ただのCOOさ」と笑う。
 COOとは最高執行責任者のことだから、…この人偉いんだ…
「嶌谷さん一族ってお金持ちって知ってたけど…規模が違うね。驚いた」
「どうせ経費で落とすんだから気にするな。毎日血反吐が出るくらいこき使われてるんだ。泊まる場所ぐらいは贅沢させてもらうさ」
「社長なのに、こき使われるの?」
「うちは昔は鋼鉄機械産業が主な事業だったが、今は建設資材輸入や技術人材確保までやってる何でも屋みたいなもんだ。トップの俺がじたばたしなきゃ周りが動かねえんだからな」
「そんな忙しい人が俺みたいな小僧と付き合う暇があるの?」
「ニューヨークには3週間ほど前から来ててね。今日は久しぶりの休日で…凛一くんがこっちに来ているのは誠から聞いてたんだ。まさかあんなところで出会うとは思わなかったけどね。運命かな?」
「…まさか」
 
 それからリビングの広いテーブルにアメリカらしくない繊細なフランス料理が運び込まれ、俺たちは向かい合ってゆっくりと食事を取った。
 窓から見える景色が壮観だ。右を向けばセントラルパークの緑が鮮やかに輝いているし、左を向けば超高層ビルのオンパレードだ。
 交互に見比べながら皿もよく見ないでフォークを口に運んでいると、前に座る宗二朗さんがクスクスと笑っている。
「凛一くんを眺めてりゃパンだけで満ち足りたものになるね」

 食後のコーヒーは宗二朗さん自身が入れてくれた。
「あ、ブランデー入ってる」
「カフェロワイヤルにしても良かったけどね。苦手だった?」
「いえ、美味しいです」
「…凛一くんはお酒に弱いんだろ?誠が言ってたよ…見かけは美酒の似合うナルキッソスなのにね」
「俺、ナルシストかなあ~自分ではそう思ってないんだけど…」
「自分の魅力を知っているからだろう。誰彼かまわず甘い艶目で見るのは癖なのかい?」
「…知らないけど」
「誠のこともそんな目で誘ったのかい?」
「誘ってないよ。嶌谷さんと俺を疑っているのならお門違いだよ。嶌谷さんは父性愛で俺を見ているだけだよ」
「…嘘だな。おまえは誠の本当の気持ちを知って楽しんでいるじゃないのか?」
「なんで、そんな意地悪なこと、言うのさ…つうか…眠いんだけど…なんで、こん…なに…」
 急に瞼が重くなった。思考回路が分断される。
 駄目だ…
「なんでって…コーヒーに睡眠薬を入れておいたからだろうね。気に入った子をものにするにはこれが手っ取り早いんだ…あきらめろ…」
 宗二朗さんの言葉は最後まで聞けなかった。

 簡単について行くなって言っただろ!
 慧一の怒る顔が瞼に浮かんだけど…

 俺はソファに倒れこむように眠り込んだ。





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次は慧一編「ペンテコステ」1へ



嶌谷宗二朗

↑宗二朗さん悪人顔だ~(;´∀`)

感謝して、これからも… - 2010.06.12 Sat

感謝して、これからも…

「小説家になろう」というサイトに昨年八月終わりから「green house」を投稿している。
これは「小説を読もう」と連動している、投稿も読むだけでも出来るサイトだ。
「green house」はキャラごとの視点によって別個となりえる物語である。
よってキャラ別に題名を変えて投稿してみた。
凛一編は「only one」 現在72部
慧一編は「GLORIA」 現在47部
ミナ編は「愛する人へ…」 現在35部(sakutaさんの書かれた部分は除く)
紫乃編は「早春散歩」 現在13部
そのアクセス数が凛一編が2万を超えた。
70話以上にもなるテキストを一気読みされる方もいらっしゃる。
読んでくれた皆様に感謝を込めて…

みんな、ありがとう



これを始めたきっかけは「aqua green noon」に連載し続けた「green house」の小説が、一般的にはどれくらい読まれるだろうという好奇心だ。
しかもこのサイトはBL18禁向けに「ムーンライトノベルズ」という別サイトがあり、ほぼ18禁があるBLはこちらにジャンルわけされる。
よって、BLを目的に読みに来られる方は一般部の「小説を読もう」には来られない確率が高い。
この一般の部はやはりファンタジーや冒険もの、男女の恋愛ものが当たり前だが、多い。
BLもあるにはるが、15禁までと制限があるため、投稿しにくい。
私は一般人がBLを嫌う事は当たり前だと思っているし、BL好き人間ばかりこの世に居るわけではない。
またBL小説を求めてくる方は、半分以上はエロを期待されている方々である為この一般の部は求められていないであろう。
だが敢えて、一般のジャンルにしたのだ。
私自身、昔はHの良く書かれたBLを探していた頃もあった。だからHがBLにとって非常に大事だとわかっている。
が、エロが直接的じゃないBL小説を書きたかった。
直接的な表現ではなく、妄想で萌えられるBLを書きたかった。
それが受けなくても書きたかった。
だから一般の部でアクセス数2万、ユニークアクセス5千を超えているという数字は、私にとってこれ以上ない励みになるのだ。
しかもこれは凛一編だけであり、慧一編、ミナ編、紫乃編などを加えると5万アクセスにも達する。
こんな未熟なテキストがと、自分の非力に恥ずかしい思いで一杯なのだが…
そして先日重大なミスに気づいた。
ジャンルの分類に「BL」のカテがあるのだが、全く気づかず、先日(三日前)それに気づいたのだ…(;´Д`A ```
急いでBLのキーワードを補充してみたところ、閲覧数が急激に増えた気がする。

勿論これはよそ様から比べるととても小さい数字であると思う。
だが、これは読んでくださった読者の足跡だと思うと、感謝の念にこの上なく満たされる。


「green house」はブロ友のsakutaさんと始めた小説だった。
私がBLブログを始めるにあたって、sakutaさんには多大な協力を頂いた。
景気づけに一緒にやってみないかと持ち出したのは私の方だった。
企画、キャラ作り、ストーリーなどを細かく話し合い、キャラをそれぞれに持ち、書いていくという手法を取った。
だから始めた段階ではリンとミナの恋が見事成就するところで終わるはずだった。
つまりHをしたところで一段落つくと思って始めた。

慧一は初めからああいう人格だった。血の繋がった弟に肉欲を持ち、悩み続ける。そして彼はその想いを打ち明けずに生きていくキャラであった。
私にとって血縁関係で愛し合うという話自体無謀な挑戦であり、凛一みたいな奔放な子を書くのも初めてだったから、この話は相当な冒険であった。
またH度は少なめに書きたいという気持ちがあった。ならばシリアスなストーリーで行くしかない。
そう構えて始めた作品だった。


sakutaさんは自分のブログを持ち、沢山の小説も書かれていて、とても人気のある作品を書き続けていた。とりわけその頃は毎日更新されており、とてもこちらの作品にまで手を煩わすわけにはいかない状況だった。
だから、私はミナ編が書かれるのを待つ間、その他のキャラや凛一の過去話で繋いでおこうと思った。

この過去話が大変だった。
凛一の生い立ちを語るとなると、慧一と梓を詳しく語らなければならない。
私は早くに月村との事件を頭に描いていたが、月村の死の場面でリンを救うキャラは慧一と…もうひとり父の優一であった。だが、そこのイメージがどうしてもぼける。
過去の話を書いていくうち、この場面にいるべき人間は父、優一ではなく、他のキャラ…彼らを守る者が必要だと思った。それが嶌谷誠一郎だ。
そして「追想」は凛一を書きながら、常に慧一の存在を意識しなければならなくなった。
慧一を書こう…そう思った。
慧一編になってくると、慧一というキャラの重さがこの物語を簡単な恋物語では終わらせなくなってしまった。
彼の苦悩というものが読者に印象づけてしまったからだ。

実際「なろう」でも慧一編は凛一編より投稿数は少ないのに、アクセス数はリン編に凌ぐ勢いである。

この時点で私の持ちキャラではないミナへの愛情は自分の作ったキャラに比べて極めて少ないと言える。
sakutaさんが忙しいということで、私がミナ編を書かなくならざるおえなくなった時は、正直、今更このキャラに愛情を注ぐことができるのかと危惧したのは本当だった。
私はなりきって書く人である。
この水川青弥をいうキャラを理解して自分自身にしなければならない…

sakutaさんがこの物語から引いた理由は忙しいからだけではなく、色々な感情があったのだろうと思う。
だが、私はsakutaさんに感謝している。
すべての始まりはsakutaさんとの共同作業だったのだ。

私ひとりで書きはじめたこの「green house」はその頃から世界感が変わってしまった。
実際、ミナを自分が請負ってからは、それまで遠慮がちであったリンミナの感情を思いきり振り切って書くことが出来た。
勿論sakutaさんの予定していたキャラとは大幅に違ってきているだろう。それもよく判る。
ここはsakutaさんならこうは書かないだろう…と、感じながら書くこともある。
だが、もうそういう思いに構ってはいられない。
ミナは、慧一に勝たなければならないのだ。その為には、凛一を誰よりも強く愛する必要がある。
だからミナには魔法にかかってもらう。
「恋」という魔法だ。

ミナに初めての経験のくだりを書かせたのは狙いだった。
ミナはどう反応するのだろう…自分がわくわくしながら書き続けた。
この辺りからミナは自分のキャラになってきたと思う。

この先どんなことがあってもミナというキャラを私は最後まで見失う事無く書き続けることが出来る。

凛一を真ん中にしてこの物語は回り続ける。
まるで宇宙のようだ。
太陽と惑星。地球と月。惑星と衛星。
銀河系…

必ず美しい軌道を描かせよう。

その為には書く時間が必要だ。
私には才能も実力も語彙も文章能力もない。
そのぼんくら頭を叩きながら書くのだから、時間がかかるのは仕方ないと思って欲しい。
しかし、最後まで、後悔しないように彼らと対峙していきたい。

時々思うことがある。
前の文章を読んで、これは本当に私が書いたものなのか?と、頭を捻るのだ。
どうしてもその状況が思い浮かばない。
キャラが書いたとしか思えない感情が溢れている。
私はこうやってキャラに引きずられながら書く性質なのであろう。

最後に、
大勢の読者に心から感謝する。
こんなしょぼい物語を読んでくれてありがとう。




2010.6.12  saiart

宿禰凛一編 「HAPPY」 4 - 2010.06.11 Fri

4、
 ミナが可愛い、愛おしいと、この腕に抱きながらも、翌日には俺は慧一の腕を欲しがった。
 俺の胸に凭れて眠るミナの安心しきった穏やかな顔を眺め、慧一の胸で眠りにつく俺を思い描く。
 自分の業の深さに我ながら呆れてもみても、この感情だけは抑えることが出来なかった。
 ミナを抱いている現実が、まだ結ばれていない慧一との愛欲を益々募らせた。
 
 慧一が欲しい。どうすれば慧一がその気になるのだろう…
 俺の前で問題集を解くミナを前にして、その事ばかりを考えたりする。
 慧一が見ていたという天使の羽など、とっくの昔に引きちぎられたであろう。
 ならばその傷跡でもなぞらせようか。誰の所為でこうなったと詰ってやろうか…
 俺は慧の前では残酷になれる。

 春休みに入り、俺は慧一に会う為にニューヨークへ向かった。
 慧一には事前に連絡をするが、「仕事が忙しいから、こちらに来ても付き合ってやれない」と、一度は拒まれた。だけど「どうしても会いたいんだ」と泣きを入れ頼み込んだ。
 ニューアーク・リバティ空港へは夕方に到着し、仕事を終えた慧一はターミナルまで迎えに来ていた。
 三ヶ月ぶりの慧一を見た瞬間、今まで味わった事のない胸が締め付けられるような痛みが走った。
 言葉もなく慧一の胸に飛び込んだ。
「どうしたんだよ、凛…」
「だってさ…会いたかったんだよ」
 今までの兄弟の絆とは全く違う感情が俺の中には満ち溢れて、慧が恋しくてどうしようもない。
 慧一は「俺も会いたかった」と、呟き、抱き返してくれる。
 愛してる…その言葉しか浮かばない。

 夕暮れのハイウェイを慧一のランドクルーサーが走る。
 ミニクーパーからランクルへの変貌は一体なんだ?と、笑うしかないのがそれを伺ったら「要は気分だ。戦いには耐久性が必要だからな」と、わかったようなわからないようなことを言う。
 俺は慧一のこういう拘りが気に入っている。
「ニューヨークって言うからケネディ空港だとばかり思ったよ」
「仕事場はニューヨークだけど、アパートメントは対岸のニュージャージー州になるのさ。車は混むからもっぱら電車と地下鉄で通勤だよ。日本と丸の内界隈と変わりないかもね」
 空港から車で30分ほど走りユニオンシティのアパートメントに着いた。
 境界の壁が繋がったテラスハウスで、いわゆる借り上げの社宅なのだが、シカゴのアパートに比べ物にならないほど、広くて驚いた。
「慧ひとりで住むにしちゃ、広すぎない?」
「家族持ち用の社宅なんだよ。俺の前は五人家族が住んでいたらしい。ベッドやテーブルを残してくれた。ゲストルームでゆっくり寝れるよ」
「慧と一緒にくっ付いて寝るのが良かったのにさ」
 むくれる俺を見て慧一が苦笑する。
「あんまり俺を誘惑しないでおくれよ。毎日こき使われて正直、家には寝に帰ってるようなもんなんだ。おまえと駆け引きする余裕は今の俺にはないよ」
「そんなに忙しいの?」
「ああ、まだなんもわからんペーペーだからね。毎日戦々恐々たるもんさ。今まで長くやってた学生気分が抜けきってないってどやされる」
「…大変なんだね…」
 完全無欠だと思っていた慧一が怒られるんなんて想像つかないけどなあ。そういや少しやつれている気もする。
食事はちゃんと取っているんだろうか…なんか心配になってしまう。
「ね、慧。俺、ここにいる間は家事全般はやるからさ。気を使わないでくれ」
「そうしてもらえると助かるけど…」
「けど?」
「おまえは目立つからあんまり外へ出るんじゃないよ。昼間はいいが、犯罪の多い街には違わないからね」
「わかってるよ」
 にっこりと笑う俺を見て、慧一は眉をしかめて俺を睨んだ。
 なんで、睨むんだよ。

 結局、その日はキスもせずにお互い別々の部屋で寂しいひとり寝だ。
 セックスするかしないは別として、俺は慧一の温もりに包まれて寝るのを楽しみにしていたからかなり心残り。
 ここにいる20日間、俺と慧一の進展はあるのだろうかと心細くなる。

 慧一が仕事に行ってる間は、家事や近くのスーパーに買い物に行く。
 隣近所の社宅の人とも仲良くなり、色々と行きつけの場所を教えてもらう。
 日本企業の社宅なので日本人も多いが、アジアや西欧の家族の方も住んでいる。
 日本語、フランス語、イタリア語、英語とまぜこぜになりながらの井戸端会議も面白い。
 皆さん、俺を可愛がってくれる。
 ランチもしょっちゅう頂くし、ちゃっかり夕飯のおかずも貰えたりする。
 慧一は毎日帰宅が遅く、本当に企業人になったのだと疲れた顔を眺める。
 とてもじゃないが、甘える状況じゃない。

 折角の休日も疲れている慧一の様子じゃ、観光にでも連れて行ってと言うわけもいかず、そっと休ませておく。
 寝ている慧一を起こさないようにひとりで出かける事にした。
 アパートからはハドソン川を越えて摩天楼が良く見える。
 俺はフェリーに乗ってマンハッタンに向かった。
 ニューヨークの3月はまだ春の気配など到底伺えようもなく、コートの襟を立ててデッキから外を眺めた。
 タイムズスクエアなどの観光名所を地図を頼りに巡りながら、セントラルパークに辿りついた時は昼過ぎになっていた。
 休日の上天気も良く、公園の中は人で溢れ返っていた。
 遊歩道のベンチに座り、一息吐く。
 さすがに初めての土地は緊張する。しかも人種の坩堝、ニューヨークだもんなあ~
 散歩する人、ジョギングをする人に、観光客らしき人々…
 
 真向かいで幼い兄妹らしいふたりが手を繋いで笑い合っている。手を繋いでいない片方はそれぞれに赤と黄色の風船を握り締めている。
 ふと女の子の赤い風船が握り締めた手から離れ、ゆっくりと大空へ吸い込まれていく。
 女の子は大声で泣き始めた。男の子は女の子の目の前に座り、自分の持っていた黄色の風船を女の子に差し出す。泣くのをやめた女の子は男の子から風船を貰い、にっこりと笑った。
 
 一連の光景が何だか昔の慧一や梓のようで、心があったかくなった。
 大きく育ってしまった今の俺にでさえ、慧は躊躇う事無く、自分の大事なものを差し出すのだろう。
 俺はそれを受け取り、微笑み、慧と共に幸せになりたい。

「ほら、どうぞ」
 目の前に赤い風船が差し出された。
「え?」
 顔を上げて目の前の男を見る。
 サングラスをしていてもわかる彫りの深いダンディな日本人だ。
 緩めのオールバックの髪。知識を感じさせる額。気取ってはいないが洗練された仕立てのいいジャケット。
 40になるかならないかだろうが、サングラスの奥の目がやけに凄みがある。
 どう思い出しても見た事もない男だった。
「風船、欲しいんだろ?あの子供をずっと見てたじゃないか」
「…ありがたいけれど、知らない人からモノを貰うなって、家族にきつく言われているので結構です」
 慧一の戒めどおり、ニッコリと笑って断った。
「40になるおっさんにずっとこれを持ってろっていうのかい?折角買ったんだ。見返りはいらないから貰ってくれないかい?凛一くん」
「…俺を知ってるの?」
「ああ、良く知っているよ」
 俺は目の前に立つその男を、下から凝視した。
 無精ひげから笑った顔はどこかで見た気がした…

「もしかしたら…嶌谷さんの、従弟の…嶌谷宗二朗?」
「もしかしなくてもそうだよ。誠一郎のお気に入りの宿禰凛一くん」
 差し出された右手首の金のバングルは、確かに嶌谷さんがしているものと同じデザインだった。






「HAPPY」3へ /5へ
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あんた誰?


宿禰凛一編 「HAPPY」 3 - 2010.06.08 Tue

3、
 パジャマのまま、嶌谷さんの膝枕で俺は仰向けになって、嶌谷さんを見上げる。
 嶌谷さんは寒くないようにと寝室から運んだ毛布を俺にかけてくれた。
 天井の端の間接照明が薄いオレンジ色に部屋を染めていた。
 ソファにふたりで寝ている光景は、慧一との一夜を思い出す。
 あんなにぐちゃぐちゃになった気持ちなんてなかったな…
 確実に理解できることは、慧は俺よりもずっと、苦しんできたんだ。
 だけど慧一にはもう俺がいる。独りではない。
 でも嶌谷さんは…

「嶌谷さんはこれからもずっと独りで生きていくの?孤独って辛くない?」
 俺の髪を掬うように撫でる嶌谷さんは穏やかな優しい顔で俺を見つめてくれる。
「辛い時もあるよ。でも年を取った分、忍耐力がついた気がするなあ。それに…パートナーは居なくても仲間が居るからね。凛みたいに慕ってくれる奴もいる。勿論悩みも共有するだろうけれど、楽しさも分かち合える。
去年みんなでおまえの体育祭に行っただろ?みんな本当に楽しそうだった。おまえと繋がっていなきゃ味わえない喜びを与えてもらった。みんな凛に感謝しているよ」
「俺だって言い尽くせないぐらいにありがたかったよ。あんな幸せな体育祭なんて、今までで初めてだ。みんなが応援に来てくれたおかげだ」
「ほらな、孤独でも幸せになれる。誰かを愛していれば、喜びももらえる。孤独であればあるほどにね…そういう喜びに鋭敏になるもんさ。だから独りも悪くない」
「嶌谷さん…俺、嶌谷さんに沢山の喜びをあげたい…」
「だったら、幸せになってくれ。凛一の笑う顔が俺は一番見ていたいんだ」
「うん…」

 無償の『愛』を俺にくれる嶌谷さんに、俺は出来うる限りの喜びを与えたい。


 3月1日、3年の卒業式に贈る詩を朗読した。
 ランボーの反逆的な詩に卒業生たちは大うけだった。後席の保護者達のずらりと並んだしかめっ面が痛かったが、反省はしていない。
 ミナの同室であった根本香樹先輩にはキスを求められ、それに応えると、その後ろへずらりと別れのキスをくれと卒業生たちが並んだのには閉口したが…最後のサービスだ。未来へのはなむけだと思ってくれてやった。
 ご愁傷様。

 3月14日はミナの誕生日だった。土曜日だったから、街へでて映画を見た。
 帰りにウィンドウショッピングをしていたら、ふいにミナが足を止めた。
 アンティークなアクセサリーが並べられた小さい店の前だった。
 一緒に覗き込むと、ミナが指を指した。
「あれ、なんかリンに似合いそうだ」
 対のシルバーリングが飾られていた。対照的な羽の模様にオニキスが嵌め込まれていた。
「買おうか?」
「え?」
「ちょうど対だしさ。誕生日だろ?値段も高くないし、お互いにプレゼントするってどうだ?」
「ゆ、びわの交換?」
 真っ赤になりながらミナは目をぱちぱちと瞬かせている。
 そんなミナがめちゃくちゃかわいいなあと思いつつ、店のドアを開けた。
 お互いにサイズを確かめた後、別々の箱に入れて貰った。

 店を出た後、ミナが少し顔を憂えている。その意味はすぐにわかった。
「店の人、なんか変に思わなかったかな…」
「思っただろうね。こいつらデキてるのかって、さ」
「え…やっぱり…」
 肩を落とすミナに、声を押し殺しながら笑いこける。
 こいつはなんて面白い生き物なんだろう。
 なんだかなあ…こいつを見てると心が癒される、優しい風に舞い上がる。
 …ああ、嶌谷さんの言う分かち合う喜びとはこういう感覚なんだろうなあ。そして嶌谷さんは俺がミナを見るみたいに、俺を見てくれているのかもしれない。

「ねえ、ミナ、ケーキと食材を買って、家でふたりだけのパーティしよう」
「うん。それがいいね」
「その後、めちゃくちゃ可愛がってあげる」
「…外で、言うな」
 茹でたタコみたいに真っ赤な顔を下に向けたミナは、そっと俺のコートの端を握り締めた。

 突然、罪悪感が沸き起こる。
 俺は…ミナを選んでいない。
 ミナだけじゃない。この先俺がどんな奴を愛そうとも、俺は慧一以外を選ぶことはない。
 生まれてからずっと俺だけを思い求めてきた慧一を思うと、俺はその愛に打ちのめされる。慧一の前では俺は自分が求めた恋愛の重さなど塵のように軽い気がしてならない。
 そして俺はその慧一の愛と対峙していたいと望んでいる。
 それは欲望でもある。独占欲でもある。
 慧一が俺から離れることは、俺が許さない。
 そう決めてしまった今、俺には慧一以外を選ぶ意味はなくなった。
 だが、ミナを思うこの感情はなんだ?
 こんなにときめいて、こんなに愛しいと思い、可愛がってやりたい、幸せにしてやりたいと思うこの気持ちはどう処理すればいい。

 俺はミナの悲しむ顔なんて見たくない。
 だが、ミナを選ばないと決めた以上、いつか俺はミナを泣かすことになるのだろう…

「ねえ、リン、夕食のメニュー何にする?」
「なんでもいいけど…カレーはやめとこう」
「何故さ」
「…飽きたから」
 
 今夜ぐらい、慧一のことなど思い出させないでくれよ。








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しばらくこちらに集中。
絵を描く暇があるのか…
PCに座って一時間弱で書いたけど…なんつーか完成度が低くてすまんのう…

宿禰凛一編 「HAPPY」 2 - 2010.06.05 Sat

2.
 からっぽになったワインのボトルをテーブルの隅に押しやり、嶌谷さんはソファに深く座りなおした。
 腕組みをして上を向いてじっと目を閉じている。
 俺はただ嶌谷さんの言葉を待っていた。
 
 しばらくして嶌谷さんは顔を俺に向け、手招きした。
 嶌谷さんの身体にくっつく程に近寄った俺に、嶌谷さんは顔を綻ばせると俺の肩を軽く抱き寄せ、ゆっくりと話し始めた。 

「凛一、俺は前におまえに愛する者と添い遂げたいのなら、ひとつを選ばなきゃならないって言ったよな」
「うん、覚えているよ。貫きとおしたい『愛』があるのなら、ひとつだけを選べって嶌谷さんは言った」
「あれは…慧一くんに、おまえが慧一くんを諦めるように説得してくれと頼まれたから…ああいう風に言ったのさ。…俺に選べなんて言う資格はないんだよ。俺は選ばなかったんだ。
…なにひとつ、選べなかった。だから今も独りなのさ」
 嶌谷さんはテーブルのグラスを睨むように見つめている。
 俺の肩に置いた手に力が込められた気がした。

「前に話したことがあるだろ?若い時に結婚したけどうまくいかなくてすぐに別れたって」
「うん」
「愛のない結婚だった。俺が選んだわけじゃなかった。だが俺は彼女を不幸にした。…俺には好きな奴がいたけれど、そいつを選ぶ事も出来なかった…
結局、俺は嶌谷グループの跡取りの座にも適せず、子孫を残す事もできす、嶌谷家のお荷物になってしまった。そんな俺を見かねてさ、俺の身代わりをする奴がいたんだ。全部俺が引き受けるって、ね。
まだ大学出たばかりの歳で嶌谷グループの取締役を自ら買って出てさ。回りに押し付けられ、取引先のご令嬢と政略結婚ながらも、跡継ぎまでちゃんとこしらえやがった…
あいつは、俺を自由にする為に、自分を犠牲にしてしまったんだ…」
「…その人って…嶌谷さんの従弟の?」
「ああ、そうだ。嶌谷宗二朗って言うんだ。5つ下でね。小さい頃は家庭の事情があって捻くれてたんだが、俺には良く懐いてくれてた…」
「好きだったの?」
「そうだな…お互いに求め合っていた。だけど俺は奴の想いを受け止めることが出来なかった。あの頃はゲイっていうのをおおっぴらにもできなかったからね。俺もいっちょ前のプライドがあったんだ。結婚したけれどすぐに間違いだって気づいたのも宗二朗がいたからだ。あいつの目がいつも俺を責めるんだ。『自分に嘘を付いて幸せそうにしていても、何の意味もない。おまえは自分の人生を否定するために生まれてきたのか』…ってさ。
相手の意向もあって協議離婚をしたけれど、今度は子供が病死してしまっただろ?精神的に追い詰められて仕事どころじゃなくなった。宗二朗はそんな俺を哀れに思ったんだろう。自分がすべてを負うから、好きな道を選べばいいと俺を嶌谷家から解放してくれた。
彼はもともと嶌谷家の本筋ではない。だから口に出せぬ嫌がらせもあっただろうが、あいつはすべてを受け止めて、その行動力と実力でトップに登りつめたんだ」
「すごい人だね。サテュロスもその人が嶌谷さんに任せたんだよね、嶌谷さんの為に」
「ああ、充てもないまま放浪してた俺に休まる『家』を与えてくれたんだな。でも、まあ、条件はあった」
「どんな?」
「『俺だけを一生愛してろ』と…ね」
「すげ、横暴。でも嶌谷さんも愛してるんだろ?」
「あいつが俺に執着するのは、色んなことがあっての話だし、確かに俺も宗二朗を愛してるよ。だけど、彼には家族が居て、大企業の責任者で暇もなく世界を飛び回っているようなビジネスマンだ。俺にかまっているような人間じゃない。こんなじじいなんか見捨てればいいのに、執着しまくっている」
「お互いに愛しているんじゃないか。なんで彼の愛を受け入れないの?」
「俺は、選ばない事を選んだんだよ、凛一。誰を愛しても誰が俺を愛してくれても、俺は選ばない。ただ想いは残る。それだけでいい…」
「そんなの…寂しすぎない?ひとりで生きるのは寂しいもんだろ?」
「愛することをやめたわけじゃないよ。俺は沢山のものや人を愛しているし、大事にしている。自分のものにはできないけれど、与えることは出来る。凛、おまえへの愛もね、真実だよ」
「嶌谷さん…」
 俺は嶌谷さんの胸に顔を押し付けた。ただ嶌谷さんを慰めてやりたかった。
 優しさ故に選ばない嶌谷さんに俺ができることってなんだろう…

 嶌谷さんは俺を抱き締め、それから頭を撫でた。
 嶌谷さんの子供であったら、嶌谷さんを寂しがらせないでいられたのかな…

「俺、嶌谷さんの子供になりたかったな。そしたらもっと素直に育ったのにね」
「まさか。俺はロクな父親にはなれんさ。…凛は素直ないい子だよ。俺は凛が我が子じゃなくて幸せだと思っている」
「なぜ?」
 今にもくっ付きそうな距離で嶌谷さんの顔を見上げた。
「近親愛で悩む必要はない」
 おどけて笑う嶌谷さんの顔を見てたら、泣きそうになった。
 どれだけの孤独を抱えて生きてきたのだろう…
 俺なんか、嶌谷さんに比べたらまだ何も抱えてはいない。
 貰ってばかりだというのに…

「俺は選ばなかった。だが、凛一や慧一くんには…そうであって欲しくないんだ。慧一くんの凛への愛は純粋で一途だ。どんな時でも自分の事よりおまえを第一に考えてしまう…それを変える事は彼には一生無理だ。慧一くんは凛を選んでしまっているからね。後は凛一次第だな。
取り違えないでくれよ、凛。俺は慧一くんを選べとは言ってるんじゃないよ。ただ、未来に生きていくパートナーはひとりしか決められない」
「嶌谷さんは選ばなかったじゃないか。嶌谷さんのような選ばない道もありえるんだろ?」
「それでは…全副の幸せは手に入らない。凛は心から幸せになりたいって願うだろう?だったら選ぶんだよ。それは相手を傷つけるかもしれない。けれどね、おまえも傷つくんだ。相手も選ばれなかったことを嘆くだろう。罵るだろう。だけど、恋をしたことは不幸ではないんだよ。
人を好きになる気持ちはいつだって高揚し、夢を見せてくれ、喜びに沸く。
傷ついたとしても何もないよりも千倍も価値がある…そうは思わないか?凛一」

 


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嶌谷さんは45だよ


嶌谷さんの話は長いのがたまにキズだね(;´∀`)
大好きだよ。

宿禰凛一編 「HAPPY」 1 - 2010.06.02 Wed

凛一は何をやってる!


宿禰凛一編
「HAPPY」
1、
 慧一がアメリカへ行ったその週末、俺は嶌谷(とうや)さんに会いに行った。
 慧一との間にあったことを嶌谷さんには知ってもらいたかった。
 なぜなら、嶌谷さんにだけは俺は自分と言う人間をさらけ出してしまいたかったからだ。
 慧一にもミナにも見せられない汚い俺を、嶌谷さんは知っている。

 「Satyri」が閉店になるまで店に居座って、閉店後、嶌谷さんのマンションへ着いていく。
「凛一、店の後片付けまで手伝って疲れただろう。先に風呂に入りなさい。話はそれからゆっくり聞こう」
 素直に従って、入浴した。
 嶌谷さん宅の浴室は船の先頭みたいに角がガラス張りになっていて、東京の夜景が一望できるんだ。
 浴室を暗くするとキラキラして夜空を漂っているようだ。
「今度慧一を誘って一緒に入ろうかな。ああ、ミナにもこの夜景を見せてやりたいな…」
 口に出した自分の言葉に戸惑ってしまった。

 俺はふたりを当然のように並べ、そして自分の思い通りにさせようと思っている。
 一緒に見たいと思っているのは俺であって、彼らはそうじゃない。
 少なくとも…お互いにとってお互いは邪魔なだけだろう。
 俺の未来は慧一と生きていくと決めているけれど、今はミナに伝えることじゃない。

 …俺って奴はなんて残酷で自分勝手なんだろう…

 湯を掬っては流れていく自分の両手を見つめて愕然とした。
 自分の罪深さはある程度はわかっているはずだったが、どうして俺は自身でそれを咎めようとしないのだろう。 
 これじゃあ、まるで天罰が下るのを待っているみたいじゃないか。

「いざとなったら月村さんみたいに死んじゃうかな。そしたら何もかも…」
 『ネガティブなことを口に出したら本当になっちゃうわよ。だから、凛、死にたいなんて口走ったりしちゃ絶対にだめだからね』
 昔、梓の言ったことを思い出し、俺は口を閉ざした。
 梓の為にも俺は生きなきゃならない。幸せにならなきゃいけないんだ。

 風呂から上がってリビングへ行くと、嶌谷さんが簡単なオードブルをテーブルに広げて待っていた。
「おいしい!このパテ、店に出してる奴だね。フォアグラとトリュフ入りだ」
 カナッペに盛られたパテを口にして思わず顔が綻ぶ。
「余ったんで持ってきた。遠慮なく食べろや。この生ハムも美味いぞ」
「ありがと、慧一が帰ってから、家でひとりで食うのも作るのも億劫になっててね。正月はずっと慧が家事を引き受けてくれてたから、すっかりものぐさになっちゃった。夜飯を食べない日もあるもん」
「…心配だな。栄養不良は美容と健康の大敵だ。ちゃんと食わせてやるから毎日来いって言いたいけど、鎌倉からじゃ遠いしなあ」
「いいよ。たまに来るからありがたみも沸くってもんだろ?嶌谷さんも俺ばかりに構ってはいられないしね」
 嶌谷さんは損得抜きで俺に付き合ってくれているけど、ちゃんとした実業家で、店の経営も任されている。俺に構っていられるほど暇人じゃないってことぐらいわかっている。

 嶌谷さんは赤ワインで、俺はお酒に強くないから、軽い炭酸リキュールを貰う。
「…で?話ってのは何だ?」
「うん、あのさ…この間ね、慧一が告白したんだ。俺を愛してる、欲しいって…やっとね」
「…そうか」
 グラスの中身を一気に飲み干した嶌谷さんが感慨深げに溜息を吐いた。
「嶌谷さんは知ってたんだろ?いつ、慧に聞かされたの?」
「…月村の別荘にいるおまえを探しに、慧一くんとふたりで車で向かえに行った時だよ。
彼がおまえを愛していることは、慧一くんを初めて見たときから瞬時に気がついたよ。と、言うより…会う前から、おまえの話を聞いて何となくわかっていたんだ。慧一くんの気持ちがね」
「ずっと一緒に居た俺が全然気がつかないなんて、鈍感過ぎて腹が立つよ。もっと早くわかっていりゃ、俺は慧のものになってたのに…そしたら…」
「そしたら?」
「…もしなんて下らない戯言だね。いや、過ちだとしても過去の判断は覆せないからね。俺は今、慧一とちゃんと向かいあって話せたことを幸せだと思っている」
「で?」
「え?」
「寝たのか?」
「…エロじじい…」
「一番気になる話だぜ。且つ重要…だろ?性の不一致なんざ、ざらにある」
「不一致ねえ…わかんね」
「わからんって…」
「寝てないもん」
「え?」
「慧とはセックスしてないってことだよ」
「どうして…」
「俺は寝てくれって頼んだけど、慧が…俺が大人にならなきゃ抱きたくないってさ。ありゃ、意地張ってるのかね」
「ふ~ん。慧一くんも我慢強いことだね。とことんマゾ体質なのかな~。俺ならすぐに頂くけどね」
「だろ?せっかく俺が寝てくださいって頼んでいるにもかかわらず!だぜ?俺、ホントに愛されているのか疑いたくなったもん。抱けないなら他所で男と寝てくるって言ったらめっちゃ怒るしさあ。そんで無理矢理俺だけイカされて、たまったもんじゃないよ。マゾだかサドだかわかんねえよ、慧は」
「それは凛が悪いだろう。そんな挑発をしたら俺だって怒るね。嫉妬と束縛、これは愛し合うには重要課題だし、欲望に火がつく要素にもなる」
「じゃあ、嶌谷さんと寝たって慧に言ったら、慧は俺を抱くかもしれないね」
「まだ俺は死にたくないね。殺されはしないだろうけれど、おまえとのセックスと慧一くんの信頼を天秤で量ったら…」
「量ったら?」
「…こりゃ難しい問題だな」
「俺、嶌谷さんとならいつだって抱かれていいのになあ…」
「その態度が慧一くんの頭痛の種なんだろ?不義密通は大罪だぞ」
「法的に婚姻したらだろ?男同士じゃ結婚できない。それに俺と慧は血の繋がった兄弟だ。この時点で世間から見りゃアウトだろ。…ガキの俺はいいが、社会人の慧一にとっちゃ何もかもマイナスだしさ。おおっぴらに愛してます!って公言するわけにもいかない。
どっちにしても俺は慧が考えるほど、セックスを恐れてはいない。もともと俺にとっては愛のないセックスはスポーツでしかない。まあ、好きな人とやる方が快感は大きいだろうけれどね。だがそこに本物の愛が交わると、とんでもない場所へ到達する…即ち、
…無上の喜びと、底知れぬ怖れを知る…
昔、嶌谷さんが俺に言ったんだよ。誰にでもついていく俺を戒めようとね。嶌谷さんは俺のことを本気で叱ってくれたし、守ってもくれた。愛してもくれたよね。と、言っても嶌谷さんは俺を抱こうとはしない。…何故さ。俺じゃガキ過ぎて相手にならない?それとも、慧一と同じなの?」
「…」
 嶌谷さんは俺の問いに目を逸らしたっま、何も言わなかった。
 怒るでもなく笑うでもなく、ただ黙ってワインを継ぎ足している。
 俺は嶌谷さんの俺への気持ちは同情心や家族のような愛情とばかり思っていた。もし、そうでなかったら俺はこの人までも傷つけることにならないか…

「嶌谷さん…俺は本当に慧一を選んでもいいのだろうか…俺の存在が俺を好いてくれる人たちを苦しめる事にならないだろうか…俺が選ぶ事で、大好きな、大事な人たちを傷つけてもいいのだろうか…」
 納得のいく答えなどないのだろう。
 だけど俺を支える言葉が欲しい。


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Swingbye 27へ
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私もこれでいいのかどうかを応えてくれる言葉が欲しいぜよ。

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