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2010-10

自由絵 (フリー) - 2010.10.29 Fri

背景描きたくて描いた絵。

キャラも決まってない為、使いたい方はひと言コメして使用可。


tuki-1.jpg

顔アップ。


tuki-2.jpg

たまになんも考えなくて描くのもいいね。

まあ、どんな物語でもできるけどね。
そのうち、短編でも考えようかね~



宿禰凛一編 「HAPPY」 26 - 2010.10.28 Thu

最後のフォト

26、
「宿禰、ひでえナリになったな」
「ああ、全滅だ」
 送別会が終わり、俺と三上は「詩人の会」の教室を後にした。
 三上が呆れたのは俺の恰好だ。ブレザーの釦は袖ボタンすら一個も残ってない。すべて後輩と同級生に引きちぎられてしまった。
「残っていたら俺も貰おうかと思ってたんだが」
「おまえの下手な冗句もこれで最後だと思うと、感慨ひとしおだね~」
「俺もおまえの艶顔を見れなくなると思うと、悲しいぜ」
 泣きまねをする三上に、俺は頭を下げた。
「三上、本当に三年間ありがとう。おまえが居てくれて楽しい高校生活を送れたよ。S大受かっているといいな」
「手ごたえはあるけれどね。宿禰こそ、気をつけろよ。なんせ日本と違って無法地帯だからな」
「そんなこともないぜ。ニューヨークも住みやすい街さ。機会があれば来いよ。案内するから」
「そう言われると、憧れるね。俺も留学するかなあ~」
「益々ユミちゃんと離れてしまうぞ」
「そうだな。だけど、恋愛なんていつまで続くかわからないし、無理に続けても幸せじゃないなら意味ないしな」
「幸せの定義は問題があるけどな」
「相手の未来を考えりゃ、常に自分でいいのかっていう不安はあるよ。それでも繋がっていたいと思う気力こそが恋愛なんだろうな…宿禰、水川と最後の別れを言ったか?」
「いいや、まだだ。もう帰ってしまったかもしれない」
「いや、寮の送別会が三時からあるんだ。それには参加するって言ってたから、まだ校内か寮にいるはずだ」
「そうか…ありがとう。探してみるよ。じゃあな、元気で、三上」
 握手を求める俺の手をじっと見る三上は独り言みたいに呟いた。
「俺はおまえの引き立て役ってわかっていたけどね。ちっとも嫌じゃなかった。おまえはいい奴だよ。見かけなんて関係ない。勝手に親友呼ばわりで、おまえにしちゃ迷惑だったろうけど」
「俺が何の気負いもなくここに来たと思うのか?不安で仕方なかったさ。おまえが最初に俺に声を掛けてくれたんだよ、三上。おかげでとびっきりの高校生活を送れた。おまえは最高の親友だ。これからもずっとだ」


 この学院でのひとつひとつの思い出を心に刻み付ける。
 後はミナだけだった。だがミナと過ごした時間を思い出にはしたくない。
 俺はポケットから銀の指輪を取り出し、左の中指に嵌めた。
 ミナと誓った指輪が勇気をくれるだろう。
 ミナ、本当の想いを告げなきゃ、俺はここから飛び立てない。

 探さなくてもミナが今どこに居るのか、俺にはわかっていた。
 運動場を横切って温室へ向かう。
 風が舞い上がり、瞬く間に灰色の空から大粒の雨が降り注いだ。
 濡れるのも構わずに懸命に走って、温室へ辿り着いた。
 ガラス窓から中を覗く。蒸気で曇った向こうに人影が淡く浮かんで見える。
 俺は温室の扉を開く。

「ちょっと雨宿りさせてくれよ」
 ここでおまえと初めて出あった時、俺はこう呼びかけたね、ミナ。
 時を戻そうなんて思っていないよ。
 ただ、知って欲しいだけ。
 初めて見た時から、俺は恋に落ちたんだ。
 一生得られないものだと感じたんだ。
 ずっと変わらないものだってあるって、信じたい。
 それは、こういう感情なのだろう?ねえ、ミナ。

 雨に濡れた俺に、ミナはあの時と同じように自分のハンドタオルをくれた。
 それがあの時のものと同じだったから、変な気分だった。
 あのハンドタオル、俺が洗って返したんだよな。まだ大事に使っているんだな。
 
 手を休めたスケッチブックを覗いてみる。
 相変わらずのミナ独特のタッチ。繊細でありながらしっかりとした輪郭を持つ花々…パラパラと捲ってみると、草木と一緒にたくさんの俺の素描がある。笑った顔や寝ている顔、裸でうろついてる恰好は俺のマンションで描いたものなのかな…どれもミナの愛情を感じてしまう。
 こんなに俺を想ってくれているのに…
 半分冗談で、「俺を描いた油絵を見たかった」と、言う。
 ミナは真剣な面差しで「卒業記念に渡そうと思っていたけど、間に合わなかったんだ」と、謝った。
 その誠実さに惹かれた。素直で純粋な心がたまらなく愛おしかった。
 ずっと傍にいて、笑顔を見ていたかった…本当だよ、ミナ…

「ミナが好きだよ。この恋は本物だ。これからもずっと続く想いだ」
 左指に嵌めた指輪を見せた。ミナがそれを付けているのは、ここに来た時、すぐに見つけていた。
 ミナは恥ずかしげにそれを隠し、意地を張る。それさえも可愛くてたまらないんだ。
 ミナが意地を張るときはいつだって、その裏に真の心があるってわかるから…

 俺は素直に自分の気持ちを打ち明けた。
 これまで慧一が俺に抱いていた想いと、俺が応えていかなきゃならない想い。それでも、ミナを今と同じようにこれからも好きでい続けたいって願っている事。
「ミナが好きでたまらないから、離れていたって、ミナに恋し続けるだろう。それを、許してくれる?」
 都合のいい返事を期待していたわけじゃない。ただ、自分の気持ちを打ち明けたかっただけだ。それが、我儘だと、身勝手だと詰られようと、この恋を中途半端な形にしたくなかった。

「リン…おまえがおれに愛をくれた。おれの中に愛を植えた。育った花は見たこともないくらいに美しかった。その実を味わうのはおまえとおれじゃなきゃならない…そうだろ?」
 ミナの頬に零れる涙をハンドタオルで拭いてやった。
 フフッて笑うミナを優しく抱いた。
「ミナ…これからも…おまえに恋しているから」
 
 離れててもね、「好き」な気持ちは色褪せない。
 そんな「恋」が存在してもいいだろう?



 寮の送別会に遅れないようにと、ふたりで一緒に温室を出た。
 通り雨はとっくに止んでいて、雲間から青空が覗いている。
 温室の鍵を丁寧に閉めて、手を繋いだ。その鍵を藤内先生に渡す。
 先生は「good luck!」と、笑って送ってくれた。
 校門にはもう誰の姿も見当たらない。
 俺とミナは顔を見合わせ、そして繋いだ手をゆっくりと離した。

「さよなら、ミナ。元気で」
「リンも…元気でね」
 
 そう言ったっきり、お互いを見つめたまま動かない俺たちは、一体なんなんだろうな…
 その時弾くように、後ろに聳え立つチャペルの鐘が鳴ったんだ。
 ゴーンゴーンと何度も。聞きなれた音だ。
 俺たちは振り返った。
「ここに来ればリンに会えるね」
「え?」
「ほら、あれだ」
 ミナの指差す先はチャペルの尖塔。
 そのてっぺんに輝く金色のウリエルの右手は、未来の空を指している。




凛一青弥

「HAPPYはこれで終わります。次は「only one」がはじまります。。


「HAPPY」25へ
「only one」1へ
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ


水川青弥編 「フラクタル」 12 - 2010.10.27 Wed

onnsitu


12、
 濡れた髪からいくつかの雫が落ちていた。
 あの時と違い、この季節では寒かろう。
 じっと立ち止まっておれを見つめるリンに、おれはカバンからハンドタオルを出して、彼に渡した。
 皮肉な事だが、ハンドタオルもあの時のものだった。
 この一連の偶然をリンが覚えているのかは定かではないけれど、受け取ったリンはにっこり笑い「ありがとう」と、言う。
 昨日叩いた頬は腫れてなかったから、少し安堵した。下に目を移すと…なんか変だ。
「釦…」
「あ、ああ、回りの奴等にひとつ残らず取られてしまったよ。なんでブレザーの釦に拘るのか、俺にはさっぱりだ。なにか適当な事例があったら教えてくれ」
「みんな…リンの着てたブレザーの釦が欲しいんだよ。ただの釦じゃない。リンが三年間腕を通したっていう記憶があるんだ」
 貰った奴らが少し羨ましく思えて、ムキになってしまう自分が恥ずかしかった。おれだってリンのものだったらなんでも欲しいもの。
「ふ~ん、そんなもんかな~」
 リンは頭を傾げ、おれのハンドタオルでがしがしと髪の毛を拭いている。

「ミナ、また描いてたの?ああ、綺麗なシンビジュームだね。良く描けてる」
 机に置いたスケッチブックを手に取ったリンは何枚かめくり、眺め始めた。
 草木の絵も多いが、それと同じほど、リンのデッサンをしたためてあるから、あまり見られると恥ずかしいくてたまらない。
「残念だな」
「何が?」
「俺のデッサンはこんなにあるのに、ミナの描いた油絵を見れなかった」
「あ…途中までは出来てたんだけど…」
 油絵で描いたリンの肖像画を卒業するまでに仕上げて、リンに渡そうと思っていたけれど、受験勉強に打ち込みすぎて、ほったらかしにしてしまっていた。美術室の倉庫に保管したままだ。
「ごめん。卒業の記念にリンにあげようと思っていたのに…間に合わなかった」
「いや、いいよ。今更、俺を描いても、あまりいい気分はしないだろうから…」
「そんなことはない!」
 思わず本気で出た言葉におれ自身も慌ててしまう。なんだろう…ドキドキしてる。
「…リンと別れたからって、リンを描きたくないなんて…思わないよ。だって…」
 別れたからってリンを嫌いになったわけじゃない。
 おれはリンを見つめた。
 昨日とは違う優しく、慈しみのある眼差しでおれを見つめるリンがいた。

「リン…昨日は…悪かった。叩いたりして。良く考えたら、人の人生を自分の好きにしていい権利なんかない。リンがおれから離れても、俺が怒ることもなかった」
「そうかな。俺はミナが真剣に怒ってくれて少し嬉しかった。ただ…かっこつけすぎてた」
「え?」
「ミナに嫌われようとしてた。憎まれてもいいから、ミナを自由にさせたいって思っていた。それこそ勝手な思い込みって奴だね。それに…あれは本心じゃない」
「…」
 リンは左手をゆっくり上げて、俺に見せた。
 中指におれとお揃いの指輪…
「ミナが好きだよ。この恋は本物だ。これからもずっと続く想いだ」
「…」
「指輪、付けてくれたんだね…ありがとう」
「ち、ちがう。別に深い意味は…」
 慌てて隠した左手が恥ずかしかった。今ここで強がるフリなんて意味はないのに…

「ミナ…もう俺を嫌いになった?」
「…昨日別れて、すぐに嫌いになれるわけないだろう。おまえを好きになる時間をどれほど費やしたと思ってる。…簡単に嫌いになるぐらいなら…初めからおまえを好きになったりしない。おまえを…引き止められなかった自分が悔しいだけだ」
「ミナへの想いが慧に比べて劣っているわけじゃないよ。ただ慧一は特別なんだ」
「…」
「慧一は俺が生まれた時から、俺を愛していた。その愛は偉大で複雑だ。親愛や情愛…俺を欲しいと思う愛情…俺はそういう慧一に大切に育てられた。慧一が居なかったら今の俺はない。これまで何も知らなかった俺が慧一の本当の想いに触れてしまった。それを知った俺は慧一を守りたいと思った。慧一の生きる糧は俺だ。そして…俺も慧一が幸せじゃないと、嫌なんだ。外から見たら気持ち悪いと思うかもしれない。だけど、俺は慧一の傍にいてあげたい。それが慧一の望みなら、それを叶えてやりたいんだ」
「そんなに?」
「慧一だって同じだ。俺の幸せだけを考えてくれている。だから、ミナを選んでも、俺が幸せならそれを許すだろう。慧一はそういう奴だ。だから…ゴメン、ミナ。おまえと一緒に歩けない。…けれど、ミナを想う心は自由だ。ミナが好きでたまらないから、離れていたって、ミナに恋し続けるだろう。それを、許してくれる?」
「離れたら…なにひとつ共有することはできない。その恋心は永遠じゃないよ」
「感情は寄せては返す波と一緒だよ。一秒だって同じ流れじゃない。でも寄せる波の中にいつだって…ミナへの恋心が潜んでいる。そう思えば長続きするかもな」
「…最後までリンに言いくるめられてしまいそうだ。信じたくなるじゃないか」
「無理強いはしてないよ。ミナの想いは自由だ」
「おれの方が…リンよりずっと強いことを証明したくなる。絶対に…好きな想いはリンには負けないよ」
「ありがとう、ミナ」
「礼を言うな。全部、全部おまえの所為なんだから…おまえに出会ってなかったら平和な学校生活だった。おまえを好きにならなかったら何も悩まずに済んだ。おまえを愛さなかったら…おれは、こんなにおれ自身を愛せなかった…」
「…」
「リン…おまえがおれに愛をくれた。おれの中に愛を植えた。育った花は見たこともないくらいに美しかった。その実を味わうのはおまえとおれじゃなきゃならない…そうだろ?」
 眼鏡の向こうに、泣いているリンがぼやけて見えた。
「ミナ…これからも…おまえに恋しているから」

 お互いの左手を絡めた。涙は流れるが悲しくはない。
 一杯になった愛の魂が溢れて涙になっているだけだ。
 抱き合ってキスをした。
 最後じゃない。
 ずっとこれからだって…ね、おれが欲しがればいつだって、
 またくれるだろ?リン…

 おれの方が、ずっと…おまえに恋しているよ。




最後


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宿禰凛一編 「HAPPY」 25 - 2010.10.25 Mon

rin

25、
 一瞬鼓膜が破れたかと思うほど、何も聞こえなくなった。
 温室の残響のように、自分の頭に響いた。
 ミナの平手打ちは本気のものだった。
 打った本人も、驚いた目でその手を何度も摩っている。
「…一度でいいの?ミナは幾らだって俺を殴る権利があるよ」
 俺の言葉に、ミナは今にも泣き出しそうな顔で俺を見つめた。

 ミナに別れを告げなきゃいけないのに、言えないままとうとう卒業式を明日に控えた。
 別にミナを嫌いになったわけでも、ミナが俺と別れたいわけでもない。今だって、めちゃくちゃ好きなのに、どうしても別れをはっきりと告げてしまわなきゃならないものなのか…
 いっそのこと、ミナを騙したまま離れた方が、ミナの泣く顔を見なくて済むんじゃないかと寸前まで悩んだが、それではミナが可哀相すぎる。
 大罪には違いないのだから、俺への処罰は身をもって受け止めなきゃならない。
 憎しみを、罰に代えて裁くのなら、ミナは気が晴れるかもしれない。

 温室で俺はミナに別れを告げた。
 「別れるのは嫌だ」と、泣きつかれるのか、「おれよりも慧一さんを選ぶんだね」と居直られたりするのか…不安で仕方なかった。なんにせよ、俺はミナの怒りを受け止めなきゃならない。
 しかし、ミナは精一杯のプライドで、俺に立ち向かった。
 別れの未練など一切見せずに俺の身勝手な決別を受け入れ、俺の枷を解き放った。
 形だけであっても、それはミナの勇気がくれたものだ。
 ミナは俺よりも何倍も強い。ひとりでそれを耐える気でいるのだから。

 ミナから温室を出てくれと言われ、逃げるように外へ出た。
 すぐに三上に連絡をつけ、教室で会うことにした。
 俺はミナと別れたことを話し、今日一日は同室である三上にミナを見守ってくれるよう頼んだ。
 三上には少し前に卒業したら留学する旨を話していた。
 三上は「水川はどうするんだ?」と、心配したが、「別れるしかない」と、言うと、自分のことのように泣いてくれた。
「どうしようもないのか?」
「…ああ、三上に応援してもらったけれど…仕方ないんだよ。ごめんな」
「水川が、かわいそうだ」
「…」
 返事は出来なかった。

「ただいま」
 重い足取りでマンションに帰った。
「凛、お帰り。今、嶌谷さんから連絡があって…その顔どうした?」 
 リビングで仕事をしている慧一をやりすごして自室に篭ろうとしたら、それより早く俺の顔を見た慧一に気づかれてしまった。
「…ミナに叩かれた」
「そうか…」
「きっぱり別れたからさ…これでミナも…俺なんかよりずっといい奴と巡りあえて…幸せになってくれると思うよ…」
「…」
 今更隠す気も起きない。
 正直、内側の傷は自分で思うよりも相当に深そうだ。
 自室のベッドに寝転んでいても、泣いているミナの顔が、チラついて仕方がない。
 心配した慧一が冷たいタオルを用意してくれ、それを頬に当てた。
「凛、大丈夫か?」
「ああ、こんなの、ミナの傷に比べたら大したことない」
「自分を責めているのか?」
「恋愛にどっちが悪いもないだろうけれど…こればっかりは自分を責めずにはいられない。時が経てば薄らぐもんだろうけれど…」
「凛、おせっかいかもしれないけれど、少し話をしてもいいかい?」
「何?」
 俺は上半身を起こして、ベッドの端に座る慧一の顔を見た。
 
「水川君と別れることになった原因は俺にもある」
「慧に責任はないよ。俺が決めたことだ」
「わかっているよ。俺だって今更凛を誰かに譲るなんて出来やしないからね。でも…凛、おまえはちゃんと伝えたのかい?」
「何を?」
「今も変わらず水川君の事を愛してると…自分が選ばなかった本当の真実を話さなきゃ、おまえは水川君に嘘をつき続けることになるよ」
「…だって…本当の事を言えば、ミナを愛し続けるって言ったら、ミナはそれを背負い込まなきゃならなくなる。俺の愛に捕らわれて、これから会う誰かを見過ごしてしまうかもしれない」
「それは凛への想いがその誰かよりも強い証拠となるね」
「…」
「誰かを好きでいられることは心に拠り所が培うんだ。その人が自分を好きでいてくれたらより以上に。…離れていたとしても、支えになる。俺がそうだったからね」
「慧…」
「もし俺が水川君だとしたら、別れなくちゃならなくてもいいから、凛に愛していると言って欲しいと思うよ。だって、それが凛の本当の気持ちなんだろ?」
「…それじゃ…慧が傷ついてしまうじゃないか。俺がミナをずっと想っていてもいいの?」
「好きの気持ちをどう抑えられる?恋愛に道理は通じないよ。ただ感情だけが、自らを突き動かすんだよ、凛。…俺は充分に凛を愛してきた。これからもずっと愛している。その愛は凛を支えるだろう。だけど、これは恋ではない。凛は水川君と唯一の恋をしていると言っただろ?思い出にしないと言っただろ?ねえ、それは素晴らしい恋心じゃないのか?」
「許してくれるの?」
「生まれてからずっとおまえの自由と気高さを愛してきた。そして、俺は幾らだって許してやれる。愛故に…」
「…悩む事を恐れるな…」
「そうだよ、凛。俺はいつだって凛の帰る家だって言ったろ?」
「うん…」
 慧の胸にしがみついて、泣きたいだけ泣いた。
 涙の意味は無数にあるけれど、どれもこれも愛おしくて説明できやしない。

 その夜は眠りに就くまで、ミナから貰ったオルゴールを繰り返し聞いていた。
 これからこの「愛の夢」を聴く度に、ミナが打った頬の痛みと怒りと悲しみの混じったミナの顔を思い出すことになるのだろう。悲しくて辛いけれど、どこか甘くてたまらなく感じるのは…恋の痛みだからだろうか。
 
 聖ヨハネ学院高校を卒業する日が来た。
 当日は朝一番に卒業のミサがあるが、そちらは生徒だけの式で、保護者やゲストを迎えての公式の行事は体育館で行うことになる。
 卒業生ひとりひとり、ステージに上がり、校長先生から卒業証書を頂く型にはまったものに過ぎないが、名前を呼ばれ、大勢の仲間や先生に見守られ、証書を手渡される瞬間、何ともいえない感慨が満ちて、胸が熱くなった。
 ここで過ごした三年間は、唯一の輝ける青春だったに違いないって思えるから、きっといつまでも心に残る思い出だって思えるから、すべての人に感謝をしたい気持ちで一杯だった。
 ミナは県下でもスバ抜けて優秀な成績を残した者に与えられる県知事賞を受け取り、同時に絵画部門でのいくつもの芸術展入賞も讃えられた。
 ミナはいつか気づくだろう。自分が歩くべき道が何なのか…
 急がなくてもいい。ちゃんと探し出せるはずだから。

 式が終わり、各自、お世話になった方々へのお礼や、後輩からの送別で校内のあちこちが騒がしい。
 俺は慧一と一緒に藤宮紫乃へ挨拶へ行く。
「先生、三年間お世話になりました~」
 大仰に頭を下げる俺を、紫乃は冷めた目で見つめた。
「世話してやったことを一生わすれるなよ、凛一。将来大成したら、機会があるごとに俺を褒めることだな」
「そうだね~なんせ兄弟揃ってあんたには足を向けて寝られないからね」
「紫乃、本当に凛一に良くしてくれて礼を言うよ。ありがとう。これからは俺が紫乃の力になる番だ。俺に出来る事があるなら何でも言ってくれ」
「…じゃあ、俺と縒りを戻すか?」
「それは無理だ」
「即答か?じゃあ諦めるしかないだろうな」
 明るい紫乃の声に、俺も慧一も安堵したのは確かだった。
「紫乃、今晩、嶌谷さんの店で俺の卒業祝いと送別会をやるんだけど、紫乃も来ないか?」
「あ…嬉しいが、俺は明日も仕事なんでね。進学先が決まってない生徒もいるし…暫くは先生業に勤しむさ」
「ね、慧。紫乃は立派な先生だろ?」
「そうだな。大学の頃とは…大違いだ」
「人は成長する生き物だ。その過程がどんなものであろうとも、成長なくしての一歩はない」
「心に刻みます。じゃあ、俺、部活の送別会があるから、慧は紫乃とごゆっくりと!」
 ふたりを残して、俺は走り去った。少し離れて振り返る。
 慧と紫乃が仲良く話す姿に、なんだかほっとしてしまうのは、俺の所為で別れてしまった事への許しを感じてしまうからだろう。

 「詩人の会」の教室では、後輩たちが賑やかに送別会を催してくれた。
 そのお礼にと、卒業生達はひとりひとり詩を語ることになった。
 俺はレノン・マッカートニーの「Blackbird」の歌詞を読んだ。
 
 夜のしじまに歌う黒鶫よ
 傷ついた翼を広げて飛ぶことを覚えるがいい
 生まれてこのかた
 おまえは大空に舞う瞬間をひたすら待ちつづけてきた

 黒鶫よ 飛べ
 黒鶫よ 飛べ
 暗黒の闇にさしこむ光に向かって…

 学院という静謐な夜から、眩しさで何も見えない世の中に放り出される俺たちは、本当の自由の恐ろしさをこれから味わうだろう。
 青春時代の卒業と、未来を夢見る知識の蓄積は、新しい道を見極める一歩となろう。それを生きる喜びに変える情熱を呼び起こす為に…
 俺たちはがむしゃらに飛ばなくちゃならないんだ。








「HAPPY」 24へ /26へ
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宿禰凛一編 「HAPPY」 24 - 2010.10.21 Thu

rinmina12


24、
 センター試験が終わって、本試験までのひと月近く、ミナは寮と俺のマンションとの行き来を繰り返していた。
 正直、ミナと過ごす時間に後ろめたいものを感じなくはないが、ミナのおかげで学習能力は確実に上がった。ミナは要点だけを論理的に解釈する能力が優れているから、選択の速度が際立っている。今までの試験内容を要領良く暗記する方法もこちらが感心するほど巧みだ。
「ミナは先生向きじゃないのか?技術者になるとしても教える側になったほうがいい」
「無理だよ。おれ人見知りだし…リンは飲み込みが早いからやりやすいけど、後輩に説明しても教え方がわかりにくいって言われる」
「へぇ、こんなに整然と美しいほどなのに…」
 難解な方程式を一ページに書き出したノートは一見すると美しいモザイク模様に見えてしまう。

 夜はミナが求めるままに、できるだけの快楽を与えてやる。
 一年前だったら、ミナから求めるなんてありえない話だが、今のミナはおじけないどころが、伏せ目がちに俺を見つめ、誘ってくる程だ。
 こんなミナにしてしまったのも俺の所為だろうなあ…と、罪悪感は膨らむばかりだが、こちらももう時間がないのはわかっているから、ミナの身体に俺を刻み込ませようと必死になる。
 俺がミナを一番最初に抱いた男になる。そして、いつまでだってミナを愛し続けるから…その想い分だけはミナの身体に刻んでおきたい。
 …すべて勝手なエゴだけどさ。

 授業がなくても学院へは二日と空けず通っていた。
 息抜きと温室の手入れが目的だったが、ミナと離れてひとりで考えることも今の俺には必要な時間だった。
 いつミナに別れを告げればいいのか…どんな風に切り出せばいいのか…適当な答えは出ない。

 廊下を歩いていたら、校長室のドアに立つ人影を見た。
「鳴海先生!」
 俺は声を上げ、走り寄った。
「宿禰君」
「先生。良かった。卒業する前に一度お会いして、お礼を言いたかったんです」
「そうですか。私も宿禰君に用事があったので都合が良かった。さあ、どうぞ」
 ドアを開けて鳴海先生は俺を案内した。
 校長室を抜け、応接室のソファに座るように促した先生は、一息つき、カバンを開けて書類を出した。
「藤宮先生に聞きましたが、宿禰君は、コロンビア大学に留学するそうですね」
「はい、そのつもりです。出来れば秋の入学に間に合うように、勉学に励むつもりです」
「君のセンター試験の結果を考慮してですが…学院からも推薦状を出そうと思っています。どうでしょう」
「ああ、有り難いです」
「私もニューヨークに行く機会も多い。コロンビア大学の教授も何人か顔見知りもいるんですよ。その友人達にも君の事を伝えておきましょう」
「そこまで、甘えていいんでしょうか?」
「特別でもなんでもないことです。今までも私達は、こうして生徒たちを送り続けてきた。君もまた光の子としてこの学院から旅立つのです。出来る限りの贈り物を捧げるのが、我らの務めだと思っていますからね」
 春の日差しのような穏やかな笑みを絶やさない鳴海先生こそ、光の主ではないだろうか…

 その後、藤宮紫乃へ鳴海先生からの推薦状を見せに行く。
「紫乃が押してくれたんだろ?推薦状の事」
「慧一から頼まれてるし、担任としても優秀な生徒を一流の大学へ留学させるのは気分がいいもんだ」
「ふ~ん。紫乃も先生らしいこともするんだ」
「馬鹿言ってろ。それより、明後日はT大学の試験だろ?勿論白紙で出すんだろうな」
「いや、本気で満点目指すつもりだ」
「おまえ、少しは他人の事も考えろ。合格しても行く気もない奴が本気になるな。必死でそこを目指した奴が、おまえが合格した所為で落ちるかもしれないんだ。可哀相だと思わないのか?」
「全く思わないね。俺はミナと一緒に合格するって約束したからね。落ちた奴は勉強が足りなかった。それだけの話だろ。同情するもんかよ」
「…ったくな…おまえは確かに持って生まれた何かが備わっているんだろうが…世の中、おまえみたいな奴ばっかりいても、騒がしいだけかもしれんな…」
「俺みたいな奴はひとりでいいよ。死んだ後は絶対に地獄に落ちるからね」
 不敵に笑う俺に、呆れたように紫乃が言う。
「おまえは地獄へ行っても閻魔大王に取り入っちまうに決まっている」
「そりゃ楽しみだ」
 近頃、紫乃の俺を見る目はどことなく嶌谷さんに似ている気がしてならない。
 なんだかねえ~俺を守ってくれる人が増えてしまって、どうやってこの恩を返していこうか、こっちも随分と重い荷物を背負い込んでしまう気がしてならないが、きっとそれが人と人との繋がりなのだろう。そして、その重さと同量の喜びを俺は見出さなければ、恩に報いたことにはならないのだろう。
 

 T大の本試験の日は雪が散らついていた。
 実家からのミナと時間を合わせて試験会場へ向かった。
 試験の出来はミナも俺も似たようなもので、顔を見合わせニコリと笑った。
「案外簡単だった」 
「ミナのヤマ勘が当たったね。物理の応用力学問題、当たったじゃん」
「あれはまぐれだ。でも徹底して勉強しておいて良かったよ」 
「これで晴れて受験戦争から解放されたな」
「うん」
「寮に帰る?」
「いや…今日は家に帰るよ。母親がどうしてもって聞かないんだ」
「じゃあ、一緒に飯を食おう。その後、送るよ」

 早めの夕食を取り、世田谷のミナの実家まで送った。
「家に来る?」
「いや、いい。ミナが家に入ったら帰る」
「遠慮しなくていいよ。母さんが会いたがっていた。リンの事気に入っているから」
「そう…でも今日はやめとくよ。また今度お邪魔させてもらう」
「そう…じゃあ」
「うん。風邪引くなよ」
「リンも…」
 手を振り背を向けるミナを俺は呼び止めた。
「ミナ」
「ん?」
「これ、おまえが持っててくれ」
 俺は受験票をミナへ差し出した。
「なんで?」
「ま、合格は間違いないんだけどさ、どうせ一緒に掲示板見に行くんだし…ミナが持っているほうが失くさないから…」
「…うん、わかった。預かっておくよ」
 俺の受験票を受け取ったミナは、大事にカバンの中へそれをしまった。
 俺はそれを二度と見ることはないだろう。
「それじゃあ」
「うん。明後日、学校で」
「おやすみ、リン」
「おやすみ…ミナ。大好きだよ」
 俺の言葉に少し上目遣いで見つめ頬を赤くしたミナは「おれも…」と、小さく呟き、くるりと背を向け、玄関へ走った。
 ドアに消えるミナを見送った後、俺はしばらくひとりで佇んでいた。
 あまっちょろいメランコリーでもナルシシズムでもなんでもいいや。
 夕暮れの雪降る街に震えたい気分なんだ。
 ただひとつの想いを君に捧げたい。

 どうか、どうか健やかなる道を、君が歩けますように…

 
 明後日の卒業式を待って、慧一が自宅へ帰ってきた。
 ひと月以上も顔を見てなかったから、さすがに嬉しくてたまらず抱きついた。
「やっぱり慧の匂いを嗅ぐと安心する。おっぱいを欲しがる赤ん坊になっちまう」
「赤ん坊はそれ以上を要求はしないものだが、凛は欲しがりすぎるからね。…元気そうで安心した。もっと…」
「落ち込んでいると思った?」
「凛にとってこれほど有意義な高校生活はなかったと思うから…卒業するのが寂しいんじゃないかと思ったんだ」
「いくら居心地が良くても、いつまでも留まってては成長しないものだろ?出会いがあれば別れが来る…それが摂理さ」
「…」
「俺たちだっていつかは別れが来る。死は生と分かつものだからね」
「出来れば、おまえに見送って欲しいがね」
「任せとけよ。慧一は俺が看取ってやるから心配するな。それまでずっと離れないから」
「…ありがとう」
 
 その夜、慧一と同じベッドで寝たが、慧は俺を抱かなかった。
 ミナに対する配慮が、彼なりにあったのだろう。
 俺はそれが有り難かった。
 慧に求められたら、断る抑制など、俺には初めから無い。



「HAPPY」23へ /25へ
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rinntann


秋の景色 - 2010.10.19 Tue

大人になった凛一(25)と、慧一(34)

石畳

大人になった凛一は益々色っぽくなります。

ニューヘヴンの街を散策中。

物語はここまでを描く予定です。




水川青弥編 「フラクタル」 11 - 2010.10.18 Mon

凛一と青弥24


11、
 おれは黙ったまま、ジョウロを置いた。
 リンには近づけなかった。少なくとも楽しい話ではない。
 代わりにリンはおれの傍に近づいて、手を伸ばせば触れるほどの、真正面に立った。
「ミナに謝らなくちゃならない…俺は、合格してもT大には行かない」
「…」
 リンの顔を眺めた。どことなく憂えた端正な顔…少しだけ眉間が歪んでいるけれど、美しい。
「明日の卒業式が終わったら、アメリカに行く。…向こうの大学へ行こうと思ってる」
 その意味はわかっていた。
「そ…うか…リンは前から留学したいって言ってたもんな…おめでとう」
「ミナ…」
「だ、いじょうぶだよ。おれ、ま、ってるから…うん、四年ぐらいすぐだ。それに夏休みや冬休みは帰って来られるだろ?おれも、バイトしてリンに会いに行くから…大丈夫だ…」
 鼻の奥がツーンとなり、涙が出るのを必死で押さえていた。
「ミナ…ごめん。もう…ミナとは会えない…」
「…どうして?」
 聞かなくてもわかっていた…なのに、口は勝手に動くんだ。
 真実を暴き出したってなにも良い事なんかないのに…
「…慧一の傍にいたいから…」
 リンは目を逸らす事無くそう言い切った。少しでも弱みを見せてくれたら、俺だって哀れと思うのに。その姿は誇らしくさえある。
「じゃあ…なんで、今までおれと付き合っていた。ただの遊びか?暇つぶしに、世間知らずのガキを丸め込んで好きに惚れさせて…楽しんでいただけなのか?」
 そうじゃない…リンは誠実だった。そんなことはわかっていた。
 リンとおれは本物の恋をしていた…
 それだけは真実だ。
「結果的にミナと歩けないのだから…そう言われても仕方ない。ミナ…俺を憎んでくれていいよ」
「…ひどいね」
 バシッ!
 …リンの頬を叩いた音が驚くほど温室に響いた。
 おれの平手打ちなんか、避けようとしれば簡単にできたはずのリンは、正面からそれを受け止めた。
 リンの左頬が瞬く間に赤く腫れ上がった。
「…一度でいいの?ミナは幾らだって俺を殴る権利があるよ」
「これ以上叩いたら、こっちの手が持たない。一度だけだって、ひりひりしてる」
「…ゴメン」
「いや…いいんだ。どちみち長続きする恋じゃなかったんだ。リンとおれでは価値観も生まれ育った環境も違いすぎる。リンは慧一さんと暮すのが一番幸せだろうし、おれも…T大に行って勉強して…いい恋人でも探すよ」
「…」
「ねこ先輩が言ってた期限付きの恋っていうのは…本当だったんだな…」
「ミナ」
「本当の恋だと信じていたんだ…でも、しょうがない。だって恋はひとりでするものじゃないもの。それは片思いって言うんだろ?」
「…」
「いいよ。もう…いい。充分楽しんだから、もう、おれに関わらなくていい…」
「俺は…」
「しばらくひとりにしてくれないか、宿禰。水遣りが終わってないし、泣き顔でここを出て行くわけもいかないから…」
「…わかった」

 温室を出て行くリンの姿を振り返ることはしなかった。
 そんな力はどこにも残っていない。
 精一杯の強気でリンに別れを言えただけでも、自分を褒めてあげたい気分だ。
 さっき叩いた右の手の平を見た。
「あれがリンに最後に触れた温もりになってしまったのか?」
 溢れてくる涙を抑える必要はなかった。
 リン以外の奴が、この温室に来るはずはないのだから…


 夕暮れになり温室を出た。
 枯れるまで泣いても、心は浮かび上がる気配はない。
 校庭を突き抜けて校門に向かうおれに、担任の藤内先生が教室からおれの名を呼んだ。
 手招きして呼び寄せ、「おれが入れた最後のコーヒーを飲んでいけ」と、言う。
 黙って頷き、化学準備室へ入った。

 ゆっくりと昇る湯気を眺めた。
 先生は黙っておれにコーヒーを差し出した。
「立派な磁器のカップで頂くなんて初めてです」
「最後だからな」
 最後か…
 始まりがあれば終わりが来るのは当然だ。
 それに…なんとなくは…いやはっきりとわかっていたはずだった。
 リンがいつまでもおれのもので、おれの傍にいてくれるわけはないと…
 夢を見続けたいと願っていただけだ。
 
「水川は…」
「はい?」
「将来なんになりたいのか?…なんてことは聞く気はない。それより、ここで過ごした三年間は水川にとってどうだった?有意義な過去になりそうか?」
「…ええ…とても…」
 リンのことを思っただけで泣いてしまう。
「水川だけが辛いんじゃない」
「…わかってます」
「俺は君に言ったことがあるね。つまらん常識やプライドに捕らわれていると後で後悔するぞ…と」
「…」
「おまえをけしかけた一端の責任が俺にはある。それをおまえに謝るべきなのかな?」
「…いいえ、先生。あの時先生が背中を押してくださらなかったら、おれは…おれはリンと恋をする勇気は持てなかった…おれは、リンを愛したことを…一ミリだって後悔していない」
 先生は黙っておれの言葉を受け止めてくれた。
 教室を出るおれに、先生はひと言だけ言葉をくれた。
「…水川、卒業おめでとう。君の行く道に光溢れんことを、祈る」

 寮に帰り、部屋を片付けた。
 あらかたの荷物は実家に送り終わっている。残った教科書や参考書は後輩に譲った。
 明日の卒業式には母親も出席すると言う。
 成績優秀者に送られる県知事賞を贈呈される姿を見たいと言うのだ。
 こんな気持ちを悟られるわけはいかない。
 ただ冷静に式に望むことだけ心がけた。
 
 その夜はなかなか寝つけなかった。
 事の次第を察した三上は黙って、冷たいタオルを差し出した。涙で腫れた瞼に置いた。
 あんなに簡単に別れを告げられるとは思ってみなかった。
 「憎んでくれていいよ」と、言ったリンの本心がどこにあるのか…
 それを考えなきゃならない気がした。
 リンはおれを嫌いになったわけじゃない。
 慧一さんの傍にいたい…と、言ったんだ。
 リンは…悩んだんだろうか…
 「一緒に受験、頑張ろう」…あの言葉はおれへのやさしい嘘だったんだろう…そして試験が終わるまでずっとおれの傍にいてくれたんだ。
 リンはとっくに決めていたんだ。この日に別れを告げることを…
「リン…おまえを憎めたらもっと楽になれるのかい?でも無理だ。憎む気持ちなんて少しもおきやしない…」
 こんなに好きなのに…別れなきゃならないなんて…

 …夢を見た。いつもよりはっきりと、でもいつもは逃げていくリンなのに、今日の夢はおれを抱いて笑っている。
 「愛してる、ミナ、愛してる」と、繰り返すリンに「おれも、ずっと、一生、リンが好きだ」と、応える。
 リンは「俺もだ。ずっとずっと…ミナに恋している」
 そう言った。

 雨天の予報が見事に外れた朝だった。
 少しだけ温んだ西風が校庭の砂塵を巻き上げた。
 卒業式が無事終わり、夕方から寮で送別会があるからと、母親を先に返した。
 校庭のあちらこちらで別れを惜しむ生徒や後輩で埋め尽くされていた。
 教会の影に藤宮先生と…慧一さんの姿を見た。
 遠くからでも人目を惹く、美しい人だ。
 あの人とリンが血の繋がった兄弟で愛し合う仲であっても、軽蔑したり卑しんだりする気は起こらない。
 逆にあの人じゃなきゃ、リンを受け止める人はいないんじゃないだろうかとさえ思えてしまう。
 …あの人を憎めたら、少しは気が晴れるかもしれないけれど…
 憎むにはあまりにも、あの人を知らなすぎる。

 踵を返し、温室へ向かった。
 最後にあの空間と別れを惜しみたい。
 温室に着いたおれはポケットから指輪を取り出した。
 リンと一緒に買ったおそろいの銀の指輪だ。
 それを左の中指にはめた。
 別れたのに愛してると誓った指輪をつけるなんて未練たらしいけれど、今日からは高校の規則に縛られないでもいいんだから、好きなアクセサリーぐらいしてもいいだろう。
 
 最後の水遣りと草や花のひとつひとつに丁寧に水をやる。
 温室の草木の世話は、おれ達が卒業したら、藤内先生がしてくれると約束してくれたから大丈夫だろう。
 水遣りが終わり、今は盛りのシンビジュームのデッサンを始めた。
 花屋で去年の冬にリンと選んで買った花だ。世話は大変だったけど、今年も無事花を咲かせてくれた。
 
 しばらくしてデッサンをしていた手元が急に暗くなり、今まで晴れていた空が曇天に変わった。
 すぐに夕立ような雨が勢いよくガラス窓を打ちつけ始めた。
 おれは急いであちこちの窓を閉める。
 遠くで雷鳴が響いた。
「春雷か…春を促す兆しだな」
 おれは中断していたデッサンを続けた。
 
 朝から、リンを姿を見れずにはいられなくて、ずっと追いかけていた。
 リンはおれを見ようとはせず、周りの友人や後輩に囲まれて別れを惜しんでいた。
 …おれのことなんか、もうきれいさっぱり片付けてしまったんだろうなあ。
 いい思い出にするには、しばらく時間がかかりそうだ。
「リンのばか…」
 呟いても誰も返事はしない。

 執念深くいつまでもリンを思い続けてやるのも慰めになるかな。
 いつか同窓会で会ったら、恨み辛みを嫌味ったらしくと言ってやるんだ。
 そしてリンを一杯困らせてやるんだ…
 だけど、リンはきっと…きっとそんな戯言をさらっと流して、「ミナは、かわいいね」って、きっと…

 不意にバタンと、温室の扉が開いた。
 髪も制服も雨に濡れたリンがゆっくり、入ってくる。

「ちょっと雨宿りさせてくれよ」
 それは、リンがおれに言った最初の言葉だった。
 おれの心臓があの頃と同じように早くなる。
 あの頃とは全く違うおれ達なのに…



onnsitu


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ラクリモーサ - 2010.10.17 Sun

ひとり

実を結ぶのは花を咲かせるより難しい。

だが、それは言葉の樹ではなく

愛の樹のこと。

 リルケ

水川青弥編 「フラクタル」 10 - 2010.10.16 Sat

kimidake.jpg
10、
 リンに誘われるままに、そのままリンのマンションへ行く。
 早くリンのすべてに触れたかった。
 おれの欲しいものは、すべてリンが持っている。それ以外、おれは要らないとさえ思えてしまう。

 ベッドの上に座り、服を脱ごうとした時、リンは「肝心なことを忘れてた」と、紙袋を渡してくれた。
「お土産だよ」
 袋から出してみた。二十センチほどの丸い輪に羽飾りが垂れている。インディアンのお守り、ドリームキャッチャーだ。
 温室で渡したクリスマスプレゼントとお守りをリンはとても喜んでくれたのだが、代わりにおれが貰えるとは思っても見なかったから、これはハッピーサプライズだった。
「これ、知ってる。悪夢から守るんだよね。この蜘蛛の巣みたいな網目に悪夢が引っかかり、良い夢だけが通り抜けるんだろ?」
「そうだよ。オジブワ族が作った本物の奴だから、きっと効き目があるだろうね」
「…悪夢でもリンが出てくれば、別に見てもいいんだけどね」
「ミナにとってそれが良い夢なら、悪夢とは呼ばないんじゃないか?」
「最もだね」
 …リンが出てくる悪夢なら、何度も見ている。
 おれにさよならを言うリン。懸命に後姿を追いかけるが、どれだけ走っても追いつけないんだ。

「どうしたの?ミナ」
 黙りこくったおれを、リンは心配そうに覗き込んだ。
「いや、なんでもない。このお守りがおれを守ってくれると思うと心強いよ。きっとT大合格だね」
「お守りに頼らなくてもミナは大丈夫だよ。まあ、俺も落ちる気はしないけどね」
「すごい自信だ。頑張ったんだね、リン」
「ああ、そりゃもう…三度の飯以外は受験勉強三昧だったもの」
「おれも…机にかじりついてばっかりだった。だからかな、リンの夢ばかりみてた…」
「ごめんね、ミナ。クリスマスの約束は破っちゃうし、ずっとほったらかしにしちまうし…甲斐性なしの恋人だね。代わりに沢山愛してやるから、割り引いてくれよ」
 そう言って、おれをシーツに押し付けるリンは、前よりも色気が増した気がしてならない。
 触り方もエロくて…翻弄される。
 ひと月以上何も経験していない奴だなんて、絶対思えないから、ムカつく。
 どっちにしても、リンの身持ちの悪さは了承済みだが…こちらが好き勝手に弄ばれると腹も立つ。

「そこ、やだよ」「じゃあ、やめる?」「や、やめない…いや…」「どっちがいいんだよ、ミナは」「リンがいいに決まってる。でも優しくしてくれ。頼むから」
 リンはいつだって余裕でおれを抱く。百戦錬磨の策士だ。
「ミナ、かわいいね」
 黒々とした黒曜石の瞳が何を考えているのか、おれは知る由もない。

 翌日、別れを惜しみつつ、おれは実家に帰った。
 試験会場がリンとは違うから、一緒には受けれない。
 二日間の試験が終わったら、リン宅へ直行することだけを楽しみに、おれはセンター試験に挑んだ。

 自己採点で第一段階はクリアしていた。 
 両親は手放しで喜ぶが、まだ二次試験があるからと、家を出ようとする。
「あら、もう学校の授業はないんでしょ?わざわざ鎌倉に行かなくてもいいんじゃない?」
「本番はこれからなんだ。学校の補習も受けたいし、何より集中して勉強できるから、寮に帰る」
「…本試験はまだまだ先だわね~てっきりうちに居てくれるものかと思ったのに」
「母さんだって仕事で忙しいんだから、おれが居ない方が家事が減っていいんじゃない」
「それは…そうだけど。男の子は家から出て行って一人前っていうけれど、青弥は早く大人になっちゃって、お母さん、寂しいわ」
「…じゃあ、行ってきます」
 生活に困らない保障をしてくれる両親には、感謝するし、愛情だって充分に理解しているつもりだけど、将来のおれは、親の期待に沿う人生ではない事がわかるから、何となくでも心が痛む。

 リンへ連絡したら、品川の高層ホテルで食事をしようと言う。
 クリスマスディナーをすっぽかした償いだと言う。
 そんなに気にしなくていいとは言ったものの、単純に嬉しさは隠せない。
 駅から少し離れた緑に囲まれた静かなホテルでその夜は過ごした。
 窓の向こうの夜景を見つめ、ふたり抱き合い寄り添っていた。

「試験どうだった?」「大丈夫だと思う」「俺もさ。まあ、化学は少し自信がないけど…」「おれは現社だ。世界史にしておけば良かったよ」「今更言っても仕方ない。やることはやったんだ。人事を尽くして天命を待つってこういう事だよな」「全くだな…」「ミナ、寒くない?」「大丈夫だ、リンがあったかいから…」

 おれ達は未来を話すことはしなかった。
 ただ今ある現実だけを語り続けた。
 その現実がおれを支える過去になるかもしれない。
 それ程にこの一刻一刻が大切に思えた。

 ふたりとも無事にT大の第一選抜に合格した。あとは二週間後の本試験まで気を抜かずに集中することだけだった。
 リンは常におれの傍に居て、失いかける自信や苛立ちを慰めてくれる。
 リンが居れば、俺は迷わずに済んだ。
 おれがあんまり、リンから離れようとしないから、まるで捨てられることを畏れる子犬みたいだとリンは笑う。
 違う、リン。 
 捨てられるのを怖がっているだけじゃない。おれは…自分を見失うのが怖いんだよ。

 本試験が終わり、後は卒業式を待つばかりだった。
 寮での生活ももうすぐ終わる。
 試験を終えた同室の三上も自分の机を片している。
「水川とは一年だけだったけど、良かったよ、おまえと同室になれて」
「え?なんで?」
「自然と勉強が身についてくる。わからないところも色々教わったしな。ありがとう」
「いや、こっちこそ…三上には色々助けてもらった…宿禰の事なんかも…」
「俺はなんもしてないよ。それより良かったな。宿禰もT大合格は自信があるって言ってたぜ。これからもずっと仲良くしろよ」
「うん、ありがとう…」
 屈託のない三上の言葉はありがたいが…一方でおれはある噂を耳にしていた。
 リンが日本の大学には行かずに、アメリカに留学するという噂話は、なんとも否定できないような気分になった。
 それを本人に問いただす勇気も持たないおれは、ただリンとの蜜月に浸るばかりで、目を瞑るしかなかった。

 卒業式を明日に控えての予行練習を終え、生徒達が一斉に下校する。
 おれは温室をいつもより丁寧に掃除をしていた。
 この温室とももうすぐ離れる事になると思うと、なんだか寂しさを通り越して辛くなる。
 おれの高校生活の居場所をくれた空間だった。
 リンと出会い、語り明かした。好きだと誓った。
 …何度も愛し合った。
 ずっと一緒にいると誓い合ったのもこの場所だった…
 おれ達がいなくなった後、また誰かがおまえ達の世話をしてくれるといいなあ…
 大切に育てた草木に水を撒く。
 ドアが開き、リンの姿が見えた。
「あ、綺麗になったね」
「もうすぐここともお別れだからね。立つ鳥跡を濁さずって言うからね」
「…そうだね」
 リンは窓際に立って、ローズマリーの葉を指に取り、水を切った。

「ミナ…話があるんだ」
 陽の影になったリンの横顔が、綺麗だった。





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宿禰凛一編 「HAPPY」 23 - 2010.10.15 Fri

リンミナふたり22

23、
 携帯電話を掛けてみるが、電源を切っているのか、通じない。
 校内では携帯は使用禁止なのだから真面目なミナが持っていないのは当たり前だ。
 図書館と自習室に行ってみたが、姿はなかった。
 残りは温室だ。
 俺は急いで、温室へ向かった。
 「ミナっ!」
 木のドアを開けて中を見るが、ミナはいない。
 温室の植物は西に傾いた陽に照らされて、キラキラと輝いている。
 ミナが水遣りをしたのだろう。葉から水滴が落ちている。まだ時間は経っていない。
 ミナ…君は俺が居ない間も、ずっとこうやって、ここでひとりで世話をしていたんだね。
 
 ミナをひとりにさせていた…そう思うと、慧に抱かれ、守られ、バカみたいに甘えている自分が情けなくなった。
 どんな顔でミナと会おうとしているんだ。
 俺だけが幸せで、それで俺は慧一と暮すから、ミナはもう要らない…と、言うのか?
 つまり俺はミナを悲しませる諸悪の根源で、ミナは悪魔に付け込まれた無垢なる善人ってわけだ。
 …そんなことはわかっている。
 慧がいるのにミナを欲しがるなんて、どう考えたってどちらに対しても不義理だろう。
 でも、もう一方でこう言うんだ。
 「愛」の定義なんてどうでもいい。
 どちらも好きで仕方ないから、守りたいって思うから、
 ならば、俺は貫き通したい。

 俺はもう一度携帯を手に取って、何度も繰り返したミナへのリダイヤルボタンを押そうとした。
 だがその前に携帯のバイブが震え、ミナからの発信音が鳴った。

 息を弾ませて温室に来たミナの様子を、俺は身を隠して、伺っていた。
 ミナは何度か俺の名を呼び、姿が見えないと知ると、落ち込んだように、椅子に座り込み、沈み込んでしまった。
 ちょっとふざけたつもりだったのだが…
 姿を見せた俺に、ミナは涙を見せ、会いたかったと何度も言う。
 あまりにも素直な反応にこちらも戸惑ったが、何よりもミナの気持ちが嬉しかった。
 クリスマスプレゼントに用意したという、オルゴールと、初詣で買ったお守りを貰い、ますます恐縮してしまった。
 どうすればこの好意に報うことができる。
「ミナ、一番何が欲しい?」と、尋ねた。
 間髪を入れず、「リンが欲しい」と、応えられ、笑うしかなかった。同時に胸が熱くなる。
 …ゴメン、ミナ…俺はもうじきおまえの前からいなくなってしまう。だから…
「じゃあ、俺ん宅来るかい?明後日は試験だから、手加減はするけどね」
 冗句交じりに言う俺に、ミナは恥ずかしがる事もなく、ただ「リンが欲しい」と、言うのだった。

 その夜は、なんだか変な感じだった。
 久しぶりにミナを抱き、快感を得ても、境地に辿り着くことは出来なかった。ミナの求めるままに何度も逝ったにも関わらず、俺は本当にミナを気持ち良くしてやれるのか…と、自信さえ揺らぎそうになる。
 理由は明らかだ。
 ミナを騙しているという罪悪感に他ならない。
 疲れ果て、眠ってしまったミナの顔を眺め、こいつを悲しませずにすむ方法はないものだろうかと、どんなに頭を巡らしても、いい道は見つからない。見つかるはずはない。
 俺は慧のものなんだから…それを俺も望んだんだから…
 だけど、この先ミナに恋人が出来たって、俺はそいつに嫉妬するだろうし、そいつに負けたくないと意地を張るだろう。ミナにとって、これからも一番であり続けたいと思うだろう。
 まあ、そういう考えが一番のネックというか…わかっているんだけどね。
 二兎追う者は一兎も得ずというが、まさにそれが俺のこと。
 早く離れなきゃと思っても、俺を見るミナの顔を見たら、とてもじゃないが愛おしくて困る。
 やぶ蛇もここまで来ると逆に居直ってしまうのも、俺の悪いクセだ。
 どうにでもなりやがれ。

「ミナ、いっそ、君が俺を憎んでくれたら…少しは楽になるかもしれない」
 透き通るぐらい白いミナの頬にキスをして、俺は背中をそっと抱く。

 二日間のセンター試験を終えた夕方、ミナと品川のホテルへ宿泊した。
 クリスマスをすっぽかしたお詫びだった。それに…たぶん、ミナと外で過ごす最後の晩餐になると感じていた。
 ミナの試験の結果は俺と同じように合格ラインは越えていた。この調子でいけば、危なげなく本試験もいけるだろう。
 だが、ミナは合格した後のふたりを語ろうとしなかった。
 あれだけ、アパートを借りて、一緒に住みたいねと嬉しそうに語っていたのに…
 ミナは俺の嘘を見抜いているのかも知れない。
 夜のしじまに浮かぶイルミネーションはニューヨークとは違う色に見えた。
 そのどちらもにも俺は惹きつけられる…ただ目に焼き付けることしかできないとしても。

 
 後日、自己採点の結果を知らせに担任の藤宮紫乃と面接をした。
「それで、総合得点は…余裕だな。二次試験は行けそうだな」
「行けそうじゃなく、確定と言ってくれよ。ほぼ満点だ。俺、向こうでずっと勉強ばっかしてたからなあ~」
「…慧一からは再就職が決まったとだけ、連絡があったけれど…その後はどんな具合だ?」
「慧一なら大丈夫だよ。新しいアトリエは自由気風が溢れてるから、慧にはおあつらえ向きさ。それにそこのオーナーってすげえ変わったネイティブアメリカンでさ。傑作なんだ。暇がありゃ色んな秘境を巡ってるの。俺も慧も何度かインディアンリザベーションに連れて行ってもらったよ」
「ふ~ん…いい男なのか」
「…何の心配してるのさ。既婚者だよ」
 紫乃の質問に思わず吹きそうになる。相変わらずだな。
「…で、おまえらはどうなった?うまくいってるのか?」
「それこそ、どっちの話が聞きたいんだよ」
「両方」
「どっちも上手くいってる、今のところ…」
「で、これからどうする。順調にT大に合格したら、水川と繋げていくのか?」
「…いや…ここを卒業したらアメリカへ行く」
「…」
 紫乃は伊達眼鏡を外し、裸眼で俺を見つめなおした。
「コロンビア大学を受けてみようと思う。慧一を教えたブライアン教授が、力添えするとおっしゃってくれるし、何よりも慧一と一緒にいられる。だから、ここを卒業したら向こうで暮らすよ」
「もう、決めたのか?」
「うん、決めたんだ…慧と一緒に生きていくことを」
「そうか…」
「俺も慧もお互いが必要なんだ。それに、俺は慧一を支える力を持たなきゃならない。その為には慧一の傍にいて、慧を支える建築家として成長することだと思うんだ。俺は…この道を選んで歩くよ」
「…」
「紫乃?」
「いや、なんだか嬉しいのか寂しいのかなんとも言えない気持ちだよ。だけど、霧のかかった道を歩いていた俺の目の前が薄ぼんやりとだが、晴れた気がした…光明って奴かな」
「…紫乃には心配も面倒もかけてしまったね。幸せになって欲しいって慧も言ってたよ」
「馬鹿野郎。簡単に言ってくれるなよ。そんなにすぐに割り切れるか」
「…卒業式には慧も帰ってくるよ。あんたに礼を言いたいって」
「…けじめをつけたいだけだ。あれはそういう奴だ」
「紫乃を…愛してたって、言ってたよ」
「…」
 目を逸らした紫乃は目頭をそっと押さえた。
「紫乃?」
「相変わらず、口だけは上手い奴だからな。それで俺はいつも騙されるんだ。まあ、よかろう。最後まで騙されて、気持ち良く一歩を踏み出せるなら、今までの罪は不起訴にしてやる」
「俺も紫乃に言わなきゃね…ありがとう」
「俺に礼を言うより、することがあるんじゃないか?」
「…わかってる。留学のことはまだ口外しないでくれ。ミナには…本試験が終わってから、はっきり告げるつもりなんだ」
「恋人を捨てて日本を出るか…兄弟揃って罪作りだな」
「弁解できないね…俺、ミナを紫乃みたいにさせたいとは思ってない。紫乃は憎んでも慧一を愛し続けた。だけど、ミナには俺を切り捨てて欲しいと思っている」
「…そんなに簡単にできるもんか。遊び慣れていた俺でさえ、相当な妄執があったんだ。水川みたいな温室育ちの無菌栽培をお前は、自分の色に染めてしまったんだ。その責任は大きい」
「…」
「だけど、お前を選んだ水川も同じ重さを荷っている。どちらが良い悪いなんて恋愛にあるはずもない。俺はそう思うよ」

 紫乃の言葉は正しい。だけど、紫乃とは決定的に違うことが俺にはある。
 ミナの手を取らなくても、憎まれても、俺はミナを愛し続けるんだ。
 一生分の恋愛はミナに捧げたのだから。






rinmina2



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寒くなったね - 2010.10.14 Thu

凛は何着ても似合う…

つか、早く続き書けよ!って話ですが、

今、お絵かきモードでして~(;´▽`A``

凛たんしゃかしゃか描けるので

まあ、このブログもイラストメインで見にいらしている方もいるかもしれんので、いいかなと…

凛モデル

鉛筆書きをスキャンして、SAIで色を軽くあてているだけ。
時間も色塗りだけなら、20分もかかってない。
だが、充分に魅力的な凛一になっているだろうと思う。
だから、時間のかけ方と、出来の良さが比例しないという歴然とした事実に、描いてるこちらが一番釈然としないのだよ。(;´Д`)

天使と堕天使 - 2010.10.13 Wed

下のミナのイラストと対の凛のイラスト。
イラスタにあった素材を使って、羽を付けた。

凛モデル1

凛はアルバイトでモデルもやっているから、見せ方が上手い。
ミナは素人さが出るように描いている。
カメラの前で「笑って」と、言われても笑えないのがミナで、カメラを見たらニコリと笑い何気にポーズをするのが凛。

凛モデル1-2

自分が好きな顔を思い描いて描いてます。

水川青弥編 「フラクタル」 9 - 2010.10.12 Tue

ミナ冬


9、
 センター試験が目前の明後日に迫った。
 リンはまだ帰ってこない。
 おれは東京の試験会場を選んでいるから、夕方には実家に帰る予定だ。
 補習授業が終わり、自習室へ向かおうとするおれにクラスの高橋が声を掛けてきた。
「いよいよ明後日だな」
「ああ」
「水川とは色々あったけど、おまえがいてくれたおかげで、俺も充実した高校生活が送れたよ。礼を言う」
「…別におまえに礼を言われるようなことはしてないけど」
「おまえの存在が、俺の自尊心を打ち砕いてくれたんだよ。この学校に来るまで、俺は勉強では誰にも負けたことはなかった。だけどここに来て、初めて自分以上勉強のできる奴に出会った。おまえに負けたくない一心で俺は俺なりに頑張ってきた。最後まで、おまえに勝てなかったけれど…悔いはないって思えるんだ。だからありがとうって言わせてくれ」
「…うん」
 差し出した高橋の右手を握った。固く握手を交す手を見つめる。
 そうだな…拘っていた下らないプライドさえ、きっと大切な意味があったかも知れないんだろうな。
「宿禰もT大受けるんだろ?おまえと同じ物理工学科?」」
「いや、あいつは建築学科だよ」
「俺と…同じじゃないか。最後まで俺の足を引っ張る気なのか…嫌味な奴だ」
「…」
 別にリンはおまえを相手にしてないと思うけど…と、心で思ったが口には出さなかった。
 口では嫌がる風を気取る高橋は、本気で嫌がっては居ない…どころかなにやら少し嬉しそうでもある。
「皆受かるといいな」と、らしくないことを言う。
「きっと…絶対合格するさ。おれたちはそれだけのことをやり遂げただろう?」
「ああ、俺もそう思う。まあ、水川には勉強も敵わなかったし、恋の相手にも太刀打ちできなかったがね」
「…恋愛は楽しいばっかりじゃないけどね」
「…そりゃそうだろう。相手は数学でも国語でもない。正しい解き方もない。だから、人は恋をするんだろうか。自分だけの答えを導くために…なんてね。まあ、俺は恋より、豊かな老後の為に生きる方が大事だがね」
「恋に狂うのは愚か者だろうから、高橋の生き方は正しいのかもしれないね」
「人間の愚かさは無限だって言うじゃないか。だったらそれを追求しても楽しいんじゃないか?…俺はおまえがうらやましいと、言ってるんだぜ。絶望なんかするなよ」
「ああ、そうだな」
 言うべき本音ではなかったが、つい口に出してしまった。
 どっちにしてもこの学院ではおれの事はいざ知らず、リンの話題が出ない日はない。
 ひと月以上も姿を見ないリンが、どこで何をしているのかを、おれに毎日尋ねる後輩だっているんだ。
 皆ゴシップ記事みたいにおれ達の行き先がどうなるのか、噂しているに決まっている。

 教室を出て、しばらく自習室で過ごした。
 その後、日課の温室の水遣りをする。
 さっきの高橋の言葉がきっかけで、押さえていた感情が膨らんでいくのがわかった。
 高橋の言うとおりだ。
 これは、この感情は愚かな恋なんかじゃない。
 たとえそうであっても俺自身、この想いを誇れるほどに愛おしいと思えるんだ。
 おれがリンを愛している。
 これこそが一番輝かしいものではないだろうか。

 リンに会いたいと思った。会えなければ、声だけでも聞きたいと…
 携帯電話は寮に置いてきた。今、ニューヨークは何時だろうか…
 12時間前だから…夜中だ。それでも許してくれるだろうか。
 
 水撒きを急いで終わらせ、ヨハネ寮に帰った。
 部屋に戻り、机から携帯を取り出す。液晶画面にリンの番号を確認して、ボタンを押した。
 心臓がバクバク鳴ってるのが可笑しい。顔が火照っているのも笑うしかなかった。
 …リン。どうか、電話を取ってくれ。

『ミナっ?』
「お、どろいた…取るの早い」
『ちょうど、ミナに電話しようとしてた。俺、今、温室にいるんだけど』
「え?リン、こっちに居るの?い、いつ、戻ってきたの?」
『あ、言ってなかったか…ごめん、昨日鎌倉に帰ってきてた。で、今日久しぶりに登校したの。ミナを探しに教室まで行ったんだよ。高橋は学校には来てたって言うから、あちこち探したけど見つかんなくて…ミナ、どこに居るの?』
「寮に戻ってたんだ。携帯を取りに帰ってた。リンに連絡したくて…」
『そうか…会いたいんだけど、会える?』
「う、ん。勿論、おれも会いたい」
『じゃあ、寮へ行くよ』
「いや、おれが行くから、温室で待っててくれ」
『いいけど…おまえ、また外に出なきゃならなくなるだろ?もうすぐ日も暮れるし、外もここも寒くなるよ』
「いいんだ。温室で会いたいんだ」
『わかった。待ってるから早くおいで』

 電話を切った後、大きく息を吐いた。
 こっちに帰って来てるなんで思いもよらなかった。
 学校に来てたのに、会えなかったなんて…よっぽど運が悪いや。
 ああ、すぐ行かなきゃ、早く会いたい。
 …落ち着けよ。馬鹿みたいにはしゃいで、肝心なものを忘れるな。
 しまっていたリンへの贈り物を机から取り出し、紙袋に入れた。
 焦る心を落ち着かせるように、深呼吸をひとつして、部屋から出た。
 温室まで、駆け足で急ぐ。
 早く行かなきゃリンが消えてしまうみたいで、焦ってしまう。
 空気の冷たさなんて感じない。
 背中を射す夕日を振り返る暇なんてない。
 リン、君を確かめなきゃおれは…

 温室のドアを開けた。
「リンっ!」と、叫ぶ。
 だが、返事はない。
「リン、どこだよ!」
 中を見渡してもリンの姿は見えない。
 間違いなく温室で待ってるって言ったのに…
「リン…」
 帰ってきたっていうのは嘘だったのか?それともあの電話の声は幻なのか?
 …そうだよ。だいたい学校に来ているなら、そういうニュースがおれの耳に聞こえてもいいはずだもの…
 あれはリンの嘘だったんだ…

 期待が大きかっただけに、ひどく落胆した。
 椅子に座り、窓の外を眺めた。
 ちょうど太陽が教会の屋根に隠れる寸前だった。
 ガラス窓に映った自分が見えた。
 情けない顔でこちらを見ている。
「まるで桜が散った受験生の顔だな」
 おれじゃない声がガラス窓から聞こえた。
 ガラスに映るおれの顔の後ろに、リンの姿がはっきりと見えた。
「…」
 おれは怖くて、後ろを振り返れなかった。
 だって、振り向いたら消えてしまうかもしれない。
「リ…ン?」
「うん。…ただいま、ミナ」
 おれの背中を抱き、その口唇がおれの頬に口づけるのが、ガラスに映る。
 おれは回されたリンの手を握り締めた。
  立ち上がり振り返り、両手でその身体を確かめる。
「リン…会いたかった…」
 それだけ言うのが精一杯だ。後は声にならなかった。
 
 リンの胸は温かく、おれの涙をぬぐう口唇は柔らかい。
 …愛おしい。愛おしい…離れないでくれ、離れないで…愛している。
 沸き起こる得体も知れないすさまじい感情。
 このおれに?
 孤独で恋に怯えていたおれに、こんな感情が存在するのか?
 あるとは思わなかった。思えなかった。
 リンはおれの感情をまさぐる唯一のものだ…
 未来永劫こんな恋を知るのは、おれには、リンしかいない。







凛一水川28


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益々遅れて申し訳ない。次は凛編へ

水川青弥編 「フラクタル」 8 - 2010.10.08 Fri

ミナたん1


8、
 …明日は会えない。どういうことだ?
 リンの言葉に戸惑ってしまった。
「…どうしたのさ」
『今、成田なんだ。今からニューヨークへ行く』
 ニューヨーク?どうして?
 そうか…慧一さん絡みに違いない。
「慧一さんに…何かあった?」
 震える声で問う。
 リンに悟られなきゃいいけれど…
『うん。どうしても行かなきゃならなくなったんだ』
 焦ったリンの声が響いた。本当に心配な状況にあるんだろう。
 だけど、おれだって…
「そう…残念だよ。…楽しみにしてた…」
『ごめん。ごめんな、ミナ。この埋め合わせはちゃんとするから…』
 切羽詰った声だった。
 これ以上リンを責めてはいけないと感じた。
「いいよ。気にしないでくれ。緊急なことなんだろうから、仕方ないよ。気をつけてね、リン。年を越したら学校で会おう」
 精一杯平気な振りをした。
 電話を切った後、少しだけ涙が溢れた。
 だって仕方が無い。本当にすごく楽しみにしていたんだ。
 リンとふたりだけで過ごせる高校最後のクリスマスを…
 楽しみたかったんだ…

 翌日の寮祭もお祭り騒ぎの皆に合わせて、はしゃいだりもするけど、やっぱり寂しい。
 同室の三上はなにかとおれを気遣ってくれるけれど…
「水川、そんな顔をするなよ。宿禰ものっぴきならない急用があったんだよ。あいつ、約束を簡単に破る奴じゃないもの」
「わかってるよ、三上。わかってる…」
 わかっているさ。
 …リンにとって慧一さんがどんなに大切な人か。
 血の繋がった兄というだけの関係じゃない。もっと深い絆であのふたりは結ばれている。
 おれが辿り着けない場所で、あの兄弟は理解し合えることができるんだ。
 慧一さんにはリンしかいない。もしそうなった時、リンはどうするのだろう。
 リンは何を差し置いてでも、慧一さんを選ぶんじゃないだろうか…

 それは確信だった。
 そう結論付けてしまったら、後に残る答えは必然的にひとつしかない。

 リンが選ぶのはおれじゃないって事だ。


 世田谷の実家に帰ってからもリンからの連絡はなかった。
 いくら思いあぐねても仕方ないから、一心に勉強に励んだ。
 勉強をしていれば、なんとかリンの事は忘れられる。
 晦日、リンからメールが届いた。
 慧一さんが不本意にリストラされたこと、何とか再就職が出来たこと。ニューヘヴンをいう街に引っ越しだこと。慧一さんが落ち着くまで、そこで一緒に暮すこと…
 最後に、「T大合格は二人の目標だから、精一杯頑張ること!」と、綴(と)じられていた。
 
 ふたりの目標…リンはそう思っている。
 だったらおれも頑張らなきゃならない。
 リンの本音がどうであれ、おれに出来ることはリンを信じることだけなはずだ。
 リンを疑っている時点で、おれは慧一さんに戦いを挑む権利など持たなくなってしまうんだ。
 リンを愛している。だったら、おれは最後までリンを信じるだけだ。

 新年が明けた。
 おれは寮に戻った。
 わかっているが、リンは帰ってこない。
 去年も一昨年も一緒に行った八幡宮へ独りで初詣に行った。
 一緒に大学へ行けますようにと祈願した。
 リンの分のお守りを買って、大事にポケットに入れた。
 おみくじを二人分引いた。ふたりとも大吉だった。
 リンといつも一緒にいれる様にと、ふたつのおみくじを合わせて木に括りつけた。
 一年前も二年前も、リンはこうしてくれた。
 今はリンは居ないけれど、きっと一緒ならこうしてくれるに決まっている。
 大丈夫だ。おれはリンを信じられる…


 三年生の三学期は、基本自由登校だ。
 私立の進学校だから、遠方の生徒は帰省したまま、戻らない奴も多い。
 俺も授業は選んで、補習に力を入れた。 図書館や自習室に篭もる時間も多い。
 骨休みは温室で過ごした。
 水やりや草木のデッサンをしているだけで心にゆとりが持てる。
 無心に植物を描いていると、その隙間にどうしてもリンの影を描き込んでしまうクセがついた。
 リンと温室の植物たちは、おれの絵には当たり前に必要な題材となってしまっていたんだ。
 居ないリンの姿が温室のあちらこちらにはっきりと見えてしまう。その姿をデッサンするのは容易い。
 リンの笑った顔や真剣な顔、ちょっとひねくれたり凄んでみたり…ああ、どんな表情だって、描ける喜び。
「リン、早く帰って来いよ…」
 そう声に出して途端、涙が溢れ止まらなくなった。

「ばかだなあ…おれ…ほんと、ばかだ…」
 だって、ほんとうに、リンが、好きで…好きでたまらないんだよ。




おれが描いたの

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宿禰凛一編 「HAPPY」 22 - 2010.10.07 Thu

ニューヘヴン

22、
 ニューヘヴンの冬は厳しい。
 雪はそんなに深く積もらないけれど、肌を突き刺すような冷気が包み、出不精になりがちになる。しかし、この街にはこの国には珍しい古い街並み、建築物が立ち並び、いくら眺めていても飽きない。
 
 俺は毎日規律正しい生活を送っていた。
 朝、慧一を送りだした後、家の中を簡単に片付けたら、受験生としての学業に励むことにしている。
 エール大学まで10分ほど自転車で飛ばして、図書館で一日中居座り続けることも多い。
 日本の大学へ行かないと決めていた。だから今、こんなに大学受験の為の猛勉強をする意味などなかった。
 けれど俺は、一緒に頑張ってT大に合格するというミナと交した約束を破る気には、どうしてもなれなかった。
 今の俺がやらなきゃならないことはミナが不安にならないように、一緒に受験することではないだろうか。
 それが…俺にできるミナへの誠意じゃないだろうか…
 こっちへ来てからというもの、ミナへの連絡は携帯メールでのやり取りだけだった。
 慧一の状況を簡単に説明し、落ち着くまでこちらに居るから、俺の事は心配しないでミナは勉強だけに打ち込んでくれと言ってあった。
 勿論、真実は言ってない。
 俺が慧一を選んだことも、これからこちらで暮すことも、ミナとは一緒に歩けないことも…何も言えるはずは無かった。

 一月のセンター試験に間に合う様、一旦日本へ帰ることを、慧一に告げた。
「そうだね。折角出願もしたんだから、受けておいで。それにこちらへの留学手続きもいるだろう。卒業式が終わるまで、日本でゆっくりするといい…最後の高校生活だ。沢山の思い出を作るのも大切だよ」
 慧一の言葉が何を指しているのか、わかっていた。
 言葉は優しかったが、一瞬だけ複雑な表情をした慧は慌てて、俺から目を逸らした。
 慧は俺とミナを案じている。
 少しの不安もあるだろう。だって、俺はミナを愛している。そう慧一にはっきりと公言している。
「俺が傍にいることでミナの受験へのストレスが拭えるなら、それは俺がしなきゃならない役目だろう。慧一を想うように、俺はミナも悲しませたくないんだ。ミナが無事志望大学へ合格したら、俺の罪も少しは軽くなるかもしれないし。勿論、ミナを泣かせることには違いないだろうけれど…それまで、ミナの恋人でいることを許して欲しい」
「凛がやりたいように生きて欲しい。いつだって俺はそう思っている。凛が俺を選んでくれた事実が、こうして俺を幸福にしてくれている。これ以上、おまえに求めるものはないよ」
「…それでも慧に余計な嫉妬心を持たせてしまうことになる」
「独占欲や嫉妬を持たないカップルなんてこの世にいるだろうか。俺はおまえが生まれた時から、おまえに寄り添う誰に対しても心穏やかではいられなかったよ。当たり前だ…愛しているからね。俺だけのものにしたい欲望はいつだって奥底で燻っている。誰だってそんなもんだろ?だけど、水川君へ妬みは俺の感情なのだから、凛は俺の想いまで汲み取らなくていい。感情は自由だ。人が人を好き嫌うのをいちいち相対するものはいないだろう?」
「うん…」
「俺はおまえが決めたことをどうこう言うのは嫌だから言わないけれど…おまえが水川君を大事に思う気持ちは大事だし間違ってないと思うよ。俺の事は気にしなくていい。後悔しないように。俺がおまえに言えることはそれだけだ」

 日本に帰る前夜、慧と寝た。
「しばらく離れるからね。沢山貰っておかないと、寂しくなってしまう」
「俺のほうが余計辛いけれどね」
 慧は俺は満足するまで、すべてを与えてくれるから、これ以上は望めない程に愛してくれるから、確信してしまう。慧だけは誰にも渡さない。
 俺だけのもんだと。
 慧もそうなのかな…
「重く感じたら言ってくれ」って、慧は言うけど、嬉しいばっかりだもの。調子づいちゃうな~

 終わった後、余韻に浸りながら、徒然に語り合うのも心を通わせるにはもってこいだ。
 疲れ果てると大概寝てしまう俺も、たまに目が冴えていつまでも慧の胸に身を寄せたまま、思いついたことを喋り続ける。
 明日から暫く会えないんじゃ余計に恋しくなるのは仕方が無い。
「卒業式は三月一日だったよな」
「うん」
「出来るだけ出席できるよう予定を組むよ」
「無理しなくていいのに」
「いや、俺がどうしても出席したいんだ。紫乃へ直にお礼も言いたいしね」
「紫乃は損得無しに良くしてくれる。慧が紫乃を振ったのは、浅はかだったかもね」
「言うなよ、凛。俺だって紫乃には本当に済まないって思っているんだから」
「それは、紫乃と恋人になったことを後悔しているわけ?それとも別れた事を?」
「…いいや、後悔はしていないよ。ただ、紫乃にいくら詫びても足りないかもしれないって…近頃よく思うよ。…あの時、紫乃を選べなかったのは俺にとっては当たり前の事だった。俺は誰も選ぶつもりは無かったもの。おまえのことも諦めていたからね」
「でも、本当に好きだったんだろ?紫乃の事を」
「好きだった。愛していたよ。だけどそれは…凛への想いとは比べようもない気持ちだよ。だから、選びようもない。紫乃は優しいし、俺を甘やかしてくれたからね。俺はおまえへのどうしようもない想いが辛くて、紫乃に縋っていたんだ。結局紫乃を苦しめただけの恋だった。けれど、何故だろう。紫乃と付き合ったことも別れたことも、間違ってはいない気がするんだ。俺の勝手な思い込みかもしれないけどな」
「…紫乃は慧の事を今でも愛しているよ。その愛は…きっとね、ずっと変わらず優しいんだよ。だから慧の事も許しているよ」
「そうだと、いいけれどね…」

 翌日、慧一にケネディ空港まで送ってもらった。
 別れ際、向かい合う慧を見て不思議な気持ちになった。
「なんだかさ、あれだね」
「うん?」
「いつもこうやって、空港で別れを惜しむんだけどさ…今から日本に帰るっていうのが、とても変だ」
「どうして?」
「帰るというより、出かけるって感じかな~。俺の帰る場所はここだって気がしてならない。つまり…慧が帰る家になったってわけだ」
「そうかも知れない。俺も…寂しいけれど、辛くはないかな。凛を信じてるから」
「あれ?今までは信じてなかった?」
「そうじゃない。俺が変わったんだよ、凛。おまえを頼りにしている。おまえが支えになってくれている。そう思える自分に変わった。行っておいで…いつでも俺はここで待っているから」
「うん、行って来ます」
 慧一が変わったように、俺の慧一への想いも形を変えていく。感情も心も常に変化していくものだ。
 今のこの想いは次に帰る時は、また違った形をしているかも知れないね。
 でも、俺は知っているよ、慧。
 俺の帰る場所はひとつしかないって。
 待っててくれ。
 俺は慧の想いにもミナの想いにも、決して背かない。


 鎌倉に帰った翌日、俺は久しぶりに学校へ顔を出した。
 この時期になると、三年生は受験に忙しく、教室にいる生徒は、受験が終わって暇をもてあましている奴らか、出席日数が足りなくて焦っている奴らか…。
 ミナの教室に行ってみたがやはり居ない。
「あれ?宿禰じゃないか。随分姿を見なかったけど…」
 教室を覗く俺に声を掛けたのは、優等生の高橋だった。
「ああ、ちょっとな。で、高橋、おまえはなんでここに居るのさ。明後日はセンター試験だろ?塾に行かなくていいのか?」
「余裕だ。今更焦ってどうする。やるべきことはやった。宿禰もT大狙いなんだろ?お互い合格したら同じ建築学科だ。よろしくな」
「え?おまえ、建築家希望?」
「ああ、実家が建設関係の仕事をやっているから、家を継がないといけないんだ」
「…おまえはドSの医者か、嫌味な弁護士になるのかと思った」
「…おまえに言われたくないね、真性サドのクセに。それより水川をほったらかしにしてていいのか」
「え?」
「ここ最近元気が無かった。良きライバルは競ってこそ意味を為す。別に別れたんならそれはそれでいいけどな。俺には関係無い」
「ミナは来てる?」
「ああ、朝は見かけたけど」
「ありがとう、高橋。T大頑張れよ」
「…」

 ミナが学校にいると思ったらじっとしていられなかった。
 ミナに会おう。何も言わずただ抱き締めよう。
 別れの予感なんて絶対に感じさせない。
 ただ、ミナを安心させたい。
 俺にできることはそれしかない。



「HAPPY」21へ /23へ
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秋模様 - 2010.10.04 Mon

花背負った凛一
花をここまで描くのは大変時間と労力が要りました~(;´Д`A ```
しばらく花は描きたくないです。
人物は厚塗りなので、これも案外時間がかかっています。
線画を重点に描くのは早いし、それなりの効果も大きいんですが、厚塗りには厚塗りの良さがあります。
それを描きこなすのは正直大変なんですが、厚塗りへの高みを登っていくことは、絵師として重要な気がしてならない。
ので、効果がある無しに関わらず、厚塗りは今後も続けていきたい塗り方ですね。

花々

凛は何さらしても似合う。
モデルのバイトは続かせよう…(;^ω^)
ミナが描いた絵でもいいかな~
因みに指輪はミナとおそろいで買ったもの。
ペンダントは慧一とペアのもの。
凛はふたつを一緒に身に着けても平気な性質ですね。
この子の持ってる特性と言っていい。
それに対する罪悪感が少ない。まあ、楽天家なんでしょう。


今日は用事があって全く書けないので…更新は明日以降になりそうです。

すいません。
早く書きたいんですがねえ~
休日は家族が居るので、まったく書けないんです。
絵は描けるので、頑張っているんです。(BL絵は無理)

明日からテキストは頑張ります。

宿禰凛一編 「HAPPY」 21 - 2010.10.01 Fri

凛2

21、 
 その日の夜、ゲストルームのふたつあるベッドのひとつに慧と一緒に寝た。
 慧はもしエリザベスにでも覗かれたらと、案じたが、「別にセックスしてるとこ見せるわけじゃないし、仲のいい兄弟でいいんじゃない」と、俺は気にしない。
 慧は仕方がない奴だと溜息を吐く。
「凛、ここが気に入ったかい?」
「うん、とっても。ベスもステキなおばあさまって感じだし、なによりランディがたまらなく可愛い。それより、教授の話どうだった?いい仕事が見つかりそう?」
「ああ、ニューヘヴンに教授の教え子がいてね。その人の経営するアトリエ事務所で、腕のいい建築士を探しているそうだ。教授は俺を推薦したいと申し出てくれた。クリスマスが終わったら、教授とふたりで話を聞いてこようと思う。条件次第でそこに決めてもいいかい?」
「勿論だよ。慧と一緒なら俺はどこでもいいよ」
「じゃあ、2,3日はここで留守番を頼むよ。奥さんひとりにしておくのは可愛そうだからね」
「わかった。ランディといい子にしているよ。いい結果を待ってる」

 クリスマスが終わり、教授と慧一はニューヘヴンへ出かけた。
 俺は教授から手渡されたテスト式のプリントを解いたり(殆どが数学と物理の問題だった)、エリザベスの手伝いやランディの世話で一日を過ごしていた。
 夕方、黄昏の公園をランディと散歩する。
 誰も居ない道の向こうにゆっくりと沈む夕日…ミナとふたりで温室で眺めた風景を思い出した。
 ミナ…君は知らないんだろうね。こんな遠くでひとり、夕日を見ている俺を…
 二度と交わることの無い道を選んだのは俺だ。
 
 夜になって、慧一たちが帰ってきた。
 上手く話がつき、新年を迎える前に転居すると言う。
「急ぐんだね」
「いつまでも荷物を社宅に置いたままにもいかないからね。明後日には届くよう連絡をつけたよ。片付け事も多いし、手続きやらで忙しいから、新年まで凛がここに居たいのなら、そうしてもいい」
「やだよ。俺も行く。慧一から離れないって言ったろ?」
 頷いて微笑む慧が大切だから、守りたいと思うから…

 その夜、長旅の運転で疲れたのか、早くにベッドに潜り込んだ慧一を寝室に残して、暖炉でランディと寛いでいた。
 教授が「ちょっといいかね」と、俺の隣りに座り、書斎の机に置いておいたプリントを差し出した。
 俺は教授と向かいあわせに座り、そのプリントを受け取る。答えを書き込んだ用紙にはしっかりと赤線が引かれている。
「これはリンが答えを見出したの?」
「そうです」
「全部?」
「はい。わからない単語は辞書で調べましたけど…とても難しかったから、あまり良い出来じゃないでしょ?」
「いや、よく出来ているよ。すばらしいと言ってもいい」
「ありがとうございます」
「ケイイチに聞いたのだが、リンはこちらの大学へ留学したいそうだね。どこの大学かは決めたのかい?」
「いいえ、まだ…できるなら慧一の住む近くがいいと思うんですけど…」
「そうか…ニューヘヴンはエール大学があるけれどね…」
「いえ、そんな名門大学へ無理して行こうとは思っていません」
「リンは建築家になりたいの?」
「そうです。慧一と一緒に建築事務所を設立し、母と姉のカテドラルを建てるのが俺のやるべきことだと思ってます。一人前のアークテクトになる為に、俺はこの国で学びたい」
「そうか…リン、ひとつ提案をしてもいいかい?実は今、私はコロンビア大学で客員教授で指導しているのだが、来年度からは常任することにしている。もしリンが望むなら、コロンビア大学へ推薦したいと思うが…どうかね?」
「…本当に?」
 あまりの吉報に驚いて、胸が高鳴った。願ってもいない申し出だ。
「ケイイチとは少し離れるが、車で二時間かからないし、私とベスもニューヨークに住むことになるから、なにかと頼って欲しい」
「ああ…ブライアン教授、ありがとうございます。なんとお礼を言って良いのか…」
「リュスと呼んで欲しい。ベスも君のことをとても気に入っているんだ。かわいい孫が出来たとね。勿論私もだよ」
 眠っていると思ったランディがワンと小さく吠える。
「おやおや、リンを一番気に入っているのはランディだった」
 教授はランディの頭を撫でる。
「日本の高校を卒業したら聴講生として参加しなさい。九月までにレポートを提出して、編入試験を受けるといい。できるだけ早くケイイチの手伝いをしたいのだろう?その為には一途に勤勉して建築家の資格を取ることだ。判らないことがあれば、遠慮なく私を頼りなさい。いつでもリンの助けになろう」
「ありがとうございます…ああ、どうやって恩返しをしたらいいんだろう…見当がつかない」
「リン。ケイイチは君の背中に時々翼を見ると言う」
「あ…そんな事を言ったんですか…すいません。兄貴の戯言だと許してやって下さい」
「いや、それが、ベスもそんなことを言うんだよ。君を最初に玄関に出迎えた時、『銀色に輝く羽を持った少年が私を見て微笑んだの。天使と言うより、羽が生えた少年よ。なんて綺麗なの!』って驚いていた」
「…」
「まあ、私に言わせれば、生物学上に考えて、哺乳類の背中に羽があるとは考えにくい。鳥類は敵から身を守る為 、腕の代わりに翼を持つ。極めて論理的だ。天使という想像物はロマンチックではあるが、私には違和感しかないよ。手足があって、それ以外に余分なものが必要かい?日本は八百万の神々が宿る国だが、人型で翼がある神は少ないだろう?だが羽衣があるよね。物を使って飛ぼうとする。理屈や概念として、私はこちらに魅力を感じるね」
「リュスは日本に詳しいんだね」
「ジャパンオタクと呼んでくれてもいいよ。アキラは私の最も愛するアニメーションだ」
「それは…古いよ~」
「そうかい?じゃあ、リンのお奨めを頼むよ」
「任せといて、リュス」
 見かけと違って、リュスの感覚の若さに驚いた。慧一よりよっぽど気が若いや。
 
「私はね、君たちがここへ来てくれたことを感謝しているんだよ。…子供達が手元から居なくなって家内は寂しいと嘆いていた。クリスマスも私とふたりきりで過ごさなきゃならなかったからね。とても落ち込んでね…元気が無かったんだ。正直、君たちを呼んだのは、ふたりだけでいる辛さを少しでも和らげられるならと思ったからなんだよ。本当に君たちが来てくれて本当に良かった」
「そう…だったんですか」
「リン、君は青い鳥なんだろうね。だが、無理に飛ぶ必要はない。君という個が周りを照らしてくれる。それだけで多は多くの何かを得るんだ。礼を言うのはこちらの方だ。ありがとう」
 丁寧に頭を下げるリュスを制して、俺は言う。
「これからはずっと俺の方がお礼を言わなくちゃならないから、リュスのお礼は差し引いてください」
 顔を見合わせてお互い笑いあった。
 新しい家族はここにも居る。

 年を越す前になんとか、ニューヘヴンの新宅への引っ越しが片付いた。
 借家だが、宅地も庭も充分な広さのある住宅だった。
 ふたりで住むには広すぎる。
「どっちにしろ、俺は春からニューヨークに住むんだよ。勿体無いねえ」
「結局は凛を独り暮らしにさせてしまうね」
「車で二時間もかかからない。会いたくなったらすぐ会えるじゃん。今までと大違いだよ。すぐに車の免許を取るよ。俺が慧に会いに行くから、この広い家で待っててよ」
「ああ、待ってる」

 静かな知らない街で、新しい年を迎えた。
 慧一は新年早々、事務所へ出向いている。
 新しい雇い主のパトリック・ネヴィルと言うアーキテクトは、エール大学で講師もしている。
 芸術的な作品が多く、何度も有名なコンペで受賞している建築家だ。
 俺も折を見て挨拶に伺った。
 ネイティブアメリカンの血を引くネヴィルは、アメリカで言うエキゾチックな容貌で、日本人の俺には親しみを覚える。
 彼は初めて出会う多くの人と同じく、驚いたように俺をしげしげと見つめた。
「…こんなのは初めて見たよ。高校生と言ったね。本当に人間?」
「はい」
 俺は苦笑しつつ握手を求めた。俺の手を握り締めたネヴィルはそのまま手を離さない。
「温かい…血は流れているみたいだ」
「…兄がお世話になります。今後ともよろしくおねがいします。ミスター」
「パックと呼んでくれ。アンシャル」
「は?」
「凛、天使って意味だよ」
 隣りに立つ慧一が教えてくれた。
「はあ~」
「兄弟とはいえ大したもんだね~。一対の神使のようじゃないか。私への使いにしては…そこまでキリスト信仰は深くないはずだが…そうか!やはり『偉大なる精霊』が私を守っているのだ!」
 ネヴィルは腕を組み、うんうんと唸ったと思ったら、部屋の隅に飾ってある奇妙な物を自分の身体に身に着けた。
 動物のお面を被り、槍を持って「ワカン・タンカ!」と叫びながら部屋を飛び跳ね続けている。
 さすがに俺も呆気に取られた。
 俺は隣りの慧一にそっと耳打ちした。
「あんなんで大丈夫なのか?」
「うん…多少の不安要素は否めない…かな」
 ネヴィルの踊りが終わるまで、俺達は玄関で彼を見守っていたんだ。
 


パックの踊り~


「HAPPY」 20へ /22へ
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