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2010-10

宿禰凛一編 「HAPPY」 21 - 2010.10.01 Fri

凛2

21、 
 その日の夜、ゲストルームのふたつあるベッドのひとつに慧と一緒に寝た。
 慧はもしエリザベスにでも覗かれたらと、案じたが、「別にセックスしてるとこ見せるわけじゃないし、仲のいい兄弟でいいんじゃない」と、俺は気にしない。
 慧は仕方がない奴だと溜息を吐く。
「凛、ここが気に入ったかい?」
「うん、とっても。ベスもステキなおばあさまって感じだし、なによりランディがたまらなく可愛い。それより、教授の話どうだった?いい仕事が見つかりそう?」
「ああ、ニューヘヴンに教授の教え子がいてね。その人の経営するアトリエ事務所で、腕のいい建築士を探しているそうだ。教授は俺を推薦したいと申し出てくれた。クリスマスが終わったら、教授とふたりで話を聞いてこようと思う。条件次第でそこに決めてもいいかい?」
「勿論だよ。慧と一緒なら俺はどこでもいいよ」
「じゃあ、2,3日はここで留守番を頼むよ。奥さんひとりにしておくのは可愛そうだからね」
「わかった。ランディといい子にしているよ。いい結果を待ってる」

 クリスマスが終わり、教授と慧一はニューヘヴンへ出かけた。
 俺は教授から手渡されたテスト式のプリントを解いたり(殆どが数学と物理の問題だった)、エリザベスの手伝いやランディの世話で一日を過ごしていた。
 夕方、黄昏の公園をランディと散歩する。
 誰も居ない道の向こうにゆっくりと沈む夕日…ミナとふたりで温室で眺めた風景を思い出した。
 ミナ…君は知らないんだろうね。こんな遠くでひとり、夕日を見ている俺を…
 二度と交わることの無い道を選んだのは俺だ。
 
 夜になって、慧一たちが帰ってきた。
 上手く話がつき、新年を迎える前に転居すると言う。
「急ぐんだね」
「いつまでも荷物を社宅に置いたままにもいかないからね。明後日には届くよう連絡をつけたよ。片付け事も多いし、手続きやらで忙しいから、新年まで凛がここに居たいのなら、そうしてもいい」
「やだよ。俺も行く。慧一から離れないって言ったろ?」
 頷いて微笑む慧が大切だから、守りたいと思うから…

 その夜、長旅の運転で疲れたのか、早くにベッドに潜り込んだ慧一を寝室に残して、暖炉でランディと寛いでいた。
 教授が「ちょっといいかね」と、俺の隣りに座り、書斎の机に置いておいたプリントを差し出した。
 俺は教授と向かいあわせに座り、そのプリントを受け取る。答えを書き込んだ用紙にはしっかりと赤線が引かれている。
「これはリンが答えを見出したの?」
「そうです」
「全部?」
「はい。わからない単語は辞書で調べましたけど…とても難しかったから、あまり良い出来じゃないでしょ?」
「いや、よく出来ているよ。すばらしいと言ってもいい」
「ありがとうございます」
「ケイイチに聞いたのだが、リンはこちらの大学へ留学したいそうだね。どこの大学かは決めたのかい?」
「いいえ、まだ…できるなら慧一の住む近くがいいと思うんですけど…」
「そうか…ニューヘヴンはエール大学があるけれどね…」
「いえ、そんな名門大学へ無理して行こうとは思っていません」
「リンは建築家になりたいの?」
「そうです。慧一と一緒に建築事務所を設立し、母と姉のカテドラルを建てるのが俺のやるべきことだと思ってます。一人前のアークテクトになる為に、俺はこの国で学びたい」
「そうか…リン、ひとつ提案をしてもいいかい?実は今、私はコロンビア大学で客員教授で指導しているのだが、来年度からは常任することにしている。もしリンが望むなら、コロンビア大学へ推薦したいと思うが…どうかね?」
「…本当に?」
 あまりの吉報に驚いて、胸が高鳴った。願ってもいない申し出だ。
「ケイイチとは少し離れるが、車で二時間かからないし、私とベスもニューヨークに住むことになるから、なにかと頼って欲しい」
「ああ…ブライアン教授、ありがとうございます。なんとお礼を言って良いのか…」
「リュスと呼んで欲しい。ベスも君のことをとても気に入っているんだ。かわいい孫が出来たとね。勿論私もだよ」
 眠っていると思ったランディがワンと小さく吠える。
「おやおや、リンを一番気に入っているのはランディだった」
 教授はランディの頭を撫でる。
「日本の高校を卒業したら聴講生として参加しなさい。九月までにレポートを提出して、編入試験を受けるといい。できるだけ早くケイイチの手伝いをしたいのだろう?その為には一途に勤勉して建築家の資格を取ることだ。判らないことがあれば、遠慮なく私を頼りなさい。いつでもリンの助けになろう」
「ありがとうございます…ああ、どうやって恩返しをしたらいいんだろう…見当がつかない」
「リン。ケイイチは君の背中に時々翼を見ると言う」
「あ…そんな事を言ったんですか…すいません。兄貴の戯言だと許してやって下さい」
「いや、それが、ベスもそんなことを言うんだよ。君を最初に玄関に出迎えた時、『銀色に輝く羽を持った少年が私を見て微笑んだの。天使と言うより、羽が生えた少年よ。なんて綺麗なの!』って驚いていた」
「…」
「まあ、私に言わせれば、生物学上に考えて、哺乳類の背中に羽があるとは考えにくい。鳥類は敵から身を守る為 、腕の代わりに翼を持つ。極めて論理的だ。天使という想像物はロマンチックではあるが、私には違和感しかないよ。手足があって、それ以外に余分なものが必要かい?日本は八百万の神々が宿る国だが、人型で翼がある神は少ないだろう?だが羽衣があるよね。物を使って飛ぼうとする。理屈や概念として、私はこちらに魅力を感じるね」
「リュスは日本に詳しいんだね」
「ジャパンオタクと呼んでくれてもいいよ。アキラは私の最も愛するアニメーションだ」
「それは…古いよ~」
「そうかい?じゃあ、リンのお奨めを頼むよ」
「任せといて、リュス」
 見かけと違って、リュスの感覚の若さに驚いた。慧一よりよっぽど気が若いや。
 
「私はね、君たちがここへ来てくれたことを感謝しているんだよ。…子供達が手元から居なくなって家内は寂しいと嘆いていた。クリスマスも私とふたりきりで過ごさなきゃならなかったからね。とても落ち込んでね…元気が無かったんだ。正直、君たちを呼んだのは、ふたりだけでいる辛さを少しでも和らげられるならと思ったからなんだよ。本当に君たちが来てくれて本当に良かった」
「そう…だったんですか」
「リン、君は青い鳥なんだろうね。だが、無理に飛ぶ必要はない。君という個が周りを照らしてくれる。それだけで多は多くの何かを得るんだ。礼を言うのはこちらの方だ。ありがとう」
 丁寧に頭を下げるリュスを制して、俺は言う。
「これからはずっと俺の方がお礼を言わなくちゃならないから、リュスのお礼は差し引いてください」
 顔を見合わせてお互い笑いあった。
 新しい家族はここにも居る。

 年を越す前になんとか、ニューヘヴンの新宅への引っ越しが片付いた。
 借家だが、宅地も庭も充分な広さのある住宅だった。
 ふたりで住むには広すぎる。
「どっちにしろ、俺は春からニューヨークに住むんだよ。勿体無いねえ」
「結局は凛を独り暮らしにさせてしまうね」
「車で二時間もかかからない。会いたくなったらすぐ会えるじゃん。今までと大違いだよ。すぐに車の免許を取るよ。俺が慧に会いに行くから、この広い家で待っててよ」
「ああ、待ってる」

 静かな知らない街で、新しい年を迎えた。
 慧一は新年早々、事務所へ出向いている。
 新しい雇い主のパトリック・ネヴィルと言うアーキテクトは、エール大学で講師もしている。
 芸術的な作品が多く、何度も有名なコンペで受賞している建築家だ。
 俺も折を見て挨拶に伺った。
 ネイティブアメリカンの血を引くネヴィルは、アメリカで言うエキゾチックな容貌で、日本人の俺には親しみを覚える。
 彼は初めて出会う多くの人と同じく、驚いたように俺をしげしげと見つめた。
「…こんなのは初めて見たよ。高校生と言ったね。本当に人間?」
「はい」
 俺は苦笑しつつ握手を求めた。俺の手を握り締めたネヴィルはそのまま手を離さない。
「温かい…血は流れているみたいだ」
「…兄がお世話になります。今後ともよろしくおねがいします。ミスター」
「パックと呼んでくれ。アンシャル」
「は?」
「凛、天使って意味だよ」
 隣りに立つ慧一が教えてくれた。
「はあ~」
「兄弟とはいえ大したもんだね~。一対の神使のようじゃないか。私への使いにしては…そこまでキリスト信仰は深くないはずだが…そうか!やはり『偉大なる精霊』が私を守っているのだ!」
 ネヴィルは腕を組み、うんうんと唸ったと思ったら、部屋の隅に飾ってある奇妙な物を自分の身体に身に着けた。
 動物のお面を被り、槍を持って「ワカン・タンカ!」と叫びながら部屋を飛び跳ね続けている。
 さすがに俺も呆気に取られた。
 俺は隣りの慧一にそっと耳打ちした。
「あんなんで大丈夫なのか?」
「うん…多少の不安要素は否めない…かな」
 ネヴィルの踊りが終わるまで、俺達は玄関で彼を見守っていたんだ。
 


パックの踊り~


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