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2010-10

水川青弥編 「フラクタル」 8 - 2010.10.08 Fri

ミナたん1


8、
 …明日は会えない。どういうことだ?
 リンの言葉に戸惑ってしまった。
「…どうしたのさ」
『今、成田なんだ。今からニューヨークへ行く』
 ニューヨーク?どうして?
 そうか…慧一さん絡みに違いない。
「慧一さんに…何かあった?」
 震える声で問う。
 リンに悟られなきゃいいけれど…
『うん。どうしても行かなきゃならなくなったんだ』
 焦ったリンの声が響いた。本当に心配な状況にあるんだろう。
 だけど、おれだって…
「そう…残念だよ。…楽しみにしてた…」
『ごめん。ごめんな、ミナ。この埋め合わせはちゃんとするから…』
 切羽詰った声だった。
 これ以上リンを責めてはいけないと感じた。
「いいよ。気にしないでくれ。緊急なことなんだろうから、仕方ないよ。気をつけてね、リン。年を越したら学校で会おう」
 精一杯平気な振りをした。
 電話を切った後、少しだけ涙が溢れた。
 だって仕方が無い。本当にすごく楽しみにしていたんだ。
 リンとふたりだけで過ごせる高校最後のクリスマスを…
 楽しみたかったんだ…

 翌日の寮祭もお祭り騒ぎの皆に合わせて、はしゃいだりもするけど、やっぱり寂しい。
 同室の三上はなにかとおれを気遣ってくれるけれど…
「水川、そんな顔をするなよ。宿禰ものっぴきならない急用があったんだよ。あいつ、約束を簡単に破る奴じゃないもの」
「わかってるよ、三上。わかってる…」
 わかっているさ。
 …リンにとって慧一さんがどんなに大切な人か。
 血の繋がった兄というだけの関係じゃない。もっと深い絆であのふたりは結ばれている。
 おれが辿り着けない場所で、あの兄弟は理解し合えることができるんだ。
 慧一さんにはリンしかいない。もしそうなった時、リンはどうするのだろう。
 リンは何を差し置いてでも、慧一さんを選ぶんじゃないだろうか…

 それは確信だった。
 そう結論付けてしまったら、後に残る答えは必然的にひとつしかない。

 リンが選ぶのはおれじゃないって事だ。


 世田谷の実家に帰ってからもリンからの連絡はなかった。
 いくら思いあぐねても仕方ないから、一心に勉強に励んだ。
 勉強をしていれば、なんとかリンの事は忘れられる。
 晦日、リンからメールが届いた。
 慧一さんが不本意にリストラされたこと、何とか再就職が出来たこと。ニューヘヴンをいう街に引っ越しだこと。慧一さんが落ち着くまで、そこで一緒に暮すこと…
 最後に、「T大合格は二人の目標だから、精一杯頑張ること!」と、綴(と)じられていた。
 
 ふたりの目標…リンはそう思っている。
 だったらおれも頑張らなきゃならない。
 リンの本音がどうであれ、おれに出来ることはリンを信じることだけなはずだ。
 リンを疑っている時点で、おれは慧一さんに戦いを挑む権利など持たなくなってしまうんだ。
 リンを愛している。だったら、おれは最後までリンを信じるだけだ。

 新年が明けた。
 おれは寮に戻った。
 わかっているが、リンは帰ってこない。
 去年も一昨年も一緒に行った八幡宮へ独りで初詣に行った。
 一緒に大学へ行けますようにと祈願した。
 リンの分のお守りを買って、大事にポケットに入れた。
 おみくじを二人分引いた。ふたりとも大吉だった。
 リンといつも一緒にいれる様にと、ふたつのおみくじを合わせて木に括りつけた。
 一年前も二年前も、リンはこうしてくれた。
 今はリンは居ないけれど、きっと一緒ならこうしてくれるに決まっている。
 大丈夫だ。おれはリンを信じられる…


 三年生の三学期は、基本自由登校だ。
 私立の進学校だから、遠方の生徒は帰省したまま、戻らない奴も多い。
 俺も授業は選んで、補習に力を入れた。 図書館や自習室に篭もる時間も多い。
 骨休みは温室で過ごした。
 水やりや草木のデッサンをしているだけで心にゆとりが持てる。
 無心に植物を描いていると、その隙間にどうしてもリンの影を描き込んでしまうクセがついた。
 リンと温室の植物たちは、おれの絵には当たり前に必要な題材となってしまっていたんだ。
 居ないリンの姿が温室のあちらこちらにはっきりと見えてしまう。その姿をデッサンするのは容易い。
 リンの笑った顔や真剣な顔、ちょっとひねくれたり凄んでみたり…ああ、どんな表情だって、描ける喜び。
「リン、早く帰って来いよ…」
 そう声に出して途端、涙が溢れ止まらなくなった。

「ばかだなあ…おれ…ほんと、ばかだ…」
 だって、ほんとうに、リンが、好きで…好きでたまらないんだよ。




おれが描いたの

フラクタル 7へ9へ 
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ


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