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2011-01

藤宮紫乃編 「Sonnet」 1 - 2011.01.17 Mon

紫乃22
 

Sonnet(十四行詩)

1、
 ひとり座ってうるわしく静かに
 過去を憶いおこして考えると
 私が望んだ多くのものにありつけなかったことを悲しむ
 昔の不幸を憶い 新たに私の懐かしい日々を歎く
 死の果てしない夜に かくれた貴い友達のために
 滅多に泣かないまなこも 涙に溺れるほどだ
 また長く忘れていた愛の悩みも 新たに歎かれる
 私を犠牲にした多くの過ぎた幻影を悼まれる
 それに過ぎ去った悲しみも悲しめる
 すでに悲しまれた多くの悲しみの悲しい勘定を
 憂鬱に不幸から不幸へと数えあげる
 まだ不払いの勘定のように 新たに支払われる。

  親しい友よ、こんな時でも君を思うと
  すべての損失は償われ、私の悲しみは終わるのだ。

      W.シェークスピア
 

 夏が嫌いなのはいつからだったか覚えていない。
 日中のそれは言うまでも無く、
 夜になってもこの蒸し暑さときたら、昼間の疲れを倍増させる気でいるらしい。
 ついで星ひとつ見えない都内のみすぼらしさに、当然ロマンなど探せそうもない。
 やっと着いた終点の重い扉を開ける。

「紫乃、おそ~い」
 都会に彷徨い出でた天使のごとき彼が、手を招く。
「悪い。仕事が片付かなかったんだ」
「疲れた顔してる。まあ、座りなよ。今晩の主役がお待ちかねだよ」
「…」
 主役ねえ…
 その主役が中央のソファに座って、俺へにっこりと微笑む。
 俺は仕方なしに「誕生日おめでとう」と、声を掛ける。
「ありがとう、紫乃。仕事で疲れているのに悪かったな。ゆっくり寛いでくれ」
 BGMはいつものジャズが流れるが、辺りを見回して、常連の客しか見えないことに気づく。
「おまえの誕生日の為に、わざわざ貸切なのか?」
「今日は店休日なんだが、慧一くんの誕生日の為にわざわざ開けたんだよ、紫乃くん」
 オーナーの嶌谷さん直々の丁寧な挨拶を受け、用意された座へ腰を下ろす。

「夏休みなのに先生は仕事なのかい?」
「夏休みでも生徒は補習。先生は授業があるんですよ。受験生なんてバケーションどころじゃない」
「大変だねえ~」
「はい、センセ。ビールでもどうぞ~」
 なぜか主役の真正面へ座らされた俺に、いつもの常連客が次々とおしぼりやら料理を取り分けた皿などを差し出す。
「まずはシャンパンで乾杯など」と、主役の隣りへ座る堕天使の凛一がシャンパングラスになみなみとドンペリを注ぐ。
「で、紫乃。慧一へのプレゼントは何?」
 凛一の性悪な瞳が俺を見つめる。しかもその質問に対しての俺の答えは…
「ない」
「へ?」
「忘れた…」
 これはマジだった。
 八月八日は慧一の誕生日。そんなこたあ、誰に聞かれなくても知っている。
 毎年毎年、俺はひとりででも慧一の誕生日を祝ってやっているんだからな。
 しかし…今夜のパーティは予想外であり、
 今日の夕方、凛一からの連絡で慧一の誕生日だったと気づき、プレゼントなど、全く頭に無かったのだ。

「紫乃、マジで慧一への誕生日プレゼント忘れたのか?」
「…ああ」
「信じられない~。俺なんか車だぜ。プレゼントしたの」
「凛、あまり紫乃を責めるなよ。それにプレゼントの車って言っても、こちら(日本)で使う仕事用だろ?経費で落しているし、凛も兼用じゃないか」
「それでも慧へのプレゼントです。なにも持ってこない紫乃とは、愛情の重みが違うよねえ~」
 いかにもわざとらしく嫌味を言う凛一を思い切り睨みつけても、悪魔の笑みでにこりと返され、力が抜ける。
 まあ、なんとでも言え。確かに手落ちの俺が悪い。
 言い訳をするなら、慧一の誕生日さえ思い出せないほど、仕事熱心だったと…通じねえな。

「まあ、今日は許してやるよ。しかし紫乃も歳だねえ~。慧一の誕生日も忘れるようじゃやもめ暮らしが心配だよ」
「ああ、どーせ、35の爺ぃですよ」
「紫乃はまだ34だろ?35の爺は俺だよ」
「慧一くんや紫乃くんが爺なら俺たちはどうなるんだ?なあ、嶌谷さん」
「哀れな年金泥棒って言われないように、死ぬまで働くしかない身の上だろ?」
「あら、私はいつまでも乙女のミコシさんでいるわよ~」
「命短し恋せよ乙女、紅きくちびるあせぬ間に…ですよ、ミコシさん」
「もう、憎たらしい子なんだから。早く老いさらばえよって言ってるの?」
「違うよ。この詩の意味はね…今を精一杯生きろって意味なんだよ。ねえ、慧」
「うん。実はこの元になっている歌は『バッカスの唄』と言ってね。ルネサンスの豪華王として有名なロレンツォ・デ・メディチが残した詩なんだ。こういう話は紫乃の専門だよな」
「…青春とはなんと美しいものか
 またたく間に過ぎ去ってしまう
 愉しみたければ、さあ、すぐに
 たしかな明日などは、ないのだから…」
「ステキだわ~。青春は若者だけのものじゃないし、それを楽しまなきゃ損しちゃうわね~」
「そうだよ。今という時はただ通り過ぎていくだけ。それをどう使うのかが人それぞれだもの。今日は慧の誕生日だからね。みんなに幸せになってもらいたいんだ」
「凛くんがいるだけで、我が家はハッピーだね~、ねえ、マスター」
「ああ、凛一はうちの守護天使なんだ。永遠にね」
「まさに、永遠すら一瞬の彼方へ消え去るのが、時というもの」
「詩人だねえ」

 誰彼の顔も幸せに満ちている。
 慧一も凛一も…そして俺もそうでなければならない。
 だが何度飲み干しても、今日の酒は少し苦く感じた。

「じゃあ、俺は明日も仕事があるから…」
 席を立つ俺を、慧一が見送る。
「紫乃、今日は遠くからありがとう。本当に嬉しかった。おまえの誕生日には花束を贈るよ」
「35本か?」
「いや、抱えきれないほどの赤い薔薇だ」
「…」
 昔と変わらない笑みを見せる慧一が、愛おしい。

 とっくに日は跨いでいた。
 深夜二時。俺は「Satyri」の店を出た。
「紫乃、足取りふらついてるし、俺、送っていくよ」
 外まで追っかけてきた凛一が俺を気遣う。
 ムカつく奴だが、こういうところが憎めない。それも計算なら、俺の負けだろうが。
「ばーか。今日は慧一の誕生日なんだから、傍にいてやれよ。それが一番あいつが欲しいプレゼントだろう」
「…いつだって、そうやって、紫乃は慧一を一番に想ってくれているのにね。兄の非礼を許してやってよ」
「これでも、おまえらの幸せを喜んでいるんだよ。そして、俺への気遣いもありがたく受け取っているさ。…凛一は、良い子だな」
「完全に酔っ払ってるね~紫乃。あんたが俺を褒めるなんてさ」
「いいじゃないか。たしかな明日はもうすぐそこだ。今のうちに楽しんでおけ。じゃあな」
「バイ、紫乃。気をつけて…」

 手を振る凛一に応えて、俺は角を曲がった。
 そのまま大通りに出て、そしてタクシーに乗って我が家へ帰る。
 いつものパターンを取るべきだった。明日も朝から仕事なんだから。
 それなのに、路地を曲がったところで足元がふらついた。
 前を歩いているカップルを避けようとして、足をとられ壁へ激突、そのまま地面に崩れ落ちた。

 仰向けになった俺は、星の無い空に星を夢見ていた。
 昔、慧一と一緒に見た無数の星空を思った。
 俺の青春はあれだったのだ。
 あれでしかなかった。
 だからって今を嘆く気もない。
 俺は幸せだ。こんなに人を思う気持ちが俺の中にあるのだから。

「慧一、35歳の誕生日おめでとう。俺もすぐに追いつくさ。いつだって並んで歩ける距離でいられる…そうだろ?…慧…」
 そのまま、目を閉じた。
 何故なら、幸せな気分だったし、立つ事もままならぬ状態だったからだ。

「大丈夫か?」
「ああ…大丈夫だよ、慧一…」
「大丈夫に見えねえし。このままだと誰かにぼこられるよ」
「…うん、わかって…るし…慧…」
「…なんで俺の名前、知ってるわけ?」
「知らん。慧…は慧…だ…」

 それが誰の腕なんかはどうでも良かった。
 足元もおぼつかない俺を抱きかかえるように連れ去る人よ。
 あの星の彼方まで連れてゆくがいい。
 そして心から祝わせてくれ。 
 すべての祝福をあの男へともたらし給え、と…





「Sonnet」 2へ


今年の初書きテキストです。 
今日午後、三時間弱で書いたんだが…なんかもうね…すまんね(;´Д`A ```って感じ。

各キャラの誕生日をもう一度、確認。(多少、変わりました~)
慧一…1982.8.8
紫乃…1982.11.18
凛一…1991.4.14
ミナ…1992.3.14


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