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topimage

2011-03

「希望」 - 2011.03.30 Wed

フリー絵です。
インスピレーションなど感じられましたら、自作テキストなどに使われて結構です。
その際、コメント欄にひと言、使用したいとお知らせください。
こちらからのテキストへの直接コメは申し訳ございませんが、遠慮させてください。


kibou

何の力にもなれないけど、勇気を持って前に進んでいけたらいいね。
被災の方達の前に向かっていこうとする映像に、こちらが救われます。
そういう絵を描きたかった。



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ハルミさんとカイリさん - 2011.03.29 Tue

書籍の為の編集がめちゃ大変で~

二年間のテキストだから仕方ないけどね。

最初の頃はなんかひどくて書き直しが結構ありますね~

それとかなり削ってます。

おかげで五百頁にはならなくて済みました。

まあ、こういうことばっかしてると、気分転換に絵を描いたくなりますの。

で、さっさ~と描きました。

RouteMさんのところのハルミとカイリですね。

自分の描いたキャラだから描きやすいです。

ハルミカイリ

たまにエロっぽいの描きたくなりますね。

背景はふたりのDNAを絡んだ感じに。





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あとがき と、書籍予告 - 2011.03.23 Wed

sino22.jpg
あとがき

紫乃編「sonnet」をもって、「green house」はすべて書き終わりました。

リンミナ編が終わった時、すべて終わったと思った。だが、心残りがなかったわけじゃなかった。
紫乃のことだ。
この一番マトモな、一途な優しいキャラをこのままにしておいていいものだろうか。
未来に幸せになれると思い描いていても、それをはっきり示すべきじゃないのか。
だってこの「greenhouse」の物語はリン、ミナ、慧、そして紫乃で出来ている。
常にオブザーバーでしかなかった紫乃に恋をさせる。
その相手は…
今までにない性格にしたい。
紫乃を愛してくれる暖かい、平凡な実直で純粋な…およそ凛、慧には当てはまらないキャラを頭に描いた。
大学生、それも教育実習生にしよう。
幸いな事に今時の大学生のサンプルは近くにいる。教育実習は経験がある。よし!ならば土台は出来た。
さて、慧と凛だ。彼らを無視して紫乃を語れない。
出来上がっていない宿禰家の聖堂は気になっていた。
本当は凛の最後に出来上がったところを描きたかったぐらいだった。よし!ならば出来上がらせよう。
祝福されるべき者達は紫乃と恋人、啓介。
慧と凛は絶対的な祝福はない。なぜなら彼らはトライアングルの輪に繋がられている。相対する者達ではない。
絶対的な祝福は紫乃に与えよう。
そう思った。
パラグライダーは実は従弟がずっと趣味でやっていて、面白いと聞かされていた。やったことはないけどね(;´∀`)ネットで調べれば疑似体験ぐらいできるだろう。
妄想だけは人一倍。

啓介を考える時、温かい光を思い浮かべた。彼になら光を手にしようとしなかった紫乃を救える。そう思った。
凛や慧みたいに屈折もしていないし、華やかでも色気もない。ウケないのはわかっていた。だけど彼しかいなかった。

私は最後のテキストを二時間強で書き上げたが、ワード(うちはオープンオフィス)を立ち上げて書きはじめるまでが二時間であって、それまでの何十時間という間、常にシチュエーションを考えている。
一切の下書きも台詞も文字にはしないが、キャラの動作、感情、背景など何度も何度も練り直し、これだと思ってPCの前に座る。キャラになって書き始めれば、すべてはキャラが話してくれる。それまでの感情を自分に与える時間がかかるのだ。
最後の薔薇の花束を渡すシーンなどは10話まではまったく考えてもいなかった。
聖堂を使おうと思いついたのはその後だ。
まあ、よくもつじつまの合うように辿り着いた話だと思った。
すべてキャラが導いた。勿論私の頭が考えた話だが…

と、言ってもこのテキストが誇れる次元ではないことは充分承知している。
しかし、この二年間、このテキストに関わった時間に敬意を表して、一冊の本にしようと思った。

すべてを合わせた文字数は64万文字程だ。
A5にしようとしたら800枚ほどになる。(8.5フォント、二段にしてだ)
一旦は諦めたが、B5にしたらどうだ?と、思って大体計算してみた。
500枚程度で抑えられそうだ。
そういうわけで、書籍にすることにした。
背表紙もね、2センチは軽く超えるかもしれないけどね。挿絵は一切ないです。残念ですが…
明日からテキストを見直して、出版社と相談してみようと思ってま~す。

出来たらまた報告いたします。
もし通販できたら、二千円程度になると思います。
ただ今回は記念出版なので、印刷数は少ないと思います。
もし頼まれる方がいらっしゃる場合は、早めに言っていただければと思います。
尚、今回は売り上げはすべて今回の地震の義援金として区役所へ募金しようと思ってます。

これからの執筆の予定ですが…しばらく休みたいですね~(;´∀`)
歳だから頭働かねえ~
またやる気になったら頑張ります。
絵は描けたら描きます。
グリーンハウスは終わったけど、凛達の絵はこれからも描きたい時に描きます。
どんどん変わっていくと思いますけどね~

では、さいごまでお付き合いありがとうございました。

最後に、予定の表紙のレイアウト。
表紙


藤宮紫乃編 「Sonnet」 完結 - 2011.03.23 Wed

14、
 11月18日は俺の35歳の誕生日だ。明後日に控えた晩、ニューヨークの凛一から電話をもらう。
『いいか、紫乃。俺と慧で祝ってやるから、仕事が終わったら時間空けとけよ』
「別にいいよ。年取ることを祝ってもらうのは二十五歳までだ。お肌の曲がり角が過ぎたら、ろうそくの火なんかいらねえや」
『年取ると僻みっぽくなってやだね~。愚痴っぽいとケースケちゃんに嫌われるぞ』
「うっせー!」
 こちらから切ってやった。
 バカやろう。啓介のことには触れるなよ。それでなくても…あいつは帰ってこない。
 『誕生日には帰ってきたかったけど、ごめんね。戻るにはもう少しかかりそう…』 と、朝のメールが啓介から届いた。
 「別に気にしてない。おまえは父親の面倒をしっかりみてやれ」と、返したけれど本意じゃないことぐらい啓介にだってわかっているはずだ。
 …もうひと月近くおまえの顔を見ていない。

 その日は模擬試験中で生徒達は午前中で下校。教務時間も四時には終わる。
 その時間を見計らったように凛一からの携帯が鳴る。
『紫乃、仕事終わった?』
「ああ、今終わったところだ」
『誕生日のお祝いさ。ちょうど新しい聖堂が出来上がったから、そこでやることにした。だからすぐに来いよ。あんたの車なら三十分もかからないだろ?』
「だから何度も言ったろ。別に祝って欲しいって言ってねえよっ」
 思わず語尾が強くなった事を悔やんだ。
『…紫乃、俺達があんたを祝いたいんだよ。来てくれないか?』
 ささくれ立つ理由がなんであれ、凛一達の想いを素直に受け取る器量ぐらい持てよ。
「悪かった。すぐに行くよ」
『うん、待ってる』
「凛一」
『ん?』
「ありがとう」
『お礼なら聖堂で言ってよ。慧一も紫乃を待ってるからね』

 携帯を切り、すぐに聖堂に向かった。
 目的地の山手のまだ整地されたばかりの道路を登り、丘の頂上に立つ聖堂へ着いた。
 仕上げ途中の門を潜り、資材が片付いていないガーデンを通り抜け、聖堂に近づいた。
 東向きの聖堂は、どんな材質を使っているのかはわからないが桜色の壁面がなんともやわらかで美しい。ところどころにはめ込まれている白い大理石のモザイクが花びらのように見える。
 宿禰家の家族への愛が満ちている気がした。
 重厚なヒノキの扉を開ける。
 真新しい木の匂いが鼻腔に広がった。程よい高さの天井のヴォールトも木材を使っているのだろうか。綺麗な木目が見える。目立たないが贅沢な作りだ。
 華美なものは一切なく、ただあるものが必然にある。それだけだった。
 大仰ではなくやわらかい光に満ちた空間が、身廊を清冽にしている。
 こんな空間は初めてだった。
 突然パイプオルガンの音が響いた。それさえ荘厳ではなく、ただ来る者を癒す為の音。
 目をやると奥の左隅のオルガン席に凛一が座って弾いていた。
 ブルグミュラーの「アヴェマリア」だ。
 聖ヨハネの週一行われる礼拝で、週番がパイプオルガンを弾く。たびたび弾かれる曲がこの曲だ。
 シンプルなのに美しい旋律。どこか懐かしい。
 低い内陣の奥に背を向けて立っている男が居た。
 背格好から一瞬啓介かと思ったが、啓介がここにいるわけがない。
 こちらを向かなくてもわかっている。
 俺は慧一に近づいた。
「慧一、すばらしい聖堂だな」
 こちらを向いた慧一が穏やかに微笑む。
「ありがとう。今の俺と凛ができる精一杯の聖堂だよ」
「きっと母親も妹さんも喜んでいる」
「そうだといいな」
「しかし…」内陣をくるりと見回した。「何もねえな」と、笑う。一般の教会には当たり前にある、ベンチも恵の座も十字架もない。
「ここは安楽の地だからね。椅子に座って懺悔をする場所じゃないんだ。光を受け取ってくれたらいいと思っている」
「光か…」
 正面にアルターピースはないが、シンプルにデザインされた薔薇のステンドグラスが淡く光に照らされている。
 繰り返される心地良い音楽とステンドグラスに身を委ねていたら、慧一が口を開く。
「紫乃。三十五歳の誕生日おめでとう。これからも友人として家族として…愛し続けていけたらって、思っている」
「…うん」
「俺の誕生日に約束したこと覚えているか?」
「は?」
「抱えきれないほどの薔薇の花束をプレゼントするとおまえに言った」
「そう…だったな」
「残念だが俺からは渡せない」
「はあ?」
「是非おまえに渡したいという奴に役を譲ったんだ」
「えっ?」
 鳴り終わっていたパイプオルガンが再びメロディを響かせた。
 印象的な和音…メンデルスゾーンの…「結婚行進曲」。
 慧一が内陣の右端の扉を開いた。
 そこに立っているのは…啓介。
 黒のタキシードを着た啓介は、両手に抱えきれないほどの薔薇の花束を抱えている。
 赤い薔薇と同じくらい真っ赤な顔をして…
 慧一が足の動かない啓介の背を押す。
 啓介は緊張の所為でつんのめりながらぎこちない歩き方で俺の方に向かってくる。
 クライマックスへ向かうメロディに乗せて、俺も啓介に近づく。

啓介バラ

「紫乃…誕生日おめでとう」
「あ、りがとう…啓介、戻るなんて言わなかったじゃないか」
「紫乃を驚かせたかったんだ」
 少しだけ済まなさそうに啓介は頭を傾げた。
「アホか…クソっ、騙された俺は素直に喜べない。今日のメールだって戻れないって言ってたクセに」
「それは…」
「俺が啓介くんに嘘をつけっていったの。実はこの企画、一週間前から啓介くんに頼んでたの」
 オルガンを弾く手を止め、こちらに近づいた凛一がいたずらっ子の顔をする。くそっ、こいつにはまともに勝った試しがない。おのずと啓介を責めたくなる。
「一週間…啓介、おまえずっと俺を騙していたのか?」
「ごめんなさい。凛一さんたちが絶対紫乃が喜ぶから、黙っていろって…命令でしたので」
「紫乃、啓介くんを責めるな。俺と凛一が企てたとしてもすべて紫乃を喜ばせたかったからなんだから」
「だからって…俺がどんな気持ちで過ごしてたと思う」
「欲求不満が爆発しそうって事?」
「うるせー、凛一、黙ってろ!それより啓介、お父さんの具合はどうなんだ?ほおっておいてもいいのか?」
「父さんは『俺の事は構うな』って言ってる。『奇跡の復活をした息子に負けられるもんか』って。親父はね、俺には自由であれって言うんだ。『生きる喜びを見つけた啓介がここにいる理由などない』って…紫乃の事は話していないのにさ。ちゃんとわかっているんだよ、親父の奴。…俺はね、紫乃と生きていくって決めてたから、戻るつもりでいたんだ。だけど先に親父に言われたよ。まだまだ敵わないね。それこそ年の功って奴?」
「啓介…俺は…」
「ずっと待っててくれたんでしょ?…ありがとう、紫乃。俺も会いたかった」
 啓介が渡してくれた薔薇の花束が眩しいくらいに赤く輝いた。

「紫乃、この聖堂は、誰でも愛を約束を慈しみを誓い合い、祝福される場所にしたいと願っている。ファザーは居なくても秘跡は執り行われる。誓いあう魂に嘘がなければ認められる。紫乃と啓介くんがこの聖堂の最初の約束の地へ導く者となれば幸いだ」
「慧一…」
 なんてことだ…俺はなんて幸福者なんだ。こんなことって…信じていいのか…
 俺は隣りに立つ啓介の顔を見上げた。啓介は俺を見て笑う。
「紫乃を幸せにするよ」
「俺も…啓介を幸せにすると…誓う」
 目の前に並んだ慧一と凛一が祝いの拍手を奏でた。
「おめでとう、紫乃。いつまでも幸せに」
 付き合っていた頃よりもずっと…慈しんでくれる慧一がいる。
「つまりは大団円…だろ?」
 得意げにウィンクをする凛一がいる。

 ステンドグラスの赤と白の薔薇が、夕日に照らし出され一層鮮やかに輝き始めた。
 俺達は心奪われるままにその幸福の光を浴び続けた。
 ただずっと…あるがままに。

 次の休日、俺と啓介はパラをやるため、朝霧高原へ向かった。
 ドライブ中に先日から気になっていたことを聞く。
「啓介、聖堂でおまえの着ていたタキシードは一体どうしたんだ?」
「あ、あれ?慧一さんが貸してくれたんだ。背格好は似てるって本当なんだね。ぴったりだったもの」
「似合ってはいなかったけどな」
「ひでえ~。まあ、凛一さんも笑いころげていたけどさあ。…俺に連絡くれて、念入りに計画を立てたのは凛一さんなんだ。慧一さんは薔薇の花束を揃えるために何軒も花屋さんをハシゴしたっていうしね。本当に紫乃の為に一生懸命だったんだよ」
「ありがたいと思ってるよ」
「紫乃は大事な家族だって言ってた」
「ああ、俺もそう思っている」
「俺も…一員になれる、かな?」
「…努力次第だな。言っておくが、あんまりあいつらに心を許すなよ。マジで天罰がくだらないとも限らない」
「何それ?もしかしたら…紫乃、妬きもち?」
「バーカ。天使と悪魔にはよほどの事がない限り近づくなって事。眺めて祈るぐらいがちょうどいいのさ」
「肝に銘じます」

 啓介と初めて来たフライトエリアへ再び来れた。
 ハーネスを背中に背負いながら、キャノピーを広げる。
「紫乃、ライセンス取れたんだね」
「当たり前だ。おまえより黒木さんの教え方が巧かったからね、すぐに合格を頂いたよ」
「ちぇっ、紫乃に唯一上目線で教えられるものだったのにさ」
「つべこべ言ってないでさあ、飛ぶぞ」
「うん」
「先に行くから、啓介。後ろから俺を導いてくれ。おまえの指示に従うよ」
「…任せろ、紫乃」
 翼を広げ、フロントライズアップからテイクオフ。風に乗りふわりと宙に浮いた。

『紫乃、聞こえる?』
 トランシーバーから啓介の声。振り向くと啓介のグライダーは俺の斜め横を飛ぶ。手を振って応えると、啓介も手を振る。
『ブレークとアクセルで少し加速しよう』
「わかった」
 導く声は信頼に満ちている。
 俺はふと気になって啓介に尋ねる。
「啓介、おまえはスキージャンプを怖いと思わないと言ったね。パラも同じなのか?」
『パラは競わないからね。俺には優しいばかりだ。だけどね、俺は自分の人生で初めて恐怖を感じたよ』
「え?」
『紫乃を失ったらと思うだけで、恐ろしさに震えるんだ。だから、紫乃だけは離したくない』
「俺も…同じだ」
 俺の応えに啓介のトランシーバーは黙り込んだままで切れた。
 気になって後方斜めの啓介を見る。
 啓介は両手を口に広げ、俺に叫ぶ。
「愛してるーっ!紫乃、ずっと愛してるからなーっ!ずっと、ずーっと一緒にいようなーっ!」
 繰り返し放たれる愛の言葉。
 目の前には先ほどまで雲で見えなかった富士山の山頂が綺麗に晴れ、青空に冴え渡った輪郭を見せる。
 止まらぬ涙のまま、俺はそれを眺め続けた。

 
 私はただここに在った。
 誰にも気づかれず、愛されぬまま、転がり彷徨っていた。
 それを救おうとせず、許そうとせず、
 省みる事もせず、
 愚かな道化になる事も出来ず
 ただ恨むばかり。
 だが、愛は在った、私と共に。
 多くの愛に気づかずに、ただ見ようをしなかった己の貧しさ故の涙。

 欲しくて欲しくて欲しくて手を伸ばす
 目覚めながら、清めながら、
 幾つもの光を通り抜け、君の手を掴む
 歓喜に震える君の手を掴む

 あるがままの君を、私を、愛したまえ
 ただ光が満ち溢れたこの世…
                     by saiart
 


   藤宮紫乃編 完結




啓介紫乃1


greenhouse」はすべて完結です。長い間、ありがとうございました。
詳しい話はあとがきで。
二時間ほどで書いたからなあ~、直しが必要かもしれんけど、今はコレが精一杯。
下手なソネットでお目汚しですまんね(;^ω^)


ふたりのその後のお話はこちら のばら


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藤宮紫乃編 「Sonnet」 13 - 2011.03.19 Sat

啓介紫乃55

13、
 翌日に会う約束をして別れた。
 俺は片づけを手伝うと言ったのだが、啓介は「紫乃が傍にいたら俺、何も手につかなくなる。それでなくても嬉しすぎて口が緩んでくるのにさ。寮の生徒達にどう説明すればいいのさ。出て行くのがそんなに嬉しいのか?って責められるよ」と、言う。
「そうだな。ひと月半お世話になった寮のみんなとゆっくり別れを惜しんでくる方がいいね」
「紫乃、明日は空いてる?良かったらデートしない?」
「いつでも構わない」

 翌日は横浜の聖ヨハネ学院大学の近くに住む啓介のワンルームマンションまで車で出迎え、近くの水族館やドライブを楽しんだ。
 夕方啓介のアパートに寄り、そのまま一泊した。
 ワンルームの狭い部屋のシングルベッドで大の大人がふたりで寝る。
 体格のいい啓介とふたりで寝るにはどう見ても狭すぎるベッドは困惑するかのようにぎしぎしと鳴り続けたが、啓介は俺を離そうとはしなかった。
 いつまでも眠らない啓介を宥めても、啓介は堰を切ったように話し続ける。
 思いつくことを片っ端から話す内容は、啓介のままに笑いやウエットに富んだものだったから、飽きもせずに聞き役に回る。
「何から何までそんなに話したら、これから先付き合っていくのに話のネタが尽きてしまうぞ」
「尽きないよ。だってこれから紫乃との物語がどんどん増えていくわけじゃん。話すネタには困らない。それに紫乃が言ったじゃん。お互いのことを良く知り合うことこそ心を近づける一歩になるって」
「そう、だったかな?」
「だから紫乃の話も聞かせて欲しい」
「俺の?」
「そう…慧一さんの話、とか…」
「…」
「紫乃が本気で愛した人の話を、俺は知っておきたいんだ」
 誰にも話したことはなかった。あの兄弟以外、俺の葛藤を知る者はいない。それを啓介に晒すことは、俺達の間に生まれた愛情に水を差すことにならないのだろうか。
 それでも…啓介が知りたいのなら、俺は正直に打ち明けるべきなのだろう。
 俺は啓介に慧一とであったことや恋人になった経緯、別れた事を話した。そして今でも慧一という者に一方的な情愛を抱いていると。
「大学の二年間付き合っただけなのに、紫乃はまだ慧一さんのことを想っているの?」
「そうだな…想いの深さや感情は色を変えてしまったけど…愛していることには違いないのだろう。俺は今でも慧一の幸せを祈らずにはいられないのだから…」
「慧一さんは幸せなんだろう?だって、彼には凛一さんがいる。慧一さんの一番大事な人って凛一さんだよね」
「どうして、そう思う?」
「なんとなく…と言うより、ふたりの間に漂うオーラかな…凛一さんと少し話したけど、あの人って凄いね。あれだけ近寄りがたい容姿なのに、話し始めると人懐っこいし、笑うとめっちゃかわいいし…」
「惚れたか?」
「凛一さんに?まさか。無理だよ。畏れ多くて…ただ思うんだ。あんな人の傍にずっといるのなら、愛を注ぐしか仕方ないんだろうって。だからお兄さんである慧一さんは、凛一さんを愛して…逃れられないんだろうなあって」
「それが慧一にとって幸か不幸か…俺にもわからないよ。だが、それを慧一が望んでいるのなら、俺は傍で見守っていたいんだ…どうしてそう思うのか自分でもわからない。初めから片思いでしかなかった。今更慧一の愛が欲しいなんて思っているわけじゃない。ただ慧一との絆を断ち切りたくない。…啓介と抱き合っているのにこんな事を話すのが正しいとは思えないけれどね。啓介の純粋な心に背くのは後ろめたいからね」
「でも紫乃は俺を好きだって、愛してるって言ってくれた。それは間違いじゃないんだろ?」
「勿論だ。多分俺は自分を縛り続けていた慧一への想いを弛めて、そして許してやろうとしているんだと思う。慧一以外の者を愛しても、幸せになれると、少しずつ理解しているのかもしれない…」
 自分自身に言い聞かせるように呟く俺の頭を撫で、啓介は微笑んだ。
「俺よりずっと大人の紫乃でも、片付けられない感情ってあるんだね。それとも大人になるから難しいことが増えるのかな」
「知識は悪魔の実とも言う。無駄な知識も必要な知識も選択する側の判断だからな。どれが正しいなんていうのは死ぬ時に判るのかもしれない。それでも…慧一を愛した事を後悔していないし、啓介を選んだ事も正しいと思っているよ」
「良かった…正しい選択だと思われるように、紫乃を幸せにするからね」
 そう言って啓介は俺を抱き締める。
 …幸せにする…なんて安らかな言葉なのだろう。今まで得られなかったものを、啓介は意図も簡単に、そして真っ直ぐに俺に与えてくれる。
 幸せになりたい。啓介と一緒に、ずっと一緒に…

 俺たちは時間があえば平日でもお互いを共有した。横浜から鎌倉までは車を飛ばせばあっという間だし、お互いのマンションに泊り込む。
 これまで俺は遊びで数知れずの男と寝たけれど、自分の部屋へ入れるなんてことは殆どなかったから、この若い恋人の存在は俺の生活を一変させ、新鮮な感覚に毎日楽しくてならなかった。
 休みの日には近くの海岸でパラグライダーを習い、ついには俺も自分のグライダー一式を購入することにした。
「スクールに通ってちゃんとパイロットライセンスを貰ったら、どこでも自由に飛べるから、それまでは一緒に付いててあげるよ」
「一人前になっても付いてくれないと意味がないだろ?啓介と一緒に飛びたいんだから」
 何気ない俺の言葉に啓介は「紫乃、大好き!」と抱きつき、全身で喜びを表す。
 素直な感情に慣れていない俺は、なんとも啓介の性格が羨ましくてたまらない。

『紫乃、ごめん。明日のフライト、行けなくなった』
 突然の携帯電話からの啓介の声。 
 翌日の休日は新しく購入した俺のグライダーのテストフライトを行うことになっていた。
 俺も啓介も楽しみにしていたから、啓介の電話に俺もがっかりだった。
「どうした?急な用事なのか?」
『父さんが…倒れたんだ』
「え?」
『脳梗塞だって。元々血圧が高かったし…新しい店を開店させたりして、無理が祟ったらしい。仕事中に具合が悪くなって救急車で運ばれたって…俺、今から札幌の病院に行ってくるよ』
「わかった。とにかく早く顔を見せてあげて力になることだ。俺に出来る事があるなら、なんでもするから、啓介…」
『なに?』
 待っているとは言えなかった。
「…身体に気をつけて、お父さんをしっかり看護してあげなさい」
『うん。紫乃』
「ん?」
『待っててね。絶対、帰ってくるから』
「…」
『帰ってきたら一緒に飛ぼうね』
「…ああ、飛ぼう」
 俺の欲しい言葉をためらいなくくれるおまえが好きだよ。

 啓介の父親の容態は決して軽いものではなかった。命の心配はなかったが、相当の後遺症が残りそうだと言う。早期のリハビリも始まった。幾つかの店舗を持つ実業家でもある千葉家の経営は啓介の姉夫婦と母親が受け持ち、啓介は父親の世話につきっきりとなった。
 完全な回復は見込めないまでもひとりで身の回りの術ができるまでにはどれだけの期間を要するかわからない。
 大学の単位は充分取れているから留年はしないだろうと言っていたが…何より啓介はこちらへ戻ってこれるのだろうか…
 日が経つにつれ心配で仕方がない。
 俺は一度、慧一に捨てられている。突然俺の前から姿を消した慧一を俺は憎んだ。状況は違っても、俺の前に大事な者が居なくなった不安感は同じだ。
 「戻れないかもしれない」
 もし、啓介からそう言われたら、俺はどうすればいいんだ。

 携帯が鳴る。啓介からだ。
『紫乃』
「啓介か。お父さんの具合はどうだ」
『うん、頑張ってリハビリしてるよ。でもまだ立つのがやっとで…右半身が麻痺してるんだ。誰かが付いてた方がリハビリも集中的にやれそうだから、もうしばらくこっちにいるよ』
「わかった」
『パラ行った?』
「いや…啓介が帰ってからは行ってないよ」
『新しいグライダーもあるんだから、紫乃、大変だろうけど、ひとりで飛べるように練習しててよ。紫乃がライセンス取るまでには俺も戻るから』
「…」
『ね?』
「…わかったよ。おまえの言うとおりにするよ」
 親父の面倒を看るだけでも大変だろうに、俺なんかの心配までしてやがる。バカ野郎、俺の心配なんざ、してくれるなよ。おまえよりも十三も上のなあ…じじいの事なんざ…かまわないでいいんだから。
 涙が止まらないから上を向く。
 大丈夫だ。遠くにいても啓介は傍に居てくれる。

 次の休日、俺は富士山近くまで車を飛ばした。
 黒木さんから連絡を貰い、啓介から頼まれたらしく、俺のパラグライダーの練習に付き合うと申し出てくれた。
 到着すると、新しい俺のグライダーが用意されていた。
「啓介が選んだんですよ」
 翼は紫とオレンジ色のラインで描かれていた。
「藤と紫乃だから絶対に紫を入れるんだって。綺麗な色だ。きっと青空に映えますよ」
「そうですね…」
 
 黒木さんに教えを請い、なだらかな丘を何度もひとりで飛ぶ練習を繰り返す。飛ぶだけじゃなく、飛んだ後のキャノピーのたたみ方から、アクシデントへの備え、覚えなきゃならないメソッドはいくらでもある。
 一流のインストラクターでもある黒木さんの教えは判りやすく、昼前までには、一通りのメソッドを確認できた。
 休憩所でひとりでコンビニのおにぎりを食べていると、黒木さんが「隣りいいですか?」と、声を掛けてくる。
「勿論です」
「先生もコンビニのおにぎりですか。僕もです」
「先生は止めて下さい。今の立場では黒木さんの方が先生なんですから」
「そうですね。じゃあ、紫乃さんでいいですか?」
「ええ」
「啓介は…色々と大変そうですね」
「ええ、でもあいつなら乗り切ってみせるでしょう」
「啓介は、面倒見の良い子でしてね、サークルでパラをやる時も、みんなの分までおにぎりを作ってきたりするんです。啓介の握ったおにぎりは美味かった」
「そうですね…」
「紫乃さんは…啓介と付き合っているんでしょ?」
「え?」
「啓介が嬉しそうに言ってました。あんまり幸せだって言うから皮肉のひとつも言ってやるんですが、それも聞こえてないどころか有頂天で…本当に良かったと、思ってます」
「黒木さんは婚約者がいらっしゃると伺いました。ご結婚はいつ?」
「あ…ああ、そうですね…」
 バツが悪そうに頭を搔いた黒木さんはぼそりと言う。
「あれ、嘘です」
「え?」
「啓介の気持ちがなんとなくわかってしまって…でも受け入れる事は無理でした。だけど友情を壊したくなかったから、ああいう形で断わりました。啓介には内緒にしていてください。そのうち婚約解消になったとでも言っておきますから」
「そうだったんですか…」
「啓介は良い子ですからね。僕では彼を幸せにはできないと思っていました。あなたが…彼を受け入れてくれて本当に良かったと、心から思っているんです。先輩として啓介をよろしくお願いします」
「はい、啓介にとってより良い未来に導けるように、頑張ります」
「良かった~。これで一安心だ。啓介に嘘をついていたことが心苦しくて、誰かに話したかったんです」
 優しい笑顔を見せるこの人は、どこかに影が付きまとっている気がした。
「黒木さん…君は心に決めた人が、いるのでは?」
 黒木さんは苦い笑いを残し、その場を立ち去った。

 恋の成就は難しい。ならば尚更一度結びついた手を離すわけにはいくまい。

 風を孕んだ翼を抑えながら引き上げる。走りつつ地面を蹴る。
「啓介、早く帰って来いっ!」
 低く空に飛びながら、俺は叫び続けた。




紫乃パラ2

「Sonnet」 12へ14 完結

次で最後です。本当に「greenhouse」も終わります。さみしいけど、達成感もあるよ。まだ一文字も書いてないけどね、ふたりは幸せになるから、安心せいっ!
つか紫乃の絵、パラやる時はヘルメットは必要です。



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藤宮紫乃編 「Sonnet」 12 - 2011.03.15 Tue

12、
 実習の最終日も啓介は手作り弁当を持参した。啓介は感謝の気持ちを込めて赤飯を炊いたと国語と社会科担当の先生方に赤飯のおにぎりを配っていた。
「寮のおばさんにも手伝ってもらったんだ。炊飯器もひとつじゃ足りなくてね」
 皆に喜んでもらったと嬉しそうに笑う。
「勿論紫乃先生の弁当は特別だからね」
 いつものプラステックの弁当箱じゃなく、赤飯のおにぎりとおかずが一緒に竹の皮に包まれていた。
「ありがとう、千葉先生。よく味わって頂くよ」
 できるなら、これが俺に作る啓介の作る最後の弁当だと思いたくなかった。そう思う自分が感傷的になってしまうことを笑う。
 なんだよ、これじゃまるで転校する友人との別れを惜しむいじらしい高校生気分じゃないか。
 ゆっくり噛み締めて味わう俺を、じっと見つめる啓介にも慣れてしまった。「見てないで一緒に食べろよ」と、促すと素直におにぎりにかぶりつく。素直な少年のままに…
 俺はこいつを導いてやれるのだろうか…
 
 最後のホームルームで啓介はクラスの生徒達に挨拶をする。
 別れの言葉は時折涙で途切れ、生徒達のすすり泣く声が聞こえる。
 啓介は良い実習生だった。このまましっかり勉強して採用試験に受かれば、きっといい先生になれるだろう。
「先生もみんなと別れるのは寂しい。でも…みんなと会えたから先生には未来が見えたんだ。みんなに約束する」
 涙を拭いた啓介は明るい声で言う。
「再来年、君達がこの学院を卒業する時、先生は…俺は絶対この学院の先生となって、君達の卒業を祝福する。来年のこの学院の採用試験に絶対受かって見せるから。その為に一生懸命勉強するから、みんなも自分の夢を未来を信じて進んで欲しい」
 啓介を見る生徒らの顔が輝く。啓介の話す未来が生徒を照らす光となる。
 千葉啓介は生徒達が望み得る教師になり得るだろう。

 簡単な送別会が職員室で執り行われ、そしていつものように勤務時間が終わる。
 十月も半ば、日の入りも少しずつだが早くなった。
 各先生方に丁寧な挨拶を終えた啓介は、帰宅しようと靴を履く俺を追いかけてくる。
「紫乃、先生、待ってよ。先に帰るなんてつれないなあ」
「なんだ。別れの挨拶は充分にしたつもりだが…」
 それでなくても涙を堪えるのが大変だったんだ。これ以上啓介といるとこちらがもたない。
 俺は啓介を無視して足早に校門へ向かう。
「紫乃、何怒ってんの?」
「怒ってねえよ」
「じゃあ、なんで逃げるの?」
 俺は少々呆れ果てながら、啓介を振り返る。
「おまえは俺を好きだと言うが、その好きな相手の気持ちもわからないのか。そんなことじゃ良い教師にはなれんぞ。生徒たちの涙の意味を知るなら、わかるだろう」
「紫乃…」
「おまえはいい実習生だった。きっと良い教師になれるよ」
「俺はこの学院の教師になるよ。そう決めさせてくれたのは紫乃だ。絶対に帰ってくるから、それまで待っててくれる?」
「恋人でもないくせに、俺を縛る気なのか?あいにく俺は辛抱強くない。恋人を作るかもしれない」
「その時は奪い取ってやる」
 その揺ぎ無い感情に憧れる。若者の特権だな。それに甘えたくなるじゃないか。

「啓介…今から、俺のマンションへ来ないか?」
 この意味がわかるなら…啓介、応えてくれ。
「…紫乃」
 校門に佇むふたりの側を帰宅する教師の車が通り抜けようとする。
 俺たちは同時に端に避け、頭を下げた。
「啓介、実習期間の最後だしな。俺がおまえにできることは…これくらいだろ?」
「紫乃…嬉しい申し出だけど…行けないよ」
「何故?」
 断れるとは思わなかったから、俺の声も少し震えた気がする。
「だって…紫乃は俺を愛しているわけじゃないんだろ?紫乃は優しいから、俺に同情しているだけだろ?」
「…」
「俺、本当は怪我の事、言いたくなかった。実際上京してからは俺がスキージャンパーだってことも、事故って選手をやめた事も誰も知らないし、言ったこともなかった。向こうでは同情や憐れみばっかりだったし…それが良心だとわかるけど、偽善じゃないってわかってるけど、俺と言う人間の本心を見るにはフィルターがかかるじゃん。俺は可哀相でもなんでもない。ただの千葉啓介を見て欲しいって…そう思ったから。だけど…紫乃が好きで、紫乃に振り向いて欲しくて同情でもいいから、愛して欲しくて…あの夜、紫乃に話したのは自分の中にそういう気持ちがあったのかもしれない。だけどそれって結局、知らなくてもいいフィルターを紫乃にかけてしまったことになるよね。本当の愛情じゃないんだもの。そういう卑怯な手を使った自分を反省している…だから、紫乃のマンションへは行けないよ」
「…そうか」
 こいつの言う事は理解できた。俺だって啓介の怪我の話に同情したことは間違いない。だけど…
「ごめんね」
「いや、啓介の純粋は気持ちはわかった。おまえが来年ここの採用に決まることを祈っているよ」
「うん、頑張るよ」
「じゃあ、紫乃。俺、寮に帰らないと。片付けがあるから。またね」
「ああ、さよなら」
 ヨハネ寮に向かって歩いていく啓介の後姿を見送る。西日が啓介の背を赤く染めた。
 …これで良かったんだ。啓介の未来は啓介のものだ。セックスで俺のものにしようなんて卑怯だし、おこがましい限りってもんだ。
 
 五十メートルほど離れていった啓介の後姿を俺はただ、ぼーっと見ていた。
 その時、啓介が立ち止まり、くるりとこちらを向いたと思ったら全速力で走りながら戻ってくる。
 俺は呆気にとられるばかり。
 俺の前で足を止めた啓介はハアハアと荒い息を吐いた。息を整えながら啓介が顔を上げる。
「紫乃…」
「ど、どうした?何か忘れもんでもしたのか?」
 俺は慌てて聞く。
「大切な忘れ物だ」
 そう言って、啓介は俺の腕を取る。そのまま引っ張られた俺は校門から歩道に進んだ。校門から続く学院の赤レンガの塀に沿った歩道で啓介は俺と向き合った。
「ほら、もうこれで教育実習生と指導教師の関係は無しだ。今からはただの千葉啓介と藤宮紫乃で付き合うことになるんだよね」
「え?…ああ…そうだな」
「良かった。紫乃、前に言ったじゃん。先生同士の恋愛はご法度だって。だったら来年ここを受けて採用されて、再来年の春までに紫乃と恋人同士になって、永遠のパートナーになることを誓いあったら、校則は破ったことにはならないよね」
「…」
「だから、俺、今から頑張るよ。紫乃に愛してもらうように、紫乃を支える男になれるように…頑張るから。見ててくれる?」
「啓介…」
「紫乃が好きだから。大切だから。一緒に生きて生きたいって本気で思っているから。今すぐじゃなくていいんだ。少しずつでいいから、俺を理解して欲しい」
「バカかおまえは。…ド天然にとぼけるのもいい加減にしろ。俺が…おまえの傷で、おまえの過去で、おまえを見間違うと思っているのか?どれだけの生徒を見てきたと思う。無駄に歳を取っているわけじゃないんだぞ。俺は…千葉啓介という人間が、愛おしいんだよ。啓介、おまえが傍にいてくれたら、俺はきっと、笑っていられる。幸せだと感じられる…おまえが俺を好きなら…」
 そこまで言って、俺は口を噤んだ。自分の勝手な想いが、もし啓介の未来を自由を奪うとしたら。
 歳が離れているほど、相手を幸せにしたいと、しなきゃならないと思う使命は重くなる。簡単に愛していると言えるはずがないじゃないか…

「紫乃…愛してるよ。ホントだよ。信じて。俺は紫乃を愛してる。幸せにする」
 啓介は俺の心を読んだように、俺の言えない言葉を何度も口に出した。少しも濁りのない純粋な感情に満ちた言葉が俺の心に流れ込んでくる。
 俺は…愛してもいいんだろうか、愛されてもいいんだろうか…
「俺は…おまえよりも随分年寄りだから、未来永劫おまえを縛り付けたりしないし、おまえが俺から離れても恨まないよ。ただ…俺を愛しているなら、嘘のない笑顔を見せてくれ。それだけでいいんだ」
 俺の言葉に啓介は懸命に笑おうとする。けれど顔は歪み、口はへの字に震えている。
「笑えないよ。だって…嬉しすぎるから。嘘でも紫乃が俺を愛してくれるなんて…」
「嘘じゃない。啓介を愛してる。…愛してるんだ」
「こんな公道じゃなかったら、とっくにあんたを抱き締めてキスを浴びせているのに…よりによって校門の前で告白するなんてさ。中坊でもしないよ」
「まったくだな。俺も年甲斐もなくこんな恥ずかしい様をさらすなんてさ、どっかが狂っているに違いない」
 その時、校門の向こうに立つ教会の鐘が鳴り響いた。
 聖ヨハネの祝福の鐘。凛一が作った教会の鐘だ。
 鐘の音に聞きほれている啓介に近づき、背伸びをしてその額に口付けた。
 啓介はにっこりと微笑んだ。
 俺の欲しかった幸福の道標だ。



紫乃啓介iove

「Sonnet」 11へ /13へ


このたびの大地震で亡くなった方のご冥福を心よりお祈りいたします。また被災者の皆さん方には、心よりお見舞い申し上げます。
まだ予断を許さないことも多くあり、被災地より遠く離れたこちらでは、少しでも早くすべてがおさまることを祈ることしかできません。
どうぞ、お力を落すことなく、生きて欲しいと願っております。

紫乃編もあと二回となります。
先日、被災地に近い方から「いつも作品に勇気づけられています」と、いうメッセージを頂きました。
こういう時に更新などと…思いましたが、ひとりの方にでも心を灯すことができるならと思い、更新いたしました。




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藤宮紫乃編 「Sonnet」 11 - 2011.03.11 Fri

凛天

11、
「出来たよ~アルデンテ。慧、ミートソース混ぜて」
「オッケー。こちらも用意が出来たから、テーブルに置いてくれ」
「了解。紫乃、皿を並べてくれよ」
「…わかった」
 体育祭が終了した夜、なぜか宿禰兄弟は俺の家へ来て、勝手に飯を作っている。
「野菜スープもよし!じゃあ、頂きましょう」
「頂きます」
「…いただきます。つうか、なんでおまえらここに居るんだよっ!」
「だって、紫乃ひとりで飯食うって言ってたからさ。それなら一緒に食べた方が美味いだろ?それに今日は親父達も知人の結婚式に行ってて、泊りで居ないんだ」
 俺の皿にご丁寧に取り分けながら、凛一はニコリと笑う。
 こいつの本性を知らぬ奴なら、いっぺんに虜になってしまいそうな微笑だ。裏のない啓介とは真逆過ぎる。そして常に惹き付けられ易いのは「美しき魅惑」の方なのだから、人間の性というものは早々に浮かばれない。
「ひとり者の自由さはあるだろうけど、紫乃、たまには俺達と飯を食うぐらい構わないだろ?」
 慧一もまた別格の生き物だ。
 こいつの執念や思い込みは留まる事を知らない。こいつに一途に想われる身になると考えるだけで、その重さに気が滅入る。が、想い人である凛一は慧一の愛の重圧などそよ風の如くに受け流す性質であるから、まあ、世の中良く出来たもんである。
「そうそう、家族ごっこだろうと、楽しんだ者の勝ち。そう思わないか?」
「…」
 こいつらが俺を想ってこうして付き合ってくれているのはわかっているんだが、気を使われるのも何となく居心地が悪い。 と、いうより家族っていう言葉に、俺は照れくさくて素直になれないだけかもしれない。
 注ぎ分けてくれたパスタも野菜のスープもサラダも、確かにひとりで食べるよりも何倍も美味しい。
「紫乃、味大丈夫だった?塩辛く無かった?」
「ちょうどいいよ」
「良かった~。ほら紫乃は今美味しい弁当をいつも食べてるからさ、味には五月蝿いかもってさ」
「弁当?」
「そう、紫乃の昼飯はあの実習生の手作り弁当なんだよ。ねえ、紫乃」
「…」
 何を企んで喋っているのか本心が読みかねる凛一には、迂闊に答えられない気がしてきた。
「まだ続いてる?それとも飽きられたかな?」
「…続いてるよ」
「そりゃ凄いね。その実習生の名前、なんて言ったっけ」
「千葉啓介だよ、慧」
「そう…今日、挨拶だけでもしておけば良かったな」
「…いいよ。別に」
 だから…慧一までも巻き込むな。頼むから俺の事はそっとしておいてくれ~

「俺、話したよ」
「ええっ?」
「啓介くんと話した。紫乃、啓介くんに誘われてパラグライダーをやったんだよね」
「パラグライダーか?面白そうだな」
「すごく楽しかったって啓介くん、嬉しそうだったよ。彼は良い子だね。俺、大好きになったよ」
「啓介は、おまえらと違って裏のない人当たりのいい子だからな」
「啓介は良い子だからなって…紫乃、マジになってる。待ちに待った本命現れたり…かな」
「…」
「凛、大人をからかうなよ」
「俺も一応二十六の大人なんだけどね」
 年齢不詳というか…凛一はその状況において表情も仕草も自在に変えてくるから、少年のようにも老獪な青年のようにも見えてしまう。その上、見る側による印象がそれぞれに異なる魔性の者だ。
「まあ、そうだが…凛と比べる紫乃が悪い。凛は別物だ」
「何それ?」
「品種が違うって言ってる」
「なんか褒められてる気がしない」
「褒めてない。事実を述べてるだけ」
「慧は時々すげえキツイよなあ~ベッドの中でも大体Sだしな」
「おまえが言うな。この間なんか…おまえ、三回やったのに足りないってごねて、最後に俺を年寄り扱いしたよな」
「だってさ~仕事で二週間も離れてて、寂しかったんだもん。一杯やりたかったの」
「だからって こちらが自信喪失するようなことを言うな。俺は前の日から仕事で徹夜明けでふらふらだったんだから」
「その割にはヘンタイだったじゃん」
「おまえが望む事をしたまでだ」
「おいっ!いいから俺の家で痴話げんかをするな」
「ケンカじゃねえもん。惚気だもんね~慧」
「…悪かった。それより紫乃。来月は誕生日だったね。お祝いは一緒にやりたいと思っている」
「俺の誕生日の為に、わざわざこちらに帰ってくる必要はない」
「いや、こちらにも用事があるんだ」
「遅くなったけど、今年中に聖堂が出来そうなんだ」
「例の奴か?」

 宿禰家の墓前を聖堂として、このふたりは横浜の山手に建てた。
 俺と慧一が学生時代良く星空を観た場所で、俺も思い出深い。その場所に宿禰家の墓が出来ることも何故だか切れぬ縁があるようで、見たことも会った事もないふたりの家族に懐かしいものを感じる。
 「うん、母さんと梓の聖堂。金沢の山手になるんだがこちらからは近いしね。宿禰家個人の墓にしようかとも思ったけど、形だけでも正教会に認められるように奉る事にした。鳴海先生に教会の祭司をお願いしたら、快く承諾されたんだ」
「そうか、鳴海先生も引退なさって少しは楽になると思ったのに、やぶ蛇だな」
「鳴海先生は喜んでいるよ。誰だって…自分を必要とされることは嬉しい。そうじゃない?」
「…尤もだね」

 食事を終え、明日は代休だからと、慧一と凛一は俺に付き合って、酒盛りとなった。
 俺と慧一はスコッチ、酒に弱い凛一は軽いカクテルを作って飲んでいる。
「ねえ、紫乃。啓介くんと話しててね、俺思うんだけどさ。彼は紫乃に恋をしているよね。告白されたんだろ?」
「啓介は…千葉はまだ二十二の若造だ。本気で好きだと言われても、そう簡単に受け入れられるもんか」
「なんで?」
「第一俺とは歳が違いすぎるだろう。それにあいつはウブで世間知らずの子だ。男だって俺が初めてで…」
「へえ~紫乃が初めてだったら啓介くんも幸せじゃん。色々教えてもらって、いい思いができる」
「凛、ちゃかすなよ。紫乃は真剣だよ。紫乃、歳の所為にして相手の想いを踏みにじることはするなよ。大事なのは紫乃の気持ちだろう」
「…」
「紫乃が啓介くんを本気で好きなのかどうかが、一番大切なんじゃないのか?」
「…好きだとして、啓介になんて言うんだ?愛しているって、一生俺の傍にいて、俺の老後の面倒をみてくれって…そう言うのか?社会に出れば、いくらだって啓介が望む恋はできる。あいつには沢山の未来を選べる権利がある。そのひとつが俺ならば、俺は…それを選べとは言えない」
「何故さ。好きなら一緒にいたいって思う。それが歳に関係あるの?」
「凛。おまえの言うことは正しいよ。だけど…俺も紫乃もおまえよりもずっと歳を食っている。年上っていうのはね、愛する者が若いほど、その者の未来を考えてしまうもんなんだ。俺だってね…凛一にとって本当に俺でいいのか、もっと違う一緒に生きていく者を選んだ方がおまえにとって本当の幸せを掴めるんじゃないかと…何百回も何千回も考えた。今だってその気持ちが無いとは言えないよ。おまえが本当の幸せを探し当てたら、俺はおまえの前から消えたっていいと、思っているんだから。…だから、紫乃が啓介くんへ踏み出せない気持ちはわかるつもりだ」
「…」
「だけど、だからこそ思うんだ。もしそこに『愛』があるのなら、無視することも踏み潰すこともできないなら、ただ掬い取って抱き締める事。大きく育とうが消えてなくなってしまっても『愛』を知った者は幸いだ…俺は紫乃から貰った『愛』に何度も救われたんだ」
「慧一」
「愛故に…」
「悩む事を怖れるな」
「うん。だけど俺は紫乃にこう贈るよ。愛する事を怖れるな、ただ従える唯一のものだから…」

 慧一は昔と違って大人になったのだと思う。そして俺もまた…成長しなければならない。誰かを必要とすることは、頼ることは脆弱になることではないのだろうか。
 そう言うと、慧一は答えるのだ。
「弱くなって当たり前だ。絶えず降り続ける精神の重みに、どうしてひとりで耐え切れよう。ひとりで突っ走る時を経て、そして誰かに寄りかかるしかない時が来る。大人になるということは、歳を取るということだろ?俺たちは『愛』を知ろうとする者に成長したんだよ」
「俺は…啓介を必要として、いいんだろうか」
「おまえだけが必要としているんじゃないのなら…彼もまた、おまえが必要なら…必然だろう?」

 ひと月半の教育実習の日々が間も無く終わる。
 これが終わったら、俺と啓介の関係はだたの教師と大学生になる。
 俺は啓介の必要な者になれるのだろうか…




紫乃挨拶


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藤宮紫乃編 「Sonnet」 10 - 2011.03.08 Tue

表紙

10、
「…でさ、聞いてる?紫乃」
「あん?」
 三度目…終わってこちらはぐったりだが、啓介はまだ続ける気なのか、俺の中に入れたまま学生時代の話が続く。
 …若いってこういうもんなんだろうが、年寄りを少しは労わって欲しいものだ。大体俺は入れられるのは慧一以来なんだからさあ。

「…それで、黒木さんに出会って、俺はまたスポーツの面白さを味わったんだ」
「ああ、啓介はその黒木って奴に惚れたんだな」
「え~っ?どうしてわかるの?」
 そんなに驚くな。中のものが動いてたまらなくなる。
 それにそんなの誰だってわかるだろ。単純なおまえの顔を見てたら。
「…そう顔に書いてあった」
「紫乃には隠し事は出来ないね。それまで俺は女の子としか付き合ったことなくてさ。ほら、俺、顔良いし、ちょっと有名なジャンパーだったから、可愛い子がわんさか言い寄ってくるわけさ。こっちはジャンプ一筋で恋愛に夢中になる事もなかったけど、暇な時は普通にデートやらなにやらでさ、自分が男に興味あるなんて知らなかった。で、上京して横浜の聖学の入学式の時、サークル勧誘をしてた三年の黒木さんを見てひと目惚れしたの」
「…」
 どっかで似たような話が…ま、俺と慧一だけど。
「初めて恋をしたっていうか…顔を見るだけでドキドキしたり、声掛けられたらあたふたしてさ。これが人を好きになるってことかって、思ったよ。俺が教師を目指したんだって、黒木さんが県の高校教師になったからなんだ。もし採用試験に合格したら、いつかどこかの高校で一緒になれるかもって…思った。単純だね」
「自分の将来を決め方なんてそんなもんさ。憧れや成り行きで決めるのは悪い事じゃない。それで、黒木さんとはどうなった?」
「黒木さんは大学を卒業してからも、ずっとサークルの指導をしてくれて、それで、俺の事もすごく可愛がってくれて…思い切って告白しようとしたんだ。でも告白する前に、黒木さんから婚約者がいるって…言われて…」
「…」
「俺の気持ちを察して、傷つかないように自分から言ってくれたんだと思う。見ようによっちゃ俺と黒木さんの友情は壊れずに済んだんだけど、俺は黒木さんと会う度辛くてさ…初めての失恋だね。そんで代わりに良い男がいないかな~ってウロウロしてたら、紫乃に会った」
「…は?」
 ちょ、ちょっと待て。と、いう事は…
「紫乃ったら道端で倒れこんで、声かけたらべろんべろんで『けい、好きだ~』って言うんだもん。すげえ綺麗でかわいくて、たまらなくなった」
「ちょっと待ってくれ。もしかしたら…おまえ、男とするのは…俺が初めてなのか?」
「そうだよ」
「…」
 力が抜けた。
 百戦錬磨の俺が初めての奴に抱かれて、それで啼かされて居ると思うと、さすがに悔しい。つか、腹立たしいわ!
 そういう俺の気持ちなんか知ったこともねえ啓介は「紫乃、大好き~。愛してる。ずっとしていたい~」などと減らず口を叩き、俺の身体を揺すぶり続けるのだ。それに反応する自分の身体も悔しいが。
 結局解放されたのは三時も過ぎた頃で、裸のまま寝てしまった啓介に布団を着せ、隣りに寄り添うのが精一杯だった。

 翌日、朝から露天風呂に引っ張り出されて「気持ち良い~。良い朝だね~」と何度も笑顔を見せる啓介を他所に、俺は風呂の隅っこであちこちの身体の痛みを癒すのに必死。
 豪華の朝飯も、だるくてなかなか全部喉に入らない。
 そんなことを知った風でもない啓介はいつもの天然だ。
「紫乃、どうしたの?この卵焼きダシが利いてて美味しいよ。もしかしたら疲れてる?どっか痛い?…そうか、昨日は初めてのパラだったから筋肉痛だよ、きっと」
「…」
 おめえの所為に決まってんだろっ!何回抜けば気がするんだよ、この体力バかっ!
「パラも慣れたら無駄な筋肉を使わなくてすむから大丈夫だよ。荷物が重かったら、俺が紫乃の分も俺に任せていいからね」
「…よろしくお願いします」
 わけのわからぬ敗北感…。なのに啓介を見ていると切なくなったり、嬉しくなったりしてしまう。

 帰り道、パラグライダーのフライトルールを詳しく学びながら、次も行こうと約束する。
 俺をマンションに送り届けた啓介は、「絶対だよ、紫乃。また一緒に飛ぼうね」と、言う。
「ああ、また誘ってくれ」
「じゃあ、明日学校で」
「さよなら…」
 走り去る啓介の車を見送る。
 差し込んでいた光を急に失ったみたいで、冷えた空気に身震いする。
 
 ひとりは寂しい。慣れるしかないと、言い聞かせてきた。
 俺だけじゃないんだと…
 慣れれば孤独も楽し、自由は我が身に…と、鼓舞してきた。

 ふたりでいる温かさは知っている。それを失う怖さも…
 再びそれを味わい、離れていく悲しみに耐えられるほど、俺は強くないんだよ、啓介…

 次のパラグライダーのフライトをする約束はしたものの、十月は学校行事が立て込んで、まともな休みも取れなかった。
 実習生の啓介も同じで、中間試験結果の追試や補習など忙しない。それに一大イベントの体育祭が控えている。生徒主導とはいえ、実習生は生徒会に借り出されて、色々な演目に参加することになっている。
「あまり無理するなよ、千葉先生」
「大丈夫ですよ、紫乃先生。俺、体力だけは自信ありますからね」
 それは知ってる。気になるのは…
「足は…痛んだりしないのか?」
 周りに誰もいないのと見計らって、尋ねる。
「え?…しないよ。寒い冬は時々筋肉が縮んで突っ張ったりするけど、それ以外は大丈夫だから。紫乃、心配してくれてありがとう」
「…」
 啓介のくれる笑顔が、近頃は切なくなって困る。
 年を取ると感傷が敏感になるって本当だな。
 それとも別れが近い所為かな…

 体育祭は見事に快晴。
 朝一番の準備体操から、啓介は我先にと先頭に立って張り切っている。
 プログラムも順調に進み、昼前近く、なんだか保護者の一団が関係者のテントの近くでざわついている。近寄ってみると…貴賓席にあいつらがいた…
「あ、紫乃だ。慧、紫乃が来たよ」
「やあ、紫乃。ご苦労様」
 …なにが優雅に「ご苦労様」だ。
 確かにおまえらはうちの体育館と教会を建てた建築家だし、貴賓席にデンと居座ろうがおかしい話ではない。が、なんかもう、存在自体がむかつく。
 俺のテリトリーに入り込むなって言っておいたはずだろう。
「ね、慧。紫乃は今、教育実習生を指導しているんだよ」
「へえ~」
「その実習生がさ…良い男なんだ。ね、紫乃?」
「別に…普通の大学生だよ」
「是非紹介して欲しいもんだな」
 慧一の言葉に血の気が引く思い。
 本当に…ロクなことにはならないぞ…
 俺はくるっと身を翻して、あわててあいつらから逃げ去った。

 逃げたところに啓介の姿が見えた。
「紫乃先生、探してたよ。次のプログラムは出番だから準備してくれって」
「わ、わかった」
「なにかあったの?」
「何にもねえよ」
「あれ?…貴賓席にいる人、宿禰さんじゃない」
「…」
「だからなんか周りがざわついてたんだ。宿禰さんの隣りの人…もしかして、あれが慧一さん?」
 もしかしなくてもそうだ。
「すごい…かっこいい。想像してたより遥かにだよ。うわ~ふたり並んでいると、迫力~。あそこだけ別次元だね。神話で言う英雄と女神みたい…」
 それを言うなら魔王とメフィストだろう。
「そうだ!挨拶に行ってこよう~と」
「バカ、あんなのに近づくなよ。マジでロクな目には合わない」
「なんで?紫乃の家族みたいなもんだろ?」
「…俺、そんなこと言った?」
「この間の夜、俺にしがみつきながら言ってた。『慧一と凛一はロクでもねえけど、俺の大切な家族なんだよな~』って。あれ、寝言?」
「…」
 だから、言ってるじゃねえか。
 ロクなもんじゃねええ~

 午後の応援団のプログラムにハプニングが起こった。
 生徒会役員に押し出され、凛一は昔ここで見せた剣舞を見事に舞った。
 その姿に魅了された観客と、同じく見惚れている隣りの啓介を眺めつつ、あいつらが居る限り、俺の心休まる時など、一生来ないんじゃないかと、恨めしく思った。



慧凛体育祭


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藤宮紫乃編 「Sonnet」 9  - 2011.03.04 Fri

啓介顔2

9、
 夕刻まで待って、なんとかもう一度タンデム飛行ができることになった。
 二度目は少し余裕が出来た所為か、最初よりも断然楽しめた。
 啓介は風具合を見ながらも、「サービスだよ」と、一時間近くフライトを続けてくれた。
 西に傾いていく太陽を、何の遮るものもない空から見る景色は格別だ。
 なんども息を呑むような心踊る爽快感を味わった。
「どうしよう。ちょっとした好奇心だったのに…もっとずっと飛んでいたくなるじゃないか」
 啓介と一緒に翼をたたみながら、名残惜しさが口に出た。
 啓介は「また一緒に来ようよ。今度は本格的に紫乃ひとりで飛ぶ練習をしよう。ふたりのフライトと違って自分で空の道を選んで飛ぶんだよ。俺はいつだって紫乃のお供をするからね」と、俺を慰めてくれた。
 これではどちらが年上かわからないと、俺も自重した。

 山から下りて東名高速に乗る頃にはあたりも暗くなり、また行楽日和の為か渋滞に巻き込まれてしまった。
「どうする?」
 サービスエリアで一服しながら、少し疲れのみえた啓介が俺を見る。
「箱根辺りに一泊するか?」
「え?いいの?」
「啓介は疲れている上に、長時間運転させてしまっているからね。俺が奢るよ。さて、良い宿が空いているかなあ」
「俺、探してやるよ」
 言うよりも早く、携帯を使ってあっという間に幾つかの宿をピックアップしてきた。
 そのひとつに連絡してみると、ちょうど一室空きがあるという。
 予約を取り、箱根湯元に向かって車を走らせた。

 なんとか夕食の時間にも間に合い、温泉に浸かって昼間の疲れをゆっくり癒した。
 部屋へ戻ってみると、先に湯から上がった啓介が、案の定、敷かれた布団の上でぐっすりと眠りこけている。
 せっかくの夜だ。こちらだって相手になってやろうと思わないでもいるのに。
「啓介らしいな…」
 エアコンが効いた部屋の温度は湯上りには気持ちがいいが、そのままでは身体が冷えてしまうだろう。
 エアコンを切り、窓を開けた。昼間の暑さはすっかり引いて、虫の声が聞こえた。
 浴衣一枚だけで寝込んでいる啓介に羽織を掛け、その隣りに俺も寝てみた。

 少しだけ濡れた髪にそっとタオルを押し当てた。身体の汗は引いていた。
 じっと寝顔を見つめる。
 健康的に焼けた肌、整った鼻梁に人の良さが滲む口元。しっかりと弧を書いた眉も男らしい。長い睫が頬に影を映す。
「男前だな、啓介。引く手あまたじゃないか。俺みたいなおじさんより、若くて良い子は沢山いるぞ」
 独り言を呟いてみた。
「紫乃が良いんだよ」
 口元が動いた。
「起きてたのか?そうならそう言えよ」
 バツが悪く起き上がろうとする俺の腕を掴んだ啓介は、俺の身体を抱きとめた。
「このまま寝て朝を迎えちゃったら、一生後悔するに決まってるだろ?紫乃が誘ってくれたんだ。朝まで寝かせないから」
「バカだね。俺もおまえも疲れてんだ。そんなにもたないよ。やるんならさっさとやって寝ちまえよ」
 腕の中でもがいて離れようとした時、啓介の浴衣の裾が大きくはだけて、右の太ももから膝までの痛々しい傷跡が目に留まった。
「啓介…これは?」
 大浴場では客も多かったから、傷跡には気づかなかった。
 ケロイド状に斜めに走った傷跡にそっと触れてみる。
「ああ、これ?名誉の負傷だよ」
 相当に酷い怪我だったろうとひと目でわかる。
「いつ?」
「高校生の時。…聞きたい?この傷の事」
「おまえが話せるのなら…聞きたい」
 
 啓介は上半身を起こし、布団の上に足を伸ばした。
「紫乃はスキージャンプってやったことないよね」
「え?スキージャンプって…あのオリンピックとかで見る奴か?」
「そうだよ。俺はこの怪我をするまではずっとジャンプをやってたんだ」
「凄いな…テレビでは見ても実際飛んでるところを見たこともないよ」
「北海道じゃそんなに珍しいもんでもないけどね。で、俺は小学五年からこのスキージャンプって奴を初めてすぐに頭角を現したってわけ。まあ天才肌だね」
「自分で言うな」
「ホントだって。ジュニアじゃちょっとしたもんで、スキー留学でノルウェーまで行ったこともあるんだから」
「へえ~、そりゃ凄いな」
「中学になって国内の公式の大会でも優秀したりね…将来はオリンピックも夢じゃないって周りが騒ぐから、俺もその気になってさ。両親も一生懸命応援してくれてたから、もっと喜ばしてあげたかったし…で、高校二年の時…練習中に飛んでて…運悪く突風に煽られて…まともに機材の側溝に叩きつけられた。打ち所が悪くて…右足がズタボロで…二度とジャンプは無理だって言われてね」
「…」
「じゃあ、見てろ。絶対に元通りになってもう一回ジャンプ台に立ってやる…って、若いから意地になるじゃん。俺、本気でムカついてたからさ。俺を哀れんだり、ほくそ笑んだりする奴に泡ふかしてやるって、必死になってリハビリやって、一年後になんとかまともに走れるようになった。クソ根性だよ。そんで、もう一回ジャンパーとして復帰したいってジャンプ台に立って、アプローチを滑った…」
「怖くなかったのか?怪我した時のことを思い出したりしないものなのか?」
「うん、俺もそれを予想した…けれど、逆だったんだ」
「逆?」
「怖くなかったんだよ。良くこういう競技って己の心の恐怖に打ち勝てって言うよね。それって怖さを知って、それを乗り越えろって言う意味なんだと思う。…俺は初めからいくら飛んでも怖さを感じた事がなかった。怪我した後、ジャンプをしてみて俺ははっきりわかった。俺にはジャンプに恐怖を感じない。それが、恐ろしくなった。このままこの競技を続けて、K点超えを目指していったら、俺はまたどこかで自分の命の重さを気づかずに無茶をしてしまう…って。危険の察知を自分自身のどこかで見極めるって、とても大事だと思う。俺はまだ死にたくはなかったからね。ジャンプはすっぱりやめた」
「それで…周りが納得したのか?」
「それまで応援してくれた人達には悪いと思ったけれど、怪我でズタボロの俺を見てるだろ?もう高いところへは行けないって諦めもしてただろうから、落胆は少なくてすんだと思う。両親も俺の話を聞いて納得してくれたし。俺の努力っていうか、頑張りは見ててくれてたから、俺が決めた結論を責めたりせず、自分の好きな道を探しなさいって言ってくれた。で、一年浪人してこっちへ出てきたってわけ」
「そうだったのか…啓介は偉いな」
 姿と精神が一致した人間は稀だ。俺は素直に感銘してしまった。
 今までの俺の周りにはそういう者が少なかったからとも言える。
 極めているのがあの兄弟で…まさに夢を見させるような現身なのに、恐れおののく精神の持ち主達。
 比類のない魅惑力に逃れられない自分を呪うことになる。
 だが啓介は違う。
 裏のない明朗闊達な気性が回りの者を笑顔にさせる。無償の奉仕だと言っていい。
 明快さは魔性とは違って身動きが取れないようなジャンキーになることはない。
 狂うことはなくても、風が吹き抜ける爽快感が千葉啓介の持つ色。

 太ももの傷跡にキスをした。
 啓介は驚いたように身体を震わせた。
「名誉の傷に敬意を表したんだよ」
「紫乃…」
「おまえが死ななくて良かったと、俺は心からそう思っているよ」
 肌蹴たままになった下着を下げ、俺は啓介のものを口に含んだ。
 思わぬ行動に啓介は戸惑い、身体は震え続けた。
 こいつはこういう事には慣れてはいない。あまり他の男とやった経験が無いのかも知れないな。
 啓介の指が俺の髪を掴む。「紫乃」と、喘ぎながら呼ぶ声がいじらしくてたまらなかった。
 啓介の傷が俺を昂ぶらせるのは、きっと啓介が口にしないプライドや痛み、努力を痛烈に感じてしまうからだろう。明朗闊達な啓介の人格の中にある根源的なものを捕まえなけりゃ、こいつを愛せない気がした。

 若い欲望はあっという間に解き放たれた。
 興奮冷めらやぬ啓介が荒い息を吐き、俺を見つめた。
「口でいかされたの、初めてだよ」
「そんな崇めるような顔をするな」
 口を拭いて、俺も浴衣を脱ぐ。
「だって…紫乃、上手すぎるんだもん」
「年の功と言え。これぐらいで感心してもらっても困る。俺はこの道のエキスパートだ。言うなればA級ライセンス持ち」
「な~んかいやらしそうだなあ~」
 およそ色っぽさとは遠そうな呑気さで啓介も自分の帯を解いていく。
「紫乃は眼鏡も似合うけどさ。眼鏡無しだと色気が倍増するよね」
「だから学校では眼鏡は必需品だ。色ボケされた生徒が増えては、良い成績は期待できないしな。進学校の名が廃る」
「じゃあ、眼鏡は常時かけておいてくれ。その方が紫乃に惚れる奴が増えなくて俺も安心するもん」
「誰もこんなじじいに振り向かないよ。それが惚れた欲目っていうんだよ」
「そうかなあ~。俺は紫乃が一番美人だと思うけどな」
「…天然バカ」

 裸の身体をぴったりと重ねる。汗を掻いた啓介の身体はまだ熱さに浮かれていた。
 着やせするタイプなのか、啓介の身体は裸になるとしっかりとした無駄のない筋肉質だ。
「前の時はわからなかったが、啓介は良い男だな」
「そう?じゃあもう『慧一』って呼ばないでくれる?結構間違えられた事を根に持ってる」
「…執念深さも啓介のひとつなら、仕方あるまい。認めてやるよ。もう間違わない」
「良かった…紫乃に出会えて…本当に良かった」
 親猫に甘えるように俺の胸を撫でる啓介は、安らかな表情を見せた。

 他者に心から甘え、委ね、信じることができたなら、それは本当に幸いな人生だと思う。
 それが一瞬であっても、信じた軌跡は残る。
 今夜の啓介が誰よりも愛おしいと思うから、俺は啓介の望むものすべてを与えてやりたかった。



紫乃啓介夜


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春の夜 - 2011.03.03 Thu

ひなまつり記念イラスト。

sakura2.jpg

昔描いたアナログの年賀状を、CGで描き直したが…本当に前のが下手でびっくりだった…(;´∀`)


書籍にしようと「greenhouse」を見直ししていたら、紫乃編書くのを忘れてしまう~
いや~見直しは大変だけど、色々手直しするべきところがあって…楽しいわww



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藤宮紫乃編 「Sonnet」 8 - 2011.03.01 Tue

8、
 富士山近くのフライトエリアまでのドライブの間、俺は啓介から出来るだけ詳しくパラグライダーについて学んだ。
 早くに言ってくれれば、前もって資料や本で勉強できたのにと文句を言うと、啓介は「それじゃあ、俺の出る幕はなくなるじゃん。いつも紫乃の指導されてるから、俺が教えてあげる気分を味わいたかったの」と、意地を張る。
 そういう幼いところが、なんとも恋愛をしている気分にはならないのだが、それを言うとまたつむじを曲げそうだったのでやめておいた。
 「じゃあ、今日は帰る」と、言われたら元も子もない。
 恋する相手には、まだまだ程遠い気がする。

 ワンツーマンでの講習を受けている間に目的地へ付き、スクールで受付と説明を聞いた。
 その後、簡単なレクチャーを受け、離陸場に向かう手はずとなる。
 まずは体験から始めることになり、後ろにインストラクターがついてのタンデムフライトに挑戦する運びとなった。
 レクチャーを聴いている間に啓介とは離れ離れになり、終わったところで姿を探す。
 フライトエリアには専用のワゴンで向かうので、待ち合い場所に人が集まっている。
 啓介の青いジャケットを見つけ出したが、ちょっと興味もあり、しばらくその様子を伺うことにした。

 予想通り、誰彼となく声を掛けられては挨拶をしている。
 周りは若い人からお年寄りまで年齢の幅も広い。女性もちらほらと見えるが、あれは俺と同じく興味本位の新参者だろう。辺りをきょろきょろとしている。
 それよりも気になるのは、さっきから背格好のほっそりとした男性が啓介と楽しげに語らっている光景だ。
 ベンチに座った啓介が少し頬を染めながら嬉しそうに、佇んでいるその男を見上げている。
 前の男か?それとも本命なのか?
 …なんだよ、俺にあんだけアタックしながら、好きな相手がいるならそう言えばいいのに。
 自分の事を棚に上げて、勝手不信になるのはなんとも未完成過ぎて笑える話だろう。
 それにどう見ても、俺の方が年寄りだ。大人になれよ、紫乃。若者を見守り続ける聖職を選んだはずだろう?

「紫乃!」
 俺の姿を見つけた啓介が人目を気にせずに、名前を呼ぶ。こういうところが、まあ、こいつのいいところなんだが…
 ゆっくりと近づくと、その細身の男は丁寧に頭を下げた。
「初めまして。黒木と言います」
 人当たりのいい感じの青年だった。
「藤宮紫乃です。ひと月ほど前から、教育実習生である千葉君の指導教師をしています。今日は千葉君に誘われて、パラグライダーを初体験させてもらうことになりました」
「啓介から聞いております。とても尊敬する指導教師だと、伺っております。今日は天気も穏やかだからいいフライトができますよ。楽しんでください」
「黒木さんはうちの大学のOBなんだ。パラグライダーのサークルの先輩でもあるし、インストラクターのライセンスも持っているんだよ。今は県の高校教師をしながら、サークルの指導もしてくれているんだ」
「たまにだけどね。教師も担任を持っていないと余暇に時間があるので、その時は先輩気分を味わいにサークルに行くんですよ。ああ、そうだ。僕もヨハネ学院高校のベテラン教師に色々とご指導願おうかな」
「ベテランとは…まだまだ未熟者ですが…」
「昨今の学生にはこちらも戸惑うほどに性急に大人になる。どう扱っていいのかわからなくなる時があります。藤宮先生は…どうお考えでしょうか」
「何も…学生たちは俺達が思うよりもずっと…考え悩み、夢を持っていますよ。そのひとりひとりすべてを理解しようだなんて、とても無理です。期待されても困る。俺たちはたかが教師だと、生徒にわかってもらえればいい。そうした上でお互いを理解しようと歩み寄ることしか、できない気がしますね」
「…ありがとうございます。なんだか元気をもらえた気がします」
「いいえ」
「啓介、おまえ、良い指導者にめぐり合えたね。藤宮先生になんでもしっかり教えていただけよ」
「はい。なんでも教えてもらいますよ」
 満面の笑みを見せる啓介に、こちらが照れる場面になった。

 黒木さんは俺達と一緒に離陸場まで付き合ってくれ、初めて飛ぶ俺の緊張を和らげようと尽くしてくれた。
 啓介はタンデムパイロットのライセンスを持っているという事で、本当なら熟練のインストラクターに付いて飛ぶ予定だったが、黒木さんの勧めもあって一緒に飛べることになった。
 なにしろ何もかも初めの経験だったから、正直、啓介が一緒だと聞いて心強く思えた。
「俺が付いてるから安心してね、紫乃」
「逆に心配だ。本当におまえで大丈夫なのか?」
 こちらもプライドがあるから意地を張ってみる。
「ばーか、これでも俺はインストラクター目指してるの。それに大事な紫乃を危ない目に合わせたりしないからね」
 ヘルメットを被りながら、啓介は安全のおまじないと頬にキスをした。横で見ていた黒木さんは大笑いしている。
本当におまじないなのか?と、疑ってみた。
 操縦席となる背中のハーネスを抱えたまま、離陸場に向かう。
 真正面にまるで絵のような富士山が見える。見惚れていると、啓介がヘルメットをコツンと叩く。
「行こうか」
「ああ」
 翼に風を取り込み、ゆっくり上がって行くキャノピーを見上げ、アゲインストの風を受け、啓介の掛け声と共に走り出す。
 テイクオフだ。
 身体が持ち上げられ、走る足が地上を離れる。見る見るうちに今居た場所が小さくなる。
 風を切る音が耳元で鳴り続ける。
 ゴーグル越しの景色に目が回るようだ。どこを見て良いかわからない。
 なによりも空中に身を置く不安定さが怖かった。
「紫乃、大丈夫?」
 背中から啓介の声が響いた。
「う…ん。ちょっとびびってる」
「初めはね、誰でもそうだよ。でもせっかくだから、よく周りを見てごらんよ。今日はいいパラ日和だよ。景色が紫乃を歓迎している気分にならない?」

 顔を左右、上下に向けて空中に浮かんでいる自分を知る。
 雄大だった。ふわりふわりと右に左に揺れながらゆっくりと上がったり、下がったりしながら落ちていく感覚が何ともいえない高揚感を湧き上がらせた。
 時折、後ろから啓介が声を掛ける。

 ほら、あの山を見てよ。秋になると紅葉が凄すぎて目がちかちかするの。本当か?本当だって。あっちの方からはね、時たま凄い上昇気流が来たりするから、気をつけなきゃならないんだ。へえ~。たまに冒険したくてわざと行ったりするけどね。落っこちるぞ。そういう時の為にハーネスには緊急パラシュートが付いてるだろ?使ったことがあるのか?うん、一度飛んでるライダーとぶつかって開いたことがある。でも滅多な事では使わないから、安心して。ねえ、秋になったらまた紫乃をここへ連れてきてもいい?楽しみにしてるよ。…紫乃、ランディングが近いよ。ゆっくり落ちるから落ち着いて足元を合わせてね。わかった。啓介の言うとおりにやるよ。大丈夫だ。紫乃は飲み込み早いよ。

 ぐんぐんと目の前に地上が接近し始めるから、ぶつからないかと心配したが、本当にふわりとランディングに成功した。辺りからも拍手が起こったほどだ。
 二十分間の初飛行だった。
「本当言うとタンデム飛行は初めてだったから、緊張したんだけど無事に紫乃と飛べて良かったよ」
「…初めてだって?おい、俺を踏み台にしたな」
「インストラクターになるには人に教える実技が一番大事だからね。紫乃はいい生徒だ。じゃあ、今度はひとりで飛べるようにここで飛び方の練習をしよう」

 俺と啓介はランディング場の隣りの講習場で、グライダーの扱いや飛び方、ランディングを何度も繰り返した。 機体をコントロールする為のブレークコードの詳しい扱い方は実践にならないとわからないが、初歩の段階はクリアできそうだ。
「いきなりさっきのエリアからは無理だけど、初心者用のなだらかな場所に移って何度も繰り返せば、すぐに上手くなるよ。午後からはそこに移ろうか?」
「それもいいが…もう一度、啓介と一緒にさっきの場所から飛んでみたいんだが、いいかな?」
「勿論」
 差し出す啓介の手を、俺は迷う事無くしっかりと握り締めることが出来る。

 もう一度フライトエリアの戻ってみると、風向きが良くないとの事で、飛行が中止されていた。
「山の天候は変わりやすいからね。せっかくはるばる来たのに、飛べないで帰らなきゃならない時も結構あるよ。しばらく待とうか。ちょうど昼飯時だし」
 木陰に座り込んだ俺たちは啓介の作った弁当を食べた。
 運動の後の飯は格別だとは言うが、マジで美味かったから素直に褒めると、啓介は早起きして作った甲斐があったと喜んだ。
 
「啓介はどうしてこんなに料理が上手いんだ?ただ本を見て作ったというより…長年作ってきたおふくろの味みたいだな」
 絶妙にスパイスの効いたミートパイを口に入れた俺は、こいつは教師よりシェフ向きじゃないだろうかと、思ったりする。
「それはさ、昔から作ってたから…。うちはね、結構金持ちなんだ」
「そうだろうな。洒落た車も持っているし、こんな金のかかるスポーツも学生の身分でやれるんだ。親の援助は大きいはずだ」
「まあね…両親で道内でレストランと居酒屋のチェーン店を経営をしてて、結構繁盛しているって。俺は知らないけどね。姉ちゃん…四つ違いの姉が後を継いでるから、俺は自由に遊んでいいって言ってくれてて、脛を齧ってるの」
「良いご身分だな」
「これでも小さい頃は、両親が忙しくて、かまってもらえなくてさ。朝早く出て、夜遅くしか帰ってこない。まったく顔を合わせない日もあったりしてさ。それじゃあ親子の絆が築けないって。親父が遅く帰って来ても、絶対に風呂だけは一緒に入るって決めて…嬉しかったな~。一日の出来事を風呂ん中で話して聞かせるの。それで風呂から上がったら、四人揃って夜食を食べてさ。夜中だよ?小学生が起きてる時間でもないのに…俺も姉ちゃんも嬉しくてさ。そのうちに姉ちゃんと話し合って、両親の帰りを夜食を作って待つことにしたんだ。初めは梅とおかかの入ったおにぎりだったなあ~。すごく喜んでくれた顔を今でも覚えているよ。で、段々エスカレートして、色んな料理を作って用意したの。もう夜食というよりディナーだね。毎日じゃ大変だから曜日を決めてね。月曜はおにぎりの日、水曜日はパスタの日、土曜は鍋の日とか…」
「良い家族だ。羨ましいよ」
「紫乃は…家族はいるんだろ?」
「京都の方にね。でも…肉親はもうとうに亡くなってしまっているからね。啓介みたいな話を聞くと、なんだか癒されるよ」
「そうか…」
「もっと聞かせてくれないか?啓介の事」
「え?」
「確かに一目惚れっていう恋愛もあるだろうけれど、理解しあうって大切な事だと思うんだ。俺はまだ啓介を恋愛の相手だと思えない。だけど…おまえが好きだよ。だから、もっと色んなおまえを知りたいって思っている。今のおまえを育ててきた話を聞きたい」
「ホントに?」
「もしかしたら恋かもしれない」
「…マジで?」
「かも、知れない…あはは」
 あまりに啓介がキラキラと瞳を輝かすから、顔を上げて大声で笑ってしまった。
 てっぺんの雲が風に流れている。
 夏から秋に変わる風だ。



紫乃啓介草原



「Sonnet」 7へ /9へ

出来上がったらアップしているので、時間も日にちも決まってなくてごめん。
花粉症でぐったりしてます(;´Д`)
知らないうちに「小説家になろう」の凛編アクセス数が5万5千越えてて…驚いた(;^ω^)
紫乃編が終わったら、記念に「greenhouse」の同人誌を作ろうと思っているんですが…欲しい人いるのかな?




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