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2011-07

浄夜 その一 - 2011.07.31 Sun

メル裸2


 高等部の僕の寄宿舎の部屋から見る夜空は美しい。
 星月夜も格別だが、下弦の三日月は昔、絵本で見たゴンドラに似て、夜天を漂っているようだ。
 今夜は晴れ。星も月も隠れる雲はない。
 きっと、今夜、彼はやってくるだろう。


「メル、来たよ」
 ベランダの硝子を二回叩き、ドアを開けて姿を見せたのは、アーシュ。
 僕より二つ下の中等科の二年生だ。
 二階にある僕の部屋に、椋木を昇ってやってくる。
 十一月のこの時期、空気は冷たく、夜露は霜柱に変わると言うのに、彼はパジャマの上にタフタのコート一枚を羽織ってやってくるのだ。

 部屋に入れたアーシュの身体を、僕はそっと抱きしめる。
 暖めるには一番手っ取り早いからだ。
 アーシュも嫌がらない。
 ふふと笑い、「メルはいつもあったかいね」と、身体を摺り寄せる。
 もうすぐ13になるアーシュは伸び盛りだが、僕よりも頭ひとつ程低い。
 濃い褐色の柔毛から、いつものように薄荷草の匂いがする。
 瞳を見つめる。
 今夜は嫌に艶っぽい。
 その意味は聞かなくてもわかっている。


 浄夜 


 アーシュを見たのは、彼が学長のトゥエに拾われたその日だった。
 保育所に連れてこられたアーシュは、とても小さかった。
 保育所では幼子は珍しくないし、赤子だってよく見ていた。だけどこんなにも生まれたてを見たのは初めてだったから、その小ささに驚いた記憶がある。
 純真無垢な姿に誰もがかわいいと微笑んだ。

 赤子のアーシュの髪の色は薄い灰色だった。
 瞳の色は今と変わらず、深淵の藍色。星が散らばっている。
 彼は捨て子にもかかわらず、誰彼構うことなく感情をばら撒かせ、元気に泣き喚き、笑い、甘えていた。
 当然の如く、誰もがこの子を愛しく思い、大事に育てた。
 アルトは他人を信頼したり、愛したりすることは苦手だ。
 対応する相手の心の複雑さにこちらが疲弊してしまうからだ。
 もし誰かを愛してしまったら、頼りきってしまったら…後はいつか来る裏切られる日を恐れて生きなければならなくなる。
 愛も信頼も、初めから無いほうがマシだと、僕ら、アルトは考える。
 より力を持ったアルトは余計にそうだ。だって、他人を頼る必要がないのだから。
 ただ、アーシュの無垢なかわいらしさは、信頼や愛とは関係なく、「癒し」として保育所の皆を幸せにした。

 アーシュには生まれ持った品格があった。
 彼は生まれながらの王かも知れない。
 だが、それを気づかせない通俗的な観念の姿でいるから、粗方は誤魔化された。
 彼は民を弾きつけるには、万全の姿で存在する。

 僕は彼をずっと見ていた。
 彼に惹かれ続けた。
 彼を振り向かせたいとか、愛し合いたいとかではない。
 彼の心と身体を犯したいという俗物的欲望だった。
 また、同時に彼の足元に平伏したい。とも願った。
 この相反する欲望は、歳を追うごとに膨らみ続け、だが比例して、それを抑える理性も育っていくものだから、僕の中で見事に調和されつつあった。

 13の時に「真の名」を学長から与えられた。
 学長トゥエの前に跪き、その名を頂いた時、僕が求めるものは、この力で何を示せるか、の答えだけだった。
 僕の為すべき道をトゥエに質した。
 「君はカノープスだよ、メルキゼテク。時代を導く者」と、彼は言う。
 その言葉を僕はこう解釈した。
 時代を導く者を、導く案内人。
 ではその導く者とは一体誰だ。
 …聞かなくても知っていた。
 だから僕は聞いた。
「アーシュは…何者なのでしょうか」と。

 トゥエはそれぞれの両手の人差し指を天と地に向けた。
 これもまた、無限の解釈ができる。
 見る者の受け取り方は千差万別だ。
 光と闇を統べる者、その逆。
 それを統一する者、または壊す者。
 均衡。新しい未来…
 そして、無。

「未来は動いています。彼が何を選ぶか、私にはわからない。だが彼に委ねるしか無いのです」
「では、ルゥは…ルシファーの存在は」
 僕はこの時点でルゥの「真の名」がルシファーだと突き止めていた。
 後に続く名はどうだっていい。最初の名が総てなんだ。
「ルゥはこのサマシティの子ではない。我々の未来とは関係がないのです」
「だけど、アーシュはルゥを選んでいる。ならば未来は彼を引きずりこんでいる」
「彼はここに居る存在ではない。彼もそれを知る時が来る。それまでの仮宿なのです」
「…」
 アーシュはそうは思ってはいまい。


 ルゥはアーシュが4つの時に拾ってきた子だった。
 繊細で綺麗な子だった。アーシュは彼を「セキレイ」と呼んだ。
 その名によりルゥはアーシュの刻印を受けている。
 彼らは双子のようにくっついて遊んだ。
 僕はうらやましくてたまらない。いや、保育所の誰もが彼らを羨んだ。
 すべてを委ねあう者が、親のない僕らにはいないからだ。

 アーシュは僕の存在を意識していなかった。
 保育所で育ち、ずっと一緒に暮していながら、彼にとって僕は他の子と同じ大勢の中のひとりでしかないのだ。
 彼は天性の無頓着さで、他人を自覚しない。
 彼の目に認められた者が、彼との絆を繋ぐ事ができるのだ。
 それは王である彼に許された傲慢さであろう。

 僕は待った。
 彼が僕に気が付く、その日を。
 彼が僕を求める、その日を。






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「天使の楽園、悪魔の詩」7


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ばかっ!ップル - 2011.07.29 Fri

「小説家になろう」の慧一編「GLORIA」が四万アクセス超えました。
ミナ編も二万超え、凛編は六万五千超えました。

もうとうの昔に終わっている作品なので、どっとアクセス数が増えることはないのですが、毎日、いくらかのアクセスがあることは嬉しいです。
どうやって辿り着いているのかわかりませんけれど。ほとんどリンクをしておらず、題名も違うし、またペンネームも全く違うので、こちらからは行けないし、宣伝もしてないけれど、日に百、二百未だにアクセスしてくださるのは嬉しいですね。

記念イラスト。

futariw.jpg

相変わらず慧一は凛に対しては、どこかネジが外れているらしい。
そこが慧一たるところで愛おしいのだが。
凛は欠点だらなのだが、愛おしいなあ。
この子の潔さとか、強さとか、本当に大好きですね。



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セブルス・スネイプの恋 - 2011.07.28 Thu

ハリポタのスネイプ先生の若かりし頃のイラスト。

リリーと葉っぱを飛ばすシーンが凄くロマンチックで好き。

リリーがジェームズと恋仲になり、悲観しながらもリリーを想うセブルスを描いてみた。

セブルス




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暑中お見舞いデス - 2011.07.25 Mon

毎日暑いです。

凛君からの暑中お見舞いです!

rinnumi2.jpg

皆さま、お身体に気をつけて、猛暑を乗り越えましょうね。



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天使の楽園、悪魔の詩 7 - 2011.07.23 Sat

sekirei3.jpg
7、
 三人の絆はそのままに俺達は少しずつ大人になっていく。
 中等科一年も終わる初夏の頃だ。
 女友達がくれたローズマリーの鉢から花が咲き、部屋中を香らせていた。
 匂いに惹きつけられたと部屋に来たのはルゥだった。
 十六夜の月が美しく、ベランダから二人並んで眺めた。

「アーシュは?」
「居ないよ。またメルのところかもしれない」
「…」

 メルは俺達よりもふたつ。来学期は高等科の一年生になる。
 彼もまた俺等と同じく「真の名」を持つホーリーだ。
 アーシュやルゥとは同じ保育所育ちで、アーシュは近頃、高等科の寄宿舎に引っ越したばかりのメルの部屋に入り浸っている。
 聞くところによると、大人の域にある彼らは性欲も旺盛で、ここ以上に毎晩盛っていると言われるが、あいつは大丈夫なんだろうか。
 そもそも許可なしの夜の外出は、禁止事項なのに、アーシュは「規律は破られる為にある。勿論バレぬように」などと小賢しい事ばかりを言う。

「アーシュなら大丈夫だよ。彼はまだ童貞だ」 
「何故わかる?」
「何故って?だって最初は僕とやりたいってずっと言ってるもの。それに経験したのならすぐにわかるさ」
 俺の懸念を打ち消すように、自信満々でルゥは言う。
「そういうもん?」
「そういうもんさ。でもね…」
 自信満々のルゥの顔色が一変する。
「どうしたの?」
「メルだよ。僕、あの人、気に入らないや」
「彼は君らと同じ保育所仲間だろ?信用してもいいんじゃないのかい?」
「信用とかそんなんじゃなくて…メルはアーシュを自分のものにしたがっているんだよ、きっと。アーシュには僕がいるって知ってるくせに。僕からアーシュを奪い取る手筈なのさ。昔っからメルはアーシュを狙っていたんだよ」
「…そうなの?」
「そうに決まってる。だけど、僕はアーシュと番(つがい)になるんだから、メルには渡さないんだからねっ!」
 こんな風に感情を剥きだすルゥは珍しく、アーシュへのあからさまな独占欲が、何だか微笑ましくて仕方ない。
 俺もアーシュに懸想しているが、ルゥがアーシュをアーシュがルゥを愛し合う姿を嬉しく思う気持ちも真実なんだ。
 勿論羨ましくもあるけれど。

「じゃあ、アーシュがメルのところへ行くのは何が目的なのかな」
「それは…」
 ルゥは下を向いて口ごもった。
「僕にも教えてくれない。…僕では駄目でメルならいいって…一体何なんだろうね。僕は悔しいよ。誰よりも僕がアーシュの一番だったのに。…それにさ、今日、僕、裏の林のとこでアーシュとメルがキスしているのを見たの。頭に来て、それを責めたらアーシュ何て言ったと思う?」
「…なんて言った?」
「『たかがキスだろ。セキレイともいつもやってるじゃないか』だって。あいつ、僕とメルを並べやがった。酷くない?」
「それは…酷いかも」
 歯がゆくてたまらないと、ルゥはベランダの木の手すりを何度も叩く。

「もう怒り沸騰だよ。あいつをギャフンと言わせてやりたい。だからベル、手伝ってよ」
「え?…なにを?」
「僕と寝て欲しいの」
「……は?」
 月夜に照らされたルゥの面差しは、決意に満ちている。が、言ってることはちとおかしくないか?

「だからセックスをしたいの。僕の身体が気持ち良くなるまで、ベルに教えて欲しいの」
「ルゥ、自分が何言ってるか、わかってる?」
「いつまでたってもアーシュが僕に手を出さないのは、僕を傷つけるのを怖れているからだよ。あの根性なし。アーシュは僕のことになると弱いんだ。大体において僕はアーシュの後ろにいるけれどね、セックスぐらいはこっちから手ほどきしてやる。ベッドの中では僕に頭が上がらないようにしてやる」
「…あのさ、競うとこ、ちがくねえ?アーシュは初めての相手はルゥって決めているんだろ?それってアーシュもルゥの初めての相手は自分がいいって言ってるようなものだろ?ルゥが俺と寝るのは裏切り行為じゃないの?」
「なんだよ。ベルって変なところに節操を奉るんだね。成功する為には練習が大切だろ?このままじゃアーシュはいつまで経っても僕とセックスなんかしやしないんだからね。そのうちにメルに強姦されたらどうするんだよ。それこそおいしいとこを横取りされるじゃないか。僕はメルには負けたくないんだからねっ!」
「…俺は練習台なのか?」
「そうだよ。ベルは経験豊富だし、第一こんなことベルにしか頼めないよ。アーシュは嘘つきだからね。ベルの方がよっほど頼れる親友だもの」
「アーシュが知ったら怒るよ」
「だってアーシュは平気で嘘をつく。『真の名』なんて意味がないって言っておきながら、図書館の奥の部屋でずっと調べ続けているのはアーシュだ」
「違う。君が俺と寝たことを知ったら、アーシュは怒るって言っているんだよ、ルゥ」
「そんなの…ほおっておいたアーシュが悪いって言ってやる。どちみち僕らは思春期だよ。早々待てやしないさ。もうひとりで寝るのも飽きたんだよ、僕」
 腕を組んで不貞腐れるルゥに、俺もお手上げだ。彼の意思の強さもアーシュには引けを取らない。
 彼は引き下がるつもりはないらしい。

 ふたりが以前のようにひとつのベッドで寝ていないのは知っていた。
 ひとり部屋だし、それぞれお互いの部屋で寝るのは当たり前だ。だが別々ということは、夜はお互いどこで何をしているのかわからないということでもある。
 ルゥはアーシュがまだ何も経験していないと言いながら、彼の行動を疑っているのだろう。
 慣れないひとり寝は、相手が誰かと情事をしているのでは、と、誰だって不安になるさ。
 ルゥはアーシュを自分に縛り付けておきたいのだ。
 自分から離れられなくしたいんだ。
 その気持ちもわかるけれど、ここで俺が彼の目的を果たす役目をしていいのか、考えなきゃならない。
 ふたりの為に最良の方法を選ぶ必要がある。

 
「ルゥの気持ちは充分わかった。それじゃあ、始めようか」
「え?」
「俺とセックスしたいんだろ?ベッドに行こう」
「…うん」
 ベランダの戸を閉めて、ルゥをベッドに導き、身体を押し倒した。
 パジャマを脱がせ、首筋に口唇を這わせ、そのまま胸の突起を転がす。
 指でルゥのものを少し乱暴にいたぶると、小さな悲鳴が上がる。
「や…」
 上ずった声で、鼻を啜る。
 顔を見ると涙が零れていた。

「怖い?」
「そ、そんなことないよ。灯りがまぶしいから恥ずかしいだけだよ。続けてくれよ、ベル」
「強がりだね、ルゥ。こんなに震えているのに。負けん気の強さはアーシュとそっくりだ」
「そう、かな…」
「君達は双子のように思考が似ているんだ。良く考えてごらん。最初に好きな人とセックスをしたいっていうのはアーシュだけじゃなく、君の想いでもあるんだろ?テクニックなんかどうでもいい。アーシュと君は最初に結ばれるのがお互いの最良の選択だ。俺はそう思う」
「ベル…」
「自分の口でちゃんとお言いよ。アーシュが欲しいって」
「…」
「自信が無いのはお互い様だろ?アーシュとしてみて、具合が良くなかったら、その時、俺を練習台にしてもいいよ」
「ベル…」
「今夜は特別に俺が抱いててやるからさ。明日はアーシュにちゃんと言うんだよ、いいね」
「…うん、ありがとう…ありがとう、ベル」
 
 ルゥはそのまま少しだけ泣き続け、そして安心したように俺の胸で眠った。
 彼に必要だったのは、雛を温める親鳥の羽。

 俺は裸のルゥを胸に抱いても、性的な欲望は起きなかった。
 ただ彼の求める者になりたかった。
 
 だが彼を抱くのは簡単だ、とも知っていた。
 ルゥの上にアーシュを重ねれば、俺はいつだってルゥを犯すことが出来る。

 裏切られたと泣くアーシュを見てみたいと思うのは、悪いことだろうか。


 週末、俺は実家へ帰った。
 この休日に彼らは抱きあう約束をした。
 それはきっと叶えられる。

 その夜、俺はベッドでひとり、泣いていた。
 この涙は俺の為だけのものだ。
 誰にも…わからない。
 



beru.jpg


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天使の楽園、悪魔の詩 6 - 2011.07.19 Tue

ベルゼビュート窓2

天使の楽園、悪魔の詩

6、
 十三を迎えた九月、俺は「天の王」の中等科に進んだ。勿論アーシュとルゥも一緒だ。
 中等科の校舎のすぐ隣りの寄宿舎は、それぞれひとり部屋になり、俺はバス、トイレ付きの特別室に住む事になった。金に余裕のある貴族は大方特別室を選ぶ。
 俺はアーシュたちと同じ様式の部屋でいいと思ったのだが、アーシュもルゥも「ベルの部屋の風呂を借りにくるよ。そんでベルの部屋は広いから毎日パーティだ」と、けしかけるから、俺も調子に乗って一番いい部屋にしてもらったわけだ。

 新学期の初日の夕刻、俺は学長のトゥエ・イェタルに呼び出され正式な「真の名」を頂く。
 ベルゼビュート・フランソワ・インファンテ。
 「真の名」は天上と闇を統治した者の名前から始まる。そして、後に光と闇の名前が続く。
 「真の名」の意味とは光と闇、善と悪、過去と未来、両極端のものをつり合わせる天秤の要のようなものだ。
 我々に求められているのは、戦いとそれによる均衡なのだ、と、思う。
 学長は「真の名」の真の意味を決して伝えない。
 個々の思想によるものだとして、委ねている。
 だから「真の名」を頂いたホーリー達はそれぞれの自分の哲学にのっとって、この学園を卒業し、サマシティから、外の世の中を渡り歩く。
 俺はたぶん…この街からは出られない気がしている。
 セイヴァリ家とスタンリー家を捨ててまで自分だけが自由の身になりたいとは、思わないのだ。
 貴族の身分や経済力に矜持しているわけではなく、俺は彼らを守りたいと思うのだ。
 それが恥ずかしいこととは思わない。
 この学園を卒業したら、世の中を知るために街以外の大学に通い、卒業したら父親の会社を継ぐ為に働きたいと思っている。
 この人生設計をアーシュとルゥに聞いてもらうと、ふたりは笑うどころか、うっとりとして「まるでお伽話のようだ」と言う。

「そうかな。現実的でつまらないだろ?せっかくの『真の名』が泣くかもしれないね」
 俺の部屋へ集まって夜更かしはいつもの事。ベッドに寝転んで頬杖を付き、顔を寄せ合って語らう。
「そんなことあるもんか。ベルは文字通りこの街を救う救世主(クリストファー)に君はなるんだね。そうだ。いい事を思いついた!」
「アーシュのいい事っていうのは、いい加減って事だ」
「五月蝿いよ、セキレイ。取り合えず君の会社が貴族とタッグを組めばいい。貴族にもギルドに入ってもらい、キチンとした仕事を割り振るんだ。暇な貴族たちに真っ当な仕事先を与えてやれ。汗を掻いてどれくらいお金が貰えるか試してやればいい」
「それ無理じゃない?ハシより重いもの持ったことない人達が貴族なんでしょ?」
「だからさ、趣味を生かしてファッションとか美術方面の専門職を作るんだよ。ね、いいか考えだと思わない?」
「アーシュ、いいところに目をつけてる。実は…それ、もうやってるんだ。エドワードが…」
「…ええ?」
「エドワードはすっかり真面目になっちゃってさ。父親から事業の手ほどきを受けて、その能力があったんだろうね。今では小さいけれど会社の経営をまかされて、その仕事を若い仲間の貴族らと一緒にやってるんだ。この間の休暇では、サロンの雰囲気もがらりと変わってて俺も驚いたよ」
「すげー!ベルを泣かしてくれた叔父さんを救ったってわけか。ベルゼビュート・フランソワ・インファンテの最初の仕事じゃない」
「…そうは言わないと思うけど…」
「いや、俺は信じてたよ。叔父さんはきっと立ち直るって。さすがはベルだ!」
「よく言うよ。アーシュはベルの叔父さんをいつか叩きのめすってずっと言ってたじゃん」
「余計なこと言わないで、セキレイ。俺はベルを信じているって言いたいの」
「意味ちが~う」
「まあまあ、ふたりとも、ケンカするな。ともかく俺は無事『真の名』を頂いた。今度は君達の番だ」
 ふたりは少しだけ緊張した面持ちで大きく頷いた。

 ふたりの誕生日が近づいてくる。
 そのふたりの距離が今までと少し違って見えるのは俺の気の所為なのか…いや、間違いない。
 ふたりは思春期に入っていた。
 
 俺は十三でありながら大人程の背丈で性も早熟だった。
 お誘いを受けるのも引っ切り無しだし、気に入った相手と一晩過ごすこともしばしば。
 だが、恋をすることはない。
 身体が疼くことはあっても、心が求めることはなかった。

 俺はアーシュとルゥが出会ってからずっとお互いを求め、いつかは本当の恋人になるのだとそれぞれに宣言することが羨ましかった。
 運命の相手というのはこのふたりの事を言うのだろう。
 子猫か子犬のようにじゃれあいながら、いつかは愛し合うパートナーになる。
 俺はそれを見届ける役を振り当てられている…そう自分に言い聞かせてきた。

 ふたりが好きだった。
 …純粋に友情と信頼を分かち合っていた。
 だが俺はふたりに対する友情の色が少しずつ変わっていくのを、認めたくなくても認めないわけにはいかなくなってしまっていた。

 ルゥは可愛い。
 ルゥのサラサラと風にそよぐプラチナの髪が好きだ。
 屈託なく笑う顔、空を映した湖畔のようなアイスブルーの瞳、透き通った少女の声、素直な感情と柔らかい精神に心が安らいだ。
 すべての害から守ってあげたい。
 弟がいたらこんな気持ちになるのではないか、と、思う。

 アーシュは勇ましい。
 勇ましいくせに豊かな感情と果ての無い好奇心で、俺を驚かせる。
 気になるものは火の中にでも構わずに手を入れる夢中さ、怯まぬ精神力。純粋な正義感。
 憧れだ。どこまでも惹きつけられる。
 クセのある褐色の髪。触るとやわらかく俺の指に絡む。少しハスキーで通る声、歌も上手い。
 度も入ってないのに何故眼鏡を掛けているのかと問うと「学長の呪いだよ。俺があんまり美しいからさ、妬んでいるんだよ」と、口を尖らす。
 そう言うなら眼鏡を取ればいいのにと言うと、「だってさ、俺の美しさに皆が見惚れたら歩いてて怪我するじゃん。俺が眼鏡をしているのは周りの平和の為だ」
 その自信家ぶりには開いた口も塞がらぬが、確かにアーシュは美しい。
 ルゥが美少女の可憐なパンジーとするなら、アーシュはスズランの如き美少年と例えよう。
 
 スズランは可憐な姿とは対照に根には強力な毒を持つそうだが、俺はその毒こそ、アーシュの魅力が隠されていると思っているんだ。
 そして、その毒の依存性は驚くほど高いのだ。その最たる被害者は俺ではないのか…
 
 いつしか俺の目は知らぬうちに、アーシュの姿を追っていた。
 アーシュが俺を見つけ、走り寄ってくる。
 それだけで心臓の鼓動が早くなる。
 「落ち着け」と、言い聞かせる。

「ベル、実はさ、すごい面白い場所を見つけたんだ…」
 目の前にいる彼が俺を見つめる。
 紺碧に輝く無限の宇宙の輝きで俺を見る。
 俺はうっとりとしたいのを、粉骨砕身の理性で持って、友人の顔を取り戻す。

「ね、明日の夜にでも行ってみない?…ベル?聞いてる?」
「あ?…ああ、勿論だよ、アーシュ。今度は懐中電灯を持っていこう。この間は暗闇の中を歩くのに骨を折ったからね」
「確かに。しっかり用意しておくよ」

 信頼の微笑みをくれる君に、俺は何を望もうとしているのだろうね…
 少しだけ心が痛む。
 そして君にわからないようにゆっくり息を吸うんだ。
 

 俺はアーシュに恋をしていた。
 決して実らぬ恋だってわかっているのに…
 「真の名」を貰っても何ひとつ思い通りにはいかないものなんだね。

 俺が欲しいのは、ただひとつ、君の心なんだよ。
 


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Private Kingdom 8 - 2011.07.13 Wed

表紙2
8、
 それからしばらくして、メルと別れて部屋に戻ったが、セキレイの姿はなかった。
 自分の部屋へ帰ったのだろう。
 傍にいてやるべきなのか、このままそっとしておく方が良いのか…考えるのも億劫になる。

 翌日、寝坊した俺は朝食を取りに急いで食堂へ行ったが、セキレイは見つからず、謝るタイミングを逃してしまった。
 学校へ向かい教室にいるセキレイに声をかけたが、どうもよそよそしい。
「セキレイ、昨夜のことだけど…」
「もうそのことは気にしてない。それより自分の席に着きなよ。授業が始まるよ」
 弁解の余地もないってわけか…そちらがそうならこっちだって。
 似た者同志の意地の張り合いなんてしたくはないけど、打ち解ける機会を失ったからにはこっちからは謝る気が失せた。
 授業が終わっても俺からはセキレイには近づかなかった。
 ベルは説明はしなくてもふたりのケンカの理由は大体判っている模様で、気にする風もなく普段どおりに接してくれている。
 
 いつものように食堂で三人並んで食事しようとしてもセキレイはひとつ席を空けて座るから自然にベルとの会話が多くなる。
「この冷戦、いつまで続くと思う?」
 俺はベルの耳元で囁く。
「誕生日が来れば君もルゥも気分が変わると思うよ。『真(まこと)の名』を貰ったら仲直りができるさ」
「そんなもん?」
「うん、そういうものだろ?それに…なんかね、『真の名』をもらったことでなのかはわからないけれど、自分が何倍も大人になった感覚になれるんだよ。今まで見えなかったものが見えてくるっていうか…大事なものがわかるっていうか…ねえ」
「ホント?」
「うん。だからいつまでも小さいことに拘るなよ、アーシュ」
 俺の頭をくしゃくしゃと撫でるベルは、いつだって俺よりも遥かに大人だ。
 セキレイを守る奴は俺よりもベルみたいな奴が相応しいのかもしれない。
 ふと、そんな風に思ってしまった自分が情けなくなった。

 あれからメルの姿を寄宿舎や校内でも目にするようになった。メルが言ったように、こちらがメルを必要としているのかもしれない。
 目で挨拶をしたり、ひと声掛けるだけでもなんだか心のどこかに信頼できる仲間が増えた気がして心地いい。 
 ベルはそういう俺を見て「君は案外浮気性だね。ルゥ側に付きたくなったよ」と、口を尖らす。
「それって嫉いてるの?」と、言うと
「認めたくはないけどね、そうかも知れない」などとふざけて、顔を見合わせて笑いあう。
 少し離れて歩くセキレイがこちらを睨むのもお構いなしだ。


 俺とセキレイの誕生日が来た。
 その日が来るのを待ちわびていたと言うベルが、俺とセキレイにお揃いのパジャマをプレゼントしてくれた。ご親切にそれぞれにスキンを忍び込ませるのも忘れずに。
「上手くいくように祈りを込めておいた」と、微笑むベルに、俺とセキレイはお互いに顔を赤らめた。
 
 その日の放課後、俺は学長室に呼び出され、構内敷地の中心にある聖堂へ連れて行かれた。
 古びたゴシックの聖堂は特別な行事の他は、滅多に入ることはない。
 側面のクリアストーリのステンドグラスから夕日がちょうど差し込んで、虹色の光が黒い制服を美しく染め上げてくれた。
 教壇の元、跪く俺の頭に手を置いた学長のトゥエが、厳かに「真の名」を俺に伝えた。
「誉れ高き名はこの者に与えられ、その伝説の名は再び、世を支配する。暗き夜も眩しき昼も君に愛を齎す。アスタロト・レヴィ・クレメントの未知なる王国は祝福の賛美に溢れかえろう…」
「…」

 それを耳にするまで俺は「真の名」の意味をただの名前だと思い込んでいた。
 多分それが事実だ。だが、その名の響きが頭の上のトゥエの手から身体の芯に突き刺さっていく感触をなんと言えばいいのだろう。
 頭を垂れた俺は金縛りのように身体も動かせず、声も出せなかった。

 …このままでは『真の名』に支配されてしまう。
 アーシュとしての俺自身が負けてしまう。
 いや、どちらが自分でも構わないのかもしれない。
 「力」を得るためには素直に「真の名」に委ねる手もあろう。
 だけど、俺は抗いたい。
 「運命」なんてもん、「必然」ってもんにすべてを任せるのは嫌だ。

 いつの間にか俺の両手は緋毛氈が敷き詰められた床に着き、必死で身体を支えていた。
 脂汗がべっとりと身体中にまとわり付いた。息苦しさにそのまま意識を失うかと思った。
 床を這うように沈み込んだまま、荒い呼吸を繰り返す。
 …冗談じゃねえ!ふざけるなっ!どんなお偉い名前かしらないが、そんな言の葉に跪く気なんか、毛頭ねえよっ!
 
 影になった自分の姿を目で追った。
 果たしてこれは本当の自分なのか。偽物なのか…
 「すべてを受け入れろ。いや、拒絶しろ。
 選ぶのは俺でなければならない。
 片隅に佇む真実を見極めろ。
 何物も怖れるな…」

 顔を上げた。
 夕日の輝きはいつの間にか消え、ステンドグラスの輝きは暗いものに変わっていた。
 俺はゆっくりと立ち上がった。
 目の前のトゥエは顔色ひとつ変えずに俺を見ていやがる。
 クソ親父、俺を試しやがったな。

「良き名を頂き、ありがとうございます。この身の内に巣食う己を味方にすれば俺の勝ちですよね」
「…君はもう、勝者だよ、アーシュ」
 トゥエはやっといつもの微笑みを俺にくれた。
 儀式は終わった。


 俺の後はセキレイの番だったが、俺は彼を待たずに寄宿舎へ帰った。
 正直、自分の事だけで精一杯だった。
 夕食も取らずに部屋に鍵をかけてベッドに横になった。
 あの時感じた身体中の火照りが夜中になっても冷めやらなかった。
 冴えた目は眠りを拒み、俺は立ち上がって部屋を出た。
 ふたつ先のセキレイの部屋へ向かう。
 ノックをしても返事はなく、鍵は閉められていた。
 
 セキレイもまた、俺と同じような体験をしたのだろうか。
 彼は一体どんな「真の名」をもらったのだろう。
 俺は「真の名」に打ち勝つことができたのだろうか…

 廊下の窓から下弦の月が白く浮かんでいた。
 恐ろしい程に白い光が俺を包む。
 窓を開け、手をかざす。
 手の平に熱いエナジィが満ち、瞬く間に身体中の隅々に流れる。
 「力」を蓄えるひとつの軌跡だ。
 
 この夜、魔法を学ぶ方法をひとつ、俺は知った。
 この「力」をどう使うべきなのか。
 人の為に?自分の為に?この学園の為に?
 
 ガタンとドアの開く音が響いた。
 部屋からセキレイの白い姿が浮き上がった。
 セキレイは俺を見て、一旦立ち止まり、そして近づいた。
 窓の手すりに両手を置き、月を仰ぎ見た。
「良く晴れてるから半月でも明るいね」
「セキレイ…」
「誕生日おめでとう、アーシュ。どうにか間に合って良かったよ」
 いつもより少し硬いセキレイの声。
「こちらこそ、おめでとう、セキレイ。勝手に決めた誕生日でも一緒に祝うことができて嬉しいよ」
 緊張した顔が緩み、いつものセキレイの笑顔が戻った。

「アーシュ…『真の名』はどうだった?」
「…アスタロト・レヴィ・クレメント。…それが俺の名前だって」
 セキレイの身体が一瞬震えた気がした。俺の方に顔を向けて驚いた顔を見せた。
「どうしたの?」
「いや…やっぱり怖いな。『真の名』の力ってこちらが気を張ってなきゃ、負けそうだ」
「君の方はどうだい?」
「…ルシファー・レーゼ・シメオン。畏れ多くて困ってしまうよ」
 ルゥは眉間に皺を寄せ、本当に参っている顔で俯いた。

 ルシファー…か。
 天上と闇の国を司った伝説の英雄だ。
 伝説なんて神話と同じで作り話だ。
 「真の名」はその偉人の生まれ変わりとも言うが、実際居たかどうかもわからぬ者の生まれ変わりなんて信じる奴がいるものか。
 煽て上げて持ち上げて、都合のいいように先導者にしたてあげるつもりだ。
 万が一、上手くいかなくても「真の名」はまた次の者に継がせればいい。
 そうやって、彼ら(学園)は、力のある魔法使いを味方につけてきた。
 それが本音じゃないのか。

「学長が決めた名前にこちらが畏れることもないさ。どんな名前を貰おうがセキレイはセキレイだ」
「…アーシュ」
「俺のセキレイに変わりは無い。そうだろ?」
「うん」
「…俺の事嫌いになった?」
「なんで?」
「…失敗したから」
「あれは…お互い様だ。僕の方も悪いんだ」
「じゃあ、チャンスをくれる?今度は失敗しないようにするよ。約束する」
「…なんだかいやらしい気分になるね」
「うん。でも今夜はよそう。まだ自信がないしね。ちゃんと学習して、セキレイを気持ち良くさせたいしね。それまで待っててくれるかい?」
「そんな真顔でよく恥ずかし気もなく言えるね…僕はそれにどう答えればいいのさ」
「楽しみにしてる。…それだけでいいさ」
「…アーシュのバカ。恥ずかしいこと言わせるな」
 セキレイの身体が俺に凭れ、俺は細い身体を抱きしめた。
「楽しみにしてる。僕は一生、君だけのものだ」

「…好きだよ」
 重なる声が耳に遠い。
 
 下弦の月が天上に輝く夜、僕らは十三の時を迎えた。
 大人になるのはもう少し。
 楽しみながら待ちわびて、揺れる君の影を踏もう。




ルうとアーシュ


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天使の楽園・悪魔の詩 6



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Private Kingdom 7 - 2011.07.11 Mon

hyousi1

7、
 互いのパジャマを脱がせ、身体の輪郭を確かめ合った。互いのものを握り、昂ぶるのを待った。
「俺が…入れる方でいいの?」
「…うん、その方が自然だろ?」
「…」
 どこが自然なのかさっぱりわからない。入れる側入れない側の決めてなんて一体あるのだろうか。

「アー…シュ」
 泣きそうな声で呼ばれた。
 セキレイの両膝を広げ、俺は自分の昂ぶったものをセキレイに押し付けた。
「…っ」
 俺の背中を抱くセキレイの指の強さが、拒否なのか期待感なのかいまいちわからない。

 この先どうしたらいいんだっけ…えーと…まずスムーズにいく様に、慣れさせなきゃならな…
 …あ!しまった!…ローション忘れた。
 なんてことだ。こんな急とも思わないからスキンすら用意してなかった。
 ベルなら持っているだろうが、こんな恰好で今更借りに行けるわけも無い。
 どうしよう…
 このまま、続けていいものだろうか…痛がったりしないものだろうか… 
 俺は滅茶苦茶焦っていた。

「アーシュ、どうしたの?」
「な、なんでもない。えーと…入れてもいい?」
「…う、ん」
 暗くて顔色までは良くわからないけど、声の加減でセキレイも不安なのがわかった。
 だけど俺が欲しいと言うセキレイの気持ちを裏切るわけにはいかない。
 俺は覚悟してセキレイの中に入り込もうとした。

「う…い、痛い…」
 噛み締めた唇から、悲鳴が漏れた。
 身体が捩れた。痛みに耐え切れず逃げる身体を引き戻していいものか、俺は悩んだ。
「セキレイ…やめようか」
「いやだ。いやだよ、折角アーシュとひとつになれるのに…」
「だって…泣いてるじゃないか。痛いんだろ?」
「…」
 セキレイは黙ったまま目を閉じた。目じりから零れる涙が見えた。
 
 …なんだか可哀想になってしまった。
 これ以上続けても今の俺にはセキレイを気持ち良くさせてやることはできないと、わかってしまったんだ。

「ゴメン、セキレイ。やめよう」
 俺はセキレイの身体から離れた。
「え…どうして?」
 先程とは比べ物にならないほどの、しょぼくれた声だ。
「アーシュ、怒ったの?僕が泣いたから?痛がったから?」
「そうじゃないよ。俺の方が拙かったんだ。ごめんね、セキレイ。…ごめん」
「…」
 セキレイはもう何も言わず、裸のまま毛布を摺り上げて俺に背中を向けた。
 セキレイもそうだろうが、俺の方もかなりのダメージで、その背中にどう言葉をかけていいのかわからない。

 お互いを繋げるのがこんなに難しいなんて…思いもよらなかったから、俺はこの状況にどう立ち向かっていけばいいのか、正直自信をなくしてしまった。
 静まり返った暗闇の中、セキレイの鼻を啜る音だけがいつまでも響いて、俺は後悔と自信喪失とセキレイへの同情で居たたまれずに、とうとうベッドから抜け出し、部屋を出た。

 深夜の徘徊なんて珍しいことじゃない。
 今日は満月だから、皆それぞれに盛っているに決まっている。あられもない嬌声だって聞きたくなくったって自然に耳に聞こえてくる。
 なんだか自分がつまらないものに思えた。
 寄宿舎の一階の食堂に行き、テラスへ出る扉を開けた。
 眠れる気分になるまで月でも見ていようと思ったんだ。

 テラスの向こうに芝草のベンチに座る月影が見えた。
 影の長さから上級生だろうと思った。変な奴に声をかけられるとやばいと思って、引き返そうと踵を返した。
「誰?」
 声を掛けられる。
 逃げるにしても一応挨拶だけはしておこうと、できるだけ近寄らずに「一年のアーシュです」と、応えた。
「アーシュか。なにを遠慮しているの?こちらへおいでよ」
「いや、いいです。お邪魔でしょうから」
「アーシュ、僕だよ。メルだ」
 メル…保育所で一緒に過ごしたふたつ上のメルなのか?
 半信半疑で姿を確かめるためにそっと近づいた。

「君も月光浴を楽しんだら?空気は冷たいけれど、澄んでいるから気持ちがいい…なおざりなセックスよりもね」
 メルが笑ったような気がした。同時にメルの言葉はなんだか俺の心を軽くした。
 
 すらりとした痩身でアッシュブロンドの長い髪、幼い頃から無口でおとなしく人と交わらない印象がある。
 久しぶりにメルを見た気がした。
 隣りに座るように薦められ、言うとおりに座った。
「君、そんな恰好で寒くないかい?」
「ああ…」
 何も考えずパジャマのまま部屋から出てきたんだ。
「これを貸してあげる」
 メルは首に巻いていたマフラーを外して、俺に巻きつけてくれた。
「少しはマシだろ?」
「ありがとうございます」
 メルはふふと笑い、また月を仰ぎ見る。
 俺はその横顔を見つめた。
 俺は今までこの先輩をよく知ることはなかったが、こんなに傍にいて少しも不快感はなかった。

「どうしたの?僕の顔に何か付いてる?」
「不思議だなって思ったから」
「なにが?」
「同じ寄宿舎に居るはずなのに、あまり見かけないから。昔からそうだったけど、俺、あなたと遊んだ印象がないんだけど」
「それは、君の視界に僕が居なかったからだよ。自分が必要とする時にしか見えない、見ようとしない。そんな人は多いからね」
「そうかなあ」
「昔から君にはルゥしか見えていなかった…だろ?」
「…そうかもしれない」
「僕はいつだって君を見ていたのにね…いつも残念に思っていたよ」
「え?」
「でもこうやって今、君は僕を捉えた。君が僕を必要としているって事かしら」
「…」
 心を見透かされているようできまりが悪かった。

「いい満月だ。『力』が満ち溢れてくる」
 メルの言葉に俺も夜天を仰いだ。
「月は何も求めないでも、こうしてエネルギーを僕らに与えてくれる。ねえ、駆け引きもテクニックもパッションもいらない。ただ『官能』を感じていればいい…」
 月にかざしたメルの両手が白く光っている。
 「官能」のエネルギーって…一体なんなんだろう。

「…俺にも、それを受け取ることができる?」
 メルは驚いたように俺を見た。
「君に出来ないことなんて、あるのかい?」
 首を傾げて俺に微笑むメルに、すべてを委ねてしまいそうになる。
 セキレイはひとりで泣いているのに、自分だけ楽になろうなんて、なんて身勝手なんだろう。
 しかもセキレイを泣かせている原因は、浅はかな俺の行動なのに…
 今の自分には月の光でさえ、眩しすぎて見上げられない。

「俺はね、メル…今日まで自分にできない事なんて無いなんて、思ってた。でも本当はなんの力もない。…つまらない男なんだ」
「何かあったのかい?」
「…」
「なんて聞かないよ。誰だって落ち込む時はあるものだもの。無理に浮上しなくてもいいんだよ。なんにしたって、明日はやってくるからね」
「…うん」
 メルは黙って震える俺の身体を抱きしめてくれた。
 気紛れな同情でも、この夜の俺はその温もりがありがたかった。





メル制服

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Private Kingdom 6 - 2011.07.07 Thu

ashruu99.jpg
6、

 出会った時からセキレイを俺の一生の番(つがい)だとは決めていたけれど、人間の感情とは虚ろいやすく、「絶対」なんてものは保証できない柔なものだってわかっていた。
 セキレイに俺のモノでいろ、とか、一生俺以外の奴を好きになるな、とか、冗談で言い合っても、呪文のような鎖に繋いだりはしなかった。
 逆に俺の所為で、セキレイが自由でいられなくなる方が怖かった。
 俺達はお互いに番でいられることを喜んでいた。愛し、求め合う理想の恋人になることも望んでいた。だからその時が来たら、自然にセックスも出来るものだと信じていたし、そういう話もふたりの間では冗談を混じりながらでも語り合ってきた。
 だが、結局具体的なことはさっぱりである。
 やり方も煩悩も頭に叩き込んでいるはずなのに、いざベッドに寝てみると、欲情する前にお互い安心して寝てしまう。
 朝起きてお互い「また、寝ちゃったねえ~」と、笑いあうが、心の中じゃかなり焦っていた。
 俺はセキレイに欲情しないのか?
 つまりセキレイとはセックスできないのか?
 …大問題だ。

 ベルに相談してみようと思った。
 勿論セキレイが居ない時にだ。
 ベルは早くに叔父や他の貴族と経験を積んでいて、その道のエキスパートでもある。
 今じゃ、タチもウケも両方できるし、女性ともやれると言う。羨ましい限りだ。
 学校の中でも先輩や同級生たちに何回も同衾を願われている。
 確かに十三歳で大人ほどの身長で、洗練された身のこなし、ゴージャスなハニーブロンド、そして甘いマスクの奴に敵うものはいない。

 夜遅く隣で寝ているセキレイを起さないようにベッドからそっと抜け出して、ベルの部屋へ向かった。
 ありがたいことにベルはまだ起きていた。

 彼の部屋はバストイレ付き特別室だ。俺もたまに風呂を世話になる。
 シャワーを使ったばかりのベルは、バスローブ姿で濡れた髪を乾かしていた。
「まだ寝てなかったの?」
「うん、ちょっと相談があってさ…」
「アーシュが俺に相談なんて珍しいね。何?」
「うん、あのね…」
 ここにきても親友のベルに相談すべきが悩んでしまう。
 一番頼れる親友で、何でも隠し事しない仲なんだから、相談には乗ってくれるはずだ。それでも中身が中身だからどうしても口ごもってしまう。
 言おうか言うまいか迷っている俺に、ベルはコーヒーをくれた。
「コニャック入り。良く眠れるように」

 相変わらず、ベルは優しい。だからなのか…と、俺は気づいた。
 俺はこの男を仲間はずれにしたくないと、どこかで感じてて、こんなことを言えずにいるのではないだろうか。
 俺とセキレイが特別の仲であり、口癖のように「一生の恋人同士」であると当たり前のように話し、ベルもそれを良く知っている。
 だが俺とセキレイが実質的な恋人同士、つまり関係を持ったら、ベルはどこかで俺達に気兼ねしないものか…などと考えてしまう。

 手元のカップを見つめたまま黙り込んだ俺を見かねて、ベルが口を開く。
「ねえ、話ってルゥの事?」
「え?」
 俺は思わずベルの顔を見つめた。
「だって、アーシュが悩む事って言ったらそれぐらいだろ?」
「…そうだね」
 俺は苦笑い。
「…当ててみようか」
「…」
「ルゥと寝たみたけど、上手くいかなかった」
「…すげえ、ベル。ビンゴだ。俺の心を読んだの?」
 ベルは声を出して笑った。
「そんな力は俺にはないよ。使わなくったって…君の顔に書いてある」
「…噓つき。顔に書いてあるものか」
「真に受けるなよ。で、どうして上手くいかなかったのさ」
 ベッドに膝を抱えて座り込んだ俺に、ベルはそっと隣に寄り添った。

wse3.jpg

「上手くいかないって言うより、そこまでいってないって言うのが正しい」
「…どういうこと?」
「だから…ふたりで居てもそういう雰囲気にならないの」
「…」
「だってずっと…セキレイと出会ってから、ずっと一緒にいてひとつのベッドで寝ていたんだ。急に性的な衝動が沸いてくるはずないだろ?普通に考えてさ」
「家族みたいなもんだろうしねえ」
「そうなんだ。…だとしても、俺はセキレイを愛してるし、恋人にしたいし、セックスしたいって思っているんだよ。絶対そうなんだ」
「…」
 ベルは笑いを堪え切れないかのように手で顔を隠して肩だけ震わせている。

「バカ…笑うな。こっちは真剣だ」
「…ゴメン。アーシュが必死なのを見るのは好きなんだ、俺」
「…ベルはいいなあ~」
「何が?」
「だって誰とでも寝れたりするんだろ?」
「それなりの雰囲気作りはいるぜ」
「雰囲気かあ…」
「それより、君、精通はあった?」
「…当たり前だろ?十三になるんだから」
「じゃあ、そちらは心配ないね。後はルゥの気持ちだよね。ルゥは本当に君を求めているのか…」
「…たぶん。でも正直自信はないよ。だって人の情愛なんて虚ろなものだし、セキレイが俺に対して家族以上の情愛を求めていないとしたら…それはそれで仕方のないことだろ?」
「…アーシュ、君は誠実だね。無理矢理犯そうなんてこれっぽちも考えてない」
「信頼を裏切る方がよっぽど怖いよ」
「…うん、そうだね…」
 ベルはそう言うと、俯いたまま黙り込んだ。
 下を向いたベルの横顔を見た。
 何かをじっと堪えているような表情だ。なんだかこちらが切なくなってしまった。

「…ベル」
 俺は握りしめられたベルの両手に手を乗せた。
「ありがと、話を聞いてくれて。セキレイの事はあまり焦っても事を仕損じる覚悟でゆっくりやるよ。一度は通らなきゃならないんだもの。それに俺ひとりでやれるものでもないしね」
「…うん」
「それから、俺とセキレイがそういう関係になったって、ベルとの友情は少しも変わらないんだからね。これからだってずっと一緒にいたいって、俺は願っているんだから」
「…ありがとう、アーシュ」
 ベルの青い瞳の奥が涙で光るのを見た時、大人に見えるベルだって俺と同じ十二歳でしかないんだと、ちょっと安心したり切なくなったりと、その夜はすやすやと眠りを貪っているセキレイの横でとうとう眠れなかった。


 十二月四日の俺とセキレイの誕生日が近づいてくる。
 セキレイはカレンダーに印を付けながら、その日が来る事を心待ちにしている。
「もう一週間経ったら、『真の名』をもらえるんだねえ~、僕達。なんだかワクワクよりドキドキしてきた」
「何だよ、子供みたいにはしゃいでさ。十三になるんだよ。もう立派な大人の仲間入りなんだから、少しは自覚しろよ、セキレイも」
 
 いつもどおり俺の部屋のベッドに潜り込んだセキレイは毛布の首まで引き上げて、俺が来るのを待っている。
「ちぇ、自分だけ大人のフリしてさ。アーシュだってホントは嬉しいくせに」
「何が?」
 俺は眼鏡を机に置き、灯りを消して、いつものようにセキレイの身体に寄り添った。
「『真の名』だよ。何も後ろ盾のない保育所育ちの僕達が唯一自慢できるステイタスになるんだよ。ここを卒業しても『真の名』があれば、良い就職先だって楽に見つけられるって先輩方が言ってた」
「良い就職って…セキレイ、そんなもんに興味あったの?」
「うん…だってさ。僕、自分がどこから来たのかわからないし、ここに来る前の記憶だってないだろ?もし…もしだよ。僕の両親が僕を…探していたりするのなら、立派な大人になって生きているって知らせたいじゃない。それにできるのなら、両親を探したいし…」
「…そう」

 セキレイの親に対する想いっていうものが、俺には少しも理解できなかった。
 きっと記憶がなくても、セキレイはここに来るまでは親に可愛がられていたのかもしれない。その記憶が細胞に刻み込まれているのかもしれない。だからセキレイは親への「憧れ」を口にするのだろう。

 生まれたばかりの俺を捨てた親と、セキレイの親はきっと違うのだろう。
 別にそれを恨む気もない。
 もし、今、目の前に俺を捨てた親が出てきても、別段複雑な感情は芽生えない。むしろ目の前に現れた親達の複雑さに頭を捻るかもしれない。

「俺では親の代わりになれない?」
 居もしないセキレイの親に嫉妬を交えた俺は、横に寝るセキレイの身体の上に乗っかってみる。セキレイは重いと文句を言ったが、俺は無視してセキレイの胸に頭を置いた。
 規則正しく打つ心臓の音を聞く。
 俺はパジャマの裾から手をしのばせ、セキレイの胸を撫でた。
 セキレイの手が俺の頭を撫でる。

「アーシュは親ではないもの。恋人…でしょ?」
「うん、そうだよ」
「ずっと傍に居てくれるんだろ?」
「うん、ずっと居るよ」
「僕を…抱いてくれるんだろ?」
「うん、君が望んでいるのなら」
「…僕、アーシュのものになりたい…」
「セキレイ」

 顔を上げて暗がりの中、セキレイの顔を見つめた。
「いいの?」
「うん。抱いて欲しい」
 そう言って俺の首に両手を回す。
 セキレイの少し開けた口唇にそっと重ね、深く絡み合わせた。



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Private Kingdom 5 - 2011.07.04 Mon

中等科

5、
 「力」の話を少しだけしよう。

 我々アルトが持っている「力」はいわゆる超能力的なものから、明日の天気占いのようなものまで、とてもアバウトで幅がある。
 能力はうまれ持ったモノであり、学習して「力」が得るものではない。
 ノーマルな人間界の支配するこの街では異端である「力」を持つ「アルト」だが、ノーマルな人間、つまり「イルト」にとって本当に忌み嫌われるべき者なのかは疑問に思う。
 何故なら能力のあるアルトを使いこなすイルトこそ、成功する者だと言われているからだ。
 確かに多くの実業家や政治家の傍らには必ず、影のように魔法使いが寄り添っている。
 だが、魔法使いが自ら名を打ちだし、イルトの前に出た形跡は、殆どない。
 魔法使い、即ちアルトが何故イルトの僕(しもべ)の如く扱われるのか。
 学者の間でも何度も問われてきた謎だった。
 俺の考えでは、アルトは同じアルトを心から信用することができないからだと思う。
 お互いの「力」の差をいつも気にしながら、相手の考えすら読むことができないなんて、傍にいるだけで疲れる果てる。
 またアルトの「力」の源は「senso」、感応力とも言われるが、それはお互いへの信頼する力とも言える。
 お互いを訝るアルト同士では折角の能力も生かしきれない。
 だが、もしアルトが信頼するイルトと出会い、イルトの愛を勝ち得たなら、「力」は膨大な魔力を得ることになる。
 魔法使いが望むものは自分の力を使いこなす受け皿の存在としてのノーマルな良きイルト、と、いう事にならないだろうか。

 「天の王」は多くのアルトが集まる場所だが、結局はイルト中心のこの街でアルトが生き残る為には、持っている「力」の暴走を押さえ、イルトと上手く共存していく為の方法を学んでいく場所…のように思えてならないのだ。
 事実、アルトの多くが、自分より弱く、純粋に自分を頼ってくるイルトの為に「力」を使いたいと思っている。つまりは自分の自尊心がそれで満たされるわけだ。
 いや、それだけではなく、アルトにはイルトに背けぬように仕組まれている何かがあるような気がしてならない。それが潜在的なものなのか、後天的に何かが仕組まれているのかはわからないが…

 例えていうなら、ベルだ。
 ベルは彼をレイプした叔父を最初から憎む気持ちはあまり生まれてこなかったと言う。彼を許して彼を支配することこそが、自分のするべきことだという。
 彼の叔父のエドワードはアルトだというが、力はベルと比較にはならない。(実際俺は彼と会ってその能力を見極めた。)
 自分より力のない者を守りたいという欲求(これはもうアルトの宿命かも知れない)は、アルトの生きていく糧になるのかもしれない。

 俺自身を問えば、他のやつらとはどうも違う気がする。
 それを上手く言葉で表せないのだが、守るべき家族もまた守りたいイルトもいない現在(いま)、有り余る「力」をどう使うかは、まだ定められていない。
 

 「力」は学習するものではないと学校では教えられるが、使いこなす技を知ることは必要だと、「力」を使い始めてわかってきた。
 天気や恋占いなど心理的な「魔法力」は直感だが、俺はPSI全部を使いこなす魔法使いを望んでいた。
 俺は自分の「力」を疑ったりしない。
 幼い頃からこの場所でセキレイやベル、そして仲間と「力」を試してきた。
 そしてそれを知りながらこの学校の教師たちは黙認している。
 これをどう取るかは、難しい話になる。
 つまり「アルト」の存在意味をどう捉えるかだ。

 彼らは(又は我々は)今まで通りの従属を願うのか、それともこの秩序をひっくり返す革命を求めているのか…
 
 いずれにしても、この話はまだ早い。
 俺はまだセキレイとの恋物語を話していない。

 今はここに居ないセキレイを想う時、どうしても別れの悲しさが襲ってくる。
 あの子を見つけた時から、俺はセキレイを一生の恋人であれば、と、願ったものだった。
 それを打ち明け、セキレイもまた、俺の傍にずっと居ると誓ってくれた日々を俺は信じていた。
 「愛している」と、言ってくれたじゃないか。「ずっと離れない」と…
 別れて随分経つけれど、想いは少しも減らず、悲しみもそのまま、ただ願いだけが膨らんでいく。
 俺は諦めたりしたくない。



 初等科を卒業して、西館の中等科に俺達は移った。
 制服も変わるし、今までとは違い寄宿舎もそれぞれひとり部屋になる。
 一年生は二階、二年は三階、三年は四階に別れていて、先輩方と顔を合わせるのは食堂や風呂場ぐらい。
 一学年しか違わないのに、彼らは皆大人びて、どことなく妖しい雰囲気が漂う。
 部屋の鍵や窓を閉めておかないと、発情した奴が夜這いに来るかもしれないと、冗談とも本気ともつかない忠告を耳元で囁かれる。

 ハイアルトである俺達には、力ずくで襲われることはないが、少なからずレイプされた奴の話を聞いていた。
 ところが、レイプされた奴もまた、上級になった途端下級生を同じように従わせたりするものだがら、弱い者がそのまま弱いだけでは無さそうだった。
 弱いままの生徒は、自分を守る為に強いアルトをものにして、自分を守る術を覚える。
 サマシティの縮図がここにあった。
 奇怪であっても平和に保たれている世界。
 
 入学式の折、すでに誕生日を迎えていたベルは、学長に「真の名」を与えられた。
 学長室に呼び出され、証人として数人の先生方の前でこの「真の名」を告げられるのだが、非公開のそのニュースは瞬く間に校内に知れ渡り、「真の名」を与えられた「ホーリー」はスターになる。

「ベル、凄い事じゃないか。え~と、ベルゼビュート・フランソワ・インファンテ…だったか?」
「そうだよ。良く覚えられたね、アーシュ」
「とってもかっこいいし、強そう~。ベルに似合ってるよ」
 学校の食堂の片隅で三人で昼食を取っていた。
 ベルはホーリーになってから、誰彼と無く付き合いを申し込まれて少々げんなりしていたから、目立たぬように隅で食事を取るようにしている。

「ありがとう、ルゥ。でももうずっと前から学長にこの名前を頂いていたから、あまり感動はなかったよ」
「いいなあ~、ベルがホーリーだなんて。ま、俺達も役得かもな。ベルの傍にいたら変な奴に迫られないで済むもん」
「そうだね。ベルが親友で良かったよ、ホント」
「おまえら、本気で言ってる?」
「「はあ?」」
「『真の名』をもらったって『力』の使い道が判るわけでもないんだよ。名前だけ先走りしているみたいで、身に付いてない感じだよ」
「そりゃそうだろうね。名前をもらっても中身が変わるわけでもないし…」
「でも羨ましいよ~。ホーリーって人の上に立つ為の条件みたいな感じじゃん。ベルはその権利を持ったってことだもん。ベルの理想に一歩近づいたって感じだね」
「うん。腐敗した貴族社会をどうにか建て直したいしね」
「貴族社会が何?」
 いきなり目の前に立った女子は同級生のリリだ。彼女もまた、ベルと同じく『真の名』を与えられホーリーとなった。
「え?別に?君の家のことを言ったつもりはないけれど…」
 貴族特有のドン臭さでベルがポツリと答える。
 リリもまた貴族子女だったが、彼女はサマシティ出身ではない。
「リリ、おめでとう。『真の名』を貰うなんてすごいじゃないか。女子では珍しいことだってね。良いホーリーになってね」
 例によってセキレイが極上の微笑みを返したおかげで、リリの鶏冠もそれ以上立たずに済んだ。

 リリが去った後、俺はベルにどうしてリリには冷たいのか、聞いてみた。
「別に冷たくしているつもりはないよ。でもサマシティの貴族でもないリリは本当の事情なんて何もしらないお嬢様なんだ。だから…俺の世界は知らなくていいんだよ」
「…」
 近頃、ベルは良く自分のことを「俺」と言うようになった。 なんだか大人に見えて俺も真似し始めた時期だった。

 その夜、ささやかなお祝いをやろうと、俺とセキレイはワインを手にベルの部屋で一晩中話し込んだ。
 大概はホーリーに関しての話が多かった。
「前の年は誰一人としてホーリーに選ばれなかったんだろ?」
「そうだってね。一昨年はひとりいたって」
「メルだろ。彼は俺らと同じ保育所で育ったから、顔馴染みだよ。な、セキレイ」
「…僕は、メルは苦手かな。何考えてるかわかんないもん」
「そう?俺は好きだけど。ああいうアウトサイダーって、すげえやーらしそうでいいじゃん」
「アーシュ、君もそういうとこあるよ」
「ああ、アーシュはアウトサイダーだね」
「ええ?俺のどこがいやらしいんだよ」
「全部」
「はは…」
「笑いすぎだよ、ベル」

「まあね、そうは言っても君達だって…」
「え?」
「ごめん、言わなかったけど、君達も多分ホーリーだと思うよ」
「え?え?」
「どういう事?」
「随分前に…俺が『真の名』を貰う事をトゥエに聞いた時、俺一人じゃなくて、傍にいる者も仲間だって…トゥエが教えてくれたんだ。あの意味は君達ふたりも同じく『真の名』をもらえるってことだと思う」
「そ、れ…ホントの話?」
 セキレイが興味津々にベルに顔を近づけた。
「本当さ」
「…それが本当だったら…凄く素敵だ。僕にも『真の名』を与えられて『ホーリー』になれるなんて、ね!アーシュ」
「…そうだね」
 宙に浮くぐらいに嬉しそうなセキレイには悪いが、俺はそんなに驚きはしなかった。
 俺が選ばれた者である事は、ずっと前から知っていたし、セキレイもまた他のアルトとは違うことは、彼を拾った時点で知っていた。
 だから「真の名」を貰おうとなかろうと、「ホーリー」になろうがなるまいが、実はあまり関心はなかったんだ。

 だが、セキレイは違っていた。
 その日から、「真の名」を貰う誕生日まで、心躍る期待の言葉を繰り返した。

「ねえ、アーシュ。僕らはどんな『真の名』を貰えるんだろうねえ。カッコいいといいけど…ダサいのはちょっと嫌だな。ね、アーシュはどんなのがいい?」
「え?どんなのだって別にいいよ。それで中身が変わっちまうわけでもないって、ベルも言ってたろ?」
「それはそうだけどさ。でもワクワクしない?」
「セキレイはワクワクし過ぎだよ」

 ひとり部屋になっても俺たちはどちらかの部屋に行き、ひとつのベッドで寝る。
 お互いのぬくもりが何よりの安眠だったからだ。


アーシュh2

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