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2011-08

天使の楽園、悪魔の詩 8 - 2011.08.26 Fri

bell-6.jpg

天使の楽園、悪魔の詩


 休日を自宅で過ごし、翌日の夕方、寄宿舎に帰った俺は、ふたりが気になって仕方なかったから、すぐにアーシュの部屋へ向かった。
 アーシュは部屋におらず(彼はいつも鍵などかけなかった)、ルゥの部屋へ向かう。
 ドアをノックしようとして、少し躊躇した。
 上手く番(つが)いになったふたりを前に、俺は平然としていられるだろうか…変わりない友情を彼らに捧げられるのだろうか…
 それでも逃げるわけには行かなかった。
 本当の愛を交わしたふたりを確認することは、別な意味で、俺の望みでもあったはずだったから。
 そう考えてなんだか自分のこの感情がおかしくなって思わず笑みが零れた。
 大丈夫だ。
 あいつらを守りたくて、俺はここに居るんだから。

 気を晴らした俺は、部屋のドアを少し乱暴にノックする。
 しばらくして眠たそうなルゥの声が聞こえた。
「俺だよ。今、帰ってきたところ。お土産を持ってきたんだ」
「ベル!」
 ルゥの嬉しそうな声とバタバタと騒がしい足音が聞こえ、目の前のドアが開けられた。

「ベルっ!お帰り~」
 無邪気に俺に飛びつき、首に腕を回す。
「その分じゃ上手くいったみたいだね、ルゥ」
「うん。全部ベルのおかげだね。まあ、入ってよ」
「…アーシュは?」
「まだ寝てる」
 部屋に入ってベッドを覗くと、アーシュは裸のまま寝ている。

「アーシュ、起きなよ。ベルだよ。お土産だって」
「はい、これ、極上の赤ワイン。66年ものだって。君らの初体験成功のお祝いに」
「…ありがと、ベル」
 ぽっと頬を赤らめるルゥがかわいい。
「…なあに?うるさいな…」
 瞼を擦りながら、アーシュがやっと起き上がる。
 跳ねた髪もそのままに、眼鏡の無いアーシュは…眩しいほどに美しい。

「アーシュ、裸のままでいないで、何か着ろよ」
「別に君とベルの前で裸でいたって、照れる関係でもないだろう」
「だって…痕が残っているじゃないか」
 アーシュの裸を見て、ますます真っ赤になったルゥが、あわててアーシュにシャツをほおり投げる。

「なんで照れるの?自分が付けておいてさ。なあ、ベル。可笑しいよね」
「アーシュが無頓着なんだよ。恥じらいは恋する者たちにとって大切な甘味料さ。無頓着は鈍感とも言える。アーシュはルゥの繊細さを労わってやれよ」
「はいはい、恋の指南役の助言は素直に受け取ることにします」

 服を調えたアーシュは、「あ~、もう夕方じゃん。何も食ってないからお腹が空いてたまんないや。早く何か食わなきゃ飢え死にしてしまうよ」と、俺達には構わずにさっさと食堂へ向かう。
 それを追っかける俺とルゥは「全くもって、さっきの助言は役立っていないらしいね」と笑う。
 少しも変わっていない。
 俺はいつもと変わりない三人でいられることに、胸を撫で下ろした。


 彼らの関係に肉欲が増えたとしても、俺に対する距離や態度は変わった風もなく、むしろ信頼度は上がった気がする。
 ふたりの間では交わされない話も、何故か俺には話しやすいと言い、それぞれの愚痴を聞いてやるのも俺の役目…らしい。
 結局は惚気になるんだが、無視されるよりはこうやって何でも隠し立てなく話してくれる関係はありがたかった。

 
「ベル、いる?ちょっといいかな?」
 森の中にある廃屋の薪小屋を三人で手を居れ、秘密基地にしていた。その小屋の天上から吊ったハンモックに寝そべって本を手に半分うたた寝していたところに、アーシュがやってきた。
「…な、に?」
 上半身を起して、アーシュを見る。

 季節は夏が始まったが、上着を着ていても汗ばむことはなく、夜が遅くなる白夜が始まる。
 アーシュは上着は着ずに、シャツのリボンを弛めながら、近づいた。
「走ってきたから汗掻いちゃった」
 俺が持ってきた水筒の水をゴクゴク飲んで、大きく息を付く。
 俺は汗を拭くようにと手元のタオルを投げた。
「汗を掻くほど急ぎ用があったのかい?」
「いや、雨雲に追っかけられた。すぐに雨が降るよ」
 アーシュの言葉が終わらないうちに、部屋が一瞬のうちに暗くなり、大粒の雨が音を立てて、降り始めた。
「ほらね」
 開けっ放しを窓を閉めて、アーシュは得意げに目配せする。
「通り雨だから、すぐに止むと思うけれどね」

 本を伏せ、ハンモックから降り、水筒の残りを確かめて、それを飲み干す。
 ふと、間接キスじゃないかと思ったり…つまらないことに喜びを見い出す自分に苦笑せずにはおれなかった。
「ひとりで来たの?ルゥは?」
「さあ、たぶん図書館じゃないのかな」
「ちょっと前までは君の方が入り浸りだったのにね。面倒なレポートでも出たの?」
「色々と調べたくなる年頃だよ、俺達は」
「…」
 どしゃぶりの雨を眺めながら言うアーシュの横顔に見惚れ、その言葉の意味を追求しなかった自分を後になって思えば愚かだった。

「ねえ、ベル。変なことを聞くようだけど、君は色んな奴と寝ているだろう?」
「え?…ああ、まあ…褒められた話じゃないけれど…ね」
 急に何事かと、一瞬戸惑ったが、真面目なアーシュの言い回しに、冗句でかわすわけにはいかない気がした。

「セックスしてて、官能…sensoの力を感じることある?」
「senso…か。つまりエクスタシーの頂点に行き着く時にそれを魔力に変えるってことだろう?でも具体的にどんな力になるのかは、わからないし、試したこともないよ」
「何故試さない」
「何故って…やってる時に魔力を使う状況に陥ったことはないし…第一、好きだからセックスしたいって言う奴としてさ、相手は快感しか求めていないのに、魔力云々って…俺はあまり考えられないんだ」
「…バカ、クソ真面目」
 手加減の無い言い回しにさすがにムッとする。

「ホーリーほどの力の備わったおまえが、力の使い道ぐらい考えてセックスしろよ。俺達は力だけは普通の奴らよりも充分に備わっているんだから、後は目的によっていかに使いこなせるかだ。それを自分のものにしなきゃ宝の持ち腐れなんだよ。ベルが将来、実業家になるのは勝手だが、だからって魔力を使わないって手はない。それにsensoは交わる相手との相性が大きいんだ。いい相手を探すのも重要だ」
「…どうしたんだよ、アーシュ。急に魔力の話なんて。確かに俺達はハイアルトの中でも選ばれたホーリーではあるけれど、その使い道さえ教わっていないんだぜ。どうやって力を自分のものに出来る」
「教えないのは、イルトとの密約があるからだ。無駄に力を鼓舞してイルトを押さえつけたら事だしな。だが勝手に学ぶ事を禁止してはいない。ワザとだよ。学長は勝手に学べと言っているんだ。セキレイが図書館に通うのも、自分が欲しい力の使い道を知りたいからだ。力は自分の望む形になる。俺とセキレイは、セックスをしてて何度か、違う次元にトリップした。夢でも幻想でもなくて、リアルにワープしたんだ。それがsensoの力だ。だけどね、好き勝手に行けるわけでもない。それを自在に操る技量をこっちも持たなきゃ、何の意味もない。俺達の力ってそういうものなんだよ。目的を持ってはじめて意味を為す」
「だから…」
「だから…相手を探すことにした」
「え?」
「経験だよ。相性のいい相手と寝てみて、どれくらいのsensoか確かめる必要がある」
「何の為に?」
「…自分の為…かな」
「それって…メルと寝るってこと?」
「そういう事になるのかもしれないし、メルに限ったことでもない」
「ルゥは知ってるの?」
「…セキレイは彼なりに努力している。でも彼ではできない事もある。それを導くのは恋人の俺の役目だろうね」
「…アーシュ、君は一体何をする気なんだ」
「冒険…したよね、三人で。ずっと続けばいいなって思っているよ」
「…」
 アーシュが何を求めているのか、俺にはわからなかった。

「ベル。俺はね、自分よりも君のことを信用しているんだ。君の魂って、昔と変わらずとっても綺麗なままなんだもの」
「アーシュ、メルと寝ないでくれ。ルゥも…俺も辛いよ」
「メルは案内人(カノープス)だよ。絶対に彼の力が必要なんだ」
「…俺では、駄目なのか?」

 アーシュは一瞬驚いた顔を向け、そして心から嫌そうな顔を見せた。
「ベルと寝るなんて、ご免だよ。言ったじゃないか。君は俺の一番綺麗な場所に住む親友だよ」
「アーシュ、俺は…」
「もし…君がセキレイと寝ても、俺は裏切られたとは思わないよ。俺達は君を愛しているからね。あ、雨が止んだ」
 窓を開け、明るくなった空を仰ぐアーシュの横顔は、昨日よりも大人びて見える。




 一学年が終わり、夏季休暇が始まる。
 叔父の家へ行く俺に、ルゥとアーシュが揃って見送りに来る。
 
「暇が会ったら、うちへおいでよ。学長に許可を貰えば一週間ぐらい外出は大丈夫だろう」
「うわ、それいいね」
「ベルの叔父さんに会えるの?」
「一発殴ってそれから、仲直りのキスをしてやる」
「…アーシュは本気でやるよ。ベル、叔父さんに逃げるように伝えておいて」
「うん。じゃあ…待ってるから。それまでさよなら」
「元気で。ベル」
 揃って両手を振るふたりを振り返りながら、この休暇中にアーシュはメルと寝るのだろうか…ルゥはそれを知ることになるのだろうか…と、そればかりを考えていた。


 見慣れた景色が目の前に広がる。
 車が玄関に到着すると同時に俺は飛び出し、玄関の戸を開けた。
 ホールで待ちわびていたエドワードの顔を見た途端、抑えていたぐちゃぐちゃな感情が溢れ出た。
 驚いたエドワードが俺を抱きしめるから、益々甘えたくなる。
「お帰り、クリストファー。年々再会が待ち遠しくなるのは、私が歳を取った所為かな」
「エドワードが俺を本気で好きになったからだよ」
「そう…だろうね。どうした?会えて嬉しいにしては…冴えない顔だぞ」
「エドワード。俺、恋をしたんだ。本当の恋を…叶う事の無い恋なんだ。すごく…辛い」
「ナリはでかくても、春少年だね、クリストファー。なあに、簡単に叶う恋より苦しんだ恋の方が、数倍もの価値があるって思えばいいのさ」
 そう言って、幼子のように俺の髪を撫でるエドワードに涙が出た。


 その夜、エドワードに抱かれ官能の波に飲まれながら、閉じた瞼の裏で繰り返し同じヴィジョンを見た。
 メルに抱かれたアーシュが濡れた紺碧の両眼で、俺をじっと見つめていた。



アーシュとメル

アルト…魔力を持った人間。
イルト…ノーマルな人間。
ホーリー…アルトの中でも力を持った者はハイアルトと呼ばれ、その中でも「真の名」を受け継いだ者をホーリーと呼ぶ。





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「Private Kingdom」



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フリー絵 「桜」 - 2011.08.23 Tue

なんつーか…時期はずれなんですが、

村の皆様方で、ちらほらとこのイラストを見ますので、本家の登場どす!
再アップですが、古いので、また出してもいいかな。

2009年の3月21日にアップしてますね~
もう二年と半年経ったか~

伽羅さんの企画で頼まれて描いたんだよね。

正直、おはずかしい~(/ω\)
でもその頃の精一杯の技術で描いたイラストです。
子供のようにかわいい(*´∇`*)

荒めのコットマンに鉛筆画のアナログをスキャンして、SAIで色付け。
この頃はこういう描き方がお気に入りでした。

たくさんの方がお話作ってくれたんだよね~

嬉しかったなあ~

大きいサイズでどうぞ~


桜-1

この後の話を、イラストと文章で勝手に作ったんだよね~




桜花舞い散る昼の夢

これはこれは、こんなところでおひとりでお花見ですか?

失礼致しました。妖精王どの。いささかこの満開の桜に酔うておりました。
わが国インドではこのような盛りの桜にはお目にかからぬ故。

恋の病などにはくれぐれもかからないよう用心された方がよい。
この森にはあらぬ企みが潜んでいるかも知れぬからね。

そう…でも私にはあなた様が一番用心するべき相手ではないかと…
はて、あなた様の大事なご用件はなんでしょう。

それはな、おまえを貰い受けようと…女王の許可なくしてはいかがなものであろうとは存じて居るが…
いかんせん、こう目の前におまえを見てしまったら…恋の鞘当など巡らさずに…
どうだろう。わたしの小姓になってはくれまいか。

それではお誓いくださいますか?

何に誓えば良いのだ?

その御身に誓いなさって。今生の情けを下さると…

それなら、この身に賭けて、この世のすべてに賭けて、神に賭けて、未来に賭けて、この桜に賭けて、おまえを幸せにすると…誓おう。

妖精王の為すままにどうぞ召抱えてくださいませ。私の身はあなたのものに…

暁と黄昏の女神に誓って、おまえを守ろう。


と、いう寸劇をやろうと思うんだけど、どうだろう。

君と僕でなら…悪くはないね。

では、舞台から降りても、俺の小姓でいてくれるかい?

小姓ではなく…恋人ならば…いつまでも…


桜の森の満開の下、恋人達は誓い合う。

そろそろ妖精どものさまよい歩く頃合。

恋人たちの新床は桜色に染められた。

万事めでたく納まりましょう。




sakura2


この話もすごく気に入っていますわ。

どちらもフリー絵ですので、良かったらどうぞ。



フリー絵です。
インスピレーションなど感じられましたら、自作テキストなどに使われて結構です。
その際、コメント欄にひと言、使用したいとお知らせください。
こちらからのテキストへの直接コメは申し訳ございませんが、遠慮させてください。




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Private Kingdom 10 - 2011.08.19 Fri

ashsekireineru.jpg


Private Kingdom
10

 今日と明日は連休で皆自宅に帰り、中等科の寄宿舎に残るものは十人にも満たなかった。
 いつもは休日でも世話をしてくれる寮母さんも休みで、夕食は大鍋に作り置きしたビーフシチューとパンを勝手に食べるだけだ。
 別段変わったことではないけど、俺とセキレイはなんだか変に緊張して、言葉も少なく、シチューとパンとせっせと口に入れた。
 別々にシャワーを浴びて、自分の部屋へ戻り、夜が更けるのを待った。

 ベルから貰ったエロい雑誌を開いたりしたけれど、なんだかそんなことより、セキレイとずっと過ごしてきたこの十年近くを思い出し、センチメンタルに浸ってしまう。

 セキレイと出会う4つの時まで、俺はひとりだった気がする。
 いや、周りの誰もが親切で暖かく、穏やかに接してくれた。先生も友人も嫌いな奴なんて居なかった。
 それでも、俺はこの世界でたったひとりなんだと、ずっと感じていたんだ。
 拾われっ子であった所為かも知れない。
 俺自身がどこかで人と交わる事を拒んでいたのかもしれない。
 誰もが俺とは違う生き物だと感じ、それは改めて言うことではないにしても、仲間意識には繋がらなかった。
 アルトの性(さが)だと言われればそうかもしれない。
 だげど、俺はセキレイに会えた。
 セキレイに会えて、初めて俺は自分以外の大切なものを知ることができた。
 彼は他の奴とは全く違っていた。
 俺は本能的にそれを知り、また俺とも違うことも知ってしまった。
 俺達はお互い独りぼっちだったのだ。
 
 その孤独さがお互いを繋ぎ合わせたのかもしれない。
 セキレイへの愛しさは、他の誰とも比べようがない色合いになる。
 彼を…失くしたくない。

 そんな思いに囚われていたら、セキレイへの愛しさが半端なく募って、俺は彼を抱く尊さに胸がジンと熱くなってしまった。
 セキレイの部屋に向かうのには勇気が要ったけど、それでもドアを開けて、仄かにピンクに染まった彼の顔を見て、愛しさが溢れだした。
 失敗なんか気にしてる場合じゃない。
 俺達は結ばれる為に存在している。
 そうじゃないのか?

「ごめん、待った?」
「…ううん、大丈夫。少しワインを飲んでいたの」
「へえ~」
 机にワインボトルとグラスが置いてあった。
「この間、ベルと三人で飲んだ残りがあったからね」
「俺にもくれる?」
「飲んでしまって、もう無いの」
「君ねえ~」
 セキレイは少しむくれて「早く来れば残っていたのに、無理矢理飲んじゃったじゃないか」と、自分のバツの悪さを隠そうとする。それが何ともかわいく思えて、彼の腕を引き寄せた。

「まあ、いいさ。ともかくベッドへ行こうよ。先行き不安も見えなくもないが、君は酔った勢い、俺は過去からの情念に背中を押してもらってさ、上手くいくように祈ろう」
 セキレイはふふと笑い、俺に従った。
 裸のままベッドに横になった。
 セキレイは俺の眼鏡を外して、枕もとのテーブルに置いた。

「本当は眼鏡の無いアーシュは少し苦手なんだ」 
「どうして?」
「色っぽくて困るもの。でも僕以外の奴らには見せたくないのも事実だよ。アーシュは…誰をも惹きつけてしまうから、とてもヤキモキしてしまう。…つまらないことだけどね」
「そんなことない。俺だってセキレイが誰か他の奴と仲良くしているのを見たら、ムカつくもの」
「ホント?うれしいな」
「ずっと…4つの誕生日に君を見つけた時から、俺はセキレイを自分のものだと思って束縛した。そのエゴを君は許してくれた。ありがとう。大好きだよ、セキレイ」
「アーシュ…」

 ゆっくりと開いていく…
 お互いの身体を出来る限り繋ぎ合わせ、隙間なく密着させた。
 残りの部分は、至る所を口唇で触れた。
 セキレイもまた同じようにキスを繰り返す。
 ふたりの結びつきは、それまでのそれぞれの杞憂に過ぎなかったと言えるほどに上手く運んだ。
 自然体でありながらも、想像以上の充実感が満ちていた。
 セキレイが「アーシュ」を切なげに呼びながら、揺れる顔を見せる。
 セキレイの中で俺もまた揺れ続けた。
 初めてにしては上出来だと、言葉に出さずふたりで顔を見合わせ笑った。
 その後、セキレイは自分の番だと言い、俺の中に入りたいと言うから、勿論おいでと言った。
 違った観念が生まれ、お互いに声を、耳を、身体を震わせ、行き着くところまで浸透させた。

 酔いどれた官能がお互いを満たし、まるで宇宙に漂っているようだと、彼は呟いた。
 ずっと繋がっていられたらいいね、と言葉にせずに伝えた。
 セキレイはコクリと頷いて笑う。

 手を合わせた指先から、溶け合うような感覚と、触れ合う胸の鼓動が痛いほどにお互いの肌に伝わる。
 何事かとお互いを見合わせた時、セキレイと俺の身体が白く発光した。
 その瞬間、俺達の身体は浮き上がり、瞬く間にセキレイの部屋からワープしたのだ。

 俺達は裸のまま、草原に寝転がっていた。
 さわさわと風にそよぐ草むらから、ミントの淡い匂いがあたり一面に漂っている。
「薄荷草だ」
 俺達の寝ている絨毯は薄荷草の茂みで、身体中にミントと草の匂いが立ち込めている。
「ここは…どこなんだ?」
 先に身体を起したセキレイが驚きの声を上げる。
「見て、アーシュ」
「あ…」
 セキレイが指差した先は、見たことも無い景色だった。
 緑の草原の地平線の先、広がった暗黒の世界、
 その暗闇に数知れず瞬く星々と、惑星、衛星、星雲、ガス状の雲…図鑑で見た宇宙の景色。
 …圧倒される。
 まるで宇宙船の外に投げ出された迷い子のように不安になる。
 自然にお互いを抱きしめあった。

「…どうしたんだろう。一体何が起きたの?」
「多分…次元を超えたんだろうね」
「え?なんで?」
「セキレイと俺の官能の力が、俺達を異次元に運んだんだ。魔力にも相性がある。きっとセキレイと俺の官能の力は、想像をはるかに超えるのかもしれないね」
「トゥエは喜ぶかしら」
「…さあ、あの親父はああ見えて食えねえとこがあるからな。こっちもホイホイと利用される気は毛頭ないぜ」
「別に…僕は利用されても構わないんだけど。だって彼は親みたいなものでしょ」
 セキレイはそう言って立ち上がり、ゆっくりと歩いていく。
 裸ではあんまりだと思ったが、辺りを見回しても身体を覆うものはない。
 仕方が無いから裸のまま、セキレイの後を追った。
 
「ほら、合歓の木だ。花が咲いて、甘くていい匂いがする」
 草原に一本だけ育った合歓の木に、セキレイは手をあてた。
「合歓はセキレイの木。薄荷草は俺の匂いだから、やっぱりここは俺とセキレイの願いの場所らしいね」
「アーシュの瞳もあるしね」
「え?」
「宇宙の星の煌きは、アーシュの瞳の中にあるんだ。だからここはアーシュと僕の身体の中なのかも知れないね」
「おもしろいね。内と外、空間は質量とエネルギーの移動により、より相対的概念を結びつける。しかし、理論的には難しい話だね。だって、これは俺達の中だけにしか確立しない場所だ」
「…アーシュは時々つまらないことを言うね。ここは僕と君の秘密の楽園って言った方が、らしくない?」
「…そういうことにしておくよ」

 俺達は合歓の木に凭れ、香りと果てしない宇宙の景色を楽しんだ。
 時が経つのも忘れてしまいそうになる。
「いつまでもここに居たい気もするけど、それでは駄目だともわかっているよね」
「うん、ここは特別な秘密基地みたいなものだ。僕らの生活する場所じゃない」
「じゃあ、リアルに戻ろうか」
「え?そんなに簡単に戻れるの?」
「まあ、なんとかなるよ。おいで、大丈夫。俺に任せて。うまく君の部屋のベッドへ帰りつくようにするよ」
「へえ~、自信満々だ。じゃあ、僕は何をすればいい?」
「もう一回官能を味わいたいって、祈ってて」

 もう一度、俺達は身体を繋ぎ合わせた。
 二回目のトリップは案外簡単だった。力の抑制は意外にも理性に比例したのだ。
 だが無事にベッドに戻ってきた時は、ふたりとも指先さえ動かす事もできないほど疲れきってしまい、泥のように深い眠りに落ちた。
 
 それから翌日の夕方、宿舎に帰ってきたベルが部屋のドアを叩くまで、ふたりの惰眠は続いた。






ルうとアーシュ3




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天使の楽園・悪魔の詩 68

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Private Kingdom 9 - 2011.08.13 Sat

アトセキレイ


Private Kingdom


 放課後、寄宿舎に帰るまでの時間、たまに図書館の自習室で過ごす。
 中等科に進級するまでは、セキレイたちと宿題を見せ合ったり、林の奥の廃屋になった薪小屋の秘密基地で騒いだりが日常だった。
 だけど、今はセキレイと居てもお互いを束縛しあうのは極力避けている。
 今までのように無邪気にバカ騒ぎをするわけでもなく、ただこの平凡な学園の中に漂っている感じ。
 それが悪いとは思わない。
 大人に向かう季節なのだと感じていた。
 近頃、セキレイは俺の部屋に来る事も少なくなった。俺も別にそれを責めたりしない。
 誰か別の奴と寝ているとなれば、話は別だが。

 とにかくこの図書館にはなにか気になることがあれば、足を向けるようにしている。
 中等科になるまでは、校舎にある簡易図書館で大概の調べ物は済ませられた。
 もともとこの図書館へは中等科にならないと閲覧はできない。
 この街最大だと言われる「天の王図書館」は、この世界のすべてのことが理解できるとまで言わしめる充実した蔵書が自慢だ。
 しかし、借り出されるのは一日に一冊、しかも館内の閲覧と決まっていたから、仕方なく自習室で読書をする。

 適当に手に取った雑誌は、あるカメラマンの旅日記だったが、この街以外を知らない俺には、他所がどんな街なのか、風景なのか興味津々。
 カメラに写された風景は、その土地独特な建物や着物、人々を写していた。
 彼は彼の地での魔法使いについても語っていた。

「いくつかの街では、魔法使いがノーマルな人々と同じように生活をしている。その様相や生活を見ても彼らが異質な者とは思わないだろう。
彼らは力を持っているが、それを持たない者たちへの為への恩恵だと思うところがある。
魔法使いは観念的な善悪には疎く、自分の主人である人の意思に沿う為、主人が彼らの力を利用し、犯罪を犯すことも、歴史的には多い。
その為、現在では、犯罪を行った魔法使いとその主は、共に罪を荷うことになる。この逆も然りである。
この逃れられない僕(しもべ)たる魔法使いの哀れな運命、もしくは末路を想う時、私は一縷の涙を落す。
彼らに本当の自由の意味を知る日が来るのだろうかと…天を仰ぐ。」

 つまりは魔法使いはこのサマシティだけではなく、他所にもいて、彼らも何らかの規律において、イルトへの忠誠を誓わされている。
 これは遺伝的なものなのか、天からの使命なのかどうかはわからないが、アルトとして生まれるか、又は平凡なイルトに生まれるかは、大きな運命の分かれ目だ。

 そういえば、俺がホーリーになってから、やたらとイルトの生徒から交際を申し込まれる。
 俺にはセキレイがいるからと断っても、しつこく「愛人でもいい。一度寝てくれるだけでもいいんだ」と、お願いされる始末。
 俺のアルトの力を欲しがっているのはわかるけれど、寝たからって、俺が従属するわけでもないだろうに。
 現にベルは結構な数、イルト、アルト構わず寝ているが、彼が誰かに傾倒しているとは思えない。また、彼らの為に力を施したとも聞いていない。
 どこまで情を通わせればイルトとの従属関係が生まれるのだろう。人それぞれで違うものなのだろうか…

「探したよ、アーシュ」
 息を切らしたセキレイが自習室のドアを開けて俺を睨んでいる。

「図書館に行くって言ってなかった?」
「聞いてない。おかげで寄宿舎や薪小屋まで君を探しに行ったじゃないか」 
「悪かったよ。で、用事はなんだい?そんなに急いでるくらいだから、重大な話なんだろうね」
「…重大だよ。…僕にとっちゃ…」
「だから、なに?」
 ほおっておかれて拗ねているのか、セキレイはそっぽを向いて、俺の机の前に立った。

「寝て、欲しいんだ」
「…いつも一緒に寝てるじゃないか」
「バカ、意味が違う。セックスしたいって言っているんじゃないかっ!」
「…」
 …マジで勘違いしていた。
 薄っすらと赤くなったセキレイの頬を見て、俺は自分の鈍感さを詰った。

 セキレイとは昨年の冬に初体験を試してはみたが、上手くいかず、その時は、時が熟してない…みたいなことで濁していた。まあ、お互い好きなことは判っているし、情欲なんて歳をとって思春期になりゃ盛ってくるもんだと思っていた。
 セキレイの気持ちも知らずに今までほっておいた自分が悪いのはわかっていた。

「ゴメン、セキレイ。気づいてやれなかったね。君がそんなに焦っているなんて…」
「あ、焦ってないっ!」
「そう?」
「…アーシュはイジワルだ。そうだよ、焦っているよ。大体、君が悪いんだからね」
「何が?」
 セキレイは不機嫌に眉を寄せて、乱暴に正面の椅子を蹴った。

「僕が何も知らないとでも思ってる?」
「だから何のことよ」
「…メルだよ。僕が彼のこと嫌いだって知ってるくせに、いつもメルにくっついているじゃないか。それにこれ見よがしにキスまでしてさ。僕との約束は忘れたの?」
 いきり立つセキレイの言葉に俺は正直驚きを隠せなかった。と、いうか…嬉しい。
「メルに嫉妬してるのか?」
「当たり前だろ?彼は君をものにしようとしている。そして君は何の疑いもなくメルに取り込まれている。事実だろ?」
「…」

 確かにふたつ上のメルと仲良くなった経緯は、セキレイにもベルにも話していない。
 メルが俺を欲しがっているのは重々判っている上で、俺は彼の知識や俺自身を受け入れてくれる寛容さに惹かれている。
 セキレイやベルにはない、彼の危険な情念が常に俺に向かっていて、それがどうにも心地いいのだ。その想いを振り回すことの快感さえ感じているのだから、始末に負えない。
 性格が悪いと詰られても仕方ない話だ。

「黙ってないで何とか言ったら?アーシュ」
「君がそんなに嫉妬するなんて、ちょっと新鮮だから、見惚れていた…と、言ったら嬉しい?」
「…バカなんじゃない?」
「まあ、何の疑いもなくメルと接しているわけじゃないよ。彼は俺を抱きたいと何度も言っているし、俺も彼と寝てもいいと思っている」
「…ひどい」
「でもセキレイが一番大事だし、君の許し無しで彼とセックスはしないよ。それでいい?」
「…納得できないし、なんとなくムカつく。でもそれがアーシュの決めた事なら…」
「こっちへおいでよ」
 俺は手を差し出し、彼を招き入れる。
 彼を俺の膝に座らせ、向かい合って抱きしめた。
「ここでやる?」
「え?」
「それを目的に自習室を使う奴らも多いんだぜ?ちょうどいい広さだし」

 机ふたつだけを置いた狭い自習室には窓もない。ここでしけこむ生徒も多い。
 舌を絡ませたキスを充分に味わい、音を鳴らして離したら唾液がツツと伝わった。
 セキレイは満足そうに笑った。
 ご機嫌はなんとか取り戻したらしい。
「…何だか卑猥だ」
「欲情するにはいいセットだろ?」
「そんな風に盛り上げないとセックスはできないもの?」
「さあ。やったことが無いんで、俺もわからない」
 そう言うと、セキレイはぷーっと噴き出し、声を出して笑った。

「やっぱりアーシュが一番好き。早く君と抱き合いたい。こんなところじゃなくて、フカフカのベッドの上がいいんだ」
「俺もこの痛い体制よりも、自由なベッドがいい。今宵どうですか?我が君」
「お待ち申し上げております。我が王、アスタロト」

 初夜の申し出は受けたものの、今度は失敗は許されない。ベルに話でもして気を紛らわそうとを訪ねても週末で彼は帰省していた。
 仕方なしに覚悟を決めて、俺を待つセキレイの部屋へ乗り込んでいった。


   目覚めた僕らは、清らかに魂(こころ)育み 淫らに愛を営み、歓喜する


 どちみち俺達がこうなることは、生まれる前から決まっていたことなんだ。
 それを知ってしまっているからこそ、俺はセキレイを抱くのが怖かった。

 愛を知って飢えた心を満たしたセキレイは、きっと、俺から離れていくだろう…


 

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浄夜 2 - 2011.08.06 Sat

メル


浄夜 2

 中等科一年になったアーシュは「真の名」を頂き、僕と同じホーリーになった。
 ホーリーとは「真の名」を持った者だけが呼ばれる学園での称号だ。
 その年はアーシュを含め、五人もの生徒がホーリーに選ばれた。
 ルゥもそのひとりだ。
 そして、もうひとり、貴族であり、この街の黒幕とも言われるカンパニーの一人息子でもあるベル。

 アーシュを手に入れたと思う僕にとって、いつも彼にくっついているルゥは勿論邪魔だったが、何よりもあのベルが気に入らない。
 その容姿も品格も、ずば抜けた後ろ盾がある経済力もなにもかもが癪に障る。
 ベルがアーシュに恋心を抱いていることは、ひと目見てわかっていた。
 
 アーシュもまた彼を気に入っているようだった。
 ルゥの他には見せない顔を、あの男にはよく見せる。
 僕より先にベルがアーシュを頂いてしまったら、ずっと餓えている僕の忍耐はどうしてくれる。
 どうにかして彼よりも先に、僕はアーシュを手に入れたい。

 だが、すべてはアーシュの手に委ねられている。
 誰を選ぶのも、誰を捨てるのも、アーシュの選択なのだ。



 凍てついた満月の夜だった。
 深夜ひとり庭先での月見を楽しんでいた僕に幸運が舞い降りた。
 アーシュはやっと僕を見つけてくれたんだ。
 理由はわからなかったが落ち込んだ憂いの表情も月影で一層儚げに見えて、募る想いが膨らむのは当然だ。
 頼りなげなアーシュを、僕は抱きしめる。
 ありったけの狡さで君を癒す者になる。
 信頼と友情を勝ち得る為に。


 二度目の出会いは図書館の書架庫だった。

 「天の王」学園構内の中央の聖堂と隣り合わせの図書館は、それぞれの校舎へ放射線状に石畳が伸びている。図書館まで徒歩十分はかかる石畳を好き好ん行く奴は相当の目的を持った奴だろう。遊びに興じる生徒たちは図書館の存在すら知る由もない。

 狭い扉から長い廊下を渡り、やっと図書館の入り口へ到着。
 入り口のカウンターには司書のキリハラ先生がいる。
 東洋生まれの彼は真っ直ぐな黒髪と切れ長の目が印象的。
 僕を認めると口端だけで笑い、指で「どうぞ」と、示す。
 普通の学生は彼に学生証を確認してもらい、書架庫に入れるのだが、僕の場合は特別。
 彼とは愛人関係にあり、彼は僕を気に入ってくれている。
「今日の御香の香りは…清々しいですね」
 彼の瀟洒なサイドテーブルには香炉がおかれ、そこから香りを燻らせているのだ。
「香木は『真那伽』。先人はこれを評して『無』と、呼ぶらしい。意味はわかるかい?」
「さあ、御香には詳しくなくて」
「つかみどころの無い、それでいて万物に通じた香り、らしい」
「哲学的ですね」
「君のようだろ?」
「まさか」
 アイコンタクトで逢瀬を約束して、目的の書架へ足を向ける。
 古い木製の緩い螺旋階段を下りる。
 上へ昇ったら、歴史や学習の為の一般の書籍。下へ降りると魔法に関する書籍。
 ハイアルトしか読むことが許されないセクションが延々と続く。
 そして、高等魔法書の書籍がずらりと並ぶ一番奥の角が僕の閲覧席になる。
 小さな窓際に余っていた机と椅子を持ち込み、周りを書架で囲んだら即席の自習室ができあがり。
 傍には古い本の保存や、劣化した本を補修する為に一時的に保管する書庫への出入り口がある。
 僕がキリハラ先生と逢い引きする場所は、もっぱらそこだ。
 誰もこんなところまでは寄り付かないし、中は広いし、案外涼しくて居心地がいいんだ。
 マホガニー製のカウチの上で閉館まで楽しむこともしばしば。
 伽羅の香を燻らせてやる時の艶かしさはたまらない。
 キリハラ先生は大人だし、ハイアルトでもある。色んな魔法の術を手に入れているから仲良くなって損はない。魔法の技術だけではなく、大方の性技は彼から教えてもらった。
 彼はとても上手いのだ。
 勿論彼の相手は僕だけじゃないし、僕だって彼の他に愛人はいる。
 
 今付き合っているのは同学年のアイラと、ふたつ上のイシュハ。
 アイラはアルトで気の利く女の子。お互いにセフレ以上の進展は望んでいない。
 イシュハはイルトだが、非常に精神力が強く、信用できる男だ。
 彼と付き合い始めたのは、興味本位からだった。
 アルトがイルトと付き合ったら、どういうふうな精神状態になるのか、自分で試したかったからだ。
 
 昔から言われる、アルトはイルトに従属してしまうのは何故かと言う疑問は自分で解明したかった。
 なるほど、僕の場合でも確かにイルトであるイシュハを一旦信用してしまうと、こちらから裏切るのは罪深く思えて、彼を傷つかせたくなくなる。彼の信用が深ければ深いほど、彼の為にたまらなく奉仕したくなるのだ。
 自分の精神がふたつに分かれるとしよう。
 彼を冷静に見つめている自分と彼に従属したい自分がいるならば、常に彼の為に何かしたいという欲求が勝ってしまうのだ。それを不思議だと感じながらも、その欲求に従ってしまう。
 僕がそこまでイシュハにのめり込まなかったのは、彼がそのことを知って、僕を縛りつけるのを恐れたからだ。彼は「僕らの関係は友情に押し留めておこう」と提案した。
 僕は彼の虜になる僕自身を逃れた。
 彼の精神力と忍耐に感謝している。
 
 アルトは一旦イルトに惚れてしまったら、魔法をかけられた如く、相手に靡き、従属されてしまうという事実を僕はこの時、実体験したわけだ。


「あ」
いつものように魔法書を解読していると、横の本棚から覗く顔があった。
「メルだ」
 アーシュが本を手にこっちを見ていた。

ash2.jpg


「何してるの?」
 嬉々とした顔でアーシュは僕の机に小走りで近づき、椅子に座る僕の隣りに身体を寄せた。そして僕の手元を覗き込む。
「呪文の解読だよ。特殊な文字で書かれてあるだろう?これはラノ語でしか解読できない文字の配列だから一旦ラノ語の辞書で調べて、さらに通常の言葉に直すんだ。それでも音にできない言葉も多いから難しいよ」
「ふ~ん。ちょっと見ていい?」
「うん」
 アーシュは原書を手に取り、じっと見つめる。
 しばらくして「やっぱわかんないや。まあ、いいや。全部身体に入ったら必要な時は引き出すことにするよ」と、言う。
「何?どういう意味?」
「意味なんかないよ。呪文って音符だね。意味なんかない。解読なんかしても意味ないよ。言葉じゃないもの」
「…面白いことを言うね。アーシュ。じゃあ、どうやって魔法の呪文を唱えるの?」
「…知らないよ。だって今この呪文は俺に必要ないから」
 不思議な事をいう子だ。呪文は魔法を使う為にはなくてはならぬもの。言葉が音になり、自然界の精霊や異次元の者を召喚し、己の味方として力を得ることになるのに。

「…」
「でも必要な時は、メルに教えてもらいたいな」
 アーシュはあっさりと本を返して、僕を見つめる。その言葉の意味を僕は見落とさないようにしなければ。
「見返りは?」
「身体で払うよ」
 ほら、彼はちゃんとわかっている。僕が欲しがっているものを。
「そう、期待してる」
 僕は彼の腕を取り、僕の膝に彼の腰を引き寄せた。彼は嫌がりもせずに、僕の膝の上にきちんと腰掛ける。彼の腹に両手を合わせ、彼の耳元に問いかける。

「もうルゥとしちゃったの?」
 彼は一瞬驚いた顔を後ろにいる僕に見せたが、すぐに平気な風を装った。
「…う~ん、まだ」
「僕が先に頂いてもいいってわけ?」
「駄目だよ。セキレイと約束してるもの。するのもされるのも一番最初はお互いだよって」
「つまらない約束ね」
「つまらない事には意味があるもんだよ。メル」
 そう言うとアーシュは身体を下に捩りつつ、僕の顔を見上げ、僕の口唇にキスをした。

「メルのことを嫌いになりたくないから、俺には優しくしてよね」
 初心な色目を使い、アーシュは弾くように僕の膝から離れた。
 
「司書の先生がお待ちのようだから、お邪魔虫は退散するよ。じゃあ、またね、メル」
 そう言って、アーシュはここから離れて行った。
 まるで疾風のように、僕の心までも連れ去って。

 その後の情事はキリハラ先生を困らせる羽目になった。
 なにしろ彼が僕から盗んだ欲情を引き戻すのに一苦労だったのだ。



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