FC2ブログ
topimage

2011-09

学園祭ポスター - 2011.09.30 Fri

画像はサムネイルでアップしております。宜しかったらクリックして原画の大きさでお楽しみください。

「天の王」学園では、今年のメインイベントは、ホーリー全員出演の舞台劇だそうです。
王子と騎士の悲恋物語ですわ。
皆さん、前売り券はお早めに。


ポスター

こういうのを妄想しながら描くのって楽しいね。

今、学生時代だったら、めっちゃやってただろうね。


「暁の鶯」はそのうちショートストーリーにでもしましょう。



お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

Private Kingdom 11 - 2011.09.28 Wed

ashbousi.jpg


11

 俺とセキレイは文字通り番(つが)いになることができた。
 その後は、三日と空けず、ふたりして「senso」を楽しむ事に没頭した。
 するとある事に気づく。
 セキレイとふたり、何回トリップしても同じ場所しか行けないのだ。
 即ち、あの宇宙の果てみたいなふたりきりの世界が待ち受けている。
 それはそれでロマンチックと言えるだろうが、同じ場所と言うのがどうも腑に落ちない。

 「天の王」の図書館で調べ尽くした知識では、「senso」は時間、場所、次元を超えて、関わった者の記憶のすべての場所へ移動できるはずだ。
 勿論これは「senso」の一部分の力の利用だ。
 「sanso」は一般的な超能力とされるPSI(サイ)よりは、遥かに高度で、かつ難解な魔術と言って良かった。

 セックスで快感を得ることはお互いにとって大事な情感だ。
 お互いがオーガズムを感じる時、大抵誰もが真っ白になると言う。
 その暗闇から光を差し込む暁闇こそが、エクスタシーの到達点であり、「sonso」が発動する。
 甘美なまどろみに酔いながら、脳のある中枢の「力」を司るシナプスのネットワークを僅かな記憶のシグナルへと繋げる。しかも、リアルである「現身(うつしみ)」をも、移動させる力と制御システムは相当な魔力を使いこなす者で無いと到達することは難しいとされる。
 ハイアルトは「senso」の力を潜在的に持った人間だ。
 それを使いこなせる力量は勿論、それぞれの意識にある。
 だから「力」とは潜在的な能力と、それを使いこなせる「精神力」を持たなければ、意味が無いと言えるだろう。

 俺には目的があった。
 セキレイを本当の両親の元へ還したい。
 彼が望んでサマシティに現れたわけじゃない。
 もし両親が望んでこの街へ彼を導いたとしても、セキレイ自身はその理由が欲しいのではないか。
 俺は彼に「セキレイ」と言う名を与えた。
 トゥエはそれを承知した上で「ルゥ」と「真の名」を与えた。 
 何故、学長は俺の元に彼を置くことを承知したのだろう…
 俺が望んだからか。セキレイが「ルシファー」だからなのか。
 トゥエはセキレイの本当の姿を知っているのではないだろうか。

 俺はセキレイが自分の運命を自身で選んで欲しいと願っている。
 俺に引きずられる事無く、自分で掴まなければ、彼はきっと後悔する。
 俺を恨むかもしれない…そう感じていた。
 そして、セキレイ自身、悩んでいることにも気づいていた。
 俺達はもうすぐ13になる。
 もう自分が何者か知ってもいい年頃だろう。
 「ルシファー」と言う名が何の為に彼に与えられたのか、彼はそれを知りたがっている。

 俺はといえば、自分の力を疑ってはいない。
 その「力」がどこから来たのか。セキレイと同じく、両親は一体どんな奴らなんだろうとか…考えないわけでもない。
 だからこそ「senso」を自分のものにしたい。
 自分だけではなく、セキレイの本当に還りたいと願う場所に辿り着きたい。
 そこへ送り届ける事こそが、俺のセキレイへの愛情のような気がする。
 また、それを乗り越えなければ、俺達は本物の番いにはなれないだろう。

 大人になるには辛い事が山ほどある。
 力があればその力にこそ、傷つくことだろう。
 与えられた試練を楽しむ精神は、他人を傷つけても構わないぐらいに勇ましいものになる。
 「悪」とは何だ。「善」とは何だ。
 一方を救えば一方が倒れる。両方とも救おうなど、無理難題。
 「光」とは何だ。「闇」とは何だ。
 どちらが正しくて、間違いだと決められるはずもない。
 神話では「アスタロト」は天界と魔界を行き来し、最終的には魔界の王となった。
 彼はどうやって選択したのだろう…
 もし、俺が「アスタロト」ならば、と考える。
 即座に言えることは、俺は俺の大事な者を守る為に、どちらかを選ぶだろう。
 それが俺の求める未来だからだ。

 結局、セキレイとのセックスでは、求める場所を得られなかった。
 何故かはわからない。
 俺のようにここで生まれた者には、生まれてからの記憶はすべて取り出すことが出来るのに、ここに辿り着くまでの4歳までのセキレイの生きてきた記憶は一体どこにあるのだろうか。
 セキレイの脳に刻まれた記憶が、何かで封鎖されているとしか考えられなかった。
 その鍵を俺が開けるしかないなら、力のある者と交わって「senso」の力を導き出すしか、方法が無いのではないのか。


 「天の王」図書館の司書キリハラはエキゾチックな東洋人だった。
 彼は力のあるハイアルトだ。
 この街では珍しい黒髪であることも、俺にはなんとなく親しく感じられたから、彼との接触を試みた。 
 即ちセックスをしたいと申し出たわけだ。だが彼はのらりくらりと俺の誘いを断わりやがった。
 その理由を問いただすと、「学長から止められている」と、言う。
 なんでトゥエがキリハラとのセックスを止める。そんな勝手知ったことか!
 それを責めると今度は「君はまだ子供だから」と、来やがった。
 隣りに居たメルがニヤニヤしている。
 あんまりムカついたので、蹴りでも入れてやろうと思ったが、キリハラはカウンターの向こうで、知らんぷりを決め込んでいる。
 捨て台詞を吐いて図書館から出て行った。
 キリハラのバカ野郎!どうせ、すぐにメルとやるクセに。
 テメエから頭を下げてきたって、絶対寝てやらねえからなっ!
 
 頭に来たついでに、その足で隣りの聖堂へ向かった。
 この時間なら、トゥエはきっとここに居るだろう。
 聖堂の重い扉を開けて、光を集めて煌くステンドグラスにしばらくまどろんだ。
 何故か、ここに来ると懐かしい気持ちになる。
 俺がここで生まれたからだろうか。
 尖った心が穏やかになっていく。

「アーシュ、君なのか?」
「そうです」
 トゥエの俺を呼ぶ声はいつも暖かい。信用ならねえ奴と思いつつも、俺の心はいつだって、信頼を寄せているのだ。
「何か悪さでもしたのかい?」
「なんで?」
「反省の告解でもしに来たのかと思ったのだが…」
「俺が反省なんかするわけないでしょう。あなたの愛人のキリハラが俺に無関心を装うから、腹が立ってあなたに八つ当たりに来たんだ」
「…」
 適当な作り話を、交えたつもりだが、否定もしないところをみるとまんざらホラでもなさそうな雰囲気だ。
 俺はちょっとショックだった。父ちゃんを寝取られるってこんな気分なのかね。

「大体、学長はなんで俺とキリハラが寝るのを止めるんだよ。キリハラは求められれば誰でも寝てくれる良い先生なんでしょう?」
「アーシュは私の子供みたいなものだから駄目です。キリハラ先生にはあげられませんね」
「は?なんでだよ!あいつは、力の使い方を知っているハイアルトだ。どうしても俺は『senso』の導きを知りたいんだよ。あいつと寝れば…」
「…ルゥを還してあげたいのだね」
「…」
 やっぱりトゥエは知っているんじゃないか。だったら…
「キリハラが駄目なら、トゥエだっていい。俺に『senso』を教えてよ。セキレイの記憶を戻してやってよ。頼むから」
「…ルゥは無意識のうちに自分で記憶を閉ざしている。それを戻すやり方は幾らでもあるが、これはアーシュにしかできないことだよ」
「なぜ?」
「君が彼を選んだからだ」
「…だから、俺が還さなきゃならないんだろ?…わかってるよ…」
 トゥエは真実しか言わない。それが辛かった。

「アーシュならやれる。君の力は無限に等しい。天にも地下へも君は行ける者だからね」
「トゥエは口ばっかりだ…俺が本物の『アスタロト』みたいに言うんだから」
 俺は少し不貞腐れて、トゥエを責める。
 トゥエは優しく見つめたまま、黙って頷いた。




clanp3.jpg

「Private Kingdom」 10へ/ 12へ





お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

インターミッション(幕間) - 2011.09.27 Tue

画像はサムネイルでアップしております。宜しかったらクリックして原画の大きさでお楽しみください。

エドワードの誕生日に、三人でケーキを作ることに。
エドワードの好物のチョコケーキを焼きあがるところまでは良かったのだが…
ロクでもねえアーシュが、生クリームにワサビを入れました…


誕生日

エドワードはワサビ入りクリームにお怒りのようでした…

舞台裏でも三人は和気藹々でやっております(*´∇`*)

17歳の三人の身長差。

アーシュ…177
ルゥ…176
ベル…186


お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

天使の楽園・悪魔の詩 11 - 2011.09.22 Thu

hadaka-1.jpg

11、
「この絵はね、おばあさまがこのスタンリー家へ嫁がれた時に、肌身離さずに運ばれたものよ」
 母は目を細めながらその絵を眺め、懐かしそうに話し始める。

「おばあさまはサマシティから随分離れた小さな街の子爵の娘だったの。スタンリー家に嫁がれた時は15歳。勿論政略結婚だったわ。おばあさま…ティナは男の人なんかまるで知らない淑女だったのよ。恋物語に憧れを抱いた夢見る乙女ね。だから、結婚相手はずっとこの絵の中のアスタロトのような人と思い描いていたの。少女趣味でしょ?現実には…二十も離れたおじいさまの妻にならなければならなかった。無理矢理よ。誰も慰めてもくれない。どんなにかひとりぼっちで心細かったでしょうね。初めての夜はずっと泣いていたとおっしゃってらしたわ。我が身の屈辱と夢を捨てなければならない事実が辛かったのね。
この絵はおばあさまが生まれた時からおばあさまの家に飾られていたそうよ。魔王アスタロトが一時の興に任せて、三日間だけ人間の娘と交わった。その時を過ごした姿を描いたと言い伝えられている絵がこの『レヴィ・アスタロト』。
…本当に今にも動き出しそうに瑞々しいし、比類の無い美しさね。それにとってもキュート。…ね、面差しがアーシュに似ているでしょ?」
 そう言われた本人は、黙ってその絵を見つめ続けている。
 母は話を続けた。

「おばあさまの一途な愛はこのアスタロトに一生涯注がれたの。現実がどんなに辛くても、この絵を見て、この方を想い続けていれば、希望が持てるっておっしゃっていた。おばあさまの夢見がちな少女趣味は現実逃避でもあるけれど、自立できない女がこの家の中で生きていくしかないのなら、夢を見続けるくらい許せるでしょ?」
「…おばあさまは綺麗な人だったよ。私にもよく神話や童話を話し聞かせてくれたけれど、この絵の事は全く聞かされていないな。姉上だけが特別だったのかね」
 エドワードは話を聞かされなかったことが心外だったらしい。むくれた顔で母を睨んでいる。
「女同士の秘密の話だったのよ。心から愛する人のことは、粗野な男の子には話せないわよ。侯爵様にも悪いでしょ?それに、あなた、口が軽いから、すぐ他人に話してしまいそうだもの」
「姉上は秘密主義ですからね」
 ふふと笑いあう二人の眼差しには特別な親密さが伺えた。
 エドワードと母の関係はまだ続いているのだろうか。それともそれを超越した絆があるのだろうか。
 俺には何もわからないし、それこそ、ふたりだけの秘密なのかも知れない。

「これを描いた人は、実際にこの人を見たのでしょうか?それと…アスタロトと交わった娘と言うのは、本当にいるの?」
 アーシュはふたりの関係などには全く興味がない様子で、絵を眺めたまま、質問した。
「それは…わからないわ。真実か、夢想の作り話なのかは誰もわからないのよ。でもきっと、これを描いた画家はこのレヴィ・アスタロトに恋をしていたのでしょうね」
「…」
 アーシュは一心に絵を見つめたまま、その場から離れそうもなかった。

「ホントアーシュにそっくりだよね。もしかしたらその娘さんはアスタロトと言われるこの絵の人との子供を宿してて、アーシュに繋がっているかもしれないよね」
 ルゥの言葉にドキリとした。
 ここにいる誰もが言いがたいことをサラリと言う気質が今は恨めしい。
 アーシュがどう思ったかと、俺は気が気ではない。
 だがアーシュは、ルゥの言葉に気に留める風でもなく「じゃあ、俺の『真の名』は、正真正銘の本物だね」と、笑った。
 …心からの笑いではないことだけはわかった。
 

 母はディナーも取らずに、屋敷から去った。
「たまたま寄っただけなのよ」 
 上質のシルクのコートをエドワードに羽織らせてもらう母を、ホールで見送る。
「では皆様、ごきげんよう」
「食事ぐらい一緒にしたかったのに。たまには母親の顔でクリスとの時間を持てよ」
「ディナーの約束は別にあるの。それに…クリストファーにはエドワード、あなたがいるじゃない。あなた、鏡で自分の顔をご覧になれば?父親の顔をしているわよ」
「それは、卑下している?それとも…」
「褒めているのよ。でも老けたエドワードは嫌いよ。いつでも私の一番の弟でいらしてね」
「わかってるよ、ナタリー」
 手の甲に口唇を押し付けたエドワードに、母は少しだけ切なそうな顔をした。

 屋敷での夕食は、休暇の最後とあって、豪華だったが、アーシュはあまり食も進まず、残しがちだった。
 夜、寝ようと自分の部屋へ行くと、パジャマ姿のアーシュひとりしか居ない。
「あれ?ルゥは?」
「ああ、セキレイならエドワードの部屋だ。最後の夜だからエドワードと寝るってさ」
「…え?エドワードと?」
「変な勘違いをするなよ。寝るだけだよ」
「…いいのか?」
「何がさ。ほら、俺達も寝るよ、ベル」
 先にベッドに横になったアーシュは毛布の端を持ち上げて、俺を誘った。
 俺は不可解なまま、アーシュの隣りに寝そべり、毛布を引き上げた。
 すぐにアーシュが身体をくっつかせ、手を絡ませる。彼はこういう甘え方をするのを好んだ。
 彼のくせっ毛の髪が、俺の頬を掠めた。
 同じシャンプーを使っているのに、アーシュからは淡い薄荷の香りがする。

「…いいのかよ」
 顔をずらして、アーシュの顔を見た。
「何が?」
「恋人だろ?エドワードに任せて心配じゃないの?」
「ベルの叔父さんだろ?君が疑ってどうする」
「だって…」
「俺は心配して無いよ。エドワードがセキレイに感じている好意は父性愛だよ。それがわかっているからセキレイも彼に甘えている」
「そうだといいけれど…」
「大丈夫だよ。エドワードは君を愛しているよ。父性愛ではなく、君を、愛してる。だから君を抱く」
「母親の代わりに?」
「それもあるだろうね。本当にベルのお母さんは綺麗だもの。エドワードはずっと見惚れっぱなしだったね」
「うん…」
「一生涯の愛を誓っているのかもしれないね。あのおばあさまのアスタロトへの愛みたいに」
「そうかもしれない…」
 エドワードの想いが尊く感じられた。
 エドワードの優しさに母は報いてくれるのだろうか。それとも俺の知らないところでは、あのふたりはもうとっくに、尊い境地まで到達してしまっているのだろうか…

「俺も誓うよ。ベル、君に永遠の友情をだ」
 アーシュは握り締めていない片方の手を、俺の胸の上に置いた。
 胸の鼓動が早まるのを知られたくなくて、俺はその手をそっと押しやった。
 そうやって誤魔化さないと、ふたりだけでこのベッドにいるのが辛くなってくるのだ。
「…ありがとう。でも、本当にいいのか?エドワードがルゥに対して絶対欲情しないとも限らないぜ。彼は小さくて可愛い子が好きなんだから。ルゥが心配だよ」
「セキレイがエドワードと一緒に居たがっている。俺は驚いているよ。セキレイがあんな風に他人に懐くなんてさ。セキレイが求めているのは俺じゃなくてエドワードなのかもしれないって思ったりした」
「まさか」
「そう、まさかだ。本当のところ…セキレイは親が欲しいんだよ」
「え?」
「言わないけどさ。わかるんだ。…セキレイが両親を求めるのは、きっと記憶を失くす前の生活が親の愛情に満たされていたからだと思うんだ。4歳の頃って君、何か覚えている?」
「うん…なんとなくだけど、印象的な事は記憶にあるよ」
「そうだよね…。今のセキレイにはそれが無い」
 ルゥは4歳の頃、ふいにこの街に表れ、アーシュに拾われたと聞く。それまでの記憶のすべては彼には残されていなかった。

「セキレイを見つけたのは俺だって言ったよね」
「うん」
「俺が望んで…彼が目の前に現れた。俺が…彼を呼んだのかもって、召喚してしてしまったのかもって…きっと力の使い方を間違えたのだと思う。俺はセキレイが欲しくてそれまでのセキレイの記憶を消して、俺だけの『セキレイ』にしたくて…彼をずっと繋ぎとめてしまった…」
「そんなこと…アーシュの考えすぎだろ?」
「俺はね、ベル。自分が何者かとか自分の親が誰なのかとか、割とどうでもいいって思いこんでいるんだよ。だって、それを知ったところで自分が変わるとは思えない。でもさ、もし…あの絵の『アスタロト』が僕の父親だって思ったら…ね。すごく嬉しかったの。ああ、自分にも親がいるのかもしれない。この姿も力も親から与えれたのかも知れないって…なんとも表現できないくらい胸が熱くなったんだ。だから…セキレイだって、両親を求めるのは当たり前だろ?もし、僕が勝手に彼を欲しがって、両親の元から引き離したのなら、僕の力で彼を帰さなきゃならない」
「ま、待ってくれ、アーシュ。それってどういう意味だよ。ルゥを帰すって…ルゥと別れるってことなのか?」
「この世界から離れるという意味ではそうなる。まだ彼の居た場所を探り当てていない。だけど『senso』の力でセキレイの居た場所、両親の居る次元を探し出して、彼を送り届ける。…俺にはその力がある」
「君は…その為に、ルゥを帰す為に、メルと寝たりしたのか?」
「愛する者の望む事を叶える努力くらい、恋人なら誰だってするはずだ」
「ルゥは…知っているのか?」
「いや、まだ記憶さえ取り戻していないんだ。親を探し出すって言ったって、見当もついてないんだから、言えないさ。それにどうせ反対されるに決まっている。あれはああ見えて、俺には天邪鬼なんだ。親に会いたいなんて絶対に言わないよ…僕の為に」
「…アーシュ」
「健気だって言ってよ。誰も僕を褒めてはくれないんだから…ベルぐらいは褒めてくれ。僕だって、セキレイを失いたくはない…」

 幼子のように身体を寄せるアーシュを強く、抱きしめた。
 アーシュの心底からの決意が、俺の魂(こころ)にシンクロした。

「アーシュ、何でも言ってくれ。君の為になら、どんなことだってやるよ。力になるよ。…大好きだよ、アーシュ」

 今、アーシュが一番欲しいものが、あの絵のアスタロトだとわかっていても、俺にはなれない。なら、出来うる限りのまっさらな愛情で、そして友情で、彼の痛みを癒したかった。




ルゥ幼い頃

「天使の楽園、悪魔の詩」 10へ /12へ

「Private Kingdom」 9へ11へ




お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

天使の楽園・悪魔の詩 10 - 2011.09.18 Sun

ベルq-1

10、
 スタンリー家でのアーシュ達との休暇が始まった。

 約束どおり、夜は三人でひとつのベッドにくっつきあって寝た。
 俺の部屋のベッドは三人で寝ても充分な大きさではあったが、何故かふたりに囲まれて真ん中に寝る羽目になった俺は、毎晩、中々寝付けなくて困った。
 俺の両側にふたりは寝ている。そのふたりの寝息を感じながら、なんとも形容しがたい空気を味わうことになる。つまり…
 両側のふたりは恋人同士で、俺達三人は親友同士で、俺はアーシュに恋をしていて、アーシュは何も知らない。ルゥは弟みたいにかわいいから傷つけたくないし、俺は俺で一人前の欲望はあるし…
 もう、どの感情を選択していいのか、ついにはわからなくなってしまう。
 それでも…
 右手と左手…重なり合ったふたりの温もりが愛おしくて、たまらないんだ。

 翌日は彼らを馬術に誘った。
 本物の馬も見たことがないと言う彼らは興味津々、おっかなびっくりで我が家の馬屋に並ぶ馬にブラシをかけている。
「まずスキンシップからだよ。馬に信用してもらわなきゃ、背中には乗せてもらえないからね」
「「わかった」」
 元気のいい返事だ。
 瞳をキラキラさせながらふたりは馬の世話を懸命に励む。そのおかげで三日後には二人揃ってひとりでも上手く乗馬できるようになった。
 
 エドワードも感心した様子で、ならばと彼の先導で、遠出を楽しむことになった。

「ふたりとも才能があるんだな。それだけ乗りこなせればもう立派な紳士だ」
 夏だけ使う小さなコテージで昼食を取る。
「ハイアルトだからかも知れないね。力を使わなくても、身に付いた感覚で動物の直感を瞬時に嗅ぎ分けられる。ふたりともホーリーならば、言わずもがなだ。おっと、失礼。クリスもホーリーだったね。魔王が三人も揃うとは、我が身の安全は保障されたも当然だ」
 エドワードはふたりが来てから、何だかいつもより饒舌になった。しかも機嫌がいい。
「魔王は善にも悪にも転びますよ。あなたを地獄に突き落とすかもしれない」
 皮肉屋のアーシュが、ホットコーヒーを差し出す。
「それはそれで面白そうじゃないか。アスタロトと一緒に地獄へ行けるのなら、この身が焦がれても恨むまい」
「うん、いつでも突き落としてやるよ。でもその前に…このハムサンドうま~い!」
 サンドイッチにかぶりついたアーシュが目を細めて感嘆する。
「モルネーソースが決めてなんだって。持たせてくれた執事が言ってたよ。こちらのローストビーフもお奨めするよ」
「やっぱり学園の食堂とは違って高貴な味わいだね。ベルと友達で僕らは得したね」
 ナイフで小さくカットしたローストビーフを口に入れたルゥがにっこりと笑いかける。
「そんなことないさ。俺の方こそ…君らとこんな風に過ごせるなんて、夢みたいだ」
「…クリストファー」
「え?なに?エドワード」
「良かったな。本物の友達に出会えて。貴族であっても、金があっても私には得られなかったものだ。ひどく残念だよ」
「今から作ればいいんじゃないの、エドワード」
「え?」
 ルゥの言葉に驚いたようにエドワードがルゥを見る。
「僕らが友達になるよ、エドワード。ねえ、アーシュ」
「は?ちょっと老けすぎてね?それにエドワードはすけべ爺だ」
「アーシュだって助平じゃないか。変わりゃしないよ」
「何だよ。まだ根に持っているの?まあ、セキレイがそう言うのなら…友達になってやってもいい。ローストビーフも美味いからね」
 ふたりの言葉にエドワードは「じゃあ、一緒にベッドに寝るか」などと軽口を叩きながらも、瞳が潤んでいるようだった。



 楽しい日々はあっと言う間に過ぎる。
 三人で学園に帰る日が明日になった。
 部屋で荷物を片付けている時、メイドが「奥方様がいらっしゃいました」と、やってきた。
 奥方様とは俺の母親であるナタリーの事だ。
 この屋敷で会うなんて珍しいことだと、階下の応接間へふたりを連れ、挨拶へ向かった。

 久しぶりに会う母親はいつものように美しく可憐で、少女めいた顔で俺を見る。
「あら、クリストファー。こんなところで会うなんて」
「クリスはいつも夏季休暇はここで過ごしているだろ?姉上はいつも忘れるのだからね」
「だって、興味が無いのだもの。でも、変ね。クリストファーってますますエドワードに似ているわ」
「それもいつも言っている台詞だよ、姉上」
「そうだったかしら?」
 アンティークの椅子に座り、品良く紅茶を頂く姿は、女優のようだと思う。
 一体この人に年齢などあるのだろうか。幼い頃とほとんど印象が変わらない。
 これだけかわいらしいのに、母親としての自覚も愛情も薄い。
 俺を親戚の子ぐらいしか思っていないのだろう。
 その彼女が俺の後ろにいるふたりに気づいた。

「あら、他に誰かいらっしゃるの?」
「あ、俺…僕の友人です」
「折角の夏季休暇だと思ってね、私が彼らを招いたのだよ。クリストファーが友達を連れてくるなんて素敵だろう。それに母親としても彼らに興味がないかい?」
「別に…」
 あまり関心のないナタリーに、ふたりが不機嫌にならないか心配だったが、ルゥとアーシュはそれぞれ、彼女に貴族的な丁寧な挨拶をした。
 
 彼女の目の前に立って膝を折り、自己紹介をする。
「ルゥと言います。ベ、じゃなかった。クリスにはいつもお世話になってます。スタンリー侯爵にも良くしていただいています…。あの、とてもお綺麗ですね。それに…いい匂いがする。こんな方がお母さんなんてベルが羨ましいなあ」
「どうも。あなたも素敵なプラチナブロンドね。私、好きよ」
「ありがとうございます」
 ルゥはおよそ人に嫌味を感じさせることのない笑顔で後ろに下がり、アーシュの背中を押した。

「あ、え~と、アーシュと言います。こんにちは~」
「…」
「ベルのお母さんですよね。ベルから聞かされたけど…凄く若くて綺麗で…え~と。僕、母親が居ないので羨ましいです。…あの、なにか?」
 ナタリーはアーシュの顔をじっと見つめている。
「あなた、アーシュっておっしゃるの?」
「はい、そうです」
「眼鏡を外してくださる」
「は?」
 アーシュは頭を捻りながらも、素直に彼女の言う事を聞いた。
 眼鏡を外したアーシュは、雰囲気が一変する。揺らぎがなくなるのだ。際立った美貌に凄みが増す。
 ナタリーは眼差しを背けず、アーシュを見つめ続けた。アーシュもまた目線を外さない。

「あなたは…アスタロト?」
「え?…いえ、ただのアーシュですよ。ただし、学長からもらったアスタロト・レヴィ・クレメントと言う『真の名』は持っていますが」
「私、あなたを観たことがあるわ。ねえ、エドワードは見覚えが無い?」
「え?…いや、アーシュとはこの屋敷で初めて出会っただけだ。手はつけてない」
「馬鹿ね、そういう意味じゃなくてよ。この子の顔、ああ、忘れるわけないわ。いつもおばあさまから聞かされた…そうだわ。エドワード、画廊に案内して」
 母は椅子から立ち上がって、真っ先に画廊に向かって歩き出した。
 俺達も勿論後に続いた。

 画廊には両サイドの壁に絵画がずらりと並べられている。どれも古くからスタンリー家にある逸材の絵画らしい。俺には絵の価値なんてわかるはずもないが。

「エドワード、奥の部屋を開けて」
 前もって鍵を用意していたエドワードが、画廊の壁の絵画を避け、その後ろにある鍵穴に鍵を差し込み、秘密の扉を開けた。
「すご~い、映画みたい」
 能天気なルゥの声が、張り詰めた空気を和ませた。
 俺でさえ入ったことは無い。
「我が家はニンジャ屋敷だって、言った奴がいる」
「ニンジャ?」
「キリハラ先生に聞いてごらん」
「キリハラもここに来たの?」
「まさか、この部屋には来ないよ。でも屋敷には招いたことがあるよ。恋人同士だったからね」
「や~らし~言い方」
「うらやましそうな言い方」
 ルゥとエドワードは言葉遊びを楽しんでいる。ふたりはこちらが妬くほどに仲が良い。

「ねえ、エドワード。あなたは学園ではユーリと呼ばれていたんでしょ?キリハラは何て呼ばれてたの?」
「カヲルだよ」
「まんまじゃん」
「そういう生徒もいる」
「フ~ン」
「君だってアーシュの他に名前は持たないだろ?」
「確かにそうだけど」
 二重になったカーテンを開け、淡い光が部屋の沢山の宝の山を映し出した。
 母は迷わず壁に作り付けの扉を開けた。
「これよ、これ」
 
 重厚な額縁に守られた古い油絵があった。
 40号ほどのさほど大きくない絵画だ。
 中央に女性か男性か見極められない美しい裸体が背中を向けて横たわり、優美な顔を向け、こちらを見つめている。長い艶やかな黒髪が背に、横たえたシーツに絹糸のように散らばっている。
 その顔をよく見ると…なるほど、アーシュに似ている。
 輪郭も、鼻梁も、形の良い口唇も、絶妙な配置で美しく映え、際立った美を描いている。

「ホントだ。アーシュに似てる。ね、このモデルは誰?」
 ルゥの素直さが羨ましい。
「これはもうずっと昔…そうね、二百年ほど前の作品よ。誰が描いたかはわからないけど、この絵にはタイトルがあるの。『レヴィ・アスタロト』。それがこのタイトルよ」
「へえ~、アーシュと同じ名前だね」
「アスタロトはどこにでもある神話の題材だ。別にこのモデルがアスタロト自身なわけではないでしょう」
 アーシュの声音がどことなく険しい。
 いや声だけでない。
 アーシュは眼鏡を外したままでいた。
 研ぎ澄まされたその優美な顔は、この絵のアスタロトそのもののように見えた。




アスタロト肖像画


天使の楽園、悪魔の詩 9へ /11へ




お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

天使の楽園、悪魔の詩 9 - 2011.09.14 Wed

ベルゼビュート窓2

9.
 夏季休暇もそろそろ終わる頃になって、やっとアーシュとルゥが、エドワードの屋敷に来る事になった。
 連絡をもらった俺は、一週間先の到着にも関わらず、あれこれと準備に勤しんでいた。
 その様子を見て、エドワードが笑う。
「クリストファーの浮き足立った恰好は初めて見るよ。そんなに大事な友人なのか?」
「大事な親友だよ」
「嘘付け。その親友とか言う奴らのひとりはおまえの恋する相手なんだろ?」
「…違う」
「鏡で顔を見てみろよ。恋する者を待ち焦がれて心待ちにしている顔でしかなかろうよ」
 わかっているなら、言うな。こっちはそれを言われただけで顔から火が出そうになる。

「まあ、楽しみにさせてもらおう。おまえに言う親友がどんなに美しいか…私より愛おしい男がどんな奴か、たっぷり拝ませて頂くよ」
「頼むから、エドワード。ふたりには手は出すなよ。まだ13にもならないんだからね」
「私も一応大人の貴族なのでね。身の程をわきまえているつもりだよ。もちろん向こうから頼まれたらその時はありがたく頂くがね」
「…」
 改心したと思っていたのは僅かな期間で、エドワードは相変わらず手癖が悪い。それでも昔に比べれば、随分マシなのだが。


 その日が来た。
 駅まで使いを出し、車が着いたのは夕方近くだった。
 俺は玄関先で車から降りるふたりを出迎えた。
 ふたりとも慣れない長旅に疲れた様子だったが、俺の顔を見ると、たちまち相好を崩して、俺に抱きついてくる。
「アーシュ、ルゥ、よく来てくれたね。待ち遠しかったよ」
「ベル~久しぶり~、会いたかった~」
「ベルが居ないとなんかつまんないんだよね。宿舎に居てもぽっかり穴が開いた感じ」
「それ、どーいう意味だよ、アーシュ。僕じゃ君の相手に不足ってわけ?」
「揚げ足取るな」
「おい、ここまで来てケンカはやめろよ。いいから家に入ってくれ。エドワードも待ってる」
「わ、実に楽しみだ。アーシュは叔父さんを殴るんだよね~」
「セキレイのこういうとこ、子供っぽくて嫌になるよね、ベル」
「…そういうところがふたりとも子供だろ。エドワードはああ見えても武道も極めているから、非力なアーシュの腕じゃ、平手打ちどころか…」
「逆にベッドに押し倒されるってわけ?」
「それ、本人の前で言ってくれる?責任負わないからさ」
「「はは」」

 相変わらずの三人であることに、俺は舞い上がっていた。
 貴族の儀礼に則って、礼儀正しく挨拶をこなしたエドワードだったが、影でこっそり「ベルの恋わずらいの相手は黒髪の方だろ?私は断然白金の方だね。見ろよ、あの従順そうな顔とマッチしたプラチナブロンド。一度味わいたいものだね」と、好色をひけらかす。
「…」
 始末に負えない輩ばかりだ。

「君達の部屋だけど…一緒がいいよね」
 ふたりを二階のゲストルームに案内する。
「先にベルの部屋を見たいな」
「え?」
「ね、いいでしょ?」
 ふたりに急かされた俺は、なんとなく嫌な予感のまま、自分の部屋に案内した。

「うわ、すげえ広いや」
「思ってた以上に凄い豪華だ。ベルってホントに貴族なんだね~」
「そうかな…」
「椅子もすげえ。黒檀のアンティークに金細工って、聖堂でしか見たことないもん。それに…ベッドも広いじゃん」
「そうね、三人寝ても充分過ぎるぐらい」
「と、いう事で、俺達の部屋ここでいいから」
「は?」
「ベルと一緒にこのベッドで三人で寝るのさ」
 さすがにそれはないと焦った。だってふたりにいちゃつかれた姿を見せられたら、いくら俺だって、我慢できるものか。
「ちょっと待ってくれよ。君達…その…恋人同士なんだろ?俺が一緒に居たら邪魔だろ?」
「大丈夫だよ。ベルの目の前でセキレイとセックスしたりはしないよ」
「当たり前だろ、ばかアーシュ。聞いてよ、ベル。アーシュったらさ、僕をほったらかしてメルと寝たんだよ」
「…そう、なんだ」
 やっぱりそうだったのか。あれは夢じゃなかったのか… 
 メルとセックスを試すとは事前にアーシュから言われていたから覚悟していたが、こうしていざルゥの口から聞くとズキズキと胸が痛んで仕方ない。

「それで翌日、何て言ったと思う?」
「…なに?」
 これ以上、この話は俺にはキツイのだが、ルゥの方がもっと辛いのだろうと、俺は不憫に思った。
「『メルとのセックスはめっちゃ良かった。セキレイとは快感が違う』ってさ。照れもなく僕に言うの。ひどくない?」
「…酷いね」
 さすがに俺もアーシュを睨みつけた。
 当の本人は自重する気など無いらしく知らんぷりと決め込んでいる模様。
「黙ってないで何か言ったらどうなのさ!」
「うるさいな。何回も言っただろ。あれは俺の反省だったの。セキレイをもっと気持ち良くさせてあげたいから、メルとして、勉強になったって言ってるんじゃないか」
「メルから学んだ性技で、僕を試すって、ホントにいやらしいんだから。どういう神経してるわけ?」
「そんなに意地悪言うのなら、他の奴で試すよ。それで君が後悔しても遅いんだからね、セキレイ」
「アーシュのバカ!」
 ルゥはベッドの枕をアーシュに向かって投げつける。
 アーシュは上手くキャッチして、呆れた顔を僕に見せる。

「メルと寝てから、セキレイはずっとご機嫌斜めなんだ」
「そりゃそうだろうね。恋人が他の奴に寝取られりゃ、誰だって怒るよ」
「だって…仕方ないじゃないか。どうしてもメルの力が必要なんだもの」
「『senso』の力がそんなに大事なの?アーシュは人を愛するって意味を判ってないんだよ」
 半泣き状態のルゥは、そう言うとベッドの毛布にうずくまってしまった。
 アーシュはそれを見て溜息を付き、カバンの中の服を出し、クローゼットに片付け始めた。勿論ルゥの分も。
 俺はその場に居づらくなって、「片づけが終わったら、食事だから」と、言って、部屋を後にした。

 ふたりが片付ける問題なんだから、第三者の俺が口出すことじゃない。
 だけどアーシュがあそこまで「senso」に固執する意味が俺には理解できない。
 ひょっとして、アーシュは本気でメルのことが好きなんじゃないのか?
 あの男の胡散臭さと考えると、信用する気にはならないけれど、もしアーシュが彼に「恋」をしているのなら、誰にも止めることはできないんじゃないのだろうか…


 ディナーはオートキュイジーヌで慣れないふたりはテーブルに並べられた銀食器にあたふたしていた。エドワードは「小さな貴賓客にはとっておきのワインを」と言い、上等なワインをふたりに薦めた。
 ふたりとも酒にはめっぽう強く、あっという間に高級ワインを空にした。
 それを見たエドワードは流石に「今時のガキはなんというか…」と、呆れて果てていた。

 食事が終わり、別室でへ移動して、デザートを楽しむうちにアーシュたちもエドワードへの気兼ねもなくなったらしい。表情が柔らいでいる。

「侯爵はうちの学園の卒業生とお伺いしましたが…」
「エドワードで結構だよ。アーシュ」
「では、エドワード。あなたはアルトだそうですね。『senso』はご存知ですよね」
「アルトである者が『senso』を知らなかったら、よほど力のない者か、コピーだろうね」
「じゃあ、お聞きします。あなたは『senso』をどうやって学びましたか?あの学園は魔法使いを受け入れる学校でありながら、魔法を教えたりはしない。勿論勝手に学ぶ事を禁止しているわけでもないから、興味のあるアルトは色々と独学で学びますけれど、個人で学習するには難しいんです」
「そうだね…私は中等科から編入したのだけれど、それまで力を使ったことはなかった。だからその存在が怖くもあった。それを教えてくれたのは…『倶楽部』だよ。秘密結社のようなものだね。力を間違った方向へ使わせない為に集まった組織だ。学校側もうすうすは知っていただろうが、何しろ結束が固いから、表に出ることはないんだよ。その組織のメンバーが私を誘ってくれたんだよ。今も学園にいるんじゃなのかな」
「え?生徒として?」
「まさか。先生だよ。確か司書をしている。…キリハラカヲルは私の愛人だった」
「マジで~!」
 素っ頓狂な声を出し、立ち上がったアーシュは持っていた紅茶を床に零してしまった。
 
「あちぃ!」
「アーシュ!」
「アーシュ!、大丈夫か!」
 俺は慌てて、ハンカチでアーシュの服を拭く。
「だ、大丈夫だよ、ベル。ゴメン。上等の絨毯に染みを作ってしまった」
「そんなの気にするな。それより…手が…赤くなってる。水で冷やした方がいいんじゃないか」
「大丈夫だよ。こんなの」
 痛みは隠せないのか、赤くなった右手をふうふうと息で冷やしている。
「アーシュ、痛いの?大丈夫?」
 ルゥが心配そうにアーシュを見つめている。

「どれ、見せてごらん」
 エドワードはアーシュの手を取り、赤くなった甲の皮膚に手の平を置いた。
 エドワードが目を瞑る。すぐに手の平から淡い光が漏れた。
「あたたかい…」
 アーシュが呟く。
 しばらくして光は消えた。
「これで痛みは引いたと思うけど」
 エドワードは覆っていた手を離した。
 アーシュの右手の甲の腫れは綺麗になくなっていた。
「凄い…エドワード。こんなことが出来るなんて…今まで言わなかったじゃないか」
 俺は初めて見たエドワードの力に驚いた。

「『イルミナティバビロン』。私はそこで『senso』を教えられたんだよ」
 ニコリと笑うエドワードに、さすがのアーシュもお礼を言うのも忘れ、見惚れていた。
 
 どっちへ転んでも、アーシュにとって俺への関心はエドワード以下らしい。

 


「天使の楽園、悪魔の詩」 8へ /10へ


13歳から進まねえ~(;´Д`)


お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

浄夜 5 - 2011.09.09 Fri

 メル裸


5、
 キリハラの話が真実なのか、ただの作り話なのか…すぐには判断できなった。
 もし…それが事実であり、魔王がアーシュだとしたら…
 僕はそれを「へえ~興味深いね」と、笑って鵜呑みに出来る気分には到底なれない。

「先生、教えてください。…召喚士とは学長を指すの?」
「…」
「そして…魔王とはアスタロト。そして産まれた赤子はアーシュ…そういうことなんですか?」
「学長から聞いた話だよ。それが真実かただの作り話なのかは、私に言えるわけもなかろう。私が見たわけではないのだから」
「だけど、そういう風にしか聞こえないし、捉えられないじゃないか。なぜ、そんな大事なことを僕に話したの?アーシュが魔王だなんて…」
 驚きの感情は段々と憤りに変わっていく。
 なんてことだ…
 知らない方が良かった。
 僕はもう引き下がれないほどに、アーシュに固執している。彼をものにしたいと思っている。それを今更、彼自身が魔王アスタロトなんて。
 そんなのをおいそれと抱けるわけが無い。

「あなたを恨むよ。こんなの、聞かなきゃ良かった…」
 ベッドから離れ、ガウンだけを羽織ったキリハラを、僕は思い切り恨んだ。
「知りたいと私に乞うたのは君だろう」
「酷いね。アーシュの目の前であれだけ焚きつけておいて。全部僕に責任を負わせる気なの?」
「責任か…」

 キリハラはガウンの前を留めないまま、ベッドの端へ座り込み、僕の頬を撫でた。
「悪かった。だが、君に乞われなくても、いつかはメルに話そうとは思っていたんだ」
「…どうして」
「私は、今までに何度も想像したよ。学長が…トゥエが目の当たりにした光景を。目の前に現れた魔王、アスタロトの事を。自分を育ててみろと言い残して、赤子になった魔王を、彼はどれだけ見つめていたのだろうと。生まれたばかりの非力な赤子に未来を託していいものなのか。希望と絶望を愛らしい両手に握り締めている存在。いや、人間の未来を魔者に委ねること自体、正しきことではない。未来の為には、この魔王である赤子の命をひと思いに奪ってしまった方が良いのではないか。そうすれば、ひとりの残虐な魔者を退治したという事実は残る。…トゥエはきっと悩んだと思うんだ。魔方陣の消えた床の上で、ただ泣き続ける赤子を腕に抱いた時、彼はその赤子の小ささに、温もりに泣かずにはおられなかったと言う。なにひとつ人間と変わらぬ無垢な者だったと。彼はとうとう決心をした。この赤子を自分の手で育てようと」
「…」
「アーシュを、魔王の子として育てることも可能だったろう。だがトゥエは学園の中の他の子供と同じように育てた。それはメル、一緒に暮してきた君が一番良く知っているはずだ」
「ええ」

 確かにアーシュが特別扱いされた記憶はない。彼が特別秀でていた者だとしても、彼の容姿からしたら当たり前の事だし、アーシュ自身、人として何かが違うと感じてはいない気がする。
「アーシュのことを知っている人は、どれくらいるの?」
「さあ、学長はお伽話としか言わないし、もしこの話を聞いてもアーシュの事だと感じる者は少ないだろうね」
「じゃあ、なぜあなたは今僕に、それを言うのさ。それを聞いた僕が今までどおりにアーシュと付き合えると思う?どんな顔をして彼の前に立てばいい。僕は…彼を抱きたいとさえ思っているのに」
「そうすればいい」
「無理だ」
「何故?」
「アーシュが魔王なら…恐ろしくて、立つものも立たないさ」
 僕は自嘲気味に笑った。
 本当にそうだと思った。事実今の僕には彼への欲情なんか畏れ多くて微塵も沸いて来ない。

「トゥエがお伽話にしてまで、この事実を話したかったのは自分ひとりで抱え込むには重大だし、恐ろしかったからなのかもしれないね。そして私もアーシュに誘われても、彼を抱く勇気は無い。だけど君は違う。メルキゼテク。水先案内人だろ?アーシュは、彼は一人の人間としてこれまで育ってきた。彼を取り巻く様々なものが彼を育てている。そのひとりとして君の力が必要だと思っている」
「…それはトゥエが?」
 キリハラは黙って頷いた。

 そうか…トゥエがキリハラに語ったことも、キリハラが僕に話したこともすべて、トゥエの計算なんだ。自分の願いを叶える魔王を育てることが彼の目的なのだろう。
 それを叶える為に配置されたコマが僕なのか…いや、僕だけじゃない。

「ルゥとベル…ホーリーたち。彼らもアーシュの為に選ばれた者なんだね」
「トゥエだってすべての未来が見えるわけでもない。アーシュだけにこの世界を背負わせる気でもないよ。彼を一人の人間として育てると決めた日から、トゥエはアーシュを自分の子供だと思って接している。また魔王として生きてきた過去の記憶はアーシュには期待できない。潜在能力は未知数だが、魔王の育ち方を知らないんだから、どこでどう発動されるかわからないんだ」
「アーシュに言えばいい。『君は魔王アスタロトそのものだ』って」
「…君がそうしたいのなら、そうすればいい。誰にも本人に言うなとは言っていない。お伽話をしているだけだからね」
「…ずるいね」
「大人だからね。だけど君たちは違う。青春という季節は何が起こってもファンタステックでセンシティブなエロティックなものだ。君の悩む顔を見ていたいと望むのも、大人の醜さと思ってくれ」

 その後、卑怯者と散々罵ったが、キリハラは僕の口唇を力でねじ伏せ、嫌だというのに僕を犯した。
 大人なんてロクな奴らじゃない。特に知識人って奴は。




 三日後の深夜、そろそろ寝ようかと自室の灯りを消しベッドにもぐりこもうとした時、ベランダからゴトンと音が聞こえた。急いで駆け寄ってみると、パジャマ姿のアーシュが立っていた。
「こんばんわ、メル」
「アーシュ…ここは二階なのにどうやって?」
「ちょうどいい具合に椋木があるだろ?それをよじ登って…あとは勢いをつけてベランダに飛び込んだ」

 彼に近づき、くせっ毛に絡みついた葉っぱを、僕は指先で取ってやる。その指が少しだけ震えていることにふと気づいた。
 アーシュが僕のところまで来てくれたことに感動した僕の指先が勝手に震えているらしかったのだ。僕は自分の様におかしくて、そして自分にもこんな感情もあるのかと、口元が変な風に歪んでしまう。

「ルゥは?いいの?」
 平常心を保とうと、話の矛先を変えてみる。
「ああ、ぐっすり寝ているよ。いつもは俺の方が寝つきはいいんだけど、今日は体育の授業はマラソンでさ。15キロを走らされたんだ。だからセキレイはベッドに入った途端に寝てしまった。体力なら俺の方があるんだ」
「そう、じゃあ、今夜は君を独り占めしてもいいんだね」
「ん?…そういうことになるかもね」
 そう言って、少し顔を伏せて照れるアーシュがどうにもこうにも愛おしくてたまらない。
 彼が魔王だって?破壊神だって?
 目の前に立つ少年はまだ未発達の純情な少年でしかない。

「部屋に入ろうか」
「うん、あ、待って。お土産がある」
 彼はポケットに手を入れ、そこからそっと手を引き出し、僕の目の前でゆっくりと手の平を見せた。
 手の平の中で、淡く青白い光がゆっくりと瞬く。
「ホタル…かい?」
「そう、ここに来る途中の森に綺麗な小川があるでしょう?あそこで掴まえたの。人の手に捕らえられるんてドジなホタルだ」
 魔王に捕らえられるのなら、そのホタルも誇りに思うだろう…と、一瞬思ったけれど、アーシュには自分が何者なのかって、本当はどうでもいいことなんじゃないだろうか…そんな風にも感じてしまった。
 勿論これは僕の思いであって、彼が何を望んでいるかは知ることはできない。

「あ、飛んだ」
 アーシュの手の平から飛び立ったホタルは揺れながら森へと帰っていく。
「あんなに些細な生き物でも自分の帰る家を知っているなんてさ、本能ってのは記憶になくても身体に沁み込んでいるものなんだね」
「…そう、だね。さあ、ベッドに行こうよ、アーシュ。君を思い切り可愛がりたい」
「うん」
 眼鏡の奥の黒いまなこがホタルのように淡く光る。
 僕は彼の手を取って、部屋に導いた。
 彼の服を丁寧に脱がせ、彼の眼鏡を外し、彼の身体をベッドに押し付けた。
 サイドテーブルの仄かな灯りで、彼の身体のひとつひとつを確かめる。
 スキャンスコープは僕の力のひとつだった。
 驚くべきことに、アーシュにはたったひとつの黒子(ほくろ)も雀斑(そばかす)も傷痕(スティグマ)も見当たらなかった。
 黒子や雀斑はともかく、心に傷のない人間なんて居ない。
 彼は間違いなく魔王であろう。

「どうしたの?メル」
「いや…綺麗な身体だなって思ってね」
「そうかな?他人と比べた事がないから、俺にはわからないや」

 彼に出生の秘密を打ち明けたとして、僕に何のメリットがある。
 このカードはまだ見せない方が利口だ。
 彼を僕のものにしておく為に、彼にはまだ、ただの人間で居てもらおう。

 その夜、僕はアーシュを頭の先から足のつま先まで思う存分味わった。
 彼の身体は言わずもがな、すばらしい味わいだった。


 
メルとアーシュ


「浄夜」 4へ6へ

「天使の楽園、悪魔の詩」 9へ


お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村





浄夜 4 - 2011.09.05 Mon

メルキゼデク

4、
 アーシュは迷う事無く、キリハラ先生を目指して突撃した。
 カウンターの内側の自前の机の上で、いつものように古本を補修しているキリハラの姿が見えた。
 アーシュは、手に持った本をわざと音が出るように、乱暴にカウンターの上に置いた。
「すみません。返却期限に一日遅れました」
「…これからは遅れないように」
 顔を向けたキリハラはアーシュを一瞥して、また自分の手元へ目線を移す。

「こちらを向いて欲しいんですが、キリハラ先生」
 そう言われたキリハラは黙って回転椅子を回して身体と顔をアーシュ側へ向けた。
「先生。僕とセックスして欲しい」
 さすがの僕も一瞬辺りを見回した。
 普段でも静かな館内であり、休暇中の今、いつも以上に人気はないのだから気にはしなくても良かったのだろうが。

「折角の申し出だけど、君とは出来ません」
「何故?あなたは頼まれたらどんな生徒でも相手にしてくれるって聞きましたよ。そりゃ最後までしたかどうかは知らないけれど。けどあなたを悪く言う生徒なんか居ないんだから、上手いんでしょ?どうして僕では駄目なんですか?怖いから?どうして僕が怖いの?理由を聞かせてよ」
 畳み掛けるアーシュに気押されたのかキリハラはポカンとアーシュを眺めていた。
 しばらくして我に返ったキリハラが困った顔を見せ始めた。

「…学長に念を押されているんだよ、アーシュ。君とは寝ないようにってね」
「…は?」
 予想もしなかったキリハラの言葉に僕も、呆気に取られた。
 学長自ら、命令するなんて…その意味は、キリハラが大事なのか、アーシュが大事なのか… 
 悩むところだ。

「そんなの…トゥエにわからないようにすればいいじゃない。秘密の場所はいくらだってある。僕はあなたとの『senso』を確かめたい。これって行為の正当な理屈ですよね」
 腕組みをして考えている僕とは違い、アーシュはまだ諦めないらしい。
「私は、この学園で働いているサラリーマンなんですよ。学長のひと言で私の職などどうにでもなる。不況の折、折角の居心地良い職場を失いたくはないんです。わかりますよね」
「だったらトゥエに頼んでみる。あなたと寝る事を了承してもらう」
「…アーシュ、そこまで私に拘る必要はない。君の欲しいものは、ほら、傍らにいるメルが持っているじゃないか。彼は私の良い愛人だよ。できうる『senso』は彼に与えた」
 キリハラは僕を指差し、アーシュに僕を選ぶように指示をする。しかし黙って聞く奴でもあるまい。
 その証拠にアーシュは納得できない顔でキリハラを睨んでいる。
「メルでは良くて、なんで俺じゃ駄目なんだ。メルに『senso』を教えたなら、俺にだって教えろよ、ケチ」
「じゃあ、言わせて貰うが…私にだって選ぶ権利ぐらいある。君はまだまだ子供だよ。もう少し大人になってからなら考えてやってもいい」
「…」
 辺りに響くぐらいにアーシュの歯軋りがぎりぎりと鳴る。

「それより、アーシュ君。君は本の使い方が荒い。もっと丁寧に読んでくれなきゃ、困ります。補修も大変なんだ」
「あなたの仕事が無くならない様にしてやってるだけだろ。ありがたく思えよ。いくじなし!」
 捨て台詞を吐いて、アーシュは図書館から出て行く。
 後に残った僕とキリハラはアーシュを見送り、その背中が消えると揃ってホッと息を吐いた。

「竜巻みたいな子だ」
「だからいいんじゃない。それより…さっきの話は本当なの?」
「何がだい?」
「学長の…」
「ああ」
「どちらに対しての牽制?」
「勿論アーシュだ。この世でトゥエが一番大事なのは…彼なのだから」
「…」
「言っとくが、性的な意味ではないよ」
「そりゃそうだろう」
「私と学長には当てはまらないが…」
「どういうこと?」
「心を覗いてみたら、メル。それより、ね、したくないかい?今日は控え室でやろうか。誰も居ないしね」
「うん」
 いまいち納得できる回答が得られないまま、僕はカウンターの中へ入り、控え室への扉を開けた。


 服を脱いで簡易ベッドに寝転がる。すぐにキリハラが僕の身体に乗ってくる。
 いつもよりも彼の欲情が強いことに気がついた。
 その原因は僕ではなく、アーシュではないのだろうかとも… 
 彼はすぐに僕の口唇を奪い、幾分乱暴に身体を愛撫した後、繋がらせた。
 酷くさせられるのが嫌いじゃない性質の僕は、こういうキリハラも悪くないと思いながら、楽しんだ。
 そのセックスに「senso」は要求しなかった。ただ欲望に身を任せることこそ、ピュアなセックスだとも言えるだろう。
 終わった後、キリハラは少しだけ決まりの悪い顔を見せた。
 冷静さを失わない彼を打ち崩した本人を恨んだに違いない。
 僕はそういうキリハラにイジワルをしたくなった。

「ね、先生」
「なに?」
 キリハラの腕枕に頭を乗せ、キリハラの黒髪と僕のアッシュの髪を絡ませる。その色合いを楽しむのが好きだ。
「あなたは本当にアーシュを抱きたくないの?子供だからって言ったけれど、彼は充分すぎるぐらいに妖艶だし、すでにルゥと交わっている。彼を避ける言い訳にしか聞こえないけどね」
「なんだい。妬いているんじゃなかったのかい?メルは」
「そうだけど…学長が絡むなんて…思わなかったから」
「勿論…アーシュは魅力的だし、彼に欲情したのは認めるよ。だが、あれは私が手を出すべきものではないんだよ」
「その意味を教えてくれる」
「どうしても知りたい?」
「勿論誰にも言わないし、あなたを裏切ることは絶対にしないと誓うよ」
 僕は胸で両手を重ね合わせ、そして祈った。

「ある人の枕話に聞いた作り話だ。そう思って聞きなさい」
 キリハラはひとつ溜息を付き、目を閉じながら話し始めた。



 昔、力のある召喚士がこの世の乱れを嘆き、粛清する力を持った魔者を呼び出そうと毎日食も取らず、寝ることも惜しみ、召喚を続けた。
 何日もかけて複雑な魔法陣を黄玉の張り巡らされた床に描き、一心不乱に詠唱を唱えながら、来る者を待ち続けた。
 そしてとうとうひとりの魔者を呼び出すことに成功した。
 彼は稀に見る美貌であり、知らぬものは誰一人として居ないほど高名で、魔者の中でも最高位の力を持っていた。 
 だが彼は気まぐれでもあった。(魔者のほとんどが些細なことで意思を変えることは良くある)
 召喚士は自分の命と引き換えに、この世が整然と美しく、また人々が豊かに暮せる未来を示して欲しいと、その魔者に願った。
 魔者は頭を捻った。
 平和や美しい未来など、今まで願われた事はなかった。皆、自分の名声や権力、金、不死、つまりはエゴしか求めなかったからだ。
 変わり者の魔者はこの変わり者の召喚士を気に入った。
 彼は召喚士にこう言った。
「おまえの望みは変わっている。平和な未来とはなんだ?今までの歴史に平和であったことがあるのか?一見平和に見えても、その実人間は平和など求めてはおらぬではないか。人間の、いや生きる者の宿命として、戦いやそれに伴うエゴは決してなくなる事はない。またそれが生きる者の本性ではないのか?」
「私が平和や安静を求めるのもエゴではありましょう。ただ、この世界に魔法使いとそうでない者がいることが、近い未来の争いの種となることは必定。それを除きたいと願ってはいけませんか?魔力は争いに使うものではなく、愛を奏でるものでなければならない」
「お前達の言う『senso』の世界を貪りつくしたいというわけか。この世のあらゆるものを欲するよりも最も傲慢な願いだ。だが…それがおまえの本性であるのなら、私も無碍にはしない。私こそが変わり者であるが故、おまえに委ねてみよう」
「それでは、願いを聞き入れてくださいますか?」
「そうだな…」
 魔者はニタリと恐るべき笑みを漏らした。
 召喚士はこの魔者を呼んだことを後悔し始めていた。魔者の震える程の美貌からは、同情すら見当たらない気がしたからだ。
 魔者は魔方陣の中で、炎をチラつかせ、優雅に歩きながらもったいぶるフリを見せた。

「ああ、面白い趣向を考えた」
 立ち止まった魔者は独り言のように呟いた。
「なんでしょう」
 跪いたままの召喚士は、魔者の次の言葉を待った。できるだけ不運が少ないようにと願いながら。

「私は私を無垢の姿で生まれさせよう。魔が何かも知らぬ生まれたばかりの赤子の私をおまえが育ててみるがいい。上手く育てられれば、私はおまえの願いを叶えることができるだろう。で、なければ、私はおまえを…この世界を、破壊してしまうだろうね。この本性であるが故に」
「そんな…私があなたを育てる?…私が?無理だ。魔王を育てるなど、できるはずもない」
「想像しただけでも面白いではないか。赤子の私はさぞや美しかろうな。魔に魅入られるほどに…上手く育てろよ。おまえの望みが叶う様に…」
「待ってくれ…」
 召喚士の言葉が終わらぬうちの魔方陣は炎に包まれた。
 そして次第に炎は小さくなり、魔方陣の光は消え去った。
 後に残ったものは生まれたばかりの光り輝く美しい赤子だけだった。



アズュラーン2




もうちょっと頑張って週二回更新にしたいんですが…そうしないと話が終わらないのです(;´Д`)

ここでアーシュの出生を書くのは早いと思いつつ、多分、これが正解だと思って書いた。メルには知って欲しかったので。



浄夜 3へ /5へ



お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

浄夜 3 - 2011.09.01 Thu

kirihara.jpg

3、
 キリハラカヲルとのセックスはいつでも刺激的で充分な満足感を得られるから好きだ。
 彼は僕の初めての相手だった。
 初等科の頃から気になっていたんだ。
 淡黄白の肌に亜人の風貌とノスタルジックな空気を纏う彼は、「天の王」の住人の大方を占める僕達コーカソイドとは存在感が違っていた。
 彼は教師の中でも高位のハイアルトであった。僕にとっては好都合。
 彼に指南役を務めてもらうことが僕の願いでもある。
 中等科になって図書館に通えるようになってからは日参し、キリハラに興味を持ってもらうように努力した。
 僕からお願いして抱いてもらったのは一年の冬だった。

 キリハラは生徒を相手にすることを躊躇しない。
 誰でもいいとは言わないが、魔力への興味がある生徒には男にも女にも比較的寛大に条件を飲む。
 キリハラには自国に奥さんも子供も居るが、もう会うことは無いらしい。何故なら、この「天の王」で残りの生涯を終えることを決めているからだと言う。
 三十過ぎの男にしては悟りすぎだろうと責めてみたら、「奥さんに愛想を尽かされたんだ。私があまりにペシミストだったからね。ここへ着てからはそういう感覚も薄くなりつつある。若者の情熱の前ではこちらのつまらない悲しみなんて焼かれて灰になるしかない。それが繰り返されれば悲しむ暇も無いからね」
「じゃあ、先生は今は幸せなの?」
「そうだね。君みたいな綺麗な子を抱いているのだから、不幸とは言えまい」
 
「ああ…すごくいい」
 キリハラカヲルは僕を天まで昇らせてくれる。そしてワープ。異なる世界へ行く。
 「senso」の力は行く距離を選ばない。だが好きな場所へ飛べるかと言うとまだ無理だ。
 官能と感情は違う。バランスを取るのは難しい。
 抑制と恍惚感をグルグルと巡り、辿り着くのは思い出の場所が多い。

 緑色のトレーラーハウスが僕の家だった。
 一定の場所を決めずに次元を渡り歩いた。僕らはそういう種族だった。
 近くに静かな湖畔がある。
 僕が両親と最後の夏を過ごした場所だ。

 キリハラから身体を離してその家に近づいてみる。
「確かにここは僕と両親が住んでいたトレーラーだ。だがどうやってここへ来た?生まれた場所はここじゃない。どこを旅したのだろう…それを思い出せないんだ」
「記憶で辿るものじゃない。君に起こったことは記憶ではなく、時刻にある。知りたければ時間を遡ればいい」
「…それを知ってどうするの?僕は『天の王』に預けられた。両親が旅を続けるのに僕が邪魔だったからだ」
「両親の気持ちを知りたいのなら、本人達に聞けばいい」
「聞いたところで過去が変わるわけではない。それに…僕はもうとっくの昔に諦めてる。親を恨んだりすることを」
「メルの悪いところはペシミストになりがちな性格だね。この学園に預けてくれた両親に感謝をしたらいいんだよ」
「…それをあなたが言うの?」
「今の私はオプチミストだよ。だからこうやって生徒たちとの情事を楽しんでいる」
 僕を包んでくれる暖かい腕が、今の僕の欲しかったものだとわかる。


 
「アーシュから誘われたんだがね」
 書庫でのいつもの情事の後、着物を整えながらキリハラ先生が呟いた。
「え?アーシュが?」
 僕としては不本意。だってアーシュに粉をかけたのは僕が先だ。
「そう。『senso』を体現したいから抱いて欲しいって。率直すぎて笑ったんだが」
「それで?」
 美人好きのキリハラだからこちらも気が気じゃない。
「勿論断ったよ。あんなの…怖いじゃないか」
「怖い?…」
「その怖さに気づかないところが若さゆえだね。それに、横取りしてメルに憎まれたくないからね」
「良くわかってますね」
「あの子に必要な『senso』は君の方だ」
「…」
 闇の様な黒いまなこですべてを見透かされてしまう。

「僕は彼を導くことができる?」
「君の努力次第だよ、メル」
 耳元で囁き、キリハラは書庫を後にする。

 ねえ、僕らは何に導かれているんだろうね…



「メル、俺ね、セキレイとしちゃったんだけど」
 中等科を卒業し、夏季休暇が始まっていた。
 殆どの学生は帰省するが、僕らは帰る家が無いから寄宿舎に居残り組みだ。
 高等科の寄宿舎への引っ越しも終えた僕は、図書館へ向かっていたところだった。
 その途中でアーシュに会ったのだ。
「そう良かったじゃないか。上手くいって」
「そうだけどさ…ほら、前に言ってたじゃない。セキレイとしたら色々教えてくれるって。覚えてる?」
「…」
 なんだ?そっちから誘ってくれるのか?
 …いや待てよ。美味しい話には毒があるって言うじゃないか。それにこいつは僕よりも先にキリハラを誘っている。
 キリハラにフラれたからってこちらがホイホイありがたがるなんて思われるのも癪にさわる気がする。

「僕でいいの?僕が君に教えられるのは多くないかも知れないよ」
「…?」
 アーシュは立ち止まって首を傾げる。その様がなんともかわいらしい。…計算だろうが。
「なに?」
 とうとうこっちも立ち止まって、問いかける。
「メルはもう俺を欲しがっていないのか?俺とセックスしたいと思わないの?」
「…」
 その表情。
 照れなんぞ一欠けらも見当たらない。
 ああ、降参だよ、アーシュ。
 思わず笑い声を上げた。

「したいに決まってるよ、アーシュ。僕はキリハラ先生に嫉妬したのさ。君が彼を誘ったと聞いたからね」
「だってキリハラカヲルはあなたを夢中にさせているのだから、きっと上手いハズでしょ?」
「それは保証するけれど…彼は君が怖いんだって」
「へえ~」
 ニヤリと笑うアーシュにゾッとしながらも見惚れていた。
 僕の中で欲情が渦巻く。

「…そりゃ益々興味深々だなあ」
 そう言って、急ぎ足で僕の横を追い越して図書館の玄関へ向かうアーシュの後を慌てて追いかけた。

 僕は完全にアーシュに参ってしまっていた。
 キリハラ先生になんぞ、君を渡してなるものか。
 キリハラなんかよりも、ずっと君を満足させてやる。
 きっとだ。




ashseifuku3.jpg


「浄夜」 2へ /4へ


お知らせ
イラストブログ「private kingdom」を始めました。
良かったらどうぞ~(*´∀`*)



お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

NEW ENTRY «  | BLOG TOP |  » OLD ENTRY

プロフィール

サイアート

Author:サイアート
イラストと駄文を更新しております。

少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

ゆっくりしていってね~

サイズを記憶するフォントサイズ変更ボタン

文字を大きくする 文字を規定のサイズに戻す 文字を小さくする

ツリーカテゴリー

Script by Lc-Factory
(詳細:Lc-Factory/雑記)

最新記事

FC2カウンター

リンク

このブログをリンクに追加する