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2011-10

浄夜 6 - 2011.10.28 Fri

メルアーシュ56

6、
 震える身体を優しく撫でた。
 アーシュは敏感に反応する。それがたまらなくて、一層刺激を与える。
 アーシュの吐息と喘ぐ声。それを自分の指を噛んで、必死で押し殺そうとする。
「我慢しないで。全部僕に見せて欲しい。ずっと…君を見つめ続けた僕に、欲しがっていた僕に、今夜は委ねて欲しいんだ。アーシュ」
「メル…」
「全部あげる。君が欲しいものは、全部あげるから…今夜だけ、僕の好きにさせてくれる?」
 アーシュは涙ぐみながら、コクリと頷いた。

 その晩はもちろん「senso」どころじゃなかった。
 僕は完全にアーシュの身体に溺れたのだ。
 眠りにおちたアーシュの身体に触れながら、彼の寝顔を見る至福の時を惜しんだ。
 「愛」がこのように満ち足りたものならば、僕が今まで愛してきた(少なくともそう思っていた)人たちへの想いがどんなに他愛のない感情だったのか、思い知らされた。
 彼が魔王であろうとなかろうと、僕は彼を愛したいと願う。この想いだけは真実であり続けたい。
 彼が誰を愛していてもだ。
 僕のことを忘れ去っても、僕の愛は君の身体に残る。
 これが僕に出来る最高の「senso」だ。


 夏の終わり、アーシュは「学長から本物の夏季休暇をもらったよ」と、嬉しそうに報告する。
 ルゥと一緒にベルの屋敷へしばらく遊びに行くそうだ。
 ベルはこの街を誇る貿易会社の一人息子であり、また彼の母親は侯爵家の出だと言う。将来彼は侯爵家の跡取りであり、大企業の社長の座も保証されている身分だ。
 ここまでくると羨ましいどころが彼の肩にかかる重圧を哀れんでやりたい気がするが、本人を眺めるや否や、哀れみなんざ一分も起きないほどの完璧な男で(まだ14しかならないのに)地獄に堕ちろと呪いたくなる。
 しかも彼はホーリーだ。
 こうもたったひとりの人間に天が徳を与えているのかと、恨めしい気もするが、何より気に入らないのはアーシュが彼を慕っていることだ。
 それも肉体関係は結ばずにだ…こんな奇跡があろうか。
 抗えぬ美の結晶、憂い、傲慢、熱情、繊細さを掻き集めた人ならざる者、アーシュを目の前に、欲望を持たぬ者がいるのか?
 あの欲物的な顔をした男が友情だけで満足するというのか?…僕にはとても信じられない。
 いつかあの男は僕からアーシュを奪い取るかもしれない…

 己の気持ちを明かす事も出来ず、喜色満面を湛えるアーシュに「楽しんでおいで」と、言うのが精一杯だった。


 夏季休暇はほとんどの学生達は帰省する。
 残るのは帰る家を持たない数人の生徒と日直の先生ぐらいだ。
 ここ数日、アーシュと戯れた日々が充実していたから、名残りを慕って自分で慰めるしかなかった僕は寂しくて仕方ない。
 図書館で時間を潰したり、キリハラに相手をしてもらったりしても、なんだかすっきりしない。
 アーシュは今頃どうしているのだろうとか、ルゥはともかく、ベルと深い仲になっていたりしないだろうかと気を揉んだり。無駄な思考回路へ陥っていく。
 そして、これが恋のラビリンスだと、自戒する。

 イシュハの時だって散々悩んで、彼を困らせた。
 自分の欲望にどうしても歯止めが効かなくて、当惑する彼に強(あなが)ち頼み込んだのだ。利口なイシュハはバランスを僕に授けた。
 僕は彼の虜にならなくて済んだ。

 キリハラはイルトへの傾倒をアルトの性分だと諭す。誰彼でも良いわけではなく、想いの通じるイルトへ傾倒するのは仕方のないことだと言う。
「感情とは脆いものだ。舞い上がる様は竜のごとく天に昇る。誰にも止めることはできまい?堕ちる時のその速さと来たら…助けようにも差し出す手を見ようともしない。そして後からこう言うんだ。『あの時は必死だった』って」
「イルトも同じなのかしら?」
「アルトには『不完全な者』と、言う意味が含まれている。イルトもまた『愚か者』と言う意味に捉えられることがある。どちらにしろ、天は飽きない地上を与えられたのかもしれないね」
 僕の髪を優しく掬うキリハラは、絶妙なバランスで僕を扱う。
 だから僕はキリハラに溺れることはない。


 夏季休暇も終わる頃、少しづつ生徒達も寄宿舎に戻り始めた。
 僕は新学期から高等科の一年生だ。
 引っ越した部屋にも新しい制服にも慣れ始めていた。
 アーシュはまだ戻らないらしい。まだ何も連絡は無い。

 そろそろイシュハが戻る頃だろうかと、僕は彼の部屋へ向かった。
 昼食を終えたばかりの昼下がりの喧騒がガラス窓から、聞こえていた。
 ドアをノックしても返事は無い。
 まだ、帰っていないのだ。仕方が無い。夕方また来てみよう。
 そう思って踵を返したところへ、数人の影が見えた。
 三階の三年生の部屋が続く渡り廊下だ。僕の知らない生徒達だろう。
 何気なく正面を見た。
 やはり知らぬ顔…いや、ひとりはジョシュアだった。
 
 ジョシュアはイシュハの又従弟(はとこ)だ。それだけではなく、幼い頃からふたりは一緒にイシュハの家で暮したのだとイシュハから聞かされた。
 イシュハは時折、彼の事を僕に話したがった。誰にも打ち明けられるものではないと、少し伏せ目がちな目が寂しそうだった。
 イシュハのジョシュアに対する感情は親愛と友情だった。
 僕はそれを疑ったりしなかった。
 だから彼に対して、丁寧に頭を下げた。
 …本当は彼は苦手だった。
 彼の僕への嫌悪感は剥き出しだったし、これまでも挨拶をしてもほとんど無視されていた。だが、それはジョシュアだけではない。
 保育所上がりでアルトでホーリー。この存在はイルトにとって決して気持ちいいものではない。
 彼らは僕らの力を恐れるのだ。それと同時に見下してもいる。
 だから僕らは彼らに無害な者だ、そして良き友人だと、わかってもらわなければならない…と、教えられた。
 僕らはそれに百パーセント同意する気持ちはない。
 彼らが馬鹿にするのも下らない自尊心からだと知っている。だから、僕らは左拳に力を込めながら、右手を差し出す。
 決して彼らを侮ってはいけない…

 三人との距離が縮まる。僕は出来るだけ無関心を装った。
「あれ?おまえ、確か…イシュハの女だったよな」
 オレンジ色の髪と同じように明るい顔立ちの男子だった。同学年に覚えがないから、二年か、三年なのだろう。
「ダンナはまだお帰りじゃないのか?」
 僕は黙ったまま彼らの横を通り過ぎようとする。
「おい、新米、先輩に挨拶ぐらいしろよ」
 金髪の洒落た男はオレンジの子より、頭ひとつ背が高い。そいつが俺の行く道をふさいだ。こういう嫌がらせなら、何度も経験があるから、どうってことはない。
 
「イシュハは新学期ぎりぎりにならないと帰ってこないぜ。親孝行があれの趣味だからな」
 煙草の煙を吐きながら、ジョシュアは僕を見た。
 多分、目を合わせるのはこれが初めてだろう。
 横にいる金髪の男よりも幾分背が高い。イシュハと同じぐらいだろうか。だが、イシュハとは外見も中身も似つかない。

 狡猾で残忍な匂いがするクセに、ある瞬間優美な仕草をする。無造作に跳ねた鉄錆色の髪も彼の指がかき上げる度に、繊細な美に感じる。
 ジョシュアに見つめられた僕は落ち着かない胸のざわめきに自分が恐ろしくなった。

 好きでもなく嫌いでもないのなら、無視すればいいのだが、彼の存在がこの瞬間、僕自身を彼の虜にしたと言って良かった。
「イシュハが恋しくてならない?ひと月以上も味わっていなきゃ身体も疼くだろうよ。…イシュハの代わりに俺達が遊んでやろうか…」
 僕の肩に手を置いたジョシュアの低い声が耳元で響く。
 その指から床に捨てられた煙草がジョシュアの足で踏みつけられるのを、じっと見つめた。
 僕は立ち止まったまま、その場を動けなかった。

 その日の夕食まで、僕はジョシュアの部屋に居た。
 僕は三人にレイプされたのだ。しかし、こちらにさほど抵抗する気力がなかったと言えば、これは強要されたとは言いがたい行為だった。
 確かに僕はそれを望んだのだ。

 僕をベッドに置いたまま、彼らは夕食を取る為、部屋を出て行った。

 僕は痛めつけられた身体をさすりながら、ぼんやりと考えた。
 傷は至る所に目に入った。愛がある行為ではなかった証拠だ。だが、それをひとつも拒めない自分が不快に思えて仕方が無かった。
 服を着て、重い身体を引きずり自分の部屋へ帰った。
 食事も取らず、灯りも付けず、さっきまでの数時間の行為をなぞった。

 僕自身、これまで色んな奴とセックスをしてきた。それは僕が望んで事であり、好奇心であり快楽であり、愛であった。
 だが自分が求めもしないのに、逆らえないなんて…無理矢理イカされて感じるなんて…

 身体を弄ばれた憤りより、「嫌」と言えなかった自分が情けなかった。
 アルトは意思力の強いイルトに逆らえない。
 絶対に抗えない摂理があると言うのだろうか。その意味するものは何なのだろう。

 知らぬ間に涙が零れていた。
「たかがセックスだ。大した話じゃない。傷つくことは無い。…傷ついたりするものか…」
 僕は泣きながら、何度も何度も自分に言い聞かせていた。






アルト…魔力を持つ者。
イルト…魔力を持たない者。
アルトはイルトには無い魔力を持つが、イルトへの危害を加える意思が抑制される。その謎は未だ解明されていない。



メル涙




ねえ、あなた知ってる?あのサボリのサイアートさんが今週はみっつもテキストを更新なさったってよ~
それは珍しいわねえ~。きっと昼から雨が降るかも知れないわ。急いで自宅に帰って、洗濯物取り込まなくちゃ
まったくねえ~変わったことをしてもらっては、近所迷惑だわ~

と、言う噂話が闊歩した今週であった。
後の「季節変わりの天変地異伝説」で、ある…(;´Д`)




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Private Kingdom 17 - 2011.10.26 Wed

あれ

17、
 セキレイとベルのおかげで、「イルミナティ・バビロン」のメンバーがわかった。
 三年のジョシュア、ラファ、アーサー、リオ(女子)の四人はイルト。二年のネイト、ハルファス、マリオン(女子)は三人はアルトだ。
 偶然だろうか、イルトがアルトを支配している構図がはっきりと見える。
 メルを襲った奴は、ジョシュアの他、アーサーとネイトと聞く。
 このふたりはジョシュアとの関係は言うまでもなく、精神的にもジョシュアの崇拝者だ。いや、彼らだけではなく、他の奴らにも同じことが言えるだろう。
 ジョシュアにはそれだけのカリスマ性があった。
 
 まずは彼らに俺を襲わせる為に、色々な噂を流させた。
 俺がイシュハに傾倒していることや、ジョシュアに興味があると噂した。
 ジョシュアの取り巻き連中が無能なこともおおげさに誇張した。
 彼らはすぐに俺を掴まえに来た。


 高等科の寄宿舎へは、森を抜けて向かう。その途中で奴らは俺を待ち伏せていた。
 相手はアーサーとネイト、それにジョシュアの三人。メルをやった奴らと同じだ。
 まさかボスが自らお出迎えとは思わず、ほくそ笑んでしまった。
 案外小心者なんだ。それとも暗い青春を楽しむ内向的ナルシストなのか…
 
「何か、僕に用事?」
 少しだけ怯えたフリをして、白樺の木に寄りかかった。
「アーシュって言うのか、おまえ。近頃、俺達の事、こそこそ嗅ぎまわっているってな」
 ドスの効いた声で俺を脅かすのは、アーサー。
 金色の髪を後ろでひと括りにまとめた精悍な顔つきの男だ。
「中坊のくせに、ジョシュアを狙おうなんてさ、バカじゃん。ジョシュアはおまえみたいなガキは趣味じゃないんだよ」
 オレンジ色の髪をしたファニーフェイスの男はネイトという二年生のアルトだ。
 どこまでの能力があるのかはわからないが、用心するに越したことは無い。
 と、は言え、俺の標的はあくまでジョシュアだった。彼がどんな手を使ってくるのか…ワクワクする。
 そのジョシュアが口を開く。

「おまえ、なんで俺らに近づく。目的は何だ?」
「…先輩方、面白い事やってるよね。『イルミナティバビロン』。この学園を裏で操ると言われる魅惑の秘密結社。ロマンチックだしね。僕、すごく興味があるんだ」
「なんだ、おまえも入りたいのか?」
「ムリムリ、まだリボンの似合う中坊には、入る資格なんて無いよ。諦めろ」
「僕だってホーリーなんだから、力はあるよ。きっとジョシュアの役に立つって思うんだ。…他の先輩方よりも」
「なんだとっ!てめえ、俺達に本気でケンカ売る気なのかっ!」
「生意気もあんまり過ぎると痛い目に合うよ。坊主」
「外野は黙ってろ。俺はジョシュアに言っているんだ」
「あいにくだが、俺は友達を大事にする男なんだ。それに…おまえみたいなこまっしゃくれた卑怯なアルトには興味がないね」
「嘘を付けよ。あんたは俺に嫉妬しただろ?…俺はあんたの大事なものを知ってるよ…」
 俺の言葉を聞いたジョシュアの表情が強張った。
 咥えていたタバコを木に押し付け捨て、俺のリボンを解いた。

「おまえの愛人だったか…メルって言ったよな。この場で同じ目に合っても同じことを言えるのか?」
「ジョシュア、せっかく生まれ持ったイルトの力があるのなら、もっと利口に使えよ、可哀想なセンチメンタリスト。ひとりじゃ寂しいんだろ?」
「きさま…」
 胸倉を掴まれた。
 頭ひとつ、いやふたつ分は俺より高いジョシュアは、痩せていても力がある。それに比べて俺はどう見たってやせっぽちの非力なガキでしかない。
 寄りかかった白樺に背中を押し付けられ、そのまま持ち上げられた。苦しくて息ができない。なんとか足蹴りを食らわせ、ジョシュアの手から逃れた。
 そのまま木立の中を思い切り走る。と、言っても俺の足では、あいつらにとてもじゃないが敵わない。
 すぐに掴まえられ、足をすくわれた。ドサリと落ち葉の絨毯に倒れこむ。
 いってぇ…やっぱ暴力反対。俺、ケンカに向いてないや。

「こんな林の中じゃ、誰も来てくれないぜ。どうする?おちびちゃん。俺達に跪いて頼めば、少しは優しく楽しませてやってもいいけどね」
 三人が俺の周りを囲んだ。俺は倒れたまま、仰向けになって三人を眺めた。
「おい、一応ホーリーだろ?少しは意気地があるところを見せろよ。じゃなきゃ面白くないぜ」
「言っとくが俺とジョシュアはイルトだ。アルトはイルトに魔力で攻撃してはならないって法律はこの学園内でも守られる。背けば罰則の刑だ。捨て子のおまえに行くところなんか無いだろ?だから変な力は使うなよ」
「こいつに魔法が使えるもんか。ちょっと走っただけで息が切れてるじゃないか」
「恐ろしくて言葉もでないらしい。いい子にしてろ。かわいがってやるから」
 金髪のアーサーが俺の上に腹ばいになる。
 シャツを無理矢理脱がせようとするから、その手首に噛み付いた。
「痛っ!てめえ、なんてことするんだっ!」
「そりゃこっちの台詞だよ。貴重なシャツを破くな、バカっ!」
「おまえ、自分の立場をわかってないようだな」
 そう言って、俺の上着を無理矢理剥がしやがった。バリッと布が引き裂かれた音が聞こえた。

「ああーっ!俺の一張羅のジャケが!」
「はあ?」
「あのね、捨て子の俺等にはお古の制服しかもらえないの。それが大体汚くてすぐに破けそうだから、すげえ大事に使っているんだ。それを…よくも破ってくれたな~」
「何呑気なこと言ってるんだか!上着より自分の心配でもしたらどうなんだ?」
 ジョシュアが背中から俺の腕を捕らえ、首を掴まえる。
「そのクソ生意気な顔に傷でもつけてやろうか」
 そう言って眼鏡を取ろうとする。
 眼鏡まで壊されたらトゥエから、なんて言われるかわからない。
 俺は思い切り息を吸って、大声で助けを呼んだ。
 まだ変声期前の甲高い声が、辺りに響く。

「助けを求めたって、無理だって言ってるじゃん」
「諦めろ」
 ズボンのベルトにネイトの指がかかった。その時、林の奥から声が聞こえた。
「おまえら、そんなところで何をしてるんだっ!」
「ちっ!舎監のミュラーだ。あいつにバレたらうるせぇぞ」
 ジョシュア達はあっさりと俺の身体から離れた。
 俺は少しほっとした。本当に危なくなったら、「力」を使う以外なかった。だが、それはまだ見せたくはなかった。

「また、お前達か。こんどは何をしでかす気だ…おい、君、大丈夫か?」
 ミュラー先生は俺を抱き起こした。
「高等部…じゃないな」
「中等科二年のアーシュです」
「こいつらに何をされた?」
 ミュラーという舎監の先生は、体育系らしく体格も良いし、強持ての様子だ。ジョシュア達も苦手としているのだろう。不遜な態度が変わった。
「人聞きが悪いなあ。別にゲームをしていただけですよ。先生、知らないんですか?『狩り(ハント)』って言うゲーム流行っているんですよ。いわばコミュニケーションですよ、なあ」
「…本当か?アーシュ」
「はい、先輩方とゲームをしていただけです。木の根っこにつまずいて転んで汚れちゃったけど、大丈夫ですよ。先輩方は友好的だから、僕も彼らと遊ぶのは楽しみなんです」
 先生にニコリと笑い、乱れた服を直す。
 ほおり投げられたジャケットを拾い、挨拶をしていたら、先生が来た方向から高等科の生徒たちが数十人集まってきた。
「ストーブ用の薪を取りに、生徒たちと薪小屋に行くところだったんだ。途中で声が聞こえたんで急いでこちらに向かってみたら、この有様だろ?」
「すいません、お騒がせしてしまって」
「アーシュ!」
 生徒達の中から駆け寄ってくるのはイシュハだ。

「こんなところで何をしているんだ…大丈夫か?」
「うん、大丈夫よ」
「何も…されなかったか?」
 イシュハの方が襲われたみたいに真っ青になっている。
 イシュハは横目でちらりとジョシュアを見たが、何も言わず、俺の背を抱いた。
「良かった…」
 イシュハの感情が流れる。これもまた複雑すぎて、なんとも言えない。誰もがこんな情報過多の感情を持っているのなら、テレパシーなど使い物にならない。
 イシュハの肩越しに、俺を睨みつけるジョシュアがいる。俺はそいつに思い切り勝ち誇った顔で微笑んでやった。
 ジョシュアは一瞬憎々しげに目を細め、そして踵を返して、林の奥へ歩いていく。その後を残りのふたりが追いかけて行った。

 先生達も自分達の目的に気がつき、「気をつけろよ」と、言って、薪小屋へ向かう。
 残されたのは俺とイシュハだけだ。
「アーシュ、シャツがボロボロだよ」
「うん、シャツだけじゃなくてさ。こっちが大問題」
 俺は破れたジャケットをイシュハに見せた。
「ああ、これはもう繕えないな。僕の部屋へおいで。確かまだ中等科の服が残っていたかもしれないから。僕のお古で良いならあげるよ」
「ホントに?」
 良かった。これで用務員の先生に頭を下げないで済む。


 イシュハに連れられて寄宿舎の部屋に行く。
 イシュハはさっきから緊張したままだ。
 入れられた紅茶を一緒に飲むと、やっと口を開いてくれた。
「アーシュ、さっき、舎監の先生から聞いたけれど、あれ嘘だろ?」
「え?」
「ジョシュア達とゲームをしてたって…嘘なんだろ?本当は…あいつらは勝手に『狩り』なんて言ってるけれど、やってるのは強姦だよ。それも先生達に見つからないように、上手くかいくぐってやるんだ…フリーセックスを言い事に、気に入った奴を無理矢理襲っている」 
「知ってたの?」
 イシュハはためらいながら言葉を続けた。
「ジョシュアは…昔はあんな奴じゃなかった。どうか恨まないでやってくれ。彼は…本当は優しい奴なんだ」
 同情だけなのだろうか。俺はイシュハの本当の気持ちが知りたくなった。

「イシュハは…ジョシュアが、好きなの?」
「好きだよ。家族同然に育ったんだもの。好きだから、彼にはまっとうに生きて欲しいって願っているのに…ジョシュアはこの学園に来て変わったよ。いや、アルトを屈服させる力を自分が持つってわかった時から、彼は変わってしまったんだよ」
「そう…なんだ…」
 傷ついているのはジョシュアだけではないのか…イシュハの切実な想いが自然に胸の中に流れ込んできた。

 傷ついていない人なんて、居ないのだろう。誰だって弱いはずだ。だけど、その弱さを口実に他人を傷つけていいはずはない。
 ジョシュアは制裁されるべきだろう。




ジョシュア・サライ



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Private Kingdom 16 - 2011.10.24 Mon

アーシュ本-22


 16、

 現状での「イルミナティバビロン」を壊滅させてみせるという俺の目論見を、セキレイとベルに説明した。
 最上級生が相手だと知り、ベルは心配したが、セキレイは俺の話に乗り気だ。

「まず、組織の人数と生徒の素性、全員を暴き出す。名前と顔ぐらいはこちらも把握しておきたい。たぶん少人数だろう。メルを襲った奴は、三年生ふたりに二年生がひとり。こいつらの名前はわかっている。残りが何人なのかをふたりに調べて欲しい」
「え~、それだけ?つまらないよ、そんな役回り。アーシュは何をするつもりなの?」
「俺はボスのジョシュアがどんな奴かちょっと調べてみたい。カマを掛けてみるさ」
「僕もそういうのがやりたい」
「わかるけどさ。ちょっと危険すぎる。ジョシュアって男は、あのメルが逆らえなかったって言うんだから、相当な思念力の持ち主だ。同時に制御も完璧らしい。相当に手ごわいと思っていい」
「だったらアーシュだって危ないじゃん」
「イルトは総じてアルトを従属する思惟が強いけど、ホーリーのメルの精神を操れるなんて…アーシュ、大丈夫なのか?」
 本気で心配するベルの気持ちが、こちらに伝わってくる。思念とはこちらが信じる相手には簡単に繋げることができるし、それに逆らうことは難しいとされる。
 だが、俺はそれに左右されない性質(たち)らしく、ベルの気持ちをありがたく思っても、それに全く引きずられないんだ。逆に…心配させてみせたくなる。
 
「ベルの心配はありがたいけどさ、やってみなきゃわからないけどさ、俺がやりたいんだよ。…やらせてくれる?」
「やるなって言っても、どうせ聞かないんだから」
「わかってるじゃん」
「だけど、絶対そいつとセックスしちゃ駄目だからね。したら僕は君ともう寝ないから」
「…あのさ。俺、そんなに色情じゃないし、第一なんで俺がジョシュアと寝るんだよ…言っておくけど、君の他には、まだメルとしか寝てないよ?」
「まだ?…アホか!僕は君以外とは寝てないっ!」
 そう言って、セキレイは俺の右腕を思いきり抓る。
「あ~っ、いたあ!」
「イケズ!」
「どっちがだ!」
「今のはアーシュが悪い」
「…そうなの?」
 セキレイを庇うベルを涙目で見る。
「ほうら、ベルは公平な天秤だ。どっちが悪いかなんてすぐに判断してくれるんだからね。絶対浮気はするな」
「しないから、抓るのやめてよ。マジで痛いし…」
 腕を組んで睨みつけるセキレイに、俺はシャツの袖を上げて、抓られた痕を見せる。セキレイはちらとそれを見て、赤い痕をまた叩いた。
「痛みを忘れないようにね。アーシュ」
「はあ?」
「ルゥもいい加減にしろよ。ジェラシーもしつこいと嫌われるぞ」
 さすがベルは天秤だな。
「兎に角、アーシュ。あまり無茶しないように。それでなくても中等科の俺達には、高等部の連中は敷居が高いんだから」
「心配はさせないつもりだよ。だけど、危険のない冒険なんて、つまらないよね」
 俺は不安そうなふたりをよそに、ニヤリと笑う。
 


 翌日から、放課後になると俺は高等科の寄宿舎へ暇をみつけては出入りを繰り返した。
 勿論、奴らをおびき出す為だ。

 学園の寄宿舎は男子と女子は別棟だから、女子とは滅多に会わない。だから女子の方は、ベルに任せてある。ベルなら、女の子を通じて、連中の素性ぐらい掴めるかもしれない。

 高等科寄宿舎の休憩室代わりの広いリビングには、いつも何人かの生徒たちがたむろしていた。
 決まった連中ではないが、何度も足を運べば、顔見知りも増えてくる。
 彼らに媚を売っておけば、色んな噂話も耳に入る。
 なにしろ、中等科と高等科では別世界だ。お互いの情報など、必要ないし、気にかける気もない。俺の事もホーリーだから名前は知っていても、顔までは知らない奴らが多い。

「アーシュはココアでいいかい?」
「ミルクもたっぷり入れてやれよ。何しろまだ八年生だもんな」
「リボンが似合うかわいい盛りだ」
 上級生たちは、俺を子供扱いする。まあ、それも構わない。
 あまり気構えてもらってもこちらも困るからな。
 だから、ここではできるだけ無害の下級生を演じる。
「うん、甘いココア大好きだよ。みんな、優しいから大好きさ」
「アーシュは本当に綺麗な子だね。一回俺と試してみない?」
 彼らは俺の身体をもの欲しそうに眺める。
「試すって?」
「同衾してみないって言う意味だよ」
「うん、寝るだけならいいよ」
「おばかだね。寝るだけなものか。セックスしようってことだよ」
「ああ、それは駄目。僕、恋人いるもん」
「ホントに?まだ子供なのに?」
「確か高等部一年の…メルじゃなかったか?」
「ああ、あのホーリーか。彼も保育所上がりだったね」 
「メルは恋人じゃないよ。愛人だもん。恋人は同級生のルゥって子。僕と同じで保育所上がりのホーリーなの」
「…そう」
 俺の言葉に周りの上級生たちは一応に押し黙る。
 一般の生徒たちの保育所上がりの俺達を見る目は、複雑な思いがあると言う。
 親もいないクセに優遇されている。何故なら、保育所で育っているということは、有能なアルトであるという証拠になるからだ。同時に見下している気持ちもあるから、気位の高い奴ほど、歪んだ感情が生まれる。

「それより…ね、高等科で一番モテる人って誰?僕、そういうお話が聞きたいの」
「え?…ああ、そうだな。生徒会長のディミトリなんか結構モテてる。イシュハも常に学年トップで、温厚で親切だから引く手数多だ。」
「ふ~ん」
「変わった毛色で言えば…」
 その時、部屋にひとりの生徒が入ってきた。
 濃いオリーブ色の髪と、彫りの深い白い顔。まるで霧を纏っているみたいな痩せた背の高い男だ。

ジョシュア2

「あいつだよ。三年のジョシュア」
 隣りに居た先輩が俺の耳に近づいて囁いた。
「モテてモテて仕方ないんだとさ。なんでも相手が跪いて、お相手してくださいって頼み込むそうだ」
「へえ~、そりゃ凄いね。きっと床あしらいも巧いんだろうね」
「…言うね。ガキのクセに」
「でもあいつはやめとけよ。中毒になるからな」
「そんなに?…ますます興味深い」

「何の話しているんだ?」
 コーヒーを飲み終えたジョシュアが煙草の火をつけながら、こちらへ近づいてくる。
 絶好の機会だ。じっくり見定めてやる。
「下級生に君の数々の勲功の話でもと思ってね」
「ばかばかしい…。大体なんでここにそんなガキが紛れているんだ?」
 良く見ると灰色の瞳が、なんとも悩ましげに鈍く光っている。…確かに色気が立ちこめたその胸に身を委ねるのも安かろう。
「ああ、この子は中等科二年のアーシュだよ。去年ホーリーが五人選ばれたろ?そのひとりさ」
「こんにちは。初めまして、ジョシュア。アーシュと言います。以後…お見知りおきを…」
 俺は立ち上がって、ジョシュアに手を差し出したが、彼は全く無視したまま、少し離れた椅子に座り込んだ。

「意外と人付き合い悪いんだね」
「まあ、それがモテる男の見せ方…つう…な」
 人付き合いのいい先輩方が愛想笑いを振りまく。

「あれ、アーシュ、また来てたのか?」
 今度はイシュハが顔を見せた。
「あ、イシュハ!」
 俺は子犬のようにイシュハの元へ駆けつけた。
「メルなら、まだ見当たらないよ。図書館かもしれない」
「いいの。今日はイシュハに会いに来たの」
「僕に?」
「そう。イシュハは優秀だって聞いたから。物理を教えてもらいたくてさ。メルは理系が得意じゃないからね」
「そう、そんなことならいつでも教えてあげるよ」
「ありがとう。やっぱりイシュハは良い先輩だね。大好きだ」
 俺はイシュハの腕にしがみ付きながら、横目でジョシュアを見た。
 彼は顔色も変えずに立ち上がって、俺たちの横を通り過ぎようとする。

「ジョシュア」
 イシュハが声を掛ける。
「何だ?」
「こっそり吸う分には構わないが、公けの喫煙はやめておけよ。また反省文を書かされるぞ」
「知ったことか」
「君は入らぬ心配だと言うけど、身内だからほっとけないよ」
「え?イシュハとジョシュアって身内同士なの?」
 知っていたが、芝居してみた。
「身内っていうか…母親が従弟同士なんだ」
「ああ、又従弟(はとこ)ってわけだね。でもふたりは全然似てないね」
 褐色の肌にゴールデンブロンドのイシュハと、ジョシュアの容貌の接点は難しかった。
「彼は父親似で、僕は母親に似ているんだ」
「俺もおまえも親父の顔も知らないクセに、父親似なんて良く言えるもんだな」
 ジョシュアはイシュハに言っているが、目線は俺を睨みつけていた。
「え?ジョシュアって父親の顔知らないの?…かわいそうだね」
 「かわいそう」と言った時、ジョシュアの顔色が一瞬変わった。
 キーワードは「哀れな戦士」か…同情は地雷と同じだ。効き目がある。

「でもね、僕達保育所で育った子供の方がもっと可哀想なんだよ。だって両親に捨られたんだもの。ジョシュアは母親がいるからまだ良いよね」
「…親なんか知るかよ」
「ジョシュアは…小さい頃から僕の家で預けられて、一緒に育ったようなものなんだ」
「ふ~ん…そうなの」
「余計なことをこんなガキに言ってんじゃない。大体何なんだ、こいつは」
「中等科のアーシュだよ。ホーリーなんだ」
「それはさっき聞いた。おまえの何なんだと聞いてるっ!」
「僕の…って。え~と…僕の恋人のメルって知ってるだろ?」
「…」
「そのメルの…」
「愛人」
「そう…愛…人のアーシュ」
 ハハと力なくイシュハが笑う。
 呆れた顔でジョシュアがイシュハの顔を見つめた。
「おまえは恋人の愛人と仲良くしてるってわけか。そんなにホーリーは味がいいのかよ」
「別にホーリーが好きなわけじゃない。それにアーシュとは何も無いよ。ねえ、アーシュ」
「今のところ、友情以外は…ね」
 そう言いつつ、俺はイシュハの頬にキスをした。
 ジョシュアは軽く舌打ちをし、部屋から出て行く。
 彼の背中には嫉妬という情念が見え隠れしていた。
 
 まあ、種は巻かれた。あの男の俺への暗い思念が育っていく軌跡を見届けてやろうじゃないか。

 …その後、イシュハからはジョシュアを挑発したことをみっちり怒られたけどね。
イシュハとアーシュ2







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書けませんでした~(;´Д`A ``` - 2011.10.21 Fri

すいません。今週はなにかと用事が立て込み、ついでにお絵かきして遊んでいましたので、

…テキスト、一行も書いてません!

待ちわびていた方…いらっしゃらないと思いますが…

今から書きますので、上手くいけば、明日?…明後日?ぐらいには…(;´∀`)

代わりに、今日一日描いていたイラストで、おくつろぎくださいませ( ´・ω・`)_且~~


クリックして見てね。

ジョシュアとアーシュ翅99

アーシュとジョシュアです。
ジョシュアは完全にアーシュの獲物です。(;´∀`)

はい、お顔。
ジョシュアとアーシュ翅88

アーシュの本性見たり…です。

ふたりとも、なかなかのべっぴんさんで、満足ですわ(*´∇`*)




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イルミナティバビロンの方々 - 2011.10.18 Tue

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モブシーンは苦手だけど、この組織をすごく描きたかった。
女子も男子も仲良し倶楽部。だけどダーク。
決して健全ではなく、だれとでも絡んでいる。エロ的な意味で。
けれど、いやらしさはあまりないのが、私の話で。
まったくHシーンはでてきません。
Hはコミュニケーションのひとつ。その中から本物の愛を探し出す。
そういう考え方を教えてもらったのは本仁戻さんの漫画から。
昔の私には無理な考え方だったけどね。


イルミナティバビロン


右から、ハルファス、アーサー、ネイト、ジョシュア、リオ(手前)、ラファ、マリオン。
彼らが本物の愛を見つけ出すことができるのか…
またアーシュとの対決の結果がどうなるのか。

これからはこいつらとアーシュ達のケンカ上等が待ってます。

と、言ってもひとりひとりを書く気はないから、そこんところは読み手の妄想にまかせます。
って、…ひとりミナが混じっているが…
彼は転生してこの学園に来たんだろうか…(;^ω^)

そのうちリンも出てきたりして…ナイナイ。



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Private Kingdom 15 - 2011.10.14 Fri

メルタン

15、
 「強姦(レイプ)されたんだよ。その組織の連中に…さ」
 と、メルは言った。

 それに返事もせずに、俺はイシュハが用意していったお茶を飲む為、テーブルの椅子に座った。
 ティーポットに入れられた茶葉が踊っているのを見届けて、ティーカップに注いだ。
 イシュハはご丁寧にミルクまで用意していたが、俺には不用だ。
 だが、俺と違って、セキレイは酒飲みのクセにミルクティに角砂糖を三つも入れる。
 彼が豚になったら絶交だ。
 ん、さすがにいい茶葉だけあって、美味い。いつも飲むティーパックとはえらい違いだ。
 まあ、そんなことよりも…メルなのだが…

 メルの言ったことが本当であっても、衝撃を受けるほどでもない。
 大体おかしいだろ。メルだって相当遊んでいるのにさ。
 バージンでもありもしないクセに、強姦されたからって落ち込むタマかよ。
 ま、キリハラとメルの言う事を真に受けたとして、イルミナティ・バビロンがロクでもないってことだけは承知してやろう。
 しかし、せっかく「senso」の秘密を探ろうって思ったのに、これじゃ期待できそうもないじゃないか。
 こっちは早くセキレイを還してやりたいって思っているのにさ…

「ちょっとアーシュ。なに優雅にお茶を飲んでいるんだよ。レイプされたかわいそうな僕を慰めようってと思わないのか?」
「レイプされて落ち込んでいる人が、昼間から恋人のベッドに寝てないだろう。あなたの恋人だって心配している風もなかったしさ。ま、確かに好きでもない奴とセックスするのは嫌だろうけどね、この学園じゃ取引のセックスなんて日常茶飯事だろ?特に高等科の性の規律は緩い。それでも許されるのはすべてが秘密裏に行われるからだ。犯す側も犯される側にも何らかの徳があるんだろうけどね」
「得なんて無いさ…僕にもお茶を用意してくれないかい?」
「…どうぞ」
 俺はティーカップにミルクとお茶を入れて目の前に座ったメルに差し出した。
「砂糖はいる?」
「いらない」
 メルは紅茶をゆっくり飲み始めた。
 …充分落ち着いているじゃないか。俺が心配することなどないだろう。

「レイプされて落ち込むあなたじゃないよね。他に何かあるの?」
「確かに、好きでも無い奴と無理矢理やるのは、身体は痛いし、プライドも傷つくけどね。問題はそこじゃなくてさ…イシュハが言ったろ?イルトに逆らえない従属関係って奴だ」
「…」
 ふ~ん、そう。そっちの傷が大きいわけ。
 だが、それについては俺も充分興味があった。
 
「あれって、アルトが心を許している奴にだけ発動するんじゃないの?」
「そうだと思っていたんだ。イシュハと付き合って僕も充分認識していたからね。だけど、こちらの好き嫌いに関係なく、精神力の強いイルトには、逆らえないって身を持って知ったんだ。…正直、ショックだった。あれだけの精神力をもてば、もうイルト(普通)とは言えまいがね」
「ホーリーのあなたでさえ、意思を曲げられたの?そりゃ、とんでもないね…そいつが今のイルミナティ・バビロンのボスって言う事か…なんて言うの?そいつ、最上級生?イシュハに聞けばわかる?」
「好奇心もほどほどにしないと、いくら君でも、傷つくことになるよ」
「何?俺がそいつに逆らえないって?この俺が?」
「君は強いし、選ばれし者かもしれないけど…未熟な子供だよ。まだ13にもならない君が、奴に楯突くのは勧めない」
「じゃあ、メルは自分を傷つけた奴をこのままほおっておくわけ?」
「一年経てば、あいつらはここから卒業する」
「それまでメルはそいつらに従うわけ。嫌な奴とセックスを強要されても我慢するわけ。それ変だと思わねえ?…俺、全然納得いかねえんだけど」
「…」
「俺はさ、エドワード…ベルの叔父さんでここの卒業生ね。彼にイルミナティ・バビロンっていう存在を教えてもらったんだ。先生達に秘密裏で、アルトの生徒たちで魔法を高めあい、『senso』を解明していく秘密結社『イルミナティ・バビロン』。キリハラだって学生の頃はその組織の一員だったんよ。すげえかっこいいじゃん。…俺ね、セキレイを両親の元に還したいの。だから還す為の『senso』をどうしても見出したいの」
「…アーシュ」
「メルに近づいたのだって、セキレイを還したいって思ったからだよ。でもメルと寝るのは俺が望んだんだ。メルが好きだからね。誰でも良かったわけじゃないよ。好きな人とセックスするのは気持ちの良いことでしょ?好きな人は大事にしたいって思うでしょ?だから俺の好きなメルに、好きでもない奴と寝て欲しくないわけだ。わかるだろ?」
「わかるけど…」
「メル、俺の事、強いって言ったじゃん。選ばれし者だって、王だって言ってくれたじゃん。俺は誰にも負けやしないよ」
 メルは今にも泣きそうな顔をして俺に近づき、俺を優しく掻き抱いだ。

「それで…あんたをやった奴は誰?」
「…言えない」
「何故?」
「言いたくないからだよ」
「言わなきゃ俺、復讐できないんだけど」
「だから言ってる。アーシュは何もしなくていいんだって…。何度も言うけど、アーシュはまだ14にも満たない子供だ。僕は年少の君を守る義務がある。君があいつらに関わるのを僕は求めてないんだよ」
「じゃあ…」
 俺はメルの腕を引っ張り、無理矢理ベッドへ連れて行く。
 メルをシーツに押し付けて、仰向けになった身体の上に跨った。
 バスローブの紐を引き抜き、メルの両手首に巻きつけて、自由を奪う。
「何だよ、アーシュ…やめろよ」
 お互いの口唇をあわせ、舌を絡ませる。メルは本気で逆らったりしない。
 甘いキスを充分に味わって、ゆっくり離れた。
「だって、無理矢理じゃないとあなたは白状しないじゃないか。いい?良く聞きなよ。あなたが言いたくなくても俺はイルミナティ・バビロンの情報を必要としている。それを得る為には、あんたが犯られた記憶を覗けば済む話だよね」
「…」
「俺はあんたと何回も寝てるから『senso』の接続は容易く繋げる。入れなくても刺激を与えるだけで、あんたの頭の中を覗けるってわけ。どう?」
 喋りつつ、メルの肌に直接触れて、メルの感じる場所を刺激する。
 メルは何も言わず、口唇を噛んでいる。

「…なんつってね」
 そう言って、メルの身体から降り、メルの傍らに寄り添った。
「人の意思って言うのは難しく、本当は好きなのに、嫌いなフリをする奴もいるし、嫌がったり抵抗する者を無理矢理自分の意に従わせたりするのを好む奴も多いけどさ。俺は根本的にそういうのは嫌いなわけだ。望むのなら真正面から来いって話。メルは多分俺が何をしても許すんだろうけどさ、それでもメルが俺を欲しいと思った時にセックスしたいって思うんだよね。これってガキの考える哀れなポエムなのかな?」
「…いや。アーシュは正しいよ」
 メルは横になった俺の顔を撫で、「…好きだよ」と、呟いた。
 俺の手を取り、その甲に深く口づける。

「…僕を犯した奴は…イルミナティ・バビロンのボスは三年のジョシュアって言う男だ。とても強い精神力を持っている。それに抵抗できなかった僕自身が弱かったんだ。彼に好意を持っているはずはないって思っていたのに、どこかで惹かれていたのかもしれない…そう、思わせるほど、感じさせられた…」
「…ふ~ん。メルがそこまで言うのならすごい奴なんだろうね。益々そそられるね。ね、その話イシュハは知っているの?」
「彼には言ってないよ。ジョシュアは彼の再従兄弟(はとこ)で、幼馴染みでもあるからね…言えないよ」
「そりゃまた複雑だな」
「イシュハは彼がイルミナティのボスだって知らない。逆にジョシュアを心配しているんだ。ジョシュアの家庭事情も結構複雑らしいからさ。だから、僕の事で彼を悩ましたくはない」
 メルって思ったよりも随分繊細だ。よほどイシュハがお気に入りなんだな。
 ちょっと妬けるかな。

「OK!わかった。この件は俺に任せてくれる?」
「アーシュ」
「メルにもイシュハにも迷惑がかからぬように細心の注意を払い、そして俺の目的に辿り着くように…仕掛けるからさ」
「…君って子は…」
「まあ、メルは高みの見物をしておいで。じゃあ、セキレイが怒っていそうだから、今日はこれで帰るよ」


 急いで中等科の宿舎に戻って、自分の部屋に駆け込んだら、案の定セキレイとベルが二人揃って仁王立ち。俺を睨みつけていた。
「遅いっ!何してたんだよ、アーシュ」
「今日は三人で秘密基地で過ごそうって約束してただろっ!」
「あ、ゴメン。忘れてた」
「ずっとふたりで君を待っていたんだからね」
「だからさ…」
「高等科の寄宿舎で何してたか、白状しないと、君とはもう絶好だから」
「セキレイ…」
「ルゥの怒りはもっともなので、右に同じでよろしく」
「ベルまで~。言うよ。正直に言うから、許してくれよ」

 俺にとってセキレイとベルはこの世で一番大事な絆で、彼らが望むならなんでもしてやりたい。
 彼らを傷つける者から守ってやりたい。
 それが俺の望みだからだ。
 だからさ、その為の力を得るために、俺は誰にも負けない力を得たいんだ。




アルト…魔力を持つ者。
イルト…魔力を持たない者。
ホーリー…「真の名」を持つ魔力の強いアルト。


アーシュ笑う



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Private Kingdom 14 - 2011.10.13 Thu

a-syu2


14、
「イルミナティ・バビロンの事を聞いてどうする気ですか?」
 キリハラにとって不都合だったのか、殊更に渋い顔を俺に見せた。
「ユーリは、そこで『senso』を教わったと言うんだ。だから俺も…」
「無駄です」
「え?…どうして?」
「あの頃のイルミナティ・バビロンはもう、今はない。今或るのは…狂信的、かつ高圧的な組織ですよ」
「…それ、どういう意味?」
「少なくとも、真面目な生徒に薦める倶楽部でもないってことです。要するにロクなもんじゃねえ…って事」
「へえ~。じゃあ、学校側が取り締まればいいんじゃない」
「生徒のナショナリズムはある程度の寛容さは必要ですよ。それに元々この組織は表立って動く事はない。表沙汰になる騒ぎを起して困るのは彼らですからね。ともかくこの組織について君に教えられることは私にはありません」
 そう言いきって、キリハラは俺が来る前と同じように、手元のペンを動かし始めた。
 これ以上、こいつからは何も聞き出せないらしい。ならば、他をあたるしかない。

 俺はメルを探しに高等部の構内へ走った。
 学園敷地の中央の図書館からは真っ直ぐに北に向かえば、林を通り抜けるよりも断然早い。
 校舎には行かず、寄宿舎へ直行した。

 メルの部屋へは、庭先の椋の木をよじ登って忍び込むことが多いから、正面玄関からは少し勇気がいる。
 予想通り高等科の生徒たちは俺を訝しげな顔でじろじろと眺める。
 俺を知ってか知らずか、口笛を吹いて挑発する奴もいる。
 中等科の制服の黒いリボンが、この高等科では違和感そのものだ。…私服で来れば良かった。
 二階のメルの部屋を尋ねたが、彼は居なかった。
 遠巻きに俺を見ている連中を無視して、談話室の隅でメルを表れるのを待った。
 談話室へ入ってきたひとりの学生が、俺を見て躊躇わずに近づいてくる。
 
「君、ホーリーのアーシュ君だろ?」
「ええ、そうです」
 明るいブロンドで褐色の肌の学生。多分三年生だろう。
「中等科の生徒がここへ来るのは珍しくないけど、その制服では目立って仕方が無いよ。まあ、ホーリーの君なら見られるのは慣れているんだろうけど」
「別に、ホーリーが何をしてるわけでもないから、こちらとしては気にしていないけど…それに俺、保育所育ちだからマトモな私服持ってないんだ」
「…そう。え~と、そこは、同情すべきところかな?」
「そうそう、同情するなら服をくれって事。あなたのはいらないよ。俺にはでかすぎるからね」
「…メルから聞いたとおりだね。惹きつける容姿に見合った王者のふるまい。…選ばれし者のようだね」
「あなた、メルの知り合い?」
「うん、三年のイシュハだよ。よろしく、アーシュ」
「イシュハ…は、イルトだよね」
「そう、よく判るね」
「だって、俺は選ばれし者だもの。そんで、メルとはどういう関係?」
「…聞いてないの?僕は彼の恋人だよ」
「…ああ、そう」
 聞いてない…と、いうか、興味がなかった。
 …そうだよな、メルに恋人のひとりやふたりいてもおかしくない。
 ふ~ん、メルはキリハラとかこいつとか、エキゾチックな容姿が好きなんだな。
 それなのに、なんで俺なんだろうな。この黒髪がお気に入りなのか?
 クセ毛で柔毛の髪を、メルは「すごく好き」と、撫でる。いかされてるのは俺の方なのに、自分が抱かれているみたいな切ない顔をする。 
 そういう顔をこのイシュハの前でも見せるのかな…

「メルに会いに来たけど、部屋に居ないんだ。図書館にも姿は見えなかった。どこにいるのかあなた知ってる?」
「僕の部屋に来る?」
「え?」
「彼なら僕のベッドで寝ている」

 ここで断るべきなのか、平気な顔をしてメルを尋ねるべきなのか…アスタロト・レヴィ・クレメントとしては、非常に悩める選択だった。


 常識的に考えた末、俺はイシュハの案内で彼の部屋へ向かった。
 三年の部屋は基本、一階。
 イシュハの部屋は角部屋の特別室だった。彼、いいとこのボンボンじゃないか。
 部屋に入ってベッドへ向かう。部屋の造りはベルと同じだから、別に珍しくもない。
 天蓋からの透けたカーテンの向こうにメルの寝顔が見えた。
 俺はのそのそとベッドへ乗り、メルのほっぺたを抓った。
「起きろよ、メル。どんだけ探したと思うんだよ」
「…あ…ああ?…あ、アーシュ?な、なんでここに居る」
 寝ぼけたメルがくっつくほどに迫った俺を見て、目を見開いた。
 上半身を起したメルは当然裸のままだ。ところどころに情事の痕が見える。
「別にあんたが誰と寝ろうと構わないが、俺が必要とする時はわかりやすい場所にいてくれなきゃ困る」
「…ごめんなさい…」
 素直に謝るメルの頭を撫で、俺はベッドから降りた。

 後ろに立つイシュハが、クスクスと笑っている。
「何かおかしい?」
「いや、メルも君の前では下僕に過ぎないんだなと思って」
「ベッドの上では俺の方が下僕だよ。メルは上手いもの。その相手をするあなたはもっと上手いって事?」
「試してみる?」
「…イルトには興味がないから、遠慮しとくよ」
「もしかしたら、君はイルトとの従属関係が怖いんだけなんじゃないのかい?」
「従属関係って…よく本で読むけど、どんな感じなのかな。どうずればその状態になれるわけ?どういう力が働くのか、俺、興味あるんだけど」
「…まいったなあ。メル、君の小さな恋人は、好奇心旺盛で怖いもの知らずだ」
「彼は本物の王だもの。僕たちは彼のいうがままに成り果てるだけだよ、イシュハ」
 バスローブを羽織ったメルが、俺とイシュハに笑いかけた。いつものアルカイックスマイルだ。
「じゃあ、そうならないうちに僕は消えるよ。メル、僕の部屋は好きに使っていいから、このお客様をもてなしておやりよ」
「ありがとう、イシュハ」


 彼を見送りドアが閉まるのを確かめ、メルは鍵をかけた。
「こんな真昼に僕に会いに来るなんて、どうしたのさ」
「こんな真昼からセックスに耽てるなんて、あんたらしくないね。何かあったの?」
 別に確信があったわけじゃない。ただメルを取り巻く空気が敏感になっているのを感じただけだ。
「何も…ないよ」
「悪いけど、メルに率直に聞きたい事があるんだ。イルミナティ・バビロンって聞いた事ない?もし知っているなら、その組織の事、詳しく知りたいんだ」
 俺の言葉に、メルは驚き、そして鋭い目つきで俺を見据えた。

「今の僕にそれを聞くの?…知ってて言うのなら、君とは絶交だ」
「メル…何があったの?」
 メルは身を竦めるように壁に凭れ、口唇を噛んだ。
「強姦(レイプ)されたんだよ。その組織の連中に…さ」

「は?」
 もう、何が何やらさっぱりだ。



メルとアーシュ1

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ハロウィンパーティ - 2011.10.12 Wed

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王様ごっこ2

ハロウィンパーティっていうタイトルだけど、描きたかったのは三人一緒でコスプレしたらどうなるんか?って、興味あったから。
で、やっぱり、アーシュが俺様で女王様のルゥに、従者のベルって図になった…
なんだか不憫なベル。
侯爵家の跡取りで、実業家の跡取りで才能に溢れて男も女にもモテモテなのに…
何故かふたりには敵わない…
そういう彼が愛おしい…(;´∀`)

王様ごっこ2-2

ハロウィンって言うのはキリスト教あっての話だから、この「senso」の世界にはハロウィンは存在しません。ってオチなんだがね(;・∀・)


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Private Kingdom 13 - 2011.10.07 Fri

アーシュモデル4

13、
 夏季休暇は俺とセキレイにとって、驚きと高揚の連続だった。
 貴族の生活とやらの疑似体験なんか、滅多なことでは出会わない話だ。こんな生活、本の世界だけだと思っていたのに。なんだかこのお屋敷だけが時が止まっているみたいだ。
 だが、楽しい日々はあっという間に過ぎる。
 夏の一日は陽の長さと反比例でこんなにも早かったんだ。

 明日は学園へ戻る日になって、ベルの母親が姿を見せた。
 別に俺達に会いたかったわけではなく、単なる私用ではあったのだが、俺もセキレイもベルの家族には興味があったから、内心少しだけ胸が高鳴った。
 それが別の意味で予想以上であったことも、俺にとっては導きたる何かが含まれていたのかもしれない。

 ベルの母親は、俺にそっくりだという古い絵画をみせてくれたんだ。
 侯爵家で大事に受け継がれていた絵画は「レヴィ・アスタロト」と、言った。

 確かにその絵のモデルは、俺に生き写しというぐらいにそっくりで…まあ、所詮絵なのだから、どこまでが写実的なのかは知らないが…驚いたのなんのって。
 俺に似たその「レヴィ・アスタロト」と言うモデルが本当にいたのなら、俺はもしかしたらこのモデルとどこかで血が繋がっているのかもしれない…なんて、絵空事みたいな感傷に浸ってしまった。

 血の繋がりや、両親のことなんて、あまり考えた事なんてない。
 生まれた時から、あの学園で育った俺に、自分を産んでくれた親のことなんてあまり考えても意味が無いように思えた。
 もし、俺の親が目の前に現れたとして、俺はそれに対して何か思うことがあるのだろうか。
 「自分を産んでくれてありがとう」と、礼のひとつでも言うべきなのだろうか…

 俺は自分の血の繋がりよりも、今の自分自身の事しか興味がない。
 身体の中に脈々と流れる魔の力が、俺を産んでくれた両親のおかげであろうと、彼らに頭を下げる気などには到底なれない。
 …と、いう事は俺はどこかで俺を捨てた両親の事を恨んでいるのだろうか…

 セキレイは…どう思っているのだろう。
 4歳までの彼の記憶。彼の生きてきた時間。育ててきた家族との生活。彼はそれを取り戻したくはないのだろうか…
 どんなに複雑でも、辛いことがあったとしても、その四年間がセキレイが過ごした時間であるなら、彼はそれを知るべきではないのだろうか。
 そして、彼が俺よりも家族を選んだとしても、それは当たり前なことではないだろうか…

 その夜、セキレイはエドワードの寝室で休んだ。
 彼がそう望んだからだった。
 セキレイはエドワードを家族のように慕っている。
 俺には与えられない愛を、彼は求めているのだと、改めて知った。


 翌日、スタンリー家を離れる日が来た。

 ベルとセキレイが厩舎へ、可愛がっていた馬達とのお別れに行ったのを見計らって、書斎にいるエドワードへ挨拶と言う名目で会いに行った。
 エドワードは仕事をしていたが、俺が来るのを拒まなかった。
「ちょうどお茶にしようと思っていたんだ」
 そう言って、使用人にお茶を用意させる。


エドワード


「君達が居なくなって、この屋敷が静かになると思うと、寂しくて仕方ないね。いつだって、去る者より、置いていかれる方が辛いからね」
「そうですね…でも、なんだろう。俺には故郷っていうもんがないのに何だかねえ…。そもそも学園から外に出るのも初めてなんだ。こんなに長居させてもらって、何から何まで初めての経験でさ…ここに来て良かったよ」
「僕も君達に会えて嬉しかったよ」
「ホント?」
「貴族って奴は嘘も真実も絶妙ないい回して物事をあやふやにするのが得意なんだが、君達と居る時は、こちらも純粋だった少年時代に戻れる」
「エドワードの子供時代が純粋だったとは…想像しにくい」
「そういうあげつらう辛辣さも、綺麗な少年であれば、魅力的に感じる。いい歳になったもんさ」
「貴族って楽そうに見えるけどね」
「昔の貴族的特権なんて、もう無いよ。貴族なんてのは名前だけ。時間に置いていかれた時代錯誤の遺物だよ。どの貴族も自分の体裁を守る為に、借金をこさえて火の車が実情さ。この家だって、ベルの父親の援助がなけりゃ、とっくに誰かの手に渡っていた…」
「あなたの姉上がベルの父親に嫁いだから、スタンリー家は没落せずに済んだんでしょう。…感謝してる?」
「残念ながら…しているよ。僕の力じゃどうにもならない話だったからね。あの結婚は間違いではなかったと…今では思っている」
「ベルがあなたにそれを見せているんだね」
「…アーシュは頭が良いね」
 エドワードは観念したように、俺に笑いかけた。少し寂しい笑いだった。
 俺もエドワードも近づいた別れが寂しくて、感傷的になっている。


「私に話があるのだろ?アーシュ」
「話というより…なんかエドワードと一度、二人だけで話したかったんだ」
「そう。私も君とルゥには正式に、お礼を言いたかったんだ。クリストファーの友人になってくれて本当にありがとう」
「…なんだかさ、あなたってベルから聞いた印象と随分違うんだよなあ。だってベルをレイプしたのはあなたじゃないか。あの時のベルがどんなだったか…見ていられないくらいだったんだから。俺は本当にあんたをぶん殴りに行こうって思ったんだ」
「それは、…悪かったと思っているよ。あの時は、僕自身荒れていてね。誰かを傷つけたくて仕方なかった。充分大人だったけれど、大人気なかったよ。クリスが愛しくても、表現方法を知らなかったのもひとつだった」
「で、今は充分大人になったの?」
「…僕は屈折しているんだよ。貴族のくせにアルトだろ?風当たりが強いというか…仲間内では異端者なんだよ。貴族には魔力が無いのが、昔からの彼らの誇りだと伝えられていたからね。魔力を持つ者は、穢れた血の末裔だってさ」
「そんなの、聞いたことない」
「まあ、この街は魔法使いに寛容だしね。それでも力を持つ貴族のほとんどは、表立ってその力を使わないもんさ。だから、強力な魔術師が彼らを補佐する。貴族だけではないよ。実業家でもなんでも、トップには影のように寄り添う魔術師が必ずひとりは居るものさ」
「へえ~、あなたにも?」
「言ったろ?僕は異端者だからね。力を隠そうともしていないし、まあ、必要ならば魔術師とも付き合うけれど、今のところ、彼らのお世話になることもない。それにクリストファーがこのスタンリー家を継ぐのなら、益々術者はいらない。なにせ彼はホーリーだからね」
「じゃあ、俺の力も必要になる時は言ってよ。あなたの味方になってあげる」
「心強い限りだ」
「セキレイを可愛がってくれたお礼だよ」
「え?」
「セキレイは本当に嬉しがっていたよ。彼には家族の記憶がない。あなたを…父親みたいに思っているんだ」
「ルゥから聞いたよ。この街に来るまでの記憶がないのだと。だけど、君が傍にいてくれたから、寂しくはなかったって、言っていた」
「うん、それは俺も一緒だ。俺にも家族はいないしね」
「…アーシュ、あの絵の事が気になるかい?」
「…少しだけね」
「調べておくよ。私もあの絵にまつわる話には興味がある」
「ありがとう」
「それと…クリストファー…ベルの事だが…」
「なに?」
「彼は恋をしているそうだ。できるなら彼の力になってくれたまえ」
「ベルが?…そんな話は聞いて無いけど…彼、男にも女にもモテるからねえ~誰だろ」
「…」

 意味ありげな眼差しで俺を見るエドワードに、俺は首を傾げた。
 
 窓の外の向こう、駆け寄ってくるベルとセキレイが見えた。
 俺とエドワードは彼らを迎える為に同時に立ち上がった。

「また、次の休暇にはここへ来るといい。いつでも歓迎するよ」
「ありがとうございます」
  
 エドワードは美しい貴族だ。
 彼にはベルが、ベルには彼が居る限り、この家が輝きを失うことはないだろう。



 新学期が始まった。
 俺達は中等科二年、即ち八年生になった。
 
 学校が始まると俺はすぐに図書館へ向かった。
 いつものようにすました顔で、カウンターで仕事をこなしているキリハラにまっしぐらに向かった。
「こんにちは」
「…ごきげんよう、アーシュ」
 彼は下を向いたまま、俺の顔を見ようともしない。

「聞きたいことがあるんだけど…」
「聞けないこともありますが」
「そう警戒すんなよ。もうあんたとセックスしたいなんて言わないから」
「そう願います。で、何の質問ですか?」
「イルミナティ・バビロンについて、詳しく教えてくれ」
「…」
 下を向いたままのキリハラの顔がゆっくり俺の方を向いた。
 誰に聞いたかとでも言いたい顔だった。
「あなたの親友のエドワード…じゃなかった、ユーリから聞いたんだ。この学園の秘密結社であるイルミナティ・バビロンの事。昔はあなたもユーリもその組織に一員だったって事。今でも存在するのでしょ?一体どういうモノなのか。何を目的にしているのか。どこに行けば接触できるのか…色々知りたいの。教えてくれませんか?キリハラ先生」
 精一杯の愛嬌全力投球で、彼に微笑んでみせた。
 キリハラはゾッとしたように身体全体で俺から背けるフリをした。

kirihara.jpg





名前なんてもんはそう大事ではないかもしれないが、どれにも意味があるのかもしれない…と言う、矛盾した想いにより、キャラたちの名前はいくつもあります。
一人の人間が多様な性格(キャラ)を持っているという意味において。

アーシュ…アスタロト
ベル…クリストファー…ベルゼビュート
ルゥ…セキレイ…ルシファー

メル…ツィンカ…メルキゼデク
エドワード…ユーリ





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Private Kingdom 12 - 2011.10.03 Mon

メルアーシュ1


12、
 セキレイの機嫌がここのところ良くない。
 夏季休暇でベルが実家へ帰ってしまって、愚痴を吐く奴が居なくなった所為もあるだろう。
 泣いたり怒ったりして俺を責めるならまだしも、拗ねて口を利かなくなる。
 原因は…勿論俺にある。
 メルと寝たからだ。

 メルとのセックスは前もって、セキレイにも了解を取っていた筈だった。
 納得はもらえてなかったけどさ。
 だって仕方が無い。セックスしなきゃ「senso」の使い方はわかりづらいんだから。
 歳を取って、理屈と思考の幅を広げれば、経験しなくてもわかる。それでも想像力では決して補えないのが「senso」だ。
 セックスをすればお互いの行きたい記憶の場所へ確実に行ける。それだけじゃない。もっと大きな魔法を扱えるんだ。
 キリハラが駄目なら、メルに頼むしかなかった。
 メルはキリハラの愛人であり、「senso」を極めているひとりではあるが、彼は俺には触るまいと学長に誓っていた。
 誓いはきっと永久に守られるだろう。ふたりの愛情が途切れぬ限り。
 だったらメルと交わすしかない。
 彼がカノープスなら、セキレイの求める場所を彼に示していただこう。

 メルはずっと俺を欲しがっていたと言う。 
 願っても無い。こちらもメルには興味がある。
 勿論、この感情はセキレイともベルとも違う感覚だ。

 メルが俺を欲しいと思うのは、俺を崇めたいと言う思いがあるからだ。
 彼は俺を欲しがりながら、俺に示されたがっている。
 こういう男は信用していい。

 夏の始まりの夜に、俺はメルの寄宿部屋を訪れた。
 俺を待ちわびていたメルは、喜んで俺を引き入れた。


 初めてメルが俺を抱いた夜、メルは俺をとことん戒めた。
 それは俺を自分に縛りつかせたいという抑圧的欲望から来ている。
 セキレイ以外、セックスをしたことなかった俺はメルのやり方に驚き、困惑したが、苦痛と言うものが快楽と繋がっている事実が面白かった。
 だが、それ以上に俺に溺れる事を躊躇わないメルが意外だった。
 メルは本気で俺を好きなようだ。
 次に寝た時、今度はメルは思い切り俺をあやした。
 優しくジェントルに労わるように抱いた。またもや俺は驚いた。
 こんなにも優しい愛撫ができるものなのか…もやは彼に肉親に近い。
 もっとも俺は肉親の情など知らない。

 メルが俺への思いをどう整理しているのかはわからないが、この時点でメルは俺に従おうと自分に科していたようだ。
 彼は俺の膝元に跪く事を厭わない気でいる。

 案の定、セキレイはメルと寝た俺を思いきり詰(なじ)った。
 「君を還す為だ」とは決して言うまい。
 セキレイを還したいという思いは俺の自己満足に過ぎないからだ。

 快楽を求めるセックスと愛するものと愛を営う形態は違うはずだ。
 たとえ同じ行為でも、俺はセキレイとする時とメルとやる時では感情の重みや深み、何よりも姿勢が違う。
 それを説明しても結局は言い訳にしか聞こえないだろうから、セキレイの怒りを黙って聞く。
 それがまた気に食わないセキレイは腕を組んだ仏頂面で俺を睨む。
 そういう彼に俺はいたって真面目な顔で言う。
「君への愛は誓って永遠に変わることは無い。信じろ」
「舌先三寸って言葉知ってる?君にぴったりだ」
「十センチぐらいはあるかもしれない。が、俺はセキレイに嘘は言わない」
「知ってる。だから腹が立つんじゃないか。少しぐらい僕に気を使って、僕とのセックスの方が良かった、とか嘘でも言ってくれりゃいいんだ」
「セキレイとのセックスの方が俺にとっては極めて重要だ。…これでいいかい?」
「…うん、納得…できるか!バカアーシュ!…もう…本当に君ってさ」
 呆れたのか諦めたのか、セキレイは俺の胸に身体を寄せる。
 俺はセキレイの頭を撫でた。

「俺のすることが君の苦しみになるのなら、俺を嫌ってもいいよ」
「そんなの…できるわけもないだろう?わかっているクセに…もう、くやしいよ。こんなにも嫌いになれないものがあるっていう事実に驚愕してるよ。全くもって『愛』は偉大だ。むかつくけどさ」
「君以上に俺が君を愛していることを忘れないでよ」
「馬鹿言わないでくれ…それだけは、君に負けたくないね」
 
 俺達の愛は多分同じ色をしている。
 愛してると言う前に身体を寄せ合い同化する。
 気がつけば、ふたり身体を重ねている。
 お互いが一番の安らぎだと知っているから…。


 学長の了解も取り、誘われていた遠出を実行する。
 即ち、ベルの待つスタンリー侯爵家へ行くんだ。
 学園以外での宿泊なんて、今まで一度だってないものだから、俺もセキレイも浮かれっぱなしで、邸宅に着くまで、ずっと窓の外をキョロキョロしどうしだった。
 本やテレビでしか見たこと無い(もっともテレビだってそんなに見ることもないのだが)田舎の景色が広がると、思わず声を上げた。
 あっちもこっちもそっちもと、ふたつの目じゃたりないくらいに眩しくて、ベル宅へ着く頃にはぐったりしていた。
 大歓迎のベルの姿に、こちらも思わず抱きついてしまったが、後から考えたら、幼い子供のはしゃぎ様は恥ずかしかった。

 スタンリー家のお屋敷は侯爵家の気品と豪華な装飾に溢れていて、別世界に来た気分だった。
 だがこういう飾られた作り物なんて三日もすりゃ飽きるってもんだ。
 人間だけが、一生飽きる事無い俗物だと俺は考えている。
 その俗物の権化とも言えるベルの叔父のエドワードは、ベルから聞かされていたよりも随分マトモな人間だった。
 と、言うよりその容姿に驚いた。
 だって大人になったベルが立っている気がしたのだもの。
 真っ直ぐに伸びたゴールデンブロンド。サファイアの青い瞳。品の良い身のこなし方。響くテノールの声音。
 ああ、肉親とはこういうものなのか…と、思い知らされる。
 叔父、甥の血の繋がりとは、ここまで似るものなのか…
 肉親の居ない俺にとって、それは未知の感動だった。
 ベルとエドワードは、何があっても決して繋がりを解くことはできないのだ。
 思惑など少しも無く、お互いの悲しみは自分のものに、喜びもまた自分のものにできるのだろう。
 
 貴族の様式での慣れない食事の間、ベルとエドワードのふたりに流れる当たり前の情感に羨ましい気がしていた。それはセキレイも同じだったのだろう。
 後で「ベルが羨ましいね」と、何回も俺に耳打ちしたんだ。

 捨て子の俺達は「天の王」学園に恩がある。
 知らぬうちにそれが身に付いて、我儘を言ったりはしない。
 保育所育ちの子は皆、一応に同じだ。乱暴や不良を働く生徒は少ない。
 だって、帰る場所がない子に、学園から出て行く勇気などあるはずもないじゃないか。
 大方の保育所育ちの子は、皆、学園を卒業するまで、素直でいい子のフリをしている。
 あくまでフリね。

 俺とセキレイは生まれて初めての外の空気に触れ、自由を感じていた。
 同時にこの見知らぬ土地では、俺達ふたりが他に気を使ったり、気兼ねする必要はないのだと感動していたんだ。

 セキレイは俺とは違う見方で、エドワードへの思慕を募らせた。
 彼に肉親への愛を求めていたのだ。
 セキレイのそれは憧れになっていた。
 咎めたりはしなかった。俺にはセキレイの気持ちが嫌になるほどわかる。
 俺とセキレイの間で、肉親の情を求める事は無い。 
 俺達はその前に、同化してしまう。
 甘えることさえ知らないのだ。
 
「ルゥはエドワードが気に入ったようだね」
 セキレイのいない処で、ベルが言う。
「妬ける?」
「え?…いや、それはないけど。それよりもルゥがエドワードに甘えているのが何だかおかしくてね」
「俺達には甘える親が居ないからね。ベルが羨ましいんだよ」
「…ごめん」
「君が謝る必然性が、どこにあるのかわからないね。と、言うかねえ…俺もベルに甘えたいんだけどね」
「え?」
 そうだ、俺はベルに甘えたがったのだ。

 俺にとって、ベルは他の奴とは全く違う。
 幼い頃から、俺が何をしても俺を心配する奴は周りにいなかった。
 何故なら俺には力があるし、俺自身が弱音を吐かないからだ。
 だが、ベルは俺が何をするにも心配してくれる。
「アーシュ、大丈夫か?」と、自分のこと以上に俺の心配をするベルにうざいと無視したり、強がりを言ったりするけれど、本当はベルの感情が嬉しかった。
 ベルの優しさが肉親の居ない俺にはそれに近い感情に思えたりするのだ。
 
「俺でよかったら…君の為なら、何でもするよ。ホントだからね」
 と、ベルが言う。
 ばか、嘘だと思うもんか。
 君の言葉は誰よりも、心に響くんだよ、ベル。





三人1


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