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2012-04

This cruel world 10 - 2012.04.26 Thu

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iakiss.jpg
10、
 ふたりはハーラル系の11の惑星をひとつずつ散策した。
 彼等は気まぐれな旅人として己で開いた次元の扉から他星の片隅に降り、その星の民の暮らしを垣間見たのだった。
 どの星もクナーアンよりは年月を生きた星である。
 それぞれに面白く、独自に富み、生き方があった。

 天の法を破って、他の星を徘徊した事実について、天の皇尊は案の定ふたりを責めなかった。
 天の御使いであるミグリには「天の皇尊もあなた方のやんちゃクセはご存知ですから、別に驚かれていませんよ。しかし、大目に見るからといって天の御方を困らせるものもほどほどになさいませ」と、まで言われる始末で、イールは安堵し、アスタロトは舐められたと思い立腹した。
 その後もアスタロトはミグリの留意など気にも留めず、イールを伴ってハーラル系の星々を何度も訪れた。
 
 イールとアスタロトは他の星の政(まつりごと)に意義深いものを見つけ出し、クナーアンを導くお手本となるものについては持ち帰り、地上への恵みを増やしていくのだった。

 12の惑星の神々は、7つが男女の神々を持ち、3つが男神同士、残り2つが女神同士だった。
「やはり女神同士の星は、空気が柔らかいよね」
「ほわほわしてる感じ?」
「匂いも良い。のんびり暮せそうだ」
「あれでは戦をする気にはならんだろうから、土地も荒れなくていいね」
「好奇心はどうだろう。文明としては少し物足りない気がしたね」
「文明の進化はどうしても男女の神々の星の方がバランスが取れている。生活と闘争の場所がそれぞれで生かされているから、暮しやすいんだろう」
「問題は男神同士だよね。僕等もそうだけど、どちらかが、女神の役割をしなければバランスが保てない」
「男神同士といえば第一惑星のズヒュメルは殺伐として緊張感があった。荒れ果てているとは言わないけれど、背中を見せたら襲われそうな感じ」
「それでも住んでる民は割と生き生きとしてたよね。ああいうのも面白い」
「あそこはもう二千年にもなるんだろ?どんなにか雄雄しい神々なのだろうね。一度お目にかかりたいものだ」
「君好みのイケメンだったら、どうする気だい?アーシュ」
「う~ん。寝てみてもいいね。君の許しがあれば」
「おい。この状況でそれを言うの?バカ、アーシュ。今、おまえが刮目する相手は私だろ?」
「あ…ん。イールのジェラシーは素直だなあ~。僕の身体で露骨に試すんだもの…嫌じゃないけどね」
「君の返事はそれかい?際限なしに『senso』を求めるクセに」
 淫らに繋げたまま、下になるアスタロトの腰を抱え、イールは深く突きえぐり、いとも容易くアスタロトを陥落させる。
「イール…もっと…酷く…してくれよ」
「困った事におまえはセックスに関しては筋金入りの倒錯者だ」
「君の性嗜好に合わせているんじゃないか。外見は大らかな女神のようなクセに、僕にはしつこいからね」
「おまえ以外に楽しみがないもんでね…あんまりぬかすと本気で啼かせるよ?アーシュ」
「や…ン…意地悪なイールも大好き。僕の罪を君が裁いてくれるみたいなんだもの」
「おまえを罰する為に抱いているわけではないよ。さあ、もっと強請っておくれ。我が最愛の恋しき者よ」
 ベッドではイールは常に優位に立っていた。
 そうなることをアスタロトが望んでいたからだ。
 ふたりだけの長年の情事だ。嫌というほどお互いの身体を知り尽くしていた。
 それでも厭きないのは、お互いの情の深さという他はない。

「君とならハーラル系だけでなく、違う次元にも行けるさ。ねえ、イール。『senso』の範囲を広げてみようよ」
 子犬のように甘えた顔を見せ、胸に擦り寄るアスタロトを、イールは撫でてやり、楽しんだ。
「ダメだよ。浮気は許さない。それに君の好奇心は際限がないから、一度首輪を外したら、戻っては来ない気がする」
「いやだな~。僕は君のペットかい?どうせ首輪をくれるのなら宝石入りのにしておくれ」
「冗談だよ。でもほら…その首輪が気に入っている奴が来たよ」
 ふたりはドアを開ける影の名を呼んだ。

 時間がある時は、ふたりは崖の上に立てたヴィッラで過ごす。
 この崖は人の足では踏み入る事はできず、神々は誰にも邪魔される事なく、ゆっくりとエロスを楽しむことができるのだった。
 ただ神獣であるセキレイだけはお構い無しに、ドアを開けてはベッドの傍らに座り、ふたりの神々の睦みあいを見守るのが常だった。
「見守るんじゃなくて、僕達のセックスを見て楽しんでいるんだよ、あいつは」
「セキレイも相手が欲しいんじゃないのかね」
「アレには生殖器が無い。性欲があるわけないんだがなあ~」
「僕等だって生殖機能はあっても、実際は子孫を作ることはできない。そのくせ、性欲だけは旺盛だ。際限が無いと言っていいほどにね。生殖器が無いからと言ってセキレイに性欲が無いとは限らないね」
「だったら、セキレイの相手を天の御方に頼もうか?そういやさ、天の皇尊やミグリにも性欲はあるのかしら」
「今度聞いてみたら?」
「さすがに正面きっては言えないね」
「君でもかい?」
 ふたりは顔を見合わせて大笑いした。その様子に呆れたのか、一度大きくあくびをしたセキレイは身体を横たえて眠ってしまった。


 ふたりの神々の生きた歳月が六百年も過ぎた頃だった。
 ハーラル系の第五惑星ディストミアの神々の気配が突然消えたのだった。
 ディストミアはイールが生まれた星だ。
 彼等の血は継いではいないとは言え、イールはディストミアの女神の腹から生まれた。
 わずか五年間ではあった。
 六百年という長い月日が経っていた。だがイールにとってディストミアの神々は両親以外の何者でもなかった。

 ディストミアの神々が居なくなった噂話は、ディストミアからの移住民の口から聞かされた。
 彼等は口々に言うのだった。
「ディストミアの神々は死んだのだ。もうあの星に恩恵は与えられない。地上は荒廃するばかりだろう」と。
 イールには信じられない話だった。
 アスタロトと共に次元の扉を潜り抜け、ディストミアの地を歩いた。
 そして初めてふたりでディストミアの神殿を訪れた。
 神殿の中は閑散としており、神の威光は全く感じられなかった。
 ふたりは手を繋ぎ、拝殿の近くまで近づいた。
 無論イールとアスタロトの姿を知る神官も世話人もいなかったが、年老いたひとりの神官が手の繋ぐ若いふたりの姿を見つけ、走り寄り、その前に平伏した。
「ハーラル系第三惑星クナーアンのイール様とアスタロト様とお見受けいたします」
「…そうです。あなたは?」
「ディストミアの神官長のザールと申します」
「ザール、私はクナーアンの神イールと言います。他星からの神々の訪問は禁じられてはいますが、私はこの神殿で生まれ、五年間の歳月を過ごさせてもらった。男神キュノビアと女神スコルは私の大事な親であり、今でも慕っています。だが、嫌な噂を耳にしました。ディストミアからクナーアンへ来る移民からの話です。その者たちの噂を聞き及んでここに来たのです。…噂は本当なのですか?」
「…申し訳ございません…」
 ザールは床に頭を擦りつけ、ただ泣くばかりであった。
 ふたりはその姿で、噂が事実だと知った。

「教えてください、ザール。何故、ディストミアの神々は消えたのですか?神は…不死なのではないのですか?…どうして…死ぬことができる…」
 アスタロトはザールに詰め寄った。
 ザールは泣きながら言う。
「わかりません。何があったのか…私どもにもわからないのです。ただスコルさまはここ数年、人々に顔をお見せではなかった。疲れていると言われるだけで、部屋に引き込まれたままでした。キュノビア様はそれをとても気にかけておいでになられました。不死である神々が居なくなるなど…私たちは考えた事もない…神の御心など、人間の私たちには理解できようもないでしょう。しかし…神が存在しなければ、この星は滅んでしまうのです。私はあなた方にお聞きしたい。一体何故…ディストミアの神は消えてしまわれたのでしょうか?」
 ふたりの神々がザールの質問に答えられるわけもなかった。
 ふたりは神殿を後にした。

「聞きたいのはこちらの方だというのに…これでは埒があかない」
 アスタロトは腹立たしく言い放った。
「昇殿して天の御方に聞くしかないだろう」
 ふたりはクナーアンに戻り、その足で昇殿し、天の皇尊を呼んだ。
 これまで通り、ふたりの呼び出しにはミグリが現れた。
「ディストミアの神々についてお聞きしたい」
「他星の事柄だ。クナーアンに何の関係がある」
「あなただって知っているはずだ。ディストミアの神々は私の両親でもある。気にかけるのは当然だ」
「傍観する事が神々の生業だとは習わなかったのですか?」
「ミグリ、その手は詰んでるぞ。傍観するだけなら神の存在意義なんてないさ。噓つきめ。神は不死だと言ったくせに。ディストミアの神々は本当に死んだのか?それともどこかに雲隠れでもしているのか?あなた方が何も知らないとは言わせない。これは我(おれ)たちにとっても重要な事象だ」
「…ディストミアの神々は、自らの意思により、その命を全うした。よって、現在惑星ディストミアに神は存在しない」
「…父は、母はどうして…どうやって…のでしょうか?お願いだ。教えて欲しい、ミグリ」
 やり場の無い怒りがイールを苦しめた。
「我(おれ)も聞きたい。天の皇尊は以前、神が死ぬ方法はあると言った。今なら聞かせてもらえるだろうか、ミグリ」
「それを聞いてどうなさる。クナーアンの神々」
「知りたいだけさ。この世の理(ことわり)を知るのは、この世に不死たる者の知る権利でもあろうからな。我ら神々は完璧な者ではない。それを目指したらおまえの言う『傍観者』になるだけだ。『不死』であることと自らの意思で『死』ねることの意味は似ているよ。だから知っておきたいんだ。…神々がどうやって死に得たのか」
 ミグリは顔を天に仰ぎ、天の意思を聞いた。
 しばらくしてイールとアスタロトに向かい、こう言った。
「ディストミアの神々が死を望んだ経緯は彼等の意思により、他言はしない。神々が死を願う時、そのどちらかがその心臓に手をかけた時、半身である神もまた同時に死ねる。心臓を貫く剣は天の皇尊から授かるミセリコルデ(慈悲の剣)のみ。神々でしか扱えない短剣だ」
「…両親はそれを使ったのですね」
「そうだ。女神の願いを男神が聞き届け、その胸を貫いた…」
「…母は…父は…幸せだったでしょうか」
「それを…私に答える権利が…あろうか?」 
 やり切れない顔で応えるミグリを、それ以上責めることは、ふたりには出来なかった。

 当然の如くディストミアは荒廃し、住民たちは他の11の惑星に移り住んだ。
 ミグリは言った。
「惑星ディストミアは今は眠る時なのだ。星が存在する限り、人間が神を求める限り、いつの日かディストミアの夜明けは来るのだから…」

 イールとアスタロトは崖の上のふたりの棲家に小さな祠を建てた。
 ディストミアの神々、イールの両親を祀る為に…



イール戦士

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This cruel world 9 - 2012.04.21 Sat

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イールa-shisens34

9、
 或る日の夕方、イールはアスタロトを探して神殿の廊下を歩いていた。
 いつもなら大体図書室に入り浸りのアスタロトなのに、探してもいない。
 どの部屋を覗いても見つからなかった。
(どこへ行ったんだろう)
 浴室へ続く更衣室のドアが少しだけ開いているのを見とめたイールは、ドアを開けて中の様子を伺った。
 こちらに背を向け、等身大の鏡を凝視しているアスタロトが鏡越しに見えた。
 彼は立ったまま、ハサミを持って自分の髪を切っているのだ。
「アーシュっ!何をしているんだ?」
 驚いたイールはアスタロトに近寄った。
「ああ、イール」
「ああ…じゃないよ」
「見ての通り、髪を切っているだけだが…」
「切るって言ったって…デタラメじゃないか」
「やっぱ変?」
 お世辞にも散髪に慣れているとは言えない腕前で、アスタロトの豊かな黒毛の髪は無残な形にカットされてた。
「どうしたんだよ、アーシュ」
「うん。今まではマサキがね、ずっと散髪してくれてたんだけど…いなくなったじゃない。だから、自分でやろうと思って…」
「…」
 ふたりに仕える世話人であったマサキは半年前に暇乞いを願い、クナーアンから去っていった。
 アスタロトにとってマサキは親も同然だった。
 生まれた時からアスタロトの乳母として仕えたマサキは、アスタロトがクナーアンの神として正式に任じられ、神として崇める者になっても、変わりなく自分の子供のように甘えさせてくれる得がたい者だった。
 アスタロトは毎月決まった日に、マサキに髪を揃えてもらっていた。
 髪を切るのは口実でしかない。ふたりは母と子としての愛情を交わしていたのだ。
 
 マサキが居なくなっても表面上は変わらないアスタロトだったが、どこかでマサキを恋しがっている。と、イールは感じていた。
 その時、初めて自分が心のどこかでマサキに嫉妬していたのだと、気づいたのだ。
 鏡に映る自分の酷い髪を見たアスタロトは、小さく溜息をついた。
 アスタロトのちぐはぐな髪を優しく撫でながら、イールは言う。
「ねえ、アーシュ。これからは僕が君の髪を綺麗に整えてあげるよ」
「え?」
「マサキみたいに上手くはできないかもしれないけど、慣れれば僕にでも出来ると思うから」
「神様の君が、散髪屋さんになるの?」
「アーシュ専用のね」
 鏡越しにお互いの顔を見合わせ、少しだけ微笑んだ。
「ね、そうしようよ、アーシュ」
「…イール」
「ん?」
「心配かけてごめんね。…ありがとう」
 アスタロトの素直な心に少しだけ、イールは心を痛めた。
(上手くジェラシーを隠せたかな…)
 アスタロトへの独占欲を束縛に変えてはいけない…と、イールは自分に言い聞かせ続ける。
 なによりもアスタロトの信頼を失うのが怖かったから。

イールとアスタロト髪を切る


 その日から、イールは毎月決まった日にアスタロトの髪を揃えてやった。 
 初めはおぼつかなかった手つきも、半年も経つうちにマサキと同じように整えることができ、アスタロトは嬉しそうにお礼を言った。
 イールにしてみれば、マサキの代わりの役目では当然満足せず、(できるなら違う髪形にできないものかな…)と、何度も真剣に思ってはみても口には出せないままだった。
 
 何年か後、アスタロトの散髪の日、イールは鏡に映るアスタロトを見てふとこう言った。
「アーシュ、君、髪を伸ばしてみない?」
「僕の髪を切るのが面倒になった?」と、アスタロトは笑いながら言った。
「そうではないよ。アーシュは髪を伸ばした方が…綺麗だと思うんだ」
「綺麗?」
「そう」
 鏡の中の真剣なイールの顔を、不思議そうにアスタロトは見つめた。

 アスタロトはあまり自分の容姿に囚われない無頓着な性質(たち)だった。着る服も問わないし、汚れていてもあまり構わない。
 美の感覚に疎いわけではない。幅広く芸術を愛していた。
 イールを美しいといつも讃えていたし、自分もまた美しいと言われ続けていた。だが、それは自然な神の姿として当然なものと捉えていたから、自身が殊更着飾る必要が無いと思っていたのだ。

「イールは、髪の長い方が好きなの?」
「え?…うん。…でも、アーシュが嫌ならいいんだ」
 鏡に映ったイールの少し俯いた顔がほんのりと赤みを帯びていた。
 恥らっているのがわかる。
 アスタロトはそんなイールがたまらなく愛おしくて仕方がない。
 イールの望むことなら、どんな事でもしてあげたい。
「無理に伸ばして欲しいとかじゃないんだ。髪が長いと確かにメンドクサイ時もあるしね」
 バツが悪そうにイールは苦笑いを浮かべた。
 イールの頬はまだ赤い。
(イールってマジでかわいいな)
 俯いたままちらちらと目線だけをアスタロトに向けるイールの姿に、アスタロトは有頂天になるくらいときめいてしまう。
「ううん。イールがそうして欲しいって言うのなら、僕、伸ばしてみるよ」
「ホント?」
「だってね、僕の生きがいの大部分は、君を喜ばせるためにあるのだと思うの」
「…」
 時折発するアスタロトの大胆な告白は、イールを驚かせ、そして幸福にした。

 その後、髪を伸ばしたアスタロトの姿は、従来の美貌に加え、妖艶さが際立ったエロスのシンボルとクナーアンの民衆が悉く色めき立ち、後に様様な騒動を起こした。
 神としてのアスタロトはその混沌とした世間の様子を面白おかしく眺め、元凶のイールはしばらくの間、アスタロトへの要求はしないように心がけるのだった。


 クナーアンに住む民たちは、ふたりの美しい神々を日々眺めては無上の幸福を得た心持ちになった。そこでふたりの神々の写し絵を描く者が続々と現れ出した。
 その絵は瞬く間に広がり、住民の間でお守りのように扱われ、厳かな額縁に入れられ、天井へ祭られるのだった。
 アスタロトが気まぐれで訪れた一軒の家にも、その絵が飾られていたが、あまりのお粗末さに吐き気がした。
(こんな劣化した似顔絵など、僕じゃないし、失礼だろう。こんな風に見られていること事態、不本意極まりない)
 アスタロトは直ちに神殿のアーティストに言い渡し、マトモな肖像画を住民に配布しろと命じた。勿論タダでだ。
「神として愛でられるのは仕方が無い。祈るのも良かろう。しかし、祈りが届くかどうかは別だと言い渡せ。自身の良心を持って購えるものなら期待せよと」
 人々はその肖像画を後生大事に神棚へ祀り、先祖代々崇め奉り、ふたりの神々への敬愛の祈りを欠かさなかったと言う。
 

 百年、二百年、三百年と時は経ち、時代は動いていく。
 地上の様もまた時と共に移り行くのだ。
 古きものから新しきものへと。
 その新しいものでさえ、また古き形として歴史に刻み込まれていく。
 ふたりの神々は、地上の民と共に生きていく。
 地上に生きる民の生活は危うく、高度な文明にはまだ遠く、神々のような魔法を繰り出す力も備わっていなかった。彼等は間違いを重ねながら修学していく生き物であった。
 神々は彼等を常に見つめ続けた。
 時には固唾を呑んで見守り、時には天雷の如く怒り、肩を組みながら喜び、愛する者たちとの別れに涙した。
 歴史は栄枯盛衰の繰り返しであった。
 栄えるも滅びるも一時のこと。
 延々と続くものではないのだ。
 ただ、イールとアスタロトの神だけが変わらずに、クナーアンの守護者として地上の尊敬を一心に捧げ祀られる存在であった。


 地上の喧騒とは別に、イールとアスタロトは満ち足りた愛を営んでいた。
 これほど長く共に過ごしていようとも、イールとアスタロトの愛情が虚ろう時は無きに等しかった。
 アスタロトはより多くのものを求め、愛し、留まる事のない好奇心の探求に勤しむ日々であったが、彼の「エロス」はすべてイールに捧げられていた。イールもまた同様だ。
 勿論ふたりの「愛」は「エロス」だけではなく、友情や尊敬、肉親愛すべての「愛」の概念を抱いていた。が、求め合う「エロス」はイールとアスタロトだけにしか分かりあえない「繋がり」だった。
 イールの方がアスタロトより脇見をしないという点において、捧げられる情愛はより深かったであろう。
 彼等は他の生き物に性愛を感じることは無かった。
 神であるアスタロトもイールは、外見上は全く同じであろうとも異生物である人間との交わりなど、考える気にならなかったし、どんなに魅力的な容姿であっても一片の欲情すら起らなかった。
 人間の方はと言えば、彼等は神々とは違い、俗な求愛者であり、イールとアスタロトを眺め、想像しては、けしからん感情を沸かせ、様様な妄想を果てるまで繰り返しては己が遊興に耽るのだ。
 
 神々は人間の想像を遥か超える愛欲を知り尽くし、またその快楽の欲求は人間以上だったので、人間の妄想を嗤いつつ、哀れむのだった。


 イールとアスタロトがお互いの性の波動を合わせ、頂点への到達と解放を繰り返すことで、彼等の魔力は次第に高まっていく。
 次元を超えて辿り着く魔術を、ふたりは「senso」と、名づけた。
 宇宙に佇む空間を、ふたりの神はお互いをあますところなくさらけ出せるふたりだけの欲望の花園と大切にしていた。
 この宇宙に漂う小島は、長く生きるアスタロトの好奇心を駆り立てた。
 目に映るひとつひとつの惑星に、どれだけの文明が潜んでいるのかと思うと、胸が高鳴るのだ。
 イールには幾度も止められていたが、好奇心を止める手立ては無く、アスタロトはとうとう他の星への探求を始めた。
「ね、まずは僕等の兄弟星へ行ってみようよ」
「天の法では、神々の他の惑星への移動は禁じられているよ」
「天の御方はおっしゃっただろ?僕達がどんな罪を犯しても死ぬことはないって。それはね、初めから僕等が法を破るって知っておいでになるからだよ。天の御方にしてみれば、僕等の行動なんてお見通しなのさ」
「…」
「そいつの上を行って、御方さまに一泡吹かしてやろうよ、イール」
 およそ神とは思えぬ悪戯っぽい顔を見せたアスタロトは、戸惑いを隠せないイールの手を取り、時空の扉を開けていくのだった。


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This cruel world 8 - 2012.04.17 Tue

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イール表紙1



8、
 イールとアスタロトは不死の神であったが、その他の者はそうではなかった。
 よって、時が経つにつれ、ふたりの親しき者は段々と彼等の側を離れていった。

 彼等のほとんどが神殿で従事する者だったので、後を仕える者たちに仕事を学ばせ、委ねた後、イールとアスタロトに暇をもらいうける形で去っていくのだ。
 それはふたりの若き神々に自分達の老いた姿や死を見せたくないという計らいであった。
 ふたりの神々は幼い頃から一緒に過ごしてきた世話人達への別れの寂しさに泣きながら、彼等の心使いを止める手立てがないことを知っていた。
 とりわけアスタロトの傍近く使えていたマサキとの別れは、格別に痛みを感じていた。
 マサキはアスタロトにとって、親同然であり、彼を本気で叱る唯一の人間であった。

「マサキも僕を置いていくんだね」
 言ってはいけない言葉だと知りつつ、アスタロトは泣きながらマサキを咎めた。
「神子さま…」
 マサキもまた泣いていた。
「お泣きにならないで下さいませ。三十年もの間、神子さまの傍にいさせて頂き、私は幸せ者ですよ。神子さまもどうにか大人になられましたし、マサキもこんなに歳を取りましたしね。そろそろお暇を頂き、ゆっくり余生を過ごしてもバチは当たりませんでしょうから」
「いつまでもここにいればいいじゃないか。マサキは僕が看取ってやるから」
「まあまあ、こんなに綺麗な神様に末期の水を取っていただくのはもったいのうございますよ。いえね、私には幼い頃に別れた息子がリギニア星におりますので、息子の家族と一緒に暮してみようと思っているんです。息子も喜んでくれていますしね」
「…」
「だから、神子さま。マサキのことはお忘れになられてください。神子さまはこの惑星の未来を背負っていく使命があるのですから、下々のことは気に留めなくてもよろしいのですよ。アスタロトさまとイールさまがここにいられるだけで、この星の民は幸せを与えられているのです。あなた方はそういう存在の御方なのですから」
「マサキ、ありがとう。いつまでも元気でね」
「ありがとうございます。おふたりの常世の御栄えをお祈りしております」
 次元の道に消えていくマサキを、ふたりは見送った。

「マサキの家族は彼女を快く受け入れてくれるだろうか…」
「アーシュ、君がマサキを心配する気持ちはわかるけれど、それは僕達が心を痛める事柄ではないよ」
「…」
 アスタロトはイールの横顔を見た。
 慈愛の神と呼ばれるイールの顔は誰が見ても穏やかで美しい。
「イールは強いね」
「それ皮肉?」
「いや、正直な気持ち。僕は…寂しくてたまらない」
「…僕がいるだろ?僕じゃマサキの代わりにはならない?」
「君は…君でしかないよ、イール。誰の代わりにもなれない」
 アスタロトにもわかっていた。
 自分達ふたり以外は、すべていなくなってしまうのだと。

 二年後、マサキの息子が神殿に拝謁に来た。
 マサキの息子はイールとアスタロトにマサキが亡くなったことを報告に来たのだった。
「一昨年、幼い頃に別れた母が私を訪ねてきたとき、心から喜ぶ事はできませんでした。たとえ神様の乳母として仕えたからと言っても、私にとって、母は幼い私を捨てた人としか思えなかったからです。違う惑星に住む私に、あなた方神々を慕う気持ちすら沸かなかった。でも…年老いた母と一緒に暮らし、初めて母という存在を求め続けていた自分を知ったのです。母は豊かな人でした。母の口から聞かされたイールさまとアスタロトさまのお話はまるで…お伽話のようで、聞いているだけで幸せに満ち溢れていくのです。母は最期まで幸せだったと笑っておりました」
「マサキは…笑って死んでいったのだね?」
「はい。この度、家族みんなでこのクナーアンに移り住む事にしました。母の愛したクナーアンで私達も生きていきたいと決めたのです」
 イールとアスタロトは、マサキの家族を神殿の近くの田園に住まわせた。
 そこは以前、ふたりの神子に新鮮な野菜を食べさせようと、マサキが懸命に耕した土地であった。

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「セラノは自分の故郷へ戻らないの?」
 アスタロトはいつものように図書室で独り、黙々とペンを走らせている家庭教師に問うた。
「ここに居たら邪魔ですかな?」
「いいえ」と笑う。
 セラノも五十は過ぎているだろうか。
 この惑星の平均寿命は四十だから、セラノは長命の方だった。
「セラノには家族がいなかったんだよね」
「そうです。気軽な独り身ですよ。今更ですが、家族を持たなくて良かったと思いますね」
「何故?」
「心配する荷物が少なくてすむ」
「喜びもじゃない?」
「そうとも言えるが、私には別の荷物がどっかりと肩に食い込んでいまして、他の荷物を背負う余裕はないのです」
「その荷物って僕とイールのこと?」
「そうですよ。あなた方は偉大な荷物ですからね」
「じゃあ、僕達はセラノに幸せをもたらした?神としての恩恵ではなく、あなたの荷物としての愛に対して」
「勿論ですよ。不遜ながら私はあなた方を神としてよりも、傍に仕える親しい友人、生徒、家族として愛してしまった。教師としては、これが正解とは言えないのですが…本当なら、あなた方に親しく仕えた者と同じように私もふたりの前から遠ざかる方が良い選択だとは思います。他の方々は不死であるおふたりの心情を慮って離れていくのですからね」
「うん」
「私ももう歳です。そう長くはご一緒にはいられないでしょうが、もし、あなた方が私を愛してくださっているのなら、最後の授業として、愛する者の死に直面する痛みを知るべきだと思い、ここに留まる選択をしたのですよ」
「悲しいことを言わないでくれ。それでなくても次々と親しい者たちの別れが続いているんだ。イールとふたりだけ残される現実が僕には辛いばかりで…苦しいよ」
「それでは、アスタロトさまはより強くおなりにならなければなりませんね」
 愛おしい我が子を見つめるようなセラノのまなざしが、アスタロトには嬉しくて、悲しかった。


 三年後、セラノは流行り病に倒れた。
 イールとアスタロトはセラノの寿命を知った。
 別れは近かった。
 ベッドに寝るセラノの手を取り、アスタロトは泣いていた。
「セラノ。まだ長生きして欲しいと願っているけれど、僕らにでも人の命の期限を変えることはできないんだ。ごめんね」
「…まだ死んでもいないのに、もうお泣きになられるのか?困った神様だ」
「だって、悲しいのだから仕方ないだろう」
 アスタロトの頬に零れる涙を掬ったセラノは、嬉しそうに笑った。
「そうですね、泣き虫な神様も人々から愛されよう…しかし、優しさと弱さは似てしまうものです。脆弱な神は人々を混乱に陥れますよ、アスタロト」
「この涙は人々の為のものじゃない。セラノを思って泣いているんだ。神としてではなく、あなたを愛する家族の涙だよ、セラノ」
「…」
 アスタロトの言葉にセラノは何も答えられなかった。
「ありがとう、セラノ。あなたはすばらしい指導者だった。あなたの教えを心に刻んでこの星を導いていきます」
「イール。あなたは自分が思っているよりもずっと繊細でおられる。あなたもまた強い神になって欲しいと願っています」
「はい」
「人は時と共に変わり行く生き物です。その心も精神も…。あなた方もまた不死為ればこそ、変わり続けていかなければならないのですよ」
「「わかりました」」
「では、ごきげんよう、クナーアンの神々。お先に失礼いたします…」
 最後の挨拶を残し、セラノは自分を見守るふたりの神々を幸せそうに最後まで見つめ続け、そして眠るように逝った。

 ふたりはセラノの遺体を骨まで焼き尽くし、その灰を神殿の近くの湖へ蒔いた。
 その年の夏、湖には白い睡蓮の花が咲き誇った。
 セラノからふたりへの「信頼」の贈り物だった。



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This cruel world 7 - 2012.04.14 Sat

イール座る3

7、
 昇殿から帰ったふたりの話をひととおり聞いたセラノは、ずっと笑いを堪えていたたが、最後にはとうとう声を出して笑ってしまった。
 敬愛する教師の様子をふたりの神々は「笑うなんて失礼じゃないか」と、詰った。
「これはすみません。なにも馬鹿にして笑ったわけではありませんよ。私には…ふたりの語られることがお伽話のように聞こえるのです」
「そうなの?」
「ええ。あなた方が会われたという、この世界をお創りになられた『天の皇尊』のお姿を拝見した人間はひとりもおりませんし、その存在を確かめようもありません。でも、あなた方から聞くすべてが、幼い頃憧れた夢の話に似て、憧れやときめきを思い起こさせてしまうのです。おふたりがこの先もそのままの姿であられる事や、不死の話。またアスタロトさまが突っかかった話など…まるで神話を聞いているようだ」
「…突っかかったって…子供の我儘みたいに言わないでくれよ」
「アーシュのは反抗期の言いがかりにも似ているよ。こちらは傍にいてハラハラしどおしだ」
「…ごめん」
 しょぼくれるアスタロトの様子に、セラノはまた声をあげて笑う。
「多くの民衆が天の上の御方と崇め奉られるあなた方が、こんなにも無垢な心根を持った少年たちだと知ったら…我欲や争いの種が随分と少なくなることでしょうね」
「そんなに簡単に?」
「そうですよ。あなた方が思うよりも、民衆は祈る象徴を求めています。それがふたりのような美しい造形であるなら、言うに及ばない。完璧だ。おそらく天の皇尊はそれを見越してあなた方の成長を止めたのでしょうね」
「とことん腹黒い嫌な親父だ」
「アーシュ、口が悪いよ。僕は別にこのままで構わないと思うけどな。不死と言われたのだから、見目ぐらいは綺麗なままがいいじゃないか」
 イールはアスタロトと違って、この恩寵を当たり前に感謝していた。
 セラノはこのふたりの神々の性格の違いを理想の恋人達だと心から祝福していた。

「とにかく私は幸せ者ですよ。神々であるあなた方に仕える者の特権でしょうけれど、普通の人間では味わえない貴重な体験を味わうことが出来る。本当にあり難いと思っていますよ」
「こまっしゃくれた悪ガキの生徒でも?」
「ええ、勿論ですとも。より一層やりがいがありますから。さて、今日はどこから始めましょうか?」
「そうだね。恒星ハーラルの寿命など、知りたいね。いわば待ちに待った自分の終の時でもあるのだろうからねえ~」
 真剣に腕組み考え込むアスタロトに、イールは笑いを堪えている。
「はあ…全く持って、困った神様ですね」
 大げさな溜息とは裏腹に、セラノの表情は雛を見守る親鳥のように温かい。


 天の皇尊に大口を叩いた所為かは知らないが、翌日からアスタロトは今までよりも勝手を振舞うようになってしまった。
 まず最初に窮屈な拝謁の時間をすっぽかした。
「ただじっと玉座に座っているなんて、つまらない。民衆の祈りを聴くだけなら本物の僕じゃなくてもいいよね」と、着ていたローブをいつも座っていた玉座に置き、魔法をかけて自分のホログラフを映した。
「じゃあ、イール。後はよろしく」と、もう一方の玉座に座るイールにウィンクをしたアスタロトはセキレイに乗って空へと消える。
 良く出来たものだなあ~と、隣りの玉座に座る偽者を見つめながら、イールは右往左往する周りの役人へ一喝する。
「騒ぐことは無い。いつものように粛々と為すべきことをせよ」

 自由の権利を得たのだろうか、アスタロトとイールは自分たちにできうる様様な惑星の社会統制に取り掛かった。
 勿論、彼等を助ける賢者の意見も取り入れたし、何より他の惑星がどのような社会機構なのかを移民してきた人々から直接聞き、参考にした。
 まだ歴史の浅いクナーアンに住む住民の殆どが他の惑星からの移民だった。
 彼等の話を聞けば、どの惑星が住みやすく、また住み難いのかが一目瞭然だった。
 繁栄する惑星とそうでない惑星の比較はシビアである。
 彼等は住む場所が自分達の望んだものではないと知ると、何の未練もなく他の星へと移り住む者たちだ。
 だからクナーアンに住む人々が、自分達の努力と比例した対価を与えられることが重要であり、即ちそれは根源の理想郷を創り上げることだったのだ。
 そして、この惑星を愛する民衆の意識を育てなければ、星の繁栄はない。
 ふたりの神々は誠実であり、真摯であり、勤勉であった。
 彼等の惑星への関心や統治する心は、大地の恵みにもなる。
 民衆はクナーアンの神々を敬い、この惑星を良い国にしようと働いた。
 つまらぬ戦は時折起きるが、イールの法とアスタロトの力がすべてを鎮め、畏れ、自省することを促した。
 街を興す産業が盛んになると、生活や福祉や教育が必要になる。
 いくつかの小国の長が決まり、彼等は神殿へ奏上する。
 イールとアスタロトはそれらをひとつひとつ確かめ、必要な加護を与えた。


 長い時を経て、イールとアスタロトの色々な物語が語られるようになった。
 これはほんの一部である。

 或る時、大海の主である海龍と遊び、浜へ上がってきたアスタロトを待つ老人がいた。
 彼はアスタロトの前に平伏し、崇めた。
 濡れそぼった粗末な衣服を着たアスタロトを看破しただけでなく、待ち受けていた老人にアスタロトはその意図を聞いた。
 彼は言った。
「私の命はもう間も無く終わります。悔いのない一生ではありました。しかし、死んだ後のことを色々考えますと、なかなか心が休まることがござらん。どうか、アスタロトさまの加護を頂きたく存じます」
 話を聞くと、老人の財産を巡って息子たちや孫たちまで血なまぐさい争いをしていると言う。
 アスタロトはニコリと笑い、平伏する老人の肩を叩いた。
「わかった。おまえの祈りを聞き届けよう。安らかに眠るが良い」
 老人は感謝の言葉を言い、涙を流しながら、安らかに息絶えた。
 アスタロトは老人の亡骸を抱いて、老人の家へ行った。
 老人の家は贅沢ではなかったが、老人の生きた誠実さを物語っていた。家中では老人の家族がお互いを罵りあう声が聞こえていた。
 息絶えた老人を抱えた薄汚い恰好をしたアスタロトを見た家族たちは、アスタロトを殺戮者と罵り、物を投げた。
 勿論、何物もアスタロトの身体を掠めることすらできなかった。
 罵ってはみても家族の誰もが老人の死を心から悼んでいる者はなかった。
 アスタロトは老人をベッドへ寝かせると、家を燃やした。
 家だけではなく、家具も財産も畑もなにもかもを焼き払った。
 家族は驚き、逃げ惑った。
 アスタロトを死神とわめき散らした。
「私は老人の願いを叶えただけだよ。お前等が老人の子孫であるならば、また財を成し得よう。その努力に背かないものを、私は与える者だ」
 火の中に神々しく立つアスタロトの姿は、老人の家族の者たちを畏れさせた。
 残された家族は、アスタロトの言葉と亡くなった老人の遺志を刻み、二度と争わぬことを誓い、懸命に働いたと言う。


 また、ひとつ話があった。
 街のはずれ、雨の中を歩く濡れたアスタロトは道しるべの石の影に縮こまる少女を見た。
 少女は猫を抱きながら唄っていた。
 少女は盲人であった。
 親にも捨てられ、行くところもなく、濡れ惑い凍えているのだった。
 彼女は彼女の心の支えは胸に抱いた猫であった。
 猫は食べ物を盗んでは少女に与え、少女はこれまでなんとか生き延びてきたのだった。
 抱いた猫は息も絶え絶えに震えていた。
 少女は泣きながら猫を弔う詩(うた)を唄っていたのだった。
「たったひとりの大事な友達を救う力もない。たったひとつの光が消えてしまうのに…君がだんだんと冷たくなっていくのに、何もできないあたしは、ただ雨に濡れ、君を失う悲しみを詩うしかないのです」
 アスタロトは少女の前に立った。
「おまえの願いはなんだ?」
「…あたしの願いは…この小さな私の友人の命を…救って欲しい」
「生まれて死ぬ定めを変えることはできない。そのものの死は避けられぬのだよ」
「…では一度でいい。この友人の姿をこの目で見て、見送ってあげたい」
 アスタロトの指が少女の瞼に触れた。
 少女はゆっくりと目を開け、腕に抱いた大切な友人を見つめた。
 雨に濡れた猫は少女の顔を見て、ニャアと泣き、事切れた。安らかな顔をして。
「ああ、君はこんなにも美しい姿をしていたの?こんな小さな身体で君はあたしの為に、懸命に食べ物を運んでくれたのだね…」
 少女は愛おしそうに小さな亡骸を抱きしめた。
「さて、そろそろおまえの友人は天に召される時間だ」
 アスタロトは少女の腕から猫を奪い、自分の頭に乗せた。
 猫はアスタロトの頭の上でゆっくり立ち上がり、翼を広げ、天に昇っていく。
 いつの間にか雨雲は消えていた。
 少女の大切な友人が青い空へ吸い込まれていくを、少女は祈りながら見送った。
 その様は彼女に天啓を与えた。
 喉から発せられた言葉の端々から、彼女の清らかな心が世に伝わった。
 周りの人々は少女の声に魅せられた。
 少女の目が再び暗闇に閉じられた時、彼女の心には消えない光が灯った。
 彼女は奇跡を歌う吟遊詩人になった。


 或る裕福な男は、クナーアンの神々を崇拝していた。
 特にアスタロトを一心に拝み、そのご加護を頂きたいと常々願っていた。
 招きに応じたアスタロトは彼の豪勢な屋敷に向かった。
 男はアスタロトを家に招き、自慢の子息を紹介した。
 銀色の巻き毛に薄青色の瞳をした少年は、目が覚めるほどに美しかった。
 それに笑い方がどことなくイールに似ている…と、アスタロトは思った。
 クナーアンの神々が美しい少年を愛すると知っていた男は、アスタロトの好みの少年を生み出すために、イール神に似た女と結婚したのだった。
 アスタロトは男の努力を一応は買ってはみたが、この贈り物には苦笑した。
 少年は初めは恥じらいを見せてはいたが、そのうちずっと昔からの思い人のように熱いまなざしでアスタロトを見た。
 アスタロトは少年の頬を撫で、こう言った。
「確かにおまえは美しいね。私を欲しがらなくても他の誰とでも充分幸せは得られよう。そもそも私には比翼連理の大切な想い人がいるのだよ」
「私はアスタロトさまの為だけにこの世に生まれた者です。どうぞ後生です。私にお情けを賜りたく存じます」
「ふ~ん」
 アスタロトはその少年の口唇にひとつキスをして、彼を狂わせた。

 さて、アスタロトはイールに男の屋敷での話をした。
「その少年はそんなに魅力的だったの?」
「いや、それほどでもないんだが…そうだね、目と髪の色、それに笑い方が君に似ていた」
「…」
 イールは素直に嫉妬した。
 その夜、男の屋敷に忍び込み、その少年の姿を確かめた。
(…この少年のどこが私に似ているのだ?見縊られたものだなあ~)
 イールは少年の髪の色と瞳を魔法で変えてしまった。また、その母親と父親の遺伝子からイールに似た部分を取り覗いた。
 神殿に帰り、アスタロトに今し方してきたことを話すと、アスタロトは声を上げて笑った。
「イールは寛大だね。僕が君の立場だったら、あの趣味の悪い屋敷もろとも焼き払い、皆殺しにしていたよ」

 イールとアスタロトの生きる時間はとても長く、彼等の持つ魔力もまた偉大だった為、寛容なる統治だけでは飽き足らぬふたりは感情にまかせた快楽もまた、味わう権利があったのだ。

 …神々であるが故に。




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This cruel world 6 - 2012.04.10 Tue

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6、
 再び目覚めた時、ふたりは風そよぐマナの木の下に重なり合っていた。
 辺りは朝のおとずれに紫から橙へと色を変え、あらゆる生き物が澄みきった空気を味わおうと、目を覚まし始めた。
 ふたりの神々もまた、うっすらと目を開け、お互いの顔を見ては微笑した。
 絡めあった指先をお互いの口唇で味わうと、広げた手の平から先程見た「サクラ」の花びらが一片舞い落ちた。
「夢ではなかったらしい」
 うす紅色の花びらを掴み、息を吹きかけると、青く澄んだ空に吸い込まれていく。
「美しいね…イールの魂のように」
「君のそれよりは見劣りするけれどね」
「朝空を映す湖の揺らぎのようなイールの瞳が好き」
「君の夜天に広がる星の如く煌く瞳に、何時の時も吸い込まれそうになるんだよ」
「アオサギの真綿のように銀に輝く巻き毛を絡ましてキスをしたい」
「濡れた黒鶫の羽を広げた黒髪を、いつまでも撫でていたい」
 比喩的な言葉には多分に幻想を夢見がちであるが、十二になったばかりの恋人達には当然の情感であった。
 ふたりはお互いの中に、理想の愛を見つけていたのだ。
 
 一度開かれたふたりの官能の扉は、二度と閉じられることはなかった。
 不死の神々はお互いを「一生の恋人」と誓い合い、求め合い、愛し合うのだった。
 
 ふたりの神の交わす恋の高鳴りは、惑星クナーアンを春から輝く夏へと導く。
 ふたりの気高い熱情により、大地は潤い、海は濁る事も無く、街は幸福なにぎわいに沸き、人々の喜びの歓声が満ち溢れた。
 他の星から移り住む住民たちも日に日に増え続け、人々は、この星を「輝くの神の星」と、崇め奉るのだった。

 アスタロトはこのクナーアンに生きる人間が好きだった。
 彼らの幸福を祈らずにはいられなかった。
 自然を愛し、その恵みを受けて生きようとする姿。
 また自然の災いに懸命に立ち向かう姿。恋愛、友情、いたわりあいや慈しみは常にアスタロトの心に感動を与え、奮わせた。
 同時に人間同士の憎しみや犯罪もまたアスタロトの中で理解しなければならない現実として受け入れた。
 人間は相反するものを無神経に選別し、屁理屈を問いただしながら導き出した答えを正しいと思い込む生き物であった。
 だが、アスタロトはそれをも許そうと思った。
 定められた命であるのならば、彼等の行いは一輪の花の生涯と同じであろうと…

 ふたりの神は間も無く十八になろうとしていた。

「なぜ人は善だけは生きていけない利己主義の生き物なのだろう…」
 アスタロトは彼らの教師に問う。 
「善とはなにか?に、なりますが…アスタロトさまの目の前に今にも飢え死にしそうな子供がいるとしましょう。あなたはどうしますか?」
 教師の中でもセラノは、最も信頼するひとりであった。
「…取り敢えずは何か食べ物を…パンでも買って与える」と、アスタロトは答えた。
「その子はあなたに礼を言い、そのパンを大事に抱え、自分の幼い弟、妹に食べさせた。すると自分の口にする一欠けらのパンもなくなってしまった…」
「その子の分も、またその弟等の分も買ってあげればいい」
「その子供はあなたにお礼を言い、パンを食べ飢えを凌いだ。が、その子はあなたにこう訴える。『病気の母が今にも死にそうです。どうか助けてください』と。あなたはどうする?」
「…医者に連れていく。もしくは僕の魔法で。そして病気を治す」
「その子供はあなたに泣きながら感謝し、そして言う。『私達は貧乏で、雨風を凌ぐ家すら持たない。このままでは家族皆死んでしまう』と」
「…」
「あなたは家を与える。その子は言う。『仕事を下さい。どんなことでもやります。汗水垂らして働きます。家族を養う為にがんばりますから、仕事を…』あなたは与える。『冬が来ます。寒い日でも耐えられる服が欲しい。家族の誰も凍えさせたくないのです』『もっと大きい家が欲しいのです。弟や妹の家族が増えるのですから絶対に必要なのです』『私を羨む人々がいます。私は何もしていないのに、私を憎悪し、攻撃してくるのです。彼等に不幸をお与えください』…。さて、何が善で何が悪なのでしょうか?」
「…そんなもの、悪でも善でもない」
「そうです。人の有様です。本質です。誰が悪いわけでもない。ただあなたが最初にあげたパンは、あなたがすべきことだったのか、どうかです」
「パンを与えなければ良かったというのか?」
「他の人間がその可愛そうな子に同じ施しを与えたとします。同じような経過を辿ろうがそれを善悪と呼ぶ必要はないのです。重要なことは神であるあなたが、ひとりの人間だけにパンを与えたこと。救ったことなのですよ、アスタロト」
「何故?」
「神は公明正大で、人間を等しく愛すべき現身であり、尊敬と崇拝の存在だからです。あなたの善が憎しみの原因になってはならぬのです。もし、あなたが途中でこのカラクリに気づき、その子供への施しをやめたとします。その子は中途半端なあなたの施しに怒り、そして今までのあなたへの感謝など忘れ、こう言い放つかもしれない。『こんなことなら、最初からパンなど与えなければ良かったのだ。あの時死んだ方が何倍もマシだった』と」
「…」
「神の気まぐれな行為が続けば、それは最早尊厳ある神ではなくなってしまいます」
「人が助けを求めても、救うなってこと?」
「傍観者でいることが神たる者なのです。あなた方の高貴な光り輝く存在が、人々の憧れ、祈り、幸福の象徴になるのです。あなた方が、本来の神の姿でおられることをお望みならば、そうなさるべきでしょう」
「…そうでなかったら?」
「神の座をお捨てになられるか?もしくは、神の概念を変えておしまいになるか…でしょうか…」
「ふ~ん。それ、面白いね。神以外の者になれるのなら、なってみてもいいけどね」
「アーシュ、冗談はやめてくれ。僕達が神以外の者になれるわけもない。セラノ、あなたのおっしゃることは退屈な日々のスパイスにはなるが、良い未来の教えではない。私達はあなた方とは違って、多くの時間を生きなければならないのだ。苦悩は少ない方がいい。違いますか?」
「イールさまのおっしゃるとおりです。歳を取りますと、取り越し苦労も多くなってしまいます。精神の忍耐力をつけるのも些か度が過ぎましたね。申し訳ありません」
 セラノはまだ四十代だった。
 だが、確かにふたりの神々よりもずっと歳を取っていたのだ。
 そして現実としてふたりはこのセラノの何倍も生きなければならないのだ。

 セラノの去った部屋にイールとアスタロトは残った。
「落ち込んでいない?」
 イールはアスタロトの様子を伺う。
「別に…大丈夫だよ。心配性だな、イールは」
「君を案じるのは僕の本性だよ。僕は知っている。君ほど人間に心を砕いている神はいない。それをやめろって言われても、無理だろ?だって、君にとって人間の幸せは生きていく糧でもあるのだからね」
「でも、セラノの言い分は正論だ。人ひとりを助けた為に憎しみが生まれる。神である僕がその原因だとしたら、それは聖なる指針ではなくなってしまう」
「見殺しにすることが正論だとは思えないけれど…」
「…」
 考え込むふたりの目の前に突然金の粉が舞い落ち、ゆっくりと文字を形どる。
「天の皇尊からの信書だ。…十八になる明後日に、昇殿するように、だそうだ」
「また何かプレゼントをくれるのかね?彼の御方はなんやかやと僕たちに贈るのが好きだから」
「御方の前でそんな迷惑そうな顔など見せるなよ。ありがたく戴くのが必定だ」
「わかっているよ、イール。僕だって十八にもなるのだよ。いつまでも我儘な駄々っ子ではないつもりだよ」
「君の本性は潔癖であり、イノセントだからね。理に叶わないと腹を立てる。だけど僕はそういう君が好きでたまらない…だから困るんだ」
「おい、イール。図書室で愛の語らいなんて…その気にさせているの?」
 アスタロトはイールの頬に口唇を近づける。
 イールの手がアスタロトの口唇を押さえ、ニッコリと笑う。
「真実を言ったまでだよ、アーシュ。愛の営みはベッドの方が気持ち良いだろ?」
「君とだったら僕はどこでも気持ちいいけれどね」
 思わぬお預けに、アスタロトは口唇を尖らせた。

 
 礼服を纏ったイールとアスタロトは十八の寿ぎを頂くに、昇殿した。
 礼儀を尽くし跪き頭を垂れ待っていると、辺りがひときわ明るくなる。
 アスタロトはいつもながらちょっとだけ頭を上げ、その姿を垣間見た。
「…なんだ。ミグリじゃん」
「…」
「頭下げて損した気分だ」
「悪かったな、私で」
 昔と変わらずに長い白髪を後ろにまとめた精悍な顔つきのミグリが、銀色の瞳で顔を上げたアスタロトをジロリと睨めつけた。
「天の皇尊はいらっしゃらないの?随分お見かけしていないから、今日は絶対お会いしたいと張り切っていたのにさ」
「そんなに何度も拝顔できるわけもなかろう。彼の御方が姿を現されることは、滅多にないのだぞ」
「ふ~ん。で、今日は何くれるの?」
「…」
(アーシュ。大人気ないぞ)と、隣りで俯いているイールがアスタロトの裾を引く。

「…天の皇尊はそなたたちの成長を真に喜ばれておられる。ふたりの密なる関係にもな。十八のそなたたちの麗しさはクナーアンの常世の繁栄さえ伺えよう。御方の幸いなる祝福はふたりの神々がそのままの姿で、これからの未来を導くことである」
「…どういうこと?」
 アスタロトはミグリの言葉を不思議に思い、問い正した。
「ありがたいことに、おまえたちはこれから先もその姿のままでいられるってことだ」
「それって…僕達はこれ以上成長しないってこと?」
「そうではない。精神は勿論成長するし、身体は細胞レベルで死滅と再生を繰り返すものだ。人も同じだ。だがおまえ達の身体は老化しないって事だよ」
「…」
「別に驚くことではない。他の惑星の神々も同じような作りだ」
「でも…僕の父上も母上も、僕のような若い姿ではなかった」
「僕の両親も同じです。もっと…歳を取っていらっしゃった。彼等も成長してあの姿になったのではないのですか?ならば、僕達ももっと歳を取っても良いはずだ」
「イールは今の姿がお嫌いか?」
「…いいえ、好きです」
「人間は第二次成長の終わる時、そして大人になる寸前の姿が一番美しいとされる。御方はふたりに人々の憧憬となって欲しいのだよ」
「そんなことは聞いていないよ。なぜ、父と母たちと僕等が違うのかっていう話だ」
「…あなた方の両親…他の神々の方々は皆、初めからあのような姿で御生まれになったのだよ。天の皇尊が神々を生み出されるその時から、あなた方の父も母も、ずっとあのままのお姿だった。…あなた方は母神の腹から赤子として生まれ、幼児期を過ごし少年になり、そして成人になった。これは他の神々とは決定的に違う過程なのです」
「どうして?」
「あなた方が特別だからとしか、言いようがありません。彼の御方はおふたりに特別の愛情を注がれたのだから、あなた方はその恩を忘れてはいけませんよ」
「うるさいっ!」
 アスタロトは立ち上がってミグリを睨みつけた。
「いつもいつもつまらん御託ばっかりだ。御方の恩なんか知るか。手前勝手な自己満足だろう。まあ、いいさ。そんなのグダグダ言っても仕方ないしな。ただこちらも言いたいことがある」
 ミグリは食って掛かるアスタロトにも微塵も驚きもせず、黙って聞いていた。

「俺等ふたりがこの星を統治する神々であることを決めた天の皇尊ならば、この先、このクナーアンをどう導こうとも、何をしようともすべての罪は我が肩に背負う 。だから一切口出しなさるべからず。それを誓え。それと、そちらが気に入らず、我が命を終わらせたいと思うなら、いつでも好きにするがいい」
「そなたの言葉は御方に伝えておく。ひとつだけ言おう。天の皇尊でさえ、そなた達神々の命は決して死なせることはできないのだ。神々は不死だ。終わらせ方は自分で決めるしかないのだよ、アスタロト」
「…どうやって…死ぬことができる」
「それを聞いてどうする」
「…肝に銘じる」
「十八年しか生きてこられていない神の肝では到底おぼつかない。一千年経った後にでも、また同じ問いをするがよい」
「…」
 ミグリの声音が変わった。
「天の皇尊の命より、イールには平等なる法を、アスタロトは戦いの勝利の加護を与える」
 ミグリの捧げる手の平から温かな光がふたりを照らす。
 光はふたりに天の皇尊の過分な慈愛を感じさせていた。
 それはまた逃れられぬ運命の楔にも似て、ふたりの神々はやりきれないわだかまりにお互いを見合わせるのだ。


アスタロト・イール85


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This cruel world 5 - 2012.04.05 Thu

芽吹く
5、
 初めて交わす行為を、アスタロトは当たり前に受け止めようとしていた。
 イールの欲しがるものすべてを与えることがイールへの愛だと思った。 
 重なるイールの体温も、押しつけられた口唇も、生々しいイール自身もアスタロトの肌を熱く焦がし、痺れさせた。

 押し開けられた行為には混乱するし、思わぬ痛みもアスタロトにとって衝撃的なものだった。
 それでも耐えようとした。
 イールに嫌われたくなかった。
 顔を合わせてくれなかったここしばらくの間の不安感が、アスタロトを従順にした。
 アスタロトはイールの愛に餓えていた。そしてイールの欲しがる「愛の形」になろうと、心がけた。
 それが使命だと思ったし、自分の意思だと信じていた。
「イール…イール」
 アスタロトはひたすら名前を呼び続ける。
 
 初めてのセックスを強いたイールは、身体の下になるアスタロトを見降ろした。
 夕陽に染められた木漏れ日が、ぐったりとしたアスタロトの顔をおぼろに揺らめかせている。
 長い睫毛が濡れ気を帯び、しっとりと目じりに流れている。
 イールは少し後悔した。
 彼にとって、これは快感を得られたものではなかっただろう。
 無我夢中でアスタロトを抱いた。アスタロトの中に自分を打ちつけることしか脳裏に浮かばぬほどに…
 手練手管を知る愛撫など経験のない自分にできるはずもない。
(僕がもっとアーシュよりも大人だったら、こんなに混乱することもなかったのかな。痛みしか与えられないなんて恋人としては失格だ)

 汗を掻いたアスタロトの額を指で拭くと、アスタロトがゆっくりと目を開けた。
「大丈夫?」
「うん…いい香りがする」
「…ああ、そうだね…」
 イールは上半身を起こして辺りを見回す。
 目に映る光景は、驚くほどに一時前とは違っていた。
 空気が甘く、清しい薫風がそよいでいる。
 ところどころにしかなかった緑が今は土色が見当たらないほどに茂っている。 
 あたり一面に丈の短い草の絨毯が広がっていた。
「アーシュ、見て。凄いよ」
 アスタロトはだるそうに首だけを動かし、マナの樹の根元に手を伸ばして一握りの土を掴んだ。
 手の平で土を握り締め、そしてゆっくりと開いた。
 じっと見つめるとなにやら土から新芽が出ている。
 瞬く間に細い茎はひょろひょろと伸び、その先に小さな双葉を開かせた。
「薄荷草だよ」
 アスタロトがそう言いながら、双葉に口づけると、双葉はまた伸び始めた。
「君の魔法?」
「いや、魔力は使っていない。僕は豊穣の神だからね。たぶんこの世界の植物や動物が僕と君の契りを祝しているのだろう。ほら、見て。マナの樹に実が生っている」
 イールは自分達の枕元にあるマナの樹を見上げた。
 先程まではただ青々とした葉が揺らいでいただけなのに、今は青い果実が至るところに垂れている。

「アーシュ、君はこの惑星すべての存在に愛されているのだろう。僕は君の半身だけど…君ほどの魔力も愛される魅力もないらしいな。少し妬けるよ」
「良く言うなあ~。イールはこの地上のすべての生き物に生きる智慧と癒しを与えているじゃないか」
 それを聞いたイールは笑った。
「おかしい?」
 アスタロトは仰向けになったまま首を傾げる。
「いや…」
 存在価値を比べるほど馬鹿ではない。ただアスタロトは自身の精神に見合った愛情を、この惑星に生きる物から受けとる資格があるというだけだ。
 そして、イールはそのアスタロトを抱く唯一の者だ。
 妙な優越感を味わうものだと、イールは笑ったのだ。

「間も無く夜が来るよ。僕らも帰ろうか」
 イールは脱いだ服をまとめ、自分も袖を通しながら、寝間着を裸のアスタロトにかけてやる。
「嫌だよ。まだイールとふたりきりでここにいたい」
 アスタロトは服も着ずに駄々っ子のように頭を振る。
「でも…充分な食べ物もないし、着替えもない。それに皆も心配するよ」
「心配させときゃいいのさ。イールとセックスしたのか、いつするのかって、あいつら好奇の目で僕を見るんだぜ。居心地悪いったらありゃしない。お腹が空いたら、マナの実を食べればいいし、イールとくっついてりゃ服なんかいらない」
「裸じゃ寒いだろ」
「いいの」
 そう言って、アスタロトはイールにしがみつく。
 陽も沈み、黄昏色から良い闇へ変わる。
 崖を吹きつける風がふたりの体温を奪う。
「岩屋へ行こう。セキレイもいるし、寒くてしかたなかったらあいつの毛皮に包まえばなんとかなるよ」

 イールはなかなか腰を上げないアスタロトを岩屋へ引きずり、そこで一夜を明かすことにした。
「お邪魔するよ、セキレイ。今晩は君と一緒にいさせてくれ」
 イールの挨拶にセキレイは返事もせずに、フイと顔を背けた。
「どうやらおかんむりらしい」
「イールが邪険にするからだ」
「邪険になどしていないさ。それより、喉は渇いてないかい?この崖の岩清水は美味しいんだ。どうぞ」
 イールは麻の巾着袋に入れた水筒をアスタロトに差し出した。
「用意がいいね」
「少しならビスケットもあるよ。毎日ここで力仕事をしていたからね、お腹も空くんだ」
 ふたりはビスケットと水を分け合った。
「どんなヴィッラを建てるの?」
「うん、見て。ここが居間で、こっちが寝室…」と、イールは畳んでおいた設計図をアスタロトに見せながら説明した。
 袋には蝋燭もあった。すっかり暗くなった岩屋に、一筋の光が灯る。
 
「デザートだ」
 アスタロトがマナの樹から捥いだ青い実は、今は充分に赤く熟していた。
 ふたりは水蜜糖の皮を剥き、それを交互に食べた。
「瑞々しくて美味しいね」
「うん、けれど…なんか変だ」
 ふたりはお互いの顔を見合わせた。
 妙薬とも伝えられる水密糖は身体を温めるだけではなく、欲情をも煽らせた。
 ふたりの身体に再び火がつき、イールとアスタロトは指先でお互いの身体をなぞりあった。
「さっきより…興奮してる」
「僕もだ」
「君を…めちゃくちゃにしてしまいそうで怖い」
「イール…」
 イールに押し倒されたアスタロトは、イールの首筋にキスを浴びせ、耳元に囁く。
(ねえ、セキレイがこっちを見ているよ)
 イールは後方に十歩ほど離れたセキレイを見た。
 顔を上げたセキレイの金色の瞳が、ふたりの姿をじっと見つめていた。
 その視線がイールの欲情を益々煽り立ててしまう。
 アスタロトの後庭をまさぐり濡らすと、乱暴に突き立てた。
「うっ…」 
 短い呻き。
 キツイ締めつけさえイールには官能を誘う手立てにしか思えない。
 口唇を噛むアーシュの口を無理矢理割り、その舌を吸い、絡ませあう。
 紺碧のまなこから溢れ出た涙は、僅かな灯火に乱反射した。
「アーシュ…好き。好きだよ」
 アスタロトの流す涙は、イールを愛の奴隷にした。
 アスタロトの乱れた息づかいがイールを欲望の淵に追いやる。
 理性など捨ててしまえる。
 細腰を掴まえ、何度も穿つ。
 その度に声を上げるアスタロトもまた、痛みを超えた感覚に身体中を支配されつつあった。
 痛みを感じながらもイールの強い愛を身に受けていると知った。
 ひとつになりたいのはアスタロトも同じ。
 いとおしげに名を呼ぶイールの声が、アスタロトの官能の扉を開いていく。

 甲高い嬌声が岩屋を響かせ、ふたりの姿が消えた。


「ここはどこ?」
 さわさわと靡く草むらの中に裸のまま、睦み合ったふたりが居た。
 地平線の向こうには無数の星々が見える。
「あの恒星はハーラル星…ではないよね。学んだものとは違う」
「どうやら僕達は次元を超えてしまったようだね。…離すよ」
「嫌。抜かないで、イール。離れたくない」
 すがりつくアスタロトをイールは宥める。
「どこにも行かないよ、アーシュ。でも、ほら、好奇心には勝てないだろう?ねえ、少し歩いてみようよ」
 アスタロトの中から抜く瞬間、心残りに顔を曇らせたアスタロトが何よりも愛おしく、「またすぐに繋ぐからね」と、頭を撫でた。

 宇宙は深遠の闇であっても星々の光はすさまじく、一点を見つめてはいられないほどだ。
「僕らの存在なんて、この宇宙にしてみれば、塵のひとつに過ぎないんだろうね」
「存在の意義を問うならば、僕は同じ重さだと思うことにしている。大きさは…問うに然らず」
「僕らと同じような惑星系体はあるのかしら」
「僕らが特別だとは思えない。これだけの空間に浮かぶ現実がどれだけあるのかはわからないけれど…」
「覗いて見たい気がする」
「アーシュ、君の好奇心は当分クナーアンだけにしておくれ。我々の星はまだまだ未開地だよ」
「わかってる」

 ふたりは裸のまま手を繋ぎ、宇宙の闇に浮かぶ草原を漂った。
 二人が歩くたびに草むらからはミントの香りが立ち上がる。
 中央に一本の幹が伸び、薄色の花が満開に咲いていた。
「これ、何の花?初めて見るね」
「そうね。とても綺麗だ」
 イールが幹に触れると、一瞬幹が震え、そして枝がざわめき始めた。
 程なく、花びらがちらりちらりとふたりに降り注いだ。
「なんだ。イールの花だったのか」
 アスタロトはその薄紅色の花びらを手に取り、匂いを嗅いだ。
「ふふ、やっぱりそうだ。イールの匂いがする」
「ホントに?」
「うん。イールの花だよ。そうだね…サク、ラと名づけよう。春を祝う花だよ」
 舞い散る花びらの下、イールとアスタロトは何度もキスを交わした。
 祝福の花びらが散り終わるまで、ふたりはサクラの下で繋がり合ったまま、互いを存分に味わい続けるのだった。
 



イールa-shisens6

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This cruel world 4 - 2012.04.03 Tue

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4、
「ねえ、マサキ。イールの姿が見えないんだけれど、どこに居るのか知らない?」
 翌朝、ベッドから起き出したアスタロトは、イールを探したけれど、見つからないままひとりで朝食を取る羽目になった。
「イール様なら、朝早くに神獣に乗って、どこかへ行かれましたよ」
「…そうなの?」
(なんだよ、イールの奴。昨日一緒にどこかに行こうって誘ったクセに、ひとりで行っちゃうなんてさ)
 いつもなら様子の違うアスタロトを気遣う世話人のマサキも、今朝の不機嫌なアスタロトを見て見ぬ振りのまま、何も言わずに普段と変わらぬ様子でいる。
 その態度がアスタロトにはどうにも居心地悪く、それ以上イールの事を聞きだす気にもなれず、出された料理を急いで腹に入れた。
 クナーアンの神の成人を祝う民衆の参拝は、日々神殿に溢れ帰り、謁見さえままならないのに、アスタロトは隣りの空いた玉座を恨めしそうに見つめた。
(このクソ忙しい時に、なんでイールはサボっているんだよ。昨晩だって、勝手に怒って消えちゃったし…イールのバカ…)

 夕方、イールはセキレイに乗って戻ってきた。が、アスタロトを見ても微笑すらせず、さっさと夕食を済ませ、自室へこもったきり出てこない。
 翌日も、その次の日も、イールは姿をくらました。
 さすがに謁見の時間には玉座に姿を現したが、それが済むとすぐにセキレイに乗って、どこかへ消えてしまう。追いかけようにも、空を飛ぶ乗り物はセキレイしかいない。
 アスタロトは空に消えるイールとセキレイを見送るしかなかった。
「なんだよっ!イールのばかぁ!」

 イールとアスタロトは五つの時からこの神殿で共に過ごしてきた。
 これまで目につく諍いもなかったし、誰が見ても兄弟のように、親友のように仲の良いふたりであった。
 今までなら多少の口げんかがあっても、翌日には笑いあって仲直りできたはずだった。
 イールが機嫌を損ねている原因が、アスタロトにはわからない。

ash56.jpg


 人の足では絶対に登ることのできない、聳え立った崖の屋根にイールは居た。
 神殿からはそう遠くもないが、神殿よりも高く、また度々霞に消えるため、人の目からは見えない場所であった。
 ここからは山の上に白く聳える神殿が眼下に良く見渡せることができた。
(神殿のあの部屋にアーシュは居るのだろう。少しでも…僕のことを想ってくれているのかしら…)
 イールは自分の胸に手を置いた。
(どうして…アーシュを想うだけでこんなにも身体が熱くなるのだろう。どうして、コントロールできないほどに、欲情してしまうのだろう。今の僕は淫らだ。純粋なアーシュの前では、身の置き所がないくらいに…)
 イールはアスタロトへの欲望に自身を責めていた。
 成人の日を境に、アスタロトへの想いが一気に身体を開かせているのだ。
 アスタロトの身体に、オーラに、目線に、吐息に…身体が燃え上がるのを抑えきれなかった。
 アスタロトが大人になるまで待つよと、言った手前、自分から欲しがったりできない。
 イールには、アスタロトから逃げるしかなかった。
 それと同時に、イールはこの崖の屋根に広がる小さな丘をアスタロトと過ごす為の場所にしようとこっそり計画を練っていた。
 この丘には清らかなせせらぎも、雨風を凌げる岩屋もあった。香木や植物も僅かながら点在していた。
 マナという水蜜桃を実らせる大樹の傍に小さなヴィッラを建てようと設計図を作り、具体的な基礎をイールひとりで始めていた。
 もちろん魔力を使い、力仕事はセキレイに手伝ってもらいながらだったが。
(このヴィッラが出来上がったら、アーシュを迎えに行こう。気に入ってもらえると良いけれど…)
 そう思いながら、イールは溜息を吐く。
 アスタロトを思う気持ちが膨れ上がる一方、現実のアスタロトを思うと、虚しくなるのだ。
 自分の想いの半分も、アスタロトは自分を愛してくれているのだろうか。
(きっとアーシュは、僕と恋人になることも、ただの巡り合わせなのだと思っているのだろう。だからあんな言い方をするのだ。まるでセックスが義務みたいに…僕にとってはとても大事な魂を重ねあう儀式なのに…)

 そうして十日ほど過ぎた日、イールはひとりで神殿の玉座に居た。
 いつもは必ず隣りに座るアスタロトの姿が見えない。
 どうしたのだろう、と、思っても、最近のふたりを知る世話人たちにアスタロトの事を聞くのは流石にはばかられた。
 ふたりの仲が上手くいっていないことは、神殿に住む者ならば知らぬ者はいない。
 ふたりの教師たちもイールの顔を見ては、何も言わないが責めるような顔をした。
 ふたり一緒に机を並べない日など、今までは一度もなかったのだ。
「どうしたのですか?セックスのやり方でもお教えしましょうか?」などと毒舌のひとつでも吐いてくれた方がよっぽど救われる。無言の責め苦の居心地の悪いこと。
(上手くいってない原因はアーシュだ。僕じゃなくてアーシュを叱ってやれよ)
 イールは口唇を尖らせて、彼らを睨み返した。

 夕方、やっと勉強から解放され、セキレイに乗って、いつもの崖の上に飛んでいく。
 昨日の続きをやろうとマナの木の下で設計図を広げ、イールはひとりで考え込んでいた。
 ふいに見つめた設計図にいくつもの木の葉が落ちてくる。
(落ち葉には早いんじゃないのか?)と、不審に思いイールは木を見上げた。
 木の枝に影があった。その影がイールを覗き込む。
「…ア、アーシュっ!」
「やあ、イール。こんな良い隠れ家をひとりで楽しむなんてズルいじゃないか」
「どうして、ここに居るんだよ」
「だって…朝起きてセキレイに乗ったら、ここに連れてきてくれたんだよ」
「…」
 イールは後方に立つセキレイを睨みつけた。セキレイはすっくと起き上がり、岩屋の影に尻尾を向け寝そべってしまった。

「ずっと朝からねえ~、君を待っていたんだよ」
「もうわかったから、降りて来いよ」
「ねえ、その紙、あそこの建屋の設計図か何かなの?僕にも見せてよ」
 アスタロトは枝から身を乗り出して覗き込む。
「あ、アーシュ、そんなに乗り出したら危ないって」
「へーき、へー…わああ!」
 バキッと枝の折れる音とアスタロトの叫び声が同時に響きに、影は地上に落ちてきた。
 イールはアスタロトの身体を受け止め、そのまま土に寝転がった。
「いた~いっ!」
「バカ、だから言ったろ。危ないって」
「イールが抱きとめてくれるって信じていたから、平気だよ」
「意味が違うよ、アーシュ。…どこか痛くしなかった?」
「うん…足が痛い」と、アスタロトは右足の脛を擦った。
 イールはアスタロトの足を触り、癒しの魔法をかける。と、イールはアスタロトを怒った。
「…噓つき。どこも傷めてないじゃないか」
「バレた?」
 茶目っ気たっぷりに、アスタロトは舌を出す。
 完敗だと、イールは溜息を吐いた。

 アスタロトは下着も穿かず、薄い寝間着しか身に付けていなかった。
 肌蹴た胸の隙間からばら色の先が見える。イールは慌てて目を逸らした。
「そ、れで、君はなにしにここへ来たの?」
「なんでイールが怒っているのか聞くために来たの」
「…」
「それと…イールが傍にいないと嫌だから。…イールのことを愛しているの」
 アスタロトの言う「愛している」はどんな感情なのだろうか… 
 紺碧に輝くアスタロトの瞳に邪な感情を見出すことはできない。
 イールはどうすればいいのかわからなくなる。
「アーシュ、僕は…君を欲しいって思ってしまうんだ。だけど無垢な君を犯すことが怖いんだ。時が来れば君も大人になるし、それを待つって君に約束した。でも…」
「僕とセックスしたいって思う?」
「…そう、ね」
 直接的な言葉にイールは困ったように笑うしかなかった。

「僕もイールが欲しいよ。僕にだって性欲はあるよ。でもまだ一度も自慰をしていないんだ。だって…僕の初めてのすべては全部イールに捧げたいんだもの。だからイールが僕を欲しがってくれるのは、僕にはとっても喜ばしい感情なんだよ」
 アスタロトの言葉が嬉しくないはずはない。イールはアスタロトの告白に素直に感銘を受けていた。だからこそ益々怯えてしまうのだ。
 彼を背負う責任と使命に。

「アーシュ、君は僕が半身だってことを…一度も後悔していない?もっと…別の者だったらとか…思ったりしたことはないの?」
「なんでそんなことを思う必要があるの?僕はイールを見た時から…ううん、生まれた時からずっとイールだけだよ。そんなの当たり前じゃない。だって僕らはイールとアスタロトなんだもの。君を心から愛することは天の皇尊がお決めになったことだし…」
「…」
(それが問題なんじゃないか…)
「でもそんなことは関係なく、僕はイールと愛し合うって決めているの。この世界で一番大切なものはイールだから。マサキより、セキレイより、天の皇尊より…僕の一番はイールなんだ。だからイールと愛し合うのは必然だろ?」
「アーシュ…」
 アスタロトの言葉はイールの迷いを消し去った。

「アーシュ、君を抱きたい」
 イールの言葉にアスタロトはコクリと頷き、自ら着ていた寝間着を脱いだ。イールはふたりの下じきになってくしゃくしゃの設計図を大事に畳んだ。
 イールもまた服を脱ぎ裸になると、脱いだ服を土に広げ、その上にアスタロトと共に横になった。
 アスタロトは嬉しそうにイールの身体を抱きしめる。
 お互いの体温を感じなから、ひとつひとつの指を絡め、ゆっくりと身体を重ねあわせた。

 アスタロトの口唇がイールのそれと重なり合った瞬間、すべてが変わっていく。
 それぞれの身体の細胞のひとつひとつが芽吹いていく。
 口唇で触れ合った肌が艶やかに色めきだす。
 ふたりはお互いのものを確かめ、口づけ、飲み干した。

 「愛してる…愛している…」
 同じ韻を同じ回だけ重ねていく。

 広げたアスタロトの身体の中深く、イールは隙間無く自らを刻んでいく。
 
 



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