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topimage

2012-05

宣伝ポスター - 2012.05.28 Mon

次章「Phantom Pain」の宣伝ポスター描いてみた~


アーシュq

眼鏡もそろそろ外したい。

心理状態もえぐりつつ、現世界の状況も煮詰めながら、最終的にイルトとアルト、つまり魔力を持つ者とそうでない者の引き合う関係(戦い)をどう始末するか。
アーシュがイールと対峙した時、どんな感情が生まれるのか…
そしてイールはどんな選択をするのか。
ベルとメルとルゥはどこいった?
と、いうかスバルって子の造形を今、考えてる…
そして…
最終的にどこに降り立つの、この話…

などと自問自答しながら、続きます。

いや、続くつもりです。
BL色がますます薄くなる…いや、ならないように頑張ろうと自分に言い聞かせつつ、やっぱりファンタジー好きですなあ~(;´▽`A``

ま、いいや。自分に裏切らないようにがんばろう…

とりあえず、今週中には始めたいけどね…まだ全然…(;・∀・)



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This cruel world 17 最終回 - 2012.05.24 Thu

17
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イールpo1

17.
(バカな…セラノは一千年も昔に死んだ。私とイールで彼を弔ったのだから。まさか…人間たちが良く言う、他人の空似なのか、はたまた輪廻転生でもしたのかな。まあ、本人の魂ではないことは確かだ。でも見れば見るほど良く似てるなあ~。しかもこの人間の精神は実に美しい。この魔法陣を感じれば本性はわかる。ふ~ん、セラノに良く似た学者肌の人間か…このままこの男をクナーアンに連れて、イールを驚かせてやろうかな~)
 アスタロトは我が身に見惚れ呆然と佇む男を凝視し、そして懐かしさに思わず微笑んだ。

 そんなアスタロトの心中など知らぬ、魔法使いの人間、天の王学園の学長トゥエ・イェタルは、自ら召喚した精霊、魔者、いやそれ以上の力を持った存在をひたすら畏れた。
 自分の望むものを、この召喚した者が聞き届けてくれる保証などない。だが、この世界の秩序と平和を保証できるのなら、我が身を捧げても構わないと、トゥエは覚悟をしていた。
 だが、その覚悟を一時忘れる程に、目の前に現れた存在の煌きは現世のしがらみを忘れさせた。
 外見の麗しさだけではない。この者の根源に魅了されるのだ。
 それは闇の中で震える者が、心から欲するものを与えられたような喜びと興奮と驚愕が連動した感動だ。
 そして絶対に触れることができない聖域のような…。
(私の汚れた手でこの神々しい光に触れることなど、畏れ多い。しかし…私が召喚してしまった者は、この世の覇者、魔王、いや神なのだろうか…)
 トゥエは金色に輝く魔法陣に優雅に立つアスタロトの姿に、ただ見惚れて続けていた。

 その容姿に見合う清清しい声で、その者は言葉を発した。
「我が名はアスタロト。力ある者だ。古き魔法の縁により、汝の召喚に我(おれ)は応じた。望むところを申してみるがいい」
 アスタロトの名を聞いたトゥエは、心底震えた。
 「アスタロト」…この世界では偉大なる魔術師であり、闇を制する魔王として君臨していた者と言い伝えられている。
 それは過去にそれぞれの次元でのアスタロトの数々の気ままな行いから、人々が伝えてきた話だった。それが事実と異なって伝わったものであるにしても、アスタロトという存在を怖ろしくも興味深い魔者として世に知れ渡っていることは確かだった。
 トゥエは思った。
 今更本性を隠せるわけでもない。むしろ自分の胸の内すべてを曝け出し、この魔性の者に己を捧げなければ、志は受け取ってもらえまいと感じたトゥエは、自らの心を解放させた。
「私の望む物はただひとつ。この世の安寧でございます。人類が皆それぞれに豊かに暮していける世の中をこの目で見たいのです」
 
 アスタロトはトゥエの言葉を愚かだとは思わなかった。自身もまたその未来を求めてきた過去もあったのだから。
 答えは簡単だ。この人間に「下らぬ夢を見ぬことだ」と、言えば済む話だった。 
 誰かを救うことは誰かを貶めることであり、その選択は力のある者により決定される。しかし力のある者が善で、無き者が悪ではない。その逆もありえる。
 すべてを救うなど絶対にできないのだ。
 アスタロトはこの先二、三十年ほどの時間しか生きられぬ男に、絶望を与えることを躊躇った。セラノに良く似たこの人間を、アスタロトは無碍にはできなかった。
 彼はトゥエに幾つかの質問をした。
 この魔法陣が描かれた聖堂は、この街の古いインデペンデントスクールで「天の王学園」の中心にあり、トゥエ・イェタルは、この学園の学長だった。
「おまえは教師なのか?」
「そうです」
「なるほど…」と、アスタロトはまた嬉しそうに笑った。

「人を教育するのは面白いか?」
「面白いというより…やり甲斐を感じます。同時に大いなる悩みも生じます。子供たちに正しき道を示しているのだろうかと…不安に思わぬ日はございません」
「ふ~ん」
 トゥエは目の前の人ではない魔者が、何故このようなことを聞くのか、さっぱりわからなかったが、悪意は感じられなかった為、素直に答えた。もっともこの者に対して嘘を口にしたとしても、全く意味が無いことはわかっていた。

 アスタロトはトゥエのひととなりを知ると、益々興味が沸き、こういう人間が自分の側に居たら、クナーアンで過ごす平凡な日常も少しは面白くなるかもしれないと思った。
 しかし、彼はこの地の人間である。無理矢理連れ去るわけにもいかない。
(何よりこの男はこの星を愛している。我がクナーアンへ来いと言っても、無理だろうな。…そうだ。…人間になる魔法を試すには丁度良い機会だ。良い具合にこの魔法陣の魔力は我の魔力を何倍も増幅させるほどに強い。それにこの男の魂に寄り添えば、人間としてのコピー回路は難しくない。魔術師としても人間としても、これほどマトモな精神を持った者はザラにはいまい。条件は揃っている…試してみる価値はある…)

「トゥエ」
「はい」
「おまえの願望はおまえが手を下さぬという点に置いて、懲罰に値するものがある」
「…」
「平和も戦争もおまえ達人類に必要不可欠であることは、長い歴史を振り返っても知らぬ者などおらんだろう。我(おれ)はおまえの理想は咎めん。おまえの望みを与える魔力も我(おれ)は持っている。だが、もし、おまえの望みをここで示せば、おまえの精神は粉々に崩れ去る…この論旨がわかるか?」
「…わかります」
 トゥエはアスタロトの言葉に心から震えた。その本意を知り、己の愚かさを知り、それ以上に自分を哀れむアスタロトの心に触れた。
「だが、おまえの想いはわかる気がするよ。我(おれ)も統治者だからね。人々の安寧を慮るのは当たり前だ。…犯罪者と征服者の流す血の量はどちらが多い?幸せをもたらす数はどちらが多い?天秤はどちらへ傾く?それを決めるのは神でも魔王でもなく、人間であるべきだと、我(おれ)は考えている。もっともな話、神や魔王が善や悪を取り除き、人間の思考を統一しても、何がおもしろかろうか。そう思わないか?」
「…はい」
「だから…そうだな。神であり、魔王であり、恐るべき力をもった魔術師でもあるこの我(おれ)が…人間になろうではないか」
「…え?」
「我の魔法で、自身を生まれたばかりの無垢な赤子に産まれさせ、人間として育つのだよ。おまえの手でな」
「わ、たしが?私が育てるのですか?神である、魔王であるあなたさまを?」
「そうだよ。トゥエ、おまえは私の古き良き友人に良く似ているんだ。彼は信頼する人間だった。我は不死であり、とても長く生きているけれど、好きな人間の事は忘れないものさ。とりわけ我は今機嫌が良い。おまえの力になってもいいとさえ考えている。…宇宙の摂理に反してでもな。そして、無になった我をどう育てるのか、それをおまえに委ねても面白いと思うのだよ」
「…無理です。無理です。めっそうもございません。どうぞ、ご勘弁ください。この愚かな人間にあなた様を育てるなど…できるわけもありません。私にはそんな大それた…」
「トゥエ。私はもう決めたのだよ。おまえに不毛な願望があるように、私は人間になることが積年の夢でもあったのだ。それは…とても、とても重い夢だったんだ」
「…」
「弱い人間ではあるまいよ。おまえたち人間を震撼とさせる力を持つ者に生まれ変わるかもしれない。その力を持った人間の私に、おまえの望みを託すが良い。それを叶えるかどうかは…生まれ変わった私の意志だろうが…」
「ま、待ってください」
「…きっと私に良く似た見目だろうねえ…」
 アスタロトにはすでに生まれ変わる自分の姿が見えていた。まだ小さい…リギニアの父神と母神に抱かれた自分と同じ姿で、このトゥエに抱かれている自分が見えた。

「『レヴィ(尊き者)』と、呼んだ友人もいる。けれど、私は親しい者には『アーシュ』と呼ばれるのが好きなんだ」
「アスタロトさま…」
「よろしく頼んだぞ、トゥエ」

(イールはきっと怒るだろうけれど、もし、この魔法が上手くいけば、イールに教えてやれる。そしてふたりで生きて、死んでいくことができる。神としてではなく、人間として。…間違いだとしても、天の皇尊の怒りに触れようとも、僕はこの道を選択するよ。ねえ、イール。僕には『不死』という未来は虚しいばかりなのだよ…イール、ごめん。必ず迎えに行くからね。少しだけ待っててくれ)

 アスタロトは身に繋がった長い詠唱を唱えた。
 長くはあるが、時間は次元を超えている。
 目の前にいるトゥエにはその詠唱は聞こえず、アスタロトの姿が炎のような黄金の光に包まれ、赤く染まり次第に縮まり熾き火のように燻りながらもその輪郭がはっきりしていく様は、ほんの数秒の事だった。

 トゥエが描いた魔法陣も光も消え、今まで目にしていたアスタロトの着ていた着物が黄玉の床に落ちていた。その着物の中には、小さな、黒髪の美しい赤子が裸のままうずくまり、目を閉じていた。
 右手の人差し指の薄青玉の指輪が静かに光りだした。
 赤子はそれに反応し、そっと目を開けた。
 そのまなこには永遠の闇に浮かぶまばゆい宇宙の綺羅星が、輝いていた。

 アスタロトの大いなる魔法は彼を望みどおりの人間として誕生させたかに思われた。
 アスタロトは自分が無になり、赤子に生まれ変わろうとも、イールやクナーアンの記憶を失うとは微塵も思っていなかった。
 だがそれは叶わなかった…
 アスタロトの記憶は赤子には受け継がれなかったのだ。
 遺伝子レベルではアスタロトの生きた過去は刻みついているはずだろう。
 だが赤子は無垢なままで、生まれ変わってしまったのだ。

 過去を知る赤子など、いない。

アーシュ月




 自室のバルコニーで夜天を仰いでいた。ふたつの月は糸のような下弦を描いている。
 明日は新月だ。
 アスタロトが帰る日だ。
 
「イールさま、お茶を用意いたしました」
「ありがとう、ヨキ」
 ヨキと呼ばれた少年は、イールとアスタロトの身近な世話をする者で、将来神殿に従事する神官になる為に励んでいる。
 殺戮者であった父を持ち、それを憎んだ民衆は母子を呪い復讐鬼と化した。母は無残に殺され、七歳であったヨキも殺されかけていた。
 たまたま通りかがったアスタロトはヨキの悲鳴を聞き、それを助けた。
 偶然に他ならなかった。
 ヨキの運命を長らえさせたのは、神であるアスタロトが介入したからだ。
 人々は鬼子を助けたアスタロトを責めた。が、アスタロトは失笑した。
「これは我(おれ)が手にしたものだよ。おまえたち人間が、我から何かを奪い取る力があるのか?」
 そうしてヨキは、イールとアスタロトの神殿に身を置く事になった。
 傷つき闇に閉じ込められたヨキの心は、なかなか素直には開かなかった。
 イールもアスタロトもヨキを甘えさせはしなかった。彼らは何もせず、ただ共に日々を暮した。
 だが彼らの側にいるうちにヨキの荒んだ心は次第にろ過され、救われた運命に感謝するのだった。
 ヨキは自分の一生を、イールとアスタロトの為に尽くそうと誓っている。

「今夜は月がおとなしいから、絶好の星月夜ですね」
「そうだね。眩しいくらいに大数の星が瞬いている…あの中にアーシュが今居る星もあるのだよ」
 テーブルに用意されたお茶をひとりで飲むイールの姿が、ヨキには寂しげに見えた。
 アスタロトが居ない時はいつもそうだ。
「僕は時々アスタロトさまが嫌いになりそうになる」
「何故?」
「だって、アスタロトさまは、イールさまを寂しくさせるのだもの」
「…ヨキは幾つになった?」
「15です」
「若いね。私とアスタロトは今年で1160才だよ。1160…笑い話だが、五、六百年経った頃にはもう年を数える気など無くなっていたよ。でもアーシュは言うんだ。『ちゃんと一年ずつ年を数えていこう。今年、この日を僕達が生きた証として、言葉や文字や絵にして残すことには意義があると思いたいからね』とね。そして何もなくても毎日日記に期日だけは書き留めている。アーシュは間違いなく宇宙きってのロマンチストだね」
「ふふ…そうですね。それに明日には帰っておいでになりますから、またしばらくは土産話ににぎわいますね」
「騒がしくなるの間違いだろう?」
「アスタロトさまは、次元を超えてお出かけになられると、いつも僕にもお土産をくださるのですが…この間は、彼の地で流行っているとかで香水を頂きました。でもどう考えても女性が使うものだし、使うにしても僕はまだ子供だし、そもそも神官になる身なので、香水を使う機会など無いんです…戸棚に飾っていますけれど出番はありそうもないです」
「悪いな、ヨキ。アーシュのクセだ。自分があげることで満足してしまって、贈った相手がどう思おうとお構いなしなんだ」
「それでも充分嬉しいですけどね。でも不思議なんです。どんなに心が晴れない時でも、アスタロトさまをお見かけするだけで、沈んだ心がポンと救い上げられた気になるのです」
「彼の精神は光輝いているからね」
「イールさまも同じです。見ているだけで、心が癒されます。穏やかに…誠実に生きる幸せを感じます」
「アスタロトに言わせれば、私達神は概念となる身だから、あまり実像を表す機会も無くなってしまうらしいが…」
「でも…御姿を拝見できなくても、人々はイールさまとアスタロトさまを忘れることなどないと思いますよ。空にあるふたつの月のように、必ずそこにいらっしゃるのです。満月になったり細くなったり、呼吸をしていらっしゃるように…」
「あのふたつの星は連星なんだ。お互いを抱きしめながら輪舞するように、惑星クナーアンを周回している」
「ほら、やっぱりおふたりなんですよ。おふたりが偉大な神であられるのは誰もが承知しています。…僕が年を取って死んでも、いつまでもおふたりがこのクナーアンを見守っておいでになるのだと思ったら、なんだか安心して死んでいくことができるような気がします。神様ってそういう存在なのかなあ~って、近頃そんな気もしているんです」
「ありがとう、ヨキ。アーシュが帰ってきたら、その話を聞かせてやっておくれ。あいつはそういう話に餓えているからね」
「はい、喜んで。では、イールさま、おやすみなさいませ」
「ああ、おやすみ」

 ヨキが去り、ひとり残されたイールは部屋の隅のチェストの抽斗を開けた。
 アスタロトがイールに贈った様々な宝石などを保管するチェストだ。
 その抽斗の奥に小さな箱がある。それを手にしてイールは、一番大切な宝物を取り出した。
 アスタロトがイールに初めてくれたラリマーの鉱石だった。
 あの日…ふたりが最初に出会った時、手の平に握り締めるほどの小石を、小さなアスタロトはイールに差し出したのだ。
 「あげる」と、言い、同じように小さなイールの手にその小石を握らせた。
 それはアスタロトの光そのものだった。その光にイールは一瞬のうちに焦がれてしまったのだ。
 そして今もイールはアスタロトの光に恋焦がれ続けている。

 イールはバルコニーにもたれ、今は傍にいないアスタロトを想った。
(本当に身が持たないなあ…アーシュがいなければ、私の生きる意味など一切ないのだと、つくづく思い知らされる。アーシュとだったらこの先どんなに長い時を生きようとも、私は苦しいとは思えないんだが…)
 
 …終わりのない未来を恋しいと思うかい?

 あれはアスタロトの心の叫びだったのだろうと、イールは思った。
(もしアーシュが、生きる事をあきらめ、死を選んだとしても、私はそれを止めはしない。喜んで一緒に死のう。アーシュがいない世界に私が生きる意味はないし、未来を見る必要もない。人を思いやる気持ちも優しさも消えてなくなるだろう。この世界を憎むかもしれない…もとより、私達はひとりが命を失ったら、同時に死ぬ運命にある。どちらかがひとり残される運命ではなかったのはありがたい)

 …君と共にあらば、私の世界は美しくあり続けるだろう。

 イールは握り締めたラリマーの小石を胸に寄せ、彼方のアスタロトに語りかける。
(早く帰っておいで、アーシュ。君と共にある喜びを、もっと…もっと君に聞かせてあげたいんだ)

iiru.jpg


 ハーラル系には十二の惑星がある。
 それぞれがそれぞれに特性を持ち、そこに生きる人々は、星を統治するふたりの神々を崇拝する。
 とりわけ第三惑星クナーアンは、秩序に則り、その繁栄を極め、平穏な人々の暮らしを約束された地である。
 彼らの崇めるふたりの神、イールとアスタロトは、世の法と地上の豊穣と普遍の愛を貫く比類なき美神であった。
 クナーアンに住む人々は、この地で生きる喜びに沸く。
 「永遠なれ!」と、イールとアスタロトの二神を讃えるのだった。


 しかし、神殿のふたつの玉座の一方に座る神は、今はこの星には存在しない。
 ひとり残された神は…片方の玉座に居る。
 そして、帰らない半身を、今も待ち続けていると言う。



       「This cruel world」終わり。

asutaroto98.jpg

This cruel world 16へ

Private Kingdom その一へ 

Phantom pain 1


これで「This cruel world」は終わりです。
次は「Phantom Pain」。17になったアーシュと、そしてアスタロトを待ち続けるイールの物語です。絵も文章もじっくり書きたい気持ちがあるので、週一くらいにしたいですね。
一回の分量は多くなるかも知れないけど。



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This cruel world 16 - 2012.05.18 Fri

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魔王アスタロト
16、
 アスタロトは惑星リギニアの女神の腹から生まれ、五歳になるまで終始、惑星クナーアンを統治する神になるのだと教えられ、育てられてきた。
 もうひとりの半身であるイールという神と、仲良く愛し合い、クナーアンを良い星に導く為に、心身を尽くせと…
「天の皇尊により、同じ日に生まれた我が半身、イールとはどんな姿でどんな声をしているの?髪の色は?目の色は?肌の色は?性格は、優しい?おとなしい?おこりんぼ?泣き虫?いたずらっこ?…早く会ってみたいなあ~」
「まあまあ、アーシュは何度も同じ事をお聞きになるのね。そんなにイールが気になるの?」
 母神であるエーリスの膝に座り、小さなアスタロトは毎日のように半身であるイールの事を聞く。
「だって、僕の恋人になるんでしょ?僕の好きなタイプだといいなあ~そしたら僕はうんとかわいがって、いっぱい喜ばせてあげるの」
「まあ、おませさんだこと。でもね、話によるとイールはとっても礼儀正しくお利口で、誰にでも親切で我儘など言わない素晴らしい神様らしいわ。アーシュも笑われないように良い子にならなくちゃね」
「え~っ。僕、良い子だよお~母上~」
「そうかしら?アーシュの無鉄砲は良い子とは言えないわよ。あまりやんちゃをして、マサキを困らせてばかりだと、イールに嫌われてしまいますよ」
「やだやだ~。嫌われたくないもん。僕、ちゃんと良い子になるう~」
 無邪気に泣きつく小さなアスタロトを、女神エーリスは祈りを込め、優しく抱きしめる。
(この小さなクナーアンの神が、未来永劫その光を見失うことが無きように…天の皇尊よ、お見守りくださいませ)
 
 運命づけられたふたりであったが、彼らは互いに幸福な恋をした。
 分かち合える未来を喜びとした。
 最初に出会った時から、アスタロトは自分の一番大事なものを、この愛しき恋人に贈り続けようと自身に誓った。
 そして小川で見つけたばかりの鉱石を、イールに差し出した。
 その鉱石ラリマーと同じ青さを持ったイールの薄青の瞳の輝きで、いつまでもアスタロトを見つめて欲しいと願った。
 その瞳の輝きは一千年経っても少しも翳る事無く、アスタロトへ向けられているのだった。
 

 その年の実りを祝う収穫祭は、クナーアンのふたりの神の降誕日から始まる。
 クナーアンの人々は、季節ごとの祝日と、降誕記念日を兼ねた収穫祭の三日間だけ、神殿でのイールとアスタロトの拝謁を許されるのだった。
 人々は二神への祝福と豊穣の喜びと、感謝の意を込め、それぞれに収穫した捧げ物をふたりの神に奉るのだ。
 この年のアスタロトは、何故か感慨深いものがあった。
 三日も続けば飽きてくるはずの謁見が、自分を仰ぎ見るひとりひとりの民の顔が、無性に愛おしく、胸がつまるほど感銘を覚えていた。
 何故だかわからないが、人々の安息な未来を祈らずにいられなかった。
 収穫祭が終われば冬が来る。
 アスタロトは地上の隅々までに気を配り、厳しい冬を乗り切れるように、森や海、すべての自然の霊根にありったけの恵みを授けた。

 神殿へ戻ったアスタロトを待ちわびたイールが出向かえた。
「予定では明日から彼の地に行くのだろ?あまり無理をして、精を出さなくても私が代わりにやっておくよ」
「うん。でも…なんだか、今日のうちに地上を見ておきたくなったんだ…冬が来るからセンチメンタルになっているのかもね」
「毎年、冬はやってくるよ。来年も再来年も…私達が生きている限り、この惑星の季節は狂ったりしない」
「そうだね。君と僕がいる限り…変わらないよね」

 疲れているのだろうか、少し元気のないアスタロトを気にかけたイールは、休むように勧めた。
「ありがと。でもねえ、イールも一緒にベッドに入ってくれない?ヴィッラへ行こうよ。ふたりだけで朝までずっと繋がっていたいの」
「…何かあったの?アーシュ」
「だから、センチメンタルな季節なんだって。…明日からしばらく出かけるから、イールから沢山エロスを貰っておかないと、餓えちゃうし」
「だったら、行かなきゃいいのに。私は君を喜んで送り出しているつもりはないんだからね」
「わかってる。でも、明日は伯爵の命日でもあるから、挨拶に行きたいんだ」
「…死んだ人間に挨拶?」
「そう、亡霊に。ああいう存在の在り方もあるんだねえ~…まあ、僕にしか見えないんだけどさ」
「君の人間への思慕は充分わかったから、睦言では聞かせないでくれ。白ける」
「はいはい、わかったよ。イールが気持ち良く僕を抱けるように甘いセレナーデでも歌うさ」

 惑星クナーアンには二つの衛星がある。
 今夜はそのふたつの月が満月の時。
 寄り添い並ぶ月夜の夜天(そら)には雲ひとつ無い。
 ふたつの満月の光は、開け放された窓から、ベッドに絡まるふたりの身体を浮かび上がらせる。
 アスタロトはいつもよりも扇情的にイールを誘った。
 イールの与える快楽は一方的ではなく、追い詰める事も逆に攻め立てることも楽しめたが、今夜はイールをより求めたのはアスタロトだった。
 「素敵だよ、イール。…もっと、もっと僕を解放して。そして僕を君のものにしておくれ…」
 
 いつだってアスタロトは一番大事なものをイールに贈りたがった。
 そして、今は自分のすべてをイールに奪って欲しいと強請った。
 そんなことができるはずもない。
 お互いがお互いの半身であっても、心も肉体も別個のものでしかない。
 だからこそ愛し合えるのだから。

月光


 ぐったりとシーツに沈み込むアスタロトを、イールはそっと抱きしめた。
「どう?満足した?」
「ふふ…君からいっぱい愛を貰って、僕はこの上もなく幸せだ」
「アーシュ…」
「このまま君の腕の中で、死んでしまってもいいや」
「…死なないよ、アーシュ。私達は、ずっと一緒に生きていくんだ。こうやって身体を繋ぎあって、愛し合って…生き続ける」
「僕はもう…君の望むものすべてを君にあげて、終わらせたい気分だ」
「終わるなんて言わないでくれ。死に囚われないでくれ、アーシュ…」

 …終わりのない未来を恋しいと思うかい?

 アスタロトの言葉…いや、その心の声は「senso」の魔力を帯びていた。
 イールはアスタロトの「想い」に同調してしまう弱い己を知っていた。 
(それほどまでにアーシュが「死」を望むのなら…一緒に消えてしまえるのなら…それも悪くはあるまい。いや、私達のこの崇高な愛を成就させ、美しい「愛」の概念として、このクナーアンの人々に語り継がれることこそ…神として存在した意義があるのかもしれない…)

 月の光に照らされた澄んだおぼろげな青白いアスタロトの裸体は、精緻な硝子細工の儚さで存在し、イールは、壊さぬようにそっとその頬に触れた。
「…アーシュ。君の言うとおり、このまま終わりにしようか。この幸福な時を閉じ込めたまま、ふたりで心中しようか…」
 イールの言葉を聞いたアスタロトは星を散りばめた黒曜石の瞳を見開き、そして首を横に振った。
「君がそれを言うな。僕と同化するんじゃないよ。…なあ、イール。まだ僕はあきらめてはいないんだ。君に本当の幸福を与えたいからね」 
「私は…何も…何もいらないよ、アーシュ。君が傍にいてくれさえすれば、何も、望まない…」
「…そうかい…」
 くすりと笑うアスタロトの言葉は、ぼんやりと、輪郭を失っているように思えた。
 アスタロトは自分を見つめるイールの薄青色の輝きを確かめ、満足して微笑んだ。
「君を愛している。永遠に。僕の愛は、すべてイールのものだ…」
 ゆっくりと重なった口唇は、夜更けの所為なのか、ひんやりと冷たかった。
 
 

 彼の地、ソーラーレイの第三惑星アースは、ハーラル系のクナーアンと、丁度裏表の次元で存在していた。
 強大な魔力は必要とするが、重ねられた次元の層を、ただ落ちるか上がるかだけだから、迷わないし時間もかからない。
 その日のうちにアスタロトは伯爵と過ごした岬の城で出向き、亡霊となった伯爵へ挨拶をした。
 城はアスタロトのものであったが、アスタロトは城を大事に守ってくれる伯爵の血縁の者に譲りたいと思っていた。そのことを伯爵に告げると、彼は、曾孫のクリスティーナが嫁いだ先のスタンリー侯爵家に是非譲って欲しいと言う。
「了解した」と、言い、アスタロトは数日を伯爵と過ごし、別れた。
 街の役所へ行き、伯爵の遺言を完了させた。
 気まぐれに伯爵の子孫となるスタンリー侯爵家の一族でもみてやろうと、アスタロトは侯爵家の領地へ足を運んだ。
 サマシティの街は、アスタロトには初めてだったが、何故か親しみやすさを感じていた。
 どこからともなく薄荷草の香りが漂っていたからだろうか…
 街の看板に目を留め、その足で小さな映画館に入った。

 映画館はアースでもっとも有意義に楽しめる遊興のひとつだとアスタロトは確信している。
 恋愛や戦争もの…はたまた突飛な宇宙ものも楽しめた。
 アスタロトが感銘を受けるものはいつだって、人間の愛を語る物語だった。
 悲恋でもご都合主義のハッピーエンドでも、本物の情愛には心が癒された。
 その日、アスタロトが観た映画は平凡な男と女の恋物語だった。
 幼馴染みだったふたりが思春期に離れ離れになり、ふとしたきっかけで再び出会い結婚する。戦争から帰らない良人をひたすら待ち続け、十年後やっと帰ってきた良人を抱きしめる妻。そして、年老いたふたりは静かにお互いへの信頼と愛を語らいながら死んでいく。そんな平凡な物語だった。
 だが、アスタロトが思慕する情景のすべてが織り込まれていた。
 観終わった後も、アスタロトはしばらく席を立つことができず、声を殺しながら泣いていた。
 どんなに欲しても、自分とイールにはできない「恋の成就」だったからだ。
 羨ましさと口惜しさに心が切り裂かれる気がした。

(神が人間になる事が罪だとはどうしても思えない。大体、不死であることが宇宙的に考えても不自然極まりない事象だろう。自殺でしか終わらせることが出来ないという現実こそが、最も忌むべきことだ。自分自身に絶望して、ミセリコルデ(慈悲の剣)を突き刺すことなど、絶対に嫌だ。たとえイールがそれを望んでも嫌だ。自殺することと、人間としてその命を全うすることの意味は全く違うはずだ…)
 アスタロトは煉瓦の舗道を歩きながら、天を仰いだ。
(イールは人間なんかと言うけれど…愚かな人間になろうというわけではないんだ。ただあの映画のように、ふたり寄り添って年老いて添い遂げたいと願うだけなんだ。ずっとこのままで…ねえ、イール、「愛」は不変かもしれないけど、精神は流動するものだろう?…僕はもう…)
 
 その時、アスタロトは強い魔力を身体全体に感じた。
 東の空に一筋の金色の光の柱が聳えていた。勿論実体ではない。
 魔力の磁場が棚引いているのだ。

(誰かが強力な魔法陣を使い、召喚を試しているらしいな…しかし…これは相当な魔術師だな。綿密に組み立てられた魔術であり、その上邪気を感じない。…面白い。少し覗いてみるか…)
 アスタロトは姿を隠し、光柱の上からその光源を見下ろした。
 天の王学園の聖堂から放たれる光の奥に美しい魔法陣が見えた。
(稀なる召喚師であることは間違いない。その招きに応ずるのもまた一興…)
 アスタロトはゆっくりとその魔法陣の中で降り立った。
 魔法陣の光はアスタロトの身体を温かく包み込み、アスタロトは充分に満足した。
 
 円陣の外にひとり、壮年の男が跪いていた。
 ダークスーツに身を包み、魔王への儀礼を尽くした魔法陣を描いた魔術師だった。
 アスタロトはその男に顔を上げるように命じた。
 魔術師は畏れながらゆっくりと顔を上げた。
 その顔を見たアスタロトは思わず息を呑んだ。

(…セラノ…セラノなのか)
 その男は、昔、アスタロトとイールを導いた家庭教師のセラノにうりふたつの面差しをしていた。


アスタロト花1


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4コマ漫画。君は時代を超えて行くのか… - 2012.05.16 Wed

次元を放浪するクナーアンの神、アスタロトは、時代のコスプレも楽しむのであった。

いちいち持って帰っては、見せびらかすアスタロトに、イールも何と言っていいのか悩むのだが…

時代と共にイールも慣れていくのであった。

漫画アスタロトとイール
私の漫画にオチなど期待するなっ!



ラブラブハッピー~なふたり…ちっ( ̄s ̄;
キャツキャツウフフ1

まあ、もうすぐアスタロトは居なくなるからな。
そしたら泣け、イール。

This cruel world 15 - 2012.05.16 Wed

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イール花11


15、
 時折、アスタロトは悪夢にうなされる。
 ふと、第一惑星ズヒュメルの二神の死に様が、昨日のことのように脳裏に浮かび上がるのだ。
 一千年以上生きてきた中で人間の死など、数知れず焼き付けてきたはずなのだが、自分と同じ神の「死」を目の当たりにしたアスタロトは、恐怖よりも気持ち悪さが先に立つのだった。

「…アーシュ、大丈夫か?」
 アスタロトが目を開けると心配そうなイールの顔があった。
「…」
 まだ夜は明けていなかったが、いつもの見慣れた寝室だった。
「ひどくうなされてたよ。また例の夢を見たのかい?」
 汗を掻いたアスタロトの額を拭いながら、落ち着かせるようにイールはアスタロトの背中をさすった。
 アスタロトは我知らず、イールにしがみついていたのだ。
 イールのぬくもりでやっと夢から覚めたアスタロトは、しがみついたイールから離れようとはしない。
 アスタロトは未だに、イールの優しさにべったりと甘えるクセが抜けないでいる。
 イールも甘えさせる事で必要価値を見出しているから、上手い具合にふたりの相互依存は成り立つのだが。
 アスタロトはイールを覗き見るように少し顔をあげ、キスを求めた。イールはこの上もない優しさで、それを返す。
 アスタロトは安心したように、やっと破顔一笑した。

 バルコニーに出たふたりは、二人掛けのチェアーに寄り添って、夜明けを待つことにした。
 この崖の上に立つヴィッラで見る景色は、地上のどこよりも遥かに空気が澄んで美しい。
 闇に包まれた大地に、遠くの地平線が少しずつ明るい紫色に変わっていく様は、今日の始まりを祝福しているように思えてならなかった。
 アスタロトはこの景色を失うのが怖かった。同時に飽きてしまう時が来る事もわかっていた。
 (すべては永遠でないからこそ、美しく感じるものではないのだろうか…)

「ねえ、イール、君は怖くなかった?」
「なにが?」
「…セキレイが死んだ時、金の砂になったと言ったね。君の腕の中で…崩れ落ちる様を見て…」
「…恐ろしかったよ。…恐ろしかったけれど、見届けなければならないと自分に言い聞かせた。昔…私達の教師であったセラノは私達に自分の死を見せて、悲しみというものを修学しろと言った。私は彼の教えを忘れたことはない。…セキレイはとても大事な家族だった。だからどんなに辛くても見届けようと思ったんだ」
「君は強いね。僕はダメだ。とても怖い…ズヒュメルの二神が消えていく様は…あの神が言ったように僕たちの未来図なのだろう。ミセリコルデ(慈悲の剣)の剣がその胸を貫き、二神が重なり合い、そして身体が少しずつ金砂になっていく様は、異様だったけれど、美しかった。僕達もああいう風に崩れ落ちていくのかと、恐怖しながらも、また別な意味で『無』になってしまえるふたりを羨ましくも思えたんだ。それが…僕にはとても嫌だったんだ」
「…嫌だったのか?」
「そう、矛盾しているだろ?『不死』である自分が嫌で、死ぬことを待ち望んでいると言ってもおかしくない僕なのに、ああいうふうに死ぬのは嫌だと言っている。不愉快極まりないね。そして、死ぬ事の仔細まで自分の思い通りにしなければ気がすまないなどと我儘を言っている…と、しか回りには…天の皇尊やミグリには受け取られないだろうからね」
「じゃあ、君はどんな風に『死』を迎えたいと思うの?」
「そうだね…例えば人間の寿命は短いけれど、順調にいけば、身体も精神も成長し、それが老化して『死』を迎える。それはとても自然で美しく思えてしまうんだよ。心臓が止まって、魂が身体から去ってしまっても、金の砂のように消えてなくなったりしない。焼いて灰にするにしても、土に埋めて肥やしになるにしても、海の藻屑になるとしても…なんとなくね、生きた『誇り』を感じるんだ。そういう者になりたい…」
「君は…人間になりたいのか?」
「期限付きの寿命って憧れたりしない?」
「…しないよ」
「もううんざりするほど生きたから、そろそろ人間にでもなりたいって僕は思うんだけど…」
「神になりたがる人間は数知れずいるのかもしれないけれど、人間になりたがる神は、きっと君だけだと思う」
「それ、褒めてるの?」
「まさかっ!バカだと言っている。だがそういうバカなアーシュが、アーシュたる由縁なのだから、私は否定しない」
 真剣な眼差しのイールを見て、さすがにアーシュも声を出して笑った。
「あはは…やっぱりイールは最高だ。最愛の僕の恋人だ。大好きだよ」
 笑われたイールは憮然としたが、それでもすっかり気が晴れたアスタロトに心から安堵した。

「やっぱりアーシュはそうやって笑っていたほうがいいね。いつまでもくよくよ思い悩むなんて君らしくないよ」
「やっぱりってさ…イールは僕が何も考えなしみたいに思っているわけ?」
「私はアーシュを無類の楽観主義者と讃えているのだから、その威光を消さないでくれたまえ」
「…ひどいなあ~イールは」
 イールの精一杯の励ましはアスタロトを癒し、イールの存在こそが、アスタロトが神という役目を続けるエネルギーとなっていた。


 イールはアスタロトに前のように異次元へ遊興することを勧めた。
 イールとしては常に傍にいて欲しいという本意とは別に、アスタロトには息抜きが必要だとわかっていた。
神として存在する意義に疑問をもっているアスタロトに、クナーアンに縛りつけ、神の役割を強いることは、これから生きる長い未来のことを思っても辛いばかりであろうと、イールにもわかっていたのだ。
「いいかい。七日間経ったら戻って来るんだよ、アーシュ」
「わかった」と、アスタロトはニッコリと微笑む。
 (まるで幼い子供にお使いを頼むようだ)と、イールはなんとも心細い気がする。仕方なく笑い返すと、「今、君、僕のことを子供みたいだと思っただろう」
「…私の心を読んだのか?」
「いや、顔に書いてあった。本当にアーシュは手のかかるやんちゃ坊主だって」
「…わかっているなら、手を焼かさないでくれ」
「君は僕の保護者だからね」
「保護者?」
「そう。どんなに僕が悪さしても目を離さず、僕を一生守り続けることに生き甲斐を感じている損な役回りだ」
「…呆れるほどに同意するよ。君の身を案じない日は、私にはきっと一生来ないだろう。君がその事を忘れないよう願うだけだ」
「忘れるもんか。僕にとってイールは消えない灯火だからね。どんな闇でも君の姿を見失う事はないんだ。だから絶対迷子にはならないさ。ちゃんと約束の日に帰ってくるよ」
 手を振って次元の彼方へと消えていくアスタロトの姿を見送るイールは、いつも不安になる。
 アスタロトが約束を破ったことなどないのに、何度もこうやって送るたびに、あと何回繰り返せばアスタロトの気が済むのだろうと、イールは気を病むのだ。
 (バカなのは私の方だな。自分で勧めておいて気落ちするのだから…)
 イールの不安は、アスタロトの姿を見るまでは消え去ることはない。だからアスタロトが約束どおり帰ってくれる当たり前のことが、イールにとっては心から感謝したい気分になるのだ。


「色んな次元を渡り歩くけれど、彼の地の魔術師って面白いよ」
 異次元から帰ってきたアスタロトは、色々な土産話をイールに語って聞かせる。
「何が?」
 アスタロトがお土産に持ち帰る美しい早緑のお茶はふたりの好物だ。それを白磁のカップに注ぎ、ふたりだけでゆっくり味わう時間が好きだった。
「面白いっていうか…魔力を持った人間と持たない人間の関係が面白い」
「どんなふうに?」
 イールにとって異次元の話など、さほど興味はないが、アスタロトが一生懸命話す姿は、見ているだけでも一向に飽きない。
「うん。魔力を持たない人間が魔力を持った人間、まあ、魔術師ってことだけど。その魔術師を支配するんだ」
「支配?」
「コントロールできる強制力を持っている。全部の人間ではないにしろ、魔術師を好きに扱える。そして魔術師は自分を支配する人間に逆らうことが出来ない。…ね、面白いだろ?魔術師は特別な力を持っているのに、魔力を持たない人間に対して、その力を使えない。そういう主従関係が成り立っている。全部じゃないけれどね」
「つまり…魔力をもたない代わりに、魔力を持つ者を従わせる力を持つってことだね」
「お互いが上手く生きていく関係を保つだけなんだろうけれど、僕に言わせれば、魔術師が自分自身に抑制力の魔法をかけているだけだと思うけれどね」
「いくら人間でも、それぐらいは気がつくだろう」
「神レベルの強制力を持つ魔術師が居るのなら、遺伝子レベルで操作は可能だろうけどね」
「…そこまでやる必要性は?」
「さあ、彼の地の黄金率みたいなものじゃない?どっちにしろ、異邦人である僕には関係ないけどね」
「そう言う君が一番危ない。その神の座に君が取って代わる気があるんじゃないのか?」
「まさか。神の座なんて売って差し出したい気分なのにさ。それよりもさ、良い話があるんだ」
「まだあるのか?」
「うん。人間になれるかもしれない」
「…(またその話か)」
「彼の地ではモーションピクチャーっていうね、遊興があるんだ。暗い部屋で白いスクリーンに映し出された動く映像を見るんだ。それぞれに物語があってね。面白いよ。ありえない話もトリックを使って映像にしてみせるんだ。死体が生き返ったり、人造人間を作ったり…そういうのってありえるって思わせるのが良いね」
「それで人間になれるかもって思ったのか?」
「僕は魔術師だもの。魔法を使って人間になるさ」
「そんな魔法があるの?」
「思案中」
「…」
 冗談にしてはふざけた様子は見当たらないアスタロトにイールは不安になった。
 アスタロトの魔力はイールの理解するところではない。
 彼は特別な力を持っていた。
 軽々と次元の扉を開け、思うように飛び、自分の姿を消すことも、人の目をくらますことも、その命を奪う事も簡単にできた。
 イールもまた強い力を持った魔術師ではあったが、アスタロトほどではない。
 これは惑星クナーアンに魔力を必要とする機会はそれ程必要でなかったからであろう。

「アーシュ、君がそれほど人間をうらやむ気持ちが私には理解できないよ。人間はたかだか五十年ほどしか生きられないんだよ」
「彼の地ではもっと長生きする人が多くいるけどね」
「それでも…何百年と生きる人間はいないんだろう?君が人間になってしまったら、私はどうなる?君を失って…ひとりで生きていけというのか?」
「イールも一緒に人間になればいいじゃないか」
「…どうしてそんな結論になるんだよ。我々はこの星の神だよ。いくら君が概念になればいいって言っても…我々はこの星の為に作られたものだ。人間として生きるなんてとんでもない話だ」
「彼の地にはね、ある程度仕事をして年を取ったら、後はもう楽に遊んでいいという法律もあるんだよ。僕等も、もう神としての役割も充分果たしたし、後は人間が決めることだと思うから、好きに生きてもいいと思うけどなあ。このまま生きていたって、ズヒュメルの神のようになるだけじゃん」
「そうなるとは限らない」
「イールの両親だって、精神が力尽きて死んでいっただろう?あれが神の最後の姿なんだよ」
「君の両親、第二惑星リギニアの二神はご健在だし、二千年も経つのにその統治も安定しているじゃないか」
「彼らは昔から安穏としていた。自分達には周りの時間がゆっくりと進んでいるように見えるから、気苦労もないんだろうね」
「…」
 (安穏としているのはおまえの方だ、バカ。何が人間になるだ。冗談ならまだしも本気で言うアーシュの気持ちが許せない。第一人間にでもなったら、私達はどうなると思っている。死んだら…消えてなくなるんだぞ。お互いの心も身体も離れ、睦み合うことも言葉を交わすこともできなくなるんだぞ。それさえ構わないと言うのか?アーシュ)

 イールはいつの間にかイールの膝を枕にして気持ち良さ気に目を閉じるアスタロトが憎らしくなり、頭を叩き、そのまま立ち上がった。
「痛いっ!」
「当たり前だっ!人間になりたいなど二度と私の前で言うな」
「…え?」
「そんなになりたきゃ、アーシュひとりでなればいい。私は絶対に嫌だ」
「…」
 (そんなに怒る事なの?) 
 アスタロトは怒り心頭で背を向けるイールが理解しがたく、ポカンとした顔で部屋からでていくイールを見送った。


 結局、その後も夢心地で「人間になるための魔術論」を力説するアスタロトの呑気さに、イールは憤慨している自分が馬鹿馬鹿しくなり、終いにはアスタロトと一緒に話に夢中になってしまうのだった。




イールとアスタロト


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This cruel world 14 - 2012.05.11 Fri

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14、

 セキレイが死んだ悲しみに浸り、散々と自分を責めた後、アスタロトは死んでしまったセキレイを羨ましく思った。
 同じ天の皇尊に作られた身でありながら、不死ではなかったセキレイと、まだ生き延びている自分と、どこが違うのか…
 天の皇尊は、神々を不死といいつつ、ミセリコルデ(慈悲の剣)で死ぬ事を許している。
 それは天の皇尊は、神々が「死」を願うことを知っているという事ではないのか。
 生なるすべては始まりがあるように終わりもある。
 宇宙も星も同じだ。
 もともと「不死」などありえないのだ。
 「不死」という名の概念を変えてみるといい。
 「神」は「不死」である。
 だが「神」は存在してもいなくても、概念として存在すれば、人々の魂の寄る辺になる。
 それが「不死」と同じ意味になるではないか…
 そこまで考えてアスタロトは、はたと気がついた。

 (これではまるで…「彼の地」の様がこのハーラル系が行き着く未来図ではないか…神の存在しない、いや概念として信仰する人々。だがその信仰さえまったく彼らの生活と隔たった無意味に思えるほどに、矛盾した作り物だ。彼らは神を信じながら、神への忠誠を誓いながら、自分のエゴにだけ忠実に生き続けている。あらゆる歴史の過程において、我(おれ)はそれが愚かだと思っていたけれど、それは人の当然の歩みではないのか…人間というものの生き方の本質がアレであるなら、神という概念だけを植え付け、後は人類にまかせるしかないのではないのか…彼らは神の実像を求めてなどいない。
 良き星の統治とは、民が集う豊かな地上を作り上げることだ。神は、その為だけに存在するのだと天の皇尊は我等に下した。ならばその役割が終われば、この星もまた…実在する神などいらないのではないだろうか…)
 
 アスタロトは、部屋にいながら、鏡の奥を覗くようにハーラル系の惑星すべての神々を眺めた。
 目の前に手をかざし、それを望めば、アスタロトには見ることが出来た。
 ハーラル系の惑星の神々は年を取っていた。
 いや、見た目は変わらない。だが、精神力が失われつつあった。
 彼らは神殿から身を動かそうとはしなかった。
 イールの母星であるディストミアはすでに新しい神の二体が生まれてはいた。が、その二体は幼い少年と少女のようであり、彼らは極めて美しかったが意思を持たず、空気のように存在していた。
「…イールにはとても告げられない話だ」と、アスタロトは苦々しく笑った。
 あれ程賑わった惑星間の移動すら、今は殆ど無いと言う。
 ハーラルの人々は昔のフロンティアスピリットなど忘れ、安定した生活を求めているのだろう。
 
 部屋から出たアスタロトは、ただひたすらに自分を心配し、待っている世話人や神官、なによりイールに対して何からどう説明すればいいのかわからなくなってしまった。
 自分自身の存在価値を教えることから始まり、クナーアンの未来を告げ、アスタロトとイールの為に働く者の進退を考え、神の威光を知らしめながらも、その存在を概念に変える為にすべてを終わらせ、始めなければならない。
 それを、どうやって彼らにわからせることができる。
 自分達の信じたもの、そして目の前に在る神々の存在を否定しなければならなくなる。
 何よりも神として申し分ない勤勉で従順なイールが、その存在を否定するアスタロトの申し出を享受することは、到底無理なからん事態だろう…と、アスタロトは思い悩んだ。
 だから何も言えなかった。
 無論アスタロトの出した結論でさえ、決定的な根拠もなく、推論の域を出ることはなかったのだから。
 
 イールはセキレイを失った悲しみがアスタロトを憂鬱にさせているのだと思った。
 今では彼を責めた事も後悔していた。
 イールがそうであるように、アスタロトもセキレイを家族として何よりも大切に愛していたのだ。
 イールが許せなかったのは、彼が居て欲しい時にいなかったことだけだった。
 その想いさえもアスタロトに届かないことがはがゆくもあり、虚しくもなるのだ。
 愛す分だけ愛してくれ…とは言えない。
 愛するという想いは自分のものであり、アスタロトに強要するべきものではないからだ。
 だが実際、イールはアスタロトよりずっと見聞は少なく、視野も狭いのだから、多くの感情がアスタロトひとりに向いてしまうのは仕方のないことだったと言えよう。

「アーシュ…ごめん。君ひとりを責めているわけではないんだ。寿命とはいえセキレイをひとりで見送る覚悟が、無かったんだ…」
 項垂れるアスタロトの背中をイールは撫でた。アスタロトはイールに寂しく微笑み、その細い身体をイールに預けた。
「世界で…ふたりだけになってしまっても、イールは僕を愛してくれる?永遠に…」
「私にはアーシュしかいない。何度も言うよ。私は…君以外のものは求めない」
 イールの求愛をアスタロトは素直に受け入れる。
 セキレイの死の間際に傍にいられなかったことを素直に謝り、イールを悲しませた事も反省した。
 アスタロトのイールへの愛は、純粋で深いものだった為、イールを悲しませたことが、アスタロト自身をなにより傷つかせることになるのだった。
 
 
 数日後、思いもかけない事件が起こった。
 第一惑星のズヒュメルの神ビュンケルが多くの民衆を惨殺したのだ。
 それをアスタロトは夢見で知った。イールに問うと、同じ夢を見たという。
 その後、神官からの情報で、正夢であったことが判り、今やズヒュメルに住む半分近くの人間が殺され続けていると知った。
 イールとアスタロトはただちに次元のゲートを開くように命じ、逃げてきた難民はすべて受け入れるように手配した。
 イールは引き止めたが、アスタロトは自分の目で確かめなければ納得がいかないと言い張り、ひとりでズヒュメルの地に降りた。

 破壊され砂埃の舞う神殿には人影はなかった。ただ昇殿の大柱に座り込んだひとりの男を見つけた。
 アスタロトは近づき、初めてズヒュメルの神の姿を見た。
 肌の色も身体つきも自分とは違った、だが端整な姿をした男神であった。
「お初にお目にかかる。我はクナーアンの神、アスタロトである。一体このズヒュメルで何があったのかをお教え願いたい」
「…この星の者でないおまえに何の関係がある」
「大いに関係がある。この惑星はあなたのものだろうが、民はそうではない。彼らはハーラル系の人間であり、どの星に住むも自由なのだからな」
「では、俺に残されたものは何なのだ?…なにもない。この両手に勝ち得たものなどなにもないではないか…」
「あなたは神として間違った行いをしている。これはあなたの意思の問題ではない。理由も無く罪なき民の命を奪う権利は、神であっても許されることではない」
「無駄ですよ、クナーアンの神」
 ゆっくりと昇殿を昇っていくのは、もうひとりのズヒュメルの神、コトカだった。
 長身で痩躯。腰まで長い白髪に金色の瞳をした美しい男神であった。
「その男は狂っているのです。何を言っても無駄です」と、アスタロトに近づき、見目に似合った透きとおる声音で、コトカは穏やかに囁いた。
「あなたは…彼の半身なのでしょう?何故、この狂乱した神を止めることができない」
「それは…」
 コトカは忍び笑いをした。
 そして「私も狂っているからでしょうね」と、言った。
「大丈夫ですよ。呆れるほど殺戮を繰り返したから彼もそろそろ満足したでしょう。後は…こちらで始末しますから」
 コトカはアスタロトにニコリと笑い、袂から剣を、ミセリコルデ(慈悲の剣)を取り出し、座り込んだままのビュンケルの心臓に躊躇無く突き刺した。
「さあ、我が半身。永久に愛する恋人よ。共に消えましょうぞ」
 苦悶に悶えるビュンケルの身体をしっかりと抱いたコトカは、「さらば、クナーアンの神よ。これが神である者の末路です」と、叫んだ。
 ふたりの神々の身体はゆっくりと溶け、金の粉になり、風に舞い上がり、天へ戻っていった。
 それを見つめるアスタロトの胸を埋め尽くした感情は恐ろしいほどの…絶望。
 そして何よりも、憧憬だった。

 第一惑星のズヒュメルに再び神は降りなかった。この星の住民が神を求めなかったからだ。
 この星の神は、狂った殺戮者として、もっとも憎むべき概念となった。


 幾年がか経った。
 アスタロトはこの数年間で神殿で暮す神官や世話人の人員を大幅に減らした。若い者たちには土地を与え、独立するように薦めた。
 イールは訝かったが、アスタロトは「ふたりだけの為に多くの人を神殿で働かせるなんて不経済だし、彼らの為にもならないよ。僕等の世話は最小限であるべきだ」と、諭した。
 そして年を取った数人の神官と、彼らの料理人と世話人を残しただけにした。
 また人々が神殿へ拝謁に来る日を少しずつ減らし、神の実像を人々の目から遠ざけた。
 その意味をイールに問われた時、アスタロトは言った。
「君は言ったじゃないか。神は人間に崇拝される存在でなければならない。神は人間を等しく愛さなければならない。また神は傍観者でいなければならない。…僕はその言葉の真(まこと)の意味を現実にしているだけだと思うが…イール、僕は何か間違っていると思うかい?」
 イールはその言葉の真(まこと)の意味を問うことを怖れた。
 遅かれ早かれ、イールにさえ神々の存在意義を疑う時が来るのがわかっていたのだから。

 アスタロトがクナーアンの地上の人々を想う時、彼らの愚行や誠実さやいたいけな感情を想う時、説明できない涙が零れ落ちる。
 それは彼らへの愛であり、何もできない自身への怒りであり、未来への感傷であった。
 ただ眺めることしかできない自分達の役目が、辛く、しかしそれが彼らの求めていた楽園であるならば、そうあるべきだと、己を慰めた。
 
 クナーアンに住む者はこの星を「神々の恵み高き楽園」と、呼んだ。
 すべての力を持ちながら、何もできぬ神であるアスタロトにとって、それは「残酷な世界」でしか無くなっていた。

 


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This cruel world 13 - 2012.05.08 Tue

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イールとアスタロト思い出

13、
 近頃、アスタロトは機嫌がいい。
 クナーアンの政情がそれなりに穏やかであることも要因のひとつだが、冒険の旅と称して、次元を超えて好きな場所へと足繁く通う。
 「senso」を得て宇宙空間に漂った楽園さえも使わず、アスタロトは難なく次元の扉を開け、クナーアンの、それも神殿から昇殿へ上がる途中の広間に扉を繋げ、そこからあちらこちらと出向いているのだ。
 イールが咎めようとしても、アスタロトは聞く耳ももたない。
 もとよりイールにはそれを試す方法も魔力も無い。
 他の次元に行こうという気もないから、イール自身興味は全くないが、アスタロトにしかできないことを、目の当たりにすると、さすがのイールも面白くはない。
 アスタロトはというと、そういうイールの繊細さをあまり気にも留めない性質(たち)だ。
「一緒に行こうよ」と誘っても頑なに断るイールの意固地さを責める始末だった。

「ほら、見てよ。この服奇妙な形だろ?ここの部分にフリルがついててさ。腰も袖も窮屈で動きにくい。でもこれが綺麗に見えるんだってさ」
 彼の地から持ち帰った服を身にまとって、アスタロトはイールに見せ付けている。
「君の好奇心を満足させられる場所が見つかって良かったね」
 皮肉のひとつでもアスタロトに言わなけりゃ、イールの気が治まらない。
「そうなんだよ、イール。凄く面白いんだ。そこに住む人間はこちらと全く変わらない。精神も文化もあまり隔たりはない。だけどね、その世界には神は存在しないんだよ」
「へえ~…」
 皮肉さえ気づかない程に夢中にさせるものの存在をイールが好ましく思うわけがない。
「だけどね、神は存在しないのに神の概念は信じているんだよ。面白いだろ?」
「神の姿を見たこともないのに、信じているわけ?」
「そうなんだ。それもひとつの神じゃなくてさ、土地土地でそれぞれ違った神の形が無数にあるんだ。彼等は存在しない神の概念だけを信じて、願い祈り、救いを求める。そして、その宗教観の違いで、お互いに戦争を繰り返しているんだよ。全く持って愚かとしか言えないよね」
「宗教?神を信仰する教義のことだね」
「そう。それぞれの信仰の神がいて、それぞれの民が自分の信じる神が一番正しいと信じ、他の宗教を一切認めないから争いが起こる。歴史はそれを延々と繰り返している。彼の地の人々の愚かさと比べたら、クナーアンの民がどれ程マトモか…感動さえ覚えるよ」
「じゃあ、君はそういうくだらぬ場所へはもう行かないでも良いのじゃない?だってクナーアンに齎す智慧はないのだろう?」
「いや、それが中々面白いんだよね。だってさ、人が想像しうる物語としては最高に面白いじゃないか。それに彼等には、このクナーアンの民には無い能力があるんだ」
「どんな?」
「魔力だよ。…魔法。僕等神々しか持てない力を、彼の地の人間は持っている。勿論一部の限られた人間であるけれどね。つまり、神はいなくても彼等が神になれる資質はあるってことかもしれないね」
「…どっちにしろ、私たちハーラル系の者には関係のない話だよ。アスタロト、君はこの星の神であることを忘れているのではないだろうね。神官たちも君がこの星を離れて、異次元へ行ってしまうことを不安に思っている」
「…イール。彼の地では、僕はひとりの人間として存在しているに過ぎないんだよ。神の力を見せ付けたりしていないし、目立たぬようにしてるよ」
「君が目立たないようにしていても、周りの方で目立っているさ」
「そう、怒りなさんな。気分転換のうさばらしをしたおかげで、こちらでの神様業もやる気満々なんだからね。じゃあ、我が愛するクナーアンの民の様子を伺ってくるよ。おいで、セキレイ」
 言い終わるまもなく、セキレイを伴って、あっという間に空へ飛んでいく。
 あの変な服を着たままで…
 見送るイールも無理矢理に着させられた窮屈な服をどうしたものかと、袖のフリルをひらひらと振ってみせる。

 このように調子のいいアスタロトだが、言葉通り、クナーアンの神として地上への恵みを齎す役目を滞りなく努めている姿に、誰一人文句などあるはずもない。
 

「イール、聞いてくれよ。友達が出来たんだ。伯爵という男だ」
「はくしゃく?」
 窮屈なフリルの服が飽きたのか、今度は黒色一辺倒の服を着たアスタロトは、ステッキを回し、はしゃいでいる。
「そう、彼の地では多くの土地は王が治めていて、王から順に特権階級があるんだ。伯爵というのは…まあ、良い地位を与えられている方だろうね」
「…君はその男が気に入ったのか?」
 彼の地の行政などに興味のないイールは、憮然としてアスタロトを睨んだ。
「は?なに?…イール、妬いてるの?伯爵って老人だよ?そりゃ、とっても良い人間だし、僕も彼の地では人間のひとりとして接しているから、伯爵を友人と思っているけれど、イールが妬くような感情は一切ないよ。僕にはイールだけって何度も言ってるだろ?」
「君が…不安にさせるんだろう?…私を置いて、自分だけ楽しんで…」
「だから一緒に行こうって言ってるじゃん」
「私は、このクナーアンの神だ。この星を見守るのが私の神としての在り方だし、生き方だ。私は…どこも行きたくない…私は…」
(君だけ傍にいてくれたら、それでいい…)
 アスタロトを独り占めにしたいと思いつつ、イールはアスタロトの奔放さをこの上なく愛し、憧れ、キラキラと目を輝かすアスタロトに枷を繋ごうとは思いもしなかった。
 

 アスタロトはこの伯爵という老人が気に入ったようで、毎年、決まった頃になると彼の地へ会いに行った。そして帰りには必ず贈り物を持って帰る。
「伯爵からのお土産だよ」
「私に?」
 アスタロトからイールへ渡されたのは、美しい細工を施した銀の腕輪だった。
「そう、イールにだ。クナーアンには無い珍しい天光石をはめ込んだ銀の腕輪だよ。伯爵にイールの好みを伝えていたから、腕のいい細工師に作らせたらしい。着けてみてよ」
「…」
 なんとも複雑な気持ちはしたが、腕輪をしたイールに「わあ、良く似合うよ」と、無邪気に喜ぶアスタロトを見ると、満更でもない。
 

「伯爵が死んだんだ…人間だから死ぬのはわかっているけれど、やっぱり寂しいね」
 伯爵と知り合って十数年経った頃だろうか、しょぼくれたアスタロトが彼の地から帰ってきた。
 がっくりと項垂れたアスタロトを見ても、イールは今度ばかりは同情する気にはならなかった。
「セキレイが死んだよ」
「え?」
「私は止めたよね。セキレイの様子が変だから、外には行くなって。君はそれを振り切って彼の地へ向かった。…セキレイは君に会いたいと何度も私に言った。私は何度も…君を呼んだんだ。だけど君は帰ってこなかった…」
「どうして?…セキレイは神獣だろう?不死ではなかったのか?」
 アスタロトは何が何だかわからぬ様子で、イールに問いただした。
「不死であろうとなかろうと…セキレイはもう…いないんだよ、アーシュ。私の腕の中で…金の流砂になり、空に舞い散っていったんだ…」
 悲しみに耐え切れずイールは涙を零した。アスタロトはイールの涙を見つめながらも、まだ信じられなかった。
「セキレイが死んだだと?…そんなことを信じられるものか。アレは天の皇尊から授かった…『不死』の生き物のはずだろう…金の流砂だって?嘘だろ…」
 イールはセキレイがしていた首輪をアスタロトに渡した。
 何百年も昔、セキレイの為にふたりで懸命に作ったなめし皮の首輪だ。セキレイと二人の名前が刻んである。
 アスタロトはその首輪を受け取り、自分の部屋に閉じこもった。そしてそのまま出てこなかった。
 神殿の世話人たちはアスタロトを心配したが、イールはほおっておくようにと命じた。
 
アスタロト泣く

 ふたりにとってセキレイがどんな存在であったのか、その重さをアスタロトは知るべきだと、イールは思っていた。きっとアスタロトは部屋で泣き臥せっているのだろう。
 どんなにアスタロトが泣いていても、後悔しても、セキレイは帰ってこない。
 セキレイへの愛を感じるのならば、アスタロトはその責を負わねばならない、と、イールは思っていた。
 五日後、アスタロトは部屋から出てきた。
 彼の目は真っ赤に腫れ上がっていた。
 二人の神々が愛した者たちを祀る聖地へ向かい、アスタロトはセキレイの首輪を丁寧に埋めた。

 その足でアスタロトは神殿の玉座に座り、いつもと変わらぬように、拝謁をたまわる為に集うクナーアンの人々の祈りや祝福の声に耳を傾けた。
 隣りに座るイールの顔を一度も振り向く事もなく、アスタロトは薄笑いさえ口端に浮かべた。
 人々に向けられたその深淵の宇宙の瞳は、彼らの内と外のすべてを映していた。
 アスタロトは目を閉じ、溜息をついた。

(神として存在する我(おれ)のやるべきことなど、もう何ひとつ無い…この惑星にも人間にも…このハーラル系に実在する神などとっくに、必要ではなくなっているのだ…)
 
 

在りし日にアーシュがお絵かきした「セキレイ」。

sekireiinu.jpg


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さて、そろそろ終わりに近づいてますね。
あとちょっとでめんどくさいお話も終わるので我慢してね~(;´▽`A``




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This cruel world 12 - 2012.05.04 Fri

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アスタロトA33
12、
 第三代アルネマール伯、ウィリアム・ヴァン・キャンベルは、今年で齢(よわい)61になる。
 貴族出身ではなかったが、気立ても良く目端も利き、賢かった。なにより美少年であったため、小姓として宮廷に上がり、王の寵愛を一心に受けた。
 また他国との戦争でも、軍功を上げ、伯爵の地位を授与された。
 誇り高き貴族として恥じないように懸命に生きた青年時代であった。
 年頃になり、侯爵家から妻を娶り、かわいい娘を得た。
 美しく育った娘は、反対したにも関わらず、駆け落ち同然に子爵の次男と結婚した。
 今は三人の男子と二人の女子を持つ母親として幸せに暮している。
 妻は二年前に他界した。真に良妻賢母の鏡であった。
 伯爵は妻を誇りに思っても、それを口に出す男ではなかった。
 また他の貴族に倣って、遊興の限りを尽くしていた。
 それを諌めることもなく、妻はただ彼に微笑んでいた。
 褒められた良人ではなかっただろうが「幸せだった」と、言い残して妻は息を引き取った。
 伯爵はその言葉に後ろめたさを感じていた。

 ウィリアムは自分が年老いたことを知っていた。
 鏡を見るのが嫌だった。
 美少年、美青年と持てはやされた姿は、どこを探しても見る影もない有様だった。
 仲間内の貴族から賛美され続けた昔の姿の誇りを未だに捨てきれない自分が、いとわしく、さりとて、醜態だけは見せたくなかった。
 今はもう、静かに良い領主として、残された人生を全うしようと心がけていた。

 夏になると老いた身体に暑さが堪えるからと、夏の間は北の領地に昔から残る岬の城に毎年保養へ行く。
 供も付けず、誰も居ない朝の浜辺をひとり散歩するのが好きだった。
 その日の早朝もいつもと同じように、山高帽を被り、シワ地味もないシャツとジャケットにポケットチーフ、手袋に黒檀の真新しいステッキを持って、城を出た。
 朝日が丁度東の水平線から昇る様はいつ見ても、心が洗われる様だ。
 伯爵は整ったひげを撫でながら、目を細めて光る海を眺めた。
 ふと水しぶきが上がるのを見た。
 魚か何かが跳ねたのだろうと思い、気にも留めなかった。
 また歩き出すと、目線の先に、まさに今海から上がってくる人影が見えた。
 夏だと言ってもここは避暑地であり、まだ陽が出たばかりの早朝だ。
 気温は低い。とてもじゃないが人が泳げる水温ではあるまい。
 伯爵はその人影が人間なのか疑った。
 化物の伝説も多く、もしかしたら人を惑わすセイレーンなのかもしれない。
 が、伯爵は軍人でもあった。
 自分の領地の化物を放置するわけにもいかない。
 伯爵はステッキを握り締め、勇気を奮い立たせ、その海から上がってきた人影に勇敢に近づいた。

 人影はずぶ濡れの着物の端を絞り、長い黒髪を掻き上げ、近づいてくる伯爵を見た。
 その者の姿形がはっきりと認識できる距離に近づいた伯爵は、彼の者の顔を見て足を止めた。
 伯爵は息を飲んだ。
 これまで生きてきて、あまたの芸術に触れてきた伯爵は、この者が美の具現者であることを即座に知った。
 名画で見たどのような女神よりも艶やかに麗しく、また天才画家が描いた幾多の天使よりも清らかに聖なるものであった。
 息が止まるほどの鮮烈な、たぐい無き美がそこにあったのだ。
 
 彼が男性であることは濡れた薄い布が身体をくっきりと浮かび上がらせていたからすぐに識別できた。その少年とも青年ともつかない細い首と薄い胸、邪魔のない筋肉のついたすらりと伸びた脚や腕が、驚くべき美貌の顔、漆黒の長い髪、すべてが見事に調和がとれている実像に、伯爵は目を疑った。
 まさに魔に吸い寄せられてしまったのだろう。
 彼を畏れながらも、その数倍もの力で彼に魅了されていたのだ。
 伯爵はこの化物が、その本能により自分の血と命を欲したとしても、何の後悔があろうか、と、まで思った。
 しかし、この化物は伯爵が思いもよらないほどに親密であった。
 彼は伯爵に近づくとニコリと笑った。
「やあ、ごきげんよう」 と、春のおとずれを思わせるような清清しい声音で、老紳士に話しかけるのだ。
 伯爵は驚きながらも、紳士のたしなみとしてすぐに微笑み返した。
 (この美しい若者は敵ではない、敵であろうものか。よしんば敵であっても私はすべてを許せる)とさえ、思った。
「水泳は健康には良かろうが、少し冷たすぎはしないかね」
 伯爵は親しみを込めて若者に言った。しかし、少しだけ震えているのも悟った。
「そうね。せっかくだからこちらの海の主に挨拶をと思ったけれど、ここには水龍はいないのだね。残念だ」
「…」
 若者の言っている意味は皆目わからなかったが、それさえ選ばれた者の特権だと思えた。
「私は…ウィリアム・ヴァン・キャンベルと申します。あの岬の城の城主です。もし良ければ、あなたを客人として迎えたいのですが…いかがでしょう」
 伯爵はしゃべりながら、自分の子供よりも年若い若者になぜ敬語で話すのか、帽子を取り深くお辞儀をするのか、自分でも不可解に思えた。だが、幾らこの若者に頭を垂れても、自尊心は傷つくことはないと知っていた。
 若者が只者ではないと理解していた。

 若者は老紳士に誘われるまま、城へ向かった。
 使用人たちは伯爵が連れてきた素性の知らぬ輩を訝ったが、若者の素顔を見た途端、頭を垂れ、怖れをなした。
 若者は素直に従い、用意された新しい服に着替え、温かい朝食を伯爵と向かい合わせで取った。
 若者のテーブルマナーは、伯爵の知ったものとは違っていたが、粗野には見えず、どこかの王国の由縁の者ではないかと感じた。
「これは…珍しい色をしたお茶だね」
「紅茶というのですよ。お茶の葉を発酵させるのです」
「へえ~…面白い味だ。こちらのビスケットは…甘くない」
「これはスコーンと言って、こちらのジャムやハチミツを付けて食べるのです」
「あ…ホントだ。美味しいや」
 子供のように喜ぶ姿は、無垢な少年のように見える。
「名前を…聞いてよろしいか?」
 彼は少し考えたが、とても綺麗な声で言った。
「…アスタロト」
 伯爵は若者の名前を聞いて、何故この若者を畏れたのか理解できた。
「ではあなたは『魔王』であらせられるのですね」と、席を立ち再び丁寧にお辞儀をした。
「魔王?」
 アスタロトは首を傾げ、不思議な顔をしたが、伯爵はすぐに目を伏せた。
 マトモに顔を見ることさえ適わぬほどに、伯爵にはアスタロトが眩しすぎたのだった。
「あなたがどこから参られたのかは存じ上げないが、この国では『アスタロト』は、『魔王』。偉大な魔術師の名前なのですよ」
「魔術師って何?」
「魔…即ち魔力を持ち、魔術や魔法を操れる者のことです。私達は『魔法使い』とも『アルト』とも呼んでおります」
「魔力を扱える人間が、ここには居るの?」
「いえ、私も含め、多くの人間は魔力を持ちません。ですが、一部の人間は魔力を持ち、またその中の一握りの人間が強力な魔力を持ちえるのです。それが魔術師なのです」
「へえ~、面白いね。魔力を持った人間がいるなんて、珍しいな」
「アスタロト様も高等な魔術師でいらっしゃるでしょう」
「…何故そう思うの?伯爵」
「…いえ、何となく…」
 伯爵は脂汗を掻いていた。
 アスタロトが彼を「伯爵」と呼んだ時、それまでとは打って変わった残虐な意思を感じたからだ。

「別に怖れなくていいよ、伯爵。我(おれ)はあなたに害を為す気はない。この星の営みに興味があるんだ。ねえ、もっと色々と教えてくれる?」
「も、勿論です、アスタロト様」
「様はいらないよ」
「アスタロト様の名前を呼び捨てるわけには参りません。では…レヴィと呼んでもよろしいか?レヴィとは『尊き者』という意味があります。いかがでしょう。レヴィ・アスタロト」
「それでいいよ、伯爵。よろしくね」
 アスタロトの差し出す白くしなやかな手を、伯爵は怖れながらもそっと握り締めた。
 その指先から身体中に、枯れ果てた魂にせせらぐ清流を感じ、老紳士はこれまでの老いを怖れる日と決別できる気力を得たのだ。

 伯爵はアスタロトの望むままに貴族の生活の一部始終を経験させた。
 アスタロトはひとつひとつに驚嘆の声を上げ、また素直に感心しながらも幾つかの点では欠点や持論を展開した。
 そして三日目の夜になると、突然帰ると言った。
「帰る?…どちらに?」
「我が家にだよ。三日経ったら帰るとイールに約束したからね」
「で、では、今度はいつ来られるのですか?」
「気が向いたら来るよ。それまで元気でね、伯爵」
 そう言い残し、アスタロトは何も持たず、城の階段を昇っていった。
 伯爵が急いで追いかけ、城の屋上へ着いた時には、アスタロトの姿はどこにも無かった。

 伯爵は力を落とした。アスタロトと過ごしたこの三日間は、昔、我が主たる王と過ごした祝福の時が戻ってきたように思えたからだ。
「気が向いたら来ると言い残してくれたのだ。それを信じて待つことにしよう。なあに、無駄に時を過ごすのには慣れている」
 伯爵は次にアスタロトと出会う喜びを、待つ楽しみに変える術を知った。


アスタロト洋服


 翌年の夏、アスタロトは気が向いたのだろう。
 あの岬の城の門扉を叩いてやってきた。
 伯爵は自ら急いで、彼を向かい入れた。
 アスタロトは最初に来ていたチュニックのようなドレスではなく、去年伯爵から貰った服を着こなしていた。
「やあ、伯爵。来たよ」と、アスタロトは柔らかい笑みを浮かべた。
「お待ちしておりました。レヴィ・アスタロト。さあ、どうぞ」
 伯爵は途端に若者のような生き生きとした生気を取り戻すのだった。

「今度はどれくらい滞在されるのですかな?こちらも色々と楽しい趣向を用意しておりますよ」
「うん。イールに頼んで五日間の休日を貰ったんだ」
「イールと言われる方は、レヴィの大切な方なのですか?」
「イールは我が半身。最高の伴侶であり最良の者。我が愛のすべてを捧げる者。我(おれ)の『senso』はイールにだけ注がれる。彼無くしては我は居ない」
 躊躇なく恋人への愛を宣言するアスタロトを前に、伯爵はこれほど自分を恥じたことはなかった。
 アスタロトの恋人への愛の一部すら、自分は死んだ妻に愛情を注いだことがあっただろうか。 
 あの献身的な妻を褒め称えたことがあっただろうか…
 伯爵は後悔の念を抱いた。
 それを見たアスタロトは、伯爵の手を取り、こう言った。
「伯爵の枕元にはいつも彼女がいるじゃないか。いつだって愛を語る術はあるよ」と、微笑んだ。
 伯爵は魔王の言葉通り、その夜、ベッドに跪き、亡き妻への懺悔と心からの愛の告白を言葉にした。
 亡霊の姿の妻は良人を見つめ、穏やかに笑っていた。
「あなたの妻であり続けたことを悔いた日々があったとしても、今はこうして静かにあなたを見守る時が来た事をありがたいと思っているのですよ。どうぞ、ゆっくり時を楽しんで、こちらにおいでになって下さいませ。いつまでもお待ちしております」
 夢か幻か、アスタロトの見せた魔術だろうか…
 伯爵は心に刺さった罪を少しだけ軽くすることができた気がした。


 アスタロトは毎年、夏になると伯爵の城へ姿を見せるようになった。
 伯爵もまた、彼の来訪を何よりも待ちかね、彼を喜ばせる為に色々を用意をすることを楽しみにした。
 アスタロトへのプレゼントは勿論の事、彼の恋人への贈り物もまた一層手をかけて、職人に作らせ、アスタロトを喜ばせた。
 伯爵はアスタロトを我が子のように愛した。
 アスタロトも伯爵を「我が友人」と、呼び、信頼をおいた。
 
 派手な魔法は決して見せなかったが、伯爵にはアスタロトがこの地上の者ではないことを知った。
 地上は幾つかの次元への道があり、特別な人間だけが許される、と、聞き及んだことをアスタロトに話した。それを聞いたアスタロトは、「ふうん」と、言い、「我(おれ)は人間じゃあないよ」と、ニヤリとする。
「伯爵が言っただろ?『魔王』って。気に入っているんだ。その呼び名」
「レヴィは…何になりたかったのかね」
「そうだね…」と、言ったっきりアスタロトは口を噤んだ。
「我は我でしかない。他の者にはなり得ない。これだけはどんな魔法を使っても無理なんだ…」
 いつもは傲慢であったり、時に無垢な少年の顔をするアスタロトだったが、伯爵は初めて儚げな彼の顔を見た気がした。


 伯爵も年を取り、そしてその死を迎えた。 
 彼は自分の死をアスタロトに看取って欲しいと願った。
 その時は夏でもなく、あの城でもなかったが、老人の願いどおり、アスタロトは老人のベッドの脇に音もなく立っていた。
「我(おれ)を呼んだだろう?伯爵」
「ああ、レヴィ。私の敬愛する友人。魔王アスタロトよ。どうやら私も『死』を迎えるらしい」
「喜ばしいことだね。羨ましい限りだよ」
「魔王は死ねないのかね?」
「うん、残念ながらね」
「…それは大変だ」
「そう、とっても大変なんだ」
 ふたりは顔を見合わせて笑った。

「最後の頼みなんだが…聞いてもらえるかね」
「勿論」
「あの岬の城を君に譲ろうと思っているんだ…手続きは難しいが、君の魔法でなんとかできるかね?」
「容易いことだ」
「時折…あの城を覗いてくれたまえ。きっと私の亡霊が君を待っているだろうから」
「了解した。…伯爵の奥様と一緒に待っててくれよ」
 この世で最後に見たものが、この世で一番美しい者であった幸運を伯爵は喜び、息を引き取った。
 
 第三代アルネマール伯、ウィリアム・ヴァン・キャンベルは、75歳の人生を終えた。

 アスタロトは気が向いた時に、あの岬の城へ出向く。
 誰も住む者がいない寂れた城であったが、仲の良い夫婦の亡霊が、彼をもてなしてくれる。

 数十年後、ひさしぶりに覗いた城に人影を見たアスタロトは、いつも伯爵と居た談話室へ姿を現した。
 扉を開けて部屋に駆け込んだのは幼い少女だった。
「あっ!」
 アスタロトを見た少女は驚いた。
「ごきげんよう、お嬢さん」と、アスタロトは笑った。
「ご、ごきげんよう…レヴィ…アスタロト」
 少女ははにかみながらも、丁寧にお辞儀をした。
「ああ、レディは曽祖父どのにそっくりだ。彼はとても美少年だったらしいからね」
 アスタロトは少女の頭を撫でた。
「曾お祖父さまを知ってらっしゃるの?」
「大事な友人だったよ、クリスティーナ」
 アスタロトは少女の頬にキスを残して、消えた。

 クリスティーナは部屋の壁に飾られた「レヴィ・アスタロト」の絵を蒸気した頬で見つめ続けた。
「私、本物を見たわ」

 クリスティーナは一生涯、アスタロトを慕い続けた。
 スタンリー侯爵家へ嫁いだ後もずっと…彼だけが少女の夢であり続けた。



アスタロト肖像画


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This cruel world 11 - 2012.05.01 Tue

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i-ruto.jpg
11、
 地上は永遠の楽園とは行かなかった。
 ふたりの神々がいかに多大な恵みを授けようとも、クナーアンの民は己に忠実であり、本能のまま純粋に生きる種族だった。
 彼等は平穏に厭きた。反復に飽きた。喜びに飽きた…日常に飽きた。
 彼等のイデオロギーは権力であり、闘争であった。
 イールとアスタロトがどんなに手を尽くしても、彼等の本能には抗えない。
 平穏は退屈の温床であり、民は常に何かを求めなければ生きていけなかったのだ。
 それが暴力や憎悪であり、自らが命を落すことになっても、求め止まない呪いのようなものであった。
 だが、闘争も長く続けば飽きる。
 地上は平穏と破壊と混沌を繰り返していた。

 アスタロトは常に疲れていた。
 彼は彼の民を愛していた。
 彼の民の幸福を祈り、それを適えるために、地上を豊穣の土地へと導いていった。
 彼等はその恵みに喜び、田畑を耕し、実りを得る。
 しかし、数十年もすると、受けた恩恵も忘れ、収穫もせず、荒れ果てた土地になるのさえ見て見ぬフリをしながら、より多くの恵みをくれと、嘆願するのだった。
 また、アスタロトの勝利の軍神としての定めが、彼等を闘争へと掻き立てる要因のひとつであった。
 アスタロトが望んだ事ではないにしろ、戦いに望む者たちは、軍神アスタロトを湛え、アスタロトの名を叫びながら命を落していく。

 アスタロトは悲しかった。
 彼等の讃える声も救いを求める声も、呪詛に似ているような気さえした。
 イールの膝の上で泣き、己を責めた。
「この星の民をどこへ導けばいいのか、僕にはわからない。僕では彼等を救えないのか?僕ではダメなのか…」
 イールはその度にアスタロトを慰め、傷めた心を癒した。
「アーシュが責を追うことはひとつもない。彼等は…民はそういう生き物なのだよ。私達神は人々を平等に愛しながらも、彼等に深く干渉するべきではないのだ」
 イールの言うとおりだった。
 それでいなければ永遠の神など勤まりはしない。
 それでも彼等が求めれば与えたい。彼等が必要とするのなら傍にいたい。
 豊穣の神としての責務と、大いなる勝利の約束、万民の平和は、アスタロトの本能だった。
 アスタロトもまた、彼の愛する民と同じように傷つき、そして立ち上がり、愉悦を求めながらも律令を愛していたのだ。

 イールはアスタロトとは根本的な魂のあり方が違っていた。
 彼は言う。
「私達と人間は似て非なる者だ。だから彼らの言い分に耳を傾けるものではない。彼らの所業が目も当たられない程になった時、その時に天罰を与えるのだ。神話のように、洪水を起こすのも由。または業火に町を焼き払うもの由。その時、彼らは私達を畏れるだろう。二度と悪行を働かないと誓うだろう」
 イールの言葉は神ゆえの言葉だとアスタロトも知っていた。
 だが神が権威の為、故意に地上に与える罰は果たして正しい御技なのだろうか…。
 幾人かの罪人を贖罪するために犠牲になる多くの民がいることは、理にそぐわない。

「神がふたり居るってことは良い事だね」と、イールは笑う。
「そう?」
「お互いが歯止めになるし、勝手な振る舞いが出来ないものね」
「僕は結構勝手三昧で、君に迷惑をかけているよ」
「アーシュのは迷惑じゃないよ。私の狭い思考認識を君は広げてくれるもの」
「僕は愚かだ…」
「ほら、君は破格の者だよ。神が自分を愚かだと言った詞書は今までにない。…アーシュ、君は素晴らしい神だよ。私は…君を知っている」
「イール…」
 神殿の玉座に座るイールの膝で、構う事無く涙するアスタロトを、神官たちは純粋無垢な光の化身として崇めていた。

 確かに…アスタロトは異端の神であっただろう。
 彼自身の精神の苦しみを、その半身であるイールは一応は理解しても、何故アスタロトがそれを悩みとするのかがわからかった。
 精神の苦しみとは、魔力に比例するのだろうか。
 アスタロトの魔力は彼自身さえ気づかないほどに膨れつつあった。


 「senso」の空間に立ったイールとアスタロトは、いつものように周りの宇宙の景色を見つめながら、裸のまま戯れていた。
「ここはいいところだね」
「そう?変わり映えしない景色に、私は飽きつつあるけれどね」
 サクラの木に凭れアスタロトの背中を抱くように座るイールは、アスタロトの黒髪に落ちる花びらを一枚一枚掬い取る。
「ここはいいよ。だって、民の救いの声も陳情も嘆きも聞こえない。アレに悩まされることもない。楽園だよ」
「…アーシュ」
 イールは甘えるように胸に凭れるアスタロトの黒く艶やかな長い髪を撫でた。
 イールが長くするように頼んだ髪は、イールよりも長く、イールが思うよりもよりずっと、アスタロトを美しい姿形に魅せていた。
「あの民の声が聞こえないイールが羨ましいよ。まったくもって…よく狂わずにいられるものかと、自分の精神の強靭さを嘆くばかりだよ」
「アーシュ、そんなに苦しいのかい?その声を遮る方法だって君はできうるじゃないか」
「そうだね…でも…でもさ、たったひとつの美しい祈りの声を聞き逃したくないって…思ってしまうんだ。残りの99パーセントが呪われた声であってもさ。神の存在意義っていうのは、そういうものじゃないかと思っているから。思いたいから…」
 失意の中にたった一厘の花を見つけ出す喜びを知るアスタロトを、イールもまた唯一無二な者と信じ、愛していた。
「アーシュ。私は何があっても君を信じ、従うからね。だから…頼みがある」
「何?」
「私が君を愛していることを忘れないでくれ」
「…そんなの…当たり前じゃない」
 アスタロトはイールの言葉を不思議に思い、後ろに居るイールを振り向きながら首を傾けた。
「君は余所見が多いからね。私の存在すら忘れてしまうかもしれない」
「まさか、君を忘れるなんて事あるはずもない。けど、余所見が多いのは仕方ないね。実はさ、そろそろ他の惑星系へ行ってみようと思うんだ」
「…ハーラル系ではない場所へ?」
 イールはアスタロトの言葉に気が重くなった。が、それこそ好奇心の塊の神であるアスタロトのことだ。そろそろ言い出す時期だろうとも予見していたから、さして驚きはしなかった。

「そう。こんなに広い宇宙だもの。生命体はいくらでもあるし、こちらと同じような形態も存在するかもしれないだろう?時空と次元も超えられるんだもの。きっとね…このハーラル系に住む民もどこからか移ってきたのかもしれない。もしくはこちらから旅立ったのかも…とにかく、時空の扉を開けてみるよ」
「そんなことが…できるのか?」
「多分ね。見ててごらん」
 アスタロトは立ち上がり、裸の身体に脱ぎ捨てていた着物を羽織った。
 十数歩歩き、「ここでいいか」と、言い、おもむろに指で空間をなぞっていった。
「ニクフハ ギニ ノマタ キサ…」
 イールには聞きなれない呪文がアスタロトの口から発せられた。
 アスタロトのなぞった指先から光が零れ、またたくまに空間が四角に区切られた。
 ハーラル系へ行く扉とはまた違った形をしていた。
 イールはアスタロトの行う魔術を見るたびに、敬服しながらもその力を畏れた。
 同じ神でありながら、どうして力にこのような差があるのだろうか。
 他の惑星の神々もまたアスタロトのような力があるのだろうか。
 自分だけが持ち得ない力なのだろうか…
 イールもまた、自分が神として本当に在るべき姿なのか、苦しんでいた。

「さあ、別空間への扉だ。行こう、イール」
「わ、私も、行くのか?」
「だってイールと一緒の方が、僕も心強いもの。イールは行きたくないの?」
「…いや、行くよ」
 アスタロトの差し出す手を拒めることなんて、私に出来るわけも無い…と、イールは苦く自嘲しながら、目の前の形の良い白い手を握り締めた。


 ハーラル系とは違う宇宙は、イールもアスタロトの想像を遥かに超えていた。
 見渡すところ巨大な氷河の塊が連なった大地。
 岩と石だらけの灼熱の砂漠の星。
 すべてが海で覆われた星。
 すべてに命があったが、彼等の望む物ではなかった。
 彼等の形に似た生き物を探すのは、簡単にはいかなかったのだ。
 そのことにイールは安堵し、アスタロトはがっかりした。

「これでわかっただろ?アーシュ。我等のハーラル系は尊い生命体を有する星なのだよ。私達神々もまた選ばれた運命を全うしなければならない存在なんだ」
「この世が、この宇宙すべてが『天の皇尊』のものではないはずだ。必ず僕等に似た命があるはずだ」
「それを探してどうする?君がその物になれるものでもないだろう」
「もし…それらとより良い関係を築けたら…それはまたクナーアンの未来を導く教訓や指針になるかもしれない」
「君って奴は…」
 尽きる事のないアスタロトの好奇心にイールは呆れたが、アスタロトの想いもまた理解できた。
 
 クナーアンはイールが眺めても、面白い様子は見当たらなかった。
 人々は笑い、泣き、争い、悔い、眠る。
 その繰り返しだ。
 アスタロトの嘆きもやっと理解できた。
 愛すべき我が星は、かくも平凡な他愛のないものになってしまったのだ…
 

 


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