FC2ブログ
topimage

2012-11

Brilliant Crown 10 終 - 2012.11.29 Thu

10.
イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方はイラストをクリックしてください。


sorawomiru33.jpg


10.
 天の皇尊ハーラルが、ふたりの神に選ばせた運命の十年は確かにはったりであった。
 あれから十年過ぎてもアーシュは死ななかったのだから。
 代わりにハーラルがアーシュに与えた罰は、見かけ上、歳を取らせぬことだったらしい。
 らしいというのは、しかけた本人は知らぬ存ぜぬで、真実など白状する気もないからだ。
 それに成長した18歳の身体が歳を取ったからと、そうそう変わるものでもないのだから、周りのほとんどの者たちはアーシュが老けないことに気づかない。
 イールなどは天の皇尊が約束を違えて、アーシュを不死にしてしまったのではないのかと疑い、ひとり昇殿し、ミグリを責めたりしてみたが、「冗談でも言いなさるな。天の御方が約束を違えるとでも?」と、相手にしない。
(天の皇尊だから疑っているんじゃないか…)と、イールは渋い顔をした。
 十年しか生きられぬことも哀れだし、かと言って不死など言語道断である。と、責めてはみてもイールも、外見上、年を取らぬアーシュに内心安堵していた。
(ひとりだけ大人の男になってしまったら、おいてけぼりをくらったようで寂しいからな)
 セックスをする時などは、特にそう感じる。
 いつまでも薄荷草の匂いを残した少年と青年の狭間であるアーシュの身体が、イールには格別にたまらないなのだから。
 喘ぐ声や頬を赤らめながら求める仕草などは、イールを興奮させる。
(さては、彼の御方のアーシュへの刑罰とは、私たちが死に、そしてその魂を御胸に抱く時、このままの姿で手に入れたいという己の願望だけだったのだな。しかし、そこまでいくと偏執愛などでは済まされない気もするが…今更、死んだ後の始末をどうこう思っても仕方ない話だな…)
「…イール、どしたの?何か考え事?」
 イールの上に乗って、腰を動かしながら、潤んだ目を細め、少しだけ顔を傾けるアーシュは、何を置いてしても愛おしく、イールはつまらない考えなどを消し去り、アーシュを喜ばせる事だけに没頭するのだった。


 十年の寿命期限は免れたが、アーシュは32歳という若さで人間として命を終えた。
 「死」は自分で選んだものだった。
 大事な人を守る為に、アーシュは命を投した。


 彼はまだ小さかった。
 三歳の誕生日を迎えたばかりの子供だった。
 ウィリアム・ナサナエル・セイヴァリはベルことクリストファー・セイヴァリの一人息子だった。
 ベルは27の時、結婚した。相手は母、ナタリーの遠縁の娘でクリスティーナと言う。
 彼女もまたアルネマール伯爵の血を受け継いだ娘であった。
 当初ベルは結婚など頭になかった。
 スタンリー家とセイヴァリカンパニーを継ぐことには異存はなかったが、こと結婚になると、アーシュ以外を本気で愛する術を知らずに生きてきたベルは、父親のように家系を絶やさぬための、形だけの婚姻には否定的であった。
 ベルの本質は一本気だ。こうと決めたらテコでも動かない。
 男にも女にもモテるし、付き合いも下手ではないが、所詮は遊びでしかない。ベルの想いは常にアーシュに注がれていた。
 アーシュはそれを理解していたし、彼の愛も大いに受け入れたが、同時にしつこいほどに結婚を薦めた。
 ベルは勿論、憤慨した。

「でもさ、ベル。俺はベルの家系が途絶えるのはもったいないと思うよ。そりゃ、養子をとってもいいんだろうけど、おまえ、せっかくの美貌と由緒正しき血統なんだから結婚しろよ」
「おまえは俺のおまえへの愛の誓いを破らせるつもりなのか?…俺はおまえが誰を愛そうと責めはしない。だが、俺の真実の愛まで、おまえが否定するなっ!」
 酷い剣幕でベルが怒る。間のルゥさえ尻ごみするほどである。
「俺もベルを愛してるよ。ベルが大好き、ずっと一緒にいて欲しいって思ってる。でも、おまえだって守るべき者が身近にいた方が、なんつうか、気が休まるつうか、ほんわかするつうか…俺もそういうの味わってみたいなあ~」
「アーシュ、言葉に気をつけろよ。ベルを本気で怒らせたら…僕が困る…」
 相変わらず思ったことをずけずけ言う性格は変わらない。そのくせいやみがないから困る。もっと困るのはベルをとりなす役はルシファーしかいないってことだ。
「ほら、セキレイだって困ってるだろ?セキレイはサマシティとクナーアンを行き来しているんだから、ベルの常任セラピストではいられないんだぜ。代わりの可愛いおんにゃの娘と結婚して安らぐ家庭を持ってみるのも…ギャーッ!」
 テーブルにあったワインボトルとグラスが同時に宙を舞った。
 アーシュの両側を擦り抜け、酷い音を鳴らして壁にぶち当たった。
(だから言わんこっちゃない…)
「あ~、もったいねえなあ~。エドワードから貰った年代もののワインを…」
「うるさいっ!アーシュの馬鹿野郎っ!二度と俺に結婚の二文字を言うなっ!」」
 怒りで顔を真っ赤に染めたベルはアーシュに拳固を見せ、どかどかと足を鳴らして部屋を出ていった。

 残されたアーシュとルシファーは顔を見合わせた。
「なんでああ怒るのかね~。冷静に考えれば、一番良い選択だと思うけどね」
「ベルにとって君への愛は、神聖でありつづけるものなんだよ。だから、幸福な結婚であっても他のどんなより良い未来であっても比べるものではないんだ。特に君の口から聞きたくないのは当然だよ」
「…わかるけど…さ」
 ルシファーはアーシュの気持ちも理解できる。
 人間になったとはいえ、アーシュはクナーアンでもこのサマシティ、そしてこのアースという惑星にとっても、特異な存在であり、いわば選ばれた者なのだ。
 およそ普通の人間が持ち得ないも能力も外見も、そして運命も、他の者から見れば、憧憬や畏敬の象徴として崇められるものであろう。だが、アーシュには家庭も、子孫も、ありきたりの生活さえも望めない者になってしまった。
 だからこそ、身近な愛する者たちに、あたりまえの幸せな生活をと望んでいるのだ。

「ベルの結婚のことは、僕がエドワードとナタリーさんに相談して、上手くいくように段取りをつけるから、アーシュはこの件に首を突っ込まないこと。何も言うんじゃないからね。わかった?」
「ちっ!つまんねえの」
 無造作にカウチに身体を伸ばし、口唇を尖らせるアーシュは、子供の頃と少しも変わらない。
 ルシファーだけが知るアーシュであり続ける幸福を、ルシファーは大切にした。
 彼はアーシュが死ぬまで、アーシュの恋人だった。

 幸いなことにベルが娶ったクリスティーナは、非常に賢くまたキュートな娘であった。
 ベルよりも五才下の世間知らずのお嬢様育ちではあったが、持ち前の明るさと天真爛漫さがセイヴァリ家とスタンリー家を共に照らすともしびとなり、初めは渋っていたベルも素直な心でクリスティーナを愛そうとこころがけた。



 のちに聖光革命と呼ばれた各地の戦争は、アルトの魔力を怖れたイルトの絶望感をあおった宗教指導者の政治支配をもくろむいわくつきの陰謀ではあったが、魔王アスタロトとして立ち上がったアーシュは、圧倒的な魔力でこれを鎮めることに成功した。
 かかった期間はわずか半月である。
 その後も、乱心した聖職者たちは、聖なる戦いを達成すべき堕落した悪魔とアーシュを罵り、魔力を持つアルトを籠絡させ、アーシュを抹殺しようと躍起となり暗躍したのだった。

 幼子ウィリアムに掛けられた呪いは複雑であり、またアーシュを狙った呪術であるため、彼の命を助けるにはアーシュが身代わりとなるしか手立ては無かった。
 アーシュは微塵も迷わなかった。
 アーシュはウィリアムを自分の子供のように可愛がり、そして家族として愛していた。
 アーシュが決めた以上、引き留める者は誰もいなかった。ベル以外は。
 ベルはアーシュが自分の子供の犠牲になることを拒んだ。
 この世界にとってアーシュがどれだけ重要であり、先導者として絶対的な存在であるかは、言うまでもなかった。
 だがアーシュはベルの手を取り、穏やかに微笑んだ。
「なあ、ベル。俺の命でウィルを救える幸福を感謝しろよ。類まれに生まれついた俺だから、美しい死を与えられるのは当然なんだって」
「…アーシュ。おまえを失うのは嫌だ…」
「おまえねえ、救世主が長生きしてたら語り草にならんだろ?その代わり、ウィルを良い子に育ててくれよ。…心から愛してやれ。約束だよ、ベル」
「…アーシュ」
「俺への愛はおまえが死ぬまで注いでくれたら嬉しい。ベルの愛は誰よりも美しい想いなのだと、知っているから」

 アーシュはウィリアムの呪いを我が身に移し替えた。
 彼の心臓に解くことのできない毒針が撃ち込まれたのだ。
 残された時間は僅かである。
 アーシュがイールの名を口にする前に、イールはアーシュの前に姿を現した。
「…イール」
「何も言うな、アーシュ」
 イールはアーシュの身体を抱きあげ、アーシュの運命に落胆し悲痛に苛まされる人々に言った。
「悲しむではない。アーシュは人間として悔いなく生を全うしたのだ。アーシュの想いを心に刻むがよい。この時より、この惑星の未来はおまえたちが担うのだ。…よろしいか?」
 イールの言葉はアーシュとの永遠の離別を意味した。その言葉に誰もが項垂れ、涙した。

 イールは跪くルシファーに耳打ちした。「すぐにクナーアンに戻り、後はすべてヨキに従え」と。
 そして両手にアーシュを抱いたまま、サマシティからクナーアンへと去っていった。


 イールには、予見され、動揺することもなく受け入れた「死」であった。
 ふたりの神が消滅した後のことは、神官たちに言い渡してある。
 天の皇尊は約束を守り、新しい二神をクナーアンに与えて下さるだろう。
 そしてクナーアンは新しき二神に導かれ、選択され、未来を歩き続けていくのだ。
 その未来に輝きあれ、と祈る事しか、イールには残されてはいない。

 息も絶え絶えなアーシュを抱き、イールはふたりが最後に迎える場所と決めた崖の上の草叢へと飛んだ。
 ちょうど陽が沈む頃であった。
 マナの木に寄り掛かり、アーシュを抱いて座るイールは、段々と鼓動が弱まっていくアーシュの額の脂汗をを拭いた。
「アーシュ、苦しいのか?」
 アーシュの苦痛は如何ばかりか計りようがない。が、アーシュは痛みに震える声で言う。
「大したことはないけどさ…もっとイールに近寄らせてくれない?キスが欲しい…だ」
「ああ、もちろんだとも…」
 イールはアーシュの身体を抱き寄せ、ぐったりとした頭を支え、深く口づけた。
「イール…これで…良かったの?」
「ああ、やっと私だけのアーシュをこの手に抱くことができるのだ。これ以上の幸福があろうものか…」
「俺も…最高に…しあわせ…」
 薄荷草の匂いが立ち込めた丘が金と橙の鮮やかな色に染まり、辺りは季節外れの花が咲き乱れた。抱き合うふたりを囲むように、鳥や虫たちが集まり、美しい声を響かせた。
 その響きに合わせるように唄うイールの子守唄が、死んでいくアーシュを安らかに見送った。
 黄金の輝きに照らされたイールとアスタロトはひとつの塑像のように動かなくなった。
 ほどなく、その身体は、さらさらと金の砂と崩れ、風に舞い、光となり、天へ導かれていくのだった。

 天に消えていく二つの魂を、神官たちは見守り続けた。
 ふたりの神の死は新しき神の誕生を迎える儀式とも言える。
 新たな神の為にやるべき多くの奉り事の準備がある。
 神官たちは方々の政務する神官たちに、クナーアンの神の崩御を伝え、クナーアンのすべての民が一年間、喪に服することを言い伝えた。
 そして喪が明けた時、新しき神が誕生することも…
   

 一年後、正式に神官として奉仕していたルシファーと神官長のヨキの夢枕に、昇殿するようにとの天からのお告げがあった。
 翌朝、ふたりは潔斎し、十二の階段を畏れつつ登り、人間の手では開けたことのない天への扉を開いた。
 光の渦に囲まれた場所では、踏みしめた足場さえ、心許なかった。
 ヨキとルシファーはそっと跪き、ただ緊張に震えながら、神託を待った。

 声がした。美しい天の声だ。
 低頭するふたりの目線に飾り気のないサンダルを履いた、男の足が見える。
「ハーラルすべてを統治される天の皇尊は、クナーアンに新しき神を、創らせもうた。この上なき聖なる神なれば、心して慈しみ育て参らせ候ぞ」
「謹んで…崇め奉ります」
 ふたりの前にそれぞれに純白の絹の御包(おくる)みに包まれた赤子が差し出された。ヨキとルシファーは畏れつつ、取りこぼさないようにその御包みを両腕でしっかりと受け取った。
「こちらはイール。そしてこちらはアスタロト…と、天の皇尊は名付けられた」
「…」
「さあ、行きなさい。新しき未来を讃える光は、この二神が担うであろう…」
 ヨキとルシファーは畏まりながら後ずさり、天上を後にした。

 ふたりは神殿のふたつの玉座にそれぞれの新しき神の赤子を大事に寝かした。
 「イールさま、イールさま」と、泣きながらヨキは銀色の巻き毛の赤子の名を呼んだ。
 ルシファーは、褐色の柔毛をした赤子を覗き見た。
(かわいらしい…)
 ルシファーは赤子のアーシュを知らない。けれどきっとこの新しき神と同じような面差しで眠っていたのだろう、と、思った。
 想いは記憶に繋がる。アーシュと生きた日々がルシファーの感情を揺るがせた。
(こんなにも愛おしい人だったのか。僕のアーシュは…アーシュ、アーシュ…生まれ変わっても君はアーシュだよね)
 
 ルシファーは込み上がる想いをどうすることもできず、玉座に眠る赤子をしっかりと抱きしめた。
 そして「僕だよ、アーシュ。君のセキレイだ」と、囁いた。
 赤子はゆっくりと目を開けた。
 瞳に映る那由多の星々の煌きが、ルシファーを見つめた。
 「アーシュ…」と、ルシファーはもう一度その名を呼んだ。
 クナーアンの新しき神は、応えるかのように笑った。



 アーシュがクナーアンの神として生きた年は14年と短い。
 そしてクナーアンに居た時間はその半分にも満たなかった。しかし、彼はクナーアンの神としてその努めを十分に果たし、大地と民の為に尽くした。
 種を蒔き、豊穣を祝福する神と呼ばれたアーシュは、春を呼ぶ神と賛美された。

 収穫の秋には神殿に拝殿すれば、ふたりの姿を拝することが出来る。
 ふたりは民と共に謳い、踊り、楽しんだ。イールの鳴らすシータに合わせ、アーシュが見事に踊る風景など、後の語り部たちは夢見がちに何度も繰り返し思い出しては、美しい詩を作り続けたのだった。

 春は、クナーアンに住むすべての民が歓喜に沸く。
 豊穣の芽吹きは春にやってくるからだ。

 …その日の朝は、不思議と朝焼けと共に必ず七色の虹が薄青色の空にかかるのだ。
 天の啓示のように、虹のかかった日にイールとアスタロトはその土地に姿を現し、祝福を与えた。
 ふたりの神は集まった人となごやかに接し、絶えず彼らに喜びと安らぎと勇気を与え続けた。


 凍りついた冬を乗り越え、春を迎える季節が近づくと、
 人々は、陽が昇る前に目を覚まし、
 陽が昇りきるまで西の空を仰ぐ。

 イールとアスタロトの到来を知らせる、
 ブリリアントクラウンを讃える為に。


       終


ラストシーンふたり


これでクナーアン編は終わります。
急ぎ足で、アーシュとイールの人生を語りましたが、まだまだ色んなエピソードを語りたい。
これからは沢山のキャラのそれぞれの視点で、短いテキストを書き連ねていきたいと思います。
「senso」の世界だけではなく、「greenhouse」や新しい物語などを短い文章で綴っていけたらいいな~。

「掌の物語」というカテゴリで紹介していきたいですね。


Brilliant Crown 9へ
Phantom Pain 1 



お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

懐かしむ 4 - 2012.11.24 Sat

イラストで「senso」を懐かしむシリーズです。

イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方はイラストをクリックしてください。


「senso」はキャラが多くて大変なんですが、カルキという魔法使いは大好きです。

このキャラを書こうと思ったのは、アルト(魔法使い)とイルト(魔力を持たない人間)のカップルはどんな風なのか?と、自分で納得させたくて書いたんですね。

スチュワートとカルキ

ベルの父ちゃんはイルトだけど、アルトを魅了し支配するカリスマ性がものすごく強い。
支配される側のアルトが恋をするようにイルトに惹かれてしまうのか…それはもはや運命の恋なのか…と、勘違いするカルキの視点で書きました。
支配されてても、実は幸せなんですよ~と、いう事なんです。

kalkihane.jpg
しかもこの子は男娼で、なにも後ろ盾がない。にもかかわらず、能天気でかわいい。スチュワートを信じて突き進む…そこがこの子の魅力ですね。

ステュワート座る
スチュワートは、誰が見ても魅力的な男にしたかったんです。
男も女も惚れてしまうような危険な男です。
父としては駄目人間ですが、子供をかわいがる性格ではないだろうと思いまして。
まあ、完璧な人間なんて物語にはいらないですからね。

魔術師とマスター
カルキがスチュワートを想う強さの半分も、スチュワートはカルキに惚れているわけじゃない。
まあ、スチュワートは所詮ナルシストですからね。

この後、カルキの親友のリシュのお話とか、書けたらいいんですけど。

何十年ぶりに出会うふたりは、思い出話に花が咲く。
そこでアーシュが現れて、リシュが年甲斐もなくほれてまう~…みたいな?
…知らんけど( `^ω^)=3

Brilliant Crown 9 - 2012.11.20 Tue

9.
イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方はイラストをクリックしてください。


イール絵姿2

9、
 さよなら。
 繋いだ手は、いつまでも離したくはないけれど、
 楽しい今を惜しんで、立ち止まったままではつまらないね。
 だから、さよなら。
 別れのさびしさは、再会へのときめきにかえて。
 そして、また、大いに語り、愛し合いましょう。
 だから、

 別れは笑顔で元気で、と。


 懸命に話すイールに耳を傾けていた天の皇尊は、次第にそれまでの厳しい表情を和らげ、少しだけ呆れた風に顎を突き出した。
「イールは勝者になる算段なのだな?」
「はい。クナーアンの神として生まれ出た時から、私は自分の運命に負ける気はありません。アーシュと共に生きた満ち足りた過去に悔いはありません。そして、生まれ変わったアーシュと生きていける未来に、…私はこれまで感じたことのない期待と昂揚に満ち溢れております」
 イールは天の皇尊を前に、これまで表したことのない感情をさらけ出し、身体の心から熱くなるほど夢中に訴えている自分自身に満足していた。
 
「イール。おまえの未来は短い。それはわかっておろうな」
「はい」
 イールは深く頷いた。
「不死に生まれてきたおまえが、半身の愚かさゆえに滅ぶ己を情けないと思わないのか?」
「…永遠の美とは歴史に残され、人々がその美しさに気づき、初めて認識するものではないでしょうか。永遠の生も、限りある者には夢の如く、憧れではありましょうが、当人の私たちにはそれほど魅力とは思えません。私は平凡な神ゆえに、不変不死を当然に感じていました。だがアスタロトは…アーシュは幼い頃から、己が不死であることに疑問を持ち続けていました。生まれ、育ち、そしていつかは滅んでいく。それはあらゆる自然の成り行きだと彼は感じていた。アーシュは常に己に違和感を覚えながら生きていた。…私は彼が人間に生まれ変わったことが愚かとは思いません。人の世に生まれ、育ち、老い、死んでいく。アーシュは自然の生を手に入れたのです。そして、私もまた、同じ運命を担う者として、アーシュと共に死ねるのです。これから生きる未来がいかに短くとも…私は、微塵も後悔などしない」
「イール…」
 後ろに控えていたアーシュは、思わずイールの背中に抱きついた。
「ごめん。それから、ありがとう…これはアスタロトとしての言葉だ。俺からは、ね。イール、心からあなたを愛してる。これからもよろしくね」
 イールは振り返り、アーシュの両手を握りしめた。
「私も…天の皇尊の前で誓う。アーシュを愛している。死ぬまでおまえを守り、癒し、導いていこう。私の命がおまえと共にあることが、私の誇りだ」

 天の皇尊ハーラルは、生き生きとしたイールの姿に思わず目を細めた。
 律に縛られた者が、その鎖を解き放つ姿は、誰が見ても爽快であろう。
「…では、私が降りるしかないわけだな」
 ハーラルはわざとらしく肩を落とし、大きなため息を吐いた。
「…ありがとうございます」
 イールは深々と低頭し、アーシュもまたイールに倣った。

「…愛し合う恋人の前で、勝者になるものはいまい。…アスタロト…アーシュ、こちらへおいで」
「はい」
 アーシュは、天の皇尊の前へ進み、イールと共に並んだ。
「私はおまえたちを司る天の皇尊である。それ故、おまえたちの罪を無辜にするわけにはいかない。さて、ふたりにふたつの運命の道を差し出そう。ひとつはふたりがこの先も永遠にクナーアンの不変不死の神として生きていくことだ。もうひとつは、ふたりに残された未来の時間は、この時から先、クナーアンの月日でいうならば十年。それ以上もそれ以下もない運命だが…どちらを選ぶ?」
 天の皇尊ハーラルの処断に、アーシュは少し面食らった。
 十年…アーシュにはこの歳月が短いとも長いとも感じることができなかった。だが、千年以上を生きたイールを思う時、残された時間がたった十年しかないことが残酷に思えたのだった。
 だがイールはアーシュに微笑むと、すぐさま天の皇尊に「迷う必要もありません」と、答えたのだった。

 一瞬だがイールはハーラルの言葉に動揺した。
 これから十年しか生きられぬアーシュを想うと、人生としては短すぎると感じたからだ。
 まだ十八年しか生きていないアーシュには、あまりに重い罰ではないのだろうか…だが、それは一瞬のことだった。
 イールは天の皇尊ハーラルが、これほどまでに執着しているアーシュに酷い罰など与えたりしないはずだと、信じていた。ただ本気でアーシュと自分を試しているのだ、と思った。
 それに、もしハーラルが本当に十年の歳月しか我らに与えなくても、すでに不死と言う選択は、イールとアーシュにはない。
ならば、選ぶべきはひとつしかありはしない。

 天の皇尊はイールとアスタロトの決意を悟り、高御座から立ち上がった。
「では、私の裁断を行う。…アーシュ、私の傍へおいで」
「はい」
 アーシュは三歩進み、天の皇尊の目の前で立ち止まった。
 肩までの目線を上げ、天の皇尊の御顔をじっくりと見つめた。
 今は焔が消えた紅玉の瞳に、きょとんとしたアーシュの顔が映っている。
 アーシュは御顔のひとつひとつの造形に、すっかり見惚れていた。
 天の皇尊はアーシュの赤く腫れた頬を撫でる。途端に痛みが消えた。
「痛かったか?」
「痛かったけれど嬉しかったんだ。ホントだよ」
「…おまえを失うのが惜しい」
「人間の世界では輪廻転生という概念があるんです。俺とイールが死んで天の皇尊の元へ還ったら、きっと御方は俺たちを生まれ変わらせてくれる。そうではない?」
「…うぬぼれも過ぎると腹が立つ。アーシュの思い通りにはさせまいぞ」
「うん、そうだね。…思い通りの未来なんて面白くないもの」
「おまえは…似ているな」
 ハーラルの言葉にアーシュは首を捻ったが、アスタロトと似ていると言ったのだろうと悟った。
「そりゃ、アスタロトの生まれ変わりだもの」
 天の皇尊ハーラルは返事をする代わりに、アーシュの額に口づけた。
 瞬間、アーシュの身体中が感電したかのように震えた。
 よろめいた身体をハーラルは抱きしめ、謎の言葉を耳元に囁いた。
「おまえへの罰だ。アーシュよ、アスタロトよ、思い知れ」

アーシュとハーラル


 ハーラルはアーシュの身体を離し、イールと並ばせた。
「さて、ふたりに対する刑罰は終わった。これからはふたりの愛を祝福しよう。イールとアスタロトは私に何を求める?」
「なにも」
「要りません」
 ふたりは声を揃えた。
「ただ、私たちが消えた後のクナーアンに、新しい神をお与えください」
「ほう、どんな神を望むのだ?」
「仲の良いふたりの神を」
「お互いを尊敬しあえる」
「それでいてケンカもたまにしたりしてね」
「喧嘩は嫌だけど、愚痴りあい程度ならよしとしよう」
「心隠さず」
「素直に想いを語り合える」
「そしてこれが大事」
「『死』をお与えください」
「惑星と共に、大地と共に、人と共に、時と共に、変化していくことは神であっても少しも醜いことではないと思います。どうか我々同様、新しき神にも寿命をお与えください」

 ふたりの会話に妬けたのか、ハーラルは不機嫌にふたりの頬を両側から抓った。
「いたいっ!」
「あ~ん!」
「『死』を楽しむなど、不変不死である私の前で不敬であろう。おまえたちの願いは聞かなかったことにする。もとより死ぬことを選んだおまえ達が、クナーアンの未来を憂う資格などあるものか」
「…言葉もありません」
「ごめんなさい」
「…全く…これまでにミセリコルデを使わずして、消え去る神などいなかったものを…」
「御方さま」
「もうよい。ふたりとも、下界へ下りなさい。特別だが、私がここで見送ろう。未来永劫今のおまえたちとの目通りは叶わぬだろうからな」
「もう…御方さまと会えないの?」
「私は下界の神と違って多忙でね。『死』など考える暇もないのだよ。私がおまえの前に姿を見せるのは今回限りだ。わかったかい?この悪童めが」
「…」
 きつい言葉と裏腹の、天の皇尊の溢れる愛情が、アーシュには嬉しくてたまらない。

「行きなさい。これからもおまえ達を祝福する。…いつまでも変わらずに、だ」
 天の皇尊の言葉に、イールとアーシュは跪き、低頭した。
「御方さま、…ありがとうございます。このご恩に報えるよう、アーシュと共にこれからもクナーアンの繁栄を導くことを誓います」
「俺も御方さまへの感謝を忘れません。さようなら。お元気で。ミグリもいつまでも御方さまと仲よくね」
「…あなた方もお元気で…さようなら」
 初めて優しい笑顔を見せてくれたミグリに、アーシュもまた笑顔で手を振った。

 ふたりは手を繋いで後ずさり、天上から昇殿の間へ姿を消した。
 ふたりの消えた空間を、しばらく見つめていたミグリはぽつりと呟いた。
「…行ってしまいましたね。あれで、良かったのでしょうか…」
「これ以上良い選択が、他にあったとは思えないが…ミグリにはあったのか?」
「いえ、最良の導きだと存じます」
「そうだろう?私が間違うはずもない」
 ふてくされた態度で高御座に座るハーラルを見て、ミグリは少しだけ微笑んだ。
「何が可笑しい?」
「いえ、なんとなくですが…似ておいでになられると思いまして」
「…それ以上は言うな。おまえはこの私を自己嫌悪に陥らせたいのか?」
「いいえ、全くもってそのような思惑など…。この世界を担われる天の皇尊は、すべてにパーフェクトであらせられます故…これまでも数々の…」
「無駄口はそれまでにしろ。帰るぞ」
「承知いたしました」
 天の皇尊ハーラルは高御座から腰を上げ、そのまま前へ歩き始めた。彼の周りに金の光が集まり、その輪郭をとらえると、そのまま光の中へ消えていく。
 ミグリはただひとり、この空間を名残惜しむかのように、彩光の中に佇んでいた。
 
 
 神殿に戻ったふたりは、辺りがすっかり暗く陽が沈んだ後だと知った。
「結構、長い間、あの場にいたんだね」
「あの空間は時間に左右されないのだ。天の御方の思うままになされたのだろう。今が今日の夜だと良いけれど…」
 十二階段の下には、手にカンテラを持った神官たちがふたりを待ちわびていた。

「お帰りなさいませ。イールさま、アスタロトさま。遅うございましたね」
「待たせてすまなかったね。無事、天の皇尊の祝福は頂いたよ。…どうした?不安そうな顔をして」
「ルシファーから聞き及びましたが…アスタロトさま…アーシュさまが一旦故郷に戻られるとは、本当でしょうか?」
「間違いない。ルシファーもアーシュの友人も共に旅立つことになる」
 イールの言葉に、周りの神官たちが色めき立つ。
「何も心配することはない。アーシュがクナーアンの神であることには変わりがない。私とアーシュのクナーアンへの加護は万全である」
 この惑星の統治者であるイールの言葉は絶対であり、しかも疑いようもないほどに確信に満ち溢れている。ただ一言で、神官たちの不安な表情も一掃された如く明るいものに変わった。

「いつ出立されるのでしょうか?」
「明日、いや、明後日の日の出を出立の時と決め、祝福の光を旅立つ者へのはなむけにしよう。それまでルシファーは両親と共に過ごしなさい。わかったね」
「はい、イールさま。ありがとうございます」
「ヨキはふたりの客人の支度を頼む」
「承知いたしました」
「他の者は、アーシュが春に戻るまでの間、滞りなく政務が行われるように、気を引き締めてこれまで通り仕えるように」
「承知いたしました」
「では、食事の用意を頼むよ。私はともかく、アーシュは空腹だろうからね」
「はっ、ただちに」

 アーシュは先を歩くイールの手を掴んだ。
「イール…俺は何をすればいい?」
「アーシュは私から離れずにいてくれ。ここを出るその時までふたりだけでヴィッラで過ごそう」
「…うん」


 飛竜に乗り、月夜の天を駆けた。崖の上のヴィッラまでは僅かな距離だ。
 凍える外気を避け、ふたりは部屋のベッドへ潜り込み、お互いの身体を抱いた。
「先程から元気がないが…どうした、アーシュ、何か不服か?」
「自分で決めたことだけどさ、いざ別れるってなると…寂しくて…せめて十日ぐらい居ちゃ駄目?」
「駄目だ。それでは私がおまえを離せなくなるからね」
「イール…」
「大丈夫だよ。春になればおまえは戻ってくる。そうだろう?」
「うん」
「ああ、そうだ。これを渡しておこう」
 イールは枕元のテーブルの抽斗から、絹に包まれた手の平ほどの円盤を出し、アーシュに渡した。
「あ、携帯魔方陣だ。…前とちょっと形が違うけど…」
「ああ、少し改良しておいた。以前は同空間でしかワープできなかったが、これはそれに加えて、異次元を移動できるようにした。まあ、アーシュの住む惑星と、このクナーアン限定にはなるけれど、あまり魔力も使わずに短時間で行き来ができるようになるだろう」
「すげえ、便利!…これ、俺じゃなくても使える?」
「…ある程度の魔力を持った者なら可能だが…アーシュ、もしや、おまえそれを…」
「うん、セキレイにあげよう。これでいつでも好きな時に両親に会えるじゃん」
「…おまえの世話好きもやっかいなものだな」
「え?何が?」
 アーシュにはイールの嫉妬など、きっと一生理解できないのだろう。いや、気がついていても彼は、そんな感情も楽しめと言うのだろう、きっと。
「…それで、その魔方陣なしに、おまえはどうやってここに来るつもりなのだ」
「俺にはこれがある」
 アーシュは右手を挙げ、光る青玉を見せた。
「これは俺とイールを結びつける魔石だ。俺ひとりなら、この魔石の力でイールの元へいつでも還れる。それにイールが呼びかければ、俺も応えることができる」
「…試したこともないくせに。また失敗してどこぞの空間に放り出されることになっても知らんぞ」
「大丈夫。今度は記憶を忘れるドジだけは絶対にしないもん」
「当てにはならない。おまえは…なんにでも好奇心で突っ走り、危険なことで試さずにはいられないのだから…私に心配ばかりさせる奴なのだから…」
「イール…」
 イールは悔やんでも怒っても諦めてもいない。
 アーシュをいたわり想っているのだ。そしてその想いはとても神聖で温かいもので、アーシュはすがりつきたくなるのだ。
 アーシュはイールの胸に顔を埋めた。
 きっと寂しがって泣くアーシュに、イールは同情してしまうから、欲に溺れた方が慰めになる。


 朝が来るのが早く感じた。
 アーシュはベッドから抜け出し、外へ出た。
 辺りは暁闇の薄闇から次第に橙色に染まる。
 庭の中心に立つマナの木ともしばらくお別れだと、幹に語りかけた。
 そして、崖の端まで歩いた。
 初めてここに来た際にマナの実を食べて、その種を植えた芽は短い枝に成長していたが、それ以上は伸びず、灰色に枯れていた。
 アーシュは腰を下ろし、枯れた枝を撫でた。
「せっかく芽が出てたのに…駄目だったね。豊穣の祝福を与えても無理なのかな」
「マナの木は神木だ。このクナーアンにたった一本しか育たない決まりなのだよ」
 いつの間にか、イールの姿があった。寒くないようにとマントをアーシュの肩にかけた。
「…ありがと」
「いいかい、アーシュ。どんなに優れた魔力を持っていても、すべてが思い通りになるわけではない、私たち神でさえ、こんなにも感情に振り回される生き物だ。そして、それが生きるということなら、完璧な理想未来などありえないのだ。私たちもまた運命という風に舞い上がる木の葉のようなものなのかもしれない」
「…」
 一陣の風に足元の散らばった枯葉が舞いあがり、朝日を受けながら、はらはらと崖下に落ちていく。
「そういうものになりたかったのだろう?アーシュ」
「…イール、俺は死ぬために生きるんじゃないよ。俺は…俺にできるすべてをやる遂げる為に生きたいんだ」
「…行っておいで、私のアーシュ。私はここで、おまえを見守っている」
「イール」
「見送りはしないよ。おまえの寂しげな顔を見たら…冷静ではいられないからね」
「俺だって…イールが泣いたらここから出られなくなる」
「誰が泣くものか」
「きっと泣く。寂しくて愛おしくてたまらなくなるもの…」
「バカアーシュ、今から泣く奴があるか。まだ今日一日抱き合えるだろう?」
「うん…」
「春はすぐに来るよ。春の合図をおまえに送ろう。そしたら必ず還っておいで」
「必ずイールの元へ還るよ」
「我らに残された時間は多くはないだろうけれど、再会の日を心待ちにして、充実した日々を過ごそう」
「俺も自分の為すべきことを見つけ、懸命に生きるよ。そして、イールに褒めてもらう」
「褒めてもらうために頑張るのか?」
「そうさ。トゥエは褒める子は伸びるって言ってた」
「では、その日までに褒め言葉をたくさん覚えておこう」
 触れ合った肌の温もりが、こんなにも大切に思えるのは、きっと、お互いが命の果てを知っているからだろう。

「アーシュ、元気で」
「イールも…寂しくなったらいつでも呼んでよ。すぐに駆けつける」
「了解した」
 そんな約束をしても、弱音を吐いたりはしない。わかっている。
 強がりはお互いを想う心。そして、甘えるのもまた優しさなのだから。

「寂しい別れは嫌だな」
「では、…別れは笑顔で、元気で、と」
「うん、それがいい」

 橙色に染まる朝空に、イールとアスタロトは、お互いを見つめ、微笑んだ。 
 止まらぬ涙を流しながら。


抱きしめる


Brilliant Crown 8へ10へ

Phantom Pain 21へ




お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

懐かしむ 3 - 2012.11.20 Tue

イラストで「senso」を懐かしむシリーズです。

イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方はイラストをクリックしてください。



アーシュ子供2

子供の頃のアーシュはどんな感じかな~と、思いながら描きましたけど、コレ、実は自分の幼い頃の情景ですね。
暑い夏の夕方、冷たい板張りに寝転がって、好きな漫画を読んだり、お絵かきしたりしてだらだらと涼しくなるのを待っていた気がします。
田舎だったので、夜でも戸は開けっ放し、麻の蚊帳の中で寝てました。リアルトトロの世界です。
あれたたむのにコツがいるんですよ。

アスタロト手

初めて生まれ変わったアーシュを見つめるイールのシーンです。
アーシュは夢うつつのまま、イールは心乱れて泣いています。

イールの悲しみ

ふたりの出会いから、わかりあうまでの早いこと。
思ったよりあっさりとアーシュに陥落してしまったイールに、書いている私もびっくり。
アーシュの前で、乙女になってるイールのかわいいこと( `^ω^)=3
大好きなシーンです。


懐かしむ 2 - 2012.11.19 Mon

イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方はイラストをクリックしてください。


i-ruto.jpg

実はこのイラストは私はすごく気に入っていますね。
アスタロトの弱さを、イールが理解して受け入れているのです。
だからアスタロトはまた自由に生きられる。
アスタロトにとって、イールは身を投げ出すことのできる唯一の癒しでありました。

月光

我が身を泣くアスタロトを、慰めるイール。
イールは亡霊のアスタロトに再会するまで、彼の苦しみを完全には理解していません。たぶん完全に理解することは無理じゃないかな~
アスタロトは変わりすぎてるもん

アスタロト花1

お釈迦様になっちゃったアスタロト。
日出処の天子のイラストをパクリました。
でもアスタロトらしさがでていて、私はとても気に入ってます。

懐かしむ 1 - 2012.11.19 Mon

カテゴリを整理していたんですが、やはり挿絵とは別にイラストカテゴリに入れたいイラストも沢山あるので、二、三日はその整理をします。

思い出を語りながら。

イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方はイラストをクリックしてください。


イール上1

これはイールというキャラを産みだして間もない頃、性格をどうしようか色々迷っていますね。

まだまだ先が見えない感じで、クナーアンの世界を探っていた頃です。

イール・クナーアン33

アスタロトとイールの関係は、一貫して自由なアスタロトを、イールが見守るというスタンスでした。
アスタロトがイールをどういう風に思っているのか…私も探り探り描いていましたが、このイラストと次のイラストで、なんかアスタロトがイールを想う愛がわかってきた気がしました。

イール座る3

構って欲しくてたまらないアスタロトの影が、イールを誘っています。
イールもふふとちょっとS的な笑みを浮かべています。
幼いふたりはこういう関係だったんですね。


Brilliant Crown 8 - 2012.11.14 Wed

8.
イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方はイラストをクリックしてください。


ハーラルさん

8、
 想いとは複雑で、
 打ち明けたい相手に、
 素直にさらけ出したくでも思うようにはならず。
 さりとて、並べ立てた言葉の陳腐さよ。
 ああ、永遠に、
 私の心はあなたには
 伝えきれないのです。


 下僕となることがどうして罰になるんだろう…
 と、アーシュは不思議な気持ちで首を傾けた。
 天の皇尊が望めば、アーシュの意志など関係なく、好きに罰することができる。アーシュ如き、どうにでも好きにできる御方なのだ。
 その御方の下僕になるなど罰であるはずがない。
 (彼の御方はなにか別のものを求めている。それは何なのだろう…)

 イールはアーシュよりも早くに天の皇尊の企みに勘付いていた。
(新しいおもちゃを目にした子供の目の輝きで、御方はアーシュを楽しまれている。彼はこの脚本のない三文劇を大いに楽しむつもりだ。アーシュを脅したり、苛めたりすることで新しいアーシュで遊んでいるのだ。だがこの劇の結末次第で、御方の私たちに対する態度は変わってしまうかもしれない。出来るだけ穏便に、それでいて、御方を喜ばせ満足させる道筋を作らねばならないだろう)

「どうした?人間のアスタロトよ。私の下僕は嫌か?」
 天の皇尊ハーラルは、黙り込んだアーシュを見下ろしたまま、薄笑いを浮かべている。足を組んだ衣擦れの音と、ミグリの持つ杖の鈴が微かに震えた。
 アーシュは少し俯き加減で、独り言を吐くように言った。
「嫌ではないから困る。天の御方さまってすごくステキなんだもん。だけど、俺にはイールがいるから、甘い誘惑に乗るわけにはいかないよね」
「私の下僕になるのは甘いのか?」と、ハーラルは少しだけ目を細めた。
「はい、きっと御方さまは俺をめちゃくちゃ可愛がるだろうから、俺はあなたから離れがたくなる。そうしたらイールが悲しむでしょう?俺、イールを二度と悲しませないって誓ったもの」
「なるほど、ひとつの惑星(ほし)に愛し合う二神を産まれさせたのは私であったな。だが、私はおまえを可愛がるとは一言も言ってはおらんぞ」
「親が子供をかわいがるのは当然だと思うから、出来た御方さまなら情を持て余しても俺に辛くは当たったりしないでしょう。それに御方さまが与えてくれたこの命を、創り手が粗末になされるはずがないもの」
「おまえにとって私は親だと言うが、世の中には良い親も悪い親もいると聞くぞ」
「そっか~…悪に染まった天の皇尊…って言うのも…なんかかっこ良いし、確かに有りかも…」
((ねえよ))
 ミグリとイールは同時に心の中で呟いた。

「差し出がましく存じますが…」
 高御座の傍に跪いたまま仕えるミグリは、天の皇尊へ顔を向けた。
「アスタロトへの罰は人間の寿命しか生きられないことで十分かと思います。ならば致し方なきにしても、彼をクナーアンの神とお認めになられませんか?イールの為にもそのようになさった方がよろしいかと…」
 天の皇尊ハーラルは肘掛にゆったりと肘を乗せたまま、是とも否とも言わない。
 仕方なくミグリは立ち上がり、アーシュに念を押した。

「アスタロト。これからおまえは人間の身体を為したまま、短い歳月をクナーアンの神として、務めを全うすると約束するのだな」
「はい、この命が尽きる時まで精一杯果たすつもりです。けれど、クナーアンにずっと留まっていようとは思っていません。俺の生まれた星はこの次元とは別な世界にあります。その世界の人間のひとりとして今まで育ってきました。俺を育て愛してくれた人も俺の帰りを待っている。それにあちら側はクナーアンよりも複雑でやばくなりそうな気がするから、俺の魔力でなんとかできるなら、頑張ってみたいんです。だから、神さまの仕事が暇な時は、向こうに帰ります」
「ちょ…アーシュ…」
 イールは焦った。
 確かにアーシュが元の世界とクナーアンとを行き来することをイールは承諾しているが、それがこの天上の場で、よりにもよってこの状況で許されるとは思えない話だ。だから、イールはこの話をいずれ時間をおいて、奏上するつもりであったのだ。
「…」
 アーシュの思いがけない言葉にハーラルの表情は変わらなかったが、隣りのミグリの白い顔が一気に青ざめたのだ。
「は?今、何を言った?」
 どうにか天の皇尊との取り成しで事を治めようと言うのに、次に出たアーシュの言葉にさすがのミグリも黙ってはいられなくなった。
「え?だから暇な時は、サマシティに戻るって…」
「馬鹿ものっ!神の務めに暇などあろうか。神は司る惑星を常に見守り、大地と人間を良き未来へ導く為、日々精進していくものぞっ!」
 あまりのミグリの激憤に、過去何度もミグリに会い、穏やかなミグリを見てきたイールは頭を抱えた。

「だから、種を蒔く春と、収穫の秋にはちゃんと戻って、精一杯クナーアンの為に働きます。イールにも承諾を得ているから、大丈夫だと思ったんだけど…」
「アスタロト、おまえは生まれ変わった人間で色々と欠陥があるのは仕方がないことだが…ハーラル系の移動は住民である人間は許されても、神はこの惑星間移動すら許しが無ければ罪なのだぞ。それを異次元の星間移動を好き勝手に行う?しかも年に二回だけクナーアンに戻るとは…一体どういう意向なのだ?」
「でも、何か急用があればすぐにクナーアンに戻るようにするけどね」
「そういう問題ではない…二神が揃わない惑星などあってはならぬものだし、根本的な神としての資質を疑う。絶対に許されるわけもない」
「でもさ、アスタロトは繁盛に異次元を行き来していたし、他の星々を渡り歩き色々な文化や知識を得て、それを選別しながら活かし、より良い施政に導いたのでしょう?色々な問題もあるけれど、悪い事ばっかりでもない。それにクナーアンを俺の星のようにしたいと思っているわけじゃない。クナーアンはひとつの理想の国だ。長閑で平和に満ちた郷。ゆっくりとは変化するだろうが、急激な文明の発展は望まない。クナーアンの神としての俺と、サマシティに住む俺は生き方を区別するつもりだよ」
 アーシュは必死で弁解する。必死ではあるが、アーシュに後ろ暗さはないから、どうも楽観的な態度が傲慢にさえ見えなくはない。
 イールは隣で跪きながら、天の皇尊とミグリの機嫌を損なわぬかと心配しないわけにはいかない。

「…できるものか。アスタロト、おまえは永遠に変わらない」
 イールの予想通り、それまで黙って目を伏せていた天の皇尊ハーラルがそれまでとは違う冷たい火のような眼差しでアーシュを見下ろしたのだ。
「御方さま…」
「いつの時も勝手気ままに自分の思い通りにしか生きられない者なのだ。…私がそのように創り、産んだのだから仕方がないと言えばそうだが…人間になってもその遺伝子は受け継がれたままなのだな」
「…」
 居直りともとれる言葉だったが、道理でもある。天の皇尊の言葉にアーシュはうなだれた。

「他の悲しみなどなにひとつ汲み取る意思も持たない。持っても自分の進む道を引き返そうとしない。そんなおまえを産んだ私は、己を責めるべきなのだろう…アスタロト、私はこのハーラル系最後の惑星であるクナーアンに最大の祝福をと、私の描く大切な想いと願い込め、おまえとイールを創った。いわばおまえは私の夢を創りあげる担い手でもあるのだ。親の想いどおりに生きる子を期待しているわけではない。だが、おまえを見ていると、大切な宝が粉々になっていくような気がするのだ。不変に輝く宝石が目の前で壊れていく様を私は見たくない。…なあ、おまえを創った私は間違っていたのだろうか?」
「…」
 もはやアーシュには天の皇尊への言葉はなかった。
 自分を産んだことを責める親へ、子が慰める言葉などあろうものか…

 ハーラルの言葉に傷ついたアーシュに気づいたイールは立ち上がり、アーシュに寄り添い、赤く腫れる頬を撫でた。
 イールはアーシュに大丈夫だと、微笑んだ。そして、天の皇尊の正面へ進み出て、真の心中をさらけ出した。
「御方さま、天の皇尊、どうか先程の言葉を取り消して頂きとうございます。アスタロトは…アーシュは他の者への悲しみをよく理解しています。そしてそれが誰の所為でもなく、己との戦いであることも承知しているのです。…アーシュへの想いの為に、私が抱いた悲しみは…確かに死を望むほどでした。ですがその悲しみは希望に変えられたのです。アーシュは私の元へ還ってくれた。苦しんだ日々さえ懐かしむほどに、アーシュは私に喜びと希望を与えてくれた。私はアーシュが望むままに生きることを願う。それは愛されたいからではなく、私がアーシュを愛しているからです。彼の思うままに生きる姿を、私は愛し、そして心から望んでいるのです。…どうか、アーシュが自由に生きることを御赦しくださいませ」
「イール…」

 一旦は頭を下げたイールは、すぐに面を上げ、一度も表にしたこともない勇ましさのままに、言葉を続けた。
「付け加えますなら、アーシュの育った星の友人もクナーアンの客人として、神殿にてもてなしておりますが、彼らも私と同じくアーシュを慕い、愛し、そして見守る者たちです。…神のおきてとしてたったひとりの対と交わることしかできない者が、人間に生まれ変わり、半身である私以外の人間と交わっています。私は…それも許します。愛はたったひとつではなく、いくつも生まれるものなら、それを理屈でどうこうできるものはないからです。勿論、法により、多情な性愛は抑制されるべきものでしょうが、アーシュはクナーアンの人間でも、また彼の地の神でもない。縛られない愛のおきても、人として生まれ育ったアーシュを形作るものなのでしょう…」
「そなたは…それで良いのか?」
 ミグリの声は幾分憐みを帯びていて、イールは少し可笑しくなった。
 憐れむことなど一縷もあろうものか。

「私と以前のアスタロトの愛は不変…永遠に変わらぬものでありました。同じ重みでお互いを愛し、束縛し、疑念すらほど遠いものでした。だが、今のアーシュと私の関係は違う。限られた時間を愛おしみ、その時の感情のままにお互いを、別々の愛の形で愛し合うことができるのです。人間と同じように嫉妬し、心離れを怖れ、寂しい気持ちにもなるでしょう。だがそれは悲しみではない。私は不変ではなく、成長できるのですから。どうか、私たちを信じてお見守りください。私は…新たなる愛をアーシュと共にあたためていきます。そして、ふたりが同時に死を与えられ、この身体が金の砂として崩れ落ち、ふたりの魂が、御方さまの御胸に抱かれるその時、私とアーシュの愛は見事成就いたしましょう…」

 イールの言葉は、神でも人間でもなく、信じる唯一の愛故の叫びだった。



iiru33.jpg

Brilliant Crown 7へ9へ
Phantom Pain 1 



お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

Brilliant Crown 7 - 2012.11.09 Fri

7.
イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方はイラストをクリックしてください。

天の皇尊33
7、
 創造主、天の皇尊ハーラルは、ただひとりここに在った。
 その手によって創りだされた数々は、創造主の憧憬であった。
 しかし散りばめられた数々の憧憬を育てたのはその手ではなく、人の手であった。
 人は創造主の求めるモノとは違った奇妙な存在であったが、
 その奇妙さゆえに、彼は彼らを愛したのであった。


 アーシュを無視したミグリは、未だにイールを問い詰めるのは止めなかった。
「天の御方を招いて、今更何を願うのだ?おまえとアスタロトが選択した未来は、天の御方が望んだものではない。祝福など与えられようか」
「それは…」
 イールは口ごもった。
 天の皇尊の使いであるミグリにここまでアーシュを拒まれようとは思ってもみなかったのだ。
 これが天の皇尊の意志だろうか…
 あれほどまでにアスタロトに執着を見せていた天の皇尊が、生まれ変わりであるこのアーシュを簡単に見限ってしまうのだろうか…
 イールは隣に佇むアーシュを見た。
 ミグリの前だと思い、ふたりの繋げた手はとうに離れていた。
 だが、お互いの気持ちは離れることなどないはずだ。

 イールとミグリのやりとりを、この少年が不安に感じるのではないかと、イールは懸念した。もとよりイールはアーシュを守らなければならないという信念めいたものに終始駆られている。
 何とかしてアーシュをアスタロトを継ぐ者と認めさせたいし、イールの最愛の恋人であるのだと誇りたいのだ。
 テレパシーを使わずともイールの眼差しの意味をアーシュはなんとなく感じ取っていた。
 大丈夫だと、微笑みながら頷くと、アーシュは一歩前へ出て、ミグリに声を掛けた。

「記憶は無くても俺はアスタロトだし、クナーアンの神として精一杯務めを果たすつもりです。天の皇尊にお願いしたいことは、ただひとつです。俺は人間だから寿命がある。長くても四、五十年程だろう。そして俺が死ぬ時、半身であるイールも共に消滅する。その後のクナーアンをイールも俺も憂慮するのです。クナーアンの人々を不安させる惑星にはしたくない。だから…」

「不安にさせる最たる元凶はおまえたちふたりの勝手だとは思わないのか?イールとアスタロトよ」
聞いたこともない遥かに厳かな声音が、背後から響いた。
アーシュは慌てて後ろを振り返った。
ぼおと白い宙の向こうから、まばゆい金の光が集まり、人の形を創った。
 キラキラと燐光を放ちながらも、少しずつまばゆさを収めた人形(ひとがた)はアーシュとイールの方へ近づいてくる。

完全に人の形を為した天の皇尊は、初めてアーシュの前に姿を現した。
 アーシュはポカンと口を開けたまま、しばらく身動きが取れなかった。
 前もって想像した天の皇尊のイメージとは、少しばかり…いや、かなり離れていたからであろうか。
 自分を産み、創りあげた天の皇尊を、アーシュは「天の王」の学長であるトゥエ・イェタルのような存在だとばかり考えていたのだから。

 若い男の姿だった。
 それも恐るべき美貌である。
 恐るべきとは恐怖を感じる感覚ではなく、自分が対峙する存在ではないと恐れおののく意味であり、迂闊に拝顔を許されるものではないと、誰もが一目で直感するオーラである。
 その証拠に、イールもミグリもすでに跪き、深く頭を垂れている。
 アーシュは戸惑いながらも近寄ってくる御方の視線を逸らせずに、突っ立ったまま面を上げている。
 
 しかし…なんという姿なのだろうか。
 美を極めた匠が一心不乱に捏ね上げ、己の理想を造形した姿があった。
 すべての理想を頭に描き、誰もが憧れ、敬うべき形という者があるのなら、今、アーシュが目にしているものこそ、その姿であろう。
 豊かに輝く金の髪は腰より長く波打ち、すらりとした長身の身体は凛として背筋を伸ばし清々しい。しかし輪郭がわかるほどに透けた薄衣は例えようもないほどなまめかしさが漂う。ただ羽織っているだけの薄絹は肌が透けて見えそうで、はっきりと見えるわけでもない。
 足元は素足に近く、草を編んだようなサンダルを履き、細かな細工を施した首飾りと腕輪が両腕に飾られている。光に反射した七色に輝く宝石は、何故だか淡く焦点がボケて見える。
 肌の色は純白に近いが、頬の当たりはなんとなく赤みを帯びている。
 額には呪文のような複雑な刺青がサークレットのように刻まれているが、なんとも高貴でその顔(かんばせ)にふさわしい。
 赤い両眼が射抜くようにアーシュを見つめていた。
 すべてが圧倒的な存在だが、アーシュにはどこか自身に近しい気がしていた。

 その存在が光の眩しさに見えなくなるものではなく、光から生み出される影を持ち得た重厚感を天の皇尊に感じていた。
 目の前に近づく顔を見たくて、見上げようとするアーシュを、天の皇尊は制した。
 アーシュの頭を右手で押さえ、そのまま両手を滑らせ、アーシュの頬に当てたかと思うと、両頬を指で摘み、そして抓りながら左右に思い切り引っ張ったのだ。
「ひゃ、たあ~いっ!」
 驚いてはみたものの、力を弱めない御方の戒めにアーシュも痛みで声が出る。
「ひゃ~ああ」
 アーシュの目線は御方の肩の位置でしかない。
 上を見上げようとしても、両側から頬を引っ張られているから、顔も動けない。と、言うより、アーシュはこの手の暴力には慣れていない。
 次第に痛みの感覚が増大し、アーシュは我慢ならずにしゃくりあげ、その拍子に涙が零れた。

 跪いたイールも顔を上げ、この様子に驚愕し、止めようとしたが、天の皇尊の手を払いのける勇気などはない。それでも顔をしかめて、涙ぐむアーシュが哀れで、イールは意を決して立ち上がった。

「いいかげんにお止め下さい。御方さま」
 先ほどまで正面を向いていたが、背後から現れた天の皇尊に身体を向けたため、今は、背後に居るミグリが開き直ったように、天の皇尊に呼びかけた。
「天の皇尊たる御方さまが、人間の子供を泣かせてどうなさるのですか…」
 少々呆れ果てた声音で、再度ミグリが、天の皇尊の所業を諌めた。

「…人間というものを、私は産みださなかったが、この姿は極めて良い出来である。アスタロトは、どうやってこれを作ったのだろうね。長年にわたり、人の構造に興味をそそられてはきたけれど、今、初めて、私は、人間に触れた…」
 叙事詩でも朗読するかのように、朗々と言葉を綴る天の皇尊だが、イールもアーシュも情感に浸る場合ではない。
 天の皇尊の使者であるミグリも同じであろうか、溜息まじりの声が後ろから聞こえた。
「触れたんじゃなくて、苛めていますよ。そら、あなたのお気に入りのアスタロトが、痛みに耐えかねて泣いているのがわかりませんか?」
「この子の泣き顔を見たかったから泣かせているのだよ。…罰なのだから痛いのは仕方ないね、アスタロト」
 天の皇尊は、アーシュの両頬からやっと手を離し、アーシュの頭を軽く二回叩き、アーシュの横をすり抜けた。
 アーシュはあまりの痛さに、両の手の平で頬を包み、立ったまま俯いている。
 イールには指の間から真っ赤に腫れあがった頬が見える。
(…ったく、子供じみたことをなさる御方だ)
 イールは今すぐにでも、アーシュを抱き、その痛みを魔力で癒してやりたかった。だが、天の皇尊を目の前に軽々しく、行動するわけにもいかない。
(しかし…)
 イールは身体を回転させ、天の皇尊の姿を追った。
 いつの間にかミグリの横に大理石のような(大理石ではないだろうが)なめらかな質感の高御座(たかみくら)が現れ、天の皇尊はゆっくりとその座に腰を下ろし、イールとアーシュと対座した。
(一見以前と変わらぬ御姿ではあるが、このように色めいた感覚ではなかった気がする。この御方が何を企んでいるのか…探るしかないのだが…)
 イールは天の皇尊の行動に神経を尖らせた。
 天の皇尊との対面というイールとアーシュのひとつの願いは叶ったわけだが、先の行方はわからず、ふたりの未来はこの創造主に委ねられていると言っても良かった。
 彼の御方が一流の演技者であることも、注意しなければらない。そして、御方はこの場をどうにでも裁ける唯一の執行者なのだ。
 御方を本気で怒らせることだけは避けなければならない。
 
 アーシュはズキズキ痛む頬を両手でさすっていた。
 魔力を使えば少しは痛みは引くが、天の皇尊が与えた痛みを、勝手に打ち消すわけにはいかない。それを行い、御方の機嫌を損ねたら、この状況がどうなるかはわからないほど緊張している。それがわかっているからイールもアーシュには近づけないのだ。
 だが、アーシュは天の皇尊の愛情を疑わなかった。
 この痛みはアーシュへの御方の愛情なのだろうと判断した。
 父親が危険を冒した息子を叱りつけ、しつけるように、御方も自分を愛故に責めたのだろうと。
 だからアーシュは恨みはしなかった。
 どちらかというと甘えたくてたまらなかったのだ。
 踵を返し、両頬を抑えながら、上目使いに高御座の御方を見つめた。

 天の皇尊はアーシュの視線を受け、フンと鼻で笑った。
 両目の焔の虹彩と垂直にスリットした闇色の瞳孔がアーシュを蔑んだように捕えた。 

「アスタロト、おまえはなにか勘違いをしている。確かに私は理想の神を描いて、アスタロトとイールを創りあげた。そしておまえたちは私の望んだように美しく賢明な神としてクナーアンを治めてくれた。だが、アスタロトは私が決めたいくつかの決まりごとを悉く破ったのだ。異空間への脱出から始める諸々の大罪の経緯をここで並べても良いが、時間の無駄でしかないな。だがひとつ言うなら、おまえの半身たるイールにミセリコルデを願わせたことは許されるべきことではない。おまえが…アスタロトの生まれ変わりであるおまえに記憶がないとしても、おまえがアスタロトであるならば、その責はおまえが負うものだ。違うか?」
「…違いません。アスタロトは俺であり、俺はクナーアンを見限り、イールが悲しむのもわかっていて、自分の好奇心と願いのために人間に生まれ変わったのです。天の皇尊の意志を曲げてでも、俺はそれを選択した。それが罪なら、俺は罰を受けます」
「覚悟はわかった。ではどんな罰がよい?」
「…」
 アーシュは両手を頬から離し、今は遥か高みに見える天の皇尊の姿を仰ぎ見た。
 御方が何を望んでいるのか、アーシュには見当がつかない。

「俺は…どんな罰を受ければいいのだろうか?」
「簡単なことだ。クナーアンの神としての座を捨て、おまえが私の下僕となることだ」
 と、天の皇尊は嘲るように微笑する。
「…」

 アーシュは黙ったまま、首を傾げた。
 彼の求める罰の意味が、皆目わからない。



ハーラル・天の皇尊

Brilliant Crown 6へ /8へ

Phantom Pain 21へ

お待たせしてゴメンチャイ((人д`o)
来週は水曜日に更新できるように頑張るよ(*・ω・*∩



お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村



NEW ENTRY «  | BLOG TOP |  » OLD ENTRY

プロフィール

サイアート

Author:サイアート
イラストと駄文を更新しております。

少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

ゆっくりしていってね~

サイズを記憶するフォントサイズ変更ボタン

文字を大きくする 文字を規定のサイズに戻す 文字を小さくする

ツリーカテゴリー

Script by Lc-Factory
(詳細:Lc-Factory/雑記)

最新記事

FC2カウンター

リンク

このブログをリンクに追加する