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2013-10

愛し子 3 - 2013.10.25 Fri

3
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アーシュの祈り

その三、

アーシュを自分の部屋へ招き入れる事なんて、滅多にない。だからだろうか、アーシュは狭い僕の部屋をじっくりと物珍しそうに眺めている。

「そんなに広くもない部屋で、何の品定めだよ、アーシュ。いい加減、テーブルに落ち着いたらどう?」
「だってスバルの部屋って…なにもかもが変テコでおもしれえ~。こういうのってオタク部屋って言うんだろ?」
「別に…色んな国に行くから、地元の珍しい人形とか絵とか…諸々を飾っているだけだろ」
「ふ~ん、そうかい。でもクナーアンにはこういうポップなロリゴスフィギュアはねえからな。…へえ、パンツにもレースがついてるのか…。すげえわ」
「勝手に触るんじゃない。汚れるだろっ!」
「…おまえ、その子…山の神って言ったっけ?その子をモノにしてもこういう趣味を押し付けるのだけはやめとけよな」
「するか!それに…モノにするとか言うな。あの子は…人柱にされて、殺されるかもしれないんだから…」
「だから、おまえが保護して、ここに連れてくるんだろ?そんでかわいがってやるんだろ?…モノにするって事とどこが違う?」
「…」

そりゃ、確かにあの子はかわいいし、できるなら僕の恋人になって欲しいな…なんて…思っているけれど…

「でも…あの子が『天の王』にふさわしいかどうか…その能力があるのか…僕にはわからない…」
「まあ、いいんじゃね。見たことはないけれど、スバルのお墨付きなら俺は別に構わないぜ。もちろんその子の能力は量らせてもらうけどさ」
「…本当はさ、自信がないんだ。あの子をここに連れてくることがあの子の為になるのだろうか…。僕はあの子をちゃんと良い未来に導いてやれるのだろうか…って」
「そんなの、心配ねえよ。スバルはちゃんとしてるからな」

暖炉の上の棚にはふたつの写真立てが並んでいる。
今までに僕がただひとり愛した人だった伸弥さんと前学長だったトゥエ・イェタルの写真だ。
そのひとつをアーシュは手に取った。

「…トゥエが死んで五年か…。なんかすげえ昔のことみたいにも感じるし、ついこの間のような気もするし…」
「…うん」
「…俺とおまえとでトゥエの死を看取ったんだ。あの時トゥエは言った。『私が見守った多くの愛し子たちを信じている。だから泣かなくていいんだ』って…」
「うん…」
「おまえは泣いてたけどな」
「ボロ泣きだよ。我慢できなかったもの」

トゥエ・イェタルは僕の腕の中で死んだ。その時、残してくれた言葉は僕の未来を変えた。

  …スバル、君には力がある。それは愛する者を守れる力だ。
  それは君を成長させるものだ。
  君もまた…私の大切な愛し子だよ。

トゥエ・イェタルは天の王学園を育っていったすべての生徒を「愛し子」と呼んだ。
たが、彼が心から必要とし、愛した者は…ひとりだけだ。



その事件は、僕が天の王学園高等部の最後の新年を迎えた18歳の真冬に起こった。

サマシティは世界の狭間と言われるが、同時に一般市民には世界情勢の報道が入りにくいシステムになっていた。
新聞、雑誌やラジオからのニュースを注意すれば手に入れることはできるが、天の王学園で暮らす生徒たちにとっての重要な興味はもっぱら、学園内のゴシップや未来や恋を語ることだった。

当然、年中引きこもっている僕にも、学園内すらままならぬのに、外のことなんか興味もなかった。

或る日、学園の集会で世界が混乱していることを知らされた。
或る日を境に、世界のあらゆる各地で魔法使い、即ちアルト同士が殺し合いをしていると言う。
それまでも地域によっては頻発していた事件ではあったらしい。しかし、ここまで大規模の殺戮は滅多な事ではなく、もはや大惨事のクーデターになりつつあった。

詳細までは知らされなかったけれど、イルト(魔力のない人間)に操られたアルトが、弱いアルトを一方的に殺戮していると言う。

確かに魔法使いであるアルトは、心を奪われたイルトに服従するという本能がある。だけど、それを悪用して人を殺させたりするなんて…とても僕には理解できなかった。

国際情報機関は強い魔力を持つサマシティのアルトたちに、強力の要請を求め、サマシティの議員たちと相談した。
「天の王」学園の学長のトゥエ・イェタルは、その事情を聴き及び、僕達高等部の生徒たちに仔細を語り、このクーデターの終結する為の助力を惜しまないと誓った。

そもそもクーデターの主犯格が、「天の王」学園の卒業生だと判明した時点で、首謀者の排除には学長であるトゥエ・イェタルが適任と誰もが判断したからだ。

確かに多くの罪なき者たちの死を招いた者への処罰は必要不可欠だが、「天の王」の卒業生に対して、学長自ら手を下すことを強いるとは、なんと残酷なものだろう…

学長、トゥエ・イェタルは、首謀者との平和交渉を申し出、その対話の為に敵地に乗り込んだが、具体的な交渉も無く、無謀にも身柄を拘束された。
彼らの統率者であるハールート・リダ・アズラエルは、トゥエの処刑を全世界の人々の前で行うと発信したのだった。

そして、その日が明日に迫っていた。


アーシュとベルが卒業旅行と言い残し、学園を去ってから早四か月を過ぎようとしていた。
僕を含めた「天の王」学園の生徒たちには、学長を救い出す良い手立てなどなかった。
誰かが助けに行くと息巻いても、それに続く者はいなかったのだ。
僕だって…
僕だってなんとかしたかった。
トゥエは伸弥さんを亡くした僕を、ずっと見守ってくれた。
ひとりぼっちでどうしようもない時は、「スバル、一緒に星を見ませんか?」と、こもりきりの部屋のドアを叩いてくれた。
僕だけじゃない。ここに居る生徒の誰もが、トゥエをどうにかして助けたいと願っている。

その時だった。
ついにアーシュが、「天の王」学園の聖堂に姿を現したのだ。

誰もが切望したその時、彼は…還ってきてくれた。

卒業生のメル、そしてベルと…14の時から姿を見せなかったルゥまでもが、そこに居た。
僕たちは歓声を上げた。
「帰ってきた!アーシュが帰ってきてくれた!これで、学長は救われる!」

学生たちは息つく間もない程に次々と、現在の世界情勢とトゥエが拘束されたことを四人に話し、それがすべて終わった後、黙ってアーシュを見守った。
誰もがアーシュの姿を救世主に重ね、そして絶対的な救いの言葉を待っていた。

アーシュが我らを率い、彼の殺戮者を虐げ、トゥエ・イェタルを救い出す為に立つのなら、全員が一堂になり、これを決する覚悟はあった。

その命令をアーシュの口から発せられる時を待っていた。

しばらく黙ったままのアーシュは、一息ついた後、誰の顔も見ずに「わかった。じゃあ、明日、また考えるからさ。今日はもう休ませてくれる?俺、超疲れててさあ~」と、あくびをしながら、緊張した僕たちの脇を通り過ぎ、自分の寄宿舎へと帰って行く。
そして他の三人もアーシュの後を追ってしまった。

残された学生たちは唯一の希望を失ったと、嘆き悲しんだ。彼らを罵る奴らも居た。
僕もみんなと同じだった。
誰もがアーシュならなんとかしてくれる…と、思い込んでいたのだ。
アーシュだって僕と同じまだ18才の学生でしかないのに…

自分の部屋に戻っても、なんだか怖くて仕方がない。
ベッドにじっともぐりこんでいたら、部屋のドアを叩く音がした。
僕は飛びあがってドアを開けた。
ルゥが立っている。
「スバル、悪いけどちょっと来てくれない?ベルの部屋にみんな集まっているんだ」
どうして僕が呼ばれるのか、わからなかったけれど、僕は黙ってコクリと頷き、ルゥの後ろをついていった。

ベルの部屋は特別室で広くて綺麗だった。
この街一番の財産家のベルだから当たり前だけど、毛足の長いふわふわの絨毯の上を歩くだけで、裸足になって寝転がりたい…と思った。
そんなことより、ベルの部屋には部屋主であるベルの他にアーシュとルゥ、リリ、そしてさっきまでアーシュ達と一緒に居たメルという卒業生が居た。

「じゃあ、とりあえずホーリーが揃ったところで、トゥエを助け出す計画なんだけど…大きな声で話すと疲れるからさ、みんな、俺の傍に寄ってくれる?」
長ソファに寝そべっていたアーシュは身体を起こすと、全員を彼の周りに集まらせた。

「トゥエの状況はジョシュアからの手紙で大方の見当はついている」
「ジョシュア?…あのジョシュアか?…どうしてジョシュアの名が出てくるんだ?」
「ジョシュアには今までも色々と働いてもらっててね。俺はまだ学生で、好きなところに行けないだろ?だからジョシュアが気になる土地に行った際、地域の様子なんかを定期的に手紙で知らせてもらう手筈になっている。ここしばらく俺が留守だったからその手紙もかなり溜まっていてさ。特に、この一週間は毎日のように電報が送られている。…トゥエの身に危険が及んでいることもわかっている。だから早くトゥエを救い出したい。ジョシュアはトゥエの拘束されている場所近くに居ると言う。だから、ジョシュアを目指してワープしてみようと思う」
「ワープ?…それってなによ」リリがわけの分からぬ顔で、アーシュを睨んでいる。
「スバルが作ってくれた魔法アイテムさ。これがめちゃくちゃ役に立ってくれてさ…。詳しいことは疲れるから今はしゃべんねえけど…。そういうことで、日暮れ前にはトゥエを助けに行くから、後は任せてくれ」
「え?任せてって…。それって、どういうことよ」リリの眉間がますます歪む。このままじゃいつ爆発してもおかしくない。僕はリリから距離を置いた。
「だからトゥエを助けに行くんだよ」
アーシュはリリの機嫌にも構わずに、テーブルに用意されたコーヒーを一気に飲み干し、ひとりでむせかえった。
「わかった。じゃあ、俺も行く」と、ベル。
「僕ももちろん連れて行ってくれるよね」と、ルゥ。
「ついでだから僕も行ってあげるよ」と、卒業生のメルが言う。よく知らない人だけど、ご親切な人もいるものだ。
僕なんか、怖くて…協力したいのはやまやまだけど、役に立ちそうもないから、みんなの無事だけを祈っていよう。

「ありがいけど、みんなはここに居て、街や学園の様子に気を配ってくれ。奴らの真の目的がなんなのかわからないし、ここの卒業生が絡んでいるのなら、尚更注意しなきゃならないだろ?トゥエを救いに行くのは俺ひとりで…そうだ、スバル。おまえ、俺と一緒に来いよな」
「はあ?」

全員の目が部屋の隅に立つ僕に注がれた。と。というか、睨みつけられた。
そりゃ、僕は一応高等魔術師の証をもらったホーリーだけどさ、別段これといった魔力が使えるわけでもなく、ここにいる誰よりも能力的に劣っているって、僕が一番わかっているさ。だからそんなに怖い目で睨まないで欲しい。僕、圧力には弱いんだから…

「…えええ!ぼ、僕…む、無理、絶対無理だから」
「もう、決めたんだよ。俺とおまえでトゥエを助け出す!異論は認めん!」
「…そんなあ…」
「うまくいきゃ、スバル、おまえ、世界のスーパースターだぜ?」

いやいやいや…
そんなもん、全然望んでない!
つうか…僕の意志は…無視かよっ!



スバル顔

遅くなってすみません。((人д`o)
来週もできるだけ、頑張ります…


「愛し子」 2へ /4へ

「山の神」はこちらから。その一へ

「スバル」はこちらから。1へ



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愛し子 2 - 2013.10.12 Sat

2
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アーシュ秋
その二

サマシティの中心にある「天の王」学園の聖堂は、以前は文字通り、学生たちの祈りの場所であったが、現在は我々の活動拠点になっている。
皆は本気か皮肉かわからないけれど、死後の楽園を意味する「エリュシオン」などと呼ぶ。

天の王学園に古くから続いていた秘密結社「イルミナティ・バビロン」。それは形を変え、今では世界のアルトとイルトの安定を図る為の、もっとも強力な機関と言われるまでになってしまった。
これは当事者たちが望んだことではないが、ならざる得ない世の巡り、だと言うべきなのだろう。
とにかく「イルミナティ・バビロン」には魔王アスタロト・レヴィ・クレメントが君臨する。それだけで、ここが希望を求める者たちの拠り所となる。


初冬のサマシティに帰り着いたその足で、僕は「エリュシオン」の会議室に呼び出された。
会議室と言っても、スーツを着た真面目な大人が円卓に座って、真面目に議論するような雰囲気などは皆無であり、各自お気に入りの椅子やソファを持ち運んで、優雅にくつろぐサロンと言った風情だ。

その中央に罰を受けたみたいに佇んで、マトモに目を合わせたくないようなメンツの前で、一年間の仕事の成果をしどろもどろに述べていたところ、幹部のひとりのリリ・ステファノ・セレスティナが、飲んでいた紅茶を皿に置き、一呼吸置いて、僕を怒鳴りつけた。

「スバル・カーシモラル・メイエ!あんた、今回もダメだったって、どういうことよっ!」
「え?…う~んと、あの…その…」
すでに僕はその剣幕にタジタジである。
「あんた、その子に魔力があるっていうけど、本当なの?言っとくけど、フツーじゃ問題外だから。極めて能力のある子じゃないと受け付けないから」
「ある…と、思うけど…」

「あの子」というのは、僕が見つけた「山の神」のことだった。
去年、初めて出会った時から一年後、僕は再びあの子に会いに行った。
少しだけ身体も心も大きく成長した「山の神」だったけれど、その精神は少しも汚れず、無垢で素直で知的で…すこぶるかわいかった。

「魔法使いとしての能力はまだ未知数かもしれないけれど、とってもいい子だし、意志も強いんだ。絶対に良い魔法使いになるよ」
「えらくご執心だ。つまりスバルがその子に取りつかれてしまった…と、いう魔力は確信できるってことじゃないのか?…それが悪いとは断定しないけどさ」
サマシティ一の大企業「セイヴァリ・カンパニー」の一人息子であるベルは、親父の家業を継ぐべく修行中の身でありながら、「イルミナティ・バビロン」の重要な幹部でもある。
光に輝くブロンドは、サマシティでは当然の持って生まれた髪質なのだが、金髪だって十人十色と言うらしい。その中でもベルのブロンドは、一番高貴な色合いだと言う。つまり、ベルは生まれ持っての貴族なのだ。
…まあ、本物の侯爵なんだけどさ…

「あんたが連れてきた子供は能力のないイルトか、微かに魔力のある子ばっかりで、私達が求める魔法使いなんかいないじゃない。去年は6人、今年は10人を受け入れるって…うちは慈善事業をやってるわけじゃないのよ」
「わかってるけど…。みんな、孤児だったり、虐待を受けている子供たちだし、…そういう子に出会ってしまったらどうにかしてやらなきゃって…。ほっておけるわけないだろ?」
「そうらまた始まった。スバルの人道慈善主義病が。あんたが幾ら頑張っても、全世界の孤児を救えるわけでもないのよ。本当にそういうことがやりたいのなら、『国際救世軍』にでも入ったら?」
「そんなにスバルを責めるなよ、リリ。君だって目の前に餓えた子供が居たら、食べているパンを躊躇なく差し出すだろ?…強いものが弱いものを守りたいって思うことは、自然の理みたいなもんさ。善悪関係なくね」
長椅子に身体をゆったりと預けていたアーシュは、テーブルに置いた眼鏡を手に取った。
アーシュは目が悪いわけでもない。それは僕もそうだけど、眼鏡を掛ける意味が真逆だ。

僕はみんなに見られるのが恥ずかしく、目を合わせたくないからだけど、アーシュは自分の美しさが、周りの仕事の邪魔になるから、眼鏡をかけている…と、真顔で言うのだ。
…そういうのを自分で言うってどうかしてる…って思うけれど、昔からアーシュの自尊心には笑うしかなく、ホトホト感心するし、確かに「美」と言う概念をあの姿から「寒気がするほど怖ろしい」と、感じさせるのだから、笑えないナルシズムではある。
つまりはアーシュは、上に立つ者なのだ。
上に立つ者はそれだけの傲慢さと、自信家でなきゃならない。
それに…アーシュの本性は、見かけよりも何倍も怖ろしいのだから。

「僕もアーシュの意見に賛成だな。どうあろうと子供には罪はないのだから、引き受けたからには、その子達の成長を見守ろうよ」
アーシュの恋人であるプラチナブランドのルゥが柔らかい笑顔を見せた。

ルゥの生い立ちは複雑怪奇で、僕もよく理解できないけれど、この星の生まれではなく、クナーアンという惑星の住人で、今は半年ごとにあちらとこちらを行ったり来たりしている。
その行ったり来たりするワープのアイテムを作ったのが僕で、そのおかげで、昔はなんとも冷淡だった僕への態度が柔らかくなっている。

まあ、僕は髪の色も面差しもサマシティには似合わない異邦人だし、コーカソイド系白人を好むこの地方では、肩身が狭いのも仕方ない。
僕が連れてくる孤児が、白人が少ないこともリリ達が気に入らない事情でもある。
だから、もし「山の神」をあの村から連れ出すことができても、この「天の王」に来ることがあの子にとって、幸いかどうかは…僕には判断できない。
あの子が望むなら、僕はここに居ても居なくてもかまわないんだけど…

「とにかくかわいいからって、執着するクセはいい加減やめなさいよ、スバル」
「…かわいいは特権だよ。君だって昔はすごくかわいかったじゃないか。ピンクのサテンのドレスを着たリリは、ビスクドールのように可憐で上品でかわいかった…」
「…」
「おい、スバル…」
「え?…僕、なんかまずい事言った?」
サロンの不穏な空気に気づいた僕は、背中のドアに向かってゆっくり後退りする。

「…あんた、今、私の事を可愛いって言ったわね…過去形で…」
「え?うん、そうそう、昔のリリはかわい……。い、いや…リ、リリは綺麗だよ。今の君は、洗練された大人の女性って感じで…魅力的だと…思う。僕の趣味じゃないけど……ギャーっ!」
僕の顔の横をペ-パーナイフがマッハで擦り抜けていき、後ろのドアに突き刺さった。
鏡が無くても恐怖に青ざめていたであろう僕は、目に映る怒りのリリを反転させ、全速力で会議室から逃走したのだった。


会議室を後にし、落ち葉散る構内の歩道を急いで歩く。
歩道を突っ切った場所にある寄宿舎に早足で向かう僕の後ろから、「スバル」と、呼びかける声に、条件反射のように僕は立ち止まってしまった。
振り向かなくてもわかるけれど、息を吐きながら駆け寄ってくるのは、アーシュだ。
「おまえ、足はえ~な」
汗でうっすらと光る額に、褐色のみだれ髪がこぼれている。アーシュは、ほどけた赤いマフラーを首に巻きつけた。

「スバルも言うようになったなあ~。あのリリを本気で怒らせるんだもん」
「要領が悪いって言いたいんだろ?」
「いや、正直さはスバルの長所だって褒めてるのさ」

柔らかく波打つ褐色の髪を掻きあげたその指が僕の肩を掴み、闇のように暗く、そして銀河の輝きを持った瞳が僕を見つめた。
その魔の瞳の光が、僕は昔から苦手だった。

五年前、アーシュは自分の出生の秘密を知ったという。
彼はルゥと同じく、この星の生まれではない。と、言うか人ではなくなってしまった、らしい。

アーシュはクナーアンという異星の神さまになってしまった。
大層な事だと思うけれど、当の本人は変わり映えしない。
僕もあまりアーシュが何者かってことにはこだわらない。
結局は「山の神」と同じことではないか…などと思うようにしている。

「で…なんか、用かい?」
「そう邪険にするなよ。俺とおまえの仲じゃん。ゆっくりワインでも飲みながらさ、旅の話でも聞かせろよ」と、アーシュは左手に隠し持ったワインボトルを見せる。
「…」
そのワインは僕ではなかなか味わえない高級ワインだろうし、どっちみちアーシュの誘いを断るとなると、無駄な労力を使う羽目になるわけだし…
「わかったよ」
久しぶりに自室でひとり、思う存分引きこもろうとしていた予定を諦め、僕はアーシュの誘いを受け入れた。
当たり前のようにアーシュは僕と腕を組み、ピタリと身体を寄せ、寄宿舎に向かって歩き始めた。

釣合の取れない恋人のようなふたりを、周りの生徒たちは生暖かい眼差しで冷かしていく。

「なんで、そんなにくっつくんだよっ!」
「スバルが焦るのが、おもしれーから」
「焦ってない!」
「スバル、ね、俺、かわいい?」
「…」
僕より背が高いのに腰をかがめ、上目使いの目で僕を見やがるこいつは…。

「か……」

…そんなの、恐ろしくて答えられるかよ!




「愛し子」その一へ /3

「山の神」はこちらから その一

「スバル」はこちらから。1へ

次第に「senso」の続編のようになってしまった…。まあ、いつかは書かなきゃと思っていたから、短くまとめていこうと思う。次は五年前の昔話を少し…


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愛し子 1 - 2013.10.05 Sat

1
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昴22才


愛し子

「ねえ、スバル。ちょっとばかり君にニッポンの情報部に行ってもらいたいんだけどさ。ついでにゆっくり色んな土地を回ってこいよ。ニッポンって温泉とかたくさんあるんだろ?…いいなあ、俺も行ってみてえなあ~」
と、ソファに寝転んだアーシュが嫌味ったらしく言う。
その命令にすぐに返事をしなかったのは天邪鬼の僕の悪い癖だけど、故郷への旅に期待に胸が弾まないわけがない。
それをアーシュに見透かされるのが悔しくて、僕は仕方なさ気にニッポンでの仕事を承諾したのだ。


ニッポンに来るのは久しぶりだった。
遠い昔…十歳になるひと夏を、僕は深い山間にある村の小さな祖母の家で過ごした。
その夏に出会った最愛な人との思い出は、僕の一番大切な…とっておきの宝物のように輝き、今でも心の糧になり続けている。

その夏に過ごした粗末な祖母の家は、今はない。
三年前に、祖母は亡くなった。
畑仕事の最中に倒れた祖母は、意識が戻らぬまま、一週間後に眠るように逝ったという。
たったひとりで生活をしていた祖母は、その真面目さ故か、村人達に丁寧に見送られ、お墓に葬られた。

小さな石に刻まれた祖母の墓に手を合わせ、僕は十二年ぶりの故郷を懐かしんだ。

祖母の墓参りを済ませ、村の様子を伺いながら、仁科家のお墓に足を運んだ。
この村の地主である仁科の家は、十二年前に火事で焼けた後、立派に新築され、その墓は家の傍の高台にあった。

僕は仁科家の使用人に案内され、伸弥さんの墓に花を手向け、手を合わせた。
…なんだか不思議な気がした。
伸弥さんのお骨はここに安置されているはずなのに、伸弥さんの墓に彼の思念は少しも感じられなかった。

ふたりが出会った河原を歩いても、神社の境内を覗いても伸弥さんの気配は感じない。

「…伸弥さん、何か変だね。ここは伸弥さんと僕が過ごしたはずの村なのに、少しも伸弥さんを感じたりしないんだ。そりゃ、ばあちゃんへの懐かしさ…はあるけどね。でも…やっぱり、伸弥さんはもうここに未練はないんだね。変だね…なんだか少しホッとしている。だって…伸弥さんは僕だけのものであって欲しいんだもの。…なんてさ。勝手すぎるかなあ」
僕の独り言に、伸弥さんは隣で笑って頷いてくれている。それも僕の勝手な思い込みだろうけれど…

「さあ、お墓参りも済んだし、アーシュへの土産話を探しに、どっか良い温泉にでも行ってみようかな~。その前に…」

僕は子供の時からお世話になっていた此花咲耶さんを尋ねるため、トウキョウへ足を運んだ。
咲耶さんはニッポン情報部の管理責任者のひとりに昇進している。
情報部は世界各地に支部を置き、魔力を持った人間が、その土地に住むアルト、即ち魔法使いを管理するセクションだ。
その情報部と繋がっている唯一独立した機関が、現在の僕が居るサマシティの「天の王」となる。

「あら、スバルくん。久しぶりね」
「咲耶さん、こんにちは。今回は僕が仕事を請け負うことになりました。よろしくお願いします」
「こちらこそ~。スバルくん、会うたびにイケメンになってさ~。あっという間に大人になっちゃったのねえ~、つうか…老けた?」
「酷いなあ~。22ともなれば、誰だって老けますよ」
「でもお宅のボスは…怖いぐらい超美少年のままだよね~」
「あれは…まあ、特別ですから。あはは」
「まあ、魔王だしね、あはは」

あの高慢ちきなアーシュの顔が、お互いの頭に同時に浮かび、乾いた笑いが響いた。
なんというか…アーシュに対して感じる想いは、人それぞれだ。
尊敬や畏怖はもちろんだが、どちらにしても慣れない者は、とても神経をすり減らすと言う。その気持ちがわからないわけではない。

「ところで、今回の仕事というのは…」
と、咲耶さんは話を変える為に、机に地図を広げた。


「山の神」に出会ったのは、別段偶然ではなかった。
この地方では古代からの伝説により、幼い子供が「山の神」として奉られ、成長期が近づくと次の「山の神」に入れ替わると言う。その謎を解くために僕はこの山に来たわけだ。
目的は「山の神」が、僕らの役に立つ能力を持っているかどうかを見極める為だった。

四年前の「聖光革命」と呼ばれた大規模なクーデターにより、魔法使いの数は極端に減少してしまった。その上、未だにアルト狩りと称した「虐殺」は後を絶たない。
僕たちは能力を持った魔法使いを保護する為に、各地を旅している。
その対象は圧倒的に子供に向けられているのが実情だった。
アルト狩りによって、親を亡くした子供たちの行方不明が多かった所為もあった。
幸いなことに島国であるニッポンは、世情に疎く、アルト狩りからは逃れていたから、実害は少なかったが、だからこそ、表に出てこない魔法使いの存在も多いと聞く。

その「山の神」に出会う為に、どうすればよいかと思案しながら、野宿をしていた夜、彼は僕の前に突然現れた。
まだ幼い、見た目には少女のように可憐で巫女の姿をした少年。それが「山の神」だった。
間もなく十歳になるという彼は、文字も、世の中の事もなにも知らない、教えられていない無知な子供だった。
十と言えば、僕がこのニッポンへ来て、伸弥さんと出会った頃だ。
こんなにも幼かったのか…と、小さな「山の神」を抱き上げ、星の名前を教えながら、何度も胸が締め付けられてしまったんだ。
伸弥さんもこんな気持ちで、僕を見守ってくれていたのかもしれない。

生きることに自信もなく歪んだ心で生きていたあの頃の僕と比べて、目の前の少年の潔さと生命力はどうだろう…
全くもって純粋で無垢な魂を持ち、そして「山の神」としての責務を果たす為に生きようとするその強さに、僕の心は揺さぶられた。
友達も、何一つ教えてくれる大人もいないひとりぼっちの幼い少年が、これ程の美しい精神を持つことができる。
羨ましくも憧れてしまう。

彼の能力は未知数だったが、できるのならばここからすぐにでも「天の王」へ連れ去ってしまいたかった。
どう考えたって、こんな山里の掟なんか、ロクなもんじゃない。

「山の神」と一年後の再会を約束して別れ、一旦情報部に戻り、咲耶さんに相談したところ、案の定、「山の神」は伝説通り、「人身御供」として始末されるのではないか…と、いう結論に至った。
すぐにでもあの少年を保護したかったが、きっと責任感の強いあの子は最後まで「山の神」の役目を果たすと言うだろう。
あの子が僕の手を掴む、その時まで待つしかない。

一連の事態を報告する為にサマシティに戻った僕を、アーシュは待ちかねたように部屋に向かい入れた。

「やあ、スバル。待っていたよ。収穫はあったかい?」
「うん、それがさ…」
と、僕はニッポンで出会った「山の神」のことを話した。

「…へえ~、そんなにかわいいのか。つうか、おまえって…ショタコンだったのか?」
「え?」
「おまえさ、昔はフリフリのピンクの服なんか着て、ロリコスに凝ってたから、ロリコンとばかり思ってたけどな」
「うるせえよ。僕はロリでもショタでもない。敢えていうなら…」
「なら?」
「かわいいは無敵だ!と、言う答えを導き出したのだよ。これは哲学だとは思わないか?アーシュ」
「…知らねえよ」

不貞腐れたようにそっぽを向くアーシュの態度に、何か間違ったことを言ったのだろうか…と、僕は頭を捻るばかりだ。


アーシュ大人1


「山の神」のスバル視点でのお話です。
短いと思います。多分…( ,,`・ ω´・)
と、いうか、スバルのオタク体質は治ってません。


「愛し子」その二へ

「山の神」はこちらから。その一へ

「スバル」はこちらから。1へ



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サイアート

Author:サイアート
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