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2013-11

愛し子 8 - 2013.11.30 Sat

8
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mamorumono1-3.jpg



8、

空を舞うアーシュの姿は小さくなり、クーデターの指揮者であるハールートと、その僕(しもべ)であろう灰色の髪をした魔法使いが並ぶブリッジの高台に降り立った。

僕の周りにいる兵士たちは銃を構えながらも、僕たちよりもアーシュが向かったブリッジの方向へ、全員が注目しているようだ。
彼らの長であろうハールートとアーシュがお互いに対面しあうのを眺め、この成り行きを見守るように、銃口を降ろし、沈黙した。
僕もアーシュが心配だったけれど、目の前の魔法防御を崩すわけにもいかず、途切れないように集中している為、真剣にアーシュの様子を伺うことができない。
代わりにというか…人よりも夜目が効くと言うジョシュアが詳しく状況説明をしてくれた。

「今、アーシュがハールートの前に降り立ったぞ。ハールートは驚いているみたいだけど…拳銃をアーシュに向けている…」
うわぁ、大丈夫かな…。と、いうか、ジョシュア、割とノリノリで喋ってくれてないか?

「なにか話をしてるみたいだけど…ハールートが頭(かぶり)を振ってる。と、言うか、聞く耳持たず…って、感じかな」
まあ、普通そうだろうなあ。いきなり敵が目の前に現れたら…

「あ、アーシュがハールートの身体に抱きついて…押し倒したっ!」
え?…お、押し倒し…?

「…ハールートに、キスしやがった…」


「あいつ…俺にやったこととおんなじことを…」
「…ジョシュアに?」
「以前…天の王に居た頃、やられたんだ。ああやって、抱きついて、相手の過去とか考えてることとか…すべてを読み取ってしまうんだよ、アーシュは」
「そう…なの?」
「ああ、…誰にだって見られたくない想いや、心の奥底に隠したい想いとかあるってのに、あいつは容赦もなく、それを引きずり出して、ぶちまかすんだ…。プライドの高い奴ほど、すべてを見られたショックってのが強烈で…。俺だって随分と落ち込んだぜ。あんなプライドのかたまりみたいな奴に、同じ手を使いやがって…。この場面で相手を怒らせてどうするんだよっ!ばかっ!」
「…」
アーシュを心配して怒るジョシュアが、なんだか愛おしくなった。
彼の言っていることは尤もだけど、そんなアーシュを、今の君はこんなにも愛しているじゃないか。

「ジョシュアは…自分の心のすべてを、アーシュに見られたことを、恨んでるの?」
「…」
ジョシュアは僕に目を移し、少しだけ考え、「いいや」と、頭を振った。
「アーシュにすべてを知ってもらったことがきっかけで、それまで重く圧し掛かっていた俺自身へのわだかまりや卑屈さとか…そんな想いが軽くなった…。何故だかはわからない。何かが解決したわけでもなかった…それでも、心のどこかが浄化されたみたいで…。きっと誰かに、俺のすべてを知って欲しかったのかもしれない。…それで、俺は、やっと、前に進むことができたんだ」
「だったら、ハールートもおんなじじゃない?きっと」
「…そううまくいきゃ、いいんだがな…」
ジョシュアは未だ気を抜けないといった風に、またアーシュ達の方へ目を移した。

「あ…ハールートが起き上がった。灰色の魔法使いが心配そうにハールートを支えている。起き上がったアーシュがハールートに何か喋りかけている…。うわっ!ハールートがアーシュを左ストレートで殴りつけたっ!やべえ!アーシュがノックダウンだ…」
「…ええっ!」
「ハールートがダウンしたアーシュに掴みかかろうとしたところを…灰色の魔法使いが後ろから羽交い絞めで止めてる…。罵るハールートをアーシュから引きはがして…き、消えた?なんだ、あいつらふたりして、同時にブリッジから姿を消したぞ?」
「多分、ワープしたんだね」
「そう…か…。魔法使いは、そんなこともできるのか」
「誰でも、できるわけじゃないけど…」
「そうだろうな…俺の両親はそんなことはできなかった…」

ジョシュアの両親はアルト(魔法使い)だったのか…。それなのに、自分はアルトじゃなかった。
きっとジョシュアも沢山の複雑な思いを胸に抱えて、生きてきたのだろう。

魔力を持った者、そうでない者という区別は簡単だろうけれど、実際は簡単に割り切れるものじゃない。
どちらにもそれぞれの葛藤とコンプレックスが積み重なっていく。

「…アーシュの奴、起きてこないぞ。あいつ、殴られて気絶でもしてんじゃねえのか?昔から殴り合いのケンカは弱かったからな」
「…」
僕も暴力は大嫌いだよ。
「アーシュ、大丈夫かな…」
殴られても、死んだりはしないだろうけれど…

「あ、起き上がった。頬を摩りながら、ブリッジから甲板に降りてくる。…ゆっくり飛んで…。兵士たちが降り立ったアーシュを、囲み始めた。…あいつら、銃を構えている…」
「…」
「スバル。トゥエを頼む」
「え?」
「あいつに何かあったら…。俺はアーシュを助けに行くから」
「だ、駄目だよっ!ジョシュア!」
「…」
「僕は…ここでトゥエとジョシュアを守るって、アーシュに約束したんだ。だから…ね、ジョシュア。ここでアーシュを見守ろうよ。絶対にアーシュは大丈夫だから」

この絶対に不利な状況の中で、僕はアーシュが危険だとは、思わなかった。
ハールートが居なくなった時点で、重大な危機は回避されている気がしていた。
ここに居るハールートの部下とも言える兵士たちは、僕らが思うよりも危険な存在じゃないんじゃないだろうか。
彼らがどんなにハールートにコントロールされていても、アーシュには効かない…そんな気がした。

体格の良い何人かの兵士に取り囲まれたアーシュの姿は一瞬見えなくなったけれど、兵士の中でも目立つ男性がアーシュに近づいている。
「あの男、さっきの…」
そうだ…トゥエが居た部屋の前で見張りをしていた…確かジョージって言う黒人の兵士だ。
背の高いジョージに隠れてアーシュの様子はわかりかねる。
だけど、一分も経たないうちに、アーシュを取り巻く兵士たちは次第に輪を緩め、アーシュの姿が僕らでもはっきりと確認できるようになった。

「アーシュ!」
「ジョシュア、絶対にここから動かないでね。まだ銃を構えている奴がいる」
「…わかった」

アーシュはゆっくりとこちらへ歩いてくる。
まだ兵士たちの敵意というものが、完全に解けているわけではなかったけれど、そんなことは構わずにアーシュはさっそうと僕らの方へ足を進めている。
僕たちはアーシュが帰るのをじっと待った。
よく見るとアーシュの口唇の端が切れて血が滲んでいる。さっきハールートから殴られた所為だろう。

僕らに手の届くところまでアーシュが近づいてきたその時、一発の発砲する音が甲板に鳴り響いた。
その弾はアーシュの頭を狙っていた。僕にはそれがスローモーションのように見えたんだ。

弾はアーシュの頭を掠りもせずに、アーシュの身体の寸前の何もない空間で力なく跳ね返り、カランと甲板の上に落ちた。
「…」
アーシュは黙って甲板に落ちた弾丸を拾い、それを持って、発砲した兵士の方へ向かった。

兵士から見れば、アーシュは完全に後ろ向きだった。
誰が撃ったのかわかるはずもないだろう。だけど、アーシュはその相手を間違えもせず、引鉄を引いた相手の前へ立ち、その手に撃った弾丸を返したのだ。

「いや~、君の腕前は大したものだ。この暗闇の中、間違いなく君の弾は俺の頭の真ん中を狙っていたからね。ま、俺を狙っても、当たんねえんだけどさ。がっかりしなさんな。俺は魔王だからさ。血の通っていないモノでは、傷つきゃしないんだよね」
そう言って、相手の肩を叩いて笑っている。それもすごく高慢ちきな態度で…

「あのバカ、本気(まじ)でキレていやがる…」
ジョシュアが焦っている。
このままじゃアーシュはその怒りでもって劫火の嵐のごとく、すべてを灰にしてしまいそうだ。

「ア、 アーシュ!お願いだから早く戻ってきてよっ!僕、もう…もう、持たないよお~!」
僕はありったけの声でアーシュを呼んだ。
アーシュはこちらをチラリと見、クスリと笑った。
そして、急いで僕らの方へ駆け寄り、力なく座り込んだ僕の手をギュッと握りしめた。

「あ、アーシュ…」
「よく俺を止めてくれたなあ、スバル。おまえ、よい魔術師になるぜ」
「そ、そうかな…」
「ああ、今の俺を制止できるなんて、よっぽど根性あるぜ」
「あ、あのさ、褒めてくれるのは嬉しいけど、そんなことより早くここから逃げようよ。僕、もう…これ以上、魔法防御続かないよ~」
本気で泣き出しそうになった。身体のエネルギーが空っぽになったみたいに、動けなくなっているのだ。

「OK、スバル。すぐに天の王へ帰ろう」
「ちょっと待て!俺もか?」
「ああ、ジョシュアも一緒だよ」
「お、俺は今更、天の王には用はねえぞ!」
「だって、みんなでトゥエを見送るんだぜ。君がいなきゃ恰好がつかないし、トゥエもそれを望んでいるよ、きっと」
「…」
ジョシュアはちっと舌打ち、そっぽを向いた。
本当にジョシュアはアーシュには弱いんだな。

アーシュは真上に浮かぶ僕の携帯魔方陣を取り、自分のものをほおり投げた。
以前に僕があげたものとは幾分変わってしまった携帯魔方陣の光が、僕らを包んだ。
天の王の聖堂を出発した時と同じように、目の前で立ち尽くす兵士たちの姿が霞んで消えた。

僕たちは、トゥエの亡骸を抱いたまま、天の王学園の聖堂へ帰ってきた。


トゥエ・イェタルの死は、皆が知るところとなっていた。
アーシュの言うとおり、僕らの様子は船の甲板で撮っていたカメラや録音機材で、ラジオやテレビに流れ、世の中に知れ渡っていたのだ。

人々はトゥエの死を悲しむと共に、アーシュの偉大な力を畏れ、そして救世主として奉ろうした。
勿論、アーシュは受け入れない。
国際情報機関もアーシュの強大な魔力に畏れ、揉み手をしながら、要人に据えたいと請うたが、アーシュは断った。
「学長を失った天の王学園を守ることで、精一杯なんですよねえ~。それに、まだ学生で卒業試験も受けていませんし~。卒業したら、考えてやってもいいんですけれどね~。それなりの報酬は頂きませんと~」
などと、魔王らしからぬことを言う。

「経済的に豊かになるのは、学園での生活が楽しくなるじゃん。いいもん食えるし~」
「バカ、いいもん食いたきゃ、俺の家に住めばいいんだよ」と、ベルが言う。
「ベルん宅のフルコースなんか食い続けてたら、豚みたいになっちまうよ。たまに美味いもの食うから、有難いって思うのさ。魔法と一緒。願いがすべて叶うなんて、つまんねえだろ?一番大事な、とっておきの、どうしても叶えたいものをひとつだけ得ようと頑張った者に与えられるものが、魔法の最終目的さ」
「へえ、アーシュにとってそれはなんだい?」と、ルゥが微笑む。

「もちろん、俺を愛してくれる人を幸せにする事さ」

アーシュの願いは叶わない夢、我儘とも言えるだろう。
アーシュを愛しても、誰もアーシュのすべてを手に入れる事は出来ないんだから。
でも、アーシュの想いは真実だとわかる。
だから、僕たちもまた、アーシュを愛し続けるのだろう。



あれから五年の歳月が過ぎた今、僕たちはトゥエに恥ずかしくない愛し子として生きているだろうか…。

ハールートと灰色の魔術師の噂は、どの土地を旅しても聞こえなかったし、イルトとアルトの小競り合いは絶えなかったけれど、激しいテロ事件等は起きてはいない。

この夜の、アーシュと僕の二人だけの思い出話は、何時間でも尽きなかった。
僕たちは気分よくワインに酔い、泣いたり笑ったりしながら喋り続け、明け方にはお互いの身体を抱きしめ合い、狭いベッドで眠った。

まるで親鳥を失ったヒナのようだと、微笑みながら…



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愛し子 7 - 2013.11.23 Sat

7
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天国へ

7、

アーシュとジョシュア、そして、僕は「天の王学園」の学長であるトゥエ・イェタルの最後の火が消えてしまう時を、静かに見守った。

身体と精神を傷めつけられているのだろう。
苦し気な呼吸を続けるトゥエの苦痛を少しでも和らげようと、僕は持てる限りの癒しの魔法で頑張ってけれど、トゥエの苦しみは、到底理解できるものではなかっただろう。
「ごめんなさい。僕の力が足りなくて…」
「…大丈夫だよ。ありがとう、スバル」
涙が止まらない僕に、トゥエは力の無い声で礼を言い、トゥエの胸に置いた僕の手に、痩せた手をそっと重ねてくれた。
段々と弱まっていくトゥエの心臓の音に、僕は伸弥さんが味わったであろう苦しみが重なってしまい、とうとう涙が止まらず、ひきつった嗚咽を繰り返した。

トゥエは途切れ途切れになりながらも冷静な声音で、僕らに感謝の言葉と、これから生きる希望を、それぞれに残してくれた。
トゥエの言葉をもらったジョシュアは、ふいにその場から立ち上がり「俺、見張っているから…」と、言い残し、部屋を出ていった。
きっと、泣いている顔を見られたくないのだろう。
それとも…トゥエとアーシュの聖なる輝きに、耐えられなかったのかもしれない。

アーシュは、泣くことも、憐れむ表情も見せず、ただトゥエの頬を優しく撫で、時折頷きながら、微かに微笑んでいた。
その姿は、まるで死に行くトゥエを導く死神か、女神のように…僕には見えた。
アーシュもトゥエも、すべてを受け入れているのだ。

そして、アーシュはトゥエの口唇に、ゆっくりと口づけた。
「ありがとう、トゥエ…親父殿。あなたが俺を生んでくれたから、俺はここに在る…」
「…あ…アーシュ……」
「…大好きだよ、トゥエ。愛してる。…さよなら…。死があなたを安らかな場所へ導きますように…。ね、会いにいくよ。…いつだって、俺にはそれができるんだから…」

アーシュの言葉を聞いたトゥエは、笑みを浮かべ、目を閉じ、そして、呼吸を止めた。

僕は号泣した。
トゥエが死んでしまった悲しみと、こんな風に…アーシュみたいに、伸弥さんを見送ってやれなかった自分への後悔と、してあげたかった想い…が胸を締めつけて、どうしようもなかった。

「スバル、泣いてるところ、悪いが、ジョシュアを呼んできてくれ。…天の王に帰ろう。みんながトゥエを待っているからな」
「う…うん」
冷静なアーシュを少し恨めしく思いながらも、僕は泣きじゃくりながら立ち上がり、ジョシュアを呼びに行った。


ジョシュアはまだ温かいトゥエの亡骸を背負い、僕はその後ろを、アーシュは先頭を歩きながら、甲板を目指した。

「甲板に出たら、ワープして、この船から離れよう。スバル、携帯魔方陣は持ってきたか?」
「うん」
「じゃあ、外に出たらそれを使って、ジョシュアとトゥエを港まで運んでくれ」
「おまえはどうするつもりだ?」
アーシュを案じたジョシュアが言う。
「俺は…まあ、ボスと会ってみるよ。どうしてトゥエがこんな風に死ななきゃならなかったのか、俺には奴らに聞く義務があるからな」
「で、俺達だけで逃げろってか?…そんなの俺が素直に聞くとでも?」
「…」
ジョシュアの言葉にアーシュは振り向き、驚いた顔を見せた。
「忘れた~。ひねくれ具合では俺同様のジョシュアが、素直に聞くわけないよなあ~」
「当たり前だ」
「じゃあ、トゥエとスバルと一緒に、俺の超絶かっこいい姿を、眺めていてくれ」
「…だから、自分で言うなって言ってんだろ!」
ジョシュアは呆れながらも、少しだけ笑ってみせた。
そんなふたりのやりとりが、僕には切なくて、また涙が溢れてしまった。

いくつかの階段を昇り、やっと甲板への出口が見えた。
薄灯りの点いた艦内と違い、真っ黒な夜空が見える。
「誰にも気づかれなくて良かったね」
「そう簡単にいくもんかっ」
僕の暢気な言葉に、苛立ちを隠さないジョシュアが言い放つ。

ジョシュアは魔法使いではないけれど、どうやら僕よりもよっぽど、先見は鋭いらしい。
予感は的中。
僕たちが甲板に上がった瞬間、船のサーチライトが僕たちを照らしだし、いくつもの銃を構える引き金の音が聞こえた。
その音が思ったよりもずっと激しくて、僕は絶体絶命の気がして、思わずジョシュアの腕にすがりついた。
「…なにビビッてんだよっ!」
「だって…」
「こんな事ぐらい、予想はついてただろ?」
「…だって」
「おまえは一応ホーリーなんだろ?アーシュの力になる為にここに居るんだろ?しっかりしろよ」
「…」

だって、僕は…危険だってわかっているから、来たくなかったのに、アーシュに無理矢理連れてこられて…でもそんな弱音吐いてる場合じゃないって、わかっているけれど、足が震えて、仕方ないんだもの…

「スバル。携帯魔方陣で結界を張っておきな。弾丸ぐらいは弾き返せるように、十分魔力を込めてな」
「そ、そんなこと…」
やったことない!
「どうやらカメラも回っているし、全世界に生放送でもしてくれりゃ、こっちも助かる」
「え?なま…放送?」
「トゥエの処刑を見せつけるって言ってたしね。ほら、あそこのブリッジに影が見えるだろ?あれが例の俺たちの先輩のハールートなんとかっていう、クーデターの張本人だぜ。隣に居るのが魔術師か…。まあ、それなりの力はありそうだが…」
「おい、それよりも、俺達、囲まれてるぞ。どうするんだ?」
「ま、話し合えばなんとかなるでしょ?ジョシュア、おまえ知ってたか?昔の偉い人の言葉で『和を以て、貴しと為し、忤ふること無きを、宗とせよ』だってさ。スバルの故郷の人らしいぜ」
「…ごめん、知らない…」
「そんなもん、知るかっ!」
こんな時に、歴史の授業みたいなこと言ってくれるなよ、アーシュ。
…でも…なんとなく、アーシュの余裕を感じて、少しだけ安心しているのは確かなんだけど…

「で、アーシュ。俺らの先輩って奴を、どうする気だよ」
「まあ、痛めつけるのは最後の手段…って事で、あれでもトゥエの愛し子だし、きっとトゥエも彼の死を望まないだろうし…、どうにか話を付けてくるよ」
「…テロリスト集団に、話し合いが通じるのかよ」
「…彼の言い分を何も聞かず、片づけてしまっても、こちらも後味悪いだろ?それだけだよ、ジョシュア。君と同じ。誰だって、自分でもどうにもならないジレンマや想いを、どうしていいのかわからないでいるんだよ。だからって、俺がそれを理解してやるかどうかは、別の話なんだけどな」
「…」
「じゃあ、行ってくる」
「あ、アーシュ、僕…」
「大丈夫だよ、スバル。おまえは、この船の中じゃ、俺の次に強い魔術師だ。本当だぜ」
「…」
僕は無意識にジョシュアの顔を見た。ジョシュアは信じられるかよ、と言った顔をしている。僕もそう思ったけれど、アーシュのドヤ顔を見てたら、なんだか悩んでいるのが馬鹿らしくなってしまった。

「わかったよ、アーシュ。ここでトゥエとジョシュアを守って、君を待ってる」
「頼んだよ」

片手を上げ、黒のマントを翻らせ、アーシュはゆっくりと、甲板から舞い上がる。
僕もジョシュアも…銃を持った周りの兵士みたいな奴らも、一応に、ゆっくりと優雅に飛ぶアーシュの姿に、見惚れていた。

僕はあわてて、携帯魔方陣をポケットから出し、空に投げた。トゥエとジョシュアと僕を包むように、透明な膜のようなものが、僕たちの前に降り注ぐ。
ジョシュアはトゥエを甲板に下ろし、両腕の中に抱き寄せた。

「トゥエ、どうか、アーシュを見守っててください。あいつはやんちゃだから、何をしでかすかわかったもんじゃない。でも…俺じゃあ、何の役にも立てないんだ……」
トゥエに話しかけるジョシュアに、僕は彼の真の心に触れた気がした。
そして、アーシュが彼を信頼する意味も…

トゥエもジョシュアも僕も…みんな、アーシュを愛しているんだね。
それぞれの愛の意味は違っていても、アーシュが大好きで、彼の傍にいたくて、彼の役に立ちたくて、彼を守りたくて…
とても…とても大切な存在なんだよね。

「ジョシュア、僕、頑張るからね」
トゥエを抱きしめるジョシュアの手に、僕は自分の掌を重ねた。
少しだけ驚いたジョシュアは、「ああ、頼りにしてるぜ」と、笑った。



スバル18

ちょっと風邪気味が続いてて…ちょっとの頭痛~

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愛し子 6 - 2013.11.11 Mon

6
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アーシュとスバルとジョジュア2-33

6、

ジョシュアは僕たちと同じ「天の王」学園の卒業生で、卒業した後もアーシュとはずっと連絡を取り合っていたと言う。
よく見るとオリーブ色の髪に、白くてどことなくエキゾチックな顔立ちは、無為に人を惹きつけるものがある。
彼は魔法を使えないイルトだが、生まれ持った魔性で、多くのアルト(魔法使い)を惹きつけるのだと言う。
カリスマのイルトに惹かれるアルトたち…
今回のクーデターの首謀者、ハールートと彼を慕うアルトたちの構図が浮かび上がってくる。

僕が伸弥さんに惹かれた事も、そういう関係だからと、昔、言われたことがある。
僕は…本当はそんな関係なんて認めたくはない。
伸弥さんは僕にとって、アルトとイルトの惹き合う感情じゃなく、たったひとりの運命の人だった…って、信じたい。

でも、ジョシュアって人の生き方は、なんだか興味深い。
彼は世界中をあちこち飛び回る旅人で、色んな世界の景色を見てきたという。それは伸弥さんと僕が語らい、一緒に夢見た未来だったから、なんとも羨ましく感じたんだ。

「どうだい?ジョシュアはなかなか魅力的だろ?」と、アーシュは僕に言う。
「なんだよ、なかなかって。中途半端すぎじゃね?」と、苦笑するジョシュア。
「俺より劣るっていう意味だよ」
「…あいかわらずだな…魔王さまは」
「さあ、行こうか。トゥエのところへ」
アーシュはジョシュアの腕から離れ、彼方の海を見つめた。

「残念だが、アーシュ。トゥエが拘束されている船は、この港から一時間ほど前に出航しちまったんだ。大型客船とまでは行かないが、敵さんは五十と言わず、それにピストルやライフルやら、魔法使いどもが大勢いるくせに、ぶっそうなもんも持っていやがる。今からじゃ、船を借りて追いかけるにしても、シロウトじゃ船も動かせないし、夜も更けて、危険だ」
「おうおう、ジョシュア。俺を誰だと思っていらっしゃる?魔術師界の類稀なる大魔王アスタロト様だぜ」
「…自分で言うな。こっちが恥ずかしいわ」
「ついでに神さまも兼用しちまってる俺に、できねえことはないっ!さあ、君たち、俺の腕に掴まりたまえよ!」
「「え?」」
「飛んで、その船に追いついてやるからさ」
「「はあ?」」
目を丸くしながらも、僕とジョシュアはアーシュの両方の腕をそれぞれに掴んだ。それを確かめたアーシュは、全く力も入れずに、その場から空中に飛び上がったのだ。

「うわあ~」
ゆっくりと港の景色が小さくなっていく。
強い魔力を持つアルトが空を飛べる魔法が使えるってことは知っていたけれど、僕は試したことがなかったから、空中浮遊は初体験だった。
横を見ると、黙ったままのジョシュアは少し青ざめた顔で歯を食いしばっていた。
なんだか変に可笑しかったから、思わず笑ったら、ものすごく睨まれてしまった。

ふわふわ飛んでいるはずなのに、海を航行する船にたちまちのうちに近づき、その甲板に僕達三人は降り立った。
「この船で間違いない?ジョシュア」
「…あ?…ああ」
「なんだよ。君、顔色悪いぜ。ジョシュアは高所恐怖症だったのか?」
「バカ言えっ!ちょ、っと、寒かっただけだ!」
「確かにね…ここ、寒いよねえ~。そんなあったかそうな皮のトレンチコート着てても、凍えるよねえ~」と、アーシュはせせら笑っている。
そういうところ、ホントに性格が悪いんだよなあ~、アーシュは。

「で、トゥエの居る場所は大体ここらへんだと思うけれど…」
ジョシュアはポケットから紙切れを出し、僕たちに見せた。船の内部のあらましが書かれ、ひとつの部屋に赤く丸が付けてある。
「OK。じゃあ、そこへ行こう]
「行こうって…このまま?ワープしないの?」
こういう時の為に、携帯魔方陣があるんじゃないの?僕はあわてて聞いたけれど、アーシュはお構いなしに「どうせ結界が張り巡らされて、ワープしたら逆に警戒されるよ。こういう時は逆にお客さま気分で、堂々としてろよ。まあ、俺が居るから危険はないから安心しろって」
「…」
マジで?疑ってしまう僕だったけれど、隣りのジョシュアが呟いた一言でもっと不安になった。
「安心できねえのがアーシュなんだよなあ。場当たりもいいとこでさ。おまえの計画でロクな目に会わなかった試しがない」
「…」
…やっぱりこんなところに来なきゃよかった…
後悔しても遅いから、僕はふたりの後に遅れないように、平常心を振り絞りながら付いていった。

ライフルを持った数人の兵士にすれ違ったけれど、彼らは僕らをチラリと見るだけで、何故か銃口を向けたりはしなかった。
時折アーシュが道でも聞くみたいに、話しかけ、にこやかに笑っていたりもする。
…トゥエを取り返しに来た…なんて思ってもいないんだろうか。
それをアーシュに聞いてみたら、「この船に自分たちの敵が乗船してるなんて思ってないからね。それに、俺、人から好かれるタチだし~」
などと、暢気に鼻歌を歌いながら、階段を降りていく。

明らかに…三か月前のアーシュとは違っている。
お伽話みたいだと笑っていたけれど…もしかしたら、本当にこの星の遥か遠いクナーアンって世界の神さまになって、すごい魔力を得てしまったのかもしれない…。

階段を降りたところで、アーシュは僕らに小声で話しかけた。
「あの部屋にトゥエが閉じ込められてるらしい。俺、ちょっと話しつけてくるからここで待っててよ」
「え?」
そう言うと、アーシュはドアの前に立つライフルを持ったごつい黒人男に近づいて行った。
追いかけようとする僕を、ジョシュアが襟を掴んで止めた。
「じっとしてろ。アーシュに何かあったら、俺が仕留める…」
ジョシュアは片手をコートに入れたまま、緊張した眼差しでアーシュの一挙手一投足を見つめていた。

アーシュの姿を見つけた兵士は、ライフルを身構えたが、アーシュはそれに怖れるふうもなく、彼に近づくと親しげに話しかけている。
話しの内容はわからないけれど、アーシュよりも上背のあるベレー帽をかぶった男は、アーシュを怪我な顔つきで見下ろし、黙って聞いている風だった。
その男が二、三言話し、頷くと、アーシュはこちらを振り返って僕らを手で招いた。
僕らが走って近づくと、兵士は黙ってドアの鍵を開けてくれた。

「ありがとう。ジョージ。恩に着るよ」
「別に…オレも年寄りを監禁なんてセコいマネは好きじゃねえんだ。まあ、後は知らねえけどな」
「充分助かったよ。無益な血は見たくないしね。これから先、もし、なにか俺に用事がある時は、サマシティに来いよ。力になるから」
「…」
男は苦笑を浮かべ、手を振ると、その場から去って行った。

「ア、アーシュ、ど、どうやって仲よくなったの?」
僕はあわててアーシュに聞いた。
アーシュは「別に…。奴の名前を呼んで、母親がどこに居るのか教えてあげただけだよ。彼がもっとも知りたいことみたいだったからね」と、平然と答えた。
「…そ、そんなこと、わかるの?それとも、アーシュの知ってる人?」
「今、初めて出会ったけれど、俺の特技というか…そういうのがわかっちゃう能力が身に付いたんだよ。まあ、必要な時だけしか使わないけどさ」
「…」
なんと凄い…というか、それ、便利かもしれない…

「さあ、行こうか」
僕たちは鍵の開いたドアを開けて、暗闇の部屋に入った。
廊下から漏れる仄かな灯りと、ジョシュアが照らしたライターの火で、なんとか辺りの様子が伺える。
「ランタンがある。これを使おう」
ジョシュアがランタンの火を点け、やっと部屋の様子が見通すことができた。
窓もない部屋の隅に、手足を縛られたトゥエが倒れていた。
僕たちはトゥエの名を呼びながら、あわてて近づいた。
ジョシュアは縛られたトゥエの縄を、持っていたナイフで解き、ぐったりとしたトゥエの身体を少しだけ抱き起こした。

「…学長、大丈夫ですか?」
トゥエの返事はなかった。が、微かな呼吸音が聞こえた。
アーシュはトゥエを抱くジョシュアの向こう側へ跪き、トゥエの手を握った。
「遅くなってすみませんでした、トゥエ。俺、無事、帰ってこれましたよ。セキレイも一緒です。あなたの言ったとおり、俺は…本物のアスタロトだった」
アーシュの言葉に、トゥエは閉じた目を少しだけ開け、そしてうっすらと微笑んだ。
「…お帰り、アーシュ…良かったよ、最後に君の顔を見られて」
「さ、最後なんて…言わないで下さい。学長…」
「ああ、スバル…君も来てくれたのかい?そうか…少し見ない間に…強くなったのだね。…それから、ジョシュア…久しぶりだね。…元気そうで良かった。…君の様子はアーシュから時々聞いていたよ。…できれば、私も色んな旅の話を聞きたかったけれどね…」
「…学長…」

トゥエ・イェタルの死期が迫っていることは、ここに居る全員が理解できた。何故こんなことになったのかと問う意味が不毛であることも…

アーシュは痛みに脂汗を掻くトゥエの額を優しく拭いながら、穏やかな声で静かに話しかけた。
「トゥエ…俺はもう人じゃなくなったんだ。向こうでは神さまになっちまってさ。まあ、ちっとばかし稀有な力が身に付いちまった。勿論、こちらではこれからも人として生き続けるつもりけれど、いつだって大好きな人の為に闘う魔力はあるのさ」
「そう…か…」
「さて、あなたをこんな目に合わせた彼らを…、あなたの教え子をどう始末したらいい?魔王アスタロトは、死にゆくあなたの命を受ける覚悟がある」
「…では…魔王アスタロトではなく、愛し子アーシュに…希(こいねが)う。耳を…」
アーシュはトゥエの口唇に耳を近づけた。

ピエタのようなふたりの姿に、僕は…厳かな感情に打ち震えながら、じっと見守り続けた。


ピエタ


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愛し子 5 - 2013.11.09 Sat

5
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5、

「そろそろ時間だね。行こうか、スバル」
「…うん」
ルゥに促され、僕は部屋を出て、彼と一緒に聖堂へ向かった。
自然と人を和ませる特技と言ってもいいのだろうか…ルゥの素直な柔らかい笑顔を見せられると、へそを曲げそうになってもついに懐柔されてしまう。

すでに聖堂の中には、ベルの部屋に集まっていた者と数人の先生方が集まっていた。
聖堂の中心に描かれた魔方陣は淡く金色の光に輝き、その中心に立ったアーシュは、周りの連中に囲まれ、緊張した面差しも無く明るく語り合っている。

「よお、逃げずに来たな、スバル。えらいぞ」
軽く片手を上げたアーシュが、僕を笑う。
「…」
逃げれなくさせたのはおまえだろうが…。
厭味ったらしいアーシュの言葉にも、見透かされていることもムカついたけれど、本当は自分の情けなさに一番腹が立つんだ。

「こっちへ来いよ。スバル」
魔方陣の中心に立つアーシュは、あけすけに僕に手を差し出す。周りにいた者が、僕の為に道を開けた。
僕はゆっくりとアーシュに近づき、その手をそっと掴む。

「ああ、スバルには言ってなかったけれど、これから向かうところは結構寒い場所らしいから、このマフラーを貸してやるよ」
自分の首からマフラーを外し、アーシュは赤いマフラーを僕の首に巻いた。
まだ温かいアーシュの温もりが肌に伝わる。
「…君は?…寒くない?」
「俺は大丈夫だよ。魔王だからさ。寒さなんかどうってことないさ」
「よく言うわよ。めっぽう寒がりなくせに。ほら、これ着なさいよ」
リリは手に持っていたコートをアーシュに差し出した。
アーシュは素直にリリから受け取り、それを着た。
黒いマントが翻り、魔方陣の光がその稜線を輝かせた。
…なんか、どっかで見た格好だったような…

「なんだよ、コレ。ああっ!確か…去年学園祭で演じた時のコスチュームじゃん!」
「あ、そうだ。アーシュが吸血鬼の…」
「ああ…思い出したくもない、リリの作った最悪の劇…」
「なによ。最高の出来だったじゃない!観客にもすごくウケてたし」
「どこがだよ~…『私の血を吸う前に、頼む。一度だけおまえを犯らせくれ!』って。…サイテーだ…」
「同意…」
「あんたら馬鹿?ここが一番盛り上がるところじゃない。叶わぬ恋を叶えるために、命を懸けて遂げようとする男心…ステキじゃない。女しか仲間にしない吸血鬼を犯したい男のサガが、ありありと描かれていて…」
「…ねーよ」

正直、リリの腐女子ぶりはオタクの僕でも引く。
見かけは西洋人形のようにかわいいリリが、あそこまで腐ったところ見せられるのも…なんというか…もったいない。しかも彼女は性の対象として、女しか興味ないときているから、彼女に気のある男の子も怖くてラブレターさえ出せない有様。
でも、アーシュに渡したマントは寒がりのアーシュには必要だろうし、何よりとても似合っている。彼女の選択は間違っていない。
だからみんなはリリが腐女子であろうと、信頼しているのだ。

「じゃあ、行くよ、スバル。俺の腕を離すなよ」
「うん」
僕はアーシュの腕をしっかりと掴んだ。アーシュは片手に携帯魔方陣を持ち、真上に投げた。
小さな丸い鏡のような魔方陣はクルクルと回り、そこから輝く円柱の光が僕らを包んだ。
目の前にいるたくさんの…友人が手を振っている。
次第にボケていくそれが白く消えてしまうと、僕は不安で泣きそうになり、掴んでいたアーシュの腕を思い切り引き寄せた。
「痛っ…。おい、スバル。あんまり力いれるなよ」
「ご、ごめん。でも、僕…不安で…。トゥエを助けに行くったって、危険なところなんだろ?…僕なんかが一緒に行っても、役に立てないよ?」
「それは俺が決めることだよ。言っておくが、俺にできないことはない。魔王だからな」
「…」
「だから、スバルに危険が及ぶことはないし、俺はスバルに来て欲しかった」
「ベルやルゥよりも、君に対して親身にならないから、楽なんだろ?…ルゥにそう聞いた」
「ああ、セキレイの言葉にも一理ある。けど、今回はスバルが必要だ。おまえがただのひきこもりのオタク魔法使いじゃないって、俺はあいつらに証明させたいのさ。その絶好のチャンスだからおまえを選んだ。スーパースターも夢じゃないぜ。あとは…まあ、スバルの度胸次第だな」
「度胸かあ…」
「ああ、期待しているんだから、がんばれよ」
「…うん」

アーシュの冗談にしてもスーパースターなんかを望んでいない。
だけど…
なんか変な気持ちになった。
期待してる…なんて、さ。
僕のことをアーシュがこんなにも考えてくれていることも驚きだ…
なんだか…少しだけ怖くなくなったし、わくわくしてる。
伸弥さんと過ごした時のような、胸の高鳴りを感じている。

頭の上の円盤は円柱の光で僕らを包み、まるで横に滑るみたいに霧のようなまっ白な空間を水平移動している。

「どれくらいかかるの?」
「う~ん…十分ほどかな。場所はわかってるけど、なにしろワープで行くのは初めてだしな」
「アーシュ、よく見たら、君、眼鏡掛けてないんだね」
「今頃気づいたのか?まあ、勝負師としては、今回の敵には、度胸と愛嬌と見目麗しさで勝負!稀に見る美貌の魔王が恐怖に陥れるってことで…そんな感じにしてみたんだよ。どう?イケてる?」
「…」
マジで言ってるのかどうかわからないけどさ…。
僕にはあんまりわかんないんだけれど。

「アーシュは神さまになったの?」
「セキレイが言ったのか?」
「うん、クナーアンって星の…」
「まあ、そうだけど…。なんにしろ、俺の人生は一回きりだってことだから、神さまでも魔王でも楽しんで生きようって決めている。スバルも楽しめよ」
「え?」
「死んだ恋人のことを忘れても罪じゃないし、忘れなくても楽しんだり、恋をしたりするのは、おまえを思うあの世の住む人への敬意になるんだぜ?覚えておけよ、スバル」
「…」

同い年のアーシュから諭される自分は、惨め以外の何ものにもないのだけれど、それに反論などしようもない。
一歩を踏み出す勇気がないのは、僕の愚かさだ…。
そして、そんな僕の背中を押してくれるアーシュを有難いと思ったり、嫉妬したり…。
人と交わることがこんなに忙しいなんて…変だな。
めんどくさいけれど、何故だか少しだけ嬉しかったり…。


そして、僕とアーシュは見知らぬ土地へ着いた。
陽が暮れた辺りは暗くて、どこに居るのか見当がつかなかったが、ボオーッと霧笛が聞こえた。それは昔、港近くに住んでいた頃に聞いた懐かしい響きだった。
「海が近いんだね。潮の匂いがする。それに霧笛も…暗くてよく見えないけれど、港があるはずだよ」
「そうなのか?なんかわかんねえなあ~。俺は海なんか見たことないしな~。もっとも、クナーアンの海では海竜とよく遊んだけどね」
「海の竜…?すごいけど…そっちの方が想像つかないよ」
見知らぬ世界を知るアーシュの話に興味をそそられたけれど、誰かがアーシュの名を呼びながら近づいてきたから、それ以上、海竜の話はできなかった。

「うわ~!ジョシュアだ!ひさしぶり!」
上背のある黒いくせっ毛のひょろりとした見目の良い男が街燈に照らし出され、アーシュはそいつにの首に腕を回しながら飛びついた。
「アーシュ…。すげえな、おまえ。ホントに来やがった!」
「ジョシュア、元気そうで何よりだ!会いたかったよっ!」
「嘘でも嬉しいぜ、アーシュ…」

ふたりは僕の目の前で、恋人のような口づけをした。
ルゥもベルも…イールって恋人もいるっていうのにさあ…アーシュの奴。そんなエロっぽい顔しちゃってさ。
…なんだか…すげえ頭にくるっ!
そう思ってその「ジョシュア」って奴を思いきり睨みつけてやったら、そいつはアーシュを抱きしめたままニタリと笑い、どうだ、いいだろ?と、でも言うみたいに僕に向かってウィンクしやがった。
言っておくけど、アーシュは僕の同級生なんだから、君よりもずっと一緒に居たんだからね!

…などと、嫉妬でふくれてしまう自分の貧しさに、また自己嫌悪に陥るのだ。





進むの遅くて…ごめんよお~。早く山の神にお目にかかりたく…((人д`o)

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愛し子 4 - 2013.11.04 Mon

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4、

「天の王」学園の学長トゥエ・イェタルを救出するための計画は、アーシュを中心に瞬く間に決せられてしまった。
勿論、僕が口を挿む隙など一片も無い程に…

「…と、言うことで、スバル。適当に用意して、二時間後に聖堂に来てくれ。それまで好きに休んでいろよ」
「え?…う、うん…」
断れる状況でもないし、これ以上、彼らと関わりたくない一心で、一刻も早く部屋に帰ろうとする僕を、リリの一声が止めた。
「スバル、怖いからって逃げないで、ちゃんと時間通りに聖堂に来るのよ。わかったわねっ!」
それには返事をしないままベルの部屋を出た僕は、自分の部屋へ走って閉じこもった。

大体…
そちらの勝手な決め事に、なんで僕が従わなきゃならない。
学長の危機にアーシュたちが焦る気持ちもわかるし、彼の行動力には敬服する。
アーシュの魔力も知力も、人を引っ張るリーダー力も認める。
でも僕は…普通の人間だ。
どうか僕を巻き込まないで欲しい。
幾ら魔法が使えるからって、人同士の争いとか、クーデターなんて血なまぐさい事に関わりたくない。
僕は…これまでも、これからだってこの世界の隅っこで静かに生きていければいいんだから。
リリには釘を刺されたけれど、誰にも見つからないように図書室の本棚の隅にでも隠れて、日が暮れるのを待とう。約束の時間が来ても、僕が聖堂に行かなきゃ、ベルやルゥや…他の誰かが代わりにアーシュと行くだろうし、きっとそちらの方が学長を救い出すには、役に立つに違いないんだから…

僕は自分に自信がなかった。
魔法を使うこなす方法も、誰かの役に立つ力も…なによりも、学長を助け出そうとしたい想いが本当に確かなものなのか…

伸弥さん…
伸弥さんだけが、僕の唯一の真実だったから。
あの時…僕は伸弥さんの為なら、なんでもできると思った。
だけど、あの時のような気持ちを、力を、僕はもう一度手にすることなんて、望んでいなかった。望んじゃいけないって、思っていた。
それが伸弥さんへの想いの深さなのだと、信じ込んでいた。

僕は、伸弥さん以外を愛したくなかった…

そして伸弥さんの運命すら、変えることが出来なかった自分の力の拙さに、僕はうんざりもしていた。
あんなに大切な伸弥さんの命を、守ることが出来なかった。
火事の中から助け出すことができても、病気から救うことができなかった…
どんなに後悔しても…そして亡くなってしまった伸弥さん自身がその死を受け入れていても、僕は伸弥さんの運命を許せなかった。

最愛の人さえ守れない魔法なんて、一体なんの意味があるのだろう。
ただの便利な、使い勝手の良い自尊心をくすぐるだけの力なんて…初めから無い方がマシなんじゃないのか…

図書室に隠れるために部屋を出ようとしたちょうどその時、誰かがドアをノックした。
僕は仕方なしにドアを開けた。
ルゥが立っていた。

「スバル、ちょっといい?」
「…」
「用意できた?何か手伝うことない?」
「…僕が、逃げないように見張りに来たんだろ?」
僕の皮肉にルゥは少しだけ笑って、「うん」と頷いた。

ルゥの嫌みのない笑顔に、僕もそれ以上拒める気もなく、彼を部屋へ通した。
「別にこれといって用意するものはないけど、一応、学園の制服で行くからってアーシュが言ってたから」
「…」
「それから、君がアーシュに渡した携帯魔方陣。アーシュが持っているけれど、余分に持っているなら、そちらも用意してくれって。何かの役に立つかもしれないから」
「…わかった」

アーシュにあげた携帯魔方陣はまだ試作品だったけれど、あれから幾度か手直しして、少しマシなのに作ったものがある。と、言っても自分で使った試しはないんだけど…

「あれ、本当にすごく役に立ったんだよ。これから僕もクナーアンに行く際には、君の携帯魔方陣を使うことになるだろうし」
ルゥはまっすぐに僕を見ながら、嬉しそうに言った。その聴きなれない言葉に、僕は首を捻ったのだけど。
「クナー…アン?」
「ああ、僕の生まれた星の名前。そしてアーシュも…実はアーシュはね、このサマシティで生まれ変わる前は、クナーアンの神さまだったんだ」
「は?…神さま?」
「こちらで想像する神さま像とは違って、もっと具体的で…まあ、世界を統べる魔術師って感じなんだけどさ。アーシュともうひとりの…イールさまっていう神さまが、クナーアンを守っていらっしゃるんだよ。それでさ、ふたりは…永遠の恋人で…」

ルゥの話は荒唐無稽で、僕はお伽話を聞いているみたいだった。
その主人公があのアーシュで、彼がクナーアンと言う異星で活躍した姿を、ルゥは生き生きと楽しそうに僕に話して聞かせるんだ。
それがルゥの作り話でも、僕は大いに楽しめたし、これから図書室に逃げ込もうとすることなんて、すっかり忘れてしまったくらいだった。

それに、アーシュに渡した携帯魔方陣が、その話に出てくる辺りなどは、作った僕自身がまるで伝説にでもなったみたいじゃないか…

「そんなに役に立ったの?あれが?」
「うん、君のおかげでイールさまとアーシュが仲直りしたってわけさ」
「そ、そのイールさまって…アーシュの恋人なわけだろ?ルゥ、君はいいの?」
「え?」
「だって、君、アーシュと永遠の番いになるって…ずっと言ってたし、君たち恋人同士だったよね」
「…うん、すごく…すごく悩んだよ。イールさまとアーシュは逃れようもない運命の恋人だし、クナーアンの星にとって絶対必要な存在だからね」
「…」
ルゥの話がすべて本当のことなら、その真実はルゥにとって、辛い現実じゃないのか…

「僕は…僕はね、諦めているんだ。どうしたって、アーシュの永遠にはなれないってことだから…」
「そ、それで、いいの?」
「愛する意味って色々あるからね。アーシュの恋人になれなくても、僕がアーシュを守りたい、愛したいって想いは続いても構わないだろう?実らない想いもまた、きっと美しい形として残っていくだろうし、誰に認められなくても、それは僕の愛した想いだから…」
「…実らない恋愛は虚しくないの?」
「虚しいと思うことを選んでしまうのは、君の心だよ。僕は…そうは思いたくない。アーシュを愛することを虚しいなんて、絶対に思わないさ」
「…」

ルゥのように強くなりたい。
いつの日か、伸弥さんへの罪悪感を許し、彼と生きた日々を笑いながら思いだせるように、僕は…

「ねえ、スバル。怖いだろうけれど、アーシュと共にトゥエを救って欲しい。もうアーシュには…やれないことはないはずなんだ。彼は…普通ではないからね。だけど、あいつはひとりの人間として生きていたいって思っている。だから制服を着るなんて、どうでもいいことを言ったりね…。アーシュが君を必要にしているのも、天の王の学生でいたいから、トゥエの生徒でいたいからだと、思うんだ。僕やベルじゃ駄目なんだ。…アーシュに言われたよ。何かあった時、自分を守る為に命を捨ててくれる奴じゃ、ダメだって。今は、それは弱みになるからって。きっと相手もそれを狙ってくるだろうからって。だから、スバル、君に頼みたい。アーシュの友人として、彼の傍にいて欲しい。怖いことはないさ。彼は、魔王だからね」
「…」

ルゥの言葉に、僕はどう返していいのかわからなかった。
だけど、今度こそ、僕は逃げ場を失ったみたいだ。




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