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2013-12

愛し子 9 - 2013.12.06 Fri

9
イラストはサムネイルでアップしております。
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irasuto1-99.jpg

9、

「…愛…なのかな…」と、僕は言う。
「愛でしかねえな」と、アーシュが笑った。

なので、
僕はとうとう山の神を、さらいに行く決心をした。


愛し子 9


「俺もそろそろ向こうに行く時期だしな。ま、今度会う時は、スバルの二年越しの恋人とご対面できるってわけだ」
アーシュの言う「向こう」とは、彼の生まれた場所、こことは次元の違う異星「クナーアン」の事だ。
アーシュはその星の神さまで、イールと言う神と共に、クナーアンを統治しているらしい。
年に二、三度、クナーアンとサマシティを行ったり来たりしている。

「アーシュ、その事だけど…。あの子を…山の神をあの村からさらうことができても、すぐにはここへは連れてはこないつもりなんだ」
「どうして?」
「あの子は、これまでの12年間、異文化の小さな村の社(やしろ)に軟禁状態で過ごしてきたようなもので、その社だけが彼の世界だった。本当の名前も知らないみたいだし、学習もなにも、一般的な社会性など、何一つ身に付けないまま今まで生きて来た。今のままでこちらに来ても、生活も言葉も全く違うんじゃ、あの子が可哀想だろ?せめて本人が引け目を感じない程度の学力とかさ…」
「まあ、スバルの心配はわかるけどね。世界を識ることは悪い事じゃないし、嵐の如く荒れ狂う荒野に佇む無垢な子っていうのも絵になるさ」
「そんな他人事みたいに…」
「俺にとっては他人事だもの。それに、おまえが守るんだろ?その子を。何もない無垢な少年を、おまえがどんな色に染めていくのか、楽しみだよなあ~」
「…」
アーシュは重荷を背負おうとする僕に、更に追い打ちを掛ける。
確かに、僕がさらっていく限り、あの子の親代わりになるしかないだろうし、僕もそれを望んでいるのだから、責任重大なのはわかっているけれど…

アーシュは僕を面白がるような含み笑いで眺め、立ち上がった。
「じゃあ、行くわ」
「う…ん」

ドアを開けるアーシュに、どうしても聞きたかった質問を投げかけた。
「アーシュ、あのさ…聞いてもいいかい?」
「なに?」
「君は…気が重くなったりしないのかい?クナーアンの神さまと、こちらでは注目される魔王として生きることに」
「別に。全然。だって、俺はみんなを守る力があるし、俺はそれをやり遂げたいって思っているんだもの。力を持つ者が、何かの為にその力を使わないのは、何の為に生きているのか意味ねえじゃん、って事だろ?」
「…じゃあさ、もし、ひとつだけアーシュが選ばなきゃならないものがあるのなら、それはなんなのか、聞かせてくれないか?」
アーシュは少し考え、そしてすぐに答えを出した。
「どちらの世界にも守るべきものは多いけれど、選ぶのは簡単だ。俺のたったひとつのすべては、イールだ。俺はイールのものであり、イールは俺のものなんだ」
「…」
そう言い切ったアーシュの清々しさに、僕は言葉もなかった。

「じゃあな、スバル」
「うん、行ってらっしゃい、アーシュ」

たったひとつのすべてはイール…か…

響く言葉だと思った。
僕はまだまだ未熟だなあ。
24になろうとしているのに、たった一人の少年の未来を引き受けることを重荷に感じたり、怯えたりしているなんてさ。


それから僕はニッポンに向けて旅に出た。


「次の満月で12歳になる。その時、わたしの山の神としての役目は終わるのだ。そしたらスバルはわたしをさらいにくるのだな。約束だぞ」
去年の山の神との約束を果たす為に、僕はあの山を目指した。

暦の満月には五日ばかり早かったが、あの子の様子が気になった僕は、村へ向かった。そして、到着した途端、異変に気づいた。
あの子の…「山の神」の気配がしない。
いつもは恐ろしい程に静かな神社(かみやしろ)が、嫌にあわただしい気に満ちている。
僕は、境内を歩く神官の頭の中を覗いてみた。

…今夜、新しい山の神が、お社に届けられる…

どういうことだ?
新しい山の神だと?
じゃあ、あの子は…今までの山の神は一体どこに…

途端に心臓が鐘のように鳴り響く。
嫌悪感と不安が増長する。
急がないと…あの子が…あの子の命が…危ない。

神社は聖域だと言う。清らかな者しか足を踏み入れてはいけないとも言う。だけど、僕は躊躇しなかった。
魔方陣を真上に投げ、神社の本殿、あの子の住んでいた場所へ向かってワープする。

まだあの子の匂いは微かに残っていた。
今朝まで、ここに山の神が居たはずだ。
だけど、あの子の気配はない。
一体、あいつらはあの山の神をどこへやった?まさか…殺してしまったとか…。
そういう噂は確かに聞いていたけれど、まだ12にもならない罪もない子供を、本当に殺せるのか?

いや、僕はなにかを信じ込んだ人間が、簡単に人を殺す現実を見たはずだ。
トゥエ・イェタルの死は、そういう人間たちが善と信じて起こした犯罪だった。
あの時、テロリストのハールートが僕たちを殺せなかったのは、彼らよりも強い力を持ったアーシュがいたからだ。
人は信じるものの為には、非道になれる生き物だ…。

山の神…僕を呼んでくれ。
一言だけでもいい。
僕の名前を…
そしたら僕は、君を、絶対に救いだして見せる。

僕は祈った。
あの子を救いたいと願った。
あの子と共に生きる運命を、僕に下さい、と…


「…ルっ!スバルっ!…わたしは…ここだ…。わたしは…スバルと一緒に、生きたいんだっ!」

はっきりと、聞こえた。
僕の立つ床の下、土の中から、山の神の声が…

僕を呼ぶ声が…

「山の神…今、助けるからねっ!」
「スバルっ!」


…ありがとう。

僕は君を守る為に、ここに居るよ。




「愛し子」 8へ /10へ

「山の神」はこちらから。その一へ

「スバル」はこちらから。1へ



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