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2014-04

「破壊者のススメ」 11 - 2014.04.22 Tue

11
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宗二朗月

11.

突然に決めた俺のニューヨーク留学の所為で、俺は勿論の事、俺の周りも出発までの間、慌ただしさに急かされていた。
由ノ伯母などは、初めての一人暮らしに不自由のないようにと、どうでもいいものまでこだわって揃え、あれやこれやと俺の為に準備をしてくれる。
誠一郎の結婚の支度もあるから、こちらは適当でいいと言っても、伯母は「誠ちゃんの方は大丈夫なのよ。律子さんの御実家がなにもかも用意されるから、こちらは何もすることがないの。だから宗ちゃんの用意ぐらいは充分にさせて欲しいの…。駄目?」
「いいえ、ありがたいですよ。よろしく頼みます、お母さん」
「うふふ、宗ちゃんからお母さんって言われると…なんだか恥ずかしいわぁ~」
「…」

由ノ伯母は何時の時でも、少しも変わらない。それがどれだけ俺を幸福にしてくれただろう。
離れてしまえば、こんな良い母とも簡単に会えなくなるんだなあ~。
そう思うだけで、まだ旅立ってもいないのに、なんとなく寂しくなるものだから、「俺って案外女々しいのかなあ~」と母に言うと、「あんたよりも私や由ノちゃんの方が、どれだけ寂しいか…。子供が家から旅立つってことは、嬉しいけれど、そりゃもう、言葉に言い尽くせないくらい寂しいものなのよ。でも子供の旅立ちを祝わない家族はいないわ。行ってらっしゃい、宗二朗。より良い未来を選ぶ力を、ちゃんと養ってきて頂戴。それがあなたを産んだ母の願いよ」
「うん、ありがとう、母さん。期待以上の息子になって帰ってきてやるから、楽しみにしてな」
「ええ、そうするわ。それと…ねえ、宗二朗…誠ちゃんとはあれからなにか話した?」
「え?…うん、まあ…お互い子供じゃないからね。…来春の結婚式には出れないけど、ちゃんとお祝いのプレゼントぐらいは送るってやるさ」
「そう…。誠ちゃん、無理してなきゃいいけど。今度の結婚だって…兄たちの為に精一杯気を張っているけど、ちっとも嬉しそうには見えないし…でも、私は部外者だから、あんたもそうだけど…三人が決めたことに口を挟めないでしょ?」
「…」

そんなの…今更、俺に言うなよ…って感じだよ。

誠一郎の結婚の相手の律子って女だって、写真をちらと見ただけで、どんな奴か知らねえし…第一知る気もねえし。
それに、俺と誠一郎が愛し合っているからって、それを家族が知ったところで、そんなの誰の得にもなりゃしねえんだし…


誠一郎は夏休みが終わると同時に京都の大学院へ帰ってしまい、三月の結婚式まではそのまま院で研究を続けるらしい。
誠一郎とは階段でのやり取り以来、言葉を交わしてはいない。
あの告白は俺への執着した想いであり、あいつなりの俺との決別のケジメでもあったのかもしれない。
俺だっておんなじだ。
無理にでも自分を納得させなきゃ、相手を恨むぐらい嫌いにならなきゃ、この恋を諦めるなんて、出来ない。


晴れ渡った十月の秋空の吉日、俺は家族に見送られ、無事ニューヨークへ旅立った。
俺自身は雲一つない秋空のような晴れ晴れとした気持ちには到底なれない。
新しい生活への不安や心配などは一切ない。
見知らぬ世界へ飛び立てる好奇心は、舞い上がる一方だ。
だが、誠一郎を想うと、心が疼く。

俺と母が嶌谷家の門をくぐったあの時から、俺はずっと誠一郎が好きだった。俺だけのものにしたいと願い、そしてそれが当然にように思っていた。
お互いが成長し、結婚したとしても、俺たちの絆、愛情に傷がつくわけもなく、妻や子供が居ても、どちらかが死ぬまで愛し続けることができる…そう、信じていた。
なのに、現実は俺の思い描くようなものじゃなかった。
そんなに簡単に割り切れるものじゃなかったんだ。
俺の誠一郎が、誰か別の奴のものになる。
今は愛していなくても、時が経てば結婚相手と情が通うかもしれない。
子供もできるかもしれない。
そしたら、俺を想う気持ちも薄れてしまう…
それが本来の男の生き方だと頭でわかっていても、直視できないなんて…俺が子供だからかな…。

今は、誠一郎の良き未来を願うしかない。
それが建前であっても、俺はそう祈るべきなんだ。

嶌谷誠一郎は俺の家族であり、兄なんだから…。


ニューアーク・リバティ国際空港に到着したのは、夕方だった。
空港には晟太郎伯父から頼んでもらった俺の保証人になる「鳴海譲」氏が、迎えてくれた。
鳴海さんは、晟太郎伯父の古い友人で、鎌倉のミッション系の私立高校の校長なのだが、宣教師としても活動され、今はニューヨークの大学の講師を兼任しつつ、ボランティアで日本の古武道も教えているらしい。
晟太郎伯父の友人とは言っても、鳴海さんとは初対面で、写真も見せてもらっていなかったから、少し心配だったけれど、幸い向こうの方で俺を見つけてくれた。
雰囲気ですぐに俺だと判ったと言う。
理由と聞くと、「嶌谷くんの若い頃に似ていたからね」と、綺麗な笑顔を見せた。

「鳴海譲」は俺が初めてみるタイプの人だった。
晟太郎伯父と友人と言うから、似たような中年男性かと思えば、晟太郎伯父をもっとジェントルにした上品な物腰で、教育者というよりもこだわりのあるアーティスト、それでいて誰にでもオープンな雰囲気を持っている紳士だった。
まだ年若の俺に対しても、一人前に尊重してくれ、決して命令形は使わない。
俺はすぐに彼を全面的に信頼し、鳴海さんを「先生」を呼び、新しい生活をより良いものにする為に、彼の薦めに従った。

鳴海さんが案内したのは、ニューヨーク大学に近い留学生の多い学生寮だった。
寮と言っても炊事から家事一切は自分でやらなきゃならないし、週一回寮の全員参加のパーティやボランティアなど、勉強だけじゃなく、色々な決まり事も多い。
語学に難のある俺にとっては、相当な覚悟も努力も必要だったけれど、誠一郎への想いに浸る時間もない忙しさは、逆に救いとなった。

たまの休日には鳴海さんが、ドライブへ誘ってくれる。
日本では決して見る事の出来ない大陸の雄大な自然に圧倒されると、逆に自分の存在の儚さや尊さに胸を打つ。
ああ、誠一郎にも見せてやりたい。
このどこまでも青々と続く草原にふたり並んで、雄々しく連なる山脈を望みたい…
俺はおまえへの想いを、この空に向かって誰にも何もかまうことなく、思い切り叫ぶだけなんだ。
「おまえだけを愛し続けるから」って。

俺の想いは俺だけのものであり、現実には誠一郎は無事結婚式をあげ、平穏な新婚生活を営んでいると言う。
由ノ伯母から式の写真を同封した手紙が届いた。
新郎新婦が並んだ写真には幸せそうに微笑む誠一郎が映っていた。
「なんだ、こんな顔もできるんじゃないか…」
俺は少し妬きながら、その写真を誠一郎と新婦を割くようにハサミで真っ二つに切った。
残った写真を見ているうちにタキシード姿の誠一郎が気に入らず、今度は首元まで切り話してしまった。
「…これじゃ証明写真じゃねえかよ」
自分の嫉妬がまるで女学生のようだと呆れ果て、顔だけなってしまったその写真をゴミ箱に捨てた。

三か月後の由ノ伯母からの手紙は、誠一郎夫婦に子供ができたという内容だった。
由ノ伯母の手紙は、俺には残酷で無神経なものではあったけれど、逆にそれは家族である俺に対する労わりの心じゃないかと感じている。
何も知らないでいるよりも、何もかも包み隠さずに話してくれるのは由ノ伯母なりの、俺の誠一郎への想いをきっちり整理しろ、と、諭されているみたいな気がしてならない。
そうだな…。
どの抽斗に片していいのか、まだわからないけれど、大学を卒業して帰国する頃には、きっと…一番の思い出の抽斗にしまえるように…俺も頑張るよ。


ニューヨークで過ごす二年目の秋、俺は無事希望の大学へ進学した。
様々な人々の交流も増え、生活は充実している。
俺の初体験の相手だった亜子と、偶然ニューヨークのジャズクラブで出会った時は驚いた。彼女はプロのサックス奏者としてそのジャズクラブで働いていたんだ。
セフレとしては申し分のない相手だったから、俺と亜子は故郷を離れた寂しさを紛らわすために抱き合う夜も多かった。
亜子のニューヨークでの契約が終わり、欧州のツアーへ出発するまでの日々、俺達は普通の恋人の様に愛し合った。

誠一郎の子供は結婚した翌年の春に生まれた。
勿論由ノ伯母が赤ちゃんの写真を送ってくれた。
不思議な気持ちがした。
あの誠一郎が父親になるなんて…。
無垢な赤子の写真にさすがの俺も、うらめしい感情は沸いてこない。
「これで宗ちゃんも叔父さんね」と、書き綴った由ノ伯母の無邪気な言葉さえも、少しも胸を刺さなかった。

「これでいいんだよな、誠一郎。これで…」
慣れない手つきで赤子を抱いた誠一郎は、少し不安気な顔つきではあったけれど、父親に初めてなるということは、そういう事なのだろう。

だが、頭ではわかっていても、俺はまだ誠一郎への想いを捨てきれずにいた。
赤子を抱いた誠一郎を見て、自分の気持ちが少しも変わらずにいることに、俺はショックを受けていた。
自分のことなのに、こうも思い通りにならないなんて…どうにもこうにも理解不能って奴で、食欲不振と元気のなさに見かねた鳴海さんが、頻繁に食事に誘ってくれる。
それも自分の住む官舎に誘って、日本食を食べさせてくれるから、俺もつい本音を愚痴ってしまう。

「宗二朗君は苦しい恋でもしているのかい?」
「そう見えます?」
「食欲不振、集中散漫、情緒不安定、若者にありがちな恋への渇望だろう?」
「どんなに渇望しても…愛し合っていたとしても、幸せにはなれないって、どういう運命なんでしょうね」
「…」

鳴海さんはだまって、俺の前に煎茶を差し出した。
白い陶磁の湯のみに早緑色が映え、お茶の香りがなんだか気分を和らげてくれる。そして想いに身を焦がす自分がなんだか哀れに見えて仕方なくなった。

「…あさましや こは何事のさまぞとよ…」
あの日から、何度も繰り返した和歌が自然と口に出た。
「『恋せよとても生まれざりけり』…源俊頼の和歌だね」
と、鳴海さんは不思議がりもせずに俺の読んだ後を続けた。

「そうです。昔、この和歌を好きな相手に渡したんです。向こうも同じ和歌を俺にくれた。俺たちは愛し合っていた。だけど、どうしても結婚しなきゃならない事情で、相手は結婚したんです。…諦めなきゃならないってわかっていても、バカみたいにあいつのことが好きで好きで…諦める為にここに来たのに、全然未練たらたらで、あっちはもう子供も出来て、親になっちまっているっていうのに…俺はバカみたいにいつまでたっても、あいつが好きで、好きでおさまんないんです。きっとそのうち俺はあいつを呪い殺すかもしれない。あいつの所為で俺は…」

あいつの所為で?
…なんだ。誠一郎が俺に言った言葉を、俺はあいつに言いたいだけなんじゃないか。
いい加減にしろよ、宗二朗。
誠一郎は、おまえなんか必要じゃなくなってしまったんだよ。
もう、決しておまえの所為だなんて、あいつは言わないさ。
きっと…

「私が見るところ…」と、鳴海さんは空になった俺の湯飲みに新しいお茶を注ぎながら言う。
「…え?」
「宗二朗君は恐ろしい程誠実な恋をしているね。純粋で少しの揺らぎのない真っ直ぐで強い直球ど真ん中の愛だ。相手が怯んで目を瞑ってしまいかねない光のような愛だ。そんな愛を誰が妨げることができますか?…誰にもできませんよ。結婚しても君が愛した人が、君への想いを忘れるとは思えない。永遠の恋は現実的ではないけれど、寿命を遂げるまでの愛は存在するものですよ。結婚よりもずっと深い絆があれば、少しも恐れる必要はありません」
「先生、それ宣教師が言っても良いんでしょうか?神の前で誓った夫婦以上の絆が別に存在しても、神への冒涜にはなりませんか?」
「神の前で誓った夫婦が離婚した確率は、離婚しなかった確立とどれくらいの違いがあると思いますか?夫婦なんてそんなものだと思えば…、まあ、私は独身なので、なんとも言い難いのですが…神の前で嘘をつかなくて済んで良かったと思っていますよ」
「…」
涼しい目で恐ろしいことを言ってのける鳴海さんに、驚いてしまったけれど、感傷に浸っていた俺への精魂込めた励ましであるならば、俺は有難く受け取ってしまおうと、思う。

鳴海さんはきっと…晟太郎伯父が話してくれた、あの和歌の恋文を渡した相手なのだろう。
そして、ふたりの絆は今もずっと続いている。
あるいは晟太郎伯父は由ノ伯母よりもこの鳴海さんを愛しているのかもしれない。
そして、鳴海さんもまた…

愛する気持ちが消えなければ、誠一郎へ恋心も持ち続けても罪にはならない。
鳴海さんの言葉は、俺を勇気づけた。

ならば、俺が死ぬまで誠一郎を見守っていこう。
誠一郎を愛し続けながら、あいつの幸福を祈る努力をしよう。



その年の秋が深まった頃、ニューヨークへ来た八千代から、誠一郎夫婦が離婚をするらしいとの話を聞かされた。
さすがに俺も、突然の成り行きに言葉に詰まり、茫然とするだけだった。



10へ /12へ

宗二朗が意外とおっさんの頃よりも一途で純情で、こちらもぎゅっとしたくなるよ。
最終回まであとうまくいけば、二、三回だと思う。


ふたりがチラリと登場する「Green House」はこちらからどうぞ。大概おっさんですけど((* ´艸`))
目次へ
登場するのは主に凛一編だけです。

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「破壊者のススメ」 10 - 2014.04.15 Tue

10
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このモデルは、誠一郎さんです。髪型かなり変わっちゃいましたけどね。
聖セヴァスチャンの殉教2

10、

十五日の盂蘭盆には、通年通り、嶌谷家の館へ親戚連中が一同に集まる。
当然、今年は先祖供養そっちのけで、注目のゴシップ記事に舞い上がっている模様。
その中心の誠一郎にハイエナのように群がるおば様集団。
行儀よく正座をし、愛想笑いで適当にあしらう誠一郎の眉間も、さすがにピリピリと引き攣っている気がする。
いつもは裏方に徹している由ノ伯母も、親戚連中が離さず、結婚の事を根掘り葉掘り追及している。
そして、晟太郎伯父は、周りからのお祝いの言葉に始終機嫌がいい。

そりゃそうだろう。ひとり息子が自分の会社に就職し、息子のかわいい嫁さんが家族になるのだから…喜ぶのは当然だ。
俺だって喜んでやらきゃ…って、わかっているんだ。だけど、心はそんなに都合よく合わせられねえし、痛くて堪んねえんだよ。

全くもって、とんでもなくやっかいな恋煩いだった。

身の置き所が無くなった俺は、座敷から席を立ち、台所へ向かった。
割烹着を着た八千代が、まるで由ノ伯母のように家政婦たちと一緒になって、出来上がった料理を皿に注ぎ分けている。
「あ、宗ちゃん。いいところに来たわ。ちょっと手伝ってよ」
「え?俺にできる?」
「できなくてもやるの。由ノ伯母さまがいらっしゃらないものだから、手際が悪くててんてこ舞いなのよ」
「わかりました。なんなりとお申し付け…」
「さっさとエプロン付けて、このお吸い物装(よそ)って!」
「…はい」
エプロンとお玉を渡され、俺は慌てて鍋の前に立ち、今やるべきことに集中した。


「八千代ちゃん、宗ちゃん。おつかれさまでした。ゆっくり休んで頂戴ね」
ひと通りの会食を終え、大方の客人たちも帰り、俺たちはやっと一息つくことが出来た。
由ノ伯母がこしらえてくれた贅沢なちらし寿司を、午後三時過ぎになって八千代とふたりで食べた。
「さすがに疲れたわね~」
「昼飯抜きだったからなあ」
「今年はお客様も多かったわね。誠ちゃんの結婚が決まった所為だろうけどさ。あまり見たこともない遠戚の方もいらっしゃっていたみたいよ。本当にあの人たちって、ああいう下世話な話題が好きだから、今まで以上に誠ちゃんも大変よね」
「…ああ、そうかもね…」
「…」
話しに乗らない俺を察してか、八千代はそれ以上追及しなかった。俺を傷つけまいとする八千代なりの心遣いだったろう。

「まあ、私も一大ニュースがあったんだけど、誠ちゃんの話題で盛り上がってるから、言えずじまいだったのよねえ~」
「一大ニュースって?」
「うん、私、九月の新学期からボストンの高校に留学するのよ」
「え?…留学?」
「そう、自立する女性を目指す大いなる第一歩ってわけよ。来年の三月までの短期留学で、卒業したらうちの付属の大学へ入学することが条件なんだけど、外国で初めての独り暮らしなんて、ちょっぴり冒険でしょ?」
「…」

そうか…その手があったか。
俺の存在が誠一郎の未来を壊すというのなら、俺が誠一郎の目の前から消えてしまえばいいんだ。そうすりゃ、誠一郎の苦しみは解消できるんじゃないのか?
それに、俺だって、このままここに居て、誠一郎の嫁さんと年中顔を突き合わせて暮らすなんて地獄、とてもじゃないがやっていける気がしない。

「それだよ、八千代!留学って、俺もできるのか?」
「はあ?なによ。私のマネでもしようって気なの?」
「そう!海外留学だよ。…なんでもっとこんな良い事考え付かなかったんだろう…。マジでどこかない?どこでもいいからさ」
「どこでもって…。まあ、無いことはないと思うよ。成績にも関係するけど、宗ちゃんはトップクラスだし、嶌谷家の威光をかさに着れば、なんとかなるんじゃない?」
「マジかっ!」
「進路相談担当の富岡先生に聞いてみれば?」
「わかった!」
「ちょ…、今日はお盆でいらっしゃらないかもしれないわよ」
「とにかく電話入れて、先生を捕まえてくる!」

俺は急いでちらし寿司を平らげ、連絡帳で富岡先生へ連絡した。
相手はかなり驚いた様子だったが、俺の剣幕に押されたのか、話を聞いてくれると言う。具体的な話を聞くために、俺は学校へ向かった。


その夜、夕食が終わり、家族揃っての団欒の場で、俺は晟太郎伯父に留学の話を聞いてもらうことにした。当然ながら、母親も由ノ伯母も誠一郎も同席しているから、必然的に俺の話を聞くことになる。

「伯父さん。突然の話だから、きっと驚くだろうけれど…俺、ニューヨークの高校へ留学したいんだ」
「え?ニューヨークって…ユナイテッドステイツオブアメリカのニューヨークの事かい?」
「…そのニューヨークですよ。さっき学校の進路指導室の先生にお願いして詳しい話を聞いてきたんだ。うちの高校の成績優秀な生徒が、一定の条件をクリアできたら、ニューヨーク大学に留学できるそうなんだ。一年間向こうの高校へ通って、良い成績を取って大学に進学するに値する人材であることが条件なんだけどね。で、こちらの用意が出来れば、早ければ十月からニューヨークの高校で勉強ができるんだよ」
「おいおい、なんだか…急な話だね」と、伯父は少し訝しい顔をする。
「八千代ちゃんでしょ?来月からボストンへの留学が決まって、とっても喜んでいたのよね。私も喜ぶ八千代ちゃんを見て、嬉しくなっちゃったわ」と、由ノ伯母が、助け舟を出し、にっこりと俺に微笑んでくれた。
「それで、宗二朗も八千代ちゃんに触発されて留学行きたい~ってなったわけ?…相変わらず勝手気ままな息子ねえ~」
母は呆れた顔をして俺を睨んだ。
「…」
誠一郎は黙ったまま、俺をじっと見ている。
俺はできるだけ誠一郎を見ないようにした。
誠一郎への想いに負け、決心が鈍ったままで晟太郎伯父に頼んでも、伯父はあやふやな俺の気持ちを見破ってしまうだろう。
俺は俺の為に、今は必死になって、晟太郎伯父を説得しなきゃならない。
目端に映る誠一郎を気にしないようにして、俺は目の前の晟太郎伯父に留学の書類を差し出した。

「留学の条件はいくつかあります。伯父さんにお願いすることばかりだから、伯父さんが駄目だと言えば、俺は諦めるしかない、でも、どうしても留学したいんだ」
「宗二朗。君は今まで一言も僕に留学したいだなんて言ったこともなかったし、来年は東京の国立大学を受験すると、皆で話し合って、進路希望も提出したじゃないか。八千代が留学するからと言って、君もそれに飛びつくとは…感心しない話だよ」
「…そうじゃない。そうじゃないんだ。俺、この家が居心地良くて、伯父さんや伯母さんに可愛がってもらって何の不満もなくて…。でもどこかでこのままじゃ駄目だって、いつも感じてた。東京の大学に通うことになっても、俺は嶌谷家の庇護の中で甘えてしまうことになるだろ?それって平和ではあるけれど、一人前の男としては頼りないだろう?そう思わない?伯父さん」
「一人前の男になる為に異国へ旅立つってわけか?…まあ、見栄っ張りの感は否めないけど、それこそが若さの特権なんだろうね。僕は嫌いじゃないよ、そういうの」
「伯父さん…」
「それで、君の留学費用も仕送りも一切合財、僕の庇護の世話になるというわけだね」
「うん。勿論、俺にはお金はないし、伯父さんの援助無しでは何もできない。お金だけじゃなくて、家族皆の承諾書とニューヨークでの俺の保証人も居るし、大学を卒業するまでの仕送りもすべてお願いするしかない」
「それで、君の我儘を聞くつもりとして、僕への見返りは何かな?」
「それは…将来の俺自身です。大学を卒業したら、嶌谷の会社で十分な働きを保証するよ」
「私の手足になって働くわけだね。僕は元を取れるかな?」
「伯父さんの手足にはならないよ。俺は独りでも飛び立って、ちゃんとオリーブの枝を見つけて、伯父さんへ持ち帰る仕事をするよ」
「…希望の航路へ導いてくれるんだね」
「うん、絶対に損はさせない。だから今の俺に投資して欲しい」
「…わかったよ、宗二朗。その代り、こちらも条件がある」
「なに?」
「嶌谷晟太郎の正式な息子になる。つまり養子縁組を結ぶ事だよ」
「…養子?」
「君を嶌谷家の養子に迎える話は澪子も由ノさんも承知しているんだ。どちらにしても僕の息子として戸籍上だけでも繋がっている方が、この先なにかと都合がいい」
「…」
「宗二朗。私も兄さんからあなたを養子にしたいと頼まれて、色々悩んだけれど、兄さんの息子になっても、私と縁が切れるわけでもないし、今までと少しも変わらないの。形だけならどっちでもいいんじゃないって思っていたけど、やっぱり父親がいないって事は、あなたの将来に色々不便があるかもしれないから…」
「母さんはそれでいいの?」
「うん。今は心から望んでいるわ」
「由ノおばさんも?」
「ええ、今までも家族同然だと思っていたから、戸籍上息子になったとしても、少しも変わらないとは思うのよ。でも少しでも宗ちゃんの為になるのなら、喜んで嶌谷家の息子になって頂戴。ああ、そうだわ。無理してお母さんなんて呼ばなくていいし、私も由ノっちって呼ばれた方が嬉しいわ」
「…ありがとうございます」
「誠ちゃんも、宗ちゃんと本当の兄弟になれて嬉しいわよね」
「…ええ、とても…。宗二朗、これからも、よろしく頼むよ」

全然…喜んでねええ~…目が笑ってねえよ。
つうか、由ノっち、地雷踏み過ぎ…能天気過ぎて、こええよ。

その後は、俺の養子縁組の具体的な話と、留学の話で家族一同盛り上がってしまったけれど、誠一郎は時折相槌を打つぐらいで、少しも楽し気ではなかった。

俺は…なにか拙いことをしているのかな…
結婚する誠一郎から離れてしまいたいって思うのは、逃げているだけだとわかっている。でも、俺が居ない方が誠一郎だって、気が楽だし、新しい生活へ飛び込んで行くには気安いだろう?
どうせ、敵わぬ恋なんだよ。
愛し合ったって、男同士だし、結婚したら嫁さんを一番幸せにするのは、男として当然の役割だと思うし…

仕方ねえじゃないか…


風呂から上がり、二階の自室へ戻ろうと階段を昇り始めたちょうどその時、二階の部屋から出てきた誠一郎が、階段を降りてくる。
廊下の灯りが誠一郎の影を俺に被せ、俺の足元が暗くなる。このままじゃぶつかると思って、左へ寄り、階段の手摺を左手でなぞりつつ、一段一段を登る。
俺は顔を上げなかった。
誠一郎の顔を合わせるのが辛かったからだ。

階段のちょうど半分のところで、お互いの肩が触れ合った。
瞬間、誠一郎は俺の右手を掴み、すぐに指を絡めた。
一瞬、息が止まる。
…こんな風に、互いの指を絡めるのが、俺たちが愛し合う最初の行為だった。
俺は足を止め、誠一郎の横顔を見つめた。

「本当に、行ってしまうのか…」
「誠…」
絡み合った指は二度と離れたくないと願うみたいに強くなる。

「だって…仕方ねえじゃないか。誠は結婚しちまうんだから…」
「…おれの所為だって、言うのか?」
「…」

だって、そうじゃないか。先に手を離したのはおまえの方だろう?
おまえが結婚なんて決めてしまったから、こうなったんだろう?
なんで、俺を責めるみたいに、言うんだよ。
そんなに俺が欲しいんなら…

俺は誠一郎と絡めた指を自分から外し、一歩ずつ階段を昇った。そして、誠一郎もゆっくりと降りていく。
昇り終えた俺は、階下の誠一郎を振り返る。
誠一郎は俺を見上げながら、俺に向かって「あさましや こは何事のさまぞとよ 恋せよとても生まれざりけり」と、呼びかけた。

俺が送った恋文を、今度は誠一郎が俺に投げかけている。

「返歌はくれないのか?宗二…」
「…」
俺は何も言えなかった。

どう応えればいいのか…わからない。
こんなに愛し合っているのに、何ひとつ交わすこともできないなんて…。

そうか…あの時、誠一郎は、俺の恋文をこんな気持ちで受け取っていたのか…

「案外冷たいんだなあ…」
誠一郎は冷たい笑いを浮かべ、廊下の向こうへと消えていった。

「…」

だったら…

…それならさぁ、どうすれば…良かったって言うんだよ。

おまえと手を取り合って、この家から駆け落ちして、誰も知らない場所で二人だけで抱き合って…いつまでも幸せに…ってか?

そんなもの、子供でさえも、夢見るものかっ!




9へ /11へ

あ~、なんだかぽかぽかして、眠たくて仕方ありません。つうか、ゲームし過ぎて、肩こりが酷いんです('ε`汗)

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「破壊者のススメ」 9 - 2014.04.07 Mon

9
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誠と宗夕焼け22

9、
食卓での誠一郎の結婚の話はその後も続き、精神的ショックは少なくなかったがなんとか平静を装って、彼らの話すおおよその中身は把握した。

夕食後、部屋へ戻り、ひとりになって考えてみた。

誠一郎が誰かと結婚して、会社の跡継ぎになるのは、予想されていたことであり、突然の事とはいえ、別に俺が不機嫌になったり、反対することでもない。
誠一郎の結婚相手は由ノ伯母の実家からの紹介であり、晟太郎伯父の会社の取引先の令嬢で、文句の無い相手であり、それで誠一郎が幸せな結婚生活が出来るのなら…
それはそれとして…
心からの祝福は出来ないまでも…
認めてやっても、いい話じゃないか…

……。

誠一郎の結婚を必死になって自分自身に正当化させようとしているのが、バカみたいに思えた。
我ながらその情けなさに、無理に笑おうと思っても涙が止まらなくて、そのうちに泣きつかれ、遂には眠ってしまったのだけれど…。


翌日、泣いた所為で頭痛が残っていたが、腫れた瞼を冷やすと、普段通りに本家のリビングへ向かった。
リビングからは、誠一郎の弾くピアノの音が聞こえた。
朝の光に似合う柔らかなジャズのメロディ。

俺は誠一郎が京都のジャズバーでバイトをしていることを知っていた。
こっそりと調べ上げ、誠一郎には内緒にして、一度だけだが、店へも偵察へ行った。
ライブが評判のその店で、誠一郎はプロのミュージシャンの休憩中にピアノを弾いていた。俺に一度も見せたことのない何とも幸せそうな顔で。
俺の知らない誠一郎に、悔しかったり、情けなかったり…複雑な気分で誠一郎のピアノを聴いたものだ。

その時聴いた音とは違い、リビングの誠一郎の弾く音は、なんとも…音が重く、楽しげには聞こえなかった。
もしかしたら、誠一郎は結婚の話に乗り気ではないのだろうか…などと、俺は自分勝手な解釈で自分を励まそうとしていた。

「やあ、朝から誠一郎のピアノを聴けるとは贅沢な気分になるよ」
俺は精一杯の虚勢を張り、何もなかったようにピアノを弾く誠一郎に近づいた。
「…そうかい」
誠一郎は一言答えつつ、弾き続けた。

「…伯父さん達は?」
「墓参り。夕方まで帰ってこない。今日はお手伝いさんも御盆休みを取っているから、ふたりで食事をしてくれって」
「そう…」
「朝食はどうする?何か作ろうか?」
「いや、いいよ。適当に取るから、誠はそのままピアノを弾いててよ」
「…わかった」

リビングの誠一郎から離れ、俺は台所でコービーを煎れ、ひとりで飲んだ。
誠一郎の弾く、ゆったりとしたブルージーなジャズが、心地良い。

…変じゃなかったかな?
いつもと変わらぬ俺で、いられただろうか。

誠一郎の結婚に、傷ついた自分を知られたくないなんて、つまんねえプライドだと思いつつも、やっぱりどこまでも強気の俺でいたいって思ってしまうのは、まだまだガキだからかな…

「よし!大丈夫だ」
コーヒーを飲み終えた俺は、リビングへ戻り、ピアノを弾く誠一郎の傍に近寄った。

「なあ、それ、なんて曲?」
「…Dreaming」
「夢か…。理想って意味もあるよね。そういや、誠一郎の夢とか理想とか…今までに聞いたことあったかな」
「…」
「俺はあるよ。晟太郎伯父や由ノっちやお袋たちみんなを幸せにしたいって、この家に来た時から夢見てたんだ…」
「…」
誠一郎は突然ピアノを弾くのを止め、顔を上げ、俺を責める様に睨みつけた。
…え?…見透かされている…?

そうだ…。
俺が幸せにしたいと願っている家族に、誠一郎はいない。そして、頭に描いた俺の理想を誠一郎は気づいてしまったのだ。

自分の吐く言葉の責任を感じたことなどないけれど、誠一郎の強張った顔を見て、俺は慌てて繕う言葉を探していた。

「もちろん、誠も幸せになって欲しいって…俺、思っているから。…遅れたけれど、結婚おめでとう」
「心にもないことをよく言う。おれに幸せな結婚なんてできるわけないって、そう思っているくせに」
「…そんな事…思ってねえよ」

嘘だ。
俺は女性に興味が持てない誠一郎が、幸せな結婚生活を送れるとは、微塵も思っていなかった。

「宗二らしくない下手な嘘だな。…おれと違ってね」
「…」
「おれは…おまえがこの家に来てから、一度も幸せだと思ったことはない」
「…え?」
「全部おまえの所為だよ。宗二朗。おまえと澪子叔母さんがこの家に来てから、おれは…おれの心はバラバラに壊れてしまったんだ…」
「…どういう…ことだよ」
「おまえがこの家に来るまで…いいや、お祖父さまに会うまでは、おれがこの家の、嶌谷家の希望だったんだよ。この家も嶌谷家の財産も会社もすべて長男の一人息子であるおれに引き継がれるものだった。だけどお祖父さまは、おまえを一目見て…おまえこそが嶌谷の名を継ぐに相応しい男だって…おれに言ったんだ。ずっと一緒に暮らしてきたおれよりも、たった一度だけ見舞いに来た宗二朗、おまえが…王者たるにふさわしい獅子の瞳をしていると…そう、おれに言った。おれに見せたことも無い嬉しそうな顔で言うんだぜ。…残酷だと思わないか?おれはそれまで嶌谷家の立派な跡継ぎになろうって、両親に認められたくて、がむしゃらに頑張ってきたのに…。私生児のおまえが嶌谷家の…跡取りだなんて…」
「…そんなの…俺は知らないし、祖父さんの死に際の勝手な言い草なんだろう?俺は嶌谷の後を継ぎたいなんて思ったことは一度もない」
「たとえ、お祖父さまの戯言だとしても、少しも間違っていない。だって、おまえは…本当に、誰も彼もを魅了してしまう存在なんだから。…父も母もおれよりもおまえの方を可愛がっていたじゃないか。おれはおまえよりもずっと年上だったし、良い子であろうとしていたから、表には出さなかったけれど、…随分と宗二に嫉妬していたよ」
「…誠…」
「おれの存在価値を脅かし、おれの夢も希望も奪ってしまうおまえを憎みもしたけれど、…それでも、やっぱりおれも皆と同様におまえが…。小さい頃はおれにムキになって反発するおまえが可愛くてたまらず、だんだんと成長していく姿に見惚れていた。…おれが、ゲイになったのはおまえの所為だよ、宗二朗」
「…」
思いがけない誠一郎の告白に、どう返答すればこの場を取り繕うことが出来るのか…。俺の頭の中はこんがらがっていた。

「おまえの存在がおれをこんな風にした。女にも興味も持てない。嶌谷家の跡継ぎにも相応しくない。じゃあ、おれはどうすればいい。おれは何を夢見て生きていけばいい。…おまえがおれを壊し続ける限り、おれは夢などみれるわけもない…」
「…誠…俺はそんな…」
「おまえと抱き合う度に、おれはおまえに引き摺られ、自分の居場所を失って行くような気がしていた…。おまえだけが悪いわけじゃない。そんなことはわかっている。『愛している』『誠は俺のものだ』って、何度もおまえから言われるたびに、心が震える程、嬉しかったのも事実だ…。おまえをおれに繋ぎとめておけば、おれは捨てられることはない。嶌谷家に居ても許されるんだって、思い込もうと思ったりもした…。でも、おまえは…一度だっておれを家族としては見ていなかったよな」
「誠…俺が家族として見れなかったのは…」
「わかるさ、おれだって、同じだ。一度だって宗二を弟なんて思ったことはない。おまえとおれは愛を弄る者だ」
「…」
「なあ、宗二。愛し合っているからって幸せにはなれないものなんだなあ…。今のおれは、おまえが…憎くて…。こんな自分が嫌で…嫌でたまらない…」

俯いた誠一郎の表情は見えなかった。けれど、誠一郎の方は震え、そして、白い鍵盤に涙が零れていくのが見えた。

俺はもう何ひとつ言葉が出なかった。
俺を憎いと言う、愛していると言うおまえに、何が言える。

俺は急いでその場から逃げ去った。


その夜は頭痛がするからと伯父たちの前には出ずに、自室に引きこもっていた俺だったが、夜、部屋へ母が夜食を持ってきてくれた。

「宗二朗、大丈夫なの?」
「…別に、平気だし」
「熱は…ないようだわね」
ベッドに横になった俺の額に手を当てた母は、平熱の俺を確かめた後、安心したように溜息を吐き、不貞腐れる俺をじっと見つめた。
母は俺の仮病を責めなかった。

「誠ちゃんのこと、ショックだったんでしょ?」
「…」
「ゴメンね。知らせなくて。話は聞いて知っていたんだけど、なかなか落ち着かなくてね。やっと、決まっても、なんだか宗二に言いづらくなっちゃったのよ…」
「大丈夫だよ、母さん。俺、もう子供じゃないし…自分の感情は自分で始末できるから」
「うん。でも、さ…まあ、青春って馬鹿みたいに浮かれたり、逆に死ぬほど辛かったりするけれど、どうにかなるものよ」
「…わかってる」
「…じゃあ、おにぎり置いとくからね。滅多にない母の手作りなんだから、よく味わって食べるのよ」
「…うん」

母の思いやりは充分にありがたかった。
母が俺と誠一郎の関係をどこまで知っていたのかは知らない。
けれど、何となくであっても俺の想いは気づいていたはずだ。

その夜は一晩中、眠れなかった。
壁の向こうに誠一郎が居ると思っただけで、壁を蹴破って誠一郎を抱きたくなる衝動に掻き立てられる。

誠一郎の告白は、確かに俺を傷めつけた。
俺のプライドや自惚れを地の底に叩きつける決裂の罵詈雑言とも取れるけれど、これまでに聞いたこともない誠一郎の真実の吐露には、俺の欲しかった言葉が確かに存在し、傷つけられた痛みと共に何とも言い難い高揚感に浸っていたい気分になる。

まるで…
ナイフで抉られた心臓が、誠一郎の愛で溢れ、迸る赤い血が俺の全身に行き渡っていくようで…痛みに苦しみながらも、俺も愛しているんだと、叫んでしまいたくなる。

憎くても惹かれている…と、誠一郎は言ってくれた。
どちらが強かろうと、俺を無視できない誠一郎が愛おしかった。
今までの誠一郎への仕打ちを、どんなに詰られようと、俺は少しも後悔していなかった。
祖父の偏愛も伯父夫婦の俺への愛情も、こんな風に確かめられて嬉しかったんだ。

だけど、この感情は俺のものであり、誠一郎にしてみれば、俺の存在は鬱陶しくもあり、腹に据えかねる事も多かったであろう。
俺の身勝手な言動にあいつは何度も傷つき、耐えてきたのだろう。
それでも俺を拒まなかった。
拒めなかったんだ…。

俺の存在が誠一郎の運命を狂わせた。
それは、俺にだって言えるはずだ。
あいつが俺の目の前に現れなければ、俺は違う愛に巡り合っていたかもしれない。

そんな「もしも」なんて…くだらねえし。

俺の誠一郎への愛は確かに家族愛ではない。
でも、家族愛はなくても、もっと深い愛で俺は誠一郎と結ばれ、当然のものとして、幸せの頂点にも辿りつく算段だったんだ。

だけど…さ…。
今の誠一郎にとって、俺の存在がそんなにも…俺の目の前で泣くぐらいに目障りであるのなら…
女に興味がないとしても、必死に自分なりの幸せを探し出そうと、足を踏み出そうとしているのならば…

今度は俺が、すべてを耐える番なのかもしれない…。
誠一郎の為に…。




8へ /10へ

ちょっと寒かったりしたけど、桜はすっかり散ってしまいましたねえ~。
宗二朗も誠一郎もたくさんの間違いをしながら、生きていきます。人生って思い通りにはいかないものです。
でも、それが醍醐味だったりもする。


ふたりがチラリと登場する「Green House」はこちらからどうぞ。大概おっさんですけど((* ´艸`))
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登場するのは主に凛一編だけです。

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