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2014-05

四コマと次回予告 - 2014.05.28 Wed

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宗二朗と誠一郎のその後的な四コマですけど…

しょうもないけど、私的には残しておきたかった。

パパのススメ

一生懸命に父親になろうとしても、なれない自分を責め続けるんですが…
凛一と出会ってから、かなり父親らしくなってましたね。
でも、恋(らぶ)なんですけどね。

誠一郎四コマ

基本なにをしても宗二朗には勝てない誠一郎なんですが、五歳年上なので、なんとか威厳を見せようと髭を伸ばすけど、その度に、宗二朗に剃られてしまう悲劇。

これからもずっとそんな感じのふたりです。

さて、来週からの新しい物語は…
去年の夏に連載した「人魚姫♂」の続編です。
「The Last Rose of Summer」です。
尚吾や乃亜はもちろん、乃亜の兄弟たちと、尚吾の従弟の少年、瀬尾拓海くんのひと夏のバカンスを描こうかな~って思ってます。

高校三年生の拓海君はこんな感じですよ。
瀬尾拓海1

それでは、またよろしくお願いします。

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Platinum Moon (破壊者のススメ・エピローグ) - 2014.05.21 Wed

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プラチナムーン

眠りにつくのが怖かった。
暗闇の中、「お父さん」と、俺を呼ぶ声が怖かった。
聞いたことも無いはずなのに、あの子の声が聞こえるんだ。
耳を塞いでも、目を閉じても、その声が俺を責める。
何故、おまえは生きているのか、と…


Platinum Moon (プラチナムーン)


この結婚は失敗だったなんて、新婚初夜に後悔する自分を罵った。
俺には女を抱く勇気など、ひとかけらもない。
そもそも今までだって支配される側では決してなかった。
宗二朗は「誠はドMだからな」と、笑うだろうが、ベッドの中では笑いごとじゃ済まない。
政略とは言え、俺を夫に選んでくれた彼女には、敬意を払うけれど、愛情は払えない。
俺はエゴイストだ。
愛する資格のない相手には、一ミリだって本物の愛は与えない。
たとえ同情はしたとしても…
「だったら、なんで結婚なんかしたんだよっ!クソ馬鹿野郎!」と、罵る宗二朗の声が聞こえるようだ。
そうだ、俺は馬鹿なんだよ。幸せになれるはずもない結婚をした。
全くもって、相手もいい迷惑だ。
俺はただ…宗二朗。
おまえに負けたくなかった。
このつまらないプライドだけが、嶌谷誠一郎であることを許される権利だったんだ。


父の妹の息子、つまり俺の従弟である嶌谷宗二朗を俺の中で認識したのは、入院中の祖父、聡一郎が病気でもう長くないと知った頃だった。
ひとりでお見舞いに行った時、いつもは死んだような顔をして寝ている祖父が、珍しくベッドに起き上って機嫌のいい顔を見せた。
事情を聞けば、久しぶりに娘(つまり澪子叔母)が孫(宗二朗)を連れて、見舞いに来たのだと言う。
そして初めて見た宗二朗を、やたらめったら褒めるのだ。
「あの子はいい。あの子は本物になる。さすが澪子の息子だ!」と、意気揚々で俺に言う。
「オレは宗二朗に王者の気風を見た。あの子は獅子の目をしとる。誠一郎、知っているか?百獣の王の目を。あれこそが嶌谷財閥の上に立つ子じゃよ」
「…」
戦後の財閥解体でうちももう財閥じゃないんだけど…と、突っ込みたくなったが、そんな事より、祖父の言葉の重要性に唖然となった。

俺を措いて、嶌谷の上に立つって?…まさか、いくらなんでも父の一人息子であるこの俺をさしおいて…家出したあんたの娘の子供を跡取りにさせる気か?ウソだろ?
あんたが今まで俺にしつこいほど命じてきたのは一体なんなんだよ…

祖父は事あるごとに「誠一郎は嶌谷家の跡取りになるんだから、しっかりするんだぞ」と、俺に言い続け、俺はその期待に応えるべく、すべてに頑張ったつもりだ。
だが、祖父は「誠一郎には何かが足りない。…上に立つにはもっと強気でなければならんのに、おまえは優しすぎる」と、溜息を吐く。
それを聞く度に俺は落ち込み、父は「気にするな」と笑い、母は「誠一郎はとってもいい子よ。お母さんは優しい誠ちゃんが大好き」と俺を労わった。
いとも簡単に子供の自尊心を傷つける祖父は、俺にとって、苦手な部類ではあったが、嫌いではない。寧ろ、祖父の俺に対する不安な眼差しは、俺の存在が祖父を苦しめている…と、思う事で幾分か気が晴れてくるのだった。
思うに俺は自虐的でありながら、自尊心を持て余す、極めて捻くれたロクでもない二重人格だったわけだ。

どこの馬の骨かも知らぬ父親と、出戻りの母の元に生まれた五歳下の居候の宗二朗を、俺は軽蔑し、憐れんでもいた。
初めて出会った時、宗二朗は思い描いた姿よりもとても小さく、また可憐であったため、思わず、彼に跪き挨拶をしたが、後になって考えてみれば、祖父の予言どおり、俺は宗二朗の下僕として、最初から剣を授けていたわけだ。

全くもって…俺は愚かだと思う。
人と違った自分の性癖に気づいた時には後戻りはできず、そういう自分の劣性なものにさえ、価値を見出そうと必死だった。
男が好きならば、いい男を選べば俺のプライドは損なわれることはないのだ、と。

好きになった先輩も、家庭教師の大学生も、バイトの客も、優しい男たちではあったが、誰一人として俺を本気で愛してはくれなかった。
俺には愛されるほどの人間性もないのかよ…と、フラれるたびに落ち込む始末で、それを宗二朗に見破られた暁には、磨いた自尊心も簡単に折れちまう。
きっと、あいつは俺を嘲笑っているだろう。
男に抱かれ、フラれ、女々しく泣いている俺を、心の底から軽蔑しているだろう…。
あいつは俺が欲しいと言う。
だが、本当は…俺から嶌谷家のすべてを奪いたいだけなのだ。
あいつは見事に父と母に取り入り、今では両親共々、俺よりも宗二朗の方がお気に入りのようだ。
ああ、そうだ。認めよう。
俺には無い、特別なカリスマと愛嬌と魅力があいつには生まれつきに備わっている。

俺を真っ直ぐに射抜いた眼差しで、愛していると言う宗二朗の言葉を素直に信じる程、俺は単純じゃない。
たとえ愛し合ったとしても、このお堅い世の中で、禁断の恋に味方する楽天家もそうそう居るはずもなく、結局は生きづらいだけだ。
だけど、そんなことはどうでもいい思うほどに、俺はあいつに惹きこまれていく。
あいつの言葉に、差し出す腕に、俺を抱く強さに、俺は…囚われる。
そして、粉々に壊れていくんだ。
バラバラになった結晶は闇の中でも僅かな光で輝き、俺の魂を照らす。
俺はその光に温められる…
それは、宗二朗のくれる喜びの光だ。

俺は宗二朗には逆らわなかった。
いや、抗うフリをして、本当は俺の方が求めていたんだ。
愛するよりも愛されている側が、高慢でいられるのは世の決まりだ。
そして俺を壊す宗二朗の強さが、心地良かった。
どんな男よりも、最高に俺を打ちのめしてくれた。

五歳も年下の従弟が、俺を支配する現実…
なんとも言いがたい自虐的な想いと自尊心は、あいつへの妄執の愛へと狂っていく気がした。


両親の薦めた縁談に俺は逆らわなかった。
俺がマトモになる為に、この十字架は必要だと思ったからだ。
真実は違う…
俺は、俺を愛していると言う宗二朗が傷つく顔を見たかったんだ。
俺の所為で傷つくあいつを…俺は心から愛したかった。
だが、あいつは俺から逃げた。
俺の苦しみを知っているくせに、俺を見捨ててひとりで逃げやがった。
俺はあいつを憎んだ。
俺が苦しんでも、あいつが俺と同じ苦しみを共有できるのならば、俺達は傷を舐めあって愛し合える。
そうじゃないか、宗二朗!
俺をひとりにして、俺を置き去りにして…
おまえも俺を捨てた男たちを同じなのか?
俺なんか愛する価値もない者だと言うのか…

「あさましや こは何事のさまぞとよ 恋せよとても生まれざりけり」
おまえがくれたこの和歌を、俺は憎んでいた。
この恋に求めていたゴールは見えない気がしたからだ。
会えないと落胆する度に、宗二朗への想いが募る。
俺は、宗二朗を想いながら、何度自慰行為を繰り返したかわからない。
幸せな嘘の家族を演じる度に逃げ場のない自分に吐き気がする。その上、子供まで産まれるのだ。
いっそ俺の子じゃなかったら、どんなに救われただろう。
あいつを想って抱いた一夜が、新しい生命を誕生させる愚かしさ…。
怖ろしい程に無垢な生命に、俺は怯えた。
抱くことは元より、顔を見るのも泣き声を聞くのも、嫌だった。
新婚の俺たちの為に、父が与えたマンションから、俺はひとりで自宅へ戻った。
妻は我慢強い女だったが、無責任な夫に呆れ果てたのか、いつの間にか実家へ戻ってしまった。
俺はとうとう自分がゲイだと両親に告げ、離婚を許してもらった。

誠一郎からの慰めの手紙は、落ち込んでいた俺に留めを刺してくれた。
一行だってあいつの本心なんかあるわけもない嘘の手紙なんか、少しも嬉しくもなく、逆に、その嘘が俺を壊すことを知っていて、送る奴の嗜虐心が俺へのせめてもの執着であるならば、慰めにでもなるのだが…
あいつの本当の心がどこにあるのか、俺にはわからない。

俺を追い詰めるのは、ノーマルなこの社会と健全な家族…そして、愛せない子供だった。
だが、本当に恐ろしいのは俺の心の闇だ。
愛する者に愛してくれと言えない。
愛して欲しいのに、愛しているとは言えない。
どうしようもないメッキの剥がれたプライド。
それを卑下されるのに、耐えられなかった己の弱さ。
口に出す言葉さえ、自分の意志なのか、嘘なのかわからなくなった。

子供が死んだと聞かされた時、可哀想だと思ったけれど、どこかで安堵していた。
あの子が生きている限り、俺の罪が何も感じず生きているような気がしていた。
だが、それは俺の勝手な自己欺瞞であり、あの子の人生にとって、俺はとうに無価値なのだと、気がついたのは、すべてが終わった後だった。
俺は最低の人間だ。
だから、この世には必要のない者なのだ…

誰も俺を見るな…
懸命に装っていたプライドも今は哀れな乞食よりも惨めな有様。
誰ひとりとして、「嶌谷誠一郎」など、求めてはいないのだ…



繰り返す波の音が、俺の耳に心地良かった。
闇の中に独りいると、音も光もなくて、それはそれで時間も空間も感じないから、わずらわしさもないし、何も考えなくて済むけれど、生きている感覚もわからないままじゃ、死んでいるも同然だ。

「さまざまに 思ひみだるる心をば 君がもとにぞ 束(つか)ねあつむる」

宗二朗の詠む声が、閉ざされた俺の心に突き刺さる。
いつだっておまえは、無駄に気障で、しつこくて、八方美人で、だが俺に関しては徹底的な独裁者で、それで俺を支配した気分でいい気になりやがって…

目を開けたら、暗く浮かぶ水平線の天に三日月があった。
色の無い痩せた欠片は、俺の魂のようで…なんだか哀れに思えた。
それでも日が経てば、あの月も丸く膨らんでいくのだろうなあ…

こんな愚かな俺を今でも愛しているという宗二朗の奇特な想いに、応えてやろうか…。
それとももう少しこのまま何も応えずに、捻くれていようか…なんて…さ。

下らない思考よりも身体が求めていたんだ。
そいつが俺の本音だってわけだな。
宗二朗はとっくにお見通しで、俺を壊すことに夢中で、俺の身体は宗二朗の与える屈辱に喜んでいるわけで…
俺はもう、宗二朗の事しか考えたくなくなってしまったんだ…


それでも眠りにつくと、またあの声が俺を襲う。
おまえが幸せになるなんて、許されることじゃないのだと、俺を責める。
それはそうだな。
死んでしまったあの子には、もうなにひとつ得ることはできないのだから。


あれからひと月、ニューヨークのアパート。
診療科の病院へ通い治療を受け始めてから、失声症とパーソナリティ障害の症状は回復傾向だが、まだ他人と陽気に話したりは出来ない。
知らない人の前に立つと緊張し、ちょっとした挨拶でさえ言葉が出て来なくなるのだ。
宗二朗は「おまえが浮気できなくて、ちょうどいいわ」と、嫌味を言うのだが、この歳でひとりで外にも出れないなんて、ざまあねえ…

「おい、誠。また泣いているのか?」と、宗二朗は夢で泣く俺を笑う。
居間で勉強する宗二朗を見ながら、ソファで寝付くのが俺の日課になっていた。
宗二朗はベッドで眠れと言うが、おまえが居なくちゃ意味がないってわかって言うのだから、歪んでいる具合は俺と同じだな。
俺は大分素直になってしまったけれど…。

濡れた俺の頬を拭き、額に何度もキスをくれる宗二朗にほだされて、つい弱みを愚痴る。
「…俺は…どうすればいいんだろう…。あの子が可哀想だ…」
「馬鹿だな。おまえ、その子の親なんだぜ。そいつの名前を呼んで、『悪かったな、坊主。まあ、機嫌直せや。よっしゃ、今度一緒にキャッチボールでもしようぜ』って、言ってやれ。おまえのガキだから捻くれてはいるだろうが、ちょっとぐらい乱暴に躾た方が、喜ぶと思うぜ。じゃなかったら、俺を呼べよ。いっくらでも叩きのめしてやるよ」
「…」
アホか。夢の中までおまえに破壊されたくない。
と、憮然となったが、なるほど一理あるものだと、思った。

俺はあの子の名前を呼んだ記憶がない。
父が決めてくれた名前だった。
嶌谷家の跡取りが出来たと、喜んでいたっけ…
母は「赤ちゃんの時の誠ちゃんにそっくりだわ」と、涙を浮かべていたっけ…
俺は何重にも親不孝をしてきたのだな…
何も返すことができなかったけれど、生きることを許してくれて、ありがとうございます。
きっと、いつか、頭を下げに行くよ。
それまで元気で…。

「おい、誠。聞いてるか?今度、ガキが夢に出てきたら、俺を呼ぶんだぞ!」
「…」
五月蠅いよ、宗。
少し黙ってろ。また眠くなっちまったじゃないか…
おまえは現実の俺を抱きしめてくれれば、充分だよ。
俺はもう…幸せだから、心配すんな…


そして、同じ夢を見る。
「お父さん」と、苦しげな声で呼ぶから、俺は目を開けて、あの子の姿を探す。
遠くに小さな影が見えた。
俺は、勇気を振り絞って、大声で叫んだ。
「け…賢一郎!…賢一郎!こちらへおいで!お、お父さんと、キャッチボールをしよう!」
あの子が俺に駆け寄ってくれた。
ニコニコと笑いながら…
涙が溢れた。賢一郎の姿が滲んでどうしようもない。
宗二朗がここに居なくて本当に良かった。
また嫌味のネタにされるに決まっているからな。

「…お父さん」と、恥ずかしそうに俺を呼ぶなら、
「ありがとう、賢一郎」と、頭を撫でて応えた。
「ね、早くキャッチボール、しよ」と、賢一郎が笑う。
頷いたものの、多少の問題があることに気づいた。

俺は生まれてこの方、キャッチボールで遊んだ経験など、なかったんだ。



    終



「破壊者のススメ」 14へ

これで若かりし頃のふたりの恋物語は終わりです。
長い間、ありがとうございました。


ふたりがチラリと登場する「Green House」はこちらからどうぞ。大概おっさんですけど((* ´艸`))
目次へ
登場するのは主に凛一編だけです。

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「破壊者のススメ」 14 - 2014.05.15 Thu

14 最終話

誠一郎を乗せたドライブの目的地は、会員制のリゾートホテルだ。
俺の留学が決まった時に、ここの会員でもある晟太郎伯父が俺をここに招待してくれたんだ。
広いベランダから見渡す限りの太平洋を一望できる雄大な景色に見惚れ、晟太郎伯父とふたりだけで、長い時間をかけて将来の話をしたんだ。

前もって携帯電話で、連絡をしていたとは言え、足元のふらつく誠一郎とそれを抱えながらの俺の姿に、フロントで迎えるスタッフは少々訝しい顔だ。
確認の為に晟太郎伯父に連絡を入れたスタッフは、それを確かめた後、やっと俺たちを部屋に案内してくれた。

取り敢えず食事のルームサービスを頼み、何日も風呂に入っていない風の誠一郎を洗うために、海が見えるジャグジー付きの風呂に湯を入れた。
最初は嫌がる仕草を見せた誠一郎を、無理矢理風呂場に連れ、服を脱がすと、仕方なく風呂の椅子に腰かけた。
それきり誠一郎は何もしようとしない。
「なんだよ。俺に洗えってか?」
呆れながらも俺もパンツ一丁になり、痩せた誠一郎の身体を洗ってやった。
身体と髪の毛を洗い、伸び放題の髭も丁寧に剃ってやった。
「今、難しいとこだから動くなよ、誠…」
誠一郎は薄く目を開けたまま、俺の言うとおりにじっと動かない。
おかげで綺麗に剃れた。
一段落が付き、誠一郎を湯船に入れたは良いが、そのままひとりにしておいたら、溺れそうな気がして仕方がないから俺も裸になって一緒に入った。

バスタブは二人が入っても余裕があるほどの広さで、案の定、俺が湯船に入った勢いで誠一郎の身体が滑り落ち、溺れそうになるところを、俺はあわてて腕を掴んで起き上がらせた。
「このザマを見られたら、由ノ伯母でも過保護すぎるって絶対馬鹿にするよなあ…」
今まで知らずにいた意外と世話好きの性分に、俺は自分で大笑いをする。

誠一郎を安定させるために体育座りをさせ、背中から抱き、窓ガラスから見える海に沈む夕日を眺めた。
「なあ、誠。昔…まだ俺が小学生の頃、よく一緒に風呂に入ったりしただろ?俺も大概捻くれていたけど、本当はさ、嬉しかったんだぜ。誠は俺の頭を洗ってくれたよね。俺が適当に済ますから、そんなんじゃ駄目だって、すげえ丁寧に洗ってくれただろ。目にしみて痛いって言うのも聞かずにさ。あれ、本当は俺を苛めて楽しんでいたんだろ?おまえ、ムゴイとこあるもんな」
「…」
「おまえと一緒なら、なんだって楽しかったし、嬉しかったんだぜ。顔や言葉には出さなかったけれど…。俺も居候の身だったし、子供ながらもおまえが羨ましかったりして、素直じゃなかったんだよな。でも、もう我慢しねえよ。おまえにだけは、なんだって…心を曝け出すことにした。こんなになってもおまえを抱きたいって、思っているんだってこともな…」

俺は髭を剃った誠一郎の肌触りに満足して何度もキスをしたり、身体の彼方此方を愛撫したけれど、誠一郎の身体は一向に感じたり、興きることもない。
本当に性欲さえもなくなってしまったのだろうか…
それとも無理矢理でも抱いてみたら、もしかして覚醒したりするのだろうか…
いや、無理だ。こんな弱々しい誠一郎に無理強いをさせてしまったところで、誠一郎の精神に負荷をかけるだけだし、もっと根本的な障害に立ち向かわなきゃ、誠一郎の閉ざした扉は開かないだろう…

俺には誠一郎を苦しめているものが何なのか、わかっていた。
俺だってそれに目を瞑りたくて仕方がない。だけど、それじゃあ、俺達は顔を上に向けて歩けねえんだよな。

「三日前にな、八千代が俺に会いにニューヨークまで来てくれたんだ。新婚旅行って嘘ついてまで、嶌谷の家やおまえを心配して、俺に何とかしてくれって言いに来た。誠、おまえも大人なんだから、本気で心配している奴が居てくれる事を自覚しろ」
「…」
「それからな、八千代の旦那と赤ん坊にも会ったよ。旦那の真先さんもいい人でさ、八千代もちゃんと奥さんとお母さんの顔になっていたよ。…赤ん坊、聡良っていうんだけど、七か月だそうだが、めちゃくちゃかわいらしくてなあ。あの頃の赤ちゃんってみんなそうなのかな。無垢な目ん玉して俺を見つめて、まるっきり信用しきって、抱かれるんだよなあ。笑うだけでこっちもつられて笑っちまう…。天使ってみたことねえけど、天使よりもあの頃の赤ん坊の方がずっと純粋無垢だと思うぜ。…きっと…誠一郎の子供も、聡良みたいに可愛かったんだろうな…」
俺の言葉に、誠一郎の身体が一瞬震えた。

「俺はさ、おまえが父親になったって聞かされて、相当落ち込んだし、憎んだりもしたさ。でもおまえが赤ん坊を抱いている写真を見たら、心の半分はおまえらの幸せを願った。…生まれた子供に罪は無い。おまえだってわかっていたはずだ。だけど、おまえが子供を愛せなかった理由は理解できるし、離婚だって愛がない家庭生活を続けるよりもよっぽどいい選択だったかも知れない。子供が病気で死んだのだって、誠一郎の所為じゃないし、誰もおまえを責めないだろう…。でも、そうじゃねえよな。子供が生まれた責任はおまえだし、その子が死んだのも…父として愛情を注げなかったおまえに責任があるよな」
「…」
「…おまえが自分の子供を愛せなかったのは、俺の所為だ。だから…俺もおまえと同罪だし、この罪は死ぬまで消えないだろう。…俺は時々思うよ。あの時、おまえが結婚するって決めた時、なんでこんな風におまえを引きずっても、誰にも誠は渡さないってジョー伯父たちに宣言しなかったのか…。おまえが俺を愛してくれているのも、わかっていた。なのに、俺は留学と言う汚い手を使って、おまえから逃げたんだ。…結婚がおまえを幸せにするわけないって思っていたし、そう願っていた。おまえが離婚した時、嬉しかったのも事実だ。でも、本当は…結婚とかそんなもの関係なく、俺達は愛し合っていれば良かったんだ。おまえも俺も、もっと大人でどんな理不尽なものでも太刀打ちできる強靭な心でいれば良かった…。でも、今になってそんなことを言っても時は戻らないし、死んだ命が生き返るわけでもない…。おまえに愛されなかったとしても、たった三年間しか生きて来なかったとしても、その子の生まれた意味がないなんて…俺は言わせねえよ」
「……うっ…」
誠一郎はとうとう息をつまらせて、むせび泣いた。
俺は誠一郎の震える肩を抱きしめた。

随分長い間、苦しんでいただろう。
生まれた子供を愛せない自分を呪い、俺を愛したことを悔やんだことだろう。
「子供の死」を自分の罪だと責め、自分自身を追い詰めるしか方法がなかったのだろう。
本当に自分の死を望んでいたのかもしれない。
そして、俺の救いを待っていたのかもしれない。

俺は…すべての罪を背負ってでも、おまえを決して離さないよ。

「なあ、誠。おまえが元気になったら、ふたりで手を合わせに行こう。許してもらえなくても頭を下げに行こう。そして、生まれてきてくれたことに礼を言おう。俺とおまえがこうして手を握り合えたことを感謝してるって…な、誠…」

子供の様にあからさまに顔をぐしゃぐしゃにして、泣きやまない誠一郎を、俺は愛しいと思った。暗闇の扉は少しは開いただろうか。
なあ、誠…手を伸ばしてくれよ。
そしたら俺がその手を引っ張って、光を見せてやるから…


風呂から上がった誠一郎にバスローブを着せ、シャツと下着は備え付けの洗濯機へぶち込んだ。
湯あたりなのか、泣き疲れたのか誠一郎はソファに凭れかかり、疲れた顔をしている。
濡れた髪をドライヤーで乾かしてやり、ルームサービスの食事を摂るようにデーブルヘ座らせ、食の細くなった誠一郎の身体を考えて頼んだお粥を勧めた。
俺は勿論、血の滴るようなステーキだ。
「美味い!やっぱりアメ牛よりも霜降りの和牛が何倍も美味いねえ~。誠も食べるか?」
誠一郎は弱々しく首を振る。
誠一郎の横に座った俺は、食べようとしない誠一郎にスプーンを持たせ、「食べるんだ」と、命じる。
すると、やっと一口だけ口に入れる。
それを見届け、俺も肉を食べ、今まであったことを喋り始めた。
そして、じっとしたまま、食べることを忘れた誠一郎に「ほらほら食べて」と言い、口に入れるのを確かめ、俺も食事を勧める。
なんだか、マジで子供に食事の仕方を教えているみたいだ。

「ちゃんと食べねえと誠をニューヨークに連れて行けなくなるだろ?俺、二週間後に卒業試験があるんだぜ?そりゃ、卒業証書をもらわなくても別段困りゃしないけど、ここまで応援してくれた家族に何かを残してやんねえとな」
「…」
「それから、ジョー伯父に頼んで、就職先は海外の嶌谷のグループ会社に入社させてもらえるよう頼むつもりだ。しばらく日本から離れて暮らした方が誠にとっても俺にも都合がいい。五年も離れ離れで、かなりおまえに餓えてるからさ。ちょっとやそっと抱き合ったぐらいじゃ、満足できそうもねえの。いいだろ?誠」
「…」
「だから、沢山食べて体力つけろ。腹上死なんてことにならねえようにな」
「…」
俺の言葉に、誠はしばらく躊躇い、そしてゆっくりとスプーンの粥を口に入れた。
俺の欲望を受け入れたと理解し、なんだか嬉しくなった。
おかげで俺は益々饒舌になっていく。


「…それでな。ニューヨークでお世話になった鳴海先生って人が、ジョー伯父の学生からの友人でさ。とても素晴らしい人だったんだ。で、ほら、俺達の因縁の『あさましや こは何事のさまぞとよ 恋せよとても生まれざりけり』って和歌。あれ、俺はジョー伯父に教えてもらったんだけど、晟太郎がこの和歌を渡した相手が、なんと、その鳴海さんだったんだ」
「…」
「すげえって思わないか。ジョー伯父と鳴海さんは今でもお互いを一番信頼する相手だと認め合っている。友情なのか愛とか恋とか…積み重なった年月だけ、お互いも想いも深くなるんだろうね…。俺は尊敬するよ。俺達も晟太郎たちを目指してみっか~。さあ、もう一口食べてみて」
「…」

風呂に入って居た時とは違い、誠一郎の青白い顔に血色が戻り、表情も大分穏やかになり、俺は心底安心した。
絶対に俺がおまえを治してやるからな、誠一郎。

「なあ、覚えているか?…俺が留学を決めたあの夜、おまえは俺にこの和歌を渡したよな。あの時は、返歌もできる状態じゃなかったけど、後になってすげえ悔しくてな。そんでいい返歌を色々探してみたら、お誂え向きの良い和歌を見つけたんだ。さすがは恋の導師西行先生だっておまえも唸るぜ。…聞きたいか?誠」
「…」
誠一郎は微かに頷いた。
俺は間違わないように、頭の中の記憶をしっかり確認し、朗々と詠った。

「『さまざまに 思ひみだるる心をば 君がもとにぞ 束(つか)ねあつむる』(あなたを想っては様々に乱れる心は 最後にはあなたのもとに束ねられ 集めるのです)」
「…」
「…なあ?良い和歌だろ?今まで散々苦しんだおまえへの想いは、結局おまえでしか慰められねえんだよ…。俺も誠一郎じゃなきゃ、全然駄目だってことさ」
「……」
「だから、お互いが笑えあえるように、…なろうな、誠」
「……ああ…」
擦れた声で、誠一郎は俺に初めて返事をくれた。

誠一郎の食欲は情けない程に慎ましく、注いだお碗の半分程の粥を残したが、言いかえれば半分は食べてくれて良かった…と、思うことにした。
疲れた様子の誠一郎をソファで休ませ、俺は洗濯機を回し、簡単な後片付けをしていると、ワゴンを下げに来たスタッフがドアを叩く。
ちょうどいい所に来たと、飲み物や明日の朝食のメニューを頼んだ。
二、三日ここに滞在するつもりなら、下着やらシャツも要るからと、近くの店を教えてもらった。
「お連れの方の具合は…いかがですか?もし、宜しければ医師を呼ぶこともできますけど…」
親切心なのか、猜疑心なのか…若い女のスタッフは俺と誠一郎に興味津々の様子。
「大丈夫だよ。ただの二日酔いだから。疲れも溜まっているから、二、三日リラックスできたら調子は戻ると思うから…気にしないでくれ」
「わかりました。では、なにか用事がありましたら、いつでもお呼びください」
「はいはい」

ホテルだから他人の干渉は仕方ねえけれど、ニューヨークと違って、男二人と言うだけで、変に見られるのも、めんどくせえな~。
まあ、このくらいで凹む俺様でもねえけれど、これからは世の中の偏見からも誠一郎を守ってやらなきゃならないんだ。

リビングへ戻ると、さっきまでソファに居た誠一郎の姿が見えない。
「どこ行った?」
そう広くもない部屋をぐるりと歩きまわり、開けっ放しになった廊下のつきあたりの寝室へ辿りつく。
覗いてみると、ダブルのベッドに横になった誠一郎が仰向けになって寝ていた。
宵は終わり、開け放った広い窓枠の向こうには、深い群青の海が見える。
誠一郎は首だけを横に向け、それを眺めている。
バスローブの裾がはだけ、片方の足は太ももまで見えてしまっている。
俺は誠一郎の足元に腰をかけ、冷たくなった足を撫でながら、海に目をやる誠一郎を見つめ続けた。

エアコンも入れていない薄暗い部屋には、程よい潮風と波のざわめきが、繰り返すだけだ。

静かに時は流れていく。


辺りは次第に暗くなり、誠一郎の輪郭だけが僅かな光に反射して、白く浮き上がる。

誠一郎は見つめ続ける俺の方を向き、そして俺を見上げた。
俺達は何もせず、何も言わず、ただじっと互いを見つめあった。
繰り返す波と音と、肌を撫でる風だけが俺たちを見守っているような気がした。

…長かったなあ、誠。
おまえと出会って、恋をして、これまで愛し続けたんだぜ。
そのお蔭で嫌と言うほど苦しんだし、孤独にもなったし、おまえを憎みもしたけれど、どの感情だって、今になって思えば、愛おしいばかりだ。
おまえもそうじゃないか?
…そう思って欲しいよ。
なにひとつ無駄じゃなかったって。
ここにこうして居られることの幸いを感謝して、今まで歩いた道程を互いに語り明かしたい。
きっと話せる。
そんな日が来るよ。
本当はさ、嶌谷の会社経営もこれからが正念場っていうのは、わかっているんだ。
浮かれたバブルの終焉も近い。あちこちの優良企業も軒並みに悲鳴を上げている。
うちだってグループ企業の悪化は誰の目から見てもわかるし、縮小やリストラも視野に入れなきゃならないだろう。
晟太郎は何も言わないけれど、本当は息子たちがこんな恋愛ごっこをしている場合じゃないって、怒鳴りたい気持ちだろう。
晟太郎の後を継いでやる…だなんて、軽口を叩けるほど、俺だって自信があるわけじゃねえよ。
でも、俺には守るべき家族がある。
愛する者がいる。
俺を支える礎がある限り、俺はどんな困難にも絶対負けねえからな。

己の想いに浸っていると、ふと誠一郎が手を伸ばして、俺の手に重ねてきた。
俺は嬉しくなって、その手に指を絡める。
サイドテーブルの淡い光が灯る。
薄暗闇に浮かぶ誠一郎の目に、その光が映えた。俺はそれをもっと見たくなって、誠一郎に顔を近づける。
俺の影になった誠一郎の綺麗な顔を、俺は優しく撫でた。
誠一郎は一度目を閉じ、そしてゆっくりと目を開けて、俺を見つめた。
その目には俺が映っている。

「そ……宗二…」
「…ああ、俺はここだよ、誠」
「俺を…壊して…くれないか…」
「……」

息ができなかった…胸が締めつけられ、目の奥がジンと痛んだ。

「誠…」

これ位で泣くだなんて、ガラじゃねえな。でもさ…
おまえが俺を…受け止めてくれたことが、嬉しくて…仕方ねえんだよ。

「…ああ、いくらでも壊してやるよ」

俺はゆっくりと、誠一郎の身体に重なった。



   happy end



宗二朗誠一郎最後

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誠一郎視点のPlatinum Moonへ


長くなってしまいまして…ごめんなさいです。
なんとか終わったんですが…
誠一郎視点もなんか、書きたくなったので、エピローグを考えてます。



ふたりがチラリと登場する「Green House」はこちらからどうぞ。大概おっさんですけど((* ´艸`))
目次へ
登場するのは主に凛一編だけです。

「破壊者のススメ」 13 - 2014.05.08 Thu

13
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宗二朗と誠一郎慰め



13、

二日後、俺は嶌谷邸の門前に立った。
ふと、十五年前、母と手を繋いでこの門を潜った日を思い出そうとした。
ああ、あの時も今みたいに不安だらけだったけれど、それでも期待の方が大きかったんだっけ。
今の俺は…怖いもの知らずだった幼い俺よりも、よっぽど臆病者じゃないか…
こんなんじゃ駄目だよな。
俺はこの家を守る為に、ここへ帰ってきたんだから。
思いきり背筋を伸ばし、深呼吸をした俺は、覚悟を決めて重い門扉を開いた。

何も知らせずに帰ってきた俺に、由ノ伯母はお化けかなんかを見たみたいに言葉も出ず、蒼白になったまま、玄関にへたり込んでしまう。
「驚かせてごめんよ、由ノ伯母さん。とにかく早く帰って来たかったんだ」
「そ、宗ちゃん…」
「色々と大変だったろうけれど、もう大丈夫だよ、由ノっち。俺が皆を守るからね」
「宗…ちゃ…」
由ノ伯母は俺の名前を呼ぶと、張りつめた糸が切れたみたいに号泣した。俺は由ノ伯母の小さくなった肩を抱き、背中を摩り慰めた。
初めて見る由ノ伯母の涙が、とても怖くて、哀れで、辛くて…どれほど苦しんだのだろうと、その原因である誠一郎を憎く思わずにはいられない程だ。

「おかえりなさい、宗二朗」
思いもかけず、母が居間から姿を見せた。
「あれ?母さん?居たんだ」
「馬鹿ね。私だって有休ぐらい取るわよ。それよりもただいま、でしょ?」
「ああ、ただいま、母さん。今戻りました」
母もきっとこんな由ノ伯母が心配で、少しでも傍にいてやりたかったのかもしれない。

「大学の方は?卒業試験は終わったの?」
「それよりも、自分の家族の方が大事だろ?」
「…八千代ちゃんね?」
「ああ、大体の事情は聞いた。誠一郎は自分の部屋にいるの?」
「ええ…二階は危ないから今は別館の一階の部屋で過ごしているのよ」
「話せる?」
「…わからないわ。こちらが話していることは聞こえているんだろうけれど…ほとんど反応してくれなくて…担当の医師も心を閉ざしている状態から抜け出さない事には、どうにもならないって…」
母の言葉に、由ノ伯母の嗚咽が大きくなった。

「よっちゃん、もう大丈夫よ。宗二朗がなんとかしてくれるから、ね」
「おいっ!」
「だからなんか食べて体力つけなくちゃ。よっちゃんまで倒れられたら、私まで泣いちゃうんだから…」
「…うん。ありがと、澪ちゃん」
俺頼りかよっ!とは思ったけれど、あの朗らかな由ノ伯母の変わり様を比べたら、冗談にも「期待しないでくれ」なんて軽口さえ、言える状況じゃないことだけは、理解した。

俺は由ノ伯母と母を居間に置き、ひとり別館への渡り廊下を歩いた。
手入れが行き届いた庭から、アジサイの淡い色が見えた。
回廊を擦り抜ける風は、湿気を含んだ懐かしい夏の匂いがする。
廊下から見上げる二階のベランダの白い手摺は所々剥がれ、木材がむき出しになっていた。
昔、誠一郎と一緒に塗り直した手摺だ。
あの頃は良かった…なんて、絶対に言わせない。
これからだって、誠一郎と一緒に沢山の良い思い出を作っていくんだ。
絶対に…

見事な空元気だったと思う。
そうでもして自分を励まさなきゃ、どうにも…これから見る誠一郎に…どう対応していいのか…俺はわからないでいた。

「宗二朗!」
背中から母の呼ぶ声に足を止めた。
「これ…誠ちゃんがずっと持っていた手紙よ」
「え?」
俺はボロボロになった封筒を受け取った。
それは、あの時、誠一郎へ送ったエアメールだった。
「誠ちゃんがこの手紙をどんな気持ちで持っていたのか、私にはわからないけれど…あなたなら理解してあげれるんじゃない?」
「…わかったよ、母さん」
「それじゃあ、後は任せたわよ」
母は明るくVサインを気取り、そして小走りで母屋へ駆けて行った。

俺は薄い封筒から便箋を出した。
便箋は四方八方に破かれ、それをセロパンテープで繋いであった。
ぐちゃぐちゃな皺まみれだったし、万年筆で書かれた文字はいくつもの滲んだ文字があった。
「…誠…」
もしかしたら…
誠一郎は俺が書き綴った言葉を嘘だと見破り、それを恨んだんじゃないのだろうか…
一度は破いて、それでも捨てきれずに俺の手紙を何度も読み返したのだろうか…
一体どんな気持ちで、あんな手紙を…
罪人なのは俺の方なのか?


昔、母の部屋だったドアの前に立つ。
知らぬ間に誠一郎が居なくなることを怖れて、内側の鍵とは別に、外側から鍵がかけられてあった。
「…」
これが現実なのだと、きりきりと痛む胸を手で抑えた。

どうか、変わり果てた誠一郎を、俺の心が見捨てないでいられることを…
どんな誠一郎でも構わない。
その覚悟を俺に下さい…神様…。

俺は今まで一度だって天に祈った事はなかったけれど、この時だけは、俺の心が誠一郎に残っているようにと、願った。
これは誠一郎の問題ではなく、あいつへの俺の執着の度合いであり、それは恋心が切れていないかどうか…俺にとってはまさに天国か地獄の分かれ目でもあるのだ。
もし、誠一郎を見て、絶望したとしても、俺は家族の為に誠一郎を守らなきゃならないし、それは俺の本心でありながらも、恋人を失ってしまったことになる。

俺にとって嶌谷誠一郎は家族ではなく、愛する人、恋を続ける者でなければならない。
それ以外であるならば…誠一郎は俺にとっては、必要じゃない人間だと振り分けるだけだ。
そう感じたくない。
だから、どうか…誠一郎…


俺はドアの鍵を開け、重いドアをゆっくりと開けて、部屋の様子を伺った。
部屋は薄暗かった。
窓もテラスに続くガラス戸もすべて閉め切り、閉められたカーテンが昼の光を遮っていた。
エアコンの機械音が響く以外に音はない。
ベッドに誠一郎の姿はなく、後ろ向きのソファの背もたれに少しだけ、背中の影が覗いていた。
俺は足音に気を付けながら、誠一郎の様子を見る為に、ソファの前に近づき、そこに座る誠一郎を見下ろした。
「誠一郎?」
俺の呼び掛けに返事はなかった。
眼下には力なく項垂れ、顔も上げない痩せた小さな老人のような男が居る…。

多少のショックは覚悟していたものの、ここまで変わり果てた姿を見せられちゃ、期待もなにも…どうにでもなれって気分だ。

俺は床に両膝を付き、俯く誠一郎の顔を下から覗き見た。

誠一郎は…
五年前とは、酷く違っていた。
あれほど几帳面に身づくろいに気を使っていた奴なのに、櫛も通さないほどぼさぼさの髪の毛や、伸び放題の卑下面に、痩せてやつれ切った生気のない顔。青白い顔に目の下には見たこともねえぐらいのクマと、死んだような目…。
なんも…
言葉もでねえや…。

でも…でもさ、なんとも不思議なことだけど、こんな変わり果てた誠一郎を見て、俺は思わず微笑んでしまったんだ。
なんだか可笑しくて…可笑しくって…

堰き止められた愛情が溢れかえって、大洪水になるくらいに…
今ままさに噴火し始めて止まらない活火山みたいに…

なあ、誠一郎、おまえが愛おしくて、愛おしくてさ…仕方ねえよ。


「バカだなあ~。俺もおまえもこんなになるまで我慢なんてしなきゃよかったのに…なあ…」

俺は小さくなった誠一郎の背中を抱きしめた。
誠一郎は少しだけ身体を避けるような仕草をしたが、俺を拒む力は一分もないから、俺の為すがままに俺の胸に顔を埋める格好になる。
俯いた顔を無理に持ち上げ、口唇にキスをしてみたけれど、薄く開いた眼は何も感じていないように暗く、光は見い出せなかった。

「誠、俺がわかるか?…悪かったな、今までほったらかしにしてよ。あんな嘘くせえ手紙送りつけたりしてよ。…怒ってんだろうけれど、俺もおまえには言いたいことは山ほどあるんだぜ?まあ、いいさ、これからは捨てる程時間があるんだからな。…もう、おまえを離さないからな、誠一郎」
「…」
「聞こえてんだろ?喋れねえんなら頷くぐらいしろよ。昔から素直じゃないところは俺も嫌いじゃないけど、この期に及んでこのザマじゃあ、褒めたもんじゃねえよ。よく、聞けよっ!今でもおまえは俺のものだって言ってんだっ!」
「…」
誠一郎は薄く開けた目をゆっくりと閉じた。
頑なに閉じた口唇が僅かに震え、なにかを言おうとしたけれど、言葉にはならない。

その時、はっきりわかったんだ。
誠一郎は今でも俺を愛しているんだって…。
俺とおんなじ気持ちで、俺に愛されたがっているんだって…。
馬鹿野郎…もういいんだ。
なにもかも全部捨ててしまえ。
おまえは俺を愛していればいい…

「おい、立てるか?誠」
立ち上がった俺は、誠一郎の腕を引っ張り上げた。
ゆらりと立ち上がった誠一郎を、連れて行こうと歩き出したが、足がもつれたのか誠一郎は転び、床に倒れてしまう。
長い間、適度な運動さえもやってこなかった誠一郎の足腰は、相当に萎えてしまっていたのだろう。倒れた誠一郎はすぐに起き上がる事も出来ずに、みっともない姿を曝け出したまま、じっと動かなかった。
「誠一郎。おまえが立たなきゃ、この部屋から出れねえぜ?俺はおまえと一緒に歩きたいんだ。勿論、俺がおまえをおぶってやってもいいけどな。そうして欲しいなら、そう言えよ」
「…」
「俺が欲しいんなら、はっきり言え。俺もおまえももう子供じゃない。嘘だって上手くつける。だけど、俺を欲しいと思うなら、俺にしがみつけよ」
「…」
誠一郎は何も言わずに、両腕を床に押し付け、膝を立て、腰を上げ、必死に立とうとした。
何度も倒れ、膝を戦慄かせながらも、膝を立てて、上半身を起こし、俺の顔を見上げた。
俺は手を差し出した。
誠一郎は黙って俺の手を掴んだ。
引っ張り上げ、腕を俺の肩に回し、よたつく歩行を助けてやる。

「誠、おまえ、酷く痩せてしまったなあ。アメリカ女よりも全然軽いぜ。なあ、お姫様抱っこでもしてやろうか?」
誠一郎は首を横に振った。その強気が、嬉しかった。
「おまえ、変わってねえのな」

部屋のドアを開けると、目の前には心配顔の母と由ノ伯母が佇んでいた。
「なんだよ、居間に居ろって言ったろ?」
「だって…よっちゃんが…」
母は由ノ伯母の肩を抱きしめ、俺に肩を抱きかかえられている誠一郎を落ち着かなさ気に見つめた。
俺は母を無視して、不安気に見つめる由ノ伯母に顔を向けた。

「由ノ伯母さん、いや、お母さんに頼みがあります」
「…なに…かしら…」
「今から誠一郎は俺のものです。もちろんお母さんの息子であることは否定しないけれど、誠一郎は嶌谷の家にも会社経営にも関わらせない。誠一郎が俺だけを愛して生きることを許して下さい。その代り…と言っちゃなんだけど、誠一郎が背負う嶌谷家のすべてのもの…家族、会社、財産からあんたらの老後の世話も俺が担うし、俺の結婚相手も好きに決めてくれて結構。立派な跡継ぎも作ってやるよ。誰にも文句を言わせないボスになってやるから…だから、誠一郎を俺に下さい」
「…宗ちゃん」
俺は頭を下げた。
そのまま横を向くと俯いた誠一郎の目に光るものが見えて、こちらもグッとくるものがあったけれど、必死に耐えた。

「誠一郎がそんなに大事かい?宗二朗」
「ジョー伯父!」
「久しぶりの再会なのに、こんな暗い廊下での挨拶ってのは、なんとも納得いかないところだがね」
「俺と誠一郎の門出には相応しいですよ」
「宗二朗。君はそれでいいのかい?自分の人生を嶌谷家に縛られることになっても…」
「全然、全く問題ねえよ。昔、聡一郎祖父さんが言ったんだって。俺には王者の気質があるから、嶌谷のボスに相応しいってさ。なあ、母さん?」
「え?…ええ」
「そう言うことなら、別に構わないよ。俺は俺の人生を楽しむだけだから。社長業だって、ジョー伯父がやってるぐらいだから、俺にでもできそうな気がするしね。だけど、誠一郎だけは特別だから、許してくれよ、ジョー伯父さん」
「簡単に社長業を見くびってもらっちゃあ困るけれど…まあ、なんだかね…。これから僕が死ぬまで、僕をお父さんと呼ぶなら…許してあげてもいいよ」
「了解、お父さん。ついでにさ…ちょっと車のキー貸してくれねえ?」
「え?」
「これから、誠一郎とハネムーンに行ってくるよ」
「…」
唖然とする母と由ノ伯母の顔は見ないようにした。
「そこは…家族として、喜ぶべき話なのかな?」
「ああ、ふたりの息子が幸せになる旅立ちだからね」
「では、行ってらっしゃい。気をつけて戻っておいで」
「行って来ます」
涙を浮かべている由ノ伯母が気にならなかったわけじゃない。晟太郎伯父が俺と誠一郎の関係を手放しで、喜べるわけもないこともわかっている。
けれど、許してもらう他はない。

俺はもう…二度と誠一郎を、誰にも、勝手に、俺の許可なく、触れさせるつもりはない。

足元のおぼつかない誠一郎を連れて、駐車場へ向かう。
晟太郎伯父の車の助手席に誠一郎を乗せ、俺はエンジンを入れた。

「さあ、誠。やっと、ふたりきりになれたぞ。どこに行きたい?」
「…」
「海がいいか?それとも山手の方?」
「…」
「どこかの温泉でゆっくり身体を癒すのもいいし…」
「…」
「なんだよ。なんもねえのかよ…。仕方ねえな。じゃあ、俺の好きにさせてもらうからな」

車は高速に乗り、海を目指す。
助手席の誠一郎は、項垂れたまま一言も喋らなかった。
具合が悪いのか、時折身体を震わせ、脂汗を滲ませていた。その度に俺は車を止め、汗を拭き、水を飲ませた。

「苦しいか?誠。慣れない外へ出るってのは大変だな。それでも…人間ってのはなかなか死ねないもんだってさ。俺の尊敬する先生が言ってた。精神の病気で死ぬ奴は僅かなもんで、ほとんどの奴は生きたいって願っているんだとさ。ただ理解して欲しいから拗ねてるだけだって。我儘なもんだよなあ~。でも、嫌いじゃねえよ。死ぬほど辛いから救ってくれっていう我儘っていうのは、執着心だし、渇望だし…人間の一番汚くて純粋な感情が見えるわけじゃん。そいつをぶっ潰すのも救うのも、俺次第ならさ。おまえにとっちゃあ、俺は神か悪魔なんだろうなあ」
「…」
「俺は、おまえの破壊者であり続けたいと、思う。それが…俺の愛だ。わかるか?誠…」
「…」

何も言わぬ誠一郎の口唇に、俺は水を含んだ口唇を合わせ、水を飲ませた。
誠一郎の喉がゴクンと鳴る。

その表情が…なんとも言えないほどに、愛おしい。

「じゃあ、行こうか」
俺は再び、ハンドルを握る。


今にして思えばだが…誠一郎の容態も考えずに、惨いことをしたものだとは思うし、あの状況での自分の行動は、よほどのアホか、間抜けか、能天気を通り過ぎたサイテーの独裁者に過ぎなかったかもしれない。
けれど、あのまま誠一郎が喋らなくても、元に戻らなくても、その時の俺には大して重要な話ではなかった。

ただ…

おまえがどんなに嫌がったとしても、
これからは、ずっと俺が傍に居るからと、
一生、おまえの傍から離れたりしないと、
わからせてやりたかった。






12へ /14へ

終わるつもりが長くなっちゃっいました~('ε`汗)
次回は必ず最終回です。


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「破壊者のススメ」 12 - 2014.05.01 Thu

12
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宗二朗春2

12、

「そうは言っても、まだ離婚は成立していないみたいよ。子供の親権の事で実家の親同士がもめているのよ。誠ちゃんは…無理だって言い続けているみたいだけど、伯父さまや伯母さまが子供だけは嶌谷の名を継がせたいって…」
「そう…か…」
「律子さんはね。ああ、誠ちゃんの奥さんね。とっても控えめな人で、誠ちゃんの良い奥さんになろうと彼女なりに努力していたんだけど…誠ちゃんには合わなかったみたい。私も嶌谷の家に行く用事がある時は、一応気遣って声を掛けたりするんだけど、会う度ごとに二人の顔色がだんだん暗くなっちゃって…ふた月程前に、律子さんは子供を連れて実家へ帰られたのよ。離婚届も提出するだけだって。残念だけど…元に戻るのはもう無理ね」
「…」
どうにも言葉が出なかった。

大学のすぐ傍のワシントン公園内を歩きながら、八千代は「あ~、やっぱりニューヨークって緊張するけれど、自由を楽しむ空気がやたら漂っていていい感じね。私も一度はこんな街に住んでみたいわ~。まだ学生身分でいられる宗ちゃんが羨ましいよ。私ももう少し頑張って、留学続ければ良かったわ~」と、相変わらず鷹揚な様で伸びをする。

短大を出て嶌谷グループの物流事業会社に就職した八千代は、社長の母の元、末席の秘書として国内外を飛び回っている。
あれだけ嶌谷家の世話にはならないと息巻いていた八千代が、母の会社で働くことになったと聞いて俺は皮肉のひとつも言いながら笑ったのだが、本人は「家族全員に泣かれちゃったから仕方なくよ。でも結婚相手だけは、自分で選ぶからって条件をつけたわ。だって誠ちゃんみたいになりたくないもの」と、あからさまに誠一郎の結婚の失敗を詰った。

誠一郎…
おまえを本気で諦めようとしたことも事実だ。
離婚するかもしれないと聞いて、心が弾んだのも真実だ。
でも、結婚して子供までいるのに、その責任を担わないおまえには、正直腹が立ってしまうよ。

八千代が帰った後、俺は随分時間を掛けて、誠一郎への手紙を綴った。
真面目に綴ろうとするけれど、慣れない手紙には、心底苦労した。
心で思う事と、口に出す事と、文字にする事は、こんなにも意味が違ってしまうのだと、何度も呆れかえった。
なら、止めとけばいいのに、なにか言わなきゃならないというか…そんな使命感に襲われていたのかもしれない。
「馬鹿だな~、誠。初めから無理だって言ったろ?」なんて、皮肉めいた言葉さえ、何度も頭に浮かんではその都度消す努力を迫られた
誠一郎を傷つけたいわけじゃない。
だから、俺はひとつひとつの言葉に神経を使いながら、手紙を書いた。

「俺は今まで誠一郎を束縛したいとか、俺の愛を忘れるなとか、勝手なことを散々とおまえに言ってきたけれど、本当は誠一郎の幸せを願っている。だから子供や奥さんの為にも、自分の幸せを考えてくれ。もう、俺の愛はおまえを縛らないし、おまえは自由に誰かを好きになっても俺はおまえを憎んだりしないから。だから…もう、俺を忘れてくれていいんだ」
そんな意味を込めて書いた手紙を、俺は誠一郎へ送った。
確かに誠心誠意を込めた手紙ではあったが、俺の本当の想いなどはその文章にはひとつもないことは確かだ。

俺はただ…
もし誠一郎の離婚の決意が、俺の所為ならば、俺には責任があるのではないかと、いたたまれなくなっただけなのだ。
それが自身の保身だとは充分にわかっていた。

手紙の返事は来なかった。
そして、三か月後、正式に誠一郎が離婚したことを、母の電話で知った。
誠一郎は子供の親権を放棄し、養育のすべては奥さんが行うことになった。

母に晟太郎伯父と由ノ伯母の様子を聞くと、ふたりは思いのほか落胆していると聞く。
「それよりも…」と、母は言葉を濁した。
「何?…もしかして誠一郎?」
「うん。誠ちゃん、カミングアウトしたのよ」
「は?」
「自分はゲイだから、女性を愛せないし、これからも結婚はしないって…」
「それを…ジョー伯父と伯母さんに言ったの?」
「うん。兄はそれほどでもなかったけれど、よっちゃんはさすがにショックみたいで、しばらく寝込んでいたのよ。まあ、今はなんとか落ち着いてるけれど…」
「…そう…」
「家族だけに留めておこうと思ったけれど、噂が広まってしまって…人の口に戸は立てられないって本当ね。誠ちゃんも否定しないものだから、あっという間に会社内に広がったの…」
「今時、ゲイだからって偏見とか差別とかはねえだろ…時代錯誤もいいとこだよ」
「そうは言うけれど…現実は甘くないわよ。誠ちゃん、すっかり自信なくしちゃって…。仕事はやれる子だし、なんとか助けてあげたいって思うけど、誠ちゃんはあんたと違って根が真面目だから、色々と嫌な目に合っているみたいで、…落ち込んでるのよ」
「母さん…俺、どうしたらいい?」
「あんたはそこで精一杯自分のやるべきことをして、早く晟太郎や誠一郎くんの役に立てる人間になれるようになって頂戴」
「俺…役に立てるかな…」
「何言ってるのよっ!あんたは…あんたじゃなきゃ…」
「…かあさん」
「あんたはね、ライオンなのっ!だから縮こまっていないで、傲岸不遜の嶌谷宗二朗でいなきゃならないのよっ!わかった?」
「ひでえ励まし方だなあ~。…わかったよ。とにかく自分を磨いて、誰にも文句言わせない男になって帰ってくるから、それまで嶌谷家を頼むよ、かあさん」
「うん。頑張るわ」
どう繕おうが、母の声は疲れていた。
母は晟太郎伯父と由ノ伯母を家族として愛していた。だから、彼らの苦しみを見かねたのだろう。
滅多な事ではしない俺への電話も、いたたまれなくて俺に助けを求めてきたのかもしれない…。
俺は母の運の悪さに同情した。

誠一郎の告白もまた…確かに驚きはしたが、遅かれ早かれこういう時が来ることは本人もわかっていたはずだ。
生まれつきの性向は、簡単に隠し通せるものでもない。
ただ、世間の道徳とは違うそれを、自身が罪に思うかどうかだ。

俺は…何も思わない。
だけど、誠一郎は未だに拘っている。
くだらねえよ、そんなもん。
結婚なんかせずに、俺のもんでいりゃ良かったのに…
そうは息巻いたところで、俺だって母の悲しむ顔が浮かばないわけでもない。

誠一郎の苦しみは、俺の苦しみでなのかもしれない。


誠一郎は俺には何も言わない。
この四年間、俺の名を呼ぶ声さえ聞いてはいなかった。
それでも…不思議とあいつへの想いは薄まらず、逆に愛の輪郭が冴え冴えと見えてくるようで、どうにも苦しい夜が続いた。
あいつも俺を想いながら、こんな夜を過ごしたりしたのだろうか…。
やはり、離婚したのは俺の所為だったのだろうか…。

誠一郎の真意はなにひとつわからぬまま、俺は勉強に打ち込んだ。
そして翌春には、ほとんどの単位を取得し、卒業試験を残すのみだった。
そんな時、八千代から俺に会いたいとの連絡が来た。
俺は八千代のお気に入りのワシントン公園のカフェで待ち合わせをした。
「ひさしぶりね、宗ちゃん。新婚旅行のついでにあなたの顔を見に来てやったわ」と、八千代は赤ん坊を抱きながら、俺の座るテーブルへ旦那と一緒にやってきた。

なんというか、八千代は俺の知らぬ間に、結婚して子供を産んでいたんだ。
知らぬ間というのは嘘で、本当は色々と聞かされていた。
相手の男性は下町の小さな板金工場の次男坊で、工場の経営を担当している。
どうやって知り合ったのかはよく知らないけれど、ふたりは運命の恋に落ち、結婚を誓い合ったと言う。
案の定、親や親戚はふたりの結婚なんて許すはずもなく、八千代はでき婚を強行した。親たちは激怒し、八千代は家を飛び出したが、生まれた赤子の顔を見たら、さすがの親も情が移ってしまい、仕方なくだが結婚を認め、現在、小さなアパートで三人円満に暮らしているらしい。

「赤ちゃんがこんなにかわいいなんて、思わなかったわ~。ねえ、うちの聡良(あきら)ちゃん、かわいいでしょ?ねっ?ねっ?」
「…八千代はもっとモダンな女性になるんだとばかり思ったよ。なんだ、ただの親バカじゃんか」
「宗ちゃんも親になったらわかるわよ。ねえ~、真先さん」
真先と呼ばれた隣に座る男は、照れ隠しなのか「うん」と、一言だけ言うと目の前のレモンジュースを一気に飲み干した。
俺や八千代より五歳上だから、誠一郎と同じ歳なのだか、見た目はなんとも落ち着いた寡黙な男で愛想もないし、手も口も騒がしい八千代とは対照的に見える。だけど、目元の当たりが涼しげで笑う口の端に愛嬌がある。
「ねえ、真先さん。こんな五月蠅い八千代のどこが気に入ったんですか?」
「え?…え~と、なんとなく…ですかね」
「なんとなくとは失礼よ、真先さん!」
「…ごめん」
「そこは運命の赤い糸ですよ~、ぐらい言いなさいよ!」
「…そんなの無理だよ」
「言えるわよ。だって『君みたいな人に出会ったのは生まれて初めてだ』って、私に言ってくれたじゃないの」
「…うん。でも、まあ、人前で言うことでもないし…」
「ほらね、こんな調子なのよ。でもいいの。誰よりも私を愛してくれてるし、とっても優しいから。大好きよ、真先さん」

八千代にコクられた真先さんは腕に抱いた赤子と同じように顔を真っ赤にして俯いている。
「…真先さんっていいひと…ですね」
「ねえ~、いいひとなのよ~」
俺は必死に笑いを堪えながら、幸せそうなふたりの姿を眺めた。

「宗ちゃんも聡良を抱っこしてくれる?」
「え?大丈夫かな~」
「大丈夫よ。もう七か月だし、支えたら立てるのよ」
真先さんから小さな聡良を受け取り、むかえ合せに抱っこしてみた。
「へえ…。わあ、思ったよりも軽いけど、しっかりしてるね」
赤子の聡良は初めて抱き上げた俺を見ても人見知りもせず、あうあうと赤ちゃん言葉を言いながら、俺の膝の上で立とうとして、懸命に足を踏ん張っている。
その必死な姿に、ふいに俺の心が雷に撃たれたように痺れたんだ。

きっと…生きるってことは、誰に命じられるわけでもなく、こんな風に、ただ自分で自分を成長させようと懸命になることじゃないのかな…
少しでも高みに登ろうと俺の膝に何度も足を打つ聡良に、俺は誠一郎と自分を重ねた。

なあ、誠一郎…
俺達はこんなに必死に、何かを掴もうとしたことがあったのかなあ…
俺達の愛はこんなにも、無垢で輝けるものだったろうか…

俺はずっと…自分の身勝手なおまえへ愛を振り返るのさえ、嫌悪感を感じてしまう始末だよ。
今更、誠一郎に謝る気なんてないくせに…。
誰かに渡す気もないくせに…。


眠いのか、眼を擦りながらむずがる聡良を真先さんは抱き上げ、「しばらく聡良と散歩するよ」と、カフェを出て行った。
「ねえ、宗ちゃん。大事な話があるの」
「なに?」
八千代はそれまでの朗らかな表情を変え、神妙な顔をして俺を見つめた。

「誠一郎さんの事なんだけど…」
「誠が…どうかした?」
「宗ちゃんは気にならないの?離婚した後の話も、私に何も聞かないし…心配じゃないの?」
「…心配に決まってるだろ。ただ俺がバタバタしても仕方ねえことだし、俺は俺のできることをここでやるしかねえって…そう、思ってるだけだよ。もうすぐ卒業だし、そしたら、東京に帰って、嶌谷家の会社に就職するし、誠の話にも乗ってやれるから…」
「そんな悠長な事態じゃないわよ。誠ちゃん、今、大変なんだから」
「…どうした?」
「離婚したから関係ないと言えばそうなんだけど、…誠ちゃんのお子さんが病気で亡くなったのよ」
「え?」
「肺炎をこじらせて、あっという間だったらしくて、律子さんも実家の親御さんたちもとても悲しまれて…。伯父さまも伯母さまもそれは泣き疲れるぐらいに落ち込んじゃって…。でも誠ちゃんは…葬儀に参列しなかったの。それだけじゃなくて、それから仕事にも行ってないし…行きたくても行けないのよ。怯えちゃってて…。それで…ずっと部屋に引きこもってしまって…。食事も食べられないみたい。無理に食べようとしても吐いちゃうし…。だから時々点滴で栄養を取って…」
「なにそれ…重症の病人じゃん」
「誠ちゃんは病気なのよ。精神疾患の名前がいくつもついてる重症の病人なのっ!」
「…」
「一時は自殺未遂もあったんだけど、今はそれすらしようとしなくなって…。一言も喋らないって…伯母さま、泣いていらしたのよ」
「…」
「誠ちゃんは昔から繊細で、人の上に立つ性格じゃないってわかってたし、それを押しつけた周りも悪いし、精神的に弱い誠ちゃんも良くないけれど、宗ちゃんに何も責任がないって…言わないわよね」
「…」
「私ね、宗ちゃんと誠ちゃんの事、なんとなくわかってたよ。誠ちゃんが結婚して、宗ちゃんが留学したがった気持ちも理解できる。あれからね、宗ちゃんが留学した後ね…嶌谷家に行って誠ちゃんに宗ちゃんの話をするとね、誠ちゃん、苦しそうな顔をして黙るの。あのポーカーフェイスの誠ちゃんが、あからさまに険しい顔をするのよ。どれだけ宗ちゃんを想っているのか、鈍い私でもわかるよ。今度の病気のことでも私は宗ちゃんに早く帰るように伝えようと伯母さまたちに相談したんだけど、伯母さまたちは、ひとりで頑張ってる宗ちゃんに余計な心配かけさせるなって…」
「…」
「そうじゃないよね。誠ちゃんがああなったのは、宗ちゃんの所為でもあるでしょ?新婚旅行って嘘ついてここまで出て来たけれど、本当は宗ちゃんの、顔を見てはっきり伝えなきゃ、気が済まなかったの。こんなの…知らないままじゃ、宗ちゃんは…絶対後悔するよね」
「…八千代…」
「お願いだから、誠ちゃんを救ってあげてよ!」
八千代は懸命に涙を堪え、震える拳を握り込んで、俺を睨みつけるように見つめた。

俺は、なにも…なにも考えられなかった。
ただ、八千代の言った言葉が繰り返し、繰り返し頭に響いて…
俺は「わかったよ」と、八千代に返し、椅子から立ち上がると、急いで自分のアパートに帰った。
勿論、すぐに日本へ帰る為だ。




11へ /13へ

八千代ちゃん、大活躍ですね。赤ちゃんの聡良くんは「セレナーデ」の聡良君ですよ~
次回は最終回の予定ですけど…どうなるんだか…('ε`汗)


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Author:サイアート
イラストと駄文を更新しております。

少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

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