FC2ブログ
topimage

2014-07

夏の名残りのばら 8 - 2014.07.29 Tue

8
イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。


    ↓かっこつけ尚吾さん。「責めも受けも極上だぜ」

瀬尾尚吾1ネクタイ

8、高雅で感傷的なワルツ

 拓海がヴィンセントを好きだと尚吾たちに打ち明けた翌日、乃亜は拓海の願いを叶える為に、ヴィンセントに拓海と会える機会を伺った。そして、三日後、拓海は島の別荘へ招待されることになった。

 …たく、面倒な事をしてくれるんだ…と、尚吾は心の中で乃亜を詰ってみたのだが、どう考えても乃亜の言い分には道理があるから口には出せない。
 それに、ヴィンセントに会えると夢心地の顔を絶やさない拓海を眺めていると、これ以上反対しても逆効果な気がする。
 失恋の痛手を癒すには新しい恋が特効薬だということは、経験済みの尚吾だ。しかし相手が相手だけに手放しで喜ぶわけにもいかない…さて、どうしたものか…。

 こうなると昼間、面倒な禍を忘れて、仕事に没頭できる身分が有難いと思う。
 毎年、夏になると常連のお客からの別荘の点検やリフォームの注文、新客からの別荘購入の要件で、乃亜と出会った高原の別荘地へ足を運ぶ。
 以前、乃亜の怪我で休養していたあの古い別荘のリフォームもこの春に終わり、週末にはふたりで泊まりに来ることも多かった。
 拓海が尚吾の自宅に来てからは、乃亜がこちらに寄る暇はなくなったが、尚吾はこの辺りの仕事のついでに、昼時の休憩に使うことも多々ある。
 今日も午前中の仕事を片付け、一服する為に別荘の玄関の鍵を開けようとしたところ、もうすでに開いていた。
 不思議に思い、リビングへ足を入れたところ、ソファに座る男の後姿が見えた。それは、最も会いたくない人物ナンバーワンの男だ。

「ヴィンセント…?」
 長い黒髪ですぐに彼だと気付いた。名前を呼ばれたヴィンセントはゆっくりと尚吾に振り向き、「やあ、尚吾、待っていたよ」と、優雅に笑う。
「人の家に勝手に入るなよ。だいたいどこから入って鍵を開けたんだよ」
「鍵なら前から持っていた」
「え?」
「おまえに話したいことがあった」
「ちょ、待ってくれ。なんであんたがこの家の鍵を持ってるんだよ」
「私の話を聞けばわかる。しかし、その前におまえはなにか食べるのだろう?昼時だし…」
「う…うん」
「では、それが終わってから話そう。長い話になる」
「…」
 
 そう言って、ヴィンセントは身体を戻し、テーブルの紅茶カップを手に取る。
 仕方がないので、尚吾はダイニングテーブルへ移り、弁当を広げて食べ始めた。
 紅茶を飲み干したヴィンセントがキッチンへ回り、食べている尚吾の弁当を覗き込んだ。
 乃亜が作ったものだと言うと、ヴィンセントはふ~んと言い、キッチンの棚からミルを出し、コーヒーの豆を挽き始めた。
 教えてもいないのに迷いもなくミルとコーヒー豆を出したヴィンセントに疑問を持つが、これくらいでいちいち気にしててもキリがないと、尚吾は肝に銘じている。
 相手は人間ではないのだ。

 乃亜と暮らす日々の中で、会話の合間に人魚だった生活の話などを尚吾が聞くと、乃亜は知っている限りのことを話してくれる。
 人魚は昼が苦手なので、太陽が出ている間は人魚の姿で海で過ごして、夜になると人間の姿でいたとか、夜が来ると、五人の兄たちの誰かが、寂しくない様にと乃亜の傍にずっと居てくれていたとか…
 何処を切り取っても御伽話のような世界だ。だが乃亜は嘘をつけない人格であり、尚吾は二度と乃亜の言葉を疑う事はしないと決めたから、どんな御伽話であっても、乃亜が話してくれることを尚吾は信じている。
 そして、ヴィンセントたちが常識とは違う存在であろうと、生活の感覚の違いがあろうと、こんなに純粋無垢で気立ての良い乃亜を育てた家族ならば、尚吾もまた、彼らを愛しい存在と思いたいと願う。
 本当の家族になる為に。

 だが、敬意を払ってはみても、ヴィンセントが危険な男には変わりない。
 彼らが毎夜、陸に上がる理由は彼らの性欲を満たす一夜を求めているからだ。尚吾にはその生き方を批判する気は無い。彼らにも彼らの都合がある…と、思うからだ。
 彼らの生き方には口を挟まないと、尚吾は心に決めている。

 どんなに探ろうとも全く本心を見せないヴィンセントは苦手だが、しかし、考えてみれば拓海への牽制をする絶好の機会でもある。
 拓海がいくらヴィンセントを好きになろうが、ヴィンセントが相手をしなければ拓海への被害は少なくて済むはずだ。
 何らかの対価はあるかもしれないが、拓海の為にやれることはやっておきたい、と、尚吾は心に決めながら、弁当を食べ終えた。
 そして、目の前にはヴィンセントが淹れたコーヒーがある。

 まさか毒なんてもん、仕込んでねえんだろうけど…睡眠薬ぐらいならあるかもな。
 そうは思っても尚吾はそれが現実にはありえないことぐらいわかっている。

 先にソファへ座るヴィンセントの後を追いかける様に、尚吾もまた、コーヒーカップとソーサーを持って、テーブルを挟んだヴィンセントと対面するように座った。
 まだ舌には熱いコーヒーを啜ってみた。
 …充分に美味い。乃亜の淹れるコーヒーと変わらぬ味がする。それが尚吾にはなんとなく悔しい気もした。

「で、俺に何の話があるんでしょうか?」と、尚吾はわざと丁寧に出だしを始める。
「乃亜と暮らし始めて、一年経ったことだし、乃亜のことをおまえに話しておいても良い時期だと思っている」
「乃亜のこと?」
「私は人間を信じない。勿論、おまえを含めてだ。…おまえが乃亜と暮らす前、どんな生活をしてきたのか…この一年をかけて詳細に調べ上げた。そして、また一年間、おまえがひたすら乃亜だけを愛し続けてきた事実も私は認めている。だが、この先、尚吾の気持ちが乃亜から離れないとは限らないだろう。…乃亜はおまえを信じ、人魚として生きることを捨て、命がけで人間になった。もし…おまえに愛されなくなったら二度と乃亜は人魚には戻れない。そして、乃亜はこれから先もおまえ以外の誰かを愛することはないだろう。そうなったら…勿論、私は裏切ったおまえを殺すし、傷ついた乃亜は私が請け負うつもりだが…」
「ちょっと待てよ。俺は一生乃亜を愛し続けるって誓ったし、この世界の大部分の夫婦と同じ様に、どちらかが死ぬまで添い遂げるつもりだ。もし俺が先に死んでしまったら、その時はあんたでも他の兄弟でも、乃亜の事を託してもいいが、それまでは俺が責任を持って守ってみせる。絶対に別れたり浮気したりしない」
「おまえはそうやって今まで、何人の男たちと愛を語ってきたんだ?」
「な、んにんって…そりゃ乃亜と出会う前は、色々遊んできたさ。それが悪いとは今でも思わないよ。…恋をする時はいつだって、本気で相手を好きになるし、幸せにしたいって、幸せになりたいって想う。それが本当の恋なのかどうかってのは、付き合ってみないとわからないけど…」
「ではこれから先、どんな出会いがあったとしても、死ぬまで、乃亜以外の誰かを愛したり惹かれたりすることはない…と、言いきれるのか?」
「それは…」
 乃亜以外の者に絶対に恋をしないなんて…言い切れるものだろうか…と、尚吾はヴィンセントの問いに言葉を濁した。

 大体何だって今になって、こんなあやふやな話でケンカ腰にならなきゃならない。


「話を戻そう。乃亜のことだ」
と、ヴィンセントは組んだ足を解き、手に持ったコーヒーカップをソーサーに置いた。そして見たこともない真剣な顔で、尚吾を見つめた。
「…」
「乃亜は私達とは本当の兄弟ではない。つまり血縁関係は一切無いということだ」
「…え?」
 あまりの衝撃的な言葉に、尚吾は手に持っていたコーヒーカップを落としそうになった。事故は何とかまぬがれ、尚吾は両手でカップをソーサーへ戻し、止めていた息を吐いた。
「乃亜だけじゃない。他の兄弟もそれぞれに親は違う。ヤンとルイは双子だから同じ両親から生まれた人魚だが…」
「…」
 冗談だろうと尚吾はヴィンセントの顔を見つめたら、ヴィンセントは真顔で話を続ける。

「ここからは少々難しい話になる。…そもそも人魚には直径と傍系があり、私のような直系の人魚はごく僅か…。人魚の多くは、長い間に人間との交わりで生まれた傍系なのだ」
「じゃあ、乃亜も…」
「乃亜は、人間と傍系の人魚の混血だ。しかも人魚としては非常に弱い遺伝子しか持っていない」
「どういうことだ?」
「直系の血の濃い人魚には特別な力がある。その最たるイージーな能力は人間の姿でいることだが、乃亜は夜しか人間の姿になれない。それに、人魚は長生きだ。この国にも人魚の肉を食べたら不老不死になるという八尾比丘尼の伝説があるだろう。人魚は不老不死ではないが、総じて長命なのだ。私は幾つに見える?」
「え?…俺より少し上?…乃亜が俺に教えてくれたのは、確か34と言ってた気がする」
「乃亜が疑問に思わぬ様に、それなりの年齢を教えてきただけだ。私はもうじき百歳になる」
「はあ?」
「現在、私は五代目のエクスマス子爵なのだが、三代目からずっと私が代替わりをしているのだよ。幼い頃は外国で育っていると言い、適当な齢になったら、父が死んだことにして息子のフリをして、自国の城へ帰る。家の者は前主人とそっくりな私を見てしまえば、疑う余地はないからな」
「…」
 尚吾は呆気に取られてしまった。人魚と理解するだけでもいっぱいいっぱいなのに、これ以上映画やSF小説の世界に引きずらないで欲しい。

「それ以外にも乃亜が知らない私たちの能力は多いのだ」
「え…と、ですね…じゃあ、他のみなさんは…一体どのような?」
 ここまで知らない世界を目の前に披露されると、まるで博識の教授に請い伺う学生のような気分だと尚吾は肩を正した。
「乃亜が自分だけが違う存在だと卑下しないように、色々な事を秘密にしてきたのだ。あの子は…特別な子だ。乃亜の父親もまた…人間の娘を愛し、自分の命を捨て、生まれてくる子供の為に命を捧げた男だった……。人魚の世界に伝わる掟では、人間にとって、私たちは架空の生き物でなければならないと、ある。今の世界に人魚の存在を信じる者が居たら、それは敵か味方かのどちらかだ。私たちは物語の世界だけに存在すると信じてもらう方が生きやすいのだ」

 ヴィンセントは続けた。
 昔、まだ人間とそれ以外の異種の生き物が共有していた時代の頃には、海で生きる者や翼をもった空を飛ぶ者たちがそれぞれの世界の秩序を守り、出来るだけ接触しない様に生きてきた。だが、際立った能力を持たない代わりに生存本能の高い人間が、彼ら以外の異種異形の能力を怖れ、その数に措いて圧倒的な人間たちは彼らをすべて滅亡しようとした。「異種狩り」の時代だ。
 異種異形の者たちは凶暴な人間たちを怖れた。話し合いにも哀願にも耳を貸さず狂ったように剣を振り下ろす人間たちに、異種異形の者たちの数はまたたく間に減少し、僅かに生き残った者たちは、どうにかして人間の目に届かぬ居場所を見つけ、細々と生き続けることになった。
 翼を持った空に生きる者、山や森の精霊たちを友にしながら生きる者、海に生きる人魚たち、…人間たちは、いつしか彼らを伝説や物語の生き物にしてしまったのだ。
 

 そして、海に生きる人魚世界の王族の直系子孫がヴィンセントだった。
 王族には、僅かに生き残った人魚たちを生き長得られさせる役目があった。
 もともと人魚は長命であり、しかも一生にひとつの子孫しか残すことが出来ない。自分の命を子供に与え、死んでいく種族だ。
 人間たちが彼らを狩らなくても、人魚は絶えていく種族だったのだ。
 人魚たちはどうにかして自分たちの種を未来へと繋ぐために、人間との交わりを試してきた。人間に姿を変え、彼らと交わり子を成す。
 どういう形態が一番良い人魚に育っていくのかを長い年月をか掛け、命を賭して試されてきたが、やはり直系以上の特別な能力や長命に準ずるものは生まれず、しかも人間の血族の割合が大きい程、人魚としての力も減少することがわかった。

 異種世界の生き残る道を模索してきたというヴィンセントの話は、尚吾には驚きばかりだが、それ以上に憐憫で胸が張り裂けそうになった。

 …尚吾はまだ知らない。ヴィンセントが何を企み、何を得ようとしているのか。
 驚愕する尚吾の感情を楽しむかのように、ヴィンセントは優雅に笑う。



紅茶


夏の名残りのばら 7へ /9へ

人魚姫(♂)は、こちらからどうぞ。  1へ 

更新が遅くなってしまい、すみませんでした。帯状疱疹に罹ってしまい、ちょっと体調を崩していましたの。かなり良くなってきましたので、今週、更新できるようがんばりますね。

お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

夏の名残りのばら 7 - 2014.07.19 Sat

7
イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。


  ↓乃亜ちゃん、乙女中~
乃亜厚塗り31

7、喜びの島

 突然のキスで呆然とする拓海を気に掛ける風もなく、ヴィンセントは拓海の座る花ゴザを手で触りながら「これは携帯用の畳なのか?面白いな。座っていいか?」と、聞く。
 拓海はまだ話せる状態ではなく、ただうんうんと首を上下に振って頷く。
「じゃあ、遠慮なく…」
 一人用のゴザにふたり並んで座るのは少し無理がある。
 もともとこの花ゴザは、乃亜の手伝いで庭の倉庫を掃除している時に見つけたもので、尚吾から「学生の頃、岩穴で昼寝をするのに良く使った」と、教えてもらい、それを拓海が言われたままに実行したまでだ。
 拓海はヴィンセントに譲る為、花ゴザから身体をずらし、砂浜に座った。それを見たヴィンセントは「一緒でも構わないが…」と、言う。
「いえ…あ、お気になさらずに。おれ、ここでいいですから」
「じゃあ、こうしよう」と、ヴィンセントは身体を横にしてゴザに寝転んだ。
「こうすれば、一緒に寝れるぞ。ほら、ここにおいで」と、枕にした片手と反対の手で拓海を招いた。
 この状況はなんなのだ。と、拓海の動揺は収まらない。
 今度は首を横に必死に振った。

「本当にいいのか?…では甘えさせてもらおうか」
「どうぞ、どうぞ」
「…少しだけ眠らせてもらってもよいか?」
「か、かまいません。ゆっくりお休みください!」
 拓海は土下座のように頭を砂地につけたまま、しばらくの間そのままの格好でいた。やがて胸の鼓動も静まり、波の音だけが聞こえるようになり、拓海はやっと顔を上げ、恐々とヴィンセントの様子を伺った。
 ヴィンセントは仰向けになり、やすらかな寝息をたてている。
 拓海はやっと緊張から解き放され、息を吐いた。同時に、ヴィンセントに聞きたかったことが山ほどあるのに、その機会を失ってしまったことにがっくりと肩を落とす始末。

「もうちょっと話したかったなあ~」
 拓海は乾いた砂浜に身体を横たえ、身体をヴィンセントに向け、仰向けに眠るヴィンセントの横顔をじっと眺めた。

 映画かテレビでしか見たことにない外国の俳優のような彫の深い整った容貌。日本人とは全く異なったコーカソイド特有の光に透き通るほど薄い瞼と仄かな赤みの差した白い肌。そのくせヴィンセントは腕や胸の体毛が少ない。
 一番目立つ漆黒の長い髪は花ゴザの模様の上に黒い波紋のようにうねりながら流れている。
 拓海は長い黒髪の端をそっと手で摘み、自分の鼻先へ運んで匂いを嗅いだ。
 潮の香りと…微かに薔薇の香りがした。

 ヴィンセントさんはイギリス人だから、きっと薔薇の香水なんかを使っているんだろうなあ。貴族って言ってたし…お城みたいな家に住んでいるのかな?使用人とか沢山いて、舞踏会でワルツを踊ったりして…夢みたいな生活をしているんだろうなあ…。そんな人と知り合いになるなんて、なんか得した気分だ…

 目の前の眠るヴィンセントを目の保養にしながら、先程までの夢心地に再び誘われた拓海は、重くなる瞼に逆らえず、ついに眠りに身を任せた。


 次に目を覚ました時には、花ゴザの上に居たヴィンセントの姿は跡形もない。
 あれは夢だったのか…と、拓海は慌ててゴザの匂いを嗅いでみた。…確かに微かな薔薇の香りが残っていた。
 拓海は急いで花ゴザを丸め、駆け足で家路に向かった。
 いつもは見惚れて動かなくなってしまう海を輝かせる落日にも目も暮れず、拓海は砂に足を取られながら松林を抜け、坂道を登り、家路に急いだ。
 庭の花壇に水を撒いている乃亜の姿を見て、やっと一息ついた拓海は、乃亜に先程ヴィンセントと出会った話を聞かせた。
 乃亜は別段驚きもせず、「そう、折角岩穴まで来たのなら、家(うち)までくればいいのにねえ~」と、暢気に微笑む。
「え?ヴィンセントさん、ここから来たんじゃないの?おれ、ここに来たついでに…って思ったんだけど…」
「違うよ。多分泳いで浜辺に寄ったんだね」
「…どこから?」
「それは…ああ、ここからは見えにくいけど、拓海君の部屋からなら見えるよ。兄たちはこの海岸から三マイルばかり離れた島の別荘に住んでいるんだよ」
「別荘?」
「うん、なんか五年ほど前に大手の不動産企業が島全体を高級別荘地にしたらしくてね。家ごとに船着き場があって、陸には自前のクルーザーやボートで行き来するんだ。町の海岸通りにヨットハーバーがあったでしょ?あそこが陸への船着き場なんだよ」
「…みんな…ヴィンセントさんたちはそこに住んでるの?」
「夏だけだよ。日本と違って欧州人の夏のバケーションは長いからね。春先に売りに出されてたこの島の別荘をヴィニー(ヴィンセント)が買ったんだって。兄たちも僕や尚吾に会いたくて仕方ないのかもね。僕も別荘にお邪魔したけれど、とってもオシャレで専用のビーチもあってね。泳ぎ放題で楽しかったなあ~」
「で、でもそこからここまで泳ぐのって大変じゃないの?」
「そんなに大した距離じゃないよ。それに僕たち泳ぎが得意だし…」
「そうなの?」
「…それより、ヴィニーは拓海君に何の用事だったの?」
「え?…」
 乃亜の言葉で、拓海はヴィンセントとのキスを思い出し、一瞬にカッと赤面した。
 ちょうど夕日に紛れて拓海の紅顔は悟られずに済んだものの、あいまいな返事をした拓海は乃亜を置いてひとり家に上がり、二階の階段を駆け登り、部屋へ着くと、後ろ手に鍵を掛けた。
 誰も知らない秘密を持った少年は、それがどんなにつまらないものでも、輝く宝石に見えるものだ。

 拓海は、部屋のベランダから、乃亜が示したヴィンセントが住むという島を探した。
 両端の湾岸道路の曲線が消える水平線を横に移した中央に、小さな島が見えた。
 あの島にヴィンセントの別荘がある、ヴィンセントがあの島で暮らしている…。
 ああ、今すぐにでも行ってみたい。
 ヴィンセントの事をもっと沢山知りたい。そして、おれの事も知って欲しい。

 拓海は自分の口唇を指で触れた。

 この口唇がヴィンセントの口唇と触れ合ったことは間違いないんだ。
 きっと彼にとって、キスなんかあいさつ程度でしかないんだろう。だって車の中で知らない男ともっと激しいキスをしていたじゃないか。
 それでもおれには、こんなにもときめきの味がする。


 帰宅した尚吾に、拓海は今日、ヴィンセントに出会った事を話し、島へ遊びに行っていいかと尋ねたけれど、尚吾の返事は渋いものだった。
「何故拓海がそんなに行きたがるのか、俺にはわからんが…」
「おれ…ヴィンセントさんが…好きになったみたいなんだ…」
「…」
 ノーマルだと信じていただけに、拓海の告白は尚吾には驚きだった。勿論この環境の毒に中ったとも言えなくもないが…
「え?ちょっと待ってくれ。拓海は…ゲイなのか?」
「…」
 世話になっている尚吾にこれ以上、偽りたくないと思った拓海は、自分とRの事を話し、そして、不登校になった原因がRと別れたことにあると、正直に話した。

「そうだったの、拓海君、辛かったね」と、乃亜は拓海の手を擦りながら慰める。
 尚吾はまだ憮然としている。
「拓海の気持ちはわかったけれど…あいつらとは距離を置いた方がいい」
「でも…おれ…ヴィンセントさんが…ホントに好きなんだ。もっと色んな事知りたいって思っちゃ駄目なの?」
「だから…知る必要はないんだよ。あいつらは…」
「ね、尚吾。拓海君が誰を好きになろうが、僕たちが横やりを入れるもんじゃないと思うよ」
「無責任な事を言うなよ、乃亜。拓海は子供だ。それにまだ、一度しか会ってない奴を本気で好きになるなんて馬鹿げてる」
「…僕は尚吾を一目見て、すぐに恋をしたよ。尚吾だって出会ってすぐにキスをくれたね。それから二度目に会った時にセックスをするから覚悟してねって言ってくれたじゃない。僕、すごく嬉しかったんだ。尚吾が本気で僕を欲しいって思ってくれて…」
「乃亜~…そこは、ぼかしてくれ…」
「尚吾さん、そんなこと言ったの?…かっこいい…」
「バカやろ…やぶ蛇じゃねえかよ…」
「尚吾、ヴィニーは大人だよ。拓海君を傷つけたり、遊びで付き合ったりはしないよ」
「乃亜さん、ありがとう!」
「僕は、拓海君に素敵な恋をしてもらいたいんだ。恋は生きるエネルギーになるからね。僕がそうだった。きっと拓海君も素晴らしい未来に生きる力を得られるって思うんだ」
「うん!おれ、頑張るよ」
「頑張って!島に遊びに行ける様にヴィニーに連絡してあげる」
「マジで!ありがと~」
 目の前のふたりがしっかりと両手を握りしめ、感動に酔いしれている様を、尚吾は半分呆れ、そして残りの半分はこの先の不安で占められた。
 この時ほど拓海の若さと我儘さに嫌気が差したことはない。
 だが、乃亜の言い分にも道理がある。
 確かに尚吾は山林の別荘で乃亜を一目垣間見ただけで、魔法にかけられたように、神の御業に屈したように、乃亜の前に頭を垂れたのだから。

 選りにも選ってヴィンセントに惹かれるなんて…。まだ子供の拓海をあいつらが相手するはずはないと、侮っていた俺がアホウだったわけか…
 まさかヴィンセントの奴、本気で拓海の相手をする気じゃないだろうな。するならするでお互いにひと夏限りの恋と割り切ってくれるのなら、こちらも折り合いをつけようが…拓海を傷つけたら、承知しねえからな、ヴィンセント。


 拓海がヴィンセントからの招待をもらったのはそれから三日後で、夕食を招待すると言う事だった。
 夕方、抑えきれない胸の高鳴りにうんざりしながら、拓海はヨットハーバーへ向かう。
 持ってきた服の中で一番マシと思えるジーンズと白のシャツにチェックのサマージャケットを身に着け、乃亜が用意してくれた庭に咲いていた淡い紫がかったピンクのイングリッシュローズの花束を持って、ヴィンセントのボートを待つ。
 約束の時間丁度に、「マーメイド」と書かれたクルーザーが、拓海の居る桟橋に横付けされる。
 橋げたもかけず、ヴィンセントは片足を板に乗せ、拓海に向かって、片手を伸ばす。

「ひとつ言っておくが、拓海…。君が望んだものを私が与えられるかどうか、試すのは君自身だよ」
「うん、わかってる。おれ、ヴィンセントをもっと好きになりたいから、ヴィンセントと一緒に居たいから…島へ行きたいんだ」
「では、手を取りなさい」
 拓海はヴィンセントの手をしっかりと掴んだ。力強く引き寄せた腕の先にはヴィンセントの胸がある。
「ようこそ、私の船へ」
「ヴィンセント…さん」
「ヴィニーで結構」
「うん、ヴィニー…」
「では、行こうか。我らの喜びの島へ」

 舵を握るヴィンセントの脇に立ち、滑るように海を走るクルーザーに揺れながら、拓海はこの先、どんな事があっても決して怖じ気ず、雄々しく立ち振る舞おうと、決意するのだった。


ヴィンセント


夏の名残りのばら 6へ /8へ

人魚姫(♂)は、こちらからどうぞ。  1へ 

本格的に蒸し暑い夏がやってきました~暑い~。次はエロ回?…たぶんなんもない…かも( ´・_・`)


お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

暑中お見舞い申し上げます - 2014.07.18 Fri

そろそろ梅雨も明けるみたいで、これからどんどん暑くなりそうですが、

皆さん、体調に気をつけて、熱中症にならないように十分に水分を取って、

夏を乗り切ってくださいね!

2014暑中お見舞い

イラストはヴィンセントと拓海の水中デートです。

小説の方は…もうちょっと待っててくださいね。つい借り暮らしのアリエッティを観てしまって…書いてないんですよお~(;゚Д゚i|!)

影蛍 - 2014.07.16 Wed

イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。


よしなり


影蛍

聞いてくれるかい?
昔、俺が住んでいた田舎には、数年に一度、蛍を見る事ができる夜があるんだ。

その頃の田舎は下水道なんてもんはなく、どこの家にも堀が繋がれ、そこで洗濯や野菜を洗い、炊事場で使った残り水も流していた。それでもメダカは手ですくうほど居たし、釣り糸を垂れれば簡単に川魚が釣れるし、子供たちは我先にその堀で泳ぎまわっていたのだから、十分に綺麗だったのだろう。
夏は捕る気が失せる程、蝉やかぶと虫やくわがたが杏や柿の木に鈴なりに留まり、蝉の声で話声が聞こえない程、昼間は五月蠅かった。
夜は夜でウシガエルや虫の音で寝付かれぬほどに賑やかだ。
麻の蚊帳に花ゴザを敷き、片手でうちわを仰ぎながら、明日何をして遊ぶかを考えながら眠りにつく…。

大人になった今、忘れられない初夏の夜がある。

      ◆

あれはまだ俺が高校生の頃だった。
いつものように夕食と風呂のあと、ひとり部屋の机に向かい期末の試験勉強をしていた。
古い母屋とは別に増築された自分の部屋からは、ガラス戸のすぐ外の庭が見え、その向こうは深い堀が横切っていた。
堀の向こうには見渡す限りの田植えを待つ水田。西の空に赤く膨らんだ満月の月が霞んだように登っていた。
俺はその月をもっと味わいたくて、部屋の灯りを消した。
田舎の夜は本当に暗い。
母屋の灯りも勿論届かず、自室の壁に貼った本のふろくの蛍光の天の川のポスターが淡く輝いているだけだ。それも時間が経つと段々と暗くなり、そのうちに自分の居るところが部屋か外もわからないほどの暗闇になる。

月はまだ赤い。

俺は網戸を開け、下駄を履き、庭先へと歩いた。
相変わらずの虫の声は、まるで仲間同士張り合っているかのように聞こえる。
足元に気をつけながら庭を歩くと手に触れるものがあった。目を凝らすと少ししおれたアジサイが仄かに白く浮かんでいた。
もう梅雨も終わる頃だな、と、慣れた雨の匂いから乾いた風に変わった空気を吸い、俺は夜空を見上げた。
赤い月の光の届かぬ天上は星の瞬きがまぶしい。

その頃、俺は宇宙飛行士になりたいと思っていた。
同じくらい無理だと判っていたけれど…

「…さと君」
誰かが俺の名を呼んだ。この暗闇の中に誰かがいるのか?
「誰?」
「…覚えているかな?…僕だよ」
声の主の顔が暗闇からうっすらと形を現した。
その形が俺に近づき、上半身がはっきりと見えても、その顔に見覚えはない。
多分、俺と同じ歳の頃だろうが…、いくら考えても覚えがない。

「誰だよ」
「やっぱり、この恰好じゃ無理だったかな。…さまにお願いして清里くんと同じくらいに成長した姿にしてもらったんだけど…僕だよ。緒方よしなりだよ」
「…よし、なり?」

確かにその名前は覚えていた。小学生の頃の同級生だった奴の名前だ。
だが、その子は五年生の時に死んでいた。

 ◆

先天性の心臓疾患だったと聞いていた。
ふたつのクラスしかない田舎の小学校では、知らない同級生はいない。
よしなりは、一、二年は別のクラスで三年からずっと一緒だった。だが彼と特別仲の良い友人はひとりもいなかった。
彼はどこからどうみても弱々しい病人だった。
特に目を引くのは、白い顔の色だった。白と言うよりも全く血の気の無い青ざめた肌と紫色がかった口唇。薄い眉毛といがぐり頭。そして、生気のない薄い目の色。
なにもかもが他の生徒とは違っていた。
気味が悪いくらいの弱々しさは、さすがの乱暴者もからかうのさえ憚られるほどだった。
彼は夏でもセーターを着ていた。冬はもこもことした厚手のチェックのジャンバーに紺色のマフラーを教室の中でも巻いていた。

よしなりは欠席が多かった。体育も遠足も一切参加しなかった。
彼の送り迎えには必ず彼の祖父が付き添っていた。
おじいちゃんはよしなりをとても可愛がっていた。そして顔が合う度に俺達に「仲良くしてやってくださいね」と、言った。
俺達はうしろめたい気持ちで頭を下げていた。
よしなりを苛める者はいないが、決して仲よく遊んだりはしたことがなかったからだ。
よしなりは授業中でもよく具合が悪くなった。悪くなるとよしなりは机に腕を組んでその腕に顔を突っ伏して動かなくなる。そうすると先生は職員室へ行き、電話でおじいちゃんを呼ぶのだ。
具合の悪そうなよしなりを背中におぶったおじいちゃんは、教室の俺達に一礼して帰っていく。
こういう状況では、仲よくしたくてもその機会はなかなか巡ってこない。
欠席の多いよしなりは勉強もできなかった。
考えてみれば生きることだけで大変なわけで、家族も勉強よりも少しでも長く生きて欲しい一念だったのだろう。だが、俺にそんなことがわかるわけもなく、頭の悪い奴だとレッテルを貼り、宿題のドリルさえやってこなかったことを責めたこともある。

昼休み、生徒のほとんどは運動場か中庭で遊んで過ごす。
俺は自分の決めたところまでドリルをやってしまいたかったから、教室に残って問題を解いていた。斜め前のよしなりも遅れた宿題に頭を抱えていた。
先にドリルを終えた俺はよしなりの机の前の席に座り「どこがわからんの?」と、聞いた。
よしなりは真っ青な顔を俺に向けた。口唇を噛んでいたのか、いつもの紫色が赤く腫れて見えた。目元が少し腫れ、涙を浮かべていた。
俺は少し驚いた。
「どうした?」
「ここが…わからん」
指を指したのは分数の応用問題だった。
「ここはさあ…」
俺はよしなりの涙に気づかないふりをしながら、その問題を丁寧に教えた。が、よしなりはなかなか呑み込めず、結局昼休み中をその問題ひとつに費やしてしまった。
よしなりは「ごめん、清里くん。昼休み、つぶしたね」と、弱々しく言った。
当時、田舎で苗字に君を付けて呼ぶ生徒は稀だった。苗字で呼ばれるのが、なんか他人行儀で嫌だった。
「気にすんな。それに、レイジでいいよ」
「…うん」
よしなりもまた、自分の不安定な居場所に心細かったんだろう。
決して人見知りではなかったけれど、共通の話題もなく、運動場で走り回る事も出来ず(当時影鬼という、陣取りごっこにも似た男女合わせた追いかけっこが、一番の人気だった)手持無沙汰につまらないことも多かっただろう。 
迎えに来たおじいちゃんに、癇癪をぶつけて居た場面も見たことがあった。それでもランドセルを背負い、おじいちゃんに手を引かれ俯いて帰るよしなりを見て、同情しない生徒はいなかった。

彼との思い出は多くなかったが、ひとつだけ印象的な出来事がある。
或る時、近所の空き地でドッチボール大会をやろうと同級生10人ほど集まって決めた。
日時も決め、お菓子やジュースを持ってきて、お祭り気分で始めた企画だ。
試合が始まった頃、よしなりとおじいちゃんが空き地にやってきたんだ。
試合をする空き地とよしなりの家は地域が違い、歩いてくるには遠い。決して偶然に通りかかったはずもない。
ふたりの姿を不思議に思ったが、それよりも目の前の試合に集中していた。
試合は伯仲した。回りの応援の声も大きくなっていった。
「清里くん、がんばれ!」と、よしなりの声が聞こえた気がしたが、試合に必死の俺には確認する余裕はなかった。

よしなりは死んだ。六年生を迎える直前の春まだ浅く、寒い日だった。
先生は「緒方君は心臓の手術をしましたが、残念ながら今朝がた亡くなりました。放課後、みんなでお別れを言いに行きましょう」と、涙声で言った。

緊急手術だったらしい。心臓の具合は相当悪く、どう転ぶかわからないが、手術をしなければならない状況だった。
心臓の方は上手くいったが、術後、肺不全になり、そのままよしなりは死んでしまった。
放課後、クラスみんなでよしなりの家に行った。
読経が聞こえていた。
俺達全員が入れるほどの部屋はなく、俺達は縁側に立って、広間に置かれた棺桶とよしなりの写真の飾られた祭壇を見上げた。
先生は代表で部屋に上がり、御棺に眠ったよしなりを見ただろうが、俺達は二度とよしなりを見る事は出来なかった。
通夜の読経が終わり、俺達は一礼して、帰ろうと歩き出した。
その時、よしなりのおじいちゃんが祭壇のよしなりの遺影を手に取り、俺達の居る縁側の端にきて、両手に持った遺影を俺達に向け「よしなりを忘れんでください!」と、泣きながら叫んだのだ。何度も何度も…
必死の形相だった。それを見た瞬間俺も泣きそうになった。誰もがそうだっただろう。
その時、ある女子が「バカみたい。あんな泣いて」と、呟く声が聞こえた。俺は「バカヤロウ」と、叫び、そいつを殴りたかった。だが、それ以上に、今の呟きがおじいちゃんに聞こえなかったのかと案じ、もう一度おじいちゃんを振り返った。
おじいちゃんは俺達が庭から出て見えなくなるまで、よしなりの遺影を両手に持ち上げたまま何度も俺達に頭を下げた。

帰り道、おじいちゃんの泣き顔が俺の頭から離れなかった。あんなに可愛がっていた孫を失った悲しみとは、どんなものなんだろう…と、哀れに思った。
もっとよしなりと仲よくすれば良かった。

しばらくの間、クラスの男子たちはよしなりの空いた机を黙って見つめたり、女子は花瓶に花を活けてたりしていたが、新学期を迎え新しい教室になる頃には、よしなりの話題をすることもなくなっていた。


      ◆

そのよしなりが大きくなって、目の前にいる。
あの頃とは違って、背も高いし、声も低い。
肌の色は相変わらずだが、髪の毛は俺より長いくらいだ。
結構良い男になったじゃないか、と、俺は心の中で喜んでやった。

「じゃあ、おまえはあのよしなりだって言うのか?だったら、おまえ幽霊?」
「そうだよ」
「お盆でもないのになんで下界にいるのさ」
「…おじいちゃんが死んじゃったんだ。そんで、迷わないように迎えにきた。で、ついでに君のところへ寄ってみた」
「ついでに…か?」
「ゴメン、気ぃ悪くした?」
「いや、わざわざ俺んちに来てくれたことが驚きだね」
「でも、そんなに驚いてないね」
「前に、俺もばあちゃんの幽霊に会ったことがあるからね」
「そうなんだ。良かった…怖がられて逃げられたらどうしようかと思った」
薄く笑った顔には、昔の面影があった。

「そっか…おまえのおじいちゃん、亡くなったのか…。おまえのこと、すげえ可愛がってたよな」
「うん。だから、特別に僕が迎えにきたんだ。いつも僕がおぶってもらっていたからね。今度は僕がおじいちゃんをおぶって、天国に連れていくんだ」
「そうか…。天国か…それってさ、いいところかい?」
「そうだね…。悪くないよ。でも…」
「なに?」
「僕は、清里くんと一緒に影鬼したかったし、中学も高校も一緒に生きてみたかったよ」
「…」
「あの頃はあんまり素直じゃなかったから、言いたいことも言えなかったけど、本当は清里くんと友達になりたかったんだ」
「友達だよ。…ずっと友達だ」
「…ありがとう」
「俺の方こそ、ありがとな」
よしなりは少し恥ずかしそうに下を向いた。
僅かだが真白い顔に赤みが差したようだった。

「じゃあ、おじいちゃんが呼んでるから、行くね」
「また、来いよ。お盆には帰ってくるんだろ?」
「帰るけど、きっと誰にも僕の姿は見えないよ。今夜は本当に特別なんだ」
「そうか…残念だよ。一杯話したいことあったのにな」
「僕も…。でももしかしたら、清里くんならわかるかもね。僕が傍に来たこと」
「おい、よしなり。いいかげんレイジって呼べよ」
「ふふ、じゃあね、清里くん」

よしなりは笑いながら、俺の目の前から消えていった。
その後を追うように、緑青色の蛍光がゆらりと飛び、天に昇り、ゆっくりと何度も瞬いた。

さよなら、よしなり。
また、会おう。
きっと…俺にはおまえの姿を見つけられるから。

 
2014.7



何故か、昨日からこの友人の事がやたらと思い出されて…これは書けってことか?と、思い、急遽、今日の午後に書いてみたの。やっぱりBL的にするべきかなと思い、半分はフィクションです。
今度、蛍を見たら、よしなりくんを思い出すかもしれない。


お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

夏の名残りのばら 6 - 2014.07.11 Fri

6
イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。

拓海後姿
6、微熱少年の禍

 七月も半ばになり、夏日が続いている。
 拓海が尚吾の家に来てから、二週間が経った。
 そろそろ拓海の高校も期末テストが終わり、生徒たちは夏休みの予定に浮き足立っていることだろう。
 それもこれも、不登校の拓海には関係のない話だ。

 学校に行かなくなった頃、友人たちの心配や励ましの連絡が嬉しかった。それも十日も経つと、メールの件数はまばら。そして、ひと月にもなると全く来なくなった。
 自身の付き合いの拙さだとわかっているが、寂しかった。
 Rでさえ、二度ほどのメールしか来なかった。もちろんこちらが返事を返さなかった所為だとはわかっている。それなのに相手の冷たさを責めていた。
 世界が自分の都合のいいようになればいいのに…ひとつも思い通りにならないことに、理不尽だと腹が立って仕方がなかった。
 そんな自分が大嫌いで…もう自分の未来なんかどうでもいいと思ったあの頃の自分を、少しだけ笑える日がきたのだと、拓海は部屋のベランダから覗く水平線を眺めながら思った。

 そうだ。なにもかもが変わったのだ。
 尚吾の家に足を踏み入れた時から、拓海の生きる世界は別次元へと移行したのだ。
 そうに違いない。だって、目に映る全てがこんなにも輝いて見える。
 今までのつまらない世界、ひずんだ家庭、色の無い自室に居た自分に同情するとしよう。


「おはよ、拓海君。今日もいい天気だよ」
「おはよう、乃亜さん」
 屈託のない乃亜の笑顔は、一日を始める拓海の元気の活力だ。
 朝七時に起き、着替えて一階に降りる頃には尚吾はもう出勤して家にはいない。夜、尚吾が帰宅するまで、拓海は乃亜とずっとふたりきりになるわけだ。
 正直、乃亜のあまりの可愛さに刺激され、欲情することも度々あるけれど、それは尚吾と乃亜がどんな風に愛し合っているかと妄想しての話で、基本拓海自身が受け身の為、乃亜をどうかしたいとはあまり思わない。だがもし乃亜を寝取ったら、尚吾がどんな風に自分と乃亜に罰を与えるのか…などの妄想は止められない。

 変態だな、おれ。と拓海は可笑しくてたまらない。それが楽しいから仕方がない。

 だが可愛いエプロン姿で部屋中をパタパタしている乃亜を見て、妄想ばかりしている暇もなく、拓海も乃亜の指示で庭の掃除や畑の水やり、野菜の取り入れなどを手伝う。
 日差しは厳しく、しばらく家にこもっていた拓海には堪えることも多いけれど、何かをやり遂げた後の汗には達成感があるし、「おつかれさま」と乃亜がもてなすごほうびには喜びがある。
「このアイス、あたらしい味が出てたから買ってみたけど、意外と美味しいね」
「うん、そうだね」
 縁側で乃亜とふたりで食べる氷菓子の美味しさと言ったら…
 これで口唇にキスでもくれたら、もっと頑張るのに…と、拓海は乃亜のすべすべした頬っぺたに触れたい衝動に駆られるが、乃亜の方はと言えば、拓海を警戒するどころか、かわいい弟かペットのように猫可愛がるものだから、その無防備さに、拓海の方が手を出す気も委縮する。

 昼食が終わった午後、乃亜は自宅の裏庭のログハウスにこもり、夕方までアクセサリー作りに専念する。
 拓海は勝手に「乃亜のオシャレ工房」と呼んでいるが、簡単な作業場と売り場兼用のログハウスは乃亜らしい自然な彩光と飾り気のない落ち着いたインテリアで整えられている。自然の音と鳥の声だけの心地良い環境に、宣伝もなく高台の高級住宅街の所為か、早々賑わうこともないが、近所の評判も良く、憩いの場所として穴場になり、そこそこの売り上げはあるらしい。

「どれも乃亜さんの手作りなんだろ?乃亜さん、すげえ器用じゃない?」
 アクセサリー作りがいつもドジを踏むと反省しきりの乃亜からは考えられないほどの、細かな作業であることは、シロウトの拓海にもわかる。
「うん、時間を掛けてゆっくりやれるものは、割とできるみたい。でもお料理とかって時間の配分が大切じゃない?急かされると何が何だかわかんなくなっちゃって…尚吾に迷惑かけるの。でもね、ゆっくりできる煮込み料理はいつもおいしいって褒めてくれるんだ」
「そう…」
 尚吾の話をする乃亜の幸せ一杯の顔を見ていると、嫉妬や変な横槍なんてものがさっと消えてしまうからまた不思議なものだ、と、拓海は思う。

「ねえ、拓海君。気に入ったアクセがあったらプレゼントするよ」
「え?いいの?」
「僕の使う材料はね、天然のモノばかりなんだ。特に貝殻は僕が海で潜って拾ったものなんだよ。貝殻ってね、大事に身につけていると自分の想いが貝の中に住みつくんだよ。その想いが叶うと、貝殻が割れるって…。プロミスリングみたいでしょ?」
「…へえ~」
「だから、拓海君もどれか選んで身に着けて願ったら、叶うかもしれないね」
「…」
 拓海は青い刺繍糸を編んだ紐に繋がれた小さな巻貝が付いた腕輪を手に取った。

「拓海君の願いが叶いますように…」
 乃亜はそう呟きながら、拓海の右手にその腕輪をしっかりと結ぶ。
「ありが、とう…」
「何を祈るのかは拓海君次第だよ」
 ニッコリと笑う乃亜に、拓海は乃亜の様に幸せになりたいと願う。でもそれはきっと、祈っただけでは叶う事はないのだろう。
 
 まずは相手だよな。でも、尚吾さんみたいな人は簡単には見つかりそうもないなあ。

 午後からの乃亜はアクセサリー作りや客の応対で忙しく、拓海は家に居るのも飽きて、尚吾に教えてもらった海岸で泳いだり、釣りを楽しんでいる。それにも飽きると、乃亜が買い物に使う原付スクーターを借りて、町の図書館へ行く。

 勉強道具は持ってこないつもりだったが、知らぬ間にバックの中に大学入試の問題集が入っていた。きっと母親が勝手に入れたのだろう。未だに受験を諦めていないのかと拓海はその赤本を見てうんざりした。
 父親は今年の受験は諦めて、浪人をしてもかまわないと言ってくれた。
 どちらにしても今年無理に受験しても希望の大学には合格しないであろう。もともと拓海には希望の大学などなかった。拓海に見合う大学をと選んだのは母親だ。
 父親と母親の考える未来のレールはどちらも拓海の幸せを考えて敷いてくれているものだろう。そして、見事に幸福を得られるとしても、それは両親が望んだ形であり、拓海が選んだ未来ではない。両親が望む幸せを、何故子供が必死になって叶えてやらなければならないのだ。拓海はそれが単なる子供の反抗心だとは思えない。
 それでも、勉学を嫌いになったわけじゃない。知らない事を知ることは面白いし、楽しいのだ。
 強制さえ、されなければ…


 図書館の帰りには、地元のヨットハーバーへ寄る。
 二階は見晴らしの良い喫茶店。そこから見る海の景色は素晴らしいが、コーヒー一杯六百円もするものだから、拓海は桟橋で自販機のジュースを飲む。
 ハーバーとしては小さい施設だが、白いセーリングクルーザーやモータークルーザーがズラリと並ぶ光景は、海の無い街で育った拓海には憧れの情景だ。

 印象派の絵画のような夕日が海に沈む間際、水平線に帆を張ったヨットが何艘も進んでいる姿ときたら…映画のワンシーンのようで、呼吸をするのさえ忘れ、拓海は高鳴る自分の胸をじっと押え、恋をする者の様にうっとりと眺める。

 さて、暗くなってきたから帰ろうとした拓海は、青いラインの入った「マーメイド」と書かれたモータークルーザーから降りてきた一人の男の姿に驚愕した。

 男は乃亜の長兄であるヴィンセントだった。
 ヴィンセントは桟橋で待っていた一人の少年…拓海とそう違わないであろう…の肩を組み、駐車場の方へ歩いていく。
 拓海はふたりに気づかれぬ様にこっそりと後を追いかけた。
 駐車場の白いスポーツカーに乗り込んだふたりは当然の様に抱き合ってキスをした。そしてサングラスを掛けたヴィンセントは柱の陰に隠れて盗み見をしている拓海の方をチラリと振り返り、そのまま猛スピードで駐車場を後にしたのだった。

 拓海は慌ててスクーターに乗り、自宅へ帰った。
 キッチンでは乃亜が忙しそうに夕食の用意をしている。
「拓海君、おかえり~。ごめんね、お仕事が忙しくて、食事の用意が遅くなっちゃった~」
「おれの方こそ…手伝うって約束してたのに、遅くなってごめん」と、乃亜の元に駆け寄る。
「今夜は目玉焼き乗せハンバーグだよ」
「おいしそうだね」

 拓海は先刻見た光景を乃亜に話すべきか迷い、とうとう口には出さなかった。本当は喋りたかった。こういう事はひとりで考えるよりも、人に話した方が考え込まなくて済むからだ。だが、乃亜は五人の兄たちを心から敬愛している。
 早くに亡くなった乃亜の母の代わりに、兄たちが乃亜を愛情を込めて育てたのだと言う。
 ヴィンセントの行動を乃亜がどう思うのか、拓海は知りたい気がしたが、無駄に乃亜を不安にさせる必要もない。
 それに…ヴィンセントがあの少年と本気で付き合っているのか遊びなのかはわからないが、どちらにしても拓海のヴィンセントへの憧れは変わらない。
 いや、拓海はあの少年を羨ましいと思った。
 ヴィンセントに寄り添うあの華奢な少年が、自分だったらどんなにいいのだろうと、遊びでも構わないからヴィンセントと寝てみたいと、強烈に願ったのだ。

 夜、ひとりでベッドに寝ていると、ヴィンセントとあの少年のキスの場面が繰り返し思い浮かび、そして車が消えていった先のホテルやら、その二人の行為を妄想した。
 いつのまにかあの少年の姿が自分にすり替わり、ヴィンセントに抱かれて、良い声を上げているのだ。
 現実に戻った時の惨めな気分ときたら…思わず涙が滲む。


 風もなく晴れた午後には、海辺へ向かう。勿論泳ぐ為だ。
 拓海は泳ぎには自信がある。
 物心が付くか付かない頃から、スイミングスクールへ通っていた。
 タイムもほどほどだし、強化選手にも選ばれなかったけれど、タイムを気にせずにずっと泳いでいられる遠泳が好きだった。だが、高校受験の時に母親の命令でスクールを辞めた。
 否、母親を責めるのはお門違いだ。すべては母親に逆らえなかった拓海自身にある。
 本当に好きなら、続けたかったのなら、誰が何と言っても辞めるべきじゃなかった。
 拓海はあの時のことだけじゃなく、これまでの自分の人生にも後悔し続けている。
 結局、高校ではバトミントン部に入部したけれど、弱小部の所為か部員たちに真剣な目標もなく、部活動もお遊び程度で、結局Rとの情事ばかりに熱中していた気がする。

 もういい加減うんざりなんだよな。と、拓海は周りのすべてに嫌気が差す。

 
 尚吾から秘密基地だと教えてもらった海岸の岩穴は四、五人がなんとか寝れるほどの広さで、泳ぎ疲れたらそこにゴザを敷き、昼寝に興じる。腹ごなしの携帯用の菓子とペットボトルの水も忘れない。陽が傾くころには、いい具合に疲れて家路につくのだ。

 そんな或る日の午後、空には雲一つない青空に、拓海は気持ち良く海で泳ぎ、疲れては岩穴で休憩を取りながらウトウトと浅い眠りについていた。
 目が覚めた時、目の前には何故かヴィンセントが立っていた。

「…ぎゃあぁああ!」
 拓海は尻を着いたまま岩穴の壁に背中を擦るまで後ずさった。
「ごきげんよう、拓海」
「あわわ…ああ…の…」
「何を驚いている。私の顔を忘れたのか?」
「い、いえ…あなたはヴィ、ヴィンセントさんです!驚いたのは…なんでここにあなたが居るかって事でしてっ!」
「コテージから泳いできたのだが…なにか問題でも?」
「も、問題ないけど、び、びっくりするでしょ!」
「それは…驚かせて悪かったな」
 あっけらかんと笑うヴィンセントに魅せられ、拓海の胸は高鳴る一方だ。
「あ…あの、どうし…」
 狼狽する拓海には一切構わず、ヴィンセントはいきなり拓海の前に屈み込むと、拓海の口唇にキスをした。

 え…?一体どうなってんの?
 …わけわかんねえじゃん…。

 グレーのタンクトップに黒いハーフパンツ。その恰好で泳いできたのかとか、長く輝く黒髪に服も少しも濡れてはいないとか、一体どこから来たのだとか、山のような疑問もヴィンセントのくれたキスで、すべてどうでも良くなってしまった拓海だった。


夏の名残りのばら 5へ /7へ

人魚姫(♂)は、こちらからどうぞ。  1へ 

台風が去り、夏の気分になってきました~。よっしゃ、泳ぐぞ~!…嘘です(*>∀<)ノ))★

お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村



夏の名残りのばら 5 - 2014.07.05 Sat

5
イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。


   ↓次男、ヨシュア・キース
ヨシュアバイク2

5、激しい風が海の彼方から

 その夜、拓海はベッドに横になってからも、随分と寝つけなかった。
 今日一日、驚きとときめきの連続で、今まで生きてきた日々の平凡さと比べたら、まさに青天の霹靂ほどの衝撃である。

  目を閉じて、あの六人の兄弟を想う…
 末っ子の乃亜の可憐な可愛さと、人を思いやる優しさに拓海はこんな純粋な大人がいるのかと感動した。
 五男のリオンは無邪気で大らかな乃亜と違って、無口で愛想はないけれど、絵が好きで、持っていたスケッチブックに拓海の肖像画をさらさらと描きあげ、「あげる」と、手渡してくれ、嬉しかった。
 双子の三男のヤンと四男のルイはフリーのクリエイティブディレクター。傍から見ても仲の良い兄弟だと思った。
 スタイル抜群の次男のヨシュアは、主にファッションウィークのショーモデルとして活躍している。その割に人懐っこく、一番気軽に話しかけてくれた。
 黒髪長身でひときわクールな長男のヴィンセントは、イギリスの第五代エクスマス子爵。
 違う次元に住んでいるかのように思え、近づき難かったけれど、神秘的で一番印象に残る人だった。
 
 拓海はひとりひとりの名前と顔を照らし合わせながら、先刻彼らと交わした話の内容を繰り返し思い返した。

 くだらなくバカな事を言って、呆れさせなかっただろうか。
 子供じみた質問で、幻滅させなかっただろうか。
 みんなみたことないくらい綺麗な人だったなあ…。
 特にヴィンセントさんは、昔、宝物にしてた碧いビー玉みたいな目の玉してて、こっちを見られるだけで緊張して手が震えてしまった。子爵って…貴族のことだろ?わかんねえけど、凄いんだろうな。お城とか持ってるんだろうか。
 考えてみりゃ、それもこれも乃亜さんが尚吾さんの恋人だからだよな。
 尚吾さん、凄い人たちと親戚付き合いしているんだな。
 一体どうやって乃亜さんと知り合いになったんだろう…
 
 尚吾の彼ら兄弟への対応にも拓海は驚いた。
 何ひとつ違和感もなく、家族同然の如くリラックスしていた。
 それ以上に驚くのが、兄弟の尚吾への好感度だ。
 口ではケンカをしているのかと心配するほど毒づきながらも、眼差しは優しく、尚吾と掛け合いで話すのが楽しくてたまらなそうだった。
 食事の途中で理容が得意だと言うヤンが、縁側のテラスに尚吾を連れ出し、彼の髪を切り始めた。聞けば三か月に一度、ヤンはここに来て、尚吾の理容をするのだと言う。
 尚吾は「あんまり短くするなよ。この間も取引先の客から、新入社員みたいに若くなったってからかわれたんだからな」と、鋏を持つヤンに文句をたれる。
「若く見られるんだから、いいじゃん」
「そうだよ。尚吾は短めの髪が良く似合う」と、鏡を持つルイがのんびりと笑う。
「三十路の男にはそれなりの貫録が必要なの!」
「尚吾はどんな髪型でも最高にステキだよ。でも、僕はいつまでも若い尚吾でいて欲しいかも」と、乃亜が鏡に映る尚吾を見て、にっこりと微笑むものだから「そうか?乃亜がそう言うんだったら…まあ、いいけど…」と、とうとうヤンに委ねることになる。
 結局ヤンの御手のままに尚吾の髪型は誰が見ても若くていい男風に決まったわけだが、その時間の穏やかな空間に拓海もなんだか癒される気がした。

「尚吾さんは、皆さんに好かれているんですね」
「まあ…あいつは特別だからな」
 リビングのテーブルから尚吾たちの様子を眺めていた拓海は、誰ともなく言ったつもりだったが、向かいに座るヨシュアが拓海に答えた。
「特別…ですか?」
「それでも、初めて尚吾を見た時は、そりゃあ随分と憎んだもんだぜ」
「え?どうして?」
「乃亜は俺達兄弟のアイドルで、大事に可愛がっていたからな。それをいきなり黙って寝取られたんだ。怒って当然だろ?」
「そう…なんだ」
「尚吾は色男だから、遊びで乃亜と付き合っているんじゃないかって、そりゃ心配したものさ」
「じゃあ、どうして…尚吾さんを許したんですか?」
「…拓海、おまえ、好きな人を救う為だったら命を賭けられるか?」
「え?」
「恋人の命を救うために、自分の命を差し出さなきゃならない…それを口だけではなく、実行できるか?って事だよ」
「…わからない。いや…できないと思う。だって、いくら好きな人の為でも自分が死んだら、意味ないじゃん」
「それが普通だよな。いくら口で命を賭け守るって誓っても、本当に命を捧げる奴なんてそんなに居るもんじゃない。でも、尚吾は乃亜の為に自分の命を捨てた。その覚悟を俺達は目の前で見せつけられた。だから…俺達は尚吾を他の人間とは違う特別な奴だと認識している」
「命を賭けた?乃亜さんの為に?」
「簡単にできるもんじゃないだろ?」
「うん」
「羨ましいとも思うだろ?」
「うん」
「俺達も同じく、あいつらが羨ましいんだよ。なあ、ヴィンセント」
「…そうだな。だが、愛とは感情の産物だ。決して永遠に持続するものでもない。信じるという感情は不安定で、簡単に裏返ってしまう。…未来永劫、尚吾が乃亜を裏切らないという保証はどこにもない」
「…」
 ヨシュアやヴィンセントの言葉は、拓海には難しかった。
 命を賭ける意味も、永遠の愛の意味も、拓海の淡い恋とは程遠いものに思えた。


 あまりに寝付かれず、拓海は喉の渇きを癒そうと部屋を出た。夜は深い。
 階段を降りようとした時、尚吾と乃亜の寝室から僅かだが甘い声が聞こえた。
 そう言えば、今日は尚吾と乃亜が最初に出会った記念日だと、誰かが言っていた。その夜に睦み合うのは当然と言えば当然であり、拓海はそれがいやらしいとは感じなかった。ただ、乃亜の快楽に酔った喘ぎ声が、羨ましくてたまらない。
 命を賭ける程に尚吾に愛される乃亜…。
 美しい兄弟たちに可愛がられ、今でも心配されている乃亜…。
 羨ましすぎて、憎しみも沸いてこなかった。

 壁ひとつ向こう側で、愛し合う理想の恋人たち。
 自分はあんなに良い声を上げていたんだろうか。
 Rとの情事はただ性欲を満たすだけの愛情のない行為だったのではないだろうか…と、拓海は自分とRとのセックスを思い返した。そして少しも納得するものではなかったと落胆した。
 階段に腰かけ、しばらくの間、交じり合うふたりを想像してみた。だがどう描いても、拓海が満足する快楽は味わえなかった。

 おれには愛する意味がわからないから、本当の快楽も理解できないのかもしれない。


 翌日、寝付くのが遅かった所為で拓海は寝過ごしてしまった。
 時計を見ると間もなく十一時である。
 Tシャツとジーンズに着替えて、一階へ降りてくると、リビングで寛いでいる尚吾と乃亜が声を掛ける。
「おはよう、拓海君」
「今日は日曜だから御小言は言わないでおくが、明日からは一日のスケジュールを決めて、健康的に過ごしてくれよ」
「わかりました…。ごめんなさい」
「じゃあ、食事の用意するね。拓海君も手伝ってくれる」
「うん」
「尚吾はああ言ってるけどね、休日は僕らもブランチなの。だから拓海君も寝坊しても構わないよ」
「…」
 爽やかに笑う乃亜を見ると、昨晩のふたりを思い出し、拓海は赤面する。
「どうしたの?拓海君」
「なんでもないよ、乃亜さん。そうだ。おれ、ここに居る間は、家事も覚えたいから、色々こきつかってください」
「わあ、うれしいな。じゃあ、拓海君と一緒に僕も頑張るからね」
 拓海の両手をしっかり握りしめて、満面の笑みを浮かべる乃亜の可憐さと言ったら…尚吾の前であっても思わず頬が緩んでしまう。

「拓海~。飯が終わったらちょっと外に出ないか?ずっと家で過ごしてもつまらないだろう。近所を案内するよ」
「う…ん」
 尚吾の視線がきついは牽制のつもりなのか?
 相当の妬きもち焼きだな~と、拓海は呆れるが、乃亜がこんなに可愛いのでは仕方がないのかもしれない、と、逆に尚吾を不憫に思う。

 食事の後、拓海は尚吾に海辺への近道を教えてもらった。
 急な坂になった裏道を降り、松林を抜けると五分も経たぬうちに白波打つ浜辺へと着く。
「ここは地元の奴らもあまり知らない浜だから、気兼ねなく泳げるし、あちらの岩場は海釣りを楽しめる。ああ、足場には気を付けろよ。それから、ここからは見にくいけれど、あの小さな崖の下には小さな岩穴があって、ふいな雨宿りなんかには便利だ。学生の頃はよくみんなで遊んだもんだぜ。…ロクな遊びじゃなかったけどな」
「へえ~、尚吾さんでも不良だったことあるの?」
「大人にわからないようにワルぶって秘密主義になるのは、思春期の特権だと思っていたよ。自分でもわからない熱情に振り回されたり…その居場所があの岩穴だったりねえ…ちょっぴりしょっぱかった気もするけど…」
「ね、尚吾さん」
「なんだい?」
「昨日…ヨシュアさんたちが言ってたんだ。尚吾さんは命を賭けて、乃亜さんを救ったって。それってどういう事があったの?…おれには、命を賭けてまで愛すると言う意味が、わからないんだ」
「…難しい事じゃないさ」
「え?」
「もし、大海原で愛するふたりが小舟に揺られ、舟を漕ぐ櫂もなく、食べ物もない。後は餓えて死ぬだけ。神様がどちらかひとりだけを助けてやろうって言われたら…俺は迷うことなく、愛する人を救ってくれと祈る。…それだけのことだ」
「でも、それを思う事と実際にやるのは違うよね」
「俺はただ…乃亜に死んで欲しくなかったんだ。俺が死んでも乃亜が生きてくれたら、俺の命は報われるって…あの時は思った。…まあ、俺も乃亜もこうやって生きてるし、あれほど必死な自分がいるんだと、自分で驚いたし…。だけど、愛ってもんは天気みたいにコロコロ変わるものだから、またあの時と同じように命を賭けられるどうかはわかんねえぜ」
「…ヴィンセントさんも、おんなじようなこと言ってた」
「ヴィンセントが?…ふ~ん。まあ、いいけどさ、拓海。あの兄弟は魅力的かもしれんが、あまり関わりあうなよ」
「なんで?」
「…あいつら揃いも揃ってゲイだから、ノーマルなおまえに感染したら困るだろ?」
「…尚吾さん」
「なに?」
「自分を卑下するようなことは言わないでくださいよ」
「え?」
「おれは尚吾さんがゲイでも、尊敬してるし、乃亜さんとずっと仲良く愛し合って欲しいって思っているんだ。だからゲイとかノーマルとか…そんなの関係ないし」
「…そりゃそうだな。俺が悪かったよ、拓海。俺だって、あいつらの事は好きだよ。乃亜の兄弟だし、今じゃ大事な家族だと思っている。だけど…まあ、あいつらは…少し変わっていて…。いい奴らに違いないけど、なにしろ手が早いくせに、火遊びばかりで…本気で恋愛をする気はないんだ。遊び慣れてる相手ならそれでも構わないんだろうが…おまえはシロウトだし、まだ高校生だからな」
「心配ないよ。あの人たちが、おれみたいなガキを相手にしてくれるわけないじゃん」
「…」
「おれ、ここが大好きになりそう…」

 眼を閉じ、両手を広げ、気持ち良さ気に海風に身体を晒している拓海を眺め、尚吾は自分の青春時代を思った。

 刺激的な体験こそが、一番欲しかったモノ。
 煩悩に生きる子供は、秘密の王国に住みたがる。
 いつだって大人よりもずっと純粋に貪欲に愛の形を求めるんだ。
 もろくて中身のない形でも、それは輝いて見えてしまうから。



夏の名残りのばら 4へ /6へ

人魚姫(♂)は、こちらからどうぞ。  1へ 

やっと二日目。ひと月かかったね('ε`汗)


お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村

NEW ENTRY «  | BLOG TOP |  » OLD ENTRY

プロフィール

サイアート

Author:サイアート
イラストと駄文を更新しております。

少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

ゆっくりしていってね~

サイズを記憶するフォントサイズ変更ボタン

文字を大きくする 文字を規定のサイズに戻す 文字を小さくする

ツリーカテゴリー

Script by Lc-Factory
(詳細:Lc-Factory/雑記)

最新記事

FC2カウンター

リンク

このブログをリンクに追加する