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2014-11

銀色のRay 9 - 2014.11.25 Tue

9
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hi-ro-2.jpg


9、

「レイ、レイっ!大丈夫か?」
 身体を揺さぶられ、俺は目を開けた。
「あ?」
 青ざめた山野の顔が眼の前に在った。
「良かった。やっと起きてくれた…。何度声を掛けても起きないから、何か悪い病気にでもなったのかと心配した。…うん、熱も無いようだな」
 山野は額を俺の額にくっつけ、そしてホッとしたように息を吐いた。
「俺…夢を見てたらしい…」
「そうか。うなされてはいなかったから悪い夢ではなさそうだが…。ところで急がないと朝食に間に合わなくなるが…気分が悪いのなら始業まで寝ているか?」
「いや、朝飯は絶対食っておく。抜いたら昼飯まで身体が持てないからな」
 俺は大慌てで服を着替え、山野と食堂へ向かった。

 山野の言う通りだった。
 あれほど自分の過去と向かい合うことを怖れていたのに、あんなにはっきりと過去を直視したというのに、少しも嫌な気分じゃない。それよりもなんだかすべてを乗り越えてきたという充実感さえ感じる。
 隣で彼なりに一生懸命に急ぎながら朝食を口に運んでいる山野を眺めた。
 昨晩こいつからもらったペンダントがあの長い夢を俺に見せたのだろうか…

 俺も山野も授業には何とか間に合った。
 最初の山野の印象は、物事全てをマイペースでしか動かない自己中心的な奴だと思っていてが、彼はただ慣れるまで時間を掛けるだけで、慣れてしまえば簡潔にやれるし、方向音痴も繰り返し道を辿れば、間違わなくなる。
「何を驚くのだ?人間として当然だろう」と、クソ真面目に答えるところも、妙に可愛らしく見える。きっとスバル先生は山野のこういうところを愛しているのだろう。

 放課後、図書館へ行くからと山野を見送った後、寄宿舎の広間で休んでいたところに、セシルがやってきた。
 俺のペンダントに気づいたセシルは「珍しいね、レイがアクセをするなんて」と、言った。
「それ木の実か何かなの?なんかの願掛け?」
俺はよく考えもせずに「ああ、山野から貰ったんだ」と、答えた。答えた後、すぐに後悔した。この後のフォローが難しくなることを悟ったからだ。
 思ったとおり穏やかなセシルの顔から微笑みが消えた。
「え…と、山野からもらったというか…山野はスバル先生からもらって、先生はアーシュからのプレゼントで…それから…」イールさまからの贈り物だとは言えなかった。
 俺がこの星の住人じゃないってことを、セシルは知らない。

「それって、とっても大事なペンダントってことじゃない。それを山野くんが君にあげたってことは、好きだって告白しているんじゃないのかな…。それで君の方はどうなの?もう彼と寝たの?」
「はあ?寝るわけないだろ?山野にはスバル先生って言うれっきとした恋人がいるじゃん」
「先生は長期出張なんだろ?仲の良い人と離れてしまったら寂しくなる。恋人同士だったら尚更だよ。彼が君に寂しさを求めてもおかしくないし、君だって…山野のお守りは迷惑だって言ってたのに、今朝もふたり仲よくチコク寸前で教室へ来てたじゃないか」
「それは…」
 夢を見てたからだって、言い訳にもなりゃしない。
「セシルは誤解してる。とにかく山野にはスバルしかなくて…。あいつの頭の中はいつだって『スバル愛してる』なんだから」
「レイ、また人の頭の中を勝手に覗いてるの?前も言ったけど、僕の頭の中は絶対覗かないでくれる?もしやったら絶交だから!」
「セシル…」
「人より優れた魔力を持っていたって、その力が人の心を傷つけるのなら、何のための魔力なのかレイはもう少し考えた方がいいよ。君の力は他人から見たら、脅威に感じることもある」
「俺はそんなつもりはない」
「だったら…何故人の考えを知ろうとするの?知ったところで君にすべてを解決できる力があるの?そういうの、傲慢って言わない?…僕は君を親友だって思っているから…こんな嫌なことも言うけれど、君の良くない噂だって聞くよ。君は力があるから気にしていないんだろうけど、僕は君が悪く言われるのは嫌だ。君が尊大な人間になるのはもっと嫌だけどね」
「…」
「山野くんがスバル先生の恋人だろうと恋愛は自由だよ。だけど、恋愛に魔力は使わないでくれ。そんなの卑怯じゃないか」
「ごめん、セシル。そういうつもりじゃなかった。もう、誰かの頭を覗いたりしないから…怒らないでくれ」

 俺は自分の魔力に溺れているのだろうか。
 人よりも優れた能力をどこかで誇っていたんだろうか…。
 クナーアンに居た頃はこんな力を憎んでさえいたのに…。
 人の頭の中を覗くことが相手にとってプライドを傷つけることになる…こんな簡単なことにも気づかないなんて…

 セシルと別れた俺の足は、自然とアーシュの居る官舎へ向かった。
 アーシュは仕事から戻っており、部屋で姿を見た時はこちらが凹んでいたこともあって、何だか泣きそうになってしまった。
 俺の感情を知ってか知らずか、アーシュはすこぶる機嫌よくテーブルに並べられたお土産の類を俺に見せてくれた。
「ベルの結婚式に出席したんだぜ。めっちゃ感動的だった~。あ、写真見るか?オラフィスの古城でみんなに祝福されてさあ~。気乗りしないベルでも、嫁さんがあんまり可愛いから、思わず嬉しそうな顔をするんだけど、必死で不機嫌な顔を繕うんだぜ。なんせ俺を一番に愛してるって公言してる手前、結婚も仕方なくって嫁さんに承知してもらっているらしい。愛すべき馬鹿っていうのはああいう男かもしれんな。しかし、俺はふたりの結婚には大歓迎なんだ。なんせ生きてる間にベルの子供を見れるんだ。俺の息子みたいにめっちゃ可愛がってやるぜ。名前も決めているんだ。彼の古い祖先の爺の名前でウィリアムってな。ウィリアム・ナサナエル・セイヴァリ…いい名前だろ?しかし何と言っても、古城って雰囲気あってすげえ良かったわ。俺も一度はイールとああいう場所で結婚式してみてえなあ~」
「…(毎年してるじゃん、収穫祭はあんたらふたりを祝う結婚式みたいなものじゃん)」
「なんだよ。ご機嫌ななめか?セシルとケンカでもしたのか?」
「どうしてわかるのさ。俺の頭を覗いたの?」
「そんなの魔力を使わなくたって、おまえの顔に書いてあるよ、ガキ」
「…」
 そうさ、アーシュの言う通り、俺は甘ったれのガキなんだ。アーシュはそれを許してくれるから、俺はまた甘えてしまうんだ。

「それより神也とは仲良くやっているか?あいつ、変わっているけどいい子だろ?」
「…これ、山野からもらったんだけど…」と、俺は首に付けたペンダントを外して、アーシュに差し出した。
「アーシュがスバル先生にあげたんだろ?先生がそれを山野に…。山野は俺を気遣ってこれをくれたんだけど、元々はイールさまのものだと聞いた。そんな大切なものを俺が持ってていいのか…ちょっと困ってるんだ」
「ふ~ん、神也がおまえを気遣って…ってところが引っかかるね。何かあったのか?」
「別に…でも昨晩これを付けて寝たら夢を見たんだ」
「どんな?」
「昔の…クナーアンで生きてきた俺のすべてが走馬灯みたいに…嫌な事も良い事も全部いっぺんに夢に出てきたんだ。でも…今までみたいに胸が抉られるような痛みは感じなかった。なんだか…すべてが今の自分に必要な出来事のように思える。こんな風に感じられる自分が不思議なんだ。きっとこのペンダントの所為だ。クナーアンの神木の実の種だって山野が言ってたけど…」
「ああ、あれはマナの実の種だけど、おまえの夢と全く関係ないね」
「はあ?」
「マナの実は媚薬の魔力を持つ典型的な催淫剤だ。当時、スバルと神也がなかなかセックスに進めなくて悩んでいたから、スバルにあげたんだよ。効果抜群であいつらその夜にめでたく結ばれたんだが…。ついでに俺とイールもマナの実をよく食べてセックスしてるよ。あれすげえ気持ち良くなるんだよなあ~」
「…」
 マナの種が媚薬だとは理解したけど、アーシュとイールさまのセックスの話は、こちらが気恥ずかしくてたまらない。
「アーシュはさあ…。俺を神殿に連れて来た頃、俺が寝てるからってイールさまと抱き合ってたよね。あれ、俺、寝たフリして見てたんだけどさあ、わざと?…」
「おまえに見せるためじゃねえよ。俺とイールはいつだって抱き合っていたいの。お互いが欲しくてたまんねえからな。まあ、おまえを他の場所に置いとけなかったと言う理由もあるよ。あの頃のおまえは、いつ魔力が暴走してもおかしくなかったから、俺とイールの傍に居ることが一番安全だった。…つうか、俺、イールとのセックスは最重要だから、別におまえが気を使うことじゃねえし」
「…」
 いや、あの、ちげえし…。
「まあ、セックスの素晴らしさは俺とイールのを見てわかっただろ?おまえも早くいい男とセックスしろよ」
 大きなお世話、つうかなんで男限定?

「じゃあ、なんであんな夢見たのかなあ…」
「おまえにとってのキーワードはねえ…山野神也。それ以上教えないから自分で答えを出せ。ほら、これやるよ。結婚式の引き出物のクマのぬいぐるみのストラップ。嫁さんのクリスティーナの手作りだそうだ。きっとレイの恋運も上昇だね」
 無理矢理に手渡されたストラップのクマは、確かに可愛いけれど、微塵も魔力を感じないただのぬいぐるみで、それを恋運云々いうアーシュが本気なのかどうかわかるわけもなく、だけど、なんだか沈んでいた気持ちが浮上していくものだから、改めてアーシュの存在の偉大さを確認しなきゃならない自分が悔しかった。
 いつか俺もアーシュのように、人を明るく元気にしてあげれるような魅力ある人間になりたい。
 魔力を持った魔術師として怖れられるのではなく、ただの人間として…。
 
 寄宿舎へ帰り途中、図書館から帰る山野と偶然出会った。
「アーシュに会ったのか?」
「どうしてわかる?」
「レイの顔が明るくなった」
「…そうかな。ああ、アーシュの親友のベルさんの結婚式の話を、延々と聞かされたんだ」
「ベルには私もよくしてもらっている。そうか、結婚したのか…。私もお祝いに行きたかったな…」
 夕暮れに赤く染まる山野の横顔に少しだけときめいてしまったのは、きっと、アーシュが話した事が頭に残っていた所為だ。

 この媚薬のペンダントと、キーワードは山野神也…本当に?
 俺はこの山野を愛してしまうのだろうか…


銀色のRay 8へ /10へ

この物語の最初のお話は左のカテゴリの「senso」からどうぞ。長いけど…
アーシュの過去の物語など、様々ございます。
山野神也のお話は「山の神・愛し子」からどうぞ。

秋も深まり、もうすぐ冬が来るのね…


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銀色のRay 8 - 2014.11.18 Tue

8
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レイ横顔


8、
 神殿に連れてこられて二日ばかりは、身体に力が入らなくて歩くことさえままならなかった。どうなっちゃうんだろう…と、心細くて毛布にくるまって泣いていたら、「許容範囲を超えた魔力を使った所為で、エネルギーが空っぽになっているから、しばらく休めば元に戻る」と、アーシュに慰められた。
 三日目には嘘のように身体が軽くなり、走る事も難なくできるようになった俺はすっかり気を良くしてしまった。
 死んだ母や祖父、俺が殺してしまった盗賊たちの事を考えると暢気に笑っていられるものでもないと思うんだけど、周りのみんなの明るさの所為であまり落ち込むこともなかった。
 なんというか…心の傷は消えないけれど、アーシュとイールの傍にいるだけで、尖った傷で自らを傷つけることなく、傷口が柔らかいベールで覆われているみたいで痛まないんだ。
 アーシュは「魔力で心の傷を消すのは難しい事じゃないんだけど、耐えられる過去は捨てない方がこの先レイの役に立つのさ」と、自信を持って言う。
 神様の言うことだ。きっとその通りなのだろう…あんまり信用してないけど…。

 十日後には年に一度の収穫祭が始まる。
 クナーアンの民衆がイールとアスタロトに拝謁する為に神殿へと集まってくる。その民衆をもてなす準備で神官たちは毎日忙しく働いている。
 お世話になっている手前、俺も何か手伝おうとするけれど、子供は遊ぶのが仕事だと言ってほったらかしにされる。
 仕方がないから神殿の中をうろついていると、神官長であるヨキに出会った。
 ヨキはちょうど休み時間だからと言って、自ら神殿の案内をしてくれた。
 祭りの飾りつけで慌ただしい大広間や神殿の裏にある田畑を回り、神殿の隣に立つ子供達を保護する施設と学校へ見学に行く。
「ここに住む子供たちはそれぞれに事情を持っているんだよ。どこ子も面倒を見る親が居ないんだ。居ても虐待や捨てられたり…大事な人を守る為に罪を犯した子どももいる。最初は誰だって心を閉ざしているんだけど、ここで暮らし始めると心穏やかになるんだ。イールさまとアスタロトさまの加護のお蔭だよ」
「そう…」
 俺も同じだからわかる気がした。
「私もね、ここに来た頃は手も付けられないほど悪党だったんだ」
「神官長が?」
「父が罪人だったからすっかり捻くれて、悪さばかりしていた。でも、アーシュさまに拾われて…生きる意味を知ったのだよ」
「生きる意味?」
「クナーアンの二神の為に懸命に働くことが、私の喜びとなった。一度味わうと病み付きになるから、ちょっと困りものなんだけどね」
 困ったものだと言いながらも、ヨキの顔は至福に満たされている。
 …羨ましい。俺もやり甲斐を感じたい。ここに居れば…アーシュやイールの傍に居ればそれが得られるんだろうか…

 夜、ひとりで寝るのが怖くなった。
 今夜、アーシュ達は出かけてて、この神殿にはいない。
 ここに来てから、何故か俺はアーシュの寝室で過ごしていた。そして、ベッドは別だったけれどアーシュとイールが、俺と一緒の部屋で寝ていたんだ。
 夜中に目が覚めてアーシュ達の寝ているベッドに目を向けると、ふたりが裸になって抱き合っているのが暗闇の中でふんわりと浮かび上がって見えた。
 取り立てていかがわしいとも神聖なものとも感じなかった。
 ふたりの営みはお互いを求め与え、喜びや快楽に満ち溢れ、言いようのない高揚感に満たされていくものだった。あれが愛し合うと言う行為ならば、俺もいつか誰かを愛し、彼らのように慈しみ努めようと願わずにはいられない程の憧憬だった。
 ふたりの愛の波動は俺だけではなく、神殿やこのクナーアンの地に浸透するのだろう。彼らにより近いものが、優しくも信頼の情を他人に与えられるのはふたりの影響なのだ。
 それが今夜は無い。
 ふたりが居ないことでこんなにも不安になる自分がもどかしい。
 依存しているだけでは誰かを愛することなんて一生できない気がした。

「結局、俺はひとりなんだな…」
 
 翌日、姿を見せたアーシュとイールに、この神殿の施設へ入れてくれと頼んだ。
 これ以上彼らに甘えてしまっても、自分が情けないだけだと感じたからだ。
「レイはこの神殿の施設では暮らせないよ」と、アーシュがあっさりと否定した。
「どうして?」
「だって、おまえ普通の子じゃないじゃん。いいか、ほとんどのクナーアンの民は魔力を持たない。レイは極めて稀な子供なんだ。しかも力も強い。にも関わらず、その使い方を学んでいない。先日のように、感情にまかせて魔力を放出させてしまったら、他の子供たちに災いが起きかねないからね」
「…」
「アーシュ、もう少し柔らかい言い方をなさい。レイが泣きそうだ」
「レイはこのくらいで捻くれたりしない不屈の男子だよ。類まれな魔力を持って生まれたんだ。レイには素晴らしい未来が待っている。だから今はその魔力を使いこなせるための環境が必要だ」
「俺は…ここには邪魔な存在なんだね」
「邪魔じゃねえよ。今のままじゃ災いの種になるって言ってるのっ!」
「ちょっと、アーシュは黙ってくれ。…ったく、子供のレイにもわかるように話してくれたまえ。ねえ、レイ。私はクナーアンの神として、レイを大事な民のひとりだと思っているのだよ。だから本当はどこにも行かせたくないのだが…。アーシュはね、クナーアンの神でもあるけれど、異次元の星の住民でもあるのだ。そこではアーシュは神ではなく、ひとりの魔法使いとして沢山の仲間たちと良い未来を作ろうと頑張っている」
「魔法…使い?」
「そうだ。レイのような力を持った人間が沢山いる星も、この宇宙には存在するのだ。レイがクナーアンにこのまま居ても、他の者とは違う力をもてあましてしまうだろう。のけ者と感じたり孤独に苛まされたりする未来が私には見えるのだよ。それよりもおまえのように魔力を持った仲間と学びながら暮らす方がレイには生きやすいだろう。勿論、充分に魔力を使いこなせるようになったら、クナーアンに戻って欲しい。あちらがどんなに居心地のいい場所であっても、レイの生まれ故郷はここなのだからね」
「…沢山の仲間?俺みたいな?」
「そうだ。アースという星のサマシティって街で俺は暮らしている。二十年前にアスタロトは人間として生まれ変わったんだ。能力はそのままでな。残念ながら生まれ変わる前の記憶は失くしているから、俺にはこのクナーアンで過ごした一千年の記憶はない。…俺はクナーアンとサマシティのふたつの故郷を持っている。どちらも大切な星だ。もっとも俺が一番大事なのはイールだけどな」
「子供の前で惚気ても、私は喜ばない」
「…いいか、レイ。イールがむくれているのはな、俺がおまえを連れてしまうからだ。たったひとりでも、クナーアンの民を旅立たせるのは…この星の主として、滅茶苦茶プライドに傷が付くからな」
「当然だ。クナーアンの民はすべて私たちが守っていくべきものなのだから。だから…私は待っているよ、レイ」
「本当ですか?俺…帰ってきてもいいの?」
「勿論だよ、レイ。良い魔法使いになって、クナーアンの未来に尽くして欲しい」
「…できるかどうかわかんないけど…頑張ってみる。イールさまをがっかりさせないように…頑張る」
「それじゃあ決まりだな。収穫祭が終わったら、レイは俺と一緒にサマシティに旅発つんだ。いいね、レイ」
「はい、わかりました」

 こうして俺はアーシュと共に、クナーアンを旅立ち、異次元であるアースのサマシティと言う国の「天の王」学園で暮らすことになった。
 夢のような神殿の祭りが終わった後の旅立ちは、本当に辛くて寂しくて別れがたく、泣きじゃくる俺に見送る神官たちも涙ぐんでくれた。
 そして新しい住処での生活はなんというか…筆舌に尽くしがたい経験の連続だ。
 だって、それまで俺はクナーアン以外の世界があるなんて、想像だにしなかったのだもの。
 当初はなにもかもすべてが違う異国の生活に圧倒されて、何が何だかわからずに日々を過ごしていたけれど、俺の傍にはアーシュが必ず居てくれた。
 そしてアーシュが言う通りに、「天の王」学園には俺と同じような魔力を持った生徒が沢山居た。彼らはクナーアンの民とは違い、計算高く、ずる賢く、我慢強く、真面目だった。彼らの頭の中を魔力で覗こうとすると、あまりの複雑さに気分が悪くなる。アーシュは「クナーアンの民が珍しいのさ。あんなに単純に美しい人間ばかりだと、統治するのには楽なんだけど、こちらの面倒臭さも慣れてしまえば愛おしくなる」
「そういうもんなの?」
「そういうもんなのさ」

 アーシュは学園を卒業した後、この「天の王」の学長代理に就任していた。
 二年前に突発的に発生した聖光革命の折、首謀者により殺されてしまった前学長の後を継ぐ形となっていたが、二十歳になったら正式に学長を名乗るらしい。
 クナーアンでは神さまなのに、こんな小さな学校の学長なんかやっているアーシュが、俺には信じられない。いや、アースそのものが神さまという概念がクナーアンとは大きく違っていて、「神さま」と言う形を信仰していても、その実在などは誰も信じてはいない。
 ハーラル系の星々は天の皇尊ハーラルが創りあそばされたという事実だけが存在するのに、この星ではそういうものはお伽話と笑うだけなのだ。
 だが人間には信仰というものは必要らしく、それぞれの場所で違った神さまを生み出し、傾倒していく。それは善悪に関係なく広がるものだから、アーシュは自分の価値感により、悪と思ったものを壊滅させるのだ。
 よって、このアースでは人々はアーシュを「魔王」と呼ぶ。
 
 クナーアンの神さまが、この世界では魔王だなんて、すごく変な気分だけれど、どこにいたってアーシュはちっとも変わりないから、俺はいつだってアーシュの傍にいられる幸運に感謝して今を生きているんだ。



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アーシュの過去の物語など、様々ございます。

銀色のRay 7へ /9へ


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銀色のRay 7 - 2014.11.11 Tue

7
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アーシュ・イール1

7、

 それから先の事ははっきりとは覚えていないけれど、俺は山小屋の裏の空き地に穴を掘り、母と祖父を埋め、墓を作り、それから俺が殺した盗賊たちの死体を客人用のロッジに運び火を点けた。そして俺自身を殺す為に、母と祖父と暮らした山小屋を燃やすことにしたんだ。
 まだ燃えていた居間の暖炉の焚き木を持ち、カーテンやカーペットに火を点け、俺は床に寝転がった。
 すべてを失った俺に、未来を生きる気力はゼロだと思った。
 死ぬ事が怖いとも思わなかった。ただ独りで死ぬのが寂しくて、母と良く唄ったわらべ歌を口ずさんだ。
 部屋の中には煙が充満し、パチパチと火の粉が飛び散り、夜の暗さとは反対に炎は明るく燃え盛っていた。
 俺は暑さと息苦しさに、口を覆い目を瞑った。この苦しさを乗り越えれば、死ぬ事ができる。お母さんの元に行けるんだ。
 だけど…さ…
 
 誰かが俺の名を呼んだ。俺は息苦しさに喘ぎながら、少しだけ目を開けた。
 燃えさかる火の中に涼しげに微笑みながら、俺に手を伸ばす美しい黒髪の少年が居た。
「さあ、俺と一緒に行こうぜ。銀色のレイ」
 と、少年は言い、床に横たわる俺の腕を引き上げた。
 抵抗する気力もない俺は、少年の腕に抱えられた時には意識を失っていた。


「あ、目を覚ましたよ、イール」
「ホントだ。良かったね、目覚めてくれて」
「うん、丸二日眠ったままだったから心配したよ。じゃあ早速、ヨキに食事を用意するように伝えてくる」
「うん、それがいいね」
「…」
 目を覚ました時、俺はとうに死んでここは天国なのかと思った。
 何故なら母は良き人は死んだら夢のように美しく清浄な天上に行けるのだと、俺に教えてくれたからだ。人殺しの俺が良き人とは思えないが、この時の俺はあまりの寝心地の良いベッドと、澄んだ空気と見たことのない美しい少年たちの明るい笑顔に、自分が生きているとは思えなかった。
 黒髪の少年の姿はすでになく、残った少年は椅子に座ったまま、俺をじっと見つめている。光に反射したキラキラ銀色の巻き毛と見惚れる程に美しい少年。天才画家でもこんなに精巧な美を集めた姿は描けないじゃないだろうか…。絵を見る趣味はこの頃の俺には無かったのだが…

 俺は恐る恐る尋ねた。
「ここは…天上?俺、死んだの?」
「いいや、ここは天上ではないし、おまえは生きているよ、レイ・ブラッドリー」
「…」
 自分の名を知っていることに驚くよりも、なんだかこんな綺麗な人に呼ばれることが気恥ずかしくて仕方がなかった。
「クナーアンの二神は知っているかい?」
「うん、イールとアスタロトだよ。そんな当たり前の事を知らない奴なんて、このクナーアンにいるはずないよ」
「ここはその二神が住む神殿であり、私はイール。さっき走り去った彼が私の半身であるアスタロトだ」
「…ウソだあ~…そんなの信じられるもんか!イールとアスタロトは神さまなんだぜ?そりゃ神殿に行けば、会えるかもしれないって聞いたことあるけど…本当に見たって人に会ったことないし…」
「信じるも信じないもおまえ次第だよ」
「…ホント?…本当に、あのイールとアスタロト?…クナーアンの神さまなの?」
 銀色の巻き毛の少年は穏やかな笑みを湛えたまま、黙って頷いた。
 どこまでも澄み切った青空みたいな瞳に見つめられ、俺はなんだかたまらなく胸が高鳴ってしまい、落ち着かなくてベッドに寝たまま毛布を頭から被ってしまった。
 
 この少年が話していることが信じられずにいるのに、俺の心はすでに彼らがクナーアンの二神であるのだと信じているのだ。
 じゃあ、何故、自分がどんな状況でここに居るのだろうか…。全くわけが判らない。

 …そうか、あの時、俺に手を差し出した黒髪の少年がきっとアスタロトなんだ。それで俺を彼らの住処である神殿へ連れてきてくれたんだ。
 長い時を生きる神々は気まぐれに地上へ赴き、気まぐれに幸運や不幸を民衆に齎すと聞いたことがある。もしかしたら、俺は彼らの気まぐれで、ここに連れ込まれたのかもしれない。

「おまたせ~」
 あの黒髪の少年の声だ。俺は毛布をかぶったままじっと動ないでいた。
「そろそろ目覚める頃合いだと思って、ヨキがちゃんと用意してくれてたんだ。さすがにヨキは勘が良いね…え?また寝ちゃったの?」
「いや、起きていると思うが…。どうも私達がクナーアンの神だと信じられないらしいね。まあ、トレイを抱えてるからって、足でドアを開ける神さまもどうかと思うけど」
「この際大目に見てくれよ、イール。とにかく…さあ、起き上がってお食べよ、レイ」
 頭から被った毛布を大げさに剥ぎ取ったアスタロトは、縮こまった哀れな俺の姿を見て大いに笑った。
 その態度にムカついた俺は、目の前のテーブルに用意された料理を黙って食べ始めるのだった。
 すでに緊張も恥じらいも無くなっていて、料理を味わう余裕すらあった。
 母が料理人だったから俺は幼い頃から美味いものしか食っていない。アスタロトの持ってきた料理は母の味とはかなり違って、味付けは薄いんだけどなんだか…色んな味がした。
 見たことも無い色の野菜やらソース。それにすごく優しい味のリゾット。

「美味しいかい?レイ」
 食べている俺を見て、楽しそうな黒髪の方…アスタロトにちらりと目をやった。
 そうだった…。まだ、助けてもらったお礼も言っていない。
「なんで…」
「なに?」
「なんで俺を助けたんだよ」
 お礼を言うつもりだったけれど、天邪鬼の俺の口からは、助けてくれたことを責める言葉が出てしまったんだ。
「俺、死にたかったのに…。俺…」…人を殺してしまったのに…。
「助けてくれって、おまえの声が聞こえたから、燃えさかる火の中からおまえを見つけ出したんだよ」
「嘘だ!助けてくれなんて、言ってない!」
「でも俺にもイールにもおまえの精神(こころ)の叫びが聞こえたし、本当に死にたかったのなら、俺達に救いの声など届いちゃいないさ。…おまえはもっと生きたかったんだよ、レイ」
「…」
 そうなんだろうか…でも…
「俺、人を殺したんだ」
「うん、わかってる。おまえの大事な家族を破壊した盗賊だ。これについてはクナーアンの法の神でもあるイールに裁きを委ねよう」
 アスタロトは隣に座るイールに顔を向けて、「頼んだよ」と、手を差し出した。

「そうだね。…レイ・ブラッドリーは目の前で家族の幸せを破壊した三人の盗賊たちを、己の魔力により命を奪った。その罪は断じて許されるものじゃない。けれど、あの場に居て、力を持った者であるなら、己の大事な者たちへの復讐を諌める判事はいないだろう。レイ・ブラッドリーに刑罰は与えない。ただ、死んでいった男たちにも家族が居ることを忘れないようにしなさい。おまえはおまえと関係ない場所で生きている妻や子供の父親を奪ったのだよ」
「…」
 イールの言葉は優しかったけれど、とても重くて、でももうどうしようもなくて、八歳の俺には後悔と懺悔に泣くしかできなかった。

「イール。レイはまだ子供だぜ?苛めんなよ」
「苛めてはいない。どんな理由にせよ、人の命を殺めるのは罪だと教えているのだ」
「それって状況によるだろ。俺は今回のレイの行動に罪は無いと思う。正当防衛だし、人殺しは罪だからって、こちらが殺されても意味ねえじゃん。俺もレイの立場だったら、あいつらを殺してただろうね。もっとめちゃくちゃにいたぶりながらさ」
「…アーシュ、君ねえ、子供の前で話すことじゃない。大人の建前ってものを少しは考えろよ。っていうか、神の自覚が足りない」
「神さまだからこそ、悪者を殺すのは当然の権利だって言ってるんだよ。俺にその権利を教えてくれたのはイールだろ?」
「…ったく、困った神さまだよ、君は」
「あの…」
「なんだ?レイ」
「神様でもケンカするの?」
「するさ。つまんねえことでしょっちゅうだよ。なあ、イール」
「大方の原因は君の方にあるけどね」
「でもイールは優しいから、いつも俺を許してくれるんだ」
「仕方ないじゃない。ケンカしたまま時間を無駄にしたくないもの」
「そうだね、お互いを傷つける言い合いよりも愛してるって囁く方が、幸福になれるもの」
「幸…福…?」
「そうだよ、レイ。誰かと愛しあうことは相手を幸せにするし、自分も幸せになれるものなんだ」
「俺は…誰かを愛してもいいの?」
「もちろんだよ。私がおまえに言ったことは辛かったかもしれないけれど、人の心の痛みを知ることも、愛を知るには大切な経験なんだ。失った家族の分も君は幸せになる権利がある。乗り越える力を得て、頑張りなさい」
「はい、イールさま」
「しばらく神殿で暮らすといいさ。この先の身の振り方をゆっくり考えるといいよ」
「うん、そうするよ、アーシュ」
「…」

 アーシュは変な顔で俺を見た。
「なんでイールに対する言い方と、俺に対する言い方が違うんだ?同じ神さまなのにさ。レイ、おまえ俺に対する尊敬の念が足りねえんじゃねえのか?」
「え?…そんなことは…ありません…たぶん…」
「アーシュ。子供のレイを責めるより、自身を見直すことだよ。馴れ馴れしいのもいいが、神の尊厳を保ちたまえ」
「だって、神さまって言ったって、俺、二十歳にもなんねえし、威厳もクソもあるものかよ」
「…アーシュ、子供の前で下品な言葉使いは…こらっ!逃げるなっ!」
 風のようにバルコニーまで走り去ったアーシュは、追いかけるイールと笑いあい、そしてお互いを抱きしめ合い、何度もキスを繰り返した。

 幻想のような空間だった。
 幸福と言う言葉を具象化したふたりの姿に、俺はただ見惚れていた。
 そして一番肝心なのは…俺はあの時あのまま死ななくて良かったかもしれないと…思わせてくれたことだった。




銀色のRay 6へ /8へ

この物語の最初のお話は左のカテゴリの「senso」からどうぞ。長いけど…
アーシュの過去の物語など、様々ございます。
山野神也のお話は「山の神・愛し子」からどうぞ。

秋晴れって気持ちいいね~。空を飛びたくなる~((⊂(^ω^)⊃))


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銀色のRay 6 - 2014.11.02 Sun

6
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  レイの過去


6、

 俺はクナーアンと言う惑星で生まれた。
 現在(いま)の俺はクナーアンとは異次元のこの星で暮らしているけれど、幼い頃はクナーアン以外の世界が存在するなんて想像もできなかった。
 だけど、世界は無限にある。
 俺が生まれるずっと、ずっと昔から。
 誰もが一度は聞いたことのある御伽話のように…。

 天の皇尊(すめらみこと)が生み出したハーラル系には十二の惑星があり、それぞれに対(つい)の二神が惑星を守り、人々は二神の加護の元に日々の生活を営んでいるのだった。
 星に住む民は朝に夜に二神への崇敬と感謝の祈りを絶やさない。
 勿論、俺も天の皇尊ハーラル様の輝きを持つ太陽と、イールとアスタロトの名を持つ夜天に輝くふたつの月に毎日手を合わせて祈った。

 今日一日をつつがなく過ごせますように…
 今日の恵みを感謝いたします…

 幼かった俺の知識のすべては母が教えてくれたものだ。
 母、エイダ・ブラッドリーは若くて綺麗で賢い人だった。
 奥深い山で生まれ育った母は知る事を求め、若くして村へ出た。
 村の食堂で働き、料理の腕を磨くと今度は街へ出た。
 都会とまでは行かないまでも、充分に文明の育った街のレストランで母は腕の良い料理人として評判だった。

 クナーアンの文明と言っても、現代のサマシティと比べてもらっては困る。
 サマシティのような電気、ガス、汽車や自動車といった産業文明は栄えておらず、灯りは都会ではガス灯を見る事はあるが、ほとんどの家庭では灯油ランプや蝋燭のカンテラだし、遠出の移動には馬車ぐらいしかない。
 クナーアンの神であるイールとアスタロト(アーシュ)は、様々な進んだ文明を知っていたけれど、彼らは敢えて文明の進化を抑え、人々の暮らしが便利さに狂うことを避けたのだ。
 アーシュは言う。
「人間は己に都合良い進化を目指していく。この都合の良さは堕落にも繋がるからね。アースの文明の発達には恐れ参るが、クナーアンの神として俺はそれは選ばないよ。何も知らない幸(さいわ)いってものがあっても良いからね。まあ、確かに住めば都っていうけど、サマシティ(ここ)は利便性は良い所だよねえ。めんどくさがりの俺には楽でいいわ」
 クナーアンで見ることのない堕落した人間を装うアーシュは、クナーアンの民であった俺にしてみれば複雑だけど、完璧じゃないアーシュが好きだから許してしまう。
 きっとイールさまも粗雑な欠点もあるアーシュを愛してやまないのだろう。
 それに、アーシュはクナーアンでの神の役目と、アース(サマシティ)での人間としての役目をきっちりと分けている。誰もが称賛する行動で。
 アーシュはそれを「能力がある者がその役割を果たさなきゃ、宝の持ち腐れって言うんだよ」と、俺に皮肉めいた口ぶりで言うのだが…
 
 俺に魔力があることを知ったのは、三歳になったばかりの頃。
 近所の子供とケンカをして相手を傷つけたことを知った母は、真っ青になった。
 何も触れずに地面に落ちていた石を相手の子の頭にぶつけた…らしいのだ。
 俺はよく覚えていない。
 だが母は俺に「レイ!絶対に魔法は使っちゃ駄目よ。約束して頂戴!二度と使わないって!」
 俺は母の青ざめた形相が恐ろしくて、ただ頷くばかりだった。
 
 父の事はほとんど記憶にない。 
 父について詳しく知ったのは、アーシュに命を救われた後、しばらくの間、神殿で生活していた時だ。俺がしつこく聞くから、アーシュは神官に命じて父の詳細を調べてくれたのだ。

 父、ジーン・ブラッドリーは伝道師だった。
 彼は若い頃、自らの意志でハーラル系第二惑星リギニアからこのクナーアンに移住した。
 彼には近未来を透視するという生まれ持った能力が備わっており、古い惑星リギニアから若さみなぎるクナーアンに希望を見出し、この星を讃える為に謳い、時には説教をし、クナーアンの至るところを旅した。
 母、エイダと出会ったのはその旅路の最中だ。
 好奇心の強いエイダは、人とはなにかしら違うジーンの見かけや快活な話しぶりと博識にすっかり魅了され、求婚したと言う。
 放浪の身であることを承知した上で、ふたりは結婚し家庭を持った。
 伝道師のジーンは旅を続け、エイダは料理人として家庭を守り、俺を生み育てた。
 小さい頃、周りの子供たちが父親と楽しそうに遊ぶ光景を見て、俺も羨ましく思ったのだろうか、何度か「ぼくのお父さんはどこにいるの?」と、尋ねたことがある。
 母は「おまえのお父さんは、このクナーアンを守る為の大事なお仕事をなさっているのだよ。だから少しぐらい寂しくても我慢しなさい」と、言った。
 母は寂しかったのだろう。
 時折、俺を力一杯に抱きしめ「レイの髪はシンの穂の様な銀色、瞳の色は朝日に染まった空の金…本当にあの人にそっくりなのね…」と、涙ぐむのだ。

 ある時ジーンは予感したのだ。このクナーアンにとんでもない災厄が広がりつつあることを。
 彼はそれを確かめに収穫祭で賑わう神殿へ向かった。
 年に一度の収穫祭の三日間は、クナーアンの二神が揃って神殿の玉座で参詣者に姿を見せる習わしだ。そしてジーンはその目ではっきりと確信した。
 ふたつの玉座のひとつに神の姿が見当たらないことを。
 だが他の民衆は何一つ違和感もなく、ホログラムで映し出されたアスタロトの姿に頭を垂れる。
 片割れのイールは不安と孤独を湛えた面持ちで民衆を眺めているのだが、それさえ誰も気がつかない。
 ジーンはこの事実に驚愕し、絶望した。
 クナーアンを愛するが故に、彼はこの星の未来を探ろうと考え抜いた。
 二神のひとつが欠けることは絶対にない。なぜならば、どちらかの神が居なくなれば、もう片方の神も消滅するのがこのハーラルの惑星の運命なのだ。
 ではアスタロトの姿が見えないのは何故だろうか…
 イールの憔悴しきった表情は何故だ…。

 この時、アスタロト…つまりアーシュはサマシティにおいて己を人間に生まれ変わらせ、記憶を失くしており、クナーアンには存在していなかった。
 ジーンはアーシュの不在を見抜いていた稀有な能力の持ち主だった。

 考え抜いた末、ジーンはある結論に至った。
 このクナーアンを守る為には、新しい二神を生まれさせるべきだと。
 そしてジーンはクナーアンの天災を二神の責任だと叫び、新しい神を求めるようと、あらゆる場で民衆に訴えたのだが、民衆はイールとアスタロトへの冒涜だと詰り、その怒りはジーンを破滅に導いた。
 彼は民衆の手によって、無残に撃殺されたのだ。

 ジーンの死は遠く離れて暮らすエイダにも知ることになった。
 気の荒い民衆はジーンの家族を探し、害を負わせるかもしれない。エイダは友人たちの助言で身を隠すことになった。
そして、エイダは俺を連れて祖父の元へ戻ろうと決心した。

 山暮らしが嫌で飛び出した母だった。すでに母親は死んでおり、父親のユングは決して母と俺を快くは迎えてくれなかった。
 母は俺達親子を置いてくれるように何度も頭を下げ、やっと住むことを許されたのだ。

 祖父は山の番人だった。木こりや猟師で日々の生活を営んでいた。
 辺鄙な山の暮らしは確かに不便だったが、未知に溢れた森の生活を俺は楽しんだ。
 山は冬には人気はないが、夏が来ると町の者たちが狩りを楽しむために山へ登ってくるのだった。
 母は彼らを手料理でもてなし、生活費を得ることを考えた。祖父に頼んで自宅の脇に小さな山小屋を建て、山に来るの客を泊まらせた。
 この山小屋は祖父が思うよりもずっと繁盛し、母は自慢の腕を揮った。
 父が死んだ後、悲嘆にくれていた母もやっと生き甲斐を見つけたようだった。
 母は二週間に一度、村へ買い出しの為に山を下りる。
 普段俺とはめったに話さない祖父は、ふたりきりになると俺を山に連れ、山に関する様々な事を教えてくれる。
 木や植物の種類や鳥や動物の名前。何が危険で大丈夫なのか。移ろう季節の美しさなど…

 或る日、地盤の悪い崖で足が滑り落ちかけた俺を助ける為に、祖父は身を挺して俺の身体を掴み引き上げようとした。だが足場が悪く、ふたりとも崖の下へ真っ逆さまに落ちかけたんだ。
 俺は魔力を使って、ふたりの身体を浮き上がらせ、危険を凌いだ。
 当然祖父は俺の魔力に驚いた。俺は「もう二度と使わないから、お母さんには絶対に言わないで」と、泣いて頼んだ。
祖父は笑って言った。
「俺を助けてくれたおまえに礼を言うことはあっても、文句は言えまい。凄いもんだなあ、レイ。その力、大事な人を守る為に神さまから与えられたものだと思っていいんじゃないか?」
「ホント?…気持ち悪くない?」
「ああ、凄い孫を持って、嬉しいさ。…ま、この事はエイダには黙っておこう。あれは母親に似て口五月蠅いからな」
 そう言って笑ってくれた祖父が、俺は大好きだった。

 冬は厳しく、夏は寝る間もない程に忙しい。裕福とは程遠い生活だったが、母の明るさと優しさ、祖父の頼りになる背中に守られた俺は幸福だった。
 だが幸せは長くは続かなかった。

 八歳になったばかりの夏の終わり。
 その夜は泊り客もおらず、母は俺が眠りにつくまで添い寝をしながら、クナーアンに語られるイールとアスタロトの物語を話してくれた。
 千年の長い時を生きるイールとアスタロトの二神には、数え切れない伝説が語り継がれ、子供の誰もがその物語を輝ける英雄譚として胸躍らせて聞き入るのだ。
 癒しと智慧の神であるイールは物静かな佇まいから主に女の子に人気があったが、男の子のヒーローはいつだって何をしでかすか見当もつかないアスタロトに惹きつけられ、その冒険物語に心奪われるのだ。

「さあ、今夜はここで終わりよ、レイ」
「え~、もうちょっと…アスタロトさまが海龍に食べられちゃってそれから先が知りたいのに~」
「じゃあ、明日もいい子にしていたら、続きを話してあげるわ」
「ずるいなあ~」
「ふふ…良い子ね、レイ。大好きよ。おやすみなさい」
「おやすみ、お母さん」
 母は俺の額におやすみのキスをして、階下へ降りて行った。
 それが母の笑顔を見た最後だった。

 その夜…母も祖父もまだ起きていたのだろう。
 突然の母の叫び声に驚いて飛び起きた俺は、異様な感覚がまとわりつくのを感じた。
起き上がり階段を降りようとした時、祖父の怒鳴り声が聞こえ、聞いたことのない男と争う声がした。
 俺は恐々と階段を降りた。
 そして目の前に映し出されたのは、信じられない凄惨な光景だった。
 知らない男たちに羽交い絞めにされた母と、それを止めようと必死に抵抗する祖父に振り下ろされる斧。祖父の呻き声と倒れ行く無残な姿。母の悲鳴。そして、倒れた祖父を一瞥もせずに母に襲い掛かる三人の男たち。
 そいつらは凶暴な山賊だった。

 母の服は破られ、そいつらは泣き叫ぶ母を凌辱した。
 俺は階段を降りるとそいつらに向かって叫んだ。
「母さんから離れろっ!さもないと…」
 そいつらは俺を振り返り、嗤った。
「さもないと?どうするんだ、小僧」
「おまえらを…殺す」
「ほほう、どうやってだ?まさか素手で立ち向かうつもりじゃないんだろうなあ。まあ、そこで母親が手籠めになってるのを見てるといい。それが済んだら遊んでやるよ。手ごたえのあるガキなら仲間にしてやってもいいぜ」

 俺は倒れた祖父に近づいた。祖父はすでに息絶えていた。
 俺は床に捨てられた血塗れになった斧の柄をゆっくりと掴んだ。
 その時、母が俺の名を呼んだ。
「駄目よ!レイ!駄目っ!」
 俺は母を見つめた。男たちに犯されながらも母は俺に人殺しをさせたくないと願っているのだ。
 母の言葉の意味は理解できたが、俺はそれに応える気は毛頭なかった。
 
 手に持った斧を母の身体に覆いかぶさった男の背中目がけて思い切り放った。鈍い音をさせ斧は男の背に突き刺さる。
 間髪おかずに壁際に並べられた祖父の手入れが行き届いた斧を魔力を使い、残りの男たちの頭と胸に突き刺した。
 山賊どもは呻きながら倒れ、そして時待たずに死んでいった。
 人を殺した罪の意識は全くといい程無かった。
 だが祖父の無残な死に様と辱めを受けた母の姿に気が動転した俺は、血塗れの部屋に呆然と立ち尽くしていた。

 気がつくと、母の姿は見えなくなっていた。
「…母さん…。お母さんっ!」
 俺は叫びながら外に飛び出した。
 暗闇の森に向かって母の名を呼んだ。
 その時、暗がりから母の声が聞こえたんだ。

「もう、なにもかも終わりなのだもの。ジーン、あなたの言うとおりなのね…。レイ、ごめんなさい。そんな魔の力を持ったあなたを産んだ私が…。…さようなら…」
 暗闇に母の白い身体がゆっくりと倒れていく。
 母は喉元をナイフで切り裂き、自殺したのだった。
 



この物語の最初のお話は左のカテゴリの「senso」からどうぞ。長いけど…
アーシュの過去の物語など、様々ございます。

銀色のRay 5へ /7へ

暗くて重すぎやろ!…待て、セシルはもっと重いかも…( ・´ω`・ )
まあ、重くてなんぼの話ですから



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