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2014-12

ダイヤモンドクリスマス 後編 - 2014.12.29 Mon

「人魚姫♂」の尚吾と乃亜の短い物語です。
クリスマス過ぎてしまったけどね…('ε`汗)

ダイヤモンドクリスマス

後編

 今朝から乃亜は悩んでいた。
 ゴミ取集時間に合わせてゴミ袋をまとめている時、ゴミ袋の中から尚吾の捨てた靴下を見つけてしまったのだ。
 乃亜はゴミ袋からそれを取り出し、尚吾が捨てた理由を考えた。
 一度は捨てた靴下を自分が勝手に拾ったからだろうか。
 繕い方が下手だったからだろうか。
 それとも、捨てたはずの靴下を履く気にはならなかったからだろうか…
 どちらにしても、乃亜のおせっかいが尚吾は気に入らなかった…と、いう結論になる。
 でも、それなら一言自分に言ってくれればこんなに気にも留めないものを、何故尚吾は何も話さないでこれを捨てたのだろう。

 RRRと携帯が鳴った。
 乃亜は急いで取る。
『乃亜、元気か?』
「うん、元気だよ。ヨシュア兄さん」
 次兄のヨシュアからの電話だった。
『今、仕事で東京に来ているんだけど、おまえの家には寄らないつもりだよ。イブだし今年は尚吾と二人だけの方が良いだろ?』
「うん…」
『なに?どうかした?…あ、尚吾とケンカでもしたのか?』
「違うよ~。僕達ケンカしないもん」
『ケンカぐらいしないと、本当の恋人同士にはなれないんだぜ』
「え?ホント?」
『嘘だよ~』
 携帯の向こうから朗らかな笑い声が聞こえる。
 乃亜には五人の兄がいるのだから、それぞれに乃亜が心を寄せるジャンルが違っていて、次兄のヨシュアは、気軽になんでも打ち明けられるのは、きっとヨシュアが他の兄たちよりも不良で口が悪く捻くれているからだ。それでいて、ヨシュアは芯が優しい。
 乃亜にとってヴィンセントが父親なら、ヨシュアは母親の役目を背負ってくれる気がする。

「あのね、ちょっと聞いていい?」
『ん~?なんだ?』
「破れた靴下が、ゴミ箱に捨ててあったの。尚吾の靴下…」
『え?…うん』
「それを僕が拾って、まだ履けそうだから繕って元の抽斗に片づけたの」
『うんうん、それで?』
「そしたら、尚吾は僕に何も言わずに、今度は僕に見つからない様にゴミ袋に捨ててあったの」
『…はあ』
「これって…僕が余計な事をしたから、尚吾が気を悪くしたのかな…」
『…』
 ヨシュアには答えようがない。
 乃亜の愚痴はただの惚気にしか聞こえない。だが、天然純真天使乃亜のことだ。こんなつまらないことに本気で悩んでいるに違いない。
『尚吾はそんなに心の狭い男じゃないけど、乃亜が気になるのなら、いい方法があるぜ』
「ホント?」
『それわな~』
 乃亜はヨシュアのアドバイスを喜んで実行することにした。


 クリスマスイブの夜は雲一つない星空だった。
 ホワイトクリスマスは望めないけれど、降るような満点の星空を、庭で尚吾の帰りを待つ乃亜はじっと見上げていた。
 素敵な聖夜にしたいけれど、乃亜の心はこの群青の夜天のようにまだ晴れ渡ってはいない。
 裏庭に自動車のエンジン音がした。尚吾が帰宅したのだ。
 乃亜は急いで裏庭の駐車場へと駆け寄った。

「尚吾、お帰りなさい」
「…乃亜。こんなに寒いのに外で待ってたのか?」
「風がないから寒く無いし、ほら、星がとても綺麗でしょ。だからずっと眺めてたんだ」
「へえ~…確かに今夜の星空は綺麗だな。聖夜だから神さまの贈り物かもな」
「尚吾は僕よりもロマンチストだね、そういうとこ大好き」
「あ…ありがと…。で、クリスマスケーキ買ってきたよ。カップル用の小さ目のヤツな。それと別腹デザートにバーゲンダッツ。乃亜の好きなチョコブラウニーもあるよ」
「…」
「なに?」
「ううん、なんか幸せだなあって…。これ以上望んだら神さまに怒られるね」
「一杯望んでいいよ。俺は乃亜が望む事ならなんでも叶えてあげたいんだから…」
「…尚吾、愛してる」
「うん、俺も愛してるよ。けど…愛し合うのは晩餐が終わってからにしようか。腹も減ったし、乃亜のクリスマスディナーも楽しみにしてたんだ」
 甘えるように寄り添う乃亜を片手で抱きしめ、尚吾はケーキとアイスの紙袋を持ったもう片方の手を乃亜に見せた。
「ごめん、そうだね。尚吾の好物、いっぱい作ったからね」
 乃亜はアイスの紙袋を持ち、夜空を見上げた。
 変だ。同じ夜空のはずなのに、ついさっきとは違う瞬きで輝いているように見えるのは何故なんだろう…。

「ねえ、見て尚吾。あの冬の大三角の周りね。シリウス、リゲル、アルデバラン、カペラ、ボルックス、プロキオン…あの六角形ってね、冬のダイヤモンドって言うんだって。なんだか見てるだけで裕福になった気がするよね」
 乃亜の言葉に尚吾も南東の空を見上げた。
 色とりどりの星々が煌く夜天に、うずもれることなく煌く星を結んでいけば六角形には見えなくはない。
「冬の…ダイヤモンド…か…。乃亜、本物が欲しい?」
「え?」
「本物のダイヤモンド」
「…」
 乃亜は尚吾が何を言っているのか、わからなかった。
「実はクリスマスプレゼント…まあ、夕食の後に渡そうと思ったけど、はい」
 尚吾はコートのポケットからリボンで飾られた小さな箱を乃亜に差し出した。
 それを受け取った乃亜は、掌に乗せた箱をしばらく見つめていたが、突然玄関に向かって走って行く。尚吾も乃亜の後を追いかけるように駆け足になる。

 玄関の扉を開け、手荷物を上がり框に置き、蛍光灯の下、両手で箱を持って尚吾を見上げた。
「あ、開けてもいい?」
 ここでかよ、と尚吾は少し驚いたが、興奮した乃亜があまりに可愛いから、尚吾は「勿論だよ。だけど期待しないでね」と、言った。
乃亜の行動は予測不能だから、これから何が起こるかと思うだけで、尚吾もワクワクが止まらない。
 尚吾の返事を待って、乃亜はラッピングを丁寧に開けていった。
 箱を開けベルベッドのケースを取り出し、乃亜はゆっくりと蓋を開けた。

「指輪…」
 箱の中には二つ並んだおそろいの指輪。プラチナのウェディングリングだ。
 形はシンプルだが、指輪の裏には「Syogo&Noa」と刻まれていた。
 それを見つけた時、乃亜は自分でも驚くぐらい胸が高鳴って仕方なくなってしまった。すでに目頭が熱くなり、泣きそうだ。

「これ…ホントに僕がもらっていいの?」
「乃亜以外の誰がもらうのさ。さあ、左手の薬指を出して。サイズは大体わかっているから大丈夫だと思うけど…」
 乃亜は尚吾の言葉どおりに左手を差し出した。
 毎日の家事の所為で、初めて触れた頃より乃亜の手はずっと荒れている。尚吾はその手を優しく擦った。
「こんなになるまで頑張らなくてもいいのにさ」
「楽しいんだもん。尚吾に居心地の良い居場所にしたいんだもん。でも…そんなに手荒れが気になる?」
「いいや、とっても愛しい手だよ。でも今度ハンドクリーム買ってこような」
「うん」
 指輪は乃亜の薬指にぴったりと嵌った。
「今度は俺に着けてくれる?」
「うん」
 ぎこちない仕草で乃亜は尚吾に結婚指輪を嵌めた。

「これでいい?」
「うん。実は仕事先で独り者ですか?と、煩くてね。同棲してますと言うと、今度はいつ結婚かと急かされるんだ。結婚指輪をしてたら、そういう嫌味もなくなるだろうし」
「なあんだ。僕へのプレゼントはオマケだったの?」
「…ホントは…乃亜にはダイヤの指輪をプレゼントしようと思っていたんだ。でもさ、それを貰って喜ぶ乃亜を想像してみたんだけど、あんまりピンと来なかった。それよりもきっとこっちの方が喜んでくれるんじゃないかって…やっぱ、ダイヤモンドの方が良かったかな?」
「ううん…これがいい。ダイヤモンドは冬になったら晴れた夜空でいつでも見れるしね」
「そうだな…」
「尚吾」
「ん?」
「本当にありがとう。僕、いいお嫁さんになるね」
「充分にいい嫁さんだよ、乃亜は」
「じゃあ、僕からはこれ」
 乃亜はエプロンのポケットから、長方形の包みを取り出した。

「尚吾へのクリスマスプレゼント」
「…ありがと」
 尚吾はその包みを開けてみた。
 中身は…靴下だ。それもちゃんとした高級ブランドの絹の靴下。
「一応ね、奮発して買ったんだ。一足なのにお値段高くてびっくりしちゃった」
「…」
 いつもなら四足千円の靴下しか買ってこない乃亜だから、相当頑張ってこれを選んだのだと思うと、尚吾は笑いがこみあげて仕方がない。

「どうして…靴下なの?」
「尚吾、僕が縫い合わせた靴下、捨てたでしょ。ごめんね、余計なおせっかいしちゃって…尚吾の仕事に差し障ったりしなかった?…僕…」
 落ち込んでいる乃亜の顔も可愛いと尚吾は思った。
 ド天然であまり小さいことに拘らないかと思ったら、こういう繊細なところもあるのか…と、乃亜に新しい萌えを発見した喜びさえある。
 尚吾は我慢できずに声に出して笑ってしまった。
 確かにあの靴下は尚吾を惨めな気分にさせてはくれたが、乃亜への新しい魅力を教えてくれたのだから、十分に役目を果たしてくれたのだろう。

「尚吾?」
「いや…もう、乃亜には参るな~って思ってさ」
「え?」
「乃亜は最高に俺を萌えさせてくれる唯一の恋人だってこと。靴下ありがとう。最高のクリスマスプレゼントだ」
「ホント?」
「ああ」
「それヨシュア兄さんが薦めてくれたんだよ。絶対尚吾が気に入るからって」
「…ヨシュアに言ったのか?靴下の事」
「うん…なんか気になっちゃって…。また余計なことだった?」
「いいや。今回は良しとするよ。せっかくのイブにあいつらが邪魔しないことだけでもありがたいからね」
「尚吾ったら」
「クリスマスディナーが終わったら、朝までずっと抱き合っていよう。乃亜のすべてを愛したいから…いいね」
「うん」
 少しはにかんで俯く乃亜が愛しい。

「えっと~、チキンシチューを温めなきゃ」と、照れ隠しで靴を脱いで部屋に入ろうとする乃亜の身体を、尚吾は掴んで引き寄せた。
「アペリティフに乃亜の口唇を…」
 勿論、乃亜も尚吾の要求に異存はない。
 初めからアペリティフは用意していなかったのだから。

 

  ねえ、クリスマスの夜は恋人たちの過ごす時だなんて、誰が決めたのだろうね。
  きっと心優しき独り者の神さまが、夜の儀式を覗き見したがっただけなのさ。


2014.12.29

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人魚姫(♂)は、こちらからどうぞ。  1へ 

バカップルに効く薬はないみたいですね。お粗末さまでした~
今年の更新はこれで最後です。皆さま、ありがとうございました。
また来年もよろしくお願いします。
では、みなさん、素敵な年末年始をお迎えくださいね。



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ダイヤモンドクリスマス 前編 - 2014.12.28 Sun

「人魚姫♂」の尚吾と乃亜の短い物語です。
クリスマス過ぎてしまったけどね…('ε`汗)

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2014冬の尚吾と乃亜

ダイヤモンドクリスマス

前編

 乃亜は真面目だ、と恋人の瀬尾尚吾は思う。
 同棲を初めて一年半。知り合った頃の狂った熱情も醒め始め、相手を客観的に見始める頃だが、尚吾には未だに乃亜の欠点が見当たらない。
 確かにおっちょこちょいの乃亜は、あわてて皿を割ったり、テーブルの角にぶつけたりと粗相は絶えないけれど、尚吾にとってそれは欠点とは言わず、萌えでしかない。
「ドジらない乃亜なんて…シナモンの入っていないアップルパイのようなものだ」などと、甘党でもないのに自身に言い聞かせてしまう尚吾の恋は、まだまだ客観的ではないのかもしれないが…

 さて、乃亜のドジっ子萌えは置いといて…乃亜には尚吾が理解できない趣味がある。
 いや、趣味と言うレベルならまだ良しとするべきだろうが…
 欠点ではなく通常なら長所と呼ぶべきだからこそ、尚吾もなまじ忠告もできない。
 乃亜は主婦の鏡と言っていいほどの倹約家なのである。
 普段の買い物は勿論、色々と節約するのが生き甲斐と言っていいほど、生活にお金をかけない。いわゆるケチなのだ。
 無駄な出費は天敵とばかりに目を光らせ、食料の特売などを新聞の広告で見つけると、どんなに遠くても原付のバイクで買い物に行くし、自分の着る服はしま●らかユ●クロの特価ものしか着ない。しかもそれを尚吾用に買ったりする。
 尚吾は容姿端麗が自慢のダンディでおしゃれでノリの良いアラサーと他人から見られることを良しとする。姿形も仕事の利益になるし、商売繁盛には越したことがない。だから普段着でも安物は着ない主義だった。
 乃亜と暮らす前までは…。

 乃亜と恋に落ち、劇的な恋の成就を為した後、尚吾は以前ほどに自分の見栄えを気にしなくなった。
 乃亜の美貌は言うまでもなく、彼の五人の兄たちの派手な西洋の容貌に慣れるにしたがって、尚吾は自分の見目に自惚れることが少なくなったのだ。
 同時に恰好も昔に比べるとブランドにこだわることもなく、乃亜が買ったカジュアルな服も家の中では文句も言わずに着るようになってしまった。
 おかげで家計も安泰、ましては兄たちがいない時の平穏な日々に、尚吾はこの上ない安息を感じている。
 しかし、稀に乃亜のケチさ加減が行き過ぎる場合もある。


 その日も…馴染の客の家へ上がった時、ふと靴下の足先を繕った跡に気づいた。あわててスリッパで隠したのだが、尚吾はすぐに気がついた。
 ついこの間、尚吾が処分した絹の靴下だったのだ。それまでは気に入って繁盛に履いていた靴下だったが、指の先に穴が開き、ゴミ箱に捨ててしまったのだ。
 多分乃亜はゴミ箱からそれを拾い、自分で縫い繕ったのだろう。
 確かにその行為は褒められるものではあるけれど、尚吾を惨めったらしい気分にさせた。しかもその家の奥様にそれを見つけられ、尚吾の恋人の行為を嫌というほど褒められ、それが一層尚吾を落ち込ませた。
 尚吾は沈んだ気分で帰宅した。
 勿論その些細な事件を乃亜に報告はしなかった。ただ尚吾はその靴下を今度は乃亜に見つからない様にゴミ袋の底深く押し込んでしまった。

 乃亜の節約は本人が楽しんでいるから益々指摘しにくい。それに乃亜は、何よりも尚吾の為に貯蓄をしているのだ。
 尚吾には小さくてもいいから自分の設計事務所を立ち上げたいという夢がある。それを実現させたくて乃亜は節約に励んでいるのだ。
 尚吾は資金の心配はしなくても大丈夫だからと乃亜に言い聞かせても、乃亜は自分のやりくりで少しでも助けたいと思っている。
 実はもうすでに乃亜の長兄であるヴィンセントから事務所の設立資金の援助の申し出はあったのだが、尚吾はそれを断っていた。
 できるだけ自分の力で立ち上げたいし、何より…ヴィンセントに恩を売るのが怖い。
 身体だけじゃなく、人生までも切り売りするつもりはない。勿論ヴィンセントも乃亜を不安にさせる程の要求はしないだろうが…。


 恋人へのクリスマスのプレゼントを迷うのは、幸せ者の証拠だと思う。
 去年は五人の兄たちが家へ押しかけ、ロマンチックの欠片もない聖夜になってしまったけれど、今年は今のところその予定もない。ふたりだけの甘い夜になることを願うばかりだ。
 仕事の合間に普段なら気にも止めない有名宝飾店へ尚吾は足を向けた。

 ボーナスも出たことだし、乃亜の為にちょっと贅沢なジュエリーでも買ってやりたい。それが自己満足であろうと、高価なお代は愛情の大きさに比例しないか?
 店内は思っていたよりも混みあっていた。
 クリスマスイブなのだから当然だ。
 尚吾はうろつきながらダイヤモンドの指輪が飾られたショーケースを眺めた。
 乃亜には一度真珠の指輪をプレゼントしたけれど、あれは恋の成就に焦った尚吾が、とっさに母の形見を渡したものであり、尚吾自身がお金をかけたものではない。
 偽物だとは思わないけれど、尚吾は自分の愛情を形にしたいと思っていた。
 しかし…
 ダイヤモンドと言っても多種多様で値段もピンキリ。宝石の評価が良いほど高価になるのは当然で、自分の財布と格闘しながら乃亜に似合いの指輪を選ぶのは至難である。
 店の女性スタッフが愛想よく「お出しいたしましょうか?」と、いくつかの指輪をトレイに載せ、目の前に並べる。
「大切な方へのクリスマスプレゼントでしたら、これなんかきっと喜ばれますよ」
 目の前に差し出された指輪は一粒物のブルーダイヤモンドで、値段はというと…せっかくの冬のボーナスがすべて吹っ飛ぶ額だ。
「お値段は少しお高くなりますけれど、今なら金利手数料なしの三十六回払いで、ひと月二万円でお買い求めやすくなっております。この品質でこれだけのものは早々ないものですからね。きっとお客様の大切な方も、喜ばれると思いますよ」
「そ…ですね~」
 ニコニコと笑顔のサービスに尚吾も仕事用の笑みで応えたが、正直こちらの方が不利だった。
 尚吾はその指輪を手に取りながら、乃亜の喜ぶ顔を想像してみた。



   後編



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メリークリスマス! - 2014.12.24 Wed

クリスマスイブですね。
日本中寒そうですが、ホワイトクリスマスになりますでしょうか?
因みに私は九州に住んでいるので、未だかつてあまりホワイトクリスマス…なんてものは味わったことがありません。
残念です。

クリスマスには尚吾と乃亜のクリスマス物語を…と、思っていましたが、なんかバタバタしてて、まだ終わっていません。
そのうち更新できたらいいんですけどね。もうクリスマス関係なくなるんだけど~

年賀状も色々描いたので、欲しいと言われる方は遠慮なくどうぞ~

では、みなさん、良いクリスマスを~
2014クリスマス

モデルは久しぶりに「彼方の海より…」のリュウ・エリアードさんです~

銀色のRay 12 - 2014.12.18 Thu

12
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セシル制服

12、

 セシルの一週間の外出届は学生係が正式に受け取ったものだった。
 他の生徒たちは休日になれば、自分の家へ帰省するのが当然だが、俺達のような孤児は帰る家がない。だから、せっかくの長期休暇でも学園内で過ごすことが多い。
 セシルは日頃から真面目で問題のない生徒で、休日さえも外出することがほとんど無かったからだろうか、修学中のこの時期のセシルの一週間の欠席は、生徒の親、親類の祝い事か葬儀と同等の異例の許可だった。

 俺はセシルをこのままほおってはおけなかった。
 セシルがどこへ行ったのを知りたくて、学生係の先生に問いただした。
 セシルは今まで居所が判らなかった遠縁の叔父の行方がわかったから、どうしても会いに行きたいと、外出の理由を述べたらしい。
 セシルに遠縁の叔父が居たことも疑問だが、それを鵜呑みにしてしまうこの学園の緩さにも呆れてしまう。
 本当は相談したくはなかったけれど(また甘ったれだと言われるに決まっているから)アーシュを尋ねた。

 面会の許可を取り、学長室を尋ねてみるとアーシュは学園一立派なデスクに積み重ねられた書類を前にして、真面目そうに目を通していた。
 必要のない伊達眼鏡もストライプのシャツに青磁色のネクタイも、紺のベストも普通の大人を演じるには良く似合っている。
 だが、この人の存在感、とりわけ醸し出す金色の輝くオーラ、そして尊大な態度は、大方の人間は近づき難いものであろう。
 勿論アーシュはこの地上では自分を「魔王」と自己紹介しているぐらいだから、他者がどう思おうと構わないんだろうけれど、俺はアーシュ程には強くない。
 好きな相手にどう思われているかとか、嫌いになって欲しくないとか、どうすれば心を掴めるんだろうとか…
そうなんだ。
 俺は初めてセシルにこんな想いを抱いていることを知ったんだ。
 これは恋なんだろうか?

「は?セシルに恋をしてるかって?…おまえねえ、自分の気持ちもよくわからないのか?」
「だって…俺はいつかクナーアンに戻るつもりだったし、この天の王で誰かを好きになっても不毛なだけな気がしていたから…」
「だから自分に魔法をかけていたわけか…」
「え?」
「魔術師が自分の術で罠に嵌るなんて二流もいいとこだが…まあ、レイはまだ子供だから仕方ないね」
「…」
 ぐうの音もでねえ…確かに俺は自分の気持ちに気づかない様に、自分に暗示をかけていたのかもしれない。
 でも何故今になってそれが解けたんだろう…。

「神也の存在が、おまえの魔術のベールを剥した…と、言えるかもしれない。神也は特別な魔力は持たないけれど、人の心をあからさまにすると言うか…。誰もあの子の前では嘘はつけないんだ。だから俗な人間はあの子を怖がる。見たくない自分の醜さを目の前に差し出されるからね」
「神也の力だったのか…」
「神也も己の力には気づいていないだろうね。はっきりと見える魔力でもないし、もっともそれぞれの心の問題だとも言えるだろうしね。アルトを惹きつけるイルトのカリスマ性と似ている特質なのだよ。だけどさあ…」
アーシュは少しだけ頭を捻り、眼鏡越しに俺を睨んだ。
「おまえ、ホントにセシルに恋してるの?セックスとかしたいとか思っちゃってるわけ?」
「…そりゃ…。セシルに会ってみなきゃ欲情するかどうかわかんねえけどさ…。セシルが何かを悩んでいるのなら力になりたいって…。それはセシルを愛していることにならないのかな…」
「同情ならセシルは喜ばない」
「そうじゃないと…思う。でも同情が混ざっているからって、真の愛情を否定できるわけじゃないだろう?」
「勿論だよ、レイ!それがわかっているのなら行って来いよ。セシルがどこに行ったのか、おまえにはわかっているのだろう?」
「…俺達が初めて会った街…だと思う」
 アーシュは伊達眼鏡を外し、机に置いた。そして椅子から立ち上がると、俺の前に立って、俺の両肩を掴んだ。

「俺はあの時セシルを一時的な記憶喪失にさせた。生きる気力を捨てていたセシルに、現実を抱える力は無かったからだ。おまえと同じような立場ではあっても、あの時のセシルには耐えられないと俺は判断した。だが記憶は自分の生きた証でもある。セシルが神也の傍にいたことをきっかけに、思い出したとしても何の不思議もない。それに立ち向かうために旅に出たのなら、セシルの成長を歓迎しよう。だがセシルの過去はセシルのものだ。たったそれだけの事だと他者が思おうとも、セシルがそれを許せないのなら、自分を殺してしまうかもしれない。だからセシルには愛が必要だ。誰かの為に生きようとする慰め、救いがあれば、過去への見方も変わってくるだろう。レイがセシルの『それ』になる覚悟があるなら…俺は喜んで送り出すよ。行って来いよ、レイ」
「…うん、絶対にセシルと一緒にここに帰ってくるよ」
 アーシュは旅費や宿代などのお金を自分の財布から俺に渡した。
 勿論それは無くてはならないありがたいものだ。日頃、余分な金銭を持っていない俺にとって、汽車代すら危うくなる状況なのだから。

 保証人にアーシュの名前を書いた外出届を学生係に出した俺は、一旦部屋に帰って神也に事の次第を話すことにした。
 神也は神妙な顔で俺の話を聞き、「わかった」と頷くと、自分のクロゼットからコートと帽子を取り出し「さあ、行こう」と、俺に言った。
「は?なんで?」
「レイと一緒にセシルを探す旅に出る。私はスバルとよく旅に出るから慣れているのだ。きっとレイの役に立つ」
「いや…あの…有難いけれど、気持ちだけ受け取っておくよ」
「遠慮はいらない。レイは私の初めての親友だ。親友の為に骨を折るのは当然の友情の証だ。さあ、行こうか。今からなら、夕方の寝台列車に間に合うはずだ」
 そう言って俺より意気揚々と部屋を飛び出す神也を止める術もなく、俺も取り敢えずコートを掴むと、慌てて神也の後を追いかけた。

 サマシティのグランドターミナル駅には五面のプラットホームが並んでいる。
 その一番奥のターミナルには線路が無い。
 そこはここからどこか違う次元行きの列車が入り、そして旅立つホームだと言う。もし、それが本当なら、クナーアン行きの列車が欲しいな。それがあれば、いつでも行き来できるのに…と、想像する。
 俺と神也は三番線の北行きの寝台列車を待った。
 二人用のコンパートメントにはベッドも用意され、すぐに休むこともできたけれど、腹が減った俺達は車内販売のベーグルとホットミルクで夕食を取った。
 燻製ハムが挟まれたベーグルに満足した俺に、神也はデザートだと言って、貝の形をしたマドレーヌを差し出した。
「昨日、リリから貰ったものだ。私の好物だからと、学園に来るたびに私に届けてくれるのだ」
「おまえ、愛されてるな」
「私もそう思う。時々彼らの期待に応えることができるのだろうかと、不安に思うこともある。私が山の神だった頃、私はただ狭い祠の中で、村人たちの祈りや苦しみ、悩みを聞くだけの存在だった。誰かの病気を治したり、死んでいく者を助けたり、貧しさや飢えを救う力など私には無かったのだ。だが、誰も私を恨んだり罵ったりはしなかった。彼らは何があっても私に感謝の祈りを捧げてくれたのだ。私が居ても居なくても彼らは祈りを止めなかっただろう。だが私は彼らの祈りを聞くことができた。そして彼らの祈りが叶うように、天に祈った。…私は彼らの救いに、少しはなったのだろうと信じている」
「うん」
「だから、私はレイの傍にいる。力はなくても、レイの言葉を聞くことはできる」
「…神也」
「人の心とは、話すことで少しずつ明快になっていくものなのだ」

 俺は神也から貰ったマドレーヌを口にした。
 舌の上で溶けるバターと甘い香りが、俺の心を優しくしていった。
 魔力なんかでは生まれない本当の人の優しさなのだと、俺は頭を垂れたのだ。


銀色のRay 11へ /13へ

この物語の最初のお話は左のカテゴリの「senso」からどうぞ。長いけど…
アーシュの過去の物語など、様々ございます。
山野神也のお話は「山の神」「愛し子」よりどうぞ~

めっちゃ寒い日が続きますが、皆さん風邪など引きませんように…


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銀色のRay 11 - 2014.12.11 Thu

11
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rei制服
 第二章 螺旋のLares(ラレース)

11、
 
 憂鬱な気持ちでセシルを見送った後、俺は仕方なしに山野とギルバートの居る部屋へ戻った。
 ギルバートは俺を見て「セシルはどうかしたのかい?」と尋ねるから、てめえの恋人なんだろ?心配なら自分で追いかけろよ、と、罵ろうと思ったけれど、すでに俺の怒りは通り過ぎて、どちらかと言えば落ち込み加減だったし、ギルに楯突くにしてもお門違いのような気がして「セシルは少し気分が悪いから、先に部屋に帰って休むって」と、おとなしく答えた。
「そうか…。神也の話はセシルには少し重かったかもしれないな。あいつは元々ナイーブだし。俺にはすごく面白かったけどね」
「…」
 まるで他人事のように話すギルに、俺の苛立ちは治まらない。

「なあ、ギルバート。セシルはあんたの恋人なんだろう?もう少し親身に心配してもいいんじゃないのか?」
「…恋人…って、セシルが君に言ったのか?」
 ギルは訝しむように首を少し傾けて俺を凝視するから、俺もムキになって睨めつけてやった。
「セシルの他に言う奴がいるかよ」
「ふ~ん。まあ、確かに…俺はセシルと付き合ってはいるが、恋人同士ではないな」
「え?」
「つまり愛し合ってはいない、はずなんだがなあ~」
「だって…あんたはセシルと寝てるんだろ?」
「おいおい、レイ。今更ガキのような戯言を言うなよ。天の王じゃセックスはスキンシップのひとつだって初等科の一年でも知っている。まあ、極端なロマンチストにはまた違ったこだわりもあるだろうが…俺は無害な俗人でさ。そりゃ、好みの子に求められれば有難くお相手をするのが礼儀だ。尤もレイは賢人らしいと聞いている。セシルと穢れの無い友情で付き合っているんだからな」
「ギルは俺を見くびっているのか?」
「反対だよ。セシルみたいな綺麗な子と一緒に居て、欲情しない君は称賛に値する。だが俺にとってはセシルは性欲を満たしてくれるに十分に魅力的で従順で柔らかい、何度抱いても飽きが来ない相性のいいセフレだよ。愛してるなんて言葉を、お互い交わしたことは一度だってないぜ」
「…どういうことだよ」
「つまり俺とセシルは肌の合う親しい先輩後輩の関係でしかないって事」
「そんな…」
 それじゃセシルが可哀想じゃないか…。
 と、いうよりも、今までギルバートを信頼していた自分に腹が立ってくる。こんなに薄情な男だったなんて、俺もとんだ見込み違いをしたもんだ。

「レイ、君は俺とセシルの関係をどう想像していたのか知らないけれど、セシルと俺は愛情で繋がれているわけじゃない。親愛なる友情で互いを慰め合っても不実だと言われる道理はない」
「…」
「セシルは誰かに甘えたいんだ。たまたま俺が都合よく居ただけで、セシルは俺じゃなくても良かったのかもしれないね。…こう言ってはなんだが…君たちみたいな施設で育った子は、年上の愛情を求める者が多い。違うとは言わせないよ。君だって学長にベッタリだろ?君が学長と寝ていたとしても、誰もが当然だと思うだろうね。真実は知らないけれど」
「お、俺がアーシュと寝るわけねえだろっ!」
「そう言う噂が絶えないって話をしているんだよ。そして、俺は君が学長の恋人でないことも知っている」
「…」
 腹が立つ!なんでセシルの事を聞いているのに、俺とアーシュの話になるんだ。

「レイ」
 神也の手が俺の手を握りしめた。
「そろそろ、部屋に帰らないか?私も少し話し疲れた」
「…」
 神也は俺の怒りを受け止める様に、静かな瞳で俺を見つめた。
「ああ、神也。長い時間引き留めて悪かったね。今夜は楽しい話をありがとう。今度は集会で会おう」
「わかった。では、ギルバート、またな」
 俺は神也に促され、足取りも重いままに部屋に帰った。

 部屋に帰った途端、ドッと疲れが押し寄せた俺は溜息を吐きながら倒れ込んだ。
 神也は何も言わずに、ただ俺の為にお茶を淹れ、机の上に置いてくれた。
 不思議なものだ。神也の慰めは俺を傷つけない。
 子供みたいな容姿のクセに、神也の中身は俺よりもずっと立派な大人だ。

「なあ、神也はどう思う?」
 仰向けになった俺は、自分の椅子に座ってお茶を啜る神也に話しかけた。
「え?…レイが私を名前で呼ぶのを初めて聞いた」
 黒目を見開いて驚くから、俺も苦笑して応えた。
 そうだよ、苗字じゃなく、おまえの名前を呼びたいんだ。
 信頼の情を込めて。
「そう呼んでも構わない?」
「勿論だ」
 神也は珍しく目を細めて笑うから、益々年下の子供に見える。

「で、ギルの話だよ。セシルは恋人じゃないって…あんなに仲がいいのに、信じられるかよ」
「あの男は嘘をついてはいない。それはレイもわかっているはずだ。じゃあ、どうしてセシルはレイに恋人だって言ったのか…。馬鹿でもわかる話だ」
「…俺は馬鹿かよ」
「セシルが本当に好きなのはレイだってことだな」
「…そんな…こと…。俺は人の心が読める力を持つ魔術師だぜ?セシルが本気で俺を好きなら…それくらい俺にだって気づくさ」
「昔から恋は盲目と言ってな。純粋に人を愛してしまうと、相手の心が見えなくなるものだ。純愛か…ふむ、なるほど確かに神秘的で心ときめく良い響きだ」
「…勝手に言ってろ。俺が盲目だって?…俺がセシルに恋を…セシルの心を読めない程のピュアな恋をしてるって言うのか?…んなことあるかよ」
「何故だ?何故宣言できる?」
「だって俺は…俺はいつかはクナーアンに戻らなきゃならないんだ。だから…」
 本気で誰かを愛したりしない。
 …できない。

「レイは自分の弱さを故郷へ還る事にすり替えているだけだ。本気で誰かを好きになれば、自分の運命を変えることもできる。私のように」
「…」
「レイは良い人間だが、少し優しすぎる。私やアーシュのように世の中は自分を中心に回っている…と、思って生きてみるのも悪くないぞ。まあ、回りすぎるのも良くないが…」
「…」
 神也の言葉は、俺に新しい風を運んでくれる。俺の考え付かない目線や思考は、折りたたんだ俺の羽を広げてくれる。
勿論、飛翔するのは俺の意志と勇気だってことはわかっている。

「じゃあ、神也の言葉に力を借りて、明日からは自分の思いのままに生きてみることにするよ。神也の友情を裏切らない為にも…」
「それはいいが…。私はギルバートのように友情ではセックスは求めていない。だからレイの相手はできないぞ」
「…」
 冗談なのか真面目なのか、表情を変えない神也を見て俺は声を出して笑った。
「それは残念だよ、神也。でも俺も最初のセックスの相手は、友人よりも恋人の方が性に合ってる」
「同感だな」
 俺と神也は握手をして笑いあった。これで俺達は気の置けない親友同士になった。
 じゃあ、セシルはどうなんだ?

 今までのようにセシルを親友と呼べるのか?
 本当に俺がセシルに恋をしているのなら、セシルに会って確かめるしかないのだろう。けれど…今更なんとなく気恥ずかしい。
 それに何よりもセシルは俺に触れられるのを怖れている。俺を信頼できないとセシルは感じている。
 まずそれをクリアしないと、愛し合う恋人同士…なんて、まだまだ遠い気がする。
 
 その晩、セシルの事が気になって眠れない俺は、静かに自室を出てセシルの部屋のドアをノックし名前を呼んでみた。
 もしセシルが答えてくれたなら、俺は自分の想いを正直に(多分上手く話せないだろうけれど…)打ち明けようと思った。
 人の想いは永遠ではない。
 今、俺がセシルを好きだと思っても、俺がクナーアンに戻る頃にはどうなっているのかはわからない。ただ、この気持ちを伝えなければ、俺はきっと後悔するだろう。
「セシル?開けてくれないか?少しでいいから話があるんだ」

 張り裂けそうな緊張も、返事のない静けさに段々と沈んでいった。
「セシル…」
 どんな状況であっても、セシルが俺の呼びかけに応えない時はなかったはずなのに… 

 翌日、セシルは学校を休んだ。
 そして俺に一度も顔を見せることなく、翌日に外出届を出し、「天の王」学園から姿を消したのだ。



銀色のRay 10へ /12へ

この物語の最初のお話は左のカテゴリの「senso」からどうぞ。長いけど…
アーシュの過去の物語など、様々ございます。
山野神也のお話は「山の神・愛し子」からどうぞ。

旅行から帰ってバタバタしてまして、更新遅れました~


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銀色のRay 10 - 2014.12.01 Mon

10
イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。


山の神スバルと3

10、

「あのさ、山野」
「なに?」
 夜、いつものようにスバル先生への手紙を書くために机に向かう山野神也の背中に、俺は問いただした。
「おまえからもらったこのペンダントってさ…どんな力があるのか知ってる?」
「…」
 山野は黙って俺の方へ身体を向け、そして頭を捻った。
「あのペンダントに魔力があるのか?スバルからは何も聞いてはいないが…」
「…」
 スバル先生が知らないはずはない。だとしたら…
「このペンダントの種…つまりマナの実って強力な催淫剤だそうだ。アーシュが教えてくれた。マナの実を食べるとすげえセックスしたくなるそうだ。だからその種にもその魔力が残っているわけだ」
「そうなのか…。スバルは時々、私にこの実を舐めてごらんって言ってた」
「な、舐めて…たんだ…」
「そういう晩に限ってスバルも私もなんだか夢中で過激に抱き合っていた…気がする」
「そう…ですか…」
「スバルがそんな風に私を抱きたいと思っていたなんて…。変態じゃないか…。バカスバル!あんな恥ずかしいことをさせる為にこのような魔法の力に頼っていたなんて…。文句を言ってやるっ!」
「え?」
 山野は憤慨した顔で机に向かい、手紙を書き始めたが、ふいにペンを止めて顔を上げた。
「ん?…でも、よく考えたら、めちゃくちゃにしたい程、私はスバルに愛されてるってことだから怒る程でもない。…そう思わないか?レイ」
 こちらに向き直って真面目な顔で俺に同意を求める山野が、えらくかわいい。しかしこの気持ちにやましい気持ちは一切ないと、断言できる。
 俺は山野をかわいいと思うが、それは一生懸命に恋人を想う山野が愛おしく感じるだけで、彼を恋人にしたいとか抱きたいとか思う気持ちには遠いのだ。

「…はいはい、おまえはスバル先生に愛されて幸せですよ。そんで俺は誰も愛してくれないかわいそうな少年ってわけだ」
「それはおまえが本気で人を愛そうとしないからだ」
「…」
 するどい…。こいつそういうセクションには鈍感だと思っていたけど、意外と勘が鋭いのか?
「山野は簡単に言うけれどさ。…もし、もしだよ。愛したくても…好きな奴に、恋人が居たとしたら、本気になるわけにもいくまい?」
「報われなくても、愛し続ける事は悪いとは思わない。勿論、横恋慕はいけない事だが、…人の想いや愛情は季節のように、移り変わるものじゃないのだろうか?」
「それって、山野ももしかしたらスバル先生への恋慕が変わるって意味なのか?」
「今は感じない。だがこの世に永遠という何かがあるのだろうか。すべては時間と共に少しずつでも変わりゆくものなのだ。それは良い悪いではなく、自然の摂理というものだ」
「俺は…いつかクナーアンに戻るつもりなんだ。だから、この地で誰かを本気で愛したりしたら…お互いが悲しい思いをする」
 誰にも話した事のない悩みを、まだ知り合って間もない山野に打ち明けている自分が不思議だった。
「では、レイには心に決めた人がいるのだな」
「…」
 俺は「そんな奴はいない」と笑い飛ばすつもりでいた。だが出来なかった。代わりに歪んだ笑いで山野に答えた。

「もしレイの想いが運命に逆らう覚悟があるのなら、おまえの悩みなど些細なことだ。私も一度は自分の運命を捨てた男だ。そして新たな運命を掴み取った。私だけの想いではなくスバルが私を選んでくれなければ、私には選べない運命だった。レイの想い人がレイを心から欲してくれるなら、運命は開かれる」
「…」
 山野に魔力があるわけでもない。それなのに俺は山野の言葉を信じたくなる。
 なんだか心が軽くなった気がするんだ。
 確かにアーシュが選んだ者は、魔法使いの俺よりもずっと賢く潔い。


 新学期の試験が一通り終わると、寄宿舎の生徒たちもやっと談話室で過ごす余裕が出来る。
 高等科の談話室は中等科と違い、部屋数も多く、ビリヤードやダーツ、チェスなどの娯楽施設も整っている。
 男女は別棟になっているから女生徒は見当たらないが、一年から三年まで上下関係なく懇談や勉強を教えあいながら楽しめるし、恋の出会いも生まれる場だ。

 山野神也がイルミナティバビロンのメンバーだと知ったのは、三年のリーダーのギルバート・クローリーが談話室に居た山野に声を掛けたからだ。
「山野もメンバーだったの?同室なのになんで俺に一言言わないんだよ!」
「何を怒っているのだ。おまえは私にメンバーなのか?と聞かなかっただろう?」
「…」
 確かに聞いちゃいないけど…
 ギルバードは山野が気になるらしく、ゆっくり話をしたいからと別室の小さい談話室に山野を誘っている。
「俺は君みたいなストイックな変わり者に興味があるんだ」と、ギルは目を細めて笑った。
「ストイックって何だ?…」
 山野は手に持った辞書で単語を調べ始めた。
「山野、いちいち調べなくてもいいから」
「禁欲主義…いや、私は禁欲主義ではないぞ。スバルが居る時は一週間に二回以上はセックスをしている。だから禁欲ではないはずだが…。なぜ私を禁欲主義だと思うのだ?」
「…」
「……面白いね、君。気に入ったよ」
 ギルは朗らかに笑い飛ばして、山野の頭を撫でた。
 その後ろでセシルは不機嫌に口唇を尖らしている。
 俺は慌ててセシルの耳元に近づいた。
「セシル、山野の事は気にするなよ。あいつはスバルしか愛してないって…俺に宣言したんだから…な!」
「別に…気にしてないよ。僕だってギルを信用してるもん」
「そうか…それなら良かった」

 そうしている内にギルバートは山野を小さな丸テーブルのある個室に案内し、用意した紅茶とクッキーを薦めていた。
 俺とセシルもあわてて同じテーブルに座った。
 ギルの旺盛な好奇心は知っているけれど、恋人のセシルの気持ちも汲んで欲しいものだ。
 ギルは山野に過分の興味を抱いたらしく、「山の神」の話を聞かせてくれないか、と、頼んでいた。
「神也は『山の神』と言う役目をしていたそうだが、具体的にどんな生活をしていたの?」
「役目というか、私は物心ついた時から山の神だったのだ。親の顔も知らなければ、どういう縁(えにし)で山の神にさせられたのかもわからない。外の世界がいかなるものか全く知らずに、小さい社(やしろ)の中だけで過ごしていたのだ…」
 俺は山野の隣に座り、セシルはギルバートの隣に座った。
 山野の話を聞き始めて間も無く、俺は自然と山野の話に感応していた。
「山の神」として過ごしてきた山野の日々のヴィジョンが、目の前のテーブルにホログラフのように映し出さるのだ。
 これは山野の記憶がとても鮮明であり、一切の嘘がない証拠だ。

 まだヨチヨチ歩きの山野は白と紫の着物を着せられ、傅く大人たちに促されて狭くて暗い祠へ入っていく。少し大きくなった山野の姿は少女にしかみえない。腰まで届く黒髪に雅やかな衣装を着け、儀式か何かだろうか、高い段に座らされている。そして山野の生活のほとんどが、ただ一日じっと暗い祠の中に座って、格子から見える僅かな外の様子を眺めているだけなのだ。山野には話をする相手も同じ年頃の友人も居ず、毎日ひとりぼっちで「山の神」として勤めるしかなかった。読み書きも誰一人教えない。素朴な疑問も質問も答えを知る事も出来ず、我儘さえ言う相手も居ず、ただ傅かれて生きてきたのだ。
 俺の知っている神さまは、アーシュやイールさまのような偉大な力をもった万能者であり、人々を畏怖させつつも祝福を与え、誰もが崇める存在だ。だが「山の神」は、なにひとつ自由にできない囚われの神子でしかない。

「スバルと出会わなかったら、私は十二歳で死んでいたのだ」
「え?…どういうこと?」
「『山の神』の役目は無垢な子供でしか許されない。性別がはっきりと表に出始める第二次性徴の兆しが表れる前に『山の神』は次の幼子に引き継がれ、役目の終わった『山の神』は人柱として死ななければならないのだ。だが私はそんなことに全く気がつかずに十二歳になれば、社を出て自由に外で暮らすことができると思っていた。…事前にそれを知っていたスバルが私を助けてくれなければ、私は土に埋められたまま死んでいただろう…」
「…」
 十二歳の山野が白木の棺桶に寝かされ、そして土深く埋められる様子が、俺の目にははっきりと映った。そして暗闇の棺桶の中で目覚めた山野の恐怖に戦く心。死を覚悟し一度は絶望しながらも、必死でスバル先生の名を叫び、そしてやっと救われた山野の泣きじゃくる声が、俺の胸に突き刺さる。
 
「レイ、大丈夫か?」
 山野の手がテーブルに置いた俺の腕を掴んだ。
「…」
 大丈夫かなんて…こっちが聞きたいくらいだ。あんな非道な目に合って、おまえの心はどうしてこんなに清浄なんだ。どうして何ひとつ傷ついていないんだよ。

「…レイ、私なら大丈夫だ。今はもう怖くない。私はもう『山の神』ではなく、山野神也というひとりの人間なのだ。だからおまえが哀しむことはない。だが、私の為に泣いてくれるレイの思いが嬉しい。…ありがとう」
「…」
 山野に言われて初めて気がついた。
 俺は無意識のままに泣いていた。
 涙の意味を一言では言葉に表せないけれど、山野の生きてきた過去に比べて(比べるものじゃないことはわかっている)自分はなんて恵まれていたのだろうと思わずにはいられなかった。確かに母と祖父の死は悲しみと憎悪に満ちたものだ。だが、それはそれまで俺が家族に愛された故の想いがあるからだ。
 山野にはスバル先生に出会うまで家族も友人も誰一人として、彼を愛しむものは居なかったのだ。
 
「山野は強いんだな」
 俺は涙を拭き、出来るだけ明るく山野に言った。
「私が特別ではない。ただ私は運が良かったのだ。私以前に『山の神』だった者たちの無念を思うと…私も心が痛む。だから彼らの分も強く生きなければと、心に誓うのだ」
「…」
 
 アーシュは山野神也のすべてを知って自分の後継者に据えようと決めたのだろうか。それとも彼の魂の力(パワー)を信じたのだろうか。

「ゴメン。僕ちょっと…、先に…失礼するよ」
 俺の隣に座るセシルがいきなり席を立ち、慌てた様子で部屋を出ていった。
 俺は急いでセシルの後を追いかけた。
 セシルはもう談話室を出て、廊下まで走り去っていた。
「待ってくれ!セシルっ!」
 俺の声にセシルは立ち止まった。
「…なんでもない。ちょっと気分が悪くなっただけだよ」
「もしかしたらセシルも山野の過去に感応したのか?」
「…違う…」
 近寄ろうとする俺に、セシルは一定の距離を取っていた。俺はその意味をすぐに理解した。
「セシルに触れても絶対におまえの頭の中を覗いたりしないから。気分が悪いのなら、助けてやりたいだけなんだ。俺達親友だろ?」
「レイ、ゴメン。悪いけど…少しひとりになりたいんだ。もう部屋に帰って寝るから……気にしないでくれ」
 セシルは一度も俺の顔を見る事もなく、急いで階段を駆け上がって行った。



この物語の最初のお話は左のカテゴリの「senso」からどうぞ。長いけど…
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山野神也のお話は「山の神」「愛し子」よりどうぞ~

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