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2015-03

銀色のRay 最終回 - 2015.03.20 Fri

21
イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。


レイ・ブラッドリー



21、

 山野神也とスバル先生が帰宅したのは、俺とセシルが学園に戻った三日後だった。
 早速神也に多少の皮肉を込めて「久しぶりに恋人と会えてどんな気分なのかい?」と、揶揄うように俺が言うと、普段あまり表情を崩さない神也は満面の笑みを湛え「とても嬉しかった。名前も知らぬ町でスバルを待つ時間も、見知らぬ田舎の道をふたりだけで歩くのも楽しかった。なにより今までにない程に熱く、スバルと愛し合えたのは素晴らしく刺激的だった」
「そりゃ…良かったな。で、俺達の部屋はどうする?神也はスバル先生のところへ戻るかい?」
「いいや。私は理解したのだよ、レイ。好きな人と離れて過ごす時間は辛いけれど、それを忘れるぐらいに再会の喜びは大きいのだな。つまり、いつも満足しているとそれに慣れてしまって、愛することや愛されることの大切さを忘れがちになる。だから、少し距離を置いてスバルと付き合おうと思うのだ。その方がお互い求め合う熱情が高まるからな。だから、寂しさはあるけれど、このまま別々に暮らそうと思う」
「あ…そう」
 別々ったってスバル先生の官舎まで、歩いて五分もかからないのに、神也があまりに真面目な顔で言うから、俺も思わず吹き出してしまった。

「ところで、レイの方はどうなのだ?」
 神也が笑う俺を睨むので、俺はアーシュからもらったキャンディを渡し、許しを得た。
「セシルとの事なら、めでたく恋人同士になれたよ」
「そうか…。それで、どうするのだ?」
「え?」
「これからのふたりの未来をレイは描いているのか?」
「…」
 絶句せざる得ない
 相変わらず神也は鋭い。
 そうさ、一番考えなきゃならないことは、俺とセシルのこれからの事だ。
 恋が成就したからって浮かれてばかりではいられない。
 わかってはいるのだが、決断するのは難しい問題だった。


 冬近い学園に、俺の平穏な日常が戻ってきた。
 勿論、細かい事情は様々あるし、追試のテスト勉強にも頭を抱えなきゃならない。
 でも俺の隣には一番大事で大好きなセシルが居るし、同室で親友の神也も何かと頼りになる。(かなりのお世辞を加えておく)

 図書室で試験勉強をするというセシルと別れて、俺はひとり林の向こうに聳える塔に向って歩き出す。
 主に「イルミナティバビロン」の集会の為に使われるこの塔の入り口は、普段は鍵がかけられている。だけど、俺には入口のエレベーターから昇る必要はないんだ。
 魔力を使って、自分の身体を浮かせて、ゆっくりと塔の屋上を目指す。
 誰にも干渉されず、ひとりきりであの魔方陣の中で思考したい…と、望んでいたにもかかわらず、行きついた屋上には先客があった。

 屋上の床に描かれた魔方陣の真ん中で、アーシュが大の字になって寝転がっていたのだ。
 後悔する間も無く、アーシュは俺の姿を見つけると、右手を上げて俺を手招きした。
 俺は仕方なく、アーシュの下へ近寄った。

「よくここに居ることがわかったな」
「別に…アーシュに会いにきたわけじゃないよ」
「へえ~、じゃあ、ここに何の用だ?」
「ここはクナーアンへのゲートだって教えたのはあんたじゃないか。俺だって独りになりたい時はあるんだよ。色々とさ」
「ホームシックって奴なんじゃないのか?…イールが恋しくなった?」
「そりゃ、アーシュの方だろ」
「そうさ。だからここでこうしてイールの声が聞こえないかって、精神を広げている」
「…イールさまと話せるの?」
「ああ、レイもやってみろ」
「…」
 俺は疑心暗鬼しながらアーシュと同じように、仰向けになって隣に寝転び、深呼吸をして精神を統一した。

「…なにも感じない…」
「当然。本当はイールの声なんて聞こえるわけねえのさ。だってここはクナーアンには遥かに遠い…。でも、ついクナーアンを…イールの匂いを探したりするのさ」
「…そんなに恋しければ、すぐにでもワープして会いに行けばいいじゃないか」
「おまえねえ、簡単に言うけど、異次元へのワープってのは、相当の魔力を使うんだぜ?今のレイの魔力(ちから)を全力注ぎ込んだとしても、次元を超えてクナーアンに行くことは到底無理」
「…そうなの?」
「なんだ?簡単に行けると思ったのか?」
「…うん。だって…ルシファー先生はたびたび行き来してるし…」
「セキレイは特別だ。あいつはもともと異次元をワープする能力に長けているんだ。昔…幼くて魔力も弱かった俺が、クナーアンからセキレイを呼び寄せたのも、セキレイが次元の狭間を通過しやすかったからだろうなあ」
 アーシュは両腕を枕にしながら、澄み切った大空をじっと見つめている。その横顔からは彼が何を考えているのか…俺には全く読み取ることは出来なかった。

「ねえ、アーシュ…」
「なんだ?」
 顔だけを俺の方に向けてくれたアーシュの視線に、俺はすこし焦った。
「お、俺がクナーアンに戻れないって言ったら、イールさまは…悲しむかな?」
「そりゃあまあ、落胆すると思うが、俺達クナーアンの神さまってのは、民がどこにいても幸せであるのなら、喜ばしいと思うことにしているのさ。だからイールもレイが自ら選ぶ道なら、いくらでも応援するだろうな」
「そう…なら、ありがたいな…」
「なんだよ、自信なさ気だなあ~。恋人がそんな顔じゃセシルも不安になるぜ」
「だって…本当に自信がないんだもの。これでいいのかって…ここに居て、セシルの傍にいることが本当にセシルの為になるのかって…」
「セシルの為だとか逃げ口上を盾にするんじゃねえぞ。おまえが選んで歩く道だ」
「わかっているけど…」
「どちみちどこを歩こうが簡単じゃねえさ。クナーアンで生きるのも、このカオスなアースで生きるのも…苦悩と失敗と不安の連続なんだよ。でもさ、きっと…そう、楽しいのさ。間違いない」
「…アーシュ…」
「実はさ、俺はおまえがここを選んでくれたことを歓迎しているんだ」
「どうして?」
「色々とさ…。未来を予測すると俺の代わりに頼りになる後継者が多い方が、安心なんだよ」
「俺の代わり…って?」
「話せば長くなるから掻い摘んで説明するとだな。俺はいつまでもここにいないから、俺がいなくなった後はちゃんとおまえらでうまくやってくれ…ってことだ」
「…意味わかんねえし。いなくなるって何?」
「だから説明すると長くなるって言ってるだろ?」
「説明してくれなきゃわからないし…アーシュがいなくなるって…。もしかしたらクナーアンに戻って、こっちに帰って来ないって意味なのか?」
「まあ、その解釈で間違ってはいない」
「どうしてっ!今みたいに行ったり来たりして…いいじゃん。アーシュがいないと俺…」
「寂しい?」
 いたずらっ子みたいに俺を揶揄うアーシュが憎たらしい。そんなの寂しいに決まっているだろう。

「なあ、レイ。ハーラル系の言い伝えは知っているだろう?すべての惑星の二神は天の皇尊ハーラルの命により不死の命を持つ…」
「うん」
「だけどアスタロトは不死であることに嫌気がさして、人間に生まれ変わった。それが俺。だから俺はクナーアンの神さまだけど、不死じゃない」
「それはわかるけど…」
「ハーラルはアスタロトが許しも得ずに勝手に人間に生まれ変わったことにマジキレしたのさ。当然だ。今までのルールを破ったのだからな。アスタロトの罪は重い。だから俺とイールはその罪を負わねばならない。つまり…人間よりは遥かに短い寿命しか与えない…それがハーラルの罰だ」
「…」
「贖罪の日がいつ来るかは、俺もイールもわからない。どちらにせよ俺達は一心同体で、俺が死ねばイールも死ぬ」
「そんな…そんなの酷いよ…」
「誰だっていつかは死ぬし、アスタロトにとって死は憧れでもあったんだ。ハーラルは罰だとは言うが、本当は許しをくれたんだよ。俺とイールの望むままに…。だから残されたおまえたちが悲しんではならない。俺とイールが死ねば、クナーアンにとっては新しい二神の誕生を迎えることになる。そして、この星は…文字通り人間たちの努力が試される時がくるのだよ。どんな未来にしても人間が選ぶ世界だ」
「俺は…俺はクナーアンの人間だし、この星の未来なんか…」
「関係ない?愛する者が住む地上なのに?」
「だって…」
 アーシュが俺の前からいなくなるなんて…そんなの…嫌だ。絶対に…。

「おいで、レイ」
 アーシュは寝たまま、俺に両腕を伸ばした。俺は起き上がり、寝ているアーシュの身体に覆いかぶさった。
 アーシュの腕が俺の背中を抱く。アーシュの手が俺の頭を撫でる。
 自然と涙が溢れてくる。
「馬鹿レイ、泣くんじゃないよ。もうすぐ十六になるんだろ?おまえを拾った頃に比べたら、随分と大きくなったじゃないか…泣き虫レイ…」
「嫌だよ…アーシュが死んじゃうなんて…絶対…嫌…」
「…ったくね。俺、誰からも愛されちまっているからなあ。いなくなるって知ったら、この世は悲鳴だらけのパニックさ。だから口外は禁物。特にベルやセキレイや俺を愛してやまない奴らには刺激が強すぎるだろ?…まあ、どうしてもって時はスバルかキリハラに相談しろ」
「ふたりは知ってるの?」
「ああ、そうだよ。レイには少し早すぎたけれど…おまえを見込んでのことだと知っておくれ。…おまえは特別な子だからね、銀色のレイ」
「…」
 悲しいけれど嬉しい…こうしてアーシュの胸に抱かれて頭を撫でてもらっていることが…嬉しくてたまらないんだ。

「ねえ、アーシュ。俺の事が大事?…神也よりも?」
「なんだよ、嫉妬しているのか?」
「…」
 俺は小さく頷いた。
「馬鹿だね~。クナーアンの神さまの俺にとって、レイは大切な民のひとりであり、天の王学長としては大事な愛し子だ。世話の焼ける養い子で頼りになる弟子の魔術師…だろ?おまえが一番可愛いよ。神也よりもどの生徒よりも…レイが一番可愛いに決まってるさ」
「…」
 アーシュの嘘つき、と詰ってやろうと思ったけれど、嘘でも一番可愛いと言ってくれることが嬉しくて涙が止まらなかった。

「…俺…頑張るよ、アーシュの期待以上の魔術師になって、この星をより良き未来に導けるように…みんなと頑張る…」
「…頼りにしてるよ、俺の可愛い銀色のレイ」

 アーシュは俺が泣き止むまでの相当な時間、俺を抱いて、ずっと頭を撫でてくれた。
 「おい、クソガキ、頼むから陽が落ちるまでに泣き止めよ」と、叱るのも構わず、俺はアーシュを離さなかった。

reiash.jpg

 
Epilogre  そして、今…


 私の世界には、多くの大切な者が居た。
 恋人や友人たちと共に生き、目的に向かって歩き為すことが、自分の生き甲斐や喜びとなった。
 私は幸福の意味を知る者だ。
 クナーアンに生まれ、アースを旅する私にとって様様な災いは常に目の前に立ちはだかった。しかし、私は残酷に屈しないし、安寧に胡坐を掻いたりはしない。
 私はアーシュの教えに従い、充分に人生を楽しんでいる。

 アーシュが語った「未知なる世界」を、私は懸命に生きている。
 
 どんな苦境も私を殺すことはできなかった。
 私を抱きしめたアーシュの温もりが、光射す道を導き続けたからだ。
 挫けようとする度に、アーシュは少し揶揄うような笑いを湛え、私の名を呼ぶ。
 「泣くんじゃねえよ、銀色のレイ」
 
 アーシュが居なくなった世界でも、私の還る故郷は…アーシュだった。


    2015.3.20



銀色のRay 20へ


おいしいとこはアーシュがもっていったのだ~((⊂(^ω^)⊃))

この物語の最初のお話は左のカテゴリの「senso」からどうぞ。長いけど…
アーシュの過去の物語など、様々ございます。
山野神也のお話は「山の神・愛し子」からどうぞ。


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銀色のRay 20 - 2015.03.14 Sat

20
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セシル髪切った


20、

「あ、あの…」
 セシルはアーシュの被り物に慄きながらも、精一杯に謝罪の姿勢を示そうとしていた。
「あ?ああ、そうか、セシルもこれ被りたいんだな。じゃあ、遠慮せず被りたまえよ」
「え?…」
 アーシュは派手な羽の飾りを頭から外し、有無も言わさずセシルの頭に被せた。
「うんうん、髪も切って一段と男前になったセシルに良く似合うぜ。見てみろよ」

 アーシュに誘導されたセシルは、壁際の等身大の鏡に映った自分を見て、目をぱちくりとさせている。
「どうだ?違う自分になった気になるだろう。この羽根飾りは勇者の印でもあるんだぜ」
「…なんだか…強い自分になれそうな気がします…。学長…アーシュ、今まで本当に僕を支えて下さって…ありがとうございます」
「お礼を言われるもんでもないさ。一時的だとは言えセシルの記憶を隠したのは俺だ。君が成長していつか記憶を取り戻した時、動揺することはわかっていた。それに打ち勝ってここに戻ってくれたセシルを歓迎するよ。おかえり、セシル」
「…でも、僕は…僕の父は…」
「知っている。以前ハールートにキスした時、俺はあの男の過去をスキャンしたからね。でも奴は自分に子供がいるとは知らない」
「え?」
「まあ、話は長くなるから、二人ともソファに座ってくれよ。ホットココアでも入れよう」
 俺達はアーシュの勧めに従った。
 勿論、俺も羽根飾りを頭に付けて鏡の前で自分の姿を眺めてみた。成程、確かになんだか別な自分になれる気がして、とても新鮮だった。

「どうだ?満足したか?」
 アーシュは鏡に映る羽飾りを被った俺を見て、勝ち誇った笑みを返す。少しムカつくけど、ホントの事だから反論しない。
「あ、そうだ!山野神也はちゃんと戻ってきた?」
 羽根飾りをアーシュに返しながら、すっかり忘れていたことを問うた。
「その事だが…昨日、ひと騒ぎがあったんだ」
「え?」
「神也の奴、汽車の中で寝過ごしたらしく、目覚めた時は全く知らない場所に降り立って、帰る汽車賃も無くてねえ…。電話代を借りて学園へ連絡したらしくって。で、慌てたスバルが彼を迎えに行ったんだが…それっきり連絡もないし、帰っても来ない。あいつらの事だ。これ幸いとばかりに蜜月旅行でもしているんだろう」
「…」
 一寸俺は頭を抱えた。
 でもスバル先生とふたりきりになれて、良かったなあ、神也。
 きっとふたりであのクロワッサンを食べたんだろうなあ。俺達みたいに。

 アーシュの淹れたホットココアは俺とセシルの旅の疲れを十分に癒した。
 テーブルの真向かいに座るアーシュも満足そうに俺達を眺め、そして本題に入るからと、腕を組む。
「さてと…セシルの父親であるハールート・リダ・アズラエルの事だが…彼に関する本は至る所で出版されている。彼を知るには一番手っ取り早い方法なんだが…彼がどういう環境で育ったとか、彼の理想とする社会論、正義の主張やら…まあ、色々と面白おかしく書かれている。だが、どれも奴の本質とは異なる、いわば宣伝本みたいなもんだな。簡単に言えば、貴族社会で生きてきたハールートは常に差別主義に苛まされていて、両親の愛も十分に得られなかった恨みとか僻みとかで歪んじゃった可哀想なお坊ちゃまなんだとよ。で、人々が自由に生きる楽園を思い描くようになった。よく聞く革命家の伝記だが…。セシルの母はハールートの屋敷で働いていたメイドだったが、ハールートにとっては…セシルには耳が痛いだろうけれど…、一時的な火遊びみたいなもんらしく、詳しい記述はない。だが、母親は本気でハールートを愛していたんだろう。身ごもった事を誰にも言わないで、屋敷から離れたんだ。逆算すると、ハールートはまだこの『天の王』学園の高等部の三年だ。一時的だとは言えハールートにとっても、セシルの母親は安らぎだったのかもしれないが、知らないうちに黙って消えてしまったセシルの母親に対し、若かったハールートは傷ついたのかもなあ。十年前に彼の心の内を覗いた時には、母親の情報は見事に何も残ってはいなかったのだからね」
「…じゃあ、お母さんは…父には何も知らせなかったんですね」
「初めから身分違いの恋だと諦めてしまっていたのだろうね」
「でも、僕にはいつだって父の写真を見せて、うれしそうに話してくれてました…」
「誰かを愛するってことは、そういうものかもしれない。愛する父親の血を受け継いだセシルを君のお母さんは、ひとりで大切に育ててきたんだ」
「でも母は…父の所為で…自殺したんです」
「それも愛だよ。あの事件は確かにハールートの過激な残虐性を演出したものだけど、ハールート側にしてみりゃ、抑圧されていたイルト達が解放の狼煙を上げた瞬間だった。あれを観た者の多くは、ハールートを怖れ、同時に崇める者もいたのも確かだ。勿論、俺の方も同様だ。あの時、俺の魔術を観た多くの奴らが俺を『魔王』と呼んだ。…俺とハールート、どちらが正しいか間違っているかなんて、勝手に言わせてやりゃいいんだ。だがセシルの母親は、自分の愛する者が自ら血を求めるのが絶えられなかったんだろう。…当然と言えば当然の混乱さ。…セシルも母親を責めたりしないでくれ。彼女は自分の正義を貫いたんだ」
「はい…わかりました」
 セシルは寂しげに俯き、口唇を噛んだ。俺はセシルの手を取り、大丈夫かと宥めた。セシルは俺に少しだけ微笑みながら頷き返してくれた。

「それから、…セシルの事は、確かに今まではハールートに勘付かれてはいないと思うが、すべてが繋がった今、情報は容易く奴らにも伝わるだろう。そうなればセシル自身が利用されかねない。俺はこの『天の王』学長として、生徒たちを守る義務がある。ハールートにとって俺は天敵みたいなもんになっちまってるし、セシルの身の安全の為に卒業まではこの学園で暮らす事が、学長としての俺の命令だ。わかったかい?」
「…いいんですか?僕の父はアーシュの大切な師を殺した罪人ですよ?」
「そりゃあねえ…、あん時は俺もトゥエの敵を討ちたかったけど…けど、トゥエが言うんだ。この学園で暮らした生徒たちは皆私の『愛し子』だって…。俺はそうは思わないけど、トゥエ・イェタルの遺言なら仕方ないじゃない。だから、俺からはハールートに手を出さないつもりさ」
「…」
「だがセシルにとっては父親だから、ここを卒業した後は、自分の責任で奴に会おうと構わない。まあ、いっぺん会ってみるのも悪くないさ。やっこさん、魔術師ではないが、自尊心が高いのなんのって…おっかねえぜ。ファンレター出してやっても返事は『死ね』とか『消え失せろ』『殺す』とか、呪いの言霊だらけの返事しかよこさねえんだから…」
「ちょ…手紙とか出してんのかよっ!」
「うん、こっちは居所わかってるぜって言う嫌がらせのつもりだったんだが、面白いから続けてるんだ」
「…」
 そりゃ、恨みも募るしかないんじゃないのか?確かに本気でアーシュは魔力を使えば、敵の居場所ぐらいわかるだろうけど…
 俺はハールートとか言う革命家が哀れに思えてならない。

「ハールートはただのイルトでしかないが、彼を取り巻く魔術師は一流だからなあ。面白いだろ?イルトが自由に生きられる世界を作る為に必死になり、世界を変える為に魔力を持ったアルトの力を欲している…この矛盾こそが、ハールート・リダ・アズラエルの歪みでもあるんだ。で、俺はそれを愛おしいと思う。まさに人間の葛藤を世界に知らしめてくれているじゃないか」
「…僕は父の事を全く知りません。好きだとか嫌いだとか…そんな感情も浮かんで来ない位知らなすぎるから…。でも僕は僕の正義を貫きたいから、今の父には賛同できません」
「…いいんじゃねえの。セシルがそう思うんなら。俺は君を洗脳しようだなんて思わないし、自分で決めた道を歩けばいい」
 ふとセシルは顔を上げ、目の前のアーシュを見つめ、そして微笑んだ。

「今の僕には…レイいてくれる…。今はそれが良いんです。それが…一番幸せだと感じるから…」
「そうか…うん、いいね。俺もセシルを祝福するよ」
「ありがとうございます」
「レイ、頑張ったなあ~。おまえの初恋、見事に成就したじゃねえか」
「なんとかね」
「で、セシル。レイとは上手くいったのか?あいつ初めてで下手だったろ?」
「ア、アーシュ!余計な事言うなっ!」
「レイは…とっても素敵でした。僕は幸せ者です」

 セシルは春に咲くカディンヂュラの花のような鮮やかな微笑みを俺とアーシュに返してくれるのだった。



銀色のRay 19へ /21へ

この物語の最初のお話は左のカテゴリの「senso」からどうぞ。長いけど…
アーシュの過去の物語など、様々ございます。
山野神也のお話は「山の神」「愛し子」よりどうぞ~


次回で最後…やっと終わりが見えた…((人д`o)


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銀色のRay 19 - 2015.03.06 Fri

19
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レイとセシル1
19.

 秋の夕暮れは早かった。
 愛を語るには抜群のシチュエーションだが、現実には今日の寝床すら見当たらない。
 セシルを見つけたらすぐに学園へ帰るつもりだったけれど、「レイ、今夜はふたりで過ごさない?」と、セシルが言う。
 勿論、俺もその誘惑を断るつもりはない。無いけれど…
「あまり持ち金がないんだ。どうにかして安宿を探さなきゃね」
「そうだね。でもこの島に旅人用の宿は見当たらないし…。一度、キャサックの港町に戻って、そこで探さない?」
「OK、そうしよう」
 
 俺とセシルは渡し船に乗り、対岸のキャサックまで渡った。
 サンローの島を離れる時、セシルは「もう二度とここに来ることはないって思った時もあったけれど…、今は本当に来れて良かったと思っているんだ」と、穏やかな顔で土手に並ぶ桃の幹を撫でた。
 そんなセシルがいじらしくて「今度はこの桃の花が咲く頃に、ふたりでセシルのお母さんに会いに来ようよ」と、肩を叩くと「…そうだね」と、セシルは短く答えた。

 キャサックの港は夕方の定期便が着いたばかりで、仕事帰りの人々で賑わっていた。宿を探そうと歩き回っていると、ふとセシルが足を止めた。
「ねえ、レイ。少しでいいからそこら辺をぶらついていてくれない?宿を探してくれてもいいよ。折角ふたりで泊まるのだから、少しぐらいは良い宿にしようよ」
「え?…いいけど。セシルは?」
「この理髪店で髪を切ろうと思う」
「え?短くしちゃうのか?」
「うん。もうずっと前から切りたかったんだ。でもレイがいつも僕の髪を褒めるからさ…なんとなく」
「…」
 勿体ないと言おうと思ったけれど、セシルなりに決するものがあるのなら、俺がとやかく言うことではない。

「半時ほどしたら、ここに戻ってくれる?」
「了解」
 理髪店に入るセシルを見送って、俺は宿探しに奔走した。
 安くて良い宿を探す苦労など、考えたことも無かったけど、港から少し外れたセシルの気に入りそうな煉瓦色のバルコニーの付いた部屋を見つけ、できるだけ値切って予約した。

 時間に遅れまいと急いで理髪店まで戻ってみると、店の前で短く髪を切ったセシルが立っていた。俺を見つけると手を振って笑う。
 豊かに波打っていた黄金の髪は、一本の大麦の穂のように散らばってしまったように見えた。
「どう?」
「…すごく切ったね…」
「おかしい?」
「いや、おかしくない…ただ見慣れないから驚いているだけだ」
 俺よりも短くなったセシルの髪は、もう風に揺らめいたりしない。でも、愛しさは変わらないから、別段嫌な気はしなかった。
「後ろ首がスースーするし、手持無沙汰になって変な気分。でも切った分だけ身も心も軽くなった気がする。それに…はい、コレ」
「え?」
 セシルは俺に何枚かの紙幣を差し出した。
「ほら、店の看板に小さく『ウイッグ用の髪を高く買います。』って、書いてあるでしょ?で、折角髪を切るのなら、お金になる方がいいかなって…。髪を切ってお金をもらえるなんて思いもよらなかったけれど、僕の髪、良い金髪だからって、高く買い取ってもらえたの」
「セシル…」
「だから、今日の宿賃は僕に出させてよね。このお金、ふたりの為に使いたいんだ」
「うん」
 色々な想いを胸にセシルは自分の髪を切り、お金にしたのだろう。その想いを拒む理由などない。

 セシルの髪代は宿賃よりも多く、豪華な夕食の分まで足りてしまった。
 少し高めの赤ワインと温かい鶏肉のシチューに舌鼓を打つと、俺達は部屋に戻った。
 今までふたりきりになる事なんか少しも緊張することなんてなかったけれど、今夜は目的があるから、胸がざわついて仕方ない。
 先にシャワーを終えたセシルに入れ替わり、俺も身体を丁寧に洗った。
 初めてのセックスをどんな風に迎えるかっていうのは、数学問題を解くよりも難しく、経験豊富なセシルに任せた方がいいのかもしれない…などと思ったけれど、それこそ、セシルに失礼になるのではないか…などと、五里霧中。

 部屋へ戻ってみると、セシルはバルコニーに佇んでいた。
「涼しむ季節でもないし、セシル、風邪引いちゃうよ」と、部屋へ戻るよう促した。

 セシルの鼻の頭が赤い。
 泣いていたのかと問うと、少しだけね、と言う。
 お母さんやお父さんの事?と問うと、ううん、違う、今はね…切った髪の事…なんだか寂しくなっちゃったんだ。大丈夫、少しだけだよ…と、鼻を啜る。
 かわいいなあと、セシルを愛おしく思った。
 短くなった髪を優しく梳き、頬を撫でた。
 キスを求めると嬉しそうに応えてくれる。
「初めてだから、期待しないでおくれよ」と、断った。
「レイが求めてくれるのなら、なんでもあげる。それが僕の喜びとなるだろうから」と、セシルは俺の身体を愛撫する。
 
 夜はまだ始まったばかりなので、ドアの外も窓の向こう側も騒がしい。
 どこかで赤ん坊が泣いている。子供の泣き声やら、それを怒る母親の大声やら、どこぞの飲んだくれの享楽の歌声やら…
 まるでここは楽園だね、と、セシルが囁く。
 答える余裕のない俺は、セシルの胸に顔を埋め、口唇を押し付けた。
 くすぐったいと笑うセシルが憎いけれど、次は俺以外何も考えられないほどに夢中にしてやるんだ、と、心に誓う。


 翌朝、一番早い定期船に乗りルオトの港町へ向かった。セシルは充分見たからと、寄り道をせずにサマシティ行きへの特急の汽車に乗り込んだ。
「夕刻にはサマシティへ到着予定だし、良かった。今日中には学園へ戻れるな。アーシュに早くセシルの無事な姿を見せたい」
「…」
 窓際に座ったセシルは、流れる風景をじっと見つめていた。
 そう言えば、朝から食欲も無かったし、どこか具合が悪いのだろうか。髪を切った所為で風邪でも引いたのかもしれない。それとも…俺のセックスの所為なのか?
 確かに巧いとは言えないまでも、セシルは気持ちよさそうにしてくれてた…と、俺が思いたいのかもしれないけれど…。

「どうした?セシル。どっか具合悪い?腹減ったなら、売店で何か買ってくるよ」
「違う…あのね…。本当は学長に会ってから話そうと思っていたんだけど…でも、…レイには隠し事はしたくないから…」
「なんでも言って欲しい。出来る事はなんでも叶えたいし、出来ないものがあるのなら、ふたりで話し合って解決したい。それがお互いを思いやるってことじゃないだろうか」
「うん。…僕ね、学長に会って、今までお世話になった事へのお礼を言ったら、天の王学園を出て行こうと思うんだ」
「え?…どうして?」
「だって、考えてもごらんよ。僕はハールート・リダ・アズラエルの息子だよ?…学長の…アーシュの育ての親だった前学長のトゥエ・イェタルを拉致し殺したのは僕の父だ。アーシュにとって僕は敵の息子だよ。…今まで何も知らなかったからアーシュに親代わりになってもらって、世話になっていたけれど…今までと同じようにアーシュに…学園に留まり続けることはできないよ。本当は…アーシュに真実を告げることさえ怖くて…アーシュに憎まれたらどうしよう…って。このまま、黙ってどっかへ行こうかと思ったり…でも一度はちゃんとお礼も言っておきたいから…」
「で、俺のことも置いてきぼりにして、また勝手に行っちまうつもりなのか?」
「レイはアーシュのお気に入りだし、それに今はもうこの星の住人じゃないってわかったから…昨日一夜、君に一杯愛されたから、僕はそれで充分なんだ…」
「もっと一杯セックスしたいって、言ってたじゃん。あれは嘘なのか?」
「それは…」
 顔を赤らませて、セシルは黙った。怒っていないことは俺の手に乗せたセシルの手のぬくもりで充分理解した。

「セシル、俺はもうセシルを離さないよ。セシルの行くところならどこへだって一緒に付いて行こう。死がふたりを分かつまでずっと一緒に居たいんだ。ホントだよ」
「…レイ」
「それに、おまえの心配だけどさ…アーシュがセシルの父親の正体を知らないってことは…九十九パーセント無いって」
「どうして、そんなことを言えるの?」
「セシル、君はアーシュを知らなすぎる。アスタロト・レヴィ・クレメントって言う奴はさ、本物の『魔王』で『神さま』なんだぜ?それも一等傲慢で一等慈悲深い馬鹿野郎で、愛おしい俺の師匠殿だ」
「…」
「アーシュはきっと俺とセシルの道標になってくれるよ」
 
 自信を持って言い切った手前、多少不安な気持ちで日没前に学園に到着し、俺はセシルを連れて学長室へ向かった。
 運よくアーシュは在室で、俺とセシルの帰宅を歓迎してくれた。
 見慣れぬ装いで…

「なんだよ、それ!」と、俺は叫んだ。
 アーシュの頭には見たことも無い被り物…大きな鳥の羽根が並べられた綺麗な飾りの着いたデカいカチューシャ的な…
「見て見て、カッコ良いだろ?スバルのお土産。ウォーボーンネットって言うインデアン酋長の王冠みたいなもんだとよ」
「…だから?」
「どう?似会うだろ?めっちゃかっこ良いだろ?」

 こいつ…
 とてつもない魔力を持った恐るべき魔術師なクセに、根っからの好奇心旺盛のガキと同じだと呆れながら、でもそんなアーシュが羨ましくて、憧れで…俺もそれを被ってみたいなどと心から願った事は、セシルには絶対に言わないでおこう。


アーシュ机


銀色のRay 18へ /20へ

この物語の最初のお話は左のカテゴリの「senso」からどうぞ。長いけど…
アーシュの過去の物語など、様々ございます。
山野神也のお話は「山の神・愛し子」からどうぞ。


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