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2015-04

超いいひと 3 - 2015.04.25 Sat

3
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三門


3、
 休日の週末、別段予定はなかったから、いつもの街を俺は慣れた足取りでぶらついていた。
 昼間は気になっていた映画を独りで鑑賞し、その後、夕食を取ろうと「エトス」へ向かった。
 ジャズクラブ「エトス」はライブハウスだが、食事にも定評があり、味に五月蠅い客達をも満足させるらしい。
 俺のお気に入りはデミグラスソースたっぷりのオムライスだ。サラダとスープ付きで二千五百円は安月給の俺には随分と高価なディナーだが、たまの贅沢はストレス解消になるし、なにより満腹した後に聞くライブの生音の心地良い事…。
ひと眠りするにはもってこいの場所だ。
 閉店になっても度々起きない俺に、マスターの嶌谷さんは呆れた顔で起こしてくれる。なにがあっても嶌谷さんは怒らない寛大な御方で、独り暮らしの寂しい俺の愚痴やら我儘もめんどくさがらずに聞いてくれる。だから俺は密かに「仏の誠さん」と呼んでいる。
 勿論、色事は無しだ。幾ら俺が年上好みだとは言え、親父程に年の違った男を性欲の対象にはしない。それに嶌谷さんの周りには、色々な男性が居るから、あっちの方面には別段困ってはいないだろう。
 嶌谷さんは、驚くほど人生経験豊かな人で、世界中を旅してきた話などを聞いていると、そこら辺の下手な冒険映画と比べても、よっぽど面白く、充実した時間を過ごせる。
 そう言うわけで、いつのまにか俺は「エトス」の常連のお仲間に加わることになった。勿論、いつかまたここで憧れの宿禰さんに会えるかもしれないという、密やかで邪な旨味も含んでいるのは確かだ。


 柔らかい秋雨があがった黄昏時、俺は「エトス」の重いドアを開けた。
 顔馴染のチケット切りのスタッフに声を掛けると、今日はイベントで満席だと言う。
「え~?マジで?…あ、そうか、今日はクラシックライブの日だったんだね」
「そうなんです。能見さんが出演されるライブは人気があって、当日券も売り切れなんですよ」
 ピアニストの能見響さんは、「エトス」の専属ジャズピアニストだ。だが、本来はクラッシクを得意とされていて、コアなファンも多く、ふた月に一度開かれる「クラシックの会」は彼目充ての客が多い。確かに能見さんは姿形もすこぶる上等だけど、俺の好みではない。俺は見目も精神もS的な男が好みなんだ。

「そうか…。残念だなあ~。能見さんのピアノも聞きたかったんだけどなあ~」
 本当は彼のピアノよりも、イケる客を探したいんだけど…。
 ここのところ、外れが多くて、食傷気味だ。
「え~と…ちょっと待って下さい。…あ、一席だけ開いてます…けど。ラブソファ席なんですが…。どうします?」
 一寸考え、同席する奴が好みの男かもしれない…と、淡い期待を持った俺はその席を買った。ハズレなら、適当にあしらえばいい。
 
 いつもは高級クラブらしくシックな店内に見合うテーブルと椅子が余裕をもって置かれているんだが、クラシックライブは会員ではない普通のクラオタ客も入るから、テーブル無しで椅子とソファがステージに向いてズラリと並ぶ。ラブソファはその名の通りカップル用に用意され、好きにいちゃつけるように最後方の席だ。
 薄暗い店の中は間もなくライブが始まるらしく、ざわついている。俺は混雑する客の間を抜け、自分の席に向った。
 目的の席にはすでに男がひとり座っている。二人掛けなのだが俺の座る場所には男のコートが置かれていた。
「すみません、ここいいですか?」
 ソファに座った背中に声を掛けた。
「え?」
 少し驚いた声を上げ、こちらに振り向いた男は極めて平凡な眼鏡をかけた三十過ぎの頼りなげな顔だった。
「…」
 別にこの人に罪は無いのだが…
 これと言って特筆すべきものはない、一般的な、十人並みの、特色のない、ありふれたサラリーマン風の男の見目に少々の失望を感じる。
 従順で人の良さ気は長所と言えなくもないが…俺の触手は一切動く気がしない。
 しかし、ここまで来て、踵を返すような大人げないことはしまい。

「ここ、一応二人席なんですよ。ほら」と、俺は手に持ったチケットを見せる。
「あ…す、すみませんっ!…え?ここに一緒に座るんですか?」
「ええ、そうなりますけど…」
「は、…ど、どうぞ」
 男は慌ててコートを退かし、俺が充分に座れるだけの空間を保つためにソファの端に身体を寄せた。
「ああ、そんなに隅っこに座らなくても、大丈夫ですよ」
「でも…」
 ラブソファというくらいだから、普通に座っていてもお互いの膝頭や腕はどうしても触れ合ってしまう。見知らぬ男とラブソファに座るのは、確かに抵抗があるのかもしれない。

「俺の方は気にしないけど…あなたが無理なら、俺、後ろに立ってますから」
「え?いや、そんなことは…。だ、大丈夫です。どうぞ、座ってください」
「じゃあ、遠慮なく…」
 もとよりこっちは遠慮する気はない。ワンドリンク付きで四千円も払ったのだから。

 しかし…確かに思ったよりも男二人が座るにはラブソファは狭い。
 肩を寄せ合って愛を語るには便利だが、今日初めて会った他人同士が肩を寄せ合うには、少々ハードルが高すぎるようだ。
 眼鏡の男は俺の事を気にしないフリを必死にしているが、緊張しているのか、プログラムを広げた指が微かに震えている。
 俺はその様子が面白くてじっと見ていた。が、ふとその横顔にデジャヴを感じた。
「すいませんが…」
「え?」
「その眼鏡外してもらえます?」
「は?」
 訝る男にニッコリと笑いかけ(愛嬌だけは一人前と上司からも太鼓判を押されている)、俺はもう一度「眼鏡、取ってください」と、言った。
 男は少し戸惑いつつも素直に眼鏡を取って、視線を外しながら俺に顔を見せた。
「…」
 どこかで見た記憶があるんだけどなあ…取引関係の顧客かなあ?…いや、だったら覚えているはずだ。
 しばらく考えてみたけど、どうもはっきりとしない。
「すみませんでした。もういいです」と、男に謝った。
 男は「はあ」と、気の抜けた風に返し、眼鏡をかけ直す。
 俺は再び俯いた男の横顔をちらりと眺めてみた。
「…あっ!」
「え?」
 そうだ!思い出した!宿禰さんと始めて出会った帰り、電車の中で向かい側の席で眠っていた男だ。
 あの時、俺は整った宿禰さんとこの男を見比べてて…楽しんでいた。
 俺の声に男は驚いた顔で俺を見かえす。
「いえ、なんでもないです」
 俺は笑って返した。さすがにあなたが電車で寝ていた姿を眺めていましたので、知ってます…とは、言えまい。
 しかし、それ以前にもどこかで見た記憶が…あ……
「そうだっ!」
「はいっ?」
 男は再び素っ頓狂な声を出して、俺を見る。
「あ、驚かせてごめんなさい。いえね、俺、あなたの事どっかで見た記憶があって…」
「…わたしをですか?」
「そう!やっと思い出した!総武線の電車内でおばあさんに席を譲ろうとして、一緒にコケた人だ!そうそう、間違いないや。あ~、すっきりした~」
「…」
 男はポカンと口を開けて俺を見ている。
 よく考えたら…確かにいい歳した大人が、くだらないことで燥ぎすぎだ…。

「あ…え~と、ゴメンなさい。俺、あの時、あなたを見てすごくいいひとだなあ~って思ってて…」
「…」
「ホントですよ。変な意味じゃないです。本当に、いいひとだと感心したんですっ!」
「…別に…いいひとなんかじゃないですよ。お年寄りに席を譲るのは誰だってするものでしょう…」
「でも、俺、なんか幸せな気分になったんです」
「…はあ…」
 男はしみじみと俺を見つめ、そして、少し憮然な表情で何も言わず俯いたまま、黙ってしまった。
「…」
 不機嫌にさせてしまったのかと、不安になる。
 折角ライブを楽しもうって時に…。
 俺が悪いんだけど…。

「あの…気を悪くされたのなら…ごめんなさい。俺、つい調子にのっちゃって…」
「…いえ、別に…。大丈夫です」
「本当?なら良かった~。クラシックお好きなんですか?」
「え?…はい。そんなに詳しくはないけれど…聴くのは好きなんです。実は…この店にくるのは初めてで…」
「え?そうなの?」
「はい…。ピアニストの能見響さんのCDがとても気に入ったもので…。今日、駅前のチラシで能見さんのライブをここで聴けるって知って…。それで入ってみたんですが…なんか、ここちょっと様子が違うというか…」
「ああ、いつもはゲイの方が多いんですよ。でも今日は普通のお客さんもいらっしゃるから、変に絡む奴はい少ないですよ。安心して下さい」
「はあ…」
 こういう話は慣れていないのか、男は顔を赤らめながら、頭を掻いた。その左指の薬指には、結婚指輪が垣間見えた。

 俺に至っては、この時までこの男がゲイだとばかり思っていたから、本当に既婚者なのか…と、疑いを持たずにはいられなかった。
 バカな話だが…自分がゲイだと、つい周りの男も同類だと勘違いしてしまう。実際はゲイなんてアンダーグラウンドマイノリティでしかないのにさ。

「あの…」
「え?」
 顔を上げた男の顔が、驚くほど近くにあった。
 お互いの顔を見合わせた時、室内の灯りが一斉に消えた。

 俺は暗闇に紛れ、目の前の男の口唇に軽くキスをした。
 惹かれたからじゃない。ただの挨拶代りのコミュニケーション。
 そう、これから始まる素敵なライブのアントレ(入口)だよ。
 

 2へ /4へ

GWの予定は、一切ござらん!(`・ω´・)ノ"


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超いいひと 2 - 2015.04.16 Thu

2
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  由宇くん2


2、
 憧れの宿禰凛一さんの手のぬくもりが直に伝わってくる感触に、俺は舞い上がっていた。なんてラッキーな夜なんだろう~。
 
 その時まではカウンターテーブルの椅子に腰かけた宿禰さんを囲むみたいに座る客たちには気づかなかったけれど、ゲイっぽい人が多い事にふと気がついた。
 …もしかしたら宿禰さんもゲイなのかな…だったら、嬉しいかも…

しっかりと握りしめる俺の手を宿禰さんは慣れた風情で優雅に離し、そのまま俺の顔をすっくと見上げた。
「君、建築に興味あるの?ああ、もしかしたら君も建築家なのかな?」
「え?あ、はい…。つうか建築家の名を語るのもおこがましいというか…端くれです。と、いうか…一応仕事上は建築設計みたいなもんをやっているんですけど…まだ大したものをやらせてもらってなくて…。宿禰さんの仕事と比べたら、全然つまらないもんばっかで…建築家と言えるかどうか…恥ずかしいです」
「なんで?」
「え?」
「なんで恥ずかしいの?どんな小さなものでも君が設計したものを、誰かが使ったり、そこで暮らしたりするんだろ?それってすげえことなんじゃねえの?設計した奴が、自らつまんねえなんて言ったらさ、それを頼んだクライアントにも、携わる作り手にも失礼じゃねえ?お金を払ってもらうからには、何にせよ精魂込めて取り組むべきじゃねえ?それがプロってもんだし、君が成長する糧になるんじゃねえのかな」
「…あ…はい」
 憧れの人の機嫌を損ねてしまったことに俺は焦った。俺は多少謙遜したつもりだが、確かにプライドまで捨てていた気がする。

「おい、凛一、あんまり熱くなるなよ」
 カウンターに立つマスターが、俺の窮地を助ける様に言葉を挟んでくれた。
「別に熱くなってねえし~」
 宿禰さんの機嫌はまだ直っていない。
「君、気にしないでくれ。凛一は仕事に関しては完璧主義なんだ」
「いえ…俺が悪いんです…」
「仕事以外では遊び人のクセにねえ~、タラシの凛くん」
「うるせ~よ、ミコシさん」
 宿禰さんの隣に座る見るからに女装した男性が、宿禰さんに寄り添い、その肩を抱いた。宿禰さんは嫌がる気配も見せず、目の前の皿のカナッペをその男の口に突っ込んだ。
 ふたりの親しい関係を羨ましく眺めながら、俺は宿禰さんに嫌われないようにと必死に弁明する。

「あの…すみません。俺、自分の仕事に自信が無くて…あ、やる気はあるんです!でもクライアントに満足してもらえるようなものをホントに作っているのか、本当にこんなもんでいいのかって…なんかわかんなくなっちゃって…」
「そんなの…、誰でもそうだよ。自信なんて初めからあるもんか。俺だってさ、出来上がった作品をクライアントに見せる時の心境と言ったら…マジで心臓止まるかもってぐらいだよ」
「え?…宿禰さんが?」
「不安満載、一触即発ってね。…でもさ、建築つうのは頭の中に浮かんだものを二次元に示して、それを三次元にして、初めて箱が完成するだろ?最初に自分の中に浮かんだモノと寸分変わらず完成したモノなんて…僅かなもんだよ。でも想像したものよりも遥かに良い出来栄えだったりもする。想像を超える創作の喜びって、スタートから関わる建築家にしか味わえなかったりするからさ。辞められねえんだよ」
「…」
「だから君も頑張れよ。建築家は人が必要とする入れ物の創造主のひとつだ。きっと人生を楽しめるはずだ」
「…はい!俺…頑張ります!」

 その後すぐにライブが始まって、俺は仕方なく席に戻ったけれど、宿禰さんが俺にくれた言葉が何度も何度も身体中を熱く巡り、正直ライブどころじゃなかった。
 店を出た後、連れのエセ芸術家の親父が俺をしつこくホテルに誘うけれど、親父とやる気が失せた俺は、愛嬌よくあしらって最終の電車に飛び乗った。

 建築家は人が必要とする創造主になれる…か。俺もそうなりたい。あの人に認めてもらえるようなアーキテクトになれるように、一生懸命がんばろう。
 そう思って空いている座席に腰かけて何気なく前を眺めると、前の前に席に座った男の顔に見覚えがある…と、気がついた。
 気がついたけれど、いつどこで出会ったのか思い出せない。そもそも知り合いなのかさえ、わからない。
 別に声を掛けようと思ったわけでもない。
 居眠りをしている平凡を絵に描いたような男と、さっきまで見惚れていた完璧な美の化身と言うべき宿禰凛一との違いを指折り数えて探すことが、電車を降りるまでの俺の暇つぶしになっただけの話だ。

 さて、翌日から、俺の仕事に対する姿勢が変わった。別に今までが適当にやっていたわけじゃないけれど、どんなつまらなく思える仕事でも、宝探しみたいに自分が楽しめるものを探し出し、より良い作品に導いて行こうという気合だ。自分が楽しめないものを人が面白いと思う筈もないし、認められたい作品を見せる為には、まず自分が勉強して力をつけるしかない。
 面白いことに、俺自身の姿勢が変わると周りの俺を見る目が変わっていく。
 今まで眼中になかった先輩たちが、おれの仕事に色々な意見を述べてくれるようになり、俺も今まであまり関わりあいのなかった先輩たちの指摘を素直に受けれるようになった。

 不思議なものだ。唯ひとりの言葉で、俺自身も周りの環境も変わっていく。
 宿禰さんにまた会いたいな。
 今度は少しマシになった俺の考えを聞かせたい。
 あの店に行けば会えるかな。
 そういや、俺、自分の名前も宿禰さんに伝えてない。
 付き合いたいなんて夢のまた夢だろうけれど、友人ぐらいにはなれたら…いいなあ。

 あれからひと月後の桜舞う風の強い宵闇に、俺は「エトス」へ向かった。
 会員制の為、サラリーの安い給料に見合わない高い入会金を払わせられたけれど、もう十分に見返りは貰っている気がした。
 勿論、宿禰さんが居るはずもないけれど…。
 今日はライブの日じゃないから、お客さんも少なく、常連の人たちが好きなソファに座って上質のスピーカーから聞こえるジャズに身を任せている。
 俺はカウンターに近づき、宿禰さんと話していたマスターに声を掛けた。
 マスターは長い髪をひとくくりに結んだ品の良い50代の渋めの男性だ
「あの…俺、ひと月前にこちらに伺ったんですが…」
「ん?」
「その時、建築家の宿禰凛一さんにお会いして…少しだけお話をさせてもらって…」
「ああ、あの時の…覚えていますよ」
「あの時、宿禰さんに叱咤激励されたおかげで俺…今すごい仕事が楽しくて…。もう一度お会いしてお礼を言いたくて…」
「ああ、そうか…。でも凛の奴は滅多にここには来れないよ。もともとNYが彼の仕事場だし、こっちに帰国しても仕事が忙しくてなあ~」
「あの…マスターは宿禰さんとどういう御関係…なんですか?」
「え?俺と凛一の関係?聞きたいの?マジで?」
 
 マスターはニコリともしなかった顔を崩して、俺に高そうなカンパリスプモーニを差し出して、宿禰凛一さんとの話を嬉しそうにまくし立てるのだった。

 それによると…マスターこと嶌谷誠一郎さんが宿禰さんに出会ったのは、宿禰さんが中一の頃。このジャズクラブに遊びに来るようになって、それからずっと家族同然の付き合いが続き、現在は宿禰さんのデザイン事務所の名誉会長らしきものもやってるらしい。宿禰さんが日本に帰る時は、マスターのマンションを自宅代わりにし、富士山の麓に宿禰さんの建てた別荘にも、ちょいちょい泊まりにくる。しかも宿禰さんとひとつのベッドで寝ている…?

「え?それって…恋人的な関係なんですか?」
「残念ながら…俺に対して凛一は性的欲求が沸かないらしくてねえ…。一緒に寝るのは親兄弟に甘えたいだけだろうね。仕事がシビアな時は特に…。まあ、甘えられるだけでも良しとしているよ。良い大人の見本ってところかな」
「…凄いですね。あんなに素敵な人が一緒だと、俺は我慢できないと思うけどな~」
「君もお仲間かい?」
「え?…まあ、そうです」
「そうか…。でもまあ、凛一の事は諦めてくれ。あいつにはすでに一生モノの恋人がいるからね」
「…でしょうねえ」
 わかっていても、はっきり言われると心が萎える…。

「まあ、そんなに肩を落とすことも無いさ。ここには君みたいな魅力的な男が集まるサロンみたいなものだから、遊び相手を選ぶには苦労はしない。でも恋愛を求めるなら慎重になる事だ。お互いが幸せになる相手を探すのは、この世界では至難の業だからね」
「そう…ですね」
 尤もな気遣いだと思った。
 俺も男と本気で恋愛なんかする気はない。
 …どうせ幸せになれるわけもないし、世間並の夫婦みたいな未来が送れるわけもない。

 だが神様は時折気が向いたように、幸せの欠片を落っことすこともあるようだ。
 「エトス」に通い始めて半年ほど経った頃、俺は運命の男と再会することになったのだ。

 然(かく)も平凡な男と、然も劇的に…



「超いいひと」はこちらから… 1へ / 3へ

浅野とこれから出てくる吉良のお話はこちらです。
傷心
うそつきの罪状 1

平凡なサラリーマンの髪型ってどんなんだろう…と、日々周りのサラリーマンを眺めて研究中~


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超いいひと 1 - 2015.04.07 Tue

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上杉由宇


  超いいひと

1
 打ち合わせ先からの帰りの電車の中は比較的空いていたけれど、人の間を押し分けて座るのも面倒臭かったから立っていた。どうせ三つ先の駅で降りるつもりだし…

 午後から大雨になるという天気予報通りに大粒の雨が降り始めた。
 電車の窓を横殴りに打ち付ける雨粒を見るのは嫌いじゃない。
 次の駅で年老いたおばあさんが車内に乗り込んできた。
 夕方近く、疲れている労働者たちは年寄りを見ないようにと寝たふりをする。
「ここっ!どうぞ!」と、少し緊張した声が車内に響いた。
 座っていた席から立ちあがったスーツ姿の男は、おばあさんに席を譲ろうと誘導する。
「どうもすみませんねえ」と、ペコリと頭を下げたおばあさんが座ろうとした途端、電車が大きく揺れた。おばあさんは前のめりに身体を崩し、席を譲った男は前倒しになったおばあさんを支えつつ、自分も後ろに倒れ込んでしまった。
「だ、大丈夫ですか?おばあさん」
 周りのお客たちはやっと顔を上げて二人を心配そうに見守った。
 どこからか「大丈夫かね」との声が聞こえた。
 おばあさんを席に座らせたスーツの男は、顔を真っ赤にして周りにぺこぺこと頭を下げて「すみません。大丈夫です」を連発している。
 たったこれだけのことだったけれど、彼が一生懸命におばあさんを助けている姿を見た時、誰もがなんとなく幸せな気分を感じたはずだ。
 馬鹿でお人よしの「いいひと」の行為は、嫉妬すら感じさせないのだから。
 降りる駅でちらっとその「いいひと」を振り返った。しっかりと吊り革を掴み、まだ緊張が取れない顔の男とマトモに目がかち合った。
 俺は何故か慌てて顔を逸らす。
 電車を降りた後も、少し頼りない平凡な顔立ちの男の事が俺はずっと引っかかっていた。


 俺は上杉由宇(ゆう)。二十七歳の独身。今後も結婚する予定はない。だって俺、ゲイだから。
 自分が男しか興味が持てない人間だってことに気づいたのは中学生の頃。そんで高校生の時に、生物の先生と関係を持った。勿論、俺から誘った。
 その時、男同士っていうのは、恋愛云々よりも身体の相性が大事だってことを理解した。事実、色々と面倒な恋愛より、身体の関係だけで付き合う方がなにかと楽なのは確かだ。
 大学は地方の国立の建築学科へ進学したけれど、才能の限界を知り、建築関係の企業に就職は出来たけれど、デザインや設計よりも営業を選んだ。
 本当は…建築家になりたかった。一応国家試験の二級建築士の免許は取得していたけれど、実際のところ、自分の想い通りになにもかもがやれるわけでもないし、何よりもモチベーションとか野心があの頃の俺には欠けていた。それに何かと外交的な性格も、俺には営業の方が向いていると思った。

 新社会人に成り立ての頃は、慣れない仕事と初めての遠い赴任先での生活で、正直何度も辞めようと思い悩んだけれど、上司の先輩の助けで、なんとか辞めずに続けられた。
 浅野竜朗先輩は俺が初めて本気で恋愛感情を持った人だった。
 四歳年上の浅野先輩は、器量も志も爽やかな男前の人で、しかも俺と同じくゲイだった。だから遊びで良いから一度寝て欲しいと頼んだりしたのだけれど、彼は「悪いな、上杉。いつかまたな」と、まるで相手にしてくれなかった。
先輩と仕事を初めて三か月後、先輩は会社を退職してしまった。同僚の誰にも知らせないまま、突然に先輩は居なくなったのだ。上司に辞めた理由を問いただしても、一身上の都合としか返って来なかった。
 だけど俺には思い当たる節があった。

 先輩が会社を辞める少し前、ふたりだけで飲む機会があって、俺は先輩を酔わせた勢いで迫ろうとした。そしたら、彼は真面目な顔で「俺にはずっと好きな奴がいたんだ。…別れてしまったけれど…」と、話し始めた。
「どうして別れたんですか?」
「同僚だったんだけど…転勤が決まって、離れ離れになってしまったから…」
「…そんな事ぐらいで…本当に好きな人と別れられるんですか?」
「そうだな…どっかで男同士の恋愛なんて…続くわけねえって…ないがしろにしてたんだよ。だから罰があたった…」
 先輩はその人と別れたことを心から後悔したように俺に話し聞かせる。俺は少々の嫉妬を感じつつも、その話に興味を持ち、酔った先輩に続きを促した。
「ねえ、その人、どんな人なんですか?」
「え~?…そうだな。あいつは…思ったことの半分も口にできねえ控えめな男なんだ。愛想のない…捻くれ者で…自分からは欲しがらないし…でも本当はすげえ欲しがってるんだ。…ったく素直じゃなくてさあ…でも…美人でかわいくて、甘ったれで…大好きだった…」
「過去形?」
「え?……そんなん…決まってる…し…。今でも好きだよ…バカヤロ…」
 未練タラタラに愚痴る先輩なんてかっこ悪いとも思ったけれど、俺は今でも想いを寄せる先輩の恋人が羨ましかった。
 俺は今までそんなに想いを寄せる相手に巡り合ったことは一度もなかったから。

 噂では会社を辞めた後、浅野先輩は実家の信州に帰ったらしいけれど、詳しい事はわからない。俺も仕事をこなすことで精一杯だったから、先輩が辞めた後の喪失感は時機に埋められてしまったんだ。

 それから三年経って、俺は東京の本社へ転勤になった。
 しかも営業から設計部への転属だ。俺自身のたっての希望が叶えられたのだ。
 建築デザインを諦めきれないままに、一歩を踏み出せきれない自分の背中を押してくれたのも、浅野先輩だった。
「諦める必要なんかねえよ。頭に沸いてくるものを書き続けろよ。上杉の場合は夢じゃなくて、ゴールは掴める距離にあるんだぜ。俺はあまり人に頑張れって言わねえけどさ、やれる奴には言うよ。おまえはちゃんとやれる男だ。精一杯頑張ってみろよ」
 そう励ましてくれた先輩の言葉は、失くしかけた俺の野望…いや、希望に再び火を灯してくれたのだ。
 勿論、設計部に配属されても、自分の想い通りのデザインなんてすぐに認めてもらえるわけもなく、まずは下請けの地味な作業の繰り返しだった。
 だけど、目的とモチベを失わずにいれば、どんな仕事だって楽しめるってことをこの四年間で俺は覚えたのだと思う。それに、思い通りに出来上がった現物をお客様に喜んでもらえる時の満足感は…言葉では言い表せない程に嬉しいのだ。…まあ、そんな幸運はたまにしか味わえないんだけど…。

 時折、浅野先輩の事が懐かしくなることもあるけれど、俺はここで楽しく生きている。ゲイ生活の方も、ここでは遊び場には不自由しない。サロンもハッテンバも適当に遊ぶにはもってこいだ。
 今は新橋にあるジャズクラブ「Ethos」が、お気に入りの場所だ。
 会員制で値段は張るけれど、集まるお客に間違いがないし、なにより音楽環境が素晴らしい。ジャズに詳しくない俺にでも、音響の良さや文句のつけようのないライブ演奏ぐらいはわかる。
 それに…ここは俺の幸運の場所でもあるんだ。

 二年前、当時付き合っていた裕福な芸術家気取りの親父に連れられ、初めてこのジャズクラブを知った。その時、店内で見かけたひとりの男の姿に、俺は釘付けになってしまった。
 カウンター内に居るマスターと仲よさ気に話している男性は、間違いなく俺の憧れの人…だったんだ。
 俺は勇気を振り絞って、その人に歩み寄り、そして心臓が飛び出さんばかりに緊張しながら、やっとの思いで話しかけたのだ。
「あ、の…もしかしたら…建築家の…宿禰凛一さん…ですよね?」
「え?…うん、そうだけど」
「ぼ、僕、あなたの大ファンなんですっ!あなたの建てた教会とか美術館とか…あの横須賀の湾岸公園とか…本当に、もう、大好きですっ!」
「へえ~、詳しいんだね。嬉しいなあ。ありがとう」
 そして、憧れの君は、女神のような美しい顔で俺に笑いかけ、握手する為の右手を差し出してくれた。
 俺はもうマジに夢心地で…そのまま失神してしまいそうになるのを必死でこらえ、すがるようにその手を両手で握りしめるのだった。



宿禰凛一28

  2へ

このお話は、傷心、うそつきの罪状のスピンオフになります。
つうか…久しぶりに凛一を描きたくて、出してみたけど…益々胡散臭い顔になってるのお~( -ω-)y─┛~~~
でも、凛くんはこれ以上活躍することはありませんので、あしからず~。しかしラスボス臭がプンプン…
あ、それからお店の名前が「エトス」になっておりますが、GHを本にした時に、こちらの名前に変えたんですよね。発音しやすいから。「エトス」は「いつもの場所」という意味です。


浅野とこれから出てくる吉良のお話はこちらです。
傷心
うそつきの罪状 1



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予告です~ - 2015.04.04 Sat

花見に忙しくて、新作が遅れております。すみません( ≧Д≦ )

もうちょっと落ち着いたら新作を更新予定ですので…

実はふたつ同時に書いてまして…どちらを先にしようか迷っておりますが…

ひとつは浅野と吉良のキューピット役の上杉くんのお話で「超いいひと」

上杉由宇

もうひとつはイールのお話で「precious treasure」

イールマント

まあ、いつかはどっちもやらなきゃならないお話、と思いながら頑張るつもりです。

もう少し、お待たせすることになりますが、また、よろしくおねがいします。

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プロフィール

サイアート

Author:サイアート
イラストと駄文を更新しております。

少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

ゆっくりしていってね~

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