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2015-07

超いいひと 14 - 2015.07.23 Thu

14
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   藤原竜朗

14、

 信さんと十二分に抱き合った後、俺はやっと本来の目的を思い出した。

「で、浅野さんの居所見つかったってホント?」
「ええ、多分なんですが…。実は職場の同僚に実家が信州の人がいましてね、それで、今年の正月に帰省した時にですね…」

 信さんの説明はこうだ。
 信さんの同僚さんが、正月に信州の実家に帰省した折に参加した地元の同窓会で、信さんから聞かされていた浅野さんの事を思い出した同僚さんは、地元で果樹園を経営している友人に話したところ、浅野さんらしい人が居ると言う農園を教えてくれたんだ。
 その人の経営する果樹園が最近色々と面白い趣向で、人気スポットになり、町の活性化に繋がっているらしい。
 
「ただ、苗字が浅野ではないんです。だから、その人が本当に浅野さんかどうか…」
「苗字が違う?」
「はい」
「まさか、婿養子とか?」
「詳しい事まではわかりませんが…その果樹園のサイトがありますから、由宇くん、確かめてみます?」
「勿論!」

 信さんはカバンからタブレットを出し、インターネットに繋ぎ、浅野さんらしい人の農園のサイトを見せてくれた。
 一見シンプルに見えて、訪問客の目を引くホーム作りや、豊富なコンテンツ、それでいてなんだか癒されるパステルの色合い。
「シロウトが見ても、センスの良いホームページだってわかりますよね」
「浅野さんはこういうのも巧かったって…吉良さんが言ってた」
「『おいしい!うれしい!ヘルシー!果樹園』って名称もインパクトがあるのに、なんだかあったかくて、興味が沸きますね」
「浅野さんらしい…あ…」
「由宇くん?」
 俺は思わず言葉を失った。
 農場の様子を綴った画面のフォトに、浅野さんの姿を見つけたからだ。
 農場の方たちと並んで笑っている集合写真だ。
 ひときわ際立って目立っているのが浅野竜朗…俺の初恋の人だ。

 浅野さんは五年前とは随分違って見えた。
 浅黒い健康的な顔、汚れた農作業の服、伸びた髪の毛や無精ひげ…。オシャレで都会的でダンディでかっこいい…そんな代名詞の似合う浅野さんは、その写真からは想像しがたい姿になっていた。
 でも……
 良かった…。
 あの時、吉良さんと別れた事で心底落ち込んでいた浅野さんに、俺は何もしてやれなかった。そして、ずっとどこかに浅野さんへの後悔が燻っていたんだ。
 だけど、もう大丈夫だ。
 こんなに健康な浅野さんを確認できたんだ。
 良かった…立ち直れたんだね、浅野先輩…。

「どう?由宇くん。君の探してた浅野さんに間違いないかい?」
「うん…うん、間違いないよ、信さん。…ありがとう。俺、めちゃくちゃ…安心したよ」
「そう。良かった」
 そう言って俺の肩を優しく抱いてくれる信さんに、心から感謝した。

 果樹園の代表者の名前は「藤原竜朗」となっている。
 信さんの言った通り、苗字が変わっている。
 結婚して婿養子になったとしても、浅野さんを責めたりできないのはわかっているけれど…

「で、これからどうする?浅野さんと連絡を取ってみる?電話もファックスもメールだって、すぐにできる。それとも先に吉良さんに伝えてみるかい?」
「…俺、浅野さんと直接会って話してみたいんだ。今の状況も詳しく知りたいし、吉良さんの事も知ってもらいたい。信さん、俺と一緒に浅野さんに会ってくれる?俺が途中で挫けないように」
「勿論だよ。僕は由宇くんの願いだったら、なんでも叶えてあげたいって思っているよ」
 躊躇いもなく言いきってくれる信さんが、本当に愛おしかった。
「そんなに無理しないでよ。先が続かなくなるよ。俺はこの先も信さんとずっと一緒に歩いていきたいって思っているんだから」
「…あ、ありがとうございます」
 照れて俯く信さんがかわいくて、無理矢理顔を上げて、キスをした。
「ずっと一緒にいようね」と、言うと「はい、よろしくお願いします」と、答えてくれたる幸せ。
この感情は掌中の珠のようなもの。磨かなければ輝かないし、杜撰に扱えば、割れてしまうだろう。
だからいつまでも大切に温め合おう。

 
 週末の土日に信さんと浅野さんに会いに行く約束をしたのはいいけれど、それまでが思ったよりも大変だった。
 なにしろ会社で吉良さんと顔を合わせる度に、うっかり浅野さんの事を口に出しそうになってしまうのだ。
 でもよくよく考えてみれば、浅野さんの居所がわかったとしても、吉良さんが喜ぶべき状況なのかどうかは…実際に会ってみなきゃわからない。

 俺は週末が来るのがだんだんと怖くなってしまった。
 もし信さんが傍に居てくれなければ、きっとひとりで浅野さんに会いに行く勇気は出なかっただろう。
 当日、迎えに来た信さんの車の中で、俺はいつもより口数も少なく、高速道路からの景色を眺めつつ、オーディオから流れるジャズを聴いていた。

「由宇くん、緊張してる?」
「うん…。と、言うか…正直言うと、ちょっと怖いよ。会いに行って、歓迎されなかったらとか…浅野さんが結婚…してたらと思うとさあ…」
「僕はなんだか冒険者になった気分です。由宇くんが好きだった人を探して、見つけて、ついに会うことができる。ワクワクドキドキものです」
「第三者っていいよねえ~。気が楽で」
「そうでもありませんよ。本当は…僕も緊張してます。浅野さんに再会した由宇くんの恋心に火が点いたらどうしよう…とか、考えたり…」
「え?そうなの?…いやだなあ~、信さんが目の前にいるのに他の人に目移りなんてしませんよ。それに俺、信さんの身体で十分満足してますから」
「それ、喜んでいいんですか?」
「喜んでよ。信さん以外とは俺、抱かれたりしないから~」
 ハンドルを握る信さんの左手に俺の右手を重ねると、信夫さんは俺の手を握り返してくれた。
「ずっと一緒だよ。信さん」
「はい、由宇くん」


 ナビの予測通りに三時間半程で、俺達は信州長野の須坂という目的地に着いた。
 そこは都内では見たことも無い畑と民家がぽつりぽつりしか見当たらない田舎の風景だった。
 国道沿いに果樹園が広がり、電信柱には「どこどこの果樹園はこちら」との広告があちこちに貼ってあった。
 浅野さんの果樹園は国道から入り込んだ狭い道路を一キロほど走り、杉木立を抜けた場所にあった。
 派手では無いけれど、入り口には杉の木の看板、そしてその奥に大きめのログハウスが見えた。
 駐車場に車を置き、外に出る。
 空気は震える程に冷たかったが、雪は想像よりも積もってはいなかった。
 空を仰げば、底抜けに明るい一面に広がった青で俺達を歓迎してくれていた。

「さあ、行きましょうか」
 信さんに促され、俺も足を進めた。
 事務所と販売所と喫茶も兼ねたログハウスに入ると、お年寄りの女性が薪ストーブに薪をくべていた。
「すいません。こちらに浅…じゃなかった。藤原竜朗さんっていらっしゃいますか?」
「え?竜朗なら、まだ畑にいると思うけど…。あんたらどこから来られた?」
「はい、東京からです。昔、竜朗さんと同じ職場で働いていて、竜朗さんにお世話になった者です。久しぶりに先輩に会いたくなりまして…」
「ああ、そうですか。わざわざ東京から…」
「あの…竜朗さん、苗字が変わってますけど…、結婚されたんでしょうか?」
「いえいえ、あのバカは一生結婚はしませんよ。うちの娘があの子の母親なんですけどね、ここの農園を継ぐ為に、うちの養子になったんです。でも、結婚はしないって言い張るから、あの子の跡はどうなるか…。まあ、元々この農園は私の代で潰すつもりだったんですけど、あの子がやってみたいと言ってくれて。…それだけでもありがたいと思わないといけませんけどね」
「…そうですね」

 浅野さんのおばあさんに浅野さんの場所を教えてもらった俺と信さんは、畑に続くテラスからなだらかな丘に向かって歩き出した。
 しばらく歩いていると彼方からリンゴの木々の間を潜りながらこちらに近づいてくる姿が見えた。
 …浅野さんだ。
 俺はたまらず一目散に駆け寄った。
 息を切らして目の前で立ち止まった俺を、驚いた浅野さんが見つめる。
 ネットで見た浅野さんと変わらない健康的に日焼けした浅黒い顔と伸びっぱなしの髪に無精ひげ。でも鋭い目の輝きや、それとは逆にチャーミングな印象の口角は少しも変わってない。
 
 つまり…今の浅野さんの姿は、俺の期待を少しも裏切らなかったわけだ。

「あ、浅野さん、俺の事、覚えてます?」
 俺より背の高い…信さんと同じくらいの浅野さんを見上げながら、俺は問うた。
 浅野さんは少し首を捻りながら、俺の顔をじっと見つめる。

「え?…ええっ?おまえ、上杉?…上杉なのか?」
「はいっ!上杉由宇です。浅野先輩っ!おひさしぶりですっ!」
「いや、久しぶりと言うか…おまえ、昔とぜっんぜん変わってねえなあ~、あはは」
 浅野さんのおおらかな笑い声が辺りに響いた。
 それだけで俺はもう…

「浅野先輩は見事に変わりましたね。スーツよりも作業着の方が似合う浅野さんなんて…五年前は想像できなかったな」
「そうだろうなあ。こいつに慣れるのに一年はかかったかな」
「すごく似合ってます。相変わらずカッコいい俺の尊敬する先輩です」
「そうかあ…ん?」
 浅野さんは俺の後ろにひっそりと控えている存在に気か付いたらしく、信さんに視線を移した。
 信さんは、少し照れながら足を進めた。

「あの…初めまして。ぼ、私は由宇くんのい…従兄の…」
「信さん、浅野さんには嘘はつかなくていいよ。浅野さん、この人、今、絶賛交際中の俺の恋人、三門信彦さん、妻子持ちです」
「ゆ、由宇くん!」
「めちゃくちゃ愛し合っているけど、訳ありの妻子持ちです」
「ちょっ、由宇くん、そこ二回言う必要あるのかい?」
「う~ん、妻子持ちは…ちょっと手放しで祝福できない…かな?」と、腕を組む浅野さん。
「あ…すみません。すべて僕が悪いんです」
「嘘だよ。妻子持ちでも俺は信さんと一緒にいられて、幸せだよ。大好きな信さんを浅野さんに紹介したかった。浅野さん、俺、浅野さんが初恋だったんですよ。だけど浅野さんよりも大事な人をやっと見つけました。信さんは俺の最高の恋人です」
「…三門さん、上杉はまっすぐで仕事もできる子なんだが、情に流されやすいのが欠点だ。繋いだリードは緩めないようにしてください」
「由宇くんは僕が繋いでいるんじゃなくて、きっと僕が由宇くんに繋がれているんだと思います」
「そうか…じゃあ、それが赤い糸であることを祈っています。三門さん、そして上杉、俺の農園へよく来て下さいました。歓迎します」

 俺の目の前で、背格好が似ているだけの何の縁もない浅野さんと信さんが握手をしている。
 それはどこか滑稽で無意味なものに見えるかもしれないけれど、ここにだけ春の日差しが射し込んだように、柔らかく暖かかったんだ。


「超いいひと」はこちらから… 13へ15
 

表紙の浅野と吉良のお話はこちらから…
傷心
うそつきの罪状 1

なんか急に夏本番になりつつあるんですけど!暑い!


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超いいひと 13 - 2015.07.15 Wed

13
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いいひと9

13、

 三日三晩続いた熱も四日目の朝には平熱に戻った。
 信さんは、俺の世話の為にわざわざ有休を取り、ずっと俺に着き添っていてくれた。
 大丈夫だと言っても「いいんですよ。会社からは以前から有休を取るようにしつこく言われてて…。でも予定が無いのに休んでしまうのもなんだか悪い事してるみたいで…。ちょうど良かったんですよ。それに由宇くんの役に立てるなら、喜んで休めます」と、嬉しい返事。
「別に用がなくても、休めばいいじゃん。仕事ばっかりで嫌にならないの?」
「う…ん。僕は基本的に今の仕事が好きなんだ。なんかね…こういう言い方変だけど、文明の進化を目の当たりにするというか…新薬の研究って地味だけど、少しずつ前に進む過程が面白いんです。本当はもっと色々と勉強したい気持ちがあるんですけどね。会社の研究室じゃ限界がありますからね」
「ふ~ん…」
 初めて信さんの欲求と言うか…本当にやりたい事の一端を知ったような気がする。

 月曜になり、俺の体調も万全となり、無事出勤した。
 請け負っている仕事の調整が、俺の所為で遅れていた為、申し訳無く思い上司に謝ると、「一度ぐらいはお見舞いにと思ったけれど、近くに住んでいる従兄が世話してるって吉良から聞いていたから、安心したよ。まあ、取り敢えず仕事、頑張ってくれよ」と、俺の肩を叩く。
 あの吉良さんが俺の為に気を利かせた事に目を丸くしながら、俺は吉良さんのデスクに向って頭を下げた。「何をしてるんだ?」と、後ろから本人に尋ねられ、愛想笑い。
「全快のようだな。じゃあ、仕事行くか?」と、俺の腕を引く。
 今回の仕事は俺は吉良さんのパートナーとして働くことになっている。
 俺たちは仕事の現場に向かった。

 今回は古くなった商店街を今風のアーケードに仕上げる仕事なのだが…、設計デザイン担当と言っても、依頼主の要望を聞きながらの基本設計から、提示された予算で仕上げまでを見積もる建築積算までがうちの課の仕事で、その後は、建設課が引き継ぐ事になるのだが…大体において、個人の仕事ならスムーズに行く場合でもこういう大勢のクライアントの場合は、二転三転するからこちらも非常に気を使う。何度も現場に通いながら、細かい点を打ち合わせてくるんだが…意外にも吉良さんは辛抱強く相手の言いたい放題を聞き、納得させる提案を示していく。
 俺は吉良さんが人とのコミュニケーションが嫌いだと認識していたから、仕事場でのプロフェッショナルな吉良さんを大いに見直した。
 会社に戻る車用の車内でそれを言うと、吉良さんは「当然だろ。給料分は働くさ」と、あっさり返された。

「あの…ありがとうございます」
「なにが?」
「信さんの事、従兄って誤魔化してくれて…。説明するのが省けて助かりました」
「伊藤部長がおまえの事を心配して、何度も見舞いに行くっていうから…。俺がおまえだったら来て欲しくないって思ったんでね」
「病気もたまにするもんですね~。信さんの優しさがたまんなくて。益々惚れてしまいました~」
「でも、結婚してるんだろ?彼」
「まあ、そうですけど…。あまり気にならなくなりました。信さんも俺が一番好きって言ってくれてるし…」
「それくらい誰でも言うだろ?信じてるの?上杉も案外世間知らずだな…って感じじゃないな、あの人は。あの男は嘘がヘタそうだ」
「信さんは信頼できる男ですよ」
「そうか…。後輩が変な男に入れ込んでいたらって、少し心配したけど、あの人なら、調子に乗る上杉をシメてくれそうだし…いいひとって感じだな」
「そうなんですよ。信さんはすげえいいひとで…」
「だったら、俺の我儘に上杉を突き合わせるのは、辞めた方がいいな。あの人が可哀想だ」
「吉良さん。俺、別に構わないですよ。遊びで寝るなんて、皆やってることだし、信さんもわかってますから」
「だけど、やっぱりさ…」
「本音を言えばですね…俺、自分だけが幸せで、なんだか申し訳なくて…。浅野さんや吉良さんや…俺の好きな皆には幸せになってもらいたいんですよ。吉良さんが俺で少しでも癒されるなら、ただの遊びであっても優しさの愛情は慰めになりませんか?」
「…」
 ハンドルを握る吉良さんは何も言わず、ただ正面を見据えたままだった。
 窓から差し込む夕日が、吉良さんの顔を赤く染める。
 この人もまた、純粋な人なのだ。
 俺は吉良さんの幸せを祈らずにはいられなかった。

 吉良さんとふたりで行動する仕事が多くなる日々の中で、何度かラブホテルで抱き合ったりもした。
 浅野先輩との思い出や酷い悪口や愚痴は、吉良さんの積もり積もった愛情そのもので、それは他の誰にも消せるものではないと感じた。

 吉良さんとの関係を、信さんに報告するのは、俺の誠意だと思ったから、その都度正直に話した。
 最初は大げさに耳を覆う仕草で嫌がっていた信さんだったが、吉良さんの浅野さんへの想いを事細かく話していくうちに、段々と興味を持ち始め、とうとう「ねえ、由宇くん。いっそ浅野さんを探して、吉良さんの想いを伝えてみたらどうでしょうか」と、言い始めた。
「…」
 考えないわけでもなかった。だが、別れて五年経った今でも浅野さんが吉良さんと同じように想っているとは、到底考えられなかった。

「五年だよ、信さん。別れて五年も経っても、信さんは俺を愛し続けていると思う?」
「一年前だったら信じられなかった。けれど、今なら…五年後も由宇くんを愛しつづけている。…いられると信じられる。だから、吉良さんの気持ちがわかる。三年間も愛し合っていたんだよ。僕と由宇くんの三倍だ。なら、五年でも十年でも…ずっと想い続けていても不思議じゃないよ。そして浅野さんは吉良さんの愛した人だ。吉良さんと同じように想い続けていたとしたら…素敵だよ」
「でも…もし浅野さんが変わっていたら?…知らない人と愛し合っていたら?結婚して、家庭を持って、子供までいたら?それを知った時、吉良さんは…」
「そう…だね。でも、何も知らないままよりもずっといいんじゃないかな。このまま過去に生きるよりも…、どんなに辛かろうと未来への一歩を踏み出す時が必要だと思う。それに…いつまでも僕の由宇くんが、遊びであっても吉良さんと寝るのは…嫌だからさ…」
「…信さん。すげえ…嬉しいんだけど」
 信さんの本音は俺を有頂天にする。
 つまりは愛されている快感は、人を幸福にするって証明されたのだ。

 俺達は浅野さんの居場所を探すことにした。
 勿論、吉良さんには内緒にした。
 しかし、俺は浅野さんが今どこで何をしているのか、全く知らなかったから、どこから手を付けていいのかわからなかった。
 ふと、浅野さんの信州の実家が、果樹園をやっていると話していた事を思いだした。
 もしかしたら、その果樹園を手伝っているかもしれない。と、言うか実家の果樹園を探し出せば、浅野さんの行先も知ることができる。
 雑誌やインターネットなどで信さんと手分けしながら、浅野さんの行方を探す日々が続いた。
 だが、浅野さんがどこにいるのか、実家の場所さえ、手掛かりは掴めなかった。
 
 そうこうしている内に新年を迎えた。
 前もって兄に正月は帰省するように命じられていて、年末から三が日まで実家へ戻った。
 両親へのお土産も忘れずにいた為か、昔よりは歓迎されている気がする。
 否、実際母親の態度なんてものは、昔から変わらなかったのだ。ずっと同じスタンスで母は俺を愛してくれていたのだ。
 変わったのは俺の方。
 なんてことはない。結局は、俺自身の問題だったわけだ。
 下らないものを背負って、これまで生きてきたんだなあ…と、大損をした気分もあるけれど、自分が歩いてきた道を振り返ると、親への葛藤が己の根性を鍛えていたような気もする。…結局万事塞翁が馬って奴なのかもしれない。 

 驚いた事に、妹の知香がオーストラリアから帰省していた。
 オーストラリア人の恋人を紹介されてさすがに戸惑ったけれど、幸せそうな顔を見られて良かったと思う。
 輝有は相変わらず、クールでカッコ良かったが、娘の陽奈子の前では、ただの子煩悩の親バカに見えた。やっとよちよち歩きを覚えた陽奈子は、俺の腕に抱かれても嫌がらず、声を立てて笑ってくれた。
 …確かに無垢な子供はとてつもなく可愛い。
 まあ、それだけだ。
 俺には信さんの方がよりかわいいと思えるのだから、仕方がない。


 正月も終わり東京に戻った初仕事の夕方、信さんからメールをもらった。
 「浅野さんの居場所が、わかりました。夜、会えませんか?」
 俺は驚いてすぐに「了解。いつものホテルで会いたい」と、返事をした。
 仕事が終わると、即行で馴染のホテルに向かった。
 浅野さんの話も聞きたかったけれど、なにより信さんに触れたくてたまらなかった。
 だから先に部屋で待っていた信さんの姿を見つけると、走り寄ってキスをした。言葉を発するのももどかしくて、バカみたいにあせりながらお互いの服を脱がせ、思う存分愛し合った。

 会いたかった。僕もです。信さんに餓えてたよ、御節なんて目じゃないね。ふふ…僕の方がずっと由宇くんに餓えていましたよ。早く入れて。待って下さい、それじゃ、由宇くんが痛いでしょ?いいんだ、痛くても早く信さんと繋がりたい。嬉しいです、由宇くん…

 俺は「至福」と言う言葉を、体現していた。

 そして思う。

 たった十日間、恋人と会えなかっただけでこんなに恋しいのに、五年もの間、別れた恋人に恋をし続けるなんて、触れられないなんて…俺には到底我慢のできない話だ。



「超いいひと」はこちらから…12へ /14へ

浅野と吉良のお話はこちらです。
傷心
うそつきの罪状 1




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超いいひと 12 - 2015.07.08 Wed

12
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吉良と浅野1

12、

 吉良さんと一夜を共にした翌朝、俺は一足先に目を覚まし、眠っている吉良さんを置いて、自分の部屋へ帰った。
 目覚ましのコーヒーを淹れて一息つくと、昨晩の一連の事の次第への不安が段々と募ってきた。
 これから吉良さんを含めた仕事仲間と一緒に進めていくプランニングにしても、お互いのプライベートな感情が現れるのはよくないはずだ。
 しかし、一番肝心なことは…
 俺があの人に少しでも惹かれているのか…と、言う事だ。
 俺は吉良さんに対しての感情を見極めようと、何度も自分の心を探ってみた。そして思わず笑ってしまった。
 自分でも驚くほどに、何ひとつときめきが見当たらなかったんだ。
 考えてみたら、俺は吉良さんとマトモなキスさえしていない気がする。
 俺があの人と寝たのは、浅野さんへの想いが俺の心の中にまだわだかまっていて、浅野さんが愛した吉良さんの身体を確かめたいという好奇心が大きかったからじゃないだろうか。
 これまでだって、恋愛感情無しに男と寝て、多少のときめきを感じたり、惹かれたりしたことはあった。けれど、吉良さんには哀れさを感じても愛し合いたいとは思わない。

「信さんに怒られるかな~」と、天上に向かって呟いてみた。
 怒った信さんを見てみたいと、思う俺は末期症状だろうか。だって、そんな信さんの顔を想像するだけで、身体が疼き始めるんだから。

 ともかく吉良さんには変な誤解をされる前に、俺の方から恋愛的な感情が全く無い事をはっきり告げた方がいいだろう…と、思い、濃いめに淹れたコーヒーのポットを持って、再び吉良さんの部屋を訪れた。

 吉良さんはまだ寝ていた。
 休日だとは言え、さすがに十時を過ぎていた為、無理矢理起こしてコーヒーを飲ませた。
 寝ぼけていた吉良さんも、コーヒーを飲み終える頃には、はっきりと思い出したらしく、青ざめた顔で「申し訳ない!」と何度も俺に頭を下げた。

「いや、そんなに謝ってもらわなくてもいいんですけど…吉良さん、他の男と寝る時も浅野さんの名前を呼んだりしてます?」
「あ、う…たぶん…」
 吉良さんは泣きそうな顔で頭を抱えながら俯いた。
「それ、やめた方がいいですよ。最中に違う男の名前呼ばれると、萎えるもんでしょ?普通は」
「…反省…してる」
「俺は別に構わないけど」
「え?」
「俺の憧れだった浅野さんの身代わり役で吉良さんと抱き合うなんて…倒錯的で萌えるし」
「そうなの?」
「嘘ですよ(半分は本当だ)」
「…」
「まあ、男の物理的性欲ってしょうがないもんだし、俺でいいのならたまになら付き合ってもいいですよ」
「そんな…悪いよ」
「じゃあ、やめます」
「…あ、…やっぱりお願いしたい…気はする」
「お互いに恋愛感情が無いから、気が楽でしょ?」
「…うん」
「実は俺、今、大恋愛中なんですよ」
「そうなの?」
「うん、奥さんのいる人で…お互い好き合っているんだけど、未来が見えないつうか…。好きだからこそ、いつも不安が付きまとってしまう。でも…別れたくないんです」
「…」
「男同士の恋愛って難しいですね。当事者だけの感情ではどうにもならなくなる。吉良さんはある意味、幸せなのかも知れませんね。別れて五年経っても、好きだった人の事を一途に想っていられる。それってなかなか味わえるもんじゃない」
「不毛だよ。結局は片思いでしかないもの。もう決して叶う事の無い…」
「そうかなあ~。案外浅野先輩も吉良さんの事、諦めてないかもしれないですよ」
「そんな…虫の良い話だよ。それに浅野は女にも男にもモテる奴だったし…今頃はきっと結婚して…」
 そこまで話すと吉良さんは鼻を啜った。
「心の底から俺は馬鹿だなあ~って…情けなくて腹を立ててるよ。浅野を想いながら他の男と寝るなんて、心底くだらないし、自分自身を軽蔑している。でも…どうにもならないんだ…」
 
 吉良さんの浅野さんへの想いには感服するけれど、吉良さんの生き方は袋小路のような気がする。一生浅野さんへの想いを抱えて、生きていくつもりなんだろうか。
 それとも浅野さん以外の運命の男が、吉良さんを救うのだろうか…
 最もこの世の誰彼の人生が、すべて恋愛で成り立っているとは、俺も信じたくないけれど。


 付き合い始めて一年経った記念日にと、信さんとふたり、少しばかり奮発して海の見えるリゾートホテルに宿泊した。
 贅沢な海の幸に舌鼓を打ち、海を見ながらジェットバスで二人はしゃいで、それからいつものように精根尽き果てるまで抱き合った。
 不思議なのは…俺が信さんとのセックスに少しも飽きない事だ。何度やっても、十分に満ち足りていても、時間が経つとまたやりたくなる

「ねえねえ、どう思う、信さん。吉良さんの事、このままほおっておいていいと思う?」
 思う存分やったあとのヘトヘトになった信さんのだらしない顔を見て、こういう奴に惚れている自分は、吉良さんよりも随分と幸運なのかもしれない…と、思った。
「え~、それを僕に聞くんですか?」
 ほら、もう困惑している。
 その顔、どこかマヌケなゆるキャラっぽくてかわいいじゃん。
 ベッドの中で信さんの腹の中を探るのも、俺の趣味だと言っていい。素直な信さんの反応は面白すぎるのだ。

「だってさ、同じ職場の先輩なんだよ。スムーズに仕事したいじゃん。今、結構大事なプロジェクトを抱えてるんだよねぇ」
「そんな…知りませんよ、僕は」
 今度は精一杯に意地をはった顔。
 そんな顔はたまにしかしないから、それも新鮮。

「あ、妬いてる?ねえ、信さん、俺が吉良先輩と寝たから妬いてるの?」
「あ、…当たり前ですよ。好きな人が寝取られたのを喜ぶ恋人なんかいないでしょう」
「…うわ、なんかすげえ嬉しい気分。あ、でも俺が入れる方だから、寝取られる…とは意味違う気がするんだけど…」
「そんなの、違いません。由宇くんを誰にも渡したくないって気持ちは、僕だってあります」
「でも、別に吉良先輩に惚れたりは全然ないよ」
「だとしても…嫌なものは嫌ですよ」
「…」
 こんなにはっきりと俺に対する気持ちを表す信さんに俺は驚いてしまい、黙りこんだ。それから、段々とにやけてしまった顔を戻せなくなった。

「なんですか?いやらしそうに笑って」
「だって、信さんがそんなに嫉妬するだなんて、意外だったから。なんか俺、すげえ愛されちゃっているのかしら~と思っちゃうじゃん」
「あ…愛してますから…。由宇くんは僕の大事な恋人ですから」
「うわ、なんか信さんの口からそんな事言われると、すげえ欲情するんだけど。もっと言って言って~」
「もう、由宇くんったら…」

 信さんが嫉妬するのも、それに乗じて、激しいセックスを求めてくれるのもかなり意外な発見だったし、それはとても幸福な事だと感じていた。
 そして、ひとりぼっちで浅野さんを想い続ける吉良さんに同情した。
 俺は自分が一番大事だと思っている巷に溢れている多くの者と同じ考えの人間だが、俺が幸せなら、俺のまわりの人たちも同じように幸せであってほしいと願う一般的な善人でもあるのだ。


 その二週間後、ちょとしたドラマチックな修羅場?…が、待ち受けていた。
 日頃、丈夫な事だけが取り柄の俺が、珍しく風邪を引いてしまった。鬼の攪乱かと笑っていた上司もふらふらと倒れそうな俺を見て、さすがに早退を薦め、俺は滅多に行くことの無い内科のクリニックへ向かった。
 医師はインフルエンザと診断。他人にうつさない為にも一週間、自宅で安静にすることになった。
 これまでだって病気で寝込んだことだってあるけれど…熱の所為で身体が震え、頭痛で天井がぐるぐると回りだし、身体の節々の痛みに独り言の弱音を吐いた。
 震えながらひとりでこんな風に苦しんでいることが、突然、とても怖くなってしまったんだ。
 スマホから信さんに「会いたい」と、半べそ気味に甘えてしまった。
 俺の為に早めに仕事を切り上げてくれた信さんが両手にスーパーのビニール袋を抱えて俺の部屋へやってきたのは、約三時間後だった。

 信さんは弱り切った俺の手をぎゅっと握りしめ、
「もう大丈夫ですよ。僕が由宇くんを守りますからね」と、力強く答える。
いつもとは違った頼りがいのある言葉は、その時の俺が一番欲しかったものだ。

「インフルだからうつるかもしれないのに…ごめん。俺、自分がこんなに弱い奴だとは思わなかったよ…」
「誰だって病気の時は、心細くなるもんですよ。僕は予防接種をしてますから、平気ですよ。由宇くんが元気になるまで、ずっと傍にいますから安心して下さい」
 信さんの言葉に涙が出る程嬉しかったのだが、安心が先に立ってしまい、信さんの手を握りしめたまま眠ってしまった。

 夢を見た。
 不思議な夢だった。
 遥か彼方で浅野さんが昔のままの姿で、笑って手を振っているだけの夢だった。


 目が覚めたのは午後八時過ぎだった。目の前には長閑な顔をして俺を見つめる信さんが居てくれた。
「気分はどうですか?少しは良くなりました?」
「…うん。大分いいみたい」
「熱は…」
 信さんは自分の額を俺に額に当てて、熱を確認する。
「薬が効いているみたいだから、下がっていますけど、また上がりますから、今のうちに体力をつける為になにか食べておきましょうね」
「はい」
「お粥を炊きました。持ってきましょうか?」
「そこまでしなくても、テーブルで食べれるよ」と、俺は笑いながら起き上がった。
 笑ったのは、信さんが派手な花柄のエプロンを付けていたからだ。
 それに突っ込むと「慌てていたので、スーパーで見つけたエプロンを柄も見ずにカゴに入れたんですよ」と、恥ずかしそうに答えた。
「信さんに似合ってる」
「ホントですか?」
「うん、女神さまみたい」
「また茶化して」と、拗ねるふりをするが、弱っている俺にとって今日の信さんは守護神みたいに思えたんだ。

 信さんの炊いたお粥も、出し巻き卵も美味しかった…と、いうか、熱の所為で味はよくわからなかったけれど、一応用意された分は平らげた。

「じゃあ、由宇くんは薬を飲んでまた休んでください」
「うん」
 洗い物をする信さんの姿を見ておきたいけれど、今は身体がだるくてままならない。ベッドのある部屋に向おうとしたところ、玄関のベルが鳴った。

「宅急便かも知れない」と、俺が言うと「僕が出ますから、由宇くんは寝ていて下さい」と言う。
「わかった」と返事をして玄関に向かう信さんを見送ったけれど、宅急便なら印鑑がいると思い、俺は信さんの後を追った。
 
「信さん、印鑑…」と、呼びかけると玄関の扉を開けながら信さんは俺の方を振り返る。
「あ…」
「こんばん…は」
 玄関の先には見慣れた男が立っていた。
「吉良さん」
 吉良さんは俺と信さんを二度見し、信さんに軽く頭を下げ、しげしげと俺達を眺めた。
 女物のエプロンをした信さんと、パジャマに袢纏の俺が仲よく並んでいる様は、どっちにしても笑える光景だったと想像できることだが…

「え…と、あ、具合どう?」と、吉良さんは適当な言葉を探しながら俺に問う。
「インフルエンザなんで、しばらくは休業ですよ。うつるから俺に近づかない方がいいですよ」
「…」
 俺の言葉に吉良さんは納得できないような顔をして信さんの方を見たが、すぐにふっと笑った。

「そう…まあ、いいや。これ、今日の会議の報告。上杉君の提案したデザインも含まれているから、良くなったら見通してくれると助かる」
「わかりました」
 吉良さんは「こっちは差し入れ」と、書類とお見舞いの飲み物や菓子袋の入った袋を信さんに渡した。
「じゃあ、お大事に」と、手を振る吉良さんに「どうもわざわざありがとうございました」と、丁寧に頭を下げて見送る信さんの後姿が、良い具合にマッチしていて、俺は妙に感心してしまった。
 

 リビングに戻った後、笑っている俺に信さんが不思議そうな顔を見せるので、「さっきのあれ、なんかテレビドラマの三角関係の修羅場みたいで面白かったね」と、言うと「由宇くんは当事者なのに、暢気な顔をして…正直腹が立ちます。由宇くんが病気じゃなかったら、一発殴っていたかもしれない」と、真顔で言う。
 俺はあわてて釈明しながら、果たして俺と吉良さん、どちらが信さんに殴られたのだろう…と、色々なシチュエーションが頭を巡ったのだ。


キッチン


「超いいひと」はこちらから… 11へ /13へ
 

表紙の浅野と吉良のお話はこちらから…
傷心
うそつきの罪状 1



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