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2015-08

超いいひと 17 - 2015.08.22 Sat

17
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由宇セーター

17.
 印象は最悪にしても、「結城誠人(まさと)」の姿形は上等だった。
 簡単に形容すると…少しエキセントリックな医者の役を演らせたらピカ一のイケメン俳優…と、言うところか。
 煙草を持つ優雅な長い指も、クセの無い整った短い髪も、切れ長でねめつける冷たい眼差しも魅惑的だ。
 昔の俺だったら、一目で陥落したかもしれない。
 なのに…なんつうか、俺好みのすげえイケメンを目の前にしても、客観的でいられる己が不思議で仕方なく、笑いが込み上げてきた。
 思わず声に出して笑ったら「何が可笑しい?」と、不機嫌に罵られた。

「いえ、…さっきまで羽月さんと話していたんですが、羽月さんがとても楽しそうにあなたの事を話すからどんな方だろうと想像したけれど…、あまりに信さんと真逆なものでつい笑ってしまいました」
「ちっ、あんなオカマと俺を比べるんじゃねえよ。気色悪い」
「…」
 見目とは違った厳しい言葉に、一瞬だが俺は怯えてしまった。
 マジな話だが、カムアウトは人を選ばなきゃならない。

「今時の医者がそういう偏見を持つなんて、ナンセンスですよ。それに信さんはオカマじゃない。タチ専門だから、オカマって言うなら俺の方。まあ、俺はタチもネコもやるからバリリバって言うんだけどね。ノンケに理解して欲しいとは思わないけど、あなたに迷惑をかけるつもりはありませんから」
「マジでおまえらは気持ち悪い。ああ、それ以上俺に近づいてくれるなよ。胸糞悪くなるからな」
「いつもそんな態度で信さんに接しているんですか?…信さんがここに来るのに、二の足踏むのも納得だ。同情するに容易い」
「世間は近親者にホモが居る事態に同情するだろうがね。それにだ。医者が偏見を持つのはナンセンスと言うが、俺は医者だがおまえの担当医じゃねえから、ホモのおまえらを差別するのは俺の権利だ。全くもって存在自体が気に入らない」
「あなたが気に入らないのは、羽月さんがあなたよりも信さんを信頼している…って事じゃないんですか?」
「はあ?」
「だって、羽月さんは駿君をお腹に宿した時、あなたじゃなくて、信さんに相談したんでしょ?」
「…」
「あなたにも事情があっただろうし、羽月さんはあなたに迷惑をかけたくなかったんだろうけれど、信さんはそういう事情を全部ひっくるめて、羽月さんの力になろうと思って、結婚した。それだけでも信さんの包容力は褒められて当然だし、充分男らしいと思うけど。あなたにオカマ呼ばわりされては、信さんが気の毒だよ」
「きさま…」
「今日ここに来たのは、俺の都合で信さんと一緒に信州の知人に久しぶりに会うことになって、お土産にリンゴを山ほど貰ったんだ。信さんが駿くんがリンゴが大好きって言うから、俺が無理矢理行こうって言いだした。それに羽月さんも俺達を歓迎してくれた。俺も羽月さんと話せて良かったと思う、ついでに駿くんの父親がこんな奴だとわかって、マジでここに来た甲斐があったと思ってる。これで俺はあんたに対して良心も痛まずに、信さんと幸せに暮らしていけるって思えるからね」
「男同士の幸せな生活?笑わせてくれるな。不都合な生産性の無い歪な共同生活に何の誇りがある?」
「誇りならありますよ。俺も信さんも優良な納税所得者で真面目に働く社会人だもの。少なくとも、不自然な恋愛を続けているあなた方よりはよっぽどマトモだ」
「人の気も知らないで、よく言う」
「知らないから言えるんです。言っておくけど、信さんはあなた方の事情は何も話してないよ。あの人は人を悪く言う人じゃない。でも、その信さんが羽月さんとの離婚を考えてくれたんだ。本当は、俺はオブザーバーで横やりをいれる気は毛頭無いんだ。でも、羽月さんや信さんの幸せを考えたら…」

 そこまで口にして、俺はあわてて口を閉ざした。
 間抜けな事に、俺は自分でオブザーバーと言いながら、言いたい放題の傍若無人だった。
 いくら信さんの恋人だからって、たった一年と何か月しか付き合っていない俺が、知ったかぶりをして、この人に説教じみた非難をするのはお門違いも甚だしい。
 俺にこの人を責める権利などひとつもない。
 この人たちと信さんの間には、長年の間に積み重ねた俺の知らない多くの感情や絆があるのだと言う事を、俺はすっかり忘れていた。
 
「す、すみませんっ!俺、事情もよく知らないのに、勝手な事を言いすぎました!」
 俺は結城誠人の目の前で、深々と頭を下げた。
 もしかしたら、こいつを無為に傷つけたかもしれないと、後悔した。
 
「何だ?今更。それこそが気持ち悪いぜ」
「…俺はただ…」
「不毛なクレームは慣れてるし、おまえに謝ってもらう立場でもない。それに、信彦が羽月との離婚を考えているのなら好都合だ。これですっきりと縁が切れるからな」
「でも!」
「…?」
「あの…俺がこんなこと言うのも余計な事だってわかっているんですけど、信さんのお母さんの事は考えてあげて下さい。信さん、きっとそれが一番心配なんだと思うから…」
「あのな。あのふたりが離婚しようが、八重ばあさんは駿のばあさんだし、追い出すような非道な事ができるか。病院(うち)の評判に関わるし、第一羽月がほっとくまいよ」
「そう…ですか。良かった。…信さんも安心するだろう」
 
 本当に良かったと思った。
 俺が自分の母親に心配をかけさせたくないように、信さんもカムアウトして母親を傷つけるのは不本意だろう。

「…駿には俺を大将と呼ばせている。俺は一生それで良いと思っている」
 そう俺に言うと、結城誠人は煙草を灰皿に押し付けて、ベンチから立ち上がった。

「信彦に言っておけ。羽月と駿、母親の事も全部俺が守るから、ここには極力寄りつくなってな」
「最初の方だけ伝えておきますよ。また、来ます。ふたりで。駿くんに美味しいリンゴを食べさせたいから」
「…好きにしろ。俺は会わないし、リンゴも食わない」

 厳しい捨て台詞で背中を向ける結城誠人を、好きになれそうにもないけれど、あの人のプライドを羨ましいと思う。
 家族や病院を守る意地と自信が、あの人の誇りなら、俺と信さんには誇れるものはあるのだろうか。
 それを見つけられるのだろうか。
 結城誠人が言うように、男同士の生活は歪なものなのだろうか。

 
 しばらく病院の屋上に留まっていると、信さんが迎えに来てくれた。
「ごめん、待たせたね、由宇くん。…寒くないかい?」
「…大丈夫だよ」
 信さんの緩い顔を見て、俺も気が緩んだんだろうか、思わず信さんの肩に寄り掛かった。
「どうしたの?何かあった?」
「…何も無いよ。そうだね…やっぱり、ここは寒いから、帰ろうよ」
「うん、帰ろうか」

 東京へ戻る車の中で、俺は極端に口数が少なくなってしまった。ハンドルを握る信さんは、それを気にしてか、チラチラと俺を覗き見たり、話しかけたりするけれど、いつものように陽気な返事が出来ない。
 高速道路が込みだした頃、信さんは渋滞を避けて、伊豆の温泉へ向かった。

「もう一晩、どっかの温泉でゆっくりしましょうか?」
「いいの?」
「折角の連休ですから、由宇くんと一緒に居たいんです」
「嬉しいな」
 俺に気を使ってくれる信さんが好きだ。傍にいられる幸福を有難いと思う。
 だけど…
 
 その夜、俺と信さんは海の見えるホテルで、愛し合った。
 羽月さんの事も結城誠人の事も俺は喋らなかったし、信さんも話さなかった。

 ただいつだって信さんの傍には俺がいるから、と、俺は何度も誓った。
 とても頼りない誓いだと、心のどこかで思いながら。
 


 二月になった。
 バレンタインデーに浅野さんと吉良さんの感動の再会イベントをプランニングした俺は、その日、仕事を終えた吉良さんの後をこっそりと追いかけ、ふたりが無事再会した事をこの目で確かめ、胸を撫で下ろした。
 その夜は、協力してくれた信さんと一緒にふたりの復縁を祈りつつ寝た。
 翌日、浅野さんから吉良さんとよりが戻ったとのメールをもらい、信さんと祝杯を挙げた。

 後日、怒られることを覚悟で吉良さんに事の次第を打ち明けると、彼は大きく溜息を吐き、そして俺に頭を下げた。
「ありがとう、上杉。竜朗を見つけてくれて、俺に会わせてくれて…どんなに感謝しても足りない程だ。色々と迷惑をかけたけれど、もう二度と、竜朗から離れたりしない。三門さんにも充分にお礼を伝えておいてくれ」

 思ってもみない吉良さんの感謝の言葉に、不覚にも涙が零れた。

 好きな人の為に懸命に動いて報われるって、成る程凄い事だ。


 三月、信さんと羽月さんの離婚が成立した。
 信さんは「羽月さんから由宇くんに渡してくれって」と、俺に結構な量の手紙を差し出した。
 内容は信さんとの出会いから、今に至るまでの思い出話と感謝の気持ちだった。そして、結城誠人についての言い訳がましい諸々の弁護。
 言い訳だとしても、羽月さんのあの男への愛情が純粋なのは真実で、それはまたあの男にも言える事だったから、俺も何気に感銘したのは確かだ。
 読んだ後、信さんにも読ませて感想をもらった。

 信さんはあろうことか、ポロポロと涙を流し「羽月さん、誠人さんといつまでも幸せにね…」と、何度も繰り返した。
 いいひとも度を過ぎると、怒り心頭、ブチ切れる。
 俺はとうとう、一生言うまいと誓った陳腐なセリフを吐いた。

「信さん!俺と羽月さん、どっちが大事っ!」
 信さんは驚きつつも即座に「由宇くんですけど…」と、応えたので、俺も有頂天になる。
 
 恋にイカれた奴は、実に単細胞だという実例である。



「超いいひと」はこちらから…16へ /18へ

浅野と吉良のお話はこちらです。
傷心
うそつきの罪状 1



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超いいひと 16 - 2015.08.11 Tue

16
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結城誠人

16、

 静岡に向かう途中のサービスエリアで、しばらくの間、信さんは携帯で奥さんと話していた。
 俺は気にしないフリをして昼飯を食べていたけれど…
 いきなり実家へ行こうなんて、ちょっと無鉄砲だったかもしれない。
 信さんの気持ちも聞いておけば良かった…などと少し気落ちしていると、信さんがニコニコとしながら俺に近づいてくる。

「由宇くん、今から行っても大丈夫だって。羽月さん、由宇くんに会えるのが楽しみって、喜んでたみたいでした」
「え?俺の事、話してるの?」
「ええ、以前から時々メールで少しずつ…。実は先月初めに葉月さんが僕の社宅に来られて…。その時、由宇くんと一生一緒に居たいと告白しました」
「そ、それから?」
「羽月さんは心から喜んでくれました。彼女は…僕を他所に自分が幸せに暮らしているのが、心苦しいんです。だから僕の事も色々心配して、気を使ってくれる。…そんなことは必要ないって言っているんだけどね。なんか僕に負い目を感じているらしくて…」
「一理あるじゃん」
「でも…僕だって母を彼女に任せきりにしてしまっているし…どちらが悪いなんてことはないんだよ」

 信さんの気持ちはわかる。
 面倒を見なきゃならない母親を奥さんに任せきりなのは、大きな借りというものだ。迂闊にこの状態を壊すことは、母親を泣かせることになる。
 でも、どっちみち、籍だけの夫婦であるなら、いづれは別れた方がお互いの為だと、俺は思うけれど…


 掛川の家に着いたのは午後二時を過ぎた頃だった。
 羽月さんの実家が経営する「結城総合病院」は、想像以上に立派な建物で、実家はすぐ隣に建てられていた。
 信さんは病院の駐車場へ車を置き、そこから実家の正門へ回った。
 勿論、2ケースのリンゴとアップルパイやらジャムやらのお土産もたっぷり抱えて。

 セキュリティのある門内にも、ちゃんとした駐車場があるのに…と、言ったら「僕はこの家の者ではありませんから…」と、全く気にしていないように答えた。
 信さんは俺が思うよりも、精神は強いのかもしれない。
 
 鉄筋の二世帯住宅らしく、玄関は左右に別れ、右側の玄関の前に羽月さんらしい女性が待っていてくれた。
「お帰りなさい、信彦さん」
「ただいま帰りました」
「こんにちは。初めまして、由宇さん…って呼んでもよろしい?」
「あ、勿論です。初めまして、上杉由宇です。今日は突然にお邪魔することになりまして、申し訳ありませんでした」
「ずっとお会いしたかったんです。以前から信彦さんからお話だけじゃなく写メでお顔も拝見してて、信彦さんを幸せにしてくれた人に興味津々…って感じ?ふふ…良かった。信彦さん、ホントに幸せね」

 羽月さんは俺が思ってた感じの人とは大分違っていた。
 大病院のお嬢様っていうから、それなりにお金持ち風なのかと思ったけれど、綺麗に整った顔はナチュラルメイク、髪は後ろで三つ編みに束ね、服装は淡いピンクのポロシャツにジーンズ、そしてエプロン姿。それに声が…どこかで聞いたような…

「さあ、何もお構いできませんけどお入りください」
「はい、お邪魔します!」
 なんせ元気と愛嬌だけが取り柄の俺なので、落ち着かない信さんを尻目に颯爽とお邪魔することにした。

 羽月さん手作りのチーズケーキとコーヒーを頂きながら、リビングの様子を伺う。
「すいません。俺、仕事柄、建物の内装にも興味があって…」
「建築家でいらっしゃるのよね」
「まだまだ新人なんですけど…」
「信彦さんたら由宇くんは若いのに凄い!って電話で話す度に言うものだから、可笑しくって…。他の人の事をこんなに楽しそうに話す信彦さんを今まで見た事がないから、本当に由宇さんが好きなんだ~って、微笑ましくて」
「羽月さん、何も由宇くんの前でバラすことないでしょう…」
「だって嬉しいんだもん。信くんが幸せを見つけたって思うと…ありがとね、由宇さん」
「…」
 良い人だとは聞いていたけれど、羽月さんがこんなにいいひとじゃ、逆に俺が僻んでしまうじゃないか。
 信さんはなんでこんないいひとを本気で好きにならなかったんだろう。
 理由は言うまでも無いけれど…同性しか愛せないって自分が思うよりは罪深いものかもしれない。

「あ、駿くんは?」
「駿は多美ばあちゃまとスイミング教室よ。もう帰ってくる頃だわ」
「そう…か」
「駿と会うのも久しぶりでしょ?」
「ついに忘れられてるかもしれないね」
「大丈夫よ、いつも言い聞かせているから」
「気を使わせてごめんね」
 
 信さんと羽月さんの関係って、間近で見るとなんだか…姉弟みたいだ。お互いを気遣い、相手の幸せを我が事のように喜べる。
 だけど…やっぱり違和感を感じてしまうのは、俺が素直に認めたくないからなのかもしれない。
 
 しばらくして駿くんが姿を見せた。
 忘れ去られているかと心配していた信さんに一目散に「わあ、パパだあ!」と、駆け寄ってくる姿も愛らしく、信さんも駿くんを軽々と抱き上げ、「駿くん、大きくなったね」と、嬉しそうだった。
 どこから見ても親子にしか見えないのに…と、信さんの恋人の立場で言うのも変だけど、不思議だと思う。

 信さんが久しぶりに母親に顔を見せてくると言うので、俺は「近くの喫茶店で待ってるからゆっくり話しておいでよ」と、手を振った。
「じゃあ、うちの病院の喫茶室で待っててもらいましょうよ」と、羽月さんの提案で隣の病院に行くことになった。
 信さんは駿くんと一緒に母親の居る隣の家へ、俺は羽月さんに案内されて、病院の喫茶室へ向かう。

「こちらの方が近道なのよ。夜間、患者さんから急に呼び出されることも多いから」と、羽月さんは正門とは逆の裏道の門をにこやかに案内する。
「あ!思い出した!」と、俺は思わず声を出す。
「え?なに?」
「羽月さんの声、どっかで聞いたことがあるなあと思っていたんです。そうだ、昔、親父が持ってたビデオで見たアニメ「めぞんなんたら」のヒロインの管理人さんに声と恰好がクリソツ…あ、気ぃ悪くしました?」
「いいえ、そんな昔のアニメ、よく覚えているなあって思って」
「いや、親父がこの声優さんが好きらしくて『ナウシカ』やら『小公女』のアニメ等、何回も見せられて…」
「ふふ…以前、初めて会った時に同じことを言う人が居たの。…兄なんだけど。私が高校になったばかりの頃に母が再婚して、この病院に越してきたんだけど、その時に初めて兄に会って、いきなり『お前、ナウシカみたいだな』って言われて、びっくりしたのよ。その後も、その声優さんの役名で私を呼ぶの。性格悪いでしょ?」
「…その義理のお兄さんが、駿くんの本当の父親…ですよね」
「…」
「信さんに聞いたからじゃない。信さんはそう言うことは一切話さない人だ。さっきリビングの棚に置かれてた家族写真のお兄さんの姿を見た時、直感で感じたんです」
「そう…うん、その通り。びっくりでしょ?…私の所為でずっと信彦さんに迷惑をかけているの」
「信さんは羽月さんの力になりたかったんだから、羽月さんだけの所為じゃない。でしょ?」
「…私と兄の責任には間違いないわ。ついこの間…ね…信彦さんから離婚しようかって言われたの。いつかはしなきゃならない話だし、わかっているんだけど…。なんだか怖いのよ。男女の関係じゃなくても、信くんは私の心の支えとなっている人だもの」
「…」
「でも、なんだか吹っ切れる気がする。由宇くんに会ってしまったからかな。信くんのあんな幸せそうな顔、ほんとに初めて見たのよ。…もう信くんを自由にしてあげなきゃね。…由宇さん、信くんの事、よろしくお願いします」

 この人は、浅野さんが信さんに言った事と同じ事を言う。
 でも浅野さんとこの人の立場は全く異なるものだ。
 俺は羽月さんに答えられなかった。
 「任せてください」なんて言えるわけがない。
 俺が信さんに今以上の幸せな家庭を与えられる保障など、どこにも無いからだ。


 羽月さんが案内してくれた喫茶室は、運悪く空いた席が無かった。
「休日はお見舞いの方が多いから、混んじゃうのね。どうしましょう。近くに喫茶店もないし…」
「大丈夫ですよ。適当に時間つぶしますから」
「じゃあ、屋上はどうかしら。景色が良いって評判なのよ。冬だから寒いかな…」
「今日は晴れていて風も無いから大丈夫です。行ってみます」
「じゃあ、信くんに伝えておくわ」
「よろしくお願いします」

 羽月さんと別れて、病院のエレベーターに乗り最上階へ向かう。
 小高い丘に建てられた十二階建ての屋上から見る景色は、思った以上に爽快だった

「富士山あっちかな~」
 独り言を言いながら、あちこち歩いてみると白衣を来た男性が片隅のベンチに座って煙草を喫って居た。
 少し近寄ってそっと顔を覗き見ると…あ…さっきの写真で見た…羽月さんの義理の兄…駿くんの実の父親…つまりはすべての元凶の親玉…だった。

 触らぬ神に祟りなし…
 俺は踵を返しその親玉から離れようとした。
「おい、おまえ、ちょっと待て」
 低い不機嫌な声が俺を呼び止めた。

「逃げる事はなかろうよ」
「べ、別に逃げてはないです」
「おまえ、信彦の男だろ?」
「え?」
「羽月から写メを見せられた。それにさっきから、信彦が来てるから会いに来いって、催促のメールが五月蠅い」
「…」
 もしかしたら、この人がここに居ることをわかって、俺を屋上に?
 だとすると、羽月さんも案外、悪党なのかもしれない。
 だけど俺もただのいいひとでいるつもりは全くない。

 俺は姿勢を正し、その親玉に向き直り、頭を下げた。

「初めまして。上杉由宇と申します。只今、三門信彦さんと真剣に付き合っております」
「…気持ち悪っ!」
「は?」
「俺がこの世の中で一等嫌いなものは、泣き騒ぐガキと気色悪いホモ共だっ!」

 …
 え~と…
 うん、こういう人、居るよね。
 でも、医者のあんたが言うセリフかよ。
 俺を見るその視線も、いわゆる一般の常識人と言われる者たちが俺達を蔑む目線と同じだ。

 言わずもがな、結城誠人との初対面の印象はお互いに最悪なものだった。



「超いいひと」はこちらから… 15 /17へ
 
浅野と吉良のお話はこちらから…
傷心
うそつきの罪状 1

ゲイじゃない鬼畜男もたまにはいいけど…これ以上、ホモ的な事は起こらないからなあ~( -ω-)y─┛~~~


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超いいひと 15 - 2015.08.04 Tue

15
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超いいひと16


15、

 浅野さんと一緒にログハウスに戻った俺達は、浅野さんのお祖母さんの手作りのアップルパイをご馳走になった。
「甘すぎなくて美味しいです。ね、信さん」
「はい。実は僕は甘党じゃないんですが、リンゴの酸味が爽やかで、これならいくらでも食べられます」
「だろ?ばあさんの手作りのジャムやらお菓子は評判がいいんだ。シーズンの時は果物狩りに来たお客さんで品切れになるんだが、冬は観光客も少ないから、ネット販売やら百貨店の催し物に出してみたりさ。最近は東京の有名デパートにも売り込みに行ってるんだぜ。二年前からは有機栽培を始めたんだ。少々高価でも食の安全が一番のセールスになるからな」
「浅野先輩、相変わらず腕利きの営業マンですね。俺はあの後、営業から設計デザイン課へ配属されました」
「そうか。上杉はそっちがやりたいって言ってたよな」
「はい、浅野さんが俺の背中を押してくれたから今まで頑張って来られました」
「関係ねえよ。おまえの努力と実力だよ」
「実は…俺、今、本社勤務なんですが…吉良遠流さんと一緒に仕事をしているんです」
「…」
 吉良さんの名前を出した時に見せた浅野さんの狼狽した顔に、俺もまた驚きを隠せなかった。

「あ…由宇くん、僕は席を外そうか…」
 気を効かせようとする信さんに俺は「いや、俺の傍にいて欲しい」と、頼んだ。
 信さんはコクリと頷いて立ちかけた腰を再び下ろした。
 ふたりを繋ぐ証人としても信さんに見届けて欲しいと思うのは、俺の勝手だろうか…

「昔、一緒にお酒を飲んだ時、浅野さんが俺に話してくれた東京に置いてきた恋人って…吉良遠流さんですよね」
「…」
「吉良さんの口から聞いたので、間違いないはずです」
 浅野さんは笑おうとしながらも笑えず、俺から視線を外し、しばらく黙ったままだった。

「…あいつ、元気か?」
 ようやく口を開いた浅野さんの目はまだ俺を見てはくれない。
「いえ、全然元気じゃないです。五年越しの恋煩いです」
「え?…」
 俺の言葉に浅野さんは意外な顔をして俺の目を見る。

「吉良さん、浅野さんの事をずっと忘れられないでいるんですよ」
「まさか…」
「そのまさかです」
「五年だぞ?別れてから一度も声も顔も見てないんだぞ?遠流が…今もずっと俺を?…馬鹿じゃないのか…」
 吐き捨てるような言葉とは裏腹に、浅野さんは俺の言葉に喜びを隠しきれないでいる…気がした。
 
「はい、吉良さんは馬鹿だと俺も思います。でもそんな吉良さんが好きだったんでしょ?」
「…」
「きっと吉良さんの浅野さんへの想いって…五年前と少しも変わっていないんだと思います。俺も不思議でしょうがないけど…」
「あいつかおまえに言ったのか?俺の事を…今でも好きだって」
「あの人はあなたが恋しくて…恋しくて色んな男に抱かれてはあなたの名前を呼ぶんですよ。俺もその被害者です」
「はあ?」
「酔っぱらった吉良さんにあなたの代わりに抱いてくれって頼まれました」
「…何…やってんだ、遠流の奴」
 不機嫌な顔を隠す様子もなく、浅野さんはボサボサの髪の毛を手荒く掻いた。

「吉良さんも俺もお互いに恋愛感情は一切ありません。ただ…吉良さんは寂しくて寂しくてたまらないんです。俺はそんな吉良さんに同情して、寝てるだけです」
「俺は…おまえに謝るべきなのか?」
「はい、浅野さんの責任大ですね。おかげで俺が信さんから叱られてます」
「え~!僕は由宇くんを叱ったりしてないつもり…だけど…」
「じゃあ、言いかえると、俺が吉良さんと寝ると、信さんはすごく落ち込んでしまうんで、浅野さんに責任を取って欲しいって思って、信さんと一生懸命に浅野さんの居場所を探して、ここに辿りつきました。これ以上、信さんに我慢させてしまうと、俺、嫌われてしまうかもしれません」
「そ、そんな…。ぼ、僕は嫌わないよ。そりゃ、由宇くんが違う人と寝るのは嫌だけど、それは由宇くんの優しさだし…」
「でも、嫌でしょ?」
「…う…ん」

 俺と信さんの会話を聞いていた浅野さんはクスリと笑い、そして一旦天井を仰ぎ、俺達ふたりにはっきりと宣言した。
「わかったよ。俺と遠流の事で、おまえたちの仲が悪くなったら寝覚めが悪くなりそうだ。遠流の事は…今までほったらかしにしてしまった俺の責任だ。あいつの性格を考えたら、未練がましいのはわかっていたし、俺もあいつ以上にしつこい性格だって、最近気づいたんだ」
「…え?それじゃあ…」
「仕事で東京に出た時に、何度か会社の前まで行ってみた事がある。あいつがビルから出て来ねえかなあ~、思い切って前に住んでた社宅まで押しかけてみようか…とか…さ。思ってはみたけれど、今更だろ?こんな汚ねえ恰好でのこのこ出てって、新しい恋人でも紹介されてみろ?…東京湾にでも身投げするしかねえじゃん…。ギリギリの状態でここまでやってきた自分を見せつけたい気もするが、逆に否定されたら…ってなあ~。肝心のところで怖気づく。つくづく自分が情けない。俺は五年前から成長して無いのかもしれない」
「でもそれはきっと吉良さんも同じですよ、成長して無いって思いながら、五年分を積み重ねてきたんだ。変わらないわけはない。俺はそう思います」
「…上杉は…あの頃と比べたら…随分大人になったなあ」
「さっき全然変わんねえって言ったくせに」
「褒め言葉だろ?」
「そうですか?…信さん、どう思う?」
「え?僕ですか?…由宇くんは出会った頃からずっと…前向きで純粋な青年ですよ。褒めてます」
「…だ、そうです」
「おまえから惚気を聞くことになろうとは…俺も焼きが回ったわ」
 そう俺に返事をする浅野さんの頭の中はきっと、吉良さんで一杯だった事だろう。


 吉良さんへの想いを確認した俺は、浅野さんと吉良さんの再会の段取りを企画させてくれと頼んだ。
 浅野さんも自分ではどうしていいのか不安そうだったから、俺がふたりのキューピットの役目を申し出たわけだ。
「バレンタインデーに五年ぶりに再会して、熱い夜を過ごすってどうです?」
「バレンタインか…一か月も先だな」
「五年待ったんだ。ひと月ぐらい我慢できるでしょ?」
「その間に遠流にいい男が出来たら…どう責任取るんだよ」
「大丈夫ですよ。俺が見張っておきますから。それより浅野さんはそれまでに男前を上げておく必要がありますよ。少なくとも無精ひげは剃って下さい。俺、嫌いですから」
「へ?おまえの趣味に合わせるのか?」
「吉良さんの寝る相手に、無精ひげの男はいませんよ」
「なんか気に入らねえなあ~。遠流と寝た男から、ダメ出しだされるってのは…」
「吉良さんはロマンチストですから、すげえ偶然を装って運命的な再会を果たす…的な…。細かな連絡、打ち合わせ等は俺がやりますから、浅野さんは俺の指示通りに動いてください」
「…まあ、上杉に任せるよ」


 その日は浅野さんの紹介してくれた温泉旅館に泊まった。
 こじんまりとした古い旅館だったけれど、かけ流しの温泉も、地元の食材を使った料理も、女将さんの心づくしのもてなしも十二分に俺と信さんを満足させてくれた。

 お湯から上がった信さんがふかふかの布団に寝そべっている俺の隣に寝転んだ。
 鼻歌交じりの俺に「由宇くん、ご機嫌だね」と、言う。
「まあね。だって浅野さんと吉良さんが別れて五年経った今でも相思相愛だなんて、なんかの安い恋愛小説よりもロマンチックじゃん。その縁結びが俺と信さんなんだもん。浮かれるに決まってるよ」
「由宇くんは年甲斐もなくお世話好きだってことは、僕にもわかりました」
 
 何より浅野さんと吉良さんをどうやって再開させるかを考え始めると楽しくて仕方がない。
「できるなら五年ぶりの再会をドラマチックに演出したい。まさに映画監督になった気分だね」
「浅野さんはともかく、何も知らない吉良さんは由宇くんの演出通りには簡単にはいかないと思うけど…」
「ハプニングも楽しいじゃん。とにかく俺はふたりに上手くいって欲しいんだ。…つうか俺、こんなにおせっかい焼きの性格じゃないんだけど…信さんのおひとよしに影響されてるんじゃないのかな」
「…由宇くんは会った時から、僕よりもいいひとでしたよ。僕の肩に寄り掛かって居眠りしたからって夕食奢ってもらいましたからね」
「ラーメン定食だったけどね」
 そうだった。俺は信さんの平凡な見かけだけを見て何も期待しなかったんだ。ただ暇つぶしに寝てみよう…ぐらいにしか思ってなかった。
 でも寝てみたら、すげえよくて…
 あれ以来、人は見た目より身体の相性が大事だって、すげえ学んだわ。
 
 そんなことを考えていると自然現象で性欲が疼きだす。
 仰臥する信さんの身体の上に転がって、浴衣の襟をはだかせて、口づけた。
「ゆ、由宇くん。駄目ですよ!ここ浅野さんの紹介だし…女将さんに聞こえたら…」
「大丈夫。俺が上に乗るから」
「ちょっと…」
「俺は声は出さないから、信さんも良くても歯を食いしばってくれよ」

 あわてる信さんを腰で締めつけ、俺は信さんを欲しがった。
 体制的にはネコだけど、追い詰めるのはいつだって俺の方。で、最終的にすさまじく俺を揺さぶるのは、信さんで…。
 俺はそんな信さんが、大好きなんだ。


 翌朝、朝食を取った後、俺達は早々に旅館を後にした。
 あの後、声は出さないって言ってたけど、途中から俺も信さんもワケが判んなくなるほど乱れてしまったから、バレたかもしれないと気まずくなった所為もある。

 車に乗り込み高速を目指し走り出すと、ふと信さんが口にした。
「浅野さんから頂いたリンゴ、どうしましょうか…」
「うん、ふたりで食べるには多すぎるよね」

 浅野さんはお土産に、俺と信さんにそれぞれリンゴをひと箱ずつと、アップルパイやジャムなどを山ほどくれたのだ。
 よくよく考えれば、独り暮らしの俺達には多すぎる。吉良さんにおすそ分けするわけにもいかないし…
「駿くんは焼きリンゴが好物でね。農園から送ってもらえばよかったかな」
「駿君って…信さんの息子さんの?」
「はい、今年の四月に小学生になります。…って言っても父親らしいことは何ひとつしてやれてないんだけど…。正月も帰省しなかったしね」
「どうして?」
「うん…なんだかね。僕が居ると羽月さんが気をつかうんだ。だから…」
「…」
「やっぱり浅野さんに頼んで宅急便で送ってもらおうかな。ちょっと農場まで戻ってもらってもいいかな?」
 今朝は俺が信さんの車のハンドルを握っていた。
 俺も信さんも運転は好きなので、サービスエリアごとにドライバーを交代したりする。

「信さん、宅急便で配達してもらうより、今からこの車で静岡まで運んだ方が早いよ」
「…」
 信さんは俺の言葉の意味がわからずしばらく黙ったままだった。

「え?…ええっ!」
「決まりだね。じゃあ、ぶっとばして行くぜっ!」

 俺は慌てる信さんにはお構いなしに長野の高速を突っ走った。
 静岡を目指して…。
 きっと、今見てる青空が俺達を迎えてくれることを信じて…

 まあ、季節が季節だから寒空とも言うんだけどさ。



更新が遅れたついでに、自分の誕生日にアップしようと思いました~
今日が私の誕生日~


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傷心
うそつきの罪状 1




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