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2015-11

夜を駆ける 3 - 2015.11.17 Tue

3
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燿平1



3、

 由良じいの本当の名前は「由良光流」。
 俺は由良じいの息子だけど、遺伝上は親子ではない。
 俺は…由良じいの最愛の人、葛城燿平のクローンとして生まれた。

 …ずっと昔、男と女が「お父さん」と「お母さん」で、ふたりの間から子供が生まれ、その子を育て、家族が出来、幸せな家庭を築くのが一般的な常識だったんだって。
 家族の形態も変わって、同性同士がパートナーになるのは珍しくないけれど、出生率減少を食い止める為に、必然的に体外受精が増えた。
 そして司法は、同性同士の婚姻を認める代わりに、作られた子供たちを養子にすることを条件にした。

 養育院で育った多くの子供たちが、同性同士や子供が出来ないパートナー達に引き取られていくけれど、皆が皆、幸せがどうかはわからない。
 俺は…ラッキーな子供だったと、今も思っている。

 さて、由良じいとそのパートナー「葛城燿平」の恋話をしよう。
 これは由良じいと燿平の養女、つまり俺の姉さんの「葛城月華」から聞いた話と、幼い頃、アスラと一緒に由良じいを急いて、無理矢理に聞かせてもらった純愛物話だ。


       ※


 由良光流が葛城燿平と出会ったのは、港の見える丘だった。
 名門の航空学専門校に入学した日、ふたりは一目でお互いに惹かれあった。
 全寮制の学校だった為か、ふたりは極めて平凡な、それでも純粋な愛を育てて行く。
 休日になるとよくふたりで色々な山を登った。
 山の頂で一つの毛布にくるまって、落ちそうなぐらい瞬く星空を朝方まで抱き合いながら観るのは最高の喜びだった。

 三年後、ふたりは宇宙飛行士と天文物理学の道を選ぶ。
 山間の天文観測所で研究に打ち込む由良の元に、燿平は足しげく通った。
 やがて燿平が二十歳の時、月へ初飛行。
 月面基地で宇宙開発技術者として仕事に従事する。
 一年後、天文物理学者として政府の命を受け、由良が宇宙に飛び立ち、燿平と共に暮らす。
 公私共のパートナーとして、またプランニングシステムに詳しい由良のサポートは燿平にとっても欠かせないものになっていた。

 ふたりが二十二歳の夏、地上で世界戦争が起きる。
 一週間後、ふたりは月から地上を望遠鏡で覗いた。
 人類の利己主義によって行われた凄惨な傷跡だけが映る地球の姿がふたりの眼に映る。
 ふたりの故郷も無残な荒れ果てた大地と化し、ふたりは言葉を失った。

 生き残った人々は我先にと天上へ昇りたがるが、なによりもまず、親を失った孤児の救済が望まれた。
 由良と燿平の親たちも多くの人々と同じように命を落とした。
 嘆く間もなくふたりは戦争で親を失い、天上の養育院に引き取られた多くの孤児のひとり「月華」を引き取った。
 三歳の幼い少女は、毎晩親を想って泣いたが、由良も燿平も辛抱強く彼女の悲しみを受け止め、寄り添った。
 ふたりは月華に両親の思い出をいつまでも忘れずにいて欲しいと願い、自分たちは育ての親だからと、名前で呼ばせることにした。
 月華は燿平を「ようへー」と呼び、由良を「由良じい」と呼んだ。
 理由は「由良おじさん」が難しかった為だと言う。

「なんで由良がおじさん付きで、俺が呼び捨てなんだ?」と、しばらく燿平は納得しかねるとむくれていた。
「いいじゃないか。呼び捨ての方が親しみやすい。俺なんかまるでじじいだよ。まだ二十三なのにさ」
「由良は歳の割に落ち着いているからじじいでいいよ。そうだ。おれも由良じいって呼んでやるよ」
「やめてくれ。マジで…」
 そうやって笑いあいながら、愛おしそうに互いを見つめあうふたりが、月華には何よりも心やすらぐ空間だったと言う。

 宇宙開発技術者として優秀な燿平を待ち望む機関は多く、燿平は未踏地の探査を請け負う事が多かった為、遠出の出張も多かった。長い時はひと月、二月もかかる。
 そんな時は由良も月華も燿平に付いて行くことが多かった。
 三人は傍目から見ても、仲の良い幸福な家族に映ったことだろう。

 2116年冬、燿平、由良は共に三十八歳を迎えた矢先、事故が起きた。
火星植民地計画の為、地形を探査中のクルーの探査車が深いクレバスに墜落し、燿平を含む五人の探査チームは行方不明。うち一人は奇跡的に重症ながら助かり、保護された。
 しかし、残りの四人については絶望視された。

 燿平の事故通知を受け取った由良は、燿平の死を信じなかった。
 遺体が発見されなかった事が一番の理由だが、由良には燿平の死の予感が感じられなかったのだ。
 燿平の仕事が危険と隣合わせであることは、充分認識していたが、不思議と燿平は「死」に遠い存在だと思っていた。誰もが希望しないどんな危険な区域も、燿平は先に立って偵察を試みた。そして必ず無傷で帰ってくるのだ。
 そんな燿平を「不死身の傭兵」と、名付ける程だった。
 遭難者の捜索も行われたが、彼らの遺体は発見されず、打ち切りとなった。

 宇宙開発従事者が事故で亡くなる場合、特別な措置として、彼らのクローン再生が許可される。残った遺族への配慮だが、望む者もそうでない者も「クローン」という選択には悩まされた。
 遺伝子を継ぐ者であっても、決して本人ではありえない。
 それにクローンと言っても、差し出されるのは生まれたばかりの赤子なのだ。
 パートナーである由良にも、政府からの燿平のクローンの申し入れは当然ながら受け取ったが、燿平は承諾できなかった。
 もし、クローンを受け入れたなら、愛する燿平の死を認めた事になるから…と、由良は慰める月華に告げた。
 由良は月華を連れ、火星を離れ、月のコロニーで暮らし始めた。
 傍に燿平が居なくても、この宇宙のどこかで燿平が生きて、いつか帰ってくる…そう信じることで、日々を生きのびることができる気がしたのだ。

 月華が進学の為に由良の元を離れることになり、由良はひとりで暮らし始めた。寂しげな由良を見かねた月華は、燿平のクローン再生を由良に勧めた。
「ようへーが死んだって私も信じてないよ。でも、一人ぼっちじゃ寂しいじゃん。由良じい、ようへーが死んでから一度だって心から笑ったことないじゃん。ねえ、新しいようへーを由良じいが受け入れても、ようへーは怒らないよ。由良じいが笑って暮らしてくれる方が、ずっと…ずっと嬉しいはずだよ」
「…月華…」
「ね、私も手伝うよ。新しいようへーの赤ちゃん、一緒に育てようよ、由良じい」
「…わかったよ。そうしよう」

 決して心から納得したわけではなかったが、これ以上、自分の事で月華を心配させる気にはならなかった。

 十か月後、燿平のクローンである赤子を抱いた時、由良は涙した。
 新しい命への感動と共に、もう二度と、生きた燿平には会えないだろう…と、絶望の涙でもあった。

 燿平のクローンは「葛城ヒロ」と名付けられた。
 首が座るまでは月華も由良と共に、育児に勤しんだが、思ったよりも子煩悩な由良の様子を見て、月華は少しばかり手を離して様子を見ようと学校へ戻った。
 ヒロとふたりきりになったばかりの頃、由良は時折ヒロを「燿平」と小さな声で呼んだりした。
 勿論、赤子の頃の燿平の様子など知るわけもないけれど、由良はヒロの何気ない仕草に恋人の名残りを探すことが日課となった。

 ヒロはよく泣いたし、よく笑った。
 腕白で我儘で負けず嫌い。
 帰宅する度に、月華は由良の育て方を叱った。
「あんな暴れん坊、見た事ないわ。由良じい、ヒロを不良にする気?」と、怒りだす。
「でも、燿平も小さい頃悪かったけど、段々おとなしくなったって言ってたし、そんなに気にする事ないよ」と、悪童を抱きながら能天気に返す由良に、さすがの月華もあきれ返ったと言う。

 

燿平akacyann 

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夜を駆ける 2 - 2015.11.07 Sat

2
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  夜を駆ける1-2


2、

 俺が生まれるずっと前に、地球上で大戦争が起きたんだ。キラー衛星から始まった戦いは、たった一週間で終わった。だけど、地上の大部分が汚染され、世界の半数以上の生物の命は消え、残った人々は生き延びる為に、地下と天上へ移り住んだ。

 すでに人類は、科学の進歩のおかげで、移住と食料安保の為のスペースコロニー開発が進んでいた。
 だから、多くの人々は天上へ移り住むことを望んだが、居住スペースも食料も全ての人々を賄うほどのキャパシティはなく、その為、移住に際しては順番が決められてしまった。
 即ち、地位と名誉と能力を持つ者、それから財産家等の特権階級者が、先立って選ばれ、天上へ昇って行った。
 結局、地上に残されたおよそ八割の者が薄暗い地下の施設で、天上への切符を待つことになった。

 勿論、天上に移住した者たちは、一刻も早い救済にと、スペースコロニーの増設、そして火星への移住計画などを進めて行った。けれど、天上を仰ぎ見ることすら不可能な人々の失望は計り知れなかった。
 最初に絶望したのは年老いた者たち、それから明日を見失った大人たちが消えていった。
 結局、生き残ったのは絶望も未来も知らない少年たちだったと言う。

 大地は人間が予想するよりも遥かに短期間の自浄機能を行い、大戦からおよそ二十年で、人類が再び地上で生活可能なほどの大気に戻った。
 すでに生きる気力を失った大人たちを他所に、子供たちは暗い地下から這い出し、荒れ果てた地上で自由奔放に駆け回り、生き延びる智慧を養っていく。

 一方、天上に生きる者たちの火星の開拓は遅々としながらも、確実に進み、研究と技術により、火星の大地は少しずつ緑を増やしつつあった。
 地上の浄化を知ったメランコリックな人々は、懐かしい大地を求め、帰郷を願い出る者も少なからずあったけれど、軽い重力に慣れた天上の者たちは、重さを懐かしがるよりも、生きやすさを選ぶ者が多く、また荒廃した地上を復興する努力さえ億劫になり、再び地上に帰る者は一割にも満たなかった。

 だけど、年月が経ち、大戦を知らない世代が生まれ育つと、不思議な事が起きり始めた。
 天上で生まれた子供たちは何故か脆弱で、半数以上が十才も届かぬうちに死んでいく。
 薬も遺伝子治療も効かない短命の子供たちが増える天上。
 そして出生率も次第に減っていった。
 それとは逆に地上の子供たちの生命力は、輝くばかりだ。
 子供を持つ大人たちは、生まれた子供を一旦地上へと下ろし、丈夫に育ったら天上に戻すことを思いついた。
 つまり、自分たちが捨てた地上に子供を任せ、よく育ったらその実を刈り取るという、能率の良い子育て法だ。

 又、丈夫な子供が生まれるように遺伝子改造した体外受精が流行りだしたりもした。
 親たちは自分たちの子供が、誰よりも優良な人間になる事を願い、優性遺伝子の受精を願った。
 遺伝子改造された赤子の中で、極僅かだが普通ではありえない異能力を持った突然変異が生まれてくる。
 彼らは「ネオ・チルドレン」と、呼ばれたが、赤子の親たちは得体のしれない子を育てる事を忌み嫌い、養育院へ預けた。
 アスラもそのうちのひとりだ。

 アスラと出会ったのは、俺が五歳、アスラが三歳の頃だ。
 俺と由良じいが地球へ帰る途中、月を回る第ニコロニーに立ち寄った時だ。
 由良じいは初めての地球で過ごす俺が寂しくないようにと、弟代わりにアスラを引き取ったと言うのだが、本当は由良じいが養育院の中でとびきり弱いアスラに同情したからだと思う。

 出会ったばかりの頃のアスラは、言葉もうまく話せず、眩しさに目も開けられず、シクシクと泣いてばかりの子供だった。
 五歳の俺も、どうやってコミュニケーションを取っていいのかもわからず、由良じいにまかせっきりで、地球に降りるまではアスラにはあまり近づかなかった。
 
 俺達は宇宙港のある種子島に降り立ち、船で九州に渡り、それから途切れ途切れのディーゼル機関車とバスに揺られて、白川という山奥に着いた。
 ここは由良じいが、天上へ行くまで過ごして場所で、当時は最新式の天体観測所だった。
 由良じいは大好きな人とここでずっと一緒に、宇宙へ行くための勉強を続けながら、暮らしていたんだって。
 その人はもう居ないんだけど…さ。
 
 大戦後は観測所の仕事は必要なくなったから、由良じいは取り敢えず近くの水力発電所で、不足している電力供給の為に技術者として働くことになった。
 それだけじゃなく、大人の少ない郷(むら)で、奔放な子供たちとそれに手を焼く僅かな養育親たちに道徳や生活の為の学習を教えたりしていた。

 俺も最初は天上とは違った不便な生活に戸惑ったりしたものだけど、十日も過ぎれば、不便さが面白さに面変わりした。

 俺とアスラは天上では味わえない自然との共存の冒険を楽しんでいた。
 勿論、仕事で夜遅くまで頑張る由良じいを助ける為に、家事全般を引き受けた。
 掃除、洗濯などは難なく覚えたが、料理に関しては俺もアスラもよく判らず、味付けの失敗も多かった。
 だけど、由良じいはどんなにまずいおかずでも、「よくできたね。美味しいよ」と、褒めてくれた。
 だから、俺とアスラはもっと一所懸命に由良じいを助けようと誓い合ったんだ。

 アスラは地上の空気が肌に合ったようで、地上に降りてきてからというもの、見違えるように元気になった。
 言葉も自然に出るようになり、よく食べ、よく遊ぶ。
 由良じいがアスラ用にと、日光を通さない遮蔽ゴーグルを作ってあげたのも大きい。昼間でもアスラは目を閉じることなく、俺と一緒に走り回れるようになった。

 アスラは一時でも俺から離れないでくっ付いて回る。
 一度、郷の子供たちに追いかけられた事があり、よほど怖かったのだろうか、どこへ行くにも俺の後を追ってくる。
 俺が意地悪でアスラから姿を隠しても、必死で探し、必ず俺の居所を探し当てる。
「アスラはどうして俺の居場所がわかるの?」と、聞くと、
「ヒロの声が聞こえるから、すぐにわかるよ」と、言う。
 アスラは声を出さない俺の心の声を聞くことが出来るようだ。
そ れに昼間は眩しくて目が開けられないアスラの瞳は、夜になると灯りが無くても、すべてを見通すことができる。
 
 由良じいはアスラのような特異体質を持った子供は珍しくないと、言う。
 そして、俺もまたその能力者らしい。
 俺自身は別にこれといって特質すべき能力は見当たらないと思うけれど、由良じいは「ヒロは特別な子供だ。おまえのような完全な身体と優れた運動力は、遺伝子研究の中でも誰もが願ってやまないものなんだよ。まあ、おまえはあいつの子供の様なものだから、特別なのかも知れないね」
 そう言って俺の頭を撫で、愛おしそうに俺を見る由良じいが、俺は大好きだった。
 


  ヒロとアスラ1
↑…アスラに渡している虫はカブトムシ…だったらいいけど…毛虫とかやだな…


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