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2015-12

Silent Night・Holly Night 1 - 2015.12.30 Wed

1
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    竜之介-1

Silent Night・Holly Night

1、

 おれがサンフランシスコ国際空港に降り立ったのは、クリスマスイヴの夕刻、世界中のサンタクロースが慌ただしくプレゼントを運んでいた頃合いだったかもしれない。
 ざわめくターミナルの到着ロビーの人込みに、憧れの人の手を振る姿を見つけ、大慌てでその人に走り寄った。

「お~、久しぶり、竜之介!会いたかったぜ。元気そうで何よりだ」
「り、凛一さん…」
 お、おれに会いたかっただなんて…。お世辞でも嬉しすぎて心臓止まりそうだよ。

「じゃ、行くか」
 スーツケースを受け取ると凛一さんは、何のためらいもなくおれの腕をグイと掴み、そのまま左手をギュッと握りしめ、駐車場へと歩き出した。
「俺の手を離すんじゃないよ。おのぼりさんは悪党に狙われやすい。着いて早々さらわれでもしたら宗二朗さんに面目経たねえ」
「え?さらわれって…。ここってそんなに危ないとこ?」
「ふふ、嘘だよ」
「…」
「お坊ちゃんはかわいいねえ~」
 相変わらず子供扱いをする凛一さんには少しムカつくけれど、しっかりと繋いでくれる手が温かかったから勘弁してやる。
どちみち、凛一さんに勝てない事はわかっている。
 だって…すげえ好きなんだもの。


「コンドミニアムはユニオンスクエアの近くだけど、夕食はどうする?どっかのレストラン?それとも俺の適当な手作り料理で済ませる?」
「そ、そりゃもう…ぜひ凛一さんの手料理でお願いします」
 車は中心街に向って高速を北へ走る。
 陽は落ちて薔薇色の空が宵色に変わろうとする狭間。
 見たこともない初めての景色に見惚れてもいいはずなのに、そんな余裕はない。
 だってさ…おれの隣にはあの「宿禰凛一」が居る。
 ハンドルを握る凛一さんの助手席に自分がいるなんて、いまだに信じられない気分…。
 迎えにくるっていうメールもここに着いて知らされたから、心の準備も出来ないまま、今に至っている。
 夢幻かなんて思いつつ、ついつい凛一さんの横顔ばかりを見てしまう。
 美術品から出てきたような精巧な作り物のような横顔。だけどいつ何時でも彼からは命の輝きを見いだせる。
 身体中からキラキラと生命力が満ち溢れ、彼の傍に居るだけでそのオーラをおすそ分けしてもらったみたいに元気になれるんだ。
 「宿禰凛一」は、おれにとって特別な存在だ。

「凛一さんはいつも料理は自分で作るの?」
「いつもは仕事で無理。気が向いた時だけ。だからあんまり期待しないでよ。俺より慧一の方が料理は得意なんだけど、あいにく兄貴は仕事で明日以降にしか来られない」
「そう…」
「つうか、今晩は俺と竜之介のふたりだけなんだけど。青春人生相談ならいくらでもどうぞ」
「え?ふ、ふたりだけ…なの?」
「なに?気に入らない?」
「いえ…凛一さんとふたりきりで…嬉しい…かな~」
「じゃあ、俺と寝てみる?」
「え…えええ?」
「冗句だよ。嶌谷の跡取りに悪い遊び教えたら、親父はともかく、おまえの母上、お祖母様方に申し訳が立ちません」
「別に関係ないよ…。第一嶌谷の後を継ぐなんて、おれ、決めてないし」
「そりゃそうだ。十六の竜之介に決まった未来なんかありはしない」
 そう言って、凛一さんはおれの方を向き、意味深なウインクをくれた。
 う~ん、凛一さんとなら、童貞捨てても構わないんだけどね。
 
 2021年のクリスマスイブ、高校一年生の嶌谷竜之介(とうやりゅうのすけ)は、初めての海外旅行一人旅。
 目的のサンフランシスコで、大好きな宿禰凛一さんと一夜を明かすことになったわけです。

     ※
 
 おれの親父、嶌谷宗二朗は、日本でも指折りのゼネコンのCEOで幾つもの系列会社の筆頭株主で、なんかすげえ人…らしい。
 親父自体、家に居る事が稀で、親子の慣れあいは少ないから、互いの存在を疑心暗鬼ってとこ?
 まあ、親父の多忙さは理解できるよ。だって、一年中、国内外の関連会社に行き来しながら、新規事業へのモチベも半端なく、生まれついても仕事人って感じだもの。
 でも家庭も家族もあまり省みない親父が年に一度だけ、必ず家族と過ごす日がある。
 
 親父の誕生日、十二月二十六日は、前日のクリスマスも兼ねて、夜を明かしての自宅でのパーティを催す。
 人の迷惑そっちのけの身内だけの祝宴…。
 まあ、一年に一度だけだから、皆何も言わないけれどさ。

 嶌谷家の親類は数多く、大邸宅での新年会やらの年中行事に費やされることも少なくないけれど、父はこのパーティだけは家族水入らずの食卓を囲みたいらしく、母や祖母たちが作った心のこもった料理を味わいながら、各自の催し物を出しあい(かくし芸みたいなもんも含む)一晩中家族と語り明かすのが常だった。

 父は本家筋ではない。
 父の母、つまり俺の祖母は嶌谷家の長女だが、跡取りは長男の兄、晟太郎と由ノの息子の誠一郎伯父だった。本来ならこの伯父が嶌谷家を継ぐのが筋だったけれど、事情があり父の宗二朗が嶌谷家の養子に迎えられ、嶌谷家当主になった。
 だから,おれの家族は両親とふたつ上の姉、詮子(あきこ)、父の実母の澪子(りょうこ)、祖母の兄、晟太郎おじいちゃんと由ノおばあちゃんの七人だ。
 
 内輪のパーティには、親父の従妹の八千代叔母さん一家がたまに交ったりはする。八千代おばちゃんは陽気で優しいし、長男の聡良さんもチェロを弾いてるとかっこいい…とかは思うけどさ、ときめいたりした事は一度も無い。
 大体さあ…
 誠一郎伯父さんがゲイってばれて、嶌谷家を捨てたっていう本末転倒な噂話が本当かどうかは知らないけれど、責任逃れのような気がして、おれは相当に気に入らない。それでいて、たまにうちに来て、未だにうちの家族たちにちやほやされているのも勘に触る。
 一番気に入らないのは、親父が伯父さんと居る時、滅多に見ないくらいの優しい顔をする事だ。
 こういうの、嫉妬って言うのかしら。
 
 凛一さんと初めて出会ったのは、小六のクリスマスの自宅でのパーティの時。
 誠一郎伯父さんが凛一さんを連れて来たんだ。
 おれは誠一郎伯父が苦手だったから、連れてきた男もきっとあやしい人だと決め込んでいたけれど、ひと目凛一さんを見た時、なんだか彼のオーラに吸い寄せられたって言うか…
「メリークリスマス、竜之介君」って、少し屈みながら微笑み、おれと握手してくれた瞬間、生まれて初めてのすごいトキメキを感じてしまったんだ。
 こいつは男だぞ!男なんだぞ!好きになったりしちゃダメな奴だぞ!と、自分に言い聞かせたりしたけれどさ、惹きこまれるっていうのは自分の理性がいとも簡単にぶち壊されるってことなんだよなあ~…。
 それまで、同性愛なんて全然認めるはずもなく、とても汚いものだと感じていたはずなんだけどさ、現実ってのはまさに思い通りにはいかないって初めて知ったよ。

 別段、その夜もその後も凛一さんとの仲が急速に深まったりすることも無かったんだけど、あのクリスマスの夜、一晩中、凛一さんと一緒に居られた幸せっていうの?ふわふわした気持ちがずっと今でも忘れられなくて、片思い中って事。
 まあ、正直両想いになりたいっては思わない。
 凛一さんは大人の男性だし、彼がおれに本気になる確率なんてゼロに近い…つうか、ゼロだし。
 だから、俺は凛一さんのコアなファンでいいんだ。
 と、言ってもやっぱりふたりきりの聖夜なんてさ、どんな贅沢なクリスマスプレゼントよりも最高ってのは間違いないわけだよ。
 
 着いた先のコンドミニアムってのも、日本のマンションとかとは比較にならない広さで、ゲストルームも多く、西海岸での仕事の時は、凛一さんもこの部屋に泊まったり、親父の会社の人もホテル代わりに使うらしいんだ。
 バルコニーから坂を下りた先の海の景色を眺めていると、本当に海外に来たんだ~って、不思議に思うけれど、キッチンに立つ凛一さんの姿が一番不可思議な気がして、思わず笑いたくなった。

 夕食はおれが思うよりも豪華なメニューで、蟹のオーブン焼き、焼きたてのスコーンとクラムチャウダーにカニみそのパスタと海鮮サラダ…。え?これふたり前?多くね?と、思ったけれど、ワインを傾けつつゆっくりとディナーを楽しみつつ味わうものだから、いくらでも食べられた。
 食後のコーヒーをクッションの良いソファに向かいつつ凭れる。
 いつのまにかおれの学校生活の話から、恋の話になったり。
 凛一さんは楽しそうにおれの話を聞きながら、自分の青春の体験も交えたりしてさ。

「初めて会った時、竜之介は忍者になる為修行している、みたいな事言ってたな」
「そうだっけ?」
 そういやその頃流行ったアニメに影響されていたなあ。
「次に会った時は、ヴァイオリンを必死で弾いてたけど、褒められたものじゃなかった」
「はは…」
 凛一さんが初めてうちの家に来た時、凛一さんはピアノを弾き、姉のヴァイオリンとの二重奏で「アベマリア」を披露してくれた。
 それが何とも悔しくて、おれも次は凛一さんと一緒に奏でたくて、ヴァイオリンを習い始めたんだけど…結局中途半端で終わった。

「今はなんに興味あるんだ?」
「今は…絵、絵画かな」
「へえ~、竜之介が描くの?」
「いや、おれ、近頃気に入った画家が居るんだ」
「へえ~、なんていう人?」
「…」
 
 言おうか言わずにいようか迷っていたことがある。
 でもたぶんきっと…おれは凛一さんに告白する。
 彼の大事な人との話を…。

 少しの間を置いておれは、「水川青弥(みながわせいや)」の名前を出した。
 凛一さんは、水川さんの名前を聞くと少し驚いた顔をし、そして見惚れるぐらいの柔らかい嬉しそうな顔で「その理由を聞いていいかい?」と、俺に微笑んだ。



2へ

☆クリスマスに間に合わせたかったんですが、思うように書けませんでした。
 多分、四話ぐらいで終わる予定です。
 竜之介の親父たちの話は「破壊者のススメ」
 凛一の話は「greenhouse」
 それぞれのカテゴリから、どうぞ~

 今年もお世話になりました。
 来年もよろしくお願いいたします~

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メリクリ! - 2015.12.24 Thu

なんやかんやでクリスマスイブですね。
1年は早いですなあ~。去年の今頃は何してたかな~( -ω-)y─┛~~~

「夜を駆ける」は更新できでませんね。
言い訳ですが…
11月からひどい坐骨神経痛とぎっくり腰で椅子に座る事が出来ず、鍼や整形外科で治療するもさっぱりだったんですが、12月に入って整体院で治療を始めたところ、痛みが改善されました。
でも老化でしょうか、長時間座り続けると腰が固まったようになるので、2時間PCの前に座ったら、しばらくは座らないようにしてます。
そのうちに描く気力がなくなり、今に至ってます。
本当ならクリスマス用にと新作も頭に描いていたんですけど、間に合いそうにありませんね。
まあ、凛一の短編なので、新年にでも更新できたらいいな~と、思ってます。

気力も身体も日毎に老化していくのは、本当に嫌なんですけど、色んなものを見たり触れたりしながら、想像力を鍛えていくようにしてます。
今、気に入っているのが「蟲師」と「銀魂、将軍暗殺編」ですね。
蟲師はアニメの絵と音楽が素晴らしく、内容は漫画で知っているんですけど、アニメの背景の絵にうならされてます。今頃か!
銀魂は昔から高杉ラブでして、たいして銀魂の漫画もアニメも観てないんですが、高杉さんが出るならと録画して観てます。
好きなので描きました~

高杉~19

なんかちょっと子供っぽいですね…ショタ好みなので…
もうちょっと色気のある高杉さんになるように頑張るよ~

では、みなさん、ステキなクリスマスを。

夜を駆ける 4 - 2015.12.01 Tue

4
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   夜を駆ける表紙-2



4、

 ヒロが五歳になった頃、由良光流は養女である月華に相談を持ちかけた。
 二十五歳の月華は、すでにパートナーと新しい家庭を築いており、月基地で医師として働いていた。

「聞くところによると地上も随分と浄化され、我々が移り住んでも大丈夫らしい。だから地上に戻ろうかと思うんだ」
「…そう」
 敢えて理由は聞かなかった。聞かなくてもわかる気がした。
 由良の隣でお土産のプリンを美味しそうに食べているヒロを月華は微笑ましく見つめた。

「ヒロ、美味しい?」
「うん、おいしいっ!月華がいつもここに居てくれると、おいしいのになあ~」
「いつも居たら、お土産はないわよ。たまに会えるから、お土産っていうの」
「ふ~ん。でも、俺はいつも月華が大好きだよ」
「ありがと」
 ヒロの大人びた言い回しに、思わず目尻が下がる。

 日一日とヒロは燿平に似通ってくる。
 まだ五歳のヒロは、仕草や話し方、笑い方、性格までも生きていた頃の燿平を彷彿とさせる。
 月華でさえそうなのだ。常時ヒロと一緒に居る由良の心はより複雑だろう。

「…本音を言えば…燿平がいない宇宙で暮らすのが、段々と辛くなってきたのさ。私も歳かな…」
「そう…。でも、地上に戻ったら、燿平を忘れられるの?」
「…白川の観測所跡を住処にして暮らすつもりだ。仕事は着いてから見つけるさ。あそこは昔、燿平と過ごした楽しい思い出が沢山あるんだよ。思い出の中で老いていくのも、悪くないだろ?」
「…由良じいらしいけれど、ヒロはどうするの?辺鄙な地域で子供が暮らしていけるの?まさか、ほったらかすつもりは…無いでしょうね?」
「無論、ヒロも連れて行くさ。今の私にヒロの成長を見守る事こそが生き甲斐とも言えるからね。でも…」
「え?」
「うん、もうひとり、養子を迎えようと思うんだ。ヒロの為にも同じ年頃の男の子がいいな。それもあんまり幸せじゃない子。親の居ない異種能力者…ネオ・チルドレンとか…」
「どうして?」
「幸せな子はそのまま幸せに生きて行くべきだから選択外だ。能力者の子供は養子になっても育て難いと言うけれど、ヒロならきっとその子と仲よくできるだろう。…あの子も変わっているからね」
「ヒロもネオ・チルドレンって事?…私には普通の子供に見えるけど」
「あの子の運動能力や適応能力は常人を遥かに超えているんだ。まだ幼いからわかりにくいけれど、いずれ自分でも違和感に思う時が来る。その能力を天上(ここ)で潰したくないんだ」
「日本の地なら平気って事なのね」
「わからないけど、ここは人の目が多すぎる。私もひきこもりたい年頃なのさ」
「困ったお爺さんだ事。まだ四十七なのに」
「もう四十七さ」
 由良は決して老けては見えない。寧ろ同年代の男性よりも若く見えさえする。
 しかし、昔から由良は大人びて見えた。傍らの天然に明るく楽天的で人好きする燿平と比べるからかもしれない。
 由良は物静かで、表情をあまり外に出すこともなく、知らない人が見れば冷淡な奴だと思われたし、誰にでも心を曝け出す性質ではないから、大人びて見えていた。
 そんな由良を、小さな月華は「おひげのない仙人さま」と、呼び名を付けたりしていた。

「判ったわ。隠居してもせめてテレビ電話くらいはある所に住んでよね。私も出来るなら会いに行くつもりだけど、何かあったらすぐに連絡してちょうだい。約束よ」
「ありがとう、月華」

 その時、由良はもう二度と天上に戻るつもりはないだろうと月華には感じられた。
 由良の言葉通り、由良は燿平との思い出の中で生きる覚悟なのだと…。


 養育院から紹介された小さなアスラを見た時、由良は自分に育てられるだろうか不安もあったと言う。だがシクシクと泣いてばかりのアスラが、なんとも痛ましくて、誰かの救いの手を待っているように思えた。
 燿平を助けられなかった自分を責め、埋め合わす為の必要な矜持だったかもしれない。
 由良はアスラをどこか自分に投影している…気がしていた。

「ねえ、アスラ。私たちと地上で暮らさないか?」
「地上?」
「そうだよ。畑や田んぼが広がっててね、上を見上げれば青い空が一面に広がっているんだ。木々のざわめきや吹き抜ける風の冷たさを肌で感じることができるんだよ。天上では味わえないものばかりだ。まあ、多少不便ではあるが、それも慣れれば快適になるはずさ。どうだい?アスラ」
「…」
 アスラに選択する権利などない。それに、どこに行こうが、アスラには不安しかない。

「俺と行こうぜ、アスラ。俺がおまえを守るから、大丈夫。安心していいよ」
 アスラより少し大きいヒロと言う少年の屈託のない笑顔を、薄目を開けた紫の瞳で見つめた。黒髪と澄んだ黒い目が、アスラを優しく見つめている。
 ヒロはアスラに両腕を差し出した。

「…ヒロと…一緒に…行く」
 ヒロの手を掴んだアスラを抱き寄せると、ヒロは耳元で小さく「アスラはかわいい」と囁いた。
 ヒロの行為にアスラは驚き、そして興奮した。
 自分を必要とされた事の無いアスラにとって、ヒロの強さがこの上もなく嬉しかったのだ。

 『この人の傍にずっといよう』
 小さなアスラは、心に誓った。

   ※

 地上に移り住んだ三人は、山林に囲まれた奥深い山間の郷での生活を楽しんだ。何もない静かさに、時折寂しさも感じたが、お互いの繋がりが深まっていく。
 三人は本当の家族のように、穏やかな日々の中に居た。

 そして十年が経った。

 或る夜、由良はヒロひとりを部屋に呼んだ。
「ヒロ、アスラと一緒に天上へ行きなさい」
「え?どうして?」
「…理由は、月に居る月華に聞きなさい」
「いきなり言われても、俺、どうやって行けばいいのかわかんないし、由良じいが一緒じゃなきゃ無理だ」
「私はここを動けないんだ」
「どうして?」
「政府との約束だからね…」
「…」
「それにアスラはもうすぐ十四歳になる。第二成長期に必要な治療が必要だ。月へ行けば、治療ができるし、アスラも大人の男として成長できるだろうから…」
「今のままのアスラじゃ駄目って事?」
 由良はヒロの質問に口を閉ざし、目を逸らすだけだ。
  
 アスラの身体は成長と比例するように生命力が弱っていく。
 火星から地球に降り、郷に来た頃は健康だったのに、十を過ぎる頃になると、季節ごとに熱を出すようになった。
 その感覚が次第に短くなり、由良じいは月か火星の研究所(ラボ)でメンテナンスするしか手立ては無いと言う。

「今のアスラには天上の方が体質が合っているのだろう…」
「そんなことないよ。アスラは…ここが好きだっていつも言ってる。俺と由良じいとずっと一緒に居たいって…。俺達を追い出さないでよ、由良じい」
「ヒロ、聞きなさい。アスラの事だけじゃない。おまえを天上に行かせるのは…おまえの本当の父親に会って欲しいからだ」
「本当の父親?…それって、葛城燿平の事?その人、火星で遭難して死んだんだろ?」
「…」
 またしても由良は口を閉ざす。
 今度は苦しげな、切ない顔をして俯くのだ。そんな由良を見て、ヒロはそれ以上言葉をかけることはできなくなった。

 しばらく経って由良はやっと口を開いた。
「遭難した場所から燿平が見つかった。氷河の谷間に落ちた燿平は、ちょうどコールドスリープ状態だったらしく、最先端の医療技術で、どうやら生き返ったらしいんだ」
「え?…ホント?」
「だが、意識の回復は相当に難しい…との、事だ」
「…」
「おまえにとって燿平は父親でもあるのだから、あいつに会って欲しい」
「俺の父親は由良じいだけだっ!燿平なんて知らないし、クローンだからって、俺は燿平じゃない。そんなこと、由良じいだってわかってるじゃないかっ!」
「…」
 
 ヒロは見たことも無い程に打ちひしがれた由良の姿を見た。
 由良と燿平…心から愛し合っていた…と、月華から聞かされていた。
 事故で死んでしまった燿平を受け入れる事にさえ、由良は何年もかかった。
 今また、燿平の身体が生きかえったとしても、由良が素直に喜べるほど簡単な話ではない。
 由良にとっての燿平は、あの時のままだ。
 そして その愛は今もずっと続いている。
 そんなことはヒロにもわかっていた。

 どうして今になって、生きかえったりしたのだ、と、ヒロは燿平を恨んだ。
 なんで俺がわざわざ苦労して、そんな奴に会いに行かなきゃならないんだ…
 アスラの身体の事があるとしても、ヒロは由良の命令を素直に受け入れられなかった。

「じゃあ、由良じいも一緒に行けばいいんだよ。由良じいの大切な人なら、由良じいと会えば、目が覚めるからもしれないじゃない」
 由良は黙ってヒロの身体を抱き寄せた。

「私はもう…燿平に会う勇気は…ない。それに…。私には天上へ昇る力は…もうないんだよ」
「…」
 
 ヒロは知っていた。
 由良の食事の量が減った事。
 時折、胸を押えて苦しそうな顔をする事。
 薬を飲み続けている事。

 由良は何も言わない。
 だけどある時、こう言ったのだ。
「猫は自分が死ぬ時を知った時、誰にも知らせないままに、姿を消すんだそうだ。どんなに可愛がった飼い主にも何に告げずにね。…孤高の姿とはああいうものなのかも知れない…」

 ヒロはもう何も言わずに、由良の言う通りにアスラと旅立つ事にした。
 由良は天上への旅券代わりのICタグの組み込まれたペンダントをふたりの首に掛け、十分な旅費を持たせた。

「旅券も旅費も十分にある。迷わないように詳しい道のりも綴ったからね」
「…」
 ふたりは泣きそうに由良を見上げた。
「大丈夫だ。おまえたちなら目的を果たせる。迷ったら星空を見上げてごらん。いつだっておまえたちの行く道を示してくれるだろう」
「…」
「…月に行けば、月華が待っててくれるからね」
「由良じいっ!」
 ふたりは由良にしがみついて泣いた。
 こんなに幸せなのに、どうして離れなきゃならないのだろう…。

「今はわからないことだらけだろうけれど、男の子はいつだって冒険者なのさ。見知らぬ未来を楽しめぬ者ほど、損な人生は無いのだよ…。さあ、行きなさい、未来へ」

 ヒロとアスラは由良に見送られて旅立った。
 何度も何度も振り返るその先に、小さくなる由良の姿がいつまでもふたりの瞳に映っていた。


夜を駆ける 3へ5へ

更新が遅くなりましてすいません。
坐骨神経痛の方が良くならず、長時間椅子に座っていることがままならず、痛みでなかなか集中することもできずにおります。
これからの更新もままならないかもしれませんが、描かないとストレスも溜まるので、少しずつ頑張ろうと思います。
長い目で見守ってやってくださいませm(。>(ェ<)。)m


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